地震危険度と家賃 - 日本経済研究センター

地震危険度と家賃
一耐震対策のための政策的インプリケーション
山鹿久木
中川雅之
大阪大学
斉藤誠
橋大学
1
9
8
1年 6月の建築基準法の改玉により、これ以後の建築確認はより耐震性の高い新
9
8
1年以前の旧耐震基準に基づいた建
耐震基準によらねばならないとされた。一方、 1
物の建て替えや改修を促すための様々な施策が、国・地方公共団体によって実施され
ている。しかし、求められる耐震 対策は、消 費者の危険回避行動を前提とするか否か
によって、その内容が大きく異なる。そこで本稿では、東京都が公表した町丁目ごと
の地震 に関する地域危険度データと東京都の賃 貸住宅の個粟 データを用いて、東京都
の 家賃 関数を推定することにより、 2つの分析を行っている。第 1に、地震に関する
危険度が、東京都の家賃形成にどのような影響 を与えているかを、耐震基準や建物構
造 ご と に 家賃 関数を推計し、建物構造の選択に関する消費者の危険回避行動を検証す
る。第 2に、この推定結果をもとに、新耐震 基 準導 入の有無による家主主の比較をしな
がら、耐震化投資 が家主にとって収益的であるかどうかについての費用便益分析を行
ワ
。
1
.
はじめに
建 物 が 備 え る べ き 耐 震 性 に つ い て は 、 1981年 6月 に 建 築 基 準 法 が 改 正 さ れ 、 建 物
本稿を完成するにあたって、本誌 レフェリーからのコメントは非常に貴重でした。また、本稿の作成
にあたっては京都大学防災研究所における研究会に参加された方々から有益なコメントをいただきま
した。これらの方々に軍 く御礼申し上げます。なお膏藤と山鹿は、文部科学省科学研究費から特定領域
B
)(課題番号 9
0
1
7
3
6
3
2
)、若手研究 (
B
)
(
課題番号 1
4
7
3
0
0
2
3
)の助成をそれぞれ受けている。
研究 (
連絡先
〒3
0
5
8
5
7
3 茨城県つくば市烹王台 1
1
1 筑波大学社会工学系、 T
E
L
:
0
2
9
8
5
3
5
1
7
9、
の「骨組み」そのものの崩壊を防ぐことを目的に、耐震基準の強化が行われた。 1
9
8
2
年以後の建物はこの新耐震基準にそって建てられている。
阪神淡路大震災における 6400人を超える犠牲者のうち、約 8割は建物の損壊、と
りわけ住宅の倒壊等に起因するものであった。さらに、倒壊した住宅により街路が
閉塞され、i1i;げ遅れや救出の遅れ、消火活動の困難化をもたらし火災の拡大を招く
など、住宅の被害が地震被害をより大きくした原因となった。これらの倒壊被害の
95%が 1
9
8
1年以前に建築された建物に集中していたことや、建物構造に関して木造
住宅に大きな被害が生じていたことが報告されている
このように、旧耐震基準に基づいて建てられた建築物の耐震対策は、都市の防災
上非常に重要な課題であるが、建物の耐震化はあまり進んでいない。例えば 2
0
0
1
密集住宅地における耐震改修の推進に向け
年の国土交通省住宅局調査によれば( r
て J (以下「耐震改修調査 J))、木造住宅 8
4
0
1棟中耐震性能上危険だと判定され
たものが 23.7%あるにもかかわらず、耐震診断や耐震改修を実施したことのある住
宅は、耐震診断 3%、耐震改修等 7%と非常に少ない実態が報告されている。
4年度から住宅の
国は、建築物の耐震化を進めるための法制度 2を整備し、平成 1
耐震改修に対する補助を実施している。後者の耐震改修については、行政庁が耐震
改修を実施すべき地区と住宅を指定し、勧告を行い、耐震改修費用の 7.7%以内を
補助する制度となっている。勧告に従わない者に対しては、罰則を伴う建築基準法
第1
0条の命令が出されることとなっており、居住者又は家主の選好に拘わらず、行
政庁が計画した耐震改修を確保できる政策として構成されている。
しかし、そもそも耐震改修等の建築物の耐震化投資は、地震災害リスクから自分
の資産を防護する消費者の危険回避行動と考えることができる。防災に関する政策
の企画立案にあたっては、この消費者の危険回避行動を前提とするか否かによって、
その制度設計は大きく左右される。本稿では、東京都の共同建賃貸住宅(アパート
とマンション)の家賃関数の推計を通じて、消費者の賃貸住宅の選択が、危険回避
的に行なわれているのかという点について実証的に検証し、その推計結果を踏まえ
て耐震化投資にかかる制度設計に関する考察を行う。
危険回避的な家計や企業は、①地震災害リスクの高い地域での立地を回避し、②
1
E"mail:yarnaga@sk
.t
s
u
k
u
b
a
.
a
c
.
j
p
日本建築学会兵庫県南部地震被害調査 W G の調査においては、中央区の旧耐震基準木造住宅のうち
39%が倒壊崩壊又は大破という被害を受けたのに対して、旧耐震基準非木造住宅については、その率
が 17%に止まっていることが報告されている 。
建築物の耐震改修の促進に 関する法律」
2
所与の地震災害リスクに対しては耐震性能の高い建物を建築する。前者の危険回避
行動は、地震災害リスクを伴う不動産への需要が低下することから、当該リスクの
大きさは地震 災害リスクの高い地域における地価や家賃の低下度合として表れる。
後者については、与えられた立地のもとで耐震構造を備えた建物への投資行動に反
映され、建物に関するリスクの大きさはそれぞ‘
れの耐震性能ごとの家賃差として表
れる。
①の意味で、地震 リスクが地価形成に与える影響 を系統的に実証した事例は数少
ta
l
.(
19
9
7
)は
、 1
9
8
9年にサンフランシスコ湾岸地域を襲った Iρma
ない。 Berone
P
r
i
e
t
a地震 の前後で、地震災害リスクが住宅価格に反映する度合いが変化している
ことを指摘し、その背後で住民が地震 リスク評価を改訂した可能性を議論している。
Brookshiree
tal
.(
19
8
5
)では、カリフオノレニア州が 1
9
7
4年に開示した地震危険度の
情報が、開示後の地価形成に統計的に有意に反映されるようになったことが明 らか
にされている。また、実証結果が簡易な危険回避行動モデルとも整合的であること
を示している。
2
0
0
2
) では、東京都が 1
9
9
8年に町丁目ベースで公表した地震
山鹿・中川・杏藤 (
危険度の指標が公示地価にどのように反映されているのかを実証的に検証している。
その結果、最も危険度が高い土地の 2000年における地価は、相対的に安全な土地に
比べて地価が 10%程度割り引かれていることが示され、さらにこの実証結果を危険
回避行動モデノレに基づいて評価すると、最も地震リスクの高い地域の地価は、地震
による物理的損失期待額を大きく上回って割り引かれていることが示されている。
一方、われわれの知るかぎり、外国においても、日本においても、②の意味での
2
0
0
2
) で用いたものと同
実証事例はまったくない。本稿では、山鹿・中川・脊藤 (
2
0
0
2
) で地震危
様の東京都の地域危険度データを用いながら、山鹿・中川・杏藤 (
険度とストック価格である地価の関係に用い られたアプローチを、地震危険度とフ
ロー価格である家賃の関係に適用し、②の意味での危険回避行動としての耐震化投
資を分析している。
以下、論文の構成は次の通りである。第 2節では、家賃関数の推計を通じて家賃
と地震危険度の関係を分析している。そこでは、新耐震基準の住宅は旧耐震基準の
程度家賃が高いことや、旧耐震基準の住宅は地域危険度の増加に
住宅に比して 11%
応じて家賃 が下がるが、新耐震基準の住宅は危険度に対する家賃感応度が大きく低
下することが明らかにされる。第 3節では、第 2節での実証結果に基づいて「家主
によって実施される耐震化投資が収益的であるか」の費用便益分析を行う 。第 4節
3
では、効率的な耐震対策のために必要な制度設計が考察されて、第 5節でまとめが
述べられる。
2
.
