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変貌する市場環境の中でSEMIに期待される役割
半導体装置市場は長いトンネルを抜け出し、ようやく活気が戻ってきたようです。SEMIの
2 月の発表では、1 月時点での世界の装置受注額の 3ヵ月平均は 1,130 億ドルで前月を 24 %
上回り、B/Bレシオは1.2となっています。また、3月に開催されたSEMICON CHINAは、期待
される市場の大きさのためか、大変な熱気に包まれました。
さて、SEMIは、その現状・将来の期待に対するご意見をお聞きするため、昨年秋にその主要
会員企業約50社のトップの方々を訪問させていただきました。国内では、21社ものトップなら
びにエグゼクティブの方々に貴重なお時間を頂戴し、改めて感謝の意を表すとともに、私ども
の責任の重さを痛感いたしました。
SEMIの存在価値の最大なものは国際工業会であるというのが共通したご意見であり、会
員企業のグローバルな事業展開を裏付けるものでした。また、SEMIがFPD、PVなどの分野に
活動範囲を広げることについても、会員企業の事業展開をサポートするものとしてご評価い
ただきました。さらに、ビジネス戦略づくりに欠かせない市場統計、参入障壁軽減とコスト削
減につながるスタンダードも高評価を頂戴しました。そして、SEMIのさまざまなネットワーク拡
大の機会提供も活用いただいているようです。
しかし、SEMI会員としての明確なバリューの提供、SEMIが主催する展示会への出展意義に
ついては厳しいご意見を頂戴しました。展示会、セミナーの価値を否定するものではないも
のの、それらに対するROI(投下資本利益率)が厳しく問われていると実感しました。
SEMIではこのような声を真摯に受け止め、3月の上海での役員会では、その方向性につい
て活発な議論がなされました。
SEMIジャパン 代表
中川 洋一
SEMIの最大のミッションは、その会員企業のビジネス発展に寄与することであり、会員企
業のビジネスモデルの変化に対応すべく、SEMIは改革の道を進めようとしています。その進
捗については適宜本誌でご報告させていただく所存ですので、今後ともご支援のほどよろしく
お願い申し上げます。
SEMI News • 2010, No.2
Contribution Article
新たな飛躍に向かって
キヤノン株式会社 取締役副社長 生駒 俊明
半導体業界は、過去何度もあったムーアの法則の危機を微細
半導体業界と同じく、液晶業
化によって乗り越え、キラーアップリケ−ションの出現に牽引
界でも、パネルの世代交代と需
されて、高い成長率を達成してきました。しかし、最近10年間を
給変動により、景気の波が繰り
見てみますと、デバイス単価の下落や集積度の増大によって、半
返すクリスタルサイクルの存在
導体産業の成長率の鈍化も顕著になり、普通の産業という見方
がよく知られています。また、
が大勢を占めるようになってきました。そのうえ、生産設備への
CRTテレビのFPDへの置換えも進み、これまでの爆発的な成長
投資額の増大やそれに伴う生産コストの増大もそれに拍車をか
が今後も保証されているわけではありません。しかし、人間が眼
け、半導体事業は難しい局面を迎えていると言えましょう。特に
から得る情報は、全知覚情報の80%であると言われています。そ
製造装置は、莫大な開発費を投じて物理限界を乗り越えても、
の観点からは、液晶がなくなったとしても、表示機能そのものの
先端機として活躍できるのはわずか数年という短寿命となってい
必要性は重くなりこそすれ、減ずることはありません。当社は、
ます。
クロスメディアイメージングとして、さまざまな視点から、画像
シリコン半導体製品においては、微細化技術による高集積化
に係わる技術の高度化に取り組んでいます。こうした技術から
が、機能/生産コスト比向上の原動力でした。そして、この機能/
も、表示に対する新たなニーズが創出されることになるでしょ
生産コストの向上が、更なる微細化技術を促進するという、正の
う。表示に関する研究開発も世界中で活発に行なわれています。
スパイラルを構成していました。しかし同時に、開発コストの増
その中からイノベーションの芽を感じ取る感性が今求められてい
大が、シリコン半導体の利益構造を徐々に劣化させてきたこと
ます。
も否定できません。例えば、EUVLでは太陽表面の温度に匹敵
2008年のリーマンショックは、半導体・液晶業界に対して特に
するような高密度プラズマを制御する技術が必要となります。産
深刻な影響を及ぼしました。当社もその例外ではありませんが、
官学一体となった研究活動によって、物理限界を乗り越える目
2010年は急速に業界全体が立ち上がりつつあります。これは、こ
処は付きつつありますが、その先の経済限界を乗り越える策は
れまでの半導体不況は供給過剰等の需給バランス崩壊が原因
まだ見えていません。
でしたが、今回の不況が金融システムの崩壊というマクロ経済の
半導体は依然として、すべての産業の原点にあります。そして
影響を直接受けたものであり、この急回復は半導体業界の健
集積化こそが、産業に対する駆動力となっている構図に変わり
全性を示すものととらえています。しかし、この好況も2011 年
はありません。しかし、更なる集積化を促進するためには、微細
までは続くでしょうが、5年先がどうなっているかは予断を許し
化だけには頼っていられない時点に来てしまっているようです。
ません。
モア・ムーアからモア・ザン・ムーアの動きです。すなわち何が何
反面、リーマンショックは、我々が不動と考えていた地盤がい
でも微細化を目指すという方向以外にも、さまざまなデバイス
かに頼りないものかを教えてくれました。製造業として、やはり
構造や多様化したプロセス技術に最適な露光技術を追求する
頼れるものは技術です。世界の技術を精査し、玉となる技術を
時代に入ってきたと思っています。かつて振り捨ててきた技術を、
磨き上げることで、新たな地平を切り開いていきたいと考えてお
現在の技術的、経済的視点から見つめなおし、新たな展開を構
ります。
成し、その芽を育てて行くことが重要であります。例えば現在、先
今後の半導体産業は、市場セグメントごとの棲み分けと寡占
端露光装置の中心技術である液浸技術も、
露光装置の波長が、
化がさらに進み、産業構造の変化と合わせ、装置に対する要求
i線
(365nm)
からKrF
(248nm)
、KrFからArF
(193nm)
と波長が
も経済性の観点から多様化しています。これまで半導体産業を
変わるたびに、代替技術として入念に検討されましたが、より経
牽引してきた単純な微細化とウェーハの大口径化という流れも、
済的な代替技術の存在により廃棄されてきました。ところが、
市場セグメントや生産構造に対応した最適化、カスタム化が必
ArFからF2(157nm)
に変わる段になって、レンズ材料の問題か
要になっています。このような多様化の流れの中で、業界全体の
ら、急転回して全ての装置メーカーに採用されるようになった
継続的成長と収益性の向上を推進する役割を担う、SEMIの積
のは、ついこの間のことです。
極的な活動に期待したいと思います。
No.2, 2010 • SEMI News
1
GFPC 2010 Report
GFPC開催報告(1)テック・アンド・ビズ株式会社 代表取締役社長 北原 洋明
Green, Growth & Beyondをテーマに舞浜で開催
−超臨場感ディスプレイの世界がFPD産業の未来を切り開くー
GFPC 2010(第6回Global FPD Partners Conference)
が、千葉県
のまま表すような、Samsung Electronics社の力強い成長戦略を語
舞浜で、去る4月8・9日の2日間開催された。今回の会議のメ
っていただくことができ、会議の参加者に、本会議の趣旨を覚醒
インテーマは、
「Green, Growth&Beyond -For the Future of the
させるに十分な内容であった。
FPD Industry-」である。前回の会議テーマであった「Green&
■ 超臨場感映像の創り出す感動と夢の世界
Growth」に、さらに
“Beyond”
を付け加えたテーマの元で、デ
今話題の3Dを中心とした超臨場感に関する内容は、本会議の
ィスプレイ産業に定着したグリーン化の流れの中、FPD産業
目玉セッションである。3D映像を含めた超臨場感映像の世界が
の新しい方向性を模索するための講演と討議が行われた。
身の周りの空間に浸透していく姿を、米国RealD社の長谷亙二氏
今回の参加者は、韓国、台湾、中国、米国など海外からの34名
を含めた136名である。業界を牽引する企業の経営者やキーパ
によるキーノート講演と、その後のパネルディスカッションから
イメージすることができた。
ーソンが集う本会議では、例年、FPDの新技術や応用分野、さら
超臨場感とは、ディスプレイ上の世界が、いま自分がいる現実
には産業を取り巻く事業環境など、広範囲なテーマに焦点を当
の世界と同じ環境として知覚され、現実の世界と画面上の世界
て、経営層に向けた多角的なテーマと議論の場が提供されてき
がシームレスに繋がっている状況になる。そのためには、大画面、
た。今回も、FPD産業の継続的な発展を見据えた内容の濃い議
高精細、3Dの3つの要素が必要になってくる。これまでのディ
論とともに、2日間昼夜を共にした密なコミュニケーションによ
スプレイの歴史の中で、大画面、高精細が実現されてきた。そし
る人脈の構築により、
参加者にとって、
視野を広げ、
今後のビジネ
て今、3Dが大きく花咲こうとしている。2009年は3D映画がヒ
スを広げていくためのヒントとなる、多くの情報が提供された。
ットし、2010年は3Dの民生元年になると期待されている。この
3Dの普及を本物にし、超臨場感の世界を構築していくためには、
まだ多くの課題がある。
立体視用メガネの必要性の有無や、ハードウェアとしてのデ
ィスプレイ技術の進歩もまだまだ必要であるが、それ以上にコ
ンテンツの重要性が強調された。それは、画像の安全性とも言う
べきものであり、疲労など人体への影響を生じさせない映像の
作り方が大切である。3Dを一過性のブームに終わらせないため
には、映像の作り方などの標準化が重要であるとの意見が、多く
のパネラーから提案された。
■ グローバル化するディスプレイ製造を考える
業界のキーパーソンが集うGFPC 2010の会場風景
本会議に参加した企業経営者の方々からは、
「グローバル化し
ているディスプレイ産業にどのように対応していけばよいのか、
■ オープニング・キーノート
参加者に力強いメッセージを
発信するWonkie Chang氏
2
そのヒントを得るために来た」
と話される方が多くいらした。
オープニングでは、Samsung
本会議では、ディスプレイ産業を取り巻くさまざまな状況を知
Electronics LCDビジネス社長Wonkie
るために、ディスプレイ産業そのものとは異なる角度からの情
Chang氏によるキーノート講演「LCD
報も多く提供され、今後の経営判断に役立ったという声が多く
Industry’sNextGrowthMomentum」
聞かれた。
が行われた。本会議では、自由な
IMAnet社の八木博氏による
「米国スマートグリッド事情、世界
意見を述べていただくため原則非
標準となるのか?」
、デロイトトーマツコンサルティング社の八子
公開としており、講演の詳細内容を
知礼氏による「クラウドコンピューティング時代のデバイス」、
活字にはできないが、会議テーマ
メリルリンチ日本証券の吉川雅幸氏による
「グローバル・エコノ
「Green, Growth & Beyond -For the
ミー」
、日産自動車の上純二氏による
「グローバル生産戦略」
な
Future of the FPD Industry-」をそ
ど、日々の業務では聞くことのできない内容は、新しい発想を生
SEMI News • 2010, No.2
GFPC 2010 Report
み出す為の良い刺激となった。
キーパーソンを交えた小グループのテーブルに別れ、一つのテー
また、最近大きな注目を浴びているディスプレイ市場と製造の中
マに対して互いに自由なディスカッションを行う場である。結
国展開に関して、China Video Industry AssociationのHao Ya-Bin
論を出すことを目的とせずに自由な議論を行うという主旨であ
氏から
「Strategy of China TFT Industry Development」
、Shanghai
り、互いの意見の中から得るものも多い。
Tianma Micro-electronics社のTieer Gu氏から
「The Challenges
日本、韓国、台湾、中国のパネルメーカートップの方々や業界
and Opportunities of China’s FPD Industry」のキーノート講
関係者も交えた直接のコミュニケーションの場は、
「今後のビジ
演も行われ、普段はなかなか明らかにされない中国国内の状況
ネス展開に重要な人間関係や直接の情報を得ることができた」
が紹介され、FPDの中国展開に関する直接的な情報が提供さ
との参加者の声を多く聞くことができた。
れたことは、参加者の目的にかなうものであった。
■ 脱クリスタルサイクルを目指したビジネス戦略
■ 有機エレクトロ二クスの未来
このほかに、注目されているディスプレイ技術である有機EL
2日間の議論を締めくくるグランドフィナーレでは、日経BP社
の望月洋介氏のモデレートのもとで、シャープの水嶋繁光氏、
ディスプレイの発展系としての有機エレクトロニクス
(有機EL照
Samsung Electronicsの Jun H. Souk氏、パナソニックの香島光太郎
に関しての、キーノート講演およ
明、有機TFTや有機太陽電池)
氏、LG DisplayのI.J.Chung氏のパネルメーカー4名に加えて、
び関連の講演も行われた。
Applied MaterialsのI.D.Kang氏、CorningのLisa Ferrero氏も入
山形大学の城戸淳二教授による「有機エレクトロニクス
り、FPDの技術と産業動向に関する熱い議論が行われた。
の 未来」、Samsung Mobile Display社の H.K.Chung氏による
「AMOLED, the Ultimate Display of the Dream Society」
、岐阜大
学の吉田司准教授による
「カラフルプラスチック太陽電池の研究
開発」
、三菱化学の山岡弘明氏による
「有機薄膜太陽電池の開
発と今後の展開」の各講演内容は、ディスプレイ応用だけでな
く、有機エレクトロニクスへと広がるアプリケーションに対する知
見を、大所高所から判断することができる内容であった。
また、今後の大きな発展が期待されている電子ペーパーに関し
「 Growth in
ても、台 湾 Delta Electronics社の Hui Lee氏から
Future e-Paper Business」の講演があり、ブリヂストン社の技
術を使ったパッシブ型の電子ペーパーの講演があり、台湾内
で積極的に進められている電子ペーパーの事業化の一端を覗
くことができた。
■ ビジネスに不可欠なコミュニケーションを構築
将来の継続的な成長を語り合うグランドフィナーレのパネリスト
産業の現状認識から始まり、今後のFPDテレビのコア技術と
なる3Dやパーソナル端末、デジタルサイネージなどを含めた未
GFPCで毎回行われているユニークなセッションに、エグゼク
来のディスプレイ環境に対する展望を、各パネラーが熱く語っ
ティブ・ラウンド・テーブルやスピーカー・コーナーなどの、直接
た後、今後のクリスタルサイクルの行方について、ディスカッシ
のコミュニケーションの場がある。参加者が、講演者や業界の
ョンが行われた。
パネルメーカーの戦略や、装置メーカー、部材メーカーの立場
などから、各パネラーの意見は微妙に異なるものの、総じて「ク
リスタルサイクルの幅は小さくなって行くであろう」
という楽観
的な意見が多かった。この背景には、これまでの数々の経験を
糧にして、業界全体が賢くなってきているという判断である。
白熱した内容で、2時間という時間があっという間に過ぎてし
まった。最期に、モデレーターの望月氏が「FPD産業はやっとブ
ラウン管を置き換えた。これからが本当の発展の段階であり、さ
まざまな用途で世界中に市場を作り出していく時代に入ってい
く」
とまとめ、議論を終えた。
自由な意見交換が行われるエグゼクティブ・ラウンド・テーブル
No.2, 2010 • SEMI News
※会議の詳細は次号にてご紹介します。ご期待ください。
3
High Tech U
高校生対象の教育プログラム「ハイテク・ユニバーシティin 広島」
−見て、触ってそして実感「半導体って凄い!」−
去る3月25日
(木)
・26日
(金)
の2日間、広島県の
(株)
ディスコ広
島事業所桑畑工場ならびにエルピーダメモリ
(株)
広島工場にお
■ 二日目(会場:エルピーダメモリ(株)広島工場)
午前の講義「世界で羽ばたく半導体エンジニア」で、
「開発と
いて、高校生を対象にSEMIの教育プログラム
「ハイテク・ユニ
は常識を破れ!」
「開発=Something New」
というメッセージに、
バーシティ」が開催されました。熊本、茨城、滋賀での開催に続
生徒たちは、
「考え方を変えるだけで全く違う新しいものができ
き、日本では4回目となる今回は、広島県立高校5校から生徒33
る!」
と驚き、
「自分も世界で活躍できる」
という実感につながっ
名
(男子生徒26名、女子生徒7名)
が参加しました。
たようです。続いて、無埃服に着替えてクリーンルームを見学。
科学技術の面白さや半導体産業の重要性を、座学だけでなく
「想像を遙かに超えていて自動化された現場はかっこいい」
「天
実習を交えながら楽しく教え、企業・工場見学等を通して、半導
井を移動していた装置をいつまでも見ていたかった」
と、初めて
体/マイクロエレクトロニクス産業への関心を促すために工夫さ
の体験に大変興奮していました。
れたプログラムが提供されました。
午後は、生徒たちの生活に欠かせない携帯電話を
“破壊”
して
■ 一日目(会場:
(株)ディスコ広島事業所桑畑工場)
半導体を探し出し、電子顕微鏡で観察。肉眼では見られない
「ミ
・楽しくやろう!−明るく、楽しく、元気よく−
クロ、ナノの世界」
を覗き、鮮明な画像に歓声が沸きました。そ
・何かをつかんで帰ろう
して最後は、
「 半導体業界での仕
・たくさん参加しよう−一生懸
事」をテーマに、ゲーム形式で営
命に聞く、考える、体験する、
業・企画・技術など、自分の就職進
質問する、議論する−
路の適正について考えました。また、
以上3つの基本ルールと、失敗を
それぞれ異なる職種に携わる5名
恐れず、積極的な発言、参加を奨
の先輩社員が登場して、
「どうして
励することを最初に確認します。
今の会社を選んだのか?」
「入社前
自己紹介に続き、
「 半導体とは?」
の想像と実際に働いてみた現実と
の講義では、身の回りにこんなに
のギャップは?」
「今の仕事、給料
も多くの半導体があり、私たちの暮
に満足しているか?」
など、具体的
らしに欠かせない半導体の役割を学びました。また、
「エコに
な生徒からの質問に対して、自らの体験を交え回答しました。
ついて考えよう」のセッションでは、半導体産業における環境
2日間を通して、生徒からは、
「話を聞いているうちに少しずつ
問題への取組み事例を聞き、ソーラーパネルを実際に見て、半
科学技術に興味が沸いてきた」
「沢山の人の技術や労力によっ
導体技術が省エネ社会を実現していることを学びました。
て、今の豊な生活があるのだと実感した」
「今まで聞いたことが
午後のセッション
「俺ッ、コンピュータ!?!?
