観光産業におけるホスピタリティー

観光産業におけるホスピタリティー
第1章
ホスピタリティー時代の到来
観光産業にとって、観光客(ゲスト)と受け入れ側の人=ヒューマンウエア(ホスト)の関
係が非常に重要である。受け入れ側のホストが心を込めてゲストを受け入れる、という関係
が成立しない限り観光事業は成功しない。つまり、観光地の遺跡や名勝、施設や食事(これ
らはみなハード:モノ)だけで観光事業を成功させようとしてもだめなのである。受け入れ
る側の人々(ヒューマンウエア)がしっかりとホストとしての役割をはたしてこそ、観光事
業は成り立ち、観光産業はこれからの社会においても重要な役割を担い発展していくのであ
る。観光産業界においてホストが備えておかなくておかなくてはならない資質は豊富な知識
や優れた技術だけではない、その前に先ず人としての魅力を備えていることなのである。そ
の人としての魅力とは、人が人にサービスを提供する際に基盤となるホスピタリティーであ
る。ホスピタリティーとは人の心や気持ちを大切に思うことである。
「観光におけるホスピタリティー」を理解していただくために、ここでは何故いまホスピタ
リティーが重要であるのかを、社会の変化を検証しながら説明をしていくことにする。
1-1
モノ至上主義からの脱皮
21 世紀に入り観光産業界に限らず、今や世界はホスピタリティー産業(サービス産業=第 3
ん次産業)時代に突入している。観光産業におけるホスピタリティーの重要性を本気で理解
してもらうためにここでは先ずその時代の変化について簡単に述べておくことにする。
旧石器時代アフリカに猿人(アウストラロピテクス)が出現して以来、長い歴史を通して私
たち人間は優れた道具や機械、技術や情報を活用し人間文明を発展させてきた。特に 18 世紀
後半イギリスで起こった産業革命はやがて世界の国々に広がり、モノづくりが人々の生活を
潤し同時に経済を発展させていった。わが国日本も長い鎖国時代から明治維新を向かえ国中
でモノづくりに励み、やがて経済的に世界の列国と肩を並べるまでに至った。特に先の大戦
後の経済復興は世界を驚かせる程のスピードで日本をどん底から立ち直らせた。これもモノ
づくりの力の賜物といえる。
今日の豊かな社会を築き上げたモノづくりではあるが、21 世紀を迎えた今日、私たちの住む
この地球上で一体何が起こっているか。暮らしの方は何不自由なくモノをいつでも手に入れ
られる状況ではある反面、いたるところでモノが溢れその廃棄処分に人々は頭を悩ませてい
るのが現実である。
それでもまだ、現代をモノの時代だと錯覚している人がいる。ここで注意しておきたいのは、
何も今の時代、モノはどうでも良いと言っているのではない。人々に有効なモノは無論大切
には違いないし、そうしたモノがなければが人間は生きていけない。だが、モノ至上主義の
考え方をいつまでも持ち続けていると、あらゆる場面で人間は過ちを犯すことになるという
ことを認識すべきだと言っているのである。無論観光産業界においても同様、観光が資源と
言うモノであるなら、この観光資源至上主義でいては観光産業を発展させることは困難だと
1
うことだ。その理由はこれから明らかにしたい。
1-2
モノの時代から人の時代へ変化
今の時代は、もはやモノの時代ではなく人の時代に変化している。その現われとして、現代
人の多くが人との関係の基盤となる「心や気持ち」の問題で悩んでいる。現実に著しく科学
が進みすばらしいモノが世の中にあふれていても、そんなこととは全く関係なく人の心を痛
める悲しい出来事や悲惨な事件が多発し社会問題化している。家庭でも職場でも人々は人と
の関係をうまくやろうと必死になっているが、中々思うような人間関係が築けず苦労してい
るのが現実の社会なのである。
経済社会においても、経済構造の変化に伴う消費者の欲求の高度化に比例して、人の「心や
気持ち」の問題が大きくとりざたされるようになった。またそうした関係のトラブルも増加
している。人に関わる問題は、今や私たちひとり一人の個人の問題に止まらず、社会全体或
いは産業界全体の問題として捉えなくてはならない。したがって、私たちは現社会がすでに
モノの時代ではなく人の時代に突入していることを理解しておかなくてはならないのである。
我々の隣国産の食材に身体に害を及ぼす農薬や添加物が混入され世界の市場から非難を浴び
た。生産者はこれらの薬品が身体に悪影響を与えることを知っていたが売らんがために製造
輸出した。もはや消費者はモノが安く手に入れば良いなどとは考えていない。むしろ食品を
実際に口にする人の「心や気持ち」を踏みねじるようなこうした人の行為を許せないのだ。
結果、いまや我々はこの国のモノ(農水産物)は誰も買おうとしない。
国内においても、過去に、死傷者を出すようなトラックの脱輪事故が発生した折、その原因
が自社の製品不備と事前にわかっていたにもかかわらず会社はリコール措置をとらず、事実
を社内で隠蔽していた。社会に事実が発覚した結果、世界に名だたるこの大企業の経営は大
ピンチに陥ってしまった。人々は死傷事故発生のみを責めているのではなく、それに携わっ
ている人が人を思う「心や気持ち」に許しがたい憤りを感じ、なんら問題のないモノ(他ラ
ック以外の車についても)に対し不買という制裁を加えたのだ。
こうした問題に起因しているのは決してモノに関わる知識や技術上の不備だけでなく、全て
人々の「心や気持ち」なのである。
問題は人が人の「心や気持ち」をないがしろにして知識や技術に頼ろうとするモノ至上主義か
ら来ているといえる。現社会がモノの時代から人の時代へとすでに変化した事実を充分認識
していないとこうした不祥事が起きるといって過言ではない。観光産業においても、モノの
時代から人の時代に変化している現実を充分認識し、
「人の心や気持ちを考えた行為」つまり
「ホスピタリティー」の発揮を怠ると観光客に満足を与えることは困難となる。
1-3
観光客のイメージ確認行為
現代社会では、人々は従来と違ったますます高い欲求水準を持つように変化してきている。
飽和・成熟した現代のマーケットでは供給側でなく需要側消費者が強い力を持つようになっ
2
た点については前述したとおりだ。
観光地を訪れる観光客は、自分の住んでいる環境との違いや日常生活では味わえない非日常
性の発見により好奇心や知識欲を満足させる。またこうした満足を得ることが観光効用とい
える。
ところが現代社会では、人々は高い水準の欲求を持ち観光地に対する期待も従来とは大きく
変化していることに気付かねばならない。つまり、観光客は実際に目的地を訪れる前に、そ
の地の情報をかなり多く得ているということである。つまり観光客は目的地のイメージを自
分たちなりに既に形成し現地を訪れているということである。こうなると、実際の観光はこ
のイメージを自分自身で確認するためにとる行動ということになる。ここで注意しなくては
ならないのは観光客が確認するイメージとは観光客自身が事前にチェックした訪れる先の写
真やデータであるので、現実に近いものが多いということである。その結果観光客は実際に
目的地を訪れイメージ確認をして、その通りであれば満足と言う結果を得るのである。だが、
