改正民法の解説

改正民法の解説
〜保証制度に関する改正〜
第1
はじめに
「民法の一部を改正する法律案」は,平成 16 年 11 月 25 日法律として成立し,
同年 12 月 1 日に交付された。この法律(以下「改正法」という)は,民法第1
編から第3編までの表記を平仮名・口語体に改める等の民法の現代語化を行うと
ともに,保証制度に関する民法の実質改正を行うことを内容とするものである。
平成17年4月1日に施行が予定されている。
第2
○
保証制度に関する改正の趣旨
保証人の保護
中小企業が融資を受ける際には,その信用補完の手段として,経営者やその
親族,知人等による根保証がしばしば行われているが,現行法は,根保証契約
について特段の法的規制をしていないため,保証の限度額や保証期間の定めの
ない,いわゆる包括根保証契約が多用されている。その結果,近時の中小企業
を取り巻く厳しい経済状況のもとで,保証人が予想を超える過大な保証責任の
追及を受ける事例が多発しており,包括根保証契約に対する法的規制を講ずる
必要があると指摘されていた。このような指摘を踏まえて,保証人が個人の場
合の包括根保証契約に対する法的規制を設けるとともに,保証契約一般につい
て書面によらない保証契約を無効とする法改正が行われた。
第3
1
保証制度に関する改正の概要
保証契約一般を対象として,書面によらない保証契約を無効とする(新法 446
条 2 項及び 3 項)。
2
保証債務の款に第2目を創設して,「貸金等根保証契約」(要するに,融資に
関する根保証であって保証人が個人であるものを意味する)を対象とする規制
を設けている
(1)極度額の定めのない根保証契約を無効とする(新法 465 条の 2 第 2 項)
(2)根保証契約における保証期間を制限する趣旨で,
①
契約締結日から 5 年後の日よりも後の日を元本確定期日とする定めを
無効とする(同法 465 条の 3 第 1 項)
②
元本確定期日の定めがない場合には契約締結日から 3 年後の日を元本
確定期日とする(同条 2 項)
-1-
③
債権者が主たる債務者や保証人の財産の差押えをした場合等を元本確
定事由とする(同法 465 条の 4)
④
法人が根保証契約の保証人である場合(したがって貸金等根保証契約
には該当しない場合)についても,その法人が主たる債務者に対して取
得する求償権につき個人が保証人となるときを対象として,その個人を
保護するための特則を設けている(同法 465 条の 5)
以上の規定は,いずれも強行規定である。
なお,経過措置あり(改正法附則 2 条から 4 条まで)
第4
1
保証契約の要式性
書面による保証契約
(趣旨)
保証を慎重ならしめるため,保証意思が外部的にも明らかになっている場合
に限りその法的拘束力を認めるものとすることが相当である。
根保証契約に限らず保証契約一般を対象として,保証契約は書面でしなけれ
ばその効力を生じないものとした(新法 446 条 2 項)。
●実務上の問題点1:「書面」とはいかなる要式を要するか?
〜いわゆる保証書の差入方式は改正法により無効とされるか?