(人間計算機体感
ゲーム)
」
では、半導体の基本要素である2進法、ゲートの動作を
ないこと、知らなかったことが体験できてよかった」
「自分が何を
していくべきか希望が持てた」等の感想が寄せられました。
体を使ってゲーム感覚で体験しました。
「難しいと思ったけれ
ど、体を動かすとよくわかった」
と、楽しみながら2進法を理解
SEMIでは、日本において年に1、2回、各地での開催を計画し
しました。工場見学では、今まで見たことのない装置や機械を目
ています。本プログラムは、趣旨にご賛同賜り、ご支援をいただけ
の当りにし、特に、直径5ミリのシャープペンの芯に、ダイシング
るスポンサーシップによって支えられています。今回の開催に当
ソー装置で10本の溝を切り込むデモを見て、半導体製造に使わ
り、協賛いただいた下記企業・団体に感謝申し上げるとともに、今
れる微細な加工技術に、生徒たちは驚きの声を挙げていました。
後のご支援を募集いたしますので、ご検討をお願いいたします。
この日は「小さな半導体と大きな仕事」
と題した講義もあり、
(株)ルネサステクノロジのインド国籍の講師が、インドと日本
ハイテク・ユニバーシティ in広島 協賛企業・団体
の文化の違い、他国で働くことの大変さや自身の努力について述
エルピーダメモリ、ディスコ、アドバンテスト、
べ、そして半導体が国境を超えたグローバルな産業であること
アプライド マテリアルズ ジャパン、荏原製作所、キヤノン、
を紹介しました。日本語を流暢に話し、ワールドワイドで仕事を
シャープ、スズデン、大日本スクリーン製造、大陽日酸、
する姿に、生徒たちはとても刺激を受けた様子でした。普段の生
電子情報技術産業協会 半導体部会、東京エレクトロン、
活の中で使っている物に半導体が多く使われ、その半導体には、
いろいろな国、企業、そして人の技術が詰まっていることを理解
日本半導体製造装置協会、日本マイクロニクス、
半導体先端テクノロジーズ、日立化成工業、日立ハイテクノロジーズ、
ルネサス テクノロジ
した一日となりました。
4
SEMI News • 2010, No.2
Supplier Search
セミコン・ジャパン「サプライヤー・サーチ」プログラム
−半導体の新たなビジネスモデルを創出−
「サプライヤー・サーチ」プログラムは、SEMIがアレンジす
1)32、28nmプロセス向け先進技術(装置、材料、薬品、ガス)
る、SEMICON Show会場での出展社とデバイスメーカーの
2)既存プロセス用コスト優位性のある革新的材料・パーツの
One-On-Oneミーティング企画です。参加デバイスメーカー
提案
(ガス、薬品、部品)
が提示する技術課題に、ソリューション提供が可能な出展社
3)半導体製造装置の修理・メンテナンス・OHにおけるコスト優位性
が会期前にエントリーし、参加デバイスメーカーの選考を経
の3点を提示させていただき、専用会議室をお借りし、エントリー
て、SEMICON Show会期中に、会場内特別会議室で個別ミ
いただいた出展社様からの提供ソリューションの内容により、8
ーティングを行うというものです。
出展社様と当社資材調達部ならびにプロセス技術部が協同で、
SEMICON Westで始まった本プログラムは、2008年より
セミコン・ジャパンでも開催され、2回目のとなった昨年は、
個別ミーティングを行いました。
各社1時間という短い時間を有効に使うため、会社紹介など
1回目から参加している日本サムスン株式会社に加え、NEC
は事前に資料を拝見しておくなどして最小限にとどめ、できる
エレクトロニクス株式会社(現ルネサス・エレクトロニクス株
だけ多くの時間を技術的なディスカッションに割けるようにし
式会社)
とローム株式会社の3大デバイスメーカーが参加しま
ましたが、中には時間の枠では収まりきれず、ミーティング後出
した。セミコン・ジャパン開催中の3日間で、これら3社は多くの
展ブースへ場所を移しての“延長戦”となるケースもありまし
出展社と面談を重ねました。エントリー延べ約50社の中から、
た。本プログラム後、更なる詳細な技術的検討を加え、8出展社
選考を経て直接プレゼンテーションの機会を得た出展社を迎
様のうち半数の4社様については、提供いただいたソリューション
えるデバイスメーカー側も、技術ヒアリングのために社内の
の導入に向けて評価を継続中です。
専門家や責任者を揃えて万全の体制で臨み、ディスカッショ
ンの内容は相当に充実したものになったとの評価です。また、
■ 参加に際しての調整と課題
参加した出展社にとっては、一度得たチャンスをいかに次に
NECエレクトロニクスとして、本プログラムへの参加は今回
結びつけるのかも重要であり、平均30%以上の参加社が、次
が最初ということで、開催の約3ヵ月前から、提示する技術課題
の面談やデモなどの成果へと繋げていることが注目点です。
の関係部門での整合や、提供いただいたソリューションに基づ
実際にプログラムに参画したデバイスメーカーからの貴重
く出展社様の選考を社内で実施し、またその選考において必要
なコメントを以下にご紹介します。
となる情報の収集や、ディスカッションを円滑に行えるべく、会
場、スケジュールの設定などで、SEMIの絶大なる支援を得て、
セミコン・ジャパン2009
「サプライヤー・サーチ」
プログラムに参加して
NECエレクトロ二クス株式会社
(現ルネサス・エレクトロ二クス株式会社)
生産本部プロセス技術部 シニアエキスパート 秋山 孝夫
当初の期待以上の大きな成果を挙げることができました。
■ 最適なソリューションを求めて
して改善し、より充実した中身の濃いディスカッションに繋げて
一昨年秋以降の世界同時不況による生産の大幅減少から立
その一方で、出展社様を選考するにあたっての時間が十分で
なかったことや、プレゼンテーション内容の事前入手が間に合
わず、技術的議論が不十分だったケースがあったなど、いくつか
の課題も浮かび上がりました。これらは、次回以降SEMIと協力
いきたいと考えております。
ち直るべく、NECエレクトロニクスもこれまで在庫調整や大幅な費
用の削減など行い、経営環境も徐々に持ち直しつつありますが、景
気の先行きには円高などの要因も加味され、依然不透明感があ
■ セミコン・ジャパンに続き、
SEMICON Koreaの「サプライヤー・サーチ」に参加
り、厳しい状況が続いております。その中で今回、セミコン・ジャパ
このセミコン・ジャパンでの成功を受けて、今年2月3日∼5日
ン
「サプライヤー・サーチ」
に初めて参加させていただき、多く
「サプライヤー・
に行われたSEMICON Koreaにおいても、同じ
の成果を得ることができました。
サーチ」
を開催し、セミコン・ジャパンを上回る14出展社様と、
今回、NECエレクトロにクスの技術課題として、前工程製造コ
スト削減の観点から、
No.2, 2010 • SEMI News
大変意義のある個別ミーティングを行うことができ、こちらも
現在9社様と詳細な技術的内容の検討中です。
5
Supplier Search / Column
■ 次回以降への期待
昨今の厳しい情勢の中、勝ち抜いていくためには、これまでの
ビジネスモデルとは一味違った斬新的手法でのソリューション
セミコン・ジャパン 2010
「サプライヤー・サーチ」プログラムのご案内
セミコン・ジャパン 2010 では、昨年に引き続き、
「サプライヤ
の提供・獲得が必要です。
「サプライヤー・サーチ」
プログラムは、この変革の先駆者的
役割を担っており、今後ますます期待が高まっていくことと考
えております。NECエレクトロニクスとしても、今回のみならず、
来年度以降も本プログラムへ積極的に参加していきます。出展
ー・サーチ」
を開催いたします。詳細およびデバイスメーカーが
提示するテーマについては、内容が決まり次第、セミコン・ジャパ
(共同出展社は含ま
ン 2010の契約出展各社にご通知いたします
れません)
。
「サプライヤー・サーチ」は、デバイスメーカーと出展社を繋ぐ
社様におかれましても、次回のセミコン・ジャパン開催時には、
架け橋となります。セミコン・ジャパンが提供するさまざまなビ
ぜひ御社の強みを生かしたビジネスソリューションをご提示い
ジネスチャンスをご活用いただくためにも、ぜひ皆様のご出展、
ただき、ディスカッションさせていただきたいと思います。
ご参加をお待ちしております。
SEMI Newsコラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドラムから学んだ人生
Chairman, SEMI Board of Directors / Representative Director and Chairman Edwards Korea Limited, J.C. Kim
1963年夏、J. C. Kimが高校のバンドのメンバーとして初めて
Kim がドラムを止
「サイドドラム」を叩いたのは、
“Road Parade”で、これをきっ
めてから4 0 年 が 経
かけに彼はドラマーになりました。
Kimは高麗大学の
“Wind Ensemble Band”
で2年間スイングド
っていましたが、この
ときのドラム演奏が、
ラムを学び、その後は、自ら志願した
“Korea Military Headquater
自分の半生を振り返
Army Band”の一員として、3年間兵役に就きました。
るいい機会になりまし
1968年9月、軍の“Combo Band”の主要メンバーとして、彼
た。彼は、退職後の
はベトナム戦争に送られ、軍キャンプの韓国軍兵士たちの慰問
趣味としてドラム演奏を再開することは、とても意義があると実
のためにベトナム全土で演奏しました。
感したのです。
ベトナムを去るまでの1 年間に、Kimは二度も瀕死の目に会
6人の外資系企業のCEOで編成されたバンド“The Magic
い、命の大切さを思い知りました。最初は1969年5月のことで、
Plus”は、2010年2月の重要な行事にもステージに上がり、つい
ジープに乗った5人のうち2人が死亡し、2人が重傷を負うとい
には「SEMICON Korea 2010プレジデントレセプション」でも
う大事故に遭い、その中で彼は奇跡的に生き残ったのです。もう
演奏を披露しました。CEOたちの演奏は出席者全員を満足させ、
ひとつは、プロペラが燃え上がり、緊急着陸しようとした飛行機
アマチュアバンドにしては飛び抜けていると評価されました。
の中で、生きるか死ぬかの忘れられない30分間を過ごしました。
これが、Kimの第二の人生の幕開けとなる出来事でした。
この時まだ24歳だった若者は、多くのものを目に焼き付け、
そして人生について多くのことを学びました。
Kimはこう語っています。
「会社経営の業務が忙しすぎて、い
つも過密なスケジュールと出張に縛られていました。そんな多
兵役を終えた後は大学へ戻り、以前にも増して勉学に励みま
忙な生活の中で、
ドラムのことは忘れ去っていました。でも、人
したが、その一方で、彼は戦争で目にしたことや感じたことを鮮
生を振り返ってみると、ドラムこそが私にリーダーシップとは
明に思い出していました。大学を卒業後、ある企業にに入り、そ
何かを教えてくれた先生だと気づいたのです。ドラムはバンド
こでEdwards 社とビジネスパートナーの関係が始まり、Kimは
の中で最も重要な楽器であり、演奏全体のリズムをリードしま
Edwards Korea社を創設して、25年もの間CEOの職に就いた
す。ドラム奏者は、すべての楽器のバランスと調和を保つことに
のです。
神経を集中させなければならず、バンドの見えざる指揮者なの
会社経営の過密なスケジュールのため、長い間Kimのドラム
です。ドラムを叩いているときに、他人への心遣い、協力、社会
“ Korea Foreign
は忘れ去られていましたが、2009 年 10月、
性を学んだのだと思います。今はハーモニカとクラリネットを習
Company Association”
の依頼に応じて、CEOバンドが誕生し、そ
っています。楽器を学ぶことは、私にとって人生について学ぶこ
で行われました。
の最初の演奏が“Foreign Company Day 2009”
とと同じで、どちらも止めるわけにはいきませんね」
。
6
SEMI News • 2010, No.2
Column
海外便り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アメリカ南部 テキサス州の暮らし
Covalent Materials USA Inc. アプリケーションエンジニア 田邊 淳
“Everything is Big in Texas.”アメリカ南部テキサス州を紹介す
サスの代表的な料理と言えば、やはり本場のステーキは外せま
るのによく使われる言葉です。そんなテキサス州ダラスに私が
せんが、個人的お奨めは“テックスメックス”
と呼ばれる、メキ
駐在員として赴任して来たのは、2007年の9月でした。以来、米
シコ料理をテキサス風にアレンジ
(牛肉やチーズを多用し、ボリ
国内の半導体メーカー向けに、シリコンウェーハ基板やプロセ
ュームもたっぷり)
した料理です。メキシコとは国境を隔てて
ス用部材を提供する販売拠点の一員として、技術・品質面の折衝
陸続きのため、メキシコや中南米からの移民が多く、メキシカン
やサポートを行うのが私の主な仕事です。米国滞在も2年を超
レストランが非常に多いのも特徴のひとつです。また、このよう
え、ようやく異国での仕事や生活環境にも慣れてきたと同時に、
に大量のカロリーを摂取しつつも、どこに行くにも車移動なの
テキサスという土地にもずいぶん愛着がわいてきました。そこ
で
(ほとんど歩きません)不名誉ながら全米で2番目に“Heavy”
で今回は、ニューヨークやLAと違い、日本には馴染みの薄い、テ
な
(肥満人口の多い)州でもあります。
キサス州とその暮らしについて紹介したいと思います。
次に、テキサスの娯楽について紹介します。残念ながらダラス
アメリカ合衆国の中南部に位置するテキサス州には、日本の
