議事録 - 文部科学省

科学技術・学術審議会
生命倫理・安全部会
特定胚等研究専門委員会
動物性集合胚の取扱いに関する作業部会(第 8 回)
議事録
1. 日時
平成 27 年 4 月 20 日(月曜日)9 時 58 分~11 時 58 分
2. 場所
文部科学省 17 階 研究振興局会議室
3. 出席者
(委 員)須田主査、高坂主査代理、阿久津委員、大西委員
小倉委員、窪田委員、古江-楠田委員
(事務局)御厩安全対策官、丸山室長補佐、神崎専門職
4. 議事
(1) 動物性集合胚の取扱いに関する作業部会の運営について
(2) 動物性集合胚の取扱いに係る科学的観点からの検討について
(3) その他
5. 配付資料
資料 1-1
動物性集合胚の取扱いに関する作業部会の設置について
資料 1-2
動物性集合胚の取扱いに関する作業部会の運営について(案)
資料 2-1
動物性集合胚の取扱いについて
資料 2-2
動物性集合胚の取扱いに係る科学的観点からの調査・検討事項の整理(案)
資料 2-3
動物性集合胚研究の進捗状況について(東京大学医科学研究所
正木英樹研
究員作成資料)
参考資料 1
科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会運営規則
参考資料 2
第 8 期科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会における委員会等の設置に
ついて
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6. 議事
【丸山室長補佐】
それでは、定刻となりましたので、ただいまから第 8 回動物性集合
胚の取扱いに関する作業部会を開催いたします。
本日は、お忙しい中、御出席いただきまして、ありがとうございます。
本日は、科学技術・学術審議会が第 8 期に入ってからの最初の会議となります。議事に
先立ちまして、本作業部会の委員の御紹介をさせていただきます。
本作業部会の主査、主査代理につきましては、引き続き、須田委員が主査に、高坂委員
が主査代理に、決定されております。
それでは、須田主査から、一言御挨拶をお願いいたします。
【須田主査】
おはようございます。座ったままで、挨拶させていただきます。
昨年に引き続きまして、この動物性集合胚の取扱いに関する作業部会の主査を務めさせ
ていただきます。かなり、1 年に及びますけど、議論をしてきて、ポイントがクリアには
なりつつあるのですけれども、更にもう数か月費やしまして、どういうところが問題であ
るか、どういうところは緩めていいのか、あるいは、どこを禁止したらいいのかというこ
とを、この数か月の間にはっきりできればなあというふうに思います。
皆さん、お忙しいところを、時間をおとりして申し訳ありませんけれども、よろしくお
付き合いください。
【丸山室長補佐】
続きまして、高坂主査代理から、一言御挨拶をお願いいたします。
【高坂主査代理】
前期に続きまして、主査代理を務めさせていただきます。今、須田
先生の方から数か月という話がございましたが、数か月で終わればいいなあと思っている
のですが、いずれにしましても、この期間、須田先生をしっかりサポートしていきたいと
思いますので、よろしくお願いいたします。
【丸山室長補佐】
続きまして、各委員の方々から順次御挨拶を、簡単な自己紹介を兼
ねてお願いできればと存じます。委員名簿は資料 1-1 にございますが、その順番に、まず、
阿久津委員、お願いいたします。
【阿久津委員】
前期から引き続きですけれども、成育医療研究センターの阿久津です。
言いたいことを言って、いろいろ御迷惑をお掛けしたかもしれないのですけれども、これ
がまとまるように、引き続き尽力していきたいと思います。よろしくお願いします。
【丸山室長補佐】
【大西委員】
大西委員、お願いいたします。
大西です。昨年度に引き続き、今回もまた委員をすることになりました。
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日本大学の生物資源科学部動物資源科学科、分かりやすく言えば、農学部畜産学科です。
どうぞよろしくお願いいたします。
【丸山室長補佐】
【小倉委員】
小倉委員、お願いいたします。
小倉です。私も昨年度に引き続きの委員になっております。私の所属す
るところは、理化学研究所のバイオリソースセンターで、つくばにあります支所になりま
す。専門は実験動物で、その視点からこちらの議論に加わらせていただいております。よ
ろしくお願いします。
【丸山室長補佐】
【窪田委員】
窪田委員、お願いいたします。
動物衛生研究所の窪田と言います。昨年度から引き続いて、委員をさせ
ていただきます。専門は、どっちかというと、クローンを作ったりするよりも、感染症の
方が専門でございますけど、どうぞよろしくお願いします。
【丸山室長補佐】
古江委員、お願いいたします。
【古江-楠田委員】
医薬基盤・健康・栄養研究所のヒト幹細胞応用開発室の古江と申
します。今回新しく、こちらに委員として参加させていただくことになりました。ヒトの
ES 細胞・iPS 細胞を用いた研究を行っております。よろしくお願いいたします。
【丸山室長補佐】
ありがとうございました。なお、相賀委員におかれましては、本日
御欠席でございます。
最後に、配付資料の確認をさせていただきます。議事次第の裏面に、配付資料一覧がご
ざいます。各資料の右肩に振ってある資料番号といたしまして、資料 1-1、1-2、2-1、
2-2、2-3、参考資料 1、2 でございます。さらに、机上資料として、ドッチファイルの参
考資料を準備してございます。不備、不足等がございましたら、事務局までお知らせくだ
さい。
それでは、本日の議事に入りたいと思います。また、審議の円滑な進行のため、頭撮り
はここまでとさせていただきます。
以後の進行は、須田主査にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【須田主査】
それでは、議題(1)に入りたいと思います。動物性集合胚の取扱いに関
する作業部会の運営についてです。
まず、事務局から説明をお願いいたします。
【丸山室長補佐】
参考資料 2、資料 1-1、資料 1-2 を用いて、御説明させていただき
ます。
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それでは、参考資料 2 を御覧ください。第 8 期の科学技術・学術審議会生命倫理・安全
部会が 3 月 24 日に開催されまして、特定胚等研究専門委員会を含めまして、三つの委員会
が設置されてございます。2 ポツにおきまして、「部会又は委員会は、特定の専門的事項
を機動的に調査するため、部会長又は主査の定めるところにより、作業部会を置くことが
できる」としております。
資料 1-1 を御覧ください。先ほどの規定に基づきまして、3 月 27 日に特定胚等研究専
門委員会主査決定といたしまして、動物性集合胚の取扱いに関する作業部会が設置されて
おります。具体的には、「総合科学技術会議生命倫理専門調査会「動物性集合胚を用いた
研究の取扱いについて」を踏まえ、動物性集合胚の取扱いに係る専門的事項について、科
学的観点から調査・検討を行うため、特定胚等研究専門委員会の下に「動物性集合胚の取
扱いに関する作業部会」を設置する」としております。
資料 1-2 を御覧ください。動物性集合胚の取扱いに関する作業部会の運営につきまし
て、案という形で準備をさせていただきました。動物性集合胚の取扱いに関する作業部会
の運営につきましては、1 ポツ、会議及び会議資料の公開についてにおきまして、「作業
部会の会議及び会議資料は、原則として公開する。ただし、審議の円滑な実施に影響が生
じるものとして、作業部会において非公開とすることが適当であると認める案件を調査審
議する場合は、非公開とする」としております。また、2 ポツ、議事録の公開についてに
おきまして、「作業部会においては、原則として会議の議事録を作成し、各委員の了解を
得た上でこれを公開する。ただし、1 のただし書の場合には、議事概要を公開する」とし
ております。これらにつきましては、第 7 期と同様の内容を定めております。
事務局からは、以上です。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
第 7 期と同様の内容なのですが、この運営の仕方について、御意見ございますでしょう
か。
もしなければ、異議なしとして、了承されたものとします。
それでは、資料 1-2 に基づいて、作業部会を運営してまいります。
次に、議題(2)に入りたいと思います。本日は、前回に引き続きまして、動物性集合胚
の取扱いに係る科学的観点からの検討です。
まずは、事務局から説明をお願いいたします。
【御厩安全対策官】
失礼します。資料 2-1 をお願いいたします。今回、期の初めとい
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うことですので、これまでの経緯を簡単に振り返ってみたいと思います。
動物性集合胚につきましては、「特定胚の取扱いに関する指針」という、クローン法に
基づく指針の中で、三つの要件を満たす場合に限って、文部科学大臣に届け出た上で作成
可能とされております。三つの要件とは、一つにはヒトに移植可能な臓器作成に関する基
礎研究を目的にすること、ということで、目的が限定されております。二つには動物性集
合胚を用いない研究では得ることのできない知見が得られること、三つには作成しようと
する者に技術的能力があるということでございます。作成した後は、原始線条が現れるま
で取り扱うことが可能だということですが、原始線条が現れなかったとしても、14 日でス
トップだということでございます。ただし、それまでの間であっても、ヒトや動物への胎
内移植は禁止ということでございます。
これまでこのような条件の下で届け出て実施されている研究は、1 件だけございます。
東京大学の中内教授の研究でございます。この研究の現状につきましては、ペーパーが出
てきておりますので、後ほど御説明させていただきますけれども、最近、5 年間の期間延
長をされまして、平成 32 年 3 月 31 日までの研究計画となっております。
このような中、
平成 25 年 8 月に総合科学技術会議の生命倫理専門調査会が見解をまとめ
られまして、一定程度緩和を検討すべきだということでございましたので、これを受けて、
この作業部会が設置され、検討が行われてきたということでございます。
その総合科学技術会議の見解でありますけれども、概要をその下にまとめております。
まず、研究の進展によって、指針上の作成目的、先ほど申し上げましたけれども、臓器作
成に関する基礎研究、これに限定している表現を見直すことが適当だとしております。ま
た、人の尊厳の保持などに影響を与えるおそれがないように、科学的合理性、社会的妥当
性に係る一定の要件を満たす場合には、胎内移植も認めることが適当だと。