家賃関数の推定
本節では、家賃の特性を表す変数として建物危険度変数を加えて、当該地震危険
度が家賃に与える影響をヘドニック価格関数としての家賃関数を推定することによ
り分析してし、く。
2
.
1 デ-?r
推定する家賃関数の被説明変数である 賃貸物件の家賃 のミクロデータは、リクノレ
ート (
2
0
0
2
)より 2
0
0
2年 1月末に採取したものを用いている。このデータは、インタ
ーネットのホームページに掲載されており、データ情報は随時更新されている。今
回の対象物件は、東京都に立地している民営の賃貸住宅で、マンションあるいはア
ノtートとして掲載されている物件である。リクノレート (
2
0
0
2
)では、マンションを「耐
火構造でできた共同住宅」、アパートを「準耐火構造でできた共同住宅」と定めて
し
、
る
。
住宅はその建て方別に耐震性に大きな差があることが明らかになっており、前出
の「耐震改修調査」によれば、 5
9
8
9棟の一戸建木造住宅については 17.9%が危険、
41
.3%が安全と判断されたのに対して、 9
6
8棟の共同建木造住宅については、 53.1%
が危険と判断され、安全と判断されたものは 14.0%しかないことが報告されている。
9
9
8年住宅土地統計調査では、 1
9
8
0年以前の共同住宅の 84%が借家である。
また、 1
本稿では、これらの点か ら政策的に特に重要であると考えられる共同建住宅の耐震
化投資について借家のデータを用いた分析を展開することとする。
また、信頼できる推定結果を得るために、十分なサンフツレ数が確保できないとい
う理由から、テラスハウスやタウンハウスと呼ばれている連棟式の住宅のサンプノレ
と法人限定(希望)借家3や定期借家4のサンフツレを除外して分析を行っている。サ
ンフ。
ノレ数は 8
2
5
1
6件である。
2
0
0
2
)か
家賃に影響を与えると考えられる属性変数のデータとして、リクノレート (
法人限定(希望)借家」 とは、賃貸人は法人に限る、あるいは法人を希望 とされている借家のこと
である 。
定期借家」とは、契約した期聞 が満了したら、確定的に借家権 が消滅する という特徴をもっ、 賃 貸
人が契約の更新を請求する 権利がないという契約形態 の借家で ある。
4
ら物件の最寄り駅までの徒歩あるいはパスの所要時間、月額家賃(管理費込み)
床面積、築年数、物件の階数、建物構造、建物種別、所属地方自治体のデータを得
た
。
建物構造としては、鉄骨、鉄筋鉄骨、木造の 3種類に分類した。リクルート (2002)
では、軽量鉄骨、鉄筋コンクリートとして掲載されている物件もあるが、本稿の分
析では軽量鉄骨とされている物件を鉄骨に含め、鉄筋コンクリートとされている物
件を鉄筋鉄骨に含み、 3分類で分析を行った。
リクルート (2002)では得られないデータとして、都心までの時間距離がある。首
都圏の 賃貸住宅の家賃は、東京都心からの距離にも大きく影響を受けているため、
各物件の最寄り駅から東京駅 までの所要時間(乗車時間と乗換え時間の合計)をヴ
アノレ研究所『駅すぱあと~ (
2
0
0
0
)で測定し、都心までの時間距離として説明変数に
加えた。
地域危険度のデータは、東京都(1998)を用いた。 このデータは、東京都が防災対
策の一環として、東京都震災予防条例第 1
7条に基づいて、昭和 5
0年以降概ね 5年
毎に測定・公表しているものである 。平成 1
0年 3月に公表された「地震 に関する地
域危険度測定調査報告書(第 4回) J (以下『地域危険度調査~ )においては、 5
段階の地震危険度が町丁目ごとに測定され、ホームページでも公表されている。こ
の地域危険度調査は、被災ポテンシヤノレを地域間で比較することを目的としており、
その地域危険度は、特定の地震や時点を想定しない、年聞を通じて平均的な危険度
合を表す指標である。
具体的には、地域危険度は、地震が起こった場合の震動 による物的危険性を評価
した「建物倒壊危険度」、火災による物的危険性を評価した「火災危険度」、 震動
による人的危険性を評価した「人的危険度」、火災 による人的危険性を評価した「避
難危険度」の 4つの指標によって構成され、全町丁目が比較的安全な地域である危
険度 1から、危険度の増加に応じて 5段階のランクに分類されている。
本稿では、これら 4つの危険度指標の中でも「建物倒壊危険度 J (以下、建物危
険度とする)と家賃 の関係を分析する。表 lは、建物危険度分布を示している。こ
の指標は主として建物の構造や地盤なと、都市の物理的特性に基づいて危険度の判
定がなされている。一方、火災危険度、人的危険度、避難危険度では、商業等の機
能集積、人的集積が危険度評価のマイナス要素として評価されている 。本来、これ
らの集積は、地価や家賃 に対してはプラスの影響 を与える要素であるため、火災、
人的、避難の指標は、地震 リスクに対する評価が過小に推定される可能性がある。
5
表 1 危険度ごとの建物サンプル数の分布
危険度
アパート
マンション
5505 (件)
16353 (件)
2
8248
27451
3
3705
15311
4
711
4303
5
1
3
1
8
4
1
注)値が大きいほど危険度は高 くなる 。
表 2 使用するデ一世の説明
変数
家賃 (円)
建物危険度
パス(分)
徒歩(分)
都心までの時間距離(分)
m
"
)
床面積 (
築年数(年)
物件階数
一階ダミー
建物構造ダミー
建物種別ダミー
新耐震基準ダミー
内容
月額の管理費込みの家賃
危険度レベル (
1から 5
)
最寄り駅からサンプル地点までパスを使う場合のパス所要時間
最寄り駅または最寄りパス停から物件まむの徒歩時間
東京駅までの鉄道による所要時間
物件の床面積
建築されてから何年目かを示す変数(新築は l年目)
当該物件が存在する階数
物件が l階 に あ れ ば し そ れ 以 外 の 場 合 は 0をとるダミー変数
物件の構造を鉄骨、鉄筋鉄骨、木造の 3分類に分け、それぞれについ
て lか 0をとるダミー変数
マンションとアパートを区別するダミー。それぞれについて lか 0を
とるダミー変数
新 耐 震 基 準 に 基 つ い た 建 物 な ら し そ れ 以 外 の 場 合 は 0をとるダミー
変数
本稿では、そうした影響がないと考えられる建物危険度を地震危険度指標として用
いている。以上のデータを家賃 関数の説明要因として採用し、表 2にそれらをまと
めた。
2
.
