黒川ゼミナール 2006 年 公共選択学会 二大政党制の本格化 ∼経済政策に与える影響∼ 法政大学経済学部 経済学科 3 年 黒川ゼミナール 日本経済パート 32 期 窪寺智美 笹山貴史 高橋幸湖 山原 瞬 目次 はじめに ·············································································· P.4 フローチャート ····································································· P.5 第 1 章 現状把握 ·································································· P.6 第 1 節 日本の政党政治 ··································································P.6 (1)政党の政治的機能 ·································································· P.6 (2)日本の政党政治の進退····························································· P.6 第 2 節 イギリスの二大政党制 ·························································P.8 (1)イギリス二大政党制成立のあゆみ ·············································· P.8 (2)保守党と労働党 ····································································· P.9 (3)二党の政権争い ····································································· P.9 第 3 節 アメリカの二大政党制 ······················································· P.12 (1)アメリカ二大政党制成立のあゆみ ············································ P.12 (2)二大政党の支持傾向 ····························································· P.12 (3)政策の違い ········································································· P.13 第 4 節 二大政党制のしくみ ·························································· P.14 (1)政党の分類 ········································································· P.14 (2)二大政党制と小党分立制の比較 ··············································· P.15 第 5 節 選挙 ··············································································· P.16 (1)選挙の形態 ········································································· P.16 (2)2004・2005 年実施の総選挙··················································· P.16 (3)小選挙区制と大選挙区制の比較 ··············································· P.18 (4)自民党と民主党の支持基盤····················································· P.19 第 2 章 経済政策 ································································ P.22 第 1 節 中位投票者定理 ································································ P.22 (1)中位投票者定理とは ····························································· P.22 第 2 節 自民党と民主党の政策 ······················································· P.24 (1)自民党と民主党の政策··························································· P.24 (2)具体的な政策の違い ····························································· P.24 第 3 節 無党派層 ········································································· P.28 (1)支持政党の推移 ··································································· P.28 2 (2)年代別比率 ········································································· P.29 第 3 章 政策提言 ································································ P.30 第 1 節 情報の提供 ······································································ P.30 (1)携帯電話利用率 ··································································· P.30 (2)ポリティカル・メッセージ····················································· P.31 (3)合理的無知 ········································································· P.32 (4)政治的意思決定制度 ····························································· P.32 第 2 節 電子投票の導入 ································································ P.33 第 4 章 まとめ ··································································· P.38 参考文献 ············································································· P39 3 はじめに 「日本の二大政党制が本格化すると、経済政策にどのような影響を与えるか」 という論題に対して私たちはまず、 5 二大政党制とは、 「二つの大政党が議席の大半を占め、その二つが交互に政権を担う政党 政治」と定義した。 日本の政党政治は、第 2 次世界大戦後に民主化とともに復活し、禁止されていた共産主 義政党ははじめて公然化した。そして、1955 年に社会党の左右統一に対抗して、保守合同 10 の自由民主党が成立し保守(自民党)と革新(社会党)の二大政党制の時代が始まった。 しかし実際は自民党の単独政権であり、この状況が 1993 年まで続いた(55 年体制) 。そし てその後多党化が進み、連立政権が次々に成立した。 私たちは今回の論題に対して、以下のように解釈した。 15 日本では二大政党制は将来的に本格化し、それにより両党はより多くの有権者を獲得す るために万人にうける政策を打ち出そうとする。その結果それぞれの政策は似通ったもの となってしまう。これを「中位投票者の定理」という。政策が似通ったものになると、2 つの政策の違いがわかりにくく、政策の詳しい内容をあまり理解していない有権者は、政 策を選択することが非常に困難になる。これが、二大政党制が経済政策に与える影響であ 20 ると考えた。 そこで私たちは、郵政改革と道路改革を取り上げ、二大政党制が本格化したときにそれ ぞれの政策の内容にどんな影響を与えるかを論じる。 ここから更に発展させ、政党情報の配信、電子投票を導入し、無党派層の政治関心を強 めていくことを政策提言とする。 4 フローチャート 論題解釈 現状把握 日本の二大政党制は本格化するか? 