事前のイメージで多くの観光客は現地の人々のもてなしについては性善説を持ってイメージ
することが多い。当然のことながらイメージした事前の期待と現実のギャップがマイナス方
向に大きければ観光客は不満として印象付けられるのである。したがって、写真やデータで
事前確認できるもの以外の目的地の人の接遇については充分注意が必要となる。つまり、観
光地の人々のホスピタリティーは観光客の確認行為の大きな要素となることを忘れてはなら
ないのである。
第2章
ホスピタリティーが観光産業を変える
2-1観光産業もヒューマンウエアがポイント
観光産業にとって、観光客(ゲスト)と受け入れ側の人=ヒューマンウエア(ホスト)の関
係が非常に重要であることは冒頭に述べたとおりである。
観光産業を支えているものに、ハード(観光地の遺跡や名勝、施設や食事など)
、ソフト(単
体、つまり旅館やバス会社など観光に関わるすべての事業体、それぞれ単独のオペレーショ
ン・システムと、複合体、つまり観光地内のホテル、旅館、バス、土産物などの事業体同士、
或いは空港、鉄道、バスと観光地を結ぶオペレーション・システムなど〉とヒューマンウエ
ア(観光産業に携わっている全ての人々)がある。
観光産業において今までは、ハードやソフトについての議論や問題点の指摘は数多くされて
きたがヒューマンウエアについてはあまり聞かない。しかし、大きく変化してきた社会全体
で人の問題が重要視される中、人に人がサービスを提供する観光産業こそがヒューマンウエ
アに関し他産業以上に高い関心を示しその質の向上に努めるべきであるのは言うまでもない。
観光産業においてのヒューマンウエアとは、他産業特に製造業において重要視する人の持つ
知識や技術を指すのではなく、人の心や気持ちを大切に考えるホスピタリティーを指すので
ある。
即ち、観光産業に携わる人間にとって最も重要なことは、人にサービスを提供する基盤とな
3
るホスピタリティーを備えていることだということを再度認識しておいて欲しい。観光客を
受け入れる人々(ホスト)がホスピタリティーを発揮して初めて観光というモノに付加価値
が付き観光客(ゲスト)に満足を与えるのである。
2-2
観光に「行きたい」と思わせる動機付けと観光地の魅力
観光客に目的の観光地に行きたいと思わせる動機付けには・・・・・
A
行ったことがないので一度行ってみたい
B
一度行って良かったからまた行きたい
の、2 種のパターンがある。
Aは既に行った人やその場所を知っている人からの情報が動機付けとなる。
Bの場合は一度行った時の自分自身の印象が動機付けとなる。
ABの両者いつずれも、目的地のモノ(景色や名物、名所や旧跡、自然や施設)だけが「行
きたい」という動機付けになっていると考えがちであるが、実際には、モノ以外の付加価値
の良し悪しが「行きたい」との動機付けの比重を大きく左右していることを理解する必要が
ある。
行きたいと思わせる動機付けとは、魅力ある付加価値、つまりヒューマンウエアそのもの魅
力=ホスピタリティーなのである。
観光客に「また来たい」と思わせる満足と感動を与える質の高いサービスを提供することに
より、観光事業はリピーターを創出する。
景色や名物、名所や旧跡、自然や施設これらはみなハードでありモノである、これだけに頼
ってはだめ観光事業は成功しない。素晴らしい景色、身体に良い温泉、贅沢な施設・・・・・
観光地としては申し分ないが、この地で観光事業がビジネスとして成功するかどうかは保障
できない。それは、ホスピタリティーに富んだ質の高いサービスの提供があって初めて価値
ある商品=魅力ある観光地が誕生するからである。
2-3
観光客が集まる方程式
観光地を訪れる観光客は事前にイメージ形成をするということは前項で述べたが、観光客が
観光地としての魅力を総合的に何で判断するかについてここでは述べて見る。
観光地を売りモノと考えた場合、観光地すなわち観光の対象とされる史跡や名勝、山や海な
どの自然環境を有するリゾート地、テーマパーク、避暑地、温泉地などがモノに該当する。
このモノ自体にもたとえば歴史的価値、非日常環境としての価値、アミューズメントのソフ
ト価値などは存在するが、残念ながらこのモノだけで観光客を満足させているわけではない。
観光地を観光事業として成り立たせるには観光客を再びその地にやってこさせる価値、つま
り満足させる証としてリピーター化させる価値が存在しなければならない。このモノ自体に
プラスして付加されているもの、つまり付加価値こそが“ホスピタリティー”すなわち“人
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の心や気持ちを考える”行為なのである。ホスピタリティーは観光地に関わる全ての人々が
発揮することでモノに付加価値をつけることになる。
この考え方をモノが売れるという経済行為の方程式に当てはめると・・・
モノが売れる方程式:
モノ(観光地)+
付加価値(ホスピタリティー)
= 商品(顧客に満足を与える価値ある商品)
この方程式を分解すると:
・モノ=観光地=ハード
注:モノ=テーマパークなどの場合 モノ=ハード+ソフト(そこで催されているアミュ
ーズメントなど)
・付加価値=ホスピタリティー=人の心や気持ちを考える行為=ヒューマンウエア
・商品=顧客に満足を与える商品=魅力ある商品
ということになる。
そしてこの、魅力ある商品とは人が作り出すもので、モノ自体が持っている価値だけに頼ろ
うとすると、観光事業の場合成功させるのは困難になるケースが多い。つまり、観光産業に
おいて観光をビジネスとして成功させるには人が重要ないみをもち、その人が作り出す観光
の魅力こそが勝ちある観光を作り出すということで、更に人の作り出す魅力とは人が人にサ
ービスする際に発揮するホスピタリティーを指すという点を忘れてはならない。
2-4
観光マーケティング
観光地により多くの観光客を集める手段を考える場合、観光地の魅力に加え観光マーケティ
ングについて理解しておく必要がある。観光マーケティングとは一般の市場経済社会におけ
る競争に勝つために用いるマーケティングと基本的には変わりない。だが、観光産業界にお
いては個々の事業体が単独(例えば、複数の旅館が存在する観光地の 1 旅館単独)でマーケ
ティング戦略を立てるだけでは競合観光地との競争に勝つことは難しい。そこで観光業界に
おいては、一箇所の観光地域全体が、或いは複数の観光地がまとまってマーケティング戦略
を立てることが観光客を効率的に集める有効な手段となる。また、環境産業界における観光
事業とは、何も観光資源の存在する現地でビジネスをしている観光業者(ホテルや旅館、土
産物屋など)だけではなく、観光に関わるあらゆる事業:航空、船舶、鉄道、バスなどの輸
送機関、ホテルや旅館などの宿泊施設、レストラン、食堂、娯楽施設、土産物屋、旅行代理
店、観光ガイド、IT予約サイト業者、行政の観光部署・・・など幅広い。
つまり観光産業界では、観光客が観光地を訪れるという行為に関わる全ての事業種が観光事
業と言って良い。こうした、観光産業界で行うマーケティングを他業界と区別する意味であ
えて“観光マーケティング”と本書では名づけた。
