H18年度 - 農業農村工学会 農業農村情報研究部会

平成18年度
農業農村地域に係る情報管理支援システムのあり方に関する調査検討委託事業
報告書
平成19年3月
社団法人 農業土木学会
まえがき
本報告書は、農業農村整備情報総合センターから農業土木学会に委託された「平成18
年度農業農村地域に係る情報管理支援システムのあり方に関する調査検討委託事業」の成
果を取りまとめたものである。本業務を実施するにあたり、ご多忙の中、原稿執筆にご協
力頂きました執筆者の皆様に深く謝意を表します。
農業農村地域に係る情報管理支援システムのあり方に関する調査検討委員会
委員長 大政謙次
委託事業名
事業委託者
事業受託者
実施期間
平成18年度農業農村地域に係る情報管理支援システムのあり方に
関する調査検討委託事業
社団法人 農業農村整備情報総合センター理事長 長谷川高士
社団法人 農業土木学会会長
青山咸康
平成 18 年 8 月 28 日~平成 19 年 3 月 15 日
農業農村地域に係る情報管理支援システムのあり方に関する調査検討委員会
委員長 大政謙次
委 員 大西亮一
委 員 松尾芳雄
委 員 溝口 勝
東京大学大学院農学生命科学研究科教授
(財)日本水土総合研究所 専門研究員
愛媛大学農学部教授
東京大学大学院農学生命科学研究科助教授
報告書執筆者
大政謙次
大西亮一
松尾芳雄
溝口 勝
井上裕太
増田篤稔
谷
茂
鎌田知也
能島雅良
根本 茂
臼杵宣春
山本徳司
井爪 宏
赤星 誠
唐崎卓也
栗田英治
伊藤良栄
廣住豊一
東京大学大学院農学生命科学研究科教授
(財)日本水土総合研究所 主席専門員
愛媛大学農学部教授
東京大学大学院農学生命科学研究科助教授
メイワフォーシス株式会社
ヤンマー㈱ヤンマーマリンファーム
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
農林水産省
富士通(株)
水土里ネット千葉
全国土地改良事業団体連合会
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
水資源機構管理事業部
(株)NTT ドコモ
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
三重大学生物資源学部
三重大学生物資源学部
目次
1.はじめに ................................................................ 1
2.農業農村情報イノベーションに関する事項................................... 3
2-1 農業イノベーションのための農業農村情報研究 ............................. 4
2-2 IT を利用した中山間地域の防災技術....................................... 6
2-3 動画配信による都市と農村のコミュニケーション ........................... 8
2-4 住民参加で使える景観画像シミュレーションシステムの開発 ................ 17
2-5 フィールドサーバを用いたミカン園の遠隔モニタリング .................... 19
2-6 新型土壌水分センサーの現状と課題 ...................................... 21
3.農業農村情報システム・構想に関する事項 .................................
3-1 国営造成土地改良施設防災情報ネットワークシステム .....................
3-2 水土里ネットにおける IT 利用戦略 ......................................
3-3 土地・施設・担い手管理システム ........................................
3-4 水管理制御システム ...................................................
