漢方医学講座 - 香川大学医学部

漢方医学講座
~漢方を理解する~
さぬき市民病院
さぬき市
病院 内科
科
小路哲生
目次
03-15
03
15
16-25
26-36
37-40
41-47
48-52
53-80
81-110
111-125
126-128
129-153
154-172
154
172
173-188
生薬、漢方薬について
生薬
漢方薬について
漢方医学の歴史
漢方医学の考え方漢方の診断:四診
舌診
脈診
腹診
気血水
八綱弁証 陰陽虚実表裏寒熱
五臓
六病位
漢方を学んでいった過程
臨床で漢方を生かす
漢方を科学する など
漢方、漢方薬、生薬
漢方、漢方薬、生薬・・・わかりますか
わかりますか
漢方薬とは
• 生薬
生薬:自然界から薬として発見されている植物、動物、鉱物を使いや
自然界から薬として発見されている植物 動物 鉱物を使いや
すいように乾燥、粉砕などの簡単な操作を加えたもの
• 和漢薬:生薬の中で中国、朝鮮、日本を中心に用いられてきたもの
和漢薬:生薬の中で中国 朝鮮 日本を中心に用いられてきたもの
• 民間薬:各国・各地方に言い伝えによって残されている専門家以外
の者による病気の治療薬。経験的に使用され、使用目標が単純で理
論的整理が不十分、多くは単一の生薬を用いる。例;じゅうやく>糖
尿病
• 漢方薬:漢方医学的な理論、方法によって用いられる和漢薬。多くは
漢方薬 漢方医学的な理論 方法によ て用いられる和漢薬 多くは
数種類以上を組み合わせ、一つの単位(方剤)として用いる。
• 漢方治療:漢方薬を漢方医学的な診断に基づいて用いる治療
• 和漢診療学:現代医療の中で、科学的な目を持ちつつ漢方医学を生
かしていくため、寺澤捷年教授が提唱している
漢方薬は民間薬やハーブなどとは
漢方薬は民間薬やハ
ブなどとは
どこが違うのでしょうか
漢方薬(医書 :傷寒論
傷寒論 等)
葛根湯,八味地黄丸
民間薬(民間伝承,本草書)
(民間伝承 本草書)
ゲンノショウコ,ドクダミ,センブリ,ウコン
ハーブ(ヨーロッパなどの生活に古くから根付いている民間薬)
ラベンダー,タイム,オレガノ
ラ
ンダ ,タイム,オレガノ
料理や健康増進に利用されています
なるほどなっとく漢方薬より
漢方薬と西洋薬の特質
漢方薬
★ 人間に特有の疾患に用いられ,淘汰され,伝承されてきた
人間に特有の疾患に用いられ 淘汰され 伝承されてきた
★ 使用機序の解析が困難な少量多数の成分の混合物
(複合剤)
西洋薬
★ 動物実験で研究開発され人間に適応されるようになった
★ 標的臓器や細胞(酵素)に対する作用が比較的明瞭な単
一化合物
漢方薬の特徴
■ 生薬から成っている
1つの生薬に複数の有効成分がある
■ 生薬の複合剤である
さらに多くの薬能が複雑に重なる
有効成分
効能
漢方薬=煎じ薬?
1日分の量(煎じ上がり)による分類
初めの水の量
煎法
煎じ量
通常
40分
常煎法
中煎法
小煎法
300
200
150
600
500
450
烏頭入り
60分
備考
800
一般的
700
650 (ml) 小児煎法
注意 熱いうちに濾す
加熱時間を10分間延長すると 約100 l蒸発する
加熱時間を10分間延長すると、約100ml蒸発する
生薬の量や、開始時の土瓶の温度などで、煎じ量が変化する
薬の保存と服用方法
保 存 冷処 お茶と同じ扱い ただし長期保存では味が変わる
煎剤は72時間を過ぎたものは廃棄したほうが良い
時 間 食前30分以上または食間が望ましい
生薬は穏やかな作用をもつものが多いため、充分に効果を発揮
生薬は穏やかな作用をもつものが多いため
充分に効果を発揮
させるためには、他の食べ物と胃の中で混ざらないほうがよい
当院の原則
当院
原則 分
分3 10,15,20
, , 時 分
分4 6,10,15,20
, , , 時
*2種類以上の漢方薬を服用するときは、一緒に服用すると効果が
弱まるときがある
弱まる
き ある 食前
食前・食後と時間をはなす工夫が必要
食後 時間を なす 夫 必要
方 法 温服が原則
例外 冷服 三黄瀉心湯 小半夏加茯苓湯
特殊 酒服 当帰芍薬散 八味地黄丸
自家製丸剤(桂枝茯苓丸 八味地黄丸)
自家製丸剤(桂枝茯苓丸・八味地黄丸)
噛む、舐める、ちぎるなどして服用
柿蔕湯は、冷蔵のままでは効果なし
漢方薬の剤型による分類と飲み方
• 湯(トウ)
湯(トウ):生薬を煮出して(煎じて)その汁を飲む。普通は一日分ずつ
生薬を煮出して(煎じて)その汁を飲む 普通は 日分ずつ
作る。葛根湯など。
• 泡剤(振り出し):熱湯につけ数分間振り出して用いる。煎茶の要領。
• 丸(ガン):生薬を粉にし、多くは煉蜜(煮立てて水分を飛ばした蜂蜜)
で丸める。比較的慢性の病態で用いることが多い。桂枝茯苓丸、八
味地黄丸など。
• 散(サン):生薬を粉に粉末にしてそのまま飲む。酒に混ぜる(当帰芍
薬散)、重湯に混ぜる(五苓散)などの指示がある方剤が多いが、現
在はそのまま服用することが多い。
在はそのまま服用することが多い
• 料(リョウ):丸や散にすべき方剤の生薬を粉にせず、そのまま煎じて
用いる場合。桂枝ブ茯苓丸料、当帰芍薬散料。
• エキス剤:湯あるいは丸料、散料の水分を飛ばして乾燥させた粉末。
インスタントコーヒーのようなもの。原則として熱湯100ml程度に溶か
して服用したほうが有効。実際は乳糖などが混ぜられている。効果
は劣るが、便利。
漢方薬の名前の由来①
補中益気湯
煎じ薬
茯苓飲
煎じ薬を冷服するもの
当帰飲子
煎じ薬を時間に問わず冷服
八味地黄丸
生薬を研細して蜜・胡麻・水薬汁等で
練ったもの
当帰芍薬散
生薬を磨って粉末にしたもの
紫雲膏
油 生薬 粉を ぜ も
油に生薬の粉を混ぜたもの
治打撲一方
医方を示す
漢方薬の名前の由来②
構成生薬の名を全て並べる
構成生薬の一字を並べる
処方中の主薬の名前より
構成生薬の数を示す
処方の働きを示す
合方した処方名よりなる
加減方したことを示す
詩的なもの
中国の四神に由来
上記の組み合わせ
麻黄附子細辛湯
苓桂朮甘湯
葛根湯
六味丸
補中益気湯
猪苓湯合四物湯
衵欷犇咪恌蚵鍼尅
神秘湯・女神散
小青竜湯・白虎湯
青
八味地黄丸
漢方エキス製剤の製法
切断生薬
の配合
煎
煎出
遠心
ろ過
煎出液
100℃ 60min
減圧濃縮
濃縮液
55~60℃
賦形剤混合
製剤工程
噴霧乾燥
減圧乾燥
凍結乾燥
乾燥エキス末
顆粒剤
錠 剤
桑野重昭:漢方処方の基礎と臨床応用
皆さんにお願いしたいこと
• 基礎的な話と一人の医師の漢方との出会い、勉強していっ
た歴史を話します
• いわゆる西洋医学と漢方医学は出発点から違いますので、
こんな考え方もあるのかなという気持ちで聞いてください
• 聞いて理解、あるいはわかったような気持ちになってくださ
い
• 話の内容は、宮脇書店にある本に載っていますので、わか
らないところは あとで調べるか 一緒に勉強していきま
らないところは、あとで調べるか、
緒に勉強していきま
しょう
漢方医学はいつから始まったか
東洋医学の2000
東洋医学の
2000年
000年
000
年
外科正宗
明医指掌
保嬰撮要
済生全書
万病回春
本草網目
薛氏十六種
医学六要
得効方
済 生方
脾胃論
弁惑論
宣明論方
「「「「 「 「「「「「「「「
」」」」 」 」
本朝経験方
原 南陽
浅田宗伯
華岡青 州
吉益東洞
香川修庵
衆方規矩
啓迪集
田代三喜
「
」
」
「「
」
「
」
「
」
大同類聚方
医心方
」
」
」
」」」
和剤局方
外台秘要方
「
「
」
鑑真
「「
」
「 「 「「 「
」
」
」」
」」
本
現
代
江
戸
安
土
室
町
鎌
倉
平
安
大 飛 奈
和 鳥 良
弥
生
千金方
諸病源候論
日
傷寒雑病論
神農本草経
黄帝内経
金匱要略
傷寒論
国
明
唐
晋
元
金
遼
中
清
現
代
宋
五
代
南 隋
北
三
国
後
漢
前
漢
2000
1500
1000
500
0
図説東洋医学用語集(学研)ほか
」
東洋医学のあゆみと主要処方の登場
明
」
金・元
」
室
町
安
土
江
戸
現
代
江戸
中期
」
89
110
18
122
6
501
3
67
85
2
46
50
59
73
80
」
室町・
戦国
」
鎌
倉
「「
「
」
「「「
」
」
平
安
92
93
95 137 52
97
22
101 54
104
105
115
128
現代
「
」
43
51
41
65 136 53
86
57
62
76 58
107
88
37 114
90
91
医心方
「
」
」
奈良・
平安
元
現
代
清
本朝経験方
原 南陽
浅田宗伯 -想
-に
華岡青州復古-思
古法
吉益東洞派の-台頭
香川修庵 - - 衆方規矩 -啓迪集
金元医学
田代三喜に基づいた
独自の医
学 後世
派
飛 奈
鳥 良
66 81
70 97
71 108
75 111
79 124
明
