「インビジブル・ファミリー」から生まれる 新しい消費とターゲット像

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論文
「インビジブル・ファミリー」から生まれる
新しい消費とターゲット像
笊 ――― インビジブル・ファミリー(見えない家族)とは
笆 ――― なぜインビジブル・ファミリーに注目するか?
笳 ――― インビジブル・ファミリー消費とは
笘 ――― 3つのタイプ別インビジブル・ファミリー消費の事例
笙 ――― マーケティングへの示唆
川津 のり
● 株式会社野村総合研究所 主任コンサルタント
つと点在する光景が思い浮かべられる。そし
てターゲットとして狙える消費者群が,限り
笊――― イ ン ビ ジ ブ ル ・ フ ァ ミ リ ー
(見えない家族)とは
なく狭い範囲に絞られてしまう印象を抱いて
しまう。果たして本当にそうなのだろうか。
目に見えていないだけの新しい動きや,それ
じめじめとしたこの梅雨空のように,日本
に伴うチャンスはないのだろうか。
の景気はとにかくすっきりしない。しかもこ
この発想から注目したのが,統計上では別
のどんよりした状態がまるで延々と続くよう
世帯である家族同士が行動を共にし,消費を
に思える,国内消費市場の停滞感。昨秋の世
行う新しいファミリー消費スタイルである。
界金融危機による不安増大で消費者の財布の
NRI は,同居はしないものの,気軽に行き来
紐はさらに硬くなり,加えて,2004 年をピー
できる距離に住み,ゆるやかにつながりなが
クに進む人口減少,多くの市場を支える中心
ら経済的にも精神的にも支えあう家族のかた
的存在であった若年人口の減少,来る 2015 年
ちを「インビジブル・ファミリー(見えない
に迎える世帯数減少という変化が避けられな
家族)」と呼び,マーケット構造に影響を与え
い現実として目の前にある。
得る重要な変化と捉え,研究を進めている。
こうした環境変化は,企業が常に求められ
NRI が 1997 年から 3 年毎に実施している自
続ける「マーケット拡大」「売上拡大」という
主研究調査「生活者 1 万人アンケート」(以下
目標達成のプロセスにおいて,ボディブロー
調査 1)から,社会統計数値では見えない世
のように効いてくるマイナス要素である。
帯間のつながりの存在が明らかになった。
人口が減り,しかも高齢者比率が高まる。
政令指定都市在住の一般生活者を母数に,
単身世帯は増加するが,世帯数自体は減少す
結婚後の自分の親世帯との居住距離を確認し
る。このように事実を淡々と並べると,日本
たところ,「近居・隣居」(歩いて行ける距離
の国内市場にはとにかく小さな家族がぽつぽ
∼片道 1 時間以内の距離に住む)を選択して
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「インビジブル・ファミリー」から生まれる新しい消費とターゲット像
■図―― 1
近居・隣居をしている世帯の割合変化
自分の親世帯と自分たちとの居住距離(東京都)
自分の親世帯と自分たちとの居住距離(全国・都市規模別)
100%
100%
24
80%
60%
14
日帰りでは往復
できないところ
90%
30
日帰りで往復で
きるところ
70%
33
19
14
14
12
14
25
25
23
23
48
44
49
45
13
18
16
18
80%
9
11
23
19
41
30%
15
1997年
2006年
(N=409)
(N=427)
38
48
44
48
26
24
近居・隣居
(片道1時
間以内)
20%
10%
同居
15
0%
40%
日帰りでは
往復できな
いところ
日帰りで
往復でき
るところ
60%
近居・隣居
(片道1時間以内)
28
20%
21
