甲状腺がんについて知っておいてほしい 切なこと

甲状腺がん について
知っておいてほしい大切なこと
監修:伊藤病院 学術顧問/帝京大学医学部 名誉教授・客員教授
高見 博 先生
甲状腺がん について
知っておいてほしい大切なこと
目次
甲状腺がんとは
・・・・・・・1
甲状腺がんの検査・診断
・・・・・・・2
甲状腺がんの治療方針
・・・・・・・3
甲状腺がんの治療法
・・・・・・・4
定期的な検査の重要性
・・・・・・・6
甲状腺がんとは
甲 状 腺は『 のどぼとけ』の 下にある臓 器で 、蝶 が 羽を広げたように左 右
に分かれています。
にゅう とう
甲状腺がんは甲状腺にがんができたもので、その特徴により、乳頭がん、
ろ
ほう
ずい よう
み ぶん か
濾胞 がん、髄様 がん、未分化 がんの 4つのタイプに大きく分類されます。
タイプによってそれぞれに合った治 療 法 が 選 択されます。
甲状 腺 がんの4つのタイプと特 徴
乳頭
がん
甲状腺がんの 90% を占めるがんで、症状がないことがほとんどです。
多くはゆっくりと進行し、リンパ節へ転移することがありますが、手術を
行うことで治療後の経過は良いとされています。稀に進行の速い転移
や再発がみられることがあります。
濾胞
がん
甲状腺がんの約 5% にみられ、症状がないことがほとんどです。肺や骨
などに転移することがありますが、早期に治療をすれば、治療後の経過
は良いとされています。稀に進行の速い転移や再発が見られることが
あります。
髄様
がん
甲状腺がんの約 1~2% にみられ、このうち 3 分の 1 は遺伝が関係して
起こります。乳頭がんや濾胞がんに比べるとやや進行が速く、肺や肝臓
へ転移することもあります。
未分化
がん
甲状腺がんの約 1~2% にみられる稀なタイプですが、進行が非常に急
速で、甲状腺周囲に広がったり、他の臓器に転移しやすく、治療後の経
過は不良です。
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甲状腺がんの検査・診断
甲状腺がんは自覚症状がないことが多く、甲状腺にしこり(結節)が見つ
かった場 合 、良 性か 悪 性か の 判 断 が 第 一 歩となります。まずはじめに行
せん
し
きゅう いん
さい ぼう
しん
う触 診( 手で 首を触る)のほか 、超 音 波(エコー)検 査や穿 刺 吸 引 細 胞 診
(針で細胞を採取し、細胞を顕微鏡で調べる)などにより、良・悪性の判断
とどのタイプの甲状腺がんかを判断します。がんと診断された場合、がん
と周囲の臓器の状態や転移の有無などのさらに詳しい情報を得るために、
必 要に応じてシンチグラフィー検 査( 放 射 性 物 質を用 いた検 査 )や C T 検
査を行 い 、必 要に応じて M R I 検 査などを行 います。
甲状 腺 がんの検 査・診 断 の流 れ
甲状腺にしこり(結節)を発見
良・悪 性 の 判 断
甲 状 腺 がん の
タイプの 判 断
● 触診
● 超音波(エコー)検査
● 穿刺吸引細胞診
● 血液検査 など せん
し
きゅう いん
さい ぼう しん
がんと診断された場合
さらに 詳しい
情 報 を得 る
2
シンチグラフィー検査
● ● CT 検査
● MRI 検査 など
甲状腺がんの治療方針
甲 状 腺 がんの 治 療 の 中 心 は 手 術で あり、必 要に 応じて 放 射 線 治 療 や薬
物 療 法なども行 います。また最 近では 、分 子 標 的 治 療 薬を用 いた新しい
治 療 法も登 場し、治 療 効 果 が 期 待されています。
甲状 腺 がんの主な 治 療 方針
乳頭がん
濾胞がん
髄様がん
未分化がん
手術
(全摘出)
手術
手術
手術
(部分切除)
放射性ヨウ素
内用療法
分子標的薬治療、放射線外照射、
ホルモン療法、薬物療法
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甲状腺がんの治療法
手 術
よう
せつ
じょ
手 術 の 方 法 に は 、葉 切 除( がんが ある 側 の 甲 状 腺と峡 部 を 切 除 )、
あ ぜん てき
ぜん てき しゅつ
