テレビ番組とWEB上の クチコミにおける関係性について

Japan Marketing Academy
★
論文
テレビ番組とWEB上の
クチコミにおける関係性について
笊 ――― はじめに
笆 ――― 背景
笳 ――― CGM や WEB 上のクチコミのデータを活用したマーケティングの現状
笘 ――― テレビ番組評価に関する先行研究と本研究の方向性
笙 ――― 製品・サービスとテレビ番組における現象の違い
笞 ――― 視聴率と WEB 上のクチコミ件数の関係
笵 ――― 一般的な番組評価のスコアと WEB 上のクチコミ件数の関係性
笨 ――― おわりに
岩田 幸也
の指標と視聴率や既存番組評価との関係性を
● 元 株式会社電通 関西支社 統合ソリューション局
見たところ,それら既存の評価・価値尺度と
坂井 政文
は明確な関連性が見られず,この指標が既存
● 株式会社電通 関西支社 ビジネス・ディベロップメント・センター
ソリューション・デザイン室
の指標では測定できない内容であることが判
明した。
この番組評価手法を活用することによって,
笊――― はじめに
広告活動や広報 PR におけるメディア選定や
組み合わせを考える際の一基準として応用出
本論文はテレビ番組に関する WEB 上のク
来ると思われる。
チコミのデータを活用し新しいテレビ番組評
笆――― 背景
価指標の確立を目的とする。テレビ番組にお
ける WEB 上のクチコミ現象の特異性につい
て,視聴率と WEB 上のクチコミの関係性に
インターネットによる巨大な情報伝達伝送路
ついて,そして既存番組評価と WEB 上のク
の誕生や情報の圧縮技術等による通信技術の進
チコミの関係性について検証し,新たな番組
歩,インタラクティブ・メディアの普及やマル
評価の方法を提示したい。
チデバイスによるエンドユーザーへの情報伝達
インターネット全盛の今,テレビ番組につ
が容易になり,膨大な情報通信が昨今行われて
いて WEB 上でコミュニケーションしながら
いる。総務省情報通信政策研究所によると平成
共振・共鳴し合っているレゾネーションとい
19 年度の流通情報量は約 6 ゼタビット(5.99 ×
う現象が見られるようになり,またその行為
10 21 bits)であり,それに対する消費者の消費
R
○
をする人々であるレゾネーター が現れるよ
情報量は約 300 ペタビット(2.96 × 10 17 bits)
うになった。これらを WEB 上のクチコミ件
となっている。これは,世の中に消費しきれな
数のデータで捕捉し,その現象の程度を深さ
い情報が膨大にあることを顕著に示している。
(デプス)と名付け概念化し,指標化した。こ
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平成 13 年の情報量を 100%として経年での各情
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テレビ番組とWEB上のクチコミにおける関係性について
報量を算出すると,平成 19 年では流通情報量
オフラインに関わらずクチコミが商品購入の
が約 55%増加している。それに対して消費情報
意思決定に大きく関わっていることが分かる
量は約 4 %の増加であり,我々の日常において
(マイボイスコム株式会社調査 2007, 10 代以
益々情報飽和環境化が進んでいることが分かる。
上男女 17,647ss)。消費者の動向とリンクして
また,情報流通量をビット換算した内訳は,放
多くの企業でも CGM や CGI に対する関心も
送メディア:印刷・出版:インターネット=
高まっており,社団法人日本広告主協会 Web
98.5%: 0.6%: 0.6%となっており,情報流通の
広告研究会によれば,「CGM は企業に影響が
主流は放送メディアであると言える。一方で,
ある」と答えた企業は 65%以上であり,CGM
消費情報量の内訳を見ると,放送メディア:印
の活用意向については 74%以上と,CGM が重
刷・出版:インターネット= 77.4%(− 21.1%):
要視されていることが分かる。
9.3%(+8.7%): 8.9%(+8.3%)となっており,
クチコミについて,ブランドや商品やサー
印刷・出版も増えているが,インターネットを
ビスについて営利目的で話をしていないと受
利用した消費の情報流通も活発に行われている
け手が認識している状態で,伝え手と受け手
と考えられる。このように消費者はインターネ
が口頭的,直接的なコミュニケーションを行
ットにおける情報に価値を見出していることが
っていることをクチコミの定義としている研
窺える。
究がある(Arndt, 1967)。他のクチコミに関
インターネット上の情報量の増加は,企業
する先行研究では,態度変容や購買意図など
のホームページやポータルサイトなどのメデ
の説得効果における情報の受け入れに関する
ィア運営会社による情報の影響も大きいが,
もの(Dichter, 1996),クチコミ効果に影響す
ブログや SNS(ソーシャルネットワーキング
る要因を列挙しメッセージの信頼性・有効
サービス)などの CGM(Consumer Generat-
性・話題性・方向(ネガティブなど)性とし
ed Media)の登場によって生まれた消費者が
て分類した言及(Richins,1983),クチコミが
発している情報(Consumer Generated Infor-
消費者の商品やサービスの購入に際して影響
mation ;以下 CGI と表記)も大きく影響して