29
50%
40%
7
13
20
同居
0%
1997年
2006年
1997年
2006年
1997年
2006年
(N=937) (N=1,180) (N=1,119) (N=1,299) (N=575) (N=764)
政令指定都市※
人口20万以上の市
1997年
2006年
(N=876) (N=1,011)
人口10万以上の市
人口10万未満の市
※97年当時は13大都市
(さいたま市、静岡市、堺市は含まない)
母数:自分の親が健在で、配偶者がいる東京都在住の一般生活者
母数:自分の親が健在で、配偶者のいる一般生活者
(出所)NRI生活者1万人アンケート調査(1997年、2006年)
(出所)NRI生活者1万人アンケート調査(1997年、2006年)
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いる割合は 1997 年時点で 38%であったのに対
ある。
し,2006 年では 48%と過去 10 年間で 10%増
具体的な例を挙げて説明したい。たとえば
加している。東京都に限定すると,実に 13%
東京都内にこのような 4 つの世帯がある。A
増(28%→ 41%)である。この「子世帯が独
さん世帯を中心としたこの 4 家族は,データ
立後の近居・隣居の増加」は,主に都市部で
で言えば単身世帯が 1 つ,夫婦 2 人のみ世帯
顕著に生じている現象であることも確認され
が 2 つ,夫婦と未婚の子世帯(核家族世帯)
ているが,いずれにしても,決して無視でき
が 1 つ,ということになる。ところが,実際
ないボリュームで存在していることは確かで
のライフスタイルや消費動向を見ると,この
■図―― 2
「インビジブル・ファミリー」のイメージ
Aさん一家を中心として近居し支えあう擬似同居一家
Aさん一家
Bさん一家(夫婦ともに60代)
=Aさんの両親
Aさん(30代男性)Mさん(30代女性)
=Aさんの妻、共働き
Dさん一家(父70代、母60代)
=Mさんの両親
車で10分、同区内
電車で片道
20分
電車で片道10分、
同じ沿線
Aさんの長男(
5歳)
電車で片道15分、
同じ沿線
Cさん(20代女性)
=Aさんの妹、一人暮らし
夫は定年退職、夫婦で隣県
に在住していたが、娘夫婦と
の近居を選択し、自宅の家と
土地を売却してAさん一家と
電車で片道20分程度の土地
にマンションを購入し転居。
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4 世帯は密接に関わりを持っている。A さん
得の観点からも,妻が無収入となるよりも結
の家の 5 歳児の保育園の送り迎えは B さん夫
婚・出産後も就業継続をしたほうが,家計は
婦が担当し,休日のレジャーは D さん夫婦と
潤い,一定以上の生活水準を維持できること
一緒に楽しむことも多い。実は食料品や日用
になる。つまり家事・育児支援のニーズは高
品は週末に A さん世帯,B さん世帯,C さん
まる一方といえる。
で一緒にまとめて買い物をしてしまうことも
インビジブル・ファミリーに関して聴取し
多く,未婚の C さんとしては生活費の面で非
た NRI の自主研究調査結果(以下調査 2)か
常に助かっている。A さん世帯も例外ではな
らも,意識面でも「将来的に親世帯と近居・
い。
隣居を選択したい」という意識が確認されて
なぜ近くに住み,支え合うのか?それは親
おり,NRI は今後このスタイルはさらに拡大
世帯・子世帯双方にメリットがあるからであ
すると見ている。家族のかたちに関するイメ
る。親世帯にとっての最大のメリットは「安
ージは,間違いなく変化していくだろう。
心感」である。高齢になるにつれて生活不安
笆――― なぜインビジブル・ファミリ
ーに注目するか?
