交通事故事件鑑識要領の制定について(例規通達)

○交通事故事件鑑識要領の制定について(例規通達)
昭和 45 年 11 月 10 日
群本例規第 51 号(鑑)警察本部長
〔沿革〕
昭和 51 年3月群本例規第3号(務)、平成 14 年4月第 20 号(交指)、26 年3月第8号(刑企)改正
交通事故事件の現場鑑識にあたり必要な事項を各部門別に取りまとめ、次のとおり交通
事故事件鑑識要領を制定したから、犯罪鑑識の機能を結集した総合的、積極的な活動を迅
速、的確に、しかもち密に行ない、現場鑑識の徹底をはかるようにされたい。
なお、交通事件鑑識要領(昭和 37 年群鑑発第 952 号・群交二発第 229 号)は、廃止す
る。
記
交通事故事件鑑識要領
目 次
第1 現場保存と見分(資料の収集)
1 現場保存について
2 現場見分について
第2 現場鑑識の順序
第3 写真の撮影
1 指揮者の心構え
2 撮影者の心構え
第4 被害者に対する処置
1 創傷部位等の観察
2 重傷者および死体に対する処置
3 解剖手続
第5 資料の採取
1 一般的な留意事項
2 現場の見かた
3 資料の採取および処理上の注意
4 容疑自動車からの資料の採取
5 対照塗膜片の採取
第6 車両機能の検査
第7 運動力学的解析の活用
第8 アルコール検査
第9 ポリグラフの活用
第 10 基礎資料の整備
1 事故事件現場からの資料収集
2 関係業者からの資料収集
第1 現場保存と見分(資料の収集)
交通事故事件の現場から得た各種の資料は、犯罪の内容を正確には握してその証明に
役立たせるため重要なものであるから、現場に遺留され、犯行に基因したと認められる
スリツプこん、タイヤこん、血こん、塗膜片、ガラス片、部品その他有形・無形の資料
は、破壊または散逸しないように万全の保存措置を講じなければならない。
なお、この種の現場鑑識は、交通ひん繁な道路とか、現場の状況で交通しや断ができ
ない場所等で行なわれることが多いから、資料の収集にあたつては、その設備器材を十
分に活用して迅速に行なう必要がある。したがつて、現場保存および見分にあたつては、
次の事項に留意しなければならない。
1 現場保存について
現場保存の良否は、ただちに捜査に重大な影響をおよぼすから、迅速に臨場し、次
の事項に留意して確実に保存をすること。
(1) 速やかに防護さくやセフテーコーン等を配置し、状況により、う回路を設けて
交通を遮断し、又は片側通行制限等の措置を迅速に行い、なるべく広範囲にわたる
現場保存区域の設定をすること。
(2) 気象条件その他により変形または散逸するおそれのある資料については、ただ
ちに、おおいをかけるか、写真撮影をした後、その所在場所、形状等を明らかにし
て採取すること。
(3) 現場保存に熱心なあまり、負傷者の救護を怠つたり、交通の渋滞を生じさせた
り、他人にめいわくをかけたりすることのないようにしなければならない。
2 現場見分について
ひき逃げ事件の場合、事故の処理に加えて、「犯人の検挙」すなわち「逃げた車両
は何か。」を考えることが特に重要である。
そこで、実況見分にあたつては、その手配に必要な次の各種資料の収集につとめな
ければならない。
(1) 加害車両の逃走方向を認定する資料
ア 被害関係者、目撃者、参考人等の供述内容
イ 加害車両が残したと認められる資料
(ア) タイヤこん(スリツプこんを含む。)
(イ) 自動車の部分品・破壊片・積載物等およびその飛散状態
(2) 加害車両の車種を推定する資料
ア タイヤこん(スリツプこんを含む。)の間隔(てつ間距離)
イ タイヤこんの紋様
ウ 遺留されている、車両の部分品・破壊片(ライトその他のガラスの破片、はく
離した塗膜片・メツキ片)等
エ 飛散している積載物および車体に付着していたと認められる特有の泥・チリ等
オ 被害者の身体・衣服・携帯品等または被害車両に残された次の資料
(ア) 被害者の衣服その他に印象されているタイヤこん
(イ) 被害者の身体・衣服等に付着しているガラス破片、塗膜片及び塗料
(ウ) 加害車両の接触部分を明らかにするこん跡および創傷の状態
(エ) 被害車両に付着している諸物資および被害車両の損傷部位の形状
