全体 - 物理学科

会場
G
特別講演
宇宙誕生のシナリオ、インフレーション理論
ー観測的実証への期待ー
佐藤
勝彦
日本学術振興会学術システム研究センター
「宇宙は誕生直後、急激な加速膨張をお越し、この加速膨張が終わるころ急激な加熱が起
こり宇宙は火の玉宇宙になった。さらに、この急激な膨張の過程で量子揺らぎから密度の
揺らぎ生まれ、これが火の玉宇宙が冷却する過程で、星、銀河や銀河団など宇宙の構造に
成長し現在の宇宙が実現した。」これは今日、宇宙初期のパラダイムとなっているインフ
レーション理論である。アメリカの NASA の打ち上げた宇宙背景放射観測衛星 COBE は、
1992 年、宇宙開闢から 38 万年ころの宇宙を観測し、インフレーション理論の予言どおり
の密度揺らぎを発見した。加えて COBE 衛星の後継機 WMAP 衛星(2003 年)や欧州宇宙研究
機構の Planck 衛星(2013 年)はさらに細かく観測を行い、さらに精度よくインフレーショ
ン理論の予言どおりであることを示した。インフレーション理論はこれらの観測によって
大きく裏付けられたが、インフレーションの瞬間を直接観測したわけではない。
いま、世界でインフレーションの時代に放出された重力波を捕らえ、インフレーション
の現場を直接観測しようという計画が立てられている。重力波はアインシュタインの一般
相対論が予言する波で時空の歪が光速で伝播するものである。インフレーション起源の重
力波は原始重力波と呼ばれているが、密度揺らぎが量子揺らぎから生まれたのと同様に時
空の量子揺らぎから生まれたものである。
昨年の 9 月、
米国の LIGO チームはブラックホール連星が合体する瞬間に放出される
重力波を捕らえ、100 年来のアインシュタインの宿題とも言われる「重力波の直接検出」
に初めて成功した。しかし、火の玉宇宙始まりの瞬間、インフレーションから放出される
重力波は波長が長く地上に設置した LIGO などでは観測できない。いま、米国宇宙航空局
(NASA)の協力のもとに欧州宇宙研究機構(ESA)で 3 つの人工衛星でレーザーをやり取
りすることによってこれを捕らえようとする LISA (Laser Interferometer Space Antenna)計
画が進行中である。昨年 12 月、その計画の技術開発を進め計画の道筋を建てるため LISA
パスファインダーがうちあげられた。計画は順調に進んでいると思われるがきわめて高度
な技術開発が必要であり、実際の観測が可能となるのは 2030 年代である。
いま直接観測ではなく、宇宙開闢から 38 万年頃の宇宙の姿を描き出している宇宙背景
放射の偏光観測をさらに精密に観測し、インフレーションから放出された重力波の痕跡、
B モードを見つけようとする計画が進んでいる。日本の研究者も主要メンバーとして参加
する POLARBEAR 計画をはじめ、世界中でいくつもの計画が進行している。さらに人工衛
星による偏光観測、 LiteBIRD も計画されている。順調に計画が進めば 10 年内に痕跡が見
つかり、インフレーション理論の検証が行われるかもしれない。
会場 A
領域 1, 5, 6
A-3
バネの振動とクラマースクローニッヒ関係式
佐賀大学工学系研究科物理科学専攻 A
原大晃A , 古賀圭樹 A , 遠藤隆 A
我々は、バネ振動子のような古典的な系で、緩慢変動包絡
変換し、高速振動部分 exp i(ωt + ϕ) を絶対値を取ることで
線近似を用いて量子力学の現象をシミュレーションする実験
消去し、包絡線のみを求めたものである。信号のひずみのた
を行ってきた。前回は、連成振動がラビ振動と等価であり、
め、振動成分が残っているが、概ね包絡線が得られている。
スピノール性を示すことを実証した。今回は、バネ振動子が
図2
バネの減衰振動の測定例 変位の時間変化
因果律を満たすことから、クラマース・クローニッヒの関係
が成り立つと考え、実際に減衰振動を測定し、図1のように
ヒルベルト変換により、実数で記述される変位の時間変化信
号 A(t) cos(ωt + ϕ) を解析関数 A(t) exp i(ωt + ϕ) に変換し、
f  t   A  t  cos  t   
包絡線 A(t) を抽出し、その時間変化を求めた。図2は、バ
図 3 バネの減衰振動の測定例 ヒルベルト変換による振幅の抽出
ネにつけた錘の単振動を FSR(Force Sensing Resistor)を
用いて抵抗変化に変換し、測定した結果である。錘に磁石
を付け、銅板を接近させることで、誘導電流による強い制動
を与えている。図3は、ヒルベルト変換によって解析信号に
  t   A  t  ei t  i   A  t 
2
A-4
水素分子の2電子励起状態の計算
宮崎大学 A
細見昌弘A , 五十嵐明則 A , 大崎明彦 A
H2 の二重励起状態(共鳴状態)は単一光子吸収、多光子吸
−
収や e +H2
+
の主成分が [2sσg ,npσu ] から [ndσ,npσu ]への移行が起こり擬
散乱, H + H 衝突散乱などの中間状態として
交差が起きたり、
nef f に変化が起こる。
重要な役割を果たす。H2 の二重励起状態は連続状態に埋もれ
[1] J. Fernandez and F. Martin,J. Phys. B 34,4141 (2001).
た擬束縛(共鳴)状態で、一定の寿命で電子と水素分子イオ
ンに壊れる。最も基本的な分子である H2 では、H+
2 の第一励
起状態 2pσu のエネルギーに収束する Q1 系列のポテンシャ
ル曲線については多くの理論計算が行われてきたが、より高
い H+
2 の励起状態のエネルギーに収束する系列の計算の報告
は少ない。今回、H+
2 の第三及び、第四励起状態に収束にする
Q3 ,Q4 共鳴状態のエネルギー、幅、分岐比を緊密結合法で計
算し、先行研究の結果と比較する。例として、図 1 に Q3 系列
1
Σ+
u の電子エネルギーの結果を示す。二乗可積分型緊密結合
法による Fernandez 等 [1] の結果と比較すると、エネルギー
が低い所では、概ねよい一致をしているが、エネルギーが高
くなるにつれて違いが出てくる。また R=3付近で共鳴状態
A-5
イオン衝突による水素分子の電離微分断面積
宮崎大学工学部 A
田上智基A , 五十嵐明則 A , 大崎明彦 A
分子標的は複数の原子の集合体と大雑把に見なすことがで
る。図1は入射エネルギー6MeV/u における C6+ +H2 衝突
きるので、各原子が散乱波の波源となって、運動量移行などに
の電子の放出方向を 30°と 150°に固定し、電子の放出エネ
依存した干渉効果を示す。イオン衝突における干渉効果は水
ルギーの関数として描いた2重微分断面積である。電子のエ
素分子(H2 )を標的とした衝突実験で実際に確認されている。
ネルギーを下げていくと、CE2 の値は、CE1 や CE-Misra よ
ここで水素分子の2つの陽子はヤングの二重スリットの実験
りもやや小さく、Misra[1] ら実験値により近い。
のスリットと良く似た役割をする。H2 は二つの水素原子か
[1] D. Misra et al., J. Phys.
10
6MeV/u C 6++H2
面積計算は水素原子の計算よりはるかに難しくなる。そのた
10 -18
10 -18
d /dkdk (cm /eV sr)
d /dkdk (cm /eV sr)
10
-19
め、有効二中心 (TEC)
CDW-EIS(Continuum
10近似を使った
2
2
distorted wave Eikonal
10 initial state)近似がよく使われてき
10
-21
た。TEC 近似では H210の電子軌道を2つの水素様原子の重
10
CE1
ね合わせと見なし、電離される電子はそれぞれの水素様原子
CE2
2
2
CE-Misra[1]
10 -23
から飛び出す波の重ね合わせとして表す。しかし、放出され
Misra-EXP[1]
つの陽子からの相互作用を同時に扱った方がよい。本研究で
1
10
100
E (eV)
は様々なイオンによるイオンと H2 の衝突の電離微分断面積
10
-19
10 -20
10 -21
-22
160°
×0.1
CE1
CE2
CE-Misra[2]
×0.1
CE1
CE2
CE-Misra
Misra-EXP
10 -22
10 -24
0.5
10 -25
20°
k=150°
10 -23
る電子は残りの水素分子イオンと相互作用しているので、2
10 -17
を、TEC 近似を使った場合
(CE1) と使わない場合 (CE2) の
6+
45MeV C +H2
CDW-EIS近似で計算し、実験値や他の理論値と比較・検討す
10 -18
k=30°
-20
10 -21
-22
10 -24
6MeV/u C 6++H2
10 -19
k=110°
-20
1
5
10
50 100
E (eV)
6+
図1 6MeV/u における C +H2衝突の
二重微分断面積
10 -17
6MeV/u(72MeV) C
10 -18
150°
10 -19
3
10 -20
B 80, 012014 (2007).
-17
らなる最も簡単な分子であるが、分子標的の多中心性から断
-17
CE-pr
6+
+H2
A-6
イオン結晶における外因性および内因性領域を跨るイオン伝導度の連続挙動
大分高専 A , 熊大院先端科学 B
池田昌弘A , 安仁屋勝 B
微量の不純物を含むアリカリハライドや銀ハライドにおけるイオン伝導度の温度依存性は, 2つの明瞭なアレニウス的挙動を
示す 1) 。高温側は不純物濃度にあまり依存性しないが, 低温側では欠陥濃度に反映して顕著な濃度依存性を示す。前者は内因性
領域, 後者は外因性領域と区別される。この振舞いは, 通常, 電荷中性条件や質量作用の法則を併用することで理論的には説明さ
れる。しかしながら, 両アレニウス的挙動は中間領域で連続的に繋がるため, 全体としての振舞いは非アレニウス的であると云え
る。この連続挙動を理解するためには, 従来のアプローチでは不十分である2) 。
イオン結晶中のイオン拡散過程において欠陥が重要な役割を果たすことは明らかである。そこで本研究では, 従来の点欠陥形
成理論に改良を加えることで, イオン伝導度が示す上述の非アレニウス的挙動を説明することを試みる。講演では点欠陥濃度の
温度依存性の観点から Frenkel 欠陥型である銀ハライドが示すイオン伝導度について考察した結果を報告する。
1) B. Henderson, 訳 堂山昌男, 固体物性シリーズ I 格子欠陥, 丸善株式会社.
2) A.P. Batra, E.F. Ekpo, M. Dominique, N.U. Okorie, Phys. Rev. B 42 (1990) 1404.
A-7
ナノ粒子のイオン伝導度に対するモデル
熊大院自然科学 A , 熊大院先端科学 B
萩原一馬A , 安仁屋勝 B
ナノ結晶ではバルク結晶と異なり,物理的性質が粒子サイズに大きく依存する.その中で,ナノ粒子のイオン伝導度に対する
粒子サイズ依存性は,電池材料の性能向上とも関係するため,近年大きな注目を集めている.多くの研究事例において空間電荷
層の存在を仮定したモデルが適用されているが [1],その物理的背景は十分に解明されていない.一方,ナノ粒子のイオン伝導
度に対するモデルとして Brick-Layer Model (BLM) が知られている [2].BLM は,粒子をコアとシェルの領域に分け,それ
ぞれの伝導度から全体の伝導度を求める.
本研究では,BLM を拡張し,コア領域とシェル領域それぞれに粒子サイズ依存性を取り入れることで,ナノ粒子におけるイ
オン伝導度の振舞いを記述するモデルを提案する.当モデルによると,イオン伝導度の粒子サイズ依存性は,ある粒子サイズで
最大値をとるように振る舞うことを示す.
[1] J. Maier: J. Electroceram. 34 (2015) 69.
[2] R. Bouchet, P. Knauth, J.M. Laugier: J. Electroceram. 16 (2006) 229.
4
A-8
超流動ヘリウム中の第 2 音波と電気分極
九大理物 A , 九大基幹教育院 B
西村優吾A , 内山大嘉 A , 矢山英樹 B
第二音波とは 2 流体モデルにおける超流動成分と常流動
成分とがカウンターフローを起こすことによって伝わる波で
ある。この力学的な現象が電気的な分極現象を引き起こすと
いう興味深い実験結果 [1] が報告されている。今回はこの実
験の検証を行った。図 1 は実験装置の断面図である。セル
の左端に発信器としてヒーターが、右端にディテクターとし
て抵抗温度センサーとキャパシターが取り付けられている。
ヒーターに交流の電流を流すことで第二音波を発生させ、セ
ルの両端で反射共鳴させた。そのときの温度振幅 ∆T を抵抗
2
ΔV (μV)
温度センサーで、電気分極∆V をキャパシターで観測した
。図 2 の下は第二音波の温度振幅の周波数依存性を表してい
る。第二音波が一定間隔の周波数で共鳴していることがわか
1.5
1
0.5
る。このピークはセルの大きさと音速から求めた共鳴周波数
0
1000
と一致している。図 2 の上は電気分極の周波数依存性を表し
1100
1200
1100
1200
ΔT (μK)
ている。下のグラフの共鳴周波数の位置にピークはみられな
い。このことから今回の実験では第二音波による電気的な信
1400
1500
1300
1400
1500
10
5
0
1000
号は観測できなかった。
[1] A.S. Rybalko: Low Temp. Phys., 30 (2004) 994-997.
f (Hz)
図2
A-9
1300
15
第二音波による温度振幅(下)と電気分極(上)の周波数依存
超伝導細線における異常磁気抵抗 II
九大理 A , 情報通信研究機構 B
篠崎文重A , 牧瀬圭正 B
MgO 基板上 NbN 薄膜を Nano-wire(NW) 化した擬 1 次
ると抵抗は再び増加に転じる」quasi-reentrant 現象を示す。
元超伝度体の R(T,H) 特性を調べ、これまでに以下を報告し
実線、破線はそれぞれ、量子位相すべり、熱的位相すべりの理
た。i) R (T ) 特性は 2,3 次元系が示さない broad な転移を
論線である。講演では上部臨界磁場 Hc2(T)=Hc2(0) × (1 −
示す。i) 特異な負の磁気抵抗や抵抗の振動現象を示す。しか
T/Tc)n の振る舞いも紹介する。
し、エピタキシャル成長に適した MgO 基板でも微細加工時
の影響以外に、NbN と MgO 基板間に 4percent 程度の格子
10 5
ミスマッチが 0.7 percent と非常に小さく、格子不整合による
10 4
乱れをより抑えると期待される立方晶炭化シリコン (3C-SiC)
10 3
R(
ミスマッチがあり欠陥や乱れが生じ得る。そこで今回、格子
基板上に NbN-NW を作製し、その輸送特性を調べた。図
10 2
に w=20nm,t=10nm,Lv-v=600nm, Tc.mid=13.5K の R (T
10 1
) を示す。(●) で示した R(T,H=0) は NW に特有な超伝導
10 0
オーダーパラメターの位相すべりによる特性を示す。一方、
10 -1
(○) で示すように磁場 (H=6T) 下では Tc 近傍で 2-3 桁にも
及ぶ負の磁気抵抗による急激な抵抗減少、更に「温度が減少す
5
0T
6T
QPS
TAPS
QPS 抑制
QPS 回復
6
8
10 12
T (K)
14
A-10
K0.3 MoO3 単結晶の熱電能測定
佐賀大理工 A , 佐賀大院工系 B
松尾一輝A , 中島和貴 A , 高倉将一 B , 真木一 B
擬一次 元物質 であ る K0.3 MoO3 は、180 K で電荷 密度
波 (CDW) 状 態 へ と 相 転 移 す る 。こ の CDW 状 態 が 示 す
熱電能のメカニズムは、まだ解明されていない。そこで、
我々は自作の熱電能測定装置を用いて K0.3 MoO3 単結晶
の熱電能の温度変化を測定した。図は、一次元鎖方向であ
る b 軸 方 向 に お け る 熱 電 能 の 温 度 依 存 性 で あ る 。熱 電 能
は温度とともに減少し 180 K で急激に減少した。この振
舞いはこれまでの報告とよく一致しているように見える。
本 研 究 で は 、さ ら に 不 純 物 を 混 入 し た 試 料 で も 熱 電 能 を
測定した。当日はその結果もあわせて、詳細を報告する。
A-11
液体急冷した Ni-Cu-Sn 合金のスピノーダル分解
長崎大学大学院工学研究科院生 A , 長崎大学大学院工学研究科 B
堤貴瑛A , 近藤慎一郎 B , 森村隆夫 B , 中
島弘道 B
スピノーダル分解は均一な微細構造が得られ、過時効や再結晶が生じないため時効処理を長時間行なっても硬度が保てることが
利点として挙げられる。ところで Cu rich な Cu-Ni-Sn 合金はスピノ−ダル分解を生じ、ばねやベアリング等に使われている工
業用材料であるが、Ni の添加量を増やすことで強度と耐熱性の向上が見込まれる。そこで本研究では、Ni、Cu、Sn を Ni rich
な組成に秤量し Ar ガス雰囲気中で高周波誘導加熱により合金インゴットを作製し、次にその合金インゴットをスピンキャスト
装置を用いて液体急冷し、液体急冷試料を得た。また比較のために合金インゴットを 1000 ℃にて、180 min の溶体化処理を行
い、氷水中へ焼入れし、溶体化試料を作製した。これら両試料を真空封入後、塩浴中で 400 ℃において 20 min、80 min、400
min で時効処理を行い、Cu-Ni-Sn 合金との動力学的側面の差異について XRD を用いて広角並びに (200) 面、(220) 面の精密
測定を行い、更に 400 ℃において 80 min 時効した溶体化試料と液体急冷試料について TEM を用いて考察を行った。その結果
から Ni-Cu-Sn 合金では、液体急冷を施した場合、Cu rich な Cu-Ni-Sn 合金と同じく溶体化処理を施した試料に比べてスピ
ノーダル分解過程は遅くなると思われる。また、Cu-Ni-Sn 合金とスピノーダル分解過程での規則相の析出に差異があることが
わかった。
6
A-12
Pd-Ni-Pt 合金の水素吸蔵および放出特性
長崎大学工学部 A , 長崎大学大学院工学研究科 B , 長崎大学工学研究科 C
増崎公史A , 大石 幹 B , 近藤慎
一郎 C , 森村隆夫 C , 中島弘道 C , 山本将貴 C , 大貝猛 C , 香川明夫 C
水素吸蔵合金は、自己の体積の大凡 1000 倍以上の水素ガスを可逆的に吸蔵もしくは放出でき、色々な応用が期待されている。
例えば発熱と吸熱反応を利用したヒートポンプや体積の膨張を利用したアクチュエータなどが考えられている。最近では人体に
有毒であるとされる活性酸素の除去に水素は重要な役割を果たすことが指摘されている。これら応用分野の広い水素吸蔵合金に
関して、我々は Pd 系合金に注目している。これまで Pd 系合金については、Pd-Ni 合金については PCT 曲線、水素吸蔵・脱
蔵時の変異の経時変化、水素吸蔵速度などについては調べられているが、さらに Pt を加えた三元系での熱力学的緒量について
はまだ調べられていない。そこで本研究では,Pd-Ni-Pt 三元系での水素溶解について考察を行う。
Pd,Ni 及び Pt を Ar ガス雰囲気下で高周波溶解し合金インゴットを作製した。合金インゴットを真空中で温度 900 ℃で 2 時
間均質化焼鈍を行った。その後、試料の厚さが 60-70 μ m になるまで歯科用圧延機で圧延及び歪み取り焼鈍を行った。そうし
て得られた試料に関して、プラトー圧の測定後、水素吸蔵前と吸蔵後の試料について X 線解析を行い相の同定を行った。
Pt を添加すると Ni と同様で脱蔵の役目として働いた。Pt を添加することでの劇的な変化は見られなかったが、プラトー圧
とヒステリシスには影響を与えた。 X線の回折パターンから吸蔵する際に格子がひずみ、ピークが分裂していることが確認さ
れた。格子定数の減少とプラトー圧が上昇の関係より、格子定数を変化させることでプラトー圧を調整できると予想できるの
で、他の代替金属でも同様の結果が得られると推測できる。
A-13
イオン導電体の体積弾性率
熊大院自然科学 A , 熊大院先端科学 B
飯川景祐A , 安仁屋勝 B
イオン導電体は固体でありながら、液体に匹敵する程度の高いイオン伝導度を示す。イオンの移動度は物質の化学結合と関係
していると考えられている [1]。体積弾性率は物質の力学的、熱的性質を表すマクロな物理量であるが、物質の結合性を反映す
る。以前の研究において、弾性定数の温度変化に対する非線形性とイオン伝導は密接に関係することが示された [2]。つまり、
系統的な弾性定数の温度依存性の研究から、イオン伝導機構を解明する上での貴重な情報が得られることが期待される。近年、
結晶構造から直接得られるパラメータを用いて体積弾性率を求めるモデルが提案された [3]。このモデルは多くの二元系物質で
実験値と良い一致を示す。今回の発表では、大きな非調和性を有するイオン導電体でもこのモデルが有効であるか否かを調べた
結果について報告する。
[1] M. Aniya: Solid State Ionics 50 (1992) 125.