その一定の要件なのですが、四つの点について、慎重な検討を求められております。そ
の 1 点目は、動物胚や移植先の動物の種類。特に霊長類の胚を使ったり、霊長類を移植先
に使うことについて、どう考えるかということでございます。2 点目は、禁止・制限すべ
き細胞の種類、作成目的とする臓器等の種類、これをどうするかということで、ここで特
に問題になりますのは、脳神経細胞や生殖細胞、これを認めるべきなのか、どうなのかと
いうこと。3 点目は、移植した胚を特定の臓器等に分化させる技術の精度ということで、
逆に言えば、目的としない組織や臓器に分化させない分化制御技術の精度、これはどの程
度あるのか。4 点目は、胎内に移植した後、どの程度の期間が研究に必要なのかと。これ
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ら 4 点について、慎重な検討が求められております。
さらに、そこから先の個体を生み出すことにつきましては、そうすることでしか得られ
ない知見を明らかにした上で、必要性を考えるべきだと。そして、意図しないものが生ま
れてしまう可能性もあるが、そのときにどうするのかということや、動物愛護の観点から
の配慮について、検討が求められているということでございます。
1 枚おめくりいただきまして、これまでの検討経緯を、時系列に並べております。この
作業部会で、ヒアリングを中心に、7 回やってまいりました。その上の特定胚等専門委員
会で 2 回、更にその上の生命倫理・安全部会で 2 回ということで、これまで 11 回、御議論
を頂いてきたところでございます。
最後、3 ページを御覧いただきたいと思います。1 点補足でございますけれども、動物性
集合胚の取扱いにつきましては、ES 細胞などの指針と違い、特定の法律に基づいた指針で
定められています。ですので、ELSI で言いますと L の問題も大きいのですが、立法者がど
のように法を運用してほしいと考えているのか、クローン法を作ったときの附帯決議の中
に書かれております。そこでは、政府に対して特に配慮すべきだということで、人や動物
の胎内に移植された場合に、人の尊厳の保持などに与える影響が交雑個体に準ずるものと
なるおそれがある限り、胎内への移植を行わないこと、と言われております。ここで言う
交雑個体というのは、人なのか、動物なのか、境目が曖昧なものですけれども、そういう
交雑個体に近いものが生まれるおそれがある限り、胎内移植は行わないように規則を作る
ことや、さらには、事前に十分な動物実験があることなども求められておりますので、今
後の検討の際に配慮することが必要であると考えております。
以上がこれまでの経緯でございます。論点がいろいろありますので、表の形に整理して
いこうということで、これまで進めてまいりました。それが、資料 2-2 の横長の資料でご
ざいます。これから ELSI の議論をしていく際に、まずサイエンスとしてどう考えるのか
ということで、整理をしたものでございます。七つの項目を立てておりますけれども、前
回の資料からの変更点として、項目立てを問いの形に直しております。七つの問いを立て
たということでございます。足りない問いがあれば御指摘いただければと思うのですが、
とりあえず目次のところに四角囲みで七つの問いを立てております。1 点目は、動物性集
合胚の作成目的として、何が考えられるのか。2 点目、集合胚に関する研究はどこまで進
んでいるのかという現状。3 点目は、集合胚により、どのような知見あるいは成果が得ら
れると期待されるのか。4 点目、動物性集合胚以外の方法で、目的の達成や知見の獲得は
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できないのか。5 点目は、集合胚の作成に用いる動物や、作成する臓器等の種類について、
どう考えるのか。制限を設けるべきなのか。6 点目は、目的とする臓器等以外への分化制
御技術の精度。7 点目は、ヒトや動物の安全確保等ということで、七つの項目を立ててお
ります。この後、表の区切りに従いまして、御議論をお願いできればと思っております。
冒頭の説明は、以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
それでは、今の御説明に対して、何か、質問その他ございますでしょうか。
私の方から一つお伺いしたいのは、先ほどの説明にありました、最後に附帯事項として
3 ページ目を説明されたのですが、これはどういう扱いになるのですか。法律に附帯する
決議という……。
【御厩安全対策官】
法律を国会で審議されている最後の局面で、こういう附帯決議が
付けられることがあります。この法律、これからできるのだけれども、こういうことに注
意をして政府は運用してほしいと、そういう立法者の思いを文章に残すことがよくありま
す。クローン法についても、最後、これが法案としてまとまるときに、文教・科学委員会
という委員会の方で、こういう点に留意をしてこれから運用してほしいという考え方が示
されております。このような立法者の願いを十分に踏まえながら検討していく必要がある
ということで、紹介させていただきました。
【須田主査】
わかりました。
それでは、次に、資料 2-2 の表に沿って、内容を確認していきたいと思います。前回も
1 から 3 までぐらいは議論をしたのですが、時間がなくなりましたので、本日は、4 ページ
の 4 の「対象とすることが想定される動物・臓器等」から議論し、最後の 7 まで終わった
段階で、また 1 に戻りたいと思います。
それでは、事務局から説明をお願いいたします。
【御厩安全対策官】
それでは、4 ページ、4 番目の論点ということで、「動物性集合胚
以外の手法で、上記目的の達成や知見の獲得はできないのか?」ということでございます。
ここでは、大きく分けて、目的別の分析と臓器別の分析を試みております。まず、目的別
の分析でございますけれども、最初の目的は、多能性幹細胞の分化能の検証でございます。
分化能の検証のところでは、その他の方法の例として、二つ、方法を挙げております。一
つは生体外で培養する方法、二つ目はテラトーマを形成する方法ということです。これら
と動物性集合胚を比較しているのが、その隣の欄、動物性集合胚の優劣の欄でございます。
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まず、生体外で培養する方法との比較でございますけれども、生体内における発生プロセ
スに沿って分化動態を検証することが期待できる点では、動物性集合胚が優位だと。また、
複雑な構造を持つ臓器等については、そもそも生体外で培養することは困難であり、この
点でも集合胚の方が優位ではないかと。一方で、分子基盤などを解析する上では、試験管
などの生体外で培養する方が、分析しやすく、優位であると。さらに、テラトーマとの比
較については、正常な器官が形成されるかどうかという点はテラトーマ試験で評価するこ
とは困難であるということで、動物性集合胚が優位であると記載しております。
次のページは、疾患モデル動物の作成という目的に関しての、その他の方法との比較で
ございます。ここでは、その他の方法として、五つ挙げております。1 点目は物理的な処
置、2 点目は化学的な処置、3 点目は遺伝子改変、こういった方法によって疾患モデル動物
を作成する方法を紹介しております。これらと動物性集合胚との比較でございますけれど
も、これら三つの方法は、技術的にも確立をして、取扱いも比較的容易だと。一方で、こ
れらによって生じる病態は、あくまで動物のものであると。ヒトの臓器や組織等において、
ヒトの疾患に近い病態を再現することが期待できる点で、集合胚の方が優位であるとして
おります。
次の 4 点目は、免疫不全動物を用いて疾患モデルを作成する方法ということで、ヒト化
マウスの例を挙げております。この方法は既に実用化されていて、取扱いも比較的容易だ
と。血液系(免疫系)をヒトのものに置き換えることが可能な点についても、こちらの手
法が優位ではないかと。一方で、動物性集合胚については、ブタを用いた実用化が構想さ
れておりブタを用いることによって、ヒトに近いサイズの臓器等における疾患モデルの作
成が期待できると。こういった点では動物性集合胚が優位ではないかとしております。し
かし、これは、後ほど大西先生から御意見を頂ければと思うのですが、ヒト化ブタという
ものを想定したときにどうなのか、免疫不全動物をブタで作った場合にどうなのかという
ことについて、後ほど御意見を頂ければと思っております。
5 点目は、疾患特異的 iPS、最近非常に力を入れているものでございますけれども、これ
により、パーキンソン病などの難病について疾患モデルが作成・分配されて、既に創薬研
究などに活用されております。また、試験管内などの体外環境下で容易に解析を行うこと
が可能な点や、動物実験の代替になるという点で、こちらの方が優位ではないかと。一方
で、立体的な臓器等のモデルを生体内に作成できることが期待される点、生体内における
細胞同士の相互作用を踏まえた解析が期待できる点では、集合胚の方が優位ではないかと
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しております。
6 ページを御覧いただきたいと思います。次の目的、ヒト臓器の作成目的につきまして、
その他の方法を、7 ページにかけて、1 ポツから 6 ポツまで、六つに分けて挙げております。
1 点目、動物にヒト細胞を導入する方法につきましては、例えば一つ目の丸のところで、
ブタの胎仔段階から複数回にわたってヒトの肝細胞を導入する研究などを例として挙げて
おります。これらについては、発生が進んだ段階でヒト細胞を導入することにより、目標
とする箇所以外にヒト細胞が分布することを制限できる可能性が高いということを、優位
な点として挙げております。一方で、複雑な構造を持つ臓器等を作成する上では、発生初
期の胚に導入する方が実現可能性が高いと考えられるという点を、動物性集合胚が優位な
点として挙げております。
2 点目の方法、ヒトの臓器等を利用する方法につきましては、例として、死体から膵臓
細胞を採取して糖尿病患者へ投与する臨床研究、あるいは、iPS 細胞等を分化誘導して作
成した膵臓細胞をカプセルに入れて移植をする研究などを挙げております。これらの方法
は、動物を用いずに済む点や、動物由来の感染症のリスクがないなどの点で優位であると
する一方で、臓器全体の形成が期待できるなどの点では、動物性集合胚の方が優位である
としております。
3 点目のヒト臓器原基を作成する方法につきましては、iPS 細胞と間葉系幹細胞等を混合
培養することで、肝臓原基を作成する研究を例として挙げております。こちらについては、
血管構造を持つ臓器作成が期待できる点、動物を用いずに済む点、感染症リスクなどの点
で優位であるとする一方で、生体内における発生プロセスを通じて正常な臓器作成が期待
できる点、あるいは培養コストの点などで、動物性集合胚が優位ではないかとしておりま
す。
