合コンの経済学 - 経済学部研究会WWWサーバ

目次
要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
問題意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
問題意識
本論文の構成
第1章
市場と情報・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
1-1 資源配分問題
1-1-1
資源配分問題とは
1-1-2
資源配分メカニズム
1-2 市場取引
1-2-1
所有権とインセンティブの尊重
1-2-2
情報の分権化
1-2-3
パレート効率性
1-3 情報の果たす役割
1-3-1
不確実性下の非対称情報
1-3-2
利害の不一致
1-4 マッチングにおける資源配分問題
1-5
完全情報での男女のマッチング市場
1-5-1
マッチング市場について
1-5-2
合コンの安定状態
1-5-2-1
合コンの安定状態とは
1-5-2-2
安定性の正確な定義
ゲールシャプレーアルゴリズム
1-5-3
ゲール・シャプレーアルゴリズム(GS アルゴリズム)
1-5-4
GS アルゴリズムの具体例
1-5-5
考察
1-6 合コンにおける資源配分問題
第2章
メカニズムの比較と合コンの有益性・・・・・・・・・・・・・・21
2-1
合コン
2-1-1
合コンの定義
2-1-2
選好・好みとタイプ
2-1-3
合コンの流れ
2-1-4
合コンのパターン分け
1
2-1-5
2-2
情報生産者としての幹事
結婚相談所
2-2-1
インターネットタイプ
2-2-2
データマッチングタイプ
2-2-3
パーティタイプ
2-3
お見合い
2-4
各マッチングメカニズムの比較
2-4-1
集められる人物
2-4-1-1
合コン
2-4-1-2
結婚相談所
2-4-1-3
お見合い
2-4-2
情報の非対称性
2-4-2-1
合コン
2-4-2-2
結婚相談所
2-4-2-3
お見合い
2-5
資源配分問題の観点からの問題点に対する考察
2-6
合コンの有効性
2-6-1
効率性
2-6-2
効率性の要件
~効率性と安定性・達成数~
2-6-2-1
情報の対称性
2-6-2-2
コストの安さ
2-6-2-3
選択肢の多さ
2-6-3
安定性とマッチングの達成数
2-6-4
合コンの有効性
2-7
本論文が目指すべき合コンの姿
2-7-1
幹事の果たすべき役割
2-7-2
情報がバイアスをもたらす可能性
2-7-3
目指すべき合コンの姿
第3章
仲介者のインセンティブ問題・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3-1
幹事・仲介者への金銭によるインセンティブ付与問題
3-1-1 合コンの幹事へのインセンティブ付与
3-1-2
結婚相談所の仲介者へのインセンティブ付与
3-1-3
お見合いの仲介者へのインセンティブ付与
3-2
合コン幹事のインセンティブ問題への対処
3-2-1
サーチコスト
2
3-2-2
スクリーニング
3-3 合コン幹事に求めること・あるべき合コンの姿
3-3-1
目的から好みへの鉄則
3-3-2
情報の非対称性を軽減させるために
3-3-3
n=2 の合コン
3-3-4
結論
第4章
情報のバイアスと行動経済学・・・・・・・・・・・・・・・・・44
4-1 行動経済学基礎理論
4-1-1
行動経済学とは
4-1-2
期待効用仮説
4-1-3
プロスペクト理論
4-1-4
ヒューリスティック
4-1-5
フレーミング効果
4-1-6
楽観主義バイアス
4-2 情報バイアスの検証
4-2-1
仮定
4-2-2
仮説
4-2-3
考えられるバイアスの種類
4-2-4
バイアスについての検証
4-3
第5章
4-2-4-1
アンケート内容
4-2-4-2
対象
4-2-4-3
目的
4-2-4-4
設定方法
4-2-4-5
結果
4-2-4-6
考察
バイアスへの対処
まとめと今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
参考資料一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70
3
要約
結婚を目的とした男女の出会いについては効率的な結婚相談所やお見合いといった機会
が存在しているのに、「大学生が目的とすることが多い、男女交際が唯一の目的となってい
て、かつ広く認知されている出会いの場・機会」が存在していない。また現在一般的に行
われている“合コン”には様々な非効率性を助長する要因が存在している。この二つが我々
の問題意識である。「大学生向けの、男女交際を目的にした、有効な出会いの場」を新たな
合コンとして提言することがこの論文の目的となる。ここでマッチングとは「共通の目的
をもった男女がその目的を達成するきっかけとなる出会いをすること」を意味する。
第 1 章では、市場と資源配分問題について議論し、資源配分問題を男女のマッチング問
題にあてはめた場合の議論も展開する。市場メカニズムが支配的な位置を占め、情報の果
たす役割が非常に大きく効率性を左右することを確認する。さらに合コンにおいて男女の
マッチングを安定的かつ最大数実現する理論上の方法として、ゲールシャプレーアルゴリ
ズムを紹介している。しかし、実際の合コンでは情報がうまく共有されていない(情報の非
対称性)ため、ゲールシャプレーアルゴリズムはうまく機能しない。情報の非対称性をいか
にして緩和していくのかを考えなくてはならないことを指摘する。
第 2 章では、現在存在する資源配分メカニズムとして合コン、結婚相談所、お見合いを
取り上げ、それぞれ比較をしている。合コンと結婚相談所・お見合いの決定的な違いは、
情報の非対称性を緩和する仲介者のインセンティブの有無である。男女のマッチングでは
選好や目的などの情報に非対称性が存在するが、結婚相談所・お見合いについては仲介者
に金銭によってインセンティブを付与することでそれを緩和している。しかし合コンでは、
金銭によってインセンティブを付与できないため情報の非対称性が緩和されない。従って、
この情報の非対称性こそが合コンの非効率性の原因となっている。その中でも特に目的の
不一致が大きな非効率性をもたらす。
ここまでの議論を踏まえ、効率性と安定性から「合コンの有効性」という概念を考え、
合コンの有効性を「選好が大きく一致し、交際相手を見つける男女の出会いが目的となっ
ているマッチングが行われやすいこと、さらに参加者全体で最も多くマッチングが行われ
ること」と定義した。情報の非対称性の原因は、合コンの幹事が参加者間の情報の共有を
達成する役割を果たせていないこと、幹事が情報をもたらしたとしても介在するバイア
ス・不正確性が考えられる。よって幹事に役割を果たさせるためのインセンティブ問題と
情報の共有の際に発生するバイアスについて考える。
第 3 章では、幹事のインセンティブ問題について考える。合コンにおける情報の非対称
性を緩和するために幹事は目的が一致し、かつ参加者の好みに合致した参加者を見つけて
こなければならない。しかし、これには非常に大きなサーチコストがかかるため、幹事に
このようなインセンティブを持たせるのは難しい。このインセンティブを持たせるための
方法として、サーチコストをゼロにし、お互いの幹事にマッチングをもたらす 2vs2 の合コ
4
ン方法を提案する。それは幹事に最も親しいグループの中から参加者の条件に合致した参
加者を探してもらうという方法である。そのためには、幹事を選定する際に、「男女のマッ
チングを求めている人たちと親しい人」に幹事をお願いするようにするとよい。こうする
と、サーチコストが低い領域に目的が一致した人間が入ってくる。その結果、幹事は比較
的低いサーチコストで男女のマッチングを目的とした相手を連れてきてくれるのである。
さらにお互いの幹事には自分のマッチング相手を見つけてもらうという心理的コストがか
かるため、相手へ紹介する参加者を的確に選定しなくてはならないプレッシャーがかかる
のだ。
第 4 章では、情報によるバイアスを検証し、そのバイアスの対処方法について議論して
いる。情報によるバイアスを検証するためにアンケートを実施したのだが、アンケートの
結果明らかになりそうな効果・理論を先に紹介する。その後アンケート調査の報告を行う。
今回の調査では慶應生は細身の体形であること、年齢と知性・身長には相応の比例関係が
存在すること、男女間で言葉のイメージ範囲に差が存在すること、出身地にはイメージが
存在することをそれぞれ示唆する結果が出たことを報告する。幹事はこうした点に気を付
けてメンバーの情報を収集し、共有させる必要があるのだ。
5
問題意識
問題意識
男女の恋愛問題というのはいつの時代の世の中にも存在している。恋愛を扱った歴史小
説や過去の大作を挙げればきりがない。しかし今日の日本は、身分の違いから許されぬ恋
が存在したり、伝統やしきたりに従って決められた婚約を強制されたりするような時代で
はなく自由恋愛の時代である。我々は恋人を自分で見つけなくてはならない。
合コンは積極的に男女の出会いの場を提供する場の一つとして今日世間に広く知られて
いて、参加したことのある方も多いのではないか。恋人となるような人が身近にいない場
合、出会いの場として気軽に参加できる一つの機会として存在するものである。その意味
で出会いを促進するいい仕組みだと考えられるかもしれない。
しかし合コンには少し考えただけでもわかる明らかに非効率的な部分が存在する。その
根源となるのが、
「男女間でお互いの情報があまり明らかにならないままに出会いを迎える
こと」である。男女の出会いの場として合コン以外に世間に広く知られているものの中に、
結婚相談所やお見合いといったものが挙げられる。
詳しくは後述するが、この二つの方法では「結婚」というお互いに共通した目的がある
こと、仲介者が「お互いの情報を事前に知らせておくこと」により効率性が増加している
のだ。考えてみれば当然のことと思うのだが、事前に相手の情報を知っておくことによっ
て自分の好きなタイプかどうかをある程度知ることが可能である。合コンにはこの情報の
事前共有とも言うべき性質がまるで存在していないのではないか。また例えこの課題をク
リアし事前に情報を得られたとしても、その情報は常に正しく客観的であるとも限らない。
情報には多分に主観が入り込む可能性があるのだ。
また、こうした効率性を追求する一方で、合コンによって生まれるマッチングの数にも
焦点を当てられるだろう。合コンでは最大で参加人数/2 組のマッチングが可能である。で
きるだけこの数に近づけることがよりよい合コンにつながるだろうと考えられる。
こうした情報やマッチングの数に関する点で、今現在行われている合コンには、勿論会
によって差異はあれども改善すべき点が多々見られるのは否定できないところである。
以上をまとめると、結婚を目的とした男女の出会いについては効率的な結婚相談所やお
見合いといった機会が存在しているのに、「大学生が目的とすることが多い、男女の交際が
唯一の目的となっていて、かつ広く認知されている出会いの場・機会が存在していない」
こと「現在一般的に行われている“合コン”には様々な非効率性を助長する要因が存在し
ていて、数多くのマッチングを実現できない」ことの二つが我々の問題意識である。合コ
ンでは「効率性」と、「マッチングの安定性・数」について改善を試みなければならない。
よって「大学生向けの、男女交際を目的にした、有効な出会いの場」を新たな合コンと
して提言することをこの論文の目的とする。
6
※恋人がいない男女が交際の契機となる出会いをすることを合コンでのマッチングと呼ぶ。
※本論文では対象を大学生向けとした。
本論文の構成
第 1 章:
資源配分問題の
男女の出会い市場の資源配分
ミクロ的基礎
第 2 章:配分メカニズムの比較と合コンの有効性
大学生には合コンメカニズムがいい
→情報の非対称性の解消が必要!
第 3 章-1:インセンティブ問題
第 4 章-1:情報のバイアス
の分析
検証
第 3 章-2:対処方法検討
第 4 章-2:対処方法検討
第 5 章:まとめ
第 1 章ではミクロ経済学の基礎としての資源配分問題を議論する。ここで市場における財
の配分を考える。また安定的なマッチングをもたらすアルゴリズムを紹介する。
第 2 章でさらに男女の出会い市場における資源配分メカニズムを考察し、合コンというメ
カニズムが大学生にとって望ましい物であることを議論する。有効性を達成するために
解決すべき問題点を整理する。
第 3 章では 2 章で浮かび上がった問題点のうち、幹事へのインセンティブ問題を解消する
方法について議論する。
第 4 章で情報にはバイアスがかかっていることを行動経済学の理論をつかって検証し、対
処方法を議論する。
第 5 章は本論文のまとめと今後の課題の議論を行う。
7
第1章
市場と情報
まずこの章では合コンという問題を、経済学的にとらえて分析するために必要となる前
提のミクロ経済学の基礎を述べていく。合コンが資源配分問題の一つであり、その際に情
報が不可欠な役割を担っていることを理解してほしい。
1-1
1-1-1
資源配分問題
資源配分問題とは
ミクロ経済学における中心的な問題は、資源配分問題である。資源配分問題とは、誰が、
何を、どれだけ、何を投入して生産し、誰が、何を、どれだけ消費するのかという問題で
ある。簡単に言うと、誰が何をするかという個人の選択の問題である。選択をするとき、
人は選択肢の便益と費用を比較する。ここでいう費用とは欲しいものを手に入れるときに
支払う対価だけではなく、手に入れるために諦めなければならない機会費用も考慮にいれ
なければならない。
布団から出たくないけど出席のある授業に向かうか、二度寝するか。にんにくを入れる
べきか、それともこれから合コンだからにんにくは抜くべきか?など人はあらゆる場面で
選択を迫られる。にんにく抜きを選んだなら「にんにく入りのおいしい二郎」を諦めてに
んにく無しの味気ない二郎を食べることになる。さらに、選択をするときはインセンティ
ブに反応している。にんにくを入れるという決定をしたならば「二郎をおいしく食べたい
し、もしかしたら合コンに二郎が好きな女の子がいて二郎トークで盛り上げることができ
る」というインセンティブに反応したことになるし、にんにく抜きにしたなら「このあと
の合コンでにんにく臭かったらモテないかもしれないからにんにくはやめておこう」とい
うインセンティブに反応している。
そもそも、なぜ人が選択をしなければならないかと言うと資源が希少だからである。資
源が希少ということはつまり、すべての生産要素を満たすのに十分なほど資源が存在しな
いということである。そこで資源の配分が問題になるのである。この資源配分問題におい
て重要な点は、「現実の経済ではいかなる資源配分がおこなわれているか?」「いかなる資
源配分が望ましいか?」
「望ましい資源配分を達成するための契約、制度、組織とはどのよ
うなものか?」という三つの点にまとめられる。
1-1-2
資源配分メカニズム
現実の経済においては、この資源配分問題は様々なメカニズムを通じて解かれており、
その一つが市場メカニズムである。市場メカニズムとは、市場機構を通じて需給調整と価
格調整が行われる経済のことである。この他にも歴史を遡ってみると市場メカニズムの他
にも自給自足、物々交換、計画経済などのメカニズムがみてとれるが、失敗や発展を経た
8
結果として現在では市場メカニズムが大部分を担うことになっている。
これら資源配分メカニズムは、「効率的な資源配分を実現できるか?」「情報コストを低
く抑えられるか?」「経済主体の自発的インセンティブは確保できているか?」といったポ
イントで評価される。
最初に挙げた自給自足経済とは、その名の通り自分が欲しいものはすべて自分で作る経
済である。この経済では、経済主体は必要な資源は自ら生産しなければならないので自発
的なインセンティブを確保することはできるが、消費できる資源は自らで作れる範囲のも