[2] M. Aniya, H. Sadakuni: Thermochim. Acta 532 (2012) 111.
[3] B. Xu, Q. Wang, Y. Tian: Sci. Rep. 3 (2013) 3068.
7
A-14
イオン伝導と格子振動の非調和性
熊大院自然科学 A , 熊大院先端科学
B
田中良哉A , 安仁屋勝 B
イオン導電体の基礎物性の起源に関してまだよく分かっていないものが多い。その一つにペロブスカイト型酸化物イオン導電
体において見出された、熱膨張率の増加に伴いイオン伝導度が増加するという現象がある [1]。同様な現象は、その他の多くの
イオン導電体でも確認されている [2]。当研究室で行われた過去の研究では、固体の熱膨張の主な要因が格子振動の非調和性で
あることに注目し、それを取り入れた原子間ポテンシャルから活性化エネルギーを求めることで熱膨張率とイオン伝導度の関係
が議論された。しかし、その関係の物理的背景は十分に解明されておらず、理論的な面での課題も残されていた。 本研究では以前の研究を引き継ぎ、イオン導電体における熱膨張率とイオン伝導度の関係を調べた。今回の発表では、イオン
拡散に関与するイオンの振動数とフォノン数について報告する。
[1] H. Ullmann, N. Trofimenko, F. Tietz, D. Stover, A. Ahmad-Khanlou: Solid State Ionics 138 (2000) 79.
[2] S. Taniguchi, M. Aniya: IOP Conf. Ser. Mater. Sci. Eng. 18 (2011) 132016. A-15
アルカリ土類酸化物を含むケイ酸塩ガラスのフラジリティー
熊大院自然科学 A , 大分高専 B , 熊大院先端科学 C
森下貴史A , 池田昌弘 B , 安仁屋勝 C
我々が提案している結合力−配位数揺らぎ (BSCNF) モデルは、ガラス形成物質における構造単位の結合や配位数の観点か
ら、液体の粘性の温度依存性を系統的に説明する [1]。このモデルは、多くのガラス形成物質に適用されるだけでなく、よく知
られた Vogel-Fulcher-Tamman (VFT) 方程式のパラメータに対する一つの物理的解釈を与え [2]、非アレニウス型イオン伝導
度の理論の構築 [3] などにも応用された。
最近、アルカリ土類酸化物を含むケイ酸塩ガラスのフラジリティーが興味深い組成依存性を示し、解析に使われるモデルに
よってその値が異なることが報告された [4]。本報告では、我々のモデルの観点からこの振る舞いを検証する。また、イオン伝
導との関係について議論する。
[1] M. Aniya: J. Therm. Anal. Calorim. 69 (2002) 971.
[2] M. Ikeda, M. Aniya: J. Non-Cryst. Solids 371-372 (2013) 53.
[3] Y. Okada, M. Ikeda, M. Aniya: Solid State Ionics 281 (2015) 43.
[4] W. Qu, S. Liu, Z. Xiao, J. Ma, M. Wei: J. Alloys Compd. 661 (2016) 1.
8
A-16
プランク輻射と電子の正規分布を結ぶ式hν=mc^2(γー1)
長崎県立小浜高等学校 A
山本文隆A
1.プランク輻射横軸振動数を、電子速度で書き換える。
h ν = m c 2( γ - 1 )
光子エネルギー=電子エネルギー
の式を用いて黒体輻射の
プランクの公式を、その原因と考えられる電子の速度軸に並び替えればきれいな正規分布
曲線となる。これは1個の光子エネルギーは、光を発生する1個の電子エネルギーに置き
換えられることを示す。黒体輻射は速度軸に正規分布した電子群が生み出す、光の束であ
ると考えることができる。
8πhν3
U d ν = ─ ─ ─3 ─ ─
c
3
8πhν
= ─ ─ ─ 3─ ─
c
U
1
─ ─ ─h v
────dν
-
e kT - 1
1
─ ─ h─v ─ ─ ─ ─
-
e kT - 1
=f
8πh
f = ─ ─ ─3 ─ ─ = 6 . 1 7 × 1 0 - 5 8
c
ν3
──
─────・・・・・・・・・・・①
sv
─
e T -1
s = ─ ─ ─ = 4 . 8 0 × 1 0 -11
k
である。この光の振動数を電子速度に置き換えることを考えるとと
h ν = m c 2( γ - 1 )
より
ν=B(γ-1)
8 π h B 4γ 3( γ - 1 ) 3β
U d ν = ─ ─ ─ ─ ─ ─h B
─γ
─1
──────dβ
-(
--
-)
c 3( e kT
-1)
8 π h B 4γ 3( γ - 1 ) 3β
γ 3( γ - 1 ) 3β
U=──────
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ = a ─ ─ ─b─
──
────
hB(γ-1)
---
-( γ
-- 1
-)
T
c 3( e kT
-1)
e
-1
ここで
・・・・・・・・②
a = 8 π h B 4/ c 3= 1 . 4 1 × 1 0 23、 b = h B / k = 5 . 9 1 × 1 0 9
定数値が大きすぎるので、それぞれを適当に与えてV.B.で図を描写
V . B プ ロ グ ラ ム : a = 3: s = 500: b = 1: ss = 0.000005: aa = 0.0000000046: px = 100: py = 600: pxx = 450
Line (px, py)(px, py - 500): Line (pxx, py)-(pxx, py - 500)
For t = 0.4 To 1.2 Step 0.1: f1 = 0: f2 = 0: For i = 1 To 7500: v = i / 10000: af = Sqr(1 - v ^ 2): gm = 1 / af: w = i * 300
j = a * s ^ 4 * gm ^ 3 * (gm - 1) ^ 3 * v / (Exp(b * s * (gm - 1) / t) - 1):k = aa * ss * w ^ 3 / (Exp(b * ss / t * w) 1): x = px + i / 10: xx = pxx + i / 8: y = py - j: yy = py - k
If ij >= j And f1 = 0 Then Line (x, y)-(x, py): f1 = 1: If k >= ik Then n = k: vx = xx: PSet (x, y): PSet (xx, yy), RGB
(255, 0, 0): ij = j: ik = k: Next i: Line (vx, py)-(vx, py - n), RGB(255, 0, 0): Next t
未入力
A-17
イオン導電性高分子に対するモデル
熊大院自然科学 A , 熊大院先端科学 B
西牟田拓朗A , 安仁屋勝 B
近年、ポリマー電解質は電池などへの応用の面から大きな注目を集めている [1]。しかし、その基礎物性についての理解が十
分であるとは言い難い。ポリマー電解質は母体となるポリマーと、それにドープされた塩から構成される。超イオン導電体に対
する以前の研究において、アニオンが形成するケージ中でカチオンが流動するという流体力学的モデルが提案された [2] 。今回
の研究では、このモデルをポリマー電解質に適用し、電解質の集団運動に対する表式を得た。当モデルから得られた結果は実際
のポリマー電解質でみられる交流伝導度の振る舞いを捉えている。
[1] Y. Wang, K.S. Chen, J. Mishler, S.C. Cho, X.C. Adroher : Appl. Energy 88 (2011) 981.
[2] M. Aniya, and M. Kobayashi : Appl. Phys. A 49 (1989) 641.
9
A-18
イオン伝導の結合ゆらぎモデルとエントロピーのスケーリング則
熊大院自然科学 A , 熊大院先端科学 B
松永薫A , 安仁屋勝 B
Rosenfeld は拡散係数と過剰エントロピーとの間にスケーリング則が成立すると提案した [1].ここで,過剰エントロピーは
熱力学エントロピーと理想気体のエントロピーの差として与えられる.スケーリング則を記述する関係式は近年,多くの注目を
集め,より詳細な理論の構築,実験やシミュレーションによる関係式の検証など,多くの研究が現在進行中である.しかし,同
関係式を固体について検討した報告の例は聞かない.一方,最近,エネルギーランドスケープの概念を用いて上記のスケーリン
グ則の解釈がなされた [2].その研究によると,過剰エントロピーはエネルギーランドスケープ上でのポテンシャルのゆらぎを
用いて記述される.本研究では,当研究室から提案された超イオン導電体の結合ゆらぎモデル [3] を,拡散係数とエントロピー
のスケーリング則に関連付ける試みについて紹介する.
[1] Y. Rosenfeld: Phys. Rev. A 15 (1977) 2545.
[2] K. Seki, B. Bagchi: J. Chem. Phys. 143 (2015) 194110.
[3] M. Aniya: J. Phys. Soc. Jpn. 65 (1996) 3406.
A-19
ガラス形成物質における集団運動の特性長
熊大理 A , 大分高専 B , 熊大院先端科学 C
坂本遼太A , 池田昌弘 B , 安仁屋勝 C
通常、液体をゆっくり冷やすと結晶化するが、急冷すると融点で結晶化は起こらず過冷却液体になる。これをさらに冷やす
と、過冷却液体の粘性や緩和時間が急激に増加し、系はランダムな構造を保ったまま流れなくなってしまう。これがガラス転移
である。ガラス転移における粘性の温度依存性はフラジリティーによって特徴づけることができる [1]。ガラス転移に伴う緩和
時間の増加機構を理解するために、分子間の協同的再配置領域のアイデアや [2]、その集団運動を特徴づける「特性長」を算出
する様々な理論的手法が提案されている。我々の研究グループは、構造単位間の連結の観点から粘性に対する結合力・配位数揺
らぎ(BSCNF)モデルを提案しており [3]、このモデルの観点から、ガラス転移に伴う集団運動を特徴づける融体の構造単位数
が求められる [4]。
本研究では、BSCNF モデルに基づき、ポリマー、酸化物、金属ガラスなど種々のガラス形成物質における特性長を求め、
それらを比較検証した。本講演では、フラジリティーの観点から、物質間でみられる特徴を議論する。
References
[1] C.A. Angell: J. Non-Cryst. Solids. 131-133 (1991) 13.
[2] G. Adam, J.H. Gibbs: J. Chem. Phys. 43 (1965) 139.
[3] M. Aniya: J. Therm. Anal. Calorim 69 (2002) 971.
[4] M. Aniya, M. Ikeda: Phys. Procedia 48 (2013) 113.
10
会場 B
領域 3, 7
B-1
D-F5PNN のスピン・パイエルス転移
九大院工
H
Fourier
A
, 京大人環 B , 東大物性研 C , 岡山大理 D , 福井大工 E , 府大理 F , CEA-GrenobleG , Univ.J.
稲垣 祐次A , 酒井尚子 B , 吉田靖雄 C , 神戸高志 D , 藤井裕 E , 細越裕子 F , 河江達也 A , Beatrice
GrenierG , 後藤喬雄 B , Jean-Paul BoucherH
D-F5PNN は有機ラジカルスピン 1/2 の1次元反強磁性体であり、1 K 以下で一様鎖から交替鎖へと格子変形を伴った1次相
転移を示すことが、Canevet 等による中性子散乱の実験からわかっている [1]。我々はこの試料に対して極低温 0.5K までの磁
化測定 [2] と ESR 測定を実施した。磁化測定から得られた磁場ー温度相図は、理想的なスピン・パイエルス系に対するそれと
酷似しており、低磁場における温度依存性も2次転移的に見える。ESR スペクトルも1次転移的な相分離の証拠は見られず2
次転移的である。当日はこれら結果の詳細を紹介し、転移の性質について議論したい。
[1] E. Canevet et al. Phys. Rev. B 82 132404 (2010). [2] 佐藤由昌 他、固体物理 Vol.49 No.5 (2014).
11
B-2
高圧力下における Nd2Fe14B 磁石の磁気特性と構造変化
九工大工 A , 福大理 B
中村奈緒美A , 緒方和馬 A , 柴山慶介 A , 高木精志 A , 美藤正樹 A , 田尻恭之 B
Nd2 Fe14 B は そ の 高 い 磁 気 特 性 か ら 、自 動 車・エ ア コ
[1] M. Mito et al , J. Appl. Phys. 118, 145901 (2015).
12.0
ン・ HDD ・ MRI など、利用範囲は極めて広く、現代社会
を支えている。しかし高温での利用については、高価で埋蔵
量も少ない Dyの添加が必要であり、Dyフリーでの特性改善
は重要な課題である。また、Nd2 Fe14 B の結晶構造は hcp 構
Hc [kOe]
造であり、その単位格子中には高い充填率で計 64 個(6 サイ
ト)の Fe を含むことから、高密度の Fe クラスタとみなすこ
とができる。
11.0
我 々 は 、こ の 高 密 度 Fe ク ラ ス タ の 高 圧 力 実 験 を 試
み 10 GPa(100 kbar)までの範囲で保磁場 Hc 、飽和磁化 Ms
等の変化を報告したが [1]、結晶性の低下によって原子位置レ
T = 300 K
ベルでの構造解析は困難であった。
今回、我々は結晶性の低下が小さい P = 20 kbar までの
10.0
0.0
領域で Nd2 Fe14 B の精密結晶構造解析を実施し、合わせて磁
5.0
10.0
15.0
P [kbar]
化測定を行った。図1に、室温における Hc の圧力依存性を示
Hc
1
すが、2 kbar 以上の領域で Hc は圧力 P に比例して増加して
いる。結晶構造と磁気特性の相関については、当日詳述する。
B-3
高精度高圧力下磁気測定システム SQUID-VCM の開発
九工大院工 A , 阪大リノベ B
柴山慶介A , 入江邦彦 A , 高木精志 A , 美藤正樹 A , 石塚守 B
超伝導体の高圧力実験では、ゼロ電気抵抗とマイスナー効
-5
果の両方の観測が望まれる。高圧力下の磁気測定については
電磁誘導を利用する方法と超伝導量子干渉素子 (SQUID) を
用いる測定がある。後者では、SQUID 特有のドリフトをいか
VVCM [V], VDC [V]
に排除するかが問題になる。一方、超高圧を求める際、ダイヤ
モンドアンビルセル (DAC) の使用は不可避であり、SQUID
と DAC の融合はさらに技術的な困難さを高める。我々は
DAC 中の試料近傍で検出コイルを振動させ、SQUID 電圧の
振動成分を抽出する高圧力下磁気測定システム [1] を開発して
いる。図1は無加圧状態での Ho の磁化率の温度依存性を示
0
す。ロックイン検出前の SQUID 電圧 V DC で見られるレン
ジオーバーによる跳びや 40 K 以上に見えるドリフトは、コイ
ル振動周波数でロックインした後の電圧 VVCM では見られな
5
い。当日の講演では 10 GPa までの結果を詳しく報告したい。
0
[1] M.Ishizuka et al., Rev. Sci. Instrum. 66 (1995) 3307.
10
20
30
40
50
60
T [K]
図1
12
無加圧状態でのHoの磁化率の温度変化
70
B-4
Fe2−x Co1+x Ga の空間対称性と物性
鹿児島大学大学院理工学研究科物理宇宙コース A , 東京大学物性研 B , 鹿児島大学大学院
C
松隈秀憲A ,
伊藤昌和 A , 上床美也 B , 廣井政彦 A , 重田出 A , 末廣渉 C
Fe 基ホイスラー合金において、Co と Fe の組み合わせた化
合物は特に高い TC が報告されている。TC = 1165 K を持
つ Fe2 CoGa の結晶構造は X 構造と呼ばれ、空間群は F43m
である。一方 Co2 FeGa も TC = 1060 K をもつ強磁性体で
あるが,空間群が Fm3m の L21 構造と呼ばれる結晶構造で両
者の間で空間群が異なっている。今回我々は Fe2−x Co1+x Ga
において、x に対して空間群がどのように変化していくの
か、また空間群の違いがこの系の物性にどのような影響を
与えるのか調べるため、x を系統的に変化させた試料を育成
した。さらにこれらの系の熱測定を行った。図に 10K にお
ける Fe2−x Co1+x Ga の熱膨張(Δ L/L@10K )の組成依存
性を示す。x = 0.7 以上で熱膨張の値が上昇していることが
わかる。講演では他の熱力学量を x に対して示し議論する。
B-5
Fe-Ga 系の反応とその組織
鹿児島大 理 A , 鹿児島大院 理工 B
萩尾聡明A , 宮崎泰樹 B , 三井好古 B , 小山佳一 B
強磁場中における強磁性体の磁気エネルギーの利得は、強磁性体の合成と安定に強く影響する。最近では、MnBi の固相焼結過
程に磁場を印加することで Bi(solid) + Mn(solid) → MnBi(solid) の反応が促進され、この反応促進効果は磁気エネルギーの利
得が関係していることが報告された [1]。一方、Fe-Ga 系では Ga の融点が低く、磁気エネルギーの利得と速い反応が期待でき
る。しかし、Fe-Ga の反応について充分な報告がない。本研究では、Fe-Ga 系に着目し、まず、ゼロ磁場における Fe と液体 Ga
の反応について明らかにすることを目的とした。アーク溶解し成型した Fe と流体の Ga をアルゴンのガス中で石英管に封入し
た。その後、試料を室温-300 ℃、24 h で熱処理した。X 線回折測定及び EPMA によって合成した相の評価を行う。講演では、
ゼロ磁場で得られた Fe-Ga の相、組織について報告する。[1]Y.Mitsui, K.Koyama 他., J.Alloys Comp. 615 (2014) 131
13
B-6
遍歴電子メタ磁性体 La(FexSi1-x)13 の磁気抵抗
九州大学大学院理学府磁性物理学研究室 A
遍歴電子メタ磁性体とは、基底状態が常磁性であっても、
林田愛希羅A , 和田裕文 A
変化が見られた。現在さらに高圧下での測定を進めている。
磁場を加えると強磁性になる遍歴電子磁性体群で、キュリー
温度より上の温度で磁場によって強磁性が誘起される場合
も含まれる。本研究では La(FexSi1-x)13(0.86 ≦ x ≦ 0.90)
に着目した。これまでの報告でこの物質では常磁性状態よ
り強磁性状態のほうが大きな電気抵抗率をもつことがわ
かっている。これはふつうの強磁性体ではあまり見られな
い現象で興味深い。われわれはこの物質の磁気抵抗、及び
ホール抵抗について測定を行っている。試料はアーク炉で溶
解し、高温で熱処理して得た。ホール抵抗の測定は 4 端子
法で交流ブリッジを用いて行った。図 1 は La(FexSi1-x)13
(X=0.88)のキュリー温度付近でのホール抵抗率の磁場依存
性を示している。170K では最初ホール抵抗率は大きく立ち
上がり,そのあと緩やかに増加している。前者は磁化に異常
ホール効果であり,後者は強磁性状態での正常ホール効果で
ある。200 K では遍歴電子メタ磁性によるホール抵抗率の
B-7
MnAlC 磁石の相変化
鹿児島大学 理 A , 鹿児島大学院 理工 B
高永悠大A , 小林領太 B , 三井好古 B , 廣井政彦 B , 小山佳一 B
MnAl 系合金は強磁性を示す Mn 系合金のうちの一つである。最近、その強磁性相であるτ相は硬磁性材料として再注目されて
いる。しかしτ相は準安定相であり、単相合成が困難である。また、最近では小林らによって、磁場中熱処理で非磁性ε相から
強磁性τ相の生成量が上昇することが報告された。そこで本研究の目的は、磁場中熱処理による磁気特性向上の最適化のため、
MnAl に炭素 C を添加した、様々な組成の MnAlC 磁石を作成し、その母合金の結晶構造について明らかにすることである。
Mnx Al100−x C2 (x = 48-52) の割合の母合金はアーク溶解法で作成した。合成した試料は、アルゴンガス中で石英管に封入し
1373K、24h で溶体化処理後、さらに 523K で熱処理した。その後、XRD により結晶構造解析を行った。1373K の溶体化処理
ではε相の生成が確認された。講演では XRD による Mnx Al100−x C2 (x = 48-52) の結晶構造解析結果について発表する。
14
B-8
MnCrAlGe の結晶構造と磁気特性
鹿児島大 理 A , 鹿児島大院 理工 B , 東北大 金研 C , 東大 物性研 D
増満勇人A , 吉永総志 B , 三井好
古 B , 梅津理恵 C , 廣井政彦 B , 上床美也 D , 小山佳一 B
正方晶 Cu2 Sb 型である MnAlGe はキュリー温度 TC =
で、Cu2 Sb 型構造が安定であることを明らかにした。
517 K 以下で強磁性を示す物質である。飽和磁化は Ms = 1.6
[1]H. Ido et al., J.Appl. Phys55, 2365 (1984)
μB /f.u. であり、強い一軸磁気異方性を有しているため、磁
[2]R. Y. Umetsu et al., IEEE Trans. Magn. 11, 1001904
気記録材料への応用が期待されている。Mn の一部を Cr に
(2014)
置換することでキュリー温度が上昇することが報告されてい
[3]S. YoShinaga et al., Phys. Proc, 75, 918-925 (2015)
る [1][2]。一方で Mn を全て Cr に置換した CrAlGe は結晶構
造が斜方晶 TiSi2 型である。キュリー温度及び飽和磁化が TC
= 80 K、Ms = 0.45 μB /f.u. と MnAlGe と比べて小さな値
を取ることが最近報告された [3]。高いキュリー温度を有する
(Mn,Cr)AlGe の最適化のためには、(Mn,Cr)AlGe の磁気相
図と安定な結晶構造を明らかにする必要がある。そこで、本
研究では、Mn1−x Crx AlGe (0≤ x ≤1.0) 合金を作製し、結晶
構造と磁気特性を評価する。
図 1 に、種々の組成の Mn1−x Crx AlGe の粉末 X 線回折パ
ターンを示す。x ≤0.7 では Cu2 Sb 型構造の単相が得られた。
また、x = 0.9 では TiSi2 型構造単相となった。以上の結果
から、Mn1−x Crx AlGe では、x ≤0.7 という幅広い組成範囲
B-9
反強磁性体 CoO のマグノン・ラマン分光測定
九大理 A , 立命館大理工 B
土田孝三A , 佐藤琢哉 A , 藤井康裕 B , 是枝聡肇 B
光によって読み書きを行う高速磁気スイッチングデバイスの実現にとって、光により高速なマグノンの誘起・観測を行える反強
磁性体は重要な研究対象である。反強磁性体 CoO は軌道角運動量が消失していないため、最も高い k=0 マグノン周波数を持
つことが知られている [1]。応用上、CoO に光を当てた時にどのようなマグノン振動モードが起こるかを知ることもまた重要
である。そこで我々は、CoO の顕微ラマン偏光角分解測定 [2] を行い、2 種類の単一磁区 (TG, LG) でのラマンスペクトルを
得た。ここで TG と LG とは、サンプル表面のドメイン磁化が面内に寝ている磁区と面直に立っている磁区を表す。4.4 THz
と 8.9 THz のマグノンモードが観測された。対称性の議論から、4.4 THz をΓ 2 の振動モードとアサインした。この考察は、
H-h. Chou らによる先行研究の議論と反するものであった。発表では、CoO 結晶の対称性に関する議論をより深める。
[1] H-h. Chou and H. Y. Fan, Phys. Rev. B 13, 3924 (1975) [2] 藤井康裕等, 日本結晶学会誌, 57, 286 (2015)
15
B-10
希土類鉄ガーネットにおけるスピン波伝播
九大理 A
姫野滉盛A , 松本慧大 A , 佐藤琢哉 A
我々はスピン波の制御・観測 [1] を行うために、ポンプ・プ
1 (2013).