力を持つことを実証している研究(Engel,
いる。特に日本は世界一のブログ数を有して
Blackwell and Kegerreis, 1969; Feldman and
おり,国内における 2009 年 1 月末のブログ総
Spencer, 1965; Arndt, 1967; Brown and Rein-
数は,約 2,695 万件,同月間閲覧数(ページ
gen, 1987; Reingen and Kernan, 1986; Richins,
ビュー: PV)は約 205 億 PV となっていて,
1983),ノイズ(情報過多)環境下における信
2001 年以降の総記事数は 18 億件を超える
用のあるソースとしてクチコミの重要性につ
(総務省情報通信政策研究所, 2008)。更に,消
いて提言したもの(Rosen, 2002) などが挙
費者が商品購入時に重視する情報源ランキン
げられる。
グを見ると,第 1 位:クチコミサイト(価
国内インターネット普及率は現在 78.0%
格.com や @cosme などの WEB サイト),第 2
(総務省通信利用動向調査, 2010)となってお
位:テレビ・ラジオ CM,第 3 位:友人・知
り一般人が不特定多数の人間と直接会話しな
人・家族とのクチコミと続き,オンライン・
くともコミュニケーションが簡単に行える現
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論文
代において,WEB 上におけるブランドや商
検証したところ,一般的にヒットと認知され
品やサービスにおける非営利目的でのコミュ
ている商品名よりも,テレビ番組名における
ニケーションは一般化している。本稿では,
WEB 上のクチコミ件数が圧倒的に多いこと
ブランドや商品やサービスについて営利目的
が確認できる。
で話をしていないと受け手が認識している状
本稿では,(1)CGM や WEB 上のクチコミ
態で,伝え手と受け手が WEB 上でコミュニ
のデータを活用しているマーケティングの現
ケーションを行っていることを WEB 上のク
状を把握した後,WEB 上のクチコミ件数の
チコミと定義する。これらを踏まえると,従
多いテレビ番組にフォーカスし,(2)番組評
来の AIDMA に代表される広告反応モデルか
価に関する先行研究と我々の目指す方向性に
ら情報のシェアを反映した AISAS モデル
ついて,(3)テレビ番組における WEB 上の
(秋山,杉山, 2004)へ変遷していった経緯も
クチコミ現象の特異性について,(4)視聴率
考えやすく,今後 CGM を活用したマーケテ
と WEB 上のクチコミの関係性について,(5)
ィングの比重は益々高まっていくであろうと
番組評価と WEB 上のクチコミの関係につい
考えられる。
て検証する。
クチコミが発生しやすい商品の特性として,
笳――― CGM や WEB 上のクチコミの
データを活用した
マーケティングの現状
消費者の関与度の高い商品,エキサイティン
グ型商品,革新的な商品,経験型の商品,複
雑な商品,高価な商品,可視性の高い商品が
考えられている(Rosen, 2002)が,ブログや
近年の CGM を活用した実務的なマーケテ
掲示板を中心とした WEB 上のクチコミ検索
R
○
サービスである電通バズリサーチ を用いて
ィングは,主に流行・話題・生活動向などの
■図―― 1
ヒット商品とテレビ番組の WEB 上のクチコミ累積件数(2007 年 9 月 1 日∼ 12 月 31 日)
450,000
WEB上のクチコミ数
400,000
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
防寒衣料A
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ゲーム機B
音楽番組C
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テレビ番組とWEB上のクチコミにおける関係性について
マーケティング調査,商品・ブランドなどの
を検索するケースも多くある。また,キャン
広告キャンペーンにおける話題性の検証,商
ペーンの一施策としてブロガーサンプリング
品・サービス・企業などに対するレピュテー
やαブロガーを活用した WEB 上のクチコミ
ション・マネジメント,商品・ブランドなど
誘発のほか,グッドレピュテーションの確保
の WEB 上のクチコミ誘発・話題喚起を目的
や PR などの施策としてインフルエンサー・
としたαブロガー等の活用である。
マーケティングを行い,円滑な情報流通を促
流行や話題性,生活動向を把握し,消費者
す施策として CGM が活用されている。CGM
のニーズ・ウォンツの発見や企業シーズとの
マーケティングにおける効果検証指標として
マッチングのために WEB 上のクチコミのデ
の KPIs(Key Performance Indicators)は,
ータを活用している例や,各種企業において
WEB 上のクチコミ件数,トラックバック数,
新商品開発などの参考として活用している例
PV 数など定量的なものに加え,WEB 上のク
は多数ある。某食品会社においては,主婦層
チコミ内容のポジネガ評価など定性的情報も
のブログで散見される料理傾向について,料
重要視されており,深い洞察・分析を行って
理のジャンル(和風・洋風・中華など)や使
いる企業が増えている。
用素材,調理法などを調査することで,通常
