シリコンスタジオ株式会社(3907)

エイチ・エス銘柄レポート
エイチ・エス銘柄レポート
シリコンスタジオ株式会社(3907)
2015 年 2 月 23 日
客員アナリスト 寺島 昇

主要ポイント

シリコンスタジオ株式会社<3907>(以下、同社)は、リアルタイムグラフィッ
クスに関する事業を展開するために 1999 年に現在の経営陣を中心に設立された。
その後、日本 SGI(株)から移籍社員を受け入れるなどして業容を拡大し、現在
では家庭用ゲーム機やスマートフォン(以下、スマホ)向けゲームの開発等に必
要不可欠なミドルウェアの提供を中心に事業展開を行っている。

現在の主力事業は、家庭用ゲーム機・スマホ・組込機器向けのミドルウェアの開
発・販売、コンソールゲームやオンラインゲーム等の受託開発さらにサーバーネ
ットワークの構築・運用監視等のソリューションを行う「開発推進・支援業務」、
自社で開発したゲーム等の販売を行う「コンテンツ事業」、さらに CG、WEB 制作、
各種ゲーム開発等に必要な人材を紹介あるいは派遣する「人材事業」の三つに大
別される。

スマホ向けゲームや各種ソーシャルゲーム市場の拡大に伴い業績は好調に推移し
ていると言える。HS 証券では、2015 年 11 月期の一株当り利益(EPS)は 267.52
円と予想。

業績サマリー
-株式情報-
株価(2/23日初値)
発行済株式数
2,355,000株
9,900円
DPS(予)
EPS(予)
配当利回り(予)
20.0円
時価総額
0.4%
23,315百万円
PER(予)
267.52円
37.01倍
ROE(実)
25.1%
BPS(実)
669 円
売買単位
100株
PBR(実)
14.79倍
(予)は2015年11月期HS証券予想ベース
- 連結業績推移-
項目決算期
(単位:百万円、円)
売上高
営業利益
経常利益
当期j純利益
EPS
配当
2012年11月(実)
5,770
560
558
328
139.61
6.7
2013年11月(実)
7,264
556
565
395
170.31
10.0
2014年11月(実)
8,056
841
832
507
255.82
10.0
2015年11月(HS予)
9,500
1,050
1,040
630
267.52
20.0
2016年11月(HS予)
10,200
1,200
1,180
720
305.73
25.0
(HS予):HS証券予想
EPSは期中平均発行済み株式数ベース。
1/15
分割修正済み


会社概要
沿 革
同社は 1999 年にリアルタイムグラフィックスに関する事業を展開するために現在の経営陣
を中心に設立された。その後、日本 SGI(株)から移籍社員を受け入れたり、Intrinsic
Graphics Inc.社(現 Vicarious Visions 社)とゲームソフトウェア開発用ミドルウェアに関
する業務提携契約を締結するなどして積極的に業容を拡大していった。この間にゲームソ
フト用ミドルウェアの開発で培った 3 次元コンピュータグラフィックス(以下、
「3DCG」
)
技術およびレンダリング技術(*)に基づき、同社オリジナルタイトルのソーシャルゲー
ムやスマホ向けネイティブアプリの提供や他社ブランドのコンソールゲーム・オンライン
ゲームの受託開発から、さらにはオンラインゲームに係るサーバーネットワークの構築・
運用・監視などのソリューション事業に加え、各種の技術者の派遣を行う人材事業へと「事
業ポートフォリオ」を拡大し現在に至っている。
(*)レンダリングとは、コンピューターのプログラムを用いて画像・映像などを生成するこ
とを指す。
1999年11月
リアルタイムグラフィックスに関する事業を幅広く展開することを目的に当社設立。
12月
日本SGI(株)、(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント、(株)エヌ・ケー・エ
クサ等からの出資を受けて、資本金を210百万円へ増資。
2000年 1月
日本SGI(株)から移籍社員30名を受け入れ、リアルタイムグラフィックス事業の営業を本
格的に開始。
10月
Intrinsic Graphics Inc.社(現Vicarious Visions社)とゲームソフトウェア開発用ミド
ルウェアに関する業務提携契約を締結。
2003年12月
コンテンツ・クリエイターの人材派遣サービスを開始(人材事業を開始)
2007年 2月
自社開発ミドルウェアで主力製品のYEBISをリリース
2008年 1月
ゲーム開発本部を発足し自社企画ゲームコンテンツ制作を開始(コンテンツ事業を開始)
2010年11月
「三国志カードバトル」を(株)ディー・エヌ・エーが運営する「Mobage」プラット
フォームにおいて提供開始
2011年 2月
オールインワンゲームエンジン「Orochi(オロチ)」発売開始
2012年 2月
ソーシャルゲーム「逆襲のファンタジカ」をスマートフォン向けネイティブアプリとして
(株)ディー・エヌ・エーが運営する「Mobage」プラットフォームにおいて提供開始
2013年 7月
スマートフォンネイティブアプリ「モンスタータクト」をGoogle Inc.が運営するGoogle
Playにおいて提供開始

