より心の優しい地球のための食事とは Institute of Food Technologists,2014 年 10 月、68 巻 10 号-Tony Tarver 著 健康のために不可欠である自然食品や優れた栄養は、人間の行動や社会の雰囲気を向上させるのにも大きく 役立つ。 優れた栄養の摂取は、受胎後のヒトの体の適切な発達にとって前提条件であり、慢性疾患の予防に重要な要 素であると考えられている。また、栄養価の高い食事は、ガン、心血管疾患、糖尿病、肥満、および慢性炎症の 他症状を制御、もしくは回避することで知られている。そのため、米国、英国、カナダ、およびその他の豊かな 国々の食糧および栄養政策は、食事がいかに身体的な健康に影響を与えるかについて焦点をあてており、健 康な心臓、歯、骨、体重のために適切なカロリーと栄養を摂取することを推奨している。しかし、これらの政策は、 ヒトの体の中で最も複雑な部分である脳についてはほとんど、もしくは全くといってよいほど言及していない。 脳は、重要な身体器官の機能を制御し、知性と感情反応の中枢をつかさどり、かつ、人体におけるエネルギー の約 20%をカロリー消費している。また、脳は性格、気分や行動の発現など、人間性の定義を担っている。しか し、豊かな国々がもつ食糧および栄養に関する多様かつ幅広い政策は、身体の機能と健康に焦点をあてており、 適切な脳機能と健康的な行動の重要性を無視してきた。その結果、米国や英国などの西洋諸国は、攻撃性、過 敏性、衝動性、およびその他の反社会的行動が急激に増加している。これらの状況は、アメリカ人、イギリス人、 その他の人々が広い自由意志を謳歌したという単純な結果なのであろうか、それともその他に原因があるのだ ろうか。この興味深い分野の研究は、うつ病、攻撃性、衝動性などの反社会的行動は脳内の栄養不足が原因で あるとし、特定の食品や栄養がそれらの反社会的行動の発現を抑える可能性を示唆している。 責任感と自由意志ではなく、「不適切な栄養」が、人々をネガティブな雰囲気や行動に促してしまう原因と考える この概念はやや型破りな考えかもしれないが、実は目新しい概念ではない。数十年ものあいだ、科学者、臨床 医、精神保健専門家は不十分な栄養が神経認知発達と精神的健康に深刻な影響を及ぼすと唱えている。1942 年に、医師であるヒュー·シンクレア氏は栄養の乏しい食生活が反社会的な行動につながると推測し、子どもの Alltech Japan Article Project- Nov 2014 食生活にタラの肝油やオレンジジュースを補うように英国政府に助言した(Regoli ら、2014)。1968 年には、著名 な化学者ライナス·ポーリング氏はピロール尿症に関する論文内において、精神的健康に微量栄養素欠乏が及 ぼす影響を議論し、精神疾患の治療にビタミンやミネラルの使用を提唱した(LPI、2008)。そして、シンクレア氏 やポーリン氏よりもだいぶ前である 19 世紀後半には、イタリアの犯罪学者であるチェーザレ·ロンブローゾ氏は、 テロリストにみられる攻撃的な戦術は栄養欠乏が原因していると述べた(Bohannon、2009)。食事と精神の関係 性が精神疾患の発症や重症度だけでなく、人格、気分、および行動の発現も包含しているのである。例えば、あ る人はチョコレートを食べると幸福感を味わい、ある人はチーズマカロニを食べると安心·安全や癒しを感じるとい うふうにである。 自分の好きな食べ物を食べているときにヒトは一時的に気分が高揚するという現象のほかに、ある研究により 特定の栄養素が脳のピークを維持するために不可欠であることが示されている。歴史を通じて、研究者は精神 的な病気の患者にみられる栄養不足、最近になってからは、反社会的な行動を示す人にみられる栄養不足を見 つけ出した。うつ病患者は、一貫して、ビタミン B、オメガ 3 脂肪酸、および亜鉛が欠乏していることが報告されて いる。過敏性の人は、一般的に、ビタミン B、オメガ 3 脂肪酸、およびマグネシウムが欠乏している。さらに、衝動 性、攻撃性、さらに暴力的な行動は一貫して、マグネシウム、亜鉛、ビタミン B 群、オメガ 3 脂肪酸、およびトリプ トファンなどを含むいくつかの栄養素の欠乏が関連しているが示されている。(それらの栄養素は、体温、注意力、 および行動の規制に役立つ脳内のセロトニンという化学物質の栄養前駆体である) (Gesch et al., 2002; Conklin et al., 2007; Seo and Patrick, 2008)。ある研究では、反社会的行動を起こす人は多くの場合、重度の低血糖症を 罹患していることが報告されている(Benton, 2007). 脂肪酸と攻撃性 したがって、十分なビタミン B、オメガ 3 脂肪酸、亜鉛、およびトリプトファンの摂取が精神バランスに不可欠であ るといえるだろう。これらの栄養素は、緑黄色野菜、卵、果物、魚介類、ナッツや豆類、全粒穀物に多く含まれて いる。