このように CGM や WEB 上のクチコミのデ
の消費者サンプリング調査やグループインタ
ータを用いた分析や活用は一般的になってき
ビューなどでは表れない生の生活スタイルを
ている。しかしながら,WEB 上のクチコミ
反映させるマーケティング活動を行っている。
をメディア媒体評価や効果検証,視聴者意見
また SNS を通してコミュニティー内で商品企
の集約などに活用している例はあまり無く,
画を募り,商品化まで実施した例なども含め,
まだ未成熟な領域であると考えられる。従っ
様々な企業が CGM マーケティングを行って
て,WEB 上のクチコミデータが圧倒的に多
いる。
いテレビ番組について見解を深めることは重
ブランド管理・ CSR ・ IR の評価としても
要であると考えており,また広告活動や広報
活用可能であり,自社商品・サービス・企業
PR における媒体選定やプラニングへの応用・
に対するレピュテーション・マネジメントに
展開,そして新しい番組評価が可能だと考え
ついての活用例もある。インターネットの特
る。
性である情報伝達の迅速な拡散によって,ネ
笘――― テレビ番組評価に関する
先行研究と本研究の方向性
ガティブな情報が流れたときにはその反応が
顕著に現れる。不買運動や広報窓口などに大
量のクレームが入るといった行動が起きる場
テレビ番組に関する番組評価の先行研究と
合もあるので,企業広報担当が利用している
して,①構成②新奇性③論理性④広範性⑤表
例は多々ある。
現の 5 つの指標による格付け(草野,古川,
広告内容や IR 評価,タレント・キャラクタ
ー等の評価も含め,広告キャンペーン全体の
水谷, 2004),①番組視聴構造,②番組編成構
話題性を把握するために WEB 上のクチコミ
造,③生活時間構造の重なる部分を視聴の質
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論文
と考える番組の質的測定値の規定(後藤, 1992),
る。
連想法を用いたテレビ番組の質の評価(糸川,
このような現象を捕捉することにより,新
中山, 2009)が挙げられる。また放送局による
たな視点を持ってインターネット時代におけ
番組の視聴満足度をものとして NHK が実施
る番組評価の指標を作りたいと考えている。
している番組総合調査に関する知見(白石,
笙――― 製品・サービスとテレビ番組に
おける現象の違い
照井,2008)やフジテレビによる FASS(Fuji
Audience Satisfaction System)調査,TBS
の TPI(Television Program Influence)調査
などが挙げられる。また複合型評価としては
情報影響力を持ったクチコミをする人につ
ビデオリサーチ社が行っているテレビ番組カ
いての先行研究では,オピニオン・リーダー
ルテやテレビ朝日のリサーチ Q などがある。
(Rogers, 1983)やインフルエンサー(Keller
一方で本論文において新しく提案したい番
and Berry, 2003)について言及しているもの
組評価の特徴は主に 2 つある。1 つは国内の
や,クチコミを引き起こすのは特定の少数者
ブログや 2 ちゃんねる,掲示板におけるクチ
がとりわけ重要な役割を果たしているとし,
R
○
コミ検索システム電通バズリサーチ を活用
(1)収集した情報を他人に教えたがるメイヴ
し,WEB 上のクチコミ件数を評価対象とす
ン,(2)説得のプロであるセールスマン,(3)
る点である。WEB 上のクチコミを対象とし
クチコミの伝播者であるコネクターがその重
たテレビ番組評価の先行研究はなく,視聴者
要な少数者(Gladwell, 2000)としている主張
がブログなど WEB 上でクチコミをするとい
もあれば,情報格差が大きい中央集権型イン
う能動的・自発的な行為,もしくは WEB 上
フルエンサーではなく,最適な情報格差を持
の掲示板などで視聴者同士交わすコミュニケ
ち合う多数の草の根インフルエンサーがクチ
ーションの量を基礎データとした事例はない。
コミを起こし,双方向のコミュニケーション
データとしては 2500 万を超えるブログや掲示
を行っていると言及している研究などがある。
板や 2ch を対象としている。
(山本,西田,森岡,山川, 2008)
R
○
また 2 つ目は,電通バズリサーチ はリアル
これらの先行研究では権威や少数の情報影
タイムにデータを蓄積しているため,番組
響力を持った人によるクチコミプロセスや情
OA 前後だけではなく OA 中に起こるコミュ
報格差に則った情報伝播メカニズムが存在し
ニケーションも可視化することが出来る点で
ていると考えている。一般的な商品やサービ
ある。インターネットが普及する以前はテレ
スにおいては,当事者が商品やサービスの情
ビ番組について OA の前日や翌日に学校や職
報を得て,検討に入る段階や商品やサービス
場で話題にするなどのコミュニケーションが
を購入・体験した後に情報が発せられる。そ
ほとんどであったと考えられるが,インター
れらの情報入手や購入・体験のタイミングの
ネットが普及してからはその番組 OA 中でも
ずれによって情報格差が生まれてくる。
WEB 上でコミュニケーションを行うことが
しかし,テレビ番組の WEB 上のクチコミ
可能であり,さらにそれが頻繁に行われてい
の特徴として,テレビ番組は誰もが視聴でき
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テレビ番組とWEB上のクチコミにおける関係性について