(3) 加害車両の損傷の状態および負傷者の血こん・毛髪等の付着状況を推定する資
料
第2 現場鑑識の順序
現場鑑識は、犯罪捜査に関する訓令(昭和 37 年群馬県警察本部訓令甲第1号。以下
「捜査訓令」という。)第 104 条の規定に基づき、鑑識専従員その他専門的知識を有す
る者の技術を活用して、綿密かつ正確に行なわなければならないが、この種事件事故の
性質上、交通ひん繁な場所において実施する場合が多いから、特に順序よく迅速に行な
うことが肝要である。
第3 写真の撮影
1 指揮者の心構え
(1) 計画の樹立
現場に到着したら、すみやかに次の事項を検討したうえで計画をたて、これに基
づいて手順よく撮影が進められるように指揮すること。
ア 事件事故現場の全ぼうをは握して、撮影箇所の選定を行なうこと。
イ 留置物件その他事件に関係あるものの所在について確認しておくこと。
ウ 現場に負傷者があるときは、その救護を、他の作業に優先して行なわなければ
ならないが、この場合においても、つとめて、死傷者の倒れている状態を原状の
まま撮影させるように心がけ、やむを得ないときは、その位置をチヨークなどに
よつて明らかにしてから移動し、その状況を撮影させること。
(2) 撮影における指揮
交通捜査班長及び命を受けた幹部は、系統的、能率的に撮影を行うため、次の事
項に留意して統制のある指揮を取ること。
ア 撮影者の撮影上の知識・技能の程度およびその進め方の能力をは握すること。
イ 撮影の要点がはずれ、調書の内容と遊離して現場写真としての価値を失わない
ようにすること。そのため、次の事項に留意すること。
(ア) 撮影目標には、当事(被疑)車両を基準として必要により番号札を置き、
被写体全体を画面中央に位置すること。
(イ) 撮影範囲を、右と左はどこからどこまで、手前と先方はどこからどこまで、
というように具体的に指示すること。
(ウ) 前に撮影した場面と、場所的あるいは事物の存在等の関係から相互に関連
をもたせ、方位に従つて次の場面が撮影できるように、注意深く指示すること。
(エ) 撮影する位置または角度を誤ると、実体とかなり相違するものとなつて、
証拠あるいは捜査資料としての価値がきわめて減殺されるから、カメラの高さ、
角度等に注意して被写体にカメラのレンズが正しく向くように、指示すること。
2 撮影者の心構え
(1) 事前の準備
交通事件事故の現場では、被害者の救護と迅速な処理とが要求されるので、いつ
命令を受けてもただちに出動できるように、常に必要な器材の整備をしておくとと
もに、事案に応じて器材の選択ができるように心がけなければならない。
ア 現場の撮影は、一般に広範囲にわたる場合が多く、また、拡大撮影をしなけれ
ばならないこともある。
この種撮影には、画面サイズの大きいものがよいのであるが、35 ミリカメラ
を使用する場合には、画面サイズが小さいことを考慮して撮影しなければならな
い。
イ カメラのほかに、携行しなければならない器材は、次のとおりである。
(ア) ストロボ
(イ) フード、フイルター、レリーズ
(ウ) 白黒フイルムおよびカラーフイルム
(エ) 露出計
(オ) 三脚
(カ) 懐中電燈
(キ) スケール
(ク) チヨーク
(ケ) 脚立
(コ) 立会人札
(サ) リボンメージャー
(2) 出動前の器材点検
器材は、その性能にわずかな欠点があつても、撮影の進行に支障をきたすばかり
ではなく、その結果にも影響をおよぼすから、出動前に次の事項を点検しなければ
ならない。
ア シヤツターの機能
イ シンクロの同調の有無
ウ フイルムの装てんの有無
エ 補充フイルムの有無
(3) 撮影上の一般的注意事項
ア 指揮者から指示された撮影の目標を正確には握し、技術的な事項については、
撮影者の判断により最善の方法で処理すること。
イ 撮影は、検証および現場鑑識の進行につれて行なわれるので、ふたたび撮影す
ることができない対象物が多いから、1回の撮影で完全に目的が達せられるよう
につとめること。
また、撮影の遅速は、検証および現場鑑識の進行に影響するので、敏速に行動
し操作を行なうこと。
ウ 現場には、やじ馬等が集まることが多いから、立入制限などによる整理が完全