日本の政党政治 本格化する! イギリスの アメリカの 二大政党制 二大政党制 二大政党制 のしくみ 経済政策 中位投票者の定理 ∼自民党と民主党の経済政策の相違点∼ 郵政改革 道路改革 格差問題 政策提言 ● 情報の提供 ● ● 投票方法の簡便化 ● 携帯電話を媒体とした、メール 配信 電子投票の導入 5 第1章 現状把握 第1節 日本の政党政治 (1) 政党の政治的機能 政党とは共通の主義や政策を持った人々が、その実現を目指して、政権を獲得するため 5 に自主的に組織した政治団体のことである。 そして政党は、以下の 4 つのような政治的機能を担っている。 ① 政治教育機能 政治問題を政策・綱領としてまとめて啓蒙・宣伝に努め国民大衆に政治意識の高揚 と能動的政治参加をはかる。 10 ② 統合機能 国民の多種・多様な分散的個別意思や利害を統合し、世論形成の指導的役割を果た す。社会のさまざまな利益・要求・意見を集約する。 ③ 媒介機能 国民の政治意思を政策決定の場に反映させる媒介者の役割を果たす。 15 ④ 議会政治運営の円滑化の機能 選挙のための候補者を選定したり、与党の立場からは党首をナショナル=リーダー に提供して自らの政策を実現し、野党の立場からは政府を批判・監督する。 ( 『シグマベスト 理解しやすい政治・経済』参照) 20 (2) 日本の政党政治の進退 第二次世界大戦後、民主主義憲法の下で新しく誕生した日本の政党システムの形成を見 ると、当初多党制のなかでいくつかの連立政権や少数内閣を生み出したものの、1955 年に なって、左右日本社会党の統一と自由民主党の結成とによって保守革新の二大政党制が出 現した。この保守合同以降、自民党は 1993 年7月の衆院選挙で過半数が割るまで 38 年間、 25 一貫して政権を担当してきた。現実には政権交替のない二大政党制で、自民党が単独で議 会の多数派を占め政権を担う状況が続いた。この状況が一般に「55 年体制」と呼ばれてい る。55 年体制のなかでも、1970 年代からはまた多党化傾向がみられるようになった。この 間保革伯仲1が続き、衆議院では与党が、参議院では野党がそれぞれ過半数を占める「ねじ れ現象」が生じたが、基本的には自民党の一党優位が続いた。 30 この体制は 1993 年の非自民連立政権、1994 年の自社さきがけ連立政権の登場を経て崩 壊したとされている。 再び起こった自民公明独裁政治に更なる緊張感を与えるためにも強力な野党が存在すべ 1 保守と革新がきわめてよく似ていて、優劣のないこと。 6 きである。現在の民主党が自民党に匹敵する得票率を確保できるようになれば、政権交代 を伴って議会制民主主義政治の理想的な形態に近づくのではないかと考えた。 【図表 1-1-1】1970 年代政党支持率 1970年代政党支持率 自民 社会 公明 民社 共産 新自クラブ 社民連 (%) 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 1970 1971 1972 1973 1975 1976 1977 1978 1979 (年度) 5 ( 『日本の世論』より作成) しかし 1989 年の参議院選挙で、自民党は大敗し、参議院で過半数割れに追い込まれてし まった。その敗因は 89 年 4 月から導入された消費税やリクルート事件、牛肉・オレンジな ど農産物の自由化などが挙げられる。そして 1993 年は、わが国の戦後政治の大きな転換期 10 となった。 「東京佐川急便事件」や「ゼネコン汚職」などが発覚し、国民の政治への不信が 増大するなかで、抜本的な「政治改革」が必要であるとの世論が高まった。こうした状況 のもとで、1993 年の総選挙で自民党が過半数に達しなかったことがきっかけとなって、政 治改革を掲げて 8 党派2による非自民等連立政権が誕生した。そして 1994 年には、自民党・ 社会党・さきがけの連立政権が成立したが、その後も政界の再編は続き、2000 年に自民党・ 15 公明党・保守党(のちの保守新党)の三党連立政権が発足した。2003 年には、総選挙直後 に保守新党が解党したため、自民・公明両党による連立政権となった。 日本社会党・新生党・公明党・民社党・社会民主連合・民主改革連合(参院会派)の 6 党派は、自民党との連携を模索していた日本新党・新党さきがけを取り込むため、日本新 党代表の細川護煕を首相候補とすることで合意、日本新党・さきがけも受諾したため、非 自民・非共産政権の発足が決定的となった。 2 7 第2節 イギリスの二大政党制 政党が最初に発達したのは 17 世紀のイギリスである。そこで第 2 節では、二大政党制 をとっていて、最初に政党が発達したイギリスと、二大政党制の代表とされるアメリカ 5 についてみていきたいと思う。 (1) イギリス二大政党制成立のあゆみ イギリスでは 17 世紀末からトーリーとホイッグという二つの党派が、19 世紀に入ってか らもその名を残したまま議会政治を担っていた。そして 1830 年代半ばからトーリーが保守 10 党に、ホイッグが 1859 年に他派との連合により自由党にそれぞれ名称を変えた。この二つ の政党が国民の支持を受け、交互に政権を担当するようになったのがイギリスの「二大政 党制」である。 政治学者のサルトーリは、近代的な二大政党制を次の四つの条件を持つ政治体制である と定義づけている。 15 ① 議会内で絶対多数を獲得しようと争う二つの政党が存在する ② そのうちのひとつが政権を運営できるだけの多数を獲得しうる ③ その多数政党が進んで単独政権を形成しようとする ④ 二つの大政党が交互に政権を担当する確かな可能性がある しかし、こうした政治体制が 19 世紀のいつごろに確立され、その後のイギリス政治の特 20 色とされるようになったか、という問題については、たくさんの研究者によりさまざまな 意見が出されている。この四つの条件をどれも加味したものとされているが、一概にいつ 確立した、と断言することは難しい。 20 世紀に入ると、イギリス政治は保守党・自由党のほかに、アイルランド国民党と新興 の労働党が絡んで運営されていた。しかし 1916 年 12 月のアスキスからロイド=ジョージ 25 への政権交替により、自由党は独立自由党と連立自由党とに分裂し、戦後まで対立が続い た。また、第一次大戦の前後の時期に、イギリスでは労働運動が全国化・組織化し、労働 組合員の数も大幅に拡大し、さらに 1918 年の第四次選挙法改正により男子普通選挙権が実 現すると、労働者階級の表は、党内対立ばかりの自由党から、成長著しい労働党へと移っ ていく現象が始まった。こうして自由党は没落し、労働党が大きな勢力を持ち始めたので 30 ある。 そして、第一次世界大戦の前後に、保守・自由・労働の三党が議会内で入り乱れている 形態が顕著だったが、大戦中の労働・自由各党の内部事情や労働運動があいまって、1920 年代には保守・労働の二大政党制への移行を決定付ける体制が徐々に形成されつつあった といえる。 8 (2) 保守党と労働党 ① 保守党 保守主義政党。現在、中流階級の支持は労働党や自由民主党へと流れており、支持層の 大半はイングランドの裕福層のみとなり、党勢の衰退が指摘された。しかし 2005 年の総選 5 挙の敗北を受けて行われた党首選で、一部世論調査の支持率で労働党を逆転した。また、 2006 年に行われたイギリスの統一地方選挙では議席数を増やしている。 ② 労働党 イギリスの中道左派、社会民主主義政党。イギリスの政権与党。社会民主主義政党とし て労働者の生活の向上を唱え、失業保険の充実、社会保障制度の整備などに努めてきた。 10 (3) 二党の政権争い 1920 年代以降の総選挙では、以下のように保守党と労働党の二政党が交互に政権を担う かたちで政治が行われている。しかし、周期的というには間隔の長短が激しいといえる。 15 【図表 1-2-1】総選挙における二大政党の割合 総選挙における二大政党の割合 (%) 45 保守党 労働党 40 35 30 25 20 15 10 5 0 1951 1955 1959 1964 1966 1970 1974 1974 1979 1983 1987 1992 1997 2001 2005 (年度) (British Electoral Facts BCCnews より作成) イギリスの二大政党制は、全国的な規模での小選挙区制をとっている。つまり、各党は 一人しか候補者を出さず、投票者は候補者がどの党に属しているかをみて、自分が支持す 20 る政策を唱えている党の候補者に投票する。人にではなく、マニフェストに投票するのだ。 2005 年 5 月 5 日に行われたイギリス総選挙の得票率3は、 労働党 35.3% 保守党 32.4% 自由民主党 22.0% その他 10.4% 3 当該政党の得票数を各政党の得票数の合計で割った数のこと 9 であったが、いずれも過半数を超えていない。労働党・保守党の連立か、労働党・自民党、 もしくは保守党・自民党の連立政権ができるのが自然である。 【図表 1-2-2】得票率の推移 得票率の推移 保守党 (%) 60 労働党 自由民主党 50 40 30 20 10 0 5 45 5 0 5 1 5 5 5 9 64 6 6 70 28 1 0 97 9 98 3 98 7 99 2 997 00 1 005 1 9 19 1 9 19 1 9 19 1 9 1 9 2/ 0/ 1 1 1 1 1 2 2 4/ 4/1 7 1 9 1 97 (年度) (British Electoral Facts BCCnews より作成) 議席数は 労働党 356 議席 保守党 198 議席 自民党 62 議席 その他 30 議席 という結果になり、労働党が総議席数 646 の 55%を獲得し、単独で政権を獲得した。 