るため情報が段階的に拡散されるものではな
なり,時差的情報格差のない同時発散性を有
く,放送後に情報が一斉に届く同時発散性を
していると考えられる。
持ち合わせていると考えられる。テレビ番組
図− 3 は 2008 年 10 月 1 日から 12 月 31 日ま
の視聴体験は番組放送時間が体験者によって
での期間における音楽番組 C(20 時放送開始
基本的に変わることがない。あるとすれば,
の 1 時間番組)の放送日と WEB 上のクチコ
録画した番組を事後で視聴するなどのタイム
ミ件数をプロットしたものである。なお,こ
シフトが行われた場合に限られる。従って,
のデータを抽出する際にはテレビ番組名(略
テレビ番組が伝える情報においては権威等に
称や表記違いのものを含む)で検索をした結
よる時差的情報格差が発生しないと考えられ
果を記載している。
R
を使用してテレビ番
る。電通バズリサーチ ○
この図から 5 つのことが把握できる。
組に関する WEB 上のクチコミを検索すると
(1)番組放送当日が WEB 上のクチコミ件数
放送当日に件数が多くなるだけでなく,時系
のピークとなる。
列データポイント洗い出すと,ほぼ同時刻に
(2)通常編成よりも特別編成時に件数が多く
複数の発信者が複数のルートで情報や意見等
なる。
を拡散させていることが分かる。すなわち,
(3)通常編成及び特別編成に関わらず,放送
一般的な製品・サービスのメカニズムとは異
翌日にも WEB 上のクチコミが発生する。
■表―― 1
音楽番組 C における WEB 上のクチコミの時系列
時間
20 時 01 分 51 秒
内 容
今日は○○で■■がでるらしいw よし!!○○みよ!!
20 時 02 分 40 秒
20 時 03 分 28 秒
まだまだ○○は権威あるな
最近※※と○○が話題になってるようですが、色々ネットで調べてみたんです。
20 時 03 分 47 秒
20 時 03 分 48 秒
20 時 04 分 20 秒
20 時 05 分 20 秒
期待してるぞ○○ お前は俺を裏切らないよな?
○○ \(^O^)/ 最初見逃したorz ←
) キタ
■■ ( ゜∀゜
今日は○○ △△が出る ( ≧∇≦ )(*^o^*) てか、○○久々?かな? (*^o^*)
■図―― 2
一般的な製品サービスとテレビ番組における現象の違い
テレビ番組のメカニズム
一般的な製品・サービスのメカニズム
製品・サービスの情報
テレビ番組の情報
情報格差
同時にテレビを見ているため情報格差が存在しない
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■図―― 3
音楽番組 C の放送日と WEB 上のクチコミ
90000
80000
特別編成での放送
WEB上のクチコミ数
70000
60000
放送前日
50000
40000
30000
通常編成での放送
20000
0
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10000
特別編成の場合は翌々日にも WEB 上の
見た後 WEB 上のクチコミをするケース,(3)
クチコミが影響している。
次週の放送内容の情報を得て次回についての
(4)特別編成の場合には通常編成に比べて前
期待や意見などを寄せるケース,(4)そして
日に件数が増える。
従来の商材やサービスと同じように誰かの
(5)番 組 の 放 送 が な い と き で も , 一 定 の
WEB 上のクチコミを見て更にその情報を波
WEB 上のクチコミが行われている。
及させるケースである。このように放送当日
これらの現象からまず分かることは,番組
以外でも様々な形で情報発信が行われている
が放送された当日に感想や意見を書き込む,
ことがわかる。
即時的,瞬間的な WEB 上のクチコミが形成
特別編成の場合においては放送時間が通常
されていることである。 表− 1 の時系列デー
よりも長いため,その分番組放送中にリアル
タにもあるように,番組放送中に情報を書き
タイムで WEB 上のクチコミが起こる数が多
込む視聴者も多く,また表− 2 や表− 3 のよう
くなる。また件数が増えれば増えるほどそれ
に番組が終わった後にも継続して感想を書き
に影響を受けた(4)の波及が大きくなるため,
込んでおり,放送翌日にも番組について意見
放送翌日や翌々日の件数が多くなる。加えて
を寄せている。
特別編成の場合は通常編成と同じ時間から放
放送当日以外の WEB 上のクチコミについ
送開始となるケースが多いために番組終了時
ては 4 つの場合が考えられる。(1)放送当日
間が必然的に遅くなり,放送中ではなく放送
に番組を見たが後日 WEB 上のクチコミをす
直後に WEB 上のクチコミをする視聴者は 24
るケース,(2)放送内容を録画し後日番組を
時を超えてからすることが自動的に多くなる。
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テレビ番組とWEB上のクチコミにおける関係性について
■表―― 2
番組 OA 後の WEB 上のクチコミ例
時間
21 時 05 分 03 秒
21 時 07 分 36 秒
21 時 07 分 42 秒
21 時 15 分 18 秒
21 時 19 分 52 秒
内 容
今日の○○は△△と▲▲・■■ etc ・・が出ていましたね☆★
今日は○○でしたね!見ましたか??■■出てましたよ■■!!!
