月曜連載 プロフェッショナルが語る自治体PR戦略⑧ 藤井友也 にあふれる。東京マラソンは日本を代表する一大 からランナーが集まり、沿道から応援する人が街 をもたらしたと言えよう。 投稿し、大会認知、参加意欲の向上に相乗的効果 といったソーシャルメディアでの書き込みを多数 マラソンブーム、ランニングブームといわれて 久しく、多くの都市で市民マラソン大会が開催さ 市型市民マラソンが一気に広がった。 (2012年3月)と日本を代表する大都市で都 月には北陸新幹線開業を記念し 大阪府庁本館前をスタートする3万2000人のランナー 2 2016 年(平成 28 年)1 月 25 日(月) 地方行政 第 3 種郵便物認可 ストーリーテリングが成功した「大阪マラソン」 イベントとなり、まさにスポーツツーリズムの成 電通パブリックリレーションズ 自治体PRチーム 第8回 は、 昨 年 第5回 の 節 目 の 大 会 を 終 え、 2016年の第6回大会の準備に入る「大阪マラ 功事例となった。 参加者のエンゲージメントを創り出す ソン」のPR戦略を紹介する。 ラソン」、同年 城の修復工事完成を機とした「世界遺産姫路城マ 現在、都市型市民マラソン大会はまさに そしりて ょうらん 百花繚乱の時代となった。2015年2月に姫路 大阪マラソンの誕生には、当時の橋下徹大阪府 知事による「東京マラソンのような市民参加によ 過去5大会の運営を受託した電通関西支社のチ ームの中で、私たち電通パブリックリレーション ズはPR戦略プランニングから、ニュースリリー る都市型マラソンを大阪でも開催できないか」と いう提言を機に開催が検討され、大阪府、大阪市、 ての「富山マラソン」 「金沢マラソン」、また、山 スの制作、配信、大会当日の報道対応、クリッピ ング業務など大会広報事務局としてメディア対応 月に第1回大会が開催されたという経緯があ 大阪陸上競技協会の3者の主催により、2011 年 領域を担務している。 る。 11 今号では、当社が担務するメディア対応の領域 だけではなく、PRの視点でどのようにコミュニ 月 )、 京 都 マ ラ ソ ン れている。このブームの火付け役は、2007年 特に関西においては隣接県がそれぞれ個性的な 大会を開催することで、参加するランナーも「三 戸 マ ラ ソ ン(2011年 から開催されている「東京マラソン」であろう。 (2012年2月 )、 名 古 屋 ウ ィ メ ン ズ マ ラ ソ ン 都心部をマラソンコースとして、日本最大規模の 都マラソン制覇」 「 大 阪 完 走。 次 は 神 戸!」 な ど 11 12 3万6000人のランナーが街中を走る。国内外 都市 型 市 民 マ ラ ソ ン 大 会 が 有 す る 価 値 と は ケーション全体に取り組んでいるのかを紹介する。 大 阪 マ ラ ソ ン と 時 を 同 じ く し て、 前 年 の 2010年 月 に は 奈 良 マ ラ ソ ン、 同 年 度 に 神 10 万2000人と増え、コース沿道には130万人 大阪マラソンも回を重ね、昨年 月に開催され た第5回大会では、規模が大きくなり、定員も3 果としても捉えられている。 め 万人単位で人が動くことで「地域活性」の成 域にとっては、沿道応援やボランティア参加を含 いずれの大会も地域特性を生かし、県外からの 参加促進に注力している。規模の大小はあれ、地 が開催された。 陽エリアでは「おかやまマラソン」の第1回大会 ある。いったん強固なエンゲージメントが構築さ のプロジェクトにおける「エンゲージメント」で アクティブにポジティブな行動を起こすことがこ ターゲット層を中心とするパブリックが、ここ では「大阪マラソン」の価値に共感を持ち、プロ 意味が含まれている。 ティブではなく、積極的に関わろうとする)〟な ティブ(好 意的)〟で〝プロアク ティブ(リアク 「エンゲージメント」とは、英語で「関与する こと」である。しかしその意味合いには、〝ポジ に、ここでもう一度ご説明したい。 でも解説したが、その記事を見逃した読者のため は自分がストーリーテラーとなり、ソーシャルメ り、エンゲージメントを構築した生活者は、今度 「 自 分 ゴ ト 化 」 し、 感 情 的 コ ネ ク シ ョ ン を つ く 主体やニュースメディアだけではない。