乙第 \~ 号証 意見書 森野川 山河古 ③⑧⑤ 平成 2 3年 9月 3 0日 この意見書をまとめた 3名は 2009年 3月に退職するまで永年水産学の研究に従 事し、原告、鈴木摂氏とも長く関わりがあった者で、共に日本水産学会の会員です。 3名のうち、山森邦夫と古川清は、学部 ・大学院までは原告と同じ東京大学農学部 水産学科・魚類生理学研究室で、山森は原告の 3年先輩、古川は 2年後輩になりま す包山森は大学院卒業後約 3年間魚類生理学研究室に勤務した後、北里大学水産学 ∞ 部に奉職し、教授として 2 9年まで勤務しました。現在、北里大学名誉教授とな っています。専門は魚類生理学です。河野迫子は原告が 2000 年から勤務する東京 大学大学院農学生命科学研究科附属水産実験所の助教(旧名助手)として退職まで 勤務しました。専門は水産生物化学ですa 古川 は大学院卒業後魚類生理学研究室の 助教(同)として退職まで勤務しました。専門は魚類生理学 ・水産噌養殖学です。 それぞれの略歴は本書面末尾に記します。 科学の研究に従事する者として、我々は原告である鈴木誠氏の倣慢な言動に憤り を覚え、以下に原告の主張 ・行動の誤りについて述べるものです。 ~ 1 原告の行動の異常性 1- 1 誤りに満ちた投書を書いた人聞が裁判に訴えることは常識外の行動である 当裁判に関わる問題の発端は、日本水産学会誌の「会員の芦」欄における原告 ・ 鈴木氏の投書(甲 7、 23) と考えられますが、河野は原告の投書行動ならびにそ l れに対する日本水産学会の対応に問題があることに気付き、その問題点を指摘する 文章を同誌に投書(乙 10) しました。 この投書の投稿後 ( 2 0 1 0年 4月 1 0日)間 もなく鈴木氏が西村氏を名誉製損で訴えました ( 2 01 0年 4月 2 8日)。後述のよう に鈴木氏は、誤りの多い主張を学会誌に投書した(甲 7、2007年 9月)ばかりで なく、その投書をあたかも正当な論文であるかのごとく自分の HPや東京大学の研 究業績データベースに記載し、さらにはその内容をあちこちで吹聴(資料 l、 2、 3) しました。その行為の結果、被害を被ったのは被告である西村氏です。その西 村氏から上記投書中に誤りのある ことを指摘された鈴木氏は 、その誤りに関して先 の投書と同じ学会誌に『お詫びと訂正』を投書(甲 23、2010年 l月)して、西 村氏にお詫びしたはずなのに、鈴木氏が西村氏を名誉棄損で訴えたことには、 3名 共に第きを越え怒りすら感じています。学会誌に投書して論文を装うなどの禁じ手 を使って攻撃を仕掛けた人間が、さらに相手を裁判に訴えるような ことは、普通と は全く逆で常識では考えられないことです。補足として述べれば、鈴木氏は河野の 「会員の芦J欄への投書(乙 10) についても自分の名誉が駿損されたとして、河 野には何も伝えず、投稿者本人を無視する形で、 2 01 0年 6 月に日本水産学会に対 してその掲載責任を問い、自分の名誉回復を要求する申立を行いました。しかし当 然なことですが、原告のこの申立は同年 9月の日本水産学会理事会で却下されまし ), た ( 乙 11 1- 2 原告の言動は研究者としての倫理に反する 原告は、西村氏が東京大学の科学研究行動規範委員会に申立てた件に関する同委 員会の結論(甲 2 1 . 22) が出た後に、西村氏宛に 「脅し J にも似た手紙を送り 2 0 0 9年 1 0月 初 日 付 け ) (資料 4) 。この中で原告は、 つけました ( 『西村先生 は公開の席で議論すべきであるとおっしゃっていましたが、これについては明確に お断りいたします ~ w 批判しているのは私であって 、批判される側が批判する側 に批判する方法を指定する権利などないはずです 』とした上で、 2つの質問を書 2 き 、 『回答する意志をお待ちかどうか、意志がある場合にいつまでに回答するか、 直ちにご返答ください 』などと、表面的には敬語表現を装っているものの、全く 身勝手かつ倣慢な、命令にも等しい要求を西村氏に突き付けています。 このような 「あなたには何も言わせなし」私の言うことを聞け。 