ローブ磁気光学時間分解イメージングシステムを構築した。
30
650
まず、厚さ 100 µm のフェリ磁性絶縁体 Gd4/3 Yb2/3 BiFe5 O12
24
単結晶に、面内方向に磁場を 1 kOe を印加し、中心波長
18
325
1300 nm のポンプ光を集光して (20 mJ/cm2 ) を入射させる。
12
また、これと同時に中心波長 800 nm のプローブ光をサンプ
ピクセルから得られる強度データから、ファラデー回転量を
6
y ( µm)
ルに試料に入射させ、透過光を CMOS カメラで検出する。各
0
0
−6
算出してイメージングした結果、偏光面の回転角の分解能が
− 12
-325
10 mdeg 程度となった。さらに、ポンプ光スポット位置にお
− 18
いて、Fe-Gd の交換共鳴モード [2] が測定され、講演ではこれ
− 24
らのことに関して報告する。
-650
-650
[1] T. Satoh et al., Nature Photonics 6, 662 (2012).
[2] S. Parchenko, et al., Appl. Phys. Lett. 103, 172402-
B-11
-325
0
x (µm)
325
650
− 30
図1 t = 2 nsにおけるスピン波伝播の様子
点接合分光法を用いた Cr の電子状態測定
九大工 A , 九大院工 B
植嶋玄A , 志賀雅亘 B , 稲垣祐次 B , 河江達也 B
クロムはネール温度 T N = 312 K 以下で伝導電子によ
しており、サイズ変化による信号の形の変化はない。これ
りスピン密度波が形成されており、金属の中で非常に異常
は、クロムの持つスピン密度波に起因するためであると考
な性質を示す。そのため、クロムの微分伝導度(dI /dV )
えられる。当日は温度依存のグラフを交えて、詳細な説明を
の非整合スピン密度波の影響が研究されており、大変興味
行いたい。[1] H.Meekes , Phys. Rev. B 38, 5924 (1988)
深い。このとき、ギャップエネルギーよりも小さい電圧で
抵抗率の大幅な増加を示すことが分かっている [1]。 今回
は、クロム/タングステン界面において、点接合分光法を用
いてクロムの電子状態の測定を行った。点接合分光法とは
高エネルギーを持つ弾道電子を使って準粒子の状態密度な
どを見積もることのできる手法である。今回、2 ∼40 K の
温度範囲において微分伝導度(dI /dV )だけでなく、より
詳細に調べるために二次導関数 d2I /dV 2 を測定した。図
1 にサイズ依存の結果を示す。電圧の低下とともに、抵抗が
増加するという他の金属では見られない異常な挙動を示し
ている。また、二次導関数 d2I /dV 2 のピーク場所は一致
16
B-12
超伝導体/重い電子系物質 CeB6 界面における微分伝導度測定
九大院工 A , 九大工 B , 茨城大理 C
志賀雅亘A , 植嶋玄 B , 稲垣祐次 A , 伊賀文俊 C , 河江達也 A
超伝導体の界面ではアンドレーフ反射という現象が起こ
造を観測することができたこれは通常の超伝導体/金属界面で
る。これは超伝導体へ電子が入射する時にクーパー対の形成
の現象は説明できない。当日はより詳細な実験結果を示した
のためホールが反射されることである。BTK モデルによる
い。[1]W. K. Park et al., Phys. Rev. B 72 (2005) 052509.
と超伝導体/金属界面でのアンドレーフ反射の確率は、界面で
の電子の散乱だけでなく超伝導体と金属のフェルミ速度の差
により抑制されることを予想しており、重い電子系超伝導体/
金属界面では実験においても観測されている [1]。今回は超伝
導体/CeB6 界面での微分伝導度を測定し通常の金属との違い
を観測することを目指した。CeB6 は近藤温度 T = 5 K∼10
K を持ち、低温において重い電子を形成する物質である。図
1 に Nb/CeB6 界面での微分伝導度の接触抵抗依存性の結果
を示す。接触抵抗が大きいとき、BTK モデルで予想されるよ
うなアンドレーフ反射の抑制された信号が観測された。さら
に接触抵抗を小さくすると、ゼロバイアスにおけるピーク構
B-13
ホイスラー化合物 Fe2−x Cox MnSi の低温物性
鹿児島大学理工学研究科 A , 東京大学物性研 B
一 B , 伊藤昌和 A , 重田出 A , 廣井政彦 A
ホイスラー化合物 Fe2−x Cox MnSi はハーフメタル性を示
す強磁性材料として注目されている。この化合物は Fe-rich
領域において低温で反強磁性的な相転移をおこすことが知
ら れ て お り 、さ ら に 磁 場 冷 却 と 無 磁 場 冷 却 で 磁 化 に 差 が
生じる [1]。しかしながら、低温相における詳しい知見が
得られていない。本研究では、Fe2−x Cox MnSi の低温物性
を調べるため、比熱、磁化、熱膨張、および電気抵抗測定
を行った。図に 300 Oe の磁場をかけた状態での Fe2 MnSi
と Fe1.95 Co0.05 MnSi の磁化の時間依存性を示す。両者とも
に時間経過によって、磁化が増加する磁気余効が確認でき
た。本学会では、これらの結果と考察について議論する。[1]
Harsh Bhatt, M. D. Mukadam, S. S. Meena, and S. M.
Yusuf, AIP Conference Proceedings 1665, 130048-3 2015.
17
平敦志A , 恩田圭二朗 A , 上床義也 B , 近藤晃弘 B , 金道浩
B-14
ホイスラー化合物 Fe2 Ni1−x Mnx Al の物性
鹿児島大学大学院理工学研究科 A
園田一貴A , 伊藤昌和 A , 廣井政彦 A , 重田出 A , 松隈秀憲 A
ホイスラー合金は、強磁性形状記憶効果やハーフメタル
特性といった現象を示すことから注目を集めている物質群
nesh C. Gupta, Idris Hamid Bhat Materials Chemistry and
Physics 146 (2014) 303e312
である。通常のフルホイスラー化合物は L21 構造(空間群
Fm-3m)をもっているが、最近では F-43m の空間群をもつフ
ルホイスラーも確認されており、Fe2 NiAl の空間群は F-43m
をもつことが知られている。[1] 本研究は空間群 Fm-3m で
ある Ni2 FeAl と、Ni と Fe を置換することによる空間群の
変化によって低温物性への影響を調べることを目的として
いる。物質はアーク溶解法により作製した。右図は作製した
Fe2 NiAl と Ni1.5 Fe1.5 Al の X 線回折パターンである。両方
ともホイスラー構造をもっており格子定数はそれぞれ 5.7612
Å (Fe2 NiAl) と 5.7182 Å (Ni1.5 Fe1.5 Al) であった。[1] Di-
B-16
α-(BEDT-TTF)2 I3 の強束縛モデルによる磁場中のエネルギーと量子ホール効果と磁化
熊本大学教育 A , 兵庫県立大物質理学 B
岸木敬太A , 長谷川泰正 B
擬二次元有機導体の α-(BEDT-TTF)2 I3 のフェルミエネ
場中のエネルギーを計算した. 図は計算から得られたフェルミ
ルギー近傍では, コーン形のエネルギーバンドが点で接する
エネルギー近傍のエネルギーの磁場依存である. さらに, 量子
質量ゼロのディラック粒子が現れる.(BEDT-TTF)は bis-
ホール効果, 磁化などを計算し, フェルミエネルギー近傍の近
ethylene-dithia-tetra-thia-fulvalene の略である.
似計算と比較する. また, グラフェンの量子ホール効果, 磁化
質量ゼロのディラックとしてよく知られているグラフェン
とも比較を行う.
とは異なり α-(BEDT-TTF)2 I3 では, コーンが傾いている.
[1] K. Kishigi and Y. Hasegawa, PRB 90, 085427 (2014).
また, α-(BEDT-TTF)2 I3 のランダウ準位はグラフェンと同
[2] K. Kishigi and Y. Hasegawa, PRB 94, 085405 (2016).
様に
√
H に比例することが知られている. しかしながら, こ
0 .2 5
のランダウ準位は, フェルミエネルギー近傍の状態のみを考
慮する近似から得られている. そのような近似では, ランダウ

準位の広がりやエネルギーの正確な磁場依存性などを扱うこ
0 .2 0
i
とができない. 一方, 強束縛モデルを使えば数値的にではある
が, エネルギー全体について, 磁場中の固有状態を計算するこ
0 .1 5
とができる. 以前、ハチの巣格子 [1] や正方格子 [2] の強束縛
モデルを使い, 量子ホール効果や磁化について近似理論では
出現しない結果を示している.
0 .1 0
0 .0 0
0
本研究では強束縛モデルを使い, α-(BEDT-TTF)2 I3 の磁
18
0 .0 5
2 0 7
0 .1 0
4 1 4
0 .1 5
6 2 1
0 .2 0
8 2 8
0 .2 5
h
0 .3 0
H [T ]1 2 4 2
B-17
Co 基ホイスラー合金 Co2TiGa1-xSnx の磁化の圧力効果とスピン分極率
鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻 A , 東北大学金属材料研究所 B , 京都工芸繊維大学大学院電
子システム工学専攻 C , 東北学院大学工学総合研究所 D , 東京大学物性研究所 E
A
A
B
C
B
大岡隆太郎A , 藤本祐太
郎 , 重田出 , 梅津理恵 , 三浦良雄 , 野村明子 , 湯蓋邦夫 , 鹿又武 , 上床美也 E , 廣井政彦 A
スピントロニクス素子の性能向上に必要不可欠な機能性
B
D
い値を維持することが明らかになった。
材料としてハーフメタルが注目されており,多数の Co 基ホ
[1] Y. Miura et al., J. Appl. Phys. 99, 08J112 (2006).
イスラー合金でハーフメタル特性を有することが理論的に予
[2] T. Kanomata et al., Phys. Rev. B 82, 144415 (2010).
想されている [1]。さらに近年,ホイスラー合金 Co2 VGa の
1 .2
自発磁化 Ms が圧力 p に依存しないことが報告された [2]。そ
G (V )/G
N
注目し,磁化の圧力効果とスピン分極率の組成依存性につい
ての研究を行った。7.5 K での Co2 TiSn と Co2 TiGa の圧力
下磁化測定から,dMs /dp の値がそれぞれ 0.0 µB /f.u. · GPa
と −1.4 × 10−2 µB /f.u. · GPa と見積もられた。Co2 TiSn の
1 .0
P =
=
=
Z =
5 4 .6 %
1 .2 3 m e V
0 .2 3 0 m e V
0 .1 9 0
-5
2 = 1 . 2 2 × 1 0
0 .9
0 .8
実験結果は,ハーフメタル特性を示す第一原理バンド計算と
0 .7
一致した。また,Co2 TiSn の微分コンダクタンスの解析結
E x p . d a ta
B T K fit
C o 2T iS n
1 .1
こで本研究では,Co 基ホイスラー合金 Co2 TiGa1−x Snx に
-1 5
-1 0
-5
0
5
1 0
1 5
V (m V )
果を図 1 に示す。Co2 TiSn の本質的なスピン分極率 Pint は
図1 . C o 2 T i S n の微分コンダクタンスの解析結果。
58 ± 2% と見積もられた。さらに,Ga の増加とともに Pint
は減少するものの,Co2 TiGa の Pint は 56 ± 1% と比較的高
B-18
Magnetic and Structural Properties of Mn1.9Fe0.1Sb0.9Sn0.1
Graduate School of Science and EngineeriA , Institute for Material Research, Tohoku B , Institute for
Solid State Physics, The UC
Adline N. NwodoA , Ryota KobayashiA , Taoto WakamoriA , Yoshihiro
MatsumotoA , Yoshifuru MitsuiA , Masahiko HiroiA , Kohki TakahashiB , Yoshiya UwatokoC , Keiichi
KoyamaA
The high-field x-ray diffraction measurements were carried out for Mn1.9Fe0.1Sb0.9Sn0.1 in fields 0H up to 5T. The
saturation magnetization at 10 K was determined to be 38.9 Am2/kg (38.9 emu/g). The compound undergoes magnetic
transition from ferromagnetic to paramagnetic with lattice parameters a and c estimated to be 0.4068 nm and 0.6549
nm respectively at Tt = 285 K with thermal hysteresis of 320K. The temperature dependence of a and c showed a
normal thermal contraction without discontinuous changes due to a structural transformation. The thermal expansion
coefficients of a and c were estimated to be 4.4 × 10-5 K-1 and 1.7 × 10-5 K-1 in T = 285-300 K, respectively. The
results show that the x-ray powder diffraction measurements in high magnetic fields and at high temperatures are useful
materials for research.
19
B-19
ハニカム格子磁性体 α-RuCl3 の磁気秩序
佐大院工 A , KEK 物構研 B , 東工大理 C
山内一宏A , 平石雅俊 B , 岡部博孝 B , 竹下聡史 B , 幸田章宏 B , 小
嶋健児 B , 門野良典 B , 田中秀数 C
キタエフ-ハイゼンベルグ (KH) 模型と呼ばれるスピン 1/2 のハニカム格子スピン模型は、最隣接スピン間に働く異方的なキ
タエフ型相互作用と等方的なハイゼンベルグ型相互作用の大きさに依存して、多彩な磁気秩序やスピン液体相など興味深い基底
状態を示すことが知られている。最近、KH 模型のモデル物質候補として、ハニカム格子磁性体 α-RuCl3 が注目を集めている。
この物質は、Ru3+ (4d5 ) が作る二次元ハニカム格子面を有し、スピン軌道相互作用に起因して Ru の有効スピンが Jeff = 1/2
で表されると考えられている。また、低温で反強磁性磁気秩序を示すことが実験で明らかにされている。
我々は、この磁気秩序相の詳細を明らかにするため、単結晶を用いてミュオンスピン回転/緩和 (µSR) 実験を行った。µSR
実験では、物質中にミュオンと呼ばれる電子の 1/200 の磁気モーメントを持つ粒子を打ち込み、自発磁化がミュオンサイトに
作る内部磁場を観測する。我々は、µSR 法を用いて自発磁化の臨界指数 β を見積もり、この系の磁気秩序転移が三次元系のユ
ニバーサリティクラスに属していることを明らかにした。また、ミュオンナイトシフト測定と第一原理計算から、ミュオンサイ
トが積層しているハニカム格子面の面間にあることを明らかにした。中性子回折から提案された 2 種類の磁気構造を仮定して、
ミュオンサイトにおける内部磁場を計算し実験と比較したところ、スピン構造が変調型ジグザグスピン構造であることが明らか
になった。
B-20
Co ドープ ZnO ナノ粒子とノンドープ ZnO ナノ粒子の混合体の磁性
佐賀大院工 A , 九大院工 B , 台湾 NSRRCC , 熊大院自然 D , 理研 E
安敏志A , 稲垣祐次 B , 河江達也 B , 石
井啓文 C , Yen-Fa LiaoC , 木田徹也 D , 南任真史 E , 石渡洋一 A
磁性イオンをドープした酸化物の薄膜やナノ粒子では、そ
の多くで室温強磁性が示される。また、磁性イオンをドープ
Magnetization (emu/g)
しない場合であっても、酸化物の薄膜やナノ粒子では磁化の
値は小さいながら室温強磁性が示される場合がある。CeO2
ナノ粒子はその一つの例であるが、最近の研究で、別の非磁
性の微粒子と混ぜ合わせたときにその強磁性が著しく減少
することが示された [1]。この結果は、孤立した CeO2 ナノ
粒子は磁性を示さず、ある特定の大きさの集合体になった
ときに磁性が現れることを示している。我々は磁性イオン
2
Co doped ZnO NPs
1
4.7%
0
0%
-1
-2
-10
をドープした酸化物で現れる強磁性についても同様の現象
10.0%
-5
0
5
10
Magnetic field (kOe)
が起きるかに興味があり、Co ドープ ZnO ナノ粒子を用い
て実験を進めている。図は我々が合成したサンプルの室温の
図 : Co ドープ ZnO ナノ粒子の室温における磁化曲線
磁化測定の結果である。ノンドープサンプルは非磁性である
[1] M. Coey et al., Nature Physics, 12, 694 (2016).
が、Co ドープサンプルは強磁性が現れている。講演では、
これら 2 つを混合したときの磁性の変化について報告する。
20
会場 C
領域 2, 8, 9, 10
C-1
Fe3 O4 ナノ結晶の不純物誘起金属絶縁体転移
佐賀大院工 A , 佐賀大 SL セ B , 台湾 NSRRCC , 九大院工 D , 熊大院自然 E , 理研 F
B
C
C
C
高橋和敏 , 石井啓文 , Yen-Fa Liao , Ku-Ding Tsuei , 稲垣祐次
D
丸山徹A , 今村真幸 B ,
D
, 河江達也 , 木田徹也 E , 南任真
史 F , 石渡洋一 A
Fe3 O4 は 120K 付近で電気伝導率の数桁の変化を伴う金属
絶縁体転移(MIT)を示す。近年、我々は V2 O3 ナノ結晶の
Cu-doped Fe3O4 NCs
合成に成功し、ノンドープナノ結晶では MIT が消失するが、
不純物をドープすることによって MIT が現れることを明ら
7
M (emu/g)
かにした [1]。本講演では Fe3 O4 ナノ結晶の MIT とその不
純物効果について報告する。図はノンドープサンプルと Cu
ドープサンプルの磁化の温度依存性である。V2 O3 ナノ結晶
の結果とは異なりノンドープのサンプルで MIT の発現を示
す磁化の変化が見られる。ただし、Cu = 2.2% のサンプルで
6
4
線回折と光電子分光の結果についても報告する予定である。
Cu = 2.2%
5
は僅かに磁化の変化が大きくなっており、Fe3 O4 でも不純物
によって MIT が強められる傾向は示される。講演では、X
Cu = 0%
Cu = 5.6%
50
100
150
T (K)
図 1. ノンドープ及び Cu ドープ Fe3O4 ナノ結晶の
磁化の温度依存性
[1] Y. Ishiwata et al., Adv. Mater. Interfaces 2,
1500132 (2015).