中医学
中西統合 の
融合努力
15
宋
金
外科正宗
---明医指掌
-保嬰撮要
---済生全書
-万病回春
本草網
方目
剤 生薬の
薛氏十
集六
大種
成の時-代
-医学六要
-得効方
-----済生方
-脾胃論
薬物治療- -経- - - 弁惑論
絡の一本-化宣明論
諸方
流派の-台-頭- -
大
和
102
中国
直輸入
れた医学
」
」」
本
25
34
78
106
5
24
48
56
63
大同類聚方
日
23
33
77
103
121
唐
鑑真
弥
生
12
31
55
120
和剤局方
国
11
30
45
82
遼
外台秘要方
周辺国の薬物
流入
千金方
-五候
行論
説の取入
諸病源
鍼灸医学
傷寒雑
病
論
湯液経
医学の
神農本
草
基経
礎の成立
黄帝内
中
「傷寒論」
漢
1 8 9 10
14 17 19 27
35 38 39 40
60 61 68 74
「金匱要略」
7 16 20 21
26 28 29 32
36 64 69 72
84 98 99 100
113 117 118 119
125 126
五
代
唐
」
隋
」」」」 」 」
南
北
1500
」」」
晋
「「
三
国
「
後
漢
1000
「
前
漢
500
「「「「 「 「「「「「「「「
0
図説東洋医学用語集(学研)より一部改編
83
96
109
112
116
漢方医学の歴史
前漢 BC202~AD8 神農本草経 神農 八代530年続く
黄帝内経
後漢 AD25
AD25~220
220
傷寒雑病論(傷寒論 金匱要略) 張仲景
傷寒雑病論(傷寒論、金匱要略)
宋
AD1110
和剤局方
明
AD1578
本草綱目 李時珍
AD1578
万病回春 龔廷賢
日本漢方
奈良時代
平安時代 984
江戸時代
江戸~明治
明治
昭和3年
昭和11年
昭和4 年
昭和45年
昭和51年
平成5年
神農本草経
黄帝内経
傷寒論
伝来
医心方の編纂
花岡青州 通仙散 紫雲膏
勿誤薬室方函口訣 浅田宗伯
医療制度の変化
医療制度の変化・・・漢方の衰退
漢方の衰退
湯本求真 皇漢医学
大塚敬節 七物降下湯
中医学 流入
中医学の流入
漢方薬 薬価収載
富山医科薬科大学に和漢診療医学講座
三大古典
大古典
こうていだいけい
黄帝内経
黄帝内
- - - 医学書
しんのうほんぞうけい
神農本草経
- - - 薬物書
しょうかんぞうびょうろん
傷寒雑病論
- - - 治療書
神農本草経
• 中国古代の伝説の人、その姿
姿 人身牛首
身 首
• 農耕と医薬の祖とされる
• たくさんの草木の滋養分や味、井戸や泉、川の水
の成分と味を調べた このとき 日に70種もの毒に
の成分と味を調べた。このとき一日に70種もの毒に
遭ったという
• 薬物には365種あり、動物薬は67種類、植物薬252
種 鉱物薬46種ある その薬性によって 上品 中
種、鉱物薬46種ある。その薬性によって、上品、中
品、下品に分けた。
黄帝内経①
• 女子は七歳を
女子は七歳を一紀とする
紀とする
• 7歳 腎気が活発になり、永久歯が生え、髪が伸びる
• 14歳 腎気が成熟したため、月経が始まり、子供を孕む能
腎気が成熟したため 月経が始まり 子供を孕む能
力が備わる
• 21歳 腎気が体のすみずみまでいきわたる
• 28歳 髪の毛が豊かで体の最も強壮な時期である
• 35歳 顔がやつれ始める
• 42歳 顔にしわが寄り、白髪が目立ち始める
• 49歳 血脈に血が少なくなり、月経が止まり、子供を産むこ
血脈に血が少なくなり 月経が止まり 子供を産むこ
とができなくなる
黄帝内経②
•
•
•
•
•
•
•
•
男性は八歳を一紀とする
男性は八歳を
紀とする
8歳 腎気が活発となり、髪がふさふさと伸び、永久歯が伸びる
16歳 腎気が成熟し、生殖能力が備わる
腎気が成熟し 生殖能力が備わる
24歳 腎気が体のすみずみまで巡る
32歳 筋骨たくましくなり、肌肉が豊かになる
筋骨たくましくなり 肌肉が豊かになる
40歳 腎気が衰え始め、髪の毛が抜け、歯が揺れる
48歳 陽気が衰え、顔面にしわが寄り、髪の毛が白くなる
56歳 肝気が減り、筋肉が衰え、生殖能力が弱まり、体が老化してし
まう
• 64歳 歯も髪の毛も抜け去る
黄帝内経③
• 春は「発生」の季節という
春は「発生」の季節という。養生法は、天地間の陽気を胸
養生法は 天地間の陽気を胸
いっぱいに楽しみ、体内の陽気を大事に育てる、夜更かし
をしてもかまわないが、朝は早く起きる
• 夏は「生長」の季節という。養生法は、日の長さと暑さを厭
うことなく体内の陽気をほどよく発散させる、夜は遅く寝て、
朝は早く起きる
• 秋は「収斂」の季節という。養生法は、心を安らかにし、陽
気を潜めて天地の粛殺した気の影響を和らげる 鶏と同じ
気を潜めて天地の粛殺した気の影響を和らげる、鶏と同じ
ように、早寝早起きすべきである。
• 冬は「閉蔵」の季節という。養生法は、体内の気を洩らさな
冬は「閉蔵」の季節という 養生法は 体内の気を洩らさな
いように寒い刺激を避け、体を暖かく包む、夜は早く寝て、
朝はゆっくり起き、日の出日没に伴って、起居すべきである
漢方医学の考え方
西洋の発想と東洋の思想
西洋の発想
洋
想
「ものには本質がある」
東洋の思想
「実際に起きている出来事をみる」
物質と現象
臨済宗僧侶 作家 玄侑宗久
漢方医学の特質
● 漢方医学は 病名ではなく 実際に起こっている
実際に起こ ている
出来事(現象) つまり 患者の“状態”を重視する
● この“状態”を把握するために
この 状態 を把握するために 漢方医学では
独特のスケール(物差し)が用意されている
● よって 漢方薬の適応も 病名ではなく “状態”から
状態 から
割り出すという手法をとる
西洋医学と漢方医学の比較
治 療 体 系
西洋医学
種々の検査
→ 検査結果判明
→ 病名の決定
→ 治 療 開 始
漢方医学
四
診
(望診・聞診・問診・切診)
(望診
聞診 問診 切診)
→ “ 証 ”決定
→ 治 療 開 始
特 徴
一つの症状や病気に対
の症状や病気に対
する直接的な治療
感染症の菌を殺す
染
菌 殺
熱や痛みを取る
血圧を下げる など
慢性的な病気や
全身的な病気の治療
複雑・多彩な症状に効果
を発揮
● 漢方医学は 病名ではなく 実際に起こっている
実際に起こ ている
出来事(現象) つまり 患者の“状態”を重視する
“漢方は病態を診断する”
漢方は病態を診断する
病態とは 生体の防御能と病因との戦いの状況を意味する
診断とは この戦いの状況(病態)を把握することである
三瀦忠道
瀦忠道
東西医薬の併用理論
現代(新)薬
病因
病態
原因療法
集中的
攻撃的
副作用(+,++)
漢方薬
+
東西医薬併用
病因
病因
病態
病態
自然治癒能の増強
抗炎症・免疫能改善
抗炎症
免疫能改善
自律神経・内分泌調整
副作用(-,±)
両者のメリットの
結合
治療の質の向上
杉山貢(横浜市立大学医学部救命救急センター長) JAMA日本語版付録(1996.2)
漢方治療の実際
症状・症候
診断(病名・病態)
漢方医学的な病態の把握
独自の病態概念がある 例えば 陰陽 瘀血など
生薬の組み合わせ
素晴らし 薬能をも 生薬がある
素晴らしい薬能をもつ生薬がある
方剤の選択
漢方方剤が選択されるまで①
診診断
診
(証)
情報の整理
解解析
解
望・聞・問・切切
生体情報の収集
患者
治療方剤
を決定
ツムラ六君子湯
43
25
2.5g
ツムラ リックンシトウ
基盤となる理念
陰陽・虚実・寒熱・表裏の概念
六病位の概念
気血水の概念、病因
五臓の概念
病的機転の認識
〔寺澤捷年:和漢診療学、医学書院、1990より〕
漢方医学で薬剤が選択されるまで②
望診
聞診
体つきがきゃしゃ
体
きがき
声が小さい
疲れやすい
腹部が軟弱
問診
切診
虚証
だな
≪
四診
証 (しょう)
四 診
漢方医学の
診断法
四診の実際①
◆目で見る診察法
顔色 肌の色つや
顔色、肌の色つや、
体型、動作などから
読み取る。
●唇・歯ぐき
色が赤黒いのは「瘀血」
唇の乾きは「血虚」など
●舌診
望診の中でも、舌を
見るのを特に「舌診」
見るのを特に
舌診」
という。
舌の色や状態、舌苔
がポイント。
望 診
●頭髪
抜けやすいのは
「血虚」など
●顔色
紅潮なら「気逆」、
蒼白なら「血虚」 など
●皮膚、爪
皮膚が乾燥している
皮膚が乾燥して
る
のは「血虚」、肌荒れ
は「瘀血」など
●動作、歩き方
歩
動きが緩慢で立って
いるのがつらそうなら、
「気・血」の不足を疑う
〔喜多敏明:漢方Q&A、NHKエデュケーショナル、2003より一部改編〕
舌診所見の代表例①
正常舌
淡白舌:舌質が白っぽく腫大して白苔
紅舌:舌尖と舌辺の舌質に赤みが強
あり 「気虚」を考える
あり。「気虚」を考える
く陽証を考える所見
歯痕舌:舌辺に歯の圧痕
がみられるのは、脾虚と
1/4 水滞が示唆される
