製造業 景気予測お天気マーク 0-2 肉用牛生産業 シ グ ナ ル このシグナルは、現状から今後 6ヵ月間の見通しを短評。 0122 リーマンショックによる景気後退や東日本大震災後の消費減退による枝肉価格の低迷を経験したが、その後の景気回復と供給不足を 背景に、平成 25 年以降は枝肉価格の高騰が続いている。肥育経営の生産意欲が高まる一方で、繁殖農家の高齢化やリタイヤの増加 によって育成牛の供給が減少し、需給がひっ迫していることから、育成牛の市場価格が高騰している。そのため、繁殖経営はこれま でにない好況になっているが、肥育経営にとっては素畜費の上昇に繋がり、所得の減少に直面している。大規模な肥育経営においては、 繁殖部門を開始して育成牛の自前による調達を図るなど、リスク回避への動きが活発になっている。(平成 28 年 7 月改訂/一般社団 法人農業経営支援センター 嶋 浩二 http://nougyou-shien.jp/) 業界動向 飼養頭数(肉用種) 飼養頭数 肥育牛 育成牛 子取り用めす牛 (乳用種他) 平成 25 年 61,300 戸 2,642,000 頭 789,800 頭 360,700 頭 618,400 頭 873,400 頭 平成 26 年 57,500 戸 2,567,000 頭 772,000 頭 348,600 頭 595,200 頭 851,400 頭 平成 27 年 54,400 戸 2,489,000 頭 740,700 頭 340,700 頭 579,500 頭 827,700 頭 飼養戸数 飼養頭数 資料:農林水産省『畜産統計調査 ‐ 肉用牛「飼養戸数・頭数」 』平成 27 年 6 月 30 日公表 1.肉用牛生産業は、産まれた子牛を 30 カ月程度飼育したの ち、枝肉として食肉卸売市場などに出荷する。肉用牛の種 類には、黒毛和種に代表される肉用種と酪農用ホルスタイ ンの去勢子牛と乳生産を行わない雌牛の乳用種、黒毛和種 の雄牛とホルスタイン種の雌牛を掛け合わせた交雑種があ る。 2.農家の高齢化と後継者不足を背景に、小規模農家を中心に 肉用牛生産農家の減少が続いている。平成 17 年の飼養戸 数は 9 万戸程度であったが、平成 27 年にはおよそ 4 割 減少した。飼養頭数は、平成 21 年までは緩やかな増加傾 向であったが、平成 21 年以降は減少傾向に転じている。 一方、1 戸あたりの飼養頭数は増加傾向が続いている。 3.牛肉の国内生産は、36 万トン程度を維持してきたが、平 成 27 年は前年比 5%程度減少した。また、輸入量は毎年 50 万トン前後で推移している。東日本大震災の影響によ る消費減退で、平成 23 年の牛枝肉の卸売価格は 1kg 当 たり 800 円を割り込むところまで下落した。その後、枝 肉価格は徐々に回復し、平成 25 年以降は国内生産量の減 少 傾 向 を 背 景 に 卸 売 価 格 が 高 騰、 平 成 27 年 に は 枝 肉 1kg 当たりの平均価格が 1,600 円を超えるようになった。 4.枝肉価格の高騰により肥育経営の生産意欲が高まる一方 で、繁殖牛の飼育戸数と飼養頭数が減少する構造的な要因 を背景に、育成牛に対する受給がひっ迫し、家畜市場にお ける育成牛のせり価格が高騰している。家畜市場における 子牛取引の全国平均価格は平成 25 年度の 503 千円に対 し、平成 27 年度は 688 千円となり 37%上昇した。 業態研究 ■ 生産形態 肉用種の生産者は、子牛を繁殖し育成牛を出荷する「繁殖経 営」と、育成牛を導入して肥育し、枝肉を出荷する「肥育経営」 に分かれている。繁殖と肥育を一貫して行う「一貫経営」も行 われており、近年の育成牛価格の高騰を受け、大規模肥育経営 が繁殖部門を開始する例が増えている。 繁殖経営は、牛舎で繁殖牛(子取り用めす牛)を飼養し、自 治体や民間で育成され登録された種雄牛の精液を人工授精して 2 子牛の繁殖を行う。