近郊に魅力的な観光地は少なく、もっぱらショッピングやスポー
国土の1.8倍もある広大な土地(アラスカ州に次いで2番目に大
ツ観戦、ゴルフが娯楽の中心です。ダラス唯一の観光地と言え
きい)
に、全米2位の約2,000万人が暮らしています。また、石油
ば、シックスフロアと呼ばれる、第35代大統領ジョン・F・ケネデ
や天然ガス等の豊富な天然資源に恵まれ、生活コストも安いた
ィが暗殺された場所が有名です。まさにその銃弾が発射された
め、企業の進出先や国民の移住先としても脚光を浴びています。
建物の6階部分が、現在は博物館として当時の姿のまま保存さ
私の住むダラス地区においても、先日、日本航空との提携維持が
れています。また、スポーツ観戦好きならば、4大プロスポーツ全
決定したアメリカン航空や、半導体大手のテキサスインスツル
てのフランチャイズが揃うダラスは最高の環境です。MLBテキサ
メンツ、石油大手のエクソンモービル等が本社を構えます。また、
スレンジャースの本拠地アーリントンでは、同じアメリカンリー
約200マイル
(320キロ)南に下った州都オースチンには、DELL
グ西地区所属のマリナーズとの対戦カードが多く、イチロー
やAMD、三星等のハイテク企業が軒を連ね、SEMIオフィスのほ
選手のプレイが楽めます。記憶に新しい9年連続200本安打も、
か、半導体製造技術開発コンソーシアムのSEMATECHが本
ここアーリントンで生まれました。さらに今年は、同地区エンジ
拠地を置くなど、カリフォルニア州サンノゼのシリコンバレーなら
ェルスに松井選手が移籍し、メジャー観戦には絶好の機会とな
ぬ、シリコンヒル
(丘が多いため)
として有名です。このような恵
りそうです。一方、テキサス州でMLBを遥かに凌ぐ人気を誇る
まれた生活・雇用環境の下、金融危機で大きなダメージを受け
のが、NFL(アメリカンフットボール)です。特にアメリカズチ
た米国内にあって、失業率も全米平均を約2%下回り、人口流
ームと呼ばれるダラス・カウボーイズは、人気と実力を備えた強
入も毎年増え続け、現在全米で最も活気のある州のひとつです。
豪チームで、昨年、何と!10万人以上を収容する新スタジアム
をオープンさせました。来年はこの新スタジアムで、全米一を決
さて、そんなテキサス州に引っ越してまず驚いたことと言え
ば、広大な土地に張り巡らされたハイウェイ群と、そこを疾走す
定するスーパーボウルの開催が決まっており、全米から多くのフ
ァンやセレブ達が訪れて、大変な盛り上がりになるでしょう。
るピックアップトラックの多さです。ほんの少し郊外へ車を走
らせると、延々と牧場用地が続くテキサスでは、ピックアップト
さて、ここまでテキサス州について紹介してきましたが、いか
ラックが庶民の一般的な車です。高速道路を走っていると、気が
がでしたでしょうか。最後に、退任後ダラスに戻り、休日は郊外
つけば四方を巨大なピックアップに囲まれ、緊張して運転する
の牧場で暮らす、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の発言を紹介
こともしばしばです。一昨年の原油価格高騰以降は、さすがにコ
します。
『大統領としての日々がいかに素晴らしい経験であっ
ンパクトカーやハイブリッドカーを目にする機会も増えました
たとしても、テキサスで見る夕日は何物にも代え難い』
。日本人
が、やはりハイウェイを縦横無尽に疾走するピックアップトラ
にはなかなか馴染みのない土地ですが、もし仕事やプライベー
ック群は、テキサスの代表的な風景です。そして次に驚いたのが、
トで訪れる機会がありましたら、遥か地平線に沈む美しい夕日
やはり
“ビッグ”な食事の量です。レストランに入って注文すれ
と“全てがビッグなテキサス”を、ぜひ体験していただければと
ば、まず普通の日本人には食べきれない量が出てきます。テキ
思います。
No.2, 2010 • SEMI News
7
Photovoltaics
太陽光発電に関する国内外の動向について
サンテックパワージャパン株式会社 代表取締役社長 山本 豊
太陽光発電システムのビジネスは、成長産業である前に、クリ
ーンエネルギーとして地球環境保全の大きな一翼を担うもので
あるという意識を忘れずに関わらなければならない。その視点
で見れば、今後ますます厳しくなるであろう国際的な価格競争
は、少しでも早く多くの企業や家庭で太陽光発電を採用できる
足がかりと考えることができ、専業メーカーのみでなく、総合メ
ーカーや異業種からの参入も大いに歓迎すべきものであり、素
材や製造設備を巻き込んだ高効率化への技術競争は、グリッド
パリティに向けた産業全体の共同作業として、努力を継続すべ
きものである。まさに今太陽光発電ビジネスは、揺籃期から成長
期へ、そして、多様化へと芽吹いている時期と言える。
現在の太陽光発電ビジネスは、世界各地同様に、経済動向や
国別太陽光発電導入量年次推移
国のエネルギー政策によって大きく左右される。市場導入量で世
界トップだった日本が2005年に補助金が途切れた翌年には、長
期にわたる電力買取制度をスタートさせたドイツが日本に倍す
る導入量でトップに踊り出し、2008年には、同様の制度を導入し
たスペインや欧州各国が、大規模な発電施設の新設により大き
く伸張した。ところが、2008年世界に吹き荒れたリーマンショッ
クは、大規模発電施設への投資に大きく影響を及ぼした。逆に
比較的リーマンショックの影響が及びにくかったのは住宅用市場
で、建材一体型太陽光発電システムに対して高い買取価格を設
定したフランスや、政府支援が復活した日本だった。
鳩山政権下で2020年に地球温暖化ガス25%削減を目指す日
本では、住宅用太陽光発電システムに国や地方自治体からの補
、さらに余剰電力買取制度の開始
(2009
助金が復活
(2009年4月)
UAEマスダール太陽光発電所
(サンテックパワー5MW+ファストソーラー5MW)
年11月)
や税の優遇措置も含め、2008年世界6位だった導入量
視されている。1社では実現できないことであり、ますますパー
は2009年3位に上昇した。また、米国オバマ政権では、2020年ま
トナーシップが重要となってきている。
でに地球温暖化ガスを28%削減する方針で、クリーンエネルギ
今後需要拡大が予測される地域としては、中東、アフリカ、東
ーの利用と雇用の拡大を目指しており、太陽光発電への追い風
南アジアが挙げられる。中東では、石油資源への代替として採用
となっている。比較的環境政策で慎重と見られる中国でも、2020
計画を進めているUAEや、共同事業を発表したイスラエルとエ
年までに再生可能エネルギーの電力供給全体に対する比率を、
ジプトなどの動きも活発である。電力事情が良くないアフリカ
2008年末の1.9%から12.5%まで約13倍引き上げることを昨年
でも、太陽光発電による電力供給にかける期待は非常に大きい。
発表しており、ここ数年世界をリードしてきた欧州を追いかける
また、太陽光発電セル・モジュールの生産国は、欧州・中国が中
形で、日米中も急速にこの分野に積極的な姿勢を明確に打ち
心であったが、米国ファーストソーラーやドイツQセルズなどの
出してきている。
トッププレーヤーが、マレーシアでの生産拡大を発表しており、東
太陽電池の製品の面では、現在市場の大半を占めている結晶
南アジア各国での太陽光発電事業への関心も高まっている。
系シリコンだけでなく、コストパフォーマンスを目指した化合
日本は需要の約90%が住宅用発電システムという世界でも特
物系などが新たに実用化され、選択肢が拡がっている。また、技
殊な市場であり、言い換えれば、国民一人ひとりが地球温暖化回
術革新もセルやモジュールの効率競争だけでなく、インバータ
避への意識を高く持って太陽光発電採用に前向きな最先端の国
ーなど周辺機器やインストレーションを含めた総発電能力と、
である。この国で太陽光発電ビジネスに関われることは、光栄で
運営も含めた設備全体の将来を見据えたコスト対発電量が重要
あり幸運である。
8
SEMI News • 2010, No.2
Photovoltaics
PVJapan 2010
6月30日(水)
‐7月2日(金)パシフィコ横浜にて開催
−
「技術」
「ビジネス」
「交流」
そして
「普及」
、太陽光発電のすべてがあります−
PVJapanは、太陽光発電協会
(JPEA)
とSEMIが協力して誕生
した、太陽光発電の総合イベントです。第 3 回目の開催となる
■ PVJapan2010関連イベント
展示会と同時に、Executive Forum、VIPレセプション、各種専
PVJapan 2010は、過去最大規模での開催となり、展示会と各種
門セミナーなど、多彩なイベントが開催されます。
セミナーを柱に、太陽光発電に関するさまざまなイベントが盛り
・再生可能エネルギー世界フェア開会式・基調講演
だくさんです。また今年は、4年に一度日本で開催される
「再生
・Executive Forum
可能エネルギー2010国際会議」が同時に開催され、太陽光発
・再生可能エネルギー世界フェアVIPレセプション
電を中心に、世界から再生可能エネルギー関連の最新の情報、
・専門セミナー
技術・製品、キーマンがここに集結する一大イベントとなります。
1:材料・部材
2:マーケットトレンド
■ PVJapan 2010の特徴
3:次世代太陽電池
4:結晶シリコン系太陽電池
・太陽光発電にかかわるすべてが集まる総合イベント
5:認証・規格・標準化
6:製造装置
・太陽電池の川上から川下まで幅広い新技術・製品の展示
7:薄膜系太陽電池
8:電力システム・アプリケーション
・主要な太陽電池メーカーと製造装置、材料、施工システム
関連メーカーが勢ぞろい
・SEMI Tutorial「太陽光発電技術」
‐結晶シリコン系 / 薄膜シリコン系 / 化合物
(CIGS)
太陽電池コース
・多くの後援・協賛団体による特別展示やイベントの開催
・PV関連環境法規制と環境インパクト
・国や自治体の補助金制度等の情報を提供、PV普及を推進
・公共産業
(非住宅)
分野の太陽光発電システムの設計と施工セミナー
・最新の技術、ビジネス、普及関連情報を提供
・住宅用太陽光発電の最近の状況
・市場情報、ビジネス、普及施策、技術などを幅広くカバー
・将来のアジアにおけるPV普及と日本の役割
する併催セミナー
・
「再生可能エネルギー2010国際会議」
「新エネルギー世界展示会」
との同時開催で、
「再生可能エネルギー」
の情報が一堂に集約
■ PVJapan 2010展示会
PVJapan 2010は、パシフィコ横浜の全ホールを使用し、国内外
・新製品・新技術リリース、
プロダクト&テクノロジーアップデート
・SEMIスタンダード日本地区PV(Photovoltaic)技術委員会
■ PVJapan 2010同時開催イベント
・再生可能エネルギー2010国際会議
・第5回新エネルギー世界展示会
の主要太陽電池、関連製品、製造装置、部品・材料メーカーか
ら、太陽電池インストーラー、さらには大学・研究機関など、太陽
光発電に関わる幅広い分野から多くの出展をいただいています。
部品・材料関連、製造装置関連、検査・測定関連、システム・施工
関連、太陽電池・モジュール関連の5つの展示エリアに加え、主
展示会情報、出展社情報、展示会入場登録、セミナーの
お申込みはこちら>>> www.pvjapan.org
展示会:Tel:03.3222.6022 Email:pvj@semi.org
プログラム受付:Tel:03.3222.5993 Email:jeventinfo@semi.org
催者による
「特別展示コーナー」
、大学・研究機関からの技術展示
が行われる
「アカデミックエリア」、出展社によるセッションが
行われる
「プレゼンテーションステージ」、さらにマーケットや、
技術、普及等に関する併催セミナーなどで構成されます。
PVJapanプレゼンテーションステージ
展示会場内での20分単位の連続セッションです
(聴講無料)
。
①新製品・新技術リリース ②プロダクト&テク
ノロジーアップデート
③住宅用補助金制度の説明 ④設置工事に関する基礎知識 他
特別展示エリア
PV業界の動向について、多様な角度から情報を提供します。
・高校生による太陽光パネル製作の実演
・太陽光発電に関する産業情報・市場動向
・技術開発に関する情報展示 他
アカデミックエリア
太陽光発電に関する大学・研究機関の最先端の研究状況・成果
を展示し、産学連携の機会を促進します。
No.2, 2010 • SEMI News
PVJapan2010は、複合型イベント「再生可能エネルギー世界フェ
ア」の主要イベントとして開催されます。太陽光発電協会、SEMI、再
生可能エネルギー協議会、再生可能エネルギー2010国際会議組織
委員会の4団体・組織による豊富なプログラムで構成されています。
9
SEMI Standards
SEMIスタンダード オンライン商品についてのアップデート
−
「SEMIViews」発売後1年間の変更点と、ご利用に際してのお願い−
SEMIジャパン スタンダード部
SEMIスタンダード
(規格)のオンライン商品(名称:
「SEMIViews」<読み方「せみ びゅーず」>)が登場し、
従来の主流であったCD-ROM版が2009年末をもって
全世界的に廃止されることを、1年前の本欄でお知らせ
いたしました。その後、予定通りに移行し、現在では
「SEMIViews」がSEMIスタンダードの中心的な商品と
なり、既に日本地区を含め全世界的に多数の方々にご
利用いただいています。
(2010年3月末現在、全世界で
約2,200ライセンスとなっています。
)
ただし、「SEMIViews」
(機能絞込みによる)商品ライ
発売開始当初と比べて、
ンアップの変更や画面(操作性)の改善などにより、様
相が変化していること、また、これまで日本地区におい
て S E M I ジャパンが販売を取次いできた過程で 、
「SEMIViews」のご利用に際してお願いしなければなら
ない点がいくつかあることを再認識いたしましので、こ
の機会に改めてご案内いたします。
とは?