. なんか、なぜだか、泣きそうです。■■が好きすぎて (;?;) ○○出演おめでとう(^^)
○○見た見た。昨日と打って変わって、みんな笑顔。またこれからリピして見よう。
見たよー!!友達が、○○見てたのか、何通も「■■が○○出てるよ」っていうメールが。笑
■表―― 3
番組翌日の WEB 上のクチコミ例
時間
内 容
13 時 41 分 03 秒 ○○で歌うさわやか▲▲たちを見て涙が出ちゃった私です∼ (>_<)
14 時 30 分 35 秒 昨日は○○と●●見ました。○○は良かった∼♪
15 時 54 分 13 秒 昨日は待ちに待った『○○』学校帰りに友達と遊びに行ってて、ギリギリに帰って来て何とか見れましたーっ
16 時 28 分 23 秒 昨日○○見ました!!いい曲でした↑↑みんなかっこよかったわ∼∼・・・
17 時 16 分 14 秒 昨日の○○たまらんかった !かっこよすぎ∼可愛いすぎ∼
よって特別編成放送翌日の件数が通常放送翌
聴率である。どれだけ多くの人に広く見られ
日分よりも多くなる。
たかというリーチを表す指標に対して,視聴
放送前の WEB 上のクチコミについて,通
者の自発的な WEB 上のクチコミや視聴者同
常編成時より特別編成時の件数が増える傾向
士の双方向コミュニケーションである WEB
にあるのは,番組宣伝が多くなったり出演タ
上のクチコミとの関係を検証する。
レントが通常よりも増えたりするために,期
2008 年 10 月 1 日から 12 月 31 日のドラマジ
待を寄せる WEB 上のクチコミがその分増え
ャンルにおけるテレビ番組の視聴率と放送当
るからと推測できる。
日の WEB 上のクチコミ件数を対象にとした。
なお,番組ジャンルについてはビデオリサー
笞――― 視聴率と WEB 上の
クチコミ件数の関係
チ社の分類を使用し,データについては各テ
レビ番組名(略称や表記違いのものを含む)
R
で検索をした結果を記
を電通バズリサーチ ○
従来の商品やサービスなど CGM マーケテ
載している。またここでは番組名が日常の会
ィングで使われる定量的な KPIs としては
話で使う自然語のケースもあるので,放送に
WEB 上のクチコミ件数,トラックバック数,
よって影響のあった WEB 上のクチコミを抽
PV 数などが挙げられる。またそれらの数値
出するため,期間中における放送日の件数の
だけでなく,実際に行った施策により売上や
平均値から,放送日ではない日の件数の平均
イメージ向上に対するスコアの影響や寄与を
値を引いた数値を当該平均数値とする。
調べるといったように,それらの数値以外と
放送日当日の件数から,放送日以外の件数
の相関や関係性を見ることがある。
の平均値を引いた数値を対象とする
テレビ番組における代表的な効果指標は視
下記図は分析対象とした番組の平均視聴率
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WEB上のクチコミ数
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2008/12/28
2008/12/30
WEB上のクチコミ数
Japan Marketing Academy
論文
■図―― 4
データのスクリーニングについて
90000
80000
70000
60000
50000
40000
30000
20000
10000
■図―― 5
視聴率と WEB 上のクチコミ件数
14000
平均視聴率:12.4
12000
第2象限
0
2
第1象限
10000
8000
6000
4000
平均WEB上のクチコミ数:4738
2000
0
第3象限
第4象限
4
● JAPAN MARKETING JOURNAL 122
マーケティングジャーナル Vol.31 No.2(2011)
6
8
分析対象の 15 番組において,当該期間の 1
10
視聴率
12
14
16
18
20
及び平均 WEB 上のクチコミ件数をプロット
回放送あたりの平均視聴率は 12.4 %であった
したものである。
のに対し,各番組の放送当日における 1 回あ
たりの平均 WEB 上のクチコミ件数は 4,738 で
12
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テレビ番組とWEB上のクチコミにおける関係性について
あった。この数値を元に高視聴率で件数が多
与度の高い人々がいる密度・濃度としては第
い番組群(第 1 象限),低視聴率で件数が多い
2 象限の番組の方が高いと考えられる。平均
番組群(第 2 象限),低視聴率で件数が少ない
WEB 上のクチコミ数を視聴率で割ることで
番組群(第 3 象限),高視聴率で件数が少ない
視聴率 1 %あたりの件数を算出し,それを積
番組群(第 4 象限)の 4 象限に区分すること
極的関与度の密度として比較することもでき