9 カ月程度育成した子牛は、各地にある家 畜市場でせりにかけ販売する。繁殖牛の飼養と子牛の育成には 粗飼料(牧草)が必要なため、繁殖農家は粗飼料生産用の畑や 水田を確保して牧草を生産している。温暖な南九州地方では 1 年を通じて牧草の生産が可能となるため、鹿児島県や宮崎県で は繁殖経営が多い。国による「水田活用の直接支払交付金」に おいて稲 WCS(ホールクロップサイレージ)に対する交付金 単価は 80,000 円 /10a で他品目よりも高い設定になってい るため、繁殖農家と水田農家の連携による稲 WCS の生産も増 加している。 肥育経営は、家畜市場から育成牛を購入し、およそ 20 カ月 間肥育し、枝肉として各地の食肉処理場に出荷する。肥育牛の 飼料は、タンパク質やデンプン質を多く含む穀類やぬか類、大 豆などを混合した濃厚飼料が主体となる。枝肉の価格は、定め られた格付けによる評価を基準に決められる。格付けは、歩留 等級と肉質等級の 2 つの等級を使う。歩留等級は、ロース芯 面積やばらの厚さなどで A∼C の 3 段階で評価される。肉質 等級は脂肪交雑や肉の色沢などで 1∼5 の 5 段階で評価され る。2 つの等級が最高の A5 が最高ランクで C1 まで 15 段 階に評価される。格付けは良いことにこしたことはないが、格 付けにこだわることが価格の高い育成牛の導入や飼育期間の延 長につながると高コストになり、経営のリスクが高まる。肥育 経営では、各自の経営方針に沿って適切なコストで生産し、狙 った格付けの枝肉が安定生産できることが重要である。 流通・資金経路図 ①繁殖経営 種付け→妊娠(約 10 カ月)→分娩→育成(約 9 カ月)→ 家畜市場に出荷 に肉用牛経営の個人農家にとって、6 次産業化はハードル の高い取組みである。 ・6 次産業化に取り組むためには、資金面や労力面で余力が あることが前提である。 ②肥育経営 ・肉の品質や生産技術などのこだわりを強みとして活かすこ 家畜市場で買付→肥育(約 20 カ月)→家畜処理場に出荷 ③一貫経営 種付け→妊娠(約 10 カ月)→分娩→育成(約 9 カ月)→ 肥育(約 20 カ月)→家畜処理場に出荷 とが重要である。 ・6 次産業化プランナーなどの専門家から助言を受け、無理 のない事業計画を作ることが重要である。 ②法人経営(融資額 10∼50 百万円)の場合 ・大規模肥育経営では、自社の牛肉を使用した焼き肉店など を開設して成功している事例がある。 ・6 次産業化を進めるには、加工や販売に関するノウハウや 人材の確保が必要である。 ・肉の品質や生産技術などのこだわりを強みとして活かし、 本業との相乗効果を狙いたい。 ・6 次産業化プランナーなどの専門家から助言を受け、適切 な事業計画を立てることが重要である。 営業推進のポイント ■ 売上の見方 1.帝国データバンク『第 58 版全国企業財務諸表分析統計』 平成 26 年度・平成 27 年 11 月発行(畜産農業)によ れば、売上に関する主な指標は次のとおりである。 1 人当たり売上高 66,541 千円 売上高増加率 12.85% 2.農林水産省『農業経営統計調査 平成 26 年個別経営の営 農累計別経営統計(経営収支)』平成 27 年 12 月 1 日公 表によれば、肉用牛経営の農業粗収益(売上)に関する主 な指標は次のとおりである。 1 経営体あたり農業粗収益(売上高) 繁殖経営 9,292 千円(対前年増減率 10.3%) 肥育経営 62,273 千円(対前年増減率 4.5%) 3.(独法)農畜産業振興機構『平成 27 年度大規模肉用牛経 営動向に関する調査』平成 28 年 2 月発行によれば、肥 育経営の売上高に関する指標は次のとおりである。 肥育牛飼養頭数規模別の1経営体当たり売上高 200 頭未満規模 57 百万円 200 頭以上規模 564 百万円 ■ 採算の見方 1.前掲『第 58 版全国企業財務諸表分析統計』によれば、採 算に関する主な指標は次のとおりである。 