■ 「SEMIViews」
まず、「SEMIViews」が従来のSEMIスタンダード商品
とどのように異なるのかについて、本稿の脱稿時点
( 2010 年 4 月初頭)での利用対象であるバージョン
に基づいて、以下の三つの特長を説明します。
(v1.1.1)
1. 全規格対象の年間ライセンス商品である
(最新の全規格収
従来商品の提供方法が、CD-ROM
録)、分野別の製本、PDFファイルダウンロードなど、い
ずれも固定化媒体によるものであったのに対し 、
「SEMIViews」は、全規格について1年間有効なライセン
、必要な
スを購入し(1ユーザーごとに1ライセンス)
規格にインターネットで随時アクセスする、というオ
ンライン商品です(図3の①のようにメールアドレス
とパスワードのマッチングで各ユーザーを識別しま
す)
。さらに、従来のSEMIスタンダード商品と比べて、
次の点で大きく異なります。
2. マルチ言語対応商品である
図1 安全ガイドライン「SEMI S2」
を表示した例
(上段が2010年3月版の英語版、下段が2009年7月版の日本版。プル
ダウン操作により瞬時に言語とバージョンが各々変更可能。
)
従来の出版形態が言語ごと
(たとえば、英語版CD-ROMや日
によるものであったの
本語版個別規格PDFダウンロードなど)
されている約720の規格について日本語版が、さらに安全分野
に対し、「SEMIViews」では、1ライセンスを購入することで、その
については中国語版も、1つのライセンスで利用可能となります。
時点で提供可能な全言語が利用できます。具体的には、現在出版
図1の画面例のように、「SEMIViews」利用者は、規格ごとに言語
されている約800の全規格については英語版が、その中で和訳
を選択することが可能です。
10
SEMI News • 2010, No.2
SEMI Standards
3. マルチバージョン対応商品である
多くのSEMIスタンダードが、新規出版された後に何度か改訂さ
れることとなりますが、従来のCD-ROM版では最新規格のみが
収録されていました。これに対し、「SEMIViews」では、最新版はも
ちろんのこと、各規格の旧版についても提供可能なものをアッ
プロードしており、図1の画面例のように、利用者は適宜バージ
ョンを選択して利用することができます。
(ライセンス期間中に
改訂があると、自動的に最新版が更新されます。
)
■ 商品ラインアップの変更
(機能絞込み)
について
「SEMIViews」には、現在図2の通り、機能に応じた二種類のラ
イセンスタイプがあります。昨年本欄でご紹介した当時は、カ
図3「SEMIViews」
エントリー
スタマイズ利用(規格上への脚注付記や規格間のリンケージな
を含む)
をご検討される場合は、メールアカウントのドメイン
ど)が可能な「プロフェッショナル」と呼ばれるタイプのライ
タイプなどにより、ご注意いただく必要が生じます。
センス商品がありましたが、このタイプについては当面ライン
3)著作権に関して、たとえば「ログイン情報の共有ができない」
アップからは外し、更なる機能向上を目指して開発を進めるこ
(ただし、
などの、従来商品にはなかった注意事項があります。
ととなりました。つまり、当面は下記2タイプに限定して、これ
何らかの理由で「SEMIViews」が購入できない場合は、個別規
らの操作性や利便性を段階的に向上させることに注力する、
格ダウンロードは当面存続しますので、そちらを必要規格数ご
という方針となりました。
購入ください。
)
2. ご利用に際して
(ご購入後)
:
Reader
Reader+
「リーダー」 「リーダープラス」
については、継続的にご留意いただく必要があり
特に上記3)
より、初回ログイン時のみならず、
ます。次期バージョン(v1.1.2)
閲覧のみ可
○
○
随時、各ユーザーの画面にて「ご利用許諾事項」を参照できるよ
閲覧+ダウンロード+印刷
―
○
(ガイドラインを準備中)
うになります。特に、「不適切な利用」
図2「SEMIViews」のライセンスタイプ
が認められた場合、サーバー側で当該アカウントを停止するル
ールとなっております。
■「SEMIViews」
のご購入やご利用に際してお願いしたいこと
であ
以上のように、「SEMIViews」がオンライン商品(IT商品)
るため、従来のスタンダード商品に比べて、以下の点に十分ご留
■ 今後の改善項目
上述の「プロフェッショナル」ライセンスの復活以外に、現行
意いただくことをお願いします。
の商品ラインアップについても、以下の改善が本年中に実現す
1. ご購入の検討段階において
(お申込み前)
:
る見込みですので、ご期待ください。
∼3)
についてSEMIジャパン
お申込みをいただき次第、以下の1)
より個別にお知らせします。
1)無料の「お試し版」
(Evaluation版)
により、ご使用になるPCで
1)日本語による「SEMIViews」画面上からの、電子メールによる
技術サポート、トラブルシュート
2)画面上の説明文の和訳、など
利用可能であることを確認願います。図3の②のように、サポ
ート対象インターネットブラウザを掲示していますので、そ
SEMIスタンダード
(規格)
とは: 半導体やFPD製造、太陽光発電分
の環境での使用確認を強く推奨します。一方、ブラウザ以外の
野などにおける、コンセンサスベースの国際業界自主基準です。エ
個々のPC環境などは非常に多様ですので、ぜひとも「お試し
レクトロニクス製品製造の源流から最終消費材に近い部分まで、広
版」の利用を、実際に「SEMIViews」をご使用になる予定のPC
範囲な標準化対象をカバーしていることが特色で、現在12分野、約
でなさることを、ご購入検討段階でお願いしています。各規格
800のスタンダードが出版されています。
の限定された部分のみの閲覧となりますが、無料で30日有効で
本稿に関するお問合せ先:
SEMIジャパン スタンダード部(奥田)
す。図3の③からご利用可能です。
2)1社で複数ユーザーのご利用(事後のライセンス「買い増し」
No.2, 2010 • SEMI News
E-mail: [email protected] Tel: 03. 3222. 5873
11
STS Award
「第16回STS Award」受賞論文紹介 4
受賞者:パナソニック株式会社 セミコンダクター社 生産本部 アセンブリ技術センター 検査技術グループ 勝間 常泰
半田転写抑制に向けたLSIソケットの改善
概要
り、LSIソケットはそれをデバイス端子の数だけ備えているため、
半導体デバイスの多端子化や端子の狭ピッチ化、さらには高
(ATE)
速化や低電源電圧大電流化が進むにつれて、LSIテスタ
高額になっている。
ここで耐久性を調べてみると、実使用時の電気的耐久性が平
とを電気的に接続する冶工具にかか
と被測定デバイス
(DUT)
均で十数万回しかなく、メーカーが保証する機械的耐久性を著し
る費用が上昇している。冶工具にかかる費用が、ATEコストを上
にあった。
く下回る傾向
(1/3程度)
(Ball Grid
回るという予測も出ている。その冶工具の中でも、BGA
そのため我々は、プローブピンの電気的耐久性が課題である
Array)パッケージのコンタクトに用いられるプローブピンタイ
と考え、機械的耐久性と同等レベルまで引き上げて、コンタクト
プのLSIソケット費用は、プローブカードと並んで大きくなる傾
コストを1/3に削減することを目標とした。なお電気的耐久性は、
向にあることは容易に類推できる。
測定対象デバイスの性能にも依存するが、本稿では、接触抵抗
LSIソケットを用いたコンタクトのコストは、主として購入価格
が1Ω以上のばらつきを持つかどうかを目安として判断している。
と耐久性で決まる。半田ボールとコンタクトするプローブピン
は、実使用時の電気的耐久性が機械的耐久性を著しく下回っ
2. 電気的耐久性悪化の要因
ている場合が多々あり
(1/3程度)、コンタクトコストを押し上
まず、半田ボールとプローブピンのコンタクトメカニズムを説明
げる要因となっている。プローブピンの電気的耐久性悪化の
する。半田ボールの表面は、厚みが数十nmの酸化膜で覆わ
主要因は半田転写と考えられている。
れている。この絶縁物である酸化膜を破るため、半田ボールとプ
本稿では、この半田転写を抑制する新しいプローブピンを試
作し、耐久性の実験を行った結果と考察を報告する。
ローブピンに適切な荷重をかけて、電気的導通を実現する。すな
わち、単に接触させただけでは電気的導通はなく、酸化膜を破る
ために荷重をかけて接触させる必要がある。
1. BGA用プローブピンソケットのコンタクトコスト削減
コンタクトコスト課題が最も大きいのは、BGAパッケージの
ここで、我々が考えているプローブピン先端への半田転写に
よる電気的耐久性悪化のメカニズムを説明する。
コンタクトに広く用いられているプローブピンタイプのLSIソケ
1)半田ボール(Sn)
とAuメッキされたプローブピン間を通電す
ット
(図1参照)である。そこで我々は、BGA用プローブピン
ると、接合界面がジュール熱によって加熱され、表層に酸化
ソケットのコンタクトコスト削減を目指した。
膜を持つAu-Sn系金属化合物が生成される。
このプローブピンは、わずか数ミリ長の微細な精密部品であ
2)
コンタクトを繰り返すうちにAuSnxが増加し、接触抵抗がば
らつく。
3)接触抵抗ばらつき抑制のため、プローブピンの先端
をクリーニングする。その際AuSnxを削ぎ落とすため、
プローブピン先端も削れる。
4)
プローブピンの母材であるCuが露出し、酸化し電気
的導通がとれなくなる。
したがって、電気的耐久性悪化を抑制するには、プロ
ーブピン先端をSnと化合物を生成しにくいメッキ材にす
るか、クリーニングで削っても常にAu等の導電性材料
が露出する構造にするかである。後者はプローブピン
価格が大きく上昇するため、前者の方策を検討した。
3. 新プローブピンの実現
Auは酸化膜に覆われないため、電気的導通には非
図1 BGA用プローブピンソケットの構成
12
常に優れた金属である。しかし、AuはSnとの化合物を
SEMI News • 2010, No.2
STS Award
作りやすい金属である。代表的な金属のSnへの溶解
速度は、
Au>Ag>Cu>Pb>Pt, Ni
である。そこでプローブピン先端のメッキ材としては、
酸化膜はないがSnに溶解し易いAuよりも、酸化膜はあ
るがSnに溶解しにくいNiの方が耐久性向上に有利と
考えた。また、一般的に使用されているプローブピンは、
Niメッキの上にAuメッキを施しており、先端部のみAuメ
ッキを施さない構成は、コスト的に負担が少ないと考え
た。図2に新プローブピンの構造を示す。
図2のように、半田ボールと接触する先端部のみNi
メッキで、プローブピンの内部接点やDUTボードとの
接点はAuメッキのままとした。
図2 新プローブピンの構成
4. 新プローブピンの耐久性実験
新プローブピンを用いて耐久性実験を行った。図3に、
従来プローブピンと新プローブピンでの耐久性実験結果
の比較を示す。
プローブピンの先端状況から、新プローブピンには従
来プローブピンに比して半田転写量が少なく、半田が転
写しにくいことが判明した。
耐久性実験結果においても、従来プローブピンは、コ
ンタクト回数がある数値を超えると接触抵抗が急激に上
昇し、評価用サンプルを新規に変更しても接触抵抗値
は上昇したままである。これは、コンタクト表面のAuメッ
キに転写し合金化したAuSnxの表層に酸化膜が形成
され、コンタクト表面を厚く覆いつくしたことにより、電気的
接続が保たれなくなったと考えられる。
図3 耐久性実験結果
一方、新プローブピンは従来プローブピンに比べ、接触
抵抗のばらつきが少なく、非常に良好な結果と言える。コンタクト
回数に比例して接触抵抗がなだらかに上昇し、1Ωを超える場
合が見られるが、評価サンプルを変更すると、接触抵抗は再び下
今回の実験では、全端子に安定した荷重をかけたが、今後荷
重がばらついた状態での検証をしていく予定である。
がる。これは、同一評価サンプルに対してコンタクト回数を重ね
ることで、コンタクトによる端子の変形形状が、コンタクトプロ
まとめ
ーブ先端形状にほぼ等しくなり、端子の酸化膜を破る作用力が
(当社比)
に
本稿では、プローブピンの耐久性を従来の約3倍
弱くなったためと考えられる。新コンタクトプローブには、電気
改善できる新プローブピンの有効性を示せた。今後は前出の課
的接続を阻害するほどのSnの転写は発生しておらず、今後の継
題を解決し、コンタクトコストを1/3に削減していく予定である。
続評価では、従来プローブピンの3倍以上の耐久性が期待できる。
STS講演論文募集
5. 考察
Niは酸化膜に覆われているため、半田転写前のAuに比べる
と、より正確に適正荷重をかける必要があると考えられる。量産適
用に向けては、各端子間の荷重ばらつきを抑制する課題がある。
No.2, 2010 • SEMI News
STSプログラム委員会では、STSでの講演論文を公募していま
す。結果は7月末に応募者宛てに順次通知します。詳細はWeb
サイト
(http://www.semiconjapan.org)
をご確認ください。
13
STS Award
「第16回STS Award」受賞論文紹介 5
※
受賞者:MIRAI-Selete NSIプロジェクト カーボン配線プログラム グループリーダー
二瓶 瑞久
次世代LSIに向けたカーボン配線技術
概要
電気伝導度の点から重要なのが、CNTの高品質化と高密度化
LSI配線の信頼性劣化や抵抗増加といった課題を解決するた
である。CNT高品質化は、十分なバリスティック伝導の距離を得
め、Cuに代わる配線材料としてさまざまな優れた特性を有する
るために必要であり、また、高密度化は、CNT束の並列伝導を
を用いた配線技術の研究開発を
カーボンナノチューブ(CNT)
増やすことにより十分な低抵抗性を得るために必要である。理想
行っている。今回、LSI配線で用いられているダマシン・プロセス
的なグラファイト構造を有するCNTは、バリスティック伝導性から
を用いてCNT配線ビアを作製し、CNT成長温度もLSIプロセス
一層あたり6.45kΩの量子化抵抗を有する。CNTのバリスティッ
に整合する低温条件において、電気伝導に適した良好なMWNTの
ク伝導が実現すれば、Cu配線を上回る低抵抗性が得られると
成長を実現した。電気伝導特性に関して、実用化時期2013年以降
予想され、特に、LSIプロセスとして、整合する400℃程度の低温
(80nm程度)
までのバリスティッ
のhp32nm世代相当のビア高さ
によって形成したMWNT束での実現
での化学気相成長
(CVD)
ク伝導の可能性を予測できた。また、高電流密度耐性に関して
が期待されている。
6
2
は、ビア電流密度5×10 A/cm での安定性を確認できた。
現在、LSI配線作製工程として、予め配線金属が埋め込まれる
溝パターンを絶縁膜上に作製した後、金属を埋め込んでいくダマ
本文
シン・プロセスが主流である。今回、LSI配線で用いられているダ
ITRS
(The International Technology Roadmap for Semiconductors:
マシン・プロセスにより、CNT配線ビアを作製した。初めに、従来
2006 Update)
半導体技術ロードマップによると、LSI配線に流れる
(M1)
上の層間
のCuダマシン・プロセスを用いて、下部Cu配線
7
2
電流は2014年には1.06 10 A/cm まで達すると予測されており、
にビアホール開口を形成する。その後、スパッタ
絶縁膜
(SiOC)
従来の銅(Cu)配線ではこれを達成することは難しい。カーボ
法を用いて、TaNバリア層、TiNコンタクト層を順に形成し、続い
は電気伝導的にも優れた特徴を示し、Cu
ンナノチューブ
(CNT)
(4nm径)
を堆積する。次に、熱CVD法を用
てCo触媒ナノ微粒子
を置き換える将来の配線材料の候補のひとつとして期待されて
いて、基板全面にMWNTを垂直配向成長する。MWNTの形
いる。優位性として、Cuより3桁高い許容電流密度耐性を有し
/アルゴン
(Ar)
混合ガス、ガス圧1kPa、
成は、アセチレン
(C2H2)
9
2
、Cuで見られるエレクトロマイグレーション
(通電
(∼10 A/cm )
基板温度 365 ∼510℃の条件による。次に、CMP( Chemical
による物質移動でボイド等が発生する現象)
等の信頼性の問題
Mechanical Polishing)
処理を行う。CNTと基板の接合強度に
を抑制できる可能性がある。また、理想的には、電気伝導を担う
関して、研磨時に加わるストレスに十分耐える強固なものが得られ
キャリアが格子振動などとの散乱を起こさずに移動していくバリ
ている。ただし、
メカニカルなダメージと同様に懸念されるケミカ
スティック伝導性を示し、これによって、通常のオーム性伝導に
(Spin-on glass)
を塗布して
ルなダメージを抑制するために、SOG
比べて低い電気抵抗が得られる可能性がある。同時に、
高い熱伝導性や機械強度といった優れた特徴も示し、