J という態度は、研究者とし ての謙虚さはひとかけらもないと言わざるを得ません。 さらに続けて、 『回答する意志がない場合、あるいは返答がない場合には、 f 水 俣病の科学」には復造があったとして東京大学科学研究行動規範委員会への申し立 てを行うことを申し述べます 』と述べる に歪つては、刃物をちらつかせながら要 求を言っているような態度であり、ほとんど「脅しJです。 このような研究者としての最低限の倫理感も持たない原告に対して西村氏が缶視 をしたのは当然のことです。原告は 2 0 ¥0年 2月 2 4日に この申立を実行に移しまし たが、西村氏が東京大学を退職後に行った研究について、東京大学が規範を云々す ることはあり得ないことであり、当然ながら申立は却下されました(資料 5)0 ~ 2 原告の日本水産学会誌「会員の声Jへの投書について 2-1原告投書は論文を偽装している 原告は、魚については自分の方が専門家であると主張していますが、一般に、 つの著書において著者が必ずしも専門ではない分野の事柄についても述べている こ とがあります。その分野の専門家から見たときに誤りと思われる事柄があった場合、 その事柄について専門家は著者に直接問い合わせる、意見を伝えるなどして、著者 の記述に誤りや思い違いがあるならば著者に訂正してもらうようにするのが良織を 持った研究者のやり方です。それにひきかえ、原告が行った ことは、当事者である 著者の知らない場所でその内容が誤りであると宣伝し、さらには著者との縫論をし ないまま、著者とは全く関係のない、自分が所属し無理が押せる学会の会誌の投書 欄(自由な意見が出せる「会員の芦 J という投書欄)に投稿し、掲載させるという 行為でした(甲7) 。 3 日本水産学会の 「 会員の声」欄は、 「 会員のさまざまな意見を学会に対する不平 不満を含めて掲載して行く J という趣旨の基に、 2 0 0 3年に創設された投書棚です。 この当時、学会内で 「 会員の芦Jを担当する企画広報委員会の委員長は原告が務め ていました(資料 6)。それ以来 2 0 0 9年度末までにこの欄に掲載された投書は原 ) を除くと僅か 3件しかありません(資料7) ロ この 3件は、 告の 2件(甲 7、 23 日本水産学会に対する提案や学会参加の感想であり、 1000~1500 字程度の長さと なっています。 これに比べて、原告の投書は、 3 0 0 0字近くと異様に長く、さらに、 他の投書では末尾に括弧に入れる形で投稿者の氏名が書かれているのに対し、原告 の投書では、〈タイトノレ〉の次にく投稿者氏名と所属>が続き、最後にく文献〉欄 をおき、いかにも一般の 「 論文」に見間違うような体裁を取っています。水産学会 の会員以外の人々は前述のような 「 会員の声J欄の性格を知るはずもなく、広〈宣 伝 ・吹聴する際には 「 論文J として示すことができるという校猪な意図が見え透い ています。 このように、原告の投書は内容自体が 「 会員の芦J欄の趣旨にそぐわな いばかりでなく、長さと体裁共に異様なものですが、これをそのまま掲載できたの は、水産学会内でのそれまでの立場を利用して、無理を押した結果と考えられます2 2 2 原告投書は虚偽の宣伝である 原告が 日本水産学会に投稿した投書(甲7)は 、普通の感覚で読めば判るように、 西村 ・岡本氏の著書 「 水俣病の科学 J に対する攻撃自体を目的としたものであり、 事実をありのままに述べ、そこから演揮される結論や推論を述べるという自然科学 における常識を逸脱した文章であり、およそ学術論文とは程遠いものです。 先ず、原告は この投書において、冒頭で 『そもそも魚はどのように水銀を蓄積す るのであろうか。 般に,メチノレ水銀は食物連鎖による生物濃縮により蓄積される, すなわち消化管経由と考えられてきた。 』 と述べて、著書 「 水銀 J を文献 1 )とし て引用しています。 これに続いて、 w( 前略)メチノレ水銀は銀を通じて海水から直 接取り込まれると主張したことが波紋を広げている。 この説は魚類生理学の立場か 4 ら見れば明らかに誤りである。』と述べ、最後に、全文の末尾を『以上、向番の誤 りは明確であり正さなければならない,魚への水銀蓄積は餌由来である。』 