2. - プラズマ・核融合学会

J. Plasma Fusion Res. Vol.88, No.12 (2012) 733‐739
小特集
球状トカマク研究の進展 −核融合エネルギー開発に向けて−
2.最近の研究成果と研究動向
2.
4 球状トカマク合体の応用
小野
靖,井
通暁
東京大学大学院新領域創成科学研究科
(原稿受付:2
0
1
2年1
1月1
2日)
プラズマ合体・加熱実験は古くは Wells の実験に始まり,コンパクトトーラス研究として長い歴史が存在す
るが,今回のテーマである球状トカマク(ST)としては1980年代後半からは東京大学 TS‐3合体実験,1990年代に
は英国カラム研究所 START 実験,2000年代には東京大学 TS-4,UTST 実験,カラム研究所 MAST 実験などが
行われ,昨年からは韓国ソウル大学 VEST 実験も加わった.近年の研究で明らかになったその利点は,1)磁気リ
コネクションによる MW-GWクラスのプラズマ加熱,2)
超高ベータプラズマの急速生成,3)STプラズマの電流
駆動・磁束増倍,分布制御,4)燃料補給とヘリウム灰の排出などに大別できる.単なる物理現象と考えられるこ
とも多い磁気リコネクション現象や合体現象が実際に ST プラズマ研究に役立つことを簡潔に解説したい.
Keywords:
plasma merging, magnetic reconnection, ion heating, spherical tokamak, current drive, helicity injection,
CS-less startup, fuel injection, innovative divertor
2.
4.
1 はじめに
ST の磁束確保が目的であり,磁気リコネクション加熱の
メカニズムがわかり,その本格的な利用が始まるのはごく
プラズマ合体研究自体は,古くは1960年代に Wells
[1]
の実験からスタートし,長い歴史を有する(表1).トロイ
最近のことである[4].
ST 合体方式の特徴は,
ダル磁場コイルがないコンパクトトーラスでは電流駆動な
1) MW-GW に達するきわめて大きな磁気リコネクショ
どの目的で研究がなされてきた反面,トカマクプラズマの
合体実験は1980年代までは実質行われていない.唯一,静
ン加熱パワー[4,
11]
2) Sweet-Parker 時間
[12]以下の短い加熱時間と合体を
的なダブレット配位が DIII 実験で実現しているものの,合
用いた超高ベータ状態生成[14‐16]
体・磁気リコネクションは行われなかった模様である.2
3) 合体による電流・磁束増倍・電流分布・熱圧力制御
個の ST プラズマの合体実験やその境界に発生する磁気リ
コネクションが意識されるのは東京大学 TS‐3実験が本格
[16.
17]
化する1980年代後半以降
[2]である.9
0年代に入ると英国
4) 合体を用いた燃料補給とヘリウム灰排出[18]
カラム研究所 START 実験
[3]で ST 合体が試みられるが
などである.特に磁場エネルギーの20%を超える大きなエ
表1
Device
Institute
Guide-Field
Rec. Initiation
TS-3
[2,4]
U. Tokyo
START
[3]
CCFE
TS-4
[5]
U. Tokyo
MAST
[6]
CCFE
VTF
[7]
MIT
UTST
[8]
U. Tokyo
MRX [9]
w. Guide Field
PPPL
VEST
[10]
Soul N. U.
1985
1990
2000
2000
2000
2005
2010
2011
Merging ST/
RFP, Sph,
Major Radius
20 cm
Aspect Ratio
1.1―1.6
Operation
#
'[kA]
"(
![T]
$%[eV]
$&[eV]
!(
!
高ガイド磁場(トカマク)合体実験.
70
0.2
10―40
10―200
0.05―0.6
35 cm
Merging ST/
RFP, Sph,
50 cm
1.6
200
0.4
3―20
3―20
0.05―0.2
1.4
150
0.15
10―40
150
0.05―0.6
Merging ST
90 cm
Merging
Spherator
45 cm
1.3
1400
0.3
1400
1400
0.05―0.2
1.3
150
0.5
20
100
0.05―0.1
Merging ST
2.4 Application Studies of Spherical Tokamak Plasma Merging
ONO Yasushi and INOMOTO Michiaki
45 cm
Merging
Spherator
35cm
1.3
150
0.5
20
100
0.05―0.1
1.3
80
0.1
5
15
0.05―0.2
Merging ST
Merging ST
45 cm
1.5
30
?