10 【図表 1-2-3】議席数の割合 議席数の割合 (%) 70 保守党 労働党 自由民主党 60 50 40 30 20 10 0 45 950 951 955 959 964 966 970 /28 /10 979 983 987 992 997 001 005 19 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 10 /2 74 74/ 9 1 19 (年度) (British Electoral Facts BCCnews より作成) 10 こうした選挙での得票率と議会の議席数の乖離が小選挙区制度の特徴といえる。 ここで(得票率/議席率)をみると、労働党 1.56 保守党 0.95 民主党 0.44 その他 0.45 である。つまり労働党だけが民意の直接の反映である得票率の 1.6 倍の議席を獲得している のに対し、その他の政党はすべて得票率に見合った議席を議会で獲得していない。 5 以下の【図表 1-2-4】は、2005 年総選挙の際の得票率の分布を表したイギリスの地図で ある。こうしてみてみると、保守党が中心から南にかけて大きく占めているように見える。 そして北側ではほとんどが自由民主党となっていて、労働党は中心部に少ししか割合を占 めていないように感じる。しかし実際この年の政権を担ったのは労働党であり、小選挙区 10 制度の問題点といえる、得票率と議席数の乖離が目に見えてわかる。 【図表 1-2-4】得票率の分布図 自由民主党 労働党 保守党 (BBCnews より引用) 11 第3節 アメリカの二大政党制 (1) アメリカ二大政党制のあゆみ 二大政党が争う選挙は、アメリカの政治制度の特徴の1つである。1860 年代以降、共和 5 党と民主党が選挙政治を支配している。このような長期にわたる共和党と民主党による選 挙政治の独占支配は、アメリカの政治制度の構造的な側面と政党の特徴を反映している。 アメリカにおける選挙の基準となっているのは、小選挙区制である。これは、当該選挙 区で最高得票数を得た候補者が選出されるシステムである。従って、議員選挙区で最高得 票数を得ることのできる広範な基盤を持つ 2 つの政党の形成が進められることになる。一 10 方、小政党や第三政党は、ほぼ毎回敗北を繰り返すので、主要政党と組まない限り長期的 な存続は難しいとされている。 二大政党方式を促進するもう 1 つの制度が、大統領選の選挙人団制度である。この制度 では、国民は厳密には大統領候補者に直接票を入れるのではなく、各州で、特定の大統領 候補者への支持を誓約している「選挙人」に票を入れる。大統領に選出されるには、50 州 15 の選挙人票計 538 票の過半数を得なければならない。この要件により、第三政党が大政党 と組まずに大統領選を制することは極めて難しい。加えて各州の選挙人票は、勝者独占方 式により割り当てられる。州の選挙人票を獲得するためには、州内の一般投票の最高得票 数を獲得すればよい。小選挙区制と同様、選挙人団制も第三政党には不利なのである。 20 (2) 二大政党の支持傾向 【図表 1-3-1】より、2004 年から 2005 年でブッシュ支持からケリー支持の傾向に大きく 変化しているのが読み取れる。つまり、2004 年では共和党を支持、2005 年では民主党支持 と国民の支持傾向が変化したということである。 25 【図表 1-3-1】勢力分布図 ① 2004 年大統領選挙 30 35 (ワシントンポスト紙より引用) 12 ●ケリー(民主党) ワシントン・オレゴン・カリフォルニア・ミネソタ・ウィスコンシン・イリノイ・ミ シガン・ペンシルベニア・ニューヨーク・メーン・バーモント・ニューハンブシャー・ マサチューセッツ・ロードアイランド・コネティカット・ニュージャージー・デラウ 5 ェア・メリーランド・コロンビア特区 ●ブッシュ(共和党) その他の州 ② 2005 年調査 10 15 (Survey USA より引用) 20 ●ブッシュ(共和党) ●ケリー(民主党) アイダホ・ユタ・ワイオミング 25 その他の州 (3) 政策の違い 2006 年 5 月に上下院で可決、成立した総額 700 億ドル(約 8 兆円)の大型減税法案を考 えてみる。法案の内容とは、株式の配当や売却益への優遇税率を 2008 年から 2 年間延長す るというものである。ブッシュ政権が景気刺激策として 2003 年に導入したが、2008 年で 期限が切れるための措置で、大型減税は政府の経済への関与を少なくし、民間の活力を引 30 き出す狙いで、オーナーシップ社会政策の柱でもある。 共和党は「減税で景気と雇用が回復した」と主張。支持率不振のブッシュは「経済は力 強い」とアピールし、任期切れ後も減税を継続する「減税恒久化」を訴えた。一方ケリー は「株を大量に持つ一握りの富裕層のための減税」と反発し、 「貧富の差拡大」を攻撃した。 また、政策からも共和党は高所得者寄り、民主党は低所得者寄りとの傾向が現れている。 35 ブッシュ政権は上の政策から分かるよう、株を所有できるような高所得者優遇の政策を取 っている。対する民主党はクリントン政権での社会保障制度など主に低所得者救済の政策 を行っている。ブッシュ政権はイラク戦争での歳出が重なり、赤字財政になっており、そ のことが各州の共和党離れに繋がったと言える。 13 第4節 二大政党制のしくみ (1) 政党の分類 政党制は、以下の 5 つの類型に分類される。 ●一党制 5 政党間の競争が許されておらず、全体主義的である (中国・キューバ・旧ソ連など) ●一党優位制 自由な競争があるが、結果的にいつも特定の政党が政権を獲得 (55 年体制の日本・トルコ・1952 年以降のインドなど) 10 ●二大政党制 ほぼ勢力が近い二つの政党が選挙戦で争い、いずれかが政権を担当 (アメリカ・イギリス・ニュージーランドなど) ●穏健な多党制 主な政党数が 3−5 つで、イデオロギーの差も小さく、連立政権交渉がまとまりやすい 15 (ドイツ・オランダ・ベルギー・スウェーデンなど) ●分極的多党制 政党数が 6−8 つと多く、イデオロギーの差も大きく、左右両極に排他的な野党勢力も 存在する(イタリア・スイス・1920 年代のドイツなど) 20 この中で、二大政党制は勢力が同じくらいの二つの主要政党が選挙によって選ばれ、政 権を獲得することによって、政策転換がわかりやすい政権交替が可能なシステムとされて いる。また二大政党制は、政策の争点が見えやすく、政策が実行できない場合は選挙によ ってほかの一党への政権交替が可能なシステムなので理想的とされるが、実際には例が少 ないのが現状である。そして、なぜ小選挙区だと二大政党になりやすいのかを考えてみる。 25 小選挙区制では、各党はひとつの選挙区にひとりの候補者を立てるため、同じ等の共倒れ がなくなり、全国的に候補者が立てられる大政党が有利になる。また同一選挙区で党同士 の選挙協力がすすみ、二大政党制に収れんされていくことになる。 14 (2) 二大政党制と小党分立制の比較 ここで、政治形態としては理想的とされる二大政党制と、それに対する政治形態である 小党分立制の長所と短所を比較してみる。 5 【図表 1-4-1】長所と短所の比較 長 所 短 ① 一党単独政権により、政権が安定する 二大政党制 ② もうひとつの政党との政策比較がしや すく、選挙人の選択が容易 所 ① 多党制が政権を長期独占する危険性が ある ② 国民は結局二つの立場しか選択できず、 ③ 政治責任の所在が明確で、かつ有力政党 の存在により、与党の独善を抑制できる 少数意見が反映されない ③ 両党の意見が近すぎると二党の意味が なく、離れすぎると政策の大転換をみる 小党分立制 ① 国民の多様な意見を、広く、公平に政治 に反映できる ① 連立政権になり、政権が不安定になりが ち ② 連立政権により、政策に弾力性がある ② 政治責任の所在が不明確になりやすい ③ 世論の変化による政権交代が機動的に ③ 主導権争いが激化して、政治の非効率化 可能 をまねきやすい ( 『シグマベスト 理解しやすい政治・経済』より参照) 先にも述べたが、二大政党制になると政権が安定し、政策の争点が見えやすい、という 長所がある。その代わりに、国民の少数意見が反映されない、という短所がある。 一方、小党分立制は、民意を広く公平に反映できる、という二大政党制とは間逆の長所 10 がある。しかし、連立政権になり政権が不安定になる可能性や、政治責任の所在が不明確 になりやすいといった短所もある。 55 年体制の日本は、小党分立制であった。小党分立制では民意が反映されやすいという 利点があったが、現在はその体制が崩れ、政治形態として理想的な二大政党制が本格化す ると考えられている。 15 15 第5節 選挙 (1) 選挙の形態 国民の政治参加の形態はさまざまだが、その中でも特に選挙はもっとも多くの人が参加 できる行為で、民主政治の基本とされる。また、政策などの決定は、一般的に選挙によっ 5 て選ばれた議員によって行われるので、国民による選挙は政策反映のためにきわめて重要 であるといえる。 選挙制度において今回重点を置かなければならないと考えたのは、選挙区制である。選 挙区制は大きく、小選挙区制と大選挙区制の 2 つに分類することができる。小選挙区制と は、1選挙区につき1名を選出する選挙制度のことで、日本の衆議院では 1890 年から 1898 10 年の衆院選で採用された。そして大選挙区制とは、1 選挙区から 2 名以上の代表を選出する 選挙制度のことである。 日本では長年の間、中選挙区制を採用してきた。中選挙区制とは、ひとつの選挙区から 3 ∼5 人を選出する選挙制度で、大きく言うと大選挙区制の一種である。