〔A説〕契約書のように,保証契約の当事者である債権者及び保証人の双方
の意思が示されたものであることを要する
(理由)新法 446 条 2 項は,その文理上,保証契約を書面ですること
を要求しているのであるから,ここでいう書面とは,契約書のよう
に双方の意思が示されたものであることを要する。
〔B説〕専ら保証人の保証意思がその書面上に示されていれば足りる
(NBL№800
法務省民事局付担当官の筆者意見)
(理由)保証契約について書面性を要求する趣旨は,片面的に義務を
負うこととなる保証人を保護するため,保証意思が外部的にも明ら
かになっている場合に限り契約としての拘束力を認めるという点に
あるのであるから。
2
電磁的記録による保証契約
インターネットを利用した電子商取引等の利便性のため,保証契約がその内
容を記録した電磁的記録によってされた場合には,これを書面によってされた
ものとみなす(新法 446 条 3 項)。
-2-
3
規定の準用
新法 446 条 2 項及び 3 項の規定は,貸金等根保証契約における極度額の定め
や,元本確定期日の定め及びその変更(保証人に有利なものを除く)について
準用されている(新法 465 条の 2 第 3 項及び 465 条の 3 第 4 項)。
第5
貸金等根保証契約
1
貸金等根保証契約の意義
①
根保証契約であること
②
主たる債務の範囲に「貸金等債務」が含まれるものであること
③
個人を保証人とするものであること
(新法 465 条の 2 第 1 項)
(1)根保証契約であること
根保証契約=「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証
契約」
(新法 465 条の 2 第 1 項)
●注意点1:主たる債務の一部として特定の債務が含まれるものであっても,
他に不特定の債務が含まれていれば,根保証契約に該当する。
(例)継続的な金銭の貸付が行われている場合に,将来発生する不特定の借入
金債務とともに既発生の特定の借入金債務をも主たる債務とするという
保証契約は根保証契約である。
Cf;根抵当
根抵当においては,被担保債権の範囲につき,特定の継続的取引契
約によって生ずるもの等に限定して定めなければならないとされている
が(398 条 2 項及び 3 項),改正法は,根保証の主たる債務の範囲の定め
方について,このような限定を特に設けていない。優先権のある根抵当
においては,根抵当権者がその優先権をできる限り広く確保するため,
被担保債権の範囲を無限定にしようとしがちであり,これが根抵当権設
定者や他の債権者の利益を害するおそれがあるのに対し,優先権のない
根保証においては,根保証契約の締結後に主たる債務者との取引範囲が
拡大するなどして,主たる債務の範囲に含まれないものが生ずる場合で
あっても,事後的に主たる債務の範囲を変更したり,新たな根保証契約
を締結したりすることにより,その目的を達することができるという差
異があり,実際にも債権者が主たる債務の範囲を無限定にしようとしが
ちである等の問題点は特に指摘されていないことを考慮したものである。
-3-
(2)貸金等債務が含まれること
主たる債務の範囲に「金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって
負担する債務」
(新法 465 条の 2 第 1 項)が含まれるものであることが必要。
ア「金銭の貸渡しを受けることによって負担する債務」
=消費貸借契約により交付を受けた金銭の返還義務
●注意点1:準消費貸借はこれに含まれない。
(理由)準消費貸借は,その前提として借主が負担しているところの金銭
の給付義務が,さまざまな原因に基づいて発生するものであること
から,準消費貸借が含まれるものとすると,融資に関する根保証を
適用対象とするという方針に反する結果になるから
(例)継続的な売買取引に関する根保証契約においては,その主たる債務
の範囲につき,代金債務のほか,代金債務について準消費貸借契約を
締結した場合における金銭の返還義務も含まれるという定め方をする
ことがあり得るが,このような根保証契約は,適用対象とすべきでな
いという趣旨(NBL◆№801
34 頁)
イ「手形の割引を受けることによって負担する債務」
=手形の割引を受けることによって割引依頼人が割引人に対して負担す
る債務。割引手形への裏書に基づく手形上の債務に限られず,銀行等
の実務において見られるように割引人に割引手形の買戻請求権が付与
される場合には,その買戻請求権の行使により割引依頼人が負担する
こととなる債務も,これに含まれる。
●実務上の問題点1:「貸金等債務が含まれる」という要件について