?
?
?
corresponding author’s e-mail: [email protected]
733
!2012 The Japan Society of Plasma
Science and Nuclear Fusion Research
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.88, No.12 December 2012
ネルギーを熱エネルギーに変換し,その加熱時間をエネル
イオンといえる.アウトフローは下流でつなぎかわりを終
ギー閉じ込め時間や不安定の成長時間より短く設定できる
えて集まっている磁力線に衝突してプラズマをパイルアッ
点は大きな特徴であり,利点の生かし方は今後の研究次第
プさせ,ついにはファーストショックを形成しながら熱化
といえる.こうした点は,ごく最近,実証されたため,独
すると考えられる.図2(c)では,イオン温度がリコネク
立した章で合体応用が取り上げられるのも本小特集が初め
ション下流の2カ所で加熱されていることがよくわかる
てである.本章では,合体現象の特徴がどのように明らか
[4,
11].これに対して,電子は質量が軽いため,アウトフ
にされ,具体的にどのような応用研究が進んでいるのかを
ローではあまり加熱されず,電流シート内で加熱されるこ
まとめてみたい.
とがわかった.確かに図2(d)で,電子温度は電流シート
内の X 点付近にピークしている[4,
11].電子は質量が軽い
2.
4.
2 合体を用いた球状トカマク加熱[4,
11]
ので逆に電界がある場所ではイオンより加速されやすく,
ST 合体で最近注目される話題は,その巨大で短時間の
電流シート内で加速・加熱されるのである.しかし,細く
加熱機構が明らかになったことである.リコネクション研
小さな電流シートの体積はリコネクション下流領域よりも
究[12]としてもその加熱機構は謎が多く,特にイオンと電
はるかに小さく,電子加熱エネルギーはイオン化熱エネル
子がどのような機構でどれくらい加熱されるのかが実験的
ギーの1桁程度下である.大半径 0.2 m 程度の TS-3 実験で
にわからなかった.最も単純なケースとして2個の ST を
は低 Z 不純物の放射損失のため,電子温度があまり上がら
軸対称合体させる場合を考えよう.合体面には,図1や
ないが,本来,磁気リコネクションによって電子温度は
図2の磁気面のように反平行な磁力線が対抗し,磁力線の
もっと上昇しうることが最近の MAST 装置における大型
つなぎ代わり,即ち磁気リコネクションが発生する.まず,
合体実験によって明らかになった.ただ,電子加熱がイオ
反平行の磁力線の間には電流シートが形成されて(磁束凍
ン加熱の1ケタ下であることに変化はなく,厳密には,イ
結の原理),磁力線の再結合を妨げる.しかし,電流シート
オン加熱機構の立証にはイオン加速とその熱化機構の確認
には古典抵抗に加えて,ドリフトキンク型不安定などの何
が不可欠であった.リコネクションアウトフローは X 点の
らかの不安定が発生して抵抗拡散[13]するので磁力線は X
両側に流れ,その速度は概ねアルベーン速度の80%程度に
状に交わってつなぎ変わるのである.磁気リコネクション
当たる.その速度が両側下流のパイルアップ領域(ファー
は,上流側(図1で上下方向)の磁力線とプラズマがイン
ストショック領域)で小さな値になり,電子密度と磁場強
フローとして電流シートに集まり,反平行の磁力線がつな
度は値が急増し,同じ場所でイオンは大きく加熱される.
