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平成23年度
政策課題研究<四王寺塾>研究報告書
増加する空き家の活用
~空き家をなくして住みよいまちに~
第1班
福岡県
古賀
誠
筑後市
江崎
紀彦
大牟田市
三浦
雅善
岡垣町
山形
英之
宗像市
中脇
貴裕
<
目
次
>
はじめに………………………………………………………………………………………
3
第1章
4
空き家の現状と課題………………………………………………………………
第1節
増加する空き家………………………………………………………………
4
第2節
空き家の将来推計……………………………………………………………
8
第3節
空き家の実態…………………………………………………………………13
第4節
空き家がもたらす影響・問題………………………………………………17
第5節
空き家の区分と施策の方向性………………………………………………19
第2章
先進自治体における取り組み……………………………………………………20
第1節
空き家を「活用」する………………………………………………………20
第2節
空き家を「処分」する………………………………………………………36
第3節
空き家を「維持」する………………………………………………………39
第3章
福岡県市町村アンケート調査……………………………………………………40
第4章
課題の整理…………………………………………………………………………42
第1節
空き家の関係者と各事業における課題……………………………………42
第2節
志向の変化に応じて求められる住まいの姿………………………………45
第5章
空き家の将来像及び基本目標、政策提言………………………………………47
第1節
空き家を含めた既存住宅の将来像…………………………………………47
第2節
基本目標………………………………………………………………………48
第3節
施策の展開(政策提言)……………………………………………………49
第4節
協働による空き家活用の推進及び体制づくり……………………………57
第5節
目標値及び実施スケジュール………………………………………………58
参考資料1
生活圏毎の現状………………………………………………………………60
参考資料2
福岡県市町村アンケート調査………………………………………………67
参考資料3
寄 稿 コ ラ ム『 混 乱 の 中 で 生 き 残 る 地 方 自 治 体 の「 政 策 」と「 対 策 」』… 7 9
次世代システム研究所所長
-2-
岡本
久人
氏
はじめに
総 務 省 が 発 表 し た わ が 国 の 人 口 は 平 成 22 年 10 月 1 日 現 在 で 1 億 2,805 万 7,352 人 と
な っ て お り 、 平 成 17 年 か ら 横 ば い で 推 移 し て い る 。 ま た 、 年 齢 別 人 口 を 平 成 17 年 と 比
較 す る と 、15 歳 未 満 人 口 は 71 万 8 千 人 減 少 し 、15 か ら 64 歳 人 口 は 306 万 1 千 人 減 少 し
て い る 。逆 に 65 歳 以 上 人 口 は 357 万 4 千 人 増 加 し て い る 。こ れ ら の 数 値 か ら 、今 後 の 日
本の総人口は減少していくことが予想されている。
一方で全国の住宅総数は依然として増加傾向にあり、近年では、世帯数の増加速度を
総住宅戸数の増加速度が上回ることで、空き家※の発生を伴う新たな社会問題となって
き て い る 。総 務 省 で 5 年 に 一 度 実 施 す る「 住 宅・土 地 統 計 調 査 」に よ る と 、平 成 20 年 時
点 で の 全 国 の 空 き 家 率 は 13.1% と 平 成 15 年 調 査 を 0.9% 上 回 り 、過 去 最 高 と な っ て い る 。
この背景には戦後の住宅不足を解消するため国家政策として住宅建設が推進された
影 響 が あ り 、結 果 昭 和 48 年 に は 全 て の 都 道 府 県 で 住 宅 数 が 世 帯 数 を 上 回 る 状 況 と な っ た 。
その後も総世帯数を上回る総住宅戸数の増加が続き、空き家率は一貫して上昇傾向にあ
る。そしてこの空き家率の増加は、わが国の住宅・土地利用に関して問題を引き起こす
可能性があることをご存じだろうか。
具体的に言えば、各自治体では本格的な「住宅余剰時代」を迎え、地域内に空き家が
多数発生することで、地域活力及び治安の低下、地域のイメージ悪化など様々な問題を
抱えることになる。
わが国は先進国の中でも先陣を切って人口減少を体験することになるが、同じように
人口減少の激しい国の一つに旧東ドイツがある。旧東ドイツの事例を挙げると、人口減
少及び空き家の増加、未利用地の発生などにより上水道においては、水利用の減少によ
る水質悪化だけでなく、運営効率の低下や管理費用の上昇が起こっている。また、下水
道でも、汚水流量の減少により汚水が滞水し悪臭や地下水汚染を引き起こす問題等が発
生している。統合後のドイツで様々な取り組みがなされつつも、問題が完全に解決され
ていない。
わが国でもこれまでは、住宅は個人の資産であり、空き家問題を解決するための対応
に つ い て は 所 有 者 等 が 主 体 性 を 持 っ て 行 う こ と と さ れ て き た 。し か し 、空 き 家 の 増 加 は 、
私たちの暮らしの中に新たな社会問題を引き起こす可能性が非常に高く、行政もこの問
題について議論し、早急に対策を立てることが喫緊の課題である。
本研究では、福岡県内の空き家の実態及び今後の予測、先進自治体の取り組み状況を
研究し、経済・福祉・教育・地域コミュニティなど総合的視点から、県内の自治体で空
き家対策について検討し、活用するための提言を行う。
※この報 告 書 でいう「空 き家 」とは、総 務 省 が行 う「住 宅 ・土 地 統 計 調 査 」の定 義 と同 一 とし、一 戸 建 、アパ
ートの種 別 を問 わず ①ふだん人 が住 んでいない住 宅 (別 荘 などの二 次 的 住 宅 ) ②たまに寝 泊 りしてい
る人 がいる住 宅 ③賃 貸 、売 却 のために空 き家 になっている住 宅 ④上 記 以 外 の人 が住 んでいない住
宅 (転 勤 ・入 院 などのため長 期 にわたって不 在 の住 宅 、取 り壊 すことになっている住 宅 ) ⑤建 築 中 の住
宅 とする。ただし、「空 き家 率 」は、住 宅 総 数 に対 する①から④までの住 宅 戸 数 の比 率 をいう。
-3-
第1章
第1節
空き家の現状と課題
増加する空き家
わ が 国 の 空 き 家 数 は 、 一 貫 し て 増 加 し 、 平 成 20 年 ( 2008 年 ) に 空 き 家 率 ( 総 住 宅 数
に 占 め る 空 き 家 の 割 合 ) は 過 去 最 高 の 13.1% と な っ て い る 。
< 図 1> 全 国 の 空 き 家 数 ・ 空 き 家 率
福 岡 県 で も 空 き 家 率 は 平 成 20 年 に 過 去 最 高 の 13.7% と な っ た 。
ま た 、 総 住 宅 数 と 総 世 帯 数 を 比 較 す る と 、 昭 和 43 年 に 住 宅 数 が 世 帯 数 を 上 回 り 、 以
降は住宅数が充足している状態が続いている。
1963
1968
1973
1978
198 3
198 8
199 3
199 8
200 3
< 図 2> 福 岡 県 の 空 き 家 数 ・ 空 き 家 率
-4-
200 8
福 岡 県 の 空 き 家 率 は 平 成 5 年 か ら 15 年 ま で は 全 国 平 均 を 下 回 っ て い た が 、平 成 20 年
は 全 国 よ り も 0.6 ポ イ ン ト 上 回 っ た 。
< 図 3> 空 き 家 率 の 推 移 の 比 較
福岡県内の自治体別の空き家率は以下のようになっている。空き家率が高い自治体は、
豊 前 市 ( 18.0%) 苅 田 町 ( 17.3%) 宮 若 市 ( 17.1%) 飯 塚 市 ( 16.5%) と な っ て い る 。 一 方
空 き 家 率 が 低 い 自 治 体 は 、大 刀 洗 町( 6.1%)筑 前 町( 6.6%)岡 垣 町( 8.0%)古 賀 市( 8.1%)
那 珂 川 町 ・ 広 川 町 ( 8.2%) で あ る 。
< 図 4> 福 岡 県 内 自 治 体 別 空 き 家 率
-5-
資 料 : 平 成 20 年 住 宅 ・ 土 地 統 計 調 査
福 岡 県 の 新 設 住 宅 の 着 工 戸 数 の 推 移 は 5 万 戸 前 後 で 推 移 し て い た が 、 平 成 17 年 に 発
生した耐震強度偽装事件を受け建築基準法が強化されたことにより確認申請が滞った平
成 19 年 、リ ー マ ン・シ ョ ッ ク が 起 こ っ た 平 成 20 年 と 低 調 な 状 態 で あ る 。平 成 21 年 で は
28,500 戸 と 過 去 最 低 と な っ て い る 。も と も と 持 家 住 宅 は 減 少 傾 向 で あ っ た が 、貸 家 及 び
分譲住宅の落ち込みが大きくなっているのが特徴的である。
< 図 5> 福 岡 県 新 設 住 宅 着 工 数 の 推 移
新 設 住 宅 の 着 工 戸 数 が 伸 び 悩 む 中 、福 岡 県 全 体 の 住 宅 流 通 量 の 合 計( 新 設 + 中 古 )に
占 め る 中 古 住 宅 の 割 合 は 、 平 成 20 年 で 15.1% を 占 め こ れ ま で で 最 も 高 い 。 持 家 と し て
取 得 し た 中 古 住 宅 の 数 は 、 同 年 に 約 8,400 戸 と な り 概 ね 増 加 傾 向 に あ る 。
< 図 6> 持 ち 家 と し て 取 得 し た 中 古 住 宅 数 、 全 流 通 数 に 占 め る 中 古 住 宅 の 割 合 の 推 移
-6-
福 岡 県 の 世 帯 数 は 、一 貫 し て 増 加 傾 向 に あ っ た が 、平 成 22 年 は 初 め て 減 少 し 208 万 6
千世帯となっている。
1世帯当たりの人数
は 、 平 成 2 年 に 3.0 人
を割り込むと、その後
も 減 少 を 続 け 、平 成 22
年 で は 2.38 人 と な っ
ている。
< 図 7> 福 岡 県 の 世 帯 数 の 推 移
次 に 、 福 岡 県 内 に お け る 市 町 村 別 の 世 帯 数 の 状 況 に つ い て は 、 平 成 17 年 か ら 平 成 22
年 の 5 年 間 で の 県 内 平 均 は「 4.9% 」の 増 加 と な っ て お り 、依 然 と し て 増 加 傾 向 に あ っ た 。
世 帯 数 が 減 少 し て い る の は「 14 市 町 村 」で あ る の に 対 し て 、増 加 し て い る の は「 46 市 町
村」となっている。
人口は減少傾向と
なった市町村でも、
親世帯からの世帯分
離等による1世帯当
たりの人数の縮小に
より、世帯数は増加
となった市町村が存
在している。
< 図 8> 市 町 村 別 の 世 帯 数 増 減 の 状 況 ( H17.9~ H22.9)
-7-
第2節
空き家の将来推計
将来の総住宅戸数及び空き家数を正確に予測することは、国の景気対策や耐震規制の
変化、社会変化に伴う地域的な住宅需要の偏在化などが起因して、困難であるとされて
いる。
ここでは、公的機関による世帯数及び高齢者世帯数の推計と、これまでの住宅着工戸
数等をもとに、空き家の将来推計について紹介する。
< 図 9> 世 帯 数 の 将 来 推 計 ( 全 国 ・ 福 岡 県 )
世 帯 数 に つ い て は 、全 国 、福 岡 県 と も に 平 成 27 年 を ピ ー ク に 減 少 に 転 じ る と 推 計 さ れ
ている。
(千世帯)
1,000
推 計 値
14.8
13.9
12.4
800
10.6
9.5
600
400
200
10.5
8.3
7.5
159
159
9.1
189
182
12.5
12.2
253
248
212
203
14
12
12.0
243
(%)
16
10
8
229
238
232
6
4
200
237
282
173
266
143
H12
H17
H22
H27
H32
H37
2
0
0
その他の高齢世帯
世帯主が65歳以上の夫婦のみ世帯
65歳以上の単身世帯
一般世帯総数に占める割合(世帯主が65歳以上の夫婦のみ世帯)
一般世帯総数に占める割合(65歳以上の単身世帯)
資 料 : 平 成 17 年 ま で は 国 勢 調 査 、 平 成 22 年 以 降 は 日 本 の 世 帯 数 の 将 来 推 計 ( 国 立 社 会 保 障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 )
< 図 10> 高 齢 単 身 ・ 夫 婦 世 帯 の 推 移 と 推 計
-8-
特 に 、 図 10 の と お り 65 歳 以 上 の 単 身 世 帯 も 増 加 す る 推 計 と な っ て お り 、 子 ど も と 同
居するため元の居宅を離れたり、高齢者向け施設へ入所したりするなど、空き家となる
危険性の高い要因が様々想定される。
よって、今後の高齢化率の上昇に伴って空き家率も上昇していくことが推計される。
福岡
< 図 11> 自 家 用 空 き 家 率 と 高 齢 化 率 の 相 関 関 係
なお、福岡県の高齢者人口は下図のとおり、一貫して増加する推計となっている。
1975
1980
1985
1990
199 5
200 0
200 5
201 0
201 5
202 0
< 図 12> 福 岡 県 の 人 口 と 高 齢 化 率 の 推 移
-9-
202 5
203 0
203 5
野 村 総 合 研 究 所 が 2009 年 10 月 の 『 知 的 資 産 創 造 』 に て 発 表 し た デ ー タ を 紹 介 す る 。
そ れ に よ る と 、 住 宅 戸 数 の 純 増 が 今 後 も 続 く と 仮 定 し た 場 合 、 2040 年 に は 空 き 家 率 が
40% を 超 え る こ と に な る 。 ま た 、 住 宅 着 工 戸 数 が 現 状 の 半 分 、 滅 失 戸 数 が 現 状 維 持 と 仮
定 し た 場 合 で も 2040 年 ま で に 空 き 家 率 が 30% を 超 え る こ と に な る 。
< 図 13> 住 宅 着 工 戸 数 シ ナ リ オ 別 の 将 来 の 空 き 家 率 推 移
資 料 : 知 的 資 産 創 造 /2009 年 10 月 号 よ り
- 10 -
住宅需要については、世帯数の動向が大きく影響することから、今後の世帯数の推計
を も と に 市 町 村 の 住 宅 の 状 況 に つ い て 考 察 し た 。将 来 人 口 の 推 計 は 、
( 財 )九 州 経 済 調 査
協 会 の 推 計 値 を 利 用 し 、 昭 和 50 年 か ら 平 成 17 年 ま で の 1 世 帯 当 り 人 員 の 実 績 値 か ら 、
平 成 22 年 以 降 の 1 世 帯 当 り 人 員 を 推 計 し 、将 来 の 人 口 と 1 世 帯 当 り 人 員 の 関 係 か ら 世 帯
数の推計を行った。
その結果を用いて、福岡県下の市町村を 3 つのグループに分類した。
グ ル ー プ A:平 成 22 年 か ら 概 ね 15 年 後 以 降 に 世 帯 数 の 減 少 が 予 想 さ れ る 市 町 村( 福
岡 市 周 辺 地 域 ) ・・・10 市 町 弱 が 該 当
グ ル ー プ B : 平 成 22 年 か ら 概 ね 5 か ら 10 年 後 に 世 帯 数 の 減 少 が 予 想 さ れ る 市 町 村
( 福 岡 市 近 郊 ま た は 比 較 的 交 通 利 便 性 の 高 い 地 域 )・・・20 市 町 弱 が 該 当
グループC:既に世帯数が減少、または概ね 5 年以内に世帯数の減少が予想される
市 町 村 ( 上 記 以 外 の 地 域 ) ・・・半 数 以 上 の 自 治 体 が 該 当
(1)グループAの市町村について
世 帯 数 の 伸 び が 鈍 化 し て お り 、概 ね 15 年 後 に は ほ と ん ど の 市 町 村 で 世 帯 数 の ピ ー ク
を迎えることが予想される。このグループ
の市町村では、住宅のタイプは民営借家の
割合が非常に高い。民営借家(一戸建、共
同住宅含む)は、土地所有者の財産の有効
活用や家賃による収入確保の期待など経済
活動の一部として供給されるケースが高く、
供給の動向を予想することは困難である。
築年数が経過した賃貸住宅が敬遠される傾
向にある中、今後、賃貸需要層の中心であ
る若年世帯等の世帯数減少が始まれば、古
い民営借家を中心に更に空き家が増加する
ことが懸念される。
(2)グループBの市町村について
こ の グ ル ー プ の 市 町 村 は 、概 ね 平 成 27 年 以
降で世帯数の減少が予想される。仮に住宅総
数 が 平 成 27 年 以 降 横 ば い で も 、 世 帯 数 と 住
宅総数の差が拡大するため、空き家の増加が
懸念される。このグループの市町村は、戸建
持家の割合が高く、グループCと比較した場
合、新しい住宅の割合が高い。戸建持家率の
高い要因として、大規模な郊外住宅団地を有
する地域が多く、住宅所有者の高齢化の進行
に伴い、空き家の増加や地域活力の低下が懸念される。借家については、民営借家の
- 11 -
割合が高く、世帯数が減少した場合の空き家の増加が懸念される。
(3)グループCの市町村について
このグループの市町村は、現時点で世帯数が横ばい若しくは減少基調にある。仮に
住 宅 総 数 が 平 成 22 年 以 降 横 ば い で も 、世 帯 数 と
住宅総数の差が拡大するため、空き家の増加が
懸念される。該当する市町村の傾向としては、
戸建持家で古い住宅の割合が高い。古い木造住
宅が更新されない場合は、老朽化した戸建住宅
の空き家が増加し、周辺環境への悪影響が懸念
される。更新を阻害する要因として、高齢者が
多いこと、坂道や狭隘道路が多い等の立地条件
の問題を抱えていることなどが考えられる。
※グループについて
簡 易 的 な推 計 手 法 により、大 まかな分 類 を当 研 究 グループにより行 っているため、分 類 ごとの自 治 体 の
数 や推 移 のイメージはあくまで目 安 である。各 自 治 体 で詳 細 な実 態 調 査 及 び将 来 推 計 等 を分 析 し、自 ら
の自 治 体 が今 後 どのように推 移 していくかを、自 治 体 ごとに把 握 する必 要 がある。その上 で、各 自 治 体 の
地 域 性 及 び財 政 状 況 等 に合 わせ、空 き家 を含 めた民 間 住 宅 に対 する政 策 を検 討 、実 施 していくことが求
められる。
- 12 -
第3節
空き家の実態
(1)空き家の実態
福 岡 県 内 の 空 き 家 の 総 数 は 平 成 20 年 住 宅・土 地 統 計 調 査 に よ る と 、324,600 戸 と な っ
ており、
「 賃 貸 用 の 住 宅 」が 62.7% を 占 め る 。一 方 、
「 転 勤・入 院 な ど の た め 居 住 世 帯 が
長期間にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊す予定の住宅(その他の住
宅 )」 が 全 体 の 30.1% を 占 め て い る 。 建 て 方 別 で は 、 空 き 家 総 数 の 70.0% (約 22 万 7 千
戸 )が 共 同 住 宅 で あ り 、 戸 建 は 24.4% ( 約 7 万 9 千 戸 ) と な っ て い る 。 属 性 別 で は 「 そ
の 他 の 住 宅 」で 戸 建 が 62.0% 、約 6 万 戸 あ る こ と が 分 か っ て い る 。戸 建 住 宅 の 空 き 家 の
約 76% が 、 賃 貸 及 び 売 却 等 の 目 的 と な っ て い な い 住 宅 で あ る 。
< 図 14> 空 き 家 の 属 性
< 図 15> 空 き 家 の 属 性 ( 建 て 方 別 )
- 13 -
空 き 家 の 特 徴 と し て は 、人 口 が 多 い 地 域 ほ ど 賃 貸・売 却 用 の 住 宅 の 割 合 が 高 い 傾 向 が
見られ、人口が少なくなるほど自家用の割合が多くなる。また各市町村においても同様
の傾向と判断される。
< 図 16> 空 き 家 の 種 類 別 の 割 合 ( 平 成 20 年 )
「 平 成 20 年 度 住 宅 ・ 土 地 統 計 調 査 」 に よ る と 、 空 き 家 で 腐 朽 ・ 破 損 あ り の 戸 数 は 空
き 家 全 体 の 24% で 、 内 訳 は 賃 貸 用 が 13% 、 自 家 用 の 住 宅 が 10% を 占 め て い る 。 賃 貸 用
は共同住宅の鉄筋・鉄骨コンクリート造が約半分を占め、自家用の住宅は一戸建ての木
造 が 半 分 を 占 め て い る 。腐 朽・破 損 な し の 空 き 家 は 空 き 家 全 体 の 76% を 占 め て い る 。内
訳は
賃 貸 用 が 50% 、自 家 用 の 住 宅 が 20% を 占 め て い る 。特 徴 的 な こ と は 、鉄 筋・鉄 骨
コ ン ク リ ー ト 造 の 賃 貸 用 住 宅 は 12% が「 腐 朽・破 損 あ り 」と な っ て い る が 、一 戸 建 て の
自 己 用 の 住 宅 は 32% が「 腐 朽・破 損 あ り 」と な っ て お り 、約 3 倍 の 割 合 で 腐 朽・破 損 化
し て い る 。ま た 、
「 平 成 21 年 度
中 古 住 宅 流 通 促 進 の 課 題( 北 九 州 市 )」に よ る と 一 戸 建