のに限られてしまい足りない資源を補うことも余剰資源を処理することもできないので効
率的な資源配分が実現できているとは考えにくい。
次に、物々交換においては余剰資源と不足している資源を交換することで効率的な資源
配分は実現できる。しかし誰が自らが保有する余剰資源を欲していて、誰が自らが欲しい
資源を持っているか、どこにいけば交換が実現するか といった情報を集めるためには莫大
な労力が必要となってしまう。結果として情報コストの面で劣ってしまっている。
最後に計画経済においても同様で、誰が何を欲しがっているか、誰が何を持っているの
か、誰が何を作れるのか、などといった情報を一手に集めて生産・配分計画を作るのは不
可能で、情報コストが非常にかかってしまう。鉛筆のような単純なものでも、一国全体で
の生産を管理するためには、来年どれだけの鉛筆が必要になるかを考えなければならない。
次に、さまざまな鉛筆工場に注文を分割し、小売業者と鉛筆メーカーの行動を調整し、鉛
筆メーカーの生産スケジュールとグラファイト、木材、ゴムのサプライヤーのスケジュー
ルを合わせ、鉛筆と投入物の価格を適切に設定しなければならない。このような作業を数
億人分、そして数十万の企業分やらなければならない。現代のスーパーコンピュータをも
ってしても無理であり、効率的な資源配分は実現されない。さらに、計画経済では経済主
体の自発的で適切なインセンティブを与えるのが難しい。政府によって生産を指示された
経営者は、どうすれば最善の方法で製品を作ることができるかということよりも、いかに
指示されたノルマをこなすかに関心が向いていた。計画者が生産者に提示するインセンテ
ィブは直接的なものにならざるを得ず、生産量に基づいたものだった。例えば鉄鋼の産出
量はトンで測られていたが、1トンの鉄板を作るもっとも速い方法は厚い鉄板を作ること
だったので、使い物にならないような鉄板がつくりだされるようになってしまった。この
様に様々な資源配分メカニズムが存在しているが、現代においては市場メカニズムが資源
配分の大部分を担っている。
1-2
市場取引
現代において市場メカニズムが取り入れられている理由として、市場メカニズムの二つ
の特徴が挙げられる。一つ目が「所有権とインセンティブの尊重」二つ目が「情報の分権
化」である。
9
1-2-1 所有権とインセンティブの尊重
第一に所有権とインセンティブが尊重されていることで、消費者は効用を最大化しよう
とし、企業は利潤を最大化しようとする。効用とは人が財を消費することで得られる満足
の水準のことである。
例えば計画経済においては、所有権が認められずすべての資産を政府が管理している。
このような状況下では土地、資源を政府の指示のもと政府から借りて生産を行う。頑張っ
て利潤を最大化し、政府の提示したノルマ以上を達成したとしても余剰分を自分のものと
して消費することはできず、さらに困難なノルマを課せられてしまう。1 トンの鉄鋼を作る
よう指示され、頑張って生産した結果 1.5 トン作れたとしても 0.5 トンは政府のものである
し、次からは 1.5 トン以上作るよう指示されてしまう。このように資産の所有権が政府にあ
るということは、資源の残余コントロール権をすべて政府に握られてしまうということで
ある。また自分がやりたいと思う仕事をできるわけではなく、すべて政府の指示でなにを
生産するのか決まってしまう。このような状況下では利潤最大化のインセンティブは引き
出されない。
一方で市場メカニズムでは所有権が認められているため、資源の残余コントロール権は
自分が持つことになり、余剰資源は自分の好きなように処分することができる。結果とし
て利潤を最大にするインセンティブが生まれるのだ。
1-2-2
情報の分権化
次に情報が分権化されていることについて述べる。これにより、すべての情報が価格に
集約され、経済主体は価格に導かれて選択を行うようになる。ある財の生産量を需要量が
上回るときには、財をどうしても欲しいと思う経済主体は現行価格よりも多く支払っても
いいと考えるため、価格は高くなり、結果として生産者は生産量を増加させることになる。
ブラック企業の離職率が高すぎて人材が足りないときには好待遇で人材を募集し、人々が
それに反応して応募した結果、ブラック企業は晴れて人材を確保することができる。この
ように市場メカニズムにおける経済の意思決定は、計画経済と比べて小さな部分に分割さ
れる。また、計画経済と異なり価格に人々が反応するので、いつ需給不均衡が発生したか
を知る中央当局が存在する必要はなくなる。
1-2-3
パレート効率性
このような市場システムにおける厚生経済学の第一基本定理によれば、理想的な市場は
パレート効率的な資源配分を実現するとされる。パレート効率的とは、誰一人として効用
を下げることなく他の誰かの効用を上げることが出来ない状態のことである。ここで注意
しておきたいのは、パレート効率的な状態とは決して公平な状態とイコールではないとい
うことである。
例えば一万円を二人で分ける状況を考えるとする。五千円ずつ分けるのは公平であり、
10
パレート効率的であると言える。二千円と八千円の場合はどうだろうか?これは公平では
ないだろうが、パレート効率的であると言える。この状況から五千円ずつの状況にしよう
としたとき、八千円の人の効用が下がることは避けられないからである。
厚生経済学の第一基本定理の話に戻ると、この定理には前提条件が三つありそれらが達
成されることで理想的な市場となると考えられている。第一に完全競争であること、次に
市場に普遍性があること、最後に完全情報であることの三つである。しかし「理想的な」
と書かれていることから分かるように現実社会ではこの三つが常に達成されるわけではな
い。
一番目の完全競争とは、すべての経済主体がプライステイカーであるということである。
現実には携帯キャリアではドコモ、au、ソフトバンクの三者が市場を握っている寡占状態
だし、電力会社は東京なら東京電力、関西なら関西電力といったように地域独占が行われ
プライスメイカーが存在することは明らかだ。
二番目の市場の普遍性とは、個々の財すべてに市場が存在しているということである。
しかしこれについても外部性、公共財などの例外が存在する。外部性とは、工場の排気ガ
スというような人々の生活環境が悪化し効用を低める財については供給する側が対価を払
わなければならないが、大気汚染などの公害は対価を払うことなしに供給することができ
てしまう。対価を払うことなく効用を下げることを外部不経済と呼び、対価を払うことな
く便益を得られることを外部経済と呼ぶ。外部性は環境税や排出権取引といった新たな税
や市場を人為的に創ることによって内部化することが必要となる。公共財とは、非競合的
かつ非排除的な財のことである。非競合的とは消費者あるいは利用者が増えても追加的な
費用が伴わないことで、非排除的とは価格づけによって対価を支払わない者が便益を享受
するのを排除できないことである。具体的な例としては公園や警察活動があり、これら公
共財は非排除性があるため市場メカニズムに任せると過小供給となってしまう。そこで政
府による管理が必要となってくるのである。
最後の完全情報とは、財・サービスの質や取引内容についての情報がオープンで、財・
サービスが標準化されている状態である。しかしすべての財、サービスの情報について把
握することは不可能だし、標準化されているわけではない。結果として市場システムそれ
自身ではパレート効率的な状態を実現することは難しく、政府による市場介入が必要とな
ってくるのである。市場メカニズムはインセンティブを与えるシステムとして有効である。
これは個別の経済主体の、効用の最大化や利潤の最大化といったインセンティブをベース
としているからである。また、市場メカニズムを通じた取引は一物一価の原則をもとに決
まった価格のみを指標として取引を行っているので、理想的な市場のもとでは市場取引に
よって効率的な資源配分が実現される。しかし、厚生経済学の第一基本定理の前提条件で
みたように完全情報が必要条件の一つであり、これが満たされない場合、つまり非対称情
報のもとでは市場取引における個別のインセンティブが経済全体の効率性を損なうことと
なってしまう。そのため市場取引を逸脱し、インセンティブを適切に付与し、正しい方向
11
にやる気を引き出すシステムを個別の取引に応じてデザインすることが必要となる。実際
には多くの取引は価格のみに基づく市場取引を逸脱し、個別要因に基づいた契約を通じた
取引、組織内での取引、取引慣行にしたがって行われている。
1-3
情報の果たす役割
市場取引を困難なものとする要因として、不確実性と不確実性下での非対称情報と、利
害の不一致が挙げられる。情報はこれらを左右するものとなっている。
1-3-1
不確実性下の非対称情報
不確実性とはこれから起こることが確実でないことを意味し、将来を左右するような人
間の決定が期待値のもと厳密に決定されるのではなく、自生的な楽観に依存するために発
生してしまう。この状況下で非対称情報となってしまう。非対称情報は二種類に分類され、
それぞれ隠された行動、隠された知識と呼ばれる。
隠された行動とは取引相手の行動が観察できないことであり依頼関係で生じることが多
い。一方、隠された知識は取引対象となる財やサービスの質・適性が観察できないことで
ある。
例えば職場において、仕事を指示した部下が真面目にパソコンに向かっていると思って
いたら実は 2 ちゃんねるにアクセスしているだけだった、というのは隠された行動である。
隠された行動のもとでは適切な行動が選択されない可能性をモラルハザードと呼ぶ。
一方、採用活動の面接に来た学生が言われた通り真面目に仕事をする奴か、はたまたパ
ソコンに向かっているフリをして 2 ちゃんねるにアクセスするような奴かわからない、と
いったのは隠された知識である。隠された知識のもとでは適切な財・サービスが供給され
ないことをアドバースセレクションと呼ぶ。
このような非対称情報を放置するとインセンティブが適当ではなくなり、経済に大きな
非効率が生じることとなる。非対称情報はただ放置されるのではなく、モラルハザードは
契約によって、アドバースセレクションはシグナリング、およびスクリーニングといった
方法によって解決されている。シグナリングとは、情報を持っているものが持っていない
ものに対して自らの価値を示すために情報を開示することである。一方スクリーニングと
いうのは、情報を持っていないものが、情報をもっているものに対して持っている者の価
値を調べるためにいくつかの選択肢を用意し、相手に選ばせることで価値を見極めること
である。シグナリングの具体的な例としては、労働市場において求職者がなんらかの資格
を取ることで自分が有能であるということをアピールすることが挙げられる。スクリーニ
ングの例としては保険が挙げられる。保険会社が走行距離に応じていくつかの保険プラン
を用意し、利用者に選ばせることでドライバーの運転技術を知ることができるからだ。
12
1-3-2
利害の不一致
実際の市場取引において、利害の不一致は情報の非対称を生み出す。お互いの利害が一
致しているならば、情報を公開して協力したほうが利潤を最大にできるので情報を隠すイ
ンセンティブは生まれない。しかし利害がお互いに一致していない場合、一方だけが情報
を公開すると公開したほうが不利益を被ることになってしまう。このように利害が一致し
ない状況では、情報を隠して相手を出し抜こうとするインセンティブが生まれ、非対称情
報となってしまう。一致しない利害が多くなればなるほど、非対称情報も大きくなってし
まい、結果として市場取引が困難になってしまう。
1-4
マッチングにおける資源配分問題
資源配分問題を、男女のマッチングに置き換えて考えてみる。男女のマッチングとは、
男と女という財を取引する市場において恋人を持たない男女同士が交際のきっかけとなる
出会いをすることである。このマッチングがうまくいくか、いかないかを左右する最大の
問題は非対称情報である。これはどういうことかというと、男女間で相手の情報が事前に
うまくやりとりされず、相手の人柄、性格などの内面にについて隠された知識が多いとい
うことである。現実問題としては出会いのシステムとして、知り合いに紹介してもらう、
お見合い、結婚相談所、結婚パーティ、出会い系サイト、合コンといった様々な男女の資
源配分メカニズムが存在している。これら出会いのメカニズムは非対称情報を解消するこ
とを目的としている。知り合いによる紹介やお見合いは仲介者の身元が確かなことが多く、
情報が信頼でき非対称情報は少ない。しかしマッチング相手は限られた範囲から探すこと
になってしまう。結婚相談所もしっかりした身分証明を求めるものならば情報が信頼でき
るだろう。さらにマッチング相手の候補は多くなる。一方、結婚パーティ、出会い系サイ
トは自己申告でプロフィールを作り、相手に示すことになるので情報の信頼性は低くなり
非対称情報は増えるが、マッチング相手の候補数は多い。最後に、合コンは仲介を知り合
いだけでなく知り合いの知り合いにも頼めること、一回のマッチングで出会える相手が紹
介に比べて多いことからこれらの中間に位置すると考えられる。ただし、情報に関しての
信頼性はまちまちである。資源配分、つまりは男女という財のうち、どの財を誰のもとへ
誰が配分するのかを考えるのがマッチングにおける資源配分問題だと言えるだろう。
1-5
完全情報での男女のマッチング市場
~ゲール・シャプレーモデル~
この節では、前節で指摘した男女のマッチング市場においては非対称情報が問題となる、
という点が完全に解決された場合にどういったことが可能になるのかを述べたいと思う。
情報が全ての男女にいきわたっている場合、マッチングは非常に簡単に行われることにな
るのだ。
13
1-5-1 マッチング市場について
まずはマッチング市場について改めて定義したいと思う。一般にマッチング市場とは、2
種類のプレーヤー(参加者)が存在し、片方のプレーヤーがもう片方のプレーヤーを選び、組
み合わせを形成する場のことを言う。また、お互いのプレーヤーは市場に参加しているこ
とである目的の下でマッチングすること希望している。このような市場は現実にたくさん
存在しているが、その 1 例として男女のマッチング市場もこれにあてはめることができる。
すなわち、マッチング市場では「男性」と「女性」という 2 種類のプレーヤーが存在して
一方の性がもう一方の性を選び話しかけ、恋人を持たない男女同士が交際のきっかけとな
る、あるいは結婚を目的とするなどした出会いをする場であると考えることができる。こ
のマッチング市場においては、プレーヤーはそれぞれ種類の違うプレーヤーに対して主観
的に評価をして順番をつけている。これを選好の順序という。ここでは選好という言葉は
「どんな感じの人間がどれくらい好きなのか」ということを表していると考えてほしい。
当然合コンに話を限定してもこの話は成立する。ここからは合コンにおけるマッチング
市場に話の焦点を当てることにしよう。選好は合コンでも存在して、どの男性がどの女性
と一番マッチングしたくて、次が誰で、
・・・・、というような主観的な順番をつけている。
当然、女性も主観的な評価によって男性に対して順位をつけている。
また、この市場は安定状態を目指して機能する。安定状態はこの市場内のマッチングが
全て安定な状態であることである。では、合コンにおける安定なマッチングとは何なのだ
ろうか?わかりやすく表現すると、「関係が永続する男女の組み合わせ」、または「合コンが
終わっても関係を続けている男女の組み合わせ」である。つまり、合コンにおいて、全て
の男女の組み合わせが関係をやめず、組み合わせごとそれぞれに帰って行ってしまう状態
が安定状態であり、これらの男女の組み合わせが変化することはない。よってこの安定状
態がこの市場における均衡になる。次節では安定状態の定義を紹介する。
1-5-2
合コンの安定状態
1-5-2-1
合コンの安定状態とは
前節では安定状態を「関係が永続する男女の組み合わせ」、または「合コンが終わっても
関係を続けている男女の組み合わせ」と表現したが、それはどのような状態であるのだろ
うか?