いったん このストーリーの語り手、すなわちストーリー テラーは、もはや企業や自治体といった、PRの 「ストーリーテリング」が重要となる。 ト」だと思えるようなストーリーとして伝える ターゲット層が「他人ゴト」ではなく、 「自分ゴ が共鳴し、納得できるストーリーを用意する。ス 持っていることと組み合わせることにより、彼ら トとなった。 本来、PRの目的は一方的に情報を広めるだけ ではなく、ターゲット層を含めたパブリックの意 を支える無形の資産となることも期待できる。 れると、大会のサスティナブル(永続的)な成長 リーを伝えてくれるのである。この「ストーリー ジメントを築けば、彼らが語り手となってストー る。参加するランナーや支える人たちのエンゲー を伝えていく。これが「コ・ストーリーテリング ディアなどで自らのストーリーとしてメッセージ トーリーはフィクションであってはいけないが、 を超える大会観衆の熱い応援を集める一大イベン 大会当初より「みんなでかける虹。 」をスロー ガンに、参加する全てのランナーをはじめ、観客、 識変化を経て生み出されるエンゲージメントの構 テリング」の連鎖がうまく働けば、ブーム(「社 (共同でストーリーを作って伝えていく) 」であ ティーに参画する機会を提供するなど、チャリテ 築・強化、そしてその結果導かれる態度変容であ ボランティアスタッフなど、多くの方々にチャリ ィー文化の普及を目標としていることも特徴の一 つである。 る。 ントな(親和性のある)情報を、レリバントな方 ットやパブリックのエンゲージメントを生み出せ 大阪マラソンにおいては、何をストーリー化し、 誰がストーリーテラーになり、どのようにターゲ 会ゴト化」)を起こすこともできる。 法で伝達しなければならない。そのためには、タ るのかを考える。 PRの役割は、ターゲット層の意識変化・態度変容 ここからは、大阪マラソンにおいて何を伝えて いくべきか、誰をターゲットにしていくのかとい ーゲット層が感情的コネクションを築けるような 価値への共感を得るために、そしてターゲット 層の態度変容を促すためには彼らにとってレリバ うPR戦略について考えてみたい。 〝ストーリー〟が必要になる。無機質なファクト 大阪マラソンに関与するステークホルダー(利 害 関 係 者 ) は 多 岐 に わ た る。 大 別 す る と「 走 る 走る人だけでなく、 走らない人にも魅力訴求 「エンゲ 昨 今、 最 新 の「PR」 を 語 る と き に、 ージメント」 「ストーリーテリング」という言葉 ならない。例えば、ターゲット層が興味や関心を 関係あることだと思わせるようなものでなくては やデータをそのまま伝えるのではなく、自分にも 16 が多用されるようになっている。連載第2回「生 活者を取り込むストーリーを作る 熊本県『くま モン ほっぺ紛失事件』 」(2015年 月 日号) 11 2016 年(平成 28 年)1 月 25 日(月) 地方行政 第 3 種郵便物認可 3 10 10 立場の人に向けた「大会の魅力」こそがストーリ る人数以上の参加者が存在している。それぞれの 会に出場するわ しかし、その大 とができない。 として捉えるこ は「自分ゴト」 しているが、 「企業」 「団体」などの人の集団もそ ー化されるべきコンテンツである。では、大阪マ ア1万人、沿道応援130万人という数字に表れ こには含まれている。 ラソンらしい「大会の魅力訴求」をどのようにス 後援、協力といった立場で支えていただく。個人 「病気を患った家族を勇気づけるために完走する いる。例えば「完走したらプロポーズするぞ!」 大阪マラソンでは、ウェブエントリーの応募者 から、大会に懸ける思いやメッセージを募集して 構築される。 ソンを「自分ゴト化」し、感情的コネクションも 参加者からは「大阪マラソンは応援が熱い」と 高い評価を得ている。130万人の沿道応援とい る。 一例を紹介すると、 「歩いたらあかん! マラソンやったら走らん かい」 「しんどいのんは、気のせいやー」 「あと、たったの ㌔」 など、どれも秀逸。走っているときに飛び込んで 4 2016 年(平成 28 年)1 月 25 日(月) 地方行政 第 3 種郵便物認可 人」と「走らない人」が存在する。 「人」と表現 「走っ 走る人、すなわちランナーに対しては、 てみたい、出場したい大会」の魅力訴求が求めら が町の「人」の ストーリーが紹 トーリー化するかを考察してみる。 