が増大するが,他人ではなく子世帯にいつで
も助けてもらえるという安心感は,不安緩和
に重要な要素である。そして,子世帯のメリ
インビジブル・ファミリーの拡大という現
ットとして今後増大が見込まれるのは「家
象に注目すべき理由は,世帯同士が物理的な
事・育児支援」である。
総務省の統計で確認すると,30 ∼ 34 歳の
居住地が近づくケースが増えるというだけで
女性の就業率は 1978 年の 46%から 2008 年現
なく,水面下ながらも消費に影響を与える動
在 62%まで高まっている。就業率だけでなく
きであるからである。前述したように,近
働き方も多様化し,管理職,専門職に子育て
居・隣居形態の増加は都市部で顕著な動きで
期の女性が就くケースも珍しくない。世帯所
あり,人口や世帯数におけるシェアで言って
■図―― 3
市場における世帯イメージの変化
将来の家族イメージ
「インビジブル・ファミリー」(擬似大家族化現象)
現在の家族イメージ
単独世帯
・ 物理的距離を縮める
単独世帯 ・ 経済的にも依存しあう
核家族世帯
単独世帯
核家族世帯
単独世帯
核家族世帯
核家族世帯
単独世帯
単独世帯
核家族世帯
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「インビジブル・ファミリー」から生まれる新しい消費とターゲット像
も,決して見逃せるような小さなサイズにと
まで半減している。ちなみに 2000 年代は 1.5
どまる話ではない。
以下にまで低下している。日本では従来から,
ここでまず,インビジブル・ファミリー形
子世帯のうちいずれか一世帯は親世帯と同居,
態が増えてきた要因を考察していきたい。イ
または近くに住んで「面倒をみる」ケースが
ンビジブル・ファミリー増加の要因の一点目
一般的である。ところが,出生率の低下が進
は,団塊ジュニア世代の独立である。
み,兄弟世帯の数そのものが減少している。
団塊世代と団塊ジュニア世代の出生地と現
したがって,自由に居住地を選択できる世帯
在の居住地の乖離度を比較してみると,親か
が消え,親の面倒をみるために同居または近
ら独立後の近居・隣居の増加の背景が見えて
くに住む世帯の割合が高まることになる。
くる。現在親世帯を構成している中心的存在
三点目は,女性の就業率上昇である。前述
である団塊世代は,多くが実家から独立する
したように,団塊世代の女性が子育て期にあ
際に地方部から,東京,大阪などの大都市に
った 1970 年代と団塊ジュニア世代が子育て期
流入してきた。高度経済成長期であったため
にある現在では,女性の就業率は大幅に上昇
特に職が得られやすかったからである。団塊
している。その結果,子世帯には共働きと育
世代の働き手は当時「金の卵」と呼ばれてい
児を両立させるため,親世帯の近隣に住むと
たことも有名だが,つまり団塊世代は,出生
サポートを受けられるというメリットが発生
地と現在の居住地が離れているケースが多い。
する。実際,すでに祖父母による「孫育て」
一方,子世帯にあたる団塊ジュニア世代は
が定着し始めているデータは確認されている。
どうか。既に大都市圏に住んでいるケースも
消費に関する NRI 自主研究調査(以下調査 3)
多く,仕事を得るのに遠方まで出る必要もな
からは,祖母の孫育てに関与している割合は,
い。その結果,彼らは総じて出生地から動い
「 孫 の 両 親 の 不 在 中 に 孫 を 預 か る」( 5 2 % ),
ていない。出生地と現在の居住地が同じ,つ
「孫の授業参観や運動会に参加する」(35%),
まり独立後も同じ土地に住んでいるケースが
「孫の保育園・幼稚園や習い事の送り迎え」
多い。団塊世代とジュニア世代の独立後の居
(21%)とすでにさまざまな場面で子世帯が親
住地について都市別の人口流出入データを比
世帯から子育てのサポートを受けている実態
較すると,その違いは明らかである。
が明らかになっている。さらに,親世帯の近
過去 10 年間で都市部において親世帯からの
くに住んでいる人ほど,子育てに対する不満
独立後の近居・隣居が増えた理由は,この団
が少ないという結果も出ている。就業率だけ
塊ジュニア世代の独立が進んだ結果であると
でなく,ビジネスキャリアを継続する女性が
分析することもできる。独立するなら同じ土
増加するといわれている今後は,近隣に住む
地という人の構成比が増えると,当然全体の
親世帯の子育てサポートは大きなメリットと
構成比も増加するからである。
なる可能性を秘めている。
二点目は,出生率の低下である。合計特殊
以上がインビジブル・ファミリー増加の要
出生率を比較すると,団塊世代は 4.3 ∼ 4.5 で
因であるが,ではインビジブル・ファミリー