て の 空 き 家 は 空 き 家 化 の 期 間 が 3 年 か ら 20 年 と 長 期 化 す る 傾 向 が 見 ら れ る 。
同 様 に 「 平 成 22 年 3 月
空 家 実 態 調 査 ( 国 土 交 通 省 )」 に お い て も 、 一 戸 建 ・ 長 屋 建
の空き家継続期間が共同住宅よりも長期化する傾向が報告されている。
資料:中古住宅流通促進の課題(北九州市)
< 表 1> 一 戸 建 て の 空 き 家 化 期 間
- 14 -
賃 貸 用 の 空 き 家 に 関 し て は 、事 業 性 を も と に し て 運 営 さ れ て い る 場 合 が 多 い こ と か ら 、
所有者が存在する限り今後何らかの利用が期待される。しかし自家用の空き家に関して
は、空き家の利用に対して事業性を問う必要性が少ないことから、今後の利用が所有者
の意識に大きく左右される。
「 中 古 住 宅 流 通 促 進 の 課 題( 北 九 州 市 )」に よ る と 一 戸 建 て の 空 き 家 所 有 者 の 意 識 と し
ては、入居者または購入者を「今後も募集しない」と回答した者が半分以上を占めてい
る。
資 料 : 平 成 21 年 度 中 古 住 宅 流 通 促 進 の 課 題 ( 北 九 州 市 )
< 図 17> 入 居 者 ま た は 購 入 者 の 募 集 状 況
(2)所有者が空き家を手放さない理由
ア
所有者
空き家所有者にとって、空き家を手放さない理由は様々である。一般的に空き家を
手放さない理由として以下のような事が挙げられている。
①物件が大きすぎて高価である
②リフォームにはお金がかかりすぎる(貸すにはあまりに傷んでいる)
③仏壇がある(先祖代々からの家である)
④空き家を貸すことで知らない住民が入居し近所に迷惑をかける
⑤愛着があり売れない
イ
不動産関係者
不動産関係者から直接聞いた「所有者が空き家を手放さない理由」としては、以下
のような意見が出ている。
①仏壇を置いたままである(代々受け継いだ家)
②権利者間でもめている(相続問題)
③購入時の価格と現在の価格に差があり売却意欲が低下している
④一人暮らしの入居者には貸したくない
⑤低料金で空き家を貸せば、低所得者が入居し家賃未払い等の心配が予想される
⑥リフォームする価値がない
⑦リフォームしても、投資額を回収するのに時間がかかる
⑧特殊事情物件(自殺、他殺、以前墓地跡等)である
- 15 -
ウ
税負担のジレンマ
住宅が建っている土地については、面積に応じて税負担を軽減する特例措置が適用
される。しかし、更地にしてしまうと特例措置の適用外となり、固定資産税総額が上
昇することもある。
このような課税制度も「活用されない空き家」が解体されずに放置されている原因
の一つと考えられる。
(3)自治体からみた空き家問題
空き家問題に対して自治体からの視点で考えると以下の5項目が挙げられる。
①個人財産であるため、改善に対して自治体が踏み込みにくい
②管理者不在の場合がある(事業者の倒産、相続放棄等)
③管理できない場合がある(経済的な事情、遠方に居住、転売目的で所有等)
④不動産価値の低下により、建物の処分が困難な場合がある
⑤自治体が全ての案件に対応できない(措置が必要な案件が多い、解消に対する公
的資金投入に対する合意形成が困難、専門的知識が必要等)
( 出 典 :「 外 部 不 経 済 を も た ら す 土 地 利 用 状 況 の 実 態 」 国 土 交 通 省 )
- 16 -
第4節
空き家がもたらす影響・問題
空 き 家 は 、十 分 に 維 持・管 理 が 行 わ れ な い 場 合 に は 社 会 的 な 問 題 と な る お そ れ が あ る 。
空き家に関わる身近な問題としては、以下のようなことが起きている。
(1)空き家が原因による事件・事故
ア
福岡市の事例
福岡市内で空き家に放火したとして、住居侵入と非現住建造物等放火の疑いで中学
生 2 人 を 児 童 相 談 所 送 致 。ま た 住 居 侵 入 の 疑 い で 、小 学 生 6 人 を 児 童 相 談 所 に 通 告 し
た 。警 察 に よ る と 中 学 生 2 人 は「 は じ め は 枯 れ 葉 な ど に 火 を 付 け て い た が 、物 足 り な
くなって家に火を付けた」と話しているという。
( 平 成 22 年 5 月 20 日 西 日 本 新 聞 よ り )
イ
鹿児島県霧島市の事例
民家 3 棟が全焼する火災があり、4 か月たった後も 2 軒の空き家の残骸が残されて
い る 。 近 隣 住 民 は 「 見 苦 し く 景 観 を 損 ね る 」「 危 険 。 強 風 で 瓦 が 飛 ば さ れ そ う 」 と 苦
情を訴えている。
所有者は故人で相続人
の 話 も ま と ま ら ず 、一 向
に片付けが始まる気配
は な い 。現 行 法 で は 強 制
撤去も不可能とあって、
市は対応に苦慮してい
る。
( 平 成 23 年 11 月 18
日西日本新聞より)
- 17 -
これらの事件事故はすべて管理されていない空き家が招いた問題である。また、空き
家の増加により発生する問題として主に以下のようなものが挙げられる。
①治安の低下や犯罪の発生を誘発
②安全性の低下
③公衆衛生の低下(雑草繁茂や不法投棄を誘発する等)
④景観の悪化や地域イメージの低下
な ど で あ る 。こ う な る と 更 に 空 き 家 が 増 加 し 住 民 の 減 少 に も 拍 車 が か か る と 考 え ら れ る 。
参考に、先に挙げた空き家に関する事件事故の中で、地域の生活を不安視させる放火
等の発生についてみた場合、放火されやすい要因には以下の事が挙げられている。
①敷地内・建物内への出入りが自由
②居住者がいないため不審者に対する監視体制ができていない
③建物周辺、建物内に燃えやすいものが大量にある
④近所住民の関心が薄い
(2)まちに与える影響
これからも空き家が増えれば、まちに与える影響として以下のような事が考えられる。
①市街地の空洞化
②まちなみの崩壊
③地域コミュニティの活力低下
④過疎化
(3)社会資本の効率性を低下させる空き家
先 に 言 及 し た 野 村 総 合 研 究 所 「 住 宅 着 工 戸 数 シ ナ リ オ 別 の 将 来 の 空 き 家 率 推 移 」( 本
報 告 書 9 頁 、図 13)に よ れ ば 、30 年 後 の 2040 年 に は 空 き 家 率 が 最 大 43% に 達 す る と 推
計されている。
空き家の増加は、特にコールドスポット(社会資本ネットワークの一部分が未利用・
低利用になる現象)を引き起こし、結果的に社会資本ネットワーク全体の効率性を低下
させる。
例えば上水道においては、水利用の現象だけでなく、運営効率の低下や管理費用の上
昇をもたらし、下水道でも、汚水流量の減少により汚水の滞水が発生し、悪臭や地下水
汚染を引き起こす可能性が指摘されている。さらに交通分野では、市街地の低密度化に
より、通勤・通学・買い物などのトリップ※率が伸びる可能性もある。
※「トリップ(Trip)」は、ある目 的 (例 えば、出 勤 や買 物 など)を持 って起 点 から終 点 へ移 動 する際 の、一 方 向 の
移 動 を表 す概 念 であり、同 時 にその移 動 を定 量 的 に表 現 する際 の単 位 (国 土 交 通 省 ホームページ抜 粋 )
- 18 -
第5節 空き家の区分と施策の方向性
空 き 家 は 「 管 理 の 有 無 」「 利 用 者 募 集 の 有 無 」「 所 有 者 特 定 の 可 否 」 に よ り 現 在 及 び 今
後の状態が異なるため、下記のように区分できる。区分ごとに必要な施策も異なってく
る。現在は、主に下図の①及び③に対して各自治体等の事業が行われており、特に①に
対する事業が中心である。
空き家
管理されている
管理されていない
利用者
利用者
所有者
所有者
募集
非募集
特定可能
特定不可能
空き家
①
②
③
④
状態
利用可能
利用可能
利用不可能
利用不可能
施策の
方向性
利用促進を図る
所有者に
所有者に
行政庁が何ら
対して利用を
対して何らか
かの措置を行
促す
の措置を促す
う必要がある
各
・空き家バンク
・維持保全の
自
・現地視察等の
指導、勧告
治
支援
・解体費助成
体
・物件見学
等
・定住、就職支援
の
・費用助成
事
・定住促進のため
業
のイベント等
・自治体による
解体
・行政代執行
< 図 18> 空 き 家 の 区 分 と 施 策 の 方 向 性
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第2章
第1節
先進自治体における取り組み
空き家を「活用」する
本節では、使える空き家を有効に「活用」するための手法(①空き家バンク②他用途
への活用③リフォーム補助④中古住宅購入補助⑤家賃補助⑥居住体験)を先進的に取り
入れている自治体を紹介する。
(1)空き家バンク
「 空 き 家 バ ン ク 」と は 、移 住 希 望 者 と 空 き 家 の 売 却 希 望 者( ま た は 貸 し 出 し 希 望 者 )
を マ ッ チ ン グ す る シ ス テ ム の こ と を い う 。空 き 家 の 増 加 に 悩 む 地 方 自 治 体 が 取 り 組 ん
で お り 、取 り 組 む 自 治 体 も 増 え て い る 。し か し 、そ の 運 営 は 多 く の 自 治 体 に と っ て 手
探 り の 状 態 で あ る 。 空 き 家 バ ン ク の 登 録 件 数 が 10 件 未 満 と い う 自 治 体 が 6 割 以 上 、
累 計 成 約 件 数 10 件 未 満 が 7 割 弱 を 占 め て お り 、 大 き な 効 果 を 出 し て い る と は 言 い 難
い 。そ の よ う な 状 況 の 中 で 、自 治 体 と 関 係 事 業 者 等 が 連 携 し 、多 く の 成 約 件 数 を 出 し
ている 2 つの自治体(山梨市、桐生市)の現地視察を行った。
山梨県山梨市
訪問日
平 成 23 年 8 月 23 日
応対者
山梨市 市民生活課 まちづくり・協働担当 平野氏
参 加 班 員 古 賀 ( 福 岡 県 )、 江 崎 ( 筑 後 市 )、 三 浦 ( 大 牟 田 市 )、 山 形 ( 岡 垣 町 )、 中 脇 ( 宗 像 市 )
山梨市の主要指標
人 口 ( H23)
3 万 7 千人
世 帯 数 ( H23)
1 万 4 千世帯
高 齢 者 数 ( H20)
1 万人
高 齢 化 率 ( H20)
26.3%
住 宅 総 数 ( H20)
15,860 戸
空 き 家 数 ( H20)
2,760 戸
空 き 家 率 ( H20)
17.4%
持 家 率 ( H20)
80.5%
共 同 住 宅 率 ( H20)
13.1%
※
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
41.6%
山 梨 市 に お い て も 少 子・高 齢 化 が 進 み 、住 宅・土 地 統 計 調 査 の 結 果 で も 空 き 家 が 増
加傾向にある。特に山間部においては荒廃農地や空き家が目立つようになっている。
そ こ で 山 梨 市 は 、豊 か な 自 然 と 、東 京 か ら 2 時 間 圏 内 と い う 立 地 条 件 を 活 か し 、移 住 ・
交 流 を 進 め て い く こ と と し 、 平 成 19 年 3 月 に 策 定 さ れ た 「 第 一 次 総 合 計 画 」 で は 、
施 策 と し て 定 住 促 進 事 業 を 位 置 づ け て い る 。 平 成 18 年 8 月 に ( 社 ) 山 梨 県 宅 地 建 物
取 引 業 協 会 と 協 定 を 締 結 し 、山 梨 市 空 き 家 情 報 登 録 制 度『 空 き 家 バ ン ク 制 度 』を 展 開 。
※昭 和 56 年 に建 築 基 準 法 の耐 震 基 準 が改 正 され、それ以 前 に建 築 された住 宅 等 は、現 行 の基 準 で建 てら
れた住 宅 と比 較 して耐 震 性 に劣 るものも多 く、本 報 告 書 内 では、古 い住 宅 の割 合 の基 準 として示 した。
- 20 -
山 梨 市 は 、空 き 家 の 募 集 及 び 登 録 、登 録 し た 空 き 家 の 利 用 希 望 者 に 対 す る 情 報 提 供 、
見 学 、相 談 等 を 行 い 、宅 建 協 会 会 員 で あ る 地 元 の 不 動 産 会 社 が 売 買・賃 貸 に 係 る 仲 介 、
斡旋を行う。宅地建物取引の専門家が
入ることにより、利用者は物件の契約
や修繕など専門的なアドバイスを受け
ることができる。また行政も制度運営
の円滑化を図ることができている。こ
れ ま で 109 件 の 物 件 と 731 人 が 登 録 、
成 約 件 数 は 賃 貸 32 件 、 売 買 22 件 で あ
る。成約件数が順調に推移したことか
ら、周辺市町村からも注目を浴び、平
成 20 年 に は 周 辺 の 甲 府 市 、韮 崎 市 、南
アルプス市、北杜市、甲州市に山梨市
を加えた 6 市で「空き家バンク制度調
査研究会」を立上げ、お互いのホーム
ページのリンク、申込用紙の共通化、
シンポジウムの開催を行っている。
以下に担当の平野氏から伺ったお話
を整理する。
< 経 緯 等 >・平 成 18 年 の ふ る さ と 回 帰 フ ェ ア で 各 自 治 体 の 過 疎 対 策 に 関 わ る 事 例 発
表を聴いたのが空き家バンク開始のきっかけとなっている。熊本県や北海道の事
例を参考に研究を始めた。現在もふるさと回帰フェアへは参加し、情報を収集し
ている。
・空 き 家 バ ン ク は 平 成 18 年 か ら 開 始 。平 成 19 年 か ら 平 成 21 年 に か け て 成 約 件 数 が
多かったが、当初の古民家人気も落ち着き、現在では出尽くした感がある。
<現状・課題>
・空き家バンク制度は宅建協会と連携して実施しているが、官民の歯車がかみ合っ
ており特に問題はなく、課題とすれば、登録物件が少なくなってきたことくらい
である。
・物件の資料は市が作成し、詳細部分の調査については専門家の目線で宅建協会が
つ め る 。物 件 の 調 査・資 料 作 成 作 業 は 1 人 で 担 当 す る よ り も 、数 名 で 割 り ふ っ て 、
各 自 が 仕 事 の 合 間 に 行 う ほ う が 作 業 効 率 も 上 が る と 考 え て い る 。( 山 梨 市 で は 担
当制となっており、職員 1 人で空き家バンク制度の全てに対応している)
・利用希望者に物件見学を募集し、土・日曜日に集団で案内を行っていたが、1物
件に申込者が重複した際、くじ引きで決めていた。しかし、参加した利用希望者
の不満も出たので、現在では現地見学を電話での予約制とし、団体ではなく1人
ひとりを毎週金曜日に案内している。予約順で優先して契約交渉できるようにし
て い る 。( 成 約 の 実 績 あ り )
・市の差押えが入っている物件も程度や内容を精査してバンクに登録し、税務課と
連携して取り組んでいる。
- 21 -
・家 賃 3 万 円 / 月 程 度 で ち ょ っ と 借 り て 住 ん で み た い と い う 人 が 多 く な っ て い る 。
・ 月 平 均 で 60 件 以 上 の 問 い 合 わ せ が く る 。
・最近ではある程度の利便性を求めながら田舎暮らしをしたいと考える人が増えて
お り 、 駅 近 く の 賃 貸 物 件 を 求 め る 傾 向 が 強 く な っ て い る 。( 空 き 家 バ ン ク 利 用 者
談:東京から見ると山梨市は駅前も十分田舎)
・バンクの利用登録者(田舎暮らし希望者)が多いのは、都心から近く、また、ほ
っとできる感じがあり、それに加え、災害が少ないことが要因ではないかと分析
し て い る 。週 末 の み 山 梨 で 過 ご す 二 地 域 居 住 や 完 全 移 住 を 考 え て い る 、50 代 以 上
の 利 用 登 録 者 が そ の 70% 以 上 を 占 め て い る 。
・ 移 住 を サ ポ ー ト す る 住 居 手 当 等 の 補 助 金 、家 屋 改 修 費 の 助 成 金 等 の 特 別 な 制 度 は
なく、若手の移住希望者はあまりない。若手が移住を希望しても働く場が少ない
ので、山梨市の基幹産業である果樹栽培を本気に考えている若手を求めている。
・誰でもいいので山梨市に来てくださいというのではなく、本気で山梨市で過ごし
たいと考える人や、農業をやりたいという人に移住してほしいという想いで取り
組んでいる。空き家の現地案内では地元の話や、条件の悪いところを積極的に話
している。
<コスト関連>
・空き家バンクにかかる経費は物件の現地調査やホームページへの掲載、郵送によ
る情報提供、首都圏へのPRに係る旅費・人件費 1 人分が主となっている。
・定住促進事業の取り組みとして、田舎暮らしお試し体験を行っている。移住希望
者 を 対 象 に 行 っ て い る が 、 こ れ ま で 22 組 が 利 用 し 、 そ の 内 1 組 が 移 住 を 決 意 し
ている。
・ 体 験 施 設 は 、 旧 教 職 員 住 宅 を 目 的 外 で 条 例 を 変 え て 活 用 し て い る が 、 年 間 約 30
万円の維持管理経費を要し、観光目的などの用途になってしまい、移住を促すに
は投資効果が低いと分析している。
・空 き 家 バ ン ク を 含 む 定 住 促 進 事 業 に 関 連 す る 予 算 は 約 48 万 円 で あ り 、そ の う ち ふ
るさと回帰フェアへの参加費として、年会費が 5 万円、出展費が 3 万円とかかる
が、こちらの方が移住希望者に対しPRでき、体験施設の利用による取り組みよ
りは効果があると分析している。
・空き家バンク関連の事業は、莫大な経費がかかる事業ではないので、継続しても
問題ないと考えるが、その事業効果については財政課からの指摘を受け、見直し
を考えている。
<ポイント>
・移住した人には、周辺住民とうまくいっているかの確認など、アフターケアを平
成 21 年 度 ま で は 行 っ て き た 。 ま た 、 入 居 時 に 地 元 の 区 長 等 へ の 紹 介 も 行 う こ と
もある。
・現在は、移住者が何かあったときに相談できる窓口になっている。地元の人から
「最近、入居してきた人を見ない」と連絡を受け、入居者へ連絡をしたようなこ
ともある。
・現在は物件の契約時に市が立ち会いを行うようになってきている。こうすること
- 22 -
で安心感があるようで成約に結びつくことが多い。行政は紹介と支援に専念。宅
建協会側はプロの判断力を発揮。利用者は安心して契約手続きを行うことで事業
を促進させている。
・以前は現地案内を土、日に行っていたが、現在は金曜日に改めた。理由は、本気
で山梨市に住むために買いたい、借りたいと思っている人に来てもらうため。本
当に買いたいと考えている人は平日でも会社を休んで来る。観光目的や、ひやか
しを減らす効果もある。
・調査表には、接道の狭さなどのマイナス面もきちんと明記し、事前に状況を理解
してもらうように工夫している。移住者から日照権、境界などの問題について問
い合わせが以前あったので、クレームが出ないようにあらかじめマイナスポイン
トをきちんと話す。
・バンク登録時には、物件所有者から物件の良いところ、悪いところを詳しく聴き
出す。物件内容について、不明な点が多い場合は登録を断っている。
・バンクへの物件登録者を増やすために市外住民の固定資産税の納税通知書の封筒
に お 知 ら せ ス タ ン プ を 押 印 し て い る 。 ま た 、 市 の 広 報 誌 や 区 長 87 人 に 呼 び か け
てもらっている。
・所有権が死亡者のままなどの場合、相続が整うまでは保留とする。さらに登記簿
を提出させ確認する。
<その他>
・宅建協会がボランティアの気持ちをもって協力・連携してくれている。手数料収
入は額が低いので利益にはならないが、行政との連携により協会自体のイメージ
アップにつながっている。
・
「 田 舎 暮 ら し ち ょ こ っ と 体 験 ツ ア ー 」を N P O 法 人( 山 梨 ガ バ メ ン ト 協 会 )と 協 働
で企画し、市で空き家見学会、NPOや地元の任意団体が体験メニューの大根堀
りをサポートし、田舎料理を振る舞った。この体験ツアーは大盛況で定期的に開
催している。バンクの利用登録を行っている人にDMを送付し、参加を呼びかけ
ている。
・今 後 は N P O と 連 携 を さ ら に 深 め た い と 考 え て い る 。市 で 地 域 コ ン シ ェ ル ジ ュ( 総
合世話係)を任命すると募集から任命までの間に時間を要してしまうので、NP
O法人(山梨ガバメント協会)があらかじめ任命している既存のコンシェルジュ
を 活 用 し た い と 考 え て い る 。 現 在 、 N P O 法 人 側 の コ ン シ ェ ル ジ ュ は 10 人 登 録
されている。空き家バンクについても説明できるコンシェルジュを2人登録して
いる。
・コンシェルジュを活用することで、山梨市への移住のキーマンとなってもらい、
移住希望者がこれまで以上に「移住」に踏み切りやすくする機会を増やしていく
ことが可能になると考えている。
- 23 -
群馬県桐生市
訪問日
平 成 23 年 8 月 22 日
応対者
桐生市 観光交流課
塚越氏・新井氏
参 加 班 員 古 賀 ( 福 岡 県 )、 江 崎 ( 筑 後 市 )、 三 浦 ( 大 牟 田 市 )、 山 形 ( 岡 垣 町 )、 中 脇 ( 宗 像 市 )
桐生市の主要指標
人 口 ( H23)
12 万 4 千 人
世 帯 数 ( H23)
5 万世帯
高 齢 者 数 ( H23)
3 万 5 千人
高 齢 化 率 ( H23)
28.1%
住 宅 総 数 ( H20)