2 家賃関数の特定化と推定結果
家賃関数は、以下のようなヘドニック価格関数として表すことができる。
尺二 R(H
,
X
"
.
X
"
.
.
.
.
.
X
N
J
(
1
)
R,は第 1物件の家賃、 H,は当該地点の建物危険度、 X
l
i,
Xド
XNはその物件に関
ラ
する N 種類の家賃の属性変数をそれぞ、れ表している。これらの変数を用いて、建物
危険度が家賃に与える影響を明らかにする。
基本的な関数形は (1)式を以下のように特定化する。
l
n尺二日+問'+Ly
,lnX
,, +ε
1
(
2
)
(
2
)式は、(1)式のへドニック価格関数を対数線形化している。ただし、危険度変
は対数をとらない。",は i
.
i.
dの誤差項、日、 β 、 y,はパラメーターである。
数 H,
6
なお、補論では、対数線形に基づいた推計結果の頑健性を検証するために、 Box-Cox
変換に基づいた推計結果を合わせて報告している。 (
2
)式は家賃関数の基本形である
が、以下では、より特定化した家賃関数の推計結果を報告している。
(
2
)式に対して、鉄骨、鉄筋鉄骨、木造といった建物構造によって家賃に与える影
響 の違いを考慮し、さらに、住宅が新耐震基準に基ついているかどうかを区別する
ダミー変数をこれに加える。それらの各ダミー変数を加えた推定式は、
dA + 日
dM
lnR
,
二
日
,
+
日 2dM +日3D.
4D.
+s,
d,
H,
+s,
dRH
,
+s,
dwH
,
(
3
)
L"
YlnX"+εJ
+sPd
,
H,
+sPdRH,
+s,
DdwH
,
+
となる。ただし、
R
管理費込みの月額家賃
H :5段階の建物危険度
dA
:
アパートなら l、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
dM ・7 ンションなら 1、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
d,・鉄骨造なら 1、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
dR :鉄筋鉄骨造なら 1、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
dw ・木造な ら 1、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
D :新耐震基準に基づく住宅であれば 1、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
X" ー家賃に影響を与える N種類の属性変数
である。
(
3
)式の特定化により、定数項が、アパート又はマンションを示す建物種別 に旧耐
震基準と新耐震基準の物件ごとに推定され、危険度が家賃 に与える影響も、建物構
造別に新耐震基準と旧耐震基準の物件ごとに推定される。 (
3
)式を OLS推定した結
果を表 3で報告している。
表 3によると、最寄り駅までのパスあるいは徒歩の時間距離、都心までの時間距
離、築年数の係数は
1%水準で有意にマイナスで推定されており、期待される符号
と一致している。床面積の係数は
1%水準で有意にプラスで推定されており、これ
も期待される符合と一致している。また階数の係数は
1%水準で有意にプラスであ
り、階数が上の物件ほ ど家賃が高いという推定結果を得た。ただし l階ダミーの係
数が有意にプラスであり、 l階は家賃 が特に高いことが推定された。これは、 l階に
庭園 スペースなどの便益がある場合のプラスの影響が家賃に反映されていると考え
られる。
7
3
)式 の 家 賃 関 数 の 推 定 結 果
表3 (
変数
係数
S
.E
マンション
0
.
0
6
6
(
0
.
0
0
6
5
)
D.アパート
D.マンション
O
.1
0
8
(
0
.
0
0
6
3
)
O
.1
0
3
(
0
.
0
0
4
5
)
危険度×鉄骨
0
.
0
1
3
(
0
.
0
0
2
4
)
危険度×鉄筋鉄骨
0
.
0
0
9
(
0
.
0
0
1
9
)
危険度×木造
D・危険度×鉄骨
0
.
0
2
7
(
0
.
0
02
7
)
0
.
0
0
3
(
0
.
0
0
2
4
)
D・危険度×鉄筋鉄骨
D・危険度×木造
ノ
〈
ス
0
.
0
0
3
0
.
0
3
6
(
0
.
0
0
1
9
)
0
.
0
7
5
(
0
.
0
0
1
5
)
‘
。 031
(
0
.
0
0
0
8
)
時間距 離
0
.
0
9
5
(
0
.
0
0
3
3
)
床面 積
O
.7
3
2
(
0
.
0
01
l
)
築年数
0
.
0
3
5
(
0
.
0
0
0
5
)
階数
0
.
0
5
2
(
0
.
0
0
1
3
)
l階ダミー
0
.
0
1
9
(
0
.
0
0
1
8
)
定数項
8
.
8
9
3
(
0
.
1
6
0
3
)
キキキ
林キ
林キ
キキキ
キキキ
ホキキ
キ
キキキ
キキキ
徒歩
キヰヰ
キキキ
キキキ
キキキ
キキキ
キキキ
キキキ
2
‘
。 918
Adj.R
F1
直
7
0
9
0
.
8
3
サンプノレ数
/
主
1
)
/
主2
)
/
主3
)
注射
/
主5
)
(
0
.