と結ん でいます。 これを読んだ人は「魚が蓄積するメチノレ水銀はそのすべてを餌から取り 入れるのであり、 「水俣病の科学J には嘘が書いてある 。」 と理解するのが普通で す。 ところが、引用した文献 1 )の著書「水銀J (講談社サイエンティフィ 夕、 章(藤井正美執筆)の r 5 . 3魚類と水銀」 1 97 6 年刊) では、第5 ( 204頁)にお いて 、 「 一般自然界の水銀は食物連鎖が主体であると考えるのがまずは妥当であろう し かしながら、人為的な廃水や水銀剤投薬なと'の汚染水域については、魚のえら呼吸 が大きく関与していると見られる j (傍点は筆者)として、水俣湾 のような通常 より高濃度に水銀で汚染された地域に関しては鯨からの吸収も大きいことが書かれ ています(資料 8)。原告は自分に都合の悪い部分は隠して、自分の主張を権威づ ける自約で著書を引用して いるのです。 さらに、原告が投書において引用した文献 3 )、 5 )お よび 6 ) (資料 9、 10、 11 12 ) を見ても、魚が環境水中のメチノレ水 銀を直接取 り込むことは実験結果として確かな事実です。即ち、原告が引用 したこ つの報告 (文献 5 ) 、6 ) ) においては、ブリに与えるメチノレ水銀含量の高い餌とし て 、 7 アジ幼魚あるし、はカ 9クチイワシを準備しています。 これらの鰐は、環境水 中に塩化メチノレ水銀を投入して、 マアジ幼魚あるいはカタクチイワシを飼育し、 ヲ r 」 れらの箆あるいは体表から水中の吸収できるかたちのメチル水銀を直接吸収 ・蓄積 した魚です。つまり、魚が環皮水中のメチノレ水銀を直接取り入れることはすでに知 られていた事実であり、 この事実を利用して餌からの移行について調べている実験 が記されているのです。原告は、 この文献の引用につ いても 、 自分の主張に都合の 良い部分のみ取り上げ、魚が水中から直接メチノレ水銀を吸収するという都合の悪い ニとは隠す行いをしています(文献 3 ) については 6頁で詳述) 。 『魚への水銀蓄 積は餌由来である。』 という 「 餌由来か録由来かどちらか片方しかなしリような断 定的記述は、上記の原告本人が引用した文献からも間違いである ことが分かり、 」 のような記述で最後を締めくくる文章は虚偽の宣伝にあたるものです。 5 2-3 r 水俣病の科学Jでは、メチノレ水銀の餌からの取り込みを否定していない 投書の終わり近くでは、原告は『問答の奇妙な点は、カタクチイワシについては 録由来であるとしつつ「このカタクチイワシを食べたタチウオが 1 ヶ月ほどで繁 死状態にまで汚染された」として、食物連鎖を認めているのである。タチウオ b鍔 呼吸をするのだが。』などと皮肉まじりに述べ、読者に rr 水俣病の科学Jには矛 盾することが書いてある Jと想像させる表現をしています。 ところが「水俣病の科 学」には、魚がメチノレ水銀を取り入れる経路には「餌」からと「環境水 Jからの両 方の経路がある ことを前提とした上で、不知火海のカタクチイヲ γ については環境 水からの取り入れが大半である二とが書かれているのであり、原告の記述は真実を 表現していません。 r 水俣病の科学」では、メチル水銀の取り込みについて、餌由 来の取り込みを否定しているのではなく、また、魚のメチノレ水銀がすべて鈍から取 り込まれると主張しているのでもありません。 rr 水俣病の科学Jでは、魚のメチ ル水銀はすべて銀から取り入れられるとしている Jかのように、原告が一方的に全 く誤った主張をしているのは、原告が 「 水俣病の科学 j のごく一部のみを読んだに 過ぎないか、あるいは故意に誤った ことを宣伝しようとしているかのどちらかとし か考えられません。 2-4 原告による藤木報告の数値引用ミスはデーク窪造と考えられる 被告である西村氏の陳述書にも述べられていますが、原告は、鈍からの吸収効率 を ~ 0.008%程度』とする計算の根拠として藤木らの報告(文献 3) )から引用し た数値を 1 0 0分の lの値にするという重大な鋲切を犯しました。