舌 脈絡 舌下静脈の怒
舌下脈絡:
怒
鏡面舌 表面が光沢を帯び
鏡面舌:
張・蛇行が見られるときは、
瘀血の存在を示す。
テカテカしている。血の極度
の不足を意味する
舌診所見の代表例②
厚白苔
薄白苔
黄苔
褐色苔
舌苔:舌苔は主に病邪の盛衰や性質を反映。
舌苔が薄い:病邪が軽い∮ 舌苔が厚い:病邪が重い
舌苔が白い:寒邪・湿邪
苔
寒邪 湿邪 ∮ 舌苔が黄色い熱邪
苔 黄
熱邪 or 他邪
他邪の化熱
熱
亀裂舌:
地図状舌:
亀裂舌は脾胃の虚を示
唆する。
中央の亀裂や黄色の
舌苔の場合は胃のびら
んを示唆
気虚を示唆する
白っぽい色をしています。
陽虚といって体が冷えていること
を意味しています。
大きくて歯形がありますね。気
虚といって気が不足して疲れ
やすい状態です。
淡紅色ですね。
正常な色です。
適度な大きさですね。
正常な形です。
赤みが深いですね。
体内に熱がこもって
いることを意味します。
小さくて痩せていますね。血
小さくて痩せていますね
血
虚といって血液が不足してい
ることを意味します。
とても厚いですね。
水の代謝が悪く痰飲の邪
気がたま ています
気がたまっています。
舌の先と横に紫の斑点が
ありますね。
薄くて白い苔ですね。
常な苔 す。
正常な苔です。
舌の裏の静脈です。紫色で
怒張していますね。
苔がほとんどなく乾燥してれつ
もんがありますね。
陰虚といって体液が不足して
いることを意味します。
舌の色を見ると暗く紫っぽ
いですね。
四診の実際②
◆耳で聞く、においを か
ぐことによって情報を得る
診察法
声のはり 大きさ 明
声のはり、大きさ、
瞭さ、話し方など
が
ポイントになる
ポイントになる。
●呼吸音
肺の「虚・実」を見る
聞 診
●声
声が小さく聞き取り
にく
にくいのは「気虚」や
は「気虚 や
「気うつ」を伴う
●体臭、便臭
強いのは「陽証」や
「実証」、弱いのは
「陰証」や「虚証」など
〔喜多敏明:漢方Q&A、NHKエデュケーショナル、2003より一部改編〕
四診の実際③
◆問診
西洋医学の問診と ほ
ぼ同じだが、 漢方では
特に自覚症状を重視す
る。
問 診
漢方の特徴的な
問診項目
● 汗の出方
● のどの渇き
● 寒気、手足の冷え
寒気 手足の冷え
● めまい
● 便通の状態
● 排尿の状態
〔喜多敏明:漢方Q&A、NHKエデュケーショナル、2003より一部改編〕
四診の実際④
◆患者さんの身体に 医
師が直接触れて行う診
察法
漢方では、特に
手首 の「脈診」、
腹部を見る「腹診」
が重要視される。
切 診
●脈診
脈の速さや強弱など
診る。
●腹診
腹部の緊張や抵抗、
圧痛などをみる。
圧痛などをみる
この所見が処方を
決めるポイントになる
ことも多い。
ことも多い
〔喜多敏明:漢方Q&A、NHKエデュケーショナル、2003より一部改編〕
を
脈
診
〔参考:寺澤捷年:絵で見る和漢診療学、医学書院〕
脈
浮
沈
大
小
2/4
浮:皮膚のすぐ下で
打っている脈。病変
変
が表にある。
沈:深いところで打っ
ている脈
病変が裏にある
病変が裏にある。
拍動する脈の大
きさを診る。
小脈は気血の不
足
足。
実
虚
緊
緩
診
実:反発力が充実。
虚:無力なもの。
病変の虚実を反映。
緊:緊張を感じる。
実または寒を表す。
緩:穏やかで正常な脈。
遅
数:1呼吸に4拍
以上打つ脈 熱のあ
以上打つ脈。熱のあ
ることを示す。
遅:それ以下の脈。
寒を表す。
渋
渋:脈が指の下をドロ
渋
脈が指の下をドロ
ドロと流れる
感じ。・血を示す。
滑:特に病のない状
滑
特に病のない状
態。
数
滑
〔参考:寺澤捷年:絵で見る和漢診療学、医学書院〕
脈診
入門漢方医学より
家庭漢方 東洋医学全書 (ミヤケ出版) p107より
腹
診
腹壁の状態
①発汗の有無
①発汗の有無:
サラサラした汗は表の気血
が衰えた状態。
粘り気のある汗は裏熱。
粘り気のある汗は裏熱
臍傍
②皮膚温:
陰病期では温度低下して いる
ことが多い。
③腹のムクムク:
特に大建中湯が適応となる
場合、腹の中にヘビやタコ
がいるように腸が動く。
④腹力
④腹力:
腹壁の緊張度をみます。
腹直筋ではなく側腹部の
トーヌスを見た方が正確
トーヌスを見た方が正確。
〔参考:寺澤捷年:絵で見る和漢診療学、医学書院〕
代表的腹証
ー胸脇苦満ー
肋骨弓の下内側に指を入れると
苦しく重圧感のあるもの。
少陽病期の柴胡剤シリーズの適応。
〔参考:寺澤捷年:絵で見る和漢診療学、医学書院〕
代表的腹証
ー胃内停水ー
心下部の腹壁を指頭でゆするように
軽く叩いたり、握り拳で
軽く叩いたりすると
“チャポチャポ”と水の音がする。
水滞(水毒)の症候。
〔参考:寺澤捷年:絵で見る和漢診療学、医学書院〕
代表的腹証
ー小腹不仁ー
臍から下(小腹)の知覚低下があったり、緊張が弱く
なっている状態。
下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁は
容易に陥没し、按圧する指が腹壁に入る。
腎の衰えを意味し、八味丸などの適応となる。
〔参考:寺澤捷年:絵で見る和漢診療学、医学書院〕
臍傍部にみられる腹証
臍上悸:
へその上あたりで拍動を
その上あたりで拍動を
感じられるような状態。
気逆と水滞のあるサイン
・血の圧痛点:
臍の周囲 回盲部 S状
臍の周囲、回盲部、S状
部、臍下部などに抵抗、
圧痛として表れる。
〔参考:寺澤捷年:絵で見る和漢診療学、医学書院〕
● この“状態”を把握するために
この 状態 を把握するために 漢方医学では
独特のスケール(物差し)が用意されている
病態を把握するための基本概念
1.陰陽 虚実 寒熱 表裏
2.気血水 3.六病位 4.五臓
漢方のものさし
病態を把握するための基本概念
1 病態(の性質)をはかる尺度 ・・・ 陰陽 虚実
1.病態(の性質)をはかる尺度
2.循環要素の異常をはかる尺度 ・・・ 気血水
3.病態の変化(ステージ)をはかる尺度
病
ジ
・・・ 六病位
病
生体の恒常性と気血水の概念
生体の恒常性は 気血水の三要素によって維持される
気
血
生命活動を営む根源的な ネ ギ
生命活動を営む根源的なエネルギー
精神活動を含めた機能的活動を統一的に制御する
精神活動を含
機能 活動を統
制御する
生体内を循行する液体
気の働きを担い生体を物質的側面を支える
血
赤色の液体
水
無色の液体
気血水
生体を循環し 生命活動を支える三要素
気
生命活動を営む根源的な
エネルギー
血
水
赤色の液体
無色の液体
気血水の概念
⽣体を維持する三要素
気:⽣命活動を営む根源的エネルギー
⾎:⽣体を物質的に⽀える⾚⾊の液体
⽔:⽣体を物質的に⽀える無⾊の液体
気
血
水
気
先天の気
両親から授
かった気
成長,発育,生殖を
制御する要素
腎
後天の気
宗
気
呼吸によって外気
から取り入れる
肺
水穀の気
飲食物から
飲食物
得られるもの
脾
気血水の生成と循環を示す模式図
空気
肺
脾胃
食物
排便
腎
排尿
気
血
水
寺澤捷年:和漢診療学より
気血水が乱れると・・・
気血水が乱れると
気の失調状態
気
気 虚 気の不足 ・・・ 元気がない 易疲労感
気 鬱 気の停滞 ・・・ 喉や胸のつかえ 腹のはり
気 逆 上 衝
・・・ のぼせ 動悸
血の失調状態
瘀 血 スラスラと流れるべき血の流れが滞った状態
血 虚 血の量と働きの不足 貧血 皮膚枯燥
水の失調状態
水 滞 (水毒) 浮腫 胸水 めまい 水様性鼻汁など
気血水による病態の把握と治療方針
気血水
診断基準
治療原則
治療方剤
気虚
体がだるい
気力がない
疲れやすい
気の生成にかかわる腎,
気の生成にかかわる腎
脾,肺の衰えを回復
補中益気湯
人参湯
四君子湯
気鬱
抑鬱傾向
喉のつかえ感
頭重,頭帽感
気をめぐらす(気の流入過多,熱によるもの)
気をめぐらす(気の流入過多
熱によるもの)
(肝の働きが落ちている)
(水が気をせきとめている)
香蘇散
半夏厚朴湯
柴胡加竜骨牡蛎湯
気逆
冷え,のぼせ
冷え
のぼせ
臍上悸
気の逆流を下向きにもどす
(桂枝と甘草の組み合わせ)
苓桂朮甘湯
黄連湯
血虚
皮膚の乾燥
眼精疲労
こむらがえり
食事や生活習慣の改善
(気虚を合併することが多い、気血を補う)
四物湯
・帰膠・湯
帰膠 湯
十全大補湯
お血
眼輪部の色素沈着
舌の暗赤紫化
臍傍圧痛抵抗:右
気や水の異常と関連していることが多い
桂枝茯苓丸
当帰芍薬散
桃核承気湯
水毒
浮腫傾向
胃部振水音
胸水、腹水
気をめぐらさないと水滞も改善しない
気をめぐらさな
と水滞も改善しな
(全身型、皮膚・関節型、胸内型、心下型)
五苓散,茯苓飲
防已黄耆湯
小青竜湯
気の分類
由来
臓器
車
先天の気
後天の気
両親から受け継ぐ
呼吸や食事で得る
発育や生殖活動に関与
増やせない 大切に!
不足したら補える
日頃の養生が大切
腎
脾胃 肺
バッテリ-
エンジン
は
気 とは?
