【逆流性食道炎の発症機序】 胃液は、食物を消化するために強い酸性の胃酸や消化酵素を含んでおり、強い刺激性が 食道 あります。 粘膜によって保護されている胃と違い、食道は胃液に対する抵抗力が弱いため、健康な 胃底部 胃酸の逆流 噴門部に存在する下部食道 括約筋は、胃酸が食道側に 状態では、食道が胃液で傷つかないように、胃液が食道に逆流しない仕組みが働いていま す。その主役は下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)です(右図参照)。 噴門 小湾 逆流しないように働いてい 幽門 る。そのため、括約筋の働 下部食道括約筋は、食道と胃のつなぎ目(噴門部)にある筋肉で、食べた物を飲み込む 大湾 時には、ゆるんで食道から胃に食べ物が落ちるようにし、それ以外の時は、食道をしめて、 胃体部 胃の内容物が逆流しないようにしています。 逆流性食道炎は、下部食道括約筋など食道を逆流から守る仕組みが弱まるか、胃酸が増 きが低下すると胃酸の逆流 を生じる 幽門部 えすぎることで、胃液や胃の内容物が逆流し、それが食道の中にしばらくとどまるために起こります。 【逆流性食道炎の原因】 逆流性食道炎の原因には食事内容や生活習慣だけでなく、さまざまな要因が考えられます。その要因によって下部食道括約筋の圧力の破綻や、胃酸過多などが 重なることがあげられます。ここでは、逆流性食道炎の原因を簡単にまとめておきましょう。 ① 脂肪の多い食事の過剰摂取 脂肪分のとりすぎや食べ過ぎによって、何も食べていない時に下部食道括約筋がゆるみ、胃液が食道に逆流してしまうことがあります。 ② たんぱく質の多い食事 消化に時間を要し、胃に長時間滞留するため、胃酸の逆流を促すことがあります。 ③ 加齢 加齢により下部食道括約筋の働きが低下し、食道ぜんどう運動の低下、唾液分泌の低下などにより逆流した胃酸を、胃に戻すことができなくなることがあります 。 ④ 背中の湾曲した人 腹部の圧力が高くなり、胃の中の圧力が高くなることで、胃酸の逆流が生じやすくなります。 ⑤ 肥満 肥満の人は食道裂孔ヘルニアを発症しやすいことが判明しています。また、肥満により腹圧が上昇するため、そのことも胃酸の逆流を促すことになります。 以上の原因から現在患者数は確実に増加傾向にある疾患であるといえます(下表参照)。 内視鏡検査における逆流性食道炎患者の推移 10 8 (%) 6 有疾患患者数/全内視鏡施行患者数 4 2 0 年代 87~89 90~92 93~95 96~98 99~01 03~05 【検査方法と症状】 逆流性食道炎の診断は、問診や、内視鏡検査などにより実施されますが、まずは、その症状をしっかりと医師に伝えておく必要があります。ここでは、代表的 な症状と、その検査方法をまとめておきましょう。 【検査方法】 ① 問診 むねやけの診断・治療では詳細な問診によって、患者さんの自覚している症状を正確に医師に伝達する必要があります。逆流性食道炎の診断のために作られ た問診表を使用し、症状を判定することもあります。 ② 内視鏡検査 上部消化管内視鏡を使用し、食道粘膜の状態を確認します。びらんや潰瘍の有無、重症度の判断には【ロサンゼルス分類*】が用いられます。 ③ 組織学的検査 食道病変が逆流性食道炎によるものか、他の疾患に由来するものなのか困難な場合は、内視鏡検査の際に病変部の組織を採取し、組織学的検査を実施します。 ④ 酸分泌抑制薬による診断(PPI テスト) 胸焼けの症状があっても、内視鏡検査での異常が発見できない場合、内視鏡検査を実施できない患者さんに対して実施する診断方法。PPI を1週間、試験的 に服用し、症状が改善すれば逆流性食道炎の可能性が高いと判断する方法です。 *【食道炎のロサンゼルス分類(重症度分類) 】 grade 分類 所見 gradeN 内視鏡的に異常を認めない gradeA 長径が 5mm を超えない粘膜傷害があるもの gradeB 少なくとも一つの粘膜傷害の長径が 5mm 以上であるが、隣接する粘膜ヒダ上の粘膜傷害は連続していないもの gradeC 少なくとも1ヶ所の粘膜傷害は 2 条以上の粘膜ヒダに連続して広がっているが、全周の 75%未満のもの gradeD 全周の 75%以上の粘膜傷害 【症状】 ① むねやけ、呑酸(どんさん) 胸の辺りに灼熱感を伴う不快な感じがする。酸味の強い液体が口まで上がってきてげっぷが出るという状態。症状がひどい場合には嘔吐することもあります。 ② 胸痛 狭心症のときのような胸部の締め付けを感じることがあります。 ③ 咳、喘息 逆流した胃酸が、のどや気管支、食道粘膜を刺激することで生じる症状。 ④ のどの違和感、声枯れ 逆流した胃酸でのどに炎症を生じたり、違和感や痛みを自覚することがあります。症状が悪化すると、嚥下困難などを生じることもあります。 【逆流性食道炎の治療方法】 逆流性食道炎の生活習慣での注意点は胃酸の逆流を防止することです。したがって、睡眠時の姿勢や体重の減少によって、症状の軽減を図ることができます。 逆流性食道炎の薬物治療の基本は、胃酸の逆流を防ぐことであるため、プロトンポンプ阻害薬を主体としていきます。その他、消化管運動機能改善薬も有効です。 また、PPI でいったん症状が軽減したとしても、薬剤の服用中止により再発率が上昇するため、維持療法も保険適応されています。以下に治療ガイドラインに 従った逆流性食道炎ガイドラインを示しておきましょう。 GERD を疑う症状 GERD:胃食道逆流症(胃内容物や十二指腸内容物が、食道に逆流する食道の炎症性疾患) 内視鏡検査を先に実施 治療を優先する場合 症状持続 内視鏡検査 PPI PPI 症状 再発 薬剤の減量または中止 症状持続 他の疾患を考慮する びらん性 GERD 非びらん性 GERD pH モニタリングなどに よる病部評価 薬剤の投与量・投与方法変更 症状持続 症状改善 症状改善 他の疾患を考慮する 手術療法 逆流の証明 長 維持療法 PPI 期 管 理 オンデマンド療法 【逆流性食道炎治療のガイドライン略図】 薬剤減量または中止
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