NPO法人の役員・職員の人件費と源泉徴収

NPO法人の役員・職員の人件費と源泉徴収
1.役員報酬に関するNPO法上の問題と法人税法上の問題
①
NPO法上、役員(監事を含む)に報酬を払ってもよいのは役員総数の1/3以内である(労務の対価は役員報酬に含めない)。
②
NPO法では利益の分配が禁止されている。①の規定もその脱法行為を防ぐ趣旨である。
③
2007年の7月以降は、使用人兼務役員を除き、役員に支給する変動する事前届出のない報酬や手当は損金に算入できなくなる。
④
代表権のある理事や役付理事(副理事長、常務理事等)及び監事は使用人兼務役員にはなれない。
2.代表権のある理事や役付理事(副理事長、常務理事等)及び監事
NPO法上の役員報酬
法人税法上の損金
法人税法上は損金不算入
※
役員報酬に含まれない労務の対価
毎月同額で支給する報酬もしくは事前に税務署 職員と同じ勤務条件で、同じ基準もしくは社会的
に届けた報酬(不相当に高額なら利益の分配)
に相当の金額で、かつ毎月定額の給与
上記以外の報酬で労務の対価ではないもの(支給 時間給、歩合給などの、勤務状態に比例して毎月
する理由がなければ利益の分配)(※)
変動する給与
毎月支給に代えて、毎年1回もしくは2回、年俸として定期的に支給する場合の法人税法上の取扱いは、まだ決まっていない
3.代表権のない理事(定款上で代表権を制限していない場合は理事全員に代表権がある)
NPO法上の役員報酬
法人税法上の損金
法人税法上は損金不算入
※
役員報酬に含まれない労務の対価
毎月同額で支給する報酬もしくは事前に税務署 職員と同じ勤務条件で、同じ基準もしくは社会的
に届けた報酬(不相当に高額なら利益の分配)
に相当の金額(時間給、歩合給も可)
上記以外の報酬で労務の対価ではないもの(支給
する理由がなければ利益の分配)(※)
いわゆる理事手当は役員報酬となる(不相当に高額でない定額の手当であれば法人税法上は損金算入可)
- 1 -
NPO 法人 NPO 会計税務専門家ネットワーク
Q&A
Q1
A1
給与ではなく委託(請負)契約であれば源泉徴収や社会保険の加入義務がないので、請負契約にしたいのですが?
契約を交わせば雇用関係ではなく請負契約になるというものではありません。雇用関係か委託もしくは請負かの判断は、業務内容、
指揮命令関係、勤務時間の拘束、勤務場所の指定、報酬の計算方法等を総合的に勘案しなければいけないからです。
Q2
A2
理事や職員の会議日当は源泉徴収の対象となりますか?
常勤もしくは非常勤の理事や職員として給与が支給されている人かどうかによります。役員報酬や給与を支給している人であれば、
日常業務の一環ですから手当(会議手当)と解釈されます。つまり、給与と合算してその月の源泉徴収対象に加算します。また、代表や
役付理事であれば変動する役員報酬として法人税法上は損金にならない可能性があります。
一方、無給の理事やボランティアに対する会議日当であれば、社会通念上不相当に高額でない限り源泉徴収の必要はありません(本人
の所得にもなりません)が、規程を定めておくべきです。
Q3
無報酬の理事が日常的に事務所に出てきて仕事をしています。また、自宅でも電話やFAXを使ってNPO法人の業務をし
ています。実費くらいは払いたいのですが、実際にかかった経費を計算することは不可能です。どうしたらいいでしょうか?
A3
交通費や通信費の実費はもちろん法人の経費として認められますし、本人の所得にもなりません。問題は実費であることをどうやっ
て証明するかです。全く根拠のない経費を払うことはできません。日常的に同じように仕事をしている人であれば、面倒でも 3 ヶ月で
もいいから記録をつけてもらいます。電話やFAXも契約すれば通信先の電話番号の記録が入手できます。その上で、月平均の実費を計
算して、毎月定額で支払うことは容認されると思われます。ただし、月によって不定期に従事する人に関してはこの方法は使えません。
また、有給の理事や職員は実費名目の概算払いは認められません。
- 2 -
NPO 法人 NPO 会計税務専門家ネットワーク
Q4
A4
今年の決算は利益が出そうです。もともと安い給料ですから職員にボーナスを出そうと思うのですが、構いませんか?
社会通念上相当な金額であっても、根拠なしに支払うと、NPO法で禁止されている利益の分配とみられる可能性があります。給与
規程等で「決算賞与を支払う」旨の規定がされていれば問題ありません。規程上、金額や〇ヶ月分等と固定しておく必要もありません。
これは、決算賞与に限らず、夏冬のボーナスでも同様です。なお、役員に支給する場合は、使用人兼務役員でかつ他の職員と支給基準が
同じで同日の支給でなければ、法人税法上は損金になりません。
Q5
理事にNPO法人のホームページを作ってもらいました。手数料を払ったら役員報酬になりますか? また、理事以外の職
員だったらどうですか?