ぎかわると V 字状になって丁度磁力線の張力がパチンコの
リコネクション下流領域でのファーストショックの形成が
ひものようにプラズマを加速しながら下流側(図1で左右
強く示唆される.リコネクションのアウトフローがイオン
方向)へアウトフローとして流れていく.反平行の磁力線
をアルベーン速度程度に加速し,ファーストショックを形
が再結合で打ち消し合い,消滅した磁気エネルギーがプラ
成して恐らくイオン粘性も手伝って熱化することにより,
ズマのアウトフローの運動エネルギーに変換されるのであ
る.図2では TS‐3装置において2個の ST を合体させた
時,(a)磁気プローブ列で直接計測した磁気面と(b)トロ
イダル磁場の径方向分布に加え,
(c)2次元ドップラー計
測で測ったイオン温度分布と
(d)静電プローブで計測した
電子温度分布を示す[4,
11].アウトフローとして電子とイ
オンを同じく加速すればより大きなエネルギーを得るのは
図2
図1 (a)
2個の合体する球状トカマク(ST)
プラズマと(b)
その
リコネクション領域,特にその電流シートとインフロー,
アウトフローとそれによるショック構造の形成[1
1]
.
734
高いガイド磁場(Bt ~ 5Bp,Itfc = 35 kA)を持つ2個の球状
トカマク(ST)プラズマの合体における,(a)
R-Z 平面上の
ポロイダル磁気面,(b)
トロイダル磁場の径方向分布,(c)
2次元ドップラー計測で測ったイオン温度の R-Z 平面上の
2次元分布,(d)
2次元静電プローブ計測で測った電子温
度の R-Z 平面上の2次元分布.
Special Topic Article
2.4 Application Studies of Spherical Tokamak Plasma Merging
Y. Ono and M. Inomoto
大き な イ オ ン 加 熱 が 得 ら れ て い る こ と が わ か る.図3
-Parker モデルによって見積もられたインフロー速度が基
は,3種類の ST 合体の場合,合体無しの場合について,イ
準となるが,電流シートの異常抵抗分を考慮した修正
オン温度,電子温度,熱エネルギーの時間変化を示す.高
Sweet-Parker モデルで概ねの見積ができる.
!!"合体,低!!"合体,単独の高!!"の場合を比較すると,
ST プラズマの加熱への応用を確立する際,大切な点は,
合体により数 MW の加熱が簡単に得られることがわか
どの程度の再結合磁場でどの程度の加熱が得られるのかを
る.イオン温度上昇は電子温度上昇に比べて一桁近く大き
決める加熱スケーリング則である.図4にイオン温度上昇
く,リコネクション加熱はほとんどイオンのアウトフロー
分が再結合するポロイダル磁場へどのように依存するかを
加熱である.厳密に言えば,図2(c)
の電流シートのイオン
示す[4,
11].電子密度はほぼ一定かつ,リコネクション加
温度はインフロー領域よりも少し高い.イオンと電子の軌
熱はほとんどイオン加熱なので,イオン温度上昇はほぼリ
道の大きさの違いのため,電流シート付近を計測すると負
コネクション加熱エネルギーに比例する.図4からは,明
のポテンシャルを持つとの報告があり[19].電界加速によ
らかにイオン温度上昇分は再結合ポロイダル磁場の二乗に
るイオン加熱効果も少ないながら存在しそうである.
比例することがわかる[4,11].Cohelicityとあるのはトロ
ST 合体加熱の優れた点は,加熱されたイオンの損失は
イダル磁場が同方向の2個の ST を合体させる場合で図1
きわめて小さく,短いリコネクション時間の間にプラズマ
の合体加熱そのものである.一方,Counterhelicity とある
を高ベータ化できることである.この理由は図2(a)の磁
のは図5(a)のようにトロイダル磁場が逆向きの2個のス
気面を見ればよくわかるように,プラズマ合体は周辺磁束
フェロマックを合体させる場合で,ポロイダル磁場だけで
からコア磁束の順に進行し,常に大きなイオン加熱を生む
なくすべてのトロイダル磁場が再結合するので加熱源がト
X 点領域は丸ごと再結合を終了した閉じた磁束に厚く囲ま
カマクの場合の倍以上になるため,同一の再結合ポロイダ
れているためである.内部磁場と外部磁場とのリコネク
ル磁場で比較すると2
‐3倍程度の加熱となる
[14].二乗に
ションである RFP の鋸歯状波振動によるイオン加熱が容
比例する理由は,リコネクションアウトフロー速度が,大
易に維持されない現象とは対 照 的 で あ る.TS-3 実験で
凡アルベーン速度(磁場に比例)であることから,イオン
は,磁気エネルギーの減少分 145 J に対してイオンエネル
の運動エネルギーやそれが緩和したイオン熱エネルギーは
ギー増加分は 128 J,電子エネルギーエネルギー上昇分は
再結合磁場の二乗に比例すると考えられる.
