3 教育支出額は 女の子>男の子

3 教育支出額は 女の子>男の子 〜芸術活動の費用に大きな差〜
Benesse 教育研究開発センター 研究員 佐藤暢子
学校外教育にお金をかけてもらっているのは女の子
子育てにお金がかかるのは、男の子と女の子、どちらだと思いますか ? 私たちが行った「学校
外教育活動に関する調査」によると、幼児から高校 2 年生までの学校外教育活動に限っていえば、
答えは「女の子」です。
3 歳〜 17 歳の子どもをもつ母親に、学習・スポーツ・芸術の 3 分野で、1 人の子どもにつき、月
あたりいくら支出しているかをたずねてみました。男の子の平均支出額は 16,000 円。対して女
の子は 17,400 円と、1,400 円ほど上回りました。
その内訳をみてみると、学習活動では男女差がほとんどなく、スポーツ活動では男の子が少し上
回っています。芸術活動においては、女の子は 3,300 円、男の子は 1,000 円で、2,000 円以上の
開きがあり ( 図 3 − 1)、この差が女の子の学校外の教育支出額を押し上げています。また、定期
的に芸術活動を行っている比率についても、男の子が 19.2% であるのに対して、女の子は
46.1% と大きく上回りました ( 図 3 − 2)。
では、なぜ教育費にこのような男女差が生じるのでしょうか ?
子どものスポーツ活動と芸術活動のそれぞれについて、選ぶ際に親が重視する点をたずねたとこ
ろ、いずれも「子どもが楽しんでいる」が 9 割を超えました。この回答には子どもの性別による
違いはありませんでした ( 図 3 − 3、4)。芸術活動を楽しむ女の子がより多いから活動率が上回っ
ている、と解釈していいのでしょうか ?
少し別の角度からもみてみましょう。
男の子には「芸術よりも勉強を」と願う母親
子どもの芸術活動に関する母親の意識は、子どもの性別によってやや異なっているようです。
「子どもにとって音楽や芸術の活動は必要だ」という考えに対して、「とてもそう思う」と答えた
母親は子どもが男の子の場合19.9%ですが、
女の子の場合には30.3%と10ポイント以上も上回っ
──
ています。また、
「子どもが音楽や芸術に触れる機会を増やしたい」では、男の子の場合 27.5%
にとどまったのに対し、女の子では 40.2% にのぼります ( 図 3 − 5)。音楽などの芸術に触れてい
る比率は女の子のほうが高いはずなのに、さらにその機会を増やしたいと願っている母親は多い
のです。
逆に、
「音楽や芸術の活動をするよりももっと勉強をしてほしい」では、男の子が女の子をわずか
に上回っており、お母さんたちの本音を垣間みた思いがします ( 図 3 − 6)。
ちなみに、スポーツ活動に対しては、反対に、男の子の場合に肯定的な考えをもつ母親が多くなっ
ています。たとえば、
「子どもにとって運動やスポーツは必要だ」という考えに対して、「とても
そう思う」のは、子どもが男の子の場合は 64.5% で、女の子の 55.2% を上回ります。「子どもが
身体を動かす機会を増やしたい」という項目でも、男の子の母親のほうが「とてもそう思う」比
率が高くなっています ( 図 3 − 7)。
子どもたちがどんな活動を行うかは、本人たちの興味や好みを尊重する、というのが母親たちの
基本姿勢でありつつも、
「男の子だから……」
「女の子だから……」という微妙な心理も今回の調
査からはうかがえます。
──
(1)学校外教育に、
よりお金をかけてもらっているのは女の子
図3−1 子どもの1か月あたりの学校外教育活動の費用(性別)
0
2,000
4,000
スポーツ活動
の費用
男子
6,000
芸術活動
の費用
4,200
(7,725)
(円)
10,000 12,000 14,000 16,000 18,000
8,000
教室学習活動
の費用
家庭学習活動
の費用
3,400
男子
16,000円
7,400
女子
17,400円
1,000
女子
3,100
(7,725)
3,300
3,500
7,500
図3−2 芸術活動の活動率(学校段階別 性別)
0
10
20
就学前
男子
30
女子
小学生
男子
19.2%
18.1
女子
49.7
(3,090)
中学生
男子
(1,545)
16.8
女子
51.5
(1,545)
高校生
男子
(1,030)
全体
34.9
(2,060)
(3,090)
(%)
60
50
22.5
(2,060)
男子
40
合計
女子
46.1%
19.9
女子
50.1
(1,030)
注1 芸術活動の活動率は「この1年間で、お子様が定期的にしていた音楽活動や芸術活動はありますか」という設問に対して、
「その他の音楽・芸術
活動」も含む15の選択肢のうち、いずれかを選択した%(図3−2)。
注2 ( )内はサンプル数(図3−1、2)。
子どもの学校外教育活動に月あたりいくらかけているかを、性別に示しました ( 図 3 − 1)。学習
活動については、家庭学習活動、教室学習活動の費用を合わせて、男子が 10,800 円、女子が
11,000 円と、200 円しか差がありません。
しかし、スポーツ活動では、男子が 4,200 円であるのに対し、女子は 3,100 円と、男子のほうが
1,100 円高くなっており、逆に、芸術活動では男子 1,000 円に対し、女子 3,300 円と、女子が
男子の 3 倍の費用をかけていることがわかります。
芸術活動のみにしぼって、定期的に活動を行っているかを性別に示したのが図 3 − 2 です。どの