事業内容
同社グループは、同社、連結子会社 2 社(イグニス・イメージワークス株式会社、マッチ
ロック株式会社)
、非連結子会社 1 社(Silicon Studio (Thailand) Co. Ltd.)および関連会
社 2 社(イリンクス株式会社、プライムスイッチ株式会社)により構成されており、ゲー
ム業界、メディア業界といったエンターテインメント業界におけるデジタルコンテンツの
開発等に関連した事業を営んでいる。事業内容は、
「開発推進・支援事業」
、
「コンテンツ事
業」
、
「人材事業」の 3 つのセグメントに分けられており、2014 年 11 月期の各セグメント
2/15
の売上高は、開発推進・支援事業が 3,638 百万円、コンテンツ事業が 3,680 百万円、人材
事業が 737 百万円であった。
また同期間の主要顧客(売上比率 10%以上)は、ngmoco LLC(売上比率 22.2%)、ディー・
エヌ・エー(同 17.7%)
、任天堂(同 11.0%)となっている。前 2 社向け売上高は、コンテ
ンツ事業がこれら企業のプラットフォーム上で提供されるために多額の売上高がそれぞれ
の企業向けに計上されているが、実際の売上はエンドユーザー(利用者)が支払っている。
その他の実質的な主要顧客はスクウェア・エニックス、バンダイナムコなどの大手ゲーム
会社となっている。
セグメント別売上高
(2014年11月期:8,056百万円)
セグメント別営業利益
(2014年11月期:841百万円)
人材事業
9%
コンテンツ
事業
46%
人材事業
13%
開発推
進・支援
事業
45%
コンテンツ
事業
30%
開発推
進・支援
事業
57%
各セグメントの事業概要は以下のようであるが、同社の事業内容を理解するためにはまず
「ミドルウェア」とは何かを知ることが必要だろう。

「ミドルウェア」とは
通常のコンピューターシステムでは、各種の機器(いわゆるハードウェア)があり、それ
ぞれの機器に基本的な動作を行うための基本ソフトである OS(Operating System)が搭載
されている。さらにその OS に、ユーザーが実際の作業を行うための各種のアプリケーショ
ンソフト(ゲーム、音楽・映像視聴、表計算、ワープロ、Web ブラウザー等)が搭載され、
ユーザーはこれらのアプリを操作することで目的とする作業を行うことが出来る。
ミドルウェアとは、これらの OS やハードとアプリケーションソフトとの中間に位置付けら
れるソフトウェアをいう。通常のアプリ開発は、各 OS またはハード毎に行う必要があるが、
ミドルウェアを入れる(搭載する)ことによって、OS との連携(インターフェース)はミ
ドルウェアが吸収してくれるため、このミドルウェア上でアプリを開発すれば、そのアプ
リは各種の異なる OS 上で動作させることが出来るようになる。
(下図参照)
このため、
アプリ開発を行う企業や技術者はミドルウェアを利用することで開発工数の削減、開発期
間の短縮、開発難易度の逓減を図ることが可能になる。
同社製品はこのようなミドルウェアの一種であり、各種ゲーム開発用のエンジン、ツール
である。ミドルウェアであることから下記のように対応するプラットフォームは多い。例
3/15
えば某ゲームソフトメーカーがあるコンテンツを開発した場合、通常の方法では同じゲー
ムであっても利用するハードウェア(PS4、Wii、XboxOne、iPhone、Android 等)ごとに
別々にアプリ開発を行う必要がある。しかし同社の製品(ミドルウェア)を使用すれば、
開発そのものが容易になるだけでなく、他の仕様のハードウェア向けへの転用が容易に行
えるため、ゲーム開発メーカーとしては大幅にコストを削減することが可能になる。
(ミドルウェアのイメージ図)
アプリケーション
( ゲーム、 エ ンターテ イメント)
ミドルウェア
ゲーム機
スマートフォン
組込み機器
(出所:各種資料より HS 証券作成)