に行なわれてから撮影すること。
また、不用意のうちに臨場者あるいは鑑識器具等のような不必要なものが撮影
されないように確認すること。
エ 昼間においても、周囲の状況、被写体の状態によつては、照明具を使用して撮
影すること。
(4) 現場の状況撮影
ア 一般的撮影
(ア) 現場周囲の状況を明らかにするため、事件事故の現場を中心として、道路、
建物、信号機、道路標識等の状況を明確に撮影すること。
(イ) 当事者が進行してきた方向から現場に向けて、現場の全ぼう(特に見通し
状況、交通状況)が説明できるように撮影すること。
パノラマ式撮影
現場が非常に広く、その場所的関係を連けいの景状にする必要がある場合に、
一般撮影では目的を達することができないときは、次の要領によりパノラマ式撮
影によるつなぎ写真をとること。
(ア) 撮影は、全景を撮ることができる位置を基点として行うこと。
(イ) 撮影には、原則として三脚を使用すること。
(ウ) 露出と絞りは、おのおのについて変更しないこと。
(エ) 画面の中心を一定にするために、家屋の軒なみ、道路等のような長い線を
求めて基準とし、その線に沿つてカメラの方向を移行して撮影すること。
なお、撮影の範囲は、おのおの若干の重複を見込んでおき、重要な場面がつ
ぎ目にならないように注意すること。
(オ) パノラマ式撮影の画像は、中心部に比較して側端部がゆがむ場合があるか
ら、つなぎ合わせ枚数は、4枚ぐらいが適当である。
ウ 夜間撮影
(ア) 必要により三脚を使用すること。
(イ) 絞りについては、とくに焦点深度に注意すること。
エ 加害車両の運転者の位置から見た現場の撮影
事故を起こす直前の、運転者の位置(自動車等を運転している状態における位
置)から見た前方の見通しや、視界を妨げたものの状況等を知るための資料とし
て必要のあるときに撮影するものとする。この場合、カメラの位置は運転者の目
の高さとし、前方おおむね 90 度(両眼からの視界)ぐらいの広い角度(2枚つ
なぎ)の範囲を撮影すること。
オ 車両の撮影
事故車両等の撮影は、事故原因や当時の状況を知るのに必要であり、証拠とな
るものが多数存在するので、相対的関係が明らかに現われるように注意すること。
(ア) 一般的撮影
a 車体の位置・状態、前車輪の方向、車体の損傷状態が明確に現われるよう
に全車体を撮影すること。
数方向から撮影するときは、おのおのの場合のカメラの高さは、なるべく
同じにすること。この場合、位置関係を明確にするために、付近にある電柱、
家屋、道路標識の一部を入れると効果的である。
b 数台の車両が衝突したような場合には、双方の状況が明らかになるように、
おのおの輪跡に関連性をもたせて撮影すること。
c 被害者と加害車両との位置、状態およびスリツプこんの関連がわかるよう
に撮影すること。
d 車両の損傷によつて落下したガラス片、塗膜片、油類、土砂等は、その状
況が明確に現われるように、相互に関連をもたせて撮影すること。
(イ) ひき逃げ容疑車両の撮影
ひき逃げ事件の容疑車両を発見したときは、すみやかに領置または差押えを
して保存し、事件発生当時の状況が再現できるように、次の各種資料を撮影す
ること。
a 車両の全景を多角的に撮影し、損傷箇所、塗膜の修繕箇所等については、
必ず番号札(又は矢印)を添付し、接写又は近接撮影によつてその状態を明
確にしておくこと。
b 被害者の血こん、毛髪、肉片あるいは着衣の布片等について、その位置、
状態、形状、特徴等が最も明確に現われるように、必ず番号札(又は矢印)
を添付し、写真撮影を行うこと。
c 塗膜はく離こん、擦過こんが肉眼的に区別しにくい場合は、特殊光線利用
の鑑別撮影を行なうこと。
d 盗難自動車によりひき逃げ事件を起こし、車両を現場に乗り捨てて逃走し
たような場合や、同乗者のある車両によるひき逃げ事件の場合には、その車
両の内部の状況、遺留指紋、遺留品等についても撮影すること。この場合に
おいて、各遺留品には必ず番号札(又は矢印)を添付し、その後個々に接写
による撮影を行い、証拠価値の確保に努めること。
イ
e
照合撮影
