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平成21年度奨励研究 車椅子バスケットボール競技における肩関節痛の

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平成21年度奨励研究
車椅子バスケットボール競技における肩関節痛の発生メカニズムに関する研究
-車軸位置の違いが肩関節の運動に与える影響-
理学療法学科 助教 橘 香織
1.研究目的
昨年度の奨励研究において,国内の車椅子バスケットボール選手を対象にアンケート調査を実施した結
果,回答者の5割以上の人が何らかの慢性関節痛を経験し,中でも肩関節痛が最も発生頻度が高いことが
明らかとなった。慢性関節痛の発生頻度の増加の原因の一つに,車椅子バスケットボール競技用車椅子(以
下,競技用車椅子)の改良が影響している可能性が考えられている1)。近年の競技用車椅子の改良点の一
つに転倒防止キャスターの導入がある。これによって,後方へ重心をかけても転倒することが防止される
ため,タイヤの車軸位置をより前方に移動させることが可能となった。タイヤが身体よりも相対的に前方
に移動したことで,身体運動,特に駆動に際して大きな荷重がかかる肩関節運動へも何らかの影響がある
ものと予測される。そこで本研究では,競技用車椅子の駆動動作を運動学的に分析し,競技用車椅子の車
軸位置の変化が肩関節運動へどのような影響を及ぼすかについて検討することを目的とした。
2.研究方法
2-1.対象者
本研究の目的を説明し、同意が得られた本学学生7名(平均身長171.17±7.99cm,平均体重63.14±10.6kg)
を対象者とした。被験者は全員,本学の車椅子バスケットボールチームに所属する健常者で,競技経験を1年半
以上有する車椅子操作熟練者であった。
2-2.運動課題
運動課題は,指定された走路の上で,競技用車椅子(松永製作所,岐阜)のタイヤをプッシュする動作(以下,
駆動動作)を強く2回続けて行うこととした。2回の駆動動作はできるだけ速く行うよう指示した。2回の駆動動作を1
試行とし,一人につき5試行ずつ撮影を行った。なお,1回目の駆動動作で被験者の手がタイヤをつかんだ瞬間
から2回目の駆動動作で被験者が手でタイヤをつかんだ瞬間までを一駆動周期とした。さらに,Vanlandewijckら2)
の方法に従い,一駆動周期を手がタイヤをつかんでいる相(以下,プッシュ相)と,手がタイヤを離した後に次にタ
イヤをつかむまでの相(以下,リカバリー相)に分けて解析を行った。
2-3.実験条件
競技用車椅子タイヤの車軸位置の違いにより,背もたれと座面の交点から前方へ12cmに設定した条件を「軸前
条件」,交点から前方へ4cmに設定した条件を「軸後条件」とした。 一人の被験者に両方の条件で実験を行うた
め,互いの条件の影響を排除するために、軸前条件と軸後条件の測定は別の日に行った。実験条件については
被験者には事前に説明せず,どちらの条件を先に行うかもランダムに割り当てた。
2-4.データの取得方法ならびに解析方法
被験者の頭頂,耳垂,肩峰前端,上腕骨外側上顆,尺骨茎状突起,第7頚椎棘突起,第7胸椎棘突起の計7箇
所の身体分析点に反射マーカーを貼り付けた。データ収集には2台の高速度デジタルビデオカメラ(カシオ,
EXLIM EX-F1)を用いた(撮影スピード300Hz)。撮影データはサンプリング周波数30Hzにてパソコン上に取り込
み,身体分析点とキャリブレーションポイントをデジタイジングし,3次元DLT法により三次元座標を得た。得られた
三次元座標から,体幹セグメントの移動座標系の単位ベクトル(Z軸単位ベクトルSt:T7→C7へ向かう軸, Y軸単位
ベクトルUt:Stと直行する前向きの軸, X軸単位ベクトルVt:St・Utと直交し進行方向に向かって右へ向く軸)と上腕
セグメントの移動座標系の単位ベクトル(Z軸単位ベクトルSh:上腕骨外側上顆→肩峰前端へ向かう軸,Y軸単位
ベクトルUh: Shと上腕骨外側上顆→尺骨茎状突起へ向かう軸に直交する軸, X軸単位ベクトルVh:Sh・Uhと直交
し進行方向に向かって右へ向く軸)を計算した。体幹セグメントと上腕セグメントの相対的な位置関係を知るため
にカルダン角を算出し,X軸周りの回転角αを肩関節屈曲角度,Y軸周りの回転角βを肩関節外転角度,Z軸周り
の回転角γを肩関節外旋角度と定義した。
3.結果
被験者の中で実験中に車軸位置の違いに気づいた者はいなかった。一駆動周期中の平均運動範囲は,屈曲,
外転,外旋とも条件間の相違はほとんど見られなかった(表1)。しかし,一駆動周期中の肩関節屈曲の角度変化
をみると,軸前条件ではプッシュ相の終期に屈曲のピークに至るのに対して,軸後条件ではリカバリー相に入って
からピークに至る傾向が被験者7名中6名で見られた(図1)。すなわち,軸前条件ではプッシュ相中に肩関節屈曲
から伸展に切り替わるのに対して,軸後条件では肩関節屈曲運動の途中でプッシュ相からリカバリー相へ移行し
ていることがわかった。
4.考察
今回の実験により,タイヤの車軸を前方に移動させることによって,プッシュ相中に肩関節屈曲運動から伸展運
動へ移行することが示された。車椅子使用者において,肩関節は車椅子駆動動作時や移乗動作時に負荷が加
わる関節であり,過用による障害を生じやすいといわれている3) 4)。解剖学的に不安定な構造をもつ肩関節に駆
動の負荷が加わっている中で運動方向の変換が生じることは,十分な安定性が保たれていないと関節障害をきた
すリスクが高まるものと推察される。今後は,運動力学的解析を用いて,駆動動作中の肩関節への荷重負荷につ
いても合わせて検討する必要があると考えられる。
5.成果の発表(学会・論文等,予定を含む)
平成23年第46回日本理学療法学術大会にて発表する予定。
6.引用文献
1) Stankovits S. The impact of seating and positioning on the development of repetitive strain injuries of the
upper extremity in wheelchair athletes. Work. 2000; 15(1): 67-76.
2) Vanlandewijck Y, Theisen D., Daly D. Sports Medicine 2001; 31(5): 339-367.
3) Curtis KA, Black K. Shoulder pain in female wheelchair basketball players. J Orthop Sports Phys Ther. 1999;
29(4): 225-31.
4) White S. The disabled athlete. In: Clinical Sports Medicine, 2nd. Brukner P,Khan K, eds.
McGraw-Hill(Australia), 2002; 705-709.
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