悲しくて生きる
気をもむ
気力もなくなった
気が動転する
思うと ろがあ
思うところがあって
気がふさぐ
驚いて
カッとなって
気は逆上
うれしくて うれしくて
気がゆるむ
気
発作性頭痛
胸苦しい
抑鬱傾向
き
無気力
の異常
異常
うつ
気鬱
のぼせ
停滞
逆流
き
ぎゃく
気逆
動悸
喉のつかえ感
不足
気力がない
食欲不振
き
きょ
気虚
疲れやすい
身体がだるい
発作
気
の異常
異常
きたい
気滞
き
き
うつ
逆流
ぎゃく
気逆
気鬱
気の流れを戻す
気を巡らす
こうぼく
厚朴
けいし
はんげ
桂枝
半夏
おうれん
黄連など
しそよう
紫蘇葉
こうぶし
香附子
など
き
きょ
気虚
産生促進,供給
産生促進
供給
にんじん
びゃくじゅつ
人参 白朮
おうぎ
黄耆
かんぞう
甘草
気の異常(1)
キ キ ョ
気虚
病態
気の量的不足
症候
倦怠感 易疲労感
食欲不振 意欲減退
治療方法と生薬・・・補気
人参 黄耆 甘草
大棗 白朮
りっ
くん
し
とう
気虚の代表的処方ー補中益気湯-
眼つきに力がない
食後に眠くなる
言語に力がない
口中に白沫を生じる
微熱、寝汗など
微熱
寝汗など
やや熱性傾向だが
熱いものの飲食を好む
食欲不振
(味がわからない)
みぞおちに
軽い抵抗
腹部は軟弱
臍の周り
に動悸
脈は散大で
力がない
気虚:気の働き
気虚
気の働きが低下
低下
して、活力が落ちた状態。
元気がない、疲れやすい、
根気がないなどの症状が
現れる。
手足の倦怠
体力あり
(実)
体力なし
(虚)
気の異常(2)
キギャク
気逆
病 態 気の循環異常(上衝)
症候
のぼせ 頭痛 動悸 不安
焦燥 下肢の冷え
治療法・・・順気
桂枝 呉茱萸 黄連
竜骨 牡蠣
気の異常(3)
キ ウ ツ
気鬱
病態
気の循環異常(停滞)
症候
抑鬱 閉塞 異物感 腹満 四肢疼痛
肢疼痛
治療法・・・順気
治療法
順気
厚朴 枳実 木香
香附子 紫蘇葉
血虚の原因と治療
血の産生が低下,量の不足
血虚
血の消費が多い,出血
貧血 皮膚乾燥
色素沈着 易疲労感
爪の異常 こむらがえり
熟地黄,芍薬,
当帰
等
治療原則
血を補血剤で産生を促す
お血の原因と治療
流速の低下,うっ滞
流通の途絶
お血
月経異常
腹部の圧痛(腹証)
皮膚粘膜の鬱血
腹部膨満感
治療原則
牡丹皮,桃仁,芍薬,
当帰,川弓 等
駆・血剤の投与
気,水との異常と関連
している事が多い
瘀 血
けつ
スラスラと流通すべき血が、何らかの原因によりつかえて
スラスラと流通すべき血が
何らかの原因によりつかえて
スムーズに流れなくなった状態をいう言葉である
柴崎保三:瘀血に関する研究.漢方の研究16.1969
血の流通障害を意味するとともに 流通障害を来たした後の
非生理的(不健康)な血も意味する
例:打ち身の痕
成因 過食(高脂肪・高蛋白・動物食)
過食(高脂肪 高蛋白 動物食) ステロイド剤
テ イド剤
外的ストレス(寒・湿・熱) 打撲 手術 内出血
精神的ストレス 睡眠不足 便秘
異常
血 の異常
眼輪部の色素沈着
月経障害
顔面の色素沈着
唇の暗赤化
お
けつ
瘀血
瘀血:
血のめぐりが悪くなった状態。
皮膚や粘膜の色が悪くなったり、
月経異常などが起こる。
月経異常な
起 る。
気や水の異常と関連していること
も多い
顔面蒼白
健忘
貧血
皮膚枯燥
けっ
息切れ
きょ
血虚
血虚:
血の作用が不足した状態。
血を十分に作り出せないか、
消費が多いのが原因 貧血や
消費が多いのが原因。貧血や
皮膚の乾燥などが起きてくる。
とう
色白で貧血傾
向、疲れやす
い
き
しゃく
やく
さん
めまい
めまい、
頭痛、頭重
肩こり
みぞおちの下を
軽く叩くと
ポチャポチャと
音がする
腹部は
全体に
柔らかい
臍の近くに軽い
抵抗・圧痛がある
月経不順 月経困難
月経不順、月経困難
足腰の冷え
体力あり
(実)
体力なし
(虚)
けい
し
ぶく
りょう
がん
のぼせ、
ぼ
赤ら顔
肩こり
臍の近くに軽い
抵抗・圧痛がある
月経痛、月経異常
腹部は割と
緊張がよい
下腹部全体に
軽い抵抗あり
足は冷える
体力あり
(実)
体力なし
(虚)
か
み
しょう
よう
さん
不眠、イライラ、
怒りやすい
発作性の発汗、
冷えのぼせ
肩こり
みぞおちに
軽い抵抗が
ある
訴える症状が
多彩で変化する
疲れ
やすい
腹部は全体に
柔らかい
体力あり
(実)
体力なし
(虚)
水の異常
状態
水毒
水滞
痰飲
改善する生薬
鼻汁
喀痰
咳嗽
尿量減少
浮腫
胸水,腹水
心下部振水音
動悸
眩暈
立ちくらみ
耳鳴
等
改善する方剤
木防已湯
神秘湯
小青竜湯
竜胆瀉肝湯
猪苓湯
五苓散
八味地黄丸
越婢加朮湯
防已黄耆湯
胃苓湯
茵蔯五苓散
茯苓飲
半夏白虎天麻湯
白朮
蒼朮
茯苓
猪苓
沢瀉
防已
黄耆
車前子
等
等
水
たちくらみ
車酔いしやすい
の異常
異常
頭重感
めまい めまい感
めまい・めまい感
すい
水滞(水毒):
体の一部に余分な水分が
たまった状態。
むくみ、頭痛、めまいなど
の原因になる。
の原因になる
気虚を伴うことが多い。
どく
水毒
水の偏りを正す漢方薬
五苓散
● 代表的な利水剤
たちくらみ
車酔いしや
すい
頭重感
● 体内の水分代謝異常を
調整し,正常に戻します
めまい め
めまい・め
まい感
すい
● 浮腫、ネフローゼ、二日酔
など広く使用されます
どく
水毒
水を巡らす
そうじゅつ
ぶくりょう
ちょれい
蒼朮 茯苓 猪苓
たくしゃ
沢瀉
ケイシ
+ 桂枝
「利水」と「利尿」
水毒
利尿
嘔吐
利水
浮腫
再
分
布
胃
内
停
水
循環
吸
収
促
進
腎
再吸収
阻害
下痢
肛門
尿
尿
利尿
利尿
腎臓での水の再吸収を抑えて尿量を増やす利尿に対し 利水は水の流れを変えると考える
腎臓での水の再吸収を抑えて尿量を増やす利尿に対し、利水は水の流れを変えると考える
田代眞一 月刊薬事 32(7):1409-1420 (1900)
病態 陰陽
病態の陰陽
漢方医学的な“病態”を表わす
漢方医学的な
病態 を表わす
基本的なも さ
基本的なものさし
陰陽のイメ ジ
陰陽のイメージ
陰
1)暗い
2)冷たい 3)濁る 4)重い
5)遅く動く 6)下にある など
陽
1)明るい 2)熱い
3)清む 4)軽い
5)速く動く 6)上にある など
陰 と 陽
自 然
温明
生 理
漢方用語
陽 天 日 昼 晴 熱 明 興奮 亢進 実 表 外 乾 熱 気 背 上 腑 火
陰症:寒
陽症:熱
疲弊期
抵抗期
新陳代謝低下
(加齢・沈滞性)
(加齢 沈滞性)
自 然
温明
生 理
新陳代謝亢進
(若さ・発揚性)
(若さ
発揚性)
漢方用語
陰 地 月 夜 雨 寒 暗 抑制 衰退 虚 裏 内 湿 寒 血 腹 下 臓 水
陰 陽
自然
自然界の相対概念
<陽>
<陰>
天
夏
昼
日向
地
冬
夜
日陰
食物
体を温める
体を冷やす
病気
「熱」が主体
「寒」が主体
陰
酢
食物の陰・陽
食物の陰
陽
陽
食物の陰陽
陰 性
陽 性
冷たい物
生(なま)物
温かい物
加熱した物
日に干す
塩
動物食
根菜
日本酒
砂糖
酢
葉菜 果菜 果物
果実酒 蒸留酒 ビール
病気・年齢の進行により体は陰に傾きやすい
病態の陰陽
漢方医学的な病態を表す基本的なものさし
陽証
活動性
発陽性
熱が主体
非活動性
沈降性
寒が主体
熱がる
赤ら顔
膿性分泌物
濃縮尿
強く臭う下痢
裏急後重
寒がる
顔色 良
顔色不良
水様性分泌物
清澄尿
水様性下痢
裏急後重なし
陰証
漢方医学的な薬の性質(薬性)の二大別
漢
薬
質薬
温(熱)
(微温)
平
服用すると体を温める
附子
乾姜
蜀椒
桂皮
(微寒)
涼 寒
服用すると体の熱をとる
甘草
大黄
黄連
石膏
芒硝
*薬味 五行説により臓腑と相関
酸(肝) 苦(心) 甘(脾) 辛(肺) 鹹(腎)
降圧剤にも陰陽がある?
陽証の降圧剤
カルシウム拮抗剤
血管に直接作用して、血管を拡張する
顔面紅潮、のぼせ、熱感、動悸などを来たすことがある
陰証の降圧剤
β遮断薬
心臓のβ受容体を遮断して、拍出量を抑制する
末梢循環的には収縮的に作用し、身体を冷やし、活動力を低下させ
呼吸器系の力も弱める 甲状腺機能亢進症に適応
織部和宏:漢方事始め
陰陽の認識と治療法
中庸
陰
陽
A
B
陰の病態にある患者Aは 温める処方で、陽の病態にある患者Bは
冷やす処方を用
冷やす処方を用いてそれぞれ中庸の方向へ向けて治療する
それぞれ中庸 方向 向け 治療する
寺澤捷年:新しい漢方 東洋の知と医療
黄芩湯
黄芩
大棗
清熱解熱作用 腸炎抗菌作用
細菌性下痢や腸炎で
腹痛 裏急後重 悪臭のある
腹痛、裏急後重、悪臭のある
下痢便に用いる
芍薬
甘草
鎮痙鎮痛作用
平滑筋・骨格筋の
痙攣性疼痛を治す
目 標 下痢して心下が痞え 腹中拘急するもので 腹直筋の攣急がある
良 嘔吐 下痢 (ノロウイルス感染症)
適 応 腸カタル 消化不良
下痢にも陰陽がある
陽証の下痢 腹痛 裏急後重 臭気のある便 (血便 粘液便)
裏急後重とは・・・
下痢の前に腹痛があり 排便にさいし は肛門に灼熱感を伴い
下痢の前に腹痛があり、排便にさいしては肛門に灼熱感を伴い
排便しても十分に排泄しきれない感じがあって間もなく、また腹痛
がしてきて便所にかけこむ という状態
がしてきて便所にかけこむ、という状態
陰証の下痢
一般的には腹痛がなく 臭気がなく 水様便で ときに完穀下利(口か
ら入ったものがそのままの形で出てくる)という状態を呈することが
多く 排便のあとにしばしば激しい脱力感を来たす
藤平 健 小倉重成:漢方概論
陽証の下痢
方 剤
黄
芩
使用目標
湯
発熱 激しい下痢 心窩部の張り
葛 根 湯
急性胃腸炎の初期 頭痛 発熱 悪寒 首の凝り
五 苓 散
口渇 自汗 尿不利 水逆 吐瀉 胃部振水音
半夏瀉心湯
腹鳴 心下痞 嘔吐 陽証の下痢らしくない
陰証の下痢
方 剤
真
武
使用目標
湯
めまい感 尿利異常 下痢 時に表証
人 参 湯
胃弱 心下痞鞕 下痢 四肢冷喜唾 胸痺
大建中湯
腹力軟弱 腸異常蠕動(モクモク) 腹中冷痛
茯苓四逆湯
四逆(加人参)湯証+煩躁 裏の虚・寒
漢方の基本概念
そのモノサシは病態の何を測っているのか
虚と実
虚実の概念
病態の充実度
必ずしも体質や体力を表すものではない
実証
病邪が非常に充実していて それに立ち向かう
生体防御能と激しくぶつかりあう様相をいう。
虚証
病人の体力・気力が虚弱なため 闘病反応が
衰えている様で 病状は静かである。
生体の呈する修復反応の充実度が 高反応型のものを実の病態という。
一方、充実度が低反応型を虚の病態という。
方 充実度が低 応型を虚 病態と う
寺澤捷年
虚実の概念
● 病人の正気と病邪との相互の勢力関係を示す
「邪気盛ンナレバ則チ実 正気奪ルレバ則チ虚」
黄帝内経素問 通評虚実論
● 虚実は 体力の充実を意味するのか?