あったのに対して,団塊ジュニア世代は 2.1
が増加することによって,今後どのような変
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■図―― 4
共働きのタイプ
従来型DINKS
︵
補家妻
助計の
エ補収
ン助入
ジ は
ン
︶
パートタイム労働等が多いため、家事時間は
比較的確保できる
スーパーDINKS
︵同妻
ダレの
ブベ収
ルル入
エかが
ンそ夫
ジれの
ン以収
︶上入
と
家事・育児サポートニーズ
共働きだが、あくまで妻側の就労は家計補助
を目的としたもの
小
ワンポイント
リリーフ
的サポート
商品・サービス
子供を持たず、夫婦ともに趣味や仕事に邁
進する世帯
子育て活動がないため、家事労働や子育て
に関するサポートニーズは相対的に低い
スーパーDEWKS
夫婦ともに同程度の収入があり、ビジネス
キャリアを維持しながら、子供もいる世帯
仕事と子育ての両立に関して長期にわたる
サポートニーズが存在
インビジブル・
ファミリー
形態による
メリットが
大きい世帯
大
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化が生じるのだろうか。
として非常に期待できるセグメントである。
NRI は,大きく 3 つの変化が生じると考え
期待できる理由としては,世帯所得が高いこ
ている。
とと,多忙な日常生活において買い物に時間
変化①→労働人口の増加・世帯所得の増加
をかけることができないという点,利便性と
変化②→世帯間の生活の質格差の拡大
いう価値に対して高いコストを支払うニーズ
変化③→インビジブル・ファミリー消費の
があるという点が指摘できる。
拡大
変化②は,経済面だけでなく,支え合う家
まず変化①については,インビジブル・フ
族が近隣に存在するかどうかによって「情報
ァミリーが増加することにより,子育て期の
格差」「充足感格差」が生じやすくなるという
就業継続環境が良化する。すると,結婚・出
ものである。たとえば前述の子育てサポート
産後も働き続ける女性が増加する。これは世
の面でも,親世帯と離れて住んでいる人ほど,
帯所得が維持される家庭が増えることを意味
「自分の子育てに自信が持てない」という人が
する。したがって,労働人口が増加し,世帯
多い。子育てに関する知識や情報を身近なと
所得が高い層が増加するのではないかという
ころから得られないことが,精神的にも実質
変化である。
的にもマイナスに作用するケースもあるよう
共働きにも 2 種類ある。妻があくまで家計
だ。また,逆に高齢親世帯のほうが,孫と頻
補助的に就業する補助エンジン型の共働きと,
繁に会えない,若い人たちから新しい情報を
妻が専門職,管理職として男性と同程度の責
得られないという点で生活の質が高まらない
務を果たし,同程度の所得を得るキャリアを
という悩みを抱える人も存在する。インビジ
維持するダブルエンジン型の共働きである。
ブル・ファミリー形態が増加することによっ
ダブルエンジン世帯は,現状では数は少な
て,統計上の分類では同じ「高齢夫婦二人の
いものの,消費の面では有望ターゲット候補
み世帯」であっても質的な面で大きな格差が
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生じるようになる可能性がある。
ることが指摘できる。
変化③は,世帯間の見えないつながりが,
調査 3 データからも確認してみたい。
消費スタイルに影響を及ぼしていくであろう
祖父母が孫に対して何かを買ってあげたり,
という視点である。このインビジブル・ファ
どこかに連れて行ったりするという消費行動
ミリー消費の拡大については,次章以降で詳
については,孫のいる男性の 67%,女性の
しく考察していきたい。
74%がしていると回答しており,ほぼ一般化
しつつあることがわかる。また,孫のたまに
笳――― インビジブル・ファミリー消
費とは
高額なもの(5,000 円以上)を購入する場合の
選択方法としては,孫がほしいといったもの
を買うのは当然ながら,「その子の親が欲しい
「インビジブル・ファミリー消費」は,同
と言ったものを買う」人も同程度に存在して
居はしていないものの近くに寄り添いながら
いる。一方的に買い与えるという消費ではな
支えあう複数の世帯同士が一緒に消費を行う
く,親世帯と子世帯が密接に関わりあって消
ことを指している。これまでの世帯消費の想
費が行われる可能性を示唆するものである。
定よりもひとつの顧客ユニットのサイズが大
また,どのような商品を買っているかについ
きくなるという変化もさることながら,まっ
ては,お菓子や本,衣類などはもちろん,外
たく新しい商品,サービスに対するニーズが