が出来る。
る。またこれら番組の関連グッズや DVD な
図を見ると平均視聴率が 13 %前後の番組は
どのセールスについては,第 3 象限の番組よ
5 番組ほどある。視聴率のみで番組を評価し
りも第 2 象限の番組の方が良い可能性高いと
た場合これら 5 番組は全て同等の価値を持つ
考えられるだけではなく,場合によっては第
として扱うことになるが,WEB 上のクチコ
4 象限の番組よりも良いこともありえるかも
ミ件数を評価対象軸に入れることで,これら
しれない。
5 番組の中でも評価の差異が生まれる。第 1
従来の視聴率は到達率(リーチ)を表して
象限の高視聴率で件数が多い番組と高視聴率
いるのに対し,このように WEB 上のクチコ
で件数が少ない第 4 象限の番組として分けら
ミデータを用いることで,新しいテレビ番組
れるだけでなく,平均 WEB 上のクチコミ件
の価値尺度として深さ(デプス)という指標
数が一番多い番組と一番少ない番組には 11 倍
を視聴率とは別の軸・視点として導き出すこ
もの差があり,これら数値の違いを番組に対
とが出来る。同じ視聴率である 2 つの番組を
する視聴者の積極的関与度を表現する価値尺
比較する際に件数の多寡を見比べることによ
度のうちの一つとし,番組評価をすることが
って,今までとは違った深さという視点を持
できると考える。ただ視聴するだけではなく,
って番組評価をすることができ,広告活動や
テレビ番組を切っ掛けにコミュニケーション
広報 PR におけるメディア選定や組み合わせ
する行為を番組に対する積極的態度として番
を考える際の一基準として活用することが可
組を評価する上での一つの価値側面として考
能である。
えたい。
上述のように一部の番組で見られる現象は,
また第 2 象限に属する番組群は,視聴率が
ある近い価値観を持つ人同士がつながり,共
低く見ている人は少ないが視聴者が自ら情報
振・共鳴し合いながらコミュニケーションし
発信をしたくなる,もしくは視聴者同士で語
ている現象だと考えられる。現状,電通バズ
り合いたいと思わせる何か影響力を持った番
R
では WEB 上でクチコミをした人の
リサーチ○
組群と考えられる。例えば第 1 象限に位置す
各 ID を取得していないため,一人の人が複数
る平均視聴率 17.6 %,平均 WEB 上のクチコ
回 WEB 上のクチコミをしているケースの場
ミ数 10,030 件の番組と第 2 象限に位置する平
合でもそれぞれを 1 件ごとの件数としてカウ
均視聴率 10.2 %,平均 WEB 上のクチコミ数
ントする形式となっており,複数人がコミュ
10,172 件の番組を比較した場合,番組に対す
ニケーションしていることを実証出来ないが,
る積極的関与の高い人々がいる絶対数として
音楽番組 C のように 1 日に 8 万件近く発生し
は第 1 象限の番組の方が多いであろうが,関
ていることから 1 人の人が WEB 上のクチコ
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★
論文
ミをしているとは到底考えられず,様々な
笵――― 一般的な番組評価のスコアと
WEB 上のクチコミ件数の関係性
人々が WEB 上でコミュニケーションし共
振・共鳴し合っていると思われる。
これらの共振・共鳴行動及び現象をレゾネ
視聴率が低くても人との話題の中心として
ーション,共振・共鳴する人々をレゾネータ
R
○
ー として定義したい。低視聴率だが WEB 上
コミュニケーションしたいと思う番組群や
のクチコミが多い番組群で見られるようなレ
WEB 上でクチコミさせるパワーを持つ番組
R
○
ゾネーター 間 の 活 動 や 現 象 を 捉 え た 上 で ,
について抽出可能になった。ここでは WEB
新しい価値尺度を持って今後の広告活動にお
上のクチコミ件数の多寡が表す意味合いを探
ける媒体選定やプラニングを考慮すべきだと
るために,民放各社の全国ネット番組名で回
考える。番組から発せられる情報の浸透度や
収したデータとテレビ番組の番組評価・視聴
影響度や密度を考えた場合,視聴率のみが高
質を調査したビデオリサーチ社のテレビ番組
R
○
い番組よりも,レゾネーター が多いと考え
カルテ(2008 年 11 月)と対応させることに
られる番組の方が浸透度・影響度・密度が高
よってその関連性を検証する。テレビ番組カ
い可能性があり,その後の情報波及が起こる
ルテとはサンプリング調査によって個別番組
可能性も高いと思われる。そのような番組で
の質的評価測定を行ったもので,総合的に各
取り上げられた商品やサービスなどが,その
番組が視聴者にどのように評価されているか
R
○
レゾネーター に影響を与えて広がり,購買
(好意度・視聴満足度),テレビ番組がそれぞ
などに繋がりやすくなるケースも考え得る。
れ視聴者にどのような視聴感(イメージ)を