総資本経常利益率 3.74% 売上高総利益率 21.72% 売上高営業利益率 0.48% 売上高損益分岐点倍率 1.12 倍 2.前掲の『農業経営統計調査 平成 26 年個別経営の営農累 計別経営統計(経営収支)』によれば、採算に関する主な 指標は次のとおりである。 1 経営体当たりの農業所得 繁殖経営 2,662 千円(対前年増減率 24.0%) 肥育経営 6,172 千円(対前年増減率▲ 39.9%) 3.日本政策金融公庫『∼「平成 26 年度農業経営農業分析結 果」について∼』平成 27 年 11 月プレスリリースによれ ば、肉用牛肥育経営部門の採算に関する指標は次のとおり である。 個人経営の農業所得(専従給与控除前) 8.7 百万円 (対前年増減率 ▲ 32.2%) 法人経営の経常利益 13.1 百万円(対前年増減率▲ 59.9%) ■ 6 次産業化のポイント ①個人農家(融資額 5∼30 百万円)の場合 ・6 次産業化を進めるには、加工や販売に関するノウハウや 人材の確保に加え、新たな投資が必要であるため、一般的 ■ 規模拡大のポイント ①個人農家(融資額 5∼30 百万円)の場合 ・牛舎や機械等の導入には、補助事業を活用しているか。 ・規模拡大に伴い飼料等の購入額が増加するので、必要な運 転資金を手当てしているか。 ・繁殖経営では、粗飼料生産に必要な田畑の確保ができる見 通しがあるか。 ・繁殖経営では、ローテーション表の作成など綿密な経営計 画を立てているか ②法人経営(融資額 10∼50 百万円)の場合 ・牛舎や農業機械、繁殖用めす牛の導入には、補助事業や制 度資金を活用しているか。 ・規模拡大に見合った労働力の確保や人材育成ができる体制 はあるか。 ・規模拡大による増収効果が現れるまでに必要な長期運転資 金の手当てをしているか。 ・繁殖経営では発情や分娩の兆候を見逃さないよう、ICT 等 を活用した飼養管理の工夫があるか。 ■ 取引深耕のためのチェックポイント ①個人農家(融資額 5∼30 百万円)の場合 ・個人農家では複式簿記の記帳をしているか。農業所得から 棚卸高や育成費、減価償却費を調整して、資金繰りの状況 を把握すること。 ・将来的に規模拡大を目指しているか。また、後継者がいる か。 ・地域の農業改良普及センターなどが技術診断指標を整理し ている。1日当たりの増体重などの重要指標を把握し、農 家の技術レベルを判断したい。 ・肥育経営では、枝肉に出荷先や飼料購入先が農協系統以外 の場合も多い。販売先や飼料調達先、運転資金の調達先な どの情報は知っておきたい。 ②法人経営(融資額 10∼50 百万円)の場合 ・財務諸表では、棚卸高や育成費を踏まえ、キャッシュフロ ーを把握し、収益性や安全性を判断する。 ・個人農家と同様に1日当たりの増体重などの重要指標を把 握し、技術レベルを判断する。 ・大規模経営では、農場を任せられる中堅の人材育成や若手 の確保ができているか。 ・大規模肥育経営を中心に、運転資金の貸し付けや動産担保 3 製 造 業 ■ 生産の流れ 製造業 融資を積極的に行っている。運転資金の調達先や動産担保 融資の状況などを把握すること。 農林水産省 畜産クラスター関連事業 地域に存在する畜産関係者が有機的に連携し、畜産クラス 融資判断のポイント ターの仕組みを利用して、地域ぐるみで収益性を向上させる 取組みに対する必要な措置への助成金。 ■ 審査のポイント ①資金使途、②返済財源、③どのように返済していくかを見 極めることが基本である。決算書から生産費、粗収益、所得、 自己資本比率、借入金残高、売上高負債比率などの指標を確認 し、経営の収益性や安全性を確かめるとともに、技術面や労働 力などの面で課題はないかを把握する。価格設定や事故率の設 定などで妥当性のある資金計画になっているかが審査のポイン トとなる。 