この貸金等債務が含まれるという要件は,第一に,根保証契約のうち,
その主たる債務が継続的な売買取引にかかる代金債務や,不動産賃貸借に
かかる賃借人の債務であるものなど,融資に関するものでない根保証契約
を,ひとまず適用対象外とすることを意図するものである。根保証契約は,
さまざまな経済取引において利用されているため,保証人保護のために採
るべき措置としても種々のものが想定され,そのような措置を講じた場合
における取引への影響の有無及びその程度を把握することも容易でないこ
とから,すべての根保証契約を対象としてその契約内容の適正化を図ろう
とすれば,その検討作業に相当の時間を要することが見込まれた。このた
め,今回の改正においては,融資に関する根保証契約について早急に措置
を講ずる必要性が指摘されていたことを踏まえ,それ以外の根保証契約に
-4-
ついては,ひとまず適用対象から除外することとされたのである。
第二に,この要件は,主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるもので
あれば足りるとすることにより,融資に関する根保証について,できる限
り漏れのないように適用対象とすることを意図するものである。改正法が
主な適用対象として想定している銀行取引には,資金の貸付けや手形割引
のほかにも種々の形態の取引が含まれているが,これらを法文上に網羅的
に掲げることは技術的に困難である。他方で,貸金等債務を主たる債務と
する根保証契約につき保証人保護の措置を講ずる必要があるとすれば,貸
金等債務とは全く異なる類型の取引が主たる債務の範囲に含まれるもので
あっても,同様の保証人保護の措置を講じなければ首尾一貫しないと考え
られる。そこで,改正法は,
「金銭の貸渡し」と「手形の割引」とが信用供
与の手段の代表例であると考えられることから,これらを法文に掲げ,こ
れらが主たる債務の一部として含まれることのみを要件とすることにより,
融資に関する根保証契約ができる限り漏れなく適用対象となるようにした
のである。
適用対象を融資に関する根保証に限定した理由が上記のようなも
のであることから,適用対象外とされた保証類型に関してこれまで判
例が形成してきた保証人保護の法理については,改正法が消極的な立
法者意思を表示したものと見るべきではなく,今回の改正後も影響を
受けないと考えられる。
●実務上の問題点2:主たる債務が継続的な売買取引にかかる代金債務で,
例外的に資金の貸付けを行うことがある場合の対策について
主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものであれば足りるとした結
果として,主たる債務が継続的な売買取引にかかる代金債務である根保証
契約など,ひとまず適用対象外としていた保証類型であっても,その取引
に付随して例外的に貸金の貸付けを行うことがある等の事情により主たる
債務の範囲に貸金等債務が含まれるように定めているものは,適用対象と
なることになる。しかしながら,このような保証類型において改正法の適
用を受けることに特段の支障がある場合には,例外的に行う貸金の貸付に
ついては個別的に特定債務の保証を求めることとし,根保証契約の主たる
債務の範囲には含めないこととする実務上の対策を講ずることも可能であ
ると考えられる(NBL◆№801
34頁)。
●注意点:この要件の判断方法について
貸金等債務が含まれるものという要件を充足するか否かは,もっぱら根
保証契約における主たる債務の範囲の定め方によって判断される。
-5-
したがって,保証債務の履行を求める時点で,主たる債務者が現実には
貸金等債務を負担していない場合であっても,仮に主たる債務者が貸金等
債務を負担したとすれば保証人が保証債務を負うことを予定して主たる債
務の範囲が定められていれば,この要件を充足することとなる。
(3)保証人が個人であること
保証人が法人であるものは除外されている(新法 465 条の 2 第 1 項)。
(理由)保証人が法人である場合には,生活の破綻という問題が生じない
上に,経済合理性に適った行動をとることが一般に期待できるとい
う考慮に基づく。
2
極度額
貸金等根保証契約は,極度額を定めなければ効力を生じない(新法 465 条の
2 第 2 項)
(趣旨)根保証契約の保証人が負うこととなる責任の範囲を,金銭的な面から
画することにより,保証人の予測可能性を確保すると共に,根保証契約の締結
時において保証の要否及びその必要な範囲について慎重な判断を求めようとす
る趣旨。
(1)極度額は,債権者と保証人との合意により,貸金等根保証契約の締結時に
おいて,具体的な金額をもって定めなければならない。