「有ルヲ実ト為シ 無キヲ虚ト為ス」
素問調経論
虚
虚とは
抵抗力や回復力」が空っぽ
...「抵抗力や回復力」が空っぽ
症状穏やか
元来虚弱な人
老 人
長期罹病患者
抵抗力回復力ない
比較的体力が低下
実とは
実
体力のない虚弱な患者さん
∥
きょしょう
虚証
充実
... “充実”
症状激しい
元来丈夫
病気の初期
抵抗力回復力あり
比較的体力がある
比較的体力の充実した患者さん
∥
じっしょう
実証
実
ナースのための漢方治療より
虚証と実証
症状穏やか
症状激しい
元来虚弱な人
元来丈夫
老 人
病気の初期
長期罹病患者
抵抗力回復力あり
抵抗力回復力ない
比較的体力が低下
補
りっくんしとう
剤
六君子湯(TJ
(TJ-43)
43)
虚
証
比較的体力がある
瀉
おうれんげどくとう
剤
黄連解毒湯(TJ
(TJ-15)
15)
実
証
虚実の治療
実証に対する治療方法 ・・・ 瀉法
病邪を直接攻撃するような方法、つまり発汗剤や
病邪を直接攻撃するような方法
まり発汗剤や
下剤を用いて治療する。
虚証に対する治療方法 ・・・ 補法
体力を補 気力を けるような治療を行なう
体力を補い気力をつけるような治療を行なう。
治療のベクトルとしての“虚実”と
治療の
クトルとしての 虚実 と “寒熱”
寒熱
抵抗力が強い
実証
実
●がっちりタイプ
が
プ
●声は太く大きく力強い
●がんばりがきく
熱に支配されている
●首から上に汗をかく
●冷水を好んで飲む
●顔面が紅潮、眼球が充血
●舌の先が赤い
舌 先が赤
熱証
寒証
寒さに支配されている
●冬に電気毛布を使う
●使い捨てカイロを使う
●冷房がつらい、きつい
●寒さを症状が悪化する
抵抗力が弱い
虚証
●ほっそり・ぽっちゃりタイプ
●声が細く、小さく、口ごもる
●夕方にはぐったりしている
〔秋葉哲生、後山尚久:漢方Q&A、NHKエデュケーショナル、2002より〕
漢方の基本概念
そのモノサシは病態の何を測っているのか
表と裏
表裏の概念
表 皮膚・関節・神経
口腔 上気道
口腔~上気道
半表半裏
胸膈内 横隔膜前後
裏 消化管
昔の人は、身体を円筒のような
昔の人は
身体を円筒のような
構造に考えていた
病邪の侵入経路(急性熱性疾患)
病邪
少陽病
表
太陽病
半表半裏
陽明病
裏
表裏と治療原則
病位
治療
主要生薬
表
発汗
桂枝 麻
桂枝(麻黄)
半表半裏
清解
柴胡 黄芩
裏
清熱
瀉下
石膏 知母
大黄 芒硝
硝
漢方の基本概念
そのモノサシは病態の何を測っているのか
寒と熱
寒熱の概念
自覚的な熱感と冷えを意味する
熱
証
生体の呈する病状が熱性のもの
(熱感 充血 局所温度の上昇)
寒
証
生体の呈する病状が寒性のもの
(冷感 冷え 局所温度の低下)
陰陽と寒熱は重なる部分が多い。
ただし 陰陽のほうが寒熱に比して上位概念である。
陰
が寒
念
寒熱の症候
寒証
熱証
自覚症状
寒気 冷える
熱感 ほてる
顔 色
蒼 白
赤 色
舌 苔
湿 潤
乾 燥
口 渇
少ない
強 い
尿の色
透 明
濃黄色
便 臭
乏しい
強 い
胃熱
胸焼け・呑酸
正常
微白苔
黄苔
黒褐色苔
水毒
歯 痕
乾燥した苔(熱証) 湿潤した苔(寒証)
“寒証の治療
寒証の治療”と“熱証の治療”
と 熱証の治療
寒証
の患者さんには?
代謝を亢進し末梢循環を改善する
温める薬(温熱薬)を用いる
附子 乾姜 桂枝(牛車腎気丸(TJ-107
附子,乾姜,桂枝(牛車腎気丸
(
,桂枝加朮附湯
桂枝加朮附湯(TJ-18)
(
))
熱証
の患者さんには?
異常亢進した代謝を抑制し、
異常亢進した代謝を抑制し
解熱消炎する
冷やす薬(寒涼薬)を用いる
石膏 黄連 黄・(黄連解毒湯(TJ-15)
石膏,黄連,黄・(黄連解毒湯
(TJ 15),白虎加人参湯
白虎加人参湯(TJ-34)
(TJ 34))
ナースのための漢方治療より
“五臓六腑”にしみわたる?
漢方医学的な生体のとらえかたとしての五臓
「五臓六腑にしみわたる」という言葉があります
漢方医学における五臓とは 我々の生体 ネ ギ の
漢方医学における五臓とは、我々の生体エネルギーの
生成に深くかかわっている5つの臓器をさします
五 五
行 臓
六
腑
五 五 五 五 五 五 五 五 五
官 主 支 悪 味 穀 菜 畜 果
木
肝
臓
胆
嚢
目 筋 爪 風 酸
火
心
臓
三小
焦腸
舌
血 面
キ
熱 苦
薤 羊 杏
脈 色
ビ
土
膵
臓
胃
口
肌
ア
唇 湿 甘
葵 牛 棗
肉
ワ
金
肺
臓
大
腸
鼻 皮 息 燥 辛 米
ネ
馬 桃
ギ
腎
水
臓
膀
胱
大
耳 骨 髪 寒 塩
豆
藜 豚 栗
ム
韮 鶏 李
ギ
元気がでる漢方食より
五臓の代謝作用と気血水の相関
• 五臓の作用=代謝エネルギー+代謝調節因子
臓 作用 代謝 ネ ギ
代謝調節 子
代謝を受ける物質
=気 +血・水
=陽気+陰液
陽気+陰液
陽気
陰液
①陽気・陰液ともに不足
①陽気
陰液とも
低レベルでのバランス
②陰液不足
陽気
陰液
陽気
陰液
陽気
陰液
陽気
陰液
低レベルでの陽気・陰液の失調
③陽気不足
陽気
陰液
五臓の概念
• 五臓=肝・心・脾・肺・腎
臓 肝
脾 肺 腎
• 五臓≠西洋医学における各臓器
肝
腎
心
肺
脾
実線:促進的
点線 抑制的
点線:抑制的
五行生剋の図
木
水
金
火
土
相⽣(促進的)
相剋(抑制的)
五行説
天地万物に五つの基本的属性を規定
相生関係
相剋関係
木 は
火を生ず
木 は
土を剋す
火 は
土を生ず
土 は
水を剋す
土 は
金を生ず
水 は
火を剋す
金 は
水を生ず
火 は
金を剋す
水 は
木を生ず
金 は
木を剋す
五臓の概念Ⅱ
(内部環境の恒常性を維持する5つの相補的機能)
•
•
•
•
•
「肝」は自律神経系・視床下部・大脳辺縁系の機能
「肝
は自律神経系 視床 部 大脳辺縁系 機能
「心」は中枢神経系の高次精神活動・血液循環
「脾」は消化吸収機能
「肺」は呼吸器系の機能
「腎」は成長・生殖・老化や水分代謝機能
!