現場から採取した窓ガラス、ライトガラス、塗膜片の形状又は破断面が容
疑車両の該当部分の形状や破断面と一致するときは、その合致の状態が明確
に現われるように、精密な接写撮影を行うこと。
カ タイヤこんの撮影
(ア) 平面タイヤこん
a 平面タイヤこんの撮影に当たっては、写真機の位置をこん跡に対して垂直
にし、左右輪跡の位置・方向・長さ・形状・間隔・特徴等が分かるようにス
ケールを当てて撮影すること。
b 肉眼的に辛うじて見える程度のものについては、これに適応する斜光線を
利用し、又は印象面にオキシドールを噴射し発砲直後を撮影すること。
また、石灰を使用する場合は、タイヤこんそのものの上にまかないように
すること。
(イ) 立体的なタイヤこん
湿地、雪中等におけるタイヤこん、スリツプこんは立体的であるが、光線の
状況によつて平面的に見える場合にはその形状や特徴がは握しにくいから、斜
光線を用いる等して効果をあげるようにつとめること。
(ウ) 接触こん・衝突こん
車両が接触又は衝突したと認められる現場においては、その対象物件を詳細
に撮影すること。車両塗料が付着している部分には必ず番号札(又は矢印)を
添付し、接写撮影によつてその状態を明確にしておくこと。
(5) 被害者の撮影
ア 負傷者の撮影
負傷者の救護は他の作業に優先するが、その場合においても、できる限りその
状況を明らかにするために、次のことに留意し、その位置や体位をチヨーク等の
人形線で書いてから撮影すること。
(ア) 加害車両、スリツプこん、タイヤこん等と負傷者との関係が明らかにわか
るように撮影すること。
(イ) 負傷者の身体・着衣・携行品等に印象されているタイヤこん等は、移動に
より消滅したり、不鮮明になつたりするおそれがあるから、消滅しないうちに
速やかに特殊光線等を利用して撮影すること。
(ウ) 負傷者の損傷については、その部位・形状・大きさが明らかにわかるよう
に撮影すること。この場合において、必要のあるときは、カラー写真を利用す
ること。
イ 死体の撮影
(ア) 発見時の撮影
発見当時のままの状態を、次のことに留意して撮影すること。
a 死体の状態と加害車両、スリツプこん、タイヤこん等との関係が明らかに
わかるように撮影すること。
b 死体のみの状態を撮影するときは、カメラの位置を死体の中心部におき、
画像が変形しないように注意すること。
(イ) 解剖時の撮影
死体の損傷状況の撮影は、次により行なうこと。
a 全身撮影は、着衣のままの状態と、裸体の状態の前面と背面とについて、
被害状況が明らかにわかるように行なうこと。
b 傷口及びその周囲に土砂が付着している場合、これが油類等で汚れている
場合等は、その状況が明らかに指摘できるように撮影すること。
c 死体に見られる傷口周囲の色相及び皮下出血の状態について撮影するこ
と。
d 剖見写真は、解剖の進行につれて必要部位の撮影を行うこと。
第4 被害者に対する処置
1 創傷部位等の観察
被害者の創傷の部位・形状・程度を知ることは、加害車両を発見するうえにたいせ
つなことであるから、詳細に観察し、さらに、治療に立ち会つて、受傷部位、出血の
状態、出血量、手当の内容等についても正確に観察しておくこと。また、治療の際の
ガーゼ、脱脂綿等も採取しておくこと。
着衣等の取扱いはとくに注意して行ない、これらに印象されているタイヤこんや付
着物等は、もつとも重要な証拠となるものであるから、見落しのないように見分する
とともに、被害車両や物件も綿密に検査すること。
2 重傷者および死体に対する処置
現場に重傷者または死体がある場合には、捜査訓令第 64 条、第 65 条および第3章
に定めるところにより処置しなければならない。
3 解剖手続
死体を解剖する必要があると認めるときは、事案の概要を交通部交通指導課(以下
「交通指導課」という。)を経て刑事部科学捜査研究所(以下「科学捜査研究所」と
いう。)次席に通報し、解剖手続の請求をするものとする。
第5 資料の採取
1 一般的な留意事項
事件現場又は容疑車両から発見採取した各種資料は、常に、最終的には、公判廷に
おける証拠としての信ぴょう性が確保できるような方法を講じた上、採取し、及び証
拠化しなければならない。