●注意点1:主たる債務の額に対する割合をもって上限の金額を定めるなど,
事後的に具体的な金額が定まるようにしても,この極度額を定めた
ことにはならない。
●注意点2:貸金等根保証契約の締結時に定められた極度額を,当事者の合意
により事後的に変更することは可能。
●注意点3:極度額は,主たる債務の元本のほか,その利息,損害金等を含む
ものとして定めなければならない(新法 465 条の 2 第 1 項)。
保証債務についてのみ定められた違約金等がある場合には,これ
をも含むものとして定めなければならない(同条項)。
このような規律に沿わない内容をもって上限の金額が定めら
れていても,それは同項に規定する極度額を定めたことにはな
らないので,その根保証契約は無効となる(同条 2 項)。
(2)極度額の定めの要式性
極度額の定めについては,保証契約の要式性に関する同法 446 条 2 項及び
3 項の規定が準用されている(同法 465 条の 2 第 3 項)。
この規定により極度額の定めがその効力を否定された場合には,貸金等根
保証契約は,極度額の定めがないものとして無効となる(同条 2 項)。
-6-
3
元本確定期日
改正法は,貸金等根保証契約における保証期間を制限する趣旨で,元本確定
期日に関する規律を設けている(新法 465 条の 3)。
(趣旨)根保証契約の保証人が負うこととなる責任の範囲を,時間の経過とい
う面から画することにより,保証人の予測可能性を確保しようとするもの。
「元本確定期日」=「主たる債務の元本の確定期日」
(=「保証期間の末日の翌日」)
その期日の到来をもって,主たる債務となるべき元本が確定し,その日以
降,保証人は,確定した元本とこれに対して発生する利息・損害金等につい
ては保証債務を負うものの,その後に生じた主たる債務の元本については保
証債務を負わないこととなる。
(1)元本確定期日の定め
元本確定期日は,根保証契約の締結の日から5年以内でなければならない。
それより後の日を元本確定期日として定めた場合には,その定めは無効と
なる(新法 465 条の 3 第 1 項)。
元本確定期日の定めがない場合,その期日は,法律上当然に,根保証契約
の締結の日から 3 年を経過する日となる(同条 2 項)。
例)貸金等根保証契約締結日
平成 17 年 4 月 1 日
「貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日」
(=その日の経過をもって 5 年を経過することとなる当該そ
の日)
=平成 22 年 4 月 1 日(初日不参入)
元本確定期日を,根保証契約の締結の日から5年以内と定めた場合
⇒
その約定の日が元本確定期日となる。
それ以外(定めない・5年以降の定めあり)の場合
⇒
根保証契約の日から3年を経過する日が元本確定期日となる。
●実務上の対策:上記のとおり,貸金等根保証契約においては,必ず,元本確
定期日が定まることになる。よって,この期日以後も保証を継
続する必要がある場合には,債権者と保証人との合意をもって,
元本確定期日の変更をする必要がある。
-7-
●注意点1:
「元本確定期日の定め」は,債権者と保証人との合意により,貸金
等根保証契約締結時において,具体的な日付をもってしなければ
ならない。
〜(趣旨)保証人の予測可能性の確保
例外)債権者は,根保証契約の締結時から半年以内に,主たる債務者に対す
る金銭の貸付けを行うとともに,その旨を保証人に通知するという約
定があることを前提として,その通知があった日から 1 年後の日を元
本確定期日とする定めがあったという事例を想定した場合,これを,
元本確定期日の定めがないものとして取り扱う(=根保証契約締結の
日から 3 年後の日を元本確定期日)のは,必ずしも適当でない。この
ような事例では,保証人の予測可能性を確保するために保証期間を制
限するという新法 465 条の 3 第 1 項及び 2 項の立法趣旨に立ち返って
「元本確定期日の定め」に当たるかどうかを判断すべきである。
(2)元本確定期日の変更
当事者の合意により事後的に元本確定期日を変更することは可能。
変更する場合には,変更をした日から 5 年以内の日を変更後の元本確定期
日としなければならない。
変更後の元本確定期日がその変更をした日から 5 年を経過する日より後の
日となるときは,その元本確定期日の変更は無効となる(同条 3 項本文)。
●注意点1:根保証契約締結時から 5 年を超える保証期間を確保する趣旨で,
契約締結時にいわゆる自動更新の約定を付した場合,その約定
は無効。「変更をした日」が起算日である。
●注意点2:元本確定期日の前 2 ヶ月以内という近接した時期にその変更を
行う場合