開発推進・支援事業
開発推進・支援事業の内容はさらに「ミドルウェア開発・販売」、「他社販売ゲームのタイ
トルおよびその他コンテンツの開発受託」、「ソリューションサービス」に分けられ、その
概要は以下のようになっている。それぞれの分野の詳細な売上高は開示されていないが、
2013 年 11 月期実績ではミドルウェア開発・販売が約 42%、受託開発が約 31%、ソリュー
ションが約 27%であった。
(ミドルウェア開発・販売)
同社の中心となる事業で、家庭用ゲーム機、スマホ、組込機器向けに高品質かつ柔軟性の
高いゲームエンジンおよび開発ツールを開発し、これらをライセンス方式で販売している。
特にリアルタイムのコンピュータグラフィックス技術を強みとしている。下表が主な製品
群とその内容、対応するプラットフォームである。
これらの製品はゲームタイトル毎に決まった料金でライセンス許諾(契約)され、末端市
場での販売本数には関係がない。エンドユーザーは開発が続く限り継続的に同社製品の利
用が可能だが、利用期間中は毎月サポートフィー(販売金額の約 15~20%)が発生する。
平均的な開発期間(=利用期間)は 2 年ほどだが、最長 5 年の場合もあった。販売価格は、
オールインワンエンジンである OROCHI で約 30 百万円、画像生成用の YEBIS で約 3 百
万円となっているが、オプション等によって価格は変動する。
4/15
製品名
特色・ 概要
■ゲーム開発に必要なライブラリーやツールを網羅したオールインワン
ゲームエンジン。「YEBIS」など同社の先端技術を豊富に搭載。
■日本でのローカルサポート
OROC HI3
■主な対応プラットフォーム
Playstation4, 3, Vita
Xbox360, Windows
■導入事例
「ガンスリンガーストラトス」、「ヴァルハラナイツ3GOLD」
■コンピューター上で生成された画像に対して、現実のカメラ撮影で発生
する各種画像効果を再現するミドルウェア。
Y EBIS3
■代表的な効果として、眩しい部分の輝き、ピンボケ、動きのある物体の
ブレ、レンズ歪等があり、これらの効果により画像のリアリティが格段に
向上する。
■リアルタイムでの処理が可能
■主な対応プラットフォーム
Playstation4, 3, Vita
Xbox One, 360, Windows, Mac, Linux
組み込み機器
■プラットフォーム間の差異を隠匿し、1つのソースコードでのマルチプ
ラットフォーム対応を可能とするゲームエンジン。
VIC ARIOUS VISIONS ALC HEM Y
■ミドルレンジ向け商品
■主な対応プラットフォーム
Playstation3, 2, Vita
iPhone, iPad, Android,
Xbox 360, Xbox, Wii,
商業用ゲーム機器、組み込み機器
■爆発、煙、衝撃波、魔法効果等のゲーム内に登場する特殊効果をリアル
タイムグラフィックスとして生成するツールとミドルウェア。
BISHAM ON
■主な対応プラットフォーム
Playstation4, 3, Vita
iPhone, iPad,
Android,
Xbox 360, 任天堂3DS,DS,
Windows,
商業用ゲーム機器, 組み込み機器
■一枚の顔写真からいろいろな表情へ変化する動画をリアルタイムに生成
するツールとミドルウェア
■実写のアニメの両方に応用可能
M o r t io n Po r t r ait
■活き活きとした表情をもつキャラクターを表現することが可能
■主な対応プラットフォーム
Playstation4, 3, Vita
iPhone, iPad,
Android,
Xbox 360, 任天堂3DS,DS,
Windows,
組み込み機器
■きわめて実写に近い映像表現を可能にしたレンダリングエンジン
M IZUC HI
■物理ベースレンダリングを導入しリアルタイムレンダリングで実現
■大手ゲームメーカーでも対応困難な圧倒的な高画質表現を実現
■2015年度発売予定
(出所:各種資料等より HS 証券作成)
主力製品である「OROCHI」の概要を描くと下図のようになる。多くの専門ツールを標準
搭載していることに加えて、各種の外部ミドルウェアとの連携が容易に行えるため、多く
のゲームのプランナー、クリエイター等にとって非常に扱い易く便利なミドルウェアとな
っている。
5/15
(OROCHI の概念図)
(出所:各種資料等より HS 証券作成)
(外部連携が可能な主なミドルウェア)
(出所:各種資料等より HS 証券作成)
6/15
(他社販売ゲーム等の受託開発)
他社製品名で販売される各種のゲームコンテンツ(家庭用ゲーム機向け、業務用ゲーム機
向け、スマホ向け等)の開発受託を行う部門。同社はゲーム開発で培ってきた高い技術力
と豊富な経験を有していることから、ゲームのシナリオ作成などの企画段階から提案し、
単に他社製品開発にとどまらずクライアントニーズや市場に合わせた提案やコンサルティ
ングも行っている。独自のミドルウェア技術を活用し熟練したデザイナーが生みだすエフ
ェクト・2D・3D 映像によって革新的な作品を提供している。
他社ブランドで発売されているタイトル数は、
2014 年 11 月末で 26(2012 年 11 月末は 16、
2013 年 11 月末は 23)となっている。代表的な作品としては、スクウェア・エニックスか
ら発売された「ブレイブリーデフォルト」がある。
(ソリューションサービス)
同社では、オンライン対応のコンシューマゲームやソーシャルゲーム等を運営するオンラ
インエンターテインメント事業者向けに、ネットワークインフラの構築、運用、保守・監
視、技術コンサルティングなどのソリューションも提供している。また、これらのゲーム
運営で使用するサーバーと回線を顧客に貸し出すホスティングサービスも行っている。
顧客の多くは契約を継続する場合が多いので、この部門はストック(積上げ)型のビジネ
スモデルであり、同社の収益基盤を安定的に支えている。