原告はこれを 『記憶違 b 、~ (行動規範予備調査委員会報告書(写し)乙7)や『読み違ぇ』 (~お詫びと訂正』 甲 2 3) あるいは 『数値の取り違 b 、~ ミス~ (原告訴状)、や『転記 (原告準備書面(2) )などときわめて暖味な主張を繰り返しています。そ の唆味さが物語るように、すべて言し、逃れにしか過ぎず、全く信用できません。銀 6 からの吸収に関する「水俣病の科学J の主張に関して、 ~ 1 25 倍の過大評価』 より はW12 . 500倍の過大評価』としてみせる ことによって自分の主張をできる限り際 だたせ、 「水俣病の科学J を否定する意図が読者に納得されやすいように作為的に 行われたものとしか考えられません。 仮に、原告が主張するように、数値の誤りは単純なミスだとしましょう 。他者の 主張を否定するような、普通なら細大漏らさず注意を払うべき状況において単純な ミスをしたと主張するならば、自分の実験結果を発表する論文ではそのようなミス はしていないと主張する ことはできません。すなわち、今回の誤りを単純なミスと 主張することは、自らのこれまでの業績すべてがその程度のいい加減な報告である と判断されても仕方のないことです。これはとりもなおさず、原告が主張する社会 的名誉を自らが否定している ことになります。 2-5 W お詫びと訂正』は「お詫びJ ではない このような重大なミスについて、原告は、西村氏の指摘で『初めて気がついた』 ( 原告訴状 7頁)として、東京大学科学研究行動規範委員会の出した結論、 略)訂正文の掲載については、数値の訂Eだけでなく r( 前 rr 水俣病の科学Jの誤り J というサブタイトノレ及び「藤木らの報告J の引用手法が不適切であったことについ ての説明を含めるニと、 (後略) J ( 甲 21、 22)に応じる形で、 『お綻びと訂 正j ( 甲 23 ) を日本水産学会誌の同じ投書欄に投稿しました。 ここでは、 数値の ミスは認めたものの、 『論 旨には影響しません』 と述べ、 「 数値のミスなどはたい した問題ではなし、J と言わんばかりに開き直っていますa しかし、原告の誤りは数 値だけではありません。原告が許算の根拠とした藤木らの実験(文献 3 ) )では、 環境水中には試薬として硫鮫メチル水銀を投入していますが、これは水中では負の 硫酸イオンと正のメチル水銀イヌ「ンに電離します。環境水中に負の塩素イオンがあ ると、正のメチノレ水銀イオンは負の塩素イオンと結合して 「 底化メチノレ水銀 J 分子 を作ります。魚類が鯨から取り込むのはイオン態のメチノレ水銀ではなく、分子態の 7 窓化メチノレ水銀分子に限ります。投入された硫酸メチル水銀のうち、塩化メチル水 銀分子になるのは数%で、あとはメチノレ水銀イオンにとどまることがわかっていま す。 しかも、メチノレ水銀イオンはタンパク質分子のシステイン結合と強い親和性が あるため、環境水中に生物由来の試料があると、たちまちそれに吸着さ礼て消失す ることは実験をする研究者の問では良く知られていることです。結局、投入された 硫酸メチル水銀のうち、銀呼吸に関与する塩化メチノレ水銀分子は数%に過ぎない こ とはメチノレ水銀を使った実験と測定の経験をもっ研究者なら誰もがつかんでいる事 実のはずです。もし、この割合が 1......2% であったとすれば、原告の言う ~ 病の科学j は125 倍の過大評価』 という主張は、その 1 0 0分の l に減って、 r 水俣 「 水俣病 の科学Jの推定とほぼ一致することとな明、原告の理論は完全に崩れてしまうので す。溶けた状態のメチノレ水銀が次第に減少する ことは、 『水俣病の科学』を詳しく 読めば判 ったはずですし、原告が自分で引用した文献 5 ) を読んでも判ったはずの こ とです。 ~n ち、文献 5) にお い てその筆者は、飼育水槽中に塩化メチノレ水銀を投 入して飼育した 7 7ジが、飼育期間が後になるほと' 魚体に蓄積される水銀量が減る 傾向について、 rR . A .Caarらは海水を酸化せずに保存すると、徐々に溶存態の水 銀が減少し、懸濁物粒平に吸着した水銀が増加していく ことを明らかにしているが、 本実験において も、そのよ うな現象が進行し、かっ飼育水の富栄養化に伴い懸濁物 量が増加 したため Jと考察しているのです。