最新のLED 照明の動向

第 7 回 環境・健康ビジネス研究会
2011 年 10 月 18 日(火)16:30~18:30
山梨総合研究所
6F 会議室
「最新の LED 照明の動向」
講 師 : 松永 秀和
(株)インサート・リサーチ代表)
略 歴 : AIU 保険(AIG)市場調査室長を経て、
インサイトリサーチを設立。
はじめに
 LED は、通信(リモコン、光学式マウス)、表示(信号機、ディスプレイ)、
光源(スキャナー、バックライト)、照明(一般照明、植物育成)など幅広
く利用されている。
 LED 製造から応用製品開発を一括して行うメーカーはなく、LED メーカー、
半導体メーカー、照明器具メーカー、材料メーカー、電線メーカーなどが競
って参入している分野であり、台湾、韓国、日本などの各メーカーが競合、
連携している分野である。
 ここ数年で、急激に導入が加速化した LED 照明について、市場や LED 業界
の動向に関して報告を行う。
明かりの歴史
現在、明かりは第四世代を迎えている。薪などの自然の火、電球、蛍光灯、
そして、半導体に電圧を加えて生み出す LED である。
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第一世代:自然物の燃焼
― 「火」のコントロール・・・熱と一体
第二世代:電気の光
― T.エジソンのフィラメント電球・・・抵抗熱から光
第三世代:電子・紫外線の光
― 蛍光灯、水銀灯・・・放電による紫外線照射で蛍光体を発光
第四世代:半導体の光
― 半導体に電圧を加えると発光(LED)
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LED の長所と短所
LED は発光原理上、消費電力が少ない、発熱性が低い、長寿命であるといっ
た長所をもつ一方で、熱に弱い、光線の指向性が強く、白熱電球のように室内
雰囲気を演出できないという短所を持っている。
現在の LED の課題は、総合発光効率の向上、放熱性改善、色ムラ・指向性・
演色性の改善、駆動装置(コンバーター)改良などを図り、低価格化を実現す
ることである。
長
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所
消費電力が少ない
(低電圧で)発熱性が低い
寿命が長い
衝撃に強い
応答が高い
照度や発光色を変えやすい
有害物質(水銀)を使用しない
赤・紫外線が少ない
短
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所
LED 素子は熱に弱い
逆電流や静電気に弱い
順電圧の微小増加で過大電流が流れ損傷
高価格
素子の品質にばらつき、色むらの発生
点光源、光線の指向性が高い
蛍光体封入樹脂が劣化しやすい
高出力や高演色性が出せない
直流低電圧駆動(電源回路)が必要
(製造・安全・設置)規格や標準がない
LED の導入
LED は応用範囲が広く、下表のような様々な分野に用いられている。自動車
の例をあげれば、低電圧で発熱性が低い特性を生かし、メーターパネル表示板
の導入から始まり、リアライトそして、フロントライトへの導入へと拡大して
いる。
また、ご承知のように、パソコンの液晶モニター、テレビ、携帯電話には、
近年急速に LED 導入が進んでいる。
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機
能
具 体 例
情報表示、標識
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電卓表示部、パイロットランプ、看板サイン
運転パネル表示盤(自動車メーター)、リアランプ
信号機、方向表示機、行先表示板、株価ボード
補助光源
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液晶ディスプレーのバックライト(TV、PC、携帯)
低電圧照明機器の代替
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懐中電灯、ヘッドランプ、スキャナー、ストロボ
既存の電球、蛍光灯、水銀灯などの代替
LED 照明のプレーヤー
既存の電球、蛍光灯などのメーカーや関連企業は限られていたが、LED 照明
では多種多様な企業が参入している。従来の素材提供―製造―販売といったシ
ンプルな生産構造から、素子・チップメーカー、内外のアッセンブリ企業など
様々な連携、また販売では、リース企業、輸入業者、直販、通販など様々なチ
ャンネルが生まれている。
既存照明具のプレーヤー
部品
製造者
部品
製造者
チップ
商社
素子・チップ・
組立業者
パッケージ
(アセンブラー)
国内・海外
メーカー
日亜化学
豊田合成
オスラム
クリー
上記からの
ライセンス生産者
少数
パテント防衛
流通業者
(ホールセ
ラー)
大手/
パナソニック、東芝
中堅・専門/
遠藤照明、岩崎
スタンレー、小糸
中小/
大阪や徳島の企業
海外メーカー/
中国、韓国、台湾
日本メーカーの海外
工場など
輸入
業者
多数
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小売業者
電材店
電気工事業
直販
通販
消費者
(個人・法人)
(新業態)
ESCO
コンサル
保証会社
メンテ業
レンタル
自治体
LED 照明の普及・拡大
2008 以降の LED 照明の普及・拡大傾向は下表のようになる。地球温暖化対
策(改正省エネ法)、エコポイント、そして電力制限令などが追い風となり、中
小、海外メーカーに加え、大手照明メーカーの本格参入で、急激に LED 照明の
低価格化が進行している。家庭用電球では、3年前には、LED 電球は 10,000
円もしたが、現在、1,000 円を切る低価格製品も現れている。直管 LED 照明で
も、3,000 円台の製品がある。
年
動
向
例
中小、海外メーカーが先行
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これまで照明と関係のない
企業からの参入
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地球温暖化対策で追い風
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大手照明メーカーの本格参
入
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東芝の LED 電球
シャープの低価格品での追随
L 型口金規格の導入(JEL801)
中小零細企業の淘汰が進む
東日本大震災で神風
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国民の節電意識に乗る
電力使用制限令(15%削減)
一層の低価格化、コモディテ
ィ化
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1000 円を切る LED 電球
3000 円台の直管 LED
新しい付加価値を求めるマ
ーケティング
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リース、レンタル
排出権取引
長期保証
低価格だが品質に問題
日本の大手は様子見
:利益の源泉である蛍光灯を温存か?