56,990 戸
空 き 家 数 ( H20)
11,060 戸
空 き 家 率 ( H20)
19.4%
持 家 率 ( H20)
73.1%
共 同 住 宅 率 ( H20)
16.2%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
44.1%
桐 生 市 は 、周 辺 市 町 と 比 較 し て 空 き 家 率 が 高 い 状 況 で 、今 後 も 増 加 傾 向 が 続 く と 予 測 。
人 口 、世 帯 数 と も 今 後 減 少 を は じ め 、平 成 29 年 度 の 推 計 が 人 口 11 万 7 千 人 、世 帯 数 45,700
世帯と予測している。
平 成 17 年 の 黒 保 根 村 と 新 里 村 と の 合 併 後 、 新 市 域 を 対 象 と し た 企 業 立 地 と 移 住 推 進
を 展 開 す る こ と と な り 、平 成 18 年 度 か ら「 移 住 推 進 事 業 」を 開 始 し た 。こ の 年 、宅 建 協
会桐生支部と協定を締結し、
「 空 き 家・空 き 地 バ ン ク 」を 設 立 し た 。市 の ホ ー ム ペ ー ジ で
情報発信を行い、体験メニューの提供を行う。東京での移住相談会に参加するなど都市
圏での情報提供にも力を入れている。雑誌に掲載されるなどしたこともあり、問合せ件
数 は こ こ 数 年 で 毎 年 150 件 を 超 え て い る 。成 約 件 数 は 38 件 。今 後 は 、空 き 家 を 住 宅 以 外
で活用することも視野に入れ、新たな取り組みを検討している。
以下に担当の塚越氏・新井氏から伺ったお話を整理する。
<経緯等>
・最初は他市町村でやっていることをいくつか参考にしてやってみたが、自分の市に
あったことをやらなければうまくいかないと思っている。試行錯誤して今のかたち
となった。
・空 き 家 バ ン ク は メ イ ン 事 業 で な く 、不 動 産 流 通 の た め の 一 つ の 道 具 だ と 考 え て い る 。
バンクを始めた当初、まったく、物件は動かなかった。周知やPRにより2年目、
3年目でやっと動き出した。当初は合併前から過疎地域に指定されていた旧黒保根
村と旧桐生市の中で川内町と山振地域の梅田町が空き家バンクの対象地域だったが、
その後、市内全域に拡大している。
・物件の紹介をする情報提供窓口としてバンクを設置するにあたり、市で仲介や契約
ができないので宅建協会と協定を結び開設した。バンクができたから移住者が増え
たかどうか、バンクがあれば移住者が増えるかどうかはよくわからない。バンクの
設置により移住者が大幅に増えるとは考えていない。増えても微増ではないか。
- 24 -
<現状・課題>
・桐生市の空き家バンクに登録している物件に他市町村から入居した人は自活できる
人。店をやる人、歌手、随筆家、ブティック・喫茶店経営者等。働く場所がないた
め 、サ ラ リ ー マ ン は 来 な い 。桐 生 市 へ バ ン ク 経 由 で 転 入 し て き た 人 は 平 均 約 50 歳 で
手に職をもっている人。
・住宅土地統計調査から、今後人口を増やすことは、厳しいと考えている。人口減少
の幅を小さくするために施策をうっている。
・当初は、市外の人の物件賃貸が多かったが、今は市内の人の物件購入が多くなって
いる。最近は空き家だけでなく空き地も動き出した。
・バンクに協力してもらっている不動産屋は当初は面倒だという感じであったが、今
は連携させて欲しいという方向へ変わってきて、協力体制が築けている。物件の調
査は市で行うようにし、業者の負担を軽減し、また、バンク利用者にバンクに掲載
されていない物件の紹介もしていいというように運用を改め、業者にもバンクに協
力することのメリットがあるようにした。市の事業に協力しているということで、
不動産屋のイメージアップにもつながっていると思われる。
・バンクに登録された安価な物件は成約することが多い。
<コスト関連>
・空き家バンクにかかる経費は、物件の現地調査等にかかる人件費のみ。
・バ ン ク 関 連 の 定 住 促 進 事 業 で 約 80 万 円 予 算 を 計 上 し て い る が 約 半 分 は 県 の 補 助 金 。
<ポイント>
・宝島社が出版している「田舎暮らしの本」に空き家情報を掲載してもらっている。
・地元高校の同窓会ホームページ、群馬県東京事務所、群馬県大阪事務所、ぐんま総
ち
合情報センター(ぐんまちゃん家・東京)に依頼し、移住関連のチラシの配布や情
報掲載をお願いしている。
・バンクの利用を促進するため、過去の成約件数をホームページに掲載している。
・バンクは市のホームページを通じていることから、利用者に安心感を与えていると
思われる。
・物件資料を効率よく作成するため、物件の所有者から委任状を観光交流課宛に提出
してもらい、その委任状を税務課に提示し物件情報(固定資産税課税台帳)の確認
等を行っている。物件の現地調査も職員で行う。
・群馬県地域政策課主催の空き家見学会を委託先のJTBと宅建協会と協働して空き
家見学会をからめた日帰りツアーを実施した。これも人口減少を食い止めるための
施策のひとつと位置づけている。
・ 空 き 家 所 有 者 、 移 住 希 望 者 へ の 働 き か け は 公 民 館 だ よ り や チ ラ シ 等 で 行 う 。問 い 合
わせが殺到しないように地域ごとに日付をずらして呼びかける。
・商店街の空き店舗を若いアーティストや学生に使ってもらおうと考えており、間に
入って物件の紹介を行っている。安ければ汚くても借りてくれるので芸術活動の場
として活用してもらえればと考えている。市内では、わたらせアートプロジェクト
というものが動いており、これらのプロジェクトとの連携も考えている。
・過疎地域の物件は未登記の物が多く売買に適さないため、賃貸にもっていくことが
- 25 -
多い。
<その他>
・首都圏の団塊世代が田舎に戻ってくるという調査機関のデータがあったが記されて
いたほどのニーズはなかった。団塊世代のふるさと回帰・需要があるというのはす
べての自治体にはあてはまらないのではないか。金銭に余裕がある人は桐生などに
は来ず北海道や軽井沢等へ別荘や新居を求めると思われる。わざわざ田舎の古い家
を買わないのではないだろうか。
・お試し暮らし事業をやっているが、市からの持ち出しはなし。市内の空き物件を抱
えている所有者に協力を依頼し行っている。旅館業法のしばりがあるので、料理・
寝具の提供は行えない。物件所有者と利用者との間で短期賃貸借契約を締結するよ
うなかたちをとっているが、学生のゼミの勉強会等でも利用されている。
・移住希望者のほとんどは賃貸。時々、売買へ進展することもある。
・最近は空き家を要らないと考えている所有者が増えている。市としては除却の方面
の施策も検討しなければと考えている。
・JOIN(移住交流推進機構)の交流会等に参加し、情報収集や人的ネットワーク
の構築に努めている。
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福岡県
福岡県の主要指標
人 口 ( H23)
507 万 6 千 人
世 帯 数 ( H23)
211 万 8 千 世 帯
高 齢 者 数 ( H20)
111 万 人
高 齢 化 率 ( H20)
21.9%
住 宅 総 数 ( H20)
2,374,800 戸
空 き 家 数 ( H20)
324,600 戸
空 き 家 率 ( H20)
13.7%
持 家 率 ( H20)
53.6%
共 同 住 宅 率 ( H20)
49.5%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
32.4%
福 岡 県 で は 、 平 成 18 年 6 月 に 施 行 さ れ た 「 住 生 活 基 本 法 」 に 基 づ く 「 福 岡 県 住 生
活 基 本 計 画 」を 策 定 し て い る 。こ の 計 画 に お け る 目 指 す べ き 住 生 活 の 将 来 像 を「 安 全 ・
安心で、うるおいある、いきいきとした住生活」とし、既存住宅の流通促進などを施
策に掲げている。重点推進プログラムとして郊外と都心部間の住替えニーズをマッチ
ン グ す る「 あ ん し ん 住 替 え 情 報 バ ン ク 」の 拡 充 に 取 り 組 む こ と が 位 置 付 け ら れ て い る 。
①「あんしん住替えバンク」制度の流れ
<持ち家活用>
1.所有者が登録申請を行い、協力業者を選定
2.協力業者が査定を行う
3.両者が合意すれば媒介契約締結
4.住替え先検討、住替え、協力業者売却
<住替え相談>
相談に対してバンクホームページの物件、公的住宅、高齢者向け賃貸住宅などの情
報を提供
②現在の状況
<利用状況>
平 成 16 年 10 月 か ら 平 成 23 年 6 月 末 現 在
・相談件数
の べ 5,713 件
・住み替え実績
の べ 238 名
・相談者数
の べ 2,583 件
・協力事業者数
136 社
<利用者の特徴など>
・インターネットで情報を得ることができない高齢者の方
・団地の入居者
・安心できる公的なところが良いという方
・ 相 談 者 の 7 割 が 福 岡 地 域 。 高 齢 者 ( 60 歳 以 上 ) の 相 談 が 6 割
<その他>
・利 用 か ら の 要 望 は 、
「家賃は安いほうが良い」
「 交 通 や 、病 院 の 便 が 良 い と こ ろ 」
などが多い。
- 27 -
・情報の更新は協力業者が宅建協会の物件情報サイト(ふれんず)に登録するこ
とにより行われている。
・市町村とは、希望市町村への問い合わせや公営住宅の空き情報の問い合わせ等
を行うことにより連携を行っている。
<課題>
・現所有者と販売価格、賃料などの金額の面で折り合わないことが多い。
・登録されている物件数が少ない。
(2)地域交流サロン等での活用
大牟田市社会福祉協議会
大牟田市の主要指標
人 口 ( H23)
12 万 5 千 人
世 帯 数 ( H23)
5 万 7 千世帯
高 齢 者 数 ( H23)
3 万 7 千人
高 齢 化 率 ( H23)
29.7%
住 宅 総 数 ( H20)
60,110 戸
空 き 家 数 ( H20)
9,360 戸
空 き 家 率 ( H20)
15.6%
持 家 率 ( H20)
64.1%
共 同 住 宅 率 ( H20)
25.8%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
46.2%
<空き家再生プロジェクト>
大牟田市社会福祉協議会(以下「市社協」)では、空き家を活用しサロン、宅老所等
のデイサービス、校区社会福祉協議会等の地域住民の活動拠点としての活用など、地域
福祉やまちづくりを目的とした活動を行っている。
これらは、高齢者や子育て中のお母さんで支援が必要な方々を対象に、気軽に楽しく
利用できる「地域の中の居場所」として設置され、地域の世話役の方々で運営されてい
る。
主な活動として、
○お茶とお菓子とおしゃべりで過ごす。
○無理なく体を動かす体操を行う。
○ゲームやレクリエーションなどを楽しむ。
○季節行事(花見や忘年会など)を楽しむ。
○小物作りなど趣味的活動を行う。など様々な活動に取り組まれている。
費用は自分たちが食べるお茶菓子代や材料費など実費としてみんなで出し合う程度
の経費のみである。
<経緯等>
空き家が増加すると、地域の景観や治安の悪化を招く不安材料にもなることから、
- 28 -
大 牟 田 市 で 空 き 家 再 生 の 取 り 組 み が 検 討 さ れ 、 市 社 協 が 、 平 成 22 年 10 月 か ら 、 空 き
家を地域住民の活動拠点として利用する「空き家再生プロジェクト(ASP)」を始
めている。
<現状・課題>
・市社協が家主から無償で家を借り、活動拠点を探している利用者に無料で貸すシス
テム。市社協として県内初の試みで、空き家 3 軒が登録され、2 軒を利用中。
・1 人暮らしの女性が老人福祉施設に入居したことにより空き家となった木造2階建
て住宅(ASP1 号)では、障害者の親でつくる「虹の会」が週1回利用。作業所
で働く子どもを支援するため、販売用のコースター、枕カバーなどの小物を作って
いる。ハンデのある子どもたちとその家族が集い、楽しく過ごす。様々な作業を通
じて交流を深めている。
・別 の 1 軒( A S P 2 号 )は 、空 き 家 の 近 く に 住 む 高 齢 者 約 25 人 が 月 に 1 回 程 度 気 軽
に集まり、自由に過ごせるサロンとして利用している。囲碁、将棋、ゲーム、サッ
クス・ハーモニカの演奏、子育てのアドバイスを受ける、民生委員に相談するなど
といった地域の気楽な「憩いの場」となっている。
・課題としては、空き家の提供の話はあるが、利用できないような物件もあることが
あげられる。
<コスト関連>
・3 軒とも、掃除などの家の手入れは利用者により自主的に行われている。
・提供者と市社協の間で契約期間を 1 年とする「賃貸借契約」を締結する。その後利
用者が現れたら、市社協と利用者の間で「覚書」を結ぶ。無償となるが、光熱水費
は 利 用 者 負 担( 使 用 日 数 に 応 じ た 日 割 り 計 算 )。た だ し 基 本 料 金 は 市 社 協 持 ち 。建 物
の 維 持 管 理 費 ( 草 刈 り を 含 む ) は 市 社 協 負 担 ( 年 間 19 万 /2 件 )。
・世 話 人 は 民 生 委 員 で 食 事( 200 円 )・飲 み 物( 抹 茶 100 円 、コ ー ヒ ー 50 円 )を 準 備 。
<ポイント・その他>
・家主にとっても地域貢献ができるほか、定期的に人が利用することで、家屋が傷ま
ない利点がある。
・ 家 主 は 賃 貸 契 約 を い つ で も 解 除 で き る の で 、「 帰 る 場 所 」 を 守 れ る 安 心 感 も あ る 。
利用者からも、歩いて行けて、アットホームな雰囲気がいいと評判。
・ 市 社 協 は「 デ イ サ ー ビ ス や 子 育 て サ ロ ン な ど に も 空 き 家 を 活 用 し 、 幅 広 く 利 用 者 を
増やしていきたい」と話している。
- 29 -
(3)リフォーム補助、ながさき暮らし支援事業
長崎県長崎市
訪問日
平 成 23 年 9 月 27 日
応対者
長崎市住宅課
山口氏・宮下氏、地域振興課
関氏・谷角氏
参 加 班 員 古 賀 ( 福 岡 県 )、 江 崎 ( 筑 後 市 )、 三 浦 ( 大 牟 田 市 )、 山 形 ( 岡 垣 町 )、 中 脇 ( 宗 像 市 )
長崎市の主要指標
人 口 ( H23)
44 万 2 千 人
世 帯 数 ( H23)
20 万 3 千 世 帯
高 齢 者 数 ( H22)
10 万 2 千 人
高 齢 化 率 ( H22)
24.7%
住 宅 総 数 ( H20)
213,310 戸
空 き 家 数 ( H20)
31,980 戸
空 き 家 率 ( H20)
15.0%
持 家 率 ( H20)
60.0%
共 同 住 宅 率 ( H20)
42.6%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
35.1%
<リフォーム補助>
緊急経済対策の一環として住宅の質の向上と長寿命化の促進及び市内の施工業者
に 受 注 さ せ る こ と に よ る 経 済 の 活 性 化 を 目 的 と し て 、 平 成 23 年 2 月 か ら リ フ ォ ー ム
補 助 を 実 施 し て い る 。 約 半 年 で 空 き 家 で あ っ た 物 件 に 21 件 住 所 移 転 が な さ れ て い る
ことから、リフォームをきっかけに空き家が活用されるようになったと想定される。
補 助 率 は 工 事 費 の 10% 、 上 限 は 10 万 円 。 申 請 件 数 は 半 年 で 約 1,200 件 、 工 事 費 総
額 が 約 15 億 円 、 補 助 金 支 出 予 定 額 が 約 1 億 円 で あ る こ と か ら 、 補 助 金 に よ り 15 倍 の
経済効果が生み出されているとのこと。
<ながさき暮らし推進事業>
こ れ ま で 、長 崎 市 で は 施 設 整 備 及 び 住 宅 用 地 の 整 備 等 の ハ ー ド 事 業 な ど を 中 心 に 実
施してきたが、これからは情報収集・発信、PR活動に重点を置き、ソフト事業への
シフトを進めている。この「ながさき暮らし推進事業」では、主に以下の取り組みが
なされている。
①交流滞在型宿泊施設(伊王島地区)の利用促進・維持管理
②中長期滞在型宿泊施設(高島地区、野母崎地区)の利用促進・維持管理
③公営住宅、教職員住宅等の利活用
④空き家・空き地、就労等の情報の収集
⑤移住・定住情報の発信(ホームページ、パンフレット、移住相談会)ながさき田
舎暮らしキャラバン等
⑥農園、住宅用地の賃貸
特に移住者や移住希望者の様々な相談に迅速・的確な対応ができるサポート体制の
充実を図ることにより、地域コミュニティへの円滑な橋渡しを行い、定住人口の拡大
- 30 -
に 繋 げ て い る 。定 住 人 口 を 確 保 す る こ と で 、経 済 効 果 へ の 波 及 に 繋 が る と 考 え て い る 。
長崎市に関しては「ながさき定住支援センター」が主体となり定住促進を進めてい
る。そこでは定住担当を置き、定住者からの様々な相談に対応するとともに、各地区
の自治会、農協及び漁協等関係団体と連絡、連携を取りながら情報収集(空き家、空
き地、就労)を行っている。この取り組みでは、行政を窓口とすることで、安心、信
頼を得ることができ、それにより多くの情報が確保できると考えられる。しかし、一
方で行政が介入する分野と民間事業との適切なすみ分けが求められている。
また、長崎県も県内市町がいっしょになりUIターン促進に取り組むためのワンス
トップ窓口を開設している。
<実績>
項目
単位
18 年 度
19 年 度
20 年 度
21 年 度
22 年 度
合計
宿泊施設利用者
件数
22
21
15
13
14
85
【伊王島地区】
人数
74
73
57
62
65
331
相談件数
件数
257
139
138
82
126
742
ホームページアク
件数
11,000
12,949
11,457
8,771
9,156
53,333
世帯数
9
4
6
3
2
24
人数
20
9
13
6
2
50
万円
5,870
1,890
1,733
686
636
10,815
セス
定住者
事業費
※ 平 成 22 年 度 末 現 在
コラム②(I市での出来事)
<福岡への移住に至るまでの事例>~I市職員からの聞き取り~
千葉県U市にお住まいだったSさん家族(夫婦と子ども 4 人)の場合。
平 成 21 年 、夫 の 転 勤 で 、福 岡 市 近 辺 に 住 む こ と に な り 、子 ど も 環 境 の 良 い と こ ろ 、自 然 環 境
豊 か な 田 舎 に 住 め れ ば と 、福 岡 県 の 空 き 家 情 報 で 問 い 合 わ せ す る 。し か し 良 い と 思 っ た 物 件 は 、
地縁や近所づきあいの問題から、なかなか契約まで至らないことが多いということであった。
(都会からの居住者は交通アクセスの他、周辺環境状況、地域の雰囲気などを知りたがってい
る と い う こ と 。)そ の た め 行 政 、関 係 団 体 と の 連 携 を 図 り 情 報 の 提 供 を 行 っ て ほ し い と い う 要 望
が出ている。
結局、Sさん家族は空き家への移住とはならず、自身で近隣の情報をインターネット等で検
索し、福岡市までのアクセスも良く、近所のT小学校も環境的に良いT地区へ居住を決定した
ということである。また念のため、不動産会社を通して、地域の自治会長に移住者の受け入れ
についての説明を行い快諾いただいたことで本人も納得し移住を決断したということである。
空き家を活用しての定住支援の取り組みに関しては、自治体も集落に自発的に関わるお願い
をするだけでなく、移住してくる新住民と集落の橋渡し的役、あるいは相談役としてサポート
することが大切である。
- 31 -
(4)中古住宅購入補助
福岡県宗像市
宗像市の主要指標
人 口 ( H22)
9 万 5 千人
世 帯 数 ( H22)
3 万 8 千世帯
高 齢 者 数 ( H22)
2 万 1 千人
高 齢 化 率 ( H22)
22.4%
住 宅 総 数 ( H20)
40,300 戸
空 き 家 数 ( H20)
4,080 戸
空 き 家 率 ( H20)
10.1%
持 家 率 ( H20)
65.3%
共 同 住 宅 率 ( H20)
31.9%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
29.5%
中 古 住 宅 を 活 用 し た 定 住 化 の 促 進 を 図 る こ と を 目 的 と し て 、宗 像 市 外 に 住 む 人 が 市
内の中古住宅を購入して居住する場合に助成を行うもので、補助金の内容は、以下の
表のとおりである。
補助金の区分
要件
補助金額
対象となる中古住宅を購
中古住宅購入補助
一 律 20 万 円
入したことに対する補助
財源
社会資本整備
総合交付金
一般財源
転入世帯員補助
借入金補助
対象となる中古住宅に居
1 人 あ た り 20 万 円
社会資本整備
住する中学生以下の子ど
( 3 人 目 以 降 30 万
総合交付金
もへの補助
円
一般財源
対象となる中古住宅購入
元 金 の 2% ( 限 度
一般財源
のための住宅借入金に対
額 20 万 円 )
する補助
リフォーム等工事
補助
市 内 業 者 へ 発 注 し た 30
一 律 20 万 円
一般財源
万円以上のリフォーム工
事等に対する補助
受 取 れ る 補 助 金 の 限 度 額 は 、 上 表 の 合 計 額 が 中 古 住 宅 及 び 土 地 の 購 入 額 の 1/ 5 以