これを採用した理由 は、小選挙区制と大選挙区制の欠点を緩和し、小政党の議席獲得も可能にするためだ、と 15 いわれている。 (2) 2004・2005 年実施の総選挙 ここで、2004 年参議院選挙と 2005 年衆議院選挙における自民・民主両党の得票率をみ ていく。 20 【図 1-5-1】2004 年参議院選挙おいて都市部での自民党・民主党得票率(選挙区) 60.00 50.00 得票率(%) 40.00 自民党 民主党 30.00 20.00 10.00 福 岡 広 島 兵 庫 大 阪 京 都 愛 知 静 岡 新 潟 神奈川 東 京 千 葉 埼 玉 宮 城 北海道 0.00 (総務省統計局『日本統計年鑑』より作成) 16 2004 年参議院選挙(括弧内は比例) 5 10 自民:49 (15) →115 社民:2 (2) →5 民主:50 (19) →82 諸派:0 →0 公明:11 (8) →24 無所属:5 →7 共産:4 (4) →9 ≪得票数≫ 自民党:1679 万 7686 票 民主党:2113 万 7457 票 【図 1-5-2】2005 年衆議院選挙おいて都市部での自民党・民主党得票率(小選挙区) 60.0 50.0 得 40.0 票 率 30.0 ︵ ︶ 自民党 民主党 % 20.0 10.0 福 岡 広 島 兵 庫 大 阪 京 都 愛 知 静 岡 新 潟 神奈川 東 京 千 葉 埼 玉 宮 城 北海道 00.0 15 (総務省統計局『日本統計年鑑』より作成) 2005 年衆議院総選挙(括弧内は比例) 20 自民:296 (77) 民主:113 (61) 公明:31 (23) 共産:9 (9) 国民:4 (2) 社民:7 (6) 日本:1 (1) 25 その他:19 (1) ≪議席占有率≫ 自民党:61.7%、小選挙区 219、比例区得票:2589 万票 民主党:23.5%、小選挙区:52、比例区得票:2104 万票 30 以上より、総選挙の結果、自民党と民主党の議席の比率は約 5 対 2 になり、民主党は自 17 民党に 2 倍以上の差をつけられてことになる。 しかし、政党の地力が比較的正確に現れる 比例代表では、自民党は 77 議席であるのに対して民主党は 61 議席。民主党の議席は自民 党の 79%にあたり、両者の比率は 5 対 4 になる。それほど大きな開きではない。 得票数で 比較すれば、小選挙区で自民党 3252 万票に対して民主党 2480 万票と、民主党の得票は自 5 民党の 76%となり、比例代表でも、自民党 2589 万票に対して民主党 2104 万票と、民主党 は自民党の 81%も得票している。 つまり、比例代表の議席と得票、小選挙区の得票という三つの指標において、今回の総 選挙で民主党は自民党の約 8 割の勢力を維持していたということが分かる。 5 対 4 であれば、 やはり二つの政党が拮抗しているということになる。二大政党的枠組みが依然として維持 10 されていることは明らかである。 (3) 小選挙区制と大選挙区制の比較 以下の【図表 1-5-3】は、小選挙区制と大選挙区制の比較を表にまとめたものである。 15 【図表 1-5-3】長所と短所の比較 長 所 短 所 ① 多数党の出現または二大政党制とな ① 死票4が多く、多数党に有利になりすぎる 小選挙区制 り、安定政権が実現する ② 国民の意思が議会に公平に反映されない ② 選挙運動の費用が節約される ③ 新党の出現を妨げる可能性がある ③ 選挙人が候補者をよく知る機会が多い ④ ゲリマンダー5の危険性がもっとも高い ④ 大政党の候補者間の同士討ちを防げる ⑤ 選挙区の利害にとらわれる議員が増える ⑤ 投票や選挙結果は単純でわかりやすい ⑥ 情実のからむ不正選挙の誘惑が多い ① 死票が減り、小政党も代表を出せるし、 ① 小党分立による政局の不安定を招く傾向 大選挙区制 新人も出馬しやすい がある ② 国民の意思が議会に公平に反映される ② 選挙費用が多くかかる ③ 選挙区の狭い利害にとらわれない国民 ③ 議員と選挙民との関係が疎遠になる の代表にふさわしい人物を算出できる ④ 選挙干渉・情実・買収などの不正が減 少する ④ 大政党の候補者間で同士討ちになる恐れ がある ⑤ 補説選挙や再選挙を行いにくい この二つの制度の長所と短所をうまく取り入れたものが中選挙区制であるが、その制度 の問題点として、 ① 同一政党同士の争いが生じ、政策をめぐる選挙になりにくい ② 選挙費用が多くかかる 1 の小選挙区制では、2 位以下の候補に投じられた票は、議席には結び つかない死票となる。落選者の得票のこと 4小選挙区の定数が 5自分の政党に有利なように不自然な形で選挙区の境界を定めること 18 ③ 政党内に派閥を発生させる原因となる などが政治家側から指摘された。 こうした経緯を経て 1994 年の公職選挙法の改正により、1994 年から衆議院議員選挙で の中選挙区制を取りやめた。代わりに小選挙区比例代表並立制という、小選挙区制と比例 5 代表制の良いところを組み合わせた選挙制度を導入し始めた。 まず比例代表制とは、政党に対して投票を行い、得票数に比例させて各党に公平な議席 配分を行う方式のこと。これにより死票が減り、民意を議会に性格に反映できるので、最 も民主的な選挙とされている。 そして 1996 年の総選挙から小選挙区比例代表並立制が導入された。小選挙区比例代表並 10 立制とは、小選挙区制の短所を補うために比例代表制を導入し、有権者は 1 人 2 票をもち、 1 票は小選挙区の選挙の立候補者に、 もう 1 票は比例選挙区の党に投票する、 というものだ。 また、この制度では重複立候補制も採用している。小選挙区で立候補しながら、比例区 でも候補者になれるのだ。重複立候補者は、小選挙区で当選すれば比例代表者名簿から削 られ、また小選挙区での惜敗率6が名簿順に反映されるので、並立とは言いながらも小選挙 15 区制を重視していることがわかる。 (4) 自民党と民主党の支持基盤 2000 年の衆院選では、自民党と民主党の支持基盤が二分される現象が見られた。 【図表 1-5-4】より、民主党は 40 歳代以下と大都市、中都市では自民党を上回っていた。しかしこ 20 れが参院選ではあらゆる年代、都市で自民党が民主党を圧倒的に上回る結果となった。い わゆる小泉旋風といわれるもので、自民党の支持率が急上昇したのである。 【図表 1-5-4】自民党と民主党の比例選での集票構造 2000 年衆院選 2001 年参院選 2000 年衆院選 2001 年参院選 自民 民主 自民 民主 自民 民主 自民 民主 20 歳代 22.3 40.1 54.3 16.2 大都市7 27.5 31.6 48.4 13.1 30 歳代 21.8 40.3 43.5 24.1 中都市 29.6 33.1 48.5 16.9 40 歳代 26.5 34.3 46.4 16.9 小都市 34.1 33.1 55.3 14.2 50 歳代 34.9 30.4 54.6 15.2 町村 45.4 23.2 58.4 17.0 60 歳代 46.7 21.6 55.9 10.9 70 歳代以上 47.6 18.4 57.1 15.2 (%) (『日本の世論』より引用) 6惜敗率=落選者の得票数÷当選者の得票数 ここでいう大都市は政令指定都市と東京 23 区。中都市は人口 10 万人以上の市。小都市 は人口 10 万未満の市 7 19 そしてここで、自民党投票者の社会的属性について詳しく見てみたい。 【図表 1-5-5】自民党投票者の社会的属性(比例選) (%) 1996 年衆院選 5 10 15 1998 年参院選 2000 年衆院選 2001 年参院選 2003 年衆院選 20 歳代 28.5 16.3 22.3 54.3 43.0 30 歳代 32.6 19.9 21.8 43.5 34.6 40 歳代 39.9 22.4 26.5 46.4 33.6 50 歳代 41.4 28.3 34.9 54.6 43.3 60 歳代 50.3 37.3 46.7 55.9 49.7 70 歳以上 59.2 40.5 47.6 57.1 56.4 大都市 42.7 16.6 27.5 48.4 41.0 中都市 39.1 25.6 29.6 48.5 40.5 小都市 42.9 28.0 34.1 55.3 47.6 町村 45.5 39.3 45.4 58.4 48.2 自営業者 53.9 42.5 46.5 57.9 52.3 給与所得者 34.0 20.9 28.5 49.0 36.7 無職者 46.0 28.7 34.7 53.4 47.5 ( 『二大政党時代のあけぼの』より引用) まず年代別に見てみると、どの年の選挙も若い人たちよりも 50 代以上の人々が自民党に 20 投票していることがわかる。また、2000 年の衆議院選挙では 70 歳以上で 48%となってい たが、20 代では 20%台しか投票していない。2000 年衆院選までは、高齢層が自民党を支 持していたのである。しかし 2001 年参院選ではすべての年代で投票率が上がっており、特 に 20 代と 50 代以上は 50%を超えている。これは先にも述べたが「小泉旋風」 「小泉人気」 というものが大きな原因となっていると考えられる。小泉首相のやり方が、前々から自民 25 党を支持していた 50 代以上の人々と、特に政治に興味のなかった 20 代の人々の関心を集 めたといっても過言ではないといえるだろう。 次に都市規模別の投票率を見てみる。都市規模別に見ると、大都市と農村地区の投票率 に大きな差があることが見て取れる。