 環境省は旗を振るが、経産省・自治体
は鈍い
:NEDO や東京都の補助対象とならな
かった
2008~
2009
川上(半導体メーカー)や日用品メー
カー
:ローム、アイリス大山など
 ガレージファクトリー
改正省エネ法の完全施行(4 月)
:コンビニ、スーパーで LED の導入
 環境省、自治体の補助金、東京都 CO2
削減義務
:エコポイント
2010
2011
4
LED 照明の課題と対応
LED 照明の課題と対応策を下表に示す。技術分野の課題に関しては各社、様々
な取り組みがなされている。素材・知財の確保については、企業や業界で解決
不可能な問題が含まれている。
分 野
技術分野
課
題
総合発光効率の向上
対
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放熱性の改善
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色ムラ、指向性、演色
性
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その他
製造、安全、設置につ
いての規格や標準
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素材・知財の確保

策
白色 LED の発光効率はここ 2,3 年で急激
に向上
現在は素子で 100~110lm/W
2015 年 に 150lm/W 、 2020 年 に 180 ~
250lm/W
高電圧で LED 素子は発熱し、高出力が出な
い
樹脂基板の改造セラミックや金属
(Cu,Al,Ag ペースト)
LED パッケージとアルミボディを緊密接合
+放熱塗料
LED チップそのものがムラを生じやすい
― 製造(化学気相成長法)技術の改善
― 選別プロセスとグレード別製品群開発
駆動回路改善(コンバータ)
拡散技術
LED ランプ特性に合わせた照明設計
紫外線 LED と RGB 蛍光体
標準化に向けて作業中
― 日本電球工業会(L 型口金)→ JIS へ
― 電気用品安全法適用(2012/4 施行)
― 日本電設工業協会が施工標準(2011/10)
レアメタル Ga(ガリウム)の確保
― 生産は中国が 50%弱
― 代替生産地、Ga に代わる素材開発
 主要なパテントは 4,5 社のチップメーカー
が保有
― 日本(日亜、豊田合成)が主力で、ライ
センス供与
― 新興国での違法コピー、提訴問題
― パテント切れ
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新たなマーケティング・プレイヤー
LED 照明は低価格化が急速に進んでいる。オフィスや事業所では、節電や省
エネのために、直管型 LED の導入を進める事業所もあるが、照明機器を所有せ
ず、レンタルして、一定の性能を確保できれば良いというニーズもある。
こうしたニーズに対応した新たなプレーヤーが現れている。一つは事業者向
けの直管型 LED のレンタル事業である。電力削減分から LED のレンタルフィ
ーを徴収するとともに、レンタル期間中の製品保証を提供する仕組みである。
販売形態としては、量販店のほか、コピー機・飲料水などオフィスサービスを
行っている業者がある。第2はメンテナンス・リサイクル事業。LED 照明は 1
度設置すると 10 年以上取替不用であるため、経年劣化以外の照度低下を定期点
検するとともに、LED 照明の取替に際してはチップ再生利用などを行う事業で
ある。
最後に
IT 技術の進歩の速さを「ドック・イヤー」と称したが、LED 照明の進歩はそ
れよりも早く「マウス・イヤー(ネズミの年)」である。昨日の最先端製品が今
日はもうバーゲン品になっている。このため「様子見」を決め込むユーザーも
多かったが、チップなどの原材料費から見て、価格はもう下限に近いと思われ
る。白熱電球の LED ランプへの代替はかなり進んだものの、商業施設での利用
が多いハロゲン灯や事務所の直管型蛍光灯、街路灯などの高出力水銀灯などの
代替は始まったばかりである。さらに、環形蛍光灯やコンパクト灯はまだ対応
できる代替製品がない状況であり、代替需要だけでも市場の余地は大きい。今
後は有機 EL も含めて、
「第 4 の光」による照明が「あかり」を牽引してゆくと
思われる。また、それは地球環境の保全にとって好ましいことである。
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