色素増感太陽電池の作成と教育への応用

色素増感太陽電池の作成と教育への応用
愛知県立愛知工業高等学校
化学工業科
1
長谷川
巧
はじめに
エネルギー問題は近年では当たり前のように取り上げられてはいるが、実際のところ生徒はあま
り興味や関心が無いのが現状である。そこで、電卓など身近に使用しているものに使われている太
陽電池を題材に選び生徒の興味を引けないかと考えた。導入するにあたり比較的簡単に自作出来る
色素増感太陽電池に着目した。自作することにより、さらに生徒の興味を引きやすいと考えたから
である。
今回は色素増感太陽電池の製作を課題研究で実施し、各工程を実習にどのように取り入れるかを
考察した。
2
3
研究目的
(1)
なるべく学校にある材料や器具を活用し、実習導入を考察していく。
(2)
自作することで、ものづくりの精神を養い工業人としての成長を図る。
色素増感太陽電池の材料
(1)
導電性膜付きガラス
ア
導電性膜付きの種類
(ア)
FTO(Fluorine doped Tin Oxide)は抵抗値が高いが、熱による抵抗値増加が少ない。
シリコン太陽電池に使われている。
(イ)
ITO(Indium Tin Oxide)はFTOよりも抵抗値が低いが、熱による抵抗値の増加が
多い。主に液晶ディスプレイに使われている。
イ
選定
色素増感太陽電池には一般的にFTOが使用されているため、今回はFTOとの違いを知る
ためにITOを使用することにした。(1500 円/10cm×10cm)
(2)
酸化チタン
光触媒性のあるアナターゼ型の酸化チタンを使用した。
(3)
色素
発電効率を考えるとエオシン Y、クマリンなどの試薬を用いるのが一般的だが、身近にあるも
のを利用しようと考え、紅茶を使用した。紅茶の種類はアールグレイとピーチティーの2種類で
ある。
(4)
電解液
溶媒は炭酸プロピレンを用い、ヨウ素 0.05(mol/L)、ヨウ化リチウム 0.5(mol/L)の割合で混ぜ
たものを作成した。
4
用意する器具
乳鉢、メンディングテープ、ガラス切りカッター、ホットプレート、ガスバーナー、クリップ、
ガラス棒、超音波洗浄器、ボンド、テスター、ガラス切りカッターのみ新たに購入した。
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電極の作成
(1)
ア
負極の製作
導電性ガラスを 10cm×5cm に切り取り、アルコールで洗浄する。
生徒は普段、ガラス専用カッターを使用していないので、うまく直線に切れない場合がある。
一度、スライドガラス等で練習させて慣れさせてから導電性ガラスを切らせると失敗が少ない。
ガラスは 1.1mm と非常に薄く割れやすいので生徒にそ
の事を留意させる。
イ
酸化チタンを約 30wt%になるよう水を加え、できた
溶液に対して 1%分のポリエチレングリコールを加え、
乳鉢で混ぜる。図1に示すものが酸化チタンペーストで
ある。
酸化チタンペーストの撹拌は 30 分から 60 分ほど混ぜ
続けるため、酸化チタンペーストは実習時間が少ない場
合は事前に作っておく必要がある。
ウ
テスターを使い、抵抗値を測定し導電面を確かめる。
導電面にメンディングテープを 3 辺に約 3mm の幅に貼
図1
酸化チタンペースト
り、残りの1辺は約6mm 幅に貼る。その後、酸化チタ
ンペーストをガラス棒で薄く散布する。酸化チタンペー
ストは散布直前に超音波洗浄器にかけて、粒子を分散さ
せておく。
メンディングテープは隙間が無いようにしっかりと
貼らせる。
散布はゆっくりとガラス棒を動かさないとムラができ
てしまうため、ゆっくりとやるように徹底させる。失敗を
図2
ホットプレートで乾燥中
してしまった場合はアルコールでまた洗浄すれば良い。
エ
散布後にすぐにテープを剥がし、図2のようにホット
プレート(約 100 度)で乾燥する。ガスバーナーを使用し
てセラミック金網の上で焼成する。
図3のように焼成する際、急激な温度変化によりガラ
