胃酸分泌抑制薬(特に PPI ) 今日のお話

2016/10/24
今日のお話
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PPI と
H2ブロッカーの特徴
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何のために処方していますか?

胃酸分泌抑制薬(特にPPI)の落とし穴(*_*;)

ストレスや敗血症による潰瘍予防の適正使用

NSTの立場から
胃酸分泌抑制薬(特に PPI )
について
薬剤部 医薬品情報課
松本早苗
2016年10月21日 救急部カンファレンス
PPI と H2ブロッカーの比較
PPI と H2ブロッカーの特徴
胃潰瘍、
(吻合部潰瘍)
十二指腸潰瘍
逆流性食道炎
非びらん性胃
食道逆流症
タケキャブ
ネキシウム
ラベプラゾール
ランソプラゾール
8週間
8週間
8週間
8週間
6週間
4週間
6週間
6週間
8週間
6週間
効果不十分の
場合
8週間
8週間
効果不十分の
場合
さらに8週間
8週間
4週間
4週間
2週間を目安に
効果を確認
何のために処方していますか?
治療に当たっては経過を十分に観察し、病状に応じ治療上必要最小
限の使用にとどめる事
逆流性食道炎の維持療法については、再発・再燃を繰り返す患者に
対し投与することとし、本来維持療法の必要のない患者に投与するこ
とのないよう留意すること。
本剤の長期投与にあたっては、定期的に内視鏡検査を実施するなど
観察を十分に行うこと
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2016/10/24
ちょっと待った!
何のために処方していますか?
<PPI(内用)の添付文書より>
胃・十二指腸・吻合部潰瘍、逆流性食道炎、
Zollinger-Ellison症候群、非びらん性胃食道逆流症
 LAD投与時における胃・十二指腸潰瘍の再発抑制
 NSAIDs投与時における胃・十二指腸潰瘍の再発抑制
 H.pyloriの除菌の補助


反射的に処方していませんか?

本当に全例に必要でしょうか?
それ以外に・・・・・・
 ストレス潰瘍の予防
 LAD、NSAIDsによる上部消化管潰瘍の一次予防
潜在的リスク


胃酸分泌抑制薬(特にPPI)の
落とし穴





感染症

胃酸分泌抑制薬を投与されている患者では
肺炎のリスクが高い。 (JAMA 2009; 301:2120)
薬物や食品との相互作用

胃酸抑制薬を投与すると、胃内のpH
胃酸が弱まることで殺菌効果
⇒ 胃の中で細菌
それが食道に戻り、気管に入ると ⇒


細菌性腸炎、小腸細菌過剰症
Clostridium difficile腸炎
PPI使用時のClostridium difficile腸炎の発症率は、
PPIを投与しない場合の約1.3倍との報告あり。
抗生剤を投与していなくても発症するリスクがある点に注意!
腫瘍性病変発生
胃ポリープ、胃癌、胃カルチノイド腫瘍、大腸癌
代謝栄養学的問題
ビタミンB12欠乏、鉄欠乏
骨折
感染症
市中肺炎、腸管感染症・腸管障害
薬物や食品との相互作用
CYP2C19関連の相互作用、 胃酸抑制による影響
下痢 :
Collagenous Colitis (ランソプラゾール)
その他 : 認知症 など

多くのPPIはCYP450によって代謝される。
CYP2C19が関与しているクロピドグレル、シクロスポリン、
ワルファリン、などと相互作用を起こしやすい。
栄養剤:ハイネイーゲル(食品)との相互作用について
・ハイネイーゲルは、pH4以下で半固形化する消化態栄養剤。
・胃酸分泌抑制剤を投与中の患者では、
ハイネイーゲルが半固形化するメリットは得られない。
(消化態栄養剤としてのメリットは期待できるが・・・)
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2016/10/24
下痢: Collagenous
Colitis

主症状:難治性の水溶性下痢

粘膜上皮直下のcollagen bandの肥厚及びリンパ球を主体とす
る炎症性細胞浸潤を特徴とする疾患

国内では、PPI(とくにランソプラゾール)による報告が多い。
ストレスと敗血症による潰瘍予防
添付文書には、下記の記載あり
「下痢が継続する場合、 Collagenous Colitis等が発現している可
能性があるため、速やかに本剤の投与を中止すること。腸管粘
膜に縦走潰瘍、びらん、易出血等の異常を認めることがあるので、
下血、血便が認められる場合には、適切な処置を行うこと。」


全例でPPIが必要ですか?
PPI⇒H2ブロッカーへの変更で改善報告あり
過剰な投与は大問題
ストレス潰瘍予防ガイドライン
ICU患者でのストレス潰瘍予防介入の適応基準(成人)
PPIをストレス潰瘍の予防のために処方される率が高い。
ストレス潰瘍予防の適応
 絶対適応(下記を1つ以上満たす)
しかし、多くの場合・・・
・凝固障害(血小板<5万個/μL、PT-INR>1.5、APTT>2秒)
・挿管が48時間を超える。
・1年以内の上部消化管潰瘍・出血の既往
・外傷性脳挫傷、外傷性脊髄損傷、熱傷
ガイドラインの推奨からすれば過剰投与では!?