次のページに参りまして、4 点目、動物の臓器等を利用する方法につきまして、例えば
四つ目の丸、動物臓器から作成したスキャホールドにヒトの細胞を充塡することで臓器を
作成する研究が行われております。こちらについては、臓器原基やスキャホールド等を利
用することにより、目標とする臓器等に限ってヒトの細胞を分布させることが可能な点で
優位であるとする一方で、生体内における発生プロセスを通じて正常な臓器作成が期待で
きる期待できる点などでは、動物性集合胚が優位であるとしております。
5 点目の動物の臓器等を移植する方法、こちらは異種移植と言われるものでございます。
これまでも一部の器官については、ブタの心臓弁などが実用化され、あるいはブタの臓器
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について免疫拒絶反応の制御に関する研究などが進められております。このような異種移
植は、不足する移植臓器を安定的に確保することが可能な点で優位であるとしつつ、一方
で、あくまで動物の臓器でありますので、免疫拒絶などの問題が懸念されるということで、
この点ではヒトの細胞から成る臓器の作成が期待できる集合胚の方が優位ではないかとし
ております。
最後、6 点目、立体造形技術等を用いる方法につきましては、バイオ 3D プリンターや細
胞シート積層技術などの例を挙げております。こういった立体造形技術が進歩すれば、ヒ
ト型の血管系を構築できる可能性もあり、さらには、動物を使わずに済むという点も含め
て、この方法が優位ではないかとする一方で、生体内における発生プロセスを通じた臓器
作成が期待できる点、あるいは、コスト面などからは集合胚の方が優位ではないかとして
おります。ただ、これについてはもう少し詳しく知る必要があるだろうということで、6
月 10 日、次の次の回に、バイオ 3D プリンターを用いた臓器作成の研究を行っておられる、
富山大学の中村先生からヒアリングをしたいと思っております。そのヒアリングの結果も
踏まえて、ここのところの表現は調整したいと考えております。
以上が、三つの目的別の分析でございます。次からが臓器別の分析になりますけれども、
続けましょうか。
【須田主査】
じゃあ、ここで一回切りましょうか。
【御厩安全対策官】
【須田主査】
分かりました。
どうもありがとうございました。
事務局の御努力によりましてだんだん分かりやすくはなっているのですけれども、三つ
ほどポイントがありまして、一つは、ややサイエンティフィクションみたいな世界がある
のですね。現段階ではできないことができるようになったらという、実現可能になったら
どうかという比較も含まれてきますので、そこは議論の一つ難しいところだと。2 番目に
は、これを資料として残すときに、できるだけ分かりやすくて、余り個々の細かいところ
に議論が行かないように、大まかなところで捉えたいというふうに思います。したがいま
して、3 番目は、文言が適当かどうか、これを載せるべきかどうかというのは、最後の最
後の段階で事務局を中心に整理していただく。ここではできるだけ活発に、こういうこと
を盛り込んだらどうかとか、これは将来どうなるかわからないから余り書かない方がいい
のではないかというような議論をしていただければ、助かります。
4 番目の「動物性集合胚以外の手法で、上記目的の達成や知見の獲得はできないのか?」
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という、この質問自体が、集合胚以外の手法というと本当にたくさんあるので、非常に議
論が難しいところではありますが、項目を一つずつ検討していきたいと思います。
それでは、まず最初に、4 ページ目ですね。目的別の分析のところなのですが、多能性
幹細胞の分化能の検証という点で見たらどうかということについて、御意見ございました
ら、お願いします。
【阿久津委員】
まず最初に、きょうの最初の室長の御説明と、あと須田主査の御意見
にもありました、附帯決議ですね。そこをもう一度改めて説明されると、基本的に私自身
は、法令の知識というか、専門から全然離れた人間なのですけれども、この附帯決議の重
要性というか、取扱いというのが現時点では重要かなと思うのですけれども、それはちょ
っと置いておいて、科学的な観点から意見を出したいと思います。
まず、分化能の検証ですけれども、これ自体で集合胚を移植していいかというと、とて
も慎重な考えが必要かなと思います。しかしながら、その後の研究、あるいは実施目的の
ためには、どうしてもここは通らなきゃいけないのかなという気はします。ですので、こ
のマル 1 の分化能の検証だけで本当に移植をしていいかというところはとても強い意義付
けにはいま一つ足りないのかなと思いますけれども、それ以降のことを適切にやるには、
一つここは重要なことなのかなとは思います。
【須田主査】
阿久津先生が言われたように、この目的というのが、分化能の検証は非
常に重要なのですが、そもそもはヒト臓器の作成ということが非常に強くうたわれていた
のですけれども、我々の昨年来の議論で、もう少しベーシックなものも入れてもいいので
はないかというので、分化能の検証とか、疾患モデル動物の作成というのが入ってきてい
るのですね。最終的にはヒト臓器の作成・移植というようなところに行くのだろうと思い
ますが、
動物性集合胚を進めていく一つのメリットとしては、
多能性幹細胞の分化を in vivo
で見ることができるというのはかなり大きいと思うので、この項目は入っていていいわけ
ですね。
【阿久津委員】
【高坂主査代理】
はい。
私も今までの議論で何回か申し上げたと思いますけれども、やはり
動物性集合胚の一番のメリットというのは、in vitro ではないですね。本当の生体の環境の
中で、例えば iPS なら iPS がどういう分化能を持っているか。それから、細胞移動ですね。
細胞の動態という言葉を僕は使ったと思うのですが、そういったディストリビューション
ですね。そういった意味で培養系では絶対できないことがこれを使えばできるということ
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なので、これはやはり基本的な技術として外すことはできないだろうと思うのですね。こ
の後の幾つかの疾患特異的な、例えば iPS の疾患モデル作成のことも含めて、このステッ
プがないと絶対に前へ進まないと思いますので、これは非常に大事な項目だろうと思いま
す。
【須田主査】
はい。それでは、もう一度、in vivo(生体内)で、細胞の移動を含めた、
細胞動態を観察するのに動物性集合胚は非常に勝っていることとか、以前、大西先生が言
われたと思うのですが、方法としては比較的簡単な方法だと。もしうまくいくのであれば、
ブラストシストにインジェクションするだけのことですから、あとは in vivo 任せというと
ころがあるのですが、方法としては簡単であるとか、そういうことも入っていていいので
はないかなと思います。優劣の優の方ですね。
【小倉委員】
もう一つ、優の一つのポイントとしては、短期間で勝負がつくというこ
とがある。胚移植してから比較的短い間に多能性の検証というのはできるので、臓器を作
るまでの必要はないという。
【須田主査】
多能性の分化ですからね。そのあたりを挙げていただけますでしょうか。
【御厩安全対策官】
【須田主査】
はい。
次に、5 ページですね。今度は、疾患モデル動物の作成ということに関
して、ほかの方法との優劣を記載してあるのですが、物理的処置で疾患モデルを作る、化
学的処置で作る、遺伝子改変で作る、いろんなやり方で疾患モデルは作れるのですけれど
も、こういう方法に対して集合胚はどうかということで議論をしていただけますでしょう
か。
疾患モデル動物を作ることは、動物性集合胚の場合、うまくいけば、実現すれば、でき
るのですけれども、これはある意味、次の段階になりますかね。正常の例えば膵臓とか肝
臓ができた後に、こちらの左側に書いてある、例えば遺伝子改変をして、そこでヒトの異
常な肝臓を持つブタを解析していくとか、そういうことになるのかなあと思うのですが。
【阿久津委員】
これについては、疾患モデルを作成するのもそうですけれども、その
過程も評価できるというのが、とても重要かなあと思っています。前期の最後の会議だっ
たと思いますけれども、より慎重に考えなければいけないという生殖細胞とか中枢神経の
方について、実は、動物性集合胚の利点といいますか、活用が、非常に慎重なのだけれど
も重要になってくる方法なのかなというのがあったと思うのですけれども、そこはやっぱ
り、現状、ほかでは得られないような知見というのが、これでは得られるような気がしま
- 12 -
す。
【高坂主査代理】
今、阿久津先生がおっしゃったのはすごく大事なことで、恐らく、
個体産生まで持っていかせるのか、あるいは、その後にどれだけ例えばマウス・ラットを
生かせていくのか、要するに期間がすごく大事になってくると思うのですね。場合によっ
ては胎生期だけでも済むこともあり得るけれども、初期発生から例えば脳なら脳の臓器が
出来上がってくる、例えばマウスで言えば胎生の 17~18 日ですか、そこでほぼ完成するわ
けですね。その間で見れば済むこともあるし、例えば ALS とか、神経変性疾患というのは、
遺伝子異常を必ず持っているのだけれども、それがある一定の期間を経ないと神経変性に
至らないという、そこは非常にまだ難しいところが残っています。なので、どこまでの個
体をずっとキープするのが妥当か分かりませんけれども、やはりこの手法は非常に大事な
手法の一つだろうと思います。
【須田主査】
今のコメントも大事だと思いますので、疾患モデル動物、キメラ胚で作
る場合、個体作成まで持っていってアダルトで観察していくのか、それとも胎仔のうちで
どういうふうに組織ができるかを見るかによっても違いますので、そこは二つのことを書
き込んでいただければいいのかなと思います。
【御厩安全対策官】
3 ページの、3 ポツのところに各段階別に得られる知見を整理して
おりますが、こちらの 5 ページの方にも、それにつながるようなことは書きたいと思いま
す。
【須田主査】
そうですね。
【窪田委員】
5 番目の疾患特異的 iPS 細胞を活用する方法のところの右のところにも
書かれていますけれど、治療法あるいは創薬等の研究活用ということはその上の方にも適
用できることで、疾患モデル動物ができれば、個体を作った後にそれを治療するという研
究にも進むかと思います。
【須田主査】
そうですね。
【大西委員】
じゃ、4 番の免疫不全のところを……。
【須田主査】
はい、ここですね。
【大西委員】
先ほど須田先生がおっしゃった現実とサイエンス・フィクションの境界
線が難しいところなので、まずは現実の面から言いますと、免疫不全マウスでは、既にヒ
ト由来の肝臓に 8 割以上置換させることが可能になっています。ここで述べられている疾
患モデルとして、ヒト型の肝臓を持つマウスにより生体の状態での利用が可能な状況にあ