コンテンツ事業
同社が自社で開発したスマホ向けゲームやフィーチャーフォン(従来型の携帯電話機)向
けソーシャルゲームを国内および海外のユーザーへ提供し、利用料金を徴収する事業。現
在、国内で 4 タイトル、海外で 2 タイトルが提供されており、2014 年 11 月期の売上高比
率は国内 49.9%、海外 50.1%となっている。主なタイトルの概要は以下のとおり。
タイトル名
提供プラッ トフォーム
ダウンロード数
三国志カードバトル
DeNA(Mobage)
107万
逆襲のファンタジカ
DeNA(Mobage)
764万
ngmoco
(全世界)
Mobage(アジア)
戦国武将姫-MURAMASA
DeNA(Mobage)
63万
Mixi、 ヤマダゲーム
dゲーム、モブキャスト
刻のイシュタリア
Apple (AppStore)
Googe (Google Play)
54万
(全世界)
(2014年11月末現在)
7/15

人材事業
同社は、CG、ゲーム制作、映像制作、WEB制作の各業界におけるデザイナーやクリエ
イター等の技術者をクライアント企業に有料で紹介する人材紹介サービスおよび登録派遣
社員を派遣する人材派遣サービスを行っている。ミドルウェア等の販売や受託案件の営業
を行う傍ら、クライアント企業における人材ニーズの掘り起こしも行い、必要な人材を紹
介したり派遣したりすることで対価を得ている。
一般的な人材紹介会社や人材派遣会社と異なり、同社自身がオリジナルタイトルの開発を
行っていることからコンテンツ制作等に係る人材の見極めに関してクライアント企業のニ
ーズを的確に捉えることが出来るのが同社の人材事業の強みとなっている。当然だが、厚
生労働大臣から「有料職業紹介事業」、「一般労働派遣事業」の許可を受けている。同社に
登録されたクリエイター・技術者等は 2014 年 11 月末で約 3,500 名となっている。

特色、強み
同社製品や事業モデルの特色や強みは以下のように要約出来る。

技術力の高さ
同社の最大の特色は 3DCGにおける高い技術力である。幹部社員の前職である日本SGI
社時代からの技術に加え、海外メーカーとの提携、自社開発によって長年の間に蓄積、培
われてきたコンピュータグラフィックス、レンダリング、各種エフェクトなどの技術力は
他社が容易に真似出来るものではなく、多くのゲームクリエイターから評価されているこ
とがその事実を物語っている。