36
37
40
42
51
4.情報技術の適用事例に関する事項.......................................... 61
4-1 住民参加による農村景観づくりと景観シミュレータの活用 .................. 62
4-2 農村地域の保全・機能評価における地理情報の活用 ....................... 71
4-3 水資源機構における技術情報の活用方法-GIS 等の整備・運用- ............. 79
4-4 水産業における IT 化の事例 ............................................ 101
5.おわりに ............................................................. 111
1.はじめに
1
1.はじめに
人口減少・高齢化や環境保全重視へのシフトなどにより社会構造が変化しつつある時代
を迎え,農業農村地域の持続的な発展を図るためには,歴史的背景を含めた農業農村地域
に係る情報を有効に利活用することが不可欠である。最近,農業農村整備情報総合センタ
ーでは,長い歴史的蓄積のある農業土木の技術と役割を体系的に整理し、インターネット
上にウェブサイト(農業土木のポータルサイト『水土の礎』)を公開した。このサイトは,
次世代を担う人たちの歴史的教材として活用されることにより,農業土木技術を次世代に
継承するための強力なツールとなり得る。こうしたツールを利用して,土地改良史に記さ
れているような流域圏の開発史,学会誌・論文集・講演要旨集等の文献,農地・水・施設
に関する設計基準等,農業土木技術の文献情報の価値を十分に活用することが期待されて
いる。また,こうした紙媒体による文献情報に加えて,GIS を利用した各種システム等,
紙媒体から電子媒体への移行に伴う,農業農村地域における新たな農業農村整備情報デー
タベースの構築とその有効な利用及び情報管理支援のあり方も求められている。
本報告書は、農業農村地域に係る情報管理支援システムのあり方に関する調査検討委員
会が農業土木学会・農業農村情報研究部会の勉強会に参加したメンバーに呼びかけ、勉強
会で集積された知識を
(1)農業農村情報イノベーションに関する事項
(2)農業農村情報システムの構想に関する事項
(3)情報技術の適用事例に関する事項
に分類して整理したものである。
本報告書が、21 世紀の農業農村地域に係る情報管理支援システムのあり方に対する何ら
かの指針になることを期待したい。
2.農業農村情報イノベーションに関する事項
3
2-1 農業イノベーションのための農業農村情報研究
Agro-Rural Informatics Research for Innovation of Agriculture
〇溝口勝* 大政謙次*
MIZOGUCHI Masaru
OMASA kenji
1.はじめに
農業土木学会・農業農村情報研究部会は 2004 年 10 月に発足した。これまで9回の勉強会を開催し、
農業土木分野における農業農村情報研究の現状と問題点を議論してきた。昨年の大会では、研究部会と
して企画セッション「農業土木における農業農村情報」を開催し、勉強会で紹介された話題の中から、
現場ニーズ・先端技術・啓蒙普及に関連する研究や事例をとりあげ、農業農村情報研究の方向性と将来
的な可能性を議論した。今年の企画セッションでは、
「情報」をキーワードにした「農業イノベーション」
という視点から農業農村情報研究について考える。攻めの農業のための情報、担い手の育成・確保のた
めの情報、防災・減災などの危機管理のための情報、地域住民とって魅力あるくらしのための情報、既
存のインフラ保守管理のための情報等、有益な農業情報とは何か、またその利活用はどうあるべきか、
夢のある農業農村のための情報研究について議論したい。
本企画セッションにおける論点を以下に示す。
2.新しいアグリ情報システムの概念
大政謙次・溝口勝 (東京大学)
図1は、農業を含む第1次産業のイノベーションのための新しいアグリ情報システムの概念図である。
従来は個別に行われていた生産、流通、消費段階までを一体化し、環境保全や食の安全に考慮しつつ、
農山漁村の活性化、食料生産の効率化を図るイメージである。ここでは、バイオテクノロジー、リサイ
クル、IT、ロボット、リモートセンシングといった技術を集結し、消費者ニーズへの対応、流通の簡素
新アグリシステムの構築
GPS衛星
人工衛星
施設生産・ポストハーベスト
・バイオ技術
・飼料・餌料生産技術
・種苗生産技術
・栽培・飼育技術
・環境制御技術