⇒(例外的に緩和)当初の元本確定期日から 5 年後の応当日を変更
後の元本確定期日とすることができる(同項但書)。
(趣旨)元本確定期日の変更をして保証関係を継続しようとす
るときには,同一の日付をもって新たな元本確定期日を
定めることができた方が,当事者双方にとって便宜であ
ると考えられることから,元本確定期日の前 2 ヶ月以内
と い う 近 接 し た 時 期 に 限 っ てこ の よ う な 例 外 を 設 け る
こととした。
(例)変更前の元本確定期日が平成 20 年 4 月 1 日の場合
ア
平成 20 年 1 月 1 日に元本確定期日の変更の契約をする場合
⇒
-8-
変更をした日から 5 年を経過する日である平成 25 年 1 月 1 日
までの範囲内で変更後の元本確定期日を定める必要がある(同
項本文)。
平成 20 年 3 月 1 日
イ
変更前の元本確定期日から 5 年以内の日である平成 25 年 4 月 1
⇒
日までの日をもって,変更後の元本確定期日とすることができ
る(同項但書)。
●注意点3:元本確定期日の変更に関して新法 465 条の 3 第 3 項の期間制限
に違反した場合については,補充的に適用される規律が存在し
ないので,元本確定期日が変更されない結果となる。
(3)書面への記載等
元本確定期日の定め及びその変更については,極度額の定めと同様に(新
法 465 条の 2 第 3 項),保証契約の要式性に関する同法 446 条 2 項及び 3 項
の規定が準用されている(同法 465 条の 3 第 4 条)。
元本確定期日の定めに関しては,その定めがないものとして根保証
契約締結の日から 3 年後の日が元本確定期日となる。
元本確定期日の変更に関しては,その変更がないものとして,当初
の元本確定期日の到来をもって元本確定の効果が生ずることとなる。
(例外)
①
元本確定期日の定めのうち根保証契約の締結の日から 3 年以内の日を
元本確定期日とするもの
②
元本確定期日の変更のうち元本確定期日を前倒しにするもの
⇒
①,②は,保証契約の要式性に関する規定が準用されていない
(同法 465 条の 3 第 4 項)。
これらの場合は,その合意に従った効力を承認した方が保証人に
とって有利となるから。
4
元本確定事由
改正法は,貸金等根保証契約における元本確定事由として,次の3つを掲げ
ている(新法 465 条の 4)。
①
強制執行等の申立て
②
破産手続開始の申立て
③
保証人等の死亡
これらの事由は,いずれも根保証契約締結時には予想できなかった著しい事
情の変更に定型的に該当すると考えられることから,元本確定期日の到来前で
-9-
あっても,一律に保証人は責任を負わないこととした。
同条に掲げられている事由については,あらかじめ債権者と保証人との間で
これに反する合意をしても,その合意は無効であると解するべきであるが(「片
面的強行規定」NBL№802
23 頁,25 頁),同条に掲げられていない事由
について,債権者と保証人との合意により元本確定事由として定めることは許
される。
(1)強制執行等の申立て
債権者が,
主たる債務者又は保証人の財産に対し,
金銭債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたこと
●注意点1:「債権者」とは,保証契約の当事者である債権者
それ以外は含まない。
●注意点2:主たる債務又は保証債務の履行を求めるものだけでなく,当該
債権者が主たる債務者や保証人に対して有する他の債権に基づ
くものも含まれる。
●注意点3:金銭債権についての強制執行に限られる。
⇒(例)×
主たる債務者や保証人の占有する建物の明渡しを
求める強制執行
○
金銭債権についての強制執行であれば,目的財産
は,不動産や動産,債権やその他の財産権でもよく,
また,強制施行の方法も,強制競売でも強制管理で
も差し支えない。
●注意点4:
「担保権の実行」とは,担保権の種類やその被担保債権の如何を
とわず,民事執行法第 3 章に規定されている手続の申立てをす
べて含むものであり,担保権の実行としての競売のほか,担保
不動産収益執行や抵当不動産についての物上代位も含まれる。
●注意点5:強制執行又は担保権の実行の手続が開始されなかった場合
⇒
元本確定の効果は生じない(新法第 465 条の 4 第 1 号但書)
ひとたび手続が開始された後は,取下げ等によりその手続が
取り消された場合であっても元本確定の効果は覆滅されない。
(2)破産手続開始の決定
主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたこと
●実務上の問題点:民事再生手続開始の決定の場合に類推適用できるか?