10 J 程度であまり損失がない.リコネクション時間がエネ
リコネクション加熱のスケーリング則は,大きさによら
ルギー閉じ込め時間に比べてかなり短い時間で行われるこ
ず磁場の二乗でイオン加熱が急増することを意味してお
ともその理由の1つである.リコネクション時間は Sweet
り,kG オーダーの磁場で合体実験を行えば,keV を越える
ことを意味している.そこで ST としては最大規模を持ち,
合体運転が可能な英国カラム研究所の MAST 実験装置で
日英共同合体加熱実験を行った.表1に示すように MAST
装置は TS-4,UTST 実験のほぼ2倍の規模を持ち,再結合
磁場強度も 2 kG に達し,図4では keV 以上のイオン温度が
期待される.合体立ち上げとセンターソレノイドコイル
(CS)立ち上げを比較したプラズマ電流,電子温度,イオン
図3
図4 2個のトロイダルプラズマの合体の際のイオン温度上昇
!Ti の再結合ポロイダル磁場 "p//依存性(電子密度 ni ~
~3
× 1019 m−3)
.データ は X 点 に ガ イ ド 磁 場 が あ る 同 極 性
(cohelicity)合体と,ガイド磁場がない異極性(counterhelicity)
合体を TS-3 実験で行って得られたものである
[1
1]
.
高いガイド磁場(Itfc = 35kA)を持つ単一あるいは2個の ST
プラズマの合体における平均イオン温度 Ti, 電子温度 Te,
お よ び 熱 エ ネ ル ギ ー の 時 間 変 化.低 い ガ イ ド 磁 場
Itfc = 10 kA をもつ2個の ST の合体の場合の同様の時間変化
も比較のために点線で示す.
735
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.88, No.12 December 2012
温度の時間変化を図6に示す[11].合体運転の場合は電源
理想的には初期ポロイダル磁気エネルギーの半分程度がプ
が不十分でプラズマ電流が CS 立ち上げの半分の 300 kA
ラズマ(主としてイオン)の熱エネルギーに転換されるた
程度であるにもかかわらず,イオン温度は 1.2 keV に達し,
め,リコネクション時間程度の短時間にポロイダルベータ
CS 立ち上げの2倍,電子温度も 0.8 keV まで上昇し,CS
〜1の高ベータ状態が形成可能である.一方で,前述の異
立ち上げを上回ることがわかる.特徴的であるのはその加
極性合体を用いてトロイダル磁気エネルギーをプラズマ加
熱速度である.比較のため,図6(b)に合体立ち上げのイ
熱に寄与させることによって,ポロイダルベータ>1の超
オン温度,電子温度の時間変化を書き込むと赤線のように
高ベータ状態の形成が可能と考えられるが,異極性合体に
なり,10 msec 程度の短時間で keV の加熱が得られたこと
おいては合体する二つのトーラスプラズマが互いに逆向き
がわかる[11].
のトロイダル磁場を有している必要があるため,二つのプ
ラズマを取り巻く外部コイルによる準定常トロイダル磁場
2.
4.
3 合体を用いた超高ベータ状態生成
の下で異極性合体を実現することはできない.
以上のように,球状トカマク同士を合体させる場合には
そこで,ポロイダルベータ>1の超高ベータ ST の形成
手段として,スフェロマック異極性合体を行った後に速や
かに外部トロイダル磁場を立ち上げるという方法が提案さ
れている
[14].TS‐3実験では,図7に示すように,異極
性合体時の磁気リコネクションによって 150 eV を超える
急速イオン加熱が実現されており,その後に外部トロイダ
ル磁場を立ち上げることによって ST 配位への遷移を行っ
ている
[14‐16].このようにして生成された超高ベータ
ST のトロイダル電流密度およびトロイダル磁場の径方向
分布を図8(a)
(b)に,合体を用いない低ベータ ST のトロ
イダル電流密度およびトロイダル磁場の径方向分布を図8
(c)
(d)
に示す[15].この超高ベータ状態では,異極性合体
による大きな加熱効果がHollowな電流分布をもたらし,高
ベータプラズマに後から外部トロイダル磁場を印加するこ
図5 (a)
互いに逆向きのトロイダル磁場を有するスフェロマッ
ク2個を合体させて生成した FRC を用いた超高ベータ ST
(磁気シア)
‐p"
(熱圧力勾配)ダイ
生成過程とその際の q"
ヤグラムにおけるバルーニングモードに対する第2安定領
域へのアクセス.ここで q" = dq/d",p" = dp/d",q は安
全係数,p は熱圧力関数," はポロイダル磁束関数である
[1
4]
.