また、相補的とは、例えば利尿など水分代謝は脾・肺・腎が協調し、また感情や血液
また
相補的とは 例えば利尿など水分代謝は脾 肺 腎が協調し また感情や血液
循環は肝・脾・心がお互い調節しあっているといったことである。
五行説(五臓論)の現代的意味
生理的機能
木(肝)
自律神経系・視床下部・大脳辺縁系の機能, 筋肉トーヌス
血液循環(静脈系・微小循環)の調節,免疫能など
火(心)
中枢神経系の高次精神活動,血液循環(大循環)
意識,睡眠リズムの調節など
土(脾)
消化吸収機能,筋肉の形成など栄養状態
エネルギー供給源,免疫能,血管壁の正常機能維持など
金(肺)
呼吸器系の機能
皮膚の機能
水(腎)
成長・発育・生殖・老化など生命力
水分代謝機能, 骨格の形成・思考力など
内部環境の恒常性を維持する5つの相補的機能.例えば利尿など水分代謝は脾・肺・腎が
協調し,また感情や血液循環は肝・脾・心がお互い調節しあっている
五臓の機能区分
支配する
精神活動
気血水と
の関係
支配する
機能
病変によって
出る感情
病変の現れ
易い部位
出やすい
症状
肝
精神活動を
安定させる
血を貯蔵し,
全身に栄養
を供給
筋の緊張
を維持
怒りやすい
目,爪
痙攣発作
心
意識水準
を保つ
血を循環
させる
覚醒,睡眠の
リズムを調節
喜びすぎる
舌尖,脈
失神,動悸
脾
創意,知恵
を出す
血の流通を
滑らかにする
筋肉の形
成,維持
くよくよ
思い悩む
口唇,肉付
抑鬱
食欲不振
肺
気力を出す
気分を発
散させる
天空の気を
取り入れる
皮膚の機能
と防衛力
憂い悲しむ
鼻,皮毛
憂鬱,
鼻閉,咳
腎
思考力,判
思考力
判
断力,集中
力の維持
水の代謝,
排泄を司る
成長,発育,
生殖能力
耳,性器,骨
発育不良
排尿障害
性的不能
恐れ,怖がる
五臓とは心身一如の機能単位であって,西洋
医学的な各臓器の概念とは異なったものである
漢方における病因論
外因
: 六淫
内因 七情の失調
内因:七情の失調
風
目に見えない伝播性の病因
怒
怒りすぎると肝が障害される
寒
暑
湿
燥
火
寒冷刺激
喜
思
憂
恐
悲
驚
はしゃぎすぎると心が障害される
過度に高温の生活環境
湿気や水分の多い生活環境
乾燥性の生体侵襲
乾燥性
体侵襲
やけどや極端な高温環境
不内外因
不慮の災害や事故,不規則な生活
慮 災害 事
規 な生
思い悩むと脾・胃の調子が悪くなる
くよくよすると肺や脾が障害される
恐ろしい目にあうと腎が障害される
恐ろし
目 あう 腎 障害される
ひどい悲しみにあうと肺が障害される
ひどく驚くと腎が障害される
五臓と七情
心
喜
腎
驚
肝
怒
思
恐
悲
肺
憂
脾
腎の異常
ご
しゃ
じん
き
がん
牛車腎気丸
牛
膝
利尿作用、
血液循環障害を除く作用
寒さや湿気による
しびれや痛みに効く
はち
み
じ
車前子
利尿作用
附
強心・鎮痛・利尿作用
温める作用強く、熱性薬
の代表
おう がん
八味地黄丸
桂
枝
温性、発汗・発散作用
ろく
み
子
がん
六味丸
血液を増やす、
腎の働きをよくする
牡丹皮
山茱萸
茱萸
補血、強壮、
補血
強壮
止汗、止尿作用
茯
苓
山
消化機能を高める
滋養強壮
沢
瀉
地
黄
薬
消炎作用、
血液循環の改善
利尿作用、
局所的な水分の
停滞を除く
腎虚の代表処方ー八味地黄丸と牛車腎気丸-
八味地黄丸と牛車腎気丸
●牛車腎気丸
●八味地黄丸
いわゆる老人性疾患(泌尿生殖器、神
経系、感覚器系、呼吸器系の機能低下、
失調)に広く用いられる処方
胃腸は弱く な
いこと
と
下腹部の中
央部が軟弱
排尿障害
(特に夜間頻尿)
牛車腎気丸の証の方が
浮腫傾向が顕著
=八味地黄丸+
八味地黄丸+牛膝・車前子
牛膝 車前子
利水や疼痛を緩和する働きを
強める生薬が加わっています
かすみ目、疲れ目
腰痛
四肢の冷え、
しびれ、脱力感
牛車腎気丸の証
の方が顕著
腎の異常の治療方剤
病態
陽気
陰液
腎陽気虚
陽気
陰液
腎陰液虚
陽気
陰液
腎陽気・陰液両虚
腎陽気
陰液両虚
特異的症候
適応方剤
易疲労、腰痛、下肢痛、浮腫、
陰萎、下肢の冷え
牛車腎気丸
めまい感、耳鳴り、咽痛、口渇、
腰脚の筋力低下、
手足のほてり、失精
六味丸
易疲労、思考力の低下、健忘、
易疲労
思考力の低下 健忘
下肢痛、陰萎、口渇、
全身の冷え、浮腫、夜間頻尿
八味地黄丸
六 病 位-漢方医学での急性病の考え方-
漢方医学での急性病の考え方
陽病期
体
陰病期
力
厥陰病
少陰病
太陰病
陽明病
少陽病
太陽病
毒
死
初発
病
急性熱性疾患の経過
熱が出る時期(陽病期)
元気がなくなる時期(陰病期)
下痢して
体が
冷える
寒けや
頭痛
食欲が
なくなる
高熱が
出る
かぜの
ひきはじめ
こじれた
かぜ
悪性の
インフル
エンザ
消化器の
働きが低下
少陽病
陽明病
陽 病
太陰病
太陽病
すぐ疲れ
横になり
たがる
重篤な
状態
ぐったり
した状態
肺炎など
の重篤な
疾患
少陰病
厥陰病
六病位による病態の把握と治療方針
六病位
太陽病
少陽病
陽明病
太陰病
イメージ
異常時のサイン
脈
病変の舞台 虚実
風邪の初期
頭痛,悪寒,発熱
浮
頻
体表部
実
中間
虚
葛根湯
小青竜湯
桂枝湯
こじれた風邪
口苦
胃もたれ
食欲不振
咳
半表半裏
実
中間
虚
虚
大柴胡湯
小柴胡湯
柴胡桂枝湯
麦門冬湯
全身の熱感
腹痛,口苦
黄色く乾いた舌苔
充実
ぐったり
食欲不振
全身倦怠
下痢,腹痛
少陰病
厥陰病
プレショック
弦
代表的治療方剤
裏
大承気湯
白虎加人参湯
猪苓湯
沈
遅
裏
建中湯類,人参湯
当帰・薬散
補中益気湯
下痢,手足の冷え
気力の減退
微
細
裏
麻黄附子細辛湯
真武湯
下痢がとまらない
微
細
裏
茯苓四逆湯
未病との出会い
「水を飲んでも飲んでも、口が渇く。発汗が多い。
「水を飲んでも飲んでも
口が渇く 発汗が多い
病気だろうか」
患者のこの言葉から、漢方には未病という言葉が
あること この症状は白虎加人参湯証であることを
あること、この症状は白虎加人参湯証であることを
知った。
白虎加人参湯投与にて 症状は軽快した
白虎加人参湯投与にて、症状は軽快した。
白虎加人参湯
傷寒論
傷寒、若
吐 、若
下
後、七八日
解
、熱結裏に在 、表裏
に熱 、時々悪
風、大渇、舌上乾燥
煩 、水数升飲
欲
の、百虎加人参湯之 主
者 、
欲 、
勿誤薬室法函口訣
傷寒、脈浮、発熱、汗無 、其の表解
白虎湯与
渇
水 飲
表証無 者 、百虎加人参湯之 主
白虎加人参湯
此の方 白虎湯の証に
、胃中の津液乏
、大煩渇 発
者 治
故に大汗出の後
後下の後に用
白虎湯に比 れ 裏面
是 以
表証 れ 用
風邪薬の処方
「漢方の風邪薬はないか、PLは胃がやられる、午後
「漢方の風邪薬はないか
PLは胃がやられる 午後
から発熱、口が苦くて食欲がない」
漢方の風邪薬は何種類もあるが、発熱と口が苦いこ
とから 病態は傷寒論の少陽病であること 小柴胡
とから、病態は傷寒論の少陽病であること、小柴胡
湯証であることを知った。
少柴胡湯投与にて風邪は軽快した。
少柴胡湯投与にて風邪は軽快した
半表半裏の代表的処方ー小柴胡湯-
往来
寒熱
口が苦い
食欲不振
嘔気
首筋のこり
(首のつけねから肩
へ横にこる)
肋骨弓付近が何となくつ
かえているみたいで気
持ちが悪い
体力あり
(実)
体力なし
(虚)
かぜ症候群の漢方治療
胃腸
急性期
亜急性期
回復期
食欲低下・弛張熱
しょうさいことう
かっこんとう
小柴胡湯
葛根湯
ふつう
発熱・頭痛・頸部こり
ばくもんどう とう
麦門冬湯
咳こみ・痰なし
ちくじょうんたんとう
しょうせいりゅうとう
弱い
鼻水・くしゃみ・鼻閉
鼻水
くしゃみ 鼻閉
水様痰・咳
水様痰
咳
まおうぶしさい しんとう
きわめて
虚弱
竹茹温胆湯
小青竜湯
麻黄附子細辛湯
悪寒強い・四肢疼痛
咳・不眠
咳
不眠
ほちゅうえっきとう
補中益気湯
易疲労感
〔参考:松田邦夫監修「かぜ症候群の漢方治療ABC」より一部改変〕
かっこんとう
しょうせいりゅうとう
葛根湯
小青竜湯
熱が出た!
汗は出ますか?
関節痛は?
胃腸は?
くしゃみ、鼻水が
とまらない
鼻づまりがひどい
同じかぜといっても
その時の体力、症状によって
適した処方も違ってきます
かぜ症候群
ばくもんどうとう
麦門冬湯
適切な時期に適切な
オーダーメイドの処方を
オ
ダ メイドの処方を
咳がなかなか
とまらない
高齢者の
ちくじょうんたんとう
竹茹温胆湯
せきや痰が多くて
安眠できない
虚弱者の
まおうぶしさいしんとう
麻黄附子細辛湯
透析患者によく出現する痛みや運動障害
透析中や夜間の肩痛や腰背部痛
透析中のシ ント側の上肢の痛みやしびれ感
透析中のシャント側の上肢の痛みやしびれ感
透析中に骨がうずく
透析中、全身を移動する痛み
ふくらはぎの痛みおよび足底部痛
朝の手指のこわばり
正座不能
>>>>>>>>>どうにもならない???