A5
有給の理事や職員かどうかで違います。常勤かもしくは非常勤で、法人から報酬や給与を受けている人であれば、それは業務の一部
ですから、手当と解釈されます。代表や役付理事であれば変動する役員報酬として法人税法上は損金にならない可能性もあります。無給
の理事や職員(ボランティア)の場合は、正当な金額であれば一般的な請負契約として問題ありません。請負契約であれば源泉徴収も必
要ありません。ただし、デザイン料等であれば源泉徴収が必要な場合もあります。なお、金額や条件によっては本人の確定申告が必要に
なります。また、理事に依頼する場合は、利益相反取引となりますので、理事会で承認決議が必要です。この決議には当事者である理事
は加わることはできません。
Q6
A6
理事に当法人主催のセミナーの講師をしてもらいました。講師料を払ってもいいですか?
外部の講師と同じ基準かそれ以下の金額を支払うのであれば問題ありません。ただし、有給の理事や職員の場合は、それは業務の一
部ですから手当と解釈されます。手当であれば、その月の本人の給与に合算して源泉徴収することになります。代表や役付理事であれば
変動する役員報酬として法人税法上は損金にならない可能性もあります。無給の理事や職員(ボランティア)の場合は、通常の報酬源泉
税(10%)を徴収します。なお、利益相反取引の承認決議を講師依頼のたびに行うのはたいへんですから、内部講師に関する規程を設け
ておくのがよいでしょう。
- 3 -
NPO 法人 NPO 会計税務専門家ネットワーク
Q7
理事が外部からの依頼で講演を行い講師料をもらいました。理事はこの講師料は法人の収入にすると言うのですが、源泉税
を差し引かれています。どうしたらいいですか?
A7
法人として仕事を受けたということで、法人の収入にすることは構いません。もちろん本人の所得にもなりません。また、講演は法
人税の課税される33業種に該当しませんので、法人としての申告もする必要はありません。問題は、源泉税です。個人としても法人と
しても申告しなければ、この源泉税を精算することができません。もともと法人の収入の場合は源泉徴収の必要はないのですから、依頼
のあった時点で源泉は不要である旨、相手に伝えておくべきでした。
Q8
A8
同様のケースで、全額ではなくたとえば半額を法人に入れる場合はどうですか?
二つの考え方があります。個人で引き受けたのであれば全額が個人の所得となり、その理事から法人が講演料の半額を寄付金として
もらったことになります。当然、源泉所得税分は個人の方の負担となり確定申告で精算します。一方、法人として契約して理事を派遣し
たのであれば、相手から受け取る講演料は全額が法人の収入となり源泉所得税を引かれることはありません。そして、法人から理事へ支
払う半額の考え方はQ6の内部講師の場合と同じです。ひんぱんにそういうことがあるのでしたら、やはり規程を定めておいた方がいい
でしょう。
Q9
A9
理事の自宅の一部を事務所として使わせてもらっています。家賃を払ったら役員報酬になりますか?
社会通念上相当な金額であれば、役員報酬とはなりません。しかし、不相当に高額であれば役員報酬となるだけでなく、NPO法上
禁止されている利益の分配とみなされる可能性もあります。また、正当な家賃であっても形式的には利益相反取引ですので、理事会の承
認決議が必要です。この決議には当事者である理事は加わることはできません。
- 4 -
NPO 法人 NPO 会計税務専門家ネットワーク
【参考資料①】 役員(理事)へ支給する金品(注:監事の場合は役員報酬以外の支払は認められない (※1) )
NPO法上の役員報酬の支給は役員総数
の1/3以内という制約があることに注意
なお、役員退職金は除く
(※1) 監事が
監査業務以外の
仕事に従事して
報酬を受ける
と、業務監査の
職務に抵触する
ことになる。
Yes
労務の対価
か?
Yes
Yes
(※2) 表見代
表に該当するの
は、理事長、専
務理事、常務理
事等の職務に就
いていると名目
もしくは事実上
みなされる場合
である。
Yes
No
NPO法上は給与、法人税法上
も損金算入
NPO法上は役員報酬、法人税
法上は損金算入
No
毎月同額か、
もしくは事前
届出を行った
役員報酬
か?
Yes
NPO法上は給与、法人税法上
は損金不算入
No
NPO法上は役員報酬、法人税
法上も損金不算入
他の職員と同等の基準、もしくは
比較する職員がいない場合、社会
通念上相当の金額の支給か?
Yes
労務の対価
か?
No
No
No
代表者もしくは
表見代表か?
(※2)
定款上、代表者
の定めのない場
合は、理事全員
が代表者となる
No
出張日当もし
くは無報酬の
役員の会議
日当か?
Yes
役務の提供
に対する謝礼
か?
(※3) この場
合の立証可能と
は、すべての支
出の証明を要す
るものではなく、
たとえば数ヶ月
の支出の平均等
で説明可能であ
れば良い。
Yes
No
(※4)利益相反取引につ
き理事会承認が望ましい
他の職員と同等の基準、もしくは
比較する職員がいない場合、社会
通念上相当の金額の支給か?