ストレス潰瘍予防のガイドライン 1998年
American Society of Health-System Pharmacists(ASHP)
相対適応(下記を2つ以上満たす)
・敗血症
・1週間以上のICU入院
・潜在的な消化管出血が6日間以上
・ステロイド療法(1日250mg以上のヒドロコルチゾン)
Surviving Sepsis Campaign Guidelines
(SSCG)2012年
ICU入院患者に対して
敗血症患者へのストレス潰瘍予防の推奨度

早期に経腸栄養を行った群と、経腸栄養を行わずH2ブロッ
カーを投与した群を比較すると、経腸栄養を行った群の方が
上部消化管出血のリスクが低かった。

早期から経腸栄養を受けた患者にH2ブロッカーを投与する
群としない群ではH2ブロッカーを投与下群で死亡率が増加し
たという報告もある。
(Raffらの報告より)

出血リスクの高い重症敗血症・敗血症性ショックの患者には、スト
レス潰瘍の予防として、 H2ブロッカーやPPIの投与を推奨する。
(1B)

ストレス潰瘍の予防にはH2blockerよりも PPIの方が望ましい。
(2C)

危険因子の無い患者には予防投与は行うべきではない。(2B)
1:強い推奨 2:弱い推奨
A:高いエビデンス B:中等度のエビデンス
C:弱いエビデンス D:非常に弱いエビデンス
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「オメプラゾール注射用20mg」および
「タケプロン静注用 30mg」の 添付文書より
【効能効果】
経口投与不可能な下記の疾患:
出血を伴う胃潰瘍、十二指腸潰瘍、
急性ストレス潰瘍及び急性胃粘膜病変
【用法用量に関連する使用上の注意】
1. 本剤は投与開始から3日間までの成績で高い止血効果が認
められているので、内服可能となった後は経口投与に切りか
え、漫然と投与しないこと。
2. 国内臨床試験において、本剤の7日間を超える使用経験は
ない。
「ファモチジン注射用20mg」の添付文書より
【効能効果】
上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、出血性胃
炎による)、Zollinger-Ellison症候群、侵襲ストレス(手術後に
集中管理を必要とする大手術、集中治療を必要とする脳血管
障害・頭部外傷・多臓器不全・広範囲熱傷)による上部消化
管出血の抑制、麻酔前投薬
【用法用量に関連する使用上の注意】(抜粋)
侵襲ストレス(手術後に集中管理を必要とする大手術、集中
治療を必要とする脳血管障害・頭部外傷・多臓器不全・広範
囲熱傷)による上部消化管出血の抑制では、術後集中管理
又は集中治療を必要とする期間(手術侵襲ストレスは3日間程
度、その他の侵襲ストレスは7日間程度)の投与とする。
まだ、確定的な結論は出ていませんが・・・
勿論、胃酸分泌抑制薬の使用が不可欠な場合もあります。
しかし、胃酸抑制は欠点がない訳ではなく、
特にストレス潰瘍予防投与においては、ガイドラインからはずれて
盲目的に投与すると、不利益になる可能性が示されている。
 第一選択はPPIでよいか?との疑問も含め、
ストレス潰瘍予防に関しては、再検証が必要である。


NSTの立場から
胃酸分泌抑制薬の投与は、
・適応患者を絞り、酸分泌の抑制は必要最小限度に行う。
・投与開始後漫然と継続せず、
中止または変更を検討する。
NSTの立場から

「逆流のリスクがあるから」「ストレス潰瘍の予防に」
とりあえずPPIを投与しておこう。
⇒ かえって誤嚥性肺炎を惹起していませんか?

まずはしっかり栄養管理を!早期経腸栄養の開始の検討を!

ハイネイーゲルは、胃酸抑制時には半固形化の効果は期待できません。

難治性の下痢継続する場合
細菌性腸炎? Clostridium difficile腸炎? Collagenous Colitis?
⇒ PPIの中止を!
*今回の話題からはそれますが・・・
Message from Dr.Sugano
酸分泌を長期過剰に抑制することは、胃酸の果たしてき
た生理的役割を人為的に弱めてしまうことになり、有害事
象が発生する懸念がある。
今後は、酸分泌の抑制と疾病予防・治療効果の双方を
定量的に評価し、それに基づいた最適な治療戦略を立て
ていく必要がある。
(自治医科大学 名誉教授) 菅野 健太郎 先生
日本消化器関連学会機構 理事長
薬剤性嚥下障害を起こすNo1は、リスペリドン(リスパダール®)です。
リスパダールの過剰投与も避けてください。
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ご清聴
ありがとうございました!
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