今、ある合コンで太郎と花子が会話をしているとする。このとき、もしこの二人のどち
らもが相手と一番関係を持ちたいのであれば関係は永続するだろう。関係が永続しないと
いうことは、少なくともどちらかにとって相手が 2 番目以下に関係を持ちたい相手である
必要がある。そこで、太郎は花子よりも団子と関係を持ちたいと思っているとしよう。
しかし、単に「今の相手よりも関係を持ちたい相手」がいると言うだけでは関係は途切
れない。関係が途切れるためには、団子も今の関係相手よりも太郎と関係を持ちたいと思
っていなくてはならない。その場合は、お互いの現在の関係をやめ、太郎と団子で新しく
14
関係を始める。しかし、団子にとって太郎が今の関係相手よりも関係を持ちたくない場合
はお互いの関係は永続する。
つまり、関係が永続する状態とは、どのプレーヤーにとっても、仮に今の関係相手より
も関係を持ちたい人がいても、その人にとってはそのプレーヤーよりも今の関係相手の方
が関係を持ちたいと思っている状態が成立していることである。これが実現していればそ
の合コンでは数多くのマッチングが生まれると考えられるだろう。
1-5-2-2
安定性の正確な定義
ここからはマッチングの安定性について正確に定義することにする。まず、男性の集合
を M、女性の集合を W としたときに、マッチング μ とは、任意の男性 m と任意の女性 w
について以下の 3 つを満たすものであると定義する。
・μ(μ(m))=m かつ μ(μ(w))=w
・µ m
M
W
・µ w
M
W
つまり、μ とはマッチングの相手を表す関数であり、m と w が関係を持っているという
マッチングを表す場合、μ(m)=w、すなわち μ(w)=m と表現できる。
さて、あるマッチング μ において、ある男性 m が自分のパートナーμ(m)よりも w を好ん
でいるとしよう。この場合、µ m
wとなり、このときのマッチング μ は不安定なものと
なる。不安定でないマッチングは安定なマッチングとなる。
では、この安定的なマッチングを確認するためのマッチング理論であるゲール・シャプ
レーアルゴリズムを次節で紹介する。
1-5-3
ゲール・シャプレーアルゴリズム(GS アルゴリズム)
ゲール・シャプレーアルゴリズムとは Gale and Shapley(1962)によって提案された安定
的なマッチングを確認する方法である。
これから、GS アルゴリズムの方法を示していくことにする。
●ステップ 1
(男性側)マッチング市場に存在する全ての男性は、自分自身でいるより望ましい女性
の中から、もっとも関係を持ちたい女性に話しかける。
(女性側)女性は、自分に話しかけてきた男性の中からもっとも関係を持ちたい男性と
関係を始め、残りの男性は無視をする。
以降、ステップ 2、ステップ 3…と繰り返していき、ステップ k-1 まで終了したとする。
●ステップ k
(男性側)ステップ k-1 で女性から無視された男性は、以前に話しかけていない女性の中
から自分がもっとも関係を持ちたい女性に話しかける。
(女性側)各女性は、話しかけてきた相手の中に自分自身一人でいるよりもいい相手が
15
いた場合、ステップ k-1 で関係を持っている相手と新たに話しかけてきた相手
を比較してより関係を持ちたい方の相手を選ぶ。このとき、現在関係を持っ
ている相手の方が好ましい場合はこのまま関係を続け、新しい相手の方が望
ましい場合は現在の相手との関係をやめ、新しい相手と関係を始める。
このようにステップが進行していき、女性が無視することがなくなり、全員が男女のペ
アとなり関係を持った時にこのプロセスは終了する。また、男性の集合 M と女性の集合 W
はともに有限なので、このプロセスは必ず有限回のステップを経て終了する。
このステップをあたかも実際に男女同士会ってやっているかのように繰り返すのである。
実際に会ってこれをやるのは双方にとって明らかにコストになってしまうからだ。しかし
事前にアルゴリズムを実行するには、誰かが予めお互いの選好を詳しく知っていることが
必要である。この人物がアルゴリズムを実行し、適切なマッチングの組み合わせを知らせ
ることで、ただの一度のアプローチで安定的かつ最大数のマッチングを達成することが可
能である。
1-5-4
GS アルゴリズムの具体例
GS アルゴリズムの効果や性能について議論するために、具体例をあげて考察してみよう
と思う。GS アルゴリズムを用いる場合と、用いない場合で比較することにする。
まず前提として、男女 4 人ずつの合コンを例として考える。参加者(以下プレーヤーとす
る)は、男(A・B・C・D)と女(a・b・c・d)とする。またそれぞれ、選好を持っている。各プ
レーヤーの選好は下記に示す。縦の欄は、選好の順位を表している。簡単にするために男
女ともこの 4 人以外とマッチングするよりは独り身でいることを選ぶとしよう。
図 1-1 選好の順位表
男
A
B
C
D
女
a
b
c
d
1
B
b
d
b
1
A
C
D
A
2
D
a
b
d 2
D
A
B
B
3
C
d
a
a
3
C
B
A
D
4
A
c
c
c
4
B
D
C
C
なお、目指すマッチングは前述の安定的なマッチングすなわち関係が続くマッチングであ
り、一時的な戦略により自分の選好に反してマッチングを行うことはない。それではまず
は GS アルゴリズムを用いない場合から考えよう。
16
●GS アルゴリズムを用いない場合
この例では、男性から女性にアプローチする場合を考え、上の選好の順序に従うものとす
る。それぞれの男性プレーヤーは選好順位の最も高い女性にアプローチする。しかしプレ
ーヤーが把握しているのは自分自身の選好のみである。次の図のようにプレーヤーはそれ
ぞれ自分の選好に従って A,B,D は b に、C は d にアプローチする。しかし b の選好順位か
ら A,B,D のうち選ばれるのは A のみである。
図 1-2
GS アルゴリズムを用いない場合のアプローチ
d にアプローチした C も本来 d の選好順位では最も下であるが、独り身でいるよりはい
いという d の判断からマッチングが成立する。結果として成立するのは(A,b)(C,d)の 2 組で
ある。安定的なマッチングは成立しているが、マッチングの数は最大ではないし、はたし
て成立したマッチングも双方にとって最も望むものだったのだろうか。
●GS アルゴリズムを用いた場合
今度は GS アルゴリズムを用いてみよう、前述の GS アルゴリズムの方法に従うとする。
各人の選好を予め X 氏に伝えているとしよう。次頁の図のように、男性プレーヤーが女性
プレーヤーにアプローチを行い、step1 でアルゴリズムが始まり、step7 でアルゴリズムが
終了し、その時の組み合わせが安定的なマッチングである。X 氏はこのアルゴリズムを実行
し、求められる結果をプレーヤーに伝えるのだ。プレーヤーは伝えられた結果の通りにア
プローチを実行する。最終的にマッチングは安定的かつ最大数のものが達成される。
step1
男性プレーヤーは自らの選好の最も高い女性プレーヤーにアプローチする。つまり、A、B、
D は b に、C は d にアプローチをする。ここで、b は自らにアプローチしてきた男性の中か
ら最も選好の高い A を選び、その他を拒絶する。
step2
前の段階で拒絶された男性は次に選好が高い女性にアプローチする。つまり、B は a に、D
は d にアプローチする。すると、d はより選好の高い D を選び C を拒絶する。
step3
前の段階で拒絶された C は次に選好が高い b にアプローチする。b は A と C でより選好の
17
高い C を選び、A を拒絶する。
step4
前の段階で拒絶された A は次に選好の高い d にアプローチする。d は A と D でより選好の
高い A を選び、D を拒絶する。
step5
前の段階で拒絶された D は次に選好の高い a にアプローチする。a は B と D でより選好の
高い D を選び、B を拒絶する。
step6
前の段階で拒絶された B は次に選好の高い d にアプローチをする。d は A と B でより選好
の高い A を選び B を拒絶する。
step7
前の段階で拒絶された B は次に選好の高い c にアプローチをする。この時に、成立してい
るマッチング(D,a)、(C,b)、(B,c)、(A,d)は安定したマッチングであり、このときアルゴリズム
を終了する。
図 1-3
GS アルゴリズムの流れ
※→はアプローチを表し、-は安定的なマッチングを表す。
18
GS アルゴリズムの結果(D,a)、(C,b)、(B,c)、(A,d)にしたがって、ただの一回のみアプロー
チを各人がかける。するとマッチングは安定的になり、最大の数となるのである。ただ単
純に各人がアプローチする人間を別々にしておけばいいのではないかという疑問もあるか
もしれないが、このアルゴリズムを用いた場合両性間のプレーヤーの選好を考慮している
ので、適当にアプローチする人間をばらけさせるよりも達成されるマッチングによる効用
を大きくする事が可能なのである。
1-5-5
考察
これまで、合コンにおいて安定なマッチングを実現するための手段である GS アルゴリズ
ムを紹介してきた。ここからは、GS アルゴリズムは実際の合コンで応用できるのかどうか
を考察することにする。
GS アルゴリズムを実行するうえで最も欠かすことのできないものはプレーヤーの選好
とその順序である。前述したが、選好とは「自分がある相手の特徴に対してどれくらい好
むのか」を表現するものである。正確な選好を知ることができれば、GS アルゴリズムを適
用し、合コンの参加者全員が誰かとマッチングすることが可能になる上、非常に低コスト
で全体の効用を高めることができるのでミクロ経済学の考え方では非常に有益である。
しかし現実的に考えるとこれは不可能に近い。その最大の原因は、参加者の選好を正確
に知ることが困難だからである。困難である理由は、いくつか考えられるがここでは特に
起こりやすいと考えられる 2 つをあげることにする。
理由の 1 つ目は、そもそもこの選好に関する情報を集める機会がないことである。先の
具体例ではアルゴリズムの実行者として関係のない X 氏を仮定していたが、実際の合コン
の際にこのような人物がいることは考えにくい。可能性があるとすれば、合コンの参加者
同士を仲介してくれる人物がいた場合その人に頼むこと、合コンの幹事に頼むことの 2 通
りである。この考察についてはまた後の章で述べることとする。
理由の 2 つ目は、プレーヤーには自分以外のプレーヤーが選好について嘘をついている
のか本当のことを言っているのかが全く不明であることである。また、話しかけるプレー
ヤーにおいては他のプレーヤーへの同調効果などが原因で自分の本当の選好を隠してしま
う可能性も考えられる。例えば、ほとんどのプレーヤーの選好が全く同じだった場合に、
その選好は同調効果によるものなのか、それともそのプレーヤーの本当の選好なのかを判
断する手段がない。嘘かどうかが判断できなければ、他のプレーヤーが全員嘘をついてい
なかったとしても、あるプレーヤーだけは他のメンバーが嘘をついていると考えて嘘をつ
き、GS アルゴリズムがうまく機能しないということが起きてしまう。
理由の 2 つ目については、嘘をつくことに対して後に必ずペナルティー(自分にとっての
損失)が降りかかる制度を創造することができれば、嘘をついたプレーヤーに対してペナル
ティーを課すことで、嘘をつくインセンティブをなくすことができる。しかし、嘘をつい
たものにペナルティーを課しても、プレーヤーが完全に嘘をつかないようにすることは難
19
しい。ペナルティーが相当に大きくなければならない場合も考えられるからだ。
よって、GS アルゴリズムは安定したマッチングを形成するための非常に優れた手段だと
言えるが、現在行われている合コンで利用するとなると様々な問題が生じ、うまく機能さ
せることができない手段であると言える。
1-6
合コンにおける資源配分問題
1-4、1-5 でも指摘したとおり合コンという資源配分問題においても非対称情報は存在す
る。非対称情報が解消されない結果として自分の好みではない相手がくることになってし
まい、参加しても得るものがなにもない合コンに参加してしまうことになりかねない。つ
まり効率性が情報の非対称性によって損なわれているのだ。合コンにおける隠された知識
の具体的な例としては相手の容姿、学歴、年齢、好みのタイプ、彼氏・彼女の有無、住ん
でいるところ、性格、合コンに来た目的など挙げたらきりがない。このような隠された知
識を明らかにするには、やはりシグナリングとスクリーニングが有効だと考えられる。自
分たちの学歴や外見などを幹事伝いに伝えることで自分たちがどのような人物か相手にア
ピールするといったシグナリングをすることができる。また、相手に自分好みの人を連れ
てきてもらいたいと思ったならば、相手の幹事に自らの好みを伝えることで当てはまった
人に参加してもらえるといってスクリーニングを行うことができる。ミクロ経済学上の資
源配分問題で合コンを考えるのならばこの非効率性を改善していくことが必要となってく
るはずである。
またこうしたミクロ経済学上の効率性とは別に、1-5 で議論したようにマッチングにおけ
る安定性やマッチングの達成数についても合コンの良し悪しを考えられる。私たちはこの
後者の点についても考慮していく必要があると考えた。
ともあれ次章では現在存在する資源配分メカニズムをさらに詳しく分析していく。
20
第2章
メカニズムの比較と合コンの有益性
この章では日本の恋愛市場におけるマッチングメカニズム(日本社会に存在する男女を
マッチングさせるメカニズム)をそれぞれ検証していく。検証するのは次の 3 つのメカニ
ズムである。
「合コン」「結婚相談所」
「お見合い」2-1 から 2-3 でそれぞれの概要を説明し
た後、2-4 から各メカニズムの比較に入る。
また大学生が求められる現実的なメカニズムは合コンであり、その性格や問題点につい
ても整理する。
2-1
合コン
まず本論分のメインテーマである合コンを検証していく。合コンの目的がマッチングで
ある場合、もっとも理想的な結果は各々の選好にもとづき効率的な資源配分が行われ、さ
らにその中で最も多くの数の、より望まれたマッチングが行われることである。
経済学の観点からみると効率的な資源配分が行われるには完全情報という前提が満たさ
れている必要がある。すなわち合コンでいうと各プレイヤーの選好に対する情報が完全に
オープンになっていることである。しかし合コンの場において情報が完全にオープンにな
るというのは稀である。合コンにおいて各プレイヤーは常に不完全情報で意思決定をして
いかなくてはならない。不完全情報の下では選好がわからないために効率的な資源配分が
行われない可能性がでてくる。
2-1-1
合コンの定義
われわれは合コンを以下のように定義する。
z
プレイヤーはn人の男性とn人の女性の計 2n人。
z
男性、女性ともに幹事といわれるプレイヤーが存在する。
z
各プレイヤーi は各々目的 Ki のもとで合コンに参加する。Ki=Kj となるとは限ら
ない。同性間では各々の目的 K は共有されていることが多いが、異性間では不完
備情報となっている。
z
各プレイヤーi は異性に対する好み Ui をもつ。この各プレイヤーの好みは同性間
であっても異性間であっても不完備情報となっていることがほとんどである。
z
各プレイヤーi は各々自分のタイプ Ti を持つ。Ti は後述の 3 つの要因が存在する。
タイプはプレイヤーの持つ特徴というべきものである。
21
2-1-2
選好・好みとタイプ
ここで「選好」・「好み」と「タイプ」という言葉についてもう少し踏み込んで考えてお
こうと思う。第 1 章で選好とは「どんな感じの人間がどれくらい好きなのか」と述べた。
これをこの論文内できちんと言葉として定義し、仮定としようと思う。
「選好」には人の「タ
イプ(特徴)」が大きく関係する。単純化して考える為に人の「タイプ」を大きく分けて 3 項
目に分類することにする。
これが①外面②内面③肩書きの 3 項目である。そして人間はこれらの 3 つの要素を独立
に観察し、それぞれのポイントのようなものを合計してその人を好むか好まないか判断す
るということを仮定する。
①は見た目に関するものルックス、身長、体型、服のセンスなどが考えられる。②は気
遣い・性格や知性が該当する。③に当てはまるのが客観的な情報であり、学歴・職業、年
齢、出身地などが挙げられる。本来の行動としてはまず①の第一印象から判断し、話をし
ていくうちに②や③を知っていくことが考えられるであろう。
①②③といった人の「タイプ」に対し、どの項目のどのようなものをどれだけ好むのか
によって「どんな人間を好むのか判断する基準となっているもの」が個人の「好み」であ
り、「選好」とは「好みによって決まる人を好きな度合い、相手が複数いる場合はその順序
も表す言葉」と言える。相手が複数いる場合というのは例えば先の GS アルゴリズムを思い
出してほしい。あの節で選好とは複数いる相手の中で自分のアプローチしたい順番を表し
ていたはずだ。この「好み」と「選好」という言葉はこの後の論文でも多用するので区別
してもらいたい。
図 2-1 人が他人を選好する時のイメージ
B さんは A のタイプを独立に計
って合計し、好みによって選好
外面
する。
A さん
の持つ
内面
タイプ
肩書き
A さん
B さん
好み=個人のもつある相手のタイプに対する判断基準
選好=好みによって決まる、ある相手を好きな度合い、またその順序
22
2-1-3
合コンの流れ
さらに現在一般的に行われている合コンの流れを確認しておく。
①
合コンの一連の流れが開始されるのは両性の幹事が合コンを開くことに合意した
時である。
②
ここから両幹事は合コンに参加するメンバーを選定する(①の段階で既に決まって
いることも多い)。この際に幹事は大学名など相手側の情報を知りうる範囲でメン
バーに伝えることが多い。
③
会当日に参加者が集まり実際の会がスタートする。
様々なバリエーションはあり得るだろうが基本的なものをここに提示した。
2-1-4
合コンのパターン分け
合コンは大きくわけて 2 パターンが考えられる。(次頁の図 2-2 参照)幹事同士が知り合い
である場合と知り合いでない場合の 2 つである。幹事同士が知り合いでない場合は例えば、
幹事 2 人の間に共通の知人が存在しその人物のつてで合コンが開かれる場合である。前者
と後者では情報の非対称の度合いに差が出てくる。これについては後述する。今回は合コ
ンのその 2 パターンにわけメリット、デメリットなどを経済学の観点から分析していく。
2-1-5
情報生産者としての幹事
合コンにおける幹事は、情報を仲介する役割を持っている。すなわち自分たち側の参加
プレイヤーの持つ情報を相手に伝え、相手側の参加プレイヤーの持つ情報を相手幹事から
手に入れるのである。
「こちらは慶應生 3 人経済学部で同じゼミに属しています。ViVi みた
いな格好をしている子が好きです。もちろん恋人探しています」といったような情報を交
換し合うのである。これは順番に自分のタイプ、自分の好み、自分の目的を表現している。
どの程度の量の情報を交換するのかについてはそれぞれの合コン次第であるとしか言え
ない。しかし、自分の好みに見合った相手が来ること、お互い恋人を求めて参加している
ことが望ましいのは明らかであるから、出来るだけ多くの情報を事前に知っておくことは
有益であり、効率的であると考えられる。
だがここで問題となるのは幹事同士がどの程度の信頼関係を持っているかということな
のだ。問題は情報を偽ることが可能であるということである。合コンが繰り返しゲームを
強制されない性質を持っている以上、自分側の情報を偽って合コンに参加することは合理
的な戦略であるとも言える。(あまりに情報と事実がかけ離れていてはその後呼ばれること
はないだろうが。) 幹事同士が知人で仲が良い場合、その後も関係が続けられるのが普通で
あるから、心理的な面であまり偽った情報を流すことができないし多くの情報を交換しや
すい。一方で幹事が知り合いでない場合、たとえ情報を偽って合コンに参加したとしても、
幹事同士を仲介した人物が偽られた側の幹事に文句を言われることがあっても、合コンの
参加プレイヤーに文句を言われ続けることはあまりないだろう。(勿論実際合コンをしてい