LSIのさまざまな課題を解決し得る材料として期待されて
いる。
これまで、Cu多層配線間を繋ぐ縦方向配線である配
線ビアの材料として、多層カーボンナノチューブ
(MWNT)
の束を適用する試みが、富士通、MIRAI-Seleteをはじめ、
インフィニオン、NASA、Samsung、IMECなどから報告さ
れている。実用化に向けては、プロセス温度やプロセス
フローに関して従来のLSIプロセスとの整合性を取ること
が求められる。現在主流となっているCu配線と低誘電率
を用いたCu/low-kダマシン・プロセスの
絶縁膜
(low-k)
場合、low-k膜やCu配線等の耐熱性の面から400℃以
下のプロセス温度が要求される。一方、CNT配線ビアの
14
図1
SEMI News • 2010, No.2
STS Award
CNT膜の隙間を埋め込む。CMPには従来の酸化膜
(13.8kPa)
、
研磨用シリカスラリーを用い、研磨圧力2 psi
研磨時間150secの条件で行う。最後に、Tiコンタクト層、
TaNバリア層、上部Cu配線(M2)
を形成する。
CNTビア抵抗の測定温度依存性に関して、
直径2μm
のCNTビアについて、高さ60nmおよび520nmの2水準
を比較した。CNT成長温度は450℃である。高さ520nm
の場合、測定温度が高くなるに従って抵抗値が上昇す
る、いわゆるフォノン散乱の影響を受けた金属的な電気
伝導特性を示した。一方、高さ60nmの場合、抵抗値に温
度依存性がほとんどないことを確認した。つまり、高さ
60nmではフォノン散乱の影響を受けずに、無散乱伝導
(バリスティック伝導)
している可能性が示唆される。
図2
CNTビアの高電流密度耐性に関して、400℃成長で
作製した直径160nmのCNT配線ビアについて測定した。
6
2
測定条件は、電流密度5×10 A/cm 、真空中で基板温
度は105℃である。100時間経過後も初期の抵抗値を維
持しており、劣化は見られない。このように、CNT配線ビ
アの高電流密度に対する耐性を示すことができた。
まとめ
(CNT)
配線
次世代LSIに向けたカーボンナノチューブ
を用い
ビアの研究開発に関して、今回、従来の銅
(Cu)
るLSI配線で採用されているダマシン・プロセスを用いて
CNT配線ビアを作製し、電気特性を評価した。450℃成
長でのCNTのバリスティック長は80nmと見積もられ、
hp32nm世代相当のビア高さ程度のバリスティック伝導
の可能性を予測できた。また、高電流密度耐性としては、
6
図3
2
電流密度5×10 A/cm で100時間まで劣化がないこと
を確認した。
今後更なる高性能化のためには、CNT高密度化、ビ
ア微細化への対応、low-k膜との整合などの検討課題
があるが、配線金属としてCNT以上に有力な代替候補
は見つかっておらず、これらの技術開発は非常に重要な
位置づけにある。
謝辞
本研究は、NEDOよりSeleteに委託されたMIRAIプ
ロジェクトの一環として実施された。
※4月1日より帰任:株式会社富士通研究所 ナノエレクト
ロニクス研究センター 主任研究員
図4
No.2, 2010 • SEMI News
15
Semiconductor Design
次代の半導体パッケージの実装技術はSiPからMiPへ
半導体新技術研究会 代表 / 株式会社元天 村上 元
■ はじめに
時代を振返り、次代の半導体パッケージの実装技術を考察す
(System in Package:1つのパッケージの中に、CPUを機
ると、SiP
軸としてメモリやASICデバイスを積層実装するシステムLSI設
(Multi functions in a Package:1つのパッケー
計技術)
から、MiP
ジの中に、多数個のCPUにメモリやASICのほか、光・無線・磁
界・地磁気などをセンシングする、多くのセンサー素子を複合的
に実装する)
へと進展していくと予想されます。宇宙や地球の成
り立ちや動植物の電気反応などを探求して、より高密度で低消
費電力エネルギーにより、何時でも何処でも誰とでも、任意に高
速にコミュニケーションすることで、より安全で快適な社会イン
図1 半導体パッケージ外形形状の変遷
フラ整備へと拡大し、より多様化する小型情報機器が誕生する
ことが望まれます。
■ パッケージ形状と時代の変遷
図1と図2に、筆者が開発したり開発に関わってきた半導体パ
ッケージ技術関係の概要をまとめました。日立製作所に入社し
た1967年から今日まで、MOSLSI用の半導体パッケージ開発を
中心に仕事をさせていただきました。時代を振返ってみると、
MOSIC・LSI用のパッケージ形状は、電子機器の市場ニーズに
伴い、概ね10年ごとにパッケージ外形形状の変遷があり、以下
のように推移してきていることがわかります。
1)1960 年代の IC 黎明期はトランジスタから派生したTOP
図2 半導体パッケージ実装方式の変遷
(Transistor Out-line Package)型
この時代はIC黎明期であり、IC用パッケージ外形はキャンタ
広く使われるようになり、世界標準外形として認知されました。
イプのTO型が主体で、ピン数も10-12端子程度でした。リード
QFPは業界標準外形として登録され、表面実装型の代表外形に
端子は長いリード線を付けた形状でした。1960年後半に、米国
なりました。また、腕時計LSI用に、プリント基板に直接LSIを実
RCA社からの技術導入により、アルミナ積層セラミックパッケ
(Chip on Board)
技術を開発しました。
装するCOB
ージフラットパック
(FPC)や低融点ガラスシールFPGなどが
4)1990年代は携帯電話など小型情報機器向けに開発された
導入されました。
小型表面実装タイプCSP(Chip Scale Package)型
2)1970 年代には 100ミル格子にピンを挿入するDIP( Dual
ICやLSIの素子の機能を100%出しながら外形は最小である実
In-line Package)型
装技術として、CSPを提唱しました。CSPは米国が提唱していた
電卓用LSI用にFPC42ピンを開発し、多端子LSIを実現しまし
MCMより優れた実装方法であることが認められ、多種類のCSP
たが、DIP型の方がプリント基板へのはんだ付け実装が行い易い
が開発され、デジカメ・携帯電話・小型音楽プレイヤーなど、数多
ということで、DIP型やPGA型など、100ミル格子で実装するパ
くの小型情報機器が生まれました。
ッケージが市場で多く使われました。
5)2000年代は携帯情報機器高機能化用に複数lSIを3次元に
3)1980年代は薄型電卓用に開発された表面実装タイプのQFP
(Quad Flat Package)型
積上タイプのSiP(System In Package)型
携帯電話は、電話機能に加え、インターネット機能・カメラ機
電卓の小型化薄型化のために、多端子を持つQFP54ピンを開
能・財布機能・ワンセグ視聴など、より多くの機能を搭載するよ
発したこところ、低価格であることからマイコン用LSIなどにも
うになり、LSI素子を3次元に実装する方法として、SiP型のシス
16
SEMI News • 2010, No.2
Semiconductor Design
テムLSI化が開発されました。同一メモリに多素子を積層する
MCP
(Multi Chip Package)
やPoP
(Package on Package)
など、3
次元積層で大容量を実現する実装方式へと進化しました。
6)2010年代の半導体パッケージ実装技術
2010年に入り、LSIパッケージの実装方式は、電子
(エレクトロ
・光(フォトン)
・地磁気など、自然エネ
ン)
のほか、無線(RF)
ルギーを有効に活用する素子を効率よく実装する方式へと、よ
り高密度実装に向けた進化が求められています。多種多様なセ
ンサー、マルチコアMPU、テラバイト大容量メモリなど、多くの
システムを1つのパッケージの中に実装する技術が必要になっ
図3 光波長エネルギーの適用
ています。半導体材料は、シリコンや化合物半導体のほか、酸化
物半導体・有機物半導体など、多種多様な半導体材料が使わ
導体を効率よく接続する有機接合技術や材料開発に向けて研
れるようになっていきます。多種多様な材料を有機的機能的に接
究が進むことが予想され、ガラスを用いたLCDパネルから有機材
続させる材料技術や製造方法などの、より高度なパッケージ技術
料主体の表示パネルへの置き換えが進むと予想されています。
開発が必要になってきています。そこで、2010年代の必要なパッ
酸化物半導体や有機半導体の研究は、宇宙の成立ちや動植物
ケージ 機 能を表す言 葉として、MiP( Multi functions in a
の電気電送メカニズムの探求へと進み、有機材料を用いたアク
Package)型と命名することにしました。MiP(ミップ)
という言葉
チュエータや有機物主体の磁性材料を使ったモータなど、機械
が業界に広く認知されるように、業界への啓蒙を図りながら、
的・磁気的に優れた有機材料の研究へと進むと予想されてい
関係する技術開発を支援させていただきます。
ます。一方、端末機器の情報を蓄積するデータセンターの機能は
■ 2010年代の電子機器
増していき、高速大容量データの処理ができるMPUや、MPU間
情報端末は、より薄型化・多機能化されていきます。そのため、
を繋いでデータを高速処理するデータセンターの機能の重要性
LSIパッケージ技術は多層集積化や実装モジュール化など、シス
が増し、地球上の全ての電子機器がネットで繋がることになり
テム実装化がより進むことになります。MPU素子は、高機能化・
ます。
低消費電力化と高速処理のために、マルチコア化が進みます。低
自動車は、地球温暖化対応で、化石燃料であるガソリン燃焼の
や、
電圧化、高速伝送のために低電圧差での差動伝送
(LVDS)
エンジンから電気主体の電気自動車に置き換わるので、自動車
多数のアンテナを集積して多チャンネル無線信号を扱うMIMO
内部の電装方法と材料の見直しから電力量消費ミニマム化に向
(Multi Input Multi Output)
やLTE技術など、高速無線LANネッ
けた省電力設計へ進んでいくことになり、リチウムイオン電池
(Ultra Wide
トワークに対応する機器へと進化し、さらにUWB
など電池用パッケージ材料の軽量化が求めらます。高効率の自
Band)
やミリ波信号の無線技術により、高速無線LANへと進化
動車開発は、ロボット産業の発展を促し、モータ駆動型ロボット
していくと予想されています。そのために、RF信号は、赤外線光
から有機アクチュエータ駆動型へと進化し、有機材料パッケー
から可視光や深紫外光など、短波長利用の時代に入っていきま
ジング技術の重要性が増します。
す。現在LEDは電灯代替として省電力応用が主体ですが、今後
■ 終わりに
はLED素子の波長に通信信号を乗せ、無線大容量LANによる
、光
(フ
今後の電子機器は、電子
(エレクトロン)
や無線
(RF)
データ送信、LED光エネルギーによる植物生産工場など、LED光
ォトン)
をいかに効率よく使うかが求められます。これらの基
波長応用が始まっています。深紫外光では、細菌殺傷などの医療
本は、電磁波をいかに制御するかです。宇宙の成り立ちや動植物
分野への応用など、バイオセンサーとしての利用も検討されてい
の営み、自然界の電気メカニズム探求し、自然現象の電気化学
。
ます
(図3)
現象を事業化することが必要になってきます。国家プロジェクト
メモリは、モータ駆動のHDDから完全NANDフラッシュメ
を中心として、産官学が協調した研究開発が求めらます。ビック
モリ型を用いたSSDに置き換わり、ノートPCやネットPCへの
バンから始まり、現代人へと進化して来た経緯を踏まえ、人間と
採用が拡大し、より大容量の情報を小型機器に格納するように
してどんな進化を後世に伝承するべきかが求められています。
なります。表示装置は、液晶表示から有機EL表示や電子ペーパ
どんな人間社会を構築することになるかは、神のみぞ知るとい
ー化に向けた技術改良が進んでいくと予想されています。これ
うことになりますが、少しでも自然神に近づけるよう、自然界の
らの駆動素子はシリコン半導体から有機半導体となり、有機半
電磁波研究を進め、実装技術向上を進めたいと思います。
No.2, 2010 • SEMI News
17
EHS
日立化成の環境への取組み
日立化成工業株式会社 CSR統括部 環境安全マネジメント推進部 津村 航平
■ 環境への取組み
日立化成は、ポリマーテクノロジーを基に、エレクトロニクス
関連製品、機能性材料関連製品など、幅広い分野の製品を扱っ
ている化学系企業です。SEMIが提唱しているGlobal Careの5原
則
(職場の健康と安全、資源保全、製品の責務、コミュニティへの
奉仕、卓越性)
に基づいた活動を、CSR活動の一環として推進し
(環境・健康・安全)
ています。本号では、当社グループでのEHS
活動のうち、主に環境に関する取組みについて紹介します。
■ 日立化成グループのEHS活動
1962年に日立製作所から分離独立した後、1973年に当社グル
ープのEHS活動を統括する環境管理本部が設置され、1983年に
環境活動の基本となる
「日立化成環境保全行動指針」
が制定さ
図2
れ、現在もこの指針を基に活動しています。1995年には、化学工
業会が中心となって活動しているResponsible Care協議会に加
各事業所はその内容をISO14001の環境目標に掲げ、継続的改
入しました。その年からISO14001の認証取得に取り組み、翌年に
善を図っています。さらに、2000年ごろから環境経営を重要課題
は日立化成の国内全製造事業所で認証取得し、続いてグループ
ととらえ、2001年に社長を議長とする環境経営会議をスタートさ
会社の認証取得を展開しています。1998年には化学物質安全セ
せ、この環境行動計画を審議するとともに、日立化成グループ全
ンターを設置し、化学物質の管理レベル向上や化学物質による
社への徹底に努めています。2003年にはSEMIの提唱している
リスクの低減に努めてきました。このようなEHS活動のコミュ
Global Careに加入し、より積極的にEHS活動を推進してきまし
ニケーションとして、1999年からレスポンシブル・ケア報告書
た。2004年にはCSRをより重要な経営課題のひとつと位置づけ、
(環境報告書)
の発行を始めました。その後、CSR活動の内容
CSR室を設置し、環境経営会議を全社CSR会議と改め、翌年
を充実させながら、現在も日立化成グループ社会的責任報告書
日立グループCSR取組み方針を制定しました。現在その指針に
として発行を続けています。
(CSR報告書)
また日立グループでは、中長期目標に基づき、毎年環境行動計
画を策定しています。日立化成グループもその計画を基に、CO2
排出量削減や化学物質排出量削減等の環境行動計画を策定し、
基づき、EHS活動を推進しています。
■ 事業所での取組み
各事業所では、日立化成グループの環境行動計画を基に、CO2
排出量削減、化学物質排出量削減や廃棄物発生量削減等の環
境負荷低減および環境配慮製品の売上げ拡大等の主要項目を、
ISO14001の環境目標に掲げ、EHS活動に取り組んでいます。
1. CO2排出量削減
日立化成グループは、CO2排出量削減をEHS活動の重要課題
ととらえ、カーボンマネージメントを推進しています。これまでに
事業所ユーティリティ設備の燃料転換や設備の生産効率向上
等を実施して、京都議定書で定められた目標を達成できる見通
しがついてきました。現在、2015年・2020年のCO2排出量の目標
を設定して、削減に取り組んでいます。これまでの削減対策が枯
渇してきたため、新しく
「カーボン評価システム」
という
「CO2排
出=コスト」であるという経営マインドを導入して、製法改善や
製品転換等の抜本的対策に繋げる施策を行い、CO2排出量削
図1
18
減・抑制を推進しています。
SEMI News • 2010, No.2
EHS
図3
2. 化学物質排出量削減
図4
Sustainable Development:持続可能な発展のための世界経済人
化学物質管理は化学系企業グループとして、EHS活動におけ
会議)
に加入しました。現在その重要取組み分野のひとつである
る最も重要な課題のひとつです。1998年には、環境ホルモンの問
におけるコアチームのメンバー中、唯一日
「Ecosystems Focus Area」
題に対応するため化学物質安全センターを設置し、化学物質管
本企業として、WBCSD事務局と一体となって、生物多様性の重
理の充実を図りました。現在名称は変わりましたが、REACH対
要性を広める企画、立案、実行に携わっています。
応や化学物質に関する情報管理のほか、化学物質リスクの低減
を進めています。また、化学物質の大気排出量削減も大きな課
■ まとめ
題であり、排出する物質の処理装置設置やよりリスクの少ない材
日立化成グループは、機能性化学を軸にした材料・部材メーカ
料への代替等により、現在2000年の10分の1以下まで削減して
ーとして、お客様に喜んでいただける製品を開発、供給しており
きましたが、今後も製法改善等により削減を推進していきます。
