利潤最大化を目指した定期船航路設計 A0978938 本橋新也 指導教員 宮本裕一郎 はじめに 1 近年,経済発展が著しいアジア圏内においてコンテ ナ貨物取扱量が急増していることを受け,日本の大手 定期船会社は他国の大手定期船会社と海運アライアン スを組んで共同配船を行っている.また,原油価格が リーマンショック以降高騰していることから,消費燃料 を考慮した効率的な船舶の管理が必要不可欠となって いる [1].本研究では,海上輸送量が最も多い日本と中 国の貿易を例に,定期船会社が考慮しなければならな い様々な意思決定を支援するシステムの理論を構築す る.船の運航にかかる費用を最小化することが目的で ある従来研究 [2] に対し,本研究では海運アライアンス する.船型 t ∈ T が行き来できる港集合を Nt とし,船 型 t ∈ T が行き来できる航路集合を At とする. 船型 t ∈ T の船舶集合を Vt とする.船型 t ∈ T の速度 上限を St+ とする.船舶 v ∈ Vt の速度を Sv とする.船 型 t ∈ T の 1 日当たり消費燃料を Ft とする.荷物集 合を M とする.荷物 m ∈ M の容量を Gm とする.荷 物 m ∈ M の運賃を rm とする.港 i に供給する荷物 m ∈ M があるかどうかを Kmi で表す.荷物 m ∈ M の出発 地,目的地,ハブをそれぞれ Om , Dm , Zm とする. 定期船運航にかかる燃料費,船舶使用料,積替費,入 P 港料をそれぞれ C F ,CtU ,CiT ,Cit とする. 3.1.2 が得られる利益を最大化し,利益の出にくい航路には 船舶を回さないような定期船航路を構築することを目 的とする. 問題設定 2 各港に積まれている需要には出発地と目的地が与え られており,定期船会社が運搬する.全ての需要は 20 フィートコンテナを単位としてその整数倍が用意され 決定変数 本研究で求める変数を以下のように定義する. 船舶 v が港 i から港 j へ行くとき 1,そうでないとき 0 を表す変数を xijv とする.船舶 v が港 i を訪問する とき 1,そうでないとき 0 を表す変数を yiv とする.荷 物 m が船舶 v で港 i から港 j へ行くとき 1,そうでな いとき 0 を表す変数を uijvm とする.荷物 m が船 v か ら港 i へ積み下されるとき 1,そうでないとき 0 を表す る.そして,定期船航路の設計問題で特徴的なものの一 変数をδivm とする.荷物 m が船 v へ港 i から積み上げ つが積替である.航路を行き来するための時間は限ら られるとき 1,そうでないとき 0 を表す変数をγivm と れているので,積替の時間が長くなればなるほど,船 する.船舶 v が航路を巡回する期間 (整数週) をβv とす 舶は港間を早く巡回しなければいけなくなる.港の積 替能力は固定であるとし,積替ハブとして機能する港 る.荷物 m が運搬されるとき 1,そうでないとき 0 を 表す変数を hm とする. を限定することで選択可能な航路数を削減する. 目的関数と制約条件 また,周期的定期船航路の設計では,特定の船舶は 1 つ 3.1.3 の航路のみに割り当てられる.同じ航路には速度, 消費 本研究の目的は,需要を運搬することで得られる運 賃から運航費用を差し引いた「利益」を最大化するこ とである. 具体的には,最大化したい目的関数は以下の (1) 式のよ うに書ける. 燃料, 容量などの観点から同じ型の船舶を配置する. 多 くの大手定期船会社で行っているようにサービス頻度 は隔週とする.本研究では利益を最大化することが目 X 的なので,運搬されない需要があることを許可する. rm Gm hm m∈ M 数理モデル 3 3.1 3.1.1 定式化 入力データ P dij xijv XX X P (i,j)∈At Sv − Cit yiv S+ 24Sv t∈T v∈Vt i∈Nt t∈ T v∈ Vt XX U XX X X T − Ct βv − Ci (δivm + γivm )Gm − X X t∈T v∈Vt C F Ft „ «3 t∈T i∈Nt v∈Vt m∈ M 本研究で入力として扱うデータは以下のものとする. 