亜全摘(大部分の甲状腺を切除)、全摘出(甲状腺を全部切除)の3種
類があり、がんの位置や大きさ、数、進行の度合いなどに応じて選択
されます。
葉切除
右葉
亜全摘
全摘出
大部分の
甲状腺を切除
甲状腺を
全部切除
左葉
峡部
がん
がんがある側の
甲状腺と峡部を切除
甲状腺外科学会編「甲状腺癌取扱い規約 2015 年 11月(第 7 版)」
(金原出版)より改変
ホル モン療 法 ( TSH 抑 制 療 法 )
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺に働きかけて甲状腺ホルモン
を分泌させますが、甲状腺がん細胞にも働きかけ、がんが増殖して
しまうことがあります。 甲 状 腺 がんの 治 療により甲 状 腺ホルモンが
不足すると、それを補うため TSHが盛んに分泌されるため、手術後に
甲 状 腺ホルモン薬を服 用して TS H の 分 泌を抑え、再 発を予 防する
場合があります。
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放射線治療
甲 状 腺 がんの 放 射 線 治 療には 、放 射 性ヨウ素 内 用 療 法と放 射 線 外
照 射 があります。
放 射 性 ヨウ 素 内 用 療 法 は 、ヨウ 素 が 甲 状 腺 組 織 に 集 ま る 性 質 を
応 用した もの で 、甲 状 腺 を 全 摘 出した 後 の 乳 頭 がんや 濾 胞 がんの
治療に用いられます。カプセルに入れた放射性ヨウ素を服用すると
甲状腺がんに集まり、そこで放射線を出してがん細胞を攻撃します。
放射性ヨウ素内用療法には、甲状腺の全摘出後に残った正常組織を
完 全に除 去する目 的で 行われるアブレーションと再 発・ 転 移 がんに
対して行われる大 量 療 法 があります。
放 射 線 外 照 射 は 、体 の 外 から放 射 線 を 当てる 方 法で 、骨に 転 移 が
ある場 合 等に、痛みを抑える目 的で 行われることがあります。
分 子標 的 薬 治 療
手 術 や 放 射 性ヨウ素 内 用 療 法 を 行って も、甲 状 腺 がんが 進 行して
しまう場 合 が あります。 多くの 場 合 は 進 行 は ゆっくりですが 、中に
は 急 速に進 行することがあります。そのような場 合には 、分 子 標 的
治 療 薬 と いう 新しいタイプ の 薬 を 用 い た 治 療 が 行 わ れ ま す。これ
まで の 抗 がん剤 は がん細 胞 だけで なく正 常 な 細 胞 も攻 撃してしま
い ま す が 、最 近 開 発 さ れ た 分 子 標 的 治 療 薬 は が ん 細 胞 の 増 殖 に
か か わるたんぱく質 のみを狙 い 撃ちすることができます。
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定期的な検査の重要性
多くの 甲 状 腺 がんは 比 較 的 ゆっくり進 行 する た め『 おとなしい がん』と
いうイメージ を お 持 ち の 方 も い る か と 思 い ま す。 もち ろん 生 涯 再 発し
な いことが 多 い の で すが 、な か に は 症 状 が な い まま 急 速 に 進 行してし
まう 場 合 もありま す。治 療 で 十 分 な 効 果 を 得 る た め に は 、適 切 な 治 療
開 始 のタイミング を 逃 さ な いこと が 重 要 で す。 そ の た め 、症 状 が なく
て も、定 期 的 な 検 査 に より、再 発・ 転 移 の 有 無 な ど を 確 認 すること が
とて も大 切 で す。
乳 頭 がんや濾 胞 がんでは 、治 療 後10~2 0 年 経ってから再 発することも
ありますので 、最 低で も10 年 、できれば 生 涯にわたって定 期 的に検 査
を 行うの が 望ましいとさ れて います。
検 査 の 頻 度として は 、手 術 後 1~2 年 間 は 1~3ヵ月ごと、手 術 後3~
5年 間 は 6ヵ月ごとに 検 査 をする の が 一 般 的 で す。
LEN1044AKA
2016年5月作成