そのためには、一般的に、次のようなことに留意し、その経過を明らかにしておか
なければならない。
(1) 第三者の立会いを求めるなど現場との結び付きを明らかにする方策を講ずるこ
と。
(2) 写真に撮影しておくこと。
(3) 検証調書、実況見分調書、現場見取図等に記録するとともに、採取経過報告書
を作成しておくこと。
2 現場の見かた
事件事故現場の地形、路面、道路の幅員等の状態を十分は握したうえ、その現場に
残されたこん跡、遺留物件などを調査し、そのこん跡または物件の遺留が、どのよう
な条件のもとで、どのような車両のどの部分から生じたものかを詳細に検討し、現場
と加害車両と被害車両との結びつきについて、合理的、科学的に判断することが肝要
であり、現場を観察するうえに留意すべき点は、次のとおりである。
(1) 加害車両が接触または衝突したと認められる現場に落下している土砂の状態ま
たは施設もしくは設置物件の損壊状況などを観察することによつて、加害車両の破
損箇所、破損状態および衝突部位を推定すること。
(2) 被害者の創傷の部位・形状・程度および着衣の破損状態を観察することによつ
て、加害車両に血こん、肉片、毛髪または着衣の一部等が付着しているであろうこ
とを推定すること。
(3) 被害者の身体・着衣・携帯品等に印象された加害車両のこん跡の状態を観察し、
塗膜片、油類、タイヤこん等が発見されれば、これにより加害車両の塗色、タイヤ
の種類等を推定すること。
(4) 落下積載物、破損ガラス等の形状および散乱の状態によつて加害車両の用途・
種別が推定でき、ガラス等からは運転者または関係人の指紋が検出できることに留
意すること。
(5) タイヤこんおよびスリツプこんを発見し、その印象状態を観察することによつ
て、加害車両の種別、速度、事件発生直後の状態、逃走方向を判断すること。
(6) 運転者等が、車両に付着している血こんをふき取つた紙や布を捨てていく場合
もあるから、観察はできるだけ広範囲に行なうこと。
(7) 現場には、加害車両の運転者等の足こん跡が印象されている場合があるから、
十分配意して観察すること。
3 資料の採取および処理上の注意
(1) 血こん(血液・肉片等を含む。)の採取
血こんは、貴重な資料であるから、見のがさないよう周密細心の注意を払い、次
の要領で採取、処理を行なうこと。
ア 採取箇所ごとに清潔な木綿糸、脱脂綿、ガーゼ、綿棒等で採取すること。
イ 血液が固着しているときは、採取箇所ごとに清潔なナイフ、メス等で丁寧に削
り取ること。
ウ 採取した血こんを鑑定のために送付する場合には、採取箇所別に血こんをビニ
ール袋に入れ、採取箇所を明記しておくこと。この場合において、資料がぬれて
いるときは、必ず乾燥してからビニール袋に入れること。
また、鑑定のための比較対象資料として、解剖時又は治療の際に被害者の血液
又はだ液を取っておくこと。
(2) 毛髪・繊維類の採取
毛髪・繊維類に組織片、血液等が付着している場合は、そのままの状態で採取す
ること。
現場で発見した毛髪は、傷を付けないようにして全部を採取すること。
また、鑑定のための比較対照資料として、解剖時又は治療の際に被害者の毛髪を
採取する場合は、受傷状況を考慮しながら、損傷部に接近した部位数箇所等から毛
根部の付いたもの5~6本ずつを取つておくこと。
損傷部がはつきりしない場合は、頭の頂部、前後、左右からそれぞれ5~6本ぐ
らい採取し、採取箇所ごとに明りように区分しておくこと。
なお、採取した毛髪は、「毛髪採取票」に採取箇所ごとに1本ずつビニールテー
プで固定及びちょう付した後、ビニール袋に入れて送付すること。この場合、毛髪
を折らないように配意すること。
着衣、破片その他これらの繊維については、なるべく多く採取し、少量のときは、
ビニール袋に入れるか、清潔な紙に包み封筒に入れること。
微小な物を採取するときは、ゼラチン紙を用いて採取すると効果的である。
(3) 塗膜片の採取
捜査資料として必要な車両の塗膜は、上塗りの色のみでなく、上塗りから下塗り
に至るまでの各層を備えたものでなければ車種特定まで至らない。
塗膜片は、その破断面と容疑車両の損傷部、塗膜破断面又は塗膜構成の特徴とが