とによってプラズマ内部に反磁性のトロイダル磁場分布を
形成している.これら2つの特徴的な効果の複合によって
特にプラズマ端部付近で大きな圧力勾配が保持されてお
り,結果的に極めて高い(>0.6)トロイダルベータを有す
るST配位が実現されている.結果として,リコネクション
加熱により,高ベータ不安定の成長時間以下の短時間
(Sweet-Parker 時間程度)でいろいろなベータを持つ ST
を生成することができた.それをトロイダルベータと "!
#!!
の空間にプロット す る と 第2.
1章 の 図2の よ う に な る.
図6
MAST 実験において,高いガイド磁場(Itfc = 35 kA)を持つ
ST プラズマを(a)
合体で立ち上げた場合のプラズマ電流 Ip
(上),と電子温度 Te(中央)とイオン温度 Ti(下)の時間
変化と(b)
同様にセンターソレノイド(CS)
コイルで立ち上
げた場合のプラズマ電流 I(
,と電子温度 Te(中央)
p 上)
1]
.
とイオン温度 Ti(下)の時間変化[1
図7
736
スフェロマックの異極性合体で生成した FRC にトロイダル
磁場を印加して超高ベータ ST を生成する過程におけるプ
ラズマ電流 I(
と電子密度 n(中央)
とイオン温度 Ti と電
p 上)
e
の時間変化[1
5]
.
子温度 T(下)
e
Special Topic Article
図8
2.4 Application Studies of Spherical Tokamak Plasma Merging
スフェロマックの異極性合体で生成した FRC にさらにトロ
イダル磁場を印加して生成した超高ベータ ST の(a)
トロイ
ダル電流密度 jt,(b)
トロイダル磁場 Bt の半径方向分布と,
合体なしで単独生成された低ベータ ST の(c)
トロイダル電
トロイダル磁場 Bt の半径方向分布.真空トロ
流密度 jt,(d)
イダル磁場を点線で表示した[1
5]
.
Y. Ono and M. Inomoto
図9 (a)
異極性合体生成 FRC にトロイダル磁場を印加して生成
した高ベータ ST(安定:ケース A)と(b)
中クラスベータ
の ST(安定:ケース B)
,ST の同極性合体で生成した低
ベータの ST(安定:case C)と中クラスベータの ST(不安
定:case D)の q!
(磁気シア)
‐p!
(熱圧力勾配)ダイヤグ
ラムとバルーニングモードに対する第2安定領域.Case
A-D は2.
1章の Fig. 2 の A-D に対応する[1
6]
.
ベータが1に近い超高ベータの平衡もあるが,FRC にトロ
イダル磁場を印加しただけの不安定な状態もあり,生成
後,多くに不安が発生する.リコネクション加熱時間の短
なろう.
さのために不安定な配位も生成可能である点は大きな特徴
である[16].
2.
4.
4 合体を用いた電流駆動と分布制御
超高ベータでかなり安定な ST も生成され,例えば図9
(a)の Case A は超高ベータながら絶対極小磁場配位を持つ
プラズマ合体法のもう一つの利用法は,磁束供給・分布
反磁性トカマクである.形成された超高ベータ状態は,バ
制御である.2次元軸対称の枠内で考えれば,合体はトロ
ルーニングモードに対する第二安定化領域に位置している
イダル磁束の供給であるが,当然のことながら,磁気ヘリ
こと[4]に加えて,絶対極小磁場構造と,異極性合体に由来
シティを注入することになるので磁束変換効果を考慮すれ
するアルベーン速度の50%程度に達するトロイダルシアフ
ば電流駆動になる.START,MAST 実験などは設置ス
ローを有しており,MHD 不安定性が抑制されていると考
ペースが狭いセンターコイルの磁束不足を補うために専ら
えられる[16].
