本調査結果詳細レポート

KAO INFORMATION
2011年9月
「子供のお手伝い」調査
〜お手伝いは家庭教育を示すバロメーター〜
花王生活者研究センター
小島
みゆき
平成21年に新しくなった学習指導要領には「生きる力」が掲げられ、
その具体的な内容の一つ
に「家族と家庭に関する家庭教育・家庭生活の大切さ」があげられています。私達は、子供が家事
に参加することによって生きる力をはぐくむことができるのではないかと考えています。そこで、
お手
伝い(子供の家事)がどのような影響を子供に与えるのかを知るために子供のお手伝いについて
調査を行いました。また、1984年に行われた同様の調査と結果を比較することで、四半世紀の間の
子供の変化についても考察いたしました。その結果、家事は「母親がするもの」から「家族で分担
する」方向へと変化がみられ、子供のお手伝い実施率は増加していました。この背景には、女性の
就業率の増加、
ライフワークバランスの推進、家庭科の男女共修などの社会的環境の変化があり、
今後この傾向は続くと考えられます。家事に前向きに取り組む子供は、家族の一員として自覚と自
信をもって生活し、将来の自分の家庭に明るい展望を抱いている様子が見られました。これらの子
供の背景には安定した家庭の様子がうかがわれ、
『お手伝いは家庭教育を示すバロメーター』
と
考えられました。幸せな家庭生活を送る一つの方法として、子供も含めて家族みんなで楽しく家事
に関わることができるようサポートしていきたいと考えています。
※1984年の調査は、東京成徳大学 深谷昌志教授が行ったものであり、今回(2011年)の調査は同教授と共同で行いました。
■調査概 要
対象
首都圏(3校)、関西圏(4校)小学4−6年生N=1192 その親N=1014 〔図1, 2〕
時期
2011年2−3月
方法
学校を通じた質問紙調査
※調査結果〔図3〜16〕は、不明回答を除いた割合で示してある。
数字は実数(人)
地域
関東
関西
457
557
男の子
5年生
6年生
363
295
330
お母さん
フルタイム
記入者の職業
家族の協力
5
そ
それ以外
れ以外
886(87.4%)
記入者
223
=子の回答
483
4年生
子供の学年
=親の回答
7
女
女の子
の子
510
子供の性別
不明 12
37 77
パート 専業主婦 家業・その他 23
385
282
協力的
非協力的
490
494
101
30
数字は実数(人)
地域
性別
学年
図1 対象者
関東
関西
528
664
男の子
女
女の子
の子
600
543
4年生
5
5年生
年生
6
6年生
年生
416
335
407
図2
【参考】
1984年調査 深谷教授が行った調査(小学生ナウ vol.
4−5)
対象 関西圏の小学生 N=1664 調査時期 1984年2−3月
方法 学校を通じた質問紙調査
-1-
対象者
不明 0
49
34
KAO INFORMATION
■調査結 果
●子供のお手伝い実施率は27年前と比較して増加、特に男子の実施率がup。
多く実施しているお手伝いは、食事のセッティング(茶碗や箸並べ 、
ご飯をよそう、
テーブ
ルを拭く)
と片付け(食後の食器運び)。男女で比べるとほとんどの項目で女子の実施率が
高い。1984年と比較するとお手伝い18項目中、13項目で実施率が増加。週3回以上の実施
率の18項目の平均は、1984年31.
2%→2011年33.
4%とわずかだが増加。男子は、22.
9%
→30.
6%と7%増加。一方で、女子は39.
6%→36.