それにもかかわらず、原告はメチル水 銀に対する知識の無さをそのままに、水中に投入したメチル水銀のすべてが魚の吸 収しうる形で存在しているという間違った思い込みのままの計算を示し、 『お詫び と訂正』でも修正することはしませんでした。 原告は、最初の投書で 『なお、藤木は、餌による投与では蓄積が起 こらなかった としているが、摂餌量、残飯など、基本的なデータが欠如しているので、それ以上 の検証はできなかった。 』 としています。確かに、藤木らの報告にはメチノレ水銀を 多く含んだ餌とそのメチノレ水銀濃度(クノレマエピ稚魚、塩化メチノレ水銀を含む海水 中で飼育して o . 133ppmのメチル水銀を蓄積したもの)およびマダイに与えた量(マ 8 ダイ体重の 7胃程度)は記されていますが 、食べ残し(残餌)の有無や量については 記されてはいません(但し、餌をほとんど全部食べた場合、通常は給餌盆のみを書 くことが多く、この場合も与えた餌をほとんど食べたと理解するのが普通です)。 一般に、魚に関する実験を専門とする者にとって「餌として与えた場合、実際に摂 取したのはどれだけかJは注意すべき ことです。一方 、魚の生きている環境(卸ち、 水)から物質を吸収させる実験をする際は、 「水中に入れた物質のうちどの程度が 魚の吸収しうる形で存在しているか(即ち、溶けているか) J ということが、給鰐 における残餌に劣らず大切であり、留意すべき ことなのです。原告は、藤木らの報 告において、給餌の実験については『基本的なデータが欠如している』として排除 し、環境水からの吸収実験だけを取り上げて、実験結果から導かれる結論と全く逆 の ことを言うのに利用したのです。藤木らの報告の給餌実験について『基本的なデ ー タが欠如している』と言うのなら、水からの吸収実験についても、 「水中のメチ ノレ水銀の濃度が不明であり、基本的なデータが欠如している」と言うべきであり、 とするならば、そのデー タは自らの主張を根拠づける計算には使えなかったはずで す。そうせずに藤木らの報告の中から 、水からの吸収のみを使ったのは、原告白身 の実験経験が未熟なため、 「水中に入れた物質のうちどの程度が魚の吸収しうる形 で存在しているか j にまで考えが全く及ばなかったか、あるいは、 「水俣病の科 学 Jに対する攻撃自体を目的としているために、利用できそうな部分だけを分別無 く利用したとしか考えられません。後日投稿した『お詫びと訂正』の投書において も 、 『また.藤木らは この報告で魚体へのメチノレ水銀蓄積は鯉経由と結論付けてい ますが、それを引用していない点に批判を受けました。餌と共に投与した実験が 、 摂餌量などのデー タが記されていないために検証できず、結論を引用する必要は艶 いと考えたのですが、不適切でした。』と最初の投書と全く閉じ論拠を並へていま す 。 ここ に至っても原告は、水中に投じたメチル水銀がどれだけ溶けていたのかに は思い至らず、餌からの吸収を調べる実験のみの不備をあげつらい、 この実験とは 別の、水からの吸収実験の結果を無視した ことの口実にしているのです。 w 不適切 9 でした』は文字通り言葉だけであり、 「適切 J な改善は全くなされていません。 また、東京大学の結論(甲 21、 22)でも批判されている「サブタイトノレが不 適切であったことについての説明を含めること」に関して、原告は、 が断定的すぎるとしづ批判も受けました』として、 合の良い解釈のみを記し、 りワ~ ~ 『さらに副題 「不適切Jについての自分に都 r 水俣病の科学 J の誤り』を Wr 水俣病の科学 j は誤 (傍点は筆者付記)へと『訂正』しました。原告の記述は「不適切であった ことについての説明」とは言えないばかりでなく、 「断定的すぎるならば『ワ』を 付ければ問題なし、」と見せかけているだけで、適切な表現に修正されたものとは到 底言えません。 Wr 水俣病の科学』の誤り』は 理解することもできますが、 ~ rr 水俣病の科学Jの中の誤り Jと r 水俣病の科学」は誤りり』は「水俣病の科学Jは 全体が誤りつ 」と解されるのが普通です。