広告や広報 PR のプラニングを行う上で,上
与えているかなどを調べたものである。
記のような視点で視聴者同士での情報波及・
テレビ番組カルテの調査対象となっている
拡散効果が高いと見込まれる媒体の抽出を
132 番組をそれぞれの番組名(略称や表記違
WEB 上のクチコミの側面から行うことで,
いのものを含む)で検索し,2008 年 10 月 1 日
商品やサービス情報の浸透する確率が高まる
から 12 月 31 日の期間における各番組の WEB
であろう。
上のクチコミ件数の平均値とテレビ番組カル
また本稿ではこのレゾネーションの内容を
テの評価スコアで相関分析を行った。相関係
テレビ番組に限定して数値化・可視化してい
数が 0.6 以上の項目をリストアップしたのが
るが,これはテレビ以外の媒体分野でも活
下記の表となる。番組ジャンルについてはビ
用・応用が可能である。広告のプラニングに
デオリサーチ社の分類を参考にした。なお,
おけるリーチを最大化させるだけではなく,
上記各番組の平均 WEB 上のクチコミ件数の
各媒体に関して情報浸透度を中心と考えたプ
抽出については,前述の方法と同じように自
ラニング手法なども今後新しい方法論として
然語のケースにも配慮し,放送によって影響
追及することが出来ると考える。
のあった WEB 上のクチコミを抽出するため,
期間中における放送日の件数の平均値から,
放送日ではない日の件数の平均値を引いた数
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テレビ番組とWEB上のクチコミにおける関係性について
値を当該数値とする。
WEB 上のクチコミ件数とテレビ番組カル
上記の表から下記 4 つのことが言える。
テにおいて高い相関が見られないということ
(1)番組全体では WEB 上のクチコミ件数と
は,つまり WEB 上のクチコミ件数による評
テレビ番組カルテのスコアにおける高い
価はそのような既存の番組評価では直接測定
相関は見られない。
できないものを評価できることを示している。
(2)教育・教養,報道以外のジャンルにおい
全体として高い相関は見られないが,ジャ
て,“いつも見ている”といった視聴経験
ンル別に見ると相関が高いものもある。特に
や継続視聴を表す項目と相関がある。
ドラマ,コメディ,スリラーなどのジャンル
(3)ドラマ,スリラー・アクション,コメデ
に関しては,WEB 上のクチコミがポジティ
ィのジャンルに関しては相関係数の高い
ブな番組評価を表していることが分かる。特
項目が多く,ポジティブな番組評価を表
にドラマの“個性的な”,コメディの“カメラ
す内容のスコアと相関が高い
ワークが良い”,“話題が豊かになる”,スリラ
(4)報道のジャンルにおいては,件数がネガ
ー・アクションの“感動を覚える”,“放送時
ティブな内容とも相関がある。
間帯が良い”といった項目は 0.9 以上の相関
■表―― 4
WEB 上のクチコミと番組カルテの評価スコアに関する相関
ジャンル
全体
番組カルテ評価項目
相関係数0.6以上の項目なし
満足しなかった
社会性のある問題を取り上げている
報道
どちらかといえば嫌い
刺激的な
クイズ
いつも見ている
いつも見ている
芸能
教育・教養 相関係数0.6以上の項目なし
知識・情報が得られる
流行の取り込みがうまい
放送時間帯が良い
いつも見ている
音楽
是非続けてみたい
役に立つ
非常に満足した
ゲスト出演者が良い
時々見ている
いつも見ている
ドラマ
Fレイト
コメディー
視聴経験有
スリラー全体
是非続けて見たい
個性的な
今後の展開が楽しみ
ストーリーの展開にメリハリがある
ハラハラ、ドキドキする
ドラマ
いつも見ている
話題が豊かになる
放送時間帯が良い
目新しさ、新鮮さを感じる
相関係数
ジャンル
番組カルテ評価項目
カメラワークが良い
0.683
話題が豊かになる
0.648
番組名が良い
0.616
役が合ってる
0.752
分からない
0.640
刺激的な
0.625 コメディ 感動を覚える
満足しなかった
0.855
いつも見ている
0.758
Fレイト
0.744
視聴経験有
0.710
非常に好き
0.691
たまに見ている
0.689
感動を覚える
0.639
放送時間帯が良い
0.639
いつも見ている
0.602
役柄が合ってる
0.778
ストーリー・脚本が良い
0.705
見ごたえがある
0.705
Fレイト
0.652 スリラー 視聴経験有
0.919 アクション 非常に満足した
0.756
テーマ・挿入歌が良い
0.717
非常に好き
0.697
人間関係が良い
0.665
人間が良く描かれている
0.652
タレントが良い
0.651
継続視聴
0.612
継続視聴割合
相関係数
0.982
0.969
0.894
0.780
0.760
0.754
0.719
0.702