ます。今後も社会の発展に貢献する企業グループであり続ける
3. 環境配慮製品の拡大
ため、
「地球環境」
「社会」
「経済」
の3つの側面で負っているさま
環境配慮製品については、
「環境適合製品設計アセスメント」
ざまな社会的責任を、積極的に果たしていくことが不可欠と考え
という製造時の省エネルギー性や化学物質安全性等8項目につ
ています。これからもポジティブなCSR活動をグループ全体で
いて、環境適合の基準を満たした製品を認定するシステムで評
展開して、サステナビリティの実現に向けて、3側面に共通な環
価しており、現在売上高の88%に達しています。今後は環境負荷
境に配慮した製品の供給、化学物質による汚染防止、人と環境
低減に寄与する製品でなければユーザーに受け入れられない時
にやさしい製品の供給、地球温暖化の防止のEHS活動に取り
代になってくることから、製品のLCA評価も考慮して、サプライチ
組んでいきます。
ェーンの中でより環境に配慮した製品の拡大に努めていきます。
4. コミュニケーション活動
日立化成グループは、EHS活動のコミュニケーションとして
「社会的責任報告書」発行のほか、事業所でサイトレポートを発
行し、周辺住民の方々に冊子を配布するとともに、工場見学会
や説明会を実施しています。また、社会貢献活動として代表的
なものに、
「グリーンカーテンプロジェクト」があります。2005年に、
グループ会社のひとつが建屋の壁や窓をつる性植物で覆ったと
ころ、涼しくなって夏季消費電力量が削減でき、省エネ意識も高
揚したことから、グループ各社に広がり、2008年は全国25事業所
で実施しました。さらに、茨城県の小学校など60校以上に、ゴー
ヤの苗や、グリーンカーテンのつくり方の冊子を配布しています。
(World Business Council for
このほか、2000年にWBCSD
No.2, 2010 • SEMI News
図5
19
MEMS
MEMS for Semiconductor
東京エレクロン株式会社 MEMSプロジェクト 圓城寺 啓一
平成18年に、
「Semiconductor&MEMS
(半導体とMEMSの融
3つある。
合)
」
というテーマで、SEMI Newsに記事を書かせていただいた。
・パッド間隔の縮小=
「狭ピッチ化」
それから早くも4年が経過したが、その間、想定通りに、各種セン
・測定パッド
(測定ピン数)の増加=
「多ピン化」
サーに代表されるように、MEMSデバイスは広く世の中に普及
・多数個一括測定=
「大口径化」
し、MEMSプロセスは3DIやTSVに活用され始めた。このよう
一般的に「狭ピッチ化」
と
「多ピン化」は、デバイスの微細化
に、半導体産業へMEMSの融合はますます広範になっている。
に起因する。デザインルールがシュリンクするにつれ、テストパ
・・・・・・・・・・・・
この度、SEMIの強い要望により、その続編として「MEMS for
ッドの大きさ
(径)は小さくなり、その間隔は狭くなる。また、
Semiconductor(半導体へのMEMSの活用)
」
という視点で、一
多機能化やデバイス性能向上のためにパッド数は多くなる。
例をごく簡単に、初歩的になるがご紹介したい。すなわち、
「半導
一方、
「大口径化」はテストコスト削減のためのものである。
体テスト分野へのMEMS型プローブカードの普及」である。
一回のテストで同時に測れるデバイス数が増えれば、それだけ
テスト効率があがり、テストコストは削減できる。よって、プロ
1. プローブカード市場とマクロ的背景
プローブカードは、半導体テスト
(ウェーハテスト)
で使われる
製品である。それは、半導体製品ごとに仕様が異なり、また使用
回数・頻度によって磨耗するため、いわゆる
「消耗品」である。
ーブカードの径が大きいほど多くのデバイスを同時測定でき、
その究極がFlashで既に行われている300mmウェーハ一括テス
である。
ト
(300mm上のデバイスを同時に測定)
これらのニーズは半導体にとっては必須であり、かつ普遍的
その市場規模は、ワールドワイドで今年は概算で約1,000億と予
なもので、この傾向は当然ながら継続する。
測され、1装置分野に匹敵する大きな市場となっている。ただ、
3. 基本構成とMEMS技術の必要性
装置と異なる点として、設備投資ではないため、俗に言うシリ
プローブカードは、ウェーハプローバとテスタとともに使用
コンサイクルといった投資の変動ではなく、半導体市場そのも
される。その構成イメージは図2のようになる。用途に応じて
のに連動している。当然ながら、今後も半導体市場の増加に伴
最適な構成を選択するが、いずれにしても、さまざまな形状のプ
い、その市場規模も増加すると考えられ、数年後には1,500億超
ローブ、その実装のための台座、配線をFanoutするための基板、
。
に達すると予測されている
(図1)
テスタと繋げるための基板、強度維持部材等、いくつかの主要
その製品技術・仕様・構成は、後述のようにデバイス種によっ
部材で構成される。
て最適化され、また顧客によってカスタマイズされる。よって、
前述の2で述べたニーズを達成するため、MEMS技術がその
価格もデバイス種ごと、顧客ごとに、数10万~1千万超とさまざ
解決手段をして求められるのは、主にプローブ=針の分野である。
まである。当然、市場セグメントに応じて、使用技術
(サプライヤ)
従来は、カンチレバーを代表とする機械加工針、ポゴピン針等が
が異なる。
長く用いられてきた。しかし、それらでは、狭ピッチ化およびパッ
2. 技術動向
ド径の縮小化に対応すべく、バネ特性や電気特性を維持しつ
プローブカードとしての技術動向・ニーズとしては、大別して
20
つプローブを細くして、かつ狭い間隔に位置精度良く配置するこ
SEMI News • 2010, No.2
MEMS
とに限界がある。また、多マルチ化、大口径化のために、それら
を数万本配列するには、時間がかかってしまい、納期は長くなり、
なにより製造コストが上がってしまう。
そのため、フォトリソプロセスによって、①より微細な針を、
②精度良く、③一括に作成する、ことが可能なMEMS技術が必
要となってきている。
4. デバイス用途別の違い
パッドピッチ(横軸)
とアレイサイズ(縦軸)で見たデバイス別
の違いは、図3のようになる。前述のように、右に行くほど狭
ピッチであり、故にMEMS型の必要性が高くなる。アレイサ
イズとは、すなわちプローブカードの接触面積のことであり
(よ
、縦軸が上
って300mmとは300mmウェーハ一括テストを示す)
に行くほどマルチテスト化が進み、MEMS型の必要性が出て
くる。各デバイスニーズをプロットして見ると、Flash、DRAM、
Logic/SoC/LCDドライバーといったデバイス別の括りでは、そ
のマップはおよそ図3の通りになる。
次に、針の配置と構造の違いについては、典型的な例として、
メモリー用とMPU用を図4に示す。
・メモリー用は、測定パッドが一列に並んでいて本数も少な
く、また高速伝送特性や電流許容量といった電気的特性へ
の技術的要求は低いが、その反面、針の間隔は狭い。
・MPU用は、その針の間隔はメモリー用に比べて広いが、反
面、測定パッドが面上に配列されていて本数も多く、また、
消費電力が大きく高速伝送性が求められる。
このように、デバイスニーズによって、MEMS型針の構造とそ
の配置を最適化する必要がある。ここに、
「何をどのように作る
か」
というMEMSならではのテーマそのものが存在する。
5. MEMS型プローブカード開発の難しさ
っている。
加えて、MEMSで作った針を他の部材とともに組み上げて、プ
ローブカードという最終製品にする段階では、さらに、納期・量
MEMS技術インフラの普及に伴い、MEMSで針を作れる会社
産・検査・品質保証・修理といったサプライチェーンのマネジメ
は世界で複数存在する。加えて、見た目でわかりやすいために、
ントや、工程能力の管理をいかに効率的に行うかという課題が
ベンチャー企業でも参入を試みるところは国内外で多い。ただ、
存在する。これ加え、最終製品としては、顧客がテストで使用す
実際に製品として顧客が評価し認定して採用されているものは
るためには、一緒に使われるテスタやプローバとのインターフ
数少ない。
ェースの開発も必要となる。すなわち、MEMSの一部品の性能か
MEMS 針の技術的な課題としては、針性能の達成から、
MEMS技術で針を作る工程に関連し、
・針の接触性と耐久性の両立
ら、その組上げ・実装を経て、装置に組み込んだ性能までをカバ
ーすることが求められる。
さらに、1世代の製品のみならず、デバイスの進化=微細化&
・針の量産安定性
3DI化に伴い、次世代品・次々世代品と、常に必要な開発をデ
・その検査方法
バイス種ごとに応じて、平行して継続する必要がある。
・多数針の実装方法
・破損時のリペア方法
まさに部品からアプリケーションまで、MEMSをベースとし
た「ものつくり」の力が求められている例であると思う。
等があるが、難しさとはこれらを「低コスト」で克服しなくては
ならない点にある。これら課題すべてがコストと反する関係に
最後に、TELとしても、長年展開しているプローバ事業からの
あり、課題克服=プロセス/検査の高度化=コストアップという構
テスト技術の知見と、2003年より始めたMEMS技術との融合に
図になる。その構図からどのように工夫して脱却するかという点
より、このMEMS型プローブカードには積極的に取り組んで
が、実際にはMEMSで製品化をする際の難しさのポイントにな
いる。
No.2, 2010 • SEMI News
21
Innovation Stories
開発秘話:1M
DRAM
株式会社東芝 セミコンダクター社 社長 齋藤 昇三
■ はじめに
DRAMの誕生は、1971年にインテル社が1,024(1K)
ビット
体事業において世界レベル
(World)
で勝つ
(Win)
ことであり、
し、
また社の中で事業として大きく売上げと利益に寄与
(Victory)
DRAMを開発/製品化し、磁気コアメモリに置き換わってコンピ
東芝のシステム事業に対しキーコンポーネントとしての価値を
ュータの主記憶装置として採用された時である。その後、ほぼ
する、2つのVの組み合わせでもある。その後、シ
提供(Value)
3年に4倍のビット容量というペースの大容量化と、新しい市場を
リコンサイクルの波に動揺しない一貫した設備投資による土台
ビット
(20
開拓することで発展を続けてきた。現在は2G(ギガ)
作り、技術者の重点配分による技術力強化を実施した。1M
億ビット)
の製品まで進化を続けてきている。
DRAM開発にあたり、東芝では、社内で「Cチーム」
「Nチーム」
東芝におけるDRAM の歴史は、1973 年にこの 1Kビット
と呼ばれる2つの開発チームが組織された。NとCはICの代表
DRAMをインテル社に遅れること2年で開発した時に始まる。
(N型金属酸化物半導体)
」
と
「CMOS
的な構造である
「NMOS
ICの最新技術であるPチャンネル・シリコンゲート技術を駆使
(相補型金属酸化物半導体」の文字からとられている。このN、
した3トランジスタ/セルであった。しかし、米国の先行メーカー
C双方の開発を同時進行させ、社内競争の原理を導入し、開発
との技術力の差はまだ大きく、本格的な量産まで至ることがで
を推進しようという試みであった。私はCMOSチームの設計責任
きなかった。
者として従事した。私の会社生活の中でこの時期が一番働いた
その後、現在も使用されている1トランジスタ+1キャパシタ/
セル構造による4KビットDRAMを開発、Nチャンネル・シリコ
ような気がする。とにかく、DRAMで世界一になるのだという
夢は人一倍あった気がする。
ンゲート技術など、各種技術を吸収していった。16Kビット
この時点で競合他社の多くは、動作速度が速くコストを最も
DRAMの世代になり、ようやく月産100万個を生産できるレベ
低くできるNMOSで1M DRAMの開発を進めていたが、何とし
ルまで達することができた。1978年には、5V単一電源の64Kビ
ても1M DRAMでトップに立ちたい東芝は、あえてCMOSに注
ットDRAMが誕生、大型コンピュータ主体の応用から、多方面
目した。プロセスが長く、コストが高いためDRAMに不向きと
のシステムに応用分野が拡大していった。生産面でも月産300
いわれていたCMOSであったが、低消費電力と小型というメリ
万個を達成し、DRAM生産の基盤をようやく確立することがで
ットを活かせないかと考えたのである。また、東芝において
きた。しかし、依然として性能競争と開発競争の熾烈さに遅れ
CMOSは、10年以上も前から電卓や時計において実績があり、
をとり、DRAMメーカーとしては他社の後塵を拝していた。256K
量産化に時間のかからないという強みもあった。そうした理由か
ビットDRAMは、10年以上にわたる長い技術、製造面での苦難
ら、NMOSとCMOSの2面作戦で開発をスタートさせたのであ
を乗り越えて1982年に登場した。性能、品質ともに一流メーカー
る。1984年、それぞれの開発チームは試作品を完成した。多くの
の領域に達し、月産700万個の生産を記録したが、不況により極
議論の結果、東芝が下した決断は、CMOS開発一本に絞ると
端な供給過多となり、作っても売れないという悲劇の世代とな
いうものだった。まず、私は東芝社内で勝ったのであった。
った。そして、東芝が半導体メーカーとして確かな地歩を築いた
のは、1MビットDRAMの時代に入ってからである。
と
「NMOS」の並列開発と同時に、
また、東芝では「CMOS」
微細加工技術面でも並列開発を実施した。
「プレーナ法」
と
「ト
レンチ法」
による開発である。その結果、他社がトレンチ法を採
■ 1M DRAMの開発
用する中、東芝は、製品の開発時期を優先するため、難易度の
「東芝、DRAM事業から撤退」
と日
この始まりは、1981年末に
高いトレンチはあえて避け、プレーナ法による開発に絞ることに
経新聞に報道されてからである。これを契機にDRAM事業への
なった。プレーナ法の方が速く量産化にこぎ着けることができ
再挑戦が始まったといえる。東芝の半導体事業は、技術、シェアの
るという読みからである。
「プレーナ法」
とは、シリコン基盤の
面で苦境に立っていた。
「挽回か撤退か」
、決断が迫られる状況下
上に平面状にキャパシタンスを設ける方法で、256K DRAM世
で、
トップは半導体事業への大型投資を決めた。以来、
トップから
代までは各社が採用していた技術である。しかし、ビット容量を増
スタッフまで、半導体関係者一丸となっての巻き返しが始まった。
やすためにはセルのサイズを縮小する必要があり、1M DRAM
1982年の社長年頭挨拶で、開発専用クリーンルームの建設計
時代からはシリコン基盤に穴を掘って、実質的にキャパシタの
画が発表され、1983年から開始されたW作戦の重点戦略とし
面積を増やす「トレンチ法」が採用され始めた。ほかにも、4M
「W」
の意味は、半導
て、1MビットDRAMの開発がスタートした。
DRAM以降に開発された技術として「スタック法」がある。こ
22
SEMI News • 2010, No.2
Innovation Stories
れは、シリコン基盤の上に作ったトランジスタの上にキャパシタ
メモリの大好況期にあった。半導体市場が年間40%もの成長
を積み重ねるように作る技術である。ちなみに、東芝は、4M
率を達成したのは、DRAMの好況に負うところが大きい。東芝
DRAMからトレンチ法を採用し、256M DRAMまで採用していた。
DRAMは世界ランキングで5位程度であったが、1995年には過
ついに、1984年秋に、世界に先駆けて1M CMOS DRAMの開
発に成功した。翌1985年2月に、ニューヨークで開催された半導体
去最高の売上高と経常利益を達成した。
64MビットDRAMの時代になって、プロセス技術開発の遅
(国際固体回路会議)
に、私が発表に行った。
世界会議ISSCC
れを取り戻すため、256Mビットの技術開発としてスタートし
世界で始めてCMOSでDRAMを作った。それも1Mビットとい
ていたIBMとSiemensと東芝の共同開発プロジェクトの成果
う容量を、世界一の性能で完成させたということで、一躍有名
を64Mビットに適用、1996年にユーザーにサンプル
(TRiAD)
になった。これで、世界のトップに君臨することができた。同時
出荷した。東芝のメモリ事業は、96年から市場の悪化とともに急
に、大手ユーザーへのサンプル出荷と製品開発段階で、他社に
速に売上高の低下と赤字化が進んだ。また、体力的にも、他社
大きく先行した。さらに、DRAM事業はその量産体制がいかに短
に比較して技術力の低下、コスト力の低下が目立ち始めた。さら
期間で整うかにかかっていると言われる。それは、東芝が過去に
に、新規参入してきた韓国、台湾メーカーに比較してコスト的に追
味わった64K DRAM開発競争の出遅れからも自明のことであ
いつかず、苦しい戦いを強いられた。
る。そこで、東芝は1M DRAMの生産開始を1985年12月と定め、
1997年以降、東芝はDRAM事業の再構築を開始した。ま