観光マーケティングの仕組み:
観光地により多くの観光客を集めるためには、個々の観光事業体のマーケティングに加え観
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光マーケティング戦略をとる必要がある。そこで、マーケティングとは具体的にどのような
行為を言うのかここで私流の解説をしておきたい。
マーケティングとは・・・・
MARKETING
= MARKET(市場) + ING(動かす)
つまり、マーケティングとは買い手のいる市場を動かすと言うことである。
それでは、具体的にマーケティングと何を行うのかと言いますと、
●マーケティングを行うとは次の六つの行為を行うことを言う。
①広報活動
②広告活動
③販売促進又は商品企画
④営業活動
⑤運営活動又はシステム
⑥顧客管理
●マーケティングの六つの行為の具体的内容を説明すると・・・・・
①広報:自分以外の他人の手で(例えば新聞雑誌の取材などの記事を通して)情報を発信
する(原則無料)
②広告:自分自身で情報を発信する(例えば新聞雑誌に自分の思うとおりの広告を掲出す
る)(原則有料)
③販売促進又は商品企画
:
商品が買ってもらい易いようにパッケージ化したり、興味
をそそる企画を立案する
④営業:見込み市場にセールスをかける
⑤運営又はシステム:現地及び関係機関のオペレーション活動(顧客を満足させるオペレ
ーションでなくてはならない)
⑥顧客管理:リピーターを増やすための管理
以上がマーケティング活動の基本的かつ具体的な内容であるが、観光マーケティングを考え
る場合はこのような基本活動に加え、観光客の立場に立った問題点も改善する努力が必要と
なる。
2-5
ホスピタリティーが観光産業を変える
観光立国宣言「ようこそ日本 ビジットジャパン」をスローガンに
2003年1月小泉首相施政方針演説で「2010年訪日外国人旅行者数を倍増の1千万人
へ」との方針を示した。これに基づき同年3月に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が
国土交通省中心に取り組みが始まった。
前項 2-2-での述べた観光マーケティングの見地から観光立国宣言の実行方法を考えてみる。
まず、日本全体での外国人観光客誘致をとらえてみると、日本における全ての観光関係者(運
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輸、宿泊、飲食、娯楽施設、観光地など)の全てが外国人観光客の立場を考え魅力的な日本、
訪れて住んですばらしいと思う価値ある日本に変えていこうとする努力が必要である。そう
することが外国人観光客を迎える側としてのホスピタリティー(人の心や気持ちを考える行
為)である。具体的な例で説明すると・・・・
「観光立国」宣言を推進するには、当然のことながらマーケティングの六つの要素に則り観
光マーケティング戦略を立てる必要がある。特に日本では第⑤の運営又はシステムにおいて
多々問題がある。その代表的な問題点は
→成田国際空港から都心までの交通アクセスが時間、距離、料金の点で最悪である。空港を
移転させるに越したことはないが、それではハード(モノ)に頼ることになるので、先ず荷
物を抱えた外国人観光客、例え年配者であっても判りやすく、低料金で、体力に負担をか
けないで都心の目的地にたどり着けるようなトランスポーテーション・システムを新たに
考える必要がある。
→日本国内を新幹線で移動する際、東京、名古屋、大阪、京都など全ての駅が同じようなデ
ザインで地域の文化や歴史が感じない。これもハード上の問題であるが、せめて、各駅で
は地方色を明らかにしたものに力を入れて演出してもらいたい。これらは駅に携わる全て
の人の責務である。
→高層ビルから下を見ると低層ビルの屋上は空調機など機械が溢れ見苦しい。建築基準法で
ビルの屋上の機械設備は建物の容積に入らないため。高層ビルが増えた現在、直ちに法改
正し美観を優先させることは充分可能である。
→神社仏閣など歴史的建造物の前、街中いたるところに電柱と電線が張り巡らされまるで蜘
蛛の巣状態。鎌倉など電線の地中化を推進しているようだがスピードが遅い。年末に予算
消化で道路をひっくり返す無駄な公共事業費があるなら一刻も早く電柱をなくす努力をす
べきではないか。
日本は「観光立国」を宣言した以上本気で外国人観光客誘致に取り組まなくてはならない。
ハード(科学や経済力で作り上げられたモノ)だけに頼っていたのでは絶対に成功しない。
魅力的な価値ある観光地づくりとは・・・・・
① 外国人観光客の立場に立って日本を見直す
② 観光地として価値のある魅力的な日本に変える努力をする
③ 見直すポイントはハード、ソフト、ヒューマンウエアである。特にハード(観光地及び関
連施設など)に欠陥がある場合は移転や建て直しが困難な場合が多い、この場合でも問題
を放置せず、ソフトやヒューマンウエア(ホスピタリティーを含む人の力)でカバーする工
夫をする。
③ 日本全体をオペレーションしているのは行政だけではない。日本という観光資源は観光に
携わる全ての人々は無論日本国民全体のものである。したがって、外国人観光客を心から
迎い入れるのは全ての日本人であると考えることが重要
④ 行政を動かすのも日本国民の声の盛り上がりが重要
⑤ 日本は一刻も早く外国人観光客を迎えるためにヨーロッパ諸国などに負けない美しく、趣
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のある、快適な観光地に変身させる必要がある。
日本国民が一丸となって日本にやってくる全ての旅人にホスピタリティーを発揮するなら、
観光立国宣言を実現するのは決して夢では終わらないと確信する。日本の魅力作りとはこう
いうことを言うのではないだろうか。
2-6
ハード、ソフトを上回るヒューマンウエアの力
日本の観光産業は、ハード、ソフトの充実だけに頼るのでなく、ヒューマンウエア(人の力
=ホスピタリティー)、つまり人の発揮するホスピタリティーによってより高品位な観光地の
水準に引き上げることが可能である。また、そうすることが激しい競争下にある世界観光市
場で日本が生き残れる手段であると考えよい。
第3章
日本の観光をダメにしているものは
3-1
景観壊しているのは人間
丸の内に高層ビル、昔ながらの趣のあるクラッシクな建物は殆んど姿を消した。鎌倉は古都
だが観光の窓口駅前にはスーパーや銀行と生活観が一杯、観光客は非日常を全く感じさせな
い。京都駅は外国人観光客から見て東京駅と変わらない、ハードは立派だが趣はゼロ。高い
ビルから下を見下ろすと低い建物の屋上に空調機器や機械設備が一杯、とても東京を美しい
町とは思えない。町を歩いていると蜘蛛の巣のような電線が空を覆っている、パリやロンド
ン、ニューヨークの町では絶対に見かけない風景。小高い丘に上がって住宅街を見渡すとま
ったく統一のとれていない、家のデザインや屋根の色、本当に日本は世界第 2 位の経済大国
なのだろうか。
・・・
3-2観光開発と環境問題
日本の景色と外国の景色の違いはここだ!