21
C-2
NiS ナノ結晶の金属絶縁体転移
佐賀大院工
A
, 台湾 NSRRCB , 佐賀大 SL セ C , 九大院工 D , 熊大院自然 E , 理研 F
牛島幸輝A , 石井啓
文 B , Yen-Fa LiaoB , Ku-Ding TsueiB , 今村真幸 C , 高橋和敏 C , 稲垣祐次 D , 河江達也 D , 木田徹也 E , 南
任真史 F , 石渡洋一 A
NiS は 260 K で一次の相転移を示し、電気伝導率が不連
続に変化するとともに反強磁性秩序が現れる。近年、我々は
3.0
ついて調べた [1]。そして、ノンドープナノ結晶では MIT が
2.5
 (10 emu/Oe/g)
V2 O3 のナノ結晶を合成し、その金属絶縁体転移(MIT)に
消失するが、不純物のドーピングによって再び MIT が現れ
ることを明らかにした。本講演では、NiS ナノ結晶の MIT
2.0
1.5
-5
とその不純物効果について報告する。NiS ナノ結晶は溶液
NiS
Ni0.982Fe0.018S
合成によって作製した。現在のところ、単相のナノ結晶の
合成には成功しておらず、Ni3 S2 や Ni3 S4 が混入したサン
1.0
0.5
プルで測定を進めている。図はノンドープナノ結晶と Fe を
0.0
1.8% ドープしたナノ結晶の磁化率の温度依存性である。ノ
200
240
280
320
T (K)
ンドープサンプルでは磁化率の不連続な変化が見られないが、
Fe ドープサンプルでは履歴を伴った磁化率の変化が現れる。
図1:ノンドープ及び Fe ドープ NiS ナノ結晶の磁化率の温度依存性
講演では X 線回折と光電子分光の結果についても報告する。
[1] Y. Ishiwata et al., Adv. Mater. Interfaces 2,1500132 (2015).
C-3
モット転移系 Ca2 RuO4 の圧力・電場下での比熱測定Ⅰ
久留米工大 A , 京都大院 理 B , 広島大院 先端物質 C
高嶋絵里奈 A , 赤木健太 A , 上原武大 A , 江藤徹二郎A ,
野田常雄 A , 前野悦輝 B , 中村文彦 A,C
モット絶縁体 Ca2 RuO4 は、0.5 GPa の加圧で構造転移を伴い金属化,低温で強磁性や超伝導などが出現する。一方,電場印
加でも同様な絶縁体−金属転移が誘起でき,この電場誘起金属相は直流電流下の非平衡定常状態で低温まで維持できる。この
Ca2 RuO4 の相転移は,構造相転移を負熱膨張や謎のエントロピー増大など興味ある熱力学現象を数多く含むが,そのメカニズ
ムは不明である。我々は,この相転移現象を熱力学的に理解するため,潜熱や比熱の測定を行っている。比熱測定には室温付近
の比熱を精確に測定できる示差走査熱量計 DSC(島津製作所 DSC-60plus)を用いている。しかし,この装置の試料空間は小
さく圧力や電場下での測定は困難であった。我々は,DSC の試料空間(外径 ϕ 6× 高さ 5 mm 以下)に収まり,0.5 GPa 以上
の圧力が発生できる小型セルを開発した。DSC で比熱測定は,試料と基準物質間の熱量の入力差から求められるため,比熱が
小さく,加工性,tensile stress に優れている超硬材料で精度良く2つのセルを作る必要がある。セルの構造が簡単である事も
重要である。
そこで,圧力セルの材料として β-チタン合金を用いた。この材料の比熱 ∼ 24 J/(K mol)(純金属と同等)で,tensile stress
は 1760 MPa(MP35N 相当)で,見積もられる最高発生圧は 0.7 GPa である。大学内の工場で加工,完成したセルは,外径φ
6 ×高さ 4.5 mm、内径 ϕ 3 × 高さ 4 mm、質量約 500 mg,2 つのセルの製作精度は重量比で ∼ 4 % 以内であった。現在 ∼
0.2 GPa まで CRO の比熱を測定した。詳細を報告する。
22
C-4
モット転移系 Ca2 RuO4 の圧力・電場下での比熱測定Ⅱ
久留米工業大学 工学部
A
, 京都大学 理学研究科 B
赤木健太
A
, 高嶋絵里奈 A , 上原武大 A , 野田常
雄 A , 江藤徹二郎 A , 前野悦輝 B , 中村文彦A
モット絶縁体 Ca2 RuO4 は,圧力下で金属化する一方,電
Ca2RuO 4
場印加でも同様な絶縁体−金属転移が誘起できる。この電
場誘起金属相は直流電流によって低温まで維持される。本
0.2 GPa
研究の目的は,加圧下(平衡状態)と通電下(非平衡定常状
C P (a.u.)
0 GPa
態)の熱力学現象の違いを比熱で明らかにすることにある。
今回,示差走査熱量計 DSC(島津製作所 DSC-60plus)を用
いた圧力下比熱を中心に報告する。図は常圧と 0.2 GPa で
測定した Ca2 RuO4 の比熱の温度依存性である。1 次転移を
示唆する比熱の鋭いピークが常圧で 364 K に現れた。この
ピークは加圧によって 350 K に低下した。転移温度の圧力
係数から発生圧力は約 0.2 GPa と見積もられた。また,加
圧によってピークの幅はほぼ変らずにピーク温度が低下し
340
360
Temperature (K)
ていく,これは Sr 置換で乱れを導入した場合とは異なる。
C-5
380
熱電能でみる KTaO3 における不純物の影響
佐賀大理工 A , 佐賀大院工系 B
中島和貴A , 松尾一輝 A , 高倉将一 B , 真木一 B
KTaO3 は、誘電率の温度依存性が低温でキュリーワイス
似ているが、熱電能の値自体は 1/5 程度である。したがっ
則から外れていき、最低温になっても強誘電転移を起こさ
て、電荷の有無にかかわらず、不純物の存在が熱電能に影響
ない、量子常誘電体である。また、この物質は大きな熱電
する可能性がある。当日は、実験と結果の詳細を報告する。
0
能を示すことでも興味をもたれている。我々が KTaO3 の単
結晶試料を自作したところ、透明なものの他に青黒く着色
-20
S(μV/K)
したものが多く見られた。KTaO3 では電荷を注入すると、
熱電能の値が減少することが知られている。そこで、着色
-40
した KTaO3 に混入した不純物の正体を調べるために熱電
-60
能を測定した。図は、比較的透明な試料で測定した熱電能
の温度依存性である。室温では-80 程度の値をとり、低温に
-80
いくほど値は小さくなる。この振舞いはこれまでの報告と
23
100
200
T(K)
300
C-6
巨大ひずみ加工処理されたニオビウムの静水圧力効果
九工大工
A
, 九産大工 B , 九大院工
C
白石亮A , 北村雄一郎
A
, 緒方和馬 A , 美藤正樹 A , 西嵜照和 B ,
KavehEdalatiC , 堀田善治 C
単一元素超伝導体の中で、常圧下で最も高い超伝導転移温度
Tc を有する Nb の圧力実験は、純良な試料と静水圧性に重点
10
を置いて行われてきた。静水圧力下では一度わずかに減少し
9.9
た後上昇に転じ 10 GPa で 9.9 K のピークをもつことが報告
されている [1]。本研究では、高圧ひずみ加工 (HPT) 法 [2] に
9.8
Tc [K]
より構造組織が微細化された試料における静水圧力効果を調
べる。そこで、残留ひずみの小さな純良試料では越えられな
かった 10.0 K の壁を超える Tc の上昇を期待した。図 1 に Tc
の圧力依存性を示す。N = 10 の HPT 加工を施した Nb(
9.7
9.6
9.5
ここで、N は HPT 加工時の回転数) では 2 GPa 付近で Tc
が 9.9 K をわずかに上回った。上記の 2 GPa 付近での Tc の
9.4
上昇が構造組織の変化を伴うかを確認することが当面の課題
9.3
0
である。
[1]Viktor Struzhkin et al., Phys.
Rev.
5
10
15
Pressure [GPa]
Lett, 79,
図1
4262 (1997).[2] 堀 田 善 治, 軽 金 属, 60, 134 (2010).
C-7
as received
N = 10 (Run1)
N = 10 (Run2)
NbのHPT加工材の圧力における超伝導転移温度の変化
水銀系銅酸化物超伝導体 Hg-1223 に対する静水圧力・一軸性圧縮効果
九工大院工 A , JASRI/SPring8B , 物材機構 C
緒方和馬A , 美藤正樹 A , 鶴田一樹 B , 中村和磨 A , 出口博
之 A , 堀出朋哉 A , 松本要 A , 原裕 C , 竹屋浩幸 C , 高野義彦 C
HgBa2 Ca2 Cu3 O8+δ (Hg−1223) は、常圧下で超伝導を示す
物質の中で最高の超伝導転移温度 Tc = 135 K を有する。最
近では、15 GPa の静水圧力下で 153 K まで上昇することが
報告されている [1]。その Tc の変化は加圧によるホールドー
プの描像で理解ができる [2]。我々はこの Tc の上昇について
、CuO2 面内に対する in − plane 収縮と out − of − plane 収
縮のどちらが効果的かを磁気測定と第一原理計算を用いて調
べた。
図 1 に静水圧力 (HP) と一軸性圧縮における Tc の変化量の
応力依存性を示す。2 GPa 以下では、in − plane 収縮では Tc
の変化に優位な変化は見られず、out − of − plane 収縮の方
で大きな Tc の上昇がみられている。第一原理計算では各圧縮
におけるキャリア密度の変化を評価し、Tc の変化量とコンシ
ステントな結果を得た。
図 1. Hg-1223 の Tc 変化量の応力依存性
[1] N. Takeshita et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82, 023711 (2013).
[2] A. Yamamoto et al. Nat. Commun. 6, 8990 (2015).
24
C-8
W(110) 上の鉄酸化被膜の構造
九州大学総合理工学府 A
久保直也A , 嶋崎雅史 A , MohammadTowheedKibriaA , 高村優 A
鉄表面上の酸素吸着は触媒作用や腐食、及び磁気デバイス
像から図 3 の酸素吸着構造で吸着していると考えられる。鉄
等様々な分野での研究対象となっている。我々は大きな保磁
二層薄膜上に酸素を露出させると、単層の場合とは異なり、
力と磁気異方性を持つ W(110) 上の単層及び二層 Fe の磁性が
LEED パターンは (2 × 2) 構造を経て、(3 × 2) 構造へと変
酸素吸着によりどのような変化を示すかについて研究を行っ
化していく。現在、これら (2 × 2) および (3 × 2) 構造の構
ている。今回は低速電子回折 (LEED) を用いて、その構造に
造解析を進めている。当日は、酸化鉄薄膜の形成過程につい
ついて研究した。本研究は全て 5 × 10-8 Pa 以下の超高真空
て述べる。[1]K.Freindl, et al., Surf. Sci 617 (2013) 183-191
チャンバー内で行った。清浄化した W(110) 基板の上に、常
温で単層または二層の Fe 薄膜を作製した。その後、酸素を導
W
Fe
入し、その際の構造を LEED と走査トンネル顕微鏡 (STM)
O
によって観察した。 鉄単層薄膜を∼1 L(1.33 × 10-4 Pa s)
[110]
の酸素に露出させた場合の (3 × 2) 構造の LEED パターン
1 nm
[001]
(図 1) と STM 像 (図 2) を示す。予想された構造モデル [1] を
図1 O/Fe/W(110)
のLEEDパターン
参考に、LEED パターンの回折強度分析により構造決定を試
図2 O/Fe/W(110)
のSTM像
図3 O/Fe/W(110)の予想
される構造モデル
みたが、それらモデルとは十分な一致に至らなかった。STM
C-9
Shockley state を用いたトポロジカル絶縁体の理解
福岡教育大学教育学研究科教育科学専攻 A , 福岡教育大学理科教育講座 B
倉留天翔A , 三谷尚 B , 松崎昌
之 B , 大後忠志 B
本研究ではトポロジカル絶縁体に関して、①旧来から知
は表面に平行な方向である。エネルギー固有値は E = ±β|p|
られている表面状態でエネルギーギャップを上下につなぐ
(β > 0) となり、Dirac cone を得て、かつ、cone 上の回転的
Shockley state、②スピン軌道相互作用から導出される Dirac
なスピン方向も導出できる。
cone 状態、が両立する可能性を示す。
以上、(1) を導出したハミルトニアンの固有関数は z 方向、
Shockley state について
(2) は xy 方向であり、両ハミルトニアンは和の形で分離さ
バルク内部でバンドギャップを形成する電子状態を解析接
れ、波動関数は積事象となり、両概念が両立すると考えた。
続する事で、表面の境界条件を課した波動関数(表面近くで
の減衰解等)が自然に得られる(図1に数値計算、左側が表
表面外
表面
バルク内部
面、波数方向は z 方向)。エネルギーバンドは次式:
E = (h̄2 /2m)(G2 − K 2 )
Z方向
±(1/2)|V0 |(1 − (h̄4 k 2 G2 /m2 V02 )). (1)
スピン軌道相互作用について
このハミルトニアンは次の形:
ポテンシャル
[
⃗ × p⃗) · ⃗σ ]. (2)
H = −(1/2m2 c2 ) (E
図 1 Shockley stateの数値計算(バンドギャップ内)
⃗ はバルク内部から表面へ向かう方向で、z 方向。p⃗
電場 E
25
C-10
トポロジカル絶縁体,Bi1−x Sbx 薄膜の物性
福岡教育大学教育学研究科教育科学専攻理科教育コース A , 福岡教育大学理科教育講座 B , 福岡教育大学理
科教育講座 C
福田克也A , 三谷尚 B , 大後忠志 C
トポロジカル絶縁体は,バルク内部は絶縁体であるが,強
しかし,この結果は,既存の研究で Bi1−x Sbx がトポロジカル
いスピン軌道相互作用により資料の表面にスピン偏極した伝
絶縁体とされている範囲から約 8% 右にシフトした値になっ
導状態が出現すると考えられている。3次元トポロジカル絶
ている。その理由については,現在検討中である。他方 Bi 単
縁体の例として,Bi1−x Sbx が挙げられる。この物質では,Sb
体の薄膜も作製し,X 線回折では単一のピークも得ている。
の組成比が 7∼22% においてバルクが絶縁体になり,これが
今 後 ,佐 賀 県 シ ン ク ロ ト ロ ン 光 研 究 セ ン タ ー ビ ー ム
トポロジカル絶縁体相であることが報告されている。なお,
ラ イ ン に お い て 光 電 子 分 光 に よ る Bi1−x Sbx お よ び ,
Sb の組成比が 7∼22% 以外では半金属となる。
Bi 単 体 の 薄 膜 表 面 電 子 状 態 の 観 察 を 予 定 し て い る 。
我々は,RF スパッタリング法を用いて Si 基板とホウケイ
600
酸ガラス基板上に Bi1−x Sbx (Sb の組成比が約 0∼80%) の薄
500
B
A
400
抵抗(Ω)
膜の資料を作成し,そのうち 7∼22% の範囲が絶縁性を見せ
ることを目指した。薄膜の評価方法として,EPMA による組
成分析,直流四端子法による電気抵抗の測定,X 線回折によ
300
200
A
100
る結晶構造の解析を行った。Fig.1 は,薄膜の抵抗値の Sb 含
トポロジカル絶縁体とされる範囲
B
0
有量依存性である。Sb 含有量が 16∼30% で抵抗値が大きく
0
10
30
40
50
60
70
80
薄膜の抵抗値が高い範囲
Sb含有量(at%)
Fig.1 薄膜抵抗値のSb含有量依存性
なり,この範囲でバルク内部が絶縁体となったと考えられる。
C-11
20
ペロブスカイト酸化物誘電体の分子軌道計算によるイオン間結合性の評価
福岡大学理学部物理科学科 A
石橋和也A , 武末尚久 A
ぺロブスカイト酸化物誘電体の誘電性は、その結晶に含まれるイオンの寛容性に依存する。寛容性は、イオン球モデルに基づい
たイオン半径によるが、現存の典型データは、形式電荷と特定の結晶構造より求めらたものであり、有効電荷とは対応しないの
で汎用できない。そこで本研究では、分子軌道計算により、ぺロブスカイトクラスターに含まれる原子の有効電荷等の結合性を
調べ、原子サイズ (格子定数) と対応させることを試みた。この計算には、DV-X α法 (使用コード scat) を用いた。モデルに
は、立方格子に金属元素 (A、B と記す) を占有させた ABO3 クラスターの、2 × 2 × 2 のサイズのものを用いた。計算の結果、
B 原子の有効電荷は、格子のサイズが大きくなると、単調に減少することが分かった。このことより、B 原子は、小さい結晶格
子では、正のイオン性を強めて自身のサイズを小さくし、格子に適合すると考えられる。同様に、大きい格子では、共有結合性
を強めて自身のサイズを大きくして適合すると考えられる。また、この結合性の格子サイズ依存性は、価電子の形式電荷が高い
ほど強いことが分かった。一方、A 原子については、格子サイズが小さいと、B 原子と同様の依存性があるが、格子が大きい
と、依存性は、A 原子の価電子の形式電荷の大きさによることが分かった。具体的には、A 原子の形式電荷が大きい場合 (例え
ば +3) は、格子が大きくても依存性は B 原子と同様であるが、小さい場合 (例えば +1、+2) は、その逆であることが分かっ
た。この後者の理由として考えられることは、形式電荷が小さい A 原子には、O 原子と比較的長距離の共有結合をするための
十分な電子がないということである。
26
C-12
V ナノコンタクトへの低温水素吸蔵による電子状態制御
九院工 A , 東工大理 B , 金沢大教育 C , 九大院総理工 D
高田弘樹A , 家永紘一郎 B , 梶原祐太 A , モハメドサ
イフルイスラム A , 稲垣祐次 A , 辻井宏之 C , 橋爪健一 D , 河江達也 A
これまで我々は、金属への低温での水素吸蔵のふるまい
Vanadium in Liq. H2
T ~ 18K
を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 、液 体 水 素 中 に 浸 し た 金 属
(Pd,V,Nb など)ナノコンタクトの電気伝導特性変化に注
目して研究を行ってきた [1]。特に V ナノコンタクトへの
水素吸蔵実験を行ったところ、十分に水素吸蔵が生じるこ
とで、電圧の増加に伴って微分伝導度も増加する特異な振
る舞いが生じることが明らかになった(図 1)。微分伝導特
性に現れるこの特異なふるまいは、V ナノコンタクトへ重
水素を吸蔵させることによっても出現する。この特性が V
への水素・重水素吸蔵どちらにおいても出現すること、お
よびコンタクトサイズ変化に対する信号の依存性などから、
水素・重水素吸蔵によって V の電子状態そのものに変化
が生じていると我々は考えている。本講演では、これら実
験結果について詳細に報告する。[1]K. Ienaga, H. Takata,
図1 T~18Kでの液体水素中に浸したVナノコンタクトにおい
て観測される微分伝導特性。電圧の増加に伴って微分伝導
度も増加する、特異な振る舞いが現れている
Y. Onishi, et al, Appl. Phys. Lett. 106, 021605 (2015)
C-13
Fe ナノコンタクトを用いた低温における鉄水素化物生成
九大院工 A , 東工大理工 B
梶原裕太A , 高田弘樹 A , 家永紘一郎 B , 稲垣祐次 A , 河江達也 A
純鉄 (bcc-Fe) に室温常圧下では水素はほとんど固溶しない
ノンの相互作用の抑制などから水素化を示唆しているのでは
が、水素圧下約 3.5GPa では固溶が生じ、dhcp 構造の水素化
ないかと考えられる。当日は 2 準位系に起因すると考えられ
物 FeH となる。高圧下で得られる hcp-Fe が非磁性であるの
る低バイアス異常等を合わせて報告する。
に対し、鉄水素化物 dhcp-FeH は室温で強磁性を示すといっ
[1] K. Takahashi et al., Sci. Rep. 4, 4598 (2014)
たことなどから、その物性はとても興味深い。
[2] K. Ienaga et al., Appl. Phys. Lett. 106, 021605 (2015)
このようなバルク FeH に対して、近年、ナノスケールの Fe
て、これまでに我々が Pd などの金属ナノコンタクトにおい
0.96
0.92
2
今回、我々は Fe ナノコンタクトに着目した。実験手法とし
(b)
100
0
2
低温において水素化物を生成する報告 [1] がされているため、
200
(a)
1
d I/dV [G0/V]
Normalized dI/dV
と水素の系に関する研究が様々行われている。Fe ナノ粒子が
-100
-200
て水素吸蔵現象の直接的観測を行ってきた非弾性電子分光法
0.88
-60
[2] を用いた。その結果、液体水素中においてコンタクトのサ
-40
-20
0
20
40
60
-60
-40
-20
0
20
40
図 1: Fe ナノコンタクトの(a)d𝐼/d𝑉、(b)d2 𝐼/d𝑉 2 スペクトル
青:in vacuum (T~14K) , 赤:in liquid H2 (T~15K)
The zero bias conductance is 80G0 in (a)(b).