特に 1998 年参院選では大都市約 17%、町村約 40% とその差は歴然である。これは、1996 年に民主党やその他の多くの政党が新しく誕生した 30 ためと考えられる。 (1996 年から 1998 年の間の数値は、年齢別・都市規模別・職業別どれ を見てみても下がっている。 )その後 2001 年からは、やはり小泉効果もあってか、これほ ど大きな乖離は見られないが、地方→自民党、都市部→民主党、という傾向にあるといえ る。以上のことから、大都市部の選挙区には、民主党支持者が多い、ということを裏付け ているといえるだろう。 35 最後に職業別に見てみると、一貫して自営業者の投票率が高いことがわかる。逆に、ど 20 の年代を取ってみても、給与所得者(サラリーマン)の投票率は低い。また、2000 年衆院 選の東京の選挙区では、自民党の閣僚経験者などが、民主党候補に相次いで敗れた、とい う結果がある。つまり都市部のサラリーマンには、民主党支持者が多いということになる。 何度も述べるが 2001 年には小泉効果のおかげで、どの職業も順序は変わらずに数値は上が 5 っている。 以上のことから、 自民党 民主党 小規模の都市(農村含む) 大都市 高齢層 若年層 自営業者 サラリーマン の支持が高い傾向にあり、 「都市」と「農村」で考え方の違いが生じてきていることがわ かる。 10 しかし 2001 年の参院選では、圧倒的な小泉人気のもと、年代、都市規模、職業別での自 民党への投票率の格差が、 それ以前と比べて大幅に減少した。 さらに 2003 年の衆院選では、 2000 年衆院選と比較して大都市と町村の差が縮小していることがわかる。 21 第2章 第1節 経済政策 中位投票者定理 (1) 中位投票者定理とは 5 2003 年の衆院選で、2000 年衆院選と比較して大都市と町村の差が縮小している原因とし て、中位投票者定理、というものが挙げられる。 ダウンズによれば、中位投票者定理とは選択対象がひとつで、すべての投票者の選好が 単峰型であり、どの投票者も二つの選択肢について自由に提案できるならば、多数決投票 によって中位投票者の効用最大化点が安定的、支配的な社会的決定として選択される、と 10 いうものである。 また、中位投票者とは、全投票者について各投票者の最適点を小さいほうから大きいほ うに並べたときの中位数となる投票者のことである。 以下の【図表 2-1-1】のように両党がそれぞれ異なった政策を打ち出していれば、有権者 は自分が良いと思う方を支持し、投票する。このとき、両党の政策の違いは明確なので、 15 有権者は選択がしやすい。これが、二大政党制の理想的な形であると考えられる。 【図表 2-1-1】 f(x) 人数 0 25 50 A 政党→ 75 ←B 政党 20 22 100 争点 しかし、政策によっては以下の【図表 2-1-2】のようになってしまう場合もある。これが 中位投票者定理であり、私たちは、これが大都市と町村の差が縮小している原因であると 考えた。 【図表 2-1-2】中位投票者定理 f(x) 人数 中位点 5 0 25 50 A 政党→ 75 100 ←B 政党 争点 ①A 政党は政権を握るために、B 政党を支持している人の票も欲しい ②そのために、B 政党支持者の票を得られるような政策に、自党の政策を少し変える 10 ③すると B 政党も同じように、政権を握るために A 政党支持者寄りの政策に変化させる ④同じことの繰り返し ↓ ⑤結局はどちらの党も、両方の支持を得るために、似通った政策を打ち出すようになる ということである。 【図表 2-1-2】で見ると、A 政党は始め 0 の位置、B 政党は 100 の位 15 置にいたのに、互いの動きに合わせてだんだん場所を動かし、結局は 50 の位置に落ち着く のだ。また、その 50 の位置を中位点と呼ぶ。 50 になることで、有権者には経済政策の選択肢がなくなってしまうのである。 こうして大都市と町村の差が縮小することにより、自民党・民主党の経済政策はどれも 似通ったものになってしまう。強力な二大政党が似たような政策しか打ち出さないように 20 なると、有権者には選択肢がなくなってしまう。かといってほかの政党が別の政策を打ち 出したとしても、この二大の政党にはかなわないだろう。 23 第2節 自民党と民主党の政策 (1) 自民党と民主党の政策 現在、この両党が出している政策を見てみると、基本「小さな政府」を主張するような 地方に中央の権限を委譲するというものや、官から民への移行が中心である。この両党が 5 二大政党を組んだ場合、日本の経済政策をはじめとする政府政策案は基本争うところがあ まりなく、ただ両党の足を引っ張るような政策に関係ない方面での討論のみになり、それ が次第に政策に悪影響を与える恐れがあるかもしれない。現在の流れからすると、二大政 党制になる可能性は十分にあり、前回に千葉補選での民主党の勝利はかなり小沢民主への 追い風になったのは間違いない。 10 政党同士が互いに似通った政策を持ち、二大政党制へと変移していったのであれば、二 つの政党が異なる主張ないしはマニフェストを唱えない限り、集票行動のみに専念し始め てしまい、有権者達にとって都合の良い政策を優先して行うようになることが予想される。 そのため、健全な政策、つまり、日本国の経済成長に関する政策は二の次とされ、社会保 障や、教育などより有権者の興味が強い事項にのみ優先的に競技されるようになるのでは 15 なかろうか? →まず、優先すべき経済政策を明示しなくてはならない。 それを行うと何故有権者から抵抗を受けるのか? →特に地方において大きな政治地盤をもつ政党は抵抗を避けなければならない。 20 (2) 具体的な政策の違い ① 郵政改革 自民党 1. 340 兆円の資金の流れを 「官から民へ」 流す道を拓き、経済活性化に寄与。 2. 国際物流への進出など新しいサービスを国民に提供。 3. 38 万人の公務員を民間人とする行政改革。 「小さな政府」 を実現。 4. 「見えない国民負担」 から法人税・固定資産税の納付、株式売却益などにより、国、地 方の財政再建に寄与。 5. 過疎地の郵便局がなくなってしまうのではないか、という不安は解消 →あまねく全国において利用されることを旨として郵便局を設置。 過疎地の郵便局は なくさないなど、国民の利便性に十分配慮。 6. 貯金、保険サービスが打ち切られるのではないか、という不安は解消 →郵便局ネットワークの活用の義務付けや基金の設置により、貯金、保険サービスの 提供を確保。 7. 3 年毎に 「経営形態のあり方を含む全ての事象」 につき民営化委員会で見直しを行うこ ととしており、国民に不便を生じさせる場合には、適切に対応。 24 民主党 1. 郵政改革の目的は、民間部門に公的部門に流す役割を最低限に抑え、財政規律を高め、 財政健全化に寄与することである。 2. 郵政事業のうち、郵政事業は万国郵便条約に明記された基本的公共サービスであり、国 が責任を持って国民にユニバーサルサービスとして提供する義務がある。但し、民間事 業者の参入を妨げるものではない。 3. 郵政事業のうち、金融事業は民業の補完としてスタートしたものであり、現在もその役 割は変わっていない。 4. 郵政事業の運営に過度の財政負担や非効率性が許されるものではない。そうした視点か ら、郵政事業の運営状況や組織形態については、不断の見直しが必要と考える。現時点 においては、公社化に伴う経営改革の成果を見極める時期にあると認識している。 郵政の 340 兆円の資金を民間へ流すことで「官から民へ」流す道を作り、経済活性化に 寄与するものである。また 38 万人の公務員を民間人化し、公務員にかかる資金をカット。 5 民営化による柔軟な戦略(サービス、利用時間)を展開。郵貯、簡保を個別化、また民営 化によって法人税の収入も期待できるなどが自民党の案である。対する民主党も郵政民営 化なのだが、自民党と違う点は民間に流す資金を極力抑えるという点である。ようするに 民主党は力の大きなままで民営化するのではなく、力を弱めた上で民営化を行うという案 を出している。両党とも最終的には民営化と唱えている。 10 ② 道路公団民営化 自民党 1. 必要な高速道路の早期整備(2020 年頃を目途) →高速道路の必要性を徹底チェック。整備計画区間のうち未共用区間(約 2,000 ㎞) の事業方法見直し。 →有料方式・新直轄方式の両輪で着実整備 →大胆なコスト削減(6.5 兆円)により、有料方式の総建設費を半分に 2. 45 年以内に債務返済 →受益者負担を基本とする通行料金で返済 →45 年以内の返済を法定(その後は無料化) 3. 弾力料金の設定で、使いやすい高速道路に →高速国道は、平均 1 割以上の料金引き下げ →民営化により、地域の実情に応じた弾力料金 25 民主党 1. 道路公団廃止と高速道路原則無料化 多額の投資をしながら有効活用されていない高速道路を生かすことで、地方を活性化 するとともに、流通コストの削減を図るために、高速道路は、3 年以内に、一部大都市 を除き無料とする。日本道路公団・本州四国連絡橋公団は廃止。無料化によってコスト が削減するだけでなく、出入り口を大幅に増設できることから、地方の高速道路が暮ら しに生かせる道路としてよみがえる。高速道路に係る債務返済と道路の維持管理には、 年間 2 兆円が必要だが、現在、国と地方を合わせて 9 兆円に達している道路予算の一部 振り替えと、渋滞・環境対策の観点から例外的に徴収する大都市部の通行料でまかなう。 2. 道路特定財源廃止・自動車関係諸税軽減・環境税創設 自動車にかかる税金が、道路建設を優先するために高く設定されてきたことを踏まえ て、道路特定財源を一般財源化するとともに、税金の大幅引き下げを行う。