ワンストップでのソリューション提供
同社は、ゲームエンジンや開発ツールの提供だけでなく、自社でもゲーム開発を行えるこ
とに加え、サーバー等のシステム運用・管理・保守、ホスティングも行っている。さらに
はゲーム開発に関連した人材の紹介や派遣なども行っていることから、ゲーム開発に必要
な要素・ノウハウをすべてワンストップで提供することが可能であり、これも同社の大き
な特色であり強みと言えるだろう。それぞれの要素やサービスを提供する企業は数多いが、
ワンストップですべてを提供出来る企業は見当たらない。
8/15

事業間シナジーの創出
また同社の場合は、
「開発推進・支援事業」、
「コンテンツ事業」、
「人材事業」という異なる
3 部門を持っていることから、それぞれが関わりあうことでシナジー効果が生まれる。例え
ば、開発支援で培ったミドルウェアや開発ツールの技術はコンテンツ事業に活かすことが
可能であり、反対にコンテンツ部門で得られた経験や要望を開発推進・支援部門にフィー
ドバックすることで、より質の高い製品開発につなげることが出来る。一方でコンテンツ
部門や開発推進・支援部門で開発要員が必要な場合には人材部門から派遣を受け入れるこ
とも可能であり、これによって、人材部門の要員の技術的なレベルが高められる。このよ
うに部門間でシナジーを創出することが出来るのも同社の特色である。

収益の分散化
主な事業の収入モデルが異なっているのも同社の特色であり、強みと言えるだろう。ミド
ルウェア開発・販売では契約当初はまとまった売上高を計上するが、その後は保守料金が
安定的に入ってくる。受託開発では、売上金額は大きいが常に受注を獲得出来るものでな
く収益の面では不安定でもある。コンテンツ事業においては、ゲームであるため当り外れ
が大きい。ヒット作を出せれば特に利益は大きく増加する可能性があるが、ヒットしなけ
れば開発費先行となり収益を圧迫する。その一方で、ソリューションや人材派遣などはス
トック型のビジネスモデルであることから、売上高が急増することは考え難いがコンスタ
ントな売上・利益を継続的に計上することが可能で収益基盤の安定化に寄与する。
このように同社は異なる性質の事業部門を抱えていることから、ある一つの事業部門だけ
9/15
の業績等によって収益が大きく左右されることは少なく、浮沈の激しいゲーム業界の中に
ありながら収益基盤は安定しており、これも同社の強みと言える。



業績動向
2014 年 11 月期実績
損益状況
2014 年 11 月期通期業績は、下表のようになった。売上高は 8,056 百万円(前期比 10.9%
増)となったが、セグメント別売上高は、開発推進・支援事業が 3,638 百万円(同 39.7%
増)
、コンテンツ事業が 3,680 百万円(同 10.2%減)
、人材事業が 737 百万円(同 31.6%増)
となった。コンテンツ事業の売上高が減少したのは、一部のコンテンツでダウンロードが
減少したためだが、全体として売上高に低下傾向にあるわけではないので懸念する必要は
なさそうだ。売上高、特に主力の開発推進・支援事業の売上高が大幅増となったことから、
営業利益、経常利益ともに前期比では大幅増となった。
同期末の従業員数(役員を除く)は 278 名で、前期(2013 年 11 月期)末の 244 名から 34
名増加している。従業員の主な分布は、約 110 名がエンジニア、75 名がデザイン、50 名が
プランナー/ディレクター、45 名が管理部門となっている。
(百万円、%)
1 3 年1 1 月期
( 実績)
1 4 年1 1 月期
( 構成比)
( 実績)
前期比増減
( 構成比)
( 金額)
( 率)
売上高
7,264
100.0
8,056
100.0
792
10.9
開発推進・支援事業
2,604
35.8
3,638
45.2
1,034
39.7
コンテンツ事業
4,098
56.4
3,680
45.7
▲ 418
▲ 10.2
人材事業
560
7.7
737
9.1
177
31.6
売上総利益
1,710
23.5
2,212
27.5
502
29.4
販売管理費
1,154
15.9
1,371
17.0
217
18.8
営業利益
556
7.7
841
10.4
285
51.3
開発推進・支援事業
730
-
1,144
-
414
56.7
コンテンツ事業
594
-
601
-
7
1.2
人材事業
202
-
252
-
50
24.8
▲ 969
-
▲ 1,157
-
▲ 188
-
経常利益
565
7.8
832
10.3
267
47.3
当期純利益
395
5.4
507
6.3
112
28.4
(全社消去)