その意味で、 この『訂正』は、末尾に付 けた疑問符でごまかしてはいますが、より全体を否定する表現への改変であり、攻 撃性をあらわにした変更です。この『訂正』は明らかに『お詫びと訂正』を利用し た攻撃性の激化です。 結局、原告の『お詫びと訂正~ ( 甲 23 ) の内容は、数値の間違いを渋々認めた だけのものであって、言葉の上では『お詫び』としていますが『お詫び』とは程遠 いものです。著者らに直接詫びることはせず、この記事を送ることすらしていない のも表面的で形式的な『お詫び』でめることを物語っています。 i ¥3 原告が行った宣伝行動 原告は、自らが勤務する東京大学附属水産実験所の公式 H Pに日本水産学会誌へ の投書記事(甲 7, 23 )を 「 研究業績 J欄に記載したばかりでなく、甲 7の投書 については、東京大学農学部の「研究業績データベース」に「総説 J として登録し ました。しかし、研究者の書いたものは何でもかんでも研究業績になるのではあり ません。そこには婚しい基準があります。ふつう研究論文は専門学術誌に投稿後、 複数の専門家によって審査され、審査に合格した論文だけが専門学術誌に印刷 ・掲 1 0 載されます。これを査読付きの論文といい、査読付きの研究論文だけを研究業績と 認めるのが一般的です。 専門学術誌は審査制度により、掲載論文の誤りを防ぎ、質 を高め、信頼を得ているのです。好き勝手なことが書けて他者のチェックの入らな い「投書」は「業綾」などと言えませんし、他者の著書を否定するような、言わば 悪口を書いた文章を f 総説Jなどと言えないことは、研究者であれば誌もが承知し ていることです。前述のように原告の投書(甲 7、 23) に怒りが満ち溢れている ことの一因は審査を受けていない ことでしょう 。 2011 年 3 月に東京大学の農学部 長に、 「このような文章を研究業績データベースに登録するのはおかしいのではな いかJ と問い合わせたところ、同データベースに「解説 J という分類項目が新設さ れ、原告は 2011 年 7月になってからこの投書を f 総説 Jから「解説 Jへと笠録し 直ました ( 資料 13) 。原告本人が 「 総説Jにはあたらないことを認めた ことになり ますが、登録自体を取 明治すことはしませんでした。原告の投書のような「悪口を 書いた文章Jは 「 解説」にもあたらないはずですが 、東京大学農学部では、なにを 研究業績デー タベースに登録するかについて、研究者個人の自由に任せているのが 実情です。 そのような運営方法を原告が悪用して研究業績デー タベー スに釜録し、 広く吹聴する ことを今でも行っているのであり、西村氏の名誉を駿損する行為をし 続けているのが現状です。 ~ 4_ 原告 「 訴状 Jについて 4-1 著書「水俣病の科学Jに対する批難は不当である 訴状の 『諮求の原因J第 2本件の経緯 1- (2) (原告訴状 3頁) )では、 告らは同蓄において、魚のメチノレ水銀の取り込みについて、 『被 E 耳由来の食物連鎖によ るものであるとの考え方を否定し、認を通して海水中から取り込まれるとの結論を 示した. . 8 という主張しています。本意見書 2- 3 (6頁)に詳しく述べたように、 『魚のメチノレ水銀の取り込みについて、餌由来の食物連鎖によるものであるとの考 え方を否定し』た事実はなく、 「請求の原因 J 自体が誤りなのです。 1 1 4-2 原告の行動は倣慢である。 原告は、西村氏が『議論に応じようとしない j (原告準備蓄面(1) 、 3頁 と主張していますが 、 りいたします~ ) 『これ(筆者註 公開の場での議論)については明確にお断 ( 2頁に前出) 、 『その疑問に明確な回答を示してもらえ ないと 、 殺給には応じられない~ (原告訴状 4頁 請求の原因第 2 2ー (4))などと、 身勝手な要求を繰り返しており、議論をしようとしていないのは原告です。最初に 水俣病フォ ーラムに対 して送ったとされるメーノレについても、 にまで伝わる こ とを想定していなかった~ ( 原告訴状 4頁 『その内容が被告ら 同 2- (4) )などと 「当事者の知らないと ころで批難をするのは こちらの勝手だJ と言わんばかりに、 言r~ 、訳にもならない こ とを主張しています。 