0
0
2
8
)
8
2
5
1
6
材木、材、*は、推定された係数がそれぞれ 1%、5%、10%水準で有意なことを示す。
表中 D は新耐震ダミー変数を表す。
定数項の基準は旧而活要のアパートである。
F値は、定数項以外の係数が主てゼロであるという 帰無仮説に基づいた検定統計量。
その他の変数として、表には示していないが、区・市ダミー、 路線 ダミーは主て加え
て推定されている 。
定 数 項 と 定 数 項 ダ ミ ー の 係 数 日1 か ら 引 の 大 小 関 係 を み る と 、 ア パ ー ト よ り マ ン
シ ョ ン の 家賃 の ほ う が 定 数 項 で 高 く 、 か っ 旧 耐震 基 準 の 物 件 に 比 べ て 新 耐 震 基 準 の
物件のほうが高いことが統計的に有意に推定された。つまり、新耐震基準にそった
耐 震 構 造 へ の 投 資 が 、 家賃 水準を全般的に高めていることが明らかに示された。
構造別の建物危険度の係数 p
についてみると、旧耐震基準に基づいた住宅に関し
ての係数は有意でマイナスに推定されている。係数の絶対値の大きさでは、木造が
一番大きく、鉄筋鉄骨がもっとも小さい。つまり、建物危険度は旧耐震基準に基づ
い た 物 件 の 家賃 に 対 し て 、 強 く マ イ ナ ス の 影 響 を 与 え 、 そ し て 、 耐震 強 度 が 最 も 弱
いと考えられる木造の物件ほど、地震危険度を強く反映している。
次 に 新 耐 震 基 準 に 基 づ く 物 件 の 建 物 危 険 度 に 関 す る 係 数 を み る 。 新 耐震 ダミーと
8
のクロス項の係数は、鉄骨、鉄筋鉄骨に関しては有意でないか、 10%水準でしか有
意に推定されておらず、これ らの構造の物件については、耐震性の評価について、
旧耐震基準に基づく物件から大きな改善はみられない。
一方、木造に関しては、有意にプラスに推定されている。 F検定によると、新耐
0
.
0
3
6
) と旧耐震 に関する危険度係数 (
0
.0
2
7
)
震 ダミーと危険度のクロス項の係数 (
の和が有意水準 1%で統計的に有意に正である。すなわち、新耐震基準に基づいた
木造住宅の地震危険度の感応度はプラスになるとし、う結果を得ている。
以上より新耐震基準の導入による耐震化投資が家賃の水準を全般的に高め、特に
木造住宅に関しては、地震危険度に対する感応度が、マイナスからプラスへと符号
型転が起こるほどに、感応度を引き下げる方向へ強く影響を与えたことが示され
のi
た。
2
.
3 木造住宅の質の考慮
次に耐震基準以外の住宅の質が、耐震性能に与えている影響 を考慮するために、
(
3
)式の推定式を次のように拡張していこう。ここでは住宅の質を代表するものとし
て築年数を採用する。
dA +
dM
lnR
, a,
+臼 2dM+臼 3D.
臼 4D.
二
Hi+β'
+β'
j
d
S
H)
+β'2dR
,
dwH
,
+s,
dwH,
lnX"+
(
4
)
L
:rmlnX"+
6
"
,
+sPd
,
H,
+βl
o
D
d
R
H;
+ β~DdwHi + β', DdwH, lnX"+
ただし、
R
管理費込みの月額家賃
H :5段階の建物危険度
dA
:
アパートなら l、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
dM ・7 ンションなら l、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
d,・鉄骨造なら l、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
dR :鉄筋鉄骨造なら l、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
dw :木造な ら l、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
D :新耐震基準 に基づく住宅であれば l
、それ以外の場合は 0をとるダミー変数
Xli ー築年数
X" 家賃に影響を与える N種類の属性変数
である。
(
4
)式では、築年数 X1iの対数値と木造住宅の危険度変数のクロス項を加えている。
9
このような特定化を行うことにより、木造住宅に関して、築年数ごとに危険度に対
す る 感 応 度 が 推 定 で き る 。 推 定 結 果 を 表 4に報告している。
3
)式 の 家 賃 関 数 の 推 定 結 果 と 同 様 の 値 を 得 て い
まず危険度以外の変数の係数は、 (
4
)式 に 基 づ い て 、 危 険 度 に 対 す る 感 応 度 を 築 年 数 ご と に 計 算 し 、 グ ラ フ に し た
る
。 (
の が 図 1で あ る 。 こ れ に よ る と 、 新 耐 震 基 準 か 旧 耐 震 基 準 か に か か わ ら ず 、 建 物 が
古くなればなるほど、危険度に対して感応的になることが、右下がりのグラフであ
ることからわかる。さらにグラフの傾きが旧耐震基準と新耐震基準聞に大きく差が
ある。旧耐震基準の木造住宅に関しては、傾きが急であり、危険度感応度はマイナ
4
)式 の 家 賃 関 数 の 推 定 結 果
表 4 (
変数
係数
S
.E
‘
。 067
‘
。 111
‘
。 104
ヰヰヰ
(
0
.
0
0
6
5
)
ヰヰヰ
(
0
.
0
0
6
3
)
キヰヰ
(
0
.
0
04
5
)
(
0
.
0
0
2
4
)
危険度×木造
‘
。 012功
。
"
‘
。o
o
s
*
'
‘
。 154
危険度×木造×築年数
‘
。 055功
。
"
(
0
.
0
0
67
)
D 危険度×鉄骨
0
.
0
0
4
(
0
.
0
0
2
4
)
マンション
D.アパート
D.マンション
危険度×鉄骨
危険度×鉄筋鉄骨
ヰ
(
0
.
0
0
1
9
)
ヰヰヰ
(
0
.
0
2
2
2
)
D 危険度×鉄筋鉄骨
O
.0
0
3
(
0
.
0
0
1
9
)
D 危険度×木造
‘
。1
4
3
*
'
*
‘
。 054
(
0
.
0
2
2
3
)
‘
。 075
‘
。 031
‘
。 095功
。
"
‘
。 731
梓ヰ
(
0
.
0
0
1
5
)
梓ヰ
(
0
.
0
0
0
8
)
‘
。 034
*
'
‘
。 052
‘
。 019
8
‘
8
9
0
ヰ
(
0
.
0
0
0
5
)
ヰヰヰ
(
0
.
0
0
1
3
)
ヰヰヰ
(
0
.
0
0
1
8
)
D 危険度×木造×築年数
ヰヰヰ
ノくス
徒歩
時間距離
床 面積
キホヰ
築年数
階数
l階ダミー
定数項
F1
直
6
9
9
0
.6
3
サンプル数
主
/3
)
/
主4
)
注5)
(
0
.
0
0
1
1
)
‘
。 919
Adj.R
主
/2
)
(
0
.
0
0
3
3
)
ヰヰヰ
2
/主j)
(
0
.