介されることで、 であれば、大会ボランティアとして大会に関与し ぞ!」 「生まれ育った大阪を走りたい」といった その地に暮らす ていただく。さらには、企業、団体、個人に関係 う規模もさることながら、大阪らしさが出るのは、 魅力発掘、ストーリーのもととなるのは 参加者の声 れる。 また、走らない人に対しても魅力を訴求してい かなければならない。それは、 「支える人」とし なく「沿道から応援する」という行動も大会を支 熱い思いの込もった投稿を頂く。 その応援の中身。 「笑いで元気づける」その手法 て関与していただかねばならないからである。例 えるという意味では不可欠である。そして大阪マ これらのエピソードを読み込み、ストーリー性 のある投稿をピックアップし、追加取材などで編 人々が大阪マラ ラソンの特徴で 集したニュースレターとしてメディアに配布して えば企業・団体であれば大会スポンサーや共催、 あるチャリティ は、まさに人情あふれる大阪ならではのものであ として活用させていただいている。 大会の共催新聞社である読売新聞は、全国各地 から出場するランナーが大会までのトレーニング に励む様子と共に、大会に懸ける思いを取材し、 それを各地方版で記事として掲載する。 「大阪ならでは」 の地域特性を生かしたPR ーへの理解、協 いる。 への共感が得ら れなければ成立 しないアドボカ シー(支持・擁 ランナーだけでなく、ボランティアの方のスト ーリーなども紹介し、特集や密着取材の参考資料 力。これは大会 ニュースレター「ランナーエピソード集」 大阪でマラソン大会があるという事実だけでは、 くる「思わず笑ってしまう応援」には、応援する 人も大会の参加者であり、その応援の支えでラン マラソン愛好家を除き、関西以外に住む生活者に 22 護)である。 大阪マラソン は、参加ランナ ー3万2000 人、ボランティ 沿道応援のハイタッチで元気をもらう 「こんな面白 い応援で元気づ が生まれている。 指すという関係 ナーも完走を目 しく、エイド(給食)の充実も評価が高い。フィ もう一つの「自分ゴト」化を促すコンテンツは、 大阪ならではの「食」。食い倒れの街「大阪」ら イントとなるのである。 代には、「ビジュアルストーリーテリング」がポ 画像や動画で自分の体験をシェアしたいという時 ズも欠かせない。 げようとするようなコミュニティーリレーション 上げる上で重要な要素となる。地域コミュニティ 込みながら運営していくことも、イベントを盛り 楽しめる。こういった地域コミュニティーを巻き ーが、マラソンを「自分ゴト」化し、自ら盛り上 けられた」とい ・5㌔地点(住之 ニッシュまで残り 紹介されたり、 物となっている。 江公園前)に設置する給食所は、もはや大会の名 ティーマラソン〟として実施している。ランナー 大阪マラソンは世界一のチャリティーマラソン を目指して、独自のプログラムを掲げた〝チャリ ㌔となる うことが報道で ソーシャルメデ 万 この給食所「まいどエイド」は大阪市商店会総 連盟が運営しており、この日のために市内の商店 社会課題解決への参画という エンゲージメント ィアに投稿され 街 が 協 力 し 合 い、 魅力訴求につな 400個が提供される(第5回大会実績)。 には参加料とは別に募金の協力をお願いしたり、 シャルウェブサ まいどエイド は独自でオフィ 昨今のストーリーテリングは視覚的に訴える こ と が 重 要 で あ る と さ れ て い る。 写 真 共 有 サ ー ト」化を促している。 ラソンに興味が プしており、マ どの情報もアッ る。「 ま い ど エ カ所 10 ことも大きな魅力の一つである。 ティーのアクションが、参加者に仲間意識を生む あっても、社会課題の解決への一助となるチャリ けるという工夫もされている。見知らぬ者同士で した支援したい寄付先ごとに、色別のチームに分 ける機会を設けている。さらに、ランナーが選択 PRも行い、広くチャリティーに参加していただ 使)とし、チャリティーへの協力呼び掛けなどの 各 界 の 著 名 人 を チ ャ リ テ ィ ー ア ン バ サ ダ ー( 大 ャリティーに参加できるようになっている。また、 でも募金を受け付けるなど、応援している人もチ る。