2005 年 11 月 17 日に西村氏宛に出し たとするメ ーノレについて、原告訴状 同 2ー (4)では、 『しかし、それから l年 以上、原告から何ら返事はなかった』と述べていますが、西村氏から議論の申 L 出を手紙として受け取った後にただ一度メ ールで返事を出しただけで、 『それから l 年以上、何ら返事はなかった 』 ことを自分の行動の理由とする ことは許されな いこと です。 r メー ノレが相手に届いていなし、 J という ことはしばしばあり得る こと ですし、そもそも手紙に対してメ ーノレで返事を済ませる こと は無礼なやり方でもあ ります。手紙や電話など他の手段も使って連絡を取る必要があり、それをしないで 『何ら返事がなかった』とは言つてはならない ことです。 告から何ら回答がないことから、自説を発表~ 『被告に質問したが回答がないので、 考えた~ (原告訴状 5頁 w 原告の質問に対して被 (原告訴状 4頁 同 3- ( 1)) 、 (中略)原告の意見を公表する義務があると 問 3ー (2) )と 2007 年の行動を正当化する ことは、 倣慢そのものであり、看過できることではありません。 2 0 0 7年 8月に送ったとするメ ノレでは、 W @ )(中略)同誌の次号で反論ないし 納得したことを投稿する、⑤必要なら、原告が責任をもっ て被告の同誌への投稿の 仲介をする~ (原告訴状 5頁 同 3 - (2) )とも述べていますが、日本水産学会 1 2 の投稿規定では、 「 投稿は会員に限る J となっています。 自分の投書 と同じように 無理を押せば良いと考えたかも知れませんが、それとても 「自分にとって都合の良 い土俵に持ち込みた しリという思惑が見えます。本来、規則上無理な話であり、 『投稿の仲介』など出来るはずもなく、免罪符を得ょうとする言い逃れにすぎませ ん。 4- 3 原告の投書内容は 『研究成果』などと は到底言えない 原告は自分の投書について 、 訴状で 『原告の研究成果に基づく本件投稿 ~ (原告 5頁 詩求の原因第 5 4ー (1) )と述べていますが 、自然科学における 訴状 1 「 研究」 というのは当該テ ーマに関して独自に取 り組み、 「自らが行った実験に基 他者の行った実験であるならば、幅広く報告 ・書籍 づいた結論を得る J あるいは 「 を検討し、その問題に対する僻敵的視野 見解を独自に得る J行為を指します。 出 版物として公刊された場合、一般に 、前者は 「 論文J後者は 「 総説 J と分類される ものになります。 訴状の 同 lー (2) (原告訴状 1 4頁)に 『研究者の研究結果に対する他の 研究者による評価の表現方法として適切であるとは到底いえず』 とありますが、以 上の 「 研究Jに関する 般的概念に照らしても、原告の投書内容が 『研究結果』な どと言えない ことは明白です。西村氏の申立に対して東京大学の科学研究行動規範 委員会が出した結果では、訂正文の掲載とならんで、 「 または、ピュアレビュ ーの かかる形の投稿論文として出す ことを検討するように促したし リ としています。 こ こでは「または J としていますが、 これも原告に甘い結論であり、本来なら、訂正 文の掲載は当然の こととして 、自らのしっかりした研究を基とした 『自説』がある のなら、投書などではなくヒ。 ユアレビュ ー (査読(前述) )のかかる 「 論文J ある いは 「 総説Jを投稿すべきです。 それをしなかった、あるいはできなかった ことも、 自らの研究を基礎とした成果がないことの証左と言えます。 原告が 『研究成果』 と主張する内容は、 『銀は水中のわずかな酸素を効率よく取 1 3 り込み二酸化炭素排出する器官である~ (原告の投書原文のまま)としづ教科書的 書物に書かれているような概論的内容から類推した「酸素と同じように高い効率で 鯨から取り込まれるものは他にないだろう」という「推測 Jでしかありません。こ のような既成の知織にのみとらわれた、言わば「固定観念」からは、新しい事実の 発見は生まれません。 