23
る最中は怒り心頭であろうが) 加えて、顔もあわせたことのない人物に自分たちの選好を伝
えるのも気が引けるものである
図 2-2 合コンのタイプ分けのイメージ
●パターン 1 幹事同士知り合い
※□は男性、○は女性
自分の目的
自分の目的
自分の目的
自分の好み
自分の好み
自分の好み
黒は幹事を表す。
・・・
知り合い
・・・
自分の目的
自分の目的
自分の目的
自分の好み
自分の好み
自分の好み
●パターン 2 幹事同士は知り合いでない
※□は男性、○は女性
自分の目的
自分の目的
自分の目的
自分の好み
自分の好み
自分の好み
・・・
知り合い
・・・
知り合い
自分の目的
自分の目的
自分の目的
自分の好み
自分の好み
自分の好み
以上が合コンの概要である。2-4 以降さらに分析を進める。
24
黒は幹事を表す。
2-2
結婚相談所
結婚相談所とは結婚を希望する独身の男女の会員に結婚を前提とした出会いを提供し、
出会いの日調整、お引き合わせ、交際~結婚にいたるまでのフォローもふくめたサービス
を提供する結婚情報サービスの企業を指す。
まず結婚相談所の特徴を説明する。現在日本には大きくわけて 3 タイプの結婚相談所が
存在する。
2-2-1
インターネットタイプ
主にインターネットのサイト上で結婚情報を提供している結婚相談所のことを指す。
mixi などの SNS の結婚サポートサービスでと思うとわかりやすいと思う。 会員の募集も
会員内の出会いもすべてネット上で行われる。 料金は他のタイプに比べ割安だがその分サ
ポートやサービスも薄い。
また、同じくインターネットを使うマッチングメカニズムとして「出会い系サイト」が
あげられるが両者の違いを比較すると以下の表のようになる。
図 2-3 インターネットタイプの結婚相談所と出会い系サイトの比較
インターネットタイプ
出会い系
会費
有料
ほとんど無料
個人情報
開示(偽れない)
任意(偽れる)
会員の目的
結婚(マッチング)
さまざま
このようにインターネットタイプは個人情報の開示が基本的に義務付けられており、さ
らに独身証明書や公的文書の提出を求められる。また、会員の目的に関して、インターネ
ットタイプは当然結婚を目的とする人のみである。一方出会い系に登録している会員の目
的はさまざまであり必ずしも目的は一致しないケースが存在する。
2-2-2
データマッチングタイプ
有名な大手が行う結婚相談所で行われるサービス。コンピューターで数万人の会員のデ
ータや好みを一括管理し、もっとも相性のよい相手をコンピュータが計算する。すなわち
GS アルゴリズムが活用されている。大手の結婚相談所はこのタイプを採用していることが
多く、大きいところでは会員が 5 万人を超すところもある。
25
自分の希望するような相手に出会える可能性は高くなるが、平均費用(*)は 30 万円と料
金は他のサービスに比べ割高。
*入会から成婚までが 1 年の場合の平均的なコスト
2-2-3
パーティタイプ
パーティ形式で大勢の異性と交流し、その中から自分に合う相手を選ぶタイプ。1:1
で会うのとはと違い、参加者があまり緊張せずに婚活をたのしむことできる(素の自分を
出しやすい)のが特徴。
パーティの一般的な流れは「婚活ガイド~理想の相手探し~」によると
1・受付でカードをもらいプロ―フィールなどを記入していく。(カードがない場合もある)
2・パーティが始まると男女が別に並び順番に一人一人と挨拶をしていく。(このとき第一印象の良い人
をチェックしておく。)
3・第一印象が良かった上位の数名にメッセージカードを渡す。(カードの回収、配布は全部スタッフが
行うので恥ずかしがり屋さんでも大丈夫♪)
4・ランダムにいろんな人と会話をする。会話時間は一人 1 分が基本。ここで気にいった人がいればカー
ドを渡すなどのアプローチもできる。(パーティによってはゲームなどをする場合もある。)
5・フリータイム。自由にコミュニケーションを取ることができる時間。
6・好感をもった人に気持ちを伝えるカードに記入。
7・カップル発表、パーティ終了
となる。
2-3
お見合い
お見合いは結婚を希望する男女が仲介人を介して知り合い、マッチングをするメカニズ
ムである。
通常男女の共通の知り合いが仲介役をする。最近では上記の結婚相談所などが仲介人を
することもあるが、ここでは結婚相談所とお見合いを区別するため共通の知り合いを仲介
人とした見合いについてみていく。
見合いのプロセスと概要については以下のようになっている。
26
①見合いを希望する男女は、まず自分の釣書(つりしょ)と呼ばれる写真付きのプロフィ
ールを作成して、世話人に託する。
②世話人は、自分が預かっている釣書の中から、あるいは別の世話人と釣書を交換するな
どして、釣り合いの取れそうな相手を見つける。
③適切と思われる相手が見つかったら、世話人は相手の釣書を男女双方に提示する。
④男女双方が会う事を希望したら、世話人立ち会いの元で実際に対面させる。この時、世
話人に手数料(見合い料)を支払う。
⑤後日、双方が再度会いたいという意思表示をした場合に、交際に入る。そうでない時は、
男女が再会する事は決してない、一期一会の場である。また、二、三度程度交際した後
に、交際を継続するかどうか判断してもよい。
⑥結婚が成立した場合は、世話人に謝礼(成婚料)を支払う。
(wikipedia 見合いの項目から抜粋)
2-4
各マッチングメカニズムの比較
この節では合コン、結婚相談所、お見合いの 3 つのマッチングメカニズムを「集められ
る人物(選択肢の制限)」、
「情報の非対称性」の観点から分析する。
2-4-1
集められる人物
2-4-1-1
合コン
幹事同士が知り合いの時に行われる合コンでは幹事が合コンにつれてくることのできる
人物 m 人のなかからしかえらぶことができない。一方、幹事同士が知り合いではない場合、
つまりだれかが間に挟まるような合コンではメンバーを選ぶ選択肢の範囲が、幹事同士が
知り合いのときよりも広い。(次頁図 2-4 参照)
2-4-1-2
結婚相談所
結婚相談所はその規模に差はあるものの大学生のつれて来ることのできる範囲を大きく
超えた会員が登録している。たとえば大手結婚相談所のノッツェやオーネットなどは会員
数が 4 万人を超えている。故に選択肢は限りなく広く、この問題を解決しているといえる。
2-4-1-3
お見合い
結婚相談所に比べると連れてこられる人の範囲が仲介人個人の知り合いに限定されてし
まう。これは合コンの場合と同様の選択肢の広さである。
27
図 2-4 幹事間に仲介者が入るか否かによる集められる人数のイメージ
友人
友人
友人
幹事
仲介者
友人
友人
友人
仲介者が入らない場合
⇒このように幹事同士が知り合い同
士のなかで合コンをセッティングす
るとよべる人が限られる。
2-4-2
間に仲介者が入る場合
情報の非対称性
情報の非対称性はさらに合コン参加者の「好み」と「目的」に細分化できる。
2-4-2-1
合コン
幹事同士が知り合いの場合、幾分ではあるが情報の非対称性が解消されると考えられる。
好みについて考える。幹事が知り合い同士の場合、合コンが開催される前に幹事は参加者
の好みを伝え、どうようなタイプの人間をつれてきてほしいかを相手側の幹事に伝える。
その上でつれてくる人間の好みも加味してメンバーの調整をする。そうすることによって
情報の非対称性は幾分か解消され、マッチングの可能性を高めることができる。しかしこ
れは幹事がどれだけ適切に情報を集められるか、つまりは幹事同士の仲の良さ(どれだけ
密にコミュニケーションをとり情報をやりとりできるか)に依存する。
一方、幹事同士が知り合いではない場合、幹事同士が知り合いでないとコミュニケーシ
ョンがとりづらくなるため情報がオープンでなくなる。そのため好みの情報などが伝えに
くくなって適切なメンバーをつれてくることができなくなる危険性がある。
次に目的について。この論文では合コンをマッチングメカニズムの 1 つと定義したが、
実際合コンに来る人間の目的はさまざまである。例えば合コンに行く理由として「マッチ
ングのために行く」、「お酒をのんでただ楽しみたいから行く」、「マッチングする気はない
けど合コンというものを一度経験したいから行く」といったものがあげられる。無作為に
合コンの参加者を集めた場合目的が一致しないことが多々ある。これも幹事の働きによっ
て解決できるかどうかわかれるだろう。
28
2-4-2-2
結婚相談所
結婚相談所では会員は業者に対して自分の好みに関して詳細なデータを提示している。
例えばマッチングタイプの大手結婚相談所では会員に何百にもなるアンケートの提出をさ
せている。それらの情報を業者が管理することで会員全体の好みについて知ることができ、
選好がお互いに高くなるだろう人同士を結び付ける仲介者となれるのである。つまり結婚
相談所の情報の管理者は資源配分を実行していることになる。
また、“結婚”相談所という名の通り参加者の目的は「結婚する相手を見つけること」で
統一されているため、目的の不一致も生じない。さらに会員費などのコストがかかるため、
そのコストが逆にシグナリングの役割をはたしているといえる。
2-4-2-3
お見合い
お見合いによってマッチングが図られるとき、その 2 人をよく知った者が仲介者を務め
るのが一般的である。この場合仲介者がお互いの特徴、好みなどの情報を管理・調整して
マッチングをはかるため、情報の非対称性は解決されると考えられる。ここでもこの仲介
者こそが資源配分の実行者となるのである。
お見合いでも目的は「結婚する相手を見つけること」で統一されているため、目的の不
一致も生じない。さらにお見合い手数料・謝礼などのコストがかかるため、そのコストが
逆にシグナリングの役割をはたしているのも同様である。
2-5
資源配分問題の観点からの問題点に対する考察
1 章で議論した資源配分の観点から合コンを分析すると、2-4 でしるした情報の非対称性、
選択肢の制限の 2 つの問題のうちより非効率を生むのは情報の非対称性だと考えられる。
情報の非対称性こそが資源配分問題における難点だということは第 1 章でも指摘したから
である。中でも目的の不一致によりもたらされる非効率性は際立っている。たとえば 3 対 3
の合コンにおいて男子全員と女子 1 人は「恋人候補を探したい(マッチングしたい)」とい
う目的で合コンにきているのに、女子 2 人は「彼氏がいて別れる気はないのだけれど合コ
ンの雰囲気を味わってみたい(マッチングする気がない)
」という目的で合コンにきている
場合を考えよう。目的が合わないという点ですでに非効率だが、マッチングを数多く行う
という観点からみても女子は実質 1 人しかいないことになり、最高でも 1 組しかマッチン
グが行われないことになる。
また、好みの不一致も大きく影響を与えることには変わりない。自分の好みに合わない
タイプの人間が合コン会場に来たら、たとえマッチングする気は十分にあっても交際を始
めるきっかけにはならない可能性が高くなる。しかし最初からマッチングする意思のない
目的の不一致よりは重大性が幾分小さいのは事実である。
よって情報の非対称性とりわけ目的の不一致は男女の配分の効率性を阻害する。
29
2-6
合コンの有効性
~効率性と安定性・達成数~
ここまでの話を整理すると、合コンの欠点は「情報の非対称性」という言葉に集約する
ことができ、効率性が損なわれているのだと言える。さらに合コンにおいて求められてい
ることとして安定的なマッチングと、実現するマッチングの数を考える。この両者を合わ
せた概念が合コンで求められる良し悪しの基準であり、これを合コンの「有効性」という
言葉で表現したいと思う。
2-6-1
効率性
資源配分問題上の効率性とは、適切な人に適切な財をできるだけ安いコストで配分する
ことさらには、その配分を変化させて誰かの効用をあげようとしても、他の誰かの効用を
下げざるを得ない状況を作り出していることと言える。マッチング市場でもこの効率性を
適用し、別の言葉で言うことが可能である。
まずは男女のマッチング市場全体で言える広義の効率性を議論したいと思う。前提とし
て、恋人を持たない男女同士が出会いのきっかけを作ることをマッチングと呼ぶことを確
認したい。さらにまた、先に述べたように参加者同士の目的が違っていたり、あまりに自
分の好みとかけ離れていたりしてもマッチングは起こらない。
そこで広義での効率性とは「目的が一致しているかつ、当事者がお互いにの自分の好み
に合うタイプの人間である組み合わせとなるマッチングを行うこと」ということができる。
それでは合コンにおける効率性について限定して考えてみよう。まず合コンの目的とは
交際する(関係を持つ)相手を探すための男女の出会いの場であることを確認したい。これを
目的とせずに純粋に合コンという名の飲み会の雰囲気を楽しんだとしても、何ら罰則はな
い。だが本来の合コンは恋人を持たない男女同士が出会いのきっかけを作るべき場所であ
る。基本的に効率性の観点から言えば合コンも、結婚相談所もお見合いも本質的な違いは
全くない。違うことといえば目的が結婚で統一されているか、特に目的が設定されていな
いかの違いである。だからこそ効率的な合コンを議論する上で目的が一致した状態を考え
ることが必要になってくる。
つまり我々は、合コンの効率性とは「目的が交際相手を見つけることで一致しているか
つ、当事者がお互いに自分の好みに合うタイプの人間である組み合わせとなるマッチング
を行うこと」であると理解した。
2-6-2
効率性の要件
効率性を高めるにはどうしたらいいだろうか。その要件は次の 3 つに集約されるだろう。
①情報が対称的であること②コストが安く参加しやすいこと③選択肢が多いことである。
ただしこのなかで最も大切なのは①であることは 1 章での議論の通りである。
2-6-2-1
情報の対称性
30
情報が対称的であることはさらに、参加者の好みと参加者のタイプが互いに一致するよ
うに詳しくわかっていること、参加者の目的が一致すること、の二つに細分化できる。考
えて見れば単純な話であるが、お互いに合コンの参加者の好みに合うタイプ、すなわち望
んだようなタイプの相手が来た上、ちゃんと恋人を探しに来ているとすれば、条件的には
マッチングが起こりやすいのは明らかである。これを実現するためには幹事にきちんと働
いてもらう方法を考えなくてはならない。幹事の役割の詳細については 2-7-1 を参照してい
ただきたい。幹事に如何にして働いてもらうかを考えるのが幹事のインセンティブ問題で
ある。
2-6-2-2
コストの安さ
他のメカニズムが仲介者への金銭の授受を通してマッチングを実現するのに対して、合
コンは幹事に金銭を渡すことがない。この点で合コンは他のメカニズムと比較して圧倒的
に金銭的コスト面では優位性を持っている。そのため他のメカニズムに比べてコミットメ
ントを強要されることもないし、気軽に参加できるのである。
コストの話は効率性を高める要件①や③にも関連する。コストが安い場合、すなわち仲
介者に金銭を与えないことになる場合、参加者にとって負担が少なくなるが、仲介者には
「きちんとしたマッチングを提供しよう」というインセンティブを付与できない。その場
合もたらすマッチングの質にはマイナスの影響を与えるのだ。その一方で参加費用が安い
ために多くの潜在的参加者が集まり、多くの相手に会える可能性が高くなる。すなわちコ
ストが安いことは効率性の観点からはプラスの影響もマイナスの影響も与えるのである。
2-6-2-3
選択肢の多さ
目的が一致し、お互いに自分の好みに合うタイプの人間であるという潜在的な相手が多
ければ多いほど多様な好みを受け入れる余地が存在するために、自分の好みと最も合致し
た相手が見つかる可能性が高くなることは明らかである。そのため合コン市場にもできる
だけ多くのプレイヤーが参加することが望ましい。しかし、ここで問題が考えられる。た
とえ潜在的な部分を含めたとしても、合コンをセッティングしてくれるのは幹事であり、
彼が紹介できる範囲というのは限界があるということだ。この紹介できる範囲に関しては
結婚相談所の何万人という規模に勝ることができるメカニズムは存在しないだろう。さら
に本質的な資源配分問題の効率性という観点から見たときに、この論点は若干ずれている
ことになる。そのため今回の論文ではこの論点を後学の課題としたいと思う。
この節で議論した合コンの効率性を図で表現すれば以下のようになる。
31
図 2-5 合コンの効率性
※1 合コンは出会いをする場である。
※2 マッチングとは男女の出会いが発生することである。
効率性=「目的が交際相手を見つけることで一致しているかつ、当事者がお互いに自分
の好みに合うタイプの人間である組み合わせとなるマッチングを行うこと」
要件
①情報が対称的であること
参加者の目的が交際相手の発見で一致
参加者間で好みとタイプが一致すること
②コストが安く参入しやすいこと
③選択肢が多いこと
2-6-3
安定性とマッチングの達成数
合コンの良し悪しを決める基準の中で効率性の他にもう少し考えておかねばならないこ
とがある。それは合コンで達成されるマッチングは安定的なものでなくてはならないとい
うこと、さらにはその 1 回の合コンにおいて達成されるマッチングの数は実現可能なうち
でできるだけ多くなくてはならないということである。お見合いや偶然の出会いでは当事
者だけの効用を高めればよいが、合コンでは参加者全体が満足することがよりよい合コン
となる。これはすなわち参加者全体で安定的なマッチングをできるだけ増やすことと言う
ことができる。この場合安定的というのは、その場の一時的な戦略行動によって自らの好
み・選好を歪めてマッチングしないということを意味している。また、出来るだけ増やす
というのは、合コンの参加者が 2n 人いるのだから n 組のマッチングの達成を最も望まれる
結果として追求していこうと考えているということができる。
こうした安定性と、マッチングの最大数での達成というのは 1 章で紹介した GS アルゴリ
ズムの導入によって実現することが可能であるのだが、ここで考えてほしい。GS アルゴリ
ズムではすでに集められた人間の中での、選好の情報について考えているのである。つま
り適当に集まった人同士であってもその中で選好の情報を詳しく確認して完全情報とする
ことで、安定的かつ最大数のマッチングが達成できるアルゴリズムなのである。これはこ
れまで議論してきた効率性の考え方とは大きくずれている。効率性とは適切に資源配分を
行う指針とでも言うべきものだから、財を適当に集めるということはそもそもしないのだ。
しかし、よく考えてみれば前述の通りに効率性を高めていれば、当事者がお互いに自分
の好みに合うタイプの人間である組み合わせとなっているのだからもちろん安定的なマッ
チングは実現するはずだし、その達成数は自ら最大のものとなるはずである。つまり合コ
ンの効率性を追求していくことによって、安定性と最大限のマッチングの達成は実現可能
32
となる。
2-6-4
合コンの有効性
前 3 節で合コンの良し悪しを決める基準について効率性と、安定性・マッチング達成数
についての議論を行った。この 2 点の概念が達成されていればよい合コンと言えるのであ
る。ミクロ経済学上の資源配分問題では、本質的には効率性の中に安定性やマッチングの
達成数といった概念は存在しない。よってこの 2 つをあわせた基準を新たに「有効性」と
いう言葉で表現しようと思う。この論文の中で有効性という言葉を使用した場合はこの 2
つの概念が含まれていると考えてもらいたい。しかし実際この有効性を達成するためには
効率性を高めることがそのまま直結するというのは、前節で述べたとおりである。
2-7
本論文が目指すべき合コンの姿
以上、合コン、結婚相談所、お見合いといった現代に存在するマッチングと有効性につ
いて説明した。この章でのまとめとして議論を整理し、目指すべき合コンの姿を提示した
いと思う。
我々は有効的な合コンのセッティングを目標にしている。有効的とは「効率的であるこ
とと、安定的かつ最大数のマッチングが達成されること」であるとした。合コンは連れて
来ることのできる人物に限りがある、情報の非対称性が生じる、仲介者を立てる場合イン
センティブ付けが困難である。一方結婚相談所・お見合いではそれらの問題が解決され、
さらにコストによるインセンティブ付けができるため、合コンの問題を結婚相談所とお見