3%と減少〔図3〕
(図は整数で表示)。
全体
(%) 男子
46
食後食器運ぶ
68
34
47
茶碗や箸並べる
25
34
28
31
ご飯よそう
食事時テーブル拭く
13
79
27
47
22
66
39
54
25
20
22
16 16
17
21
玄関靴揃える
14 17
20
17
19
19
53
30
洗濯物しまう
自分の机まわり掃除
19
33
46
17
36
21
32
23
15
洗濯物たたむ
8 16
14 17
風呂掃除
10 12
15 15
(%) 女子
32
29
11
28
20
29
ごみを出す
6 11
11 14
朝新聞取る
19
18
11 11
16
26
39
24
みなで使う部屋掃除
6 14
10 12
16
19
簡単な料理作る
5 21
10 12
20
16
食器を洗う 58 15
13
8
17
回覧板まわす
20
10 8
25
16
10
14
11
食器を拭く 68 15
9
洗濯物干す 1 8
18項目の平均
6 10
トイレ掃除 1 2
35
1984年調査
2011年調査
1984年 31.2%
2011年 33.4%
4
14
2
7
18項目の平均
1984年 22.9%
2011年 30.6%
週3日くらいしている
毎日している
図3
手伝う割合の変化
-2-
(%)
77
84
74
72
71
64
64
60
47
40
40
42
53
41
37
34
23
30
18
24
34
19
25
25
32
27
31
24
36
20
32
20
18項目の平均
14
19
1984年 39.6%
5
2011年 36.3%
10
青字は全体で2011年>1984年の家事
男女のグラフは 〔毎日〕+〔週3回くらい〕の合計
KAO INFORMATION
<参考>
母親の家事分担の変化、27年間の子供の変化
子供に「その家事は家では主に誰がやっているか」を聞いたところ、
いずれの家事も
「全部または
主に母親」
と回答した割合は減少し、
他の家族と分担するようになってきた様子がうかがわれた。
その家事をやっている母親の割合 (%)
80.9
トイレ掃除
10
50.9
22.5
81.2
洗濯
13.5
48.7
29.3
76.5
18
夕食を作る
43.8
みんなの
部屋の掃除
38.9
52.2
21.7
28.4
1984年調査
35.5
主に母親
全部母親
2011年調査
子供から見た母親の家事分担率
●「自分の机まわりの掃除」
「洗濯物をたたむ」
「みんなで使う部屋の掃除」はやった方
がいいと思っているが、実際はできていない。
18項目について、
自分がやった方がいい(是非したほうがよい+まぁしたほうがよい)
と思って
いる子供の割合はいずれも60%以上と、家事に取り組む気持ちは前向き。しかし、週3回以上
の実施率平均は約33.
4%。ギャップの大きい項目は、
「自分の机まわりの掃除」
「洗濯物をたた
む」
「みんなで使う部屋の掃除」など〔図4〕。
<実施率>
(%)
69.2
食後食器運ぶ
22.4
63.1
自分の机まわり掃除
54.7
茶碗や箸並べる
54.5
食事時テーブルふく
50.6
ご飯よそう
5.1 3.3
26.6
34.4
6.9 4
33.6
7.8 4.1
35.2
45.3
37.8
玄関靴揃える
49
33.6
みんなで使う部屋掃除
44.3
37.1
洗濯物しまう
44.7
36
12.6
6.7
風呂掃除
43.8
35.7
13.2
7.3
39.8
洗濯物干す
41.6
10.1
7.3
13.7
5
14.6
8.8
18.9
7.2
食器を洗う
33.4
40.1
18.4
8.1
簡単な料理作る
33.3
37.9
20.2
8.6
食器を拭く
31.3
朝新聞取る
トイレ掃除
近所に回覧板まわす
37.3
34.1
25
19.1
30.3
33
27.5
12.3
16.1
35.9
14.1
30.8
36.7
21.8
37.5
29.7
25.2
16.5
20.7
21.6
16.9
22
19.5
24.8
14.3
25.4
是非したほうがよい
まぁしたほうがよい
あまりしなくてもよい
しなくてもよい
図4 やった方がいいと思うお手伝い
-3-
58.7
12.3 4.7
36.7
32.4
68.3
52.5
10.1 4.2
洗濯物たたむ
ごみを出す
81.3
34.6
5.1 5.2
8.3
17.6
〔毎日〕+〔週3回〕の合計
(%)
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●お手伝いは好きだし、楽しい。お手伝いは、勉強にはあまり役にたたないが、お手伝い
をすると家庭や人柄がよくなると思っている。
お手伝いが(とても+わりと)好き、楽しいと回答した割合はそれぞれ61.
2%、67.
0%と6割
以上。
「自分から手伝う」と回答した割合も49.
5%とほぼ半数。お手伝いは、
(とても+わりと)
「幸せな家庭をつくれる」、
「思いやりのある人になれる」
「よく気がつく人になれる」ことに
役立つと回答した子供は、それぞれ83.
8%、81.
1%、80.
9%と多数を占めており、女子の方
が効用を信じている。しかし、
「勉強に役立つ」は43.
7%にとどまった〔図5,
6〕。
好き・嫌い
全体
男子
13.8
47.4
7.6
女子
20.8
4年
20.1
5年
6年
12.9
8.2
33.7
44.2
楽しさ
(%)
41.3
50.5
18.7
5.1
6.9
13.1
27.4
49.5
31.2
44.6
42.4
47.2
25.3
25.4 3.3
47.9
48.3
4.6
6.3
48.4
8.9
6.8
47.0
47.3
11.6
37.9
7.6
8.5
15.9
38.6
18.1 3.9
16.0
40.4
25.7
35.4
42.8
36.9
21.3 5.0
50.1
18.9
4.7
26.3
31.2
28.0
自分から手伝うか
(%)
8.4
11.4
8.4
7.4
46.4
39.1
35.6
38.1
42.9
34.9
50.0
とても好き
とても楽しい
自分から手伝う
わりと好き
わりと楽しい
だいたい自分から
あまり好きではない
あまり楽しくない
だいたい親に言われて
とても嫌い
全然楽しくない
親に言われて仕方なく
図5 お手伝いに対する気持ち
(%)
100
子供全体
幸せな家庭をつくれる
52.2
思いやりのある人
50.0
31.6
男女別(子)
(%)
70
44.5
11.4 4.9
61.0
42.5
31.1
14.4 4.4
57.9
36.9
よく気がつく人
43.8
37.1
14.1 5.0
51.3
7.6
勉強に役立つ 11.9
31.8
38.4
17.9
15.9
男子
女子
「とてもそう思う」と回答した子供の割合
とてもそう思う
わりとそう思う
あまりそう思わない
全くそう思わない
図6 お手伝いはどんなことに役立つのか?