財政状況
また財政状況は下表のようであったが、当期純利益を計上したことなどから現預金が増加
した。売掛債権の減少は、回収が進んだことによるものだが、一方で買掛債務も減少して
10/15
いるので特に問題はない。それ以外では前期末に比べて特に大きく変わっているところは
ない。
(百万円)
現預金
売掛債権
その他
流動資産合計
1 3 年1 1 月期
1 4 年1 1 月期
期末
期末
977
1,541
1,435
1,228
611
500
3,023
3,269
有形固定資産
273
277
無形固定資産
235
401
投資その他の資産
196
214
固定資産合計
706
893
資産の部合計
3,729
4,163
買掛債務
705
489
短期借入金等
510
674
その他
798
703
2,013
1,866
長期借入金
160
307
社債
448
360
流動負債合計
その他
53
53
固定負債合計
661
720
負債の部合計
2,675
2,586
純資産の部合計
1,053
1,576
負債・純資産の部合計
3,729
4,163


2015 年 11 月期および 2016 年 11 月期予想
損益状況
同社では現時点で今期(2015 年 11 月期)の業績予想を売上高 9,277 百万円(前期比 15.2%
増)
、営業利益 903 百万円(同 7.5%増)
、経常利益 887 百万円(同 6.6%増)、当期純利益
532 百万円(同 4.9%増)としているが、HS 証券では下表のように今期業績は会社予想を
上回り、また来期も増益が続くと予想している。この前提(考え方)となるのは、

ゲーム分野では家庭用ゲーム機の市場は伸び悩みが予想されるが、スマホを
中心としたモバイルゲームの市場は成長が見込まれる。そのような状況下で
ゲームの開発競争は一段と激しくなると予想されるため同社製品(ミドルウ
ェア)への需要は堅調に推移すると予想される。

ミドルウェア開発・販売においては、既存製品に加えて新たに MIZUCHI、
Paradox などの新製品が上市されることから、これらの製品の売上寄与が期
待出来る。
(下記参照)
11/15

コンテンツ事業においても新作品を開発中であり、上市されれば、この新作
品による寄与も見込める。さらにソリューション、人材事業でも需要が大き
く落ち込むことは考え難く、売上高は堅調に推移すると予想される。
(百万円、%)
前期比増減
1 4 年1 1 月期
( 実績)
( 金額)
1 5 年1 1 月期
( 率)
( HS予)
前期比増減
( 金額)
1 6 年1 1 月期
( 率)
( HS予)
前期比増減
( 金額)
( 率)
売上高
8,056
792
10.9
9,500
1,444
17.9
10,200
700
7.4
開発推進・支援事業
3,638
1,034
39.7
4,600
962
26.4
4,900
300
6.5
コンテンツ事業
3,680
▲ 418
▲ 10.2
4,000
320
8.7
4,300
300
7.5
人材事業
737
177
31.6
900
163
22.1
1,000
100
11.1
売上総利益
2,212
502
29.4
2,650
438
19.8
2,900
250
9.4
販売管理費
1,371
217
18.8
1,600
229
16.7
1,700
100
6.3
営業利益
841
285
51.3
1,050
209
24.9
1,200
150
14.3
経常利益
832
267
47.3
1,040
208
25.0
1,180
140
13.5
507
112
28.4
630
123
24.3
720
90
14.3
当期純利益
(HS予)=HS証券予想

新製品の状況
同社は、下記の新製品を今期(2015 年 11 月期)から投入する計画だ。
(MIZUCHI)
上記の表にも記載しているが、きわめて実写に近い映像表現を可能にしたレンダリングエ
ンジンで、物理ベースレンダリングを導入しリアルタイムレンダリングで実現した。大手
ゲームメーカーでも対応困難であった圧倒的な高画質表現を可能にした。より高画質・高
度な映像を求めるクリエイターから評価されると思われる。単独での利用も可能だが、
OROCHI に搭載されることでより威力を発揮する。同社にとっては、追加の売上増が期待
出来る。今期に発売予定。
(Paradox)
近々発売予定の C+言語を使ったスマホゲーム開発用ミドルウェア。ワンソースで、
iOS/Android/Windows-Phone/Windows-Store をサポート。オープンソース(無償)
、コミ
ュニティ型サポートであることから、どちらかと言えば企業の開発者やインディーズ開発
者向けのツール。有償プラグイン、課金ゲームサーバーによって同社は収入を得る。個々
の金額は少ないであろうが、裾野は広いので同社にとっては新しいビジネスモデル(B2C
に近い)となる。