(1)開発と自然環境保護は紙一重
日本の多くの住宅は隣近所と何の関わりもなく勝手気ままに建てられている。無論屋根の
色や素材、家のデザインなど全く統一されてない。住宅地を立てると判っているのに道路
や電柱などインフラ部分も最初から整備しようとしない。家のデザイン自体何ら制限がな
い住宅地は、当然ながら街全体に美しさを欠き、自らその価値を損なっている。坪いくら
かで買ったせっかくの土地もその価値はただ単にその広さと駅からの距離だけのもので、
周辺環境による価値の上昇は全くないのが日本の住宅地なのである。こうしたバラバラな
家々の光景は見るものに残念ながら何の感動も呼ばない。
人間が自然を開発し人工的に何かを作るときは、個々が自由に何かを作るのでなく、自然
を可能な限り生かし環境全体のバランスを考え、自然の美観を少しでもカバーする配慮が
必要である。環境全体の秩序と統一観はそうした点からも自然環境に溶け込む要素を持つ
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大切な手法である。パリやローマ、ロンドンの古い市街地を我々日本人はもっと学ぶべき
である。また、ニューヨークなどの近代都市でも統一された秩序により街の美観はきちん
と確保されている。特に住宅街で電柱など見かけたことも無い。
(2)放置しても開発しても自然は破壊される
自然環境は意識的に大切にしないと、放置しておくだけで破壊される恐れが多い。理由は
人間のモノ作りにより発生する公害やその用地確保のための開発活動のためだ。開発のリ
アクションを最小限に止める開発こそが、自然開発の絶対条件といえよう。日本は海に囲
まれた美しい国である。しかし、陸地と海の境界線での埋め立てや護岸工事は余りにも美
的感覚がなさ過ぎる。日本の海岸線にはやたらテトラポットが積まれ海好きな人々の心を
痛めている。あれを見て海の美しさに感動する人は誰もいない。写真愛好家はテトラポッ
トをフレームからはずすのに苦労する。日本の宝であるあの美しい海岸線の景観を損なう
埋め立てや護岸工事は一体誰が許可しているのだろうか。日本にはセンスのある都市開発
の専門家や行政担当者は一人もいないのだろうか。
(3)これからの観光開発とは
現在の建築関係者、都市開発関係者、国や地方行政の建築や都市開
発関係者は本気で美しい日本作りにとり取り組んでもらいたい。美的センスの良いデザイ
ナーを集結させ、今の日本全体のバランスを考え、良いところを残し、問題のあることを
手直し、100 年かかっても良いから後世に残す美しい日本作りをしてもらいたい。
これからの観光開発は、新しいタイプの環境デザイナーによる魅力ある観光開発を考えな
いと、従来から残っている世界に誇る日本の美景もやがては喪失してしまう。
観光開発は地域全体のことを考慮し、個々の利権者の身勝手な主張に左右されていては成
功しない。全体のことをまったく考えない私利私欲に左右された観光開発は今後絶対に避
けるべきである。
かつての台湾総督府民政長官、満鉄初代総裁、逓信大臣、内務大臣、外務大臣、東京市(現・
東京都)第 7 代市長で都市づくりでは日本で一番優れた見識を持っていた後藤新平氏のよ
うな人が今必要なのである。後藤新平は、関東大震災のあと東京が壊滅状態にあったあと、
東京をそのまま復興させてはならない、先ず道路を整備しその後建物を建てなくてはなら
ないと、新しい都市づくりを基盤とした東京計画を実施しようとした。後藤新平は東京を
世界に通じる近代都市にするという狙いと江戸の人と東京の人とが異文化として対立する
状態であったのを、新しい時代の新しい東京の文化を創造することで解決しようと考えて
いた。だが、残念ながら利権に走る人々の反対にあい成功しなかった。この時の多くの利
権者の不見識は現在の殺人的な交通渋滞を引き起こしている東京に大きなつけとして残っ
た。
観光開発はこうした後藤新平のような発想で行わないと、後世に自信ある観光地を残すこ
とは不可能である。
9
第4章 ホスピタリティーとサービス
4-1サービスとは
私たちのサービスに対する捉え方は・・・
・ 買い手側からは“割引価格もしくは無料で提供される商品”
・ 売り手側からは“商品を上手に販売するための知識や技術”
などとイメージしている人もいる。
あるいは、別の切り口から・・・
・ 販売行為の“迅速さ”“丁寧さ”
“親切さ”
・ 販売後の“保証”や“メンテナンス”
などをイメージする人もいる。
いずれのサービスの捉え方も間違ってはいがかなり解釈がばらついているのは確かである。
そこで少しサービスについて整理してみると・・・・・
私たちが店で商品を買うとき数がいくつかまとまると「サービスして」と言う言葉を使うこ
とがある。これを「一つおまけして」という意味と同意語で使ったなら、この場合のサービ
スは「無料で商品を提供して欲しい」と言っていることである。このように日本語のサービ
スという言葉は金銭授受を伴わない行為を指している場合が多い。
サービス(service)という英語の語源はラテン語の servus で奴隷または召使という意味が
ある。英語の slave (奴隷)も同じ語源。したがって、サービスとは本来は召使が主人に(当
然無料で)奉仕するということであったので、日本語のサービスの意味は語源に近いと言う
わけになる。
サービスをイメージで分類した場合
接遇に関わるサービス
業務の専門性や処理能力
に関わるサービス
金銭的なサービス
消費者から見た商品提供側の印象。提供者の言動や態度な
ど。
消費者に安心感を与える豊富な専門知識と有効な情報提
供。
提供側の迅速な対応、丁寧な処置など。
価格の割引、商品の無償提供(おまけ)など。
4-2サービスの語源とサービスの移り変わり
サービスの語源は、前述にあるようにラテン語の servus(召使、奴隷)。これが派生して