0.668
0.637
0.635
0.631
0.604
0.934
0.907
0.844
0.828
0.813
0.788
0.764
0.763
0.723
0.722
0.718
0.617
0.612
0.602
0.600
0.600
※ F レイトとは有効対象者の中でその番組を 2、3 ヶ月の間に見たことのある人の割合である。
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論文
係数となっており,件数自体がほぼそれら番
した。この指標と視聴率や既存番組評価との
組評価・視聴質項目を直接表していると言え
関係性を見たところ,それら既存の評価内容
る。相関係数 0.7 以上は相関が強いと言える
とは明確な関連性がなく,この指標が既存の
ので,WEB 上のクチコミの数はジャンルに
指標では測れない尺度であることが分かった。
よって様々な番組評価を同時に内包している
そしてこの深さ(デプス)という価値尺度を
とも言える。
考慮に入れて広告・広報 PR 活動における媒
報道番組の WEB 上のクチコミはネガティ
体選定やプラニングをすることが,インター
ブな番組評価を含んでいる。しかしながら,
ネット時代における商品やサービス情報の浸
同じ視聴率でも放送後に WEB 上のクチコミ
透確率を高める上で重要であり,新たな展開
が起こらない番組と,番組評価がネガティブ
可能性があると考えている。
でも WEB 上のクチコミを起こすパワーがあ
今後の課題として,検索・研究対象とした
る番組を比べた場合では,視聴者を動かして
番組数や期間の拡大,データの拡充をして検
いるという点では後者に評価される余地があ
証作業を続けることで,より精緻化したテレ
ると考えられる。悪事も善事も含めて時事問
ビ番組における WEB 上のクチコミ現象を究
題等を取り上げる報道番組であるため,バラ
明することが出来ると考える。またテレビの
エティーやドラマなどのジャンルに比べてネ
同時拡散性により,一般商材やサービスより
ガティブな印象を持たれる可能性が高いのは
も同時体験者が多数存在するため,コメント
考慮されなくてはならない部分であろう。
数についても情報がより多く発せられている
であろうことは容易に想像がつく。それら大
笨――― おわりに
量データを駆使すればメディア・マーケティ
ング活動として更に発展の余地があると考え
本研究では,テレビ番組の WEB 上のクチ
られる。加えて WEB 上のクチコミ内容のデ
コミ現象を把握しそのメカニズムを可視化し
ータ解析,定性分析を行うことで番組評価指
ただけではなく,視聴率や番組評価と WEB
標としての精緻化をより一層進めたい。そし
上のクチコミ件数の関係における検討を行い,
てテレビだけに限らず,それ以外のメディア
WEB 上でクチコミさせるパワーを持つ番組,
媒体である新聞,雑誌,ラジオ等のメディア
視聴者同士がコミュニケーションしたいと思
評価として研究対象を拡張することで,更に
う番組抽出の可能性について言及し,WEB
新しい現象を追求することが出来るであろう。
上のクチコミデータを活用した番組評価の可
デジタル・プラットフォームから得られた
能性を示した。
消費者発のデータを広告・広報活動などへの
このデータの活用により,インターネット
応用する研究はまだ歴史が浅い。とりわけイ
時代における WEB 上で共振・共鳴しあうレ
ンターネット上での消費者間のコミュニケー
R
○
ゾネーター やその現象であるレゾネーショ
ションが今後益々活性化し変化していくこと
ンを把握することができ,またその現象の程
や,様々な SNS や Twitter のような CGM の
度を深さ(デプス)と定義し概念化・指標化
発展と CGI の増加を考慮に入れ,本研究で得
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総務省情報通信政策研究所(2009)『「情報流通インデ
ックス研究会」報告書』
総務省情報通信政策研究所(2008)『ブログの実態に
岩田 幸也(いわた ゆきなり)
2004 年慶應義塾大学総合政策学部卒業
2007 年同大学政策メディア研究科修士課程修了
同年株式会社電通入社
関西支社テレビ局,インタラクティブ・コミュニケ
ーション局,統合ソリューション局を経て
2011 年 3 月同社退社
現在外資系 IT 企業にて広告営業担当として勤務
坂井 政文(さかい まさふみ)
2003 年 University of Oregon School of Journalism
and Communication 卒業
2004 年株式会社電通入社
関西支社テレビ局,マーケティング局を経て
現職,ソリューション・デザイン室主務
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