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ります。他の動物種の場合、私どもでは、従来の相同組換えを利用した免疫不全ブタが既
にできています。最近はゲノム編集の技術が非常に進み、複数の研究室で免疫不全ブタが
でき始めています。ヒト型肝臓へ置換したブタの報告はまだありませんが、かなり現実味
を帯びていると思います。
一方、集合胚につきましては、やはり未知の領域だと思います。ただ、ここにも書かれ
ているとおり、免疫不全動物と集合胚のどちらが有利か、今の段階ではわかりません。し
たがって、集合胚の技術を用いて臓器をヒト化する研究は、当然、実施すべきであろうと
思います。
【須田主査】
ありがとうございました。
では、今度は 6 ページに行くのですが、いよいよヒト臓器の作成という視点で、そうい
う目標で、その他の方法と動物性集合胚の優劣を検討していく項目です。6 ページについ
て、コメントがありましたら、お願いします。
【高坂主査代理】
皆さん黙っているとおりで、ここが一番悩ましいところだろうと思
うのですね。須田先生もおっしゃったように、ここは非常に現実と夢との違いがあって、
我々は今、空想で物を言っていて、本当にそれが現実化されるかどうか分からない状況で
ディスカッションをしているのですね。だから、この先、指針の改正をやっていくような
ときに、どこまで踏み込んでこの部分にタッチしていけばいいかというのがすごく悩まし
いので、書いていらっしゃることは非常によくまとまっていると思うのですが、ただ、ヒ
トの臓器、そういったものを作成していって、将来それが移植に用いられるみたいなこと
が、本当にあり得るのかどうかということですね。そこは非常に我々悩んでいるところな
ので、どうしたものかなと思います。
【大西委員】
動物にヒト細胞を導入する方法は、これまでの委員会でも何回か紹介さ
れました。初期胚である胚盤胞にヒトの細胞を入れる方法、胎仔の段階で入れる方法、新
生仔の段階で入れる方法と、大きく三つあります。それぞれ、技術的なことも含めて、一
長一短があります。今のところ、胚盤胞に入れる方法は認められていませんが、以前から
述べている通り、技術的に難しい技術ではありません。胚盤胞への注入技術は、一番簡単
な方法だと思います。その代わり、注入した細胞がどこにどのようにディストリビュート
するか分かりませんので、その点に注意を払いつつ、動態解析を含めた胚盤胞への移植実
験を進めて良いと思います。移植した細胞の動態は、やはりこの手法を使わないと明らか
になりませんので、その意味では一つその手法として捉えてよいと思います。
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【須田主査】
このヒト臓器の作成というところは、事務局も書かれる上で相当苦労さ
れたと思うのですね。その他の方法はやはり、非常に各論的になるので、ここにも書かれ
ているように、ほとんど例示でしか出せませんよね。むしろ、今、大西先生が言われたよ
うに、これは動物性集合胚の倫理委員会なので、動物性集合胚の今実現可能な部分と将来
的にも難しそうな部分というのを挙げた方が分かりやすいかな。つまり、その他の方法と
比較しても、非常に書きにくかったのだろうなと思いますね。その他の方法は、動物にヒ
トの細胞を入れる方法とか、器官を移植する方法とか、そういうものがありますよとして、
各論はここでは、資料としては持っている必要あると思いますけれども、余り書かないで、
むしろ、動物性集合胚の現実、実現化できそうな部分と、将来にわたっても、10 年後も難
しそうだと思うところを書き分けた方がプラスになるかなと思うのですけど、いかがでし
ょうか。
【御厩安全対策官】
実は、資料 2-1 のところで簡単に御説明したのですが、今の指針
で三つの要件ということを挙げている、その 2 点目のところと関連するところがあります。
「動物性集合胚を用いない研究では得ることができない科学的知見が得られること」とい
う要件の下にやっておりますので、そのほかの手法ではできないということはある程度立
証する必要があると思います。そういう限界の中で、特に臓器の作成のところは、前書き
といいますか、注意書きが必要ではないかと思っていますので、工夫してみます。
【阿久津委員】
恐らく指針の、本当に難しかったと思うのですけれども、なぜかなあ
と考えると、そもそも指針の目的が、臓器の作成という、これだったのですね。先ほど高
坂先生もおっしゃったように、本当にこれは実現するものなのか、現実的にはどうなのだ
というところのことから、随分と話をしたと思うのです。ですので、臓器の作成というの
にフォーカスしてしまうというのは本当に難しいですし、そこまで行き着くまでに様々な
重要な観点、優劣の優の方のことっていろいろありますよねというのがこれまでだったと
思いますので、指針に出ている文言としてはこれが非常に大きな形としてあるのですけれ
ども、難しいなと思います。
【窪田委員】
おっしゃるように、これが目的の会議なので、ここがないということは
あり得ないのですけど、前に戻っていただいて、附帯決議のところで交雑種の話が出て、
交雑個体を作らないようにと書いてあるのですけど、これが、やってほしくないというか、
精神の部分ですよね。附帯決議にならざるを得なかったというのは、例えば、附則で規定
することもできないし、施行規則を作るわけにもいかないという、中身が分からないまま、
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やってほしくないものを作った、要するにそういう決議をしたということで、この中の何
が駄目で、何がいいかということの議論がこれから出てくる、重要じゃないかと、そうい
う話だと思います。
【御厩安全対策官】
何がどうなれば交雑個体に準じるものになるのかということは、
技術的なことのほかに、倫理的なことも十分踏まえる必要があるかと思いますので、それ
は今後、ELSI の議論をやっていく中で、人文系の先生方、そのほかの方々含めて、整理し
ていきたいと思っています。
【大西委員】
結局、胎仔あるいは新生仔に(ヒト由来)細胞を入れることは、この附帯
決議と関係なく以前より実施されているわけで、特定胚として初期胚にヒトの細胞を入れ
る点に問題は絞り込まれます。従って、胎仔と新生仔では得られない知見を明確にして、
集合胚の必要性の有無を決めることになるのだろうと思います。
【須田主査】
今の御意見に沿って言うと、やはり多能性の幹細胞を入れていくわけで
すので、初期の分化というのが、胎仔あるいは個体に入れるのと初期発生の観点で違うと
いうことが、一つあるように思います。
もう一つは、さっきの交雑個体を作りたくない、作ってはいけないという点から言うと、
多能性幹細胞をブラストシストに入れた後、どういうふうに分化していくかというのは、
生体任せというか、細胞任せのところがあって、そんなに正確に制御できるものではない
という、まだ我々の認識ですよね。そのときに、万一、脳神経系あるいは生殖細胞に行っ
た場合どうするのかとか、行く確率がどれぐらい減らせるのかとか、そういうことも大事
かなと思います。
【窪田委員】
大分先の議論になってしまうかもしれませんけれど、かなりコントロー
ルが難しい研究において例えばそういう申請が出たときに、その中身を見て、それは交雑
個体になる可能性が高いから駄目ということは技術的に判断できるのかどうかというよう
な点と、あと、実験室の中でできたものに対して、それは実際に交雑個体なのかどうかと
いうのは誰が検証するのかという、二つの問題点が残ってくると思います、将来的には。
【御厩安全対策官】
今、窪田先生がおっしゃっておられました点、6 ポツのところで
改めて論点を整理しておりますので、よろしくお願いします。
【須田主査】
それでは、また戻ることを想定しまして、4 番の残り、各論のところを
説明していただけますでしょうか。
【御厩安全対策官】
臓器の種類ごとにその他の方法と比較しています。
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まず、肝臓につきましては、二つ目の丸のところで、iPS と間葉系幹細胞等を混合して
培養することで肝臓原基を作成する研究などを例としております。これは横浜市大の谷口
先生らの研究でございます。比較しますと、動物性集合胚には、生体内における発生プロ
セスを通じて、肝臓全体を形成できる可能性があると。さらには、先ほど大西先生から技
術的に容易であるというお話もありましたけれど、肝臓を欠損する動物を作成できるので
あれば、その後の技術的取扱いは比較的容易であると。ただし、血管系をヒト型に置き換
えることは難しいということが、集合胚については繰り返し指摘をされてきております。
この血管系の構築に関しては、培養環境下で肝臓原基を作成・移植する研究において、サ
イズ的には小さいけれども、ヒトの血管系を持つ機能的な肝臓への成長が確認されている
ということを書いております。さらには、その次の丸で、肝臓については部分移植でも相
当な機能回復が期待できることを踏まえれば、体外培養による手法に優位性があるのでは
ないかとしております。
2 番目の膵臓/膵島につきましては、二つ目の丸のところで iPS 等を分化誘導して作成
した膵臓細胞をカプセルに入れて移植する研究などを例として挙げております。こちらに
ついては、動物実験において基礎となる技術(胚盤胞補完法)について基礎研究が蓄積さ
れてきたこと、さらには、これは先ほど来からと同じですけれども、2 点のメリットを集
合胚について挙げております。一方で、ヒト型への血管系の構築が難しいということが課
題としてあると。ただし、膵臓全体ではなくて、膵島であれば、血管系の問題がないとい
うことで、実現可能性があるのではないかと。つまり、動物性集合胚によれば、膵島を大
量に取得できる可能性があると。ただし、一方で、今後の分化誘導技術の進展によって、
効率的な培養の方も期待できるという形で整理をしております。
次の腎臓につきましては、マウスの腎臓原基と iPS から作成した中胚葉を混合して培養
する研究などを例として挙げております。動物性集合胚との比較につきましては、こちら
についても胚盤胞補完法について基礎研究が実施をされていると。さらには、先ほど来か
らの共通の二つのメリット、これを動物性集合胚に挙げております。一方で、こちらも血
管系の問題があると。特に腎臓は血管系が密に造成していて、集合胚では難しいのではな
いかということを書いております。
次の心臓につきましては、人工心臓ですとか、細胞シートが実用化・臨床応用されてい
ることなどを例として挙げております。心臓も、書き方は前の臓器と同じなのですが、血
管系の問題が大きいということで、現状においては、血管系を含めた心臓そのものを構築
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するというよりも、細胞シートや補助人工心臓などによって、特定の心臓の機能を補完・