0
0
6
8
)
8
2
5
1
6
本材、料、*は、推定された係数がそれぞれ 1%、5%、10%水準で有意なことを示す。
表中 D は新耐震ダ ミー変数を表す。
定数項の基準は旧耐震のアパートである。
F値は、定数項以外の係数が主てゼロであるという 帰無仮説に基ついた検定統計量。
その他の変数として、表には示していないが、区 市ダミー、路線ダミーは主て加えて推
定されている。
1
0
1 築年数に対する耐震基準別危険度感応度
1
ハU
2
1
0U
ハ
υ
ハ
υ
一
図
0
0
.
0
1
10
U2
2
20:
30
40
50
幽 -0.02
量-0.03
旧耐震基準
0
.
0
4
0
.
0
5
0.06
0
.
0
7
築年数
スで築年数に強く影響を受けているのに対して、新耐震 の木造住宅は傾きが緩やか
で、築年数の影響を危険度感応度はそれほど大きく受けていない。このことは、新
耐震基準に基づいて建築された住宅は、築年数の影響をほとんど受けないほどの耐
震性に関する評価を得ていると考えることができる。
また、 (
4
)式の推定モデルであっても、 (
3
)式と同様に、新耐震 の木造物件の感応
度はプラスで推計されている。この理由については、危険度の高い地域に立地して
いる新耐震基準に基づいた木造新築物件では、耐震構造にかかわる住宅の質が、今
回考慮した築年数以外の部分で非常に優れている可能性があり、このような耐震構
造にかかわる一定の設計上の配慮、が、家賃 を大きくかさ上げしている可能性をあげ
ることができる。
2.
4 新耐震基準と旧耐震基準の予測家賃の比較
以下では (
3
)式と (
4
)式の家賃関数の OLS推定による推定結果を用いて、築年数
ごとに新耐震基準と旧耐震基準の予測家賃を計測し、それらを比較することで、築
年数という質を考慮した場合においても、新耐震基準に基づく住宅の家賃の方が高
いことを具体的に示す。旧耐震基準に基づく物件は、現段階で築年数 22年より古い
ものだけが存在し、新耐震基準に基づく物件は、築年数 2
1年より新しいものしか存
在しない。このため「最寄り駅までの徒歩時間 9分」、
所要時間 30分」、
「最寄り駅から都心までの
「床面積 30m2J、 「部屋の階数は l階」、
1
1
「墨田区の危険度レ
ベノレ 5の地域」、
「木造アパート」としづ設定を行った住宅について、推定された
パラメータに基づいて、これらが築年数 22年以降になった場合を想定して予測家賃
を求め、築年数 22年以降の旧耐震基準と新耐震基準の住宅の家賃の比較を行ってい
る。表 5に築年数ごとに予測家賃を報告している。
表 5によると、
(
3
) 式のモデノレの推定結果からは、新耐震基準に基づいた墨田区
の木造アパートの家賃が、築年数に関わらず 33%高いことがわかる。
(
4
) 式の推
定モデノレでは、例えば、現在築 2
1年目の新耐震基準の木造アパートが、築 2
2年目
になった場合、現在築 2
2年目の旧耐震基準のものと比べて 25.5% (
1
.5
8万円)家
0年目になると、 36.4% (
2
.
0
4万円)も
賃が高いという結果を得た。同様に、築 3
の家賃差が生じている。
表 5 危険度
5の地域に建つ木造アパートの予測家賃の比較(単位は万円)
(
4
)式 に よ る 予 測 家賃
(3)式による予測家賃
築年数
新耐震
旧而t
震
新耐震
差
旧而t
震
差
l
8
.
6
9
8
.
8
3
5
8
.
2
2
8
.
2
6
1
0
8
.
0
2
8
.
0
2
2
1
7
.
8
2
7
.7
8
2
2
1
78
5
.
8
6
1
.9
4(
3
3
.
1
%
)
7
.7
6
61
8
1
.5
8 (25.5%)
3
0
7
.7
2
5
.
8
0
1
.9
2(
3
3
.
1
%
)
7
.
6
6
5
.
6
2
2
.
0
4 (36.4%)
4
0
7
.
6
5
5
.7
4
1
.9
0(
3
3
.
1
%
)
7
.
5
7
51
4
2
.
4
3 (47.4%)
5
0
7
.
5
9
5
.7
0
1
.8
9 (33.1%)
7
.
5
0
4.
7
9
2
.
7
1 (56.4%)
‘
‘
‘
2
.
5 住環境との関係
本節の最後に、東京都が公開している町丁目ごとの建物危険度変数が地震リスク
と家賃の見せかけの関係を捉えてしまっている可能性について検討していきたい。
たとえば、低層木造住宅が密集するような地域(地震危険度も高いと予想される
地域)に対して、地震危険度が高し、からではなく、居住環境が悪いという理由で家
計が居住を避けてきたとすれば、そうした地域の借家の賃料は低くなる。もし、住
民の住環境に関する認識が家賃に反映されていれば、本稿で取り扱ってきた地震災
害リスクは、単に当該地域の住環境に関する評価を計測したにすぎないことになる。
しかし、以下の理由から本稿の推定結果は地震危険度の家賃への影響を計量した
1
2
ものと考えることができる。
第 lに、推定結果でみたように、建物危険度が建物構造別に異なる影響を与えて
いること自体が、建物危険度が地震に関するリスク以外の環境要因を代表している
と考えにくい証左になっている。
第 8期住宅建設五箇年計画の住環境水準に基ついて、立地地区の環境として重要
と考えられるものを挙げると、①地震などの自然災害や大規模な火災に対する安全
性や日常生活の安全性、②交通機関や生活関連施設等の利便性、③自然環境や市街
地の空間のゆとりに関する快適性があげられる。これらの地域環境はいずれも家賃
に影響 を与える可能性があるが、地震に関する安全性以外は、建物構造や耐震基準
により影響が異なることは予想しにくい。一方、今回用いた建物危険度データは町
丁目レベノレでのデータであるが、ひとつの町丁目の中に鉄骨、鉄筋鉄骨、木造の 3
種類の建物構造のサンプノレが含まれている地点が多く存在する。このような状況で、
建物構造、耐震基準間で危険度に対する感応度に差があるとしづ推定結果を得てい
るということは、その地域の環境の影響ではなく、地震に関する危険度を反映して
いると考えるのが妥当と思われる。
第 2に、本稿の家賃関数の推定においては、従来の日本の家賃に関する既存研究
で取り入れられている住環境に関連する変数の代表的なものである区・市ダミー、
沿線ダミーを全てとり入れている。スペースの関係上、これらのダミー変数に関す
る係数は示していないが、東京都全域という分析対象範囲を考慮すると、基本的に
は地域の環境特性について十分に制御されていると考えられる。
第 3に、山鹿・中川・杏藤 (2002) における危険度データの性格に関する検討結
果をあげることができる。この論文では、本稿と同ーの危険度データを用いながら、
地震危険度が公示地価に与える影響を計量的に検証している。そこでの推計結果で
は、(i)時系列的な検証から鑑みると、当該地震危険度がそもそもの住環境を反映
しているというよりも、住民や企業の地震災害に対する意識に応じて地価の地震危
険に対する感応度が時系列的に変化していること、さらには、(i)住環境を強く反
映するはずの低層系住宅地よりも、商業地における地価のリスク感応度が日郎、こと
から、本研究でも用いている建物倒壊危険度が地域環境を表す代理変数となってい
る可能性が低いことが論証されている。
以上の理由から、地域環境を十分コントローノレした状況下で危険度分布と家賃と
の負の関係が建物構造、耐震基準別に統計的に有意に推定されている結果は、地震
リスクの定量化が適切に行なわれていることを示していると考えられる。
1
3
3
.