内となっている。対象となるのは、宗像市に転入する方で 5 年以上市外に住んでいる
方 、 中 古 住 宅 ( 木 造 : 築 20 年 、 非 木 造 : 築 25 年 以 上 ) を 購 入 す る 方 な ど と な っ て い
る 。 平 成 22 年 度 に 7 件 、 平 成 23 年 度 は 8 月 現 在 8 件 に 対 し 助 成 を し て い る 。
事 業 の 課 題 と し て は 、限 定 さ れ た 中 古 住 宅 が 対 象 で あ る こ と か ら 申 請 件 数 に 伸 び 悩
みがあり、対象となる中古住宅の築年数を見直すことなどを検討している。
参 考 :空 き家 に関 する助 成 制 度 として、佐 賀 市 では市 の空 き家 バンク制 度 に登 録 した物 件 や指 定 された地
域 などの条 件 を付 けて「佐 賀 市 空 き家 改 修 費 助 成 事 業 」を創 設 。空 き家 改 修 費 総 額 の 1/2 を助 成 (上 限
50 万 円 )している。同 様 の事 業 は、長 野 県 豊 丘 村 等 でも行 われている。
- 32 -
(5)民間賃貸住宅家賃補助
岐阜県多治見市
多治見市の主要指標
人 口 ( H22)
11 万 6 千 人
世 帯 数 ( H22)
4 万 3 千世帯
高 齢 者 数 ( H22)
2 万 5 千人
高 齢 化 率 ( H22)
21.7%
住 宅 総 数 ( H20)
45,850 戸
空 き 家 数 ( H20)
5,520 戸
空 き 家 率 ( H20)
12.0%
持 家 率 ( H20)
78.9%
共 同 住 宅 率 ( H20)
18.5%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
33.8%
多 治 見 市 で は 、 市 の 総 合 計 画 の 中 で 市 営 住 宅 の 新 築 及 び 建 替 え を 廃 止 し 、「 民 間 賃
貸 住 宅 家 賃 補 助 事 業 」 を 平 成 19 年 度 か ら 実 施 し て い る 。 市 営 住 宅 は 平 成 23 年 度 現 在
で 1,229 戸 保 有 し て い る が 、 平 成 10 年 度 以 降 、 建 設 し て お ら ず 、 今 後 建 替 え の 計 画
はない。民間住宅入居者への家賃補助は、行政が住宅を建設及び維持管理する必要が
なく、空き家が増加している現状においては民間の既存住宅が有効活用されるメリッ
トがある。
入 居 で き る 住 宅 は 、 あ ら か じ め 市 に 登 録 さ れ た 昭 和 56 年 以 降 に 建 て ら れ た 新 耐 震
基 準 に 適 合 し た 住 宅 で あ る 。 平 成 23 年 度 ま で に 110 箇 所 の 市 内 の 団 地 が 登 録 を し て
お り 、54 件 に 対 し 家 賃 の 助 成 を 行 っ て い る 。家 賃 の 助 成 を 受 け ら れ る 者 の 条 件 と し て
は、市税を滞納していないことや住宅に困窮していることなどの条件を全て満たして
い る こ と と な っ て い る 。 家 賃 補 助 額 は 、 月 額 15,000 円 ( 家 賃 が 15,000 円 を 下 回 っ た
場 合 は そ の 額 ) で 、 60 カ 月 を 限 度 と し て い る 。 財 源 は 、 一 般 財 源 で あ る 。
事 業 の 課 題 と し て は 、 年 間 15 件 程 度 を 募 集 し て い る が 、 予 算 の 都 合 も あ り 大 幅 な
募集増ができない点があげられる。
- 33 -
大分県大分市
大分市の主要指標
人 口 ( H23)
47 万 5 千 人
世 帯 数 ( H23)
20 万 5 千 世 帯
高 齢 者 数 ( H23)
9 万 5 千人
高 齢 化 率 ( H23)
20.2%
住 宅 総 数 ( H20)
219,250 戸
空 き 家 数 ( H20)
27,160 戸
空 き 家 率 ( H20)
12.4%
持 家 率 ( H20)
53.3%
共 同 住 宅 率 ( H20)
48.0%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
30.2%
大 分 市 で は 平 成 23 年 度 、 高 齢 化 が 進 む 郊 外 型 の 団 地 「 富 士 見 が 丘 団 地 」 の 空 き 家
の解消及び定住促進、団地の活性化を目的に、当該団地に移り住む子育て世帯に家賃
を 補 助 す る 社 会 実 験 を 実 施 し て い る 。 平 成 22 年 度 か ら 始 め た 「 ふ る さ と 団 地 の 元 気
創 造 推 進 事 業 」 の 一 環 。 補 助 額 は 家 賃 月 額 の 2/ 3 で 、 上 限 は 4 万 円 。 富 士 見 が 丘 団
地 内 の 一 戸 建 て 住 宅 ( 空 き 家 ) に 転 居 す る 子 育 て ( 0 歳 か ら 18 歳 ) 世 帯 の 10 世 帯 を
対象としている。財源は社会資本整備総合交付金を活用している。
富 士 見 が 丘 団 地 は 造 成 か ら 30 年 以 上 が 経 過 し 、 住 民 の 高 齢 化 が 市 の 平 均 値 を 大 き
く上回る状況で、地域活動の低下や人間関係の希薄化が問題となっている。団地で開
いた住民意見交換会でも、
「 若 い 世 帯 を 増 や す 施 策 の 実 現 」を 求 め る 意 見 が 多 か っ た 。
事 業 の 課 題 と し て は 、賃 貸 等 と し て 市 場 に 出 て い な い 空 き 家 が 市 場 に 出 る こ と が な
かった、近隣の保育所がいっぱいで預けられず負担が掛かっているなどをあげられて
おり、今後、市場に出やすいようリフォームに係る貸付制度や地元が主体となった子
育て活動の制度拡充を検討中である。
- 34 -
(6)居住体験事業(福岡県「ちくご暮らし」体験事業)
筑後田園都市推進評議会
福 岡 県 と 県 南 12 市 町 で つ く る「 筑 後 田 園 都 市 推 進 評 議 会 」を 中 心 に 、筑 後 地 域 の 6
市 町( 久 留 米 市・柳 川 市・八 女 市・筑 後 市・み や ま 市・大 刀 洗 町 )の 空 き 家 を 活 用 し 、
県 南 地 域 の 定 住 人 口 拡 大 を 目 的 に 、 平 成 23 年 度 か ら 3 カ 年 事 業 と し て 取 り 組 ん で い
る。主な役割として県で事業募集・申込書の選定・結果調査を行い、各市町で申込者
の受け入れ及び受け入れ自治会との交流など橋渡しを行う。
福岡都市圏在住家族や、関東・関西の家族にインターネットで募集を行い、体験期
間として 4 期(1 期 2 週間程度)を設定し、最低 5 日間以上、筑後地域の生活を体験
し滞在してもらうことを要件に行うものである。
この事業では、移住・二地域居住のニーズをとらえるために、どのような環境を提
供すればよいか、またどのようなことが要望されているかを調査することを目的とし
ている。
平 成 23 年 度 は 24 組 ( 1 期 6 組 ) の 募 集 を 行 い 、 イ ン タ ー ネ ッ ト か ら の 応 募 し か で
き な か っ た が 97 組 の 申 し 込 み が な さ れ て い る 。( 当 初 福 岡 都 市 圏 在 住 者 だ け を タ ー ゲ
ッ ト に し て い た が 、 関 東 圏 か ら の 応 募 も 多 か っ た 。) ま た 、 す べ て の 応 募 者 が 「 景 色
や自然環境」を重視し申込を行っていることが、モニター募集時の応募アンケート結
果でわかる。
申し込みの主な内容は以下のとおりである。
<申し込みをされた方の住まいの地域>
福 岡 地 域 ( 47% )、 関 東 関 西 地 域 ( 34% )、 福 岡 県 内 ( 14% )、 九 州 各 県 ( 5% )
<申し込みされた方の年齢>
20 代 ( 7% )、 30 代 ( 47% )、 40 代 ( 22% )、 50 代 ( 12% )、 60 代 ( 12% )
<同居家族(複数回答)>
単 身 ( 10% )、 夫 婦 ( 76% )、 子 供 ( 67% )、 両 親 ( 6% )、 そ の 他 ( 7% )
また事業にかかったコストについては、全額県負担である。主な経費としては、空
き 家 物 件 の 老 朽 具 合 に よ り 違 い が 出 て い る が 、空 き 家 賃 料( 4 万 円 か ら 8 万 円 )、火 災
保 険 料( 8 千 円 か ら 1 万 円 )、清 掃 費 用( 3 万 円 か ら 9 万 円 )、修 繕 費 用( 6 万 円 程 度 )、
家 電 ・ 家 具 レ ン タ ル 料 ( 6 万 円 程 度 )、 備 品 購 入 費 ( 5 万 円 程 度 ) が 物 件 に よ り 必 要 と
されている。その他、物件を問わず共通費用として不動産手数料(入居者募集-契約
- 退 去 検 査 ま で ) 10 万 円 、 契 約 に 伴 う 家 主 協 議 と の 仲 介 料 10 万 円 等 必 要 と さ れ て い
る。
事業を実施する上で、空き家物件の選定や空き家の補修、地域の受け入れ体制、空
き家物件の紹介などさまざまな課題が挙げられている。
- 35 -
第2節
空き家を「処分」する
長年利用されていない建築物は、適切な維持管理をされないまま老朽化が進行し、放
置されることで防災・防犯の面から隣接する建築物や通行者等に悪影響を及ぼすなど、
様々な弊害を生む事例が多く見られるようになっている。こうした老朽危険建築物の対
応に苦慮している自治体も多く、全国的にも取扱いが課題となっている。
本節では、老朽化して近隣の住環境に悪影響を与えている空き家を「処分」するため
の先進的な手法を取り入れている自治体(長崎市)を視察し、紹介する。
(1)老朽危険空き家対策事業
長崎県長崎市
訪問日
平 成 23 年 9 月 27 日
応対者
長崎市 まちづくり推進室 山村氏・宿輪氏
参 加 班 員 古 賀 ( 福 岡 県 )、 江 崎 ( 筑 後 市 )、 三 浦 ( 大 牟 田 市 )、 山 形 ( 岡 垣 町 )、 中 脇 ( 宗 像 市 )
長崎市の地形的な問題として狭小な住宅地が斜面地や自家用車等が進入できない
狭隘道路に立ち並ぶことが多く、結果的に高齢化等の進行もあり建て替えが進まず、
老朽化した危険な空き家として近隣住民の不安材料となっている。それまで所有者に
対 し 文 書 等 に お け る 指 導 を 行 っ て き た が 限 界 を 感 じ 、 平 成 15 年 に 庁 内 の 関 係 部 署 10
課において老朽危険家屋対策のプロジェクトチームを立上げた。結果、適正に管理さ
れていない老朽危険空き家のうち、所有者からその建物及び土地を長崎市に寄付され
たものを行政が除却、跡地整備をし、その後の管理を地元自治会に任せる「老朽危険
空 き 家 対 策 事 業 」 を 平 成 18 年 度 か ら 実 施 し て い る 。 同 様 の 制 度 は 富 山 県 滑 川 市 で も
行われている。
建物の所有者等は、建物を長崎市に寄付するため、所有権移転登記にかかる費用以
外は負担しないで済む。所有者等は原則、年度前半(4 月中旬から 1 カ月程度)に相
談を申込み、現地調査及び権利関係等調査の後、関係課長会議で当該年度の実施箇所
等を選定する。その後所有者との最終調整及び管理者となる自治会との跡地利用につ
いての協議等を経て、工事に入る。工事完了後には、地積測量等を行い、自治会と土
地使用貸借契約を締結し終了となる。
平 成 18 年 度 か ら 平 成 22 年 度 ま で で 、274 件 の 相 談 が あ り 31 件 を 除 却 し て い る 。た
だし対象区域を限定している、寄付について土地所有者の承諾が取れない、自治会か
ら 管 理 の 承 諾 が 得 ら れ な い 等 の 問 題 も 生 じ 不 採 択 と な っ た 物 件 も 多 い 。( 平 成 22 年 度
に お い て は 、 申 込 53 件 の う ち 50 件 が 不 採 択 と な っ て い る ) そ の た め 、 平 成 23 年 度
より老朽危険空き家の所有者等に対し除却費の一部を助成する制度も取り入れてい
る( こ の 制 度 に つ い て は 、次 項 、大 牟 田 市 の 助 成 制 度 と 類 似 の た め 詳 細 は 省 略 す る 。)。
長崎市老朽危険空き家対策事業
平 成 18 年 度
除却前後比較写真
資料提供:長崎市
除 却 後
除却前(十人町)
整備面積:1 5 5 . 3 0 ㎡
事業費:約 5 , 2 0 0 , 0 0 0 円
跡地利用:ポケット広場、展望所、樹木の植栽
特
徴:生活道路を拡幅し、広場は保育所などの
課外活動や遊び場として利用
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(2)老朽空き家除却費の一部補助
福岡県大牟田市
大 牟 田 市 の 住 宅 事 情 は 住 宅 数 60,110 戸 、 う ち 空 き 家 は 9,360 戸 で と も に 増 加 傾 向
が続いている。空き家率で比較すると県平均及び全国平均を上回っている。古い住宅
の割合が高く、空き家についても老朽化し管理されていないものも散見され、近年周
辺住民からの苦情相談が増加傾向にある。行政は所有者又は相続関係者等を調査し指
導 を 行 う が 、 中 に は 「資 金 的 な 問 題 」、「 権 利 関 係 の 複 雑 化 」 等 の 理 由 で 対 応 困 難 な 所
有者等も存在し、対応が進まないケースがある。
この様な空き家が放置されれば、住環境や景観の悪化を招くほか、近隣への直接的
被害及び災害時等において円滑な避難や救助活動を阻害することが考えられる。さら
に 、 防 災 上 及 び 防 犯 上 の 観 点 か ら も 好 ま し く な い た め 、 平 成 23 年 度 か ら 「 大 牟 田 市
老朽危険家屋等除却促進事業」を開始した。相談があった建築物を調査し、独自の評
価基準により対象になるか否かを判断することとした。評価基準は、建築物の構造の
腐朽又は破損の程度や通行人又は近接地に対する影響であり、点数が基準点を超えた
場合に助成の対象となる。対象になった「老朽危険家屋」には対象経費(除却費及び
処 分 費 ) に 1 / 2 を 乗 じ た 額 ( 45 万 円 上 限 ) を 助 成 す る 。 平 成 23 年 8 月 末 時 点 で 、
相 談 件 数 が 30 件 あ り 対 象 と な っ た 11 件 の 建 築 物 が 除 却 さ れ た 。 社 会 資 本 整 備 総 合 交
付 金 を 活 用 し 、 最 大 45% の 国 か ら の 交 付 金 が あ る 。
同 様 の 課 題 を 抱 え る 自 治 体 か ら 事 業 に 対 す る 問 合 せ が 十 数 件 あ り 、い く つ も の 自 治
体で対応に苦慮していることがわかる。
事業の課題として、行政から助成はするものの最終的には所有者又は権利者が除却
等 の 何 ら か の 対 応 に 踏 み 切 ら な け れ ば な ら ず 、結 果 、権 利 者 の 意 向 に 委 ね ら れ て お り 、
飛躍的な改善には至らない点があげられる。
(資 料 提 供 : 大 牟 田 市 )
- 37 -
(3)老朽危険家屋の公売
福岡県宗像市 老朽危険家屋の登記簿上の所有者は死亡者であるケースが多い。
これは、遺産分割協議時に相続人間で話し合いがまとまらなかったり、相続人に財産
管理能力がないような場合に放置されることによる。固定資産税が滞納となっている
ケース、相続人に生活保護者がいるケースもあることから、宗像市では、年度当初に
空き家に関係する課(生活安全課、生活環境課、税務課、福祉課、収税課)の所属長
と担当者が集まり、自治会から生活安全課・生活環境課に対して提出された改善要望
書に関連する空き家の対策について協議が行われている。個人情報の取り扱いに注意
を図りながら各課が所持している情報の交換を行い、事務の効率化を図っている。税
の滞納があれば、自治体で自力強制執行(公売)することが可能であることから、市
民の安心・安全の確保を目的に、その家屋の優先順位を上げ、自力強制執行(公売)
に積極的に取り組んでいる。
行政代執行においては、個人の財産権の問題が出てくるが、自力強制執行(公売)
は、国税徴収法で認められた手続きであることから財産権の問題をクリアできるとの
ことである。
この取り組みの課題は相続人調査や買受人が現れるのに手間や時間がかかること
から、税務課職員のスキルとやる気に左右されることにある。
(資 料 提 供 : 宗 像 市 )
- 38 -
第3節
空き家を「維持」する
所 有 者 に よ っ て は 、転 勤 や 急 な 入 院 等 に よ り し ば ら く の 間 使 用 し な く な る ケ ー ス や 他
人に貸したくないが維持管理は行いたいという人も存在する。住宅は人が住まなくなる
事 で 「 腐 朽 が 早 く な る 」、「 不 審 者 の 侵 入 や ゴ ミ の 不 法 投 棄 の 場 所 に な る 」 等 、 様 々 な 弊
害が生じる。そこでこの様な空き家を対象に、不動産業者や建設会社、NPO法人等が
空き家の管理を請け負うサービスが見受けられる。業務内容は通風、通水、有事の際の
巡回等で庭木剪定や室内清掃は別途費用がかかるというものが多い。民間事業者が行っ
ていることが殆どであるが、松江市ではNPO法人と協定を締結し実施している。
島根県松江市
松江市の主要指標
人 口 ( H23)
20 万 6 千 人
世 帯 数 ( H23)
8 万 4 千世帯
高 齢 者 数 ( H23)
5 万人
高 齢 化 率 ( H23)
24.4%
住 宅 総 数 ( H20)
81,340 戸
空 き 家 数 ( H20)
12,090 戸
空 き 家 率 ( H20)
14.9%
持 家 率 ( H20)
62.1%
共 同 住 宅 率 ( H20)
34.5%
S55 年 以 前 建 築 の 住 宅 割 合 ( H20)
36.4%
松江市では、
「 N P O 法 人 し ま ね 住 ま い づ く り 研 究 会 」と 協 定 を 結 び 、協 働 し て「 空
き家見守りサービス」という取り組みを進めている。このサービスの主な内容は以下
のとおりである。
① 季 節 の 変 わ り 目 に 、建 築 技 術 者 が 、外 部 か ら 建 物 に 異 常 が な い か を 点 検 し 、状 況
写真とともにサービス希望者へメールまたはファックスで報告する。
②台風や大雨などの悪天候の後の点検を希望される場合には、できるだけ速やかに
点検を行う。
③破損等が発見され、希望される場合には、修繕工事の手配や工事完了検査などを
手伝う。
④ そ の 他 、建 物 の 管 理 な ど に 関 す る 相 談・質 問 に つ い て 、一 級 建 築 士 、宅 地 建 物 取
引主任者などの専門資格者が答える。
こ の 事 業 は 、一 般 社 団 法 人 住 ま い・ま ち づ く り 担 い 手 支 援 機 構 か ら の 支 援「 住 ま い ・
まちづくり担い手事業」によりNPO法人しまね住まいづくり研究会が実施するもの
である。
ただ「空き家見守りサービス」にNPO法人独自で取り組むためには、①NPO単
独 で は ど う し て も 自 治 体 が も つ 住 民 か ら の「 信 頼・信 用 」を 得 る こ と が で き な い こ と 、
②運営するためには人員及び人件費を確保しておくこと、などが課題として挙げられ
ている。
- 39 -
第3章
福岡県市町村アンケート調査
先進地視察等の結果を踏まえ、福岡県内の自治体に「空き家に対する認識・問題意識
の 確 認 」、「 空 き 家 対 策 の 実 施 状 況 」 等 に つ い て ア ン ケ ー ト を 実 施 し た 。 本 章 で は 、 ア ン
ケート調査結果から、各自治体が抱えている課題や問題点を分析し、次章の政策提言に
つなげていくこととする。
ア ン ケ ー ト 調 査 は 、 福 岡 県 内 の 自 治 体 60 団 体 に 対 し て 電 子 メ ー ル に よ る 調 査 を 平 成
23 年 9 月 に 実 施 し 、 回 収 は 43 団 体 、 回 収 率 は 71.7% で あ っ た 。
(1)空き家に対する認識・問題意識
・ 空 き 家 の 実 態 を 把 握 し て い る の は 10
23%
団体で、4 分の 3 が実態を把握できて
実態を把握している
実態は把握していない
いない。
・約 9 割の団体が空き家に問題点がある
77%
と認識している。
空き家の把握状況
・空き家に関する住民要望の有無は「除
草 等 管 理 」 が 最 も 多 く 65% 、 次 い で 「 除 却 」 で 51% と な っ た 。 行 政 へ の 引 き 取 り 、
自治会等活動の場への活用要望は低い。
(2)空き家対策の実施状況
・現在取り組みを行っている団体は全体
7% 5%
的に少なく、最も割合が高い項目「空
23%
き 家( 老 朽 危 険 家 屋 )の 除 却 へ の 助 成・
要 請 」 で も 28% と い う 結 果 で あ る 。
所有者等が行う除却に
助成している
所有者等に対し除却を
要請している
特に取り組んでいない
その他
65%
取り組み状況(老朽危険家屋の除却)
(3)今後取り組みたいと考えている施策
・今後、7 自治体で空き家バンクの運営を開始する予定。
・今後、5 自治体で移住者へのサポート体制を整える予定。
地方公共団体自らが
実施する予定
16%
23%
2%
59%
事業者・NPO等が行う
取り組みに対し支援す
る予定
特に取り組む予定はな
い
その他
取り組み予定(空き家情報の提供)