・自動化・省力化・ロボット技術
・計測診断技術
・廃棄物のリサイクル技術
・バイオマスエネルギー技術
・加工・貯蔵技術
・安全安心技術
企業化
養殖漁場
と環境保全
地域生物生産・環境管理
・安全安心・環境保全型生物生産技術
・自動化・省力化・ロボット技術
・水資源・地域環境管理技術
・階層的リモートセンシング技術
・Rural-GIS・地域計画
・LCA
・バイオマスリファイナリ社会構築技術
・観光・レクリエーション
農林地管理や環境保全
精密農業
生物生産工場
農山漁村振興
流通・経営管理システム・IT化
・適正農業規範
ポストハーベスト
バイオマスエネルギー
・生産 /流通/消費/経営情報システム
・食の安全安心トレーサビリティシステム
消費者
輸出
加工場
産
学
官
農林水産業・農山漁村整備事業
やエネルギー開発との連携
アグリ産業の
イノベーション
ITインフラ整備
図1 新アグリ情報システムの概念図(大政:Eco-Engineering, 16(1), 9-13, 2004 より)
*
東京大学大学院農学生命科学研究科 Graduates School of Agricultural and Life Sciences, The Univ. of Tokyo
キーワード: 情報・防災・GIS
4
化、企業的な経営、ビジネスとしての効率化、工場化、環境保全と食の安全性の確保などをシステムと
して実現することを目指す。農業農村情報研究をこの概念図の中でどのように位置づけるべきか。官公
庁予算による農山漁村の整備事業や IT インフラ整備、また、民間も含めた特区事業などの動きとあわ
せて、産学官の連携によるモデル研究や事業の推進について議論したい。
3.水土里ネットにおける IT 利用戦略
臼杵宣春・溝口勝(全国土地改良事業団体連合会・東京大学)
土地改良区(水土里ネット)は膨大な水利施設を管理している。しかし、この管理を担い手の育成等
の農業政策と連携して適切に行うためには水土里ネットの水利施設情報、農地情報の処理や利活用をす
すめる必要がある。このため水土里ネットでは、GIS を利用した農地流動化支援水利システムを導入し
水利調整や土地利用調整を支援してきた。また GIS の利用を全国的に展開するため水土里情報センター
を設立し、これらの情報の利活用を図ることを計画している。この発表では、平成 19 年度の導入が策
定されている資源保全施策と関連した水土里ネットの情報利用戦略について議論したい。
4.IT を利用した中山間地域の防災技術
谷茂・井上敬資(農業工学研究所)
ため池の決壊等による災害を最小化するためにはリアルタイムに災害を予測することが必要である。
また、ハザードマップにより適切な避難を行う「ソフト対策」が減災に向けた重要な事項となる。本報
告ではリアルタイム気象情報に基づいて、豪雨、地震によるため池の広域被害予測法について述べると
ともに、ハザードマップの作成のための洪水解析技術等の防災技術について述べる。当日は、高齢化の
進む中山間地域における防災技術のあり方についての議論が期待できる。
5.住民参加で使える景観画像シミュレーションシステムの開発
山本徳司(農業工学研究所)
農業農村整備事業における景観配慮のため、住民参加で現場普及型の景観予測支援技術として、農村
景観シミュレータとこれに連動する簡易 GIS 型景観画像データベースの開発を行った。本システムは、
簡単なレイヤ構造により、
容易な操作で習得が速い処理機能を持ったインターフェイスを有する。
また、
全国の技術者がネット上で、地図データ上への位置データを含めた画像データを多様なカテゴリーに分
類し、登録し、ダウンロードする等の相互利用可能な景観画像データベースシステムから構成される。
当日は、都市と農村の共生を考えるツールとしての情報技術の可能性についての議論が期待できる。
6.フィールドサーバを用いたミカン園の遠隔モニタリング 伊藤良栄・廣住豊一(三重大学)
中央農業研究センターで開発されているモニタリングロボットであるフィールドサーバを用いて、イ
ンターネット経由で遠隔地にあるミカン園をモニタリングする実証実験を行った。屋外用広指向性アン
テナを用いたフィールドとデータ中継地点間の無線 LAN 通信の確立やローカルデータストレージサー
バの導入により、データ冗長性を保ちながら、気温、湿度、土壌水分といった数値データや樹体画像デ
ータを安定に取得できることを示した。農業生産や環境保全に役立つ新しい情報技術のあり方について
議論したい。
7.おわりに
農林水産省では、平成 19 年度から、農地・水・環境保全向上を図るための新たな対策を導入するこ
とを検討している。この対策では、