(お手伝いの効用)
-4-
(%)
7.7
9.1
6.5
8.0
7.5
7.7
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●母親が有職の家庭では子供のお手伝いをあてにしており、子供と一緒の家事を楽し
んでいる。また、家族が家事に協力的な家庭の方が、子供が喜んで手伝っている。と
親は思っている。
「決まったお手伝い」のある家庭は59.
1%。家族が家事に協力的な家庭の方がその割
合が高く、
「喜んで手伝ってくれる」割合も高かった。また、母親の職業により、お手伝いに
違いが見られた。
「決まったお手伝い」のある割合は、
「フルタイム」
「パート」では、
それぞれ
62.
1%、61.
3%であったが、
「専業主婦」は55.
9%と割合が少なかった。内容をみると、専
業主婦の家庭では「食器を運ぶ」が多かったが、
フルタイムでは「洗濯物をたたむ」
「ごみを
出す」が多かった。また、
「フルタイム」
「パート」では「子供が手伝ってくれると助かる」
「子
供との家事はとても楽しい」という回答の割合が高く、
フルタイムでは「しつけのため」
「手伝
いより勉強をしてほしい」は少ない傾向がみられた〔図7,
8〕。
決まったお手伝いの有る割合
決まったお手伝いの内訳
(%)
65
0
(%)
50
32
59.1
全体
19
食器運ぶ
33
43
<家族が家事に>
63.7
協力的
非協力的
23
22
25
23
風呂掃除
55.0
19
10
茶碗並べ
<母親の職業>
62.1
フルタイム
11
洗濯物たたむ
61.3
パート
9
10
17
全体
フルタイム
7
55.9
専業主婦
21
22
ごみを出す
7
パート
専業
11
5
図7 決まったお手伝い
手伝ってくれると
助かる
(%)
全体
49
42
子供との家事は
楽しい
(%)
8
29
8
33
53
喜んで手伝って
くれる
(%)
17 1 16
46
しつけのため
手伝いより勉強を
してほしい
(%)
(%)
35 4 10
44
38
8 5 26
62
6
28 3 12
41
37
10 6 21
66
7
<家族が家事に>
協力的
非協力的
55
45
37
46
9
25
53
54
13 1 17
20 1 14
52
40
41
4 8
47
37
39
6 4 31
59
6
<母親の職業>
37
フルタイム
57
37
6
パート
54
38
8
28
11
24
専業主婦
41
48
とてもそう思う
48
56
52
14 1 14
45
36
5 10
15 1 16
47
35
3 10
23 1 16
47
34
3 9
かなりそう思う
44
あまりそう思わない
図8 子供のお手伝いに対する気持ち
-5-
48
42
12 4 23
66
7
34
7
4 28
61
6
41
6 6 28
59
6
全くそう思わない
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● 手伝う子 はしっかりした生活習慣をもち、家庭での居心地がよく、将来像も明るい。
よくお手伝いをする子=「手伝う群」は、お手伝いの実施率はいずれの項目も高いが、
あ
まり手伝わない子=「手伝わない群」は、
「食器を運ぶ」程度しかしていない〔図9〕。手伝う
群は勉強時間が長く
(1時間以上
78.
1%)、
テレビの視聴時間が短い(3時間以上 19.
4
%)。一方、手伝わない群は勉強時間が短く
(1時間以上
時間以上
56.
6%)、視聴時間が長い(3
35.