1M DRAM生産に関するすべてに対し、全力で取り組んだ。その
ず、コスト力強化の展開とスケーラビリティのあるプロセスによる
結果、予定より早い1985年10月に、月産1万個の規模で生産を開
新規投資削減から始めた。さらに、製造拠点のグローバル展
始。長年の夢だった1M DRAM量産の各社に先がけての成功
開として、米国にIBMとDRAM工場(ドミニオン・セミコンダクタ
である。これにより、東芝は1M DRAMの開発で世界有数の半導
社)
を設立、台湾ウィンボンド社と提携し、台湾での生産を開始
体メーカーに躍り出たのである。
した。また、後工程生産でも米国、台湾に進出した。開発面で
1M DRAMは、毎月巨額の利益を上げ、東芝半導体の技術を
も、アライアンスによる外部リソースの活用と研究投資削減を行
世界的レベルにまで高め、全社においても東芝のヒット商品の
った。また、ビジネスも、アフターマーケット向け中心から最重要
ひとつとなった。東芝半導体事業の中で、売上げ、利益規模、国
顧客へ再参入を果たした。世代も64Mビットから128Mビット、
際化への広がり、知名度アップなど広い面で、1M DRAMほど大き
256Mビットと進み、製品もシンクロナスDRAM 、ラムバス
な貢献をした製品はないとさえ言われている。
DRAMと高付加価値製品へのシフトを加速していった。こうし
て、DRAMは半導体事業の中で大きな柱として事業展開をして
■ その後
4MビットDRAMでも2世代制覇へ向けて、全社一丸となって
いくとともに、技術のリーディング・デバイスとして技術開発を
牽引し続けてきた。
開発を進めた。競合他社と激しい競争を繰り広げたが、東芝は依
然として優位に立ち、1989年には他社に先駆けてサンプル出荷
■ おわりに
を始め、大手ユーザーの認定をいち早く取得した。続く16Mビッ
東芝のDRAMは、このように華々しく、かつ浮き沈みの多い
トDRAMでも、1990年にサンプル出荷を始めた。一方、生産面
歴史を持っている。しかし、1981年に撤退の報道があってから20
でも主力ラインとするために、大分工場に多額の設備投資を行
年経った2001年の春に、本当に事業から撤退することになった。
い、生産体制を着々と整えていった。また、1993年には、メモリの
これも、私が1M DRAMの開発を担当してから、ずっとDRAM
主力工場として四日市工場を生産スタートさせた。しかし、開発/
事業に従事し、そしてDRAM事業撤退の責任者として取り仕切
サンプル出荷まで順調なすべりだったが、認定サンプル以降で
らせていただくまで継続した。何の因果か分からないが、DRAM
トラブルが多発、他社に少しずつ遅れ始めていった。また、シス
の長い歴史の真ん中で、最初から最後まで仕事ができたことを
テム不良が多発し、顧客からのクレームが相次いだ。次第に重要
有り難いことだと思っている。また、DRAMの事業を撤退に追
顧客から締め出され始め、比較的価格の安いアフターマーケッ
いやったという十字架を背負った人間が、その後もメモリ事業
ト向けの顧客にビジネスの主体が移っていった。また、微細化
に携わらせていただいており、NANDという新しい事業で再び
技術で他社に遅れをとり、チップ・サイズが大きくなり、コスト力
メモリの東芝を蘇らせることができたのも幸せであると思ってい
が低下してしまった。最終的には量産段階で他社に遅れをとり、
る。これも、東芝メモリは決して負けない、必ず世界一になる
首位の座をニューカマーたちに明け渡すことになった。かつて
という強い意志のDNAを持っているからだと思う。私のこれか
2世代制覇したメーカーはないというジンクス通り、開発戦争の
らの仕事は、この良きDNAを後継者に伝えていくことだと認識
厳しさを味わった。こんな状況の中でも、1994∼95年は世界的に
している。
No.2, 2010 • SEMI News
23
Coffee Break
開発秘話 コーヒーブレイク
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日米半導体戦争
半導体シニア協会 理事長 牧本 次生
日米摩擦の始まり
この案件は日米両政府のトップの関心事でもあり、クリントン
日本と米国の間には半導体分野を巡り、1980年代から90年代
大統領と橋本首相の会談において「交渉のタイムリミットは7
にかけて激しい覇権争いが行われた。先行する米国のシェアを
月31日」
ということが決められ、期限内での決着が至上命題と
86年に日本が逆転、93年には米国が再逆転するといった形の競
なっていた。その最終交渉はバンクーバーにおいて7月29日に
争は、まさに
「竜虎相打つ」様相を呈しており、
「日米半導体戦争」
始まった。これは日米半導体戦争の総決算とも言うべき交渉で
という表現が用いられることも稀ではなかった。
あったのだ。米側民間交渉団の団長はTI社のパット・ウエーバ
その予兆は70年代後半、日本からDRAMの対米輸出が立ち上
氏であり、日本側は筆者(当時日立)
が団長を務めた。
がり始めたころに遡る。高まる対日警戒心がきっかけとなり、77年に
「7月31日」のタイムリミットは交渉団全員が強く意識していたの
結成されたのがSIA
(半導体工業会)
である。SIAはロビー活動に
だが、双方の主張はなかなか合意に至らず、時は刻々と過ぎ
おいて日本の「超LSIプロジェクト」
を官民癒着の象徴として取り
て行く。日本側は現在の協定を早く終結させ、新しい枠組みとし
上げ、アンフェアな
「日本株式会社」
と名づけてこれを非難した。
て
「世界半導体会議」
の創設を主張。対する米側は、協定がな
このような活動はマスコミでも取り上げられるところとなり、
くなることによる事態の後戻りを懸念し、従来の仕組みを色濃
78年にはフォーチュン誌が「シリコンバレーにおける日本人スパ
く残したいと主張した。
イ」
と題する記事を載せ、対日警戒心を煽った。80年代に入る
31日になっても、このような原則論が繰返し蒸し返されるば
と日本メーカーが次第に実力をつけ、逆転のときがやってくる。
かりで進展がなく、リミットの午前0時が近づく。交渉団には疲
64K DRAMの世代で日本メーカーのシェアは70%に達して圧
労の色が浮かんでくる。その時一人の知恵者が「ここで時計を
勝し、米国では一層危機感が高まる。フォーチュン誌では、この
止めましょう」
と提案、双方ともこの一言に力を得てさらに詰め
問題を81年3月と12月の二回にわたって取り上げた。その趣旨
の交渉を続行。この後は睡魔を撥ね退けつつ、体力の限界に挑
は、先端メモリで日本に負ければ、それは半導体での敗北のみ
戦しながらの交渉である。そして最終合意に達したのは8月2日の
に止まらず、米国の基幹産業であるコンピュータ分野も危なくな
早朝であった。
るとして警鐘を鳴らしたのである。
この交渉における最大の成果は、
「世界半導体会議」
の設立が、
83年になると、ビジネスウイーク誌が「チップ戦争・日本の脅
ほぼわが国の提案に沿った形で合意されたことである。この会
威」
と題する11ページに及ぶ特集を組んで、日本半導体の脅威に
議はその後毎年開かれ、世界中の半導体関係者の相互理解を
ついて詳細を報じた。両国の激しい半導体競争について、
「戦争」
深める役割を果たしている。
という表現が用いられるようになり、緊迫した状況となる。
日米半導体協定
半導体市場は84年まで順調な成長を遂げたが、85年に入ると
さて、7月末日までの決着を目指した交渉当事者にとって
「8月」
という月はありえない。したがって、バンクーバ交渉は8月2日に
代えて「7月33日の決着」
となったのである。暦の上で見ること
需給バランスの崩れから、一転して大不況に見舞われた。DRAM
もないこの日付は、日米半導体戦争の激しさを雄弁に物語って
の価格は日を追って落ち込んだのである。そのような事態を背景
いるように思われてならない。
にして、同年6月SIAが、米国・通商代表部に日本製半導体製品
歴史から学ぶ
をダンピング違反で提訴した。また、時を同じくして、マイクロン社は
商務省に日本の64KビットDRAMをダンピングで提訴した。日米半
導体戦争のスタートである。
この歴史を振り返って強く感じることは、首位を転落した後
の米国の強烈な巻き返しである。超LSIプロジェクトの方式を
「日本株式会社」
と非難しながら、これが有効となれば、手のひ
その後1年間に亘り厳しい政府間交渉が続けられ、日米半導体
らを返すような形でSEMATECHを設立。なりふりかまわぬ振
協定が結ばれた。協定の中に織り込まれた主要条項は、①日本
舞いには、半導体を国家戦略として位置づける米国のすさまじ
市場へのアクセス改善、②ダンピング防止の2点である。この協定
い執念が感じられる。この当時、政府、産業界、大学、マスコミ
は86年から10年間続いたが、この間日本においては、メモリ事業
など国全体で、
「米国の盛衰は半導体にあり」
という認識が共有
が完全に両国政府の監視下に置かれ、経営の自由度は奪われた。
されていたのだと思われる。
また、米国では官民一体となってSEMATECHの設立を進め、半
近年、日本の半導体業界は残念ながらその存在感が次第に
導体分野の競争力を取り戻すことに成功した。93年には日本の
薄れてきている。天然資源のないわが国にとって、半導体はかけ
シェアを再逆転して世界トップとなり、今日に至っている。
がえのない産業である。今一度「チャレンジャー」
としてのマイ
7月33日の決着
ンドセットに切り替えて、捲土重来を期さねばならない。そのた
協定の締結から10年を経た96年は、その見直しの年になる。
24
めには国の総力を挙げての取組みが必要である。
SEMI News • 2010, No.2
Market Report
2010年のファブ設備投資は88%増へ
−メモリおよびファウンドリ企業は生産能力増強を始める−
SEMI市場調査統計部門 Christian Dieseldorff / Dan Tracy
SEMIのWorld Fab Forecastレポート最新版によると、半導体前
■ 88%増でも、2007年水準への回復は2011年までかかる
工程ファブの設備投資は、建設費と装置購入費を合わせると300
2010年にこれだけ設備投資が増加しても、2007年の水準まで
億ドルを超え、昨年比88%増となる見込みです
(表1参照)
。
回復するためには、2011年の設備投資が46%増えなければなり
2009年6月以降、SEMIのWorld Fab Forecastレポートは、2010
。また、2010年の投資計画は、世界経済の回
ません
(表1参照)
年の設備投資が60%以上成長するとの予測を繰り返してきま
復が進むことを前提としており、高失業率の継続、不良債権危機
した。他のアナリストが20∼30%増と予測していたときでさえ、
などの要因で、見通しが変動することが考えられます。
World Fab Forecastレポートの
「積み上げ」方式は、今年の成長率
2008年から2009年にかけては二桁の大幅なマイナス成長が
がもっと高くなることを示していました。今回成長率予測がさ
続き、2009年の設備投資は歴史的な低額に留まりました。2010
らに高められたのは、ファウンドリおよびメモリ企業がここ2ヵ
年の投資額を2008年と比較すると、実質的には増減はフラット
月間に設備投資計画の上積みを発表したことが主な理由です。
です。2010年を直近のピークだった2007年と比較すると、急成
また、凍結されていた数多くの投資計画が再開されつつあり
(表2参照)
。
長する2010年も二桁のマイナス成長となります
ます。TIのRFAB、TSMCのFab 12フェーズ5、UMCのFab 12A
表2 前工程設備投資の成長率
P3/4
(以前のFab 12B)
などがその例です。その他の凍結された
投資計画では、Samsungのライン16と、シンガポールのIM Flash
に再開の可能性があります。SEMIのWorld Fab Forecastレポ
ートでは、TSMCのFab 14フェーズ4などの新規着工まもないフ
ァブ計画も明らかにしており、Flash AllianceのFab 5なども着工
2007対2010
2008対2010
装置支出額の成長率
−27.6%
3.7%
装置+建設支出額の成長率
−32.8%
0.8%
■ 工場の閉鎖数は減少
SEMIが掌握している数字では、2009年の間に27の量
の可能性があるものとして挙げられています。
産ファブが閉鎖されました。これには、11の200mmファ
表1 半導体前工程設備投資の推移
2007
2008
2009
2010
2011
$8,348
$4,403
$1,986
$3,679
$4,602
−47.3% −54.9%
85.2%
25.1%
前工程ファブ投資(百万ドル)
建設支出額
−
建設支出前年比成長率
装置支出額
$37,620 $26,254 $14,437 $27,222 $37,716
−
装置支出前年比成長率
前工程ファブ総投資額
−30.2% −45.0%
88.6%
38.5%
$45,968 $30,657 $16,423 $30,901 $42,318
総投資額前年比成長率
−
−33.3% −46.4%
88.2%
36.9%
ブと、Qimondaの最新300mmファブが含まれています。
2010年は21のファブが閉鎖される見込みです。合計す
ると、この2年間で48ファブが閉鎖されることになりま
す。現時点で2011年に閉鎖されると予測されるファブは
4ヵ所です
(グラフ1参照)
。
メモリ企業が閉鎖するファブのほとんどは200mmフ
ァブですが、世界全体で閉鎖されるファブの過半数は
200mm未満のウェーハサイズです。200mmのファブは、
世界各地でまだまだ生産を続けています。少なくとも190
の200mmファブが、2010年末の時点で操業していると予
測されます。そのおよそ3分の2がファウンドリで、メモ
リは10分の1しかありません。
■ 生産能力の増加はスローペース
SEMIのWorld Fab Forecastレポートは、前工程生産能
力が2009年に世界全体で3%∼4%減少したことを示し
ています。これはSEMIがファブ生産能力を調べ始めて
以来、はじめての現象です。
2009年の中ごろから、ファウンドリは生産能力拡大に
グラフ1 閉鎖および操業開始するファブの数 前工程ファブ(R&D、試作、量産)
No.2, 2010 • SEMI News
向けた投資を増やし始め、同時に2010年の投資計画
25
Market Report
年に支払われることになります。
したがって、懸念されるのは、2009年に大きくカットされ
た生産能力が、需要増加に対し遅れをとっているという
問題です。最新の半導体産業の数字を見ると、デバイ
ス出荷量は不況前の水準に復帰しています。2010年に
生産能力は前年比5∼6%増加すると予測されますが、
2008年比ではわずか2%の増加にすぎません。
■ 設備投資上位10社の比率は、
2011年に86%まで拡大
売上げと利益の増加を追い風に、多くの企業が設備
グラフ2 生産能力推移(ディスクリートを除く)
投資の上方修正を発表しています。変化は、World Fab
Forecastの2009年11月のレポートを発行した後から現在
にかけて現れましたので、最新のレポートには大幅なア
ップデートがされています。
2009年11月に発表した記事に、2010年に10億ドルを
超える投資額をファブ装置に支出する企業は6社になり、
その合計は140億ドルと予測されると書きました。その記
事の執筆から4ヵ月が経過し、10億ドル以上の投資が見
込まれる企業は8社に増えました。装置に対する支出額
の合計金額は20億ドル近くになりそうです。
ファブ投資額全体に対する上位10社の比率を2007年
上位10社の投資額には合併ビジネスの金額も算入
グラフ3 設備投資上位10社の比率
から調べてみると、2010年には84%、2011年は内輪に
(グラフ3参照)
。一見す
見ても86%へと増加しています
ると、これはGlobalfoundriesとCharteredのような合併が
にも上方修正を加えました
(グラフ2参照)
。メモリ企業の投資は、
原因と思われます。しかし、よくよく調べると、上位10社はいつも
既存設備のアップグレードを目的としたものでしたが、ここ数ヵ月
同じ企業とその合弁企業が中心になっていることに気づきます。
間では、生産能力拡大の投資発表も見られるようになりました。
2007年の上位と同じ会社が、額を増やして2010年も2011年も
その大半は、2年前に始まり、その後保留されていたファブ投資
上位にいるのです。
計画です。
メモリ企業は、新しいファブ投資計画を立てる前に、まず保留
■ ファウンドリは投資を倍増
されていた計画の再開を優先する模様です。したがって今のと
投資額をデバイス分野別に見ると、ファウンドリの比率が
ころは、今年建設が始まる量産ファブの計画は2つだけとなって
2010年に大幅に増えているのがわかります。2007年と2010年の
います。これらの新規生産能力が追加されるには、2011年から
比較では、ファウンドリの装置支出額は倍増し、33%まで拡大し
2012年まで待たなければならないでしょう。
ています。他方、メモリは2007年の65%から46%へと減少してい