港 i から港 j までの距離を dij とする.船型集合を T と (1) これを以下の制約の下で最大化する. 本研究の数理モデルは,従来のものに比べ,海運アラ • 各需要が出発地・目的地・ハブ以外の港において 通過する. • 各需要に対して積替が行われる. • ハブにおいて需要が通過する,もしくは始めから その需要を運搬しない. この制約を具体的に式として表すと,以下の (2),(3) 式のように書ける. XX X uijvm − t∈T v∈Vt j∈Nt XX X イアンスが得られる利益を 9%ほど上昇させた. ujivm = Kmi , t∈T v∈Vt j∈Nt ∀ m ∈ M, i ∈ Zm , Kmi = 0 (when i = Zm ) (2) (3) • 隔週サービスを実現させるために全船舶がスケ ジュールを守る. • 各船型の持つ船舶の総巡回期間数 (整数週) が各 船型の隻数以下である. • 船舶が運搬できるコンテナの容量を制限する. • 船舶が各港を出発した場合必ず各港へ戻ってくる. • 航路を断絶しないように正しく形成させる. • 船舶が各港の寄港上限回数を守る. • コンテナが運搬されることを表す変数の制約. • 需要が各港で何周も回らない. 図 1: 日中間輸送量疑似データに対する航路 この航路に対して出力された利益は 773,464 ドル,計 算時間は 265 秒である. 表 2:需要の大きさごとの運搬率 需要の大きさ 運搬率 コンテナを運搬するかどうかを表す変数に関しては,以 下の (4),(5) 式の制約を追加する. hm = XX X X hm = XX X X uijvm , ∀ m ∈ M, (4) ujivm , ∀ m ∈ M, (5) t∈T v∈Vt j∈Nt i∈Om 4 t∈T v∈Vt j∈Nt i∈Dm 10T EU 28% 20T EU 30T EU 30% 56% おわりに これらを加えることで,出発地を出た需要は必ず目的 地まで運搬されなければならない,ということが制約 本研究では,海運アライアンスが得られる利益を最 大化するための数理モデルを構築した.本研究のモデ できる. ルは,港 5 つ,船型 2 種類,需要 576 種類とした現実 3.2 規模のデータに対して約 5 分という計算時間で解くこ データ設定・計算結果 とができた.今後の課題としては,需要変動を考慮し 本研究では,海上技術安全研究所が推計した東アジ たモデルの構築が考えられる. アにおけるコンテナ流動量のデータ [3] を元に,日本と 中国の 5 つの港に対する定期船航路を構築した. 参考文献 1 需要あたりのコンテナ量は 10TEU,20TEU,30TEU の 3 種類を用意した.船速度に関しては入力として 10, [1] 津崎賢治・河本薫・小林宏樹・三角徹・吉野成保: 11,. . . ,20knot の 11 種類を用意した.表 1 に,輸送 「自社 LNG 船の運航最適化による燃料消費量の低 量の小さいデータで,従来研究と本研究の総船舶数と 減」.2011 年度日本 OR 学会秋季研究発表会アブス 利益に関して比較した結果を示す.図 1 に,日中間輸 トラクト集,pp.298-299. 送量の疑似データに対して本研究の手法を適用した場 合に求まった航路を示す.ここでは,各航路の隻数上 限を 10 隻としている.表 2 には,各需要の大きさごと [2] Karina H.Kjeldsen:Routing and Scheduling in Liner Shipping.PhD thesis,Department of Economics and Business,Aarhus University,2012. の,用意された需要量に対する運搬率を示す. 表 1:従来研究と本研究の比較結果 項目 従来研究 本研究 総船舶数 [隻] 利益 [ドル] 10 1.77×105 8 1.93×105 [3] 加納敏幸・間島隆博・小坂浩之・鳥海重喜:「東ア ジア域内物流効率化に関する研究」.海上技術安全 研究所報告,第 10 巻 (2010),第 1 号,pp.23.
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