スが割れてしまうので、十分に注意させたうえで、保護
メガネの着用を義務付けさせる。また、ポリエチレング
リコールが燃えて炎が発生するのでガラスを真上から覗
図3
焼成中に割れたガラス
き込まないように留意させるとともに、必ず立って実習を受けさせる。
オ
焼成後に酸化チタンを紅茶で染める。
今回の実験では浸した瞬間に酸化チタンが剥がれてしまった。剥がれてしまった原因はIT
Oが平滑なため、密着していなかったためと考えられる。よって、生徒の実習や実験にはIT
Oは不向きだと言える。今回は駒込ピペットで、直接液体を酸化チタンが剥がれないようにゆ
っくりと垂らしながら染めさせた。
(2)
正極の製作
負極と同じ大きさの導電性ガラスを切り取り、2B の鉛筆で導電面に黒鉛を全体に塗りつける。
黒鉛を全体に塗らなくとも発電は可能なので、好きな絵を書かせても良い。その方が自作とい
う実感が湧きやすく楽しく実習ができる。描く絵は乾燥時の待ち時間に考えさせるのが良いと考
えられる。
電極の作成にかかった時間は約 90 分ほどであった。酸化チタンペーストの作成を省くのも有
効だが、多く発電できないが焼成の時間を削ることで作業時間の短縮につながる。
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セルの製作
(1)
負極の導電面と正極の導電面を向かい合わせに貼り付ける。その際に負極の酸化チタンペース
トが散布されて無い 6mm の幅の 1 辺が見えるようにずらして貼り付けダブルクリップで固定さ
せる。
貼り付けてからずらすと、酸化チタンペーストが剥がれてしまうので、6mm の幅が見えるよ
うに予めずらしてから貼り付けるように留意させる。
(2)
駒込ピペットでガラスの隙間から電解液を注入するし、はみ出た液体はふき取る。
注入は少量で十分なため、多量に注入しないよう徹底させる。
(3)
ボンドでガラスの隙間をすべて埋めて完成。
中の電解液がボンドに触れてしまうと、電解液がボンド
に染み込んでしまい、セルの電解液が無くなってしまうの
で、ボンドの色も変色してしまい見た目も悪くなってしま
う。平らな場所に置かせてからボンドの注入を行うように
させる。ボンドが硬化するまでは動かさない。
図 4 のセルの製作は合計 110 分程度で完成することがで
き、ボンドの硬化時間を除けば、3 時間実習で行うこと
図4
完成したセル
が可能である。発電をその場で測定する場合は測定した後で行うこと。
7
測定結果
図 5 に示すように、正極と負極にゼムクリップを付け、太陽光に当てテスターを用いて電圧と電
流を測定した。
(1)
紅茶(アールグレイ)色素のセル
約 0.035V
・電圧
(2)
・電流
約 0.2mA
紅茶(ピーチティー)色素のセル
約 0.025V
・電圧
・電流
約 0.15mA
測定はクリップで導電面を傷つけないように配慮させ
た。正確な測定結果を得るため同じ場所で測定させるよ
うにした。
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図4
まとめ
測定中の様子
今回の課題研究で色素増感太陽電池の製作を導入し、時間的には実習に取り入れることが可能であ
ることを確認できたが、期待通りの出力電圧を得る事ことできなかった。この問題点は、酸化チタン
や導電性ガラス、色素等を適正なものにすれば改善できるが、今回の実験よりもさらにコストが上が
ってしまうために現実的ではないと考えられる。
「色素増感太陽電池の製作コストを下げること」、「適正な電圧を得るための材料を選定すること」
の相反する 2 点が今後の課題として残ってしまった。来年度も研究できる機会があれば続けていきた
いと考えている。
最後に、実験に協力してくれた生徒ならびに本研究に援助していただいた先生方にこの場をお借り
して御礼を申し上げます。
<参考文献>
若狭
信次
著
「手作り太陽電池のすべて
色素増感太陽電池を作ろう」
(パワー社)