平成 17 年 度中に、道路特定財源の廃止法案と、自動車重量税半減・自動車取得税廃止の税制改革 法案を国会提出して、その成立をめざす。同時に、将来の世代に良好な地球環境を引き 継ぎ、また京都議定書の議長国としての国際的責任を果たすため、わが国産業競争力の 維持に配慮した措置を講じつつ、実効ある温暖化対策として二酸化炭素の発生源に、環 境負荷の程度に応じて炭素含有量 1 トンあたり 3000 円程度の税金をかける「環境税」を 創設。 両党の政策を見てみると、自民党は具体的なビジョン(債務返済期間、無料化までの期 間)が出来ているが、民主党を見てみると無料化というのは自民党と同じだが、債務返済 期間が述べられていない。それの返済手段として大都市部から徴収するというところに都 5 市と地方の差別化が出てくる。さらに民主党は具体的な削減部分が明記されておらず、野 党としての役割を果たしているのか疑問に感じる。しかし、両党とも無料化を唱えている が、実際は自民党の先延ばしや、民主党の中心部からの徴収など本格化には時間がかかる ことがわかる。 26 ③ 格差問題 自民党 1. 社会保障をセーフティネットとして持続可能なものとして改革。その上で高等教育機 関でも社会人教育拡大。勝ち組、負け組みを固定しない再チャレンジ社会の実現 民主党 1. 「子ども手当て」 「親手当て」の創設。 2. 非正規から正規への展開促進。 3. 内政面では自由な競争は社会の安定を保障するセーフティネットの確立が大前提であ り、雇用、社会保障、食料などの面で「日本型セーフティネット」を構築。 まず郵政民営化と道路公団民営化の自民・民主の政策の違いを見てきたが、細かいとこ 5 ろを比べると自民党は具体的な数値などが出ているのに対し、民主党は悪い言い方をすれ ば、選挙の票集めのために表向きは国民に対し好印象だが、中を見てみると漠然とした内 容(具体的な数値が出ていない)となっている。しかし、両党とも最終的な結果(郵政民 営化、高速道路無料化)としては同じになっていると言える。 次に格差問題に対する政策についてである。自民党は小泉元総理の元では経済発展に力 10 を尽くしたが、それで生まれた格差問題については対策を行ってこなかったのと、安倍新 総裁になって間もないので、あまり詳しくは述べていないが、どちらも主にセーフティネ ットの構築を軸に政策案を述べており、所得格差に焦点を当てている。民主党は小泉政権 下で格差について論戦を行っていたのもあり、自民党に比べ、教育、雇用と少し細かく案 を述べている。また、どちらも主に雇用についての政策案を述べており、所得格差に焦点 15 を当てていることがわかる。 これらの政策から自民党と民主党による中位投票者定理が成り立つと言える。 27 第3節 無党派層 無党派層とは、支持する政党を特に持っていない有権者のことを指し、最近の選挙では、 こうした人が有権者の約半数を占めるようになっている。無党派層の動き次第では、各政 5 党の支持率も変化し、二大政党制にも大きな変化をもたらすと考えられる。また、政治不 信の高まりとともに、選挙の度にこの無党派層の支持をいかに得られるかを考えて活動す る政党や候補者が多いことも事実である。 (1) 支持政党の推移 10 ここで、支持政党の推移をみてみる。読売新聞世論調査によると、近年、 「支持政党がな い」と答える人が過半数を上回っていることがわかる。 【図表 2-3-1】支持政党の推移 支持政党の推移 (%) 自民 民主 社会党 支持政党なし 60 50 40 30 20 10 0 1955 1993 1994 1995 1996 1997 1998 15 1999 2000 2001 2002 2003 ( 『二大政党時代のあけぼの』より作成) グラフを見てわかるとおり、1993 年には無党派層が自民党を抜いて「第一党」となって いる。この年は宮沢内閣の不信任案が成立し、自民党が分裂し、新党がたくさん発足され た。これらの影響を受け行き場を失った有権者が、無党派層へ流れたと考えられる。その 後も多少の変動はあるものの、有権者の過半数近くが無党派層であるということがわかる。 20 これらの無党派の人々が投票に行き、いずれかの党に投票したとすると、各党にはそれ ぞれこれまで以上の票が入れられて、一党独占になるようなことは起こらないと考えられ る。 28 そして自民・民主のどちらかに無党派の人が票を入れたとすると、日本の二大政党制は うまく機能することになるだろう。 (2) 年代別比率 5 【図表 2-3-2】無党派層の年代別比率 無党派層の年代別比率 1983年1月 2003年1月 70歳代以上 60歳代 50歳代 40歳代 30歳代 20歳代 0 10 20 30 40 50 60 70 (%) 80 ( 『二大政党時代のあけぼの』より作成) グラフより、若ければ若いほど無党派であることがわかる。2003 年の 20 歳代は、74% 10 もの人々が支持する政党がないと答えている。若い人々の政治に対する関心が低いといえ るだろう。また、70 歳代以上でも 40%近くの人が無党派であることも読み取れる。1983 年に比べて 2003 年の比率はどの年代でもかなり増加していて、この無党派層の増加という のは、特定の年代に限ったものではないといえる。 しかし特に注目すべきはやはり 20 代・30 代の比率である。私たちは、若い世代が無党派 15 になる原因は、政治にもともと関心がない、というものの方が当てはまるのではないかと 考えた。投票に行かなかったり、自分が選挙に行って投票しなくても、大して政治に影響 を与えないと考える若者が多いとも考えられる。 そこで私たちは二大政党制が本格化すると、中位投票者定理により、経済政策は似通っ たものになると考えた。ここで、私たちの今回の論題は完結する。 20 そして有権者には経済政策の選択肢がなくなり、その似通った政策の中でどちらを選ぶ べきかを判断するためには、情報の提供・選挙方法の改善が必要であると考えた。 そこで、情報の提供と電子投票の導入を提案する。 29 第3章 政策提言 第 2 章より、無党派層は年齢が若いほどその割合は大きくなっていることがわかった。 そこで私たちは、無党派の若い人たちを対象とした、情報の提供と選挙方法の簡便化を 5 提案する。 私たちは無党派の若い人に対して必要なのは、情報をわかりやすく伝えることと、投票 を今以上に簡単にできるようにする、という 2 点であると考えた。 先の結果から、無党派層が正確な情報を持ち、投票に行って投票率が上がれば二大政党 制はより本格化し、経済政策にも影響を与えるのではないかと考えた。 10 第1節 情報の提供 (1) 携帯電話利用率 各党がどのような政策を打ち出しているのかを国民に知ってもらうために、現在利用率 の高い携帯電話のメール機能を使う。 15 【図表 3-1-1】携帯電話利用率 携帯電話利用率(平成17年) 100.0% 90.0% 80.0% 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 20∼29歳 30∼39歳 40∼49歳 50∼59歳 60∼64歳 (平成 17 年総務省通信利用動向調査より作成) 携帯電話の利用率は、平成 17 年の時点で、平均して 86%という高い数値にある。とくに 20 無党派層の多い 20~40 代の利用率は 9 割以上を示している。また、60 代でも約 7 割が携帯 電話を利用していることからテレビ、新聞、ダイレクトメールなどより有効と言える。 30 (2) ポリティカル・メッセージ 現在、Docomo・au・Softbank の大手携帯電話事業者 3 社は、それぞれメッセージフリ ー、au ホットインフォ、S!CAST!という、受信料無料でメールで広告を配信するサービス を行っている。これは対応機種に加入すると自動登録され、月に 1,2 回程度、スポンサー企 5 業からさまざまな情報が配信されるものである。この広告はプッシュ型広告と呼ばれ、レ スポンスが早い、CM の再想起などメディアミックスで相乗効果を生むなどの効果がある。 そこですでに導入されているこのサービスを利用し、この 3 社に政策を箇条書きにした ものを配信するよう依頼する、 「ポリティカル・メッセージ」の導入を提案する。選挙の前 に、各党の政策が書かれたメールが配信される、という仕組みを採用する。 10 【図表 3-2-1】ポリティカル・メッセージの例 ○△党 政策 消費税の減税 15 ○×公団民営化 □◆の廃止 20 ポリティカル・メッセージ ・自動登録される ・受信料無料 ・専用ボックスに配信 ・地域・性別・年代別に配信指定が可能 25 ・時間指定が可能 以上のような仕組みを採用する。自動登録されることで、利用者自身が登録する手間が 省ける。受信料が無料なので、大きな負担にはならない。また、ポリティカル・メッセー ジ専用ボックスに配信されるので、安心して受信・開封ができる。さらに地域・性別・年 代別に配信が可能なので、有権者だけでなく、次期有権者の 10 代後半などにも配信し、興 30 味を持ってもらえる。時間指定も可能なので、利用者の年代や性別を考慮しながら配信が できる。 これを利用すれば、政府はこのような政策をやろうとしている、というのが少しは伝わ り、今まで以上に情報がわかりやすく提供でき、無党派の若い人たちにも関心を持っても らえるのではないかと考えた。政治について考えるきっかけになることを目的とする。 31 (3) 合理的無知 ダウンズは、 「合理的無知」という理論を唱えた。 