耐震化投資の費用便益分析
本節では、第 2節で得られた家賃関数の推定結果をもとに、耐震化投資が家主に
とって収益的な投資であるかについて、簡単な費用便益分析を行なう。
3
.
1 費用便益分析の方法
ここでは、新耐震基準に合致した構造の住宅とすることによって得られる住宅資
産の増分と、そのために必要な改修費用を比較することで、
「
耐震化投資が収益的
か」を評価する。評価基準の指標としては、純現在価値 (NPV)を用いる。耐震化投
資によって得られる m 期末までの便益の総現在価値と費用との差を、
九TFV 二す ~-c
(
5
)
t
;
'(
1+i
)
と表したときに (t期の不動産からの純便益は Y
,
、割引率はし耐震改修費用は C)、
九TFV20であれば耐震化投資が家主にとって収益的となる。以下の費用便益分析の
計算において、各変数を次のように想定している。
耐震化投資による純収益 Y
,
は、耐用年数までの残存期間を通じて一定で、耐用年
数に至った段階で賃貸住宅は滅失するものとする。なお、耐震改修は住宅の耐用年
数には影響せず、耐震性のみを向上させるものとする。耐用年数については、国民
経済計算から算出される 4
2年を採用している。以下の分析では、築 2
2年目の住宅
をモデノレケースとして用いているため、残存期間は 20年となる。したがって (
5
)式
では m=20である。割引率 1は
、 1
9
8
7年から 1
9
9
9年の平均実質モーゲージ金利であ
るO
.0352(民間住宅ローン金利か ら消費者物価上昇率を控除したもの)を採用する。
耐震化投資のコスト C は、住宅の個別の状況によって大きく異なり、網羅的なデー
タも存在しないため、基本的には「耐震改修調査」で示された平均耐震改修費用 300
万円(一戸当たり)を用いることとする。
3
.
2 耐震化投資の平均的な評価
本節では東京都における平均的な耐震化投資の収益性を判断することが目的であ
る。そのため、表 3において、新耐震基準ダミーの定数項ダミーあるいは危険度と
のクロス項のダミーの係数より、新耐震構造の賃貸住宅が、平均的にどれだけ家賃
が高し、かを計算する。それらは、鉄骨造であれば 10.28%、鉄筋鉄骨造であれば
9.82%、木造であれば、危険度ごとに異なるが、平均的に 19.84%新 耐震基準の家
1
4
賃が高いと計算される。これらを構造別のサンプノレ数での加重平均をとると、東京
都の賃貸住宅の家主は、新耐震基準に合致した構造の住宅とすることによって、そ
.4%高い家賃収入を得ることができると計算される。
れ以降約 11
1
9
9
8年住宅土地統計調査及び消費者物価指数のデータを用いて、東京都の築後 2
2
年目住宅の 1ヶ月当たり家賃を 68374円(管理費含) (
2
0
0
1年価格)とし、これに
11
.4%を乗じた 7
795円の家賃収入の増加を、耐用年数までの残存期間 20年間にわ
たって家主は得ることができるものとする。これをそれぞれの期について、平均実
質モーゲージ金利 0.0352で現在価値に割り引くことで、耐震化投資による住宅資産
の増加を 132.7万円と評価する。耐震改修費用の平均は一戸当たり 300万円程度と
されているため、耐震化投資を行うと、家主はその半分程度のコストを回収できな
いこととなる。平成 1
4年度から耐震改修工事の 7.7%以内を限度とした補助が講じ
られることとなっているが、この補助を受けたとしても、家主は、
1
3
2
.7-300x(
10
.0
7
7
)~-144. 2万円の、損失を被ることとなり、この補助は耐震化
投資に関する意志決定に平均的に影響を与えることはない。
ここで、補助率の損益分岐点を算出すると、 (
3
0
0
1
3
2
.7
)/300~0. 5
6となる。つ
まり補助率が 56%の場合、家主は自ら負担した 1
3
0万円程度の耐震化投資費用を将
来の家賃収入の増加によってちょうど回収することが可能になる。この試算結果は、
「耐震改修調査」において
r(耐震改修に対する補助制度がまちれば改修するとした
人に対して)どの程度の補助率であれば改修しますかり」という聞に対して、 51
.0%
の人が r
5害1
'
J と回答している結果や、
「耐震改修の費用が幾らくらいまでなら耐
震改修を実施しますかっ」という問いに対してほとんどの人が r100 万円未満」
(56.9%)、 r
1
0
0万円台 J (29.3%)と回答している結果と整合的である。
3
.