- 40 -
(4)今後も空き家対策に取り組む予定がない理由
・ 空 き 家 の 所 有 者 等 が 自 ら 対 応 す べ き と 考 え て い る 団 体 が 一 番 多 い 。( 16 団 体 )
・ 続 い て 、 行 政 内 部 の 推 進 体 制 の 不 整 備 ( 12 団 体 )、 民 有 財 産 へ の 支 援 が 困 難 で あ る
( 11 団 体 ) の 順 に 多 い 。
・空 き 家 所 有 者 等 の 把 握・意 向 確 認 の 困 難 性( 8 団 体 )、財 政 的 に 厳 し い こ と( 8 団 体 )
を理由にあげている団体も多い。
今後も取り組む予定がない理由
18
現時点では、空き家の発生を問題と
認識していないため
16
空き家の所有者等が自ら対応すべ
きであると考えるため
14
空き家対策として何を行えばよいか
わからないため
12
行政内部の推進体制が整っていな
いため
10
空き家の所有者等の把握や意向確
認が困難であるため
8
空き家の所有者が空き家を利用する
ことに同意しないため
財政的に厳しいため
6
民有財産に対して公的支援をするこ
とが困難であるため
4
近隣住民の理解が得にくいため
2
.その他
0
(5)担当部署(取り組みの主担当の部署)
・い ず れ の 施 策 に つ い て も「 担 当 部 署 な し 」と 回 答 し た 割 合 が 最 も 高 い 。
( 55 か ら 83% )
・ 空 き 家 ( 老 朽 危 険 家 屋 ) の 除 却 の 担 当 部 署 は 「 防 災 、 防 犯 」 が 最 も 高 い 。( 21% )
・空き家情報の提供(空き家バンクの運営等)の担当部署は「企画、総合政策」が最
も 高 い 。( 23% )
- 41 -
第4章
課題の整理
第 1 節 空き家の関係者と各事業における課題
第1章及び第2章の内容を以下に整理する。
(1)空き家の関係者
空き家に関係する者は、
・利用者:空き家を購入や賃借して利用する者
・所有者:空き家を所有している者
・地域住民:空き家の周囲に居住している者。自治区等の住民
・地元事業者:空き家の地域を事業範囲としている者。不動産業者、建設業者など
・行政、関係機関:空き家の地域の行政機関、NPO法人など
である。
(2)関係者と各事業における課題
「 図 18
①利用者募集の空き家」の場合
空き家の関係者と各事業の関係は下図のとおりとなっている。
地域住民の関係した事業
が少ない
< 図 19> 空 き 家 関 係 者 と 各 事 業 の 関 係
この図より、地域住民と関係した事業が少ないことがわかる。
地域住民は、空き家が放置されると、居住環境の悪化などの影響を最も受ける。よっ
て、地域住民も空き家関係の事業に参加できるような事業の在り方が必要であると考え
られる。
地域住民が空き家関係の事業に加わることで、コミュニティが活性化したり、地域と
してのニーズを空き家関係の事業に取り込むことができるようになり、魅力的な地域づ
くりにつながっていくと考えられる。
また、利用者の側としても地域住民との関わりは、住む所を決めるうえで重要な要素
で あ る 。そ の こ と は 、平 成 20 年 度 住 生 活 総 合 調 査( 国 土 交 通 省 )に お い て も 、
「『 近 隣 の
人 た ち や コ ミ ュ ニ テ ィ と の 関 わ り 」を 重 要 と 思 う 人 は 、
「子育てにおいて重要と思う要素」
で 3 番目に多いという結果が出ていることからもうかがわれる。
- 42 -
< 図 20> 子 育 て に お い て 重 要 と 思 う 要 素
「 ② 図 18
( 資 料 )国 土 交 通 省「 平 成 2 0 年 度 住 生 活 総 合 調 査 」
利用者非募集③から④所有者特定不可能」の空き家の場合
空き家居住者が居なくても、十分
に管理されている場合には問題はま
利用者・所有者に対して、継続的に
だ少ない。
アプローチしている事業がない
しかし、管理されなくなると腐朽
がはじまり、除却以外に手段がなく
なっていく。
空き家を対象としておこなわれて
いる事業等についても、このケース
では、利用者を募集している場合
(①)と比べると、所有者、利用者
にたいして、継続的にアプローチす
る事業がほとんどない。
な お 平 成 20 年 度 住 生 活 総 合 調 査
によると、
「相続する可能性がある住
宅 が あ る 」 と 回 答 し た 者 ( 36.6% )
の 約 半 数 ( 19.5% ) が 「 相 続 す る つ
もりはない・相続するかどうかわか
らない」と回答している。このまま
の状況であれば、親世帯が所有して
いる住宅が加速度的に放置されてい
くことが今後予想される。
< 図 21> ② ~ ④ 空 き 家 の 関 係 者 と 各 事 業 の 関 係
よ っ て 、利 用 者 が 建 物 の 使 用 目 的 を 失 っ た よ り 早 い 段 階 で 、別 の 利 用 者 を 見 つ け る か 、
除却するかの決断を迫る制度の創設が必要となる。
- 43 -
19.5%
< 図 22> 相 続 の 可 能 性 の あ る 住 宅 の 有 無 と そ の 活 用 法
( 資 料 ) 国 土 交 通 省 「 平 成 20 年 度 住 生 活 総 合 調 査 」
(3)空き家活用のパターン
空き家の活用パターンと関係する地域は以下のものとなる。
現在活用しているパターンを認識することにより、今後の展望及び将来への課題が検
討しやすくなると考えられる。
< 図 23> 空 き 家 活 用 の パ タ ー ン と 関 係 す る 地 域
- 44 -
第2節
志向の変化に応じて求められる住まいの姿
(1)日本国民の住宅に対する意識
日本国民の住宅取得に対する意識は、近年若干の変化はあるものの新築志向が高
い。これには、戦後の日本の高度経済成長を支えてきた経済対策や住宅政策等の影
響が少なからずあると考える。わが国では、土地を取得することに大きな意味があ
り、地価上昇が続く中では、地価上昇が資産の形成を促し、建物の基本性能や価値
はないがしろにされてきた。
中 古 住 宅 の 価 値 は 、 築 後 20 か ら 30 年 も 経 過 す れ ば な く な り 、 質 の 劣 る 住 宅 は 老
朽化が著しくまた改修もままならないなど、解体せざるを得ない状態というのがわ
が国の住宅状況である。このような「使い捨て型」の住宅市場は、経済が成長する
社会では、消費者及び住宅供給業者ともメリットがあり、このような経済事情が日
本人の住宅に対する感覚を育ててきたと考えられる。
(2)変わる住まいの姿
空き家率が増加する原因の一つとして、少子高齢化以外にも、新しい家族の姿や
ライフスタイルの変化により、国民の住宅志向も変化していることが挙げられる。
主な傾向としては、一戸建ての住宅の比率が下がり共同住宅の比率が上がってい
ることである。
( 図 2 3 参 照 )こ の こ と は「 い つ か は 一 戸 建 て 」と い う サ ラ リ ー マ ン
の一戸建てマイホームを夢見た時代が終わり、一戸建てよりもマンション等の共同
住宅を希望するという居住者としてのニーズそのものの変化をあらわしている。
(千戸)
2,500
5
6
2,000
9
8
1,500
1,000
500
6
8
7
486
607
713
802
189
204
270
368
136
152
130
123
155
105
777
828
862
891
912
959
963
S53
58
63
H5
10
15
20
186
136
170
171
59
70
89
0
一戸建
長屋建
共同住宅1、2階
共同住宅3階以上
その他
< 図 23> 建 て 方 別 住 宅 数 の 推 移
資料:平成 5 年までは住宅統計調査、平成 10 年以降は住宅・土地統計調査
- 45 -
(3)ゆとりある住まいづくりのための意識啓発
これからは人口減少や少子高齢化により家族の姿も変化し、おのずと求められる住
まいの姿も変化すると予想される。特に単身世帯や核家族、共働き世帯が増加する中
で、これまでの「新築・持ち家・一戸建て」という住宅に関する志向も変化すると考
えられる。
今 後 は 「 家 を 持 つ 」 と い う 志 向 が 薄 れ 、「 低 価 格 の 中 古 住 宅 を 購 入 し リ フ ォ ー ム し
て住む」あるいは「利便性・柔軟性の高い賃貸住宅を借りる」といった新しい住まい
方を選択する住民が増えていくであろう。これからは空き家を使った中古住宅の活用
について既成概念にとらわれない多角的な検討が必要であると考える。
併せて、空き家の活用だけでなく、安全で安心できる地域を築くためには、住まい
への関心を高め、住宅の維持管理の大切さを認識しながら、自分の住む地域や暮らし
を知り、住宅の品質向上や良好な景観形成など、ゆとりある住まいづくりを築くこと
も大切である。
- 46 -
第5章
第1節
空き家の将来像及 び基本目標、政策提言
空き家を含めた既存住宅の将来像
住宅は、住民にとって健康や生活の基盤となるかけがえのない生活空間である。ま
た 、都 市 や 街 並 み を つ く る 重 要 な 構 成 要 素 で あ り 、安 全 、環 境 、文 化 等 の 地 域 環 境 と
大 き く 関 連 し て い る 。つ ま り 住 宅 は 、単 に 個 人 の 資 産 と い う だ け で な く 、ま ち 全 体 の
持続的な発展と安定に繋がるものであると言える。
今回私たちが行った自治体アンケートや各種調査結果から、住民及び行政は、空き
家 に 対 す る 問 題 意 識 を も ち 、活 用 に つ い て 何 ら か の 対 策 を し な け れ ば と 考 え て は じ め
ていることが判明した。
これまでは、行政が取り組むことではなかった問題も、社会情勢の変化等で近い将
来 社 会 問 題 と な り 得 る 課 題 に つ い て は 、行 政 で も 早 急 に 議 論 を 始 め 対 策 を 講 じ る 必 要
があると考える。
福岡県では、住宅政策を総合的、計画的に推進するために策定された「福岡県住生
活 基 本 計 画 」 で 、「 安 全 ・ 安 心 で う る お い あ る 、 い き い き と し た 住 生 活 」 を キ ャ ッ チ
フレーズに、以下の目標を掲げ政策を推進している。
目標1:将来世代に継承できる良質な住宅ストックと良好な居住環境の形成
目標2:適切な管理・改修による住宅性能の維持、向上
目標3:住宅の円滑な流通による多様な居住ニーズへの対応
目標4:だれもが安心できる住宅セーフティネットの充実と消費者保護
目標5:循環型社会の形成に寄与し環境と共生する居住環境づくり
目標6:良好なコミュニティを形成する居住環境づくり
目標7:地域特性に応じた良好な居住環境づくり
特に、
「 目 標 3 」及 び「 目 標 5 」の 実 現 の た め 、既 存 住 宅 の 流 通 促 進 と し て 、既 存 住
宅 の 流 通 戸 数 の 新 築 を 含 め た 全 流 通 戸 数 に 対 す る 割 合 を 平 成 27 年 ま で に 25% に 引 き
上 げ る ( 平 成 15 年 は 13% ) こ と 、 住 宅 の 長 寿 命 化 の 促 進 と し て 、 滅 失 住 宅 の 平 均 築
後 年 数 を 平 成 27 年 ま で に 約 43 年 ( 平 成 15 年 は 約 33 年 ) に す る と し て い る 。
第3章から第4章までに述べたような住民ニーズや課題及び福岡県住生活基本計画
な ど を 踏 ま え 、空 き 家 を 含 め た 既 存 住 宅 の あ る べ き 将 来 像 を 以 下 の よ う に 掲 げ 、空 き
家 を 含 め た 既 存 住 宅 の 活 用 を 具 現 化 す る た め 、本 研 究 で 、福 岡 県 内 の 自 治 体 に 向 け て
政策提言をおこなう。
空き家を含めた既存住宅の将来像
《使える既存住宅を活かし、次世代に負の財産を残さない!》
- 47 -
第2節
基本目標
空き家を含めた既存住宅の将来像の実現に向け、次の基本目標を掲げる。
基本目標
・空き家の市場流通体制づくり
・次世代につなぐ良質な住まいづくり
・安全安心に暮らせる良好なコミュニティづくり
基本目標1:空き家の市場流通体制づくり
賃 貸 用 や 売 却 用 と し て の 住 宅 以 外 に 、活 用 さ れ な い ま ま 放 置 さ れ た 空 き 家 が 多 数
存 在 す る こ と か ら 、こ う い っ た 市 場 に 現 れ な い 空 き 家 が 活 用 さ れ る 仕 組 み づ く り を
目 指 す 。ま た 、空 き 家 数 が 増 加 す る 背 景 に は 総 世 帯 数 の 増 加 以 上 に 総 住 宅 戸 数 の 増
加 が あ げ ら れ る 。新 築 着 工 数 の 抑 制 は 当 面 は 困 難 で あ る た め 、除 却 戸 数 を 増 加 さ せ
る仕組みづくりを提言し、除却し空き地となった敷地の新たな活用を目指す。
基本目標2:次世代につなぐ良質な住まいづくり
これまで住宅寿命が短かった日本の住宅の長寿命化を目指して制定された「長期
優 良 住 宅 普 及 促 進 法 」を 普 及 さ せ 、住 宅 が 世 代 や 家 族 を 超 え て 社 会 全 体 の 資 産 と し
て活用していけるような住民意識の醸成及び次世代の教育をおこなう仕組みづく
りを目指す。
基本目標3:安全安心に暮らせる良好なコミュニティづくり
少子化・高齢化する社会状況のなか、時代のニーズに合った空き家の活用策を検
討 し 、実 施 し て い く 必 要 が あ る 。そ の た め に 今 後 、深 刻 化 す る 空 き 家 問 題 の 情 報 を
一 元 化 し コ ー デ ィ ネ ー ト す る 窓 口 を 設 置 す る 。ま た 、移 住 者 が コ ミ ュ ニ テ ィ に 円 滑
に 溶 け 込 め る よ う 、自 治 体 と 地 域 住 民 等 が 連 携 し て 地 域 コ ミ ュ ニ テ ィ づ く り を 促 進
するなどモデルケースづくりを目指す。
- 48 -
第3節
施策の展開(政策提言)
既 存 住 宅 の 将 来 像 及 び 基 本 目 標 の 実 現 に 向 け 、次 に 示 す 施 策 を 展 開 し て い く こ と を
提言する。
使える既存住宅を活かし、次世 代に負の財産を残さない!
・・・ 将 来 像
空き家の
次世代につなぐ
市場流通体制づくり
良質な住まいづくり
安全安心に暮らせる
良好な地域コミュニティ
づくり
・・・ 基 本 目 標
②移住者・所有者等へのコミュニティサポート推進
①用途にとらわれない活用の推進と調整窓口の設置
③法定外目的税「すまいる税」の創設
②住まい方意識の転換を推進
①長期優良住宅の普及促進
③老朽危険空き家及び空き家の除却促進
②中古住宅活用における助成制度充実
①自治体(地域)に応じた空き家バンクの創設
・・・ 施 策 提 言
住民(所有者・移住者・地域等)と行政(国・県・市町村)と
関連事業者等が役割分担のもと連携を図りながら取り組む
・・・ 役 割 分 担
- 49 -
(1)基本目標1:空き家の市場流通体制づくり
福 岡 県 内 の 空 き 家 を 属 性 別 に み る と 、「 賃 貸 用 」 が 最 も 多 く ( 62.7% )、 次 い で 「 そ
の 他 の 住 宅 」( 30.1% )と な っ て い る 。そ の 他 の 住 宅 と は 、賃 貸 や 売 却 目 的 と な っ て お
らず、長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊す予定となった住宅
を指しており、市場に現れない住宅であると考えられる。自治体によっては、このよ
うな市場に現れない空き家を多く抱えている地域があり、各自治体の特性に応じた市
場参入の仕組みづくりが必要である。
①自治体(地域)に応じた空き家バンクの創設
福岡県では既に、県内の市町村とも連携し「福岡県あんしん住替え情報バンク」が
実 施 さ れ て い る が 、情 報 が 福 岡 市 近 郊 に 集 中 す る 、登 録 件 数 が 少 な い な ど 課 題 も 多 い 。
そのため、福岡県では地域における住まいや住環境に関する様々な課題を解決するた
め、官民が連携し地域の実情に応じて、地域のニーズに即した情報の提供、相談、住
環境改善のアドバイス、その他の居住関連サービスをワンストップで提供する「地域
バンク」の普及を進めている。現在、一部の地域では不動産業協会や関連するNPO
等が精力的に活動をし、独自の取り組みが行われている。一方、利用者及び提供者、
地域住民側の立場に立つと行政が何らかの形で情報発信することで安心感、信頼感に
つながっている。また、地域での詳細な情報は、地域の民生委員や自治会役員等が行
政よりも把握していることが多い。なるべく多くの情報を登録し更新を図ることが
「空き家バンク」の魅力にもつながるため、地域の情報を住民から得ることも有効な
手段であると考える。以上のことから、地域に応じた、行政と関係団体及び地域住民
等が連携を図った「空き家バンク」の設立、若しくは福岡県が普及を進める「地域バ
ンク」の設立を提言する。
空き家バンク
関係団体
契約交渉
情報提供
相談等
( 不 動 産 関 係 ・ NPO 等 )
契約交渉
情報提供
相談等
協定締結
登録
情報提供等
情報提供等
登録
情報提供等
提供者
利用者
行政
地域住民
情報提供
コミュニティ等
(自治会・民生委員等)
情報提供等
(イメージ図)
- 50 -
②中古住宅活用における助成制度充実空き家の活用を推進していくには、税制面
での優遇や行政からの助成制度の充実等が有効と考えられる。これらの政策は、新
築住宅を抑制するためにも有効な対策であると考える。ここでは、使える空き家を
有効に活用するための助成制度について以下の制度の導入を提言する。
・中古住宅購入助成制度、借入金補助制度
福岡県宗像市などが取り入れている制度(第2章第1節参照)で、中古住宅を購
入する者に対して購入費や借入金に対する助成を行うものである。自治体によって
は、定住促進の一環として当該自治体外からの移住者に新築住宅の購入補助を行っ
て い る と こ ろ が あ る 。し か し こ の 制 度 で は 、新 築 住 宅 の 増 加 を 助 長 す る も の で あ り 、
現在問題となっている総住宅戸数と総世帯数の乖離(空き家数)を解消することに
はつながらない。空き家数の減少または抑制には空き家を活用することが必要であ
り、購入費及び借入金等への行政からの助成制度を導入すべきと提言する。財源に
ついては、国土交通省の社会資本整備総合交付金の活用が考えられる。
・改修費助成制度
空き家に関わらず既存住宅の改修(リフォーム)費補助は、景気対策の側面もあ
り、既に全国的にも多くの自治体が取り組んでいる。助成金額は自治体により数万
円 か ら 100 万 円 程 度 と 様 々 で は あ る が 、 補 助 実 績 は 概 ね 好 調 の よ う で あ る 。 既 存 住
宅に費用をかけるということは、住宅の質の向上及び長寿命化の促進を図ることに
繋がる。空き家住宅の改修費の財源については、国土交通省の空き家再生等推進事
業の活用等が考えられる。
・民間賃貸住宅家賃補助制度現在、民間賃貸住宅の家賃補助を入居者等に行って
い る 自 治 体 は 、そ れ ほ ど 多 く な い 。し か し 、住 宅 の 約 9 割 が 民 間 の 住 宅 で あ る こ と 、
人口減少及び世帯数の伸び悩み(将来的には減少と予測)を考えれば、行政が公営
住宅の建設に公的資金をつぎ込んできた時代は終焉したと考える。これまでは国民
の住生活が適正な水準に安定するまでの間、公的住宅の量の充実及び質の向上に重
点を置いて取り組んできた。これからは、充足した民間住宅の流通に政策の体系を
シフトすべきであると考える。その施策のひとつとして、新耐震基準を満たすなど
質の良好な民間賃貸住宅への入居を促進する家賃補助制度は有効であると考える。
行政側としては逼迫する財政状況のなか、直接供給し、その後の維持管理を行って
いくコストと比較すれば、行政が維持更新にコストを掛ける必要がなくなるなど効
果は大きい。財源については、一般財源で実施している自治体が多いようだが、国
土交通省の社会資本整備総合交付金等の活用を検討できないかと考える。大分市が
「ふるさと団地の元気創造推進事業」で行っている、富士見が丘団地の社会実験の
成果を今後分析し、空き家の利活用が進み地域コミュニティが活性化するなどの結
果次第では取り入れる自治体も増えてくるであろう。
- 51 -
③老朽危険空き家及び空き家の除却促進
わが国では、これまで景気対策として住宅減税等の住宅建築促進策を行ってきた。
現 在 も 総 世 帯 数 の 増 加( 今 後 は 減 少 の 予 測 )と 比 べ 総 住 宅 戸 数 の 増 加 が 上 回 っ て お り 、
そ の 差 が 空 き 家 数 と な っ て 現 れ て い る 。空 き 家 の 発 生 を 抑 制 す る た め に は 、新 築 住 宅
数 を 抑 制 す れ ば 良 い の だ が 、即 座 に 実 施 す れ ば 住 宅・建 築 産 業 及 び 日 本 経 済 に も 深 刻
な 影 響 を 及 ぼ し 、現 実 的 で な い 。そ こ で 直 ち に 新 築 抑 制 策 を 取 る の で は な く 、ま ず は
使用されない空き家や質の劣る既存住宅の除却促進策を提言する。
周辺の住環境に危害や悪影響を及ぼすおそれがある「老朽危険空き家」の対応につ
い て は 、現 在 も 社 会 問 題 化 し て お り 、い く つ か の 自 治 体 で 除 却 の 促 進 策 を 取 っ て い る 。
実 施 策 と し て は 、長 崎 市 等 で 実 施 し て い る よ う な 、① 行 政 が 寄 付 を 受 け 除 却 し 跡 地 管