合体運転を行ってきた経緯があり,最近まで合体の主目的
図9に合体生成した高ベータ ST の s-""
"! !!! #ダイヤ
は磁気エネルギー供給にあった.合体によるスフェロマッ
グラムを描いてバルーニングモードに対する安定性を解析
クの電流駆動は長い歴史を持つが,本特集の ST としては
した例を示す.第2.
1章の図2の Case A の代表的な磁気面
表1程度である.同じ目的の Coaxial Helicity Source(CHI)
に関する結果が図9上の A であり,明らかに第2安定状態
でプラズモイドが見えることもあり,実験的には電極放電
に位置していることがわ か る.同 様 に 第2.
1章 の図2の
を使って連続的にトロイダル磁束を生成するのが CHI,PF
Case B,C,D について解析した結果をやはり図9上下に示
コイルの誘導だけで間欠的に ST を生成するのが合体法と
す.Case B はベータ 40% で不安定な例,Case C はベータ
いえる.いわば電極放電を伴わない不純物が入りにくい
20%で安定な例,Case D はベータ4
0%で不安定な例であ
「きれいで」「間欠的」なヘリシティ注入というのが宣伝文
る.図9上下を比較すると不安定領域がかなり異なってい
句である.図10に,真空容器外の PF コイルの振動により,
ることがわかる.これは配位の電流分布などにより大きく
間欠的な電流駆動を行っている UTST の連続 ST 生成の原
変化し,一般に熱圧力・電流分布の broadness と hollow-
理を示す
[16].PF コイルの立ち下げ(A-B),立ち上げ
ness を強めていくと,第1・第2安定領域の間の窓も次第
(D-E)により,真空容器内に形成された上下2つの X 点に
に大きくなるとの興味深い知見が得られている[16].た
はトロイダル電流が誘起されるが,前者では平衡磁場がト
だ,こうした分布は電流駆動型モードに対して不安定にな
ロイダル電流のフープ力と釣り合うのに対して,後者では
りがちで注意を要する.超高ベータ状態の安定性や閉じ込
同方向となるため,前者でのみSTが生成できる.コイル電
め特性はまだ不明点が多く,例えば,hollow な電流分布に
流を振動させるだけで自然の整流作用により,ST が次々
起因する圧力・電流駆動型の不安定の解析やより詳細なバ
と間欠生成され,電流駆動や加熱に寄与している.
ルーニング不安定の解析などの更なる検証が必要である.
軸対称を仮定すると2個の ST の合体過程で保存される
現状では同種の実験は小型装置における短パルス運転に限
磁束はトロイダル磁束であり,ポロイダル磁束は大きな方
られているが,今後はより大型の合体実験装置において追
に残るだけである.合体によって増加するのは,合体に
加熱による超高ベータ状態の維持を実現することが急務と
よって加算されるトロイダル磁束であり,ポロイダル磁束
737
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.88, No.12 December 2012
についてはプラズマ内の不安定を介した磁束変換による
させるアイデアも提案されている[18].図13のように,プ
が,多くの場合,磁束変換は不安定を介した逆カスケード
ラズモイドとの間にヌル点を持つ ST を維持して H モード
のモード変換を必要とし,閉じ込め劣化が危惧される.合
を維持しつつ,プラズモイドがある程度成長したら,それ
体によるトロイダル磁束注入とセンターソレノイド(CS
を放出し,輸送中に不純物ペレット入射やガスパフによっ
コイル)コイルによるポロイダル磁束注入を同時に試みて
て放射冷却した後,ダイバータ磁場に合体するものであ
磁束変換の無い電流駆動を試みた概念図が図11,トロイダ
る.主プラズマ磁場とダイバータ磁場との間の共通磁束を
ルモードの時間変化が図12である[17].q 値を 0.2,0.5,1.5
無くしてこれらの直接の熱輸送をなくし,プラズモイドに
の3ケースについて比較しているが,CS コイルだけでポ
よって間接的 に2つの磁束を連結するアイデアである
ロイダル磁束を供給すると
(a)
(b)
(c)のように磁束変換現
[18].小さなプラズモイドを主プラズマから放出すること
象が発生するためトロイダルモードの成長が見られる.一
方,合体によるトロイダル磁束注入でバランスのとれた電
流駆動を行うとモードが成長せず,閉じ込め悪化を招かな
いことがわかる.その効果は磁束変換がより大規模に起こ
る低 q 配位ほど大きくなり,高 q の ST 領域ではあまり大き
な差がなくなる.