これらの栄養価の高い食べ物は、西洋の食事でも豊富に利用可 能であるのにも関わらず、欧米諸国におけるいじめ、うつ病、欺瞞、暴動、 法律軽視、その他の不注意、無礼、犯罪などの反社会的行動に関わる 要素の発生率は高い。米国国立衛生研究所において栄養神経科学を 専門とする臨床研究者で、精神科医と内科医でもあるジョセフ・ヒベリン 氏は、この不合致に考えられる理由を述べている。ヒベリン氏によると、 産業化した食品生産という大きな変化が、西洋の食事の組成物に抜本 的な変換を引き起こしたという。特に、ヒベリン氏は、食品生産が主にオ メガ 6 脂肪酸を含有する工業用植物油(例えば、トウモロコシ油、綿実油、 ベニバナ油、および大豆油)に大きく依存していることが、脳にとって必 須であるオメガ 3 脂肪酸の量を混乱させていると考えている。さらに、西 洋文化における社会的な集まりで当たり前になってきたアルコール摂取も、脳のオメガ 3 脂肪酸を枯渇させると いう。 食事からとる脂肪酸の変化を、反社会的行動の正当な原因として認めるのは困難であるようだが、脳の解剖学 と生化学を簡単におさらいすると説得力のある理由であることがわかる。脳はほぼ 3 分の 2(60%)が脂肪から成 っており、ほとんどが必須脂肪酸であるオメガ 3 およびオメガ 6 の二種類からなる。具体的には、オメガ 3 脂肪酸 Alltech Japan Article Project- Nov 2014 であるドコサヘキサエン酸(DHA)は、中枢神経系における神経細胞膜、およびシナプスにおいてかなりの割合 を占めている。脳において最も豊富に存在する脂肪酸なのである。他の2つのオメガ 3 脂肪酸であるエイコサペ ンタエン酸(EPA)およびアルファ-リノレン酸(ALA)は、脳の解剖学的構造及び機能において重要な役割を果た している。西洋の食事では、ALA やオメガ 6 脂肪酸であるリノール酸(植物油)やアラキドン酸(乳製品、卵、肉) を数多くの食品から取ることができるが、DHA および EPA 源となる食品は、魚介類のみである。もし食事から十 分な DHA や EPA を摂取していない場合は、体が ALA を EPA に変換し、その後さらに DHA に変換することがで きるが、そのプロセスは非効率的であり転換率が悪いことがわかっている(Bradbury, 2011)。典型的な西洋の食 事は、オメガ 3 脂肪酸の 14〜25 倍以上のオメガ 6 脂肪酸を含んでいるため、理想的な食事内容とはいえないの である(UMMC、2013)。 オメガ 3 脂肪酸に対するオメガ 6 脂肪酸の理想的な食物比は 1:1 から 5:1 の範 囲である。オメガ 6 脂肪酸は炎症誘発性をもち、オメガ 3 脂肪酸は抗炎症性をも っているため、これらの比率を超えた場合、慢性炎症、ならびに数々の身体的お よび精神的な問題が起こりうる(Bradbury, 2011; Patterson et al., 2012)。自然食 品や一価不飽和および多価不飽和脂肪から、加工食品や飽和およびトランス脂 肪酸への重視という過去 50 年間における西洋の食事の変化は、根本的に食事 からのオメガ 6 脂肪酸の消費量を増加させている。ヒトの脳において、オメガ 6 脂肪酸はオメガ 3 脂肪酸と同じ代謝経路で競合しており、ヒベリン氏や他の科学 者は、この競合が発生すると、体内で ALA が EPA および DHA に変換できなく なると考えている(Blasbalg ら、2011)。そうすると神経細胞膜の形成のために体 内の間違った型の脂肪が使われることになり(オメガ 6 脂肪酸)、神経伝達物質 であるドーパミンやセロトニンが適切に機能しなくなる。機能不全のドーパミン応答システム(誇張かもしれない が)は、予想される報酬に過剰な反応を起こす。また、低セロトニンレベルは、衝動性、攻撃性、うつ病、自殺の リスク増大のバイオマーカーでもある。衝動を制御することができていない強い感情に基づいた攻撃性、または その他の不親切な行動は、反社会的行動の重要な特性であることが証明されている(Conklin et al., 2007; Hart, 2008; Seo and Patrick, 2008; Monahan et al., 2009). そして、ある研究では、脳の発達段階における早期のオメガ 3 脂肪酸不足は、より多くの反社会的行動を引き起 こすと示唆している。実際に、子宮内から始まり最初の何年かの間に十分なオメガ 3 脂肪酸を十分に摂取しなか った子供たちは、脳に永久的に有害な影響が与えられることが報告されている(Liu et al., 2004; Lawrence, 2006; FHF, 2007)。ヒベリン氏は、西洋の食品の産業大量生産化によって引き起こされる必須脂肪酸比の変化が「攻 撃性、うつ病、および心血管死という社会的負担に寄与した、非常に大規模で制御不能な実験の結果 (Lawrence, 2006)」であることを確信している。 Alltech Japan Article Project- Nov 2014
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