イズを減少させることで図1のように真空中とは大きく異な
る微分伝導特性が得られた。これは電子とピュアな Fe フォ
27
60
C-14
低温における Pd ナノコンタクトへの水素吸蔵・拡散現象の研究
九大工 A , 九大院工 B , 金沢大教育 C
瀬尾優太A , 高田弘樹 B , 梶原裕太 B , 稲垣祐次 B , 辻井宏之 C , 河江
達也 B
質量が非常に小さい水素は低温環境下で強い量子性を示し、低温環境下では金属内での水素の移動が量子トンネル効果によっ
て起こっていると考えられている。そこで、私たちはポイントコンタクトスペクトロスコピーを用いて、低温環境下での水素と
Pd との相互作用に注目した研究を行ってきた。 先行研究 [1] では、液体水素環境下 (T=14 20K) においても Pd ナノコンタ
クトへの水素の吸蔵が起こることが分かっている。しかしながら、この水素吸蔵の機構はよくわかっていない。 また、これま
では dI/dV を数値微分することで d2I/dV2 を求めていたが、ロックインアンプを二台用いた手法によって、d2I/dV2 を直接
測定することが可能になり、高い精度で電気伝導度変化を追跡することが可能になった。そこで今回、私たちはこの手法を用い
て、低温における水素の Pd ナノコンタクトへの吸蔵・拡散過程を明らかにすることを目的に実験を行っている。本講演では、
これまでに得られた結果を報告する。
[1] K. Ienaga, et al., Applied Physics Letters 106, 021605 (2015)
28
会場 D
領域 11, 12
D-1
界面活性剤溶液中の液晶液滴の運動
九大院理 A , 九大院理 B
菅真梨子A , 木村康之 B
界面活性剤溶液中に液晶液滴を分散させると、液滴中に発
生するマランゴニ対流によって液滴が駆動され、溶液中を複
雑な軌道を描いて自己推進することが近年報告されている。
例えば、ネマチック液晶液滴では、三次元においてらせん運
動を示すことが観察されている [1]。実験には、界面活性剤
図1 TTAB 溶液に分散させたネマチック液晶液滴
(スケールバーは 100μm)
TTAB 水溶液中に、ネマチック液晶 5CB の液滴を分散させ
た系を用いた。図 1 に、溶液中で分散させたネマチック液晶
液滴の例を示す。また、図 2 に軌跡の例を示す。先行研究と
同様に直線的な並進運動とそれを軸とするような回転運動を
ともに示すことがわかる。先行研究では、ある一定のサイズ
のみの報告になっているが、本研究では、液滴サイズを変化
させたときの運動の違いを観察したので報告する。
[1]K.Carsten et al. Phys. Rev. Lett. 117, 048003 (2016).
図2 ネマチック液晶液滴の軌跡(二次元)
29
D-2
液晶液滴の回転運動
九大院理 A
田村優太A , 木村康之 A
光により微粒子の回転運動を誘起できれば、ミクロンス
光を照射して、その回転挙動も調べたので当日報告する。
ケールの光駆動モーターとしての応用が期待できる。近年、
光ピンセットを用いて複屈折を持った微粒子に回転を誘起す
る研究が活発に行われている。その一例として、ネマチック
10mm
液晶液滴に円偏光を照射すると、光電場により液晶分子の配
10mm
図1: ネマチック液晶液滴の偏光顕微鏡像。
(左)電場なし。 (右)電場あり。
Rotation frequency (Hz)
向が変化することで (図1)、ネマチック液晶液滴を回転可能
であることが報告されている。
水中に分散したネマチック液晶 (5CB) 液滴を円偏光した
レーザー光を用いてトラップしたところ、偏光方向に依存
5
4
3
2
1
0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
Power (W)
図2: ネマチック液晶液滴の回転数とレーザー強度の関係。
クロスニコル下で観察した液滴の明暗の強度分布から求めた。
した向きに液滴が回転する様子が観察された。また、レー
ザー強度が増すと液滴の回転数が線形に上昇することがわ
かっ た(図 2)。さら に、コ レス テリック 液晶 液滴 に円 偏
D-4
液晶の電気対流
九大院理 A
高田哲弘A , 田村優太 A , 木村康之 A
負の誘電異方性を有するネマチック液晶に閾値以上の交流
液晶中に分散させて、試料中での流れ場の様子も同時に観測
電圧を印加すると、ある閾値電圧で対流が発生し、様々な対
を行った。電場を印加しない状態でコレステリック液晶はら
流パターンが現れる。光学活性を有するコレステリック液晶
せん状に配向方向がねじれているために、FCPM を用いて観
では、分子配向に空間的なねじれを伴うために、ネマチック
察すると図1のような縞状パターンが観測される。電圧上昇
液晶とは異なるパターンの遷移が起こることが偏光顕微鏡を
に伴い厚さ方向に図2, 3のような特徴的な折り畳み構造が
用いた観察で明らかにされている。しかし、コレステリック
出現することが明らかとなった。
液晶の電気対流の3次元的な構造は直接観察されておらず、
そのパターン遷移の詳細な過程は不明であった。本研究では、
ネマチック液晶に少量の光学活性体を加えて作成したピッ
チの長いコレステリック液晶を用い、蛍光共焦点偏光顕微鏡
(FCPM) により電気対流の3次元構造観察を行った。FCPM
法は蛍光共焦点顕微鏡と偏光顕微鏡の両方の性質を合わせ持
つために、液晶配向状態を高い空間分解能で3次元的に観察
図1. 無電場でのFCPM像
することが可能となる。また、数ミクロンサイズの微粒子を
30
図2. ストライプパターンの
FCPM像
図2. グリッドパターンの
FCPM像
D-5
二相溶液の電気粘性流体のシミュレーション
九州大学理学府 A , 九州大学理学研究院 B
二相溶液の電気粘性効果をシミュレーションする為に、流
宇土弘毅A , 中西秀 B , 坂上貴洋 B
ンドが生じて実効粘性は小さくなった。一方 3 次元系では、
体力学的な効果を加えた相分離現象のモデルであるモデル H
電場と流れに垂直な法線ベクトルをもつ界面が生じることが
に、相に依存する誘電率と電場の効果を加えた。このモデル
予備的な数値計算でわかった。その構造では界面張力がずり
を用いてシミュレーションを行い、二相溶液の界面構造の変
粘性に寄与せず、実効粘性は溶液の粘性と等しくなった。
化が粘性にどのような影響を与えるかを調べた。
電気粘性効果とは電場により溶液の実効粘性が変わる現象
[1] K. Tajiri, K. Ohta, T. Nagaya, H. Orihara, Y. Ishibashi, M. Doi, A.
であり、誘電率の異なる二相溶液 [1,2] や懸濁液 [3] で報告さ
Inoue; J. Rheol. 41 (1997) 335.
れている。我々は特に粘性は等しいが誘電率が異なる二相が
[2] H. Orihara, A. Taki, M. Doi, A. Inoue; J. Rheol. 45 (2001) 1479.
分離した系を想定し、数値シミュレーションを行った。系の
[3] T. C. Halsey; Science 258 (1992) 761.
上下を電極で挟んだ系を考え、それぞれの電極を左右の逆方
向に動かしせん断流を発生させた。また、電極間に電位差を
与え上下方向の電場を発生させた。一定の電場の下でせん断
せん断速度が小さいとき
速度を変化させたときに界面構造や実効粘性がどのように変
化するかを観察した。
その結果、2 次元系では、せん断速度が小さいときには流
せん断速度が大きいとき
1
1
0.5
0.5
0
0
-0.5
-0.5
-1
-1
れ方向に傾いた電極間をつなぐコラム状の界面構造が安定し、
界面張力の寄与により実効粘性が大きくなった。せん断速度
を大きくしていくとコラム状の界面構造は不安定化しシアバ
D-6
生細胞内部のマイクロレオロジー計測
九大物理 A
西澤賢治A , 水野大介 A
細胞内は、様々なタンパク質等からなる高濃度の高分子コ
濃縮しながら、細胞骨格阻害・駆動力を制御しながら行うこ
ロイドで満たされており、その上モータータンパク質の非熱
とで、力学的非平衡下での高分子混み合い効果、細胞骨格、
的な力により駆動されて、原形質流動や巨大な揺らぎが生成
非熱的な駆動力が細胞内部の力学特性へ与える影響の究明
されている。多くの高分子コロイドは凝縮させることでガラ
を試みた。細胞内部はガラス的な挙動を示すことが分かっ
ス化すること、また力学外場に対して非線形に応答すること
たが、濃度増加に伴う粘性率増加挙動が細胞抽出液とは異
が知られている。生きた細胞内では、細胞骨格が三次元に張
なることも分かった。その違いを生み出す要因が細胞内部
り巡らされる中で、多成分の高分子コロイドの複雑な混み合
の非熱的な力学駆動にあるのではないかと示唆された。ま
い状態と自発的な力駆動が混在するが、こうした非平衡凝縮
た細胞の形状と力学特性を関連づける結果も得られた (図)。
系の力学環境が決定される物理メカニズムは殆ど分かってい
ない。
そこで本研究では、生細胞内部の力学特性を、物理的に
理解することを目的とした実験的研究を遂行した。具体的
には、代謝活性が除去された平衡状態の細胞抽出液を用い
てマイクロレオロジー計測を行い、高分子混み合いに伴う
力学特性の変化を定量的に計測した。さらに生きた細胞内
部のマイクロレオロジー計測を、浸透圧により細胞内部を
31
D-7
細胞内力学の生体高分子混み合い依存性
九大物理 A
池永匡宏A , 西澤賢治 A , 水野大介 A
細胞内部では細胞骨格が3次元のネットワーク構造を形成
見られなかった。
当日は大腸菌についての結果とあわせて発表する。
しており、その隙間にさまざまな生体高分子がひしめき合っ
ている。最近、こうした細胞質の混雑状態は、細胞種に依存
しない普遍的なガラス状態を生み出すことが分かってきた。
例えば図に示す通り、大腸菌、アフリカ爪ガエルの卵、哺
乳動物の真核細胞(HeLa)から抽出した細胞質の粘性率は全
て同様な超指数関数的な濃度依存性を示す (図中緑曲線)。他
方で代謝活性を持つ生細胞内部の力学特性にも同様な普遍性
が現れるか分かっていない。
本研究では、MDCK、HeLa(真核細胞) と大腸菌 (原核細
胞) 内部の粘性率をマイクロレオロジー計測した。図に示す
通り、MDCK と HeLa の粘性はいずれも濃度の純粋な指数
関数として上昇し (図中ピンク直線)、両者の間に有意な差は
D-8
細胞競合のメカニクス
九州大学 理学部 A , 九州大学 理学府 B , 九州大学 理学研究院 C
永尾渉A , 梅田勝比呂 B , 西澤賢治 B ,
水野大介 C
細胞集団が組織や個体の形態形成を行う際には、異なる細
で振動計測した。
胞集団での競合状態が生じている。細胞競合における勝者と
図はコラーゲンゲル及びポリアクリルアミドゲルのずり弾
敗者を分ける過程では、遺伝子的・生化学的な因子以外に、細
性率の応力依存性を示す。これによってコラーゲンゲルに力
胞や周囲環境の力学的な特性や物理的な力による相互作用も
が働くことで非線形的に大きく硬化していくことがわかった。
重要な役割を果たす。
当日は薬物依存的な Ras の発現前後の力学的性向についての
本研究では、細胞の癌化を誘導する Ras(北大藤田研提供)
議論も行う。
/.-,+*)('&%
を薬物依存的に発現させ、周囲の正常細胞との競合状態を作
り出し、その前後での細胞と周囲環境の力学特性を観測する
ことを目指している。
まず、培養ゲル(コラーゲンおよびポリアクリルアミド)上
に疎らに播種した孤立細胞や、同種の細胞シート内部の力学
特性を Ras 発現前後で計測して比較し、競合状態とは無縁の
5678697:;<9#1=>?@A%&'()
BCD<E<9%&'()
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"
#
$
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細胞個々の力学的性向を解析した。また、同時に接着するゲ
ルのずり弾性率を一定の応力を加えつつ、1.2rad/s の周波数
32
$
$0
234+-./
$00
D-9
動的非平衡クロス効果:動く温度勾配下の流れと秩序
九州大学理学研究院物理学部門 A , 科学技術振興機構さきがけ B
福山達也A , 前多裕介 A,B
温度勾配下で溶質分子が輸送される現象(Soret 効果)は非
平衡物理学の中心課題の一つである。これまでに我々は高分
子 Polyethylene glycol(PEG) 水溶液中では、Soret 効果と2
次的な PEG 濃度勾配による拡散泳動の競合で溶質分子の分
布に様々なパターンが生じることを明らかにしている [1]。静
的な温度勾配下での輸送現象の理解が進む一方で、温度勾配
が動く非平衡系の研究は十分ではない。本研究では動く温度
勾配下での輸送現象について実験・理論的解析を行った。
実験では PEG 水溶液中に赤外レーザーを集光・円形スキャ
ンすることで動く温度勾配を実現した。その結果、流動が
発生・レーザー移動速度に対し流速が極大値をもつことが分
かった。さらに理論モデルを構築し、流動の物理的起源が「熱
拡散・熱膨張・粘性変化」のクロストークにあることが明ら
かになった。本発表では実験結果と理論モデルの詳細を示す
とともに、光と熱による新たな分子技術についても議論する。
[1]Y.T. Maeda, A. Buguin, A. Libchaber. Phys. Rev. Lett.
107, 038301 (2011); Y.T. Maeda. App. Phys. Lett. 103,
243794 (2013).
D-10
非平衡鋳型重合反応による情報成長の統計則
九州大学理学部 A , 九州大学理学研究院物理学部門 B , 科学技術振興機構さきがけ C
野上晋平A , 福山達
也 B , 前多裕介 B,C
細胞分裂など自己複製において DNA は遺伝情報を保つ分子として重要な役割をもつ。では、いったいどのように太古の地球
においてどのように DNA を保持する生命システムを得るに至ったのだろうか。このような生命の起源を考える上で一つの大き
な問題がある。細胞のような組織化された集合体が形成されるには DNA などの分子が濃縮されていること、かつ必要な分子
が選択的に選ばれることが求められる。これは「生命の起源の濃度問題」と呼ばれる問題である。この問題を解決するために、
我々は非平衡系における分子の輸送現象に着目し [1]、温度勾配下の非平衡系における DNA の輸送現象と酵素反応を研究した。
熱平衡条件下または温度勾配下において酵素反応(Ligation)を行い、qPCR(Quantitative polymerase chain reaction) を
用いて DNA 長さ毎の濃度を高感度計測した。qPCR では PCR において蛍光色素を加えることにより合成された DNA に結
合することによって蛍光が増量される。これを測定することによって DNA の初期濃度を計測する方法である。その結果、平
衡条件下においては Ligation 回数に比例して DNA の濃度は指数関数的に減少する、つまり合成された DNA の重合度に比例
してその濃度が指数関数的に減少することがわかった。本講演では非平衡条件である温度勾配下で起こる Ligation から生じる
DNA の長さ-濃度分布をも計測し、指数関数的減衰がいかに補正されるかを理論・実験の双方から議論する。[1] Y.T.Maeda,
et al. Phys. Rev. Lett. 107, 038301 (2011) [2] Y.T.Maeda, et al. PNAS 109, 17972 (2012)
33
D-11
境界形状に誘起されるバクテリア集団運動のトポロジカル欠陥
九州大学理学部
A
, 九州大学理学研究院物理学部門 B , 科学技術振興機構さきがけ
C
別府航早A , 合屋
純 A , 前多裕介 B,C
自律的に動く粒子をアクティブマターとよび、その集団は
a
準長距離の方向秩序をもつ集団運動を示す。代表的なアク
b
c
ティブマターはバクテリアである。バクテリアは擬2次元平
面では乱流様の構造を示すが、円柱状の油中水滴のなかでは
30μm
境界に沿った渦運動へ変化する [1]。しかし、円形以外の境界
形状に拘束された集団運動で、どのようなパターンが現れる
図1.a)円形境界に閉じ込めた大腸菌
を角度毎に色分けしたカラーマップ
かは明らかではない。
b)PIV による平均化された速度場 c)速度場
我々は、大腸菌集団を様々な境界形状のマイクロチャン
バーに封入する手法を開発し、集団運動の解析を行った (図
1(a))。その結果、円形境界では一つの大きな渦を形成するこ
と (図 1(b))、渦の中心付近に位相欠陥が生じることがわかっ
た (図 1(c))。本講演では更に、円形以外の境界で渦の共存や
位相欠陥がどのように変化するか詳細を報告する。
[1] H. Wioland, et al., Phys. Rev. Lett. 110: 268102
(2013).
D-12
自己駆動ロッドモデルにおける渦運動と位相欠陥
九州大学理学部 A , 九州大学理学研究院 B , 科学技術振興機構さきがけ
C
合屋純A , 別府航早 A , 前多裕
介 B,C
魚や鳥、人などは能動的に動き、時として群れやレーンなど巨視的なパターンをもつ集団運動を示すことが知られている。外
力がなくとも自発的に動き方向を変えることや、要素間の衝突で向きを揃える過程などは単純な質点の運動とは異なり、パター
ン形成の理解には新たな力学が必要とされる。このような物質群は自己駆動粒子と呼ばれ、その代表例はロッド形状をもつ運動
性バクテリアである。バクテリア B.subtilis の動きはランダムであるが、高密度の懸濁液を円柱状の油中水滴に封入すると、境
界に沿って菌の集団が配向を揃えて渦状の集団運動を行うことが報告されている [1]。また我々は、ひょうたん型や花型のマイ
クロチャンバーに封入されたバクテリア E. coli の集団では、渦運動や渦がペアとなって共存する集団運動が出現することを見
出している。そこで本研究は、様々な境界形状下での自己駆動粒子の自己組織化を理解するため、数値計算シミュレーションか
ら解析を行った。
数値シミュレーションには自己駆動粒子間の配向相互作用をネマチックとする自己駆動ロッドモデルを用いた [2]。ひょう
たん型形状の境界に拘束された自己駆動粒子集団の数値計算では、対をなした渦ペアが形成されること、渦の回転方向が同じ向
き・反対向きの渦ペアが出現することがわかった。本講演では、モデルの詳細を示すとともに、計算結果を実験と比較すること
で、渦ペア形成を導く自己組織化のメカニズムを考察する。
参考文献
[1] H. Wioland, et al. Phys. Rev. Lett. 110, 268102 (2013)
[2] D. Nishiguchi, et al. arXiv: 1604.04247(2016)
34
D-13
遊走微生物二次元懸濁液における非平衡ゆらぎ
九州大学理学部 A , 九州大学理学研究院 B
アクティブマターや生体システム等の非平衡系は、多くの
場合遊走微生物やモーター蛋白質等のミクロな力生成体によ
安藤祐貴A , 水野大介 B
ど寄与せず、これと完全に分離した裾野の広がりを引き起こ
す。当日は、この特異な分布形状の起源について議論する。
り力学的に駆動されている。最近、これらの力生成体が 3 次
元空間中に引き起す非平衡揺らぎは古典的な中心極限定理に
は従わず、広い裾野を特徴とする非ガウスな極限分布に収束
することが示された。当該理論は、任意の空間次元に拡張す
ることが可能であり、非ガウス揺らぎの分布形状は力生成体
が存在する空間次元に著しく依存することが予測される。本
研究では超音波を用いて遊走微生物と揺らぎ観測用のプロー
ブ(コロイド粒子)を 2 次元平面内(音圧の節)に拘束し、
2 次元揺らぎの確率分布を求めた。3 次元空間の非ガウス揺
らぎと異なり、2 次元の非平衡揺らぎは分布の中心部分に殆
D-14
生体高分子ゲル中を遊走する微生物による非熱的な揺らぎ
九大院理 A
棚町昂平A , 奈良周平 A , 水野大介 A
細胞内部では、生体高分子からなるネットワーク(アクチ
ン)が分子モーター(ミオシン)との相互作用により、生命活動
が加わることで、reptation が増強される可能性がある。本
研究では、この enhanced reptation も観測できた。
(図参照)
に必須な非熱的な力を生成している。本研究では、粘弾性体
中を安定的に遊走することができる微生物(スピロプラズマ)
&'(
/.-,+**)
を、絡み合い高分子(キサンタンガム)からなる水和ゲル中に
分散させることで、細胞内部における分子モーターによる力学
的駆動を模した非平衡状態を水和ゲル中に作り出した。この
遊走微生物ゲルの力学的性質を、マイクロレオロジー法 (MR)
%
$
#
+)**
"
[email protected]
+CD-+=8E58BAF2
+@8=A4@+F25;
!
を用いて調べた。媒質中の粒子変位の非熱的な揺らぎを定量
化すると同時に、試料のずり粘弾性 G(ω) をマクロレオメー
タを用いて計測し、両者の関連性を考察した。また、一般的
0
&'(
!