service となった。他にも派生語で serve(使える)、servant(召使)などがある。サービスと
いう言葉は主人に対し従者が一方的に奉仕するという意味を持つが、現代では一方的な奉仕
ではなく、顧客とサービス提供者は対等で、両者の等価価値交換の条件が揃ってサービスが
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成り立つと見るようになった。さらに 21 世紀に入りサービスは産業の総称として使われ、こ
の分野の産業に従事する人口比率が高いほど文明国といわれるまで進化してきた。
サービスという言葉の使われ方の変化
儀式・礼拝・祭式など、人が神に 古代ではサービスは奴隷が人に仕えるという意味を持って
いた。やがてヨーロッパでは宗教上の言葉としても使うように
仕えることにサービスという言葉 もなり、例えばチャペルサービスは、礼拝を執り行うこと、つまり、
人が神に仕えることを意味した。
が使われた
ヨーロッパを統一していたカール大帝が没した(814 年)後、それ
ぞれのゲルマン民族は、自分たちの国家をもつようになった。
義務・公務・軍務など、人が国な 北のゲルマンはドイツ、西はフランス、そして、南はイタリアとなった。
どに仕えことにサービスという言 ヨーロッパにはナショナリズムが台頭し、国家が重要な意味を持
つ時代になった。それにともない、"Service"の意味も変化
葉が使われた
し、兵役や軍務に就くこと、つまり、人が国家に仕えるという
意味に使われるように変化した。
1760 年にイギリスで始まった産業革命は 19 世紀になるとヨ
モノに対して、人が人に提供する ーロッパ大陸やアメリカにも浸透した。その結果経済活動が
行為としてサービスという言葉が 極めて盛んとなり、ホテルなどを含むサービス業も急速に発展
していった。サービスという言葉もこの時代に入る人が人に
使われるようになった
提供する行為とさらに変化していく。
サービスは無料で提供されるものというイメージから有料で
サービス経済社会では産業単位の あるとの概念が浸透してきた。また、現代では、サービス産
言葉として使われるようになった 業従事者の人口割合が高いほど文明国家であるとのバロメ
ーターに使われるようにもなった。
4-3モノ生産社会でのサービス
アメリカはかつて農業社会から産業革命を経て、世界最大且つ最強の工業経済国家を確立し
た。そのアメリカはやがて高度大衆消費社会へと移行し、モノ生産から形のないサービスが
経済の主導的地位を占めるサービス経済社会へと移行していった。
こうした社会の変遷のなかで農業は滅んだのではなく、むしろ工業化が農業の生産性を飛躍
的に高める役を果たした。同様に、サービス社会になっても工業生産が駄目になったのでは
なく、むしろサービス経済への移行に伴って工業生産の効率が上がり付加価値が大幅に改善
されていったのである。
4-4サービス経済社会でのサービス
サービス経済社会は当初の脱工業化社会から、やがて情報化社会と呼ばれるようになった。
新しくやって来た情報化社会は、モノを生産する産業より、情報を含むサービスを提供する
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産業が経済社会を支配するようになった。
サービス経済社会では、サービスは形あるモノである商品と同格あるいはそれ以上の地位で
考えられるようになった。
サービスは形はないが対価の対象であり、経済価値のあるもの。サービスは商品に付属し
ている従の存在ではない
と捉えられるようになったのだ。
人間が手に入れる価値は、それを獲得するために対価を支払う。その価値で形のあるものを
商品と呼び、形のないものをサービスと呼び、区別するようになった。
つまり、サービスは商品ではなく形のない対価の対象となるものなので、人が提供する知識
や技術、労働等の行為を指すということになる。だが、今日の世界ではサービスは対価の対
象となる無形のものではあるが、有形の商品と同等のもの、つまりサービスも商品であると
いうように変化してきた。
サービス
=
モノ(有形・無形)
=商品
4-5サービスの原点はホスピタリティー
人が人に何かをしてあげる場合「やってやる」より「やらせてもらう」の方が、やってもら
う立場の人から見れば「ありがたい」という気持ちになる。人が人にサービスを提供する場
合も同様で、
「やってやる」といった気持ちでサービスを提供しても、提供された側は「喜び」
や「満足感」を感じない。
その昔奴隷が強制され主人に仕えたサービス、人が奉仕の気持ちで神に仕えたサービス、軍
人が国に仕えたサービスと、今日私たちの行っているサービスとは全く異質なものである。
私たちは人に強要されサービスを行っているのではない。無論、義務感やボランティア精神
からでもない。私たちが仕事として行っているサービスは価値あるモノを商品として相手に
提供しているのである。そして、提供した結果相手が「喜び」や「満足」を感じてもらうこ
とを目的としているのである。
したがって、サービスの提供には必ず「相手の心や気持ち」が関係してくるのである。この
「相手の心や気持ち」を考える行為を「ホスピタリティーという。サービスにはこのホスピ
タリティーが伴っていないと価値あるサービスとは言わない。
サービス =モノ(有形・無形)
+ 付加価値(ホスピタリティー) = 商品
という公式があるが、サービスとしていかなるモノを提供する場合でもそこにホスピタリテ
ィーが付加価値としてついていなければサービスは勝ちある商品とは言わない。したがって、
ホスピタリティーはサービスの原点であるといわれている。
4-6
ホスピタリティーとは
では一体ホスピタリティーとは何か?