合致することにより、接触した事実を確実に証明できるものであるから、これらの
点を考慮して採取すること。
ア 塗膜片は、事件事故の状態によつては広範囲に飛散するので、綿密に検索する
こと。
イ 採取に当たっては、細かい破片にならないように注意し、損傷部の周囲から満
遍無くできるだけ多く採取して、薬包紙等に包むこととし、細かい資料を直接ポ
リ袋には入れないこと。
ウ 被害者の着衣等に付着している塗膜片は、被害者を動かしたり、着衣を脱がせ
たりする際に落ちてしまうので、大きな白紙等に払い落として採取し、塗色(塗
膜の色)が付着している物は、そのまま鑑定資料とすること。
エ セロテープを使用して塗膜片を採取しないこと。
(4) ガラス破片の採取
事件事故現場には、各種ガラス片が散乱していることが多く、ときには、被害者
の身体・着衣、相手車両等に付着していることもある。
照明燈ガラス片、方向指示器ガラス片、同プラスチックカバー等には、縦線、横
線、格子模様等があるほか、容疑車両の特定を容易とする刻印(製造メーカー、部
品番号、記号等)がある。また、現場から採取したガラス片と容疑車両に残つてい
るガラス片との破断面が一致する場合には、これにより加害車両を決定できる。
このため、収集は広範囲に行ない、残らず採取することにつとめ、破断面を破損
しないように紙に包むか適当な容器に入れ、大きな破片は細片にならないように細
心の注意を払い採取袋に入れること。
(5) スリツプこんの採取
現場には、スリツプこんが印象されていることが多いが、これを測定撮影してお
くと、被疑者の過失を判定したり、事件事故時の車速を算定したりすることができ
る。
また、スリツプこんを次のようなことに注意して観察すると、加害車両の逃走方
向を推定することができる。
ア スリツプこんは、ブレーキをかけた位置から次第に濃くなり、ストツプした位
置に停止線が残る。
イ 道路上にある小石などが、最初にあつた場所から掘り出され、車両の進行方向
に向かつてその位置を移動し、小石の穴が元の位置に残つている。
ウ 地面及び土砂堆積部のスリップこんをよく観察すると、タイヤ面の摩擦により
飛散がみられ、この状態から進行方向の推定が可能となる。
車てつこんの採取
車てつこんは、紋様・特徴等によつて加害車両を決定し得る捜査上重要な資料で
あるから、次により注意して採取すること。
ア タイヤこんは、写真撮影のみでなく、立体的なものはもちろんのこと、平面的
なものでも、平面こん跡の採取要領により石膏などで採取すること。
イ 土砂等の軟土面や夏のアスフアルト路面、コンクリート路面の泥土などにも立
体こん跡が残る場合もあるので、よく観察し、石膏などで採取すること。
ウ コンクリート舗装路面のうすいスリツプこんなどは、アルミ粉末などで検出す
ると予想外に鮮明にあらわれることがある。
エ 被害者の着衣などに印象されているタイヤこんは、消失しないように注意して、
すみやかに写真撮影し、必要により領置して保存すること。
オ タイヤこんが長い距離にわたつて印象されている場合は、できるだけ長く(車
輪1回転の長さ)採取すること。
(7) 土砂の採取
事件事故の際路面等に落下した土砂を観察することによつて、衝突位置、加害車
両との結びつき等を決定できる場合があり、重要な資料であるから、その発見につ
とめ、次の点に留意して採取すること。
ア 現場又は被害者の着衣等に相当量の土砂が落下又は付着している場合は、紙に
包むか、量に見合ったビニール袋又は封筒に入れて密封すること。
湿つた土砂は、必ずビニール袋に入れて密封するか、ガラスびんに入れて密せ
んし、採取場所ごとに区別して容器に入れること。
イ 容疑車両から対照土砂を採取するにあたつては、事案の状況に応じて、タイヤ
・泥よけ・積荷等から各別に採取すること。
(8) 油類
現場に飛散し、又は被害者の着衣等に付着している油類は、事件事故車両の油質
と対照するために採取するのであるから、採取に当たっては、液体の場合はスポイ
トで採取してからガラス容器に密封し、広がっているものは清潔なガーゼか脱脂綿
でふき取るようにして、やや多量に採取し、乾いた清潔なガラスびんに入れて密せ
