A.13.7 国民の平均知能指数と国の疾病負荷の関連性

A13.7
〔参考訳〕
人間の知能は謎だ。知能の測定手段として知能指数(IQ)の得点を用いることには賛否両論
あるが、この指数を用いて、平均すると知能が他より高い地域があると立証できると考え
る科学者もいる。それにここ数十年の間、知能は高くなっているらしい。この 2 つのこと
が本当かどうかについても意見は分かれる。しかし、最近ニューメキシコ大学の研究者グ
ループは、どちらについても同じ理由を示唆した。伝染病の影響である。彼らが正しいな
ら、このような病気の抑制は、これまでには理解されていなかったような意味で、国の発
展にとって重大であることを示唆している。寄生虫や病原菌が多い国は、病気が自国の労
働力を弱体化させるだけでなく、個人の発達も低下させるのである。
Christopher Eppig と同僚らは「英国王立協会紀要」で自説を発表した。新生児の脳は自
身の代謝エネルギーの 87%を要することに彼らは注目する。5 歳児でもその数値は 44%に
上り、成人の脳-体重のわずか 2%-でさえ体のエネルギーのおよそ 4 分の 1 を使う。この
エネルギーを使おうと競合するものがあれば、脳の発達を損ねる可能性があり、寄生虫や
病原菌はさまざまな形でこれを奪おうとする。宿主を直接栄養源として繁殖するものもあ
る。特に胃に住み着くものは、人間の食物吸収を妨げかねない。それにあらゆる寄生虫や
病原菌は宿主の免疫システムを活性化させ、そのことが貴重なエネルギーがより生産的な
目的に使われるのを妨げてしまう。
国の疾病負荷と国民の平均知能指数には明らかな関連がある。国の疾病負荷が高いほど、
国民の平均知能指数は低いのだ。これは逆相関の一例である。疾病負荷を算定するために、
研究者たちは WHO のデータを用いた。WHO は全般的な疾病負荷の基準である「障害調整
生命年」(DALY)という概念を作りだした。DALY は早死によって失われたかもしれない年
数だけでなく、病弱さや障害のために個人が失った健康な生活の年数を測る。
WHO は 28 種類の伝染病のために失われる DALY を算定することができる。192 か国に
ついてこれらのデータが存在する。
知能指数は、
この 10 年間の初めにイギリス人心理学者、
Richard Lynn とフィンランド人政治学者、Tatu Vanhanen が 113 か国の IQ 研究を分析し
た研究と、オランダ人心理学者、Jelte Wicherts によるその後の研究から得た。
平均知能指数一覧表の最下位は赤道ギニアで、その次はセントルシアである。カメルー
ン、モザンビーク、ガボンが下から 3 位に並ぶ。これらの国々は伝染病負荷が特に高い国
でもある。平均知能指数の国別一覧病の最上位はシンガポールで、韓国が続く。中国と日
本が 3 位タイで並ぶ。これらの国々はどこも病気が比較的少ない。アメリカ、イギリス、
ヨーロッパ諸国がその後に続く。
疾病負荷と知能指数の低さとの相関関係はおよそ 67%で、このように強い統計的関連が
偶然起こる確率は 1 万分の 1 未満である。研究者たちは常に強い統計的関連を見つけ出そ
うとしている。そしてこうした相関関係の原因を説明できることを望んでいる。原因と考
えられるものはたくさんあるかもしれず、研究者たちは考えられる原因をできるだけ多く
検証して、真の原因を正しく特定する可能性を高めなければならない。科学者たちが言う
ように、「相関関係は因果関係にあらず」-統計的関連を特定したからといって関連が存在
する理由を説明したことにはならない-なので、Eppig らは他に考えられる理由を除外しよ
うとした。
先行する研究チームは、所得、教育、農業労働者の少なさ(より精神的刺激のある仕事に
取って代わられる)、気候(過酷な天候を生き抜くという難題が知能の進化を誘発したかもし
れない)などすべてが、知能指数が国ごとに異なる理由かもしれないと示唆しようとしてき
た。ただし、これらの考えられる原因のほとんどは、病気とも関連する可能性がある。慎
重な統計分析によって、Eppig と同僚らは、病気の結果を考慮に入れると、相関関係につい
て他に考えられる原因のすべてはなくなる、あるいは影響が小さくなることを明らかにし
ている。
重要なことに、マラリアや回虫などの伝染病や寄生虫は、脳の発達に悪影響を及ぼすと
いう明確な証拠もある。脳に起こるタイプのマラリアを生き延びたケニアの子どもたちに
ついての研究は、子どもたちの 8 分の 1 が長期にわたるダメージを受けることを示唆する。
Eppig らの見るところ、下痢が最大の脅威である。下痢は子どもたちに甚大な影響を与える。
それは幼児の死因の 6 分の 1 を占め、死に至らしめない場合でも、脳が急激に成長し発達
している時期に食物の吸収を妨げるのである。
研究者たちは、知能の上昇とともに、ある種の健康問題が増えると予想する。多くの専
門家がぜん息やその他のアレルギーの頻度が増すのは、幼い子どもたちの免疫システムは、
伝染病の脅威にさらされないため、守るはずの体細胞を攻撃対象とするからだと考えてい
る。国のアレルギーの多さと平均知能指数の相関関係を示唆する研究もすでにある。Eppig
らは、今後の研究がこの関連を確認するだろうと予想する。
もちろん、もう 1 つの予想は、国が病気を克服するにつれて国民の知能が高まるという
ものだ。富裕国では数十年にわたって知能指数の上昇がすでに指摘されてきた。これは発
見者である James Flynn にちなんで Flynn 効果と呼ばれる。ただし、その原因は、これま
で謎だった。Eppig が正しければ、予防接種、清浄な水、人糞の適切な処理の結果、富裕国
では深刻な伝染病がほとんどなくなったことが、Flynn 効果のすべてではないとしてもほと
んどの説明になるだろう。
そもそも Lynn 博士と Vanhanen 博士が IQ データを発表したとき、彼らはそれを用いて、
国ごとの知能の違いが経済発展の度合が異なる主な理由だと示唆した。今回の新たな研究
は反対の結論に達している。発展の不足とそれがもたらす多くの健康問題こそ、知能指数
が異なる理由なのだ。確かに、悪循環によって、そうした違いが貧困国を貧しいままにし
ているにちがいない。だがこの親切は悪循環を断ち切る方法を提示する。研究者たちによ
るさらなる研究が Eppig らの考えを裏付ければ、病気の撲滅が開発の主目的の一つである
べき理由をもう 1 つ為政者たちに与えることによって、甚大な利益をもたらすことになる
だろう。
〔解答〕
(1)1.A
2.D
3.E 4.C
5.D 6.A
(2)1.T
2.T
3.F
5.F
4.T
6.F