食やレジャー(遊園地,動物園)なども机や
潜在している可能性も指摘できる。
ランドセルなどの高額な学用品と同じく孫に
たとえば従来から 6 ポケッツと呼ばれる,
対する消費として一般化しており,二世帯の
祖父母から孫への支出は存在していたが,2
時間や体験の共有も進んでいることが示され
世帯が近隣に住み,生活のあらゆる場面で関
ている。実際,調査 1 からも,インビジブ
わりあうことが増えることによって,この傾
ル・ファミリー世帯(近居・隣居世帯)は,
向を加速するだけでなく,消費の質が変化す
親世帯と子世帯が遠く離れて暮らす世帯に比
■図―― 5
親世帯が孫のいる子世帯のために拠出した年間費用総額(円)
孫消費
支援するための消費
孫の衣服
孫のイベ
ント費用
日常的な
外食・レ
ジャー
電気代・ガ
ス代など
生活費
食費・日
用雑貨品
の購入費
計
20,850円
34,752円
36,903円
43,983円
93,629円
230,117円
孫と近居・隣居
18,494円
(インビジブル・ファミリー)
26,915円
41,030円
28,546円
64,273円
179,258円
19,525円
32,411円
33,209円
18,769円
46,428円
150,342円
孫と同居
孫と遠居
母数:孫を持つ40代∼60代の回答者(N=1,246)
同居:孫と同居している40代∼60代
近居:孫のいる40代∼60代で、子世帯が歩いて行ける距離∼片道1時間以内の距離に住んでいる人
遠居:孫のいる40代∼60代で、子世帯は片道1時間以上の距離に住んでいる人
(出所)NRI 2007マーケティングナビ生活者Webアンケート(2007年)
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■図―― 6
インビジブル・ファミリー消費の 3 つのタイプ
どうせ買い物するなら
忙しい子世帯の分も
買っておいてあげよう
①支援消費
親世帯
③派生消費
孫が来たときのため
にゲーム機を買ってお
いておこう
子世帯
③派生消費
自動車、家電
旅行、レジャー
②共有消費
毎日使うわけでは
ないので、1つを共
有で十分
親世帯に孫をみても
らって、子連れで行け
ない外食へ
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べて 50 代∼ 60 代層の遊園地・テーマパーク
とがわかる。前章では子育てサポートが子世
の年間利用率が高い(近居: 20%,遠居:
帯のメリットとして大きいと述べたが,そう
11%)というデータが得られている。
した質的サポートだけでなく,消費に関して
さらに調査 3 では,祖父母世帯が孫のいる
も親世帯からサポートを受けている可能性が
子世帯のために,費目別にいくら支出したか
示唆されるポイントと言える。
を具体的な金額で確認した項目を設定した。
結果,従来の孫消費として認識されている孫
以上のデータや事例から,NRI はインビジ
の衣服やイベント費用(ひなまつり・端午の
ブル・ファミリー消費を 3 つのタイプに分類
節句,卒入学祝いなど)ではない,日常的な
した。
外食・レジャー,食費・日雑購入費などの部
支援消費は,つながっている世帯のために,
分での支援も発生していることがわかった。
商品やサービスを購入するものである。たと
これはまさに近隣に居住しているからこそ実
えば親世帯が多忙な子世帯のために日用品や
現する消費が実際に発生していることのあら
食品をまとめ買いして分けてあげたり,ある
われであると指摘できる。
いは購買代行してそのままお金の行き来はな
ここに,調査 1 から,自分の親が健在で且
く支援してあげたりといった例が挙がる。
つ既婚である 20 代∼ 30 代の一般生活者の親
共有消費は,共用・共有のために,複数世
世帯との居住距離を,世帯収入別に確認した
帯が連携して商品やサービスを購入するもの
結果がある。それを見ると,中低所得の若い
である。たとえば毎日使うわけではないので
子世帯ほど,親世帯と近居・隣居を選択して
自動車や,デジタルビデオカメラなどの家電
いる割合が高いことがわかった。世帯年収が
は 1 台で十分であるので共有するといった例
500 万円∼ 1,000 万円未満の世帯では 54%であ
が挙げられる。
るのに対し,500 万円未満の世帯では 62%が
派生消費は,消費上は直接連携するわけで
インビジブル・ファミリーを形成しているこ
はないが,つながっている世帯が近隣に存在
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することが消費の前提になっているものであ
そして,近隣に居住して支え合うインビジ