"
#
$ % 1 0
(
.2345.6+789482:;+<+,6.=>?/
に絡み合いゲルでは熱的揺らぎによってほどけて流動化する
reptation と呼ばれる現象が知られている。ここに力生成体
35
D-15
細胞性粘菌の枝状集合に関する数理モデル
九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻 A , 九州大学大学院総合理工学研究院融合創造理工
学部門 B
草垣拓馬A , 坂口英継 B
生物の分化メカニズムを研究するためによく用いられる
相を用いて表現した位相方程式と Keller-Segel モデルを改良
細胞性粘菌という生物がいる。細胞性粘菌は他の生物には
した粘菌濃度の式により2次元でのシミュレーションを行っ
見られない奇妙な生活サイクルを有しており、単細胞体と多
た。図はある時刻での細胞濃度と cAMP 振動の位相を示す。
大
細胞体の間を行き来する。本研究では、単細胞体が集まるこ
とで多細胞体へと変化する集合過程のメカニズムに注目し
た。集合過程では、細胞性粘菌は cAMP(環状アデノシン
一リン酸)という化学物質をお互いに分泌し、感知すること
で集合が起きる。この時、cAMP の濃度は一定に分泌され
小
るのではなく、振動することがわかっている。この集合現象
細胞濃度 cAMP濃度の振動位相
を再現するためモデル式を考案した。cAMP 振動をその位
D-16
心臓の不整脈におけるスパイラルパターンの制御
九州大学大学院 総合理工学府 量子プロセス理工学専攻 A , 九州大学総合理工学研究院 融合創造理工
学部門 B
迎祐樹A , 坂口英継 B
我々の心臓の拍動は、右心室の上部にある洞結節と呼ばれ
る部分から電気的興奮が規則的に心臓全体に伝播すること
で行われている。不整脈とは心臓の拍動が異常になる病気
のことをいい、心室頻拍や心室細動と呼ばれる状態が特に
危険である。近年、心室頻拍時に心臓の電気的興奮が心室内
にスパイラル状の空間パターンを形成する様子が光学的に
観測されている。Aliev,Panfilov は犬の心筋を用いた実験に
より、電気的興奮の伝播を表す2変数の数理モデル(AP モ
デル)を提案した。AP モデルを用いたシミュレーションで
はスパイラル発生後、時間が経つとスパイラルが崩壊して
いく様子 (右図) が見られる。これは、不整脈時の心臓の状
態が心室頻拍から心室細動に移り変わることに対応してい
る。また、微弱な電気ショックを与えることでスパイラル状
の電気的興奮を取り除くことができ、これが不整脈の治療
(除細動)に相当する。今回、AP モデルに加えて心筋膜の伸
縮を考慮した数式を取り入れてシミュレーションを行った。
36
D-17
回転下でのスピン軌道相互作用を持つボーズ・アインシュタイン凝縮体の基底状態にお
ける多重渦形成
九州大学大学院 総合理工学府 量子プロセス理工学専攻 A , 九州大学大学院 総合理工学研究院 融合
創造理工学部門 B
梅田貫志A , 坂口英継 B
スピン軌道相互作用は固体の性質に極めて重要な役割を
で研究した結果を発表する。 下図は量子渦の一例である。
果たす。レーザーと原子の相互作用により、スピン軌道相互
作用を持つボーズ・アインシュタイン凝縮体が 2011 年に実
現した。また、ボーズ・アインシュタイン凝縮の示す特徴の
一つが、渦の循環である。この渦は量子渦と呼ばれ、古典流
体力学の渦現象とは異なる渦現象を示す。回転下でのスピ
ン軌道相互作用項を持つボーズ・アインシュタイン凝縮体の
粒子の存在確率
(中心に渦ができている)
基底状態に生じる量子渦について、Gross-Pitaevskii 方程式
D-18
位相
(位相欠陥が生じている)
離散的対称性と LSM の定理
九大物理 A
磯山貴一A , 野村清英 A
量子多体系における重要な要素としてエネルギーギャップの有無や基底状態での縮退の有無がある。これについての代表的な
先行研究として、Lieb,Schultz,Mattis[1] (LSM)は基底が唯一の S=1/2 XXZ スピン鎖では基底状態よりも高々 1/L のオー
ダー(L はシステムサイズ)だけエネルギーの高い励起した状態があることを示した。一方で Kolb[2] は波数の関数での最低エ
ネルギー分布を考え、波数 q → q+ πという非自明な周期性や連続性について議論した。
波数についての最低エネルギー関数は、対象とする系に応じてエネルギーギャップのあるもの、エネルギーギャップのないも
のが存在する。これらの違いを生み出す要因の一つに基底状態の構造があるが、その基底状態の候補としては dimer 的なもの
や Néel 的なものがあり、これらは離散的対称性(スピン反転対称性や空間反転対称性、時間反転対称性)によって特徴づけら
れる。LSM 的な方法で構成される基底状態は、これらの dimer 的 Néel 的な要素が混じったものとなっており、これまで具体
的に議論されてこなかった。
本研究 [3] ではこれらの基底状態とエネルギー分布との関係、またその過程には normalization の議論が必要だったことを示
した。加えて、限定的な離散的対称性でもこの議論が可能であることやその応用として magnetic plateau の場合についても述
べる予定である。
[1] E.Lieb,T.Schultz,D.Mattis: Annals of Physics, 16,(1961), p.407-466
[2] M.Kolb: Phys.Rev.B 31, (1985) p.7494.
[3] T.Isoyama, K.Nomura https://arxiv.org/abs/1605.03385
37
D-19
Ashkin-Teller 多重臨界点のひねり境界条件法による解析—S=1/2 ボンド交代 XXZ スピ
ン鎖—
九大理 A
向大樹A , 野村清英 A
転移点を数値的に精度よく決定することは臨界指数の計算で重要になる。しかし、一般に多重臨界点近傍では旧来の有限サイズ
スケーリング法がうまく機能せず、転移点を精確に決定する一般的な方法はない。本発表では一例として S = 1/2 ボンド交代
XXZ スピン鎖の多重臨界点を扱う。ハミルトニアンは以下で与えられる
]
[
∑
y
x
z
+ ∆Ŝjz Ŝj+1
.
Ĥ =
[1 − (−1)j δ] Ŝjx Ŝj+1
+ Ŝjy Ŝj+1
(1)
j
この模型は隠れた Z2 × Z2 対称性を持ち、1 次元量子 Ashkin-Teller 模型 (AT 模型) に等価であることが知られている [1]。
∆ − δ 相図は BKT 転移 (XY-dimer)、Gaussian 転移 (dimer-dimer 転移)、2D Ising 転移 (dimer-Néel) から成り、Gaussian 転
移線は 2 本の 2D Ising 転移線に分かれ 3 重臨界点を作っている。この Néel-dimer 多重臨界点は SU(2) 対称な点 (δ, ∆) = (0, 1)
だろうと考えられているが数値計算で追い詰めた研究はまだない (有限サイズスケーリングによる先行研究はある [2])。そこで
Gaussian 転移で有効な z 軸まわりのひねり境界条件法 [3] から着想を得て、y 軸まわりのひねり境界条件法を考え多重臨界点
近傍の相転移を数値的に調べた。周期境界条件 (PBC) での第一励起エネルギーと y 軸まわりのひねり境界条件での最低エネル
ギーとの準位交差から転移点を決定する方法を考え、その方法を用いて多重臨界点近傍の相転移を数値的に調べた。その結果、
有限サイズスケーリングに比べて y 軸まわりのひねり境界条件法の方がサイズ依存性が小さいことがわかった。また、この方法
の理論的正当性についても考察した。
[1] M. Kohmoto, M. den Nijs, and L. P. Kadanoff, Phys. Rev. B 24, 5229 (1981).
[2] H. Nishimori, K. Okamoto and M. Yokozawa, J. Phys. Soc. Jpn. 56, 4126 (1987).
[3] A.Kitazawa, J. Phys. A: Math. Gen. 30 285 (1997).
38
会場 E
領域 11, 12, 13
E-2
アメリカ型及び日本型極端格差社会の自己組織化
科学教育総研 A , 東京電機大理工 B
小田垣孝A , 石福彩華 B
近年多くの経済大国で深刻な格差形成が見られ、中でも米国や日本では極端な格差が社会問題となっている。これまでの所二つ
の異なった極端な格差社会が知られている。一つは、米国やカナダで見られるごく少数の勝ち組と多くの中間層が出現するプル
トノミーである。もう一つは、日本で見られるような、勝ち組と負け組の間の中間層が消滅したギャップ型格差社会である。格
差社会の形成に関しては、マクロ経済学の立場から T. ピケッティ [1] が人間の経済活動と関連づけ、資本収益率が賃金の上昇
率を超えると格差が継続的に増加すると結論づけた。一方、格差は社会性動物や昆虫でも見られ、物理学の立場からは統一的な
モデルによる格差形成の理解が求められる。ここでは、Bonabeau モデル [2] を援用し、勇敢で好戦的な個体 [3] と臆病で平和
的な個体 [4] が共存する社会を考える。正方格子上をランダムウォークする個体が出会ったときに戦い、勝者 (勝つ確率は両者
の富の差で決まる) は相手から単位の富を奪う。人口密度及び平和的個体の割合 x の空間において、MC シミュレーションによ
り自己組織化される社会構造を決定する。300 万 MC ステップ後の社会構造を、各個体の勝率の揺らぎおよび富の分布の変化
から判定し、平等社会及び通常の格差社会に加えて、人口密度の高いときに、xの値が小さい領域ではプルトノミー、中間領域
ではギャップ型、x の大きな領域では段丘型極端格差が自己組織化さることを示した。これらの極端格差は、強者に挑み続け
る個体と弱者とのみ戦おうとする個体が共存することによって生じることを示した。[1] T. ピケッティ, 「21 世紀の資本」(山
形, 守, 森本訳、みすず書房, 2014). [2] E. Bonabeau et al, Physica A 217, 373 (1995). [3] T. Odagaki and M. Tsujiguchi,
Physica A 367C, 435(2006). [4] M. Tsujiguchi and T. Odagaki, Physica A 375, 317 (2007).
39
E-3
AC トラップ中の少数帯電微粒子群の平衡配置と揺らぎの統計的性質
福岡県立大学人間社会学部 A , 鹿児島大学理学部 B , 名古屋大学工学研究科 C
石崎龍二A , 秦浩起 B , 庄司
多津男 C
帯電微粒子 1 個を交流電場によって閉じ込めると、電場の強さや周波数といったコントロールパラメータの変化により、静
止、周期運動、不規則運動などが観測される。散逸項を加え、AC トラップ中の帯電微粒子のポテンシャルに非線形性を考慮し
た非線形 Mathieu 方程式では、固定点、安定周期運動からカオスへ分岐現象が観測される [1]。
交流電場によって閉じ込められた粒子が 2 個以上になると、粒子間にクーロン力が働くため、AC トラップによる有効ポテン
シャルによる中心力とクーロン斥力との釣り合いで、安定な粒子配置やカオスが発生する。2 個の場合、コントロールパラメー
タの変化により交流電場の周期による強制振動、準周期振動、カオスが発生する。粒子数が 3 個の場合、帯電粒子が三角形の配
置を保ちながら、中心から放射状に電場の周期で振動する解があらわれる。この配置は、回転に対して中立安定である。コント
ロールパラメータを変化させると、安定配置が不安定になり、粒子の間欠的な配置換えが発生する [2]。
本講演では、AC トラップ中の少数帯電微粒子群で発生する平衡配置とカオス的運動の統計的な性質について報告する。
参考文献
[1] R. Ishizaki, H. Hata, and T. Shoji: J. Phys. Soc. Jpn. 80 (2011) 044001.
[2] R. Ishizaki, H. Hata, T. Shoji, and Y. Furuta: Procedia IUTAM (IUTAM Symposium on 50 Years of Chaos: Applied
and Theoretical), Vol.5, (2012) pp.234-239.
E-4
ガラス転移点近傍の異常拡散
九大理 A
酒井雄太A , 松井淳 A
ガラス転移点の近傍の液体では分子運動が異常拡散を示す。
用する。
この異常拡散を解析する方法として平均二乗変位や初通過時
(グ ラ フ は ガ ラ ス 転 移 点 近 傍 で の 最 大 到 達 距 離 の
間が用いられる。新しい試みとして、これら 2 つの中間的な
二 次 モ ー メ ン ト と 平 均 二 乗 変 位 の 時 間 変 化 。)
量である、平均最大到達距離 (Mean Maximal Excursion) を
が最も遠くまで到達した時の変位は
′
ri,max (t) = max(|r i (t′ ) − r i (0)|; 0 ≤ t ≤ t) (1)
であり、この二次モーメントと MSD の比較から拡散の異常性
を Fractional Brownian Motion Continuous Time Ran-
dom Walk Diffusion on Fractal のいずれかに分類する
<r2>/σ2AA,<r2max>/σ2AA
用いた方法が提案されている。ある時間間隔 t の中で粒子 i
T/(εAA/kB)=0.37
10
1
0.1
0.01
1.0e+00
事ができる。本研究では2成分 Lennard-Jones 系の MD シ
MME 2nd moment
MSD
1.0e+01
1.0e+02
1.0e+03
t/τ
ミュレーションを行い、ガラス転移点近傍での異常拡散に適
40
1.0e+04
1.0e+05
E-5
メキシカンハット型ポテンシャル加振系の回転運動
佐賀大医 A , 京大情報 B
富永広貴A , 宮崎修二 B
メキシカンハット型ポテンシャルに水平方向に周期外力を加えその振幅を徐々に大きくしていくと,ポテンシャル中の粒子は,
ポテンシャルの底に沿って回転運動を始める。現実の系との対応を考えて,摩擦として速度に比例する抵抗の項を入れると,こ
の系は散逸力学系となる。ポテンシャルは円周方向に対称な為,その回転運動が右回りになるか左回りになるかは位置座標 2,
速度 2,合計 4 つの初期条件の与え方によって決まることになる。
しかし,初期値に依存して回転方向が決まるというのは,制御という観点からは好ましくない。外部パラメータで回転運動を
コントロールできた方が工学的にも利用価値が高いであろうし,実際,ボルト・ナット加振系や伝承玩具のガリガリトンボなど
は,初期値ではなく加振体の当て方で回転方向を制御している。
そこで,次式のように円周に沿ってポテンシャルに cosine 項をごく僅かに加えることで回転対称性を破ってやると,周期外
力の加振方向という外部パラメータで回転方向を制御できる事がわかってきた。
d2 r
dr
= −∇V (X, Y, t) − µ
dt2
dt
V (X, Y, t) = V0 (X, Y ) + h cos Ωt(e · r)
m
a
V0 (X, Y ) = {1 − (X 2 + Y 2 )}2 − (X 2 − Y 2 )
2
ここで,m は質点の質量,µ は摩擦係数,a は動径方向のポテンシャルの深さに対する円周方向のポテンシャルの凸凹の大きさ
を表しここでは 1/100 程度に取る。Ω,h,e はそれぞれ振動外力の角振動数,振幅と加振方向の単位ベクトルである。また,加振
方向は ϕ で表す。この系で起こるカオス拡散などの運動を論じる。
[1
] H. Tominaga, H. Fujisaka and W. Just, J.Phys.Soc.Jpn, 66(1997),pp.3406-3410.
[2
] 富永広貴, 宮崎修次, 信学技報 NLP2013-17(2013) pp.43-46,NLP2015-127(2016),pp.7-9.
[3
] 形の科学会誌, 第 29 巻, 第 2 号 (2014)pp.175-176.
[4
] 富永, 宮崎, 日本物理学会講演概要集, 第 69 巻,p.142, 同第 70 回年次大会概要集,p.3071.
E-6
ヤヌス粒子自己集合体のプラズモン応答
九大院理 A
吉原公貴A , 岩下靖孝 A , 木村康之 A
金属ナノ構造体中の自由電子は、可視‐赤外程度の波長の電
る新規な構造であり、粒子が小さくなることで先行研究のモデ
磁波に対し共鳴的な応答(局所表面プラズモン共鳴, LSPR)を
ルから逸脱したためと考えている。以上の自己集合体の大き
示す。我々は、誘電体微粒子の半球に金属を蒸着した「金属−
さや構造の変化により、LSPR 応答も変化すると予想される。
誘電体ヤヌス粒子」の自己組織化による金属メソ構造をプラズ
(a) ∆𝑇 = -0.43℃
(b) ∆𝑇 = -0.01℃
モン材料に応用することを目的とする。本研究では、モノレ
イヤーの状態で LSPR 応答を示した Au ‐シリカヤヌス粒子
(粒径 d = 330, 700 nm)を 1-propoxy-2-propanol ( PnP ) −
水混合溶液に分散させた。この溶液の臨界効果により誘起さ
れる粒子間相互作用を用いて、Au パッチ間の引力を温度によ
り制御することができる。これを利用し、両方の粒径におい
てヤヌス粒子自己集合体の大きさを温度により可逆的に制御
図: ヤヌス粒子自己集合体の光学顕微鏡像。金膜は 40 nm。∆ܶ = ܶ−𝑇𝑝𝑠 (𝑇𝑝𝑠 :相転移点)。ス
ケールバーは 5 μm。(a) 粒径は 700 nm。金パッチ間が凝集し、鎖状の自己集合体を形成。
(b) 粒径は 330 nm。2次元状の平らな自己集合体を形成。
することに成功した (図 (a)(b))。この時、粒径 700nm におけ
る構造は先行研究と同様であり、大きくなると 2 重鎖構造を
取った (図 (a) の模式図)。一方、粒径 330nm の粒子は 2 次元
状の構造を形成した (図 (b))。これは先行研究とは全く異な
41
E-7
多角形粒子を用いた Pickering Emulsion の形成
九大院理 A
小池涼太郎A , 岩下靖孝 A , 木村康之 A
粒子の液‐液界面充填における幾何学的効果が液滴形態
a
に及ぼす影響を解明するために、我々は多角形粒子を用いた
Pickering emulsion (PE) の研究を行っている。そこで、ソフ
トリソグラフィーにより SU-8 からなる疎水性の正三角形粒
子 (一辺 10µm、厚さ 1µm) を作成した。さらに粒子の片面に
金を蒸着し、金面を親水化することにより両親媒性を付与し
た。この粒子をドデカンおよび少量の水と混合して PE を作
成し、液滴形態を調べた。すると、界面上で正三角形の密充填
状構造が形成され (図 a)、粒子間に隙間が残ってしまう球状粒
子による PE よりも高い界面被覆率が実現された。また正四
b
面体状の液滴 (図 b) や正十二面体状の液滴 (図 c) といった、
c
粒子形状に由来する幾何学的効果を強く反映した構造も現れ
た。以上のように両親媒性化した正三角形状粒子を用いるこ
とで、特徴的な充填構造を持つ PE の形成に成功した。この
ような幾何学的効果が効く条件を解明することで、粒子形状
図 PE液滴における充填構造。a:密に被覆されたPE液滴。
b:正四面体状PE液滴。 c:正十二面体状PE液滴。全て光
学顕微鏡像。スケールバーは全て10𝜇m。
による界面充填構造や液滴形態の制御につなげて行きたい。
E-8
光駆動コロイド系のリズム運動
九大院理 A
齊藤圭太A , 木村康之 A
流体中に分散した粒子間には、流体相互作用が働くために、
い状況と同じように 2 粒子がクラスターを作り運動する。し
粒子系はしばしば複雑な挙動を示す。この作用は、壁面近く
かし、この時、1 粒子はクラスターよりも角速度が速くなり、
で大きく変化することが知られている。これまで、円環上を
2 粒子のクラスターに追いつく。その後、クラスターの組み
一方向に駆動した複数のコロイド粒子の集団運動について研
換えが起こり、先頭の 1 粒子が離れる。粒子を壁面から遠ざ
究を行ってきた。今回は壁面からの距離を変化させながら、
けると、運動モードが変わり、3 粒子はほぼ等間隔で運動を
コロイドのリズム運動を観察した。
行った。この様な運動は、定性的には、底面による実効的抵抗
粒径 3 µm のシリカ粒子が分散した水溶液を厚さ 6 µm の
の増大と流体相互作用の遮蔽効果のよるものだと考えられる。
セルに閉じこめ、ホログラフィック光ピンセットを用いて粒
子に一定の角運動量を与え、実験を行った。
3 粒子系で観察された集団運動について紹介する。壁面の
影響がない状況では、2 粒子がクラスターを作り運動する(右
図左)。この時、このクラスターは 1 粒子よりも角速度が速
いため、前の粒子に追いつく。その後、粒子の入れ替えが起
こり、前の 2 粒子がクラスターとなり離れる。壁面の影響が
doublet > singlet
ない状況では、上記の過程が繰り返すリズム運動が見られた。
doublet < singlet
図 厚いセル(85μm)(左)と薄いセル(6μm)(右)
薄厚セルの場合には、異なる運動が観察できた。壁面付近で
で観察されるリズム運動
粒子を周回運動させると、右図右のように壁面の影響が出な
42
E-9
アガロースゲルの相転移構造と摩擦係数
九大理 A
上瀧守A , 鴇田昌之 A
ゲルの構造はゲル化のメカニズムに強く依存することが
ら決定される高分子網目の相関長との関係についても述べる。
知られている。本研究では、高温でゾル状態にあるアガロース
水溶液を、ゾル-ゲル転移点以下の温度に急冷することによっ
て得られるゲルの透過物性を明らかにすることを目的とした。
急冷法によってゲルを調製する場合、急冷温度と相境界との距
離(クエンチ深さ)によってゲル化の速度が変化する。このと
き、スピノーダル分解も同時に進行するため、濃度揺らぎがゲ
ルの高分子網目に凍結される。本研究では、このようにしてゲ
ルの高分子網目中に凍結される密度揺らぎがゲルの摩擦係数
に及ぼす影響を、小角レーザー散乱の測定結果をもとに議論す
る。透過物性測定用のゲルは、内径 6 ミリのガラス管の先端内
部に調製した。このように調製したゲルに、微弱な水圧を印加
し、ゲル内を流れる水の流速を測定し、高分子網目と溶媒間の
摩擦係数を決定した。得られた結果を下図に示す。ゲルの高
分子網目の摩擦係数は急冷温度に強く依存することがわかる。
急冷温度が上昇するに伴って摩擦係数は減少し、ある温度で
0 に漸近することがわかる。講演では、小角レーザー散乱か
E-10
格子ボルツマン法を用いた弾性乱流のシミュレーション
九大院理 A
椎葉力哉A , 中西秀 A , 坂上貴弘 A
2 次元高分子溶液のレオロジーの微視的モデルを構築し、コルモゴロフ流をシミュレーションした。高分子溶液のような粘弾性
体ではレイノルズ数 Re が小さくとも、ワイゼンベルグ数 Wi が大きい場合には乱流が生じることが知られており「弾性乱流」
と呼ばれている。コルモゴロフ流とは、周期的外力 f=( 0, νU/L2 cos(x/L) の下での流れのことであり、ニュートン流体の場
合 Re ≥
√
2で層流が不安定化し乱流が生じる [1]。高分子溶液では Re ≤
√
2でも W i/Re が大きい場合は不安定化することが
報告されており、これは弾性乱流の例の一つである。我々は高分子溶液のレオロジーをシミュレーションする為に、溶媒の速度
場を格子ボルツマン法で、高分子の運動方程式を分子動力学法で計算させ、それらをカップルさせるモデルを構築した。高分子
はダンベルモデルを用い、溶液は希薄であるとし異なるダンベル間の相互作用や排除体積効果は考えていない。数値計算の結
果 [2] の相図から予測される Re ≥
√
2での安定化と不安定化を確かめることができた。またその時の空間パワースペクトルの
べき指数を求め、ニュートン流体のものと比較した。
参考文献
[1] L. D. Meshalkin and Y. Sinai, PMM 25 (1961), p. 1140-1143, “Investigation of the stability of a
stationary solution of a system of equations for the plane movement of an incompressible viscous
liquid”
[2] G. Boffetta, A. Celani A. Mazzino, A. Puliafito and M. Vergassola, J. Fluid Mech. 523 (2005), p.