「農業者だけでなく、地域住民、自治会、関係団体などが幅広く参加
する活動組織を新たにつくってもらい、これまでの保全活動に加えて、施設を長持ちさせるようなきめ
細かな手入れや農村の自然や景観などを守る地域活動を促進する」ことが重視されている。多様な住民
で構成される活動組織をどのようにつくり運営するのか、その鍵となるのは住民にとって有用な情報の
収集・共有・発信となろう。その意味でも農業農村情報研究は、農業農村地域において合意形成を実現
する上でも今後重要になってくると思われる。当日は、こうした合意形成のための農業農村情報研究に
ついても議論したい。
5
2-2 ITを利用した中山間地域の防災技術
Disaster Prevention System in Rural Area by using IT Technology
○谷
茂*・井上
Shigeru Tani,
敬資*
Keisuke Inoue
1.まえがき
ため池の決壊等による災害を最小化するためにリアルタイムに災害を予測すること、ハ
ザードマップにより、適切な避難を行うという、
ソフト対策
が減災に向けた重要な事
項となる。本報告ではリアルタイム気象情報に基づいて、豪雨、地震によるため池の広域
被害予測、ハザードマップの作成のための洪水解析技術、および防災情報の伝達システム
について述べる。
い て は 被 災 率 が 数 10%を 超 え る こ と が 予 測
2.リアルタイム気象情報に基づく豪雨地
され
震によるため池の被害予測
1)
、シナリオ地震動が事前に評価され
リアルタイム気象情報を用いたリアルタ
ている場合には重点的な耐震補強が可能に
イム災害予測システムについて述べる。地
なる。2004 年 11 月からは 1km メッシュ単位
震によって被害が発生する限界震央距離と
での計測震度が提供されるようになったた
マグニチュードの関係を用いることで、被
め、詳細な被災率が予測可能になっている。
災する可能性のあるため池を抽出すること
豪雨については過去のため池に関する災害
が出来、地震後に速やかな点検が可能にな
データから時間最大雨量と継続雨量に基づ
る。また、過去の災害データから計測震度
いて「ため池リアルタイム防災システム」2)
が 5.7 程度(震度階 6 弱)以上の地域につ
によりため池危険度の評価が可能である。
インターネット
ロケーション
サーバ
空中写真
オルソフォト
標高情報
農業防災
気象情報 サーバ
農業施設サーバ
(ため池、ダム等)
Web GISサーバー
①ハザードマップの作成
②リアルタイムため池防災システム2
②リアルタイムため池防災システム
ハザード解析ツール
図-1 ハザードマップの作成と「ため池リアルタイム防災システム」の概要
*農 業 工 学 研 究 所 National Research Institute for Rural Engineering.
キーワード:防災技術、ため池、中山間地域
6
4.防災情報伝達システム
3.ハザードマップ作成のためのため池決
図-4は危険度および降雨情報、地震情報
壊による洪水解析について
リアルタイム気象情報に基づくため池の
を行政、住民に伝達するシステムの概念を
被害予測が出来た場合に、どの地区に洪水
示したものである。迅速に正確な情報をた
が発生するかを事前に予測することが重要
め池管理者に伝達するために携帯電話の機
である。このための洪水解析について述べ
能を使用するものであるが、それぞれの管
る。図-2は洪水解析の概要を示したもので、 理者には関係するため池周辺の情報のみを
伝達するようになっているのが特徴である。
地形情報、ため池の諸元から下流域の湛水
深、継続時間等が求まる。これらの解析は
すべて図-1に示す様にネット上で可能にな
る。図-3は洪水解析の結果を三次元ビュア
ーソフトにより表示したもので、よりわか
りやすく、住民説明等に活用できるものと
なる。
ため池台帳情報
(ため池防災DB)
デジタルオルソ
航空写真
詳細標高情報
図-3 洪水解析結果の三次元表示例
氾濫解析ソルバ
参考文献
時系列最大水深、
流速、到達時間
1)
・ハザードマップ作成
・被害想定
・3DViwerによる
検証
谷茂;ため池の地震被害と震度につい
て、第 20 回自然災害学会講演会講演概要集、
pp.15∼16(2001)
2) 谷茂・福原正斗;GISデータベース上
図-2 洪水解析の概要
でのリアルタイム防災システムの構築、情
リ ア ル タ イ ム
気 象 情 報
報地質 14 (2)、pp. 198
農 業 工 学 研 究 所
気 象 サ ー バ ー
全 国 た め 池 台 帳