ホスピタリティーとは、人の「心や気持ち」を大切にすることにより相手を喜ばせ満足させ
ることである。
12
人の「心や気持ち」を大切にする・・・ということは必ずしも人の「心や気持ち」を考え何
かを実行することだけを言うのではない。自分の心の中で人の「心や気持ち」考えてあげる、
何も行動しない場合もある。たとえば、ホテルのロビーに老人杖をついて入ってきた。それ
を見たベルボーイが心の中で「もしあのご老人がつまずいて倒れそうになったダッシュして
駆け寄り助けてあげよう」と老人を見守っていたころ、老人には何も起こらず無事通り過ぎ
て行った。
このケースの場合、ベルボーイは一般的にご老人は「人の世話にはなりたくない。自分一人
で歩け人に迷惑をかけないので外出している。余計な手助けはされたくない」と思っている
ので、何かない限り手を出さないで見守っていた。このベルボーイの行為は誰にも気が付か
れない、いわば目に見えないホスピタリティーで具体的に何かを実行したわけではない。し
かし、ホスピタリティーなのである。
このようにホスピタリティーは人の目に見えるモノ見えないモノがある。
4-7ホスピタリティーの語源
ホスピタリティー(もてなし)の語源は、ラテン語の hospes(異国の友、旅行者)です。これ
を語源としている言葉には hotel(ホテル)、hospital(病院)、hospitality(もてなし・歓迎)、
hospis(安らぎ・癒し)などがあります。これらの語源が同じだということはみな共通に「困
っている人を助ける」という意味を含んでいる点です。
古代ローマ時代(380年ごろ)に富裕な貴族でファビオラという人物がいました。彼は敬虔
なキリスト教徒でもありました。ファビオラは長旅で疲れた巡礼者たちを見るに見かねて食
物や宿泊を提供してあげました。また、ファビオラは病人や怪我人のために手当ての出来る
憩いの家を造ってあげたのです。ファビオラのこうした行為がきっかけとなり、以来古代ロ
ーマの社会では外国の友を自宅で手厚くもてなす習慣が出来たといわれています。
やがて、その友のことを hospes と呼ぶようになりました。この時代ヨーロッパでは遠くから
やって来る旅人は皆客人で、貴重な存在として扱いました。したがって、主・客は対等に扱
わ れ た の です 。 その 関 係を 表 す 言葉 と して 現代 で も 使 って い る英 語 の host( 主 人) と
guest(客)という言葉の原型が古代ローマ時代に一緒となりラテン語の hospes と言う言葉と
なったといわれています。
○ やがて hospes(異国の友、旅行者) というラテン語から hospitalis(手厚いもてな
し)と言う言葉が生まれ、これが現在の英語の hospitality(もてなし・歓迎)と言う言葉に
なったというわけです。
○ 他にも hospes から生まれた言葉で、hospitale(宿を与える、暖かく迎える)という言葉が
ありますが、これから hostel という言葉が生まれ、さらに現在の英語の hotel(ホテル)
という言葉が生まれたのです。
○ さらに hospes(異国の友、旅行者)が語源となって hospitale(宿を与える、暖かく迎え
る)となり hospitali となり、これが現在の英語の hospital となりました。
○ さらに hospes(異国の友、旅行者)が語源となって hospitium(客を厚遇する、接待、宿
舎)となり、これが現在の英語の hospis(安らぎ・癒し)と言う言葉が生まれました。
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Hospitalis
hospitality
(手厚いもてなし)
(もてなし・歓迎)
Hospes
Hospitale
(異国の友、旅行者)
(宿を与える、暖かく迎える)
第5章
hostel
hospitali
Hotel
(ホテル)
Hospital
(病院)
Hospitium
Hospis
(客を厚遇する、接待、宿舎)
(安らぎ・癒し)
観光産業におけるホスピタリティー
5-1昔の旅は命がけ
観光と旅とは深いつながりがある。昔の人は旅をするには命がけで、雨や風などの天候、荒
れた海や険しい山などの自然、旅人に危害を加える動物や人間、或いは旅人自らかかる病気
や怪我など危険が一杯であった。昔の旅人にとって災難を避けるのは容易なことではなかっ
た。英語の travel の語源は trouble であることからも旅の危険性は察しがつく。
5-2旅と観光の歴史
●民族の移動・・・ゲルマン民族の大移動
●生活のための旅・・・遊牧民
狩猟民族
●戦争のための旅・・・・十字軍
●宗教のための旅・・・・メッカへの巡礼
●政治的な理由からの旅・・・参勤交代
●人と人との交流のための旅・・・故郷への帰省
●商売のための旅・・・行商
●勉強、研究目的の旅・・・・長崎のオランダ塾
●冒険や探検の旅・・・・大航海時代
5-3ホスピタリティーは観光産業の原点である。
観光産業でハード(自然、環境、観光施設)やソフト(誘導システム、オペレーション、情
報)ばかりを大切するなら製造業と大して変わらなくなります。今や例え製造業であっても
人の気持ちや心を踏みねじるような行為があったなら容赦なく社会から抹殺される時代です。
ましてやサービス産業であるなら、何よりも人を大切にし、その人の「心や気持ち」を大切
にしなければなりません。「心や気持ち」はどちらかと言えば人の感情に属します。感情を
仕事に取り入れることは、ビジネスライクでないと教育されてきた人々にとっては違和感を
覚えるかもしれません。また、サービス産業という産業分類群のサービスは、私たちが日常
受けているスーパーやレストランあるいはホテルなどのサービスとは異質のものだと考えて
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いる人もいるかもしれません。そうした人たちにも是非本書を読んでいただき、私たちの周
辺に存在するきわめて日常的なサービスから、企業や国が行うサービス、国際間でのサービ
ス、高級ホテルなどで提供される高品位なサービスまで、世の中のありとあらゆるシーンで
見かけるサービスはみな同じ土俵に立っていることをご理解いただきたいのです。そしてそ
の原点がホスピタリティーであることを。日本の人口の約70%の皆様がサービス産業に属
されています。そうした皆さん全員に本書をお読みいただき、ご自身の身辺で起こるさまざ
まなシーンでホスピタリティーを発揮いただければと心から願っております。
<参
考>
1、観光の語源
● 地域の優れたものを観る、或いは観せること = 観国之光 が観光の語源
● 2000年前の中国儒教の古典である「四書五経」と言う書の中の「易経」に