161-170, “The viscoelastic Kolmogorov flow: eddy viscosity and linear stability”
43
E-11
コロイド粒子の 3 次元追跡
九大院理 A , 九大理 B
永徳はるかA , 池田豊和 B , 岩下靖孝 A , 木村康之 A
液体中のコロイド粒子の運動は 2 次元においてよく研究が
なされてきた。この運動を精度よく観察するためには 3 次元
25
位置を正確に把握することが必要になる。それを可能にする
強度重心
強度の変化率の重心
x
20
手段として、ホログラフィック顕微鏡を用いたものがある。
15
粒子にコリメートされたレーザー光を当てると現れる干
y
z[μm]
10
渉パターンをホログラムと言い、ホログラムに記録された
情報を数値的に解析することで 3 次元光場を再構築する
5
方法を Rayleigh-Sommerfeld reconstruction(RS 法)と呼
0
35 30 25
20 15 10
5
ぶ。本研究では RS 法を用いて粒子の 3 次元運動を観察・
y[μm]
0 0
10
20
図1:水中に分散させたポリスチレン粒子
の3次元トラッキング
評価した。例として、図1にはポリスチレン粒子(粒径 1.9
30
x[μm]
図2:ポリスチレン粒子に
レーザー光を当てて
得られるホログラム
μ m)の沈降の様子を 3 次元トラックした結果を、図2に
はこの軌跡を求めるために使ったホログラムの例を示す。
E-12
コロイド粒子系のダイナミクス
九大理 A , 九大院理 B
池田豊和A , 永徳はるか B , 岩下靖孝 B , 木村康之 B
コロイド粒子系のダイナミクスに関する情報を得るために
の 3 次元像を、図 (b) は 2 粒子の位置の時間変化を示す。
(a)
は粒子の 3 次元追跡を行うことは有用である。2 次元の顕微
(b)
鏡像から深さ方向の情報を得る方法としてホログラフィック
顕微鏡がある。この方法は粒子にコリメートしたレーザー光
を照射して、散乱光と直接光の干渉縞を測定し、それをもと
に 3 次元位置を推定するものである。
本研究では Rayleigh-Sommerfeld back-propagation によ
る 3 次元光場を再構築する方法を用い、ホログラムから複
数粒子の 3 次元追跡を行った。図に 80(%w/w) グリセリン
図 (a) 2つのPS粒子によって散乱された光の場の再構築像。底の画像は元画像。ス
ケールバーは10µm。 (b)2つのPS粒子の約3分間(30fpsで5423枚分)の軌跡。位置は再
構築像の最大強度の70%以上の強度重心としている。
水溶液中の直径 1.9µm のポリスチレン球に対する結果を示
す。図 (a) は再構築した 2 粒子のよる散乱光の 1 フレーム
44
E-13
物理学講義における演習の e-learning 化の試み
久留米工業大学 A
野田常雄A , 江藤徹二郎 A , 巨海玄道 A , 中村文彦 A
物理学の講義において、演習は学んだ内容を使えるようになるため必要不可欠なものである。演習の実施形態は、演習科目とし
て存在するものや、講義の時間中に含めているものなどがあるが、いずれの場合も講義で学んだことを忘れるより早く復習する
ことが重要である。
従来型の演習では、課題の配布からその課題の解説まで、1 週間程度の時間をかけている。これは、解答や採点に要する時間
と時間割に依るものであるが、この時間があることで、学生は解答に至った過程を忘れてしまうことが多い。また、「提出すれ
ば終わり」という考えの学生も少なくない。
解答後すぐに正誤がわかれば、誤答の場合は解答過程のどこに誤りがあったのかを考えることができ、正答の場合は解答過程
が正しかったと納得できる。これを実現するため、学生へ課す演習課題の e-learning システム開発を行い、実際に演習で試み
た。システムのコンセプトは以下のとおりである。
・演習課題の配布・解答提出を Web システムで行う
・問題は選択問題
・解答を送信すると即座に正誤がわかり再挑戦可能となる
・学生個人のスマートフォン・タブレット端末をクライアントとして使用する
・場所・時間を問わず演習できる (宿題にできる)
この e-learning システムを実際に演習に用いたところ、演習の解答提出率が増加した。また、演習に対する学生の態度に変
化がみられた。課題の解答状況を確認することで、課題に手がついていない学生の確認が容易となり、個別のフォローも可能と
なった。
E-14
久留米工大における新しい物理教育体制の構築
久留米工大基幹教育センター A , 久留米工大教育創造 B , 久留米工大建築設備 C
巨海玄道A , 野田常雄 B ,
中村文彦 B , 江藤徹二郎 C
これまで発表者は全入大学ないしそれに近い大学(いわゆるFランクあるいはBFランクの大学)における新入生の基礎学力や
学習に対する基本的な態度の調査を行ってきた [1]。特に理工系の大学において物理と数学の学力調査を科研費の援助を受けて
[2] 行ってきた。その成果は国立大学の理工系学部の学生との基礎学力の差は顕著であり、さらに「学ぶことに対する姿勢」は
両大学で大きな差があることを明らかにした。このことはFやBFランク大学ではこれまで行われてきたたとえば国立大学を中
心としたいわゆるブランド大学での物理教育はもはや通用しないことを表している。これを改善するためにはこれらの大学にお
いて新しい基礎教育体制が構築されることが肝要であることを指摘した [1]。 久留米工大(以下本学と略)もこのような大学
とほぼ同じランクであるといえる。たとえば分数ができないとか、冪がわからないといった学生が多々見られる。このようなこ
とから平成 28 年 4 月より学長の強いリーダーシップにより「基幹教育センター」を発足させ、新入生(あるいは広く一般の学
生)の基礎学力の養成、学習支援などを物理・数学に限って行うこととなった。これまで本学には学習支援センターやラーニン
グコモンズなどがあったがほとんど機能していなかった。理由は単純で上に上げたように本学の学生は学びに対する前向きな態
度がなく、またあったとしてもどのようにすればいいかをわからない学生が多かったからであった。ただ実際にセンターを発足
させても肝心の担当者たちは初心者ばかりで右往左往することとなったが基礎学力に劣る学生に積極的に質問に来るように促し
た。その結果 5,6 月 2 か月間の利用者は延べ 200 人を超えることとなり大変な盛況となった。さらに基礎学力の調査を行った
ところ本センターの指導は主に低学力の学生に対して有効であることが判明した [3]。参考文献 [1] 巨海玄道ら、2015 久留米工
大研究報告,No.38,pp.33-41. [2]「大学全入時代の物理学基礎教育の新展開」
(研究課題番号:25350215)研究成果報告書(平成
28 年 3 月発行)[3] 久留米工業大学基幹教育センターニュース、No.1(平成 28 年 7 月)
45
E-15
福岡工業大学情報システム工学科向け物理実験の新構築
福岡工大情工 A , 九大理 B
丸山勲A , 久保田陽二 B , 山本貴弘 A
現実とシミュレーション、及びその背後にある数学を、情報
から「そう思わない」までの5件法のうち5と4の回答であ
系学生にも分かりやすく教えるための物理実験が福岡工業大
る。発表では、動画解析ソフトの公開 [4] による学生への効果
学情報システム工学科には存在しなかった。そこで OpenCV
や現状の課題などを紹介する予定である。
ver 2.4.9 を用いた動画像解析ソフトを開発し [1,2]、斜面を
[1] 久富,桜井,「動画像処理による物理実験教材の開発」,
転がる剛体やボルダ振り子などについて、ノート PC(Lenovo
福岡工大 山本研卒研 (2014 年度) [2] 下川,湯前,「動画像
B50) と WEB カメラ (ロジクール C920T) を用いた測定を行
解析ソフトを用いた物理実験の教材開発」, 福岡工大 丸山
わせる実験科目を1年生向けに新規開講した [3]。この実験と
研卒研 (2015 年度); 桑元, 松波, 福岡工大 丸山研卒研 (2016
対応させる形で、力学シミュレータ (Algodoo) によるシミュ
年度) [3] 丸山勲, 山本貴弘, 教育改善予算「物理と情報シス
レーションを行う。同時に数式処理ソフト (Mathemtica) と
テムの融合に向けた新しい実験教材の開発(1412 千円)」
プログラミング (C 言語) により、運動方程式を微分方程式と
(平 成 27 年 度) [4] https://github.com/FitPhysExp/iML
して、それぞれ解析的、数値的(オイラー法)に解かせる。
平成 27 年度に調査対象1年生105人に対してアンケー
トを行った。
「高校の時に比べて数学・物理学の必要性を感じ
たか?」という設問に対し肯定的回答数は8割以上(5件法
平均 4.1)
、
「どのように動画像解析をおこなうかについて興味
を持てたか?」という設問では肯定的回答数は7割以上(5
件法平均 4.0)であった。ここで肯定的回答とは、
「そう思う」
E-16
粉粒体の動的安息角に関する数値計算
九大理 A
徳田真之介A , 稲垣紫緒 A
円筒容器の内部に2種類の粉粒体を充填し, 回転させると
粒子が分離してバンドが生成される. このバンドは系のサイ
ズ, 形状, 比重などを変えることによって様々な動きを見せ
る.*1 バンド生成は動的安息角 (θd :図 2) によって決まるとい
われていたが*2 , 実験からそうでないことが分かった.*3 動的
𝜃𝑑
安息角はそもそも何が支配的であるかが分かっていない. そこ
で我々は離散要素法 (DEM) を用いた数値シミュレーション
で動的安息角を決める支配的な物理量を探った. その結果, 動
摩擦力は動的安息角の大きさには強くよらないことがわかっ
図1:回転ドラムの
スナップショット
た. 発表ではシミュレーションのモデルとともに, 結果を報告
図2:動的安息角𝜃𝑑
する.
*1
*2
*3
V. Frette and J. Stavans, Avalanchemediated transport in a rotated granular mixture, Phys. Rev. E. 56, 6981 (1997)
K. M. Hill, A. Caprihan, and J. Kakalios, Bulk segregation in rotated granular material measured by magnetic resonance imaging, Phys.
Rev. Lett. 78, 50 (1997)
第 6 回ソフトマター研究会 要旨集, ポスター発表 要旨, PB-09. 北海道. 2016-10-24/26
46
E-17
回転ドラムにおける粉粒体の分離現象の回転速度依存性
九大院理 A
稲垣紫緒 A , 大石隼道A
回転ドラムによる粉粒体の分離現象とは、水平に置いた
円筒容器にサイズや種類の異なる 2 種類の粒子を混合し
た 状 態 で 入 れ て 容 器 を 回 転 さ せ る と 、軸 方 向 に 粒 子 が 分
離 し 縞 模 様 を 形 成 す る と い う 現 象 で あ る 。容 器 の 半 分 程
度を粒子が占める充填率の時、形成されたバンドは時間の
経過で次第に結合していきバンドの数が減少するという
現象が起こる [1]。一方、充填率が高い時は大きい粒子の
バンドが何度も湧き出すという現象が発生することが知
られている [2]。しかし、その仕組みについてはまだまだ
不明な点が多い。発表では充填率だけでなく回転速度も体
系的に変化させた時に、バンドの振る舞いにどのような変
化が見られたのかについて発表したい。[1] V. Frette and
J. Stavans, Phys. Rev. E 56, 6981 (1997) [2] S. Inagaki
and K. Yoshikawa, Phys. Rev. Lett. 105, 118001 (2010)
4時間
𝜙 = 53.3 %
𝜔 = 10.4 rpm
16時間
𝜙 = 24.6 %
𝜔 = 10.4 rpm
12時間
𝜙 = 98.4 %
𝜔 = 29. 4 rpm
図:ケイ砂とガーネットサンドにおける時空間プロット
E-18
プランク定数とボルツマン定数
日本文理大学 A , 日本文理大学工学部機械電気工学科 B
竹本義夫A , 島元世秀 B
1. プランク定数・ボルツマン定数
(a) 島元関係式
プランク定数 h = 6.626070040 × 10−34 J · s
電子の電荷 e = 1.6021766208 × 10−19 C 、光の速度 c = 2.99792458 × 108 m/s である。
故に
h
ec
=
6.626070040×10−34 J·s
(1.6021766208×10−19 C)×(2.99792458×108 m/s)
−23
ボルツマン定数 k = 1.38064852 × 10
= 1.37951 × 10−23 J · s2 /(C · m) は
J/K と一致する。
これより、
*k[J/K] =
h
ec [J·s2 /(C·m)] (島元関係式)
を得る。
ここで、温度K は電荷eの加速度的変化C · m/s2 である。
(b) 気体の状態方程式、R = kNA ・・気体定数、NA ・・アボガドロ数
pV = nRT (n モル)⇒ pV = RT = kNA T (1 モル)⇒ pV = kT (原子 1 個) =
h
ec T
(= hν)
(島元関係式)
2.温度 (T )、原子の衝突、最外殻電子 (速度 = v) の振動と光 (ν) の放出
log γβ
(= ec · ν)、ν =
T = ec d 2πdτ
[C·m/s2 ]
d log γβ
2πdτ [/s] (振動数)
*詳しくはhttp://www.nbu.ac.jp/∼shimamoto/genko.html
47
E-19
運動方程式を相対化する
九工大 情報工 生命情報 A
大澤智興A
<序論、経緯> 学部1年前期に生命科学系の学生に対して力学(2コマ連続、演習付き)を担当している。講義では、運動方
程式から演繹的に説明している。数 III の微分方程式は、大学入学試験に問われることが非常に少ないため、多くの学生にとっ
て初めての微分方程式が運動方程式となる場合が多い。物理法則や数理モデルは、微分方程式で表現されることは多い、そこで
微分方程式の理解は理系にとって非常に重要である。1)現状科目としての微分方程式は、力学よりも後に開講されており、
2)さらに、物理に興味の薄い学生も入学してくる。
<目的> そこで、どのように微分方程式を講義の中で導入するすれば良いかを検討することを目的とした。
<方法> 講義の中で運動方程式と合わせて他の微分方程式も紹介するようにした(4月下旬)。運動方程式を含め、[1] に含
まれる微分方程式を取捨選択し、さらに独自に追加して計 10 種程度の微分方程式を用意した。これらを講義中で短く解説し、
さらに講義後に演習問題の中の問いの中に、どの微分方程式に興味を持ったかを答えてもらった。
<結果> 調査を数回行ったが、人気が1位の微分方程式がある。ロトカ・ボルテラ (L-V) モデル [2] であった。 これは、力
学の受講者が生命化学系であり、さらに高校時に捕食-被食の関係を生物で勉強してきたためであると考えられる。2位は、マ
ルサスの人口増加(指数関数的な増殖)モデルであった。意外にも化学反応速度式は、多くなかった。
<考察> そこで、学生の興味に沿って L-V モデルを使って微分方程式の入り口として使用したいが、これは一階連立常微
分方程式であり、入り口にするのには難しすぎる。そこで、2位のマルサスの人口増加モデルを使えばよいことになる。実際、
L-V モデルの中身は、マルサスの人口増加モデルと化学反応速度式の混合したモデルである。このように、運動方程式に前後し
て、他の微分方程式を取り入れて運動方程式を相対化することにより、A)微分方程式の意味が理解が進み、結果としてB)物
理を含め、数理モデルに興味をもってもらえる。C)運動方程式の因果関係を理解してもらえる、と考えられる。
<参考文献> [1] 水谷淳(訳) イアン・スチュワート(著)
「世界を変えた 17 の方程式」 SB クリエティブ (2013) . [2] https://en.wikipedia.org/wiki/Lotka-Volterrae quations
E-20
芥川文学「蜘蛛の糸」を巡る力学論争
長崎大 JFPA
後藤信行M
カンダタが蜘蛛の糸を登るとき、重心運動に仕事をしたのは筋力か糸の張力か 1)。1. 筋力説:束縛力である張力は作用点が動
かないので、仕事はできない 2,3,4)
。重心が上に動くのは力の釣り合いが破れるからである。カンダタに働いている力は、上向
きに働く張力と下向きに働く重力であるが、カンダタがぶら下がったままなら、張力と重力とが釣り合い、カンダタの重心は上
にも下にも動かない。しかし、つり合った状態から、掴んだ糸をグイと下に引っ張れば、重力は一定のままで、糸の張力が増
し、カンダタの重心は上方に移動する。筋力で糸を引っ張ったのだから、仕事をしたのは筋力である。2. 張力説:カンダタの運
動を、重心運動と重心が固定された屈伸運動に分解すると、張力は、もはや束縛力でなくなり、張力は両方の運動に仕事をす
る。力の作用点は重心運動に対しては重心になり、重心運動には正の仕事をする。一方屈伸運動に対しては、作用点の変更はで
きないが、今度は重心が固定されるので、作用点の移動方向は張力の向きと逆になり、屈伸運動に対しては負の仕事をする。二
つの説ともエネルギー源が筋力であることは同じであるが、筋力が作りだしたエネルギーが重心運動へどのようにして移動す
るかを説明するには、張力説のほうが優れている 5,6)。1)後藤信行 :日本物理発会誌 71(2016)No.2,127 2)Bruce Arne
Sherwood:Am.J.Phys.51(7),597(1983)3)吉岡大二郎:日本物理学会誌 71(2016)No.9,650 4)鈴木 亨:「蜘蛛の糸」と
PSEUDOWORK、2016.9.18YPC 例会発表 5)後藤信行 : 3) と同時掲載 6) 後藤信行:(HP) 芥川文学「蜘蛛の糸」を巡る
力学論争尚、2)と 4)はネット上に掲載されている。
48
会場 F
素粒子論, 素粒子実験, 理論核物理, 実験
核物理, 宇宙線・宇宙物理領域
F-1
ILC 用 Gate 装置の電子透過率の評価
佐賀大学理工 A , 東北大多元研 B , 岩手大工 C , 広島大先端
大
H
A
A
A
D
, 高エ研 E , 工学院大 F , 近畿大理工 G , 総研
A
山下淳平 , 杉山晃 , 房安貴弘 , 長崎祥之 , 成田晋也 C , 根岸健太郎 C , 池松克昌 B , 高橋徹 D ,
松田武 E , 藤井恵介 E , 小林誠 E , 渡辺隆史 F , 加藤幸弘 G , 小川智久 H
ILC の測定器として ILD(International Large Detector) が計画されている。中央飛跡検出器として MPGD(Micro Pattern
Gas Detector) を使用した TPC(Time Projection Chamber) を選択しており、その際、陽イオンのフィードバック問題が生じ
る。この時使用するゲート装置の電子透過率の評価を行う。
49
F-2
中性子寿命測定実験のための中性子捕獲ガンマ線の研究
九大理 A , 九大 RCAPPB , 京大理 C , 東大理
D
, 名大理 E , 名大 KMIF , KEKG , JAEAH
古賀淳A , 角直
幸 A , 高田秀佐 A , 富田龍彦 A , 森下彩 A , 音野瑛俊 B , 吉岡瑞樹 B , 北原龍之介 C , 山田崇人 D , 家城斉 D , 長
倉直樹 D , 清水裕彦 E , 奥平琢也 E , 北口雅暁 F , 三島賢二 G , 木村敦 H
中性子は平均寿命 880.2 ± 1.0 秒 (PDG2016) でベータ崩壊により崩壊する。中性子寿命はビッグバン元素合成論において重要
なパラメータであり、これまで主に「ベータ崩壊陽子を数える方法」と「崩壊せずに残った中性子を数える方法」の2手法で
測定されてきた。しかしながら、これらの手法の測定結果には約 8 秒の乖離があり、別の手法による測定実験が必要である。
我々は J-PARC の物質・生物科学施設 (MLF)、BL05 で中性子寿命測定実験を行っており、その測定には Time Projection
Chamber(TPC) と呼ばれる検出器を用いている。中性子は TPC に入射され、崩壊し電子を放出する。我々はその電子の数を
数えることで寿命を導出する。中性子は TPC 内のガスによって散乱し、LiF-PTFE 製の TPC の内壁に衝突することがある。
その衝突時に中性子捕獲反応によりガンマ線が放出され、そのガンマ線が内壁に衝突した際に電子が放出される。これにより放