( た め 池 防 災 DB)
情 報
た
者
に
PC
め
、
メ
に
池
自
ー
配
管 理
治 体
ル 、
信
199 (2003)
運 用 自 治 体 ( 県 、 市 町 村 )
短
量
た
度
防
自
時
予
め
等
災
動
間
測
池
の
情
配
降
、
危
防
報
信
た め 池 リ ア ル タ イ ム
ハ ザ ー ド マ ッ プ シ ス
テ ム /情 報 配 信 版
雨
険
災
の
防
の
は
の
的
災
設
管
み
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情
定
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報
(
す
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る
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報
)
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池
択
テ
、
の
に
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他
配
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雨
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信
ー イ ( た め 池
量 、 地 震 情 報 、
情 報 を リ ア ル
)
県 た め 池 台 帳
( た め 池 防 災 DB)
情 報
無 線
た
の
映
タ
め
水
像
イ
池
位
そ
ム
図-4 防災情報配信システムの概要
7
2-3 動画配信による都市と農村のコミュニケーション
唐崎卓也・山本徳司(農業工学研究所)
1.
はじめに
農村には、農業、食材、自然資源、伝承文化など、魅力あるコンテンツが豊富に存在す
る。こうした農村のコンテンツが都市住民にとっても十分な魅力を持ちうることは、農業
や農村を情報素材とするテレビ番組が増え、人気を博していることにも表れている。
これまで農業農村に関わるコンテンツ配信には、主に紙面を媒体とするテキストや静止
画像が用いられてきた。しかし近年、インターネット技術の進展や大容量・高速通信の基
盤確立、携帯電話の高機能化により、音声を含む動画の利用環境は急速に向上した。もは
や動画配信は安価かつ簡易に実現できる身近な技術といえる。また、インターネットや携
帯電話の活用は、もう一つの特長である情報の双方向性を生み出した。リアルタイムでの
対話型の双方向通信も容易に実現できる。このことは農業農村情報の主な受け手である都
市住民と、農村との新たなコミュニケーションの可能性を示唆している。
本報告では、農業農村情報のコンテンツとして動画に着目し、都市と農村の新たなコミ
ュニケーションを生み出すための配信システムを紹介する。これまでに著者らが実験的に
行った事例や調査をもとに、システムの概要や特長、運用上の課題を明らかにする。
2.
地域づくりにおける動画コンテンツの意義
近年、コンテンツを活用した地域づくりが農村地域で行われている。農村を舞台にした
映画や、地域の民話や郷土食などの歴史文化資源を活用し、地域内の交流や集客を行った
事例は多い。成果品としてのコンテンツの活用はもちろんだが、コンテンツを生み出す過
程での地域資源の発見・学習や、それらを収集・蓄積・編集・発信するプロセス自体にも
価値がある。こうした価値は、コンテンツ作成に関わる地域内の人同士、あるいはコンテ
ンツの受け手である地域外の人との交流やコミュニケーションを生み出すという点で、
「交
歓価値」1)とも表現される。
そこで動画の特長をコミュニケーションの観点から掘り下げてみる。まず、コミュニケ
ーションの基本を、単に情報を伝達し合うことではなく、
「わかちあう」2)ことと捉える。
動画は、情報の受け手である視聴者に対し、動画が表現する現実を通して視覚的な体験を
提供する。このため視聴者は、送り手が伝えたいリアルなイメージをわかちあえる。それ
は共感へとつながる。
動画をテキストや静止画像と比較すると、以下の特長が挙げられる。①リアルなコミュ
ニケーションの確立:動画はテキストや静止画像では伝えにくい、口調とか表情といった
感情のディティールを表現できる。人と人との関係を強くする、よりリアルなコミュニケ
ーションを形成する可能性をもつ。②ラーニングの効果:動画は努力なしに受け身で理解
できるものではなく、受け手に推理、判断させ、