根抵当に関する同趣旨の規定(同法 398 条の 20 第 1 項
- 10 -
4 号)については,再生手続のような再建型倒産処理手
続 が 開 始 さ れ た 場 合 に つ い ての 類 推 適 用 の 可 否 を め ぐ
って議論があるが,同法 465 条の 4 第 2 号は,このよう
な 議 論 が あ る こ と を も 含 め て根 抵 当 と 同 様 の 規 定 ぶ り
にとどめたものであり,この点についての立法的解決を
意図したものではない。
●注意点1:根抵当の場合には,破産手続開始の決定があった場合であって
も,事後的にその効力が消滅したときは,元本が確定しなかっ
たものとみなす旨の規定が設けられているが(同法 398 条の 20
第 1 項 4 号),改正法は,根保証に関してはこのような規定は
設けられていない。これは,優先権のある根抵当にあっては,
新たに行う融資について従前の根抵当権を利用したいという債
権者の利益を特に保護する必要があるのに対し,優先権のない
根保証にあっては,あえてこのような技巧的な取扱いをしなく
ても,必要に応じて新たに根保証契約を締結すれば足りると考
えられるからである。
(3)保証人等の死亡
主たる債務者又は保証人が死亡したこと
5
法人の根保証に関する特則
〜主たる債務の保証人が法人である場合で,その保証人の主たる債務者に
対する求償権について個人が保証人となる場合
(例)企業が銀行等から借り入れる際,信用保証協会等の法人が根保証
をして,さらに信用保証協会等の主たる債務者に対する求償権につ
き,個人(主たる債務者の経営者等が保証人になることが多い)が
保証人となる場合等
債権者
主債務者
主たる債務
求償権
求償権の保証人
求償権の保証
について根保証
保証人
(法人)
(1)特則の必要性
主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人が個人であ
- 11 -
る場合には,その保証人の主たる債務者に対する求償権について保証契約が
締結されたときであっても,その求償権保証契約の保証人は,貸金等根保証
契約に対して,上記の規律が適用される結果として,金額及び期間が限定さ
れた予測可能な範囲内での責任を負うこととなり,間接的ながら保護される
ことになる。
これに対し,根保証契約の主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるもの
であっても,その保証人が法人である場合には,上記規律が適用されないた
め,法人である保証人の主たる債務者に対する求償権について個人が保証人
となる場合には,その個人は,自ら根保証をした場合と同様に予想を超える
過大な保証責任の追及を受けるおそれがある。
そこで,改正法は,このような法人の背後にいる個人の保護を図るため,
次の要件を具備していないときは,その根保証契約の保証人の主たる債務者
に対する求償権について個人の保証を求めることができないものとする(求
償権保証契約を無効とする)こととした。
(2)個人を保証人とする求償権保証契約を有効に成立させるために,法人の根
保証契約が具備すべき要件
①
極度額の定めがあること
②
元本確定期日の定めがあること
●注意点:元本確定期日の定めがない場合に関する同法 465 条の 3 第 2
項に相当する規律は設けられていないので,根保証契約の当
事者間の合意 により元本確定期日が定められていること が
必要。
③
元本確定期日の定めが同法 465 条の 3 第 1 項の規律に従ったものである
こと,及び,元本確定期日の変更がされている場合にはその変更が同条 3
項の規律に従ったものであること
以上①〜③の要件を1つでも具備していない場合には,法人を保証人とす
る根保証契約の効力自体は影響を受けないものの,その法人が個人との間で
締結する求償権保証契約は無効となる。
第6
経過措置
改正法は,その施行前に生じた事項についても原則として新法の適用がある
ものとしており(改正法附則 2 条),実質改正のない民法現代語化に関しては,
この原則どおりとされ,特段の例外は設けられていない。これに対し,保証関
係の実質改正に関しては,この原則に対する例外として,改正法の施行前に締
結された既存の保証契約についての経過規定が設けられている(改正法附則 3
- 12 -
条及び 4 条)。
1
保証契約の要式性
保証契約の要式行為化に関する新法 446 条 2 項及び 3 項の規定は,既存の保
証契約には適用されない(改正附則 3 条)。〜取引の安定性
2
極度額
貸金等根保証契約における極度額の定めに関する新法 465 条の 2 の規定は,
既存の根保証契約には適用されない(改正法附則 4 条 1 項)〜取引の安定性
3
元本確定期日
(1)新法 465 条の 3 第 2 項(元本確定期日の定めがない場合)の規定について