合いは解決することができる。この意味で後者の方が効率的なマッチングメカニズムとい
うことができるかもしれない。
しかし両メカニズムは金銭的な支払を通じた仲介者のインセンティブ付けを行ってこそ
成立するものである、大学生の幹事同士の間ではそのようなコストを支払うことは心理的
に難しいと思われる。さらに大学生のうちから結婚だけを目的にしてマッチングを求めて
いる学生は少数だと考える。
よって大学生にとって合コンのメカニズムを採用しながら合コンの有効性を追求し、合
コンの諸問題の解決を図れるような「あたらしい合コン」メカニズムを考えていかねばな
らない。有効性は効率性を追求すれば達成されるので、効率性を追求せねばならない。
合コンの効率性とは「目的が交際相手を見つけることで一致しているかつ、当事者がお
互いに自分の好みに合うタイプの人間である組み合わせとなるマッチングを行えること」
であり、これを達成するには①情報が対称的であること②コストが安く参加しやすいこと
③選択肢が多いことが必要である。この中で③については本論文では触れず、今の合コン
メカニズムをベースにするので、②についても考慮する必要がない。ゆえに基本的には①
情報の対称性を達成すればよいということになる。このためには他のメカニズムのように
仲介者をうまく使う必要があり、すなわち幹事をうまく使わねばならない。そのためまず
33
は仲介者たる幹事がどのような役割を果たすべきか議論する。
2-7-1
幹事の果たすべき役割
合コン以外のメカニズムで仲介者が果たしている役割をそのまま果たすことができれば、
問題ないのである。すなわち幹事の果たすべき役割とは「合コンに参加したい者同士の間
に立って、(会のセッティングを行い) ①相手から参加者の情報を聞く。②潜在的参加者全
員の細かい好みと、合コンに参加する目的という情報を偽りなく収集しておき、①の情報
をもとに自分側の参加者を選ぶ。③最後に自分たちの好みをきちんと相手に伝えておく。(下
図も参照してもらいたい)」ということができる この意味で幹事は情報の生産者となる。だ
がこの作業は非常に骨の折れる作業である。現実的にこうした役割を果たすためには幹事
に何らかのインセンティブを与える必要がある。
図 2-6 幹事の果たすべき役割
①男性側の幹事は自分たち側のメン
バーの目的が恋人探しであるこ
と、好みはどのようなものである
ccS
か、自分たちのタイプを偽りなく
女性幹事に提示。
②情報を受けた女性幹事は紹介でき
るメンバーを考え、目的と好みを
確認する。最も男性メンバーの選
みに合うタイプ+その男性メンバ
・・・
ーのタイプを好む女性メンバーを
・・・・
選択する。(中が網掛けの 2 名が選
択された)
③女性幹事は男性幹事に女性側メン
バーの目的と好みの詳細、タイプ
を伝え、情報の非対称性を解消す
る。
※□は男性
○は女性を表す。それぞれ中が黒いものは幹事を表す。
※例として男性側がメンバーをそろえている状態からの手順を紹介するが、
女性側がメンバーをそろえていても同様である。
34
2-7-2
情報がバイアスをもたらす可能性
前節までで理想的な合コンを実現するためには幹事が情報をしっかり供給しなくてはな
らないこと、その幹事の果たすべき役割を理解することができたと思う。だがこの論文を
ここまで読んでくださった方々は薄々感じていらっしゃる方もいると思うが、このように
幹事が、情報を大量にかつ正確に収集することは果たして可能なのかという疑問が湧いて
くるはずである。正直な答えとして、現実的には難しいと言わざるを得ない。そこでこの
論文ではこの疑問に対する出来るだけ実現可能な対処方法を考えている。
情報を大量に収集することが可能かどうかは何度も書くようだが幹事の働き次第である。
このインセンティブ問題を第 3 章で議論する。
次に情報の正確性について見ていこうと思う。ここまでの議論ではあえて触れないよう
にしてきた問題である。1-5 でも指摘したが、参加者が嘘をつく可能性を否定することはで
きない。しかし、前述の効率性を達成できるのなら全く嘘をついたところで特別な利益が
得られるわけではないだろう。問題となるのは幹事が情報をきちんと正確に提示できるか
否かと言うことである。その情報が正確ではないとしたらどうなるか。幹事のもたらす情
報は、一転して効率性の上昇を阻害する要因になるかもしれないということである。これ
までの議論に逆説を唱えるようだが、その可能性は否定できないのだ。
幹事がもたらす情報は大きく分けて 3 種類あることを先の章で議論した。すなわち合コ
ンに参加する目的と、各人のタイプと、各人の好みの詳細である。目的は「合コンという
会を楽しむ」
「恋人を探す」の 2 択しか存在しないので、まず間違いなく不正確性は生じな
い。問題は各人のタイプや好みの方である。しかしそれは幹事がきちんと働くことで不正
確性が解消されるだろう、そのように述べているではないかと思う方がいると思う。ここ
までの話では確かにそうだ。だが如何に正確で間違いない情報を幹事がもたらしても、そ
れを解釈するのは人間である合コン参加プレイヤーである。加えて現実的には全ての情報
をもたらすことは難しい面がある。その場合、少ない情報から自分なりの解釈を加えてあ
る程度相手の人物像を想像してしまう可能性があるのだ。
「幹事がたとえ正しい情報を伝え
ても、その情報を合コン参加者が主観で勝手に判断したために、正確性が失われ効率性を
阻害する結果につながる」ことを考えておかなくてはならない。この正確な情報と、参加
者の主観によるイメージとの乖離をもたらす現象を「バイアスがかかる、バイアスが存在
する」と表現する。合コンの効率性さらには有効性を追求するために、このバイアスにつ
いて考慮した上で情報の対称性を議論する必要がある。これについて第 4 章で詳しく述べ
てゆくことにする。
35
2-7-3
目指すべき合コンの姿
ここまでの議論からこの章のまとめというべき結論と、解決すべき問題点を示唆すると
以下の図のようになる。
図 2-7 本論文の目指すべき合コンの姿
目的
:
最も有効的な合コンの形態を追求する
・目的の一致が達成されていなくてはならない。
・参加者のタイプと参加者の好みが正確に明らかになっていて一致する必要がある。
⇒幹事のインセンティブ問題を解消していく必要がある。…A
⇒情報にかかるバイアスを解消・考慮する必要がある。
…B
・コストを安くしなければならない。
⇒幹事のインセンティブ問題の解消と潜在的参加者の増加のトレードオフ。
・選択肢を多くしなくてはならない。
⇒コストが安いことで確保できる人数のみで妥協する。相談所並みの確保はできない。
A については第 3 章で、B については第 4 章で議論を展開する。
36
第3章
仲介者のインセンティブ問題
第 2 章のメカニズムの比較からどのメカニズムにおいても仲介者が大きくマッチングの
成功への鍵を握っていることがわかったと思う。ここでは各メカニズムにおける仲介者へ
のインセンティブ問題を取り上げ、最終的に合コンではどのような条件を設定すれば仲介
者である幹事へのインセンティブ問題が軽減されるのかを議論したい。その結論こそが
我々の目指す合コンで達成すべきことであるはずである。
3-1
幹事・仲介者への金銭によるインセンティブ付与問題
3-1-1 合コンの幹事へのインセンティブ付与
合コンにおいて有効性を高め、マッチングを成功させるには男女の幹事それぞれが「マ
ッチングを目的として合コンに参加してくれる人間、参加者の好みに合ったタイプの人間」
を探して連れてこなくてはならず、その際にはサーチコストが多分にかかると考えられる。
だが合コンの幹事の場合特に大学生間では、そのような金銭の授受によるインセンティ
ブづけは非常に難しい。確かに幹事同士が知り合いの場合、ある程度の金銭の授受は受け
入れられるかもしれないが、一般的に考えてそのようなことをした上でこれからも人間関
係を続けていきたくないと考えるのが普通であろう。知り合いでなければより一層難しい。
また、幹事が知り合いである時、知り合いがマッチングに成功したことで心理的な効用
が高まるかも知れないが、幹事同士が知り合いではない場合そのような効果は期待できな
い。また幹事同士が知り合いの場合であってもわざわざ知り合いが連れてくる人間の好み
に合った人間をつれてくるインセンティブをもつことはない(赤の他人のため)。そのためサ
ーチコストを考慮するともう一方の幹事がマッチングした際の期待利得はとても小さいと
考えられ、合コンではインセンティブ付与を行うことが非常に難しいとわれわれは考える。
3-1-2
結婚相談所の仲介者へのインセンティブ付与
結婚相談所においても合コンと同様に適切なマッチングを行う際にサーチコストが発生
する。ではサーチコストが存在する中で結婚相談所の幹事に対し会員のマッチングをサポ
ートするための適切なインセンティブをあたえるにはどのような報酬を与えればよいのだ
ろうか。このインセンティブ問題を「プリンシパル・エージェント問題」として詳しく見
ていこう。
今回のケースではプリンシパルが結婚相談所の会員、エージェントが結婚相談所(仲介
者)といえる。仲介者のインセンティブは会員にマッチングをサポートしお金をもらうこ
とである。マッチングをしっかり成功させないと以降会員が集まらず商売がなりたたない。
ここで次のようなモデルを考えよう。
37
仲介者の利益:π(会費)とすると、
① 仲介者が頑張ってマッチングさせようとするとコストがかかるため利益は π-C (コス
ト)、次回以降も客が来る
② マッチング努力おこたると利益は π のままだが、次回以降客が減り利益減
③
割引因子を σ とする
今回簡略化のため次回以降も π は一定、マッチング努力を怠ると客が全員他社にとられる
と仮定すると、仲介者が頑張るのは①>②のときですなわち
π
C
δ π
δ π
C
π
1
C
σ
π
C
σ
C
①
が成立するときである。今日では情報産業の発達によって会員のデータをパソコンで管理
できるようになっておりコスト C はかなり小さくなっている。よって①の不等式を達成し
やすくなっており、仲介者のインセンティブ問題は解決されていると考えられる。ただし
インターネットタイプの結婚相談所は SNS のような形をとって極力結婚相談所が干渉しな
い形をとっているためそれぞれの会員にその人の好みに合った会員を紹介しているとは言
えない面もある。
3-1-3
お見合いの仲介者へのインセンティブ付与
結婚相談所同様、お見合いの仲介者のインセンティブ制約は
マッチングの成功率を α、サーチコストを C、手数料を w1、マッチングが成功した際に支
払われる謝礼を w2 とすると
α w
w
α w
C
1
α w
1
w
α w
C
0
C となり、お見合いの場合は仲介者の期待利得がサーチコストを超えた場合仲介者に対して
適切なインセンティブ付与が可能になる。
以上のように結婚相談所やお見合いでは仲介者に金銭の授受により情報を収集、管理す
るインセンティブを付与することが可能である。これにより情報の非対称性を解消するこ
とができていると考えられる。しかし我々が目指すのは合コンメカニズムにおける情報の
非対称性解消である。大学生が現実的に行える策として有効な方法を以下で議論する。
38
3-2
合コン幹事のインセンティブ問題への対処
合コン幹事にインセンティブ付けをするにはどうしたらよいのだろうか。前節までで述
べた通り、合コンでは結婚相談所やお見合いのようには幹事に対して金銭によるインセン
ティブ付けができない。金銭以外のインセンティブ付けとして心理的なプレッシャーによ
るインセンティブ付けが考えられる。たとえば合コンにつれていった自分の知り合いや相
手方の幹事(友達の場合)がマッチングした場合の喜びなどは幹事を頑張らせるインセンテ
ィブ付けになりえると考えられる。しかしそのインセンティブ付けの強さは友人や相手方
の幹事との関係性に依存し金銭的なものによるそれよりも低いと考えられる。そのため心
理的なプレッシャーではインセンティブ付けをはかることは一般的には難しい。
インセンティブ付けが必要となるのは、幹事が合コンに相手方の参加者がもつ好みやタ
イプにあった人間を自分の知り合いの中から探し出し連れてくるコストだと述べた。逆に
言うとそのコストがなければインセンティブ問題は解決することができると考えられる。
そのためわれわれは「サーチコストが 0 となるような合コンのメカニズムを考えることで
幹事のインセンティブ問題を軽減する」という方法を提言したい。以下で気をつけるべき
点について議論し提言とする。
3-2-1
サーチコスト
まず合コン幹事が持つサーチコストについて詳しく議論し直す。ここで言うサーチコス
トは「合コンのために目的が一致し、相手方の参加者の好み・タイプに合った人間を自分
の知り合いの中から探し出し連れてくるコスト」であるが、その大きさは幹事との関係に
依存する。たとえば幹事といつもゼミやサークルで話している人間とは日頃から意思疎通
ができておりその人の好みやタイプがわかっているのでサーチコストはかからない。しか
し高校時代の親友など知り合いだけど連絡をとりあっていない場合には現状を調べるため
にサーチコストがかかるだろうし、その知り合いが疎遠になればなるほどサーチコストは
大きくなる。
サーチコストが存在していると考えた上で、合コンの幹事が現実にどのような行動をと
るのか考えることが可能である。下の図のような状況を考えてみよう。一般的に大学生に
もなると「そこそこ」の知り合いが存在する。ここでは以前は仲が良かったが最近はあま
りコンタクトをとることのない人たちとする。幹事を大学生にあてはめると高校や中学時
代に仲がよかったが今は別の環境にいる人ということである。おそらく一般的な大学生で
あればこういった人間だけでも大勢おり、疎遠な人に比べてサーチコストは小さいとはい
えなかなか骨の折れる作業だといえる(本気でやろうとしたらゼミの OB 会で OB 全員にコ
ンタクトをとるより大変ではないだろうか。彼らは面識がないとはいえ、同じカテゴリー
に属し、OB 会という同じ目的があるからである。)
そのため金銭によるインセンティブ付けが不可能な合コンの幹事はサーチコストが 0 で
39
ある自分ともっとも近しいグループから参加者を探しているのが現実である。
図 3-1 サーチコストと知り合い関係の関係
3-2-2
スクリーニング
合コン幹事は以下のような手順をふむことで、サーチコストがかからず相手方の参加者
の持つ好みとタイプに合致したメンバーを選定することができる。
① 自分の知り合いの中からもっとも身近な友達(サーチコストが 0)をスクリーニング
② その中でマッチングを目的として合コンに参加してくれる人をスクリーニング
③ さらにそのなかから相手方の参加者の好み・タイプに適したタイプ・好みをもった人を
スクリーニング
この手順をふむことで最も有効的な合コンを達成できるメンバーを選定することが可能に
なる。
3-3
合コン幹事に求めることと求められる合コンの姿
以上の議論から実際にどういうことを幹事に求めることが最も有効的に合コンを行うこ
とができるのかを述べる。そしてこの節がインセンティブ問題に対する我々の答えとなる
考えである。
3-3-1
目的から好みへの鉄則
一般的に合コンの幹事選びにおいて勘違いが発生しやすいのは目的の一致・不一致を考
慮せず、自分の好みにあう人が友達にいそうな人間に幹事を頼むことである。例えば「あ
いつの所属しているテニスサークルはかわいい子が多いと評判だから合コンを頼んでみよ
う」といった感じに考える場合である。この場合もしかわいい子が来たとしてもその子た
ちがマッチングを目的として合コンに来なかった場合、非有効的な合コンになってしまう。
合コンはあくまで目的の一致を達成してから好みの一致を狙うべきである。目的がマッ
40
チングで一致していなければ交際につながる可能性は著しく低下するが、好みの多少のず
れならば問題にならないことも多い。
3-3-2
情報の非対称性を軽減させるために
その下で合コンの幹事を頼むべき人は「目的が一致しそうな人を周りにたくさん抱えて
いそうな人」である。つまりマッチング目的で合コンに参加しそうな人間がサーチコスト 0
の領域の知り合いにたくさんいそうな人に幹事を頼むことである。例えば女子大や看護学
部の学生は(インカレサークルに入っていたり、特別なアルバイトなどしたりしていない限
り)周りには女性ばかりだろうし、理工学部や体育会の男子ならまわりには男性ばかりかも
しれない。そういった、いわゆる周りに出会いがない人が知り合いに多くいそうな人間に
合コンの幹事を頼むと目的が一致し非効率性を解消させやすいと考える。
そこからは相手の幹事にどれだけこちらのメンバーの正確な好み・タイプを伝えられる
かに依存する。幹事にとってサーチコストが 0 であるから、詳細な好みとタイプがわかっ
ていればそれだけ選ぶのは容易になってくるはずである。好みやタイプを伝える際には情
報のバイアスを考慮するべきであることは第 2 章で言及した。これについては第 4 章で詳
しく議論する。
では少しわかりやすくするために次頁の図 3-2 で例を考える。左の図がマッチング目的で
合コンに参加してくれる人が身近にたくさんいる看護学科の A、右の図が慶應義塾大学のテ
ニスサークルに所属し周りにマッチング目的で合コンに参加してくれる人は身近にほとん
どいない B がいるとする。この 2 人それぞれに合コン(の幹事)を頼むとしよう。
上述したスクリーニングの手順をふむと 2 人にはどのような違いがでてくるだろうか。
第 1 スクリーニングの時点では両者に大差はないかもしれない。しかし A の場合では第 2
スクリーニングを行った後に残る人が多いため、第 3 スクリーニングを行った後に最終的
に残る人達は相手方の好み・タイプに合致しやすくなる。
一方、B では第 2 スクリーニングを行った後に残る人が絶対的に少なく、第 3 スクリー
ニングを行った後に最終的に残る人達は相手方の好み・タイプに合致しにくい。
3-3-3
n=2 の合コン
3-2-1 で述べた通り、合コンの幹事にはサーチコストが存在している。そのサーチコスト
が 0 である知り合いを探すべきであることは述べた。だが現実的に合コンの参加者が増え
れば増えるほど、サーチコストが 0 の範囲から相手の好みとタイプに合致する人間を探し
出せる確率は低くなってしまうのは否定できないであろう。人数を減らすほどその確率は
低くする事が可能であるため、2vs2 の 4 人が合コンの理想人数である。この場合スクリー
ニングもかなり容易になる。この合コンで達成される理想のマッチングは次頁図 3-3 のよう
になる。
また、2vs2 の合コンにおいてその他のメリットとしては、幹事に対し心理的なプレッシ
41
ャーをかけることが出来る点である。幹事がつれてくるメンバーは自分の知り合いである
相手方の幹事とマッチングをさせるためにつれてくるため、下手な人物をつれてくること
ができないというプレッシャーがかかる。また自分も相手の幹事から、恋人候補の紹介を
受けるわけなので、自分だけ得をしてはいけないというプレッシャーも与えられているこ
とになる。これにより現実的には金銭面以外には難しかった、幹事に適切な人間を探して
連れてくるというインセンティブを、うまい具合に付与する結果につなげることができる。
図 3-2
2 パターンの幹事
テニスサークルの B
看護の A
図 3-3
2vs2 の合コンにおける最適マッチング
① 幹事がお互いの好みとタイプの情報を
一方の幹事に伝える
①
②
② その好み・タイプを考慮し、幹事はつれ
ていく参加者を決める
※丸が女、四角が男を表し、黒の
最終的にマッ
図形が幹事を表す
チング
3-3-4
結論
以上の議論をまとめると、インセンティブ問題の軽減につながりかつ有効性の上昇をも
たらすには、合コンの幹事選びと人数の選択、幹事との連絡の際に次の点に気をつけるこ
とが必要だと言うことである。
42
①
合コンの幹事は男性なら体育会や理工系など、女性なら看護系や女子大などの一般的
にマッチングを目的とする人間が多いと言われているカテゴリーの人間に頼む。もし
くはそういった知り合いがいる仲介者に紹介を求める。
②
合コンの最小単位である 2 対 2 で合コンを開く
③
目的の一致・好みとタイプの一致をもたらすように参加者の情報を幹事に伝え、幹事
にそれを考慮したメンバー選びをしてもらう。
④
その際には 3 段階のスクリーニングが鍵となることを伝えておく。