代替していく方が現実的なのではないかということを書いております。
その次の肺のところも、同じようなことを書いております。
最後の消化管につきましては、前回までは項目がなかったのですけれども、特に小腸に
ついては、臓器移植カードにも記載がありますので、大腸も含めて消化管として欄を設け
ております。大腸内視鏡生検検体から腸管上皮幹細胞を分離して、オルガノイド形成によ
り培養、増幅する研究などをその他の方法の例として挙げております。こちらの方も、血
管系の構築についての問題点を書いております。
次のページを御覧いただきたいと思います。大きく分けて、神経系とその他について集
合胚と比較をしてみております。神経系については、移植目的でヒトの神経系を動物体内
で形成して移植することについては、高坂委員の方からもありましたけれども、その先、
安全面含めてどうなのかということや、倫理的・社会的な問題があるということを書いて
おります。分化誘導技術について更なる進展も見込まれるということでありますので、ま
ずはそちらの方が期待されるということを書いております。また、そのほかの骨や筋肉な
どにつきましては、これを欠損する動物の開発、あるいはヒト型への置き換えを課題とす
るとともに、分化誘導技術の進展が見込まれるということで、そちらの方が期待できるの
ではないかということで整理をしております。
以上が、臓器等別の分析でございます。なお、ブタの胎仔にヒトの間葉系幹細胞を入れ
るという方法で腎臓を作ろうとしておられる、慈恵医大の横尾先生からのヒアリングを次
回予定しております。
以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
こういうふうにまとめていただくと、結局対象になるのは、肝臓、膵臓、腎臓という、
いわゆる臓器というもので、最後のページにある骨とか筋肉、皮膚というのはそう対象に
なってこないと思うのですが、一応、網羅的に挙げていただきました。そういう意味では、
場合によれば、脳と生殖細胞を一緒に挙げて、そこに倫理的課題があるということを書い
てもいいのかもしれませんね。それは、なぜブタの中でヒトの脳ができるといけないのか
とか、生殖細胞がキメラになってはいけないのかという議論も含めて、書けばいいのかな
と思います。僕は、肝臓、膵臓、腎臓でも、大きな分け方とすれば、血管系が再確立でき
るか。これに対しても恐らく、免疫抑制剤を使っていけば何とかなるのではないかという
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反駁もあるような気がするのですね。
もう一つは、部分移植がかなりできるので、何もキメラ胚を使わなくてもというのは、
大きなポイントだと思います。
3 番目は、その他の方法の中で、例えば膵臓なんかだと、カプセルに入れてインシュリ
ンだけを産生していくことができるのではないかとか、そういうのが書いてありますけれ
ども、疾患克服ということで言えば、腎臓なんかも、透析技術が更に発展したら、人工腎
臓みたいな形で何とかなるのではないかとか、それはいかがなのでしょうか。その辺も恐
らく、最後は臨床的には大きな競争になると思うのですね。骨なんかはまさにそうで、今、
一生懸命、骨を作ろう、軟骨を作ろうとしていますけれども、ある意味、人工関節なんか
のように非常に素材の研究が進んでくると、何も細胞を使って作らなくてもいいのだとい
う意見も出てきますし、腎臓も、解毒ということだけで言うなら、透析技術をもっと上げ
たらどうかとか、そういうのもあると思うのですね。膵臓においても、インシュリン分泌
を、血糖をモニターしながら投与していくというのは今まさに行われていますので、膵臓
を作ってどうするのか、誰に入れるのかという話になってきますね。
小倉先生、生殖細胞をこういう方法で作る、それって精子と卵子があればいいので、別
に、精巣と卵巣を作る必要とか、そういうのはないから、余り問題にならない?
【小倉委員】
そうですね。ただ、精子も卵子も精巣・卵巣がないときちんとした形に
ならないので、精子・卵子を作ろうとすると、どうしても胎内というふうに、今の技術で
はなってしまう。将来的にはできるようになるかもしれないですけど。
【高坂主査代理】
この臓器別のところを拝見していて、要約すると、動物性集合胚で
作成して、それを使うということは、やはり否定的に書いていますよね。我々も恐らくそ
うだろうと思うのですよ、どっちかというとね。辛うじて、今やっておられるすい臓の方
が、ブタでうまくいけば、簡単にできるだろうと。これもそうなのだろうと思いますけれ
ども、今、須田先生は腎臓は割と簡単かもしれないとおっしゃったのだけれども、ほかの
臓器に関しては極めて難しいのだろうと思うのですね、胚盤胞補完法というのは。だから、
現時点ではやはり、本当に可能なものだけを少し推進していただいて、様子を見ると。ほ
かのものはさっきから言っているようにイマジネーションで物を言っているところがある
ので、今は、本当にこれが可能かどうかって、まだ分からない段階ですよね。常識で考え
ても、集合胚の中で、動物由来の血管とか、いろんなものが混じり合ったような状況でで
きている可能性があって、まだまだ安全性の面からも非常に問題だろうと思うのですね。
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そういう論調で見ているとそうなっているのですが、一方においては、先ほど疾患特異的
な臓器の作成といったところで、これは多分、マウス、ラット、あるいはマーモセットか
もしれませんが、主体になるのでしょうけれども、個体産生をさせてどこまでということ
になると、これはある一定の臓器はできているわけですよね。それは恐らく、最初から例
えばマウスの肝臓のあれをエリミネーションしているわけではないので、当然ミックスし
た状況になるのでしょうけれども、そういった個体の中での臓器作成をここで縛ってはい
かんと思うのですね。これはこれとしてヒトの臓器移植の応用ということで限界を我々は
しっかり議論して、先ほどの疾患特異的なモデルの作成のときにはやはり、ここまではや
っていいという、けじめをつけてやっていかないと、多分、全体の科学がストップしてし
まうのだろうなと思いました。
【古江-楠田委員】
今回初めて参加させていただいて、議論の進め方が少し分からな
いところもあって、ずっと拝聴させていただいていたのですけど、今、臓器別の動物性集
合胚の優劣について記載してある事項は、割合と再生医療を目的としたところの部分がメ
ーンに書いてあって、創薬だとか、あるいは安全性評価についてどういうふうに利用でき
るのかという観点からの記載がほとんどないので、この最終ゴールという部分を、どうい
うことを目指して実験・研究をやるのかということを考えると、そこまでやらなくてもこ
れは利用できる・利用できない、そこまでやらなくてもここで代替できるという部分がで
きて、もう少し整理されるのではないかなと思うのですけれども、そういう意味では、肝
臓とか、細胞レベルで分からない部分というのは多くありますし、薬剤の動態という部分
から考えて代謝がどうなるのかというのは in vivo でないと分からない部分というのは多
くありますので、そういったときに、in vitro でどのぐらいできるのか、in vivo でないと分
からないことはどうなのかという部分をもう少し考えると、本当に人間に役に立つサイエ
ンスをやっていただけるのか、やっていただけないのかという観点から、整理がもう少し
できるのではないかと思うのですが。
【須田主査】
極めて大事な視点で、この 4 の各論になったときに急に再生医療に傾い
ていますよね、確かにおっしゃるとおりで。そういう意味では、もう一回戻って、創薬だ
とか、あるいは副作用のチェックとか、そういうことにももちろん使えますので、その辺
も盛り込まれるといいのかなと思います。
【窪田委員】
これを何となくおか目八目で眺めると、これは人間の恒常性を維持した
いという欲望をずっと書いてあるわけですね。心臓が駄目になったらとか、膵臓が駄目に
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なったらというようなことを、元に戻りたいという気持ちで全体が書かれていて、それが
薬で治るのだったら薬を使うし、外のデバイスがあるのだったら、それを使うと。動物性
集合胚じゃなければできないのだったら、それを使いたいという、元に戻りたいという気
持ちが全部表れていると。その中で、脳を入れ替えると、元に戻るのではなくて、違うも
のになるので、これは駄目だろうと。そういう感じで整理ができるのではないかと、ちょ
っと思います。
【古江-楠田委員】
脳についても、アメリカやヨーロッパでもかつてやられていたと
思いますけど、ブタの胎仔の細胞を使ってパーキンソン病の患者さんが随分治っていらっ
しゃって、あるいはヒトの胎児の脳の治療もかなり現実的に行われていて、ただ、その場
合は細胞の種類をきちっと特定されているので、そういう意味では脳における繊維芽細胞
のようなものだけをきちんと代替してあげれば、それはそんなに倫理的には問題はないの
ではないかなと思うので、そこの部分はもう少し丁寧な議論が必要なのではないかと思い
ます。
【阿久津委員】
ここの項目、これまでの御指摘はそういう印象を受けるのですけれど
も、そもそも指針のときに臓器移植可能な臓器を作るというのが大目的になってしまって
いたので、そういうことでこういう観点から羅列をせざる得なかったのだと思うのですけ
れども、そういう意味で、例えば臓器移植可能な肝臓を一つ丸ごと作るということ自体は
とても、
現実的に科学的あるいは医学的に見てどうかなというところがあったと思います。
移植ということだけに限ってしまうと、血管が動物由来であるのならば、ほかのもの、例
えば主要な細胞だけ取ってきて、一応、臓器というものは作るということを目指すのです
けれども、移植は、丸ごとというよりかは、必要なものだけ取って移植ということも考え
られるのかなと。この観点から、目的を重視するという意味であれば、そういうことはあ
るとは思います。
【大西委員】
阿久津先生の意見とほとんど一緒なのですけれども、動物性集合胚の優
劣を、臓器移植用の臓器作製を前提に書かれていますが、へパトサイトやアイレットなど
のヒト由来細胞の大量供給源として捉えることもできます。臓器移植に偏った見方のみで
はなく、ヒト細胞の供給源となり得るメリットを書いても良いと思います。
【御厩安全対策官】
8 ページの一番下のところですか、今、大西先生がおっしゃって
おられたこと、膵臓/膵島については、五つ目の丸のところで書いております。
【大西委員】
肝臓とかもいいのではないかなと思います。
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【御厩安全対策官】
【小倉委員】
はい。
目的の整理のところですが、先ほど古江-楠田先生がおっしゃった臓器
移植以外の目的というのも、広い意味では疾患モデルへ、つまり、疾患とは限らないので