メチノレ水銀について全く実験を行ったことがなく 、メチノレ水 銀そのものについて詳しくもない原告がこのような固定観念的な「推測Jを 『研究 成果』と主張することは、科学の発展にとって妨害になることはあっても寄与する ことは全くないと思います。 ~ 5 結び 以上述ペたように、原告は、魚類生理学の専門家であるという名の下に、自分が 詳しくもない事柄にも通じているかのように装って誤りに満ちた言動を行い、自分 の行為が、その地位や社会的尊敬に値しないことを搬に上げて、西村氏が東京大学 に申立てた書面の言葉尻のみを捉えて自分の「名誉」が傷つけられたと主張してい るのです。原告の倣慢な態度と誤りの多い言動を考えたとき、原告は、西村氏が東 大の判断に対して「それで良いのか J を問うた申立書に舎かれている批難の言葉は 甘んじて受けるべきであると考えます。従って、原告の提訴は全く意味のないもの であり、即座に訴状を取り下げるべきものと我々は考えます。 さらに、 「研究成果J などとは言えない投書を「論文 j のように装い、それを宣 伝する ことによって「出版停.Jl:Jや「出版文化賞の取り消し J要求の基を作ったの は原告であり、名誉を毅損された被害者は西村氏です。原告 ・鈴木氏こそ西村氏に 謝罪すべきであると我々は考えます。 14 筆者略歴 山森邦夫 1972年東京大学大学院農学系研究科 修了、農学博士、 1972年 1 2月より東京大 976年より北里大学水産学部魚類生 学農学部水産学科魚類生理学研究室助手、 1 993年同教授、 2009年退職、北里大学名誉教授 理学研究室助教授、 1 河野迫子 1968年東北大学農学部食糧化学科卒業、 1968年 より信州大学医学部教務職員、 1969年より東京大学農学部水産学科教務職員、 1985年より東京大学農学部附属 988年農掌博士を取得(東京大学) 、 1 990年東京大学農 水産実験所教務職員、 1 992年東京大学農学部附属水産実験所助手、 2007年より同 学部獣医学科助手、 1 助教、 2009年退職 古川滑 1979年東京大学大学院農学系研究科修了、農学博士、 1980年より東京大学農学 996年より東京大学大学院農学生命科学研 部水産学科魚類生理学研究室助手 、 1 007年 より同助教、 2009年退職 究科魚類生理学研究室助手、 2 1 5 資料 l 鈴木譲講演(環境行政改革フォ ーラム、 2 0 0 7 . 8 . 2 8、武蔵野工業大学) 2 鈴木譲講演(浜名湖をめぐる研究者の会、 2 0 0 7 . 1 2. 8、東京大学水産実験所) 3 中西準干のホ ームページ、雑感、 4 19-2008. 2. 1 9 4 鈴木穣より西村慈宛の手紙 ( 2 0 0 9 . 1 0 .30) 5. 松本洋一郎東大研究行動規範委員長よワ西村肇宛の手紙(平成 23年 2月 3 日)鈴木競の申立却下について 6 _ 日水産学会企画広報委員会からのお知らせ 7 . B本水産学会誌 「 会員の戸 J (過去の 3件) 8 鈴木譲「会員の声 Jの引用文献 1 ) 、 「水銀J講談社、 目次、 5 . 3 .10魚への 195-207 水銀の蓄積 p 9 鈴木譲 「 会員の声」の引用文献 3 ) 、藤木紫士ら、メチノレ水銀の魚体への蓄積 機構に関する研究(原本) 10 鈴木譲「会員の声Jの引用文献 3 )、藤木繁士ら、メチノレ水銀の魚体への蓄積 機構に関する研究(読みやすく書き直したもの) 11 鈴木譲「会員の声 J の引用文献 5)、日本水産学会誌 4 0 ( 11 )1 173・1178 ( 1 9 7 4 )、鈴木輝明、畑中正吉、水銀の生物的濃縮に関する実験的研究ー 1 会員の声 j の引用文献 6)、日本水産学会誌 41 ( 2 ) 2 2 5・231( 19 7 5 )、 12 鈴木議 「 鈴木輝明、畑中 E吉、水銀の生物的濃縮に関する実験的研究 -[! 13 鈴木譲、研究業減デーダ ベース、 2011 .7 . 1 2更新、総鋭か ら解説に再登録 1 6
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