「観国之光利用賓于王」と書かれていた。
その地域の優れたものを人々に観せ、又、観る事によって人々と交流を図ることが、
王(地域の為政者)の大切な務めであると教えている。
国 = 地域
光 = 優れたもの、特色を意味する
2、観光の定義
● 「人が時間を見つけ、日常を離れて行う活動で、地域を訪れ人同士が触れ合ったり、景
色や食を楽しんだり、ゆっくり身体を休めたり、スポーツなどを楽しむ時間を過ごすこ
とを目的とするもの」
3、観光地発祥の例
(例 1)瀬戸内海の美しさは外国人を驚嘆させた。そして日本人が観光を始めた・・・
● 四国の南側高知沖は大変危険な海域、潮の流れが速く一歩操船を誤ると近海沿岸用に造
られた和船はたちまち八丈島方面に流された。
・・・・ジョン万次郎
● 外国人が大阪や江戸にやってくるときも四国の南側は通らずに瀬戸内海を航行した。
● こうした外国人たちは瀬戸内海の美しさに驚嘆し、様々な書物にも残している。
● 日本と言う国はまるで神秘に包まれ、船から見える瀬戸内海の島々や陸地は全てが美し
く静かで幻想的だ。と彼らの日本に対する印象を強く焼き付けさせた。
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(例 2)4-11 日本人と欧米人とでは休暇の過ごし方がだいぶ違う。欧米人は休暇を過ごすた
めに一生懸命働き比較的長く休暇を取る。休暇の過ごし方も動き回るのではなく目的地
に留まりじっくりと滞在する。一方、日本人はついつい働きすぎて休暇をとりそこなう。
やっと取れた休暇もせわしく動き回り一箇所には留まらない。ついでにあそこもここも
と動き回る。一回の休暇の機関も短い。
◆周遊型の日本人と滞在型の外国人
余暇の過ごし方を欧米人と日本人を比較すると、欧米人は滞在型で、日本人は周型という
ことになる。いわゆる日本人は休暇を旅行に使ってしまうが、欧米人は余暇をゆっくり過
ごそうとし、身体を休めたりスポーツを楽しんだりして過ごす違いがある。これはどっち
が多々しいというものではないが、まだ日本人は人生をゆっくり過ごす余裕にかけている
のかもしれない。或いはせわしく動き回るのが国民的な気質なのかもしれない。
したがって、旅行商品を作る場合、外国人向けの商品と日本人向けの商品はおのずから違
ってくる。
先般ニースに仕事で行ってきたが、カナダから来た観光客が私に「何日滞在するのか」と
聞くので「1泊だ」と応えたらびっくり仰天していた。彼らは 10 日間滞在するが次回は 1
ヶ月の予定で来るつもりだと、私の顔を不思議そうに眺めていた。
◆観光地と地域の活性化を考えるヒント
観光地は人が沢山集まり、そこに経済効果が新たに発生しなければ意味が無い。その経済
効果はそこにやってくる人々のために行うさまざまな経済行為から生まれる。基本的には
顧客満足度を高める行為を行うことが一番大切なことである。観光地にやってくる人たち
が満足しない行為をサプライ側の都合で一方的に行っても観光事業の場合中々経済効果を
生むことはない。需要と供給のバランスで供給不足であるなら別問題であろうが、元来観
光事業は米や醤油と違って人間性生活に無くとも日常生活に支障を来たさない。顧客満足
を考えない行為をし続けるなら相当素晴らしい観光資源(景観、温泉、自然現象、施設な
ど)を有していても人々の足は遠のきやがてその地は観光地としては没落してしまう運命
になる。
したがって、観光地を地域として活性化するには、その地域の人々が全員でバランスの良
い観光地作りと、人的サービスの向上を図っていかなければならない。提供するサービス
の内容は顧客のニーズを的確にとられなおかつホスピタリティーを発揮するものでなくて
はならない。
また、観光地も市場経済社会にあっては競争がある。これに打ち勝つためには戦略的なマ
ーケティングプランを立てる必要がある。マーケティングについてはすでに学んだとおり、
6 つの要素を切れ目無く繰り返し行うことである。
◆テーマパークについて
「あなたもテーマパークをやってみたいですか?」
ハウステンボスは素晴らしい思想に基づいて作られた「17 世紀のヨーロッパを模して作
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った未来都市です」なぜ、17 世紀の町が未来都市なのかというと、町並みは 17 世紀の町
並みがデザインされているが、その中身は近未来都市で科学の粋を集めた自然環境に優し
い未来に残したい町なのです。具体的に言うなら、長崎は渇水になります、しかしハウス
テンボスでは海水を淡水に換える装置融資、市民の水には手をつけずにパークを運営する
ことが出来ます。またその水も、使った後浄水し中水として 1/3をトイレに再利用、1/
3を植栽の散水用に、残りの1/3は地中にしみこませろ過させた水を石で護岸を作って
ある運河や海に流します。その水の汚染度は17ppmと大村湾の海水よりきれいな水な
ので海をどんどんきれいにするしか明けになっています。このようにエネルギー、出てき
たごみなど全て公害にならない仕掛けが科学の粋を生かし行われ、しかもそうしたインフ
ラは地下の共同溝に埋蔵されているため街の景観を損なうことは無いのです。街自体も本
物のレンガなどの材料と実物どおりに作ってあるので何年先になって陳腐化することが
無いのです。
創立者は 1000 年先まで時を刻む街ハウステンボスといっております。
こんなに素敵な夢と未来を先取りしたハウステンボスですが、残念ながら経済効果として
予定通りの収益(ホテルのみ黒字でしたが)を上げることは出来ませんでした。
その原因は色々考えられるのですが、私はヒューマンウエア(人)にあったとも言えます。
モノとしてのハードは文句のつけようがないほど立派なものでした。しかし人の部分では
まだまだ付加価値をつけることが必要でした。その上にマーケティングに失敗したと思い
ます。6 つの要素が常にサークルのように回らなくなってしまいました。また、オペレー
ションの改善を積極的に行わなかったのも大きな原因でした。
さて、「あなたならどんなテーマパークをやってみたいですか?」
4、観光地をどうするかは国民と行政双方にとっての重要課題と認識すべし。
5、利権ではなく人の心と身体を癒す観光政策と行政のあり方
●熱海の人気地盤沈下に見る反省
かつて熱海は新婚旅行のメッカ、社内旅行の人気ナンバーワン東京の奥座敷として日本
中の同業者から羨ましがられた超特級の観光地であった。64 年の東京オリンピックで新
幹線が開通してから東京からあまりにも至近距離ということで変化が出始めたものの、
団体客の人気は相変わらずだった。しかし、その後徐々に客足が遠のきバブル崩壊後は
次々とホテルや旅館が姿を消し、ついには熱海の一等地といわれたお宮の松の前に立ち