すが、いわゆるモデルと大くくりにすれば、そちらの方に入ってくると思います。一方、
臓器作出はあくまでも、その全体あるいは部分にしても、移植を目的にするというように
整理分けする方が、目的的には分かりやすいのではないかと思うのですが。
【須田主査】
そうですね。移植を目的と。分かりました。
それでは、まだ議論もあると思いますが、時間の関係で、次に 5 番目ですね。「動物性
集合胚の作成に用いる動物や、動物性集合胚により作成する臓器等の種類についてどう考
えるか?」。4 番と重なりますけれども、説明をお願いいたします。
【御厩安全対策官】
こちらでは、ホストとして用いる動物の例をまず挙げております。
特に霊長類を用いる必要性が倫理の問題としては大きくなってまいりますけれども、げっ
歯類とブタと霊長類の三つに大きく分けて、整理をしております。げっ歯類については、
実験動物として扱いやすいということの一方で、ヒトと在胎日数が大きく異なる、あるい
は臓器の大きさが違うという点で、難点になるということを書いております。ブタについ
ては、それとは逆に、ヒトと在胎日数や臓器の大きさが近い、卵子を容易に集められる、
ヒトに対する免疫原性が低いなどのメリットを挙げております。霊長類については、実験
動物として扱いにくく、卵子も集めにくい。特に移植臓器の作成のところでは、実験動物
として扱われている種について、臓器のサイズが小さいということで、これは適当ではな
いとしております。一方で、多能性幹細胞の分化能の検証のところでは、系統的にヒトと
近縁であるため、ヒトに近い発生過程で分化能を検証できるなどのメリットがあると。疾
患モデルの方で言えば、小児発達の初期段階における疾患など、疾患によってはヒトによ
り近い症状を示すことも考えられるといったメリットを挙げております。
次に、目的とする臓器等ということで、先ほど来から話が出ておりますが、脳神経細胞
ですとか生殖細胞を作成の対象として、最初からそれをターゲットにすることの必要性で
ございますけれども、分化能の検証につきましては、脳神経細胞や生殖細胞を含めて、あ
らゆる細胞に分化するかどうか、機能するかどうか、これを評価する必要はあると。さら
には、ヒトの生殖細胞等の出現や、その動態を発生段階ごとに解析することは科学的にも
重要であるということを書いております。ただし、それはどうしてもキメラを作らないと
駄目なのか、そのほかの方法でもおおよそのことは分かるのかということで、括弧書きに
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入れております。ここで一つ申し上げておかないといけないのは、幹細胞から分化誘導し
た生殖細胞については、受精させること自体が、このほかの指針で禁止されております。
現在、阿久津先生も委員で入っておられますけれども、総合科学技術・イノベーション会
議の方で、幹細胞から誘導した生殖細胞から胚を作ること、これをどうするのかという議
論がずっと続いておりますので、そこでの議論も踏まえ、そこからさらに、キメラまで作
る必要性がどうしてもあるのか、議論する必要があるということでございます。
疾患モデルのところにつきましては、難治性の疾患についてモデル動物の必要性が高い、
脳神経細胞や生殖細胞についても例外ではないということは書いておりますが、一方で、
動物性集合胚によらなければ、そういう疾患について有用なモデル動物は作成できないの
かどうか、そのほかの方法ではどうしても代替できないのかどうかという議論は必要かと
考えております。
最後、臓器の作成については、特に移植臓器としては、ドナーが不足している臓器につ
いて作成の必要性は高いとしつつも、これは先ほど来からの議論もそうなのですが、今後、
仮に移植医療を考えるとしても、脳神経細胞や生殖細胞については、ほかの手法を考えて
いく方が妥当ではないかということで、括弧書きに入れております。
以上、ここでは特に、霊長類を使うことがどうしても必要なのかということと、あと、
生殖細胞や脳神経細胞を、最初から狙って作るということについて、目的ごとにどうして
も必要なのかどうかということを御議論いただければと思います。
以上でございます。
【須田主査】
それでは、議論をお願いいたします。
【高坂主査代理】
別の質問なのですが、イヌは出てこなかったのですか、議論には。
【御厩安全対策官】
これまでの議論で出てきておりませんので枠は作っておりません
けれども、もし、イヌについて特に特徴的なことがあれば、欄を作りたいと思います。
【高坂主査代理】
私どものセンターに、筋ジス犬という非常に貴重な動物がいるので
すね。これはたまたま、アメリカで見つかった、スポンテニアスで見つかった、でかい犬
がいるじゃないですか。
【須田主査】
【高坂主査代理】
ビーグルですか。
ビーグルじゃなくて、もっとでかいやつが。ゴールデン・レトリバ
ーだ。あれで見つかったのですね。うちにその精子を持って帰ってきて、それこそビーグ
ルに乗せ換えて維持しているのですけれども、人間の症状に非常に近い犬が出ているので
- 23 -
すね。そういうものは、こういう発生工学的にモデル動物を作っていくみたいなものがあ
れば、使い道があるのかなと思って見ていたのですが、イヌはここになかったですね。私
も挙げるのを忘れていました。
【古江-楠田委員】
私は今までの背景が分からないのであれなのですけど、ここにヒ
ト臓器の作成と疾患モデル動物の作成とわざわざ項目が分けてあるのは、移植のために使
うヒト臓器の作成という項目としてあくまでリストアップされていて、本来はその目的の
この委員会で、でも、疾患モデル動物の作成というのはそこから波及して出てきたという
ことで、創薬とか安全性評価に使う場合の臓器の作成というのも全て、ここの疾患モデル
の作成というところに入ってくるという整理なのですか。
【高坂主査代理】
いや、入れた方が分かりやすいのではないかという御意見だったの
ですね。
【御厩安全対策官】
1 ページのところで、この三つの目的というのは具体的にはこう
いうことを指しているのだということを整理をさせていただいております。ヒト臓器の作
成については、そもそもヒトに移植可能な臓器の作成ということで、今の指針もそういう
目的を書いております。疾患モデルの方は、先ほど小倉先生がおっしゃったような整理を
ここで加えていけば、明確になると考えております。
【古江-楠田委員】
【小倉委員】
分かりました。ありがとうございます。
特に脳神経細胞、生殖細胞を対象とする必要性のところで、生殖細胞で
すが、今は御存じのように始原生殖細胞までは in vitro で作れますので、わざわざキメラを
作る必要はまずないと思います。そこはもう、これを対象からは外していいのではないか
と思います。実際に、もし精巣・卵巣と一緒に作りたい場合でも、体細胞と凝集させて、
体内に、どこでもいいのですが、入れることで精巣・卵巣が作れますので、キメラにする
必要はないかと思います。
【須田主査】
大事なポイントだと思うのですね。わざわざキメラ胚を作らなくても、
精子・卵子は今の技術である程度、混合培養とか生体でできると思うので、そういう点で
脳神経系も同じでいいですか。
【高坂主査代理】
いや、脳神経系は完全に違うと思いますね。これは、前に何回も申
し上げたように、神経細胞(ニューロン)の分化というのは、周囲の非常にたくさんの細
胞、そういった細胞とニッチ、構造にディペンドしているわけですね。なので、培養系で、
あるいは ex vivo で、ニューロンの分化とか、移動だとか、そういう機能の充実といったも
- 24 -
のは、検定できないのですね。やはりある程度自然な環境の中でその細胞がどう発達して
いるかということは、そういう環境を与えてやらないと、ニューロンというのは決して分
化、機能的なものはできてこないというところがあるので、少なくとも多能性幹細胞の分
化能、それから疾患モデル、こういったところまではしっかりとした神経系を認めていか
ないと、in vivo では絶対に研究できないと、私は思います。特に iPS ですね。疾患特異的
iPS を使ってモデル動物を作って、どういったところが病態のポイントであるか、あるい
はどういう治療法を開発するかということには、この研究は非常に大きな力になると思い
ますね。
【須田主査】
それでは、次に、6 番を説明していただけますか。
【御厩安全対策官】
6 番は、分化制御技術でございます。これは、先ほどの総合科学
技術会議の見解でも、慎重に検討すべきと言われていた項目の一つです。ここでは、体外、
体内に分けて、また、分化制御技術そのものと、分化制御できたのかどうかということを
検証する技術に分けて整理をしております。
まず、体外における分化制御技術のところでありますけれども、現在は、高い分化能を
持つ幹細胞の作成や、目的細胞への分化誘導を目指した研究が進められている段階であっ
て、目的細胞以外への分化状況の解析など、分化制御技術に関する研究は十分に行われて
いない。様々な臓器の形成に寄与するほど高い分化能を持つ細胞は、目的外の細胞に分化
しないように制御することも困難であると。導入が発生の初期であるほど、全身に分布す
る可能性が高くなると書いております。検証技術については、その細胞で特徴的に発現す
る遺伝子の状態を調べることで確認することが可能であるということで、肝臓、膵臓など
の例を挙げております。
次に、体内での分化制御につきましては、体外培養時よりも更に困難となると。また、
事例として、体外で神経幹細胞まで分化させたものを疾患モデル動物へ移植した例はある
けれども、目的部位以外への分布は調べられていない、あるいは、マウスの体内に iPS を
移植して造血幹細胞を作成した例があるけれども、こちらでも目的外への分化は調べられ
ていないと。さらに、動物キメラ個体について、導入した細胞が欠損した臓器を補完した
けれども、ほかの組織への分布も見られたと、そういう研究の例を挙げております。その
下の括弧書きのところは、御議論を頂いた上で記載を考えないといけないと思っておりま
して、脳神経細胞や生殖細胞など目的外の細胞等に分化した場合に、それが消滅するよう
な仕掛けを最初から施しておく、あるいは特定の細胞に分化しないように導入する幹細胞
- 25 -
を操作しておく、こういうことが言われることがあるのですけれども、それが可能だとい
うことであれば、そう書きたいと思っております。
検証技術の方は、例えば三つ目の丸のところで、導入する細胞に蛍光タンパク等を発現
させるなどの目印を付与することで、生体内においても検証することが可能だと。外見に
関わる変化、これは胎仔期においても観察することが可能だと。生殖細胞への分化状況も
検証可能なのだけれども、胎仔の段階ではまだ成熟し切っていないので、実際に機能する
ものが生まれたのかどうかということを検証することは不可能だと。さらに、導入したヒ
ト細胞からヒトの思考が生み出されたのかどうか、検証することは不可能だということを
書いております。
御説明は、以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