理を地元自治会等に任せる方法 ②建物所有者に除却費の一部を助成する方法がある。
ま た 、税 の 滞 納 者 が 所 有 す る 建 物 を 差 押 え し て 公 売 を 実 施( 危 険 な 家 屋 は 除 却 費 を 差
し 引 い て 公 売 )す る 宗 像 市 の 対 策 も あ る 。い ず れ の 施 策 も 老 朽 化 し た 危 険 な 空 き 家 の
除 却 を 促 進 す る 制 度 で あ り 、一 定 の 効 果 は 見 ら れ る が 、今 後 は こ の 様 な 制 度 を 更 に 発
展 さ せ る 必 要 が あ る 。新 築 戸 数 と 除 却 戸 数 の 差 を 小 さ く す る た め に は 、老 朽 危 険 家 屋
の 除 却 だ け で な く 、耐 震 性 に 劣 る 住 宅 や 今 後 使 用 が 見 込 ま れ な い 住 宅 等 の 除 却 を 促 進
さ せ な け れ ば な ら な い か ら で あ る 。前 項 で 提 案 し た よ う な 助 成 制 度 を 除 却 に 対 し て も
実 施 す る こ と で 促 進 が 図 ら れ 、空 き 地 と な っ た こ と で そ の 後 の 土 地 利 用 の 活 性 化( 流
通など)にもつながるものと考える。
財源については、国土交通省の空き家再生等推進事業や社会資本整備総合交付金の
活用が考えられる。
- 52 -
(2)基本目標2:次世代につなぐ良質な住まいづくり
わ が 国 の 中 古 住 宅 の 流 通 量 は 他 の 先 進 諸 国 に 比 べ て 著 し く 少 な く 、住 宅 の 平 均 寿 命 も
短 い ※ 。こ の 背 景 と し て 、住 宅 の 基 本 性 能 が 十 分 に 確 保 さ れ て い な い 点 が 指 摘 さ れ て お
り、合わせて新築後も適切なメンテナンスが行われていないことや、これに関する履
歴情報が蓄積されていないなどの問題点が言われてきた。築年数が経過すると建物の
価値はほとんどなくなり土地だけの価値になってしまう社会構造のため、住宅の基本
性能や質などは重要視されなかったのである。
今 後 は「 使 い 捨 て 型 」か ら 先 進 諸 国 の よ う な「 循 環 型 」に 変 え て い く こ と を 提 言 す る 。
①長期優良住宅の普及促進
使い捨て型を循環型に変えるには、新築時に基本性能等を確保した上で、その後の
維 持 管 理 が 適 切 に 実 施 さ れ な け れ ば な ら な い 。こ れ を 実 現 す る べ く「 長 期 優 良 住 宅 の
普 及 の 促 進 に 関 す る 法 律 」 が 、 平 成 21 年 に 施 行 さ れ て い る 。 こ の 法 律 は 、 長 期 に わ
た り 良 好 な 状 態 で 使 用 す る た め の 措 置 が 講 じ ら れ た 優 良 な 住 宅( 長 期 優 良 住 宅 )に つ
い て 、そ の 建 築 及 び 維 持 保 全 に 関 す る 計 画 を 認 定 す る 制 度 の 創 設 を 柱 と し て い る 。認
定した住宅を長期間使用することにより、住宅の除却に伴う廃棄物の排出を抑制し、
環 境 負 荷 を 低 減 す る と と も に 、建 替 え に 係 る 費 用 の 削 減 に よ っ て 国 民 の 住 宅 に 対 す る
負 担 を 軽 減 し 、よ り 豊 か で 、よ り 環 境 に 優 し い 暮 ら し へ の 転 換 を 図 る こ と が 目 的 と な
っ て い る 。こ の 制 度 が 普 及 し て い く こ と で 、住 宅 の 性 能 が 向 上 し 住 宅 の 履 歴 情 報 も 残
る な ど し て 中 古 住 宅 を 購 入 し や す い 環 境 の 整 備 に 効 果 が あ る も の と 考 え る 。行 政 や 関
係する建設業界等は連携し、普及促進に努める必要がある。
②住まい方意識の転換を推進
住宅の購入を検討する場合、以前と比較して「中古住宅」も視野に入れて検討する
購 入 意 向 者 は 、僅 か で は あ る が 増 え て い る と 言 わ れ る( P 5 図 6 参 照 )。し か し 、こ れ
に は 地 域 や 世 代 等 に よ っ て 差 も あ り 、将 来 に わ た り 中 古 住 宅 の 購 入 希 望 者 を 開 拓 し て
い く に は 中 古 住 宅 に 対 す る 意 識 改 革 に 取 り 組 む 必 要 が あ る 。こ こ で は 、長 期 的 な 視 点
に 立 っ て 、地 域 住 民 の 住 宅 に 対 す る 考 え 方 及 び ま ち づ く り や ま ち へ の 誇 り 等 を 育 成 す
る仕組みづくりについて提言する。
まず、地域住民に対し、地域の現状及び将来展望、将来の住まい方等の情報提供の
勉 強 会 や イ ベ ン ト を 定 期 的 に 開 催 す る な ど 積 極 的 な 情 報 発 信 を 行 う 必 要 が あ る 。そ の
た め に は 、各 自 治 体 で 自 分 た ち の ま ち の 状 況 を 調 査 把 握 し 関 係 各 課 と 連 携 し た プ ロ ジ
ェ ク ト チ ー ム を 組 織 す る な ど 情 報 を 共 有 化 し 、更 に は 行 政 内 部 だ け で な く 関 係 す る 事
業者(不動産業者や建設業界等)等とも情報を共有化することも重要である。
※全 住 宅 取 引 量 に占 める中 古 住 宅 取 引 戸 数 の割 合 は、日 本 の 12.8%に対 し、アメリカ 76.7%、イ ギリス
89.4%、フランス 68.9%となっている(内 閣 府 『経 済 財 政 白 書 2010 年 版 』より)。また、住 宅 の平 均 寿 命 につ
いては、日 本 の 30 年 に対 し、アメリカ 55 年 、イギリス 77 年 となっている(国 土 交 通 省 資 料 より)。
- 53 -
また、長期間にわたり日本人の意識を転換、醸成させていく必要があることから、
教 育 機 関 と 連 携 し て 幼 少 期 か ら 段 階 に 応 じ た「 住 教 育 」を 取 り 入 れ る な ど 、国 の 施 策
と 連 携 し た 自 治 体 で の 取 り 組 み を 推 進 し て い く 必 要 が あ る 。次 代 を 担 う 子 ど も た ち が
豊 か な 住 生 活 を 実 現 し て い く た め 、財 団 法 人 日 本 住 宅 セ ン タ ー と 連 携 し 子 ど も 向 け の
ホ ー ム ペ ー ジ や 絵 本 を 出 し た り 、建 築 士 会 が 学 校 で 出 前 講 座 を 行 っ た り す る と こ ろ も
ある。
③法定外目的税「すまいる税」の創設
現在の固定資産税は建築物の価値(値段)で課税されている。腐朽している建築物
に関しては、その価値が低いため課税としての負担が軽い。そこで価値を基準にした
税 負 担 と は 別 に 、建 物 の 面 積 と そ の 建 物 の 状 態 や 性 能 を 考 慮 し た 地 方 税 法 731 条 2 項
に基づく 目 的 税 「 す ま い る 税 ※ 」 を 導 入 す る 。 つ ま り 築 年 数 に 関 係 な く 状 態 が 悪 い 建
物や、耐震、省エネ性能などの性能が劣る建物に対して順次負担が増加するような課
税体系を導入する。そのようにして集めた税を財源として、良質な建物を造る場合や
改修する場合、その地域の将来像に適合しようとする建築物の補助の財源とする。
なお当初は廃墟、廃屋などに限定して導入し、解体費用や予防的な空き家活用の費
用に当てることも考えられる。
課税に際して建物の状態を考慮することにより、建物が腐朽する以前の段階から、
所有者に対してアプローチすることが可能となる。また、建物が腐朽した場合に税負
担が重くなることから、放置された建物が再度不動産市場に現れやすくなるほか、公
売などの公的な措置が行いやすくなる。
※「すまいる税 」の名 称 について
子 どもから大 人 まで笑 顔 あふれるまちづくりをめざし、住 民 がお互 いに支 え、支 えられ、住 みよいまちを築 く
ための税 となるよう想 いを込 めたもの
- 54 -
(3)基本目標3:安全安心に暮らせる良好な地域コミュニティづくり
まちづくりにおける重要な要素のひとつに「コミュニティケア※1」及び「地域コミ
ュニティサポート」というものがある。ここでは二つの視点に立った空き家活用につ
いて提言する。
①用途にとらわれない活用の推進と調整窓口の設置
今後は人口の減少に伴い世帯数の減少も推測されており、空き家の活用方法を住宅
の み で 検 討 す る の は 現 実 的 で な い 。こ れ か ら は 少 子 化・高 齢 化 等 の 社 会 状 況 の 変 化 に
よ り 、自 治 体 の 実 情 に 応 じ た 地 域 住 民 の 交 流 施 設 や 介 護 予 防 拠 点 施 設 な ど 多 角 的 な 活
用策を検討し推進していく必要があると考える。
2006 年 4 月 の 介 護 保 険 制 度 改 正 に 伴 っ て 、地 域 密 着 型 サ ー ビ ス の ひ と つ と し て「 小
規模多機能型居宅介護※2」が創設された。介護が必要になった高齢者が住み慣れた
自 宅 や 地 域 で 暮 ら し 続 け な が ら 、今 ま で の 人 間 関 係 や 生 活 環 境 等 を で き る だ け 維 持 で
き る こ と を 意 識 し た 制 度 で あ る 。小 規 模 多 機 能 型 居 宅 介 護 施 設 は 全 国 的 に 数 を 伸 ば し
て い る 。し か し 、こ れ ら の 施 設 は 経 営 面 で か な り 厳 し い こ と か ら 課 題 の ひ と つ と し て 、
初 期 投 資 を 抑 え る こ と が 挙 げ ら れ て お り 、そ の 対 策 と し て 、既 存 の グ ル ー プ ホ ー ム に
合 築 す る こ と や 、民 家 を 改 修 す る こ と が 行 わ れ て い る 。ま た 、行 政 か ら の 支 援 と し て 、
自 治 体 に よ っ て は 、厚 生 労 働 省 の「 地 域 介 護・福 祉 空 間 整 備 等 交 付 金 」を 財 源 と し た
補 助 金 を 交 付 し て い る と こ ろ も あ る 。し か し 、事 業 者 が 、既 存 住 宅( 空 き 家 )を 活 用
し た い と 考 え て い て も 、相 談 す る 窓 口 が な い 、不 動 産 情 報 が な い 等 の 問 題 を 抱 え る 自
治 体 も 多 く あ り 、本 研 究 で 実 施 し た 県 内 市 町 村 ア ン ケ ー ト の 結 果 か ら も 、こ の 様 な 制
度を行政自ら実施したり、事業者等に支援したりしている自治体はほとんどない。
今後、各自治体で空き家の情報を一元化し、活用を希望する事業者や地域住民等に
情 報 発 信 で き る 、行 政 内 部 の 窓 口( 担 当 課 )を 設 置 し 、地 域 の ニ ー ズ に 応 じ た 対 応 が
できるようにしなければならない。
②移住者・所有者等へのコミュニティサポート推進
中山間地や地縁関係の強い地域では、貸し手側に移住者に対しての抵抗感が根強く
残っていることで成約まで繋がらないケースもある。借り手側にとっても、田舎に移
り住みたいが地域のコミュニティに入りづらく、その結果住みづらいといった意見も
出ている。こういったケースを解消するため、自治体と地域住民等が連携してコミュ
ニティづくりを促進するなどモデルケースづくりを目指す。
※1 様 々な障 害 を持 った人 も、住 み慣 れた地 域 の中 で馴 染 みの場 所 や地 域 住 民 に囲 まれながら生 活 を送
ること
※2 事 業 所 数 推 移 …平 成 18 年 18 事 業 所 →平 成 21 年 1,936 事 業 所 (厚 生 労 働 省 資 料 より)
- 55 -
例えば、自治体によっては総務省の「地域おこし協力隊」制度を活用し、地域外の人
材を積極的に誘致し、地域力の維持・強化を図っていく手法を導入している。もちろん
このような行政の対応や制度の充実等も必要であるが、その一方で、地域の課題やニー
ズは地域住民で把握し、自ら住みやすいコミュニティづくりに向けて取り組んでいく姿
勢も求められる。行政がこの様な住民ニーズに応えることができるよう、以下のような
支援制度の導入を提言する。
・良好なコミュニティづくりの支援制度
昔 は 、近 所 に 井 戸 端 会 議 や ち ょ っ と 集 ま る 場 が あ り 、そ こ に は 地 域 の 人( お ば さ ん 、
おじさんなど)が集まっていたのではないか。そのような方々の居場所や地域のコミ
ュニケーションづくりの場として自治体が空き家を一定期間借り上げて、自治体が認
めた自治会などへ安価で貸与し、日頃の憩いの場として誰もが安全で安心して暮らせ
るコミュニティづくりに役立ててもらうため、自治体がコミュニケーションの場を確
保する支援を行う。※1
・住民による地域コンシェルジュ制度
田舎暮らしにあこがれている人、または地方に来てみたい人など、他市町村の住民
が気になる情報を地元の住民が伝え、同時にそのまちの魅力を発見するのが「地域コ
ン シ ェ ル ジ ュ ※ 2 」で あ る 。コ ン シ ェ ル ジ ュ は 、そ こ に 魅 力 を 感 じ 移 り 住 ん だ 人( 移 住
希 望 者 の 悩 み や 気 持 ち も わ か る )、 住 み 慣 れ た ま ち を 愛 し 、 ま ち の ラ イ フ ス タ イ ル を
提案できる地元住民などで構成する。その人たちが中心となって、新たな移住希望者
もしくは来訪者に対して、まちの魅力発見や紹介などの情報発信源となってもらう。
そのまちのひとづくりを養成するための支援体制を自治体が行う。
・地域すまい交付金の創設
地縁団体や自治会が行う空き家見守り・防犯・地区祭りなどの移住者をとりこんだ
コミュニティの活性化を図る事業を積極的に評価、公表するとともに、併せて交付金
の支給を行う。
※1 具 体 的 事 例 :「空 き家 等 活 用 コミュニティ推 進 事 業 」~茨 城 県 守 谷 市 ~
自 治 会 ・町 内 会 など地 域 で活 動 する団 体 が地 域 内 の空 き家 等 を活 用 して地 域 の方 々の交 流 の場 (コミュニ
ティサロン)を開 設 ・運 営 しようとする場 合 、市 が空 き家 等 を借 り上 げ支 援 する制 度
※2具 体 的 事 例 :「おおひらコンシェルジュ制 度 」~栃 木 県 大 平 町 ~
本 制 度 推 進 のため、人 材 育 成 を行 う「おおひら・協 働 のまちづくり連 絡 協 議 会 」の設 置 及 び環 境 づくり、そ
して人 材 育 成 される側 への意 識 づけを重 視 したメニューづくりを行 う。なお協 議 会 の主 な構 成 団 体 には商 工
会 、観 光 協 会 、NPO団 体 やまちづくり関 係 者 で組 織 される。
- 56 -
第4節
協働による空き家活用の推進及び体制づくり
(1)協働による推進
住宅の約 9 割は民間の所有であり、住まい方に対する価値観や行動の変化を広く住
民 に 周 知 啓 発 す る こ と が 重 要 で あ る 。こ の こ と か ら 、ひ と つ の 地 方 自 治 体 の み で 空 き
家 の 活 用 策 を 模 索 し て も 大 き な う ね り と な る に は 限 界 が あ り 、多 角 的 か つ 広 域 的 に 連
携 し 推 進 す る 必 要 が あ る 。提 案 す る 施 策 を 展 開 し て 、基 本 目 標 及 び 将 来 像 を 実 現 さ せ
る た め に は 、国 と 県 と 市 町 村 の 行 政 機 関 、不 動 産 業 者 や 関 係 N P O 等 の 事 業 者 、空 き
家 を 所 有 し 活 用 す る 者 及 び 地 域 住 民 と が 、そ れ ぞ れ の 役 割 分 担 の も と 主 体 的 に 取 り 組
んでいく必要があると考える。
・行政(国、県、市町村)の役割
国 ・・・「 住 生 活 基 本 法 」に 基 づ き 制 定 さ れ た「 住 生 活 基 本 計 画 」を 全 国 民 に 普 及
啓 発 さ せ る 仕 組 み づ く り を 県 や 地 方 自 治 体 と 連 携 し 、リ ー ダ ー シ ッ プ を 持 っ
て 推 進 さ せ て い く 。中 古 住 宅 取 得 の た め の 税 の 優 遇 対 策 及 び 法 律 策 定 や 助 成
制 度 の 新 設 を 行 う 。ま た 、住 ま い を 文 化 と し て 愛 お し む 価 値 観 を 育 て 、住 生
活 や 住 環 境 を よ り 豊 か に 魅 力 的 に 作 り 上 げ て い く「 住 教 育 」の 充 実 を 進 め る 。
県 ・・・平 成 18 年 か ら 27 年 ま で の「 福 岡 県 住 生 活 基 本 計 画 」を も と に 、具 体 的 な
施 策 を 県 内 市 町 村 と 連 携 し 推 進 さ せ て い く 。 県 民 に 対 し て 、「 望 ま し い 住 ま
い の あ り 方 」等 の 効 果 的 な 情 報 発 信 、制 度 の 普 及 啓 発 を 実 施 し て い く 。中 古
住宅取得に対する助成事業や先進的取り組みを市町村に提供していく。
市 町 村 ・・・自 治 体 全 体 で 空 き 家 増 加 に 対 す る 危 機 意 識 を 共 有 し 、住 民 に 対 し 情 報
発信を行い、中古住宅の積極的活用等への住民意識の醸成を推進していく。
各 自 治 体 の 特 性 に あ っ た 空 き 家 、中 古 住 宅 を 減 ら す( 活 用 す る )た め 、各 自
治体の総合計画及び住宅政策に反映させ、具体的施策に取り組む。
・事業者の役割
中古住宅を仲介し斡旋または所有する不動産関係や関連のNPO等の事業者は、
供 給 ・ 流 通・ 管 理 面 で 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る 。空 き 家 増 加 に 対 す る 危 機 意 識 を
持 ち 、自 治 体 と も 連 携 し て 事 業 者 間 で 空 き 家 対 策 及 び 今 後 の 住 宅 産 業 の 方 向 性 な
どの研究をするなど積極的に協力することが重要である。
・住民の役割
住 宅 は 、一 人 ひ と り の 重 要 な 生 活 の 場 で あ り 個 人 の 貴 重 な 資 産 で あ る こ と か ら 、
自 ら の 問 題 と 捉 え 主 体 的 に 取 り 組 む 必 要 が あ る 。ま た 、住 宅 は 、ま ち 並 み や 集 落
の 環 境 を 形 成 す る 重 要 な 要 素 で あ る こ と か ら 、そ の 維 持 向 上 に は 地 域 住 民 も 積 極
的に加わり取り
組む必要がある。
次世代が地域に
住民
( 所 有 者 、移 住 者 、地 域 等 )
愛着や誇りを持
てるような教育
を自治体等と連
行政
(国⇔県⇔地方自治体)
携し行っていく。
- 57 -
連携
事業者
(NPO、不動産業者、
建築業等)
第5節
目標値及び実施スケジュール
(1)目標値
第 1 章 第 2 節 の 図 13「 住 宅 着 工 戸 数 シ ナ リ オ 別 の 将 来 の 空 き 家 率 推 移 」 か ら 、 現
状 の ま ま 住 宅 着 工 数 及 び 滅 失 数 が 推 移 す る と 、平 成 35 年 に は 全 国 の 空 き 家 率 が 約 30%
になると推計されている。
この章で提言した施策のほか、各自治体がそれぞれの特性にあった施策を展開する
ことにより、推計値の抑制を目指し上記の推計ら半減することを目標とした。
福岡県の空き家率
<平成20年>
<平成35年>
13.7%
17%
(2)実施スケジュール
第3章の県内アンケート調査によると、空き家の実態を把握していない市町村が約
8 割にのぼる。まず実態調査等を行い、それぞれの状況に応じた施策を選択し、早急
に対策を講じることを期待する。
めやすとして施策ごとのスケジュールを下表に整理する。
項
目
0~1年
1~2年
2~3年
空き家実態調査等の実施
自治体に応じた施策検討等
調 査・検 討
自治体(地域)に応じた
実行
見直し→改善
制度構築
空き家バンクの創設
中古住宅活用における
助成制度充実
財政負担と実施効果の
制度構築
実行
検証→改善
老朽危険空き家及び空き家の除
却促進
長期優良住宅の普及促進
随時啓発
住まい方意識の転換を推進
法定外目的税の創設
調査研究
制度構築
用途にとらわれない活用の推進
と調整窓口の設置
移 住 者・所 有 者 等 へ の コ ミ ュ ニ テ
実行
体制の整備
ィサポート推進
- 58 -
見直し→改善
参
考
資
- 59 -
料
<参考資料1>
生活圏毎の現状
福 岡 県 は 、九 州 の 管 理 中 枢 機 能 及 び 第 3 次 産 業 の 集 積 が 進 む「 福 岡 地 域 」、九 州 で 最
も 高 い 工 業 集 積・技 術 集 積 を 有 す る 一 方 で 後 背 部 に 豊 か な 自 然 環 境 を 抱 く「 北 九 州 地
域 」、 石 炭 産 業 の 衰 退 に よ る 経 済 的 ・ 社 会 的 疲 弊 を 解 消 す る た め に 産 業 基 盤 や 生 活 基
盤 の 整 備 を 進 め る 「 筑 豊 地 域 」、 豊 か な 自 然 と 文 化 、 農 林 水 産 業 や 地 場 産 業 、 個 性 あ
る都市群などの魅力あふれる「筑後地域」の 4 つの生活圏に分けられる。
<図 -1>福 岡 県 の 生 活 圏
<図 -2>生 活 圏 別 の 世 帯 数 の 推 移
- 60 -
(1)福岡地域の現状