並ぶ老舗旅館群もその姿を消してしまった。無論原因は新幹線や景気のせいだという人
がいるが、それだけではない。実は社内旅行に参加している女性社員の「心や気持ち」
を察しなかった結果おきた地盤沈下ではないかと思われる。彼女たちは、同じ社員であ
りながら宴会でお酌をさせられたり、歌を強要される旅行は真っ平、社内旅行は自分た
ちでも積み立てているのだから好きなところに行きたい、と熱海旅行を拒否。それ以来
少人数でそれぞれ好きな場所に旅行するケースが増えたといわれている。
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●北海道観光の矛盾
北海道は日本にあって日本でないような雄大な自然環境と文化を有する素晴らしい観光
地であり国内のみならず海外から多くの観光客を誘致しようと官民とも躍起になってい
る。ところが、かつて北海道をドライブして驚いた光景を目にした。いくつかのドライブ
インに「トイレだけの使用お断り」と大きな看板が出ているのである。ドライブインにと
ってトイレ休憩だけで施設を使われるのは歓迎しないのはわかるが、人間の生理的現象
「お断り」といわれると目にした人たちの「心や気持ち」はそのドライブイン姿勢に冷た
さを感じ「いってやるものか」と拒否現象が起きてくる。
人々は今まで水や空気は普通に存在していて当たり前と考えていたが、実はこの水や空気
を含む自然を守ることこそ人々の生活を守ることだと気付いたのだ。モノを作るためには
何をやってもよかった時代は終わり自然環境保護なくしてはモノが作れなくなってきたの
である。こうした発想の中から観光についても見直されるきっかけが生まれてきたのであ
る。
●そうした動きのひとつが世界遺産の指定運動である。
社団法人日本ユネスコ協会連盟ホームページ参照されたし
6、ホスピタリティー産業時代
人類の生活様式は歴史とともに変化してきた。時代の移り変わりと共に人々の生活を支え
る産業も大きく変化し、最初はモノを直接採取したり収穫する第一次産業からやがて道具
や機械を使ってモノを製造・加工する第二次産業、そして、サービスを提供する第三次産
業へと。サービス産業時代を迎えた現代に、人が人にサービスを提供する上で重要なもの
は、人、モノ、金、情報などといわれてきたが、現在ではそれだけでは不十分で、これに
ホスピタリティーが加えられる。
観光産業においてのホスピタリティーは、市場経済下では売り手側はこれを発揮し、買い
手側はこれを商品価値と合わせて評価します。
売上げを上る方法には「単価を低く抑え数量を多く売る(量販店方式)方法と、差別化さ
れた商品少量を高単価で売る(ブランド商品販売方式)方法の2種類ある」といわれてい
ます。私は、自社の売上げを上げには「単価を低く抑え数量を売るにしても、差別化され
た商品少量を高単価で売るにしても、消費者が自社商品を選んでくれるためには商品その
ものの価値
+ ホスピタリティーの評価が必要」と考えております。
<悪い例>
●北海道の観光
① 北海道は全道上げて観光に力を入れている。そして、雄大な夢のような自然を売り物に
している
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② しかし、北海道について長い道路を延々と走った後、ドライブインに寄ろうとする
と・・・・・「トイレだけのご利用はご遠慮下さい」
③ これを見て、観光客は自分たちは歓迎されてないと「不快な気分になる」
④ ことを、行政も観光業者も全く気づいていない。
⑤ 付加価値など全く無視している。これは「旅行者に来てもらいたくない」と同じだとい
うことに気づいていない。
⑥ 「日本人は 1 億 2 千万人いる。一度来てくれればよい」と本気で思っている旅館の経営
者がいたが、北海道もそうなのか?
⑦ 北海道の農家の人たちの農閑期の過ごし方をしっていますか?
「みな男の人はパチン
コ屋で 1 日過ごします」と言った人がいます。理由は、北海道の農民や漁師は助成金を
もらっているので農閑期は働かないで良いというのです。本当でしょうか?
今度調
べてみます。つまり、観光業者もなにやら助成金でももらっているのでお客様を迎えた
くないのでしょうかね?・・・そうではないと思うのですが。
6、観光産業が他産業と同格の地位を得るためには、産業全体の構造と個々の事業が
綿密につながっている必要がある。丁度脳細胞が神経で繋がっているよう
に・・・・・・
●観光産業は、交通・宿泊・旅行などの種類が多い
○ 鉄道、バス、自動車、航空、船舶業界・・・観光をルートをつなぐ機関
○ ホテル、レストラン、テーマパーク(TDL など)、レジャーランド(スパ・リゾート・
ハワイなど)、保養地、温泉旅館、名所旧跡、観光地各種店舗、駐車場、ショッピン
グエリア(ショッピングモール、デパートなど)
、商業ビル(六本木ヒルズなど)ビ
ジネスエリア、公園、劇場、水族館、映画館、海水浴場、自然環境、繁華街、土産
店、
・・・・
観光地およびその場所での事業者、または、観光客が集まる地域
○ 旅行会社、旅行保険会社、旅行カバン業、旅行ガイド、レンターカー、貸し自転車、
人力車、芸者、・・・・・その他旅行関連業者、
○:政府観光局、公営観光案内所、各国大使館、各行政観光課、大学観光学科、学部、
ホテル専門学校、観光専門学校 ・・・・・・観光関連協力支援教育団体、
●相乗効果が集客力につながる
これからの観光産業は個々の施設や機関が連携をとっていないと発展しない。単独行動
では長生きしない。
○ 点から線へ
例:空港と鉄道、港と鉄道、バスの連動・・・成田は鉄道もある
が駅まで結構歩き大変。東京駅以外の人にとっては時間が全然だめ
○ エリアと個のつながり
ケアンズでは蒸気機関車で市街地とキュランダを完全
に連動させている。
○ エリア(a)とエリア(b)のつながり フロリダのディズニーワールドではバス・モノレ
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ールで各テーマパークを完全に連動させている。
○ エリア(a)と個とエリア(b)
例:サンフランシスコでは市街地と観光名所とフィシ
ャーマンズワーフをケーブルカーで完全連動させている(途中乗り降りが自由)、例:
パリやロンドンも市街地エリアから美術館やオペラハウスなどの名所をバスで完全
に連動させている。
○ 外国人が成田についてホテルまで来るのは費用も時間も大変です。鉄道を利用するに
はよほどなれてないと駅でトラブルを起こします。東京を外国人がタクシー以外で移
動するのも厄介です。地下鉄の切符を買うのに先ず一苦労します。
以上
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