ランナーだけではなく、コース沿道の 一定の寄付額をクラウドファンディングで集める がっている。 13 大阪マラソン名物の給食所「まいどエイド」 ことを宣言するチャリティーランナーの制度もあ 品目のメニューで総数 たりすることで、 32 大阪マラソンの 10 28 街を挙げての協力体制が成立し、それを楽しみ にしているランナーをもてなす。 ソンの公式フェイスブックページやツイッターア 面白い応援画 像は、大阪マラ カウントに投稿できるようになっており、それら イトを運営し、 フェイスブック の画像はオフィシャルウェブサイトに掲載される ようになっている。 情報提供してい ビス「インスタグラム」 、6秒動画投稿サービス ページなどでも こうしひた面白い画像は、マラソンに興味がない 層をも惹きつけることに成功し、彼らの「自分ゴ 「Vine」など、写真、ショートムービーを共 ない人が見ても イド攻略法」な 有するソーシャルメディアなどが普及し、誰もが、 2016 年(平成 28 年)1 月 25 日(月) 地方行政 第 3 種郵便物認可 5 「おもしろ沿道応援」 はウェブサイトでも紹介 ュアルス 民間企業など、オール大阪で精力的にインバウン て併せ持つ。今、大阪は大阪府、市、各種団体や 大阪マラソンは、大阪のシティープロモーショ ンとして、インバウンド観光客の獲得も目的とし いう。今後も国内のチャリティー文化の醸成に取 世界のマラソン大会に目を移すと、日本とは比 較にならないほどのチャリティー募金が集まると の体験を友人や家族とシェアするからである。 真や動画を交えてソーシャルメディアでマラソン が伝わるというメリットがある。当然彼らは、写 海外ランナーが増えることは、インバウンド効 果だけでなく、世界に向けて大阪マラソンの魅力 ト と な る。 がポイン な絵作り る よ う もが共有 な る。 誰 が重要に テリング である。 ド観光マーケティングに取り組んでおり、その成 り組むとともに、世界で認められるチャリティー 通天閣や トーリー 果の一つとして、この大阪マラソンの成功を見せ マラソンに成長していくことで、大会のステータ の動機付けとなる「走る楽しみ」 「応援する楽し ・ 「自 分 ゴ ト 」 化 を 起 こ す ス ト ー リ ー は、 参 加 者 の声に耳を傾けることから発掘できる。「参加」 し い コ ー ス か ら の 景 観 だ け で は な く、 そ こ に 「 食 」 が あ り、「 笑 い 」 が あ る と い っ た、 大 阪 らしいビジュアルコンテンツが共感を生む 1年に1度、大阪市街がマラソン一色になる日 は、世界各国からランナーが集まり、チャリティ 共に、旅行 語化などと イトの多言 の協力者など、非関与者と思われる人たちとマ ある。例えば、まいどエイドに参加する商店街 をつくるには、より多くの層を巻き込むことで ・コ・ ストーリーテリング(ストーリーテリング の連鎖)による「社会ゴト」化(ムーブメント) の価値を伝えることこそがPRの役割と認識して マラソンが目指すべき価値であると言えよう。そ べてがエンゲージメントを生み出すことが、大阪 ボランティア、さらには沿道で応援する人たちす ーを通じて社会課題解決に参画する。ランナーや 代理店への いる。 (写真提供:大阪マラソン組織委員会) ラソンとの接点をつくり出すことで、語り手が ・インスタグラム、Vineなどの普及で、ビジ 拡幅する 結んだ結果 6 2016 年(平成 28 年)1 月 25 日(月) 地方行政 第 3 種郵便物認可 世界で認められるマラソン大会としてのPR ている。 スも向上し、海外からの参加者が増えるという好 したくな この活況とも相まってか、第5回大会では、エ ントリー総数のうち、アジアを中心に欧米など の国と地域から、 過去最高の7478人 (2014 大阪城な PR施策 としても、 み」 「支えることの楽しみや、やりがい」などに ど大阪ら 循環の環境が生まれることに期待したい。 が寄せられ 海外へのプ ヒントがある た。 レスリリー 完走を喜ぶ多くの市民ランナー プロモーシ ントリーサ ス配信やエ まとめ 年大会の5304人から約4割増)のエントリー 54 ョンが実を 年々増えている海外からの参加者
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