しかし注意しなくてはならないのは、この手段でも幹事に対し完全なインセンティブづ
けをすることはできないということである。幹事に対し完全なインセンティブ付けができ
るのであれば人数をふやしても有益的な合コンを達成することが出来る。以上幹事に対し
完全なインセンティブづけができないことを課題としたい。
まずは幹事のインセンティブ問題について一定の結論を得た。次章ではもう一つの問題点
である、幹事が伝える情報の正確性とバイアスについて議論をしたいと思う。
43
第4章
情報のバイアスと行動経済学
この章では前章までの議論(幹事のもたらす情報が合コンの有効性を左右する)を受け、情
報がどういったバイアスをもたらすのかを行動経済学をもちいて議論する。4-1 で基本的な
行動経済学の理論を紹介し、4-2 で考えられる効果を検証する。4-3 で簡単な提言を行う。
行動経済学について基礎知識がおありの方は 4-1 を飛ばして頂いた方が読みやすいかもし
れない。
4-1
4-1-1
行動経済学基礎理論
行動経済学とは
経済学はアダムスミスの国富論に始まると言われる。その後 200 年余りをかけて発展を
続け、価格理論、マクロ理論、ゲーム理論、計量経済学、金融工学など様々な分野を生み
出してきた。こうした議論は非常に大切で有益なものだが、基本的に「経済主体は常に合
理的な意思決定を行う。非合理的な判断をするはずがない。」という前提をもっている。ま
た、経済主体の動きというよりもむしろそれぞれの理論の前提の中で、経済全体がどうい
う動きを見せるのかを研究した学問であった。
実際の一人の人間の経済行動を観察すると、いつでも完全な情報を持っているわけでは
ないし、時にとんでもない不合理な行動をとることもある。行列のできているラーメン屋
さんの方が隣のガラガラのお店よりも美味しそうに見える(実際にはどちらの店も変わらな
い味だとしても)とか、成功しそうにない事業に投資を続けるなどといった具合にである。
経済全体の動きから、今度は複雑で様々な不合理な行動をとる経済主体の動き・意思決
定を少しでも表現しようと試みているのが行動経済学の議論である。以下ではまず、従来
の理論での意思決定の基本となる期待効用理論を紹介し、次に行動経済学の根幹であるプ
ロスペクト理論を紹介する。その後さらに派生している様々な人間の行動の傾向の中から
今回の論文でバイアスの検証に使えそうなものを紹介しようと思う。
4-1-2
期待効用仮説
将来の収益が変動する投資行動などの不確実性下の行動について、従来の経済理論でよ
く用いられる理論。
基本的には効用最大化を考えることがポイントである。最も有力で単純なモデルは、そ
れぞれの状況がどの程度発生するのかという確率を考え、その確率分布を所与とした上で、
選択する行動の効用がどの程度になるか期待値を用いて計算する、というものである。
もっとも単純な例から考えてみる。(ここでは得られる金額の値がそのまま効用となるもの
と仮定する)
44
①サイコロを振って出た目が 1,2 なら 300 円、3,4 なら 500 円、5,6 なら 1000 円がもらえ
るくじを考える。効用の期待値は 1/3×300+1/3×500+1/3×1000=600 円ということになる。
②ある 2 つの投資対象事業があって、事業 A は 1/2 の確率で 200 万円の収益を期待できる。
一方事業 B は 1/4 の確率で 600 万円の収益を期待できるが、資金調達の関係上、その事
業に投資できる確率は 1/3 であるとした場合、それぞれの事業の期待効用は、事業
A:1/2×200=100 万円
事業 B:1/3×1/4×600=50 万円であり、事業 A に投資した方が得ら
れる収益の期待値は大きいということになる。
このように、事象がおこる確率を加重して効用の期待値を比較していくため期待効用仮説
と呼ばれるのである。
●アレのパラドックス
しかし期待効用仮説には現実の人間行動を説明しきれないという説を唱える学者もいる。
その代表格として挙げられるのが、ノーベル経済学賞を 1988 年に受賞したフランスの経済
学者モーリス・アレ(Maurice Allais)である。
アレは二つのくじの例をあげて、期待効用仮説と矛盾する現実を示した。一般にこれを
アレのパラドックスという。そのくじが以下のものである。それぞれのくじでは A か B の
どちらかの選択肢を選ぶものとする。
・くじ 1
A:確実に 1000 ドルが手に入る。
B:10%の確率で 2500 ドル、89%の確率で 1000 ドルがもらえ、1%の確率で賞金なし。
・くじ 2
A:11%の確率で 1000 ドルが手に入り、89%の確率で賞金なし。
B:10%で 2500 ドルが手に入り、90%の確率で賞金なし。
アレの観察によれば、くじ 1 では多くの人が A を選択し、くじ 2 では B を選択する。ここ
で期待効用をそれぞれ計算すると以下のようになる。
くじ 1:A→1000 ドル
B→0.1×2500+0.89×1000+0.01×0=1140 ドル
くじ 2:A→0.11×1000=110 ドル
B→0.1×2500=250 ドル
つまりくじ 2 では理論通り期待効用の高い選択肢が選ばれるが、くじ 1 においては、期待
効用の低い選択肢が選ばれたのである。この原因として 1%の確率でも賞金がもらえない可
能性があることへの不安が考えられる。しかし、数字だけでみればくじ 2 であっても賞金
なしの可能性の差が A と B の間で 1%あるという意味では全く同じなのである。このよう
に単純に確率分布だけで行動を決定しているわけではないということをアレは観察した。
45
ではもう一つの例を見てみよう。
・くじ 3
A:確実に 200 ドルが手に入る。
B:50%の確率で 400 ドルが手に入るが、50%の確率で賞金なし。
・くじ 4
A:確実に 200 ドル損してしまう。
B: 50%の確率で 400 ドル損してしまうが、50%の確率で何も損しない。
今度の場合はどうだろうか。くじ 3 でもくじ 4 でも期待値の値は等しい。(くじ 3 では 200
ドル、くじ 4 では-200 ドル)しかしくじ 3 では A の選択肢をとり、くじ 4 では B の選択肢
を選んだのではないだろうか。くじ 3 では堅実性の高い選択肢 A を選ぶ人の方が圧倒的に
多いが、くじ 4 では逆にギャンブル性の高い選択肢 B をとる人が多いという実証がある。
人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先し、損失を
目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向があるということである。こうい
った心理的側面は従来の期待効用仮説では全く想定されていない。
4-1-3
プロスペクト理論
期待効用仮説に対して心理的な要因を考察したのがダニエル・カーネマン(Daniel
Kahneman)とエイモス・トベルスキー(Amos Tversky)である。彼らは 1979 年にプロスペ
クト理論を発表し、2002 年にカーネマンはノーベル経済学賞を受賞した。実際にこの理論
を紹介していく。
まずは結論を示す。“人々の意思決定の基になる価値は、特定の状態(参照点)からの変化
によって発生する効用や損失に大きく依存し、この効用損失を表したものを価値関数と呼
ぶ”一読しただけでは理解不能であろうと思うので、以下を読んで再びこの結論を読んでみ
てほしい。
●価値関数
価値関数とは一般的に次のグラフで表現される関数であり、ある事象が起こったときに
そこにどれだけの価値、つまり期待効用仮説で言うところの効用を見出すかを表現したも
のである。縦軸では価値、横軸では損得の大きさを表している。
46
図 4-1 価値関数
価値関数がもつ大きな特徴は、原点を中心にして正負どちらの価値も表現しているとい
うことである。つまり私たちにとって±0 の価値となる点が存在するということだ。この点
を参照点と呼ぶ。参照点は私たち一人一人にとって違うところに存在すると考えられてい
る。例えば年収 200 万円の人にとっての 20 万円の収入と、年収 5 億円の人にとっての 20
万円の収入は違うと考えられるが、これは参照点が異なるからである。期待効用仮説では
このような点は存在しない。むしろどこの大きさの値にこの参照点があったとしても結果
は等しいと考えられていたのである。カーネマンたちの論文の中にこういった言葉がある。
私たちの知覚装置は、絶対量の評価よりも変化の評価をするよう調整されている。……ある温度の
物体に触れて熱いと感じるか冷たいと感じるかは、その人が慣れている温度によって変わってくる。(カ
ーネマン、トベルスキー(1979)277)
二つ目の特徴は価値関数の形状は正の価値の場合と、負の価値の場合とで大きく異なっ
ているということである。図を見てもらえば分かるように、絶対値では同じ値の利得と損
失でもそこから得られる、失う価値は損失を被った時の方がより大きい。もっと具体的に
言えば利得は凸状、損失は凹状の形の関数となるのだ。これはすなわち利得を得る状況で
はリスク回避的に、損失発生時にはリスク愛好的になるということである。
ここから二つの考えが導ける。
・従来の考え方では同じ金額ならば利得も損失も絶対値の価値は同じだった。しかし、
同じ金額でも得る嬉しさよりも失う悲しみの方が大きいということであるから、出来
るだけ損失を避ける傾向が生まれる。これを損失回避的傾向と呼ぶ。
・利得を得ている状態では現状の利益で満足する一方で、損失が出ているときはリスク
を取ってでも事態の改善を待つ傾向が生まれる。これを鏡映効果という。
47
●確率加重関数
プロスペクト理論にはもう一つ大きな柱が存在する。これが確率加重関数という考え方
である。人間は実際の確率とは異なり、極めて低い確率に対しては確率を過大評価し、極
めて高い確率に対しては確率を過小評価する傾向がある。つまり、客観的な確率の値が主
観的な確率の値(これを確率加重という)と乖離してしまっているのである。
具体例を考えてみる。宝くじで実際に大金のあたる客観的な確率はほとんど 0 に近い。
しかし年末になると人々は並んでまでこのくじを買い求めるのである。
「もしかしたら当た
るかも」と当選確率を過大に評価して、結果的に期待額をあげてしまっているのだ。逆に
この案件は十中八九成功すると周りから評判が高くても、どうしても不安感がぬぐえない、
学生ならいくら試験勉強を完全にしたつもりでもテスト前には不安になった経験があるだ
ろう。
このことを表現したのが以下のグラフである。縦軸は確率加重、横軸は客観的な確率を
表し、点線は 45°線である。従来の経済学ならば確率を客観的に考えるはずだから 45°線(確
率加重=客観的確率)が成立すると考えられるのだが、先の例のように人間は数字通りの認識
をしているわけではない。実際には下図の曲線のように主観的に確率を捉えるのだ。
図 4-2 確率加重関数
確率加重
確率
0
1
この曲線が実際の確率に対する決定の重みである。見ればわかるように数%の確率に対して
過大に評価、100%に近い確率に対して過小評価している。いずれにしても、人々の意思決
定が客観的な確率から導かれる期待効用理論では成り立たないことがわかると思う。
この節で行動経済学の根幹をなすプロスペクト理論を紹介した。人間の行動は、単純な確
率や理論による客観的な評価では計ることができないことを理解してもらいたい。だから
こそ先の章で議論した、合コンにおいて幹事がもたらす客観的な情報をそのまま受け取ら
ない可能性を考えなくてはならないのだ。では次の節からはさらに行動経済学で主張され
る様々な人間の行動の傾向を紹介していこうと思う。
48
4-1-4
ヒューリスティック
人が意思決定、判断を下すときには厳密に期待効用を頭の中で計算して、非常に合理的
な判断を下すであろうか。時間が十分にあり、正確な情報があるのならそれも可能かもし
れないが、多くの場合は直感ですばやく判断を下すのではないだろうか。多くの意思決定
は正確な計算をするにはあまりに複雑で多い情報にとり囲まれていて、自分の直観と経験
に頼らざるを得ない。不確実性下でこうした経験や直感に基づく意思決定判断をすること
を総じてヒューリスティックという。ヒューリスティックの結果、非合理的な判断が下さ
れることもあるとかんがえられるだろう。この非合理的な判断は傾向があることが知られ
ていて、以下の 3 つの経験則がある。
1 代表性
ある典型的な情報が存在することによって、すぐにそれを判断の基準として用い判断す
ることを代表性ヒューリスティックという。固定観念といえば分かりやすいかもしれない。
実際ゆっくり考えれば明らかに不合理なのに、代表性に引っ張られて間違った判断を下し
てしまうのだ。
例を考えてみよう。次の質問に答えてほしい。
リンダは 31 歳で独身。ものをはっきり言う人で、頭が良い。哲学科を専攻し、差別問題や
社会正義に関する問題に強い関心を持っていて、非核化運動のデモに参加したこともあっ
た。さて、彼女に関して次の二つの内、どちらの方が可能性が高いと思うだろうか。
A 彼女は現在、銀行員である。
B 彼女は現在銀行員であり、女性解放運動に熱心である。
どうだろうか。多くの人は選択肢 B を選んだのではないだろうか。実際に確率が高いと考
えられるのは選択肢 A である。当然銀行員であるだけの方が、銀行員でかつ女性解放運動
に熱心であるよりも確率が高いのだから。
2 利用可能性
ある判断を下す際にすぐに思い浮かべることのできる情報を使い、連想して判断するこ
とがある。HP や報道からの客観的情報であろうと、自分の過去の経験からであろうと、入
手しやすい情報を使って偏った判断を下すことを利用可能性ヒューリスティックという。
直近に大きな航空機事故があった場合、自分にもそうした大きな事故が降りかかるので
はないかと必要以上に心配し、飛行機に乗ることを控えることがその例である。これは頭
の中にある昨日のワイドショーでみた事故の映像がすぐに浮かんでくるためで、本来自分
が事故にあう確率は変化していないのだ。
49
3 アンカリング
意思決定や判断を下す前に、無関係だが印象的な数字や物を提示されるとその後の判断
に影響を及ぼし、これを基に判断することを言う。例をあげてみよう。
今回、ドットコムが一株 2000 円で株式に上場される。市場で張り合いそうなライバル会
社が、同じ株価でちょうど一年前に上場していた。現在その会社の株価は 1 万円になっ
ている。
質問。「ドットコムの株価は 1 年後にはいくらになっているか答えて下さい」
『経済は感情で動く』マッテオ・モッテルリーニ(2008)p-69 より引用
本来市場のライバルの株価の値が自分の株価の数字に大きく影響することはない。しかし
予想した数字は 1 万円に近い数字になっていたのではないだろうか。
このように提示された数字の周辺でしか予想することができなくなってしまうのがアンカ
リングと呼ばれるものである。
4-1-5
フレーミング効果
同じ内容の話をされても受け取り方・理解することは個人によって異なるだろうか。同
じ文献を読んでプレゼンを作っても、分かりやすいものと、さっぱりわからないものがあ
るように、同じ内容でも表現方法・提示方法が異なれば相手にとっての価値や選好の結果
は異なってしまう。これをフレーミング効果という。例を挙げよう。
あなたは病気にかかっている。この病気に対する医師の説明を受ける場合を考える。
説明 A:この病気は 5 年間生きられる確率が 90%です。
説明 B:この病気は 5 年以内に死ぬ確率が 10%あります。
A、B どちらの説明をあなたは聞きたいだろうか。どちらも言っていることは同じなのであ
るが、ダイレクトに死ぬ確率を突きつけられる B よりも A を選ぶ人の方が多いのではない
だろうか。このように同じ情報でもその提示方法によって大きな受け取り方の違いが生ま
れるのである。合コンの場合、情報は幹事から入ってくることがほとんどであるから感じ
の情報提示方法の如何によっては、第一印象を良くすることも悪くする事も出来るのであ
る。
4-1-6
楽観主義バイアス
人には利害がからむ物事のリスクを過小に見積もる傾向があると言われている。例えば新
規事業を立ち上げる時に、経済情勢の変化など様々なリスクが今後降りかかるであろうと
考えられるが「自分の事業だけは大丈夫だろう、うまく乗り切っていけるだろう」と考え、
50
結婚する際には「この人となら一生寄り添って暮らせるだろう」と根拠も無く考えてしま
う傾向があるのだ。こうしたリスクを客観的に考えずに判断に影響することを楽観主義バ
イアスと呼ぶ。
これと似たような効果にギャンブラーの誤謬と呼ばれるものがある。
●ギャンブラーの誤謬
特定の物事が起きる確率を客観的に見ずに、自分の主観的確率で勝手に(多くの場合は自分
に有利なように)判断してしまう現象をギャンブラーの誤謬という。例えばコインを投げる
例を考えてみる。コインの表と裏が出る確率は等しく 2 分の 1 である。だが今ここで 5 回
連続で裏が出ている状況だとしよう。どうだろうか、次くらいでそろそろ表が出るのでは
ないだろうか、などと一瞬考えなかっただろうか。冷静に考えればこれまでの結果に関係
なく次に表が出る確率は 2 分の 1 である。合コンにおいても同じである。相手側が 4 人来
るのなら 1 人くらいイケメンが来るのではないかと思っていたらそれは誤謬にはまってし
まっている。普通のレベルの相手が 3 人並んでいても、次にイケメンが来る可能性を高め
ることには繋がらないのだ。
4-2
情報バイアスの検証
行動経済学には以上のような情報判断に対するバイアスが存在することを示すものがあ
る。これを合コンの情報の場合はどう影響するのか、またどういった効果があるのか以下
で考察し、検証してみたいと思う。
前章までで見てきたように、合コンには情報の対称性が存在しにくい。そのため事前に
幹事から得られる情報によってのみ、相手を判断することになってしまう。しかし大学生
の合コンを考える時に、果たして参考になる情報はどんなものなのだろうか。
4-2-1
仮定
選好と好みについての仮定をもう一度確認しよう。選好と好みは第 2 章で確認したよう
に、人の 3 項目のタイプから成り立っている。それが①外面②内面③肩書きの 3 項目であ
る。そして人間はこれらの 3 つの要素を独立に観察し、それぞれのポイントのようなもの
を合計してその人を好むか好まないか判断するとしよう。
ここで合コンがどのように行われるか考えてほしい。事前に幹事から「こういう人たち
がいて、合コンを開催したがっているのだけどどうだろう?」といった感じに話を受けるこ
とから始まるはずである。最もよく聞くのが「○○大学の一つ下の子たちとなんだけどどう?」
と言った具合のものである。この際に受けるのは客観的な情報つまり肩書きに関するもの
が多い。合コン相手に関しては先に情報(特に肩書きに関する客観的情報)を手に入れてから
実際に会うという 2 段階を経るのが特徴である。
51
4-2-2
仮説
私たちは「合コンが情報を先に手に入れてから、本人に会う」ことに着目した。前章の
議論からは情報を事前に仕入れ、自分の好みに合致する相手と会うことは効率的なことに
思われる。だが先に情報を手に入れてしまうが故に「肩書きからバイアスをかけた外面、
内面像を心の中に描いてしまうのではないか」さらにその結果「予想していたのとは異な
る人物が合コン当日に現れ、喜んだり、がっかりしたりする原因になるのではないか」と
仮説をたてた。
もう少し具体的に言えば、肩書きという客観的な情報から生まれるヒューリスティック
や幹事の情報がもたらすフレーミング効果によってバイアスがかかり、自分の中で不確定
な人物像が形成される。結果としてこれは現実の人物とは違ったものとなる。情報をもた
らしたはずなのに逆に情報の非対称性を拡大させるような結果になり、マッチングの非有
効性を拡大させてしまうと言えるのだ。
以下ではこの仮説を検証する実験を実施したのでその詳細を記すことにする。
図 4-3 人が他人を選好する時のイメージ
B さんは A のタイプを独立に計
って合計し、好みによって選好
外面
する。
A さん
の持つ
内面
タイプ
肩書き
A さん
B さん
図 4-4 合コンにおいて人が他人を選好する時のイメージ
外面
合計して選好する
のは同じでも、肩書
肩書き
からのバイアスが
大きく左右する?