2009年に半導体業界は、過去に見られなかったペースで生産
。
ます
(図4、図5参照)
能力をカットしました。また、多くの企業が厳しいコスト削減の
2010年の建設支出と装置支出を合わせたファブ設備投資の
ため、大規模なレイオフやリストラを実施しました。一方でチッ
全体額は、昨年11月の時点では250億ドルでしたが、300億ドルへ
プの需要はついに好転し、昨年を通じて増加を続けると、下半期
と増額しています。この増加は、最近発表された投資計画の上方
にはチップの平均価格も改善されました。
修正に基づく
もので、発表したのは、TSMC、Inotera、Hynix、UMC、
2010年を通じて世界経済の回復が進むと、世界GDPは2009年
のマイナス1%成長から、2010年はプラス3∼4%へと好転するこ
Intel、Samsung、Hua Li Microelectronics
(GraceとHHNECの合弁
企業)
等になります。
とが予測されます。報道されているように、政府の経済刺激策は
ファブ設備投資が88%増加するというのは高率に感じられま
今年も継続し、約束された経済刺激策の50%以上の金額が2010
すが、2010年は設備投資が歴史的に低かった2009年の次の年
26
SEMI News • 2010, No.2
Market Report
であることを忘れてはなりません。2010年と2008年を比較すると、
支出額の増加は実質的にフラットです。2010年が通常の支出水
準に復帰するためには、これを上回る増加率が必要となります。
そうならない以上、復帰には2011年までかかることになります。
(初出 SEMI Global Update 2010年3月号)
World Fab Forecastは、
生産能力を左右する投資計画をトラ
ックするレポートです。
ファブ動向をハイレベルで鳥瞰する概要レポ
ートやグラフとともに、
設備投資/生産能力/テクノロジー/製造デバイ
スの詳細な分析を、
ファブごとに18ヵ月先の予測まで提供します。
SEMIが一方で提供する半導体製造装置市場統計レポート
グラフ4 デバイス分野別の装置支出額 2007年
新規装置の受注出荷額の月報ですが、
これと
(WWSEMS)は、
World Fab Forecastは、
半導体前工程ファブによる
は異なり、
製造装置の投資計画が対象であり、
また中古装置も含まれて
います。詳細についてはwww.semi.org/fabs をご覧ください。
SEMI Forum Japan
SEMIマーケットセミナー開催のご案内
日時 5月31日(月)14:3-17:30
場所 グランキューブ大阪(大阪国際会議場 大阪市北区中之島)
主な内容 ・電子機器(3D, eBook..)市場、半導体市場の分析
・急速に立ち上がった製造装置市場の行方
・材料市場分析。太陽電池とLEDは次の成長点か
グラフ5 デバイス分野別の装置支出額 2010年
詳細は www.semi.org/sfj をご覧ください
世界半導体製造装置市場統計
2009年11月-2010年1月 販売額データ
SEMI Book-to-Billデータ
装置カテゴリー別月間販売高
(単位 1,000米ドル)
1,400
マスク・レチクル製造用装置
ウェーハ製造用装置
ウェーハプロセス用装置
組立・パッケージング用装置
テスト用装置
半導体製造装置用関連装置
合 計
11月
0,027,094
0,003,247
1,393,234
0,169,852
0,153,709
0,052,243
1,799,379
1月
0,027,852
0,006,824
1,522,644
0,166,801
0,221,226
0,063,642
2,008,989
12月
0,062,978
0,004,421
1,582,506
0,216,145
0,205,664
0,058,839
2,130,553
装置市場別月間販売高
(単位 1,000米ドル)
日 本
北 米
欧 州
韓 国
台 湾
中 国
その他
合 計
2008年11月
0,171,836
0,313,269
0,057,825
0,395,725
0,588,302
0,073,039
0,193,383
1,799,379
2008年12月
0,218,545
0,291,993
0,109,535
0,445,775
0,714,939
0,105,216
0,244,550
2,130,553
2009年1月
0,211,238
0,249,159
0,092,471
0,392,893
0,720,637
0,084,944
0,257,647
2,008,989
出典:Worldwide Semiconductor Equipment Statistics(SEMI, SEAJ)
No.2, 2010 • SEMI News
1.30
1.23
受注額
販売額
1.22
BBレシオ
1.20
1,200
1.17
1.09
1.10
1.06
1.06
1,000
1.07
1.06
1.00
800
0.90
0.80
0.80
600
0.73
0.70
400
0.65
200
0.60
0.56
0.50
0
0.40
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月 10年1月 4月
SEMI BBレシオの12ヵ月間推移(単位:百万米ドル、3ヵ月移動平均)
27
Column
SEMI Newsコラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
科学・技術と藝術
志村 史夫
前号の「仕置人」
と
「仕分人」についてのコラムの中で、
“科
の行為が、さまざまな「理屈」
をもって是認されるのは、古今東
学”
と
“技術”に触れたのであるが、日本ではこれらをいっしょ
西繰り返されて来た「政治」
「歴史」の常である。
“技術”
も
「経
くたにして“科学技術”としてしまうことも「問題」
(「仕分け」
済」的評価に加え、必然的に「政治」的、
「歴史」的評価に晒さ
で留意すべきこと)
の一つだ、と私は昔から思っている
(拙著『人
れる運命にある。
間と科学・技術』牧野出版)
。
ところが、
“科学”
の本質は、自然、自然現象を対象にした知的
そもそも
“科学”
とは何か、
“技術”
とは何か。
好奇心を満足させることであり、
“科学”
を推進する最も基本的
ここで述べる
“科学”
は“自然科学”
であるが、英語の“science”
な力は、その知的好奇心そのものなのである。つまり、
「善悪」
に
はラテン語の“scientia(知識)”を語源としており、その意味は
関係ない自然、自然現象を扱う
“科学”にも
「善悪」はない。ま
時代とともに変遷している。私は“科学(science)”は、
「自然
た、藝術家が“藝術”
の実用的価値には無頓着であるのと同様
界の法則や真理を秩序立てた知識、そしてそれを追求するこ
に、科学者は
“科学”
の実用的価値には無頓着であり、そのような
と」
と定義したい。私は長年、
“科学”の“現場”にいる人間で
あるが、基本的に“科学”
は、美術、文学、あるいは音楽などと
無頓着が許されるのが“科学”
なのである。
、、、、、、、、
、、 、、、 、、
このような善くも悪くもなる“技術”
と、善悪に関係ない“科
一緒に“藝術”の範疇に入れられるべきものではないかと思っ
学”は、厳然と区別されなければならない。
ている。私は科学者の端くれであり、藝術家ではないが、自分
、、、、、
自身の経験から、実感として、そのように思えるのである。
である。
「道楽」は「金を使うもの」であっても、決して「金を稼い
私が、夏目漱石とともに敬愛する寺田寅彦は、
「科学者と藝術
でくれるもの」ではないのである。近年、
“科学”
と
“技術”が強
家」
と題する随筆の中で「科学者の研究の目的物は自然現象で
い相互作用を持つこと、具体的には、科学が技術の基盤にな
あってその中になんらかの未知の事実を発見し、未発の新見解
り、そのような技術が新しい科学の基盤になり、さらに、新しい
を見いだそうとするのである。藝術家の使命は多様であろうが、
科学は新しい技術の基盤になる、という傾向が強まっているの
その中には広い意味における天然の事象に対する見方とその
は事実である。そして、
“科学”が、物質的、経済的繁栄をもたら
表現の方法において、なんらかの新しいものを求めようとするの
してくれる
“技術”
に結びついた例も少なくないが、それはあく
は疑いもないことである。また科学者がこのような新しい事実
、、、、、、、、、、、、、、、、、
に逢着した場合に、その事実の実用的価値には全然無頓着に、
までも
“技術”の恩恵であり、
“科学”の本質ではないのである。
その事実の奥底に徹底するまでこれを突き止めようとすると
効果を生んだようなものであろうか。大きな経済効果を生むのは
同様に、少なくとも純真なる藝術が一つの新しい観察創見に出
藝術の本質ではない。逆に、物質的、経済的繁栄が科学と藝
会った場合には、その実用的の価値などには顧慮することなし
術の発展をもたらした例は、古今東西枚挙にいとまがない。その
に、その深刻なる描写表現を試みるであろう
(上点志村)
」
、そし
て
「科学者と藝術家の生命とするところは創作である」
と述べて
ような効果は、物質的、経済的繁栄が潜在的に持つものである。
、、 、、
私が強調したいのは「科学と技術とは本質的に異なるもの」
いる。
ということである。
極論を言えば、科学は藝術と同じように一種の知的「道楽」
たとえば、何かの藝術作品がブームになって、それが大きな経済
一方、本稿で述べる
“技術”
は、一般的には工業技術のこと
私は、科学、技術、藝術を
「国策」の土俵に上げる
(
「仕分け」
で、
「人間の生活に役立たせるために、その時代の最新の知識に
の対象にする)
場合、これらが本質的に
「道楽」
なのか、
「物質的、
基づいて智慧を働かせ、さまざまな工夫をして物を作ったり、加工
経済的繁栄を生む“打出の小槌”
」
なのかを
「区分け」する必要
したり、操作したりする手段」
である。このような技術は具体的な
がある、ということを言いたいのである。
成果や物を生み出す手段であるから、明確なる経済観念、目的
を持ち、政治的、社会的、経済的要請に準拠せざるを得ない。
確かに、数々の革新的技術は、われわれの多くに
“肉体的快適
さ”
と
“物質的豊かさ”
を与えてくれ、国家には経済的繁栄をも
したがって、技術は、それを使う人間によって、あるいは国によって
たらしてくれた。しかし、その恩恵に浴する人間が“精神的快適
善くも悪くもなる。
さ、豊かさ”
を享受しているかといえば、必ずしもそうではない
だから、たとえば、同じ「核兵器」であっても、
「善い核兵器」
のではなかろうか。
“肉体的快適さ”
と
“物質的豊かさ”
とは裏腹
にもなるし「悪い核兵器」
にもなり、
「悪い核兵器」
を持っている
に、現代文明人は間違いなく精神的病魔に冒されつつあるよ
国、持とうとする国は、
「善い核兵器」
を持っている国や、その
うに思われる。
「道楽」が足らないのではないか。
仲間の国から糾弾されることになるのである。
実におかしな話だ、と私は思う。どこの国が持っていようと、
核兵器は断じて「悪いもの」であろう。しかし、
「勝者」
「強者」
28
まともな国家であれば、純粋な科学や藝術を支援する
“余裕”
が欲しいものであるし、本当の“豊かさ”
に「道楽」は必要不可
欠なものである、と私は常々思っている。
SEMI News • 2010, No.2
SEMI Forum Japan
低炭素社会の実現を支える半導体技術
私たち人類の持続的発展のために、低炭素社会を目指そうという機運は、国境や海峡、そ
して階層を越えて共有が進んでいます。このために今世界中で取り組まれている2大テー
マが、省エネと再生可能エネルギーです。そしてそのどちらにも半導体技術が欠かせません。
SEMIが大阪で開催するSEMI Forum Japan(SFJ)は、半導体製造技術セミナーをコアにお
いたイベントですが、来る5月31日(月)に開幕するSFJ 2010のプログラムでは、再生可能
エネルギーについて2つのセッションを設けました。本稿では、プログラムチェアの一人で
ある奈良先端科学技術大学院大学 戸所義博教授に、その狙いをお聞きしました。
Q:再生可能エネルギーの
セッションは
今年が初めてですか?
A :実は、3 年前までは太陽光発電にフォーカスしたセミナーを SFJ で行なっていました。も
ちろん話題性のあるテーマということもありましたが、半導体の新しいアプリケーション
市場を生み出す分野としてピックアップされたものです。しかし、パワーデバイス、スマー
トグリッドといった、この分野で成長が期待される技術は、太陽光発電に範囲を限定したも
のではなく、大きく電力を利用する私たちの社会全体に浸透する技術です。そこで今年から、
再度セミナーのタイトルを「リニューアブルエネルギー」に一新し、再生可能エネルギーが創
り出す低炭素社会を実現するための半導体技術を、より広い視野で探求することにしました。
Q:午前と午後の
2つのセッションに
分かれていますが、
その理由は何でしょう?
A:SFJでは、半日のセッション構成にすることで、時間的にも費用的にも参加しやすいプロ
グラムとなっています。しかし、再生可能エネルギーに関連した情報は、とても半日に収め
ることはできず、終日のプログラムを2セッションに分割することになりました。ただし、
どちらのセッションに参加いただいても、幅広い情報を受け取っていただけるように工夫
がしてあります。もちろん、終日受講いただければ、より深みのある内容をお届けできます。
具体的には、社会インフラ、住宅アプリケーション、デバイスのそれぞれのトピックスを、両
方のセッションに盛り込んであります。
Q:社会インフラのトピックとは
どんな講演になりますか?
A:再生可能エネルギーを利用するための社会的インフラ整備は、低炭素社会の前提条件で
す。午前のセッションでは、京都大学の松山隆司教授に「エネルギーの情報化」のコンセプ
トと最新の研究開発状況についてお話しいただきます。
「エネルギーの情報化」とは、多様
なエネルギーの流れや変化を可視化するとともに、エネルギーの蓄積や相互変換により、超
省エネ生活環境を目指すコンセプトです。一方、午後のセッションでは、関西電力の辻寛正
氏から、実際にインフラを整備している電力会社が、再生可能エネルギーにどのように取り
組んでいるのか、また電力系統に接続したときにどんな影響があるかをお話しいただきます。
Q:住宅は私たちの暮しに身近な
分野であり、また産業用と
違って着工件数が多いので、
関心のある方も多いと
思われますが、
いかがでしょうか?
A:そうですね。そこでハウスメーカー大手の積水化学工業と、住宅用電気設備大手のパナ
ソニックに講演を依頼しました。午前のセッションで登場する積水化学工業 塩将一氏から
は、再生可能エネルギー設備と省エネルギー設備を住宅内で共存させる導入事例をご紹介
いただきます。午後のセッションでは、パナソニックの栗林良造氏から、家庭用燃料電池「エ
ネファーム」の開発から商品化、そして今後の課題をご講演いただきます。2 つの講演を通
して、ホームアプライアンス市場の大きな流れが提示できればと願っています。
Q:半導体産業が提供する
デバイスとその製造技術は、
業界にとって直接重要な
トピックとなります。
どのような講演を
用意されましたか?
A:午前のセッションでは、シャープの佐賀達男氏、三洋電機の寺川朗氏から、結晶系と薄膜
系それぞれの太陽電池の特色と、それを活かしたグリッドパリティ達成への開発状況を報
告いただきます。一方、午後のセッションでは、アルバックの菊池正志氏から太陽電池の製
造技術について、また同社で進められている太陽電池とリチウム電池の積層化技術など、応
用製品開発についてもお話しいただきます。続いて、科学技術振興機構の松波弘之氏からは、
再生可能エネルギーを有効利用するために欠かせない、低損失SiCパワーデバイスの最新状
況をご講演いただきます。
Q:大変興味深い
セッションですが、
その他に関連したテーマの
セッションはありますか?
A:省エネルギーを飛躍的に前進させることが期待されているLEDについて、発光デバイス
のセッションで取り上げます。なにしろ、人類が消費するエネルギーの30%は人工照明に使
用されているそうです。エネルギー効率が白熱灯の 1 桁近く高い LED 照明の普及効果は計
り知れません。再生可能エネルギーの利用拡大との相乗効果で、人類全体の生活向上を、資
源を枯渇させることなく成し遂げることも夢ではなくなりました。
Q:最後に、
参加をご検討されている方へ
メッセージを
いただけますか?
A :SFJ は技術論を交わす場に留まらず、そこからビジネスの種を見つけていただくことを、
常に念頭においたプログラムづくりを心がけています。再生可能エネルギーは、現在まさに
大きく飛躍をするために、技術や政策、インフラの力を溜めている状態です。ぜひ多くの半
導体関連産業の方々にご参加いただき、新分野への自社技術の応用や、転進を通じたビジネ
スチャンスの発見に繋がることを願っています。
No.2, 2010 • SEMI News