福岡地域は、福岡市を中心に九州の管理中枢機能や第 3 次産業の集積が進み、西日
本のリーディングゾーンとして発展してきており、4 地域の中で唯一人口増加が続い
て い る 。人 口 が 多 い( 県 内 シ ェ ア 49.2% )こ と も あ り 、高 齢 者 数 も 最 も 多 い 地 域 で あ
る。高齢単身世帯(約 7 万 6 千世帯)の約半数は借家住まいである。一方、福岡市を
中 心 に 若 年 層 も 多 く 住 ん で い る こ と か ら 、 4 地 域 の 中 で 最 も 低 い 高 齢 化 率 18.3% で あ
る。
福 岡 市 地 域 の 住 宅 総 数 は 、 120 万 7 千 戸 で 、 内 空 き 家 は 約 15 万 9 千 戸 ( 空 き 家 率
13.2% ) と な っ て い る 。 空 き 家 の 建 て 方 は 共 同 住 宅 が 多 く な っ て い る 。 共 同 住 宅 の 割
合 が 4 地 域 の 中 で 最 も 高 く 、住 宅 全 体 の 約 63% を 占 め る 。昭 和 40 年 か ら 50 年 代 に か
けて供給された戸建住宅地が形成されている一方、福岡市博多部、朝倉市秋月、宗像
市赤間宿、筑紫野市山家宿、福津市津屋崎千軒などで伝統的・歴史的街並みが残され
ている。
■福岡地域の主要指標
- 61 -
(2)北九州地域の現状
北九州地域は、九州で最も高い工業集積・技術集積を有しており、これまでに蓄積
された「ものづくり技術」を活かして地域の活性化が図られているが、人口は緩やか
な 減 少 が 続 い て い る 。 高 齢 者 数 は 福 岡 地 域 に つ い で 多 く ( 約 33 万 4 千 人 )、 更 に 高 齢
化 率 に つ い て も 筑 豊 地 域 に 次 い で 高 い 25.5% で あ る 。
北 九 州 地 域 の 住 宅 総 数 は 62 万 9 千 戸 で 、内 空 き 家 は 約 9 万 3 千 戸( 空 き 家 率 14.7% )
となっている。空き家率は筑豊地域に次いで高くなっており、空き家数が多い北九州
市については、高台や接道条件が悪い地域が多く見られる。4 地域の中で共同住宅の
割 合 が 福 岡 地 域 に 次 い で 高 く 、 住 宅 全 体 の 44.0% を 占 め る 。 昭 和 55 年 以 前 に 建 築 さ
れ た 住 宅 の 割 合 が 4 地 域 の 中 で 最 も 高 く 、 住 宅 全 体 の 40.5% を 占 め て い る 。
■北九州地域の主要指標
- 62 -
(3)筑豊地域の現状
筑豊地域は、石炭産業の衰退による経済的、社会的疲弊を解消するため、ベンチャ
ー企業や研究機関の集積を進めている飯塚トライバレー構想など産業基盤や生活環
境の整備が進められている。一方で人口は減少が続いている。筑豊地域の高齢者数は
4 地 域 の 中 で 最 も 少 な い も の の ( 約 12 万 人 )、 高 齢 化 率 は 最 も 高 い 27.7% と な っ て い
る 。高 齢 単 身 世 帯( 約 2 万 4 千 世 帯 )の 63.6% は 持 家 住 ま い で あ る 。飯 塚 市 、直 方 市 、
田川市の中心市街地では商業機能の衰退とともに人口減少がみられる。農山村地地域
でも同様に人口減少がみられる。
筑 豊 地 域 の 住 宅 総 数 は 20 万 戸 で 、 内 空 き 家 は 約 3 万 戸 ( 空 き 家 率 14.8% ) と な っ
ている。空き家率は 4 地域の中で最も高くなっており、空き家の約半数が戸建住宅で
あ る 。持 家 の 割 合 が 筑 後 地 域 に 次 い で 高 く 、住 宅 全 体 の 約 63.9% を 占 め て い る 。昭 和
55 年 以 前 に 建 築 さ れ た 住 宅 の 割 合 が 北 九 州 地 域 に 次 い で 高 く 、 住 宅 全 体 の 約 40.0%
を占めている。
地 域 活 性 化 イ ン タ ー チ ェ ン ジ や 国 道 整 備 に よ り 、福 岡 、北 九 州 両 都 市 圏 へ の ア ク セ
ス が 向 上 し 、下 水 道 な ど の 生 活 環 境 の 整 備 も 進 ん で い る こ と か ら 、こ れ ら を 活 か し た
定住人口及び交流人口の拡大に取り組んでいる。
■筑豊地域の主要指標
- 63 -
(4)筑後地域の現状
筑後地域は、豊かな自然と文化、農林水産業や地場産業、個性ある都市群など魅力
に満ちた地域であるが、就業機会の不足などにより人口は減少が続いている。高齢者
数 は 約 21 万 1 千 人 で 、 高 齢 化 率 は 25.3% と な っ て い る 。 高 齢 単 身 世 帯 ( 約 2 万 7 千
世 帯 ) の 67.0% は 持 家 住 ま い で 、 4 地 域 の 中 で 最 も 高 く な っ て い る 。
筑 後 地 域 の 住 宅 総 数 は 約 33 万 9 千 戸 で 、内 空 き 家 は 約 4 万 3 千 戸( 空 き 家 率 12.8% )
と な っ て い る 。4 地 域 の 中 で 持 家 の 割 合 が 最 も 高 く 、住 宅 全 体 の 66.1% を 占 め て い る 。
昭 和 55 年 以 前 に 建 築 さ れ た 住 宅 の 割 合 は 、 住 宅 全 体 の 37.4% を 占 め る 。
個性豊かな都市がそれぞれの機能を連携・補完しあうネットワーク型の都市として
発展するために「筑後ネットワーク田園都市圏構想」を推進している。九州新幹線の
全線開通にあわせて新大牟田駅、新船小屋駅が新たに設置され、新大牟田駅周辺では
区画整理事業が進められている。
■筑後地域の主要指標
- 64 -
(5)圏域別データ一覧表
- 65 -
- 66 -
<参考資料2>
福岡県市町村アンケート調査
1. 空き家に対する認識・問題意識の確認
(1) 空き家の把握状況
(2) 空き家に関する住民の要望
(3) 空き家への自治体の意識
2. 空き家対策の実施状況
(1) 取り組み中の施策
(2) 今後取り組みたいと考えている施策
3. 担当部署
4. 意見・要望
1
空き家に対する認識・問題意識
(1) 空き家の把握状況
管内の空き家の実態を把握しているのは
23%
10 団 体 。 う ち 2 団 体 で は 実 態 調 査 が 既 に
実態を把握している
実態は把握していない
実 施 さ れ て い る 。4 分 の 3 の 団 体 で は 実 態
を把握できていない。
77%
(2) 空き家に関する住民の要望等
(2)-1
除却の要望
約 半 数 以 上 の 団 体 で 、住 民 か ら 除 却 の 要 望
が あ っ て い る が 、除 却 を し て い る 団 体 は な
49%
51%
ある
ない
い 。除 却 費 の 一 部 補 助 を 行 っ て い る の は う
ち 2 団体のみである。
(2)-2
所有者等から行政へ引き取り等の要望
約 2 割の団体で、所有者等から引き取り
19%
の要望があっているが、長崎市のように
ある
ない
寄付等を受けている団体はない。
81%
- 67 -
(2)-3
自治会活動等の場としての活用要望
自治会等から空き家を活用したいという要
2%
望はほとんど寄せられていないようであ
ある
ない
る。
98%
(2)-4
空き家の除草等管理の要望
約 7 割の団体で、住民等から空き家の除
9%
26%
65%
草管理を要望されている。
ある
ない
その他
その他住民等からの要望
・空き家の有効活用の要望がある。
・ 老 朽 化 し た 隣 地 家 屋 が 倒 壊 し そ う な の で ,危 険 防 止 対 応 要 望 が あ る 。
(3)空き家への自治体の意識
(3)-1
防災上問題があると考えるか
約 8 割の団体で空き家が防災上問題があ
21%
ると考えている。
考えている
考えていない
79%
(3)-2
防犯上問題があると考えるか
防災面と同じく約 8 割の団体で空き家が
23%
防犯上問題があると考えている。
考えている
考えていない
77%
(3)―3
衛生上問題があると考えるか
防 犯・防 災 面 と 同 じ く 約 8 割 の 団 体 で 空
21%
き家が衛生上問題があると考えている。
考えている
考えていない
79%
- 68 -
(3)-4
自治会等の活性化の支障になると考えるか
自治会等の活性化の支障になると考え
19%
ている団体は 2 割程度ある。
考えている
考えていない
81%
(3)-5
現時点においては問題ないと考えている
約 9 割の団体で空き家に問題点があると
12%
認識している。
はい
いいえ
88%
自由意見
・景観及び外部不経済上の観点から問題があると考えている。
・保安上及び道路通行上(倒壊の恐れがある家屋)の観点から問題があると考えて
いる。
・不動産の売買や賃貸取引の中で、おおむね管理がされており、問題は発生して
いない。
2
空き家対策の実施状況
自治体で取り組んでいる施策
(1)-1
地域交流施設または自治会組織等資源として活用
1 団体(社会福祉協議会)が空き家を
7% 2%
地方公共団体自らが
実施している
特に取り組んでいない
地域交流施設として活用している。
その他
91%
その他意見等
・空き店舗対策については、地元商工会等と連携し対策を検討中。
・研究会を立ち上げ、検討中。
・ 平 成 22 年 11 月 よ り 社 会 福 祉 協 議 会 に て 「 空 き 家 再 生 プ ロ ジ ェ ク ト 」 を 実 施 。 社 協
が仲介し家主から無料で借り活動拠点を探している利用者に無料で貸す
現在 2 件を活用中。
- 69 -
システム。
(1)-2
空き家を譲り受け又は借り上げて賃貸住宅として提供
ほとんどの団体で借り上げや譲り受け
7%
は行われていない。
特に取り組んでいない
その他
93%
その他意見等
・物件があれば検討したいと考えている。
・現在のところは取り組んでいないが、筑後田園都市評議会の定住部会において、空
き家を活用した定住体験の取り組みが行われており、本町においても来年度
施行
する予定。
・研究会を立ち上げ、検討中。
(1)-3
空き家(老朽危険家屋)の除却
7% 5%
23%
所有者等が行う除却に
助成している
所有者等に対し除却を
要請している
特に取り組んでいない
団体。うち 1 団体では地域指定有り。
大半の団体では所有者等に自発的に除
却をお願いしている状況である。
その他
65%
除却費の一部補助を行っているのは 2
その他意見等
・ 23 年 度 よ り 、 老 朽 危 険 空 き 家 の 除 却 に 対 し 補 助 制 度 を 創 設 。
・老朽家き家については建築基準法に基づき、所有者に対し維持保全のお願いをして
いる。また、接道条件が悪く除却費が割高な老朽空き家に対し、除却費用の一部を
助成している。
・行政区から要望があれば、所有者等に適切な管理を要請している。
・基本的には所有者等に対し除却を要請する。例外的に、家屋が崩壊し大変危険な状
態となっている 1 件について除却を検討している。
・研究会を立ち上げ、検討中。
(1)-4
12%
空き家情報の提供(空き家バンクの運営等)
地方公共団体自らが
実施している
7%
空 き 家 情 報 の 提 供 を 行 っ て い る の は 、事 業
2%
事業者・NPO等が行う
取り組みに対し支援し
ている
特に取り組んでいない
79%
者等への支援を含め約 1 割となっている。
その他
- 70 -
その他意見等
・現在空き家バンクの準備中である。
・県のあんしん住替えバンクを紹介。
・研究会を立ち上げ検討中。空き家の実態調査まで終えている。
(1)-5
空き家の購入・改修費等の助成
5%
1 団体のみ一部助成を行っている。ほと
2%
んどの団体で空き家の購入費・助成費の
取り組んでいる
特に取り組んでいない
その他
補助は行われていない。
93%
その他意見等
・市外から転入の中古住宅購入者へ一部助成
・地元商工会等と連携し対策を検討中
・研究会を立ち上げ、検討中。
(1)-6
空き家利用にかかる相談体制の整備
2% 7% 2%
地方公共団体が所有者等
に実施
事業者・NPO等が行う取り
組みに対し支援
3 団体では自ら相談等を行い、1 団体が相
談 等 を 行 う NPO 等 へ 支 援 。
特に取り組んでいない
その他
89%
その他意見等
・研究会を立ち上げ、検討中。
(1)-7
移住者のサポート体制
5% 5%
地方公共団体が移住者に
対して実施する予定
2 団体で、自ら移住者サポートを行ってい
る。
特に取り組んでいない
その他
90%
その他意見等
・研究会を立ち上げ、検討中。
・現在検討中。
- 71 -
(1)-8
その他、取り組み中の空き家対策にかかる自由意見
・「 空 き 家 バ ン ク 」 の 開 設 準 備 中 で あ り 、 年 内 に は 情 報 公 開 の 予 定 。
・空き家の活用に向けて、現在、町内の空き家状況の調査を行っている(活用につい
て は そ の 後 に 検 討 す る )。
・ 平 成 19 年 度 か ら 21 年 度 ま で の 3 ヵ 年 計 画 で 、 消 防 局 資 料 を 参 考 に 市 内 全 域 の
約 5,000 戸 に 対 し 、 居 住 の 有 無 、 建 築 物 の 状 況 、 敷 地 の 状 況 等 の 調 査 を 行 っ た 。
そ の 結 果 、維 持 保 全 が 不 十 分 な も の に 対 し 、指 導 を 行 っ て い る 。ま た 、福 岡 県 が「 福
岡 県 あ ん し ん 住 替 え 情 報 バ ン ク 」を 設 立・運 営 し て お り 、本 市 も 関 係 団 体 と し て PR
等の情報提供を行っている。
今後取り組みたいと考えている施策
(2)-1
地域交流施設または自治会組織等資源として活用
5% 2%2%2%
89%
地方公共団体自らが実施
する予定
大半の団体で、地域交流施設または自治
事業者・NPO等が行う取り
組みに対し支援する予定
会組織等資源として活用する予定はない
自治会組織等が行う取り組
みに対して支援する予定
ようであるが検討中である団体が 3 団体
特に取り組む予定はない
ある。
その他
その他意見等
・来年度、空き家に対する実態調査を実施し、総合的に空き家対策を検討する。
・研究会を立ち上げ、検討中。
・空き家の活用に向けて、現在、町内の空き家状況の調査を行っている(活用につい
て は そ の 後 に 検 討 す る )。
・ 平 成 22 年 度 に 「 空 き 家 実 態 調 査 」 を 実 施 、 現 在 空 き 家 の 有 効 活 用 を 検 討 中 。
・具体的対策について今後検討していく。
(2)-2
12%
空き家を譲り受け又は借り上げて賃貸住宅として提供
5%
2 団体で、今後実施予定。
地方公共団体自らが実
施する予定
特に取り組む予定はな
い
その他
83%
その他意見等
・旧第 7 管区海上保安本部職員宿舎が民間に売却された場合に、定住促進住宅と
し、家賃を補助することを検討中。
- 72 -
(1) -3
空き家(老朽危険家屋)の除却
2%
19%
21%
所有者等が行う除却に
助成する予定
所有者等に対し除却を
要請する予定
1 団 体 で 、今 後 所 有 者 等 が 行 う 除 却 に 助
成する予定。
特に取り組む予定はな
い
その他
58%
その他意見等
・所有者等が行う除却に助成することについて検討中。
・これまでと同様、行政区から要望があれば所有者等に適切な管理を要請していく。
(2)-4
空き家情報の提供(空き家バンクの運営等)
地方公共団体自らが
実施する予定
16%
23%
2%
7 団 体 で 、今 後 空 き 家 バ ン ク の 運
事業者・NPO等が行う
取り組みに対し支援す
る予定
特に取り組む予定はな
い
営を開始する予定である。
その他
59%
その他意見等
・現行どおり、県事業の安心住替えバンクの紹介を行う。
・町のホームページでの情報提供について、今後検討していきたい。
・本年度中に情報を公開するため準備中。
・定住促進の観点から検討したい。
・具体的対策について今後検討していく。
(2)-5
空き家の購入・改修費等の助成
19%
特に取り組む予定はない
その他
81%
その他意見等
・空き家バンク制度施行後、必要かどうか検討する。
・転入者の中古住宅の購入に対し助成を検討中。
・所有者への改修費の助成を検討中。
- 73 -
(2)-6
14%
空き家利用にかかる相談体制の整備
7%
5%
地方公共団体が所有者等に
支援する予定
事業者・NPO等が行う取り組
みに対し支援する予定
今後、3 団体で所有者等への相談を直接
実施する予定である。
特に取り組む予定はない
その他
74%
その他意見等
・( 2 ) - 4 、 5 と ほ ぼ 同 じ 意 見 。
(2)-7
移住者のサポート体制
12%
16%
今後、5 団体で移住者へのサポート体
地方公共団体が移住者に対して
実施する 予定
制を整える予定である。
特に取り組む予定はない
その他
72%
その他意見等
・定住奨励金制度について検討している。
・( 2 ) - 4 、 5 と ほ ぼ 同 じ 意 見 。
(2)-8
その他、空き家対策について取り組む予定に関する自由意見
・当市でも空き家問題が顕在化しており、総合政策課、総務課、土木管理課、都市計
画課、建築住宅課、環境整備課、市民活動推進課による対策会議を実施している。
今後は助成に向けた補助金交付要綱等を策定し、空き地・空き家等の適正管理に向
けた条例制定を視野に検討を進めることとしている。
・ 定 住 対 策 と し て 、 県 と 筑 後 地 域 の 12 市 町 で 構 成 す る 筑 後 田 園 都 市 推 進 評 議 会 に お
い て 、平 成 23 年 よ り「 ち く ご 暮 ら し 」体 験 事 業 を 実 施 し て い る 。基 本 的 に は 空 き 家
を改修し、その物件に県内外から 2 週間程度滞在してもらい、移住を考えるきっか
けとなるように取り組んでいる。
・山間地域の空き家の調査を実施する予定。
・本 市 の 空 き 家 率 は 、約 14% で あ り 、そ の 約 6 割 が 賃 貸 住 宅 で あ る 。今 後 、空 き 家 の
件数は増加すると考えられ、その対策については、今後検討していく予定である。
・空き家バンク事業の情報発信も含めた「定住促進パンフレット」を作成する予定。
- 74 -
(3)今後も空き家対策に取り組む予定がない理由
今後も取り組む予定がない理由
18
現時点では、空き家の発生を問題と
認識していないため
16
空き家の所有者等が自ら対応すべ
きであると考えるため
14
空き家対策として何を行えばよいか
わからないため
12
行政内部の推進体制が整っていな
いため
10
空き家の所有者等の把握や意向確
認が困難であるため
8
空き家の所有者が空き家を利用する
ことに同意しないため
財政的に厳しいため
6
民有財産に対して公的支援をするこ
とが困難であるため
4
近隣住民の理解が得にくいため
2
.その他
0
・ 空 き 家 の 所 有 者 等 が 自 ら 対 応 す べ き で あ る と 考 え て い る 団 体 が 16 団 体 と
一 番 多 く な っ て い る 。 続 い て 、 行 政 内 部 の 推 進 体 制 の 不 整 備 ( 12 団 体 )、
民 有 財 産 へ の 支 援 が 困 難 で あ る( 11 団 体 )の 順 に な っ て い る 。空 き 家 所 有
者 等 の 把 握 ・ 意 向 確 認 の 困 難 性 ( 8 団 体 )、 財 政 的 に 厳 し い ( 8 団 体 ) こ と
を理由にあげている自治体も多い。
その他自由意見等
・不動産取引の中で売買、賃貸等がなされ、民間による管理がなされており、空き家
が即、環境の悪化に直結していないため。
3
担当部署(取り組みの主担当の部署)
①地域交流施設または自治会組織等資源として活用
5% 2%
5%
5%
企画、総合政策
観光交流
防災、防犯
建築、住宅政策
担当部署なし
83%
- 75 -
②空き家を譲り受け又は借り上げて賃貸住宅として提供
7% 2%
9%
企画、総合政策
防災、防犯
建築、住宅政策
担当部署なし
82%
③空き家(老朽危険家屋)の除却
5%
21%
企画、総合政策
防災、防犯
環境
55%
7%
建築、住宅政策
担当部署なし
12%
④空き家情報の提供(空き家バンクの運営等)
23%
5%
63%
9%
企画、総合政策
防災、防犯
建築、住宅政策
担当部署なし
⑤空き家の購入・改修費等の助成
12%
2%
7%
企画、総合政策
防災、防犯
建築、住宅政策
担当部署なし
79%
⑥空き家利用にかかる相談体制の整備
14% 2%
2%
7%
企画、総合政策
防災、防犯
環境
建築、住宅政策
担当部署なし
75%
⑦移住者のサポート
16%
2%
5%
企画、総合政策
防災、防犯
建築、住宅政策
担当部署なし
77%
- 76 -
4
意見・要望
・ 少 子 高 齢 化 、核 家 族 化 が 進 む 中 で 、空 き 家 対 策 は 今 後 重 要 な 課 題 と な っ て く る と
思 わ れ る 。特 に 、廃 屋 に 関 す る 問 題 は 喫 緊 の 課 題 で あ り 、当 市 で も 大 変 苦 慮 し て
い る と こ ろ で あ る 。ま た 、老 朽 危 険 家 屋 に つ い て は 建 築 基 準 法 に よ り 県 の 対 応 を
強 化 し て 、所 有 者 等 に 対 し て 保 安 上 危 険 な 建 築 物 等 に 対 す る 措 置 を 行 っ て ほ し い
と考えている。
・ 地域より依頼のあった「空き家」については、個人の私有財産であることから、
できる限り所有者を特定した上で、適正な管理を依頼することしている。なお、
雑草の繁茂等に関する対策は、今後の検討課題である。
・ 現 在 の と こ ろ 空 き 家 の 数 が 非 常 に 少 な く 、空 き 家 に 関 す る 問 題 が 発 生 し て い な い 。