肩書からバイアス
内面
をかけて判断する
52
4-2-3
考えられるバイアスの種類
我々が仮定として考えられた効果は次のようなものが挙げられる。
①学歴バイアス
ヒューリスティクス(代表性、利用可能性)
大学生の合コンではまず間違いなく大学名の情報が交換される。本来大学名ではその人
の知性を図れる意味で内面の一部を知ることができるかもしれない。しかしそこまでのは
ずである。私たちは大学名が外面や性格を判断する材料になるのではないかと考えた。
②年齢バイアス
ヒューリスティック(代表性、利用可能性)
内面ではなく、外見について大学生に答えてもらう。社会人になると様々な年齢層の人
と関わりを持つようになるが、大学生は主に同世代との交流が多く、年上や年下との付き
合いが少ない。結果として大学生は何らかのバイアスを持つのではないか。
③出身地バイアス
ヒューリスティック(代表性、利用可能性)
出身地を予め詳しく聞くことはあまりないかもしれない。しかし都心の大学であれば、
その相手の異性が地方出身なのか、ずっとその地域で生まれ育ったのか、は好みが分かれ
るところである。また、ある地方出身者には特有のイメージが付いて回ることも考えられ
る。これらは皆参照点を変化させる要因となる。
④幹事の主観バイアス
フレーミング効果
幹事も人間である以上、紹介する相手の異性の外面内面について主観的な判断基準を持
っているはずである。伝言ゲーム的な要素をもっていて、これを一致させるのは極めて難
しい。しかし、明らかに幹事の情報の伝え方が問題となる場合がある。幹事の情報の伝え
方で、その合コンに対する参照点を変化させることが可能になる。
⑤合コンへの期待バイアス
楽観主義バイアス・ギャンブラーの誤謬
合コンに情報面で明らかに非効率性が見受けられるのにも関らず、それでも多くの人た
ちが合コン行くのは多分成功するだろう、まあ一人くらいは楽しい人がいるだろうという
楽観主義が存在するためではないだろうか。この効果について今回は検証していない。
4-2-4
バイアスについての検証
考えられるそれぞれの効果を確かめるべくアンケート調査を行った。
実際のアンケート用紙は次のページに示すものである。
53
4-2-4-1
アンケート内容
質問(1)A タイプ
あなたは幹事から、「今日の合コンの相手は慶應生だよ。」と聞きました。このとき、あ
なたは各項目について、最低どのくらいなら付き合ってもいいと思いますか?(一つに○をつ
けてください)
・ルックス
良い
5-4-3-2-1 悪い
・身長(cm)
180-175-170-165-160
(Web アンケートでは 185-180-175-170-165-160-155-150-145)
・体型
細い
5-4-3-2-1 太い
・知性
良い
5-4-3-2-1 悪い
質問(1)B タイプ(Web アンケートでは省略)
あなたは幹事から、「今日の合コンの相手は大学生だよ。」と聞きました。このとき、あ
なたは各項目について、最低どのくらいなら付き合ってもいいと思いますか?(一つに○をつ
けてください)
・ルックス
良い
5-4-3-2-1 悪い
・身長(cm)
180-175-170-165-160
・体型
細い
5-4-3-2-1 太い
・知性
良い
5-4-3-2-1 悪い
質問(2)
年上の人が合コンに来ると聞いてあなたがイメージする人は?(一つに○をつけて下さい)
54
・ルックス
良い
5-4-3-2-1 悪い
・身長(cm)
180-175-170-165-160
(Web アンケートでは 185-180-175-170-165-160-155-150-145)
・体型
細い
5-4-3-2-1 太い
・知性
良い
5-4-3-2-1 悪い
質問(3)
年下の人が合コンに来ると聞いてあなたがイメージする人は?(1 つに○をつけてください)
・ルックス
良い
5-4-3-2-1 悪い
・身長(cm)
180-175-170-165-160
(Web アンケートでは 185-180-175-170-165-160-155-150-145)
・体型
細い
5-4-3-2-1 太い
・知性
良い
5-4-3-2-1 悪い
質問(4)
「かわいい」という言葉で、あなたが思いつくのはどんな人ですか?(あてはまるものす
べてに○をつけてください)
a)おっとりしていて、話し方や声がかわいい人
b)おっとりしていて、動作や行動がかわいい人
c)おっとりしていて、服装がかわいい系の人
d)おっとりしていて、顔がかわいい人
55
質問(5)
「きれい」という言葉で、あなたが思いつくのはどんな人ですか?(あてはまるものすべ
てに○をつけてください)
a)しっかりしていて、話し方や声がきれいな人
b)しっかりしていて、動作や行動がきれいな人
c)しっかりしていて、服装がきれい系な人
d)しっかりしていて、顔がきれいな人
質問(6)
白石くんは 21 歳の大学生。彼女と長いこと付き合っていて、卒業後には結婚をしようか
とも考えている。ものをはっきり言うタイプで、頭の回転が速くお金にうるさい。話もお
もしろく、リアクションも派手でお笑いが大好きです。好きな二郎は家から近い目黒店。
そんな白石くんに関して次の二つのうち、どちらの方がより可能性があるとおもいます
か?どちらか一方に○をつけてください。
a)白石くんは玉田ゼミで OB 係をやっている。
b)白石くんは玉田ゼミで OB 係をやっていて、関西出身である。
4-2-4-2
対象
慶應義塾大学日吉キャンパスでミクロ経済学初級Ⅱの授業を選択している学生 139 人(内
男性 101 人
女性
38 人) と Web アンケート(twitter を用いて拡散、11 月下旬に実施。) 53
人 (男性 32 人 女性 21 人)を対象にしてアンケートを行った。(無回答や回答ミスの場合は
無効と扱っており、以下の結果にずれが生じている場合がある)
4-2-4-3
目的
質問(1)AB
A と B の違いは、質問を「慶應生」なのか「大学生」で変えてあることである。この質
問では学歴である慶應をあえて主張することによって、ただ単に大学生と聞く場合と比べ
て何か違いがあるのかどうかを調べようとした。ここで明らかにしようとしているのが
4-2-3 で主張した内の①である学歴バイアスによるヒューリスティックである。
質問(2)(3)
(2)(3)では質問対象を年上にするか年下にするかで区別されている。年齢による知性の違
いは合理的に存在するだろうが、外見に関する項目に関して違いは存在しないだろうと考
56
えるのが普通である。ここでは 4-2-3 で主張した内の②である年齢バイアスによるヒューリ
スティックを明らかにしようとしている。
質問(4)(5)
男女間で「かわいい」という単語と、「きれい」という単語でイメージする人物に差がな
いかを測った。男の幹事が「かわいい子を合コンに連れてきてね!」と女側の幹事に頼ん
だとき、男の思う「かわいい子」と女が思う「かわいい子」に何らかの差があれば、そこ
にはバイアスが発生すると考えられる。ここで明らかにしようとしているのが 4-2-3 の④で
主張した、幹事の主観バイアスによるフレーミング効果である。
質問(6)
可能性が高さつまりは確率という点では、余計な要素が入ってない a の方が可能性は当
然高くなるはずである。しかし、「ものをはっきり言う」「話が面白い」
「お笑いが好き」な
ど何となく関西人をイメージさせるような設定を質問に混ぜることで、直感的に b を選ん
でしまい、結果として関西人に対するバイアスを導き出せるのではないかと考えた。これ
が 4-2-3 の③の出身地バイアスによるヒューリスティックである。
4-2-4-4
設定方法
質問(1)AB、(2)(3)
人のタイプのうち、肩書きに属する学歴・年齢という客観的情報が付け加わることによっ
て結果が異なるかもしれないということを知りたいので、設問は A と B、(2)(3)で全く同じ
にしてある。設問項目はルックス・身長・体型・知性の 4 項目である。この 4 項目はタイ
プのうち肩書き以外のものに属する。肩書きの情報が加わることによって、肩書き以外の
項目の選好が変化することがあれば観察できるようにこのような設問とした。
質問(4)(5)
「かわいい」という単語に対して、男女間でイメージするものが違うのかどうかというこ
とを知りたいので、設問ではかわいい「話し方」「動作」
「服装」「顔」の四項目を設定。思
いつくものすべてに丸をつけてもらうようにした。一つに丸を付けてもらうのではなく、
当てはまるもの全てとしたのは、制限を設けないことであえて丸をつけないものを浮かび
上がらせることができるようにするためこのようにした。質問(5)では「かわいい」を「き
れい」にすることで同様のことが「きれい」という単語にもあてはまるのかを観察しよう
とした。
質問(6)
57
人が出身地になんらかのイメージを持っているか知りたいので、質問の前半部分は同じで、
片一方にだけ「関西地方出身である」という要素をつけたした。合理的に考えれば、可能
性が高い a を選ぶはずだが、直感的なイメージにとらわれて b を選ばないか観察しようと
した。
4-2-4-5
結果
以下の結果は学内でのアンケートと Web アンケートの結果を合計している。
質問(1)
A タイプ
男子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.367089
163.9063
3.455696
3.708861
標準偏差
0.735622
―
0.615079
0.856472
女子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.295455
171.6667
3.477273
3.636364
標準偏差
0.823479
―
0.698458
1.05854
※身長に関して:学内のアンケートでは、間違って身長の設定を 180cm-160cm としてしま
い、男子に聞くには不適当だと思われたので集計せず、Web アンケートの結果のみを集計
したものである。標準偏差も導出しなかった。
B タイプ
男子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.218182
158.07
3.054545
3.254545
標準偏差
0.68559
―
0.678183
0.907136
女子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.266667
171.55
2.933333
3.6
標準偏差
0.703732
0.593617
0.910259
―
58
なお、B タイプの平均身長については、文部科学省ホームページの
平成 20 年度の学校段階別体格測定の結果
(http://www.mext.go.jp/component/b_menu/houdou/__icsFiles/afieldfile/2009/10/13/128
5568_4.pdf)
の大学生の欄より抜粋した。
質問(2)
男子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.466165
165.625
3.37594
3.669173
標準偏差
0.764247
―
0.691961
0.92705
女子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.288136
174.2857
3.084746
3.864407
標準偏差
0.871994
―
0.74944
0.990605
男子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.428571
160
3.285714
2.616541
標準偏差
0.751622
―
0.744387
0.756004
女子の回答
ルックス
身長
体型
知性
平均
3.423729
171.1905
3.762712
2.813559
標準偏差
0.813748
―
0.816616
0.880333
質問(3)
質問(4)
a
b
c
d
男子
63
71
26
81
女子
27
40
14
37
59
(4) 回答の男女別の分布
80%
70%
60%
50%
40%
男子
30%
女子
20%
10%
0%
a
b
c
d
質問(5)
a
b
c
d
男子
35
52
41
88
女子
19
32
17
53
(5) 回答の男女別の分布
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
男子
女子
a
b
c
d
質問(6)
4-2-4-6
a
b
男子
64
68
女子
21
38
考察
60
質問(1)
-男子学生が想像する女子学生について●ルックスについて
男 A の方が少し平均が高い。しかし男 B の方と比べても特筆するべき違いは見受けられな
い。つまり、慶應生と聞いてもルックスがいい人もいれば、悪い人もいると思うし、ただ
の大学生と聞けば、ルックスは普通であると考える傾向がある。
●身長について
男 A の回答の平均の方が男 B に比べて 5cm ほど高く出ている。一般的な女性の平均身長よ
りも慶應生の平均身長が高いということはない。よってこの結果は男性は慶應生の女性の
身長を高く見積もる傾向があることを示唆している。
●体型について
男 A の回答の平均の方が男 B に比べて 0.4 ポイントほど高く出ている。これは大きな違い
であろう。慶應生という肩書の情報を加えたことで体型を細めと考える傾向があることを
示唆している。しかし、標準偏差では男 B の方が少し大きいため、慶應生と聞けば体型は
細めという考えで一致し、大学生と聞けば来る人にはばらつきが存在すると考える傾向に
ある。
●知能について
慶應生の方が高い傾向にある。傾向としては当然の結果であると言えるがしかし、標準偏
差が男 AB ともに大きいため、慶應生であっても、大学生であっても知能が高い人もいれば
低い人もいると考える傾向もある。
-女子学生が想像する男子学生について●ルックスについて
平均を比べた結果、慶應生と聞いた時の方が評価は高い。さらに、標準偏差を比べたとこ
ろ女 A の方が意見にばらつきがある。しかしこれに関して非常に差は小さく A と B で明確
に違いがあるかと問われれば、ないと答えるのが自然である。
●身長について
大きな違いは観察されなかった。最も結果が出ると予想していた項目の一つだけに意外で
残念な結果となった。
●体型に関して
女 A の回答の平均の方が女 B に比べて 0.5 ポイントほど高く出ていて大きな差がある。平
61
均値から慶應生の方が細めと考えるようである。標準偏差に慶應生の方が大きいため、慶
應生と聞いた時の方が意見が分かれる。
●知性に関して
平均値に差がないのであまり変化がない。しかし、ともに標準偏差が高いため意見がばら
ばらである。つまり、慶應生と聞いても大学生と聞いても、知性に関しては明確な違いが
表れていない。
●総括
A タイプと B タイプの比較から、男性の場合、相手が慶應生といわれると細くて身長が
高く、知能が高い女性を思う傾向がある。また、女性の場合、相手が慶應生だと聞くと、
細い男性だと考えるようである。つまり、知能を表す情報において男性には女性に比べて
大きな違いが存在する。
「慶應生」と聞くことによって発生するバイアスは、男女ともに体
型を細く考えてしまうことである。さらに、男性の場合、身長を高めに考えてしまうバイ
アスが発生するようである。
ここで注意したいのは、学内アンケートで慶應生に対して慶應生に関するバイアスを測
ってしまったことである。バイアスとはそもそも、非対称情報下において発生してしまう
ものである。しかし慶應生は、実際に慶應義塾大学に通っているので慶應生がどんなもの
か、実態をしっているはずである。そのような状況では「慶應」という学歴に対する非対
称情報が解消され、結果としてバイアスは発生しづらいのではないかと考えられる。もし
全てのアンケートを学外向けに実施していたらより正確にバイアスを観察することができ
たかもしれない。
質問(2)質問(3)
-男子学生の回答について●ルックスについて
年上でも年下でもルックスは普通かややよいと判断するようである。ただし、平均値も標
準偏差の値も大きく変わるわけではないので、ここにはバイアスは存在しないだろうと考
えられる。
●身長について
年上の人の方が年下よりも身長は高いと考える傾向があるようである。しかし年齢によっ
て成長すると考えればこれは当然とも考えられる。ただ、アンケート回答者はほとんど 20
歳前後の人間であることを考えるとそこまで年齢によって大きく身長は変わらないはずだ
と考えることも可能である。
62
●体型について