3 木造アパート耐震改修の費用便益分析
耐震化投資に関する費用便益分析を地域危険度、建築物の構造別に行う。耐震化
投資に伴う家賃の上昇分については、表 5で計算したものと同じ条件を用いる。す
0分、居
なわち、墨田区に立地し、最寄り駅からの距離が 9分、都心までの時聞が 3
住室面積 30m2、部屋の階数は 1階の木造アパートの家賃差を用いる。また、築年数
は新耐震基準の予測家賃の誤差が最も小さいと考えられる築 2
2年目で計測する。表
5では、危険度 5を代表として求めたが、本節での分析は危険度別に求めるため、
表 6に、築 2
2年目の家賃を危険度別に計算したものを報告している。
表 6の家賃の差額をもとに、 (
5
)式の純現在価値基準に基ついて、評価を行った結
1
5
表6 築2
2年目の木造アパートの新・旧耐震基準別予測家賃の比較(単位は万円)
(
4
)式 に よ る 予 測 家賃
(3)式による予測家賃
新基準
旧基準
危 険 度 l地 域
7
.5
3
6
.5
4
危 険 度2
地域
7
.6
0
危 険 度3
地域
新基準
旧基準
1
.0
1
7.53
6
.58
O
.9
5
6
.3
6
1
.2
5
7.59
6
.48
1
.11
7
.6
7
61
9
1
.4
9
7.65
6
.38
1
.2
6
危 険 度 4地域
7
.7
4
6
.0
2
1
.7
2
7
.7
0
6
.28
1
.4
2
危 険 度5
地域
78
1
5
.8
7
1
.9
4
7
.7
6
61
8
1
.5
8
‘
‘
差
‘
差
注) (
3
)
、 (
4
)式に木造、 墨 田区、駅からの距離 9分、都心までの距離 3
0分 、 面 積 3
0,
昔
、 l階 、 築 2
2年
という数値を外挿して得た家賃 とその新・旧基準別住宅聞の比較。
果を表 7に報告している。木造アパートにおける耐震改修の便益を、平均的な改修
費用 300万円、比較のために掲げた改修費用 1
0
0万円と比較する。
1の耐震化費用が 3
00万円で補助が全くないケースについて
表 7によると、第(1)亨]
は、家主にとっての純収益がほとんどの場合で負となっており、耐震化投資のコス
トを回収することが困難である。このケースにおいても、危険度 5地域における耐
震改修については、 (
3
)式の推定モデノレでは、 30.27万円の収益が見込まれるが、 (
4
)
式の推定モデノレでは、ほぼ同額の損失が推定されている。平成 1
4年度から講じられ
る耐震改修補助率である 7.7%の補助を講じた第 (
2
)列のケースにおいては、 (
4
)式
.92 万円まで縮まる。また、参考として掲げてい
の推定モデノレによるこの損失は 7
る第 (
3
)列の補助率 10%のケースにおいては、1.0
2万円とほぼ収益的となり、 10%
を補助率の損益分岐点と解することができる。
このように現行の耐震改修補助又はそれをやや拡張した 7%から 10%程度の補助
であれば、耐震改修の全般的な促進を図ることは困難であるものの、危険度の高い
地域の耐震化投資について限界的な意味で影響を与えるケースも存在することが示
された。
1
及び第 (
5
)手]
1では、改修費用を 1
00万円と想定した場合の分
一方、表 7の第 (
4
)手]
析を行っている。このケースであれば、補助の有無にかかわらず、全ての危険度の
地域で、耐震化投資が収益的であるとしづ結果を得た。
以上のように、耐震改修に伴う耐震性能の向上の度合いが最も大きい木造住宅に
ついて危険度 5地域における投資が収益的であるという結果は、効果の大きい耐震
化投資の実施を消費者が高く評価していることを示していると考えられる。
1
6
表
7 木造アパートの耐震改修における費用便益分析
改 修費 3
0
0万円の場合の収益
(
4
)
(
5
)
補 助 率 0% 補 助 率 7.7% 補 助 率 10%
補 助 率 0%
補 助 率 7.7%
(
1
)
(
3
)式の家賃関数
家賃差
(
2
)
改修費 1
0
0万円の場合の収益
(
3
)
危 険 度 l地 域
1
.0
1
1
2
8
.
0
6
一104.96
9
8
.
0
6
71
.9
4
7
9
.
6
4
危 険 度2
地域
1
.2
5
8
7
.
2
0
6
4
.1
0
5
7
.
2
0
1
1
28
0
1
2
05
0
危 険 度3
地域
1
.4
9
4
8
.
0
4
2
4
.
9
4
1
6
.
3
4
1
5
36
6
1
61
.3
6
危 険 度4
地域
1
.7
2
8
.
8
9
1
42
1
2
2
.
8
1
1
9己 8
1
1
2
0
05
危 険 度5
地域
1
.9
4
3
0
.
2
7
5
3
.
3
6
7
6
0
.
2
7
2
3
0
.
2
7
2
3
7
.
9
7
危 険 度 l地 域
o
.95
1
3
8
.
2
7
1
1
5
.
1
7
1
0
8
.
2
7
61
.7
3
6
9
.4
3
危 険 度2
地域
1
.1
1
1
11
.0
3
8
7
.
9
3
81
.0
3
8
8
.
9
7
9
6
.6
7
危 険 度3
地域
1
.2
6
8
5
.
5
0
6
2
.
4
0
5
5
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‘
‘
‘
‘
‘
(
4
)式の家賃関数
‘
‘
‘
‘
注)太字部分は家主にとって収益的でないケースである
4
.
政策的含意
これまでの分析から、消費者が賃貸住宅の選択に関して危険回避的に行動してい
4年度から行政庁が個別
ることが実証的に示された。第 1節で触れたように、平成 1
の住宅に対して耐震改修に関する勧告を行い、その場合に 7.7%の補助を行う制度
が設けられている。しかし、これまで報告してきた実証結果は、住宅の耐震性能の
向上ひいては都市の防災化という政策目的は、消費者の合理的な危険回避行動を阻
害しない市場の環境整備を通じて実現できることを示している。いし、かえると、消
費者の選好にかかわらず、勧告等によって耐震改修を行わせる現行の政策は、補完
的な役割にとどめられるべきものと考えられる。
望ましい政策の方向性は、外部性の調整や制度的要因の除去に配慮していくこと
であろう。まず、外部性の調整については、第 3節で明らかになったように、耐震
改修が全般的に収益的でないこと、現実に実施されている耐震改修のボリュームが
工学的な評価や社会的に要請される水準に遠く及ばないことなどは、耐震化投資に
は大きな外部性が存在していることを示唆している。また、耐震性能に劣る建築物
1
7
が、地震 が発生した際に大きな外部不経済を周囲に与えることについては、阪神・
淡路大震災等に関する工学的な研究等においても明らかにされている。このため、
建物倒壊による道路閉塞、火災の発生、延焼の促進等の外部性を評価し、当該部分
の公的補助を行う政策が有効である。
次に、制度的な対応については、第 3節の費用便益分析で、危険度の高い地域で
の投資や比較的安価な投資等、耐震改修が家主にとって収益的であるケースが存在
することが示された。それにもかかわらず、耐震改修がほとんど進んでいない実態
は、建物の耐震化投資に関して何らかの制度的な阻害要因が存在する可能性が考え
られる。例えば、実際に耐震改修を行い、そのコストを回収するために家主は家賃
を容易に上げられないということが考えられる。この原因として、借地借家法によ
ってもたらされる家主側のリスクを挙げることができる。
具体的には、
「耐震改修に反対する賃借入がし、る場合に、家主から借家契約の解
除を行うためには、限定的に解釈されている正当事由が必要となる点」や、
「家賃
の値上げに反対する既存賃借入がし、る場合に、調停及び訴訟を経なければ新賃料が
決定されないという点」をあげることができる。このように借地借家法によって既
存の賃借入の権利が手厚く保護されている状況下では、実際には耐震改修費用以外
のコストが存在し、改修を実施できないケースが多いことが予想される。
特に、密集住宅市街地のように、耐震性の低い建築物が存在することの外部性が
非常に高い地域において、少数の危険回避度が低い賃借入が存在するために、家主
が耐震化投資を行えないようなケースがあれば、このことによって社会は大きなコ
ストを支払っていることになる。こうしたケースについては外部性分の補助を家主
に交付することによって解決することはできず、なんらかの公的な認定を経て借地
去の適用を解除するといった制度的な工夫も必要となってくる。
借家 i
5
.