5%)傾向がみられた〔 図10〕。家庭の雰囲気ではどの項目も、手伝う群>
>手伝わない群であり、特に「皆で家の仕事をする」については顕著な差がみられた〔図11〕。
また、お手伝いの効用、現在の自分に対する自己評価、将来像のほとんどの項目についても
手伝う群の方が「とてもそう思う」と回答する割合が高かった。特に、将来「よい父・母にな
れる」
「幸せな家庭がつくれる」についてはその差が大きく、将来の自分の家庭に対する明
るいイメージを抱いているものと推察された。
〔図12,13,14〕
「手伝う子」
「手伝わない子」のグルーピングに関しては深谷教授レポートP37参照
(%)
100
(%)
40
11
68
89
食後食器運ぶ
29
風呂掃除
6
72
1
39
11
47
75
自分の机まわり掃除
31
ごみを出す
7
45
1
18
10
34
茶碗や箸並べる
29
洗濯物干す
61
29
4
0
13
10
31
22
食事時テーブル拭く
25
食器を洗う
28
4
2
9
21
8
50
ご飯よそう
4
0
10
43
洗濯物たたむ
25
簡単な料理作る
16
12
20
26
食器を拭く
14
6
7
1
19
8
45
玄関靴揃える
4
みんなで使う
部屋掃除
39
7
15
34
1
6
全体
21
トイレ掃除
手伝う群
1
12
3
0
14
洗濯物しまう
27
朝新聞取る
15
2
1
中間群
3
手伝わない群
近所に回覧板
まわす
図9 手伝っている家事
-6-
13
1
0
KAO INFORMATION
テレビの視聴時間
勉強時間
(%)
全体 10.2 15.6 14.4 18.5 9.4
手伝う群
19.4
21.3
(%)
31.8
31.1
13.9 17.6 8.3 19.4
中間群 7.8 13.4 14.4
20.2 10.5
手伝わない群 7.5 14.0 11.4 18.9 12.7
30分以下
21.9
33.7
29.8
28.0
1時間
1.5時間
図10
2.3
9.8
14.4
18.6
30.0
43.4
35.5
5.4
15.8 9.2 9.5
29.1
17.1 9.1
24.1
2時間
3.9
10.3
3.5
13.2 6.6 9.6
2.5時間
3時間以上
生活習慣
(%)
100
73
83
食事がおいしい
62
72
54
親類と仲が良い
54
46
52
皆が幸せ
50
47
52
61
63
(%)
70
60
家族の仲が良い
49
46
32
皆で助け合う
52
幸せな家庭
をつくれる
67
52
37
48
28
50
21
27
38
近所の人と仲が良い
25
21
26
皆で家の仕事をする
11
61
思いやりのある
人になる
50
40
44
59
よく気のつく
人になる
48
22
42
36
12
54
63
家にいると楽しい
勉強に役立つ
51
50
〔とてもそう思う〕と回答した子供の割合
全体
中間群
図11
17
9
10
〔とてもそう思う〕と回答した子供の割合
手伝う群
手伝わない群
全体
中間群
家庭の雰囲気
図12
-7-
手伝う群
手伝わない群
お手伝いの効用
KAO INFORMATION
あなたはどういうタイプの子供ですか
(%)
60
36
友達が多い
頑張る
23
21
22
優しい
17
19
21
スポーツが得意
20
16
13
18
11
12
18
正直
勇気がある
勉強が得意
16
(%)
60
好きな人と
結婚できる
48
34
25
27
どんな大人になれそうか
図13
12
16
27
17
34
32
29
23
仕事面で
成功する
社会的に有名
になれる
27
お金持ちに
なれる
55
33
25
つきたい仕事
につける
29
43
25
37
幸せな家庭
をつくる
32
41
31
22
18
9
10
8
8
13
13
11
14
「きっとできる」と回答した子供の割合
「とてもそう思う」と回答した子供の割合
中間群
7
良い父・母
になれる
40
11
14
17
13
11
全体
12
手伝う群
手伝わない群
全体
中間群
自己評価
図14
手伝う群
手伝わない群
将来像
手伝う子どもは生活習慣がしっかりした明るい自己像をもっていた。手伝いは子ども
個人というより子どもの背景に安定した家庭があるのを感じる。安定した家庭の中で、
親に支えられ、
そうした雰囲気に囲まれて家事を手伝っている子どもの姿を感じる。そう
した意味では、
「手伝い」は家庭が充実し安定しているかを示すバロメーターの意味を
果たしている。端的な言い方をするなら、子どもの手伝いはその家庭のしつけがうまく
いっているかどうかを反映している。
親の立場からすると、子どもに手伝ってもらう必要はないかもしれない。しかし、子ど
ももいずれ家庭を持つことになる。そうしたとき、家事力をもっていないと家庭を支えるの
は難しくなる。そうした意味では、子どもの将来のためにきちんと家事を手伝わせるのが
親の使命であろう。それと同時に、家庭は親だけでなく、みんなで支えていくものという
感覚を子どもに持たせるのも親の役割であろう。
「たかが手伝い」ということも可能だが、
「されど手伝い」で、本調査は、手伝いが子どもの自画像の中核を支えることを明らかに
した。それだけに、親はもう少し自信をもって子どもに手伝わせて欲しいと思った。
東京成徳大学教授
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教育学博士
深谷昌志