今 後 、高 齢 化 が 進 ん で い く で あ ろ う 地 区 に つ い て 、空 き 家 に 関 す る 問 題 が 発 生 す
ることが予想されるが、現状では特に取り組みは行っていない。
・ 当 市 で は 、空 き 家 対 策 に つ い て の 各 種 施 策 に つ い て は 、十 分 に 取 り 組 め て い な い 。
担当部署についても決まっていません。
・ 現 状 と し て は 、空 き 家 対 策 に 取 り 組 む ま で の 状 況 に 陥 っ て は い な い が 、将 来 的 に
は何らかの対策が必要になるのではないかと考えている。
・ 具 体 的 な 空 き 家 対 策 は 実 施 し て い な い が 、空 き 家 問 題 に つ い て は 、地 域 課 題 の 一
つとして行政区を中心に防火・防犯面や環境面に関しての指摘がなされている。
今後、活用のあり方を含め、実態調査を行い検討する予定。
・ 町 内 に 約 300 件 の 空 き 家 が あ り 、 所 有 者 の 調 査 と 意 向 の 把 握 が 難 航 し て い る が 、
積極的に情報公開を行い、町への定住を促したいと考えている。
・ 空 き 家 所 有 者 の 方 に ア ン ケ ー ト 調 査 を 実 施 。家 屋 、土 地 は 個 人 の 財 産 で あ り 、所
有者の方は様々な考えを持っており、画一的な対応は難しいと感じている。
・ 市 内 に 点 在 し て い る 個 人 所 有 の 空 き 家 を 、地 域 資 源 と し て 活 用 す る ま で に は 地 域
からの需要がない。また、明確な法律の規定がないため、体制も整っておらず、
安 全・安 心 対 策 の 面 か ら 行 政 が 私 有 財 産 に 対 し て 安 全 措 置 等 を 取 る こ と が で き る
ようにするための早急な法整備が必要と考えている。なお、空き家については、
所 有 者 の 責 任 で 維 持・管 理 す る こ と が 原 則 で あ り 、所 有 者 不 存 在 、所 有 者 対 応 拒
否 に 苦 慮 し て い る の が 現 状 で あ る 。し か し な が ら 、特 に 危 険 な 家 屋 に つ い て は 今
後、行政代執行や市費による除去について検討する必要がある。
・ 民 間 空 き 家 に つ い て は 基 本 的 に は 民 事 上 の 問 題 で あ る と 考 え る が 、防 災 上 、防 犯
上 、景 観 上 等 で 周 辺 住 環 境 に 悪 影 響 を 及 ぼ し て い る 老 朽 危 険 空 き 家 も 存 在 す る こ
とから、これらに関しては行政としても対策を講じる時期に来ていると考える。
こ の た め 、今 年 度 よ り 、老 朽 危 険 空 き 家 の 除 却 に 対 し 補 助 制 度 を 創 設 し た 。し か
し 、財 政 的 に 厳 し く ま た 地 域 の 特 性 に あ っ た 効 果 的 な 事 業 が 不 透 明 で あ り 、老 朽
化 し て 危 険 に な る 前 の 対 策 検 討 ま で 至 っ て い な い 。ま た 、法 律 上 の 問 題 、公 的 資
金 を 民 間 家 屋 に つ ぎ 込 む こ と の 問 題 等 で 行 政 が 関 わ れ る 限 界 も 感 じ て い る 。今 後
全 国 的 に 深 刻 な 問 題 と な る こ と は 確 実 な こ と か ら 、国 家 対 策 と 位 置 づ け 法 律 等 の
改 正 や 補 助 制 度 の 拡 充 等 を 早 急 に 検 討 い た だ き た い 。あ わ せ て 国 民 へ の 周 知 等 に
- 77 -
も力を入れてもらいたい。
・ 空 き 家 対 策 と し て「 空 き 家 バ ン ク 」の 開 設 を 目 指 し て い る 。空 き 家 バ ン ク 制 度 は 、
空 き 家 を 有 効 活 用( 市 内 の 空 き 家 情 報 を 収 集 し 、利 用 希 望 者 に 提 供 す る )す る こ
と で 定 住 化 を 促 進 し 、地 域 活 性 化 を 図 る こ と を 目 的 と す る 。当 面 は 、市 内 の 中 山
間 地 域 対 象 の 取 り 組 み で あ る が 、実 績 を み な が ら 今 後 の 対 策 を 検 討 し て い き た い 。
・ 防 災・防 犯 等 の 観 点 か ら 老 朽 廃 屋 を 減 ら し 、ま た 増 や さ な い た め に 、老 朽 空 き 家
の 所 有 者 等 に 対 し て 、維 持 保 全 の お 願 い や 、費 用 が 割 高 と な る 老 朽 空 き 家 の 除 却
費 用 の 一 部 助 成 等 を 行 っ て い る 。し か し 、個 人 財 産 に 対 す る 第 三 者 の 関 与 は 法 的
に 限 界 が あ る こ と や 、一 部 助 成 で は 対 応 で き な い 資 力 不 足 の 所 有 者 が 多 い こ と な
どが障壁となり、苦慮しているところである。
- 78 -
<参考資料3>
寄稿
本研究を進めるにあたり、指導・助言を受けた岡本久人次世代システム研究所長(九
州国際大学客員教授)から空き家への対応に関連し、以下のコラムを寄稿いただいた。
コラム①
混乱の中で生き残る地方自 治体の「政策」と「対策」
岡本 久人
1.はじめに
現 代 社 会 は急 速 に多 様 化 ・専 門 分 化 しつつ急 激 な変 化 のさなかにある。世 界 の激 変 の中 で我
国 もまた地 方 自 治 体 も国 民 も翻 弄 され続 けている。加 えて震 災 や気 候 変 動 など「想 定 外 」の事 象
に直 面 し、その場 その場 で「対 策 」をこうじて当 面 をしのいでいるように思 われる。私 達 日 本 人 は
世 の中 の変 化 を俯 瞰 的 に冷 静 に認 識 し、それに向 けた統 合 的 観 点 からの対 応 をしてきたのであ
ろうか?戦 後 日 本 の復 興 段 階 から、我 国 では広 い視 野 ・長 い視 点 で物 事 を考 え行 動 する文 化 が
失 われてきたような感 がある。自 治 体 の「空 き家 対 策 」についての研 究 会 で機 会 を頂 いたので、
「持 続 可 能 な地 域 づくり」のひとつの提 案 を示 した。
2.激変する世界
2011 年 10 月 31 日 に世 界 人 口 は 70 億 人 を突 破 した。これが僅 か 40 年 後 の 2050 年 には 93
億 人 を超 えると予 測 されている(図 ­1)。一 方 、現 在 1億 2800 万 人 の日 本 の人 口 は 2050 年 には
9 千 万 前 後 に減 少 し加 えて高 齢 化 社 会 になる(図 ­2)。近 未 来 予 測 において人 口 動 態 だけが信
頼 できるデータである。国 立 社 会 保 障 ・人 口 問 題 研 究 所 は国 内 すべての市 区 町 村 の人 口 動 態
を予 測 しているが、都 市 部 に比 べ地 方 になるほど少 子 高 齢 化 ・人 口 減 少 の傾 向 は激 しく急 速 に
進 む。
図 ­1 世 界 の人 口 動 態
日本人口推計
1.25
1億2千5百万
1.22
1.05
26.6
26.9
14.0
20~64歳
14.0
13.7
0.44
47.3
47.3
65~74歳
0.47
0~19歳
47.4
27.3
0.51
27.8
28.1
0.54
13.4
13.4
46.8
13.9
75歳以上
0.58
47.1
28.1
0.63
46.4
46.7
46.2
48.3
47.7
47.3
53.3
50.7
49.2
55.4
55.3
200
54.7
60.9%
59.1
2,000
56.5
400
0.68
27.7
27.5
14.1
4,000
14.7
14.6
14.0
600
0.73
14.5
27.7
0.79
46.1
24.9
0.84
27.5
26.5
0.89
13.7
15.5
15.9
4,855
4,451
4,076
3,699
3,343
3,032
2,771
3,000
2,535
9千5百万
0.95
13.5
800
ローマクラブ
持続可能人口
1.00
22.4
20.2
1.10
21.0
15.3
1.15
19.7
18.2
1.19
14.0
1,000
5,295
5,000
9.1%
1,200
1.27
12.3
70億人
6,000
(十万人)1.28億人
12.2
8,000
2050年課題:
CO2 60%以上削減
経済活力の維持
生活の質の保障
資源自立
次世代の可能性
世 界
9,191
9,026
8,824
8,587
8,318
8,011
7,667
7,295
6,907
6,515
6,124
5,719
9,000
7,000
オセアニア
11.2
93億人
日本の人口動態: 少子高齢化&人口減少
13.1
北米
10,000
世界の人口推
南米
欧州
アフリカ
移
11.1%
アジア
地球上にヒトは何人住める?
11.9
百万人
13.8
激増の世界人口
図 ­2 日 本 の人 口 動 態
総 数(人)
国連データ
11.7
11.5
11.6
11.7
11.7
11.6
11.7
11.7
11.9
12.0
2065
2070
2075
2080
2085
2090
2095
2100
2105
12.1
11.5
2060
2050
2055
13.1
12.8
13.5
2030
12.5
14.2
2025
2045
15.3
2020
2040
16.6
2015
2035
18.9%
17.7
2010
0
0
2005
1,000
(年)
36
世 界 人 口 の急 速 な増 加 とそれらの国 々の経 済 成 長 が続 けば、食 料 ・エネルギーだけでなくあら
ゆる資 源 の枯 渇 とそれをめぐる獲 得 闘 争 が起 こることは冷 静 に考 えれば誰 にでも「想 定 」できる。
その状 況 で少 子 高 齢 化 ・人 口 減 少 が続 けば、地 域 の経 済 ・資 源 ・環 境 ・市 民 生 活 がどのように推
移 するか、その「想 定 」は容 易 につくはずだ。しかし私 達 の文 化 は、常 に悪 夢 のような「想 定 」は避
- 79 -
けてきた。「想 定 外 」の事 象 に現 実 に遭 遇 した後 に、「対 策 」で対 応 するのが日 本 流 である。失 礼
ながら「空 き家 対 策 」も同 じ流 れに近 い。
人 口 動 態 データからみた近 未 来 予 測 を見 れば、私 達 の子 や孫 の世 代 は、現 世 代 が「有 効 な政
策 」を何 も打 たず成 り行 きに任 せれば、ある時 点 で突 然 に、悲 惨 な「想 定 外 」の事 態 に遭 遇 する
可 能 性 もあり得 る。
3.住宅政策からみた日本とドイツの違い:フロー型社会とストック型社会
激 動 する現 代 において持 続 可 能 な社 会 を構 築 するには、広 視 野 ・長 視 点 の認 識 とそれに基 づ
くタイムリーな行 動 が不 可 欠 である。これを戦 後 破 局 からの復 興 政 策 を例 に日 本 とドイツを比 較 し
てみよう。当 時 の西 ドイツ首 相 アデナウアーは戦 災 復 興 において「ドイツ人 の精 神 の健 全 性 を保 つ
ために、200 年 ・300 年 の時 を経 ても陳 腐 化 しない都 市 と地 域 を造 れ」と言 った。その政 策 をドイツ
人 が堅 実 に守 ったことは、現 在 のドイツを旅 行 した人 は誰 でも理 解 できる。一 方 、我 国 では池 田
首 相 の「所 得 倍 増 論 」に代 表 されるように、収 入 が倍 増 する中 でスクラップ&ビルドで都 市 と地 域
を造 ってきた。フロー型 社 会 とストック型 社 会 の違 いである。図 ­3で住 宅 寿 命 の比 較 を示 したが、
住 宅 だけでなく社 会 インフラ全 般 も同 様 であり、日 本 はフロー型 社 会 を構 築 してきた。その結 果 、
日 本 国 民 は世 界 トップレベルの所 得 を得 てきたが、世 代 毎 に家 や社 会 インフラを再 構 築 しなけれ
ばならず、図 ­4で示 すように生 涯 収 支 でみれば日 本 人 は世 代 毎 の支 出 が大 きく、決 して豊 かな
社 会 ではない。
図 ­3 住 宅 寿 命 の国 際 比 較
図 ­4 生 涯 収 支 比 較
ストック(EX.家屋)の寿命 国別比較
ストック型社会と国民生活(生涯収支比較) この収支構造は為替レートとは関係ない
日本人の生涯収支
購買力平価が同じでも、保有資産価値寿命に差があれば ⇒
・・・ストック型社会
ヨーロッパ人の生涯収支
・・フロー型社会
生涯コスト
ゆとり
ストック戸数をフロー戸数で除いた値(年)の国際比較
生涯コスト
0
50
100
アメリカ(91年)
150
103
イギリス(91年)
当世代収支
ゆとり・・・・・・Buffer
生涯収入
≒2億4千万円
実質生活
生涯収入
実質生活
141
フランス(90年)
86
住宅
≒6千万円
※ 第二次世界大戦で独・仏は戦災にあった。
前世代
からの
ストック
戦後復興のプレファブ家屋が更新期にあり
ドイツ(87年)
日本(93年)
79
そのデータが含まれていると思われる。
世代間ストック
(長寿命型資産)
30
個人資産も
出典:住宅の寿命分布に関する調査研究(2)(別紙)加藤裕久
「住宅研究財団研究年報」No.18 1991
住宅
次世代
への
ストック
国・地方自治体の社会資本も
フロー型社会: 生活コストが高い
毎世代、家や資産を造り替えるローン地獄
ストック型社会:
収入格差があってもストック部分で豊かな生活
1990 年 代 に始 まったグローバル経 済 の下 で、世 界 トップレベルの高 賃 金 とフロー型 社 会 システ
ムは日 本 のコスト構 造 を高 め、国 内 産 業 の国 際 コスト競 争 力 を著 しく下 げてきた。また省 エネ・省
資 源 は日 常 生 活 に直 結 して目 立 つが、世 代 毎 に造 り替 える家 や社 会 インフラで浪 費 するエネル
ギーや資 源 量 は膨 大 であるが国 民 の目 には認 識 されない。資 源 ・環 境 問 題 も少 しだけ俯 瞰 的 に
観 る習 慣 があれば、我 国 の在 り方 も違 ったかもしれない。
このような理 由 で、我 国 も早 期 に(多 分 、海 外 で運 用 されている日 本 の資 金 が消 耗 する前 に)、
ストック型 社 会 への転 換 を図 らなければ、次 世 代 の日 本 人 の生 活 ・経 済 ・資 源 ・環 境 ・等 々の安
全 は保 障 されない。その一 環 として筆 者 等 は「超 長 期 優 良 住 宅 (通 称 200 年 住 宅 )普 及 促 進 法 」
の策 定 ・施 行 に関 わった。しかし単 に住 宅 だけが長 持 ちしても意 味 は無 い。何 世 代 も価 値 劣 化 が
ない地 域 の資 産 構 造 を、徐 々に構 築 していく政 策 モデルと金 融 モデルが必 要 だ。その内 容 は概
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ね以 下 のように整 理 できる。
① 地 方 自 治 体 ごとに 2050 年 の人 口 動 態 データ等 を指 標 に「持 続 可 能 な地 域 」を設 計
⇒ コンパクトな長 寿 命 型 街 区 (生 活 圏 )、資 源 自 律 圏 、資 源 (資 金 )生 涯 収 支 、等
⇒ 対 象 の全 てを長 寿 命 型 (スケルトン)にせずフレキシブル可 変 な部 分 (バッファー)
をつくる。
⇒ 長 寿 命 型 資 産 を蓄 積 する場 所 ・位 置 は、各 種 ハザードマップ等 を重 ね合 わせた
アロケーションの考 え方 で選 択 する。
② 日 本 (地 域 )の資 金 /金 融 資 産 を日 本 (地 域 )の長 寿 命 型 実 物 資 産 に置 き換 えるモデル
⇒ 長 寿 命 型 不 動 産 の証 券 化 等 ( 基 本 的 には海 外 で運 用 されている日 本 の資 金 の一 部 を
地 方 に向 ける。仮 に次 世 代 に借 金 しても何 世 代 も使 えるの実 物 資 産 を残 すことができき
れば後 世 代 へのツケにはならない。アデナウアーがとった政 策 だ。)
③ 世 界 ・地 域 の情 勢 変 化 と同 調 し、2050 年 ゴールや年 々の施 策 をPDCAするシステム
⇒ これをバックキャスティング政 策 という。
現 在 の日 本 の事 情 では、これを国 家 レベルで推 進 することは極 めて困 難 で、小 回 りのきく地 方
自 治 体 や民 間 レベルで行 う方 が現 実 的 かもしれない。
4.地域政策シミュレーター
このような政 策 を我 国 で実 施 することは現 実 的 には困 難 が多 い。なぜなら今 の日 本 には広 視
野 ・長 視 点 で考 えたり行 動 するシステムが欠 落 しているからだ。例 えば国 ・地 方 に限 らず政 策 を担
う政 治 (立 法 )や行 政 の機 能 は 4 年 おき、同 様 に経 済 界 も経 営 陣 がサラリーマン化 し自 分 の任 期
かつ自 分 の業 界 でしか物 事 を考 えず、今 では社 会 全 体 や次 世 代 のことまで思 いをはせる人 は稀
だ。また日 本 の学 問 は殆 どが専 門 分 化 し、自 分 の専 門 を超 えて理 論 を展 開 する学 者 は少 ない
(特 に社 会 科 学 )。現 代 のように激 変 する社 会 環 境 の中 で国 民 は、社 会 全 体 を俯 瞰 できる「成 熟
した市 民 」になることは難 しい。つまり社 会 変 革 が求 められているにも関 わらず、現 在 の産 学 官 民
のどこにおいても牽 引 するシステムが見 当 たらない。このような中 で地 方 の官 ・学 ・産 ・民 が、「想
定 外 」に起 きた個 々の問 題 に従 来 通 りに個 別 の「対 策 」を積 み上 げつづければ、地 方 の「成 り行 き
シナリオ」は「空 き家 」に限 らず骨 粗 鬆 症 のようにスカスカになっていくかもしれない。
そこで世 界 と地 域 の人 口 動 態 を軸 に、現 在 から近 未 来 (例 えば 2050 年 )の世 界 と地 域 がどの
ように推 移 するかを普 通 の市 民 に分 かりやすく理 解 してもらう「地 域 シミュレーター」のような単 純 な
ツールを導 入 するのはどうか。その中 で、何 の政 策 も打 たず放 置 した場 合 の「成 り行 きシナリオ」と、
上 述 のような手 法 で目 指 す「地 域 の 2050 年 ゴール」を示 し、地 域 の市 民 と産 学 官 で「持 続 可 能
な地 域 づくり」を進 める。こうすれば、仮 に 4 年 おきに人 が変 わっても、継 続 的 な地 域 づくりができ
ると考 える(図 ­5)。
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図 ­5 バックキャスティング地 域 づくり
持続可能な地域(⽇本の社会)づくり概要
既存市街地 ⇒ 2050年ストック型地域圏設計
Ⅰ:市民向け説明手法の研究
(2050年までの地域課題・・・
・・・世界課題)
Ⅱ:ストック型地域圏設計方法の研究
Ⅱー1:人間圏の設計
(コンパクト&長寿命型資産)
Ⅱー2:自然圏の設計(発生余剰地)
自然資源ポテンシャル
Ⅱー3:統合圏(上記の最適組合せ)
Ⅲ:社会実装方法の研究
市民意見創出(課題⇒対策)
ビジネスモデル
体制(産学官民)
ステアリング
コミティー
(産学官民)
継続体制
2050年八幡東区の設計図
(持続的安心安全豊かさ)
土地利用・都市計画
生活(QOL)、経済産業
資源、環境(低炭素社会)
2030年ゴールの設計図
2020年ゴールの設計図
(社会変化への軌道修正)
PDCA
しかし大 がかりな地 域 政 策 シミュレーションシステムを地 方 の自 治 体 が個 々に構 築 することは現
実 的 には困 難 であろう。それでも各 自 治 体 が直 ぐにやれることは、俯 瞰 的 に観 た自 治 体 の今 後 の
課 題 と対 応 すべき方 向 を分 かりやすく説 明 することだ。
① 世 界 の人 口 動 態 推 移 から近 未 来 (2050 年 まで)にどんな課 題 が起 こり得 るか。
② 日 本 と自 分 達 の自 治 体 の人 口 動 態 (国 立 社 会 保 障 ・人 口 問 題 研 究 所 は市 区 町 村 単 位 の
データあり)の推 移 から近 未 来 (2050 年 まで)にどんな課 題 が起 こり得 るか。
③ とりわけ自 治 体 の人 口 動 態 から見 える地 域 の「成 り行 きシナリオ」を周 知 する。
「持 続 可 能 な地 域 づくり」に相 応 な、地 域 住 民 の覚 悟 と理 解 を得 ることが必 要 だ。
5 .「 空 き 家 」 へ の 対 応
できるならば、先 ず上 述 のような観 点 から地 域 の価 値 を高 めるための自 治 体 としての近 未 来 ゴ
ール(地 域 計 画 /都 市 計 画 )の骨 子 を示 す。その上 で、既 に空 き家 になった家 で、将 来 の地 域 価
値 からみて意 味 がないものは社 会 的 負 担 を軽 減 するために早 期 に除 却 すべきだ。
ストック型 社 会 とは価 値 あるものを造 って大 切 に長 く使 う社 会 である。その観 点 から既 に造 られ
たものでも、将 来 的 に価 値 を持 続 できるものは、きちんと保 全 して利 用 することも大 切 だ。価 値 と
は必 ずしも物 理 的 劣 化 だけで判 断 すべきではなく、例 えば歴 史 ・文 化 など地 域 固 有 の価 値 も忘 れ
てはならない。
以上
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