学校段階でも、男子よりも女子の活動率が高くなっており、とくに中学生では、男女の差が 34.7
ポイントと一番大きくなっています。
──
(2)重視するのは、
「子どもが楽しんでいる」こと
図3−3 【音楽・芸術活動】習い事を選ぶ際の重視点(性別)
0
20
40
60
80
91.9
94.2
子どもが楽しんでいる
51.3
58.2
59.0
60.1
家から近い
費用が安い
16.4
20.6
成果が目に見える
6.9
43.8
4.6
4.4
0.9
1.1
0.6
0.8
4.5
2.0
有名な会社が経営している
その他
特にない
51.1
43.1
44.6
子どものレベルに合っている
一定の時間、子どもの面倒を見てくれる
59.6
18.5
6.6
7.2
友だちがいっしょに通っている
4.5
■ 男子(7,725)
■ 女子(7,725)
20
40
60
子どもが楽しんでいる
57.8
61.8
61.2
64.3
家から近い
費用が安い
16.1
16.5
成果が目に見える
その他
特にない
(%)
全体
100
95.6
95.6 95.6
59.8
62.8
56.4
13.1
55.2
54.0
子どものレベルに合っている
0.8
0.9
1.5
1.1
0.9
0.8
0.7
16.3
14.1
12.2
一定の時間、子どもの面倒を見てくれる
80
57.6
55.3
指導者が信頼できる
友だちがいっしょに通っている
1.0
3.2
図3−4 【スポーツ活動】習い事を選ぶ際の重視点(性別)
0
93.0
54.7
48.5
53.6
指導者が信頼できる
有名な会社が経営している
(%)
全体
100
7.0
6.1
54.6
6.5
■ 男子(7,725)
■ 女子(7,725)
0.9
1.3
0.9
注1 複数回答(図3−3、4)。
注2 ( )内はサンプル数(図3−3、4)。
母親が子どもの習い事を選ぶ際に、何を重視しているかをたずねました。図 3 − 3 は芸術活動、
図 3 − 4 はスポーツ活動に関してです。図 3 − 3、4 ともに、「子どもが楽しんでいる」が 90%
を超え、一番重視されていることがわかります。
また、
「費用が安い」
「家から近い」
「指導者が信頼できる」「子どものレベルに合っている」など、
多くの母親が選択した理由は図 3 − 3、4 でほぼ重なっており、どちらも男女による差がほとん
どありません。
──
(3)女の子を熱心に芸術に向かわせる母親たち
図3−5 子どもの芸術活動に関する母親の意識(性別)
0
10
20
30
40
50
60
■ 男子(7,725)
■ 女子(7,725)
19.9
子どもにとって音楽や
芸術の活動は必要だ
(%)
70
30.3
27.5
子どもが音楽や芸術に
触れる機会を増やしたい
40.2
図3−6 子どもの芸術活動に関する母親の意識(学校段階別 性別)
音楽や芸術の活動をするよりももっと勉強をしてほしい 0
10
20
30
体
全
男子
33.9
(7,725)
女子
29.6
(7,725)
就学前
男子
23.4
(2,060)
女子
(2,060)
(%)
50
40
22.0
小学生
男子
34.3
(3,090)
女子
28.7
(3,090)
中学生
男子
42.3
(1,545)
女子
37.2
(1,545)
高校生
男子
41.5
(1,030)
女子
36.1
(1,030)
注1 図3−5は「とてもそう思う」の%、図3−6は「とても+まあそう思う」の%。
注2 ( )内はサンプル数(図3−5、6)。
母親の子どもの芸術活動に関する意識は、子どもの性別によって違いがあるのでしょうか。「子ど
もが音楽や芸術に触れる機会を増やしたい」
「子どもにとって音楽や芸術の活動は必要だ」と考え
る母親の比率は、子どもが女子の場合のほうが男子の場合よりもそれぞれ 10 ポイント以上高く
なっており、芸術活動では女子への期待のほうがより大きいことがうかがえます ( 図 3 − 5)。
一方、男子の母親はどの学校段階においても、子どもに対して「音楽や芸術の活動をするよりも
もっと勉強をしてほしい」と思っていることがわかります ( 図 3 − 6)。また、それは学校段階が
上がるにつれて、より多くの母親がもつようになる意識であることもわかります。
──
(4)男の子には「もっとスポーツを」
図3−7 子どものスポーツ活動に関する母親の意識(性別)
0
10
20
30
40
50
(%)
70
60
64.5
子どもにとって運動や
スポーツは必要だ
55.2
62.6
子どもが身体を動かす
機会を増やしたい
52.8
■ 男子(7,725)
■ 女子(7,725)
注1 「とてもそう思う」の%。
注2 ( )内はサンプル数。
芸術活動に関しては、
女子の母親のほうが熱心であることがわかりましたが(図3−5)、一方スポー
ツに関しては、男子の母親のほうが熱心に子どもにその機会を与えたいと考えていることがわか
ります ( 図 3 − 7)。
「子どもにとって運動やスポーツは必要だ」
「子どもが身体を動かす機会を増やしたい」という考
えに対して、
「とてもそう思う」母親の比率は、いずれも女子より男子のほうが、約 10 ポイント
高くなっています。
学校外教育活動については、子どもの意思を一番に尊重しながらも、女子には音楽・芸術活動を、
男子にはそれよりは勉強やスポーツ活動をと、子どもの性別によって親の意識に違いが出ている
ことが、費用支出や、さまざまな質問への回答から垣間みられます。子どもの将来への期待にも
性差があるのかもしれません。
──