分化制御の項目が 6 にあるのですけれども、非常に大事なポイントで、脳神経細胞や生
殖細胞など目的外へ分化した場合、多分、自殺遺伝子を入れておくとか、そういうことで
方法としては可能だと思うのですね。問題は、さっきの附帯決議にもありました交雑個体
を作らないというのが大事なことだとすると、さっき議論がありましたように、どこまで
を交雑個体と言うか。例えばイスラエルの例なんかでも、本当にごくわずかにヒトの細胞
が認められるという、0.1%以下でも交雑個体と言うのかどうかという、そのあたりはどう
なのでしょうか。
【御厩安全対策官】
これはまさにこの後のステップで、人文系の方なども交えた中で
整理をしていくことを考えております。「マイクロキメラ」のようなものまでクローン法
の趣旨から認められない交雑個体と言えるのか、どの要素がどの程度まで影響されれば交
雑個体とされるのか、そこは、人文系の知恵なども踏まえて整理をしていかないといけま
せんが、まずはサイエンスとして、先行研究における状況や見通しなどを誠実に整理して
御説明していく必要があると思っております。
【須田主査】
ほかにございますでしょうか。
もしなければ、7 番の方をお願いいたします。
【御厩安全対策官】
7 番のところで、
「ヒトや動物の安全確保等をどのように図るか?」
ということで、三つに分けて整理しております。移植先の動物、産生された個体、実験者
等ということでございます。まず、移植先の動物(仮親)でございますけれども、仮親へ
の影響については、ほかの異種動物間のキメラ胚と変わらないのではないかということで、
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現行の動物実験に関する法令・基準等に従っていくことが必要だと、整理しております。
生み出された個体についても、その個体の安全面については、動物間のキメラ個体と変わ
らないと考えられるとしております。一方で、実験者等につきましては、この委員会でも
窪田先生などから御指摘があったところでございますけれども、感染症の発生可能性とい
うことで、レトロウイルスの問題等が挙がっておりました。実験者及び周辺環境の安全等
に影響を及ぼすことが考えられるので、感染症予防法、家畜伝染病予防法などの法令に従
って、適切に安全管理を行うことが必要だとしております。
そのほか、下に※を二つ付けております。最初の※は、移植臓器を作ったときの患者の
安全確保についてどうするのかということですが、それが十分議論できるだけの基礎がま
だありませんので、これは別途慎重な検討が必要だとしております。さらに、意図しない
個体が産生された場合の対応ということについては、倫理的な問題も含むので、これはこ
の後の倫理の議論の中で検討が必要だとしております。
以上でございます。
【須田主査】
どうもありがとうございました。
かなり先の問題もありますので、将来的には、予測しないことが起きたとき、どういう
届出制度にしておくかとか、そういうことが重要になると思います。
それでは、ここで問い掛けは全部で七つあるのですが、1、2、3 はきょう話してないの
で、そこを議論する必要がありますので、そこをもう一度、事務局の方から説明していた
だき、さらに、どこまで進んでいるかということで、資料 2-3 も併せて説明していただけ
ますでしょうか。
【御厩安全対策官】
分かりました。それでは、まず、1 ポツから 3 ポツまで、御説明
させていただきたいと思います。
1 ページのところで、「動物性集合胚の作成目的として、何が考えられるか?」という
ことでございます。実は、現在認められておりますのがヒト臓器の作成ということで、先
ほど古江-楠田先生からの御指摘もありましたけれども、ここで意味しておりますのは、
ヒトに移植することが可能な臓器を確保するということで、「遺伝子改変技術等によって
当該臓器を作る能力を欠損させた動物の胚にヒト多能性幹細胞を導入した動物性集合胚を
発生させること等」ということで、そのほかの手法もあるかもしれませんので、胚盤胞補
完法以外の方法を「等」というふうに呼んでおりますけれども、そうすることによってヒ
トの細胞から成る移植用臓器を作成するということでございます。
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次に、最初に挙げております分化能の検証、ここが一番基礎になって、その先へ進むに
しても重要だということで阿久津先生からも御意見がありました。その際、動態の検証も
重要だという御意見もありましたので、「動態」という言葉を入れております。
疾患モデルの作成のところは、先ほどの古江-楠田先生などのお話もありますので、少
し記載を加えることが必要だと考えておりますが、「新たな治療法の開発」ということは
既に書いております。患者由来の、又は変異を誘導した iPS 細胞等を動物の胚に導入した
集合胚を発生させたり、発生の過程の中で外的刺激を加えたりすることによって、疾患モ
デル動物を作成するということです。
次に、2 ページを御覧ください。「集合胚に関する研究は、どこまで進んでいるか?」
ということで、ここではファクトのみを記載しております。ほかにも記載すべき研究成果
がありましたら御指摘いただければと思いますが、特に、ヒト臓器の作成欄のマウス胚-
ヒト細胞(日本)、これが中内先生のグループの研究であります。現在の状況について資
料を頂いていますので、それを神崎の方から説明いたします。
【神崎専門職】
それでは、資料 2-3 を御覧ください。「動物性集合胚研究の進捗状況
について」ということで、3 月 25 日に正木先生よりペーパーを頂いております。
今回の報告の構成につきまして、説明いたします。1 ポツ、動物性集合胚のホスト胚の
選定、2 ポツ、動物性集合胚の作成法及び観察法、3 ポツの結果として、3.1、評価基準の
決定、2 ページ目の下の方で、3.2、通常のヒト iPS 細胞のキメラ形成実験、3 ページ目の
真ん中に、3.3、ナイーブ型ヒト iPS 細胞のキメラ形成実験という構成になっております。
それでは、1 から順に説明いたします。まず、ホスト胚の選定として、動物胚が培養下
で発生可能であるかが、検証されております。その結果、マウス胚は、培養下で培養皿に
接着可能、原腸陥入期まで観察できたが、ブタ胚とマーモット胚は接着できなかったこと
から、マウス胚をホストに決定しております。また、マウス胚を 7 日間培養すると原腸陥
入期まで発生する胚が現れたことから、培養期間を 7 日までとされております。
続いて、2 の方法ですが、マウスの桑実胚又は胚盤胞にあらかじめ赤で蛍光標識したヒ
ト iPS 細胞を 10 個移植して、動物性集合胚を作成されております。
続きまして、結果ですが、3.1、評価基準の決定ということで、マウスの胚に赤く蛍光標
識したマウスの細胞を移植しております。図 1 を御覧ください。写真の上段は、キメラ形
成能のあるナイーブ型のマウス胚性幹細胞、下段はキメラ形成能のないプライム型のエピ
ブラスト幹細胞を移植した結果ですが、将来胚体を形成する領域に移植した細胞が寄与し
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ていれば、キメラ個体を形成できることが分かったという結果だそうです。また、キメラ
個体の生存率を 1 日ごとにカウントしたところ、接着前はどちらの細胞も生存しているの
に対し、接着直後にキメラ形成能のないエピブラストの方は消失してしまうことが分かっ
た。これらの結果を基に、1 日ごとに動物性集合胚の生存数をカウントすることにした。
続いて、3.2、通常のヒト iPS 細胞のキメラ形成実験ですが、ヒト iPS 細胞による動物性
集合胚を作成した結果です。図 2 にありますように、ヒト iPS 細胞由来細胞、赤い細胞は
将来胚を形成する領域に寄与することができず、マウス胚との間にはキメラ形成できない
ことが示唆されました。図 2H で接着後には移植細胞がほとんど生存していないことから
も、この結果が裏付けられたとされております。
最後に、3.3、ナイーブ型ヒト iPS 細胞のキメラ形成実験ですが、こちらは、キメラ形成
能があると予想されるナイーブ型 iPS 細胞として 2014 年に『Cell』で報告されたリセット
セルを用いて、キメラ形成を評価されております。図 3 を御覧ください。動物性集合胚を
作成して培養したところ、図 3E の移植された細胞は接着前に高い生存率を示したものの、
図 3F と G で一部生存した細胞は形態形成異常を示し、図 3H で、接着後には全て消失する
か、マウス胚とは独立して異所的な構造体を形成したという結果になっております。通常
のヒト iPS 細胞と同様の挙動を示したことから、リセットセルもマウス胚との間にキメラ
形成できないことが示唆されました。
現在の状況として、引き続きほかの方法でヒトナイーブ型細胞の樹立を行っているそう
ですが、マウス胚との間にキメラ形成できる可能性を示した株は存在しない。リセットセ
ルは、ヒト着床前胚によく似た遺伝子発現プロファイルを示すことが分かっているが、そ
のリセットセルでも通常のヒト iPS 細胞と同様の挙動を示すということは、マウス胚を用
いて培養下で評価するという手法の限界を指し示しているのかもしれない。すなわち、キ
メラ形成できないのは移植した多能性幹細胞の性質によるのか、それともホスト胚がヒト
と進化的にかけ離れているマウス胚であることが原因なのか、ほかのホスト胚が選択でき
ない以上は結論が出せないということである、という報告になっております。
以上です。
【御厩安全対策官】
【須田主査】
続きまして……。
せっかくですから、2 番までで切りまして、特に、神崎さんが説明して
いただきました資料 2-3 について、コメントを頂けますでしょうか。小倉先生、いかがで
すか。
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【小倉委員】
これは大体予想どおりの結果だろうと思います。一番大事なポイントは
4 ページの最後のところの「キメラ形成できないのは」以下の 3 行なのですが、マウスを
in vitro で使っている限りはこの結論が出ないという、そこがポイントになってくるかなあ
と思います。この実験系の限界です。
【須田主査】
ただ、もう一つ課題としてあるのは、ここではリセット細胞と呼ばれて
いますが、それがナイーブ型のヒトの iPS 細胞・ES 細胞を作るということに極めて重要な
のですけれども、実際にこの高島さんの論文なんかが昨年出たところではありますが、必
ずしもこの方法で全てうまくいくというわけではないみたいですね。だから、その辺も課
題の一つで、まだ残っていると思います。
【阿久津委員】
そもそもの内容とは違うのですけれども、ただ、これは資料として提
出されておりますので、ここで着床という言葉は適切じゃないですね、移植してないので。
これは誤解されると思います。ただ単純にアウトグロースという、いわゆる細胞皿にぽん