んするか、ビニール袋に入れて密封すること。
4 容疑自動車からの資料の採取
捜査の結果被疑者を検挙し、または容疑車両を発見したときは、次の要領で綿密に
観察すること。
(1) 指掌紋の採取
容疑車両には、被疑者または被害者の指掌紋の付着していることが考えられるの
で、次の点に留意して採取につとめること。
ア 自動車の表面には指掌紋がつきやすく、ひき逃げ事件の場合は、被害者の指掌
紋が付着していることがあるので、必ず検出を試みること。
イ 加害運転者を確認するためには、容疑車両の運転席等から指掌紋を採取するこ
とが必要である。
また、車体表面の払しょくこんについても斜光線を利用して撮影を試みること。
(2) 衝突こん・擦過こんの採取
衝突こん、擦過こんは、相手の物体と対照して加害車両であることを証明するた
めの資料となるので、次により採証につとめること。
ア デフケース、クランクケース等車体の下部に擦過こんがある場合には、写真撮
影により採証すること。
イ 衝突こん、擦過こん、塗膜のはく離こん等は、写真撮影し、状態によつては、
モデリング、石膏、シリコンラバー等を用いて採型すること。
ウ 車体に被害者の衣服の布目等が印象されている場合には、写真撮影後、ゼラチ
ン紙を用いて採証すること。
また、車体表面の払しょくこんについても斜光線を利用して撮影を試みること。
(3) 繊維類の採取
加害車両の損傷部その他接触部等には、被害者の繊維類が付着している場合が多
いので、次の点に留意して採証につとめること。
ア 接触したと推定される箇所に重点をおいて、単繊維のような微小なものまで見
(6)
逃さないように、斜光線、拡大鏡等を使用して綿密に検査し、採取に当たっては、
採取者の繊維が付着しないように十分注意しながらピンセツトで採取(細かいも
のは、ゼラチン紙を用いて採取)し、ゼラチン紙に添付すること。
イ 土砂・じんあい・油類等が固着していて、これをゼラチン紙で採取できないと
きは、清潔な紙の上へ削り落とす等の方法で採取すること。
(4) 血こんの採取
被害者が受傷している場合には、加害車両に血こんが付着していることが多いか
ら、次の点に留意して採証につとめること。
ア 塗色とまぎらわしい場合には、斜光線を利用する等の方法で発見識別して、採
取につとめること。
イ 採取及び送付の方法については、第5の3の(1)(血こんの採取)に準じて行
うが、固着した血液をナイフ、メス等で削り取る際は、塗膜をはく離しないよう
に注意すること。
ウ 当然血こんが付着していると予想される部位であつて、肉眼では判別できない
場合は、ルミノール検査法により検査を行なうこと。
エ 血こんの付着量が微量で採取が困難な場合には、科学捜査研究所(法医係)に
連絡して指示を受けること。
(5) 毛髪組織片等の採取
被害者の受傷により毛髪や各種組織片等が車両の各部に付着している場合もある
から、毛髪や各種組織片等に損傷を与えないように注意して、全量を採取するよう
にすること。なお、毛髪の採取及び送付の方法については、第5の3の(2)(毛髪
・繊維類の採取)に準じて行うこと。
(6) 油類の採取
被害者の着衣等に油類が付着している場合は、容疑車両の油類と対照することに
よつて加害車両を決定するための重要な資料となるので、次の点に留意して採取に
つとめること。
ア 採取に当たっては、汚れた布片、新聞紙等を用いるとその後の捜査を困難にす
るので、清潔なガーゼ又は脱脂綿により採取すること。
イ 容疑車両から対照用の油類を採取するときは、採取箇所を明らかにして、箇所
別になるべく多量に採取すること。
(7) 対照タイヤこんの採取
ア 対照タイヤこんは、鑑定資料とほぼ同一条件のものを採取することが望ましい
ので、原則として、立体こんについては立体印象こんを、平面こんについては平
面印象こんを採取すること。
イ 同一車両のタイヤが、前後左右のいずれも等しい模様であつても、各タイヤの
全部について採取すること。
ウ 対照タイヤの形・模様を平面的に採取するにあたつては、中央紋型(接地面)
と横側紋型(側面部)を1枚の白布に同時に採取すること。