2.
4.
5 合体を用いた燃料補給とヘリウム灰排出
複数のSTを形成し,合体する現象の延長として,核融合
燃料注入やヘリウム灰排出といった応用も提案,実験され
ている.図10の間欠合体現象を核融合燃料輸送に使うこと
も可能であり,軸対称・非軸対称のプラズモイドの入射実
験が行われてきた.一方,主プラズマの上下のダイバータ
接続部分に,再外殻磁気面の一部を小さな ST として成長
図1
2 CS(OH)コイルのみ用いて(a)
q~0.2,(b)
q~0.5,(c)
q~
1.5 の ST/CT プラズマの電流駆動を行った場合と合体を併
用して(a’)
q~0.2,(b’)
q~0.5,(c’)
q~1.5のST/CTプラズマ
のバランスのとれた電流駆動を行った場合のトロイダル
モード n = 1〜3 の時間変化[1
7]
.
図1
0 PF コイル電流のスイングだけで(自然の整流作用によ
り)間欠的に ST が生成され,ST の同極性合体が連続的に
発生して,ST のスタートアップ・電流駆動が可能になるこ
とを示す原理図[1
6]
.
図1
3 主プラズマからのプラズモイドを放出して,放射冷却後,
ダイバータプレートに結合するダイナミックダイバータの
運転サイクル[1
8]
.
図1
1 合体と CS(OH)コイルを用いたバランスの取れた合体を
行った場合の CT と ST のダイナモ現象の抑制[1
7]
.
738
Special Topic Article
2.4 Application Studies of Spherical Tokamak Plasma Merging
Y. Ono and M. Inomoto
流分布を合体法によって容易に得られる点も有用である.
電流駆動や燃料供給,ヘリウム灰排出などの新たな応用も
開拓されており,世界的にも合体実験は,磁気リコネク
ションの物理実験からリコネクション加熱を中心とする合
体応用研究に分野が広がり,アジアでも後続装置の建設が
行われている.現在,日米欧の間で合体リコネクションに
関する国際 COE がスタートし,同じく日中韓の3極でも
ST の合体・電流駆動をテーマとした A3 プロジェクトが発
足した.今後は複数の装置を用いた共同実験をはじめとす
る国際協力が重要なテーマになってくるものと思われる.
謝辞
本節をまとめるにあたって,東京大学 TS/UTST グルー
プ,産業技術研究所榊田グループ,日本大学高橋・浅井グ
ループ,核融合科学研究所堀内グループ・成嶋吉朗氏,名
古屋大学山!耕三氏,日本原子力機構飛田グループ,M.
図1
4 間欠的プラズモイド放出を行う ST プラズマのポロイダル
磁気面の時間変化.CS(OH)コイルの作用で膨脹する ST
の磁気面に対して,PF1コイルが磁気圧縮力を加え PF2コ
イルがプラズモイドをダイバータプレートに引き寄せる
[1
8]
.
Gryaznevich 氏らの英国カラム研究所 MAST グループ,国
立天文台太陽観測衛星ひのでグループに協力をいただい
た.また,日本学術振興会基盤研究(A)No. 22246119,同
でヘリウムの選択排気などが提案されている.このプラズ
挑戦的萌芽研究 No. 22656208,同先端研究拠点事業 No.
モイド放出を2次元軸対称 MHD 計算機シミュレーション
22001,同日中韓フォーサイド事業に援助をいただいた.厚
によって検証した例を図14に示す.主プラズマの再外殻磁
く御礼申し上げたい.