る。たとえば,親世帯に孫をみてもらって,
ブル・ファミリーでは,比較的時間に余裕の
子連れではいけない外食へ出かけたり,旅行
ある親世帯が子世帯をサポートするケースが
に出かけたり,習い事に行くこともできる。
多いと考えられる。その中で,特に日用品や
親世帯としては,孫が来るときのために通常
食料品などは,近隣に住んでいるからこそ,
自分たち夫婦だけでは買わないようなもので
負担が少ないかたちでサポートし合える商品
も買って置いておくなどの消費が起きるとい
分野と言えるだろう。たとえばこんなケース
う例が挙げられる。
がある。60 代の親世帯(夫婦二人のみ世帯)
は,平日は基本的に二人分なので,食料品は
笘――― 3 つ の タ イ プ 別 イ ン ビ ジ ブ
ル・ファミリー消費の事例
少量購入がほとんどである。時間もあるので
新聞の折り込みチラシを確認しながら,比較
購買をしている。ところが週末は車で 10 分程
さて,この 3 タイプに分類できるインビジ
度の時間で行き来できる距離に住む娘夫婦が
ブル・ファミリー消費をそれぞれ具体的な例
孫を連れて自宅を訪れ,夕飯の食卓を一緒に
を確認しながらさらに見ていきたい。まず,
囲むため,5 人分の食料品を買いに行く。こ
商品領域によって,インビジブル・ファミリ
のときは平日よりも多量で大きいサイズであ
ー消費の意図が異なることがわかる。
り,娘婿や孫のためという配慮から価格への
こだわりは低下し,商品の選択軸も変わるこ
<支援消費(相手のために購入)
とも多い。
⇒食品,日用品>
販売数値には表れないため定量的な把握は
前述したように,子育て期の女性の就業率
難しいが,流通小売の現場でも,このように
は今後も高まる見込みである。同時に,市場
食料品や日用品などで二世帯分(親世帯が子
全体で家事・育児のサポートニーズも高まる
世帯の分も)まとめて買うなどの支援消費が
ことが予想される。
発生している様子が頻繁に見受けられるとい
■図―― 7
支援消費に対応した流通小売の打ち手例
食品・日用品
衣料品
l 平日は少量・小パック、土日は大
サイズ・まとめ買い商品など、来店
ターゲットを意識した品揃え強化
l 商品分野によって、選択者・決定
者・消費者がそれぞれ異なることを
意識した接客
平日
来
店
者
消
費
者
祖
母
祖
父
子供服の例
週末
祖
母
祖
母
母
祖
父
孫
父
祖
母
選ぶ
お金を出す
着る
母
祖
母
孫
父
祖
父
主体
母
低関与
孫
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う。また,衣料品については「祖父母から孫
<共有消費(共用前提で連携して購入)
へ(子供服,子供雑貨)」という関係性が見ら
れ,この場合は商品選択者,支出者,最終消
⇒自動車>
費者が異なるという複雑な構造が発生してい
複数世帯が近隣に住んでいるからこそ可能
る。そのため,こうした世帯間のつながりを
となるかたちの次の例として,「耐久消費財の
意識した取り組みが,品揃えやお客様対応等
共有」が挙げられる。
たとえば調査 1 結果を見ると,「インビジブ
でも行われつつあるという。
ところで,「安全で安心,価格も手ごろで味
ル・ファミリーは自動車保有率が遠居世帯よ
も品質もいい」いわば『間違いが発生しにく
りも高い」というデータが得られている。こ
い』商品は,支援消費を行う際には最適であ
れは実際に保有率が高いのではなく,保有し
る。食料品は本来,好みがあるため,買って
ていると回答している人が多いと解釈するこ
あげる・買ってもらうが贈答品などのとき以
とができる。回答者は車を持っているかとい
外,日常的には発生しにくい領域である。し
う問いかけに対して,所有者を厳密に捉えて
かし幅広い層に好まれる味であれば,そのハ
おらず,ほぼ共有に近いかたちで乗っている
ードルをクリアしやすくなる。「○○の××を
車は,「保有」と認識している可能性がある。
買って来てほしい」と都度指示しなくとも済
つまり,近居世帯には専有と共有との境界線
むため,負担も少ない。そういう意味では,
が曖昧な「保有」が多く含まれていることが
近年大ヒットしている流通小売によるプライ
推測される。
また同調査からは,インビジブル・ファミ
ベート・ブランド商品は支援消費に最適な商
リーは,ミニバンを選択しているケースが多
品とも言えるだろう。
■図―― 8
居住距離別・保有している自動車タイプ
つながり世帯との居住距離別・保有している自動車タイプ
親世帯(50代∼60代)
同居
近居
子世帯(20代∼30代)
遠居
同居
60%
50%
60%
40%
30%
40%
20%
10%
20%
0%
近居
遠居
50%
30%
10%
トセ
ッダ
