走りならアーリーバスよりレイトバス

1948年、ドイツ敗戦の瓦礫の中で、復興の
「レイトバス」
と呼ぶ。エンジンは、アーリーバスが
槌音とともにVWタイプⅠ(ビートル)
をフル生産
1131∼1493cc、レイトバスが1584∼1679ccだ。
していたウォルフスブルグ工場では、パーツを運
ぶトラックが不足していた。そのため、タイプⅠ
をベースにトラックが仕立てられ、工場内で活
躍することに。
マーケット概況
タイプⅡの相場の基本はふたつ。第一に「古
い方が人気がある」
。レイトに比べると、アーリ
それを見たある人が、
「これはいい商用車がで
ーの人気は圧倒的だ。レトロな雰囲気を楽しみ
きる!」と直感。ビートルのシャシーの上に、長
たいからこそタイプⅡに乗るのだから、当然かも
方形のボディを乗せたトランスポーターが企画
しれない。
された。こうして生まれたのがタイプⅡだ。
1950年、まずパネルバンが誕生。その翌年
もうひとつは、
「窓の数が多いほど人気があ
る」。アーリーはフロントウィンドーが2分割で、
にはマイクロバスも追加され、世界に輸出され
サイドウィンドーの分割も細かい。天窓のある
る。ウェストファリア社製のキャンピングカーも
「デラックス」ならなおいい。レイトの11W(ウィ
ラインナップされ、タイプⅠと並ぶベストセラー
になっていった。
ンドー)
から、最高は23Wまである。
タイプⅡは現在、欧米でブームとなっている。
現在、市場に流通しているのは、ほとんどがマ
特にヨーロッパで人気が急上昇中で、ユーロ高
イクロバス。1950-67年に生産された、ボンネット
を背景に、バイヤーがアメリカ西海岸に押し寄せ
にV字型のプレスラインがあるものを
「アーリーバ
ている。23Wの極上モノには、1000万円といっ
ス」
、モデルチェンジ後の68-79年生産のものを
た破格の値段がついているというからビックリだ。
走りならアーリーバスよりレイトバス
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日本での価格も上昇中だが、年に10万、20
万円レベルのゆっくりしたペース。そのためここ
Inspection
VW TypeⅡMicrobus
1年ほど、日本には新しいタマが入ってこなくな
っている。つまり、相場が上昇を続けることは間
違いないだろう。
取材車両:
1969年式 7.9万マイル 248万円
車両協力:
インプレッション
TOAインターナショナル Tel. 045-501-0797
http://www.toajp.com
乗ったのはタイプⅡ(1600cc)のウエストファ
リア製キャンピングカー。塗装も含めすべてが
オリジナル状態で、アメリカでずっとガレージ保
■ウエストファリア
全長×全幅×全高
※新車時価格:正規輸入なし
4520×1695×1960mm
ホイールベース
2400mm
管されてきた極上品だ。走行距離は7.9万マイ
車両重量
1180kg
ルと表示されている。多くのタイプⅡのオドメー
エンジン
空冷水平対向4気筒OHV
ターが1回転かそれ以上している中、10万マイ
ル以下のタマは希少だとか。
排気量
1584cc
最高出力/最大トルク
55ps/10.6mkg
トランスミッション
4段MT
エンジンは一発で始動。アイドリングも安定
レイトバスのダッシュボードはモダンなプラスチック。
3連メーターの景色といいヒータースイッチといい、
現代のクルマから乗り換えてもそれほどの違和感は
ない。細いグリップのステアリングには、革のカバ
ーが巻かれていたが、これも雰囲気にマッチしてい
る。ちなみにアーリーはダッシュボードが金属で、一
気にレトロ度は高まる。
していて、とても調子がいい。エンジンルームの
ピカピカさ具合を見ても、いかに大事にされて
いたかがわかる。ビートルの水平対向4気筒エ
ンジンは、
ウルトラ低速トルク重視タイプのため、
1トン以上あるタイプⅡでも発進でモタつくこと
はなく、一般道なら充分軽やかに走る。リアエ
ンジン/リア駆動のためフロント荷重が軽く、
細いグリップの径の大きなステアリングもラク
に切れて、なんだか楽しい。走っていると、昔の
CMのコピー「のんびり行こうよ俺たちは?」
とい
う気分そのものだ。
ウエストファリア製キャンピングカーは、サイドウィ
ンドーがジャロジータイプ。ダイアルを回すと開くよ
うになっていて、キャンプ中の換気はバッチリだ。も
ちろん反対側も同じ構造。しかも網戸つき! 夏のキ
ャンプでも、蚊の襲来の心配がないというわけ。な
かなか快適に眠れそう。このクルマで一番感動した
のがここ
(笑)。
ウッディなベニヤ作りのリアシート。クルマのシート
というよりは、学生さんのアパートみたいな雰囲気
で、とても和める。シート下にも物入れが備わる。
スライドドア(ちなみにアーリーバスは観音開きドア)
を開けてすぐ左側にも大きな物入れがあって便利そ
う。向かって奥の壁面には、白い折りたたみテーブ
ルが見えますね。
キャンピングカーなので、ちゃんとシンク付き。両側
に小さな折り畳み台があるので、調理もラクチンだ。
その下の扉は冷蔵庫。クルマの左側に電源の導入
コンセントがついていて、キャンプ場等で電源を取
れば動くはず。ちなみに、前オーナーの置きみやげ
であろうカーテンの柄はカウボーイ。ヤケに雰囲気
にマッチしてました。キャンピングカー、いいね。
リアシートを立てた状態のラゲッジルーム。リアシ
ートの背もたれを外せば、すぐさま広いベッドにな
る。頭上には網棚、右側には毛布などを入れておく
のだろう押入れ(?)
が見える。ウッディなインテリア
と、ビニールカバーのマットレスの雰囲気が、とても
レトロでステキ。左側にちらりと見えるのはスペア
タイア。
キャンピングカー仕様は初体験だったが、内
装がほとんどウッドなのにビックリ。クルマという
かコテージみたいだ。いろんなところに押入れ
や物入れがあって、子供の頃作った秘密基地を
思い出すなあ。
中古車選びのコツ
タイプⅡを選ぶにあたってのコツは、第一に
「走りならレイト、雰囲気ならアーリー」
というこ
とだろう。今回乗ったレイトは、あらゆる面で走
りがしっかりしていて、実用に適うと感じた。雰
囲気の方も充分レトロでいい感じだと個人的に
は思ったが、こだわる人にはやっぱりアーリーを
おすすめする。
古いクルマだけに、
コンディションも千差万別。
以前別の機会に乗ったアーリーは、まともに走
らない印象だった。たとえコンディションが良く
ても、現代のクルマに比べたら驚異的に遅いの
も事実で、見た目だけで買うのは危険。特にタ
イプⅡ初心者は、試乗が欠かせない。
Text:清水草一/Photo:松本高好
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ピカピカのエンジンルー
ム。水平対向4気筒OHV
ユニットは、1584ccの排
気 量 から 5 5 p s /
4400rpm、10.6mkg/
3000rpmを発生、という
のがカタログスペックだ。
試乗車は左右にソレック
スのデュアルキャブが付
いていた。ノーマルキャブ
なら、一度決まればキャ
ブ調整は滅多にいらない
が、いずれにしても構造
は非常に単純で、自分で
いじるには打ってつけ。