は,期間計算の起算日を読み替えた上で既存の根保証契約に適用する(改正
法附則 4 条 3 項)。
(2)新法 465 条の 3 のうち第 2 項以外の規定については,既存の根保証契約へ
の適用を除外した上で(改正法附則 4 条 1 項),別段の規律を経過的に設け
る(同条 2 項及び 4 項)。
(1)及び(2)をまとめると,
①
元本確定期日の定めがないもの
⇒
改正法の施行日から起算して 3 年を経過する日(=平成 20 年 3
月 31 日)が元本確定期日となる
②
元本確定期日の定めがあるもの
極度額の定めあり
⇒
施行日から起算して 5 年を経過する日までに元本が確定
しないものは,施行日から起算して 5 年を経過する日
(=平成 22 年 3 月 31 日)が元本確定期日となる
極度額の定めなし
⇒
施行日から起算して 3 年を経過する日までに元本が確定
しないものは,施行日から起算して 3 年を経過する日
(=平成 20 年 3 月 31 日)が元本確定期日となる
●注意点:新法 465 条の 3 第 1 項及び 3 項の規定が除外されているので(改
正法附則 4 条 1 項),たとえ根保証契約締結の日から 5 年を経過
する日より後の日をもって元本確定期日とする定めがある場合で
あっても,改正法附則 4 条 2 項(上記②)の適用の有無について
- 13 -
は,その期日の定めに従って判断される。
(3)既存の貸金等根保証契約については,改正法の施行後は,元本確定期日を
先に延ばす変更をすることができない(改正法附則 4 条 4 項)。
(趣旨)既存の貸金等根保証契約については,できる限り早期にその元本を
確定させ,必要に応じて,改正法の適用のある新規契約を締結するよ
うに誘導しようという趣旨
4
元本確定事由
新法 465 条の 4 の規定は,既存の根保証契約にもただちに適用される(改正
法附則 2 条)。但し,施行日前に元本確定事由が生じていた場合については,
遡及的に元本確定の効果を生じさせると債権者に不測の不利益を与えるおそれ
があることから,施行日にその事由が生じたものとみなす旨の経過規定が設け
られている(改正法附則 4 条 5 項)。
5
法人の根保証に関する特則
〜主たる債務の保証人が法人である場合で,その保証人の主たる債務者に
対する求償権について個人が保証人となる場合
債権者
主債務者
主たる債務
求償権
求償権の保証人
求償権の保証
の根保証
保証人
(法人)
新法 465 条の 5 の規定については,既存契約への適用を除外した上で(改正
法附則 4 条 6 項),別段の規律を経過的に設けている(同条 7 項及び 8 項)。
すなわち,根保証契約における主たる債務の保証人が法人で,その保証人の主
たる債務者に対する求償権について個人が保証人となる場合,その求償権の保証
人は,①根保証契約における極度額の定めがある場合には,平成 22 年 3 月 31 日
を元本確定期日とした場合に主債務者が負担する限度で責任を負い,②根保証契
約における極度額の定めがない場合には,平成 20 年 3 月 31 日を元本確定期日と
した場合に主債務者が負担する限度で責任を負う。
上記①及び②を整理すると,以下のようになる。
- 14 -
①
法人の根保証契約における極度額の定めあり
⇒
施行日から起算して 5 年を経過する日(=平成 22 年 3 月 31 日)まで
に元本が確定しないものは,5 年を経過する日を元本確定期日とした
場合に当該根保証契約における主たる債務者が負担すべきこととなる
求償債務の額を限度として,求償権保証をした個人の保証人は履行の
責任を負う。
②
法人の根保証契約における極度額の定めなし
⇒
施行日から起算して 3 年を経過する日(=平成 20 年 3 月 31 日)まで
に元本が確定しないものは,3 年を経過する日を元本確定期日とした
場合に当該根保証契約における主たる債務者が負担すべきこととなる
求償債務の額を限度として,求償権保証をした個人の保証人は履行の
責任を負う。
【参考文献】
1
法務省民事局参事官吉田徹等著
「民法の一部を改正する法律の概要(1),(2),(3)」
NBL
2
№800
133 頁〜138 頁
NBL
№801
32 頁〜39 頁
NBL
№802
23 頁〜30 頁
法務省民事局参事官室
「保証制度の見直しに関する要綱中間試案補足説明」
NBL
3
№787
59 頁〜69 頁
法務省民事局参事官吉田徹等著
「『保証制度の見直しに関する要綱中間試案』に対する各界意見の概要」
NBL
4
№790
70 頁〜72 頁
法務省民事局参事官吉田徹等著
「補償制度の見直し等に関する民法改正の概要(上),(中)」
金融法務事情
№1728
15 頁〜28 頁
金融法務事情
№1729
43 頁〜49 頁
以
- 15 -
上