年上の人の方が若干細めと判断する傾向がある。ルックスの項目よりは大きな差となって
表れている。標準偏差は年下の人の方が大きいので若干のばらつきがあるようには感じら
れる。
●知性について
年下だと低いと判断する傾向にある。値として 1 の差は大きな差である。しかし、年上に
関しては標準偏差が大きいため、高いと評価する人と低いと評価する人がいる。ただしこ
の年代での 1 年間の知性の差は非常に大きいものがあるだろう。値としてはごく自然で合
理的なものではないだろうか。
-女子学生の回答について●ルックスについて
どちらかと言えば年下と聞いた方が少しルックスはいいと判断する傾向にあるようだがそ
の差は小さい。しかし、標準偏差はともに大きいため、高い評価をする人と、低い評価を
する人がいる。
●身長について
男性の場合と同じであり、年上の人の方が年下よりも身長は高いと考える傾向があるよう
である。しかしその差は男性に比べて小さいので男性ほどの違いは存在しないのではない
かと考えられる。
●体型について
年下の方が細めと判断する傾向がある。0.7 ポイントの差は大きい。女性は特に体型につい
てバイアスを持っていることを示唆している。ただし年齢を重ねるごとに体型は太くなっ
ていきがちだし、酒の席の付き合いも増えるだろう。その観点からみれば年上の男性の方
が太めの体型であると判断するのは合理的であるとも考えられる。標準偏差がともに大き
いため意見はばらばらである。
●知性について
年下だと低いと判断する傾向にある。値として 1 の差は大きな差である。しかし、年上に
関しては標準偏差が大きいため、高いと評価する人と低いと評価する人がいる。ただしこ
の年代での 1 年間の知性の差は非常に大きいものがあるだろう。値としてはごく自然で合
理的なものではないだろうか。
●総括
63
相手が年上だと聞くと、男女ともに身長が高く知性が高い人を想像するようである。相
手が年下だと聞くと、男女とも身長・知性が少し低い人を想像するようである。さらに女
性では細い体型をイメージするようである。しかしいずれの項目も、年齢とともに合理的
な説明ができなくもない。よってここにはあまり大きなバイアスは発生していないのでは
ないだろうか。
質問(4)と質問(5)
「かわいい」という単語に対しては、男女ともに回答が a,b,d に分散し、この 3 つを想像
する人が多かった。一方、
「きれい」という単語に対しては、男女ともに d を選ぶ人が多か
った。想像する選択肢が多いということは人によっての定義が異なる可能性が増えてしま
うことになり、バイアスがかかりやすくなってしまう。このことから「かわいい子」とい
うよりは「きれいな子」と頼んだ方が、自分が想像したような人を連れてきてもらえる可
能性が高まると考えられる。また、女子の方が選ぶ選択肢数の絶対数が多い傾向にある。
同じ言葉でも男女には浮かべるイメージの広さの違いがうかがえる。
質問(6)
男子の回答では、a と b が半分ずつである。十分に考える時間はあったので、「可能性が
高いのは無駄な言葉が入ってない a」などとコメント付きで回答してくれている人もいた。
じっくり考えた人は a を選び、直感的に答えた人は b を選んだのだろうか。一方の女子の
回答では、b の方が a の 2 倍近くあり、関西地方出身者に対するバイアスの存在が伺える。
4-3
バイアスへの対処
以上から、男女の間や情報の伝え方次第ではバイアスが存在することがわかる。
第 2 章で述べたとおり、合コンの効率性を上げる為には情報の正確性や、情報にかかる
バイアスを考慮したうえで選好を決定するべきである。上述の結果から以下のようなこと
に注意するべきであろう。
少なくとも今回の結果から判断するに、「慶應大」という学歴に関しては男女ともに体型
を細く考えてしまうことである。さらに、男性の場合、相手の女性の身長を高めに考えて
しまうバイアスが発生するようである。慶應生の皆さんは自分の体型が世間でごく普通だ
としても、相手はもう一段階細めの人が来ると予想しているかもしれない。慶應生以外の
皆さんは過度に慶應生の細さを期待しすぎてはいけないと言えるだろう。一方で学歴が低
い場合のことも考えなければならない。例えば学歴が低すぎて合コンがそもそも開かれな
いということが起こる可能性もある。このことに関しては更なるアンケートが必要と思わ
れるが、「大学生」とだけ伝えておけばなんら問題は起こり得ないと考えられる。また、今
回は自分たちに身近な慶應生のバイアスを調べたが、別の大学での調査も必要であるかも
しれない。学歴バイアスに関しては更なる調査が必要であろう。
64
相対的な年齢に関して言えば、女子の回答は年下の男性の方がルックスが若干いい方に
出ている。このことからできるだけ男側からすれば、年上の女性と合コンをすると、自分
たちを高めに見積もってくれて好みの人が来てくれるかもしれない。ただし、来てくれた
ところで、他にアピールすることができなければ、余計にがっかりさせてしまう恐れがあ
るので気をつけなければならない。さらに女性は年下の男性に対して細めの体型を予想す
るようである。スポーツなどで大きな体型をしているなどの理由があれば別だが、特別理
由なく太めの体型をしている場合は事前に伝えておくことが重要である。また、知性や身
長に関しては、年上に対しては高く、年下に対しては低く見積もられている。自分より年
下の人の方が知性・身長が低く、自分より年上の人が知性・身長が高いと判断することは、
生きた時間からすれば合理的とも言える。あえてこれに逆らうようなアピールポイントが
ある場合、参照点から大きく外れるので印象を強く与えることが出来るだろう。
「かわいい」「きれい」といった自らの好みを伝える言葉は、前述したようにできるだけ
主観的な見方が入り込む余地がない言葉を選ぶのがよいと思われる。例えば自分の好みを
「芸能人の誰々に似ていてかわいくて頭がいい子!」というよりは「目がぱっちりとして
いて、鼻筋が通った東大生!」のように具体的に伝えるほうがいいだろう。
出身地に関しては、自らのタイプがその出身地の世間一般のイメージなら出身地を伝え
た方がいいだろう。今回は関西地方に関してかつ女子にのみバイアスの存在を確認したが
その他の地方でも同様の結果が出る可能性は十分にある。
幹事が情報をもたらすときにこうしたバイアスに注意して客観的に判断を行うべきだろ
う。これを考慮しないと正確性が損なわれ、自分の好みにそぐわないマッチング相手がス
クリーニングされて合コンに参加することになってしまう。
以上をまとめると次の提言が導かれる。
①
慶應生という学歴を伝えるとき、男女とも体型は細めと判断されるし、女性の場合は
さらに高めの身長を予想される。自分にこれらが当てはまっているときはこの特徴を
合コンの場で強調したいが、自分に当てはまっていない場合は事前に正確に伝えてお
かなければならないだろう。
②
男子の場合、年上の女子と合コンする時には自分の外面と体型を正確に伝えなければ、
相手の女性の判断にルックス良しめ、体型細めのバイアスがかかる恐れがある。
③
年齢と知性・身長を比例して考える傾向があることは合理的だが確認された。参照点
が比例して上昇していくことになるので、年齢相応の知性は当然求められるし、相応
以上の知性を持つことは相手に大きな印象を与えることになる。
④
男子よりも女子の方が同じ言葉でも持つイメージはより幅広い傾向がある。一言でタ
イプを表現してしまうよりも出来るだけ具体的にイメージできる表現をつかわなけれ
ばならない。
⑤
出身地のイメージは今回の結果からは関西地方にはあるようなので、自分のタイプと
著しく異なる場合はこれをあえて伝える必要はないと考えられる。
65
今回の提言は、効果が確認されたものも若干あるが、正直に言ってあまり釈然としない結
果になってしまった。原因はアンケートの実施方法に改善の余地が多々あることである。
今後はアンケートをもっと改善し、母数や対象団体を増やしていかなければならないだろ
う。
66
第5章
まとめと今後の課題
この論文で議論したことをまとめて、本論文の主張としたい。
まずは前提からおさらいしていこう。我々は「大学生向けの有有効的な出会いの場」を
新たな合コンとして提言することを目指して議論を進めてきた。ここでの有効性とは、効
率性と安定性・最大数のマッチングが行われることの二つに分類される。効率性とは「目
的が交際相手を見つけることで一致しているかつ、当事者がお互いに自分の好みに合うタ
イプの人間である組み合わせとなるマッチングを行えること」、安定性・最大数のマッチン
グが行われることとは「関係が続くマッチングが n 組誕生すること」とした。効率性が達
成されれば結果的に安定性・最大数のマッチングが行われることは達成される。よって新
たな合コンとは、合コンの「コストが安い」という利点に、結婚相談所やお見合いの利点
である「幹事に参加者の好みや目的といった情報を生産するインセンティブが付与でき、
それらの情報の非対称性を緩和することで有効性を達成する」マッチングシステムである。
そもそも、合コンには明らかな非効率性が存在する。その根源は、「男女間でお互いの情
報があまり明らかにならないままに出会いを迎えること」
、つまり合コンでは男女間に好み
と目的における情報の非対称性が存在するということである。これは合コンに限らず、男
女間の出会いでは常に存在するものである。しかし、この論文で議論した結婚相談所やお
見合いといったマッチングシステムでは、情報の非対称性を緩和することに成功している。
それは、仲介者が情報を生産するインセンティブを金銭によって付与されているためであ
る。では合コンの場合はどうか。合コンでは情報の非対称性が存在してしまう。それは合
コンにおいては幹事に金銭によってインセンティブを付与できないことに加え、情報生産
する際の好み・目的に合致した人間を見つけてくる過程で、大きなサーチコストがかかる
ためである。その結果、好みや目的における情報の非対称性が緩和されず、合コンの非効
率性の元凶になっている。ここで言うサーチコストは「合コンのために相手方の参加者の
好み・目的にあったタイプの人間を自分の知り合いの中から探し出し連れてくるコスト」
である。そこで、我々が議論すべき問題は、合コンの幹事にいかにして情報を生産するイ
ンセンティブを付与するかである。また、その中でも特に目的の不一致が大きな非効率性
を生んでいるため、優先的に目的を一致させる役割についてのインセンティブを付与させ
るようにする。
どのように幹事にインセンティブを付与すればよいのだろうか。インセンティブを付与
できない最大の原因は非常に大きなサーチコストである。つまりサーチコストを解消でき
れば、インセンティブ問題は解決することができると考えられる。そこでサーチコストを
解消するために、我々はサーチコストが幹事と親しいグループから参加者を探すことで小
さくなっていくことに着目した。なぜならば幹事の親しいグループであれば、幹事はすで
に情報を持っているので、参加者の好み・タイプや目的に合致した人間を容易に発見でき
67
るためである。つまりサーチコストを解消するには、幹事に最も親しいグループの中から
相手参加者の情報に合致した参加者を探してもらうという方法を採用すればよい。そのた
めには、幹事を選定する際に、「男女のマッチングを求めている人たちと親しい人」に幹事
をお願いするようにするとよい。さらに合コンの参加人数だが、幹事に心理的インセンテ
ィブを与え、成功する確率を上げるために 2vs2 の 4 人での合コンの形をとるとよい。
しかし、以上のように幹事が情報を集める過程で、情報を受け取ったり、発信したりす
る場面が出てくる。そこで情報が正確に受け手に解釈されるのかという問題が考えられる。
そこで、情報を解釈する際に発生するバイアスを検証・解消していく手段について考える。
まずバイアスを検証するために、学歴・年齢・同じ言葉の解釈の幅・出身地についてアン
ケートを実施した。アンケートの結果、慶應という学歴に関して特に体型についてバイア
スがあり、年齢に関しては、男の側では様々であるが女子の回答には年下の男性がルック
スを若干いいように予想するというバイアスが観測された。また、男子よりも女子の方が
同じ言葉でも持つイメージはより幅広い傾向があるということも判明した。
以上を緩和するための方法は次のような方法を採用するとよい。男子の場合、年上の女
性と合コンをする場合は、自分の外面を正確に伝えておく必要がある。その際に男子より
も女子の方が同じ言葉でも持つイメージはより幅広い傾向があるので、一言でタイプを表
現してしまうよりも出来るだけ具体的にイメージできる表現を使うと望ましい。
二つの問題点の対処方法をまとめ、我々が提案する新たな合コンとは以下のようなもの
になる。
情報の非対称性を緩和するために、合コンの幹事は男性なら体育会や理工系など、女性
なら看護系や女子大などの一般的にマッチングを目的とする人間が多いと言われているカ
テゴリーの人間に幹事を頼むこと。さらに心理的なインセンティブを与え、より確実に最
大限のマッチング数を達成するために 2vs2 の形での合コンを申し込むこと。この上で目的
の一致・好みとタイプの男女双方での一致をもたらすように参加者の情報を幹事に伝え、
幹事にそれを考慮したメンバー選びをしてもらう。なお、このとき注意したいのが、情報
を伝える際に 4 章で明らかになったバイアスの条件が整っているならより正確に表現し、
一言でタイプを表現してしまうよりも出来るだけ具体的にイメージできる表現を使うこと、
幹事にメンバーを選定する際に目的を一致させることを最優先にしてもらうことである。
これを行うことによって有効性の高い合コンが実現する。
●今後の課題
今回の論文では、選択肢を多くすることについての議論は避けた。選択肢を多くするこ
とに関しては、潜在的な部分を含めたとしても、合コンをセッティングしてくれるのは幹
事であり、彼が紹介できる範囲というのは限界があるということだ。この紹介できる範囲
に関しては結婚相談所の何万人という規模に勝ることができるメカニズムは存在しないだ
ろう。そこで、少しでも選択肢を増やすためのメカニズム考える必要がある。
68
また、この論文のアンケートが釈然としないものになってしまったことも今後の課題で
ある。これについてはアンケートをもっと改善し、母数や対象団体を増やしていき、さら
なるバイアスの発見や、バイアスの解消方法を考えていく必要がある。内容については、
学歴に関するバイアスは慶應生という言葉に対しての若干のものが確認された。しかし、
低学歴の場合は合コンが開かれない可能性があるので、さらに調査をする必要がある。
また男女の感じ方の違いを議論の対象にすることも可能である。男女にとってタイプの
うちどの項目が最も重要な要因となるのかを議論する他、その中でのバイアスを考えるこ
とも可能である。
その他様々な角度からいろんなバイアスを考え調査することが可能であろう。今回使っ
た行動経済学的アプローチだけではなく、心理学、大脳生理学などのアプローチも可能か
もしれない。
以上を今後の課題とする。
69
参考資料一覧
≪文献≫
牛窪恵『「エコ恋愛」婚の時代』光文社
オリバー・ハート『企業
契約
2009
2010
金融構造』慶應義塾大学出版会
鹿島 茂・斎藤 珠里『セックスレス亡国論』朝日新聞出版
北村 文・阿部 真大『合コンの社会学』光文社
2009
2007
塩澤修平・石橋孝次・玉田康成『現代ミクロ経済学:中級コース』有斐閣
ジョン・マクミラン『市場を創る
バザールからネット取引まで』NTT 出版
ダン・アリエリー『予想どおりに不合理
早川書房
2006
2007
行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』
2008
中山幹夫・武藤滋生・船木由喜彦『ゲーム理論で解く』有斐閣
真壁昭夫『基礎から応用までまるわかり
2000
2010
行動経済学入門』ダイヤモンド社
マッテオ・モッテルリーニ『経済は感情で動く
はじめての行動経済学』紀伊国屋書店
2008
山田 昌弘『「婚活」現象の社会学 日本の配偶者選択のいま』東洋経済新報社
リチャード・セイラー『セイラー教授の行動経済学入門』ダイヤモンド社
2010
2007
≪論文≫
佐々木宏夫『マッチング理論とその応用』2009
富山慶典『社会的マッチングのための 1-1 型ゲール・シャプレイ方式のコンピュータ・プロ
グラム』群馬大学社会情報学部研究論集
1996
≪Web≫
文部科学省ホームページ平成 20 年度の学校段階別体格測定の結果
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/houdou/__icsFiles/afieldfile/2009/10/13/12855
68_4.pdf
70