出された電子は背景事象になり得る。この背景事象を理解するために、我々は J-PARC/MLF/BL04 で LiF-PTFE 製の試料に
ついて中性子照射試験を行った。本講演では、その解析結果について報告する。
F-3
中性子寿命実験の高精度化に向けた検出器の改良および性能評価
九大理 A , 九大 RCAPPB , 京大理 C , 京大化研 D , 東大理 E , 東大素セ F , 名大理 G , 名大 KMIH , CERNI ,
阪大 RCNPJ , 高エ研
K
, 東大原子力 L
森下彩A , 古賀淳
A
, 角直幸 A , 富田龍彦 A , 音野瑛俊 B , 吉岡瑞
樹 B , 北原龍之介 C , 岩下芳久 D , 山田崇人 E , 家城斉 E , 長倉直樹 E , 山下了 F , 広田克也 G , 清水裕彦 G , 横
橋麻美 G , 北口雅暁 H , 生出秀行 I , 嶋達志 J , 三島賢二 K , 竹谷薫 K , 猪野隆 K , 關義親 L
中性子寿命τ n=880.2±1.0 sec(PDG2016) は、宇宙初期の軽元素合成比やクォークのミキシングを表す CKM 行列の行列要素
Vud に影響するパラメータである。中性子寿命の値は主に 2 種類の先行実験においてそれぞれ値が求められているが、両者の
間には 3.8 σのずれが存在している。この差を検証するため、これらの実験とは独立な手法を用いた 0.1% 精度での寿命測定が
必要とされている。そこで我々は大強度陽子加速器施設 J-PARC の中性子源を利用して、冷中性子を用いた中性子寿命の精密
測定を行っている。本実験では Time Projection Chamber(TPC) と呼ばれるガス検出器に中性子ビームバンチを導入し、内部
での崩壊電子数と中性子フラックスの比から寿命を求める。この手法では、過去の手法で問題となっていた検出器壁面での中性
子損失や検出器毎の検出効率に起因する系統誤差を抑えることができるため高精度での寿命測定が期待されている。2016 年ま
での取得データを用いて O(1)% 精度での寿命導出が可能であることが示された。現在、より高精度での測定を目指した TPC
の改良を検討している。TPC の改良点として、動作ガス圧の低減と追加検出器の導入の 2 点を検討している。一点目は、高精
度での寿命導出において大きな課題となっている背景事象の数がガス圧に比例することを測定から確認し、動作ガス圧を下げる
ことによる背景事象の絶対数低減を目的としている。この時、ガス圧の低下に伴い検出効率の悪化や温度勾配が生じるため新型
アンプの開発が必要となる。二点目は、検出器を追加することにより TPC 内で起こった事象の 3 次元情報の取得を可能にする
というものであり、事象識別能力の向上を目的とする。本講演では新型アンプの開発と性能評価、追加検出器による事象選別能
力の向上についてのシミュレーションによる見積もりについて報告する。
50
F-4
COMET 実験における StrECAL 検出器性能評価用ファイバー検出器の開発
九大理 A , KEK 素核研 B , 阪大理 C , 九大 RCAPPD
斉藤貴士A , 上野一樹 B , 大石航 A , 川越清以 A , 久
野良孝 C , 東城順治 A , 中居勇樹 A , 西口創 B , 野口恭平 A , 藤井祐樹 B , 三原智 B , 山口博史 A , 吉岡瑞樹 D
J-PARC で行う予定の COMET 実験は、レプトンフレーバー非保存過程の一つである µ 粒子が電子に転換する µ − e 転換過
程を探索する。この過程で転換した電子は 105 MeV の単色エネルギーをもつ。標準模型では、この過程の崩壊分岐比は 10−54
未満であり、現在の技術では到達できない。しかし、標準模型を超える物理 (Beyond the Standard Model : BSM) を仮定する
と、分岐比は最大で 10−15 となり、検出可能なレベルになる。本実験では、転換後の電子の信号を検出することで、レプトンフ
レーバー非保存過程を世界に先駆けて発見することを目的としている。
COMET 実験では、複数のストローチューブで構成するストローチューブ飛跡検出器を用いて、電子の運動量を精確に測
定することができる。このストローチューブ飛跡検出器の位置分解能を評価するために、ファイバー検出器 (Beam Defining
Counter : BDC) を開発中である。
BDC は x、y 方向に配置したファイバーシンチレータで構成し、2 次元的な荷電粒子の通過位置を検出する。これをストロー
チューブ飛跡検出器の前後に配置することで、2 点の位置情報から粒子の飛跡を決定し、ストローチューブ飛跡検出器の性能評
価を行う。さらに、先行実験では 105 MeV 電子の空気散乱による影響が無視できなかったため、真空環境下で動作させる。
本講演では、この真空に対応した BDC の開発状況と今後の展望について報告する。
F-5
時空16元数のクライン・ゴルドン方程式
宮嶋学術財団 A
那須俊一郎A
1.竹本義夫日本文理大学名誉教授は、
「行列ベクトル」
(4元数によるベクトル表記)を使って、電磁場には「スカラー電場」が
存在することを発見し、4元マクスウェル方程式の完全形を導いた。同時にローレンツ条件は必要でないことを明らかにした。
2.筆者は、この4元マクスウェル方程式を質量を持つ4元クライン・ゴルドン方程式に拡張することを考えていたが、ロシ
アのV.ミロノフが「時空16元数」を使ってすでに導いていることがわかった。しかし、その論文では式のベクトル部分に
「虚数項」が出て来て、それを処理できていない。筆者は、
「時空16元数」を「行列ベクトル」にはめ込んで計算をやり直すと、
問題が解決することを明らかにした。
3.V.ミロノフは、従来のローレンツ条件を必要とするマクスウェル方程式とプロカ方程式に固執し、
「スカラー電場の項」
がその論文中に出て来るにもかかわらず、それを認識できていない。
51
F-6
Remark on the dilaton mass relation
九州大学理学府 A
鈴木博 A , 奥村健一 A , 笠井彩A
Nf フレーバー基本表現フェルミオンを物質場に持つ SU(Nc ) ゲージ理論の低エネルギーでの振る舞いを記述すると考えられ
る、ディラトンとパイオンの有効理論が近年 Golterman と Shamir らによって定式化された。我々はこの有効理論に基づき
ながらも、必要と考えられる重要な変更を施し、ディラトン質量 mτ とパイオン質量 mπ の間に成り立つ関係式を m2π ln m2π
のリーディングオーダーで求めた。この関係式は松崎氏と山脇氏が別の低エネルギー有効理論を出発して求めた質量関係式
と類似している。我々が導出した質量公式は m2τ = m2τ |m=0 + KNf fˆπ2 m2π /(2fˆτ2 ) + O(m4π ln m2π ) であり、ここで K = 9
、m はフェルミオン質量、fˆπ とfˆτ はパイオンとディラトンの崩壊定数である。一方、松崎氏と山脇氏の導出した関係式では係数
が K = (3 − γm )(1 + γm ) という相違がある。なお、
γm はフェルミオン質量の異常次元であり、彼らの関係式において省略され
ている高次補正は O(m2π ln m2π ) である。γm ∼ 1 であると考えると、彼らの質量関係式から見積もられるディラトン崩壊定数fˆτ
に比べて 50% 程度大きな崩壊定数が我々の関係式から導かれる。
F-7
カイラル・オーバーラップ演算子を用いたフェルミオン数アノマリーのローレンツ対称
性の破れ
九大理 A
牧野広樹 A , 森川億人A
Grabowska と Kaplan により、カイラル・オーバーラップ演算子に基づいた4次元格子上のカイラルゲージ理論の定式化が提
案された。我々はこの定式化におけるフェルミオン数アノマリーの古典連続極限を計算した。興味深いことに、この連続極限に
はローレンツ対称性の破れた項が含まれることがわかった。しかし、この項はゲージアノマリー係数に比例しており、ゲージア
ノマリーが消えているときにはこの定式化でのフェルミオン数アノマリーは自動的にローレンツ不変性を回復する。このカイラ
ルフェルミオンの新しい定式化とフェルミオン数アノマリーの計算について議論したい。
52
F-8
中性子星による暗黒物質捕獲
佐賀大学大学院工学系研究科 A
實松勇佑A , 橘基 A
近年、暗黒物質の中性子星による捕獲の問題が論じられている。ここでは、捕獲された暗黒物質が、中性子星内部の核子との相
互作用や暗黒物質同士の自己相互作用により、中性子星の熱的性質に影響を与えるプロセスを考察する。またそれにより、暗黒
物質の物理量や中性子星の観測量に制限を与えることを試みる。
F-9
新しい近似ネットワークを用いた X 線バーストシミュレーション
九州大学 A , 久留米工業大学 B
松尾康秀A , 橋本正章 A , 町田真美 A , 野田常雄 A
Type I X 線バーストとは中性子星を主星とする低質量 X 線連星で起こる X 線増光現象の一つである。これは伴星から中性
子星表面に降着した物質が不安定核燃焼を起こして増光すると考えられている。X 線バーストは数時間程度の周期で繰り返し
起っており、宇宙の中では非常にありふれた現象です。この現象の解明のため、様々な研究がなされており、シミュレーション
によって、観測を再現できる multi-zone モデルも提案されている (Heger et al. 2007)。
先行研究によって、X 線バースト中では rp-process と呼ばれる元素合成過程が起こり、最大で質量数 A ≃ 107 程度の元素が
生成されることが明らかとなっている (Koike et al. 1999, Schatz et al. 2001)。そのため、X 線バーストシミュレーションに
は、少なくとも A ≤ 107 までの 300 核種程度の核反応ネットワークを用いた元素合成計算が必要である (José et al. 2010)。し
かしこの核反応ネットワークを解くための計算コストが比較的高いため、多くの研究で中性子星の質量は 1.4M⊙ で固定されて
いる。しかし中性子星の質量は 1 − 2M⊙ の範囲で存在すると考えられているため、中性子星の質量をパラメータにしたシミュ
レーションが必要となる。しかし multi-zone モデルではそのような研究は難しい。
そこで我々は近似ネットワークを用いてより多くのモデルのシミュレーションを試みる。ところが従来の近似ネットワーク
では、rp-process の到達点までの核種が考慮されておらず、さらに古い反応率に基づいた反応経路が仮定されていた。そこで
我々はこのような問題を修正した新しい近似ネットワークを新たに構築した。この近似ネットワークを用いて計算コストの低い
one-zone model によるシミュレーションを行い、近似しない 897 核種のネットワークの結果と比較した。その結果、バースト
の周期が ∆t < 6 − 8 hr 程度の場合までは新しい近似ネットワークから妥当な結果を得られることが分かった。さらにこのネッ
トワークを用いた X 線バーストシミュレーションを行い、その結果についても発表する。
53
F-10
f(R) 重力に対する局所重力実験からの厳しい制限
沖縄高専 A , 長岡技科大 B
森田正亮A , 高橋弘毅 B
遠方の Ia 型超新星の観測から示唆されている「宇宙の加速的膨張」に対する理論として、重力をアインシュタインの一般相対
論から変更する「修正重力理論」が非常によく研究されている。数ある修正重力理論の中で、ゴースト不安定性を持たない、最
もシンプルな理論が f (R) 重力である。
f (R) 重力を含む修正重力理論が観測と整合的であるためには、その理論におけるスカラー自由度からくる場の実効質量が、
宇宙論的スケールでは小さく、太陽系スケールでは大きくならなければならない。このように、太陽系スケールでのスカラー場
の影響を小さくするメカニズムを「カメレオン機構」といい、f (R) 重力においてカメレオン機構が働くモデルのみが観測的に
支持されることになる。
太陽系スケールにおける観測的制限は、
「ポスト・ニュートニアン・パラメータ」と呼ばれる、弱い重力場での一般相対論から
のずれを表すパラメータによって与えられる。f (R) 重力での、このパラメータについては昨年度の本支部例会で報告したが、
今回はカメレオン機構が働く具体的な f (R) 重力モデルにおいて、ポスト・ニュートニアン・パラメータを通じてどのような制
限がつくのか、について報告する。
F-12
クォーク・ハドロンハイブリッド模型による格子 QCD 計算の解析 III
九大院理 A , 佐賀大院工 B
宮原昌久A , 鳥越悠平 A , 河野宏明 B , 八尋正信 A
QCD 相図を解明することは、宇宙進化や中性子星の内部構造、原子核衝突実験などの物質の構造や起源を解明する上で重要な
意味を持つ。QCD 相図解明に向けたアプローチの主な手段に格子 QCD 計算と有効模型がある。高温・低密度領域 (μ/T¡1)
においては QCD の第一原理計算である格子 QCD 計算による解析が可能である。それ以外の領域においては符号問題がある
ために格子 QCD 計算での解析は難しい。一方、有効模型は T-μ面全域で計算可能であるが、その結果には模型のパラメー
ターによる不定性がつきものである。我々は高温・低密度領域において格子 QCD 計算の結果を再現する有効模型を構築する
ことで模型の不定性を抑え、T-μ面全域への正当性の高い解析を目指す。本研究では、クォーク相をクォーク間に直接的な相互
作用がないクォーク模型で、ハドロン相をハドロンの自由ガスを記述する模型によって表し、その二つの模型どうしを滑らかに
遷移することでハドロンからクォークへの転移を考えた。格子 QCD 計算の結果と整合するように模型を遷移させる因子の温
度・バリオン数化学ポテンシャル依存性を決定することで、 QCD 相図へアプローチする。
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F-14
有限アイソスピン化学ポテンシャル領域から探るカイラル・閉じ込め転移間の相関
九大院理 A , 佐賀大院工 B
管野淳平A , 河野宏明 B , 八尋正信 A
クォークのダイナミクスを記述する量子色力学 (QCD) は非摂動性を有しており、その結果、我々の世界ではカイラル対称性の
自発的破れおよびクォークの閉じ込めが起きている。一方、QCD がもつ漸近自由性を考慮すると、高温・高密度状態において
はカイラル対称性が回復した、さらには閉じ込めから解放された状態へ遷移することが予想される。これら 2 つの現象は相転移
として捉えることができるが、2+1 フレーバー系においてカイラル相転移および閉じ込め相転移のあいだに相関があるか、とい
うことに関心が集まっている。
現在までで、格子 QCD 計算により、低密度領域ではカイラル・閉じ込め相転移は両方ともクロスオーバー転移であることが
明らかにされている。クロスオーバー転移においては 2 つの相を厳密に区別することはできないため、カイラル・閉じ込め相転
移のあいだに相関があるかを議論することが難しく、いくつかの先行研究間でも議論が分かれている。
そこで本研究では、虚数化学ポテンシャル領域において、カイラル対称性の破れ・回復をパリティ対称性の破れ・回復、閉じ込
め・非閉じ込め状態を荷電共役対称性の破れ・回復へと置き換えることにより 2 つの相転移の相関について議論することを目的
としている。現状、QCD を解くことは不可能なので、本研究では entanglement Polyakov-loop extended Nambu-Jona-Lasinio
(EPNJL) 模型を用いた計算を行う。EPNJL 模型はカイラル・閉じ込め相転移やパリティ対称性の破れ・回復を扱うことがで
きる模型であるが、虚数化学ポテンシャル領域に関しては 2 フレーバー系の結果しかなかった。そこで本講演では 2+1 フレー
バー系虚数化学ポテンシャル領域の相構造を EPNJL 模型を用いて調べた。
F-15
核子-核および核-核散乱におけるアイコナール近似の有効性
九大院理 A
堀ノ内亮A , 豊川将一 A , 松本琢磨 A
1980 年代に中性子過剰領域でコア核のまわりを低密度の中性子が雲のようにとりまいている中性子ハロー核 (11 Li) が発見さ
れた。2007 年には理化学研究所の不安定核ビーム施設 RIBF が稼働し、より重い核に中性子ハロー核 (31 Ne,37 Mg) が見つかる
など中性子過剰核の研究が盛んに行われており、中性子ハロー核の安定核では見られない特異な構造の研究が注目されている。
RIBF で行われるような高エネルギー入射核反応の解析には Glauber 模型がよく用いられる。Glauber 模型は原子核反応に
おける入射核と標的核の密度分布を用いて断面積を計算する。そのため、Glauber 模型を用いると実験結果の断面積を再現する
ような密度分布を求めることができるとされるが、Glauber 模型で用いられている eikonal 近似と adiabatic 近似の有効性につ
いて検証する必要がある。
本研究では eikonal 近似に注目し、核子-核および核-核散乱における eikonal 近似のエネルギー依存性および標的核依存性に
ついて調べた。eikonal 近似を用いない量子力学的な計算結果と微分断面積、反応断面積の比較を行うことで eikonal 近似の有
効性について議論する。
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F-16
Ti-Cm,V-Cm の障壁分布の探索
九大院理 A , 理化学研究所 B
渡辺健友A , 加治大哉 B , 庭瀬暁隆 A , 平野剛 A , 藤田訓裕 A , 山野裕貴 A , 光
岡駿 A , 森本幸司 B
超重元素の融合反応実験において入射エネルギー決定に重要な情報となる、融合障壁の分布測定を理化学研究所の線形加速器施
設で行った。気体充填型反跳核分離装置 GARIS と焦点面検出器系を用いて、51V+208Pb, 50Ti+248Cm, 51V+248Cm の 3
つの反応系で準弾性散乱を測定した。ビームエネルギーを変化させながら、0°方向に反跳する標的核を測定し、断面積の励起
関数を求めた。励起関数のエネルギー微分から障壁分布は求められる。高い質量分解能を持つ GARIS を用いることで、バック
グラウンド粒子だけでなく非弾性散乱のイベントも効率よく分離することができた。今回は実験から得られた結果やプログラム
CCFULL を用いた理論計算との比較を発表する。
F-17
RI ビーム実験のための陽子シンチレーション検出器の開発
九大理 A
秋山陽平A , 寺西高 A , 栄大輔 A , 福多貴大 A , 上野熊紀 A , 岡 祥平 A , 入部弘太郎 A , 吉田郭治 A ,
綿部愛 A
我々は不安定核と陽子の共鳴散乱の為の反跳陽子検出器の開発を行っている。反跳陽子検出器は 15 MeV 程度までの陽子エネ
ルギーを測る事、及び陽子と他の粒子との粒子識別が出来る事が要求されている。その為に通常はシリコン半導体検出器からな
るΔ E-E 検出器が使用される。E 検出器として半導体検出器より安価で取り扱いが容易な CsI(Tl) シンチレーターを使用する
事を現在検討しており、実際に陽子を検出するテスト実験を行いつつある。第一段階として、タンデム加速器による陽子ビーム
を用いて、CsI(Tl) 検出器単体でのエネルギー分解能を調べるテストに着手した。講演ではテスト実験の現状を報告し、今後の
計画についても述べる。
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F-18
RI ビーム実験のための反跳粒子Δ E-E 検出器の開発
九大理 A
福多貴大A , 寺西高 A , 秋山陽平 A , 栄 大輔 A , 上野 熊紀 A , 岡 祥平 A , 入部 弘太郎 A , 吉田 郭
治 A , 綿部 愛 A
我々は不安定核の構造の探求のため、RI ビームを用いた実験研究を進めており、RI ビーム実験のための反跳粒子Δ E-E 検出
器の開発を行っている。想定している共鳴散乱実験では、粒子識別をしつつ最大 15 MeV 程度の陽子のエネルギーを測定する
必要があるので、一層目 (Δ E) には 60 μ m、二層目 (E) には 1500 μ m のシリコン半導体検出器を使用する。この検出器の
性能評価やエネルギー較正を行うには、α線源だけでは不十分で、15 MeV 以下のエネルギーがよくわかっている陽子が必要で
ある。そこで現在、九州大学のタンデム加速器による陽子ビームを金標的に照射し、そこで得られる散乱後の陽子線を用いて、
Δ E-E 検出器の粒子識別能力やエネルギー分解能の測定実験を行いつつある。またそれだけでなく、エネルギー較正や検出器
に存在する不感層の評価などの試験法を開発するのが最終目標である。講演では、実験や性能評価の現状を報告する。
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