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、
ク
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ペ
、
ハ
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ド
ハ
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バス
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、
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型
、
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、
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B
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型
ト
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ッ
ク
、
そ
の
他
<母数の定義>
同居:同居している子供がいる50代∼60代の自動車保有者
近居:夫婦二人のみ世帯の50代∼60代の自動車保有者で、子世帯が歩いて
行ける距離∼片道1時間以内の距離に住んでいる人
遠居:夫婦二人のみ世帯の50代∼60代の自動車保有者で、近居ではない人
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の
他
<母数の定義>
同居:20代∼30代の自動車保有者で、親と同居している人
近居:20代∼30代の自動車保有者で、親世帯から歩いて行ける距離∼片道
1時間以内の距離に住んでいる人
遠居:20代∼30代の自動車保有者で、親世帯から独立しているが近居ではない人
(出所)NRI生活者1万人アンケート調査(2006年)
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「インビジブル・ファミリー」から生まれる新しい消費とターゲット像
いこともわかっている(図− 8)。自世帯の利
の会費を支払うことへの心理的負荷が重く感
用のほかに,つながり世帯を乗せること,二
じられることなどが指摘できる。
世帯で一緒に使うことを前提に入れている可
その点,インビジブル・ファミリー内共有
能性が示唆されている。
は魅力的である。自動車を他者(他世帯)と
現在,不況による生活コスト削減意識の高
共有するメリットは,コストが抑制できるこ
まりから,日本では都市部を中心に自動車共
とにある。共有する相手が誰であっても,こ
有ニーズが生じている。理由は大きく 3 つあ
のメリット部分はかわらない。しかし,有料
る。そもそも,都市部では自家用車の稼働時
サービスのカーシェアリングが持つデメリッ
間が短い。交通網が充実していることが理由
トは「共有相手がよく知らない人」という点
として大きいが,どうしても自家用車でなけ
である。インビジブル・ファミリー内共有は
れば移動ができないという状態に陥ることは
これをクリアしており,実は 2 世帯,3 世帯
ほとんどない。稼働時間だけでなく,必然性
で共有しているにも関わらず,「うちの車」と
という点でも都市部の場合は地方部と比べて
呼べる。まさにいいところ取りのインビジブ
低下する。さらに,駐車場代などの維持費が
ル・ファミリー内でのカーシェアリングは,
相対的に高い。そして,これを超えるだけの
今後日本で拡大する可能性を秘めている。
クルマ保有欲が若年層を中心に低下している
<派生消費(連携はしないがつながりが前提)
ことも大きい。
⇒事例は少ないが今後期待できる領域>
日本でも昨今,会員制の有料サービスであ
子世帯との互いの往来が多いことによって,
るカーシェアリングサービスが続々と出現し
ている。しかし欧米と比べると普及拡大は進
かつての「高齢夫婦家族」「若い家族」とは違
んでおらず,まだまだ黎明期にある。拡大が
った耐久消費財の持ち方をする可能性がある。
進まない理由としては,「見知らぬ人と車を共
たとえば調査 1 からは,高齢夫婦二人のみ
有することへの抵抗感」やいつでも思い立っ
世帯の耐久消費財の保有率を比較した場合,
たときに利用できるレンタカーに比べ,月々
子世帯と近居・隣居している世帯と遠居して
■図―― 9
「うちの車」と言える
保有欲求
高
共有する相手
車の保有形態と共有相手
保有コストが削減できる
低
マイカー専有
インビジブル
・ファミリー共有
同居家族
近居家族
カーシェアリング