合理的無知とは、 「追加的な情報を獲得することの便益と費用を較量して費用のほうが大 きい場合には、個人はあえて情報を獲得せず不完全な情報に甘んじることが合理的となる 5 こと」8である。 この理論から考えると、情報を与えても、そのメールを送られた個人が自分に有益でな いと判断したら合理的無知を決めるのではないか、という可能性がある。 しかし、私たちは「メールが送られてきた」 、ということ自体が重要であると考えた。メ ールが送られてから、読むなり削除するなりは個人の自由である。たとえ合理的無知を決 10 め込んでも、そのメールが送られてきたことは事実であり、送られてきた側は一度は気に かけることとなる。あくまでも若い人たちに政治を身近に思ってもらうためのひとつの手 段として、ポリティカル・メッセージを採用しようと考えているので、合理的無知の問題 は解決可能である。 15 (4) 政治的意思決定制度 合理的無知により、現在の政治は、政治的意思決定制度に依存しすぎているといえる。 日本の意思決定制度の問題点 ① 政府内手続きや、自民党の党内手続きは個々の関係官庁や関係議員の合意が必要で あり、関係者の誰かが妥協しない限り、意思決定ができない仕組みである。 20 ② こうした関係者の合意は、官僚同士の協議や、官僚による政治家への事前説明など の一部の関係者だけの閉鎖的な会合である。 ③ 逆に国会という公の場での国民にも開かれた議論は形式的になっている。 ④ この結果、関係者の全員一致の合意をとる過程での議論が国民に知らされない。 このように、合理的無知を国民が決め込み、政治的意思決定制度に依存しすぎると、国 25 民は何も詳しく知らないままにさまざまな重要事項が決定してしまう。 現在の日本の政治は、一部の政治家や官僚が閉鎖的に重要事項を決定する傾向にある。 政治的意思決定に依存する状況は、実際に決定した政策の受け手である国民にとって、そ の政策の決定過程がわからないので問題であり、この状況を脱する必要がある。政治的意 思決定の範囲を狭めるために小さな政府の実現を目指し、自民・民主両党とも規制緩和や 30 民営化などの取り組みを重要視している。 そして、両党とも似通った政策を唱えていることから、私たちはやはりきちんとした情 報をわかりやすく提供することが重要であると考えた。私たちの提案するポリティカル・ メッセージは、携帯電話という今や必要不可欠な媒体を利用しており、私たちの目的とす る政治について考えるきっかけを携帯電話利用率の高い若い人たちに与える、という目的 35 は達成され、有効である。 8 加藤 寛(2005) 32 第2節 電子投票の導入 (1) 電子投票の導入 電子投票とは、電子機器による投票のことである。狭義の電子投票は、タッチパネルや 押しボタンなどを用いて投票行為そのものを電子化することをいう。広義の電子投票は、 5 マークシートやパンチカードなどによる投票や、自宅からのインターネット投票を含む場 合がある。ここでは、電子機器による投票のことと定義する。 日本では、現在「自書式投票」と呼ばれる制度を採用している。 自書式投票とは、有権者自身が投票用紙に、候補者の氏名、もしくは政党名を書いて投 票する方式のことである。 10 しかし、この自書式投票にはさまざまな問題点があるとされている。ここで、自書式と 電子等標識の比較をしてみる。 【図表 3-3-1】自書式と電子投票式の比較 <自書式> 本人確認 <電子投票式> 投票所入場はがきで選挙人名 バーコードつき投票所入場はがき 簿抄本と書面照合をして、投票 の場合は、選挙名簿データと照合する 用紙の受領を認める と同時に、IC 付き投票カードを貸与す る 投票用紙 ○必要 ○不要 a.印刷の必要 a.投票用紙分の経費が全額カットさ b. 棄権者分も用意(印刷)す れる b.回収したカードは、カード発行機 るので、用紙と経費の無駄 で初期化して、使いまわしできる 一人一票 主義 ○不正確 ○正確 投票用紙を投票者に手渡す係 投票カードと投票端末の両方で電 員の作業が頼り 子的に二重制御 a.投票用紙を間違えて手交(無 効票) a.投票画面が自動的に当日選挙の全 種類の投票を順次表示。一回しか投票 b.持ち出して使える(不正投 できない b.持ち出してもほかの投票所では使 票) c.投票用紙の偽造が可能(不正 用不可能 c.偽造不可能 投票) 投票手順 ○煩雑 ○簡素化 a.実施される投票数と同じ回 a.有権者にとってわかりやすくなる 数、 「投票用紙受領→票用紙記載 b.1 枚の投票カードを入れた 1 台の 33 →投票箱」を繰り返す 電子投票端末で、投票資格のあるすべ b.投票用紙交付係員が、実施す ての選挙を投票できる る投票の種類数と同じ組数を必 c.複数の選挙用紙交付係員は不要 要とする d.簡単に短時間で投票を終了 c.面倒で時間がかかるので、高 齢者や身体障害者とっては大き な負担となる 投票方法 ○有権者自身が書くので、 ○画面の指示に従って候補者・政党 a.誤字、脱字(疑問票→無効票) 名を押す b.他事記載(疑問票→無効票) c.類似氏名 a.自書式のデメリット a.b.c.による 疑問票、無効票、案分票がなくなる d.代理投票 が生じる可能性がある 投票の秘 密 ○守れない ○完全に確立 a.筆跡から投票者の特定が可 a.投票データをランダムに記録する 能 投票箱 ので、投票者の特定は不可能 ○必要 ○不要 a.投票の種類と同じ数量を用 a.経費削減可能 b.集計センターへ正副 2 枚の記録媒 意する必要がある b.開票所への輸送作業の必要 開票 体を送致 ○有り ○なし この制度最大の問題点 a.開票所不要 a.開票だけで投票管理事務要 b.開票要員不要 員の約 4 割を占める c.経費削減 b.開票作業に時間がかかる c.開票終了までの時間が長く、 時間外手当等が増加 d.開票事務従事者の健康管理 が懸念される 集計 ○不正確 ○正確 a.開票結果報告の連絡ミスが a.投票段階でデータ化されている b.入力作業の必要がない→ミスが生 ある b.入力ミスが生じる じない c.開票結果報告受理、集計作業 要員が必要 (電子投票普及協業組合 HP より引用) 34 電子投票は、こうしたメリットや、情報化社会の進展、有権者増などを背景に、最近こ の投票方式を導入する国が増加する傾向にある。2005 年 5 月現在、世界で電子投票を採用 している国は 42 カ国にも及び、導入準備を進めている国も 32 カ国ある。特に、 オランダ・ベルギー・ブラジル・インド・エストニアの 5 カ国では、全国普及している。 5 10 ●オランダ オランダでは、選挙制度が比例代表制であり、開票作業が複雑だったため、電子投票が 採用された。ボタン投票式を採用している。画面上に政党および候補者一覧が表示されて いて、投票者が候補者を選択して、ボタンを押し、確認または取り消しのボタンを押し、 確定する。そしてすべての投票者の投票終了後、機器から投票結果を紙に出力し、投票結 15 果を保存したフロッピーディスクと合わせて開票所に集め、電子的に集計する。ボタン投 票式なので、電子投票機器が投票数を直接集計するので、個々の投票の内容は保存されな い。そのため、機械に対する高い信頼性が求められるとされている。 ●ベルギー 20 ベルギーでは、投票が国民の義務になっている。そして 1994 年から、磁気カードとタッ チペンを用いた投票が行われるようになった。投票者は投票所に到着すると、磁気カード を手渡され、投票ブースへと移動する。投票端末の画面の指示に従い、タッチペンを利用 して候補者の選択を行う。投票終了後、投票内容が保存された磁気カードを投票管理者に 手渡し、電子投票箱で磁気カードの内容を読み取る。 25 こうした方法で電子投票が採用されている。また、ベルギーは公用語がフランス語とオ ランダ語であるが、投票端末は両方の言語に対応しているという。 ●ブラジル ブラジルでは、テンキー方式の端末を採用している。投票者が投票所の係員に選挙人登 30 録証または身分証明書を提示し、投票ブースへ移動する。選挙の種類ごとに、候補者の顔 写真と候補者番号が画面に表示され、選挙者にテンキーで選択させる。各候補者には候補 者番号が割り当てられているので、選挙期間中、各陣営は候補者名前だけではなく、番号 をアピールすることとなる。 35 ●インド インドではコントロールユニットと投票ユニットがケーブルでつながれている機械を利 35 用する。本人確認の後、投票ユニットで投票を済ますと、ケーブルでつながれた機械で投 票済みが確認され、退場する、というものである。 インドには約 6 億 6 千万人という膨大な数の有権者がいる。 そして 2004 年の総選挙では、 全国各地の投票所で約 73 万台のコンピュータ式投票機を利用した電子選挙に、 約 3 億 7000 5 万人が投票した。これほど大規模な電子投票はほかの世界の国々でもみられない。 これまでインドでは、投票用紙に拇印を押す方式で投票が行われてきた。そかし、これ では開票になんと 3 日を費やすこととなり、とても非効率であった。電子投票により開票 は 24 時間に短縮されたが、最大の効果は不正行為への対処であるとされている。 10 ●エストニア エストニアでは 2002 年以来、15 歳以上の全国民に電子 ID カードの携帯を義務付けてい る。このカードは通常、国民が身分を証明する手段として使用することを意図して作られ ている。そして、この ID カードを利用し、全国規模のネット投票を実施した。 オンラインで投票するには、まず所有するコンピュータに接続されているリーダーに ID 15 カードを差し込み、投票用ウェブサイトにログオンする。