労務の対価
か?
無報酬の役
員か?
Yes
交通費、通信
費、会議食事代
等の名目での
支給か?
規程に則り、か
つ社会通念上
常識的な金額
の範囲内か?
実費であるこ
との立証は可
能か?(※3)
No
Yes
経費処理可能、本人
の所得にもならない
No
No
他の職員と同等の基準、もしくは比較
する職員がいない場合、社会通念上
相当の金額の支給か?
- 5 -
経費処理可
能、本人の所
得にもならない
No
経費処理可能(たとえばHP作成料等)、ただし業務の内
容により報酬源泉の対象となる(講師謝金等)(※4)
No
Yes
Yes
Yes
No
毎月同額か、もしくは事前届
出を行った役員報酬か?
No
Yes
NPO法上は給与、法人税
法上も損金算入
Yes
NPO法上は役
員報酬、法人
税法上も損金
不算入。なお、
根拠のない金
品の支給はN
PO法上禁止さ
れている利益
の分配とみな
される可能性
がある。実費
名目であって
も、裏づけのな
い支給は、毎
月同額とした
方が良い。
NPO法上は役員
報酬、法人税法上
は損金算入
NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク
【参考資料②】 役員以外のスタッフへ支給する金品 (福利厚生費に相当するもの及び退職金を除く)
Yes
Yes
通常の給与所得であり、甲欄適用者(扶養控除申
告書の提出のある者)であれば年末調整を行う
月給(もしくは
週給や日給)と
しての根拠の
ある支給か?
給与規程等で
支給に根拠の
ある賞与か?
Yes
No
賞与か?
Yes
給与所得(ただし根拠のない金品の支給はNPO法上禁
止されている利益の分配とみなされる可能性がある)
No
No
Yes
支給対象者は
月給(もしくは
日給や時間
給)としての常
時定額の支給
対象者か?
(臨時雇用者
(パートタイ
マー、アルバイ
ト)及び最低賃
金以下の者
(いわゆる有償
ボランティア)
を含む)
No
No
通信費、会議食
事代等の名目で
の実費支給か?
No
出張日当もし
くは交通費等
か?
役務の提供に
対する謝礼
か?
実費であること
の立証は可能
か?
Yes
規程に則り、かつ
社会通念上常識
的な金額の範囲
内か?
Yes
経費処理可能、本人
の所得にもならない
No
Yes
経費処理可
能、本人の所
得にもならない
No
給与所得に加
算する(ただし
根拠のない金
品の支給はN
PO法上禁止さ
れている利益
の分配とみな
される可能性
がある)
Yes
Yes
No
ボランティアに
対する謝礼
か?
(※1) 丙欄を適用できるのは同一人物につき
2ヶ月までである。2ヶ月を超えたら甲欄もしくは
乙欄に移行しなければならない。
No
交通費等の
実費相当額
程度か?
役務の提供
もしくは権利
の使用等に
対する謝礼
か?
Yes
経費処理可能、本人の所得にもならない
No
アルバイトとして扱う(日額表丙欄の適用可) (※1)
Yes
経費処理可能、ただし本人の所得となる(業務の内容により
源泉徴収も必要)
No
経費処理は困難、根拠のない金品の支給はNPO法上禁止
されている利益の分配とみなされる可能性がある
- 6 -
NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク
【参考資料③】 海外派遣と外国人の源泉税
(日本人が海外勤務する場合の給与源泉所得税の取扱について)
従業員の場合
1 年以上の予定で海外赴任する場合
・
出発時点から非居住者となり、国内の留守家族に給与支給される場合でも課税されない。出発時点までの所得税を精算する必要がある
(年末調整、本人による確定申告、納税管理人による確定申告のいずれか)
。また、事情により 1 年以内に帰国することになった場合
でも、海外勤務中に支給された給与は課税されない。
1 年未満の予定で海外赴任する場合
・
これまでどおり居住者であり、支給される給与は課税される。当初の予定が変更になり、1 年以上の海外赴任になった場合には、その
予定が変更になった時点で、出国したとみなしてその後支給される給与については課税されない。
役員(理事)の場合
海外赴任が 1 年以上、1 年未満にかかわらず、支給される給与や報酬は国内源泉所得として扱われ課税される。ただし、使用人兼務役
員の使用人部分については、従業員の場合と同じである。
(外国人が日本国内で勤務する場合の給与源泉所得税の取扱について)
・
1 年以上の勤務の場合
通常の居住者として、源泉徴収、年末調整される。
・
1 年未満の勤務の場合
非居住者として(これまで居住者であった者を除く)、原則として給与支給額の 20%が源泉徴収される。
*例外
当該国によっては「租税条約に関する届出書」その他の必要添付書類を所轄の税務署へ提出することにより、国内源泉所得に対する課
税の免除又は源泉徴収税率の軽減を受けることができる場合がある。
- 7 -
NPO 法人 NPO 会計税務専門家ネットワーク
【参考資料④】 国税庁ホームページ・役員給与に関する質疑応答事例
- 8 -