気面がプラズモイドとして成長し,主プラズマから切り離
した上で,ダイバータ磁場に連結する動作が連続的に可能
参考文献
であることを示している.この際,PF1 コイル電流がプラ
[1]D.R. Wells, Phys. Fluids 9, 1010 (1966).
[2]Y. Ono et al., Proc. IEEE Int. Conf. Plas. Sci. (Saskatoon,
1988) p.77; Y. Ono et al., J. Plasma Fus. Res. 56, 214 (1986);
Y. Ono et al., Phys Fluids B6, 3691, (1993); Y. Ono et al.,
Phys. Rev. Lett. 76, 3328, (1996).
[3]M. Gryaznevich et al., Proc. 14th Int. Conf. Plasma Phys.
Cont. Nuc. Fusion Res. (Wuerzburg, Germany) vol. 2, (Vienna: IAEA). p 575, (1992); M. Yamada et al., Phys. Rev.
Lett. 65, 721 (1990).
[4]Y. Ono et al., Phys. Rev. Lett. 107, 185001, (2011).
[5]Y. Ono et al., Phys. Plasmas 4, 1953 (1997).
[6]M. Gryaznevich et al., Nucl. Fusion 46, S573 (2006).
[7]J. Egedal and A. Fasoli, Phys. Rev. Lett. 86, 5047, (2001).
[8]Y. Ono et al., Phys. Plasmas 18, 111213, (2011).
[9]M. Yamada et al., Phys. Plasmas 4, 1936, (1997).
[1
0]Private communication.
[1
1]Y. Ono et al., to be published in Plasma Phys. Control. Fusion.
[1
2]E. N. Parker, J. Geophys. Res. 62, 509 (1957); Astrophys.
J. 264, 642 (1983).
[1
3]R. Horiuchi and T. Sato, Phys. Plasmas 4 27, (1996).
[1
4]Y. Ono et al., Phys. Plasmas 7, 1863. (2000).
[1
5]井 通 暁,小 野 靖:プ ラ ズ マ・核 融 合 学 会 誌 76, 553
(2000).
6]Y. Ono et al., Nucl. Fusion 43, 789, (2003).
[1
[1
7]Y. Ueda and Y. Ono, Nucl. Fusion 41, 981, (2001).
[1
8]S. Inoue et al., to be pulished in Fusion Energy 2012, PD/
P8-17, (2013).
[1
9] K. Yamasaki et al., "Electron heating during magnetic
reconnection in the UTST merging experiment", in Proc.
20th International Toki Conference.
ズモイドを主プラズマから切り離す動作をアシストしてい
る.この例ではSTの片側のみの放出であるが,両側の放出
として常にヌル点をもったダブレット配位の維持が可能で
ある.東京大学 TS‐4でも実験的に主プラズマからプラズ
モイドを成長させ,切り離す実験が行われており,動作が
確認されている.将来はコイル電流をなるべく一定にした
状態でのプラズモイド制御,ダイバータの熱負荷低減の実
証が望まれる.
2.
4.
6 まとめ
以上のようにプラズマ合体は,従来,リコネクション物
理の解明に用いられてきたが,近年は,その応用にも目処
が得られてきた.具体的に,1)リコネクション加熱,2)
超高ベータ ST の生成,3)ST の電流駆動・分布制御,4)
燃料の供給,ヘリウム灰の除去などいろいろな応用が図ら
れている.リコネクション加熱の特徴は,再結合する磁場
成分のエネルギーを高効率で変換し,磁場の二乗に比例し
て MW,GW の加熱パワーが簡単に得られる点,エネル
ギー閉じ込め 時 間以 下 の 短 時 間(異 常 抵 抗 を 考 慮した
Sweet-Parker 時間)の加熱となる点,さらに高ベータ不安
定の成長時間以下で高ベータ化することも可能である.こ
れによって NBI に頼らない超高ベータ ST 立ち上げや第2
安定状態の超高ベータ ST を簡便に生成して成長させる運
転シナリオが可能になるかもしれない.色々な超高ベータ
ST を生成してそれらの安定性をテストするといった新た
な実験も可能である.また,現在,実験的には得られない
超高ベータ ST の理論解析に使われる配位の圧力分布や電
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