中長期展望
同社の今後の事業展開を短期的(2~3 年)
、中長期的(3~5 年)な視点から考察すると、
以下のような展開が予想される。

短期:スマホ向けが牽引の可能性
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現在の主力事業であるゲーム分野では、パッケージ向けはゲーム市場そのものが伸び
悩むと予想されるため、同社製品も過去のような高い伸びは期待出来ないかもしれな
い。しかしヒット作品(ゲーム)を生み出そうとする開発競争は一段と激しくなる可
能性があり、開発ツールへの需要が大きく落ち込むことは考え難い。さらに同社が各
種の製品ラインアップを揃えることで顧客当りの売上高を伸ばし全体の売上高を成長
させることは可能だ。
一方で今後 2~3 年の成長ドライバーとして期待されるのがスマホ向けだ。下図に見ら
れるようにスマホゲームの市場は拡大が見込まれることから、開発ツールである同社
製品の売上高も増加が期待出来るだろう。特にこの分野では同社のシェアは比較的低
いため、市場拡大に加えてシェアアップによって開発推進・支援事業の売上拡大を目
指すことは十分に可能だ。さらに当然だが、同社自身がヒット作品(コンテンツ事業)
を生み出すことで、さらに売上・利益を伸ばすことができる。

中長期:ゲーム以外の分野へも展開が可能
現在の同社の事業の中心はゲーム機向けとなっている。しかしこれは、同社の持って
いる CG の技術(ノウハウ)が、現時点ではゲーム機向けに適しているからであって、
必ずしも同社が常に「ゲーム関連」
「スマホ関連」ということではない。何度も繰り返
し述べているように、同社の強みは「3DCG 技術」
「レンダリング技術」等であり、こ
れらを活かせる分野であれば、どの分野でも事業拡大は可能だ。具体的には以下のよ
うな分野が考えられる。

最大の市場は映像・映画市場である。現在はまだ本格的に可能性を探っては
いないが、近い将来には映画市場に参入する可能性もある。
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
自動車や建築関係の「デザイン関連」も有望な市場だ。特に「MIZUCHI」は
これらの市場に適した製品と言えるが、当面はゲーム市場で実績を積み重ね、
将来的には応用編としてこれらの市場を狙っていくことが考えられる。
以上のように同社が持っている技術はゲーム以外の様々な分野で活用することが可能
であり、中長期的な視点からは今後出てくるであろう新規分野での事業展開にも注目
する必要がある。

リスク要因
今後の同社の業績動向を見るうえで考えられるリスクは二つある。ひとつ目は、現在
の主たる提供先であるゲーム業界が抱えるリスクである。各ゲームは当たり外れが大
きく市場の浮沈が激しい。少なからず同社もその影響を受けることは否定出来ない。
またゲーム業界そのものが何らかの規制を受ける場合もあり、それによって同社の業
績が落ち込むリスクは有り得る。このようなリスクを避けるためにも、前述のように
ゲーム機業界向け以外の新規分野への展開を検討することは必要だろう。
ふたつ目は、ソフトウェア会社としてのリスクである。特に同社のような開発ツール
を提供する企業は、開発が先行して後から売上げとして回収する場合が多い。そのた
め、先行開発した製品の売上げが思うように伸びなかった場合には、資金負担が増加
することになる。しかし既に多くの顧客を抱え、業界で高く評価されている同社が開
発分野の見通しを見誤る可能性は少ないと思われる。

株価評価
上記のように HS 証券予想の EPS は、2015 年 11 月期で 267.52 円、2016 年 11 月期
で 305.73 円となる。現在(2015 年 2 月 23 日初値)の株価は 9900 円となっており、
HS 証券予想に基づいた PER は 2015 年 11 月期で 37.01 倍、2016 年 11 月期で 32.38
倍となっている。
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