おわりに
本稿では、東京都が公表した町丁目ごとの地震に関する地域危険度データと、東
京都の 賃貸住宅の個票データを用いて、東京都の家賃関数の推定を行い、建物構造
と耐震基準ごとに地震リスクがどのように家賃に反映されているかを検証した。そ
の結果、(1)地震に対する地域危険度が、旧耐震基準に基ついた賃貸住宅の家賃に対
2
)その負の影響は木造住宅で最も
して統計的に有意に負の影響を与えていること、 (
3
)新耐震基準に適合させる耐震化投資が、家賃の水準を
強く反映されていること、 (
1
8
全般的に高めたこと、 (
4
)木造住宅において強く観察されるように、危険度に対する
負の感応度を大きく引き下げることなどが明らかになった。
さらに、新耐震基準に基づいた耐震化投資は、全般的には家主にとって収益的で
はないものの、一定の補助が講じられた危険度の高い地域での投資や比較的低い費
用で行える投資の場合であれば、収益的であるケースも存在することが示された。
これらの実証結果は、都市の防災化を図る上で、耐震改修に伴う外部性の評価に
基づく補助及び消費者の危険回避行動を阻害しない環境の整備が重要であることを
示している。
補論推定結果の頑健性の検討
家賃関数の対数線形による推定結果を、第 2節の表 3と表 4で報告した。一般に
ヘドニック価格関数の推定では、分散の不均一性や家賃に対する属性変数の非線形
の影響の存在が指摘されている。本稿ではそれらの指摘や係数の解釈の容易さ等を
勘案して対数線形モデルを採用した。ここでは、線形型と対数線形型の両方を特別
な場合として含む、より一般的な推定モデルである Box-Cox変換による家賃関数の
推定結果を比較検証することにより、本文で得られた解釈や結論が関数形に大きく
依存したものではないことを示す。
l
'
lとは、
変数 y に対する Box-Cox変換 y
y
'-1
』
y
l
'
l二1
1
n
y,
y-1,
,
9
;
tO
の時
』二似コ時
』二 l
の時
で定義される変換のことである。本節では次の二つの Box-Cox変換による推定モデ
ノレを用いている。
1nR
,二日+工 βん (
λ
1
+工 YmZmi+
E
:
i
LU
(
R,
I
'
I二日+工凡 Xn
刈
+
工 YmZmi+e
;
i(
(
a
)
(
a
)式では説明変数のうち x のみが Box-Cox変換されており、説明変数の中でも
ダミー変数などゼロを含む変数は定義より変換できないため変換を行わずらで表
されている。被説明変数は対数家賃である。一方、(b)式は被説明変数、説明変数
ともに Box-Cox 変換を行い、最も一般的なモデノレとなっている。この (
a
)式と (
b
)
1
9
式のモデノレを、 (
3
)式と (
4
)式の説明変数セットに適用し、推定を行う。 Box'Cox変
、 (
a
)式と (
b
)式で共通であり、最寄り駅までの徒歩
換が行われている説明変数 x は
時間、都心までの時間距離、床面積、築年数、物件の階数である。 (
3
)式と (
4
)式に
含まれるそれ以外のダミー変数やクロス項の説明変数は変換を行っていない。推定
結果を表 Alに報告している。
表 Alの第 l亨1
I
、第 3手
1
I
は被説明変数が対数家賃であるため、 Box'Cox変換を行
っていない説明変数の係数値は、本文の対数線形モデノレ(表 3・表 4) と直接比較
が可能である(表 Al中、説明変数名の添え字 T は変換を行ったことを表す)
V
表A
l Box-Cox変換による家賃関数の推定結果
説明変数
説明変数
(3)式モデル
(
a
)式
(
b
)式
(
a
)式
l
2
3
説明変数名
(
4
)式モデル
(
b
)式
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危険度×木造×築年数
D
危険度×鉄骨
危険度×木造
仲
D 危険度x
木島築年数
ノ〈ス
,
徒 歩 11
,
床 面積 1
,
1
築年数 1
,
1
階数 1
,
1
時 間距離 11
l階ダミー
定数項
λ
牢
糊
紳
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注5
)
注6)
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1
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対数尤度
注1)
注2
)
注3
)
1
0凹 0
8
)
説明変数名の上付きの添え字 (
T
)は、その変数が B
o
x
'
C
o
x変換されていることを示す。
係数、変換パラメータ λ、 』 は最 尤法で求められている。
λ、 』 は 、 そ れ ぞ れ が 0、あるいは lであるという仮説 を棄 却している。
料末、材、*は、推定された係数がそれぞれ 1%、5%、 10%水準で有意 なことを示す。カツコ内は標
準備差。
表中 D は新耐震ダミー変数を表す。
定数項の 基準は旧耐震のアパートである 。
その他の変数として、表には示していないが、区・市ダミー、 路 線ダミーは主て加えて推定されて
いる。
20
れによると、アパートよりマンションの家賃のほうが定数項で高い点、旧耐震基準
の物件に比べて新耐震基準の物件のほうが高い点はここでも有意に認められる。構
造別の建物危険度の係数についても、旧耐震基準の住宅に関してすべて負で有意に
推定されており、係数の絶対値の大きさで木造が最も大きい。新耐震基準に基づく
物件の建物危険度に関する係数は、木造に関しては大きくプラスに推定されており、
旧耐震基準に基づく物件からの大きな改善が Box-Cox 変換を用いた推定結果から
も示され、係数値も対数線形モデノレに近いものが得られている。
以上の推定結果における傾向は、第 2)
'
1
1、第 4初l
に示されている、被説明変数も
Box-Cox変換を行ったモデノレでも認められる。対数線形との係数の値自体の直接の
比較はできないが、建物危険度が旧耐震基準の物件の家賃に対してマイナスの影響
を与え、中でも木造物件にその傾向が顕著であること、新耐震基準の木造住宅は、
旧耐震基準に基づく物件から大きな改善が認められること、そして築年数ごとの危
険度に対する感応度も築年数とのクロス項の係数が有意に推定されていることから
認められる。本文で採用した対数線形での推定結果は、より一般的な関数形のもと
での推定でも十分支持されている。
参考文献
国土交通昔、住宅局『密集住宅地における耐震改修の推進に向けて』
東京都都市計画局『平成 1
0年 地震に関する地域危険度測定調査報告書 (
第4回) ~
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間報告書』
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