仙人との出会い
高松に定期的な講演会に来られていた仙人の
高松
定期
講演
ような風貌の先生に助言を頂きながら、患者ア
ンケートと診察結果から漢方薬を決定して処方
した
血液透析患者の疼痛
―その現状と対策としての漢方薬の効果―
その現状と対策としての漢方薬の効果
痛みと漢方 7:10
7:10-16、1997
16、1997
対象および方法
対象:キナシ大林病院にて血液透析施行中の患者370名
方法 1:慢性腎炎由来透析患者から無作為にて200名の患者
の疼痛の強さアンケートを抽出し検討
2 全透析患者を対象に疼痛の種類アンケ トを実施
2:全透析患者を対象に疼痛の種類アンケートを実施
3:疼痛を訴える患者を対象に漢方問診表に従って漢方
薬を処方し その効果や投与前後の検査デ タにつ
薬を処方し、その効果や投与前後の検査データにつ
いて検討
慢性腎炎由来透析患者の透析歴別背景
5年未満
5-10年
10-15年
人数
84
68
53
72
50
男性
48
39
27
46
29
女性
36
29
26
26
21
透析歴
平均年齢
(平均±SD)
57.4±12.9 59.2±12.5
15-20年
52.4±11.7 56.1±10.4
20年以上
55.1±9.1
漢方薬を投与した症例の疼痛部位
痛みの部位
疼痛の頻度
肩 上肢
肩・上肢
87%(27/31)
67%(18/27)
腰
29%(9/31)
33%(3/9)
膝
68%(21/31)
52%(11/21)
N=31
漢方薬による改善度
疼痛の頻度は重複あり
慢性血液透析患者の痛みに対する漢方薬の効果
方剤
八味地黄丸
六味丸
牛車腎気丸
柴胡桂枝湯
桂枝加朮附湯
越婢加朮湯
当帰芍薬散
加味逍遥散
芍薬甘草湯
補中益気湯
十全大補湯
症例数
4
3
10
2
4
4
6
4
5
3
5
有効例数
著効例数
2
1
2
1
1
1
1
1
1
0
3
1
0
3
0
2
2
1
1
1
1
1
N=28 処方変更、二方剤投与例含む 痛み以外の効果も含む
漢方薬による鎮痛以外の効果や副作用
牛車腎気丸
頭がはっきりする 発汗するようになった 尿量が増加した
便通改善 体の熱感やかゆみ
芍薬甘草湯
加味逍遥散
当帰芍薬散
十全大補湯
六味丸
便通改善
精神安定化 かゆみ 血清Pの上昇
体の熱感やかゆみ
食欲増進 体の熱感やかゆみ
腹部不快感
まとめ
• 慢性腎炎由来透析患者は透析歴が長くなる
慢性腎炎由来透析患者は透析歴が長くなるにつれ
れ
て上肢などに痛みを訴える頻度が増える
• これらの疼痛について問診表を中心とした漢方診
断を行 、そ 証
断を行い、その証について検討した
検討
• 証に従い漢方薬を処方し、約70%の患者で有効で
あった
• 漢方薬の投与前後で血液検査において有意な変
化を認めなか た
化を認めなかった
透析患者の疼痛に処方しやすい方剤
桂枝加朮附湯:手根管症候群による夜間疼痛*
芍薬甘草湯:透析中、夜間などのこむらがえり
牛車腎気丸:背中、腰など体の中心の疼痛
*漢方医学Vol25
漢方 学
No6:266,2002
痛みを訴える透析患者の証
八綱弁証
裏熱虚証 13例
裏寒虚証 19例
燥
燥証 16例
湿証 12例
湿
臓腑弁証
腎陽虚
7例
腎陰虚
8例
例
腎陰陽両虚 15例
肝血虚
心血虚
心気虚
19例
13例
例
肺気虚
15例
脾気虚
23例
25例
臨床で漢方を生かす
香蘇散の症例
症 例
89歳 男性
身長:170cm 体重:50Kg
主訴:感冒症状
現病歴:便秘にてカマグ2 0g分3を処方されていた
現病歴:便秘にてカマグ2.0g分3を処方されていた。
11月28日鼻汁、咳、咽頭痛にて来院。PL顆粒、ロキソニ
ン フロモ クスを処方された 二日後 回分内服しただ
ン、フロモックスを処方された。二日後一回分内服しただ
けで食思不振出現し、感冒症状は改善せずと再度受診し
た。
現症と経過
現症;少し不安そうな表情で力のない話し方
食欲が無く、体に力が入らない
腹部所見:腹力2/5 特に圧痛点は認めず
打診にて鼓音 腸雑音は弱い
処方;ツムラ70
処方
ラ
香蘇散7.5g
香蘇散
g 分
分3 食前 7日分
分
経過;3日後娘来院。異様に元気になったとのこと。
7日後来院。一日で症状改善し、よくなったと喜ぶ。
日後来院。 日で症状改善し、よくなったと喜ぶ。
元気が出るからと希望により、処方継続とした。
香蘇散
和剤局方
勿誤薬室方函口訣
四時の温疫傷寒、頭疼み寒熱往来するを治
す。
莎草 蘇葉 橘皮 甘草
右四味。
香蘇散
此ノ方ハ気剤ノ中ニテモ揮発ノ功アリ。故ニ
男女共気滞ニテ、胸中心下扉痞塞シ、黙々
トシテ飲食ヲ欲セズ、動作ニ懶ク、脇下苦
満スル故、大小柴胡ナド用ユレドモ反ツテ
激スル者、或ハ鳩尾ニテキビシク痛ミ、昼夜
悶乱シテ、建中、写瀉心ノ類ヲ用ユレドモ寸
効ナキ者ニ与ヘテ、意外ニ効ヲ奏ス。
妊娠中です,風邪で熱がありますが
妊娠中です
風邪で熱がありますが
風邪薬を服用してもかまいませんか?
妊娠中の母体は「虚証」と捉える
桂枝湯,香蘇散,参蘇飲 など
一番飲みやすい漢方薬
芍薬甘草湯の症例
透析患者の筋肉の痙攣性疼痛
―下腿の筋攣縮痛―
下腿の筋攣縮痛
原
原因
透析中 急激な血液濃縮
透析中の急激な血液濃縮による微小循環不全
る微 循環 全
⇒透析間の体重増加による除水率の高いものに多い
対策 1)Ca補給
2)除水量の適正化
3)高Na透析
4)50%ブドウ糖あるいは10%NaCl静注
) 0 ブドウ糖ある は 0
Cl静注
5)芍薬甘草湯
症 例 1
20歳台 男性
身長:168cm 体重:63Kg ひょろっとしている
主訴:全身の痛み
現病歴:午後8時頃、自宅で全身の筋肉が攣って動けな
いところを知人に発見され、救急外来受診した。
職業:パン職人 一人暮らし
天候:快晴
最高気温:30度以上
最
度
熱中症が多く発生していた
熱
多 発
現症と経過
現症;上肢が攣ったり、下肢が攣ったりして痛い、何とかしてほ
しいと。連れてきた知人は悪い病気ではないかと心配している。
意識清明、会話可能。時々「あっ、攣った、痛い」と声を上げる。
肺 見
腹部緊張あり。
腹部
張
。
血圧110/60 整、心肺所見なし
診察結果:発汗あり、脱水、電解質異常に伴う筋肉の痙攣
漢方的には全身性筋肉の痙攣。
処方;ツムラ68 芍薬甘草湯2.5g 内服
経過:内服後5分くらいで少しマシになったと。しかし動くとやは
り攣るとのこと。芍薬甘草湯5.0gを追加内服。5分も
しないうちに全身の痛みが消失。5分後には、自分
で起き上がり 点滴を受けて 帰宅した
で起き上がり、点滴を受けて、帰宅した。
症 例 2
60歳台 男性
身長:165cm 体重:67Kg 筋肉質
主訴:全身の痛み
現病歴:午後5時頃、仕事中全身が痙攣して痛くなり、動
けなくなったため、救急搬送された。
職業:瓦職人 朝から瓦を葺いていた
天候:快晴
最
最高気温:30度以上
度
現症と経過
現症;意識清明、会話可能。全身が痛くて、何とかしてほしいと
訴える 時々小さな痙攣様の動きを認める 点滴は多少の震え
訴える。時々小さな痙攣様の動きを認める。点滴は多少の震え
があり、困難な状況。
血圧160/80 整、心肺所見なし
整 心肺所見なし 腹部緊張あり。
腹部緊張あり
診察結果:発汗あり、脱水、電解質異常に伴う筋肉の痙攣
漢方的には肝血虚 肝陽上亢による全身性筋肉の痙攣
漢方的には肝血虚、肝陽上亢による全身性筋肉の痙攣。
処方;ツムラ68 芍薬甘草湯7.5g 一度に内服
経過:内服後5分もしないうちに全身の痛みが消失。
経過:内服後5分もしないうちに全身の痛みが消失
15分後には、自分で起き上がり、靴を履いて帰宅した。
芍薬
古典にみる芍薬甘草湯
1.腹痛に用いる
腹中攣急して痛む者を治す。小児の夜啼きして止まず、腹中攣急
腹中攣急して痛む者を治す
小児の夜啼きして止まず 腹中攣急
の甚だしき者にも奇効あり
芍薬甘草湯、腹痛を止むること神の如し。
類聚方廣義
医学心悟
2.骨格筋の拘攣に用いる
拘
傷寒、脈浮、自汗出で小便数、心煩、微悪寒、脚攣急するに
桂枝湯を与えるは誤りなり。脚の痙攣急には芍薬甘草湯を与えよ
傷寒論
脚弱力なく、行歩艱難なるものを治す。一名、去杖湯という。
朱氏集験方
芍薬甘草湯
傷寒論
伴
疼痛
傷寒、脈浮、自汗出で、小便数、心煩 、微
に悪寒、脚攣急
に、反
桂枝 与 其
の表 欲
此れ誤
咽中乾 、煩
躁 吐逆
の 、甘草乾姜湯 作
之
与 、以
其の陽 復
若 蕨癒 足
温
者に 、更に芍薬甘草湯 作
之
与 れ 、其の脚即 伸
構成 芍薬 甘草
筋肉の痙攣
八綱弁証 裏熱 寒 虚証
効能 急激に起
解釈 筋肉の痙攣 肝の機能失調 肝血虚
芍薬 甘草 緩急止痛の働
、平肝
鎮痙の作用 持
漢方常用処方解説 高山宏世
真武湯の症例
症 例
50歳台 女性 夏に来院
身長:152cm 体重:58Kg
主訴:多くの訴え
現病歴:漢方薬局にて、ヨクイニン、茯苓、人参、甘草、縮沙、白朮、
さんやく、桔梗、当帰、芍薬、沢瀉、川蚵、蒼朮を煎じて内服していた
が 良くならないと来院した クロレラ グルコサミン ビタミンE
が、良くならないと来院した。クロレラ、グルコサミン、ビタミンE、
コンドロイチン硫酸、カルシウムも内服している。
冷房が寒い エアコン苦手甘いものを好む 熱い日本茶好む
肉類は少なく 魚を食べる 温野菜は多い
肉類は少なく、魚を食べる
職業:スーパーマーケットのパートで事務仕事
健康診断は年一回で特に指摘なし
理学所見:体温36.8度 血圧149/88-91、心音純、呼吸音清、
腹部平坦軟、四肢浮腫なし
酒タ
酒タバコなし
なし
家族歴:母 高血圧
患者の訴え一覧表
1:30年前からヒノキ花粉症
2:耳の中がジュクジュクして痒い
3:4年前から空腹でムカムカし、食べると治る
4:足先など冷え症 エアコンに弱い
5:尿の出が良くない
6:良く下痢する
7 尿漏れする
7:尿漏れする
8:今年右第1趾爪白癬
9:両膝痛
現症と経過
現症;脈浮でも沈でもない、舌 歯痕あり、苔は薄い白色、
舌下静脈拡張あり、秏斑あり、腹力 、胸脇苦満あり、
舌下静脈拡張あり、秏斑あり、腹力3/5、胸脇苦満あり、
腹直筋緊張少しあり、へそ横圧痛は両側にあり
診断 裏寒実証 秏血 水滞 胃脾気虚 肺気虚、腎陽気虚
診断:裏寒実証
肺気虚 腎陽気虚
処方;まず標治を考え、足の冷えを目標に五積散処方。二週間
処方;まず標治を考え
足の冷えを目標に五積散処方 二週間
後、下痢は治まった。空腹時の嘔気も改善した。エアコンには
まだ弱い。冷え症残存。耳は乾燥してきて治ってきた。
。冷
残存。
乾燥
。
内服はできていて、良くなる傾向を自覚している。
冷えを改善することで良くなるように思われる。
本治を目指し真武湯に変更。
本治を目指し真武湯に変更
経過
三週間後受診し、以下の点に気づいた。
週間後受診し 以下の点に気づ た
1)下痢回数減少した