と乗せて育てた in vitro の実験なので、「着床」はやめた方がいいと思います。
【須田主査】
誤解されやすいですよね。先生、リセットの iPS 細胞って、どうなので
すかね。
【阿久津委員】
私たち自身では検討してないのですが、ただ、ほかでも同じだと思う
のですけれども、かなり条件が複雑で、いろんな阻害剤だったり、サイトカインに使って
おりますので、ヒトの場合、評価系が幾つかの遺伝子の発現パターンということになって
くると、なかなか難しいかなあと。同等のものを作るというのは難しいですし、細胞ごと
でそれはちょっと変わってくると言われちゃうと、なかなかこういった研究は……。
【須田主査】
【阿久津委員】
【須田主査】
難しいですね。
ええ。
ナイーブ型ということに関しましては、最初に本多先生にレクチャーし
てもらいましたけれども、彼なんかはウサギでそういうことをやり始めた。ヒトでは検証
のしようもないというところもありますね。
それでは、最後に残りました 3 番の、どんな科学的知見が得られるのかということにつ
いて、御説明をお願いします。
【御厩安全対策官】
資料の 3 ページを御覧ください。目的別、段階別に、整理をして
おります。
まず、胎外培養でございます。原始線条出現前と原始線条出現以降ということで、分け
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ております。原始線条出現前につきましては、発生の初期段階における多能性幹細胞の分
化能及び動態等について、新たな知見が得られる可能性があるとしております。これは、
疾患モデルの作成、ヒト臓器の作成でも同じようなことを書いてありますけれども、この
段階で分かるのはこういうことであろうと。次に、胎外培養で原始線条出現以降というこ
とで、そこの欄は共通にしてありますけれども、現在の技術では、マウス以外で、胎外で
原始線条が現れるまで胚を培養することは困難だと。マウスについても、正常な発生を維
持したまま培養することは困難だと。ただし、今後、培養期間を延ばすことが可能になれ
ば、新たな知見が得られる可能性もあるとしております。
次に、胎内移植をした場合でございますけれども、胎内移植した場合、原始線条出現前
にどういう知見が得られるのか、多能性幹細胞の分化能の検証のところで言いますと、発
生の初期段階における分化能及び動態について、生体内における細胞同士の相互作用や母
体から受ける因子の影響なども踏まえた観点から、新たな知見が得られる可能性があると
しております。この「母体から受ける因子の影響」というのは、事前に窪田先生から、追
記してはどうかとコメントを頂いた内容でございます。次に、原始線条出現以降(受精後
15 日以降)のところでありますけれども、こちらにつきましては、臓器や組織などの形成
が進んでまいりますので、その形成状況に応じて知見が得られる可能性があるということ
を書いております。特に疾患モデルのところにつきましては、ヒトの細胞から成る臓器・
組織を持つ動物胎仔を用いることによって、胎児期の疾患の発症や治癒のメカニズム等に
ついて、新たな知見が得られる可能性があると。さらには、非臨床試験において、毒性等
に関し、よりヒトに近いデータが得られる可能性があると。ここでは、このように毒性等
も含めて書いております。
さらに、個体発生まで進めればどうなるのかということでありますけれども、個体産生
後に臓器・組織が形成されていく、その過程に応じて新たな知見が得られる可能性がある
こと。そして、特に疾患モデル動物や移植臓器のところでは、これらが実際に得られる可
能性があること。さらには、臓器の作成まで行かなくても、胎外で培養に時間を要する組
織・細胞を大量に取得できる可能性があるということを書いております。
以上でございます。
【須田主査】
それでは、3 番を中心に、1、2、3 に関して、御意見ございますでしょう
か。
【阿久津委員】
この資料の 1、2、3 プラス、資料 2-3 についてもそうなのですけれど
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も、マウスでなかなか in vitro で思っていたような結果が出ていないというのもあります
が、マウスのこの研究がどれぐらいやられているか分からないのですけれども、ただ、例
えばマウスで言うと、免疫不全の状態、どの程度のものを使っているのか、いろんな程度
によってもしかしたら違うかもしれませんし、もちろん細胞、ドナーの方でもそうですけ
れども、マウスでは in vitro ですごく検証できると思うのですが、一方、ステップアップし
て例えばブタで in vitro で検証できるかというと、まだそんなできない気はするのですけれ
ども、そうすると、in vitro の研究が段階的に行くというのはなかなか難しいのかなと思う
のですね。なので、in vitro の研究というのも大事なのですけれども、使う動物によっては
アプローチの仕方がかなり異なってくるのかなとは思います。
【大西委員】
ブタでも、マウスと同じ、脱出胚盤胞の段階まで培養可能です。着床前
という表現がありましたが、ブタの場合、脱出胚盤胞が着床するまでには数日間を要し、
この間の体外培養は不可能です。そのため、胚移植により in vivo で観察しないと、着床前
の胚の詳細を明らかにすることはできません。この点はマウスでも同じで、脱出胚盤胞以
降のステージ関しては、胚移植が不可欠になります。
さらにキメラで難しい点は、例え同種間でキメラを作っても、必ずいつも同じようなキメ
ラが作れるわけではないことです。そのため、例数を増やして解析する必要が生じます。
阿久津先生へのお答えとしては、ブタにおいても、脱出胚盤胞の段階まではマウスと同じ
検証が可能ということです。
【須田主査】
ほかに、全体としてよろしいでしょうか。
古江先生、何か、新しい視点で、こういうところの議論が足りないとか、よく分からな
いとかいうのがありましたら。
【古江-楠田委員】
ありがとうございます。そういう意味では、今の 3 の「どのよう
な科学的知見等が得られると期待されるか?」という部分が非常に大事なのかなというふ
うに、お伺いしました。多分、一般の国民の方は、この文書を読んでも、何も理解できな
いと思いますね。例えば、疾患モデル動物の作成がされると、どうなるのか。今、自分が
持っている病気の薬ができるかもしれない、あるいは飲んで副作用で死んでしまうという
患者さんが少しでも減るのではないかというような、もう少し具体的な、国民の皆さんの
生活に直結する部分を最初に少し整理をしておいた方が、理解されやすい議論に発展でき
るのかなあと。
私、イギリスに少しの間いたときに、先ほど先生にもちょっと御説明したのですけど、
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Science WISE という文部省のプログラムがあって、科学をより国民の人たちにきちんと理
解してもらおうという教育プログラムを組んで、特に ES 細胞の研究がイギリスは盛んで
すので、ES 細胞を使うと、どんな病気が治るのか、あるいは、どういう利用法ができるの
か、薬の開発ができるのか、というようなことをきちんと説明して、本当に広く国民の皆
さんによく理解されていました。あるとき研究所からタクシーに乗ったときに、「おまえ
はあそこから出てきただろう。おまえは ES の研究をしているのだな。タクシーに代を安
くしてやる。俺、心臓がちょっと悪くて、これはもしかしたら ES の研究で治るかもしれ
ないのだよな。頑張れよ」って、言ってくださったのですね。日本の状況とかなり違うと
いうのに、非常にびっくりして。サイエンスがきちんと理解されているということが、研
究を進める上では大事なのだなあと。研究者がそういったことをどうやって説明するのか
というノウハウをやるようなレクチャーもポスドクを対象に 1 か月に 1 回ぐらいのペース
で開かれていましたし、あと、集中してコアの都市でやったり、あるいは各大学でやった
りというようなこともありましたし、あるいは、政府の方もきちっとお金を取って、BBC
でプログラムを作ってアピールしたり。そういった教育プログラムを理科に入れていただ
くとかっていうことをしていって、私たち研究者は、単に自分たちの興味だけで研究をし
ているわけではなくて、国民の生活がより改善されて、困っている人たちを助ける気持ち
で研究をしているのだということをきちんと理解していただくことが必要なのじゃないか
と思います。そういう意味では、そういう観点に基づいた部分をもう少し入れていただく
方が、皆様方に分かっていただけるような議論が価値のある議論として残っていくのでは
ないかというふうに思います。
【須田主査】
どうもありがとうございます。どういう科学的知見が得られるかって 3
番にありますが、もっと言えば、こういう科学的知見が一般社会にどういうふうに還元さ
れるかという、その視点を含めると、確かにもう少し分かりやすくしていかないと、僕ら
が実際に議論をしていても難しいので書き切れないところがあるのですが、最初に申しま
したように、少し分かりやすくしていかないと、パブコメの課題にも大きなギャップを持
ったまま進むという感じもありますね。
それでは、時間になっていますので、最後に、対策官の方から、今後の進め方について、
説明をお願いいたします。
【御厩安全対策官】
既に日程を御案内させていただいているかと思うのですが、この
後、2 回、ヒアリングの日程を組ませていただいております。5 月 22 日金曜日の 10 時から
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12 時、慈恵医大の横尾先生からのヒアリングを予定しております。その次は、6 月 10 日水
曜日の 13 時 30 分から 15 時 30 分、富山大学の中村先生、3D バイオプリンターの研究をさ
れておりますけれども、ヒアリングを予定しております。それ以降は、きょうはペーパー
だけ出てきましたけれども、中内先生のところ、あるいは、必要があれば長嶋先生へのヒ
アリングをさせていただいた段階で、サイエンスに絞った議論をまとめたいと思っており
ます。その後、人文系の先生方などを含めて、先ほどの広報、見せ方の問題もあると思う
のですけれども、結論に向けて案を練り上げていきたいと思っております。よろしくお願
いします。
【須田主査】
コメントですけど、人文系の先生にも出ていただき、場合によれば、科
学メディアの方とか、サイエンティックコミュニケーションをやられている方、この前の
再生医療学会でも、阪大の加藤先生が iPS に関わる倫理問題をされていたのですけど、や
はりそういう視点からも、何しろもう少し分かりやすくしなきゃいけないなと思っていま
すので、よろしくお願いいたします。
ほかに何か、進め方で議論ありますでしょうか。
もしなければ、きょうはどうもありがとうございました。
―― 了 ――
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