近隣住民
同じマンション住人
同サービス会員
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★
論文
いる世帯では,ビデオカメラや空気清浄機な
オケージョンやベネフィットにも差異が生じ
どではインビジブル・ファミリーの親世帯の
ている。しかし,まさにインビジブルな,見
ほうが,保有率が高い。逆に親世帯が近くに
えない消費の動きであるため,そこに対する
住む 20 代∼ 30 代の子世帯の温水洗浄便座保
打ち手を考えるのも容易ではない。統計数値
有率が遠居世帯よりも高いなど,つながって
では取得できないつながりや動きが主である
いる世帯が頻繁に来訪することを前提とした
ため,正確に需要を予測するのも実質困難で
保有率の差異がそれぞれの世帯で確認されて
ある。しかし,間違いなく消費者はこうした
いる。つまり,これまでのターゲット層のイ
見えない消費を行うようになっている。
この消費者の新しい動きを捉え,顧客とし
メージに固執していてシンプルな個人属性,
世帯属性だけを見ていては,取りこぼしてし
て獲得するためにまず必要なことは,「ターゲ
まうケースも生じてくる。
ットの見直し」と「ニーズの再整理(可視化)」
商品購買以外でも,子育て期の人であって
であると考える。需要が明確にわかるわけで
も親世帯に子供を預けるなどして外食,旅行
はないため,いきなり大きな投資はせず,既
に出かける機会が従来よりも増えるなど,除
に実施している活動の見直しから小さく始め
外されていたターゲット層も市場に貢献する
るという姿勢が重要であると思う。
ようになる可能性がある。市場の拡大という
視点では期待できるところであり,メーカー
① 増加するインビジブル・ファミリーは,
や流通小売の視点でいえば,オケージョン提
見えない消費を行うことをまず認識する
② 打ち手を考えるには,やはり自社顧客の
案,新しいベネフィットの提示などの工夫に
見えない消費の可視化が必要。ただしこ
よるニーズ創出が求められるところである。
れは顧客属性データを細かく取るという
笙――― マーケティングへの示唆
ことではなく,あらためて顧客像を描き
なおすということ
以上のように,インビジブル・ファミリー
③ 可視化した後は,課題に対する解決仮説
消費はタイプ別に目的や意図が異なり,当然
を立て,現行マーケティング施策の見直
■図―― 10
しから始める
インビジブル・ファミリー消費の可視化のポイント
小さな一歩にみえるが,ここが踏み出せる
インビジブル・ファミリー消費3タイプの視点を
意識してニーズを整理する
かどうかで今後の展開が大きく異なってくる
ことだろう。既に市場の縮小という閉塞感で
財布が開かれるコア世帯を見極める
苦しんでいる業界が多い中,見落として取り
こぼしている顧客層とそのニーズを発掘する
購買意思決定への関与者・
関与タイミングを見極める
ことは,結果的には現状打破にとどまらない,
成長に向けた大きな一歩となるかもしれない
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からである。
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「インビジブル・ファミリー」から生まれる新しい消費とターゲット像
<調査概要>
調査 1 :「NRI 生活者 1 万人アンケート調査」
全国の満 15 歳∼ 69 歳の男女個人を対象と
した訪問留置法により実施した自主研究調査
(回収数:1997 年 N=10,052,2000 年 N=10,021,
2003 年 N=10,060,2006 年 N=10,071)
調査 2 :「 N R I プ ロ ジ ェ ク ト 2 0 1 5 生 活 者
5,000 人アンケート調査」
全国の満 15 歳∼ 69 歳の男女個人を対象と
した Web アンケート(NRI True Navi)によ
り実施した自主研究調査(2007 年 8 月実施)
調査 3 :「NRI マーケティングナビゲーター
生活者 10,000 人アンケート調査」
全国の満 15 歳∼ 69 歳の男女個人を対象と
した Web アンケートにより実施した自主研究
調査(2007 年 10 月実施)
川津 のり(かわづ のり)
2001 年東京大学文学部社会心理学専修課程卒
同年株式会社野村総合研究所入社
消費者分析をベースにコンサルティング業務に従事
2009 年現在,同社流通 IT イノベーション推進部所
属,主任コンサルタント
専門はマーケティング戦略,生活者の価値観・行動
分析,消費者分析
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