2)寝るときに靴下を履いていたが 要らなくなった
2)寝るときに靴下を履いていたが、要らなくなった
3)発汗するようになった。
4)膝の痛みが改善してきた
5)朝尿量が増えてきた
6)食事がおいしくなった
内服続行し、12月には布団を蹴飛ばして寝ていることがあるとのこと
真武湯(傷寒論):裏寒虚証、腎陽虚、新陳代謝の沈衰している
ときに良く用いられる
漢方を科学する
麦門冬湯
監修:
作成:
宮本昭正(日本臨床アレルギー研究所)
宮本昭正(日本臨床アレルギ
研究所)
厚生労働省科学特別研究事業 診療ガイドラインのデータベース化に関する研究班
漢方薬は長年の経験に基づいて喘息での有効性が示されている伝統的医薬である
漢方薬は長年の経験に基づいて喘息での有効性が示されている伝統的医薬である。
柴朴湯は喘息における長期管理での有用性が示されている。小青竜湯、
麻杏甘石湯は気管支拡張作用で急性期に使用されてきた。
最近 咳感受性 亢進し
最近、咳感受性の亢進している喘息における麦門冬湯の有効性が示された。
る喘息における麦門冬湯 有効性が示された
漢方薬は重症喘息や高度発作に適応でなく、軽症・中等症喘息での効果が見られる
例に長期的に使用することが望ましい。
麦門冬湯 : 渡邉直人(獨協医科大学)他:アレルギ
渡邉直人(獨協医科大学)他:アレルギー52(5)485-491
52(5)485-491,2003(評価
2003(評価 ↴ -A)
柴朴湯
: 西澤芳男他:耳鼻咽喉科展望44,5-13,2001(評価 ↴ -B)、
西澤芳男他:日本東洋心身医学研究 17,20-27,2002(評価 ↴ -B)〕
推奨の強さ
A:行うことを強く推奨,B:行うことを推奨,
C:推奨する根拠がはっきりしない,D:行わないよう勧められる
各種メディエーターによる咳反射に対する麦門冬湯の作用
エラナプリル(10mg/kg)
PGE2(10-6M)
ブラジキニン(10-6M)
咳反射数の比
100
80
ニューロキニンA (10-12M)
60
サブスタンスP (10-14M)
40
20
0
カプサイシン(10-10M)
対照
0.5g/kg
1g/kg
麦門冬湯
20mg/kg
コデイン
宮田健ほか Prog.Med. 16:179-184 (1996)
末梢に作用する
新しい視点の鎮咳薬
新
視点 鎮咳薬
ばく
もん
どう
とう
中枢性鎮咳薬
延髄の咳中枢を抑制し、鎮咳効果を
発揮する薬剤
麻薬性:リン酸コデインなど
非麻薬性:デキストロメトルファンなど
末梢性の炎症性メディエータの種類によっては
効果が期待できない。
咳中枢への作用のため、局所での咳反射の増
強メカニズムは改善されないまま残ることにな
る。
末梢性鎮咳薬
末梢の局所における内因性の
刺激の原因である
炎症性メディエータを抑制し、
デ
鎮咳効果を発揮する薬剤
現状では、炎症性メディエータを
抑
抑制する薬理作用を持つ末梢性
薬
持
梢性
鎮咳薬は麦門冬湯のみ
麦門冬湯は作用の行き過ぎもなく、総合的な調節作用で生体の基本的な
反射を残
反射を残しつつ、過敏状態を改善していくことができる。
、過敏状態を改善
く
きる。
(宮田健監修;Mebio,1992年11月号より)
麦門冬湯の構成生薬
麦門冬
ユリ科(Liliaceae)のジャノヒゲOphiopogon japonicus Ker-Gawler
又はその他同属植物の根の膨大部
半夏
人参
サトイモ科(Araceae)の
カラスビシャクPinellia
ternata Breitenbachの
コルク層を除いた塊茎
粳米
イネ科(Gramineae)の
イネOryza sativa L
L. の
殻粒で籾を去った玄米
ウコギ科(Araliaceae)のオタネニンジン
Panax ginseng C.A.Meyer(Panax schinseng
Nees)の細根を除いた根又はこれを軽く湯
通ししたもの
甘草
マメ科(Leguminosae)の
Glycyrrhiza uralensis Fischer
Fischer,
Glycyrrhiza glabra Linne又は
その他同属植物の根及びスト
ロンで、ときには周皮を除く
大棗
クロウメモドキ科(Rhamnaceae)のナツメ
Zizyphus jujuba Miller var. inermis Rehde
r又はその他の近縁植物の果実
生薬ハンドブックより
大建中湯
イレウスに対する大建中湯の効果
-多施設による検討-
多施設 よる検討
かつ担当医がロングチューブ
*
を必要とすると判断した30例を
腹部膨満感
外科の手術後に単純性癒着性
イレウスを発現したもので、なお
TJ--100投与群
TJ
100投与群
TJ
TJ--100非投与群
100非投与群
1日後
3日後
4日後
5日後
比較試験とした。
1日後
*当製品の用法・用量外です。
P<0.05
日後
2日後
3日後
4日後
5日後
後
悪心 嘔吐
投与方法:
大建中湯は、1日3回、1回5gを
微温湯20mlに溶解して注入した。
注入後は1時間クランプしたのち
開放した。
腹痛
封筒法により無作為割り付け
大建中湯投与群 18例
18例
非投与群
12例
12
例
P<0.1
2日後
1日後
2日後
P<0.05
P<0 05
P<0.05
3日後
4日後
P<0.1
5日後
0
50
著明改善
100(%)
改善
0
50
やや改善
100(%)
不変
悪化
久保宣博 Prog.Med. 15(9):1962-1967 (1995)
術後の腸管癒着症の予防に対する大建中湯の効果
胃癌切除した38症例
(6ヶ月観察)でみると
イレウス発症予防目的
発症せず
16例
で大建中湯を投与した
場合、明らかに
場合 明らかに
発症せず
14例
イレウス(腸閉塞)の
予防効果が見られます。
大建中湯
予防的投与群
イレウス・
亜イレウス発症
8例
大建中湯
非予防的投与群
腸管癒着症:
腹腔内の炎症によって生じた創傷治癒機転の結果として生じ、時に
腸管機能を障害する。閉塞が高度のときは腸閉塞(イレウス)となる。
腸管機能を障害す
。閉
高度
腸閉 (
ウ )
。
植田俊夫 JAMA<日本語版>別冊付録 2001年2月号
下部消化管運動機能改善剤の作用部位(推定)
TJ-100
大建中湯
シサプリド
トリメブチン
5-HT1拮抗作用
5-HT4刺激作用
オピオイド
作動作用
PGF2α
小腸
+
+
+
+
大腸
+
+
+
+
小腸
+
+
-
大腸
+
+
-
作用
亢進
運動調整
作用
抑制
腸管血流
増加作用
小腸
±
± or -
大腸
小腸
抗炎症
作用
+
+
大腸
in vitro
+
※空欄はデータの報告がないことを示します。
横浜市立大学 教授 杉山 貢 第10回 外科漢方研究会学術集会 , 2000
TJ-100ツムラ大建中湯の腸管運動亢進作用の機序
コリン作動性神経末端
筋層間神経叢
TJ-100
TJ
100
5-HT
5
HT3 ((+))
5-HT1 (-)
5-HT4 (+)
平滑筋層
1.セロトニン3型レセプター
(5-HT3 )を介したアセチ
ルコリン遊離促進による
腸管運動亢進作用
Ach
Ach
Ach
Ach
Ach
モチリン
TJ-100
2.モチリン分泌促進による
腸管運動亢進作用
平滑筋
粘膜層
バニロイドR
バニロイドR
TJ 100
TJ-100
〔参考:黒澤進(帝京大学附属市原病院)他:MebioVol.20(11),2003〕
3.バニロイド受容体を介した
イ 受容体を介
直接的腸管運動亢進作用
TJ100_3
TJ-100ツムラ大建中湯の各種消化管ホルモンに対する作用(ヒト)
大建中湯の各種消化管に対する作用
プラセボ
TJ-100
モチリン
(pg/mL)
15
*
*
(pg/mL)
10
ソマトスタチン
*P<0.05
ガストリン
(pg/mL)
30
25
7.5
20
血中濃度
血中濃度
血中濃度
10
15
5
5
10
2.5
5
0
0
0
0
50
100 150
時間(分)
200
0
50
100 150
時間(分)
200
0
50
100 150
時間(分)
200
■T NAGANO, et al:Biol Pharm Bull, 22(10)1131-1133(1999)
TJ--100
TJ
100大建中湯の構成生薬と薬能
大建中湯の構成生薬と薬能
大建中湯
吸収されて効力
(中枢性)
人参
胃粘膜・腸管に対する
直接刺激
抗痙攣作用
山椒
椒
+
(健脾益気)
消化管運動亢進作用
鎮痛作用、制吐作用
腸管輸送促進作用
抗消化性潰瘍作用
乾姜
(温中散寒)
膠飴
〔杉山貢(横浜市立大学救命救急センター):JAMA
〈日本語版〉別冊付録2001年2月号〕
軟便化作用
栄養補給
今後の漢方の方向性
古典的漢方:気血水など証に基づいた処方
づ
‹ 現代的漢方:漢方を科学し、実験デ
現代的漢方:漢方を科学し 実験データに基づいた
タに基づいた
処方
‹ 国際的漢方:アメリカ合衆国など代替医療やハーブ
国際的漢方 メリカ合衆国など代替医療や
ブ
療法に理解のある国での流行
‹ 未来の漢方:遺伝因子や環境因子より証が決まり、
症状を入力すると処方が決まる?
‹ 漢方の危機:原材料の確保?
‹
臨床で漢方を生かすために
患者を治すのに西洋も東洋も無い
西洋薬でも漢方薬でも使える薬は、勉強して使えるようにする
漢方薬には、即効性を期待できるものがある
西洋薬と漢方薬の併用は可能である
無理に漢方薬を使わない
病気の原因を良く考える。そのためには患者の話は勿論、生活背景も良く聴く
何が患者にとって苦痛かを良く聴く
漢方には未病を治すという考え方がある
漢方は基本的に病気の症状ではなく、症状から病気の原因を漢方的に診断、処
方、そして体そのものを良い状態にすることで病気を治そうとする考え方である
漢方を過信してはいけない
副作用はあるが、思わぬ良い効果もありえる
漢方の知識で患者の生活指導も可能である
自然の中で人間は生かされており、何事にも感謝の気持ちを忘れない
自然
生
れ
何事 も感謝 気持 を れな
参考資料
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漢方・中医学講座-基礎理論編 入江祥史 医歯薬出版 3780円
まんが 黄帝内経 医道の日本社
道
本社 1470円
まんが 中国医学の歴史 医道の日本社 1470円
症例から学ぶ和漢診療学 寺澤捷年 医学書院 4429円
臨床の現場よりの漢方レポート 大田黒義郎 エルセビア・ジャパン 1732円
漢方医学 大塚敬節 創元医学新書 1200円
中国医学から診た病気でない病気(BLUE
中国医学から診た病気でない病気(
U BACKS)小高修司
C S)小高修司 講談社 740円
0円
三千年の知恵 中国医学のひみつ(BLUE BACKS)小高修司 講談社 760円
弁証図解 漢方基礎と臨床改訂第4版 高山宏世 三考塾 1995円
平成19年7月29日現在