【主な内容】 畜産収益力強化対策 畜産クラスターに位置づけられた中心的な経営体の収益 性向上や畜産環境問題への対応に必要な機械のリース整 備、施設整備、家畜の導入を支援。 補助率:2 分の 1 以内 事業実施主体:民間団体(クラスター計画の認定を受け た地域畜産クラスター協議会) ■ 運転資金 1.肉用牛経営では動産担保設定して運転資金を貸し付けるこ とになるので、棚卸資産や育成牛、繁殖牛の資産価値の見 極めが重要となる。 2.肥育経営では枝肉市場価格の下落や飼料価格の高騰によっ て資金繰りが悪化するが、普段から内部留保を高めるなど のリスク管理の状況を把握しておく必要がある。 主な経営指標 4 安定性・流動性 成長性・生産性 採算性 日本政策金融公庫 1.スーパーL 資金 農業経営に必要な投資に幅広く利用可能な資金。 貸付対象者…認定農業者 融資限度額…個人 3 億円(複数部門経営等は 6 億円) 法人 10 億円(常時従事者に応じ 20 億円) 融 資 率…100% 償還期限…25 年以内(うち据置期間 10 年以内) 借入金利…0.10%(平成 28 年 5 月 25 日現在) 2.農林漁業セーフティーネット資金 農林漁業者が災害を受けたときや社会的・経済的環境の 変化により資金繰りに支障をきたしているときに利用可能 な資金。 貸付対象者…認定農業者、認定新規就農者、集落営農組織、 主業農林漁業者 融資限度額…① 簿記記帳を行っている場合:年間経営費 の 12 分の 3 または粗収益の 12 分の 3 に 相当する額のいずれか低い額 ② ①以外の場合:600 万円 償還期限…10 年以内(うち据置期間 3 年以内) 借入金利…0.10%(平成 28 年 5 月 25 日現在) 効率性 ■ 制度融資ガイド・補助金 収益性 ■ 設備資金 1.経営改善に効果的であるか、過剰な投資になっていないか など、設備投資の内容を見極める必要がある。 2.設備投資を全額、融資のみで行うと返済負担が過大になる 可能性が高い。畜産クラスター関連事業など、設備投資に 対する補助事業が活用できるよう検討し、返済負担の軽減 を図りたい。 3.設備資金に対する融資は、日本政策金融公庫のスーパーL 資金などの制度資金を活用する。民間金融機関は、委託貸 機関として公庫と連携して融資を行う。 4.増頭を伴う投資では、経営改善の効果が得られるまでに 2 年以上の期間を要する。その間の運転資金の増大に対して は、長期運転資金の手当てを検討すべきである。 調査年 項目 総資本経常利益率 売上高総利益率(粗利益率) 売上高経常利益率 売上高営業利益率 売上高金利負担率 総資本回転率 売上債権回転期間 棚卸資産回転期間 買入債務回転期間 自己資本比率 流動比率 固定長期適合率 売上高増加率 経常利益増加率 1 人当たり売上高 売上高損益分岐点倍率 集計企業数 平成 24 年度 平成 25 年度 平成 26 年度 ▲ 0.03% 23.10% 0.28% ▲ 3.68% 1.00% 1.15 回 0.93 月 2.07 月 1.19 月 15.31% 233.07% 73.66% 3.64% 37.20% 62,984 千円 1.36% 22.15% 1.88% ▲ 3.74% 0.88% 1.20 回 0.95 月 2.07 月 1.22 月 12.51% 224.50% 74.56% 8.10% 18.26% 62,023 千円 3.74% 21.72% 3.47% 0.48% 0.78% 1.23 回 0.85 月 2.15 月 1.05 月 18.38% 223.71% 75.32% 12.85% 115.88% 66,541 千円 1.04 倍 1.10 倍 1.12 倍 151 社 147 社 167 社 資料:帝国データバンク『全国企業財務諸表分析統計(第 56∼58 版(平成 25∼27 年発行) ) 』 (畜産農業)
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