エ 対照タイヤの形・模様を石膏で採取した場合は、足こん跡採取の場合に準じて
裏面に諸事項を記入すること。
また、その他車両の種類・所有者・タイヤの種類・寸法等を記入するように配
意すること。
5 対照塗装膜の採取
対照資料として車両から塗膜片を採取するには、鑑定処分許可状か車両主の任意提
出が必要であるが、次の点に留意して採取すること。
(1) なるべく大きな塗膜片を、下塗りから各層を含めて証拠資料以上の量を、はく
離箇所周辺から採取すること。
(2) 同一車両であつても、塗装状態(厚さ及び層)が異なる部位があるから損傷周
辺数箇所から必ず採取し、紙に包みビニール袋に入れること。
第6 車両機能の検査
車両の構造又は機能に異常が疑われる事故については、ステアリング装置、ブレーキ
装置等の点検を行い、故障又は欠陥の有無を明らかにしておくこと。この場合において、
必要があるときは、交通指導課を経て科学捜査研究所に鑑定を依頼すること。
第7 運動力学的事故解析の活用
一方の当事者が死亡して供述が得られない、他に目撃者が存在しない、両当事者の供
述に矛盾があるなどの理由により事故の状況が判明せず、過失の認定が困難な場合は、
力学的事故解析を活用することにより、事故時の速度、衝突地点の特定、事故時の車両
の挙動等の事故形態を鑑定で明らかにすることができる。
なお、科学捜査研究所に鑑定を依頼するときは、次の鑑定資料が必要である。
1 事故車両
2 実況見分調書(現場見取図)
3 車検証の写し(乗車定員、積載量)
4 事故現場及び事故車両の写真(ネガフィルムとする。)
5 車両損壊状況図(ステカメ図面)
6 供述調書
第8 アルコール検査
1 飲酒めいていしている被疑者について、血液中のアルコール濃度を検査する必要の
あるときは、鑑定処分許可状及び身体検査令状を得て、医師に採血を依頼すること。
また、出血しているものを採取する場合も、担当の医師に依頼することが望ましい。
ただし、現場の血液採取については、凝血しないうちに、臨場者が早期に採血すべ
きである。
血中アルコールの濃度測定のための採血及び送付上の留意事項は、次のとおりであ
る。
(1) 採血用試験管は、必ず、科学捜査研究所から配布された凝固防止剤入り試験管
を用いること。ガーゼに付着させることは行わないこと。
(2) 可能な限り多く採血することとするが、鑑定処分許可状によるときは、その記
載の範囲内の量を採取すること。また、現場の流出血を採取する場合は、可能な限
り泡立てないように注意し、病院内で採血するとき、及び治療台に流出した血液を
採取するときは、消毒用アルコールの有無を確認すること。
(3) 採血試験管に指定された量の血液を入れたら、静かに数回振り、凝固防止剤が
溶けるようにすること。
(4) やむを得ず病院等の試験管等を使用する場合は、空の同一試験管を併せて送付
すること。
(5) 科学捜査研究所に鑑定を依頼するときは、特使等の方法により、早急に送付す
るようにすること。
2 被害者についてアルコール検査の必要があるときは、前項に準じて行なうこと。
第9 ポリグラフの活用
被疑者が否認し、又は捜査上必要があると認められるときは、交通指導課交通捜査班
長に事案概要を報告するとともに、協議し、事案解決に向けた効果的活用を図ること。
この場合において、事件担当者は、科学捜査研究所心理係と聴取事項等に関する事前打
合わせを行うものとする。
なお、ポリグラフ検査活用に際しては、次の点に留意すること。
1 取調べの初期に検査することが望ましいこと。
2 精神的、身体的に故障のある者は、検査を避けること。
3 被検査者の承諾を得ること。
第10 基礎資料の整備
交通事故事件の鑑識活動を効果的に推進するため、タイヤの模様、塗膜その他必要な
基礎資料の収集につとめなければならない。
1 事故事件現場からの資料収集
現場に臨場した際は、事故事件の大小にかかわらず、積極的に各種資料の収集に努
め、適宜採取袋等に入れ交通指導課交通鑑識係に送付すること。
2 関係業者からの資料収集
自動車の製造業者、販売業者、修理業者等の協力を得て、カタログ、塗膜資料、部
品、油類その他の資料を入手するようにつとめること。