認証されたら、暗号化システム を通じて投票し、さらにデジタル署名を行って投票内容を確認してから投票する、という 方式をとっている。 電子投票を導入しているほかの 37 カ国は、主に国政選挙に採用している。ヨーロッパ各 20 国、イギリス・フランス・イタリア・スイスはもちろん、アメリカ・カナダ・オーストラ リアなど主要先進国ではほとんどの国が採用し始めている。アジアでも韓国・フィリピン・ マレーシアなどの国々で採用されている。 そんな中、原始的な自書式を採用しているのは日本だけである。 25 日本でも 2001 年の国会で、電子投票の導入を定めた公職選挙法特例法(電子投票法)が 成立、導入のための条例を定めた地方自治体で、地方議会議員選挙や、地方首長選挙の際 に電子投票が可能になった。しかしそれはまだごく一部の地域に限られており、世界的に 見てみると、日本は遅れているといえる。 30 電子投票を採用した例を見てみる。 岡山県新見市 2002 年 6 月 23 日に行われた岡山県新見市の市長選・市議選で、日本で初めて電子投票 が実施された。 35 新見市では、電子投票の実施が決まった後に、市内各地で投票端末を利用した模擬投票 を実施した。その効果は大きく、高齢者からは「当日までに何度か練習したので何も困る 36 ことなく投票できた」という声が多かったという。 投票当日、投票カードの挿入口がわからないとか、カードを逆向きに挿入するなど、戸 惑う投票者もいたが、これは高齢者に少し見られただけで、全体的には一人平均 30 秒程度 で投票が済んだ。また、障害者に配慮したバリアフリー機能(車椅子での投票に配慮した 5 画面設計や、視覚障害者への音声ガイダンス機能など)が備えられ、確実に民意が反映さ れる効果があった。 当日のトラブルは人為的ミス 2 件、機械トラブル 2 件が起こったが、投票されたデータ に異常はなく、大きな障害とはならなかった。 そして自書式最大の問題点とされた開票だが、新見市の電子投票では不正が行われない 10 ように配置された監視担当者を背にしながら、コンピュータで次々と読み取り、わずか 25 分で終了した。大きなトラブルもなく、効果は大きいことが証明された。 しかし不在者投票はこれまでと同じ自書式なので、この開票作業に 2 時間以上かかった という事実もある。不在者投票に関しては課題が残ったが、これまでのすべて自書式より は効果があるといってよいだろう。 15 このように電子投票は成果をあげていることがわかる。この方式が全国展開されれば、 今よりも「選挙」というものが身近に感じられ、無党派層や 20 代・30 代の若い人も投票に 行くようになるだろう。 その後 2004 年 2 月までに 8 市町村の首長・市村議選で実施された。現時点では法律で地 20 方公共団体の市議選や地方議会議員選挙でしか電子投票を採用してはならない、と定めら れているので、今後国レベルで採用されるようになれば、状況は変わってくると考えられ る。 しかし、いざ電子式投票の国レベルでの利用を考えると、公職選挙法によって投票用紙 に自書することが定められているため、電子投票システムを導入するには法改正が必要で 25 ある。 <地方自治体における電子式投票> (ア) 平成14年2月に「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的 記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律」が施行され、1 0の地方公共団体において合計12回にわたり実施。 30 (イ) 総務省は、地方自治体が電子投票を導入する際の運用マニュアル「電子投票導入の 手引き」を公表。 →地方自治体における電子投票を活性化させ、いずれ全国レベルの投票でも電子式投票を 導入できる環境を整備することができれば、選挙はより身近なものとなり、無党派層の若 い人たちも投票に行くだろう。 35 37 第4章 まとめ これまで日本は自民党の一党優位体制が続いていた。しかし、ここ数年で民主党が議席 数を増やしてきたことにより、自民党に対抗できるような党に近づきつつあり、二大政党 5 制到来を予感させている。 これから二大政党制が本格化すると、各党の経済政策は似通ったものになってしまい、 有権者は選択肢がなくなってしまう。するとただでさえ政治に関心のない無党派の人々に とっては、どちらを選んでも変わらない、という意識が働き、適当に投票する可能性も避 10 けられない。この無党派層の動き次第では、日本の政治が大きく変化することも考えられ るので、無党派層の政治への関心の向上が課題であるといえる。また、小政党にとって二 大政党制は今まで以上に自分たちの意見が通らない環境を作り出す要因となる。それに伴 い、選挙では死票が増えると言える。小政党がこれからイギリスのように他の野党と連立 を組んだ影の内閣を組織していかなければ彼らの意見は政治に反映しにくいであろう。 15 われわれの提言する電子投票は、無党派の人々や、若い人々が今より選挙に親近感を持 ち、投票に行くようになると予想される。また、世界中で日本だけがこの投票様式を採用 していないというのも疑問である。さらに岡山県の例を見てみると、申請から採用までに 2 年弱しかかかっていないことも考慮すると、近い将来全国的に導入が可能になるだろう。 20 日本が二大政党制に向かえば、包括政党同士の戦いになって、政策の違いがますます曖 昧になる。過半数を取る戦略として自民党も民主党も票が逃げないように、有権者の意見 が大きく分かれている問題について立場を明らかにせず、ほとんど誰でも賛成できる最低 公約数を主張するのは二大政党制の包括政党の当然の合理的な行動であるといえる。いわ 25 ゆる中道であり、違いはニュアンスだけで、よほど問題がない限り違いが出てこないだろ う。 38 参考文献 <BOOK> 飯坂良明(2003) 『シグマベスト 理解しやすい政治・経済』文英堂 5 岡田憲治(2002) 『図解 政治制度のしくみ』ナツメ社 加藤秀治郎・橋本五郎(1995) 『図説 日本はこうなっている』PHP 研究所 加藤寛(2005) 『入門公共選択 政治の経済学』勁草書房 君塚直隆(1998) 『イギリス二大政党への道』有斐閣 久保文明(2005) 『アメリカの政治』弘文堂 10 小林良彰(1990) 『公共選択』東京大学出版会 土居丈朗(2000) 『地方財政の政治経済学』東洋経済新報社 中村研一・吉川洋・中野勝郎ほか(2005) 『高等学校 現代政治・経済』清水書院 三宅一郎・西澤由隆・河野勝(2001) 『55 年体制下の政治と経済 時事世論調査データの分析』木鐸社 15 森嶋通夫(1989) 『サッチャー時代のイギリス―その政治、経済、教育―』岩波新書 読売新聞社世論調査部(2002) 『日本の世論』弘文堂 読売新聞社世論調査部(2004) 『二大政党時代のあけぼの』木鐸社 Downs, A.(1957) An Economic Theory of Democracy, Haper & Row, (古田精司監訳(1980) 『民主主義の経済理論』成分堂) 20 <URL> au HP http://www.au.kddi.com/(2006/10/02) ICR 情報通信総合研究所 HP http://www.icr.co.jp/(2006/08/19) 外務省 HP http://www.mofa.go.jp/(2006/08/22) 25 自民党 HP http://www.jimin.jp/(2006/08/16) C net Japan HP http://japan.cnet.com/(2006/08/20) 総務省 HP www.soumu.go.jp(2006/08/19) Softbank HP http://mb.softbank.jp/mb/(2006/10/02) 電子投票普及協業組合 HP http://www.evs-j.com/(2006/08/22) 30 東京工業大学 HP http://www.valdes.titech.ac.jp/(2006/08/21) Docomo HP http://www.nttdocomo.co.jp/(2006/10/02) D2 COMMUNICATIONS HP http://www.d2c.co.jp/(2006/10/02) 日本ユニシス株式会社 HP http://www.unisys.co.jp/(2006/08/16) 松下政経塾 http://www.mskj.or.jp/(2006/08/22) 35 民主党 HP http://www.dpj.or.jp/(2006/08/16) 39 RIET 経済産業研究所 http://www.rieti.go.jp/(2006/08/16) BBCnews http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/vote_2005/constituencies/default.stm (2006/08/18) 5 Survey Research Center, Univ. of Michigan http://www.isr.umich.edu/src/ (2006/08/18) U.S Bureau of Census http://www.census.gov/(2006/08/20) Survey USA 10 http://www.surveyusa.com/home.html(2006/08/19) <論文> 奥野正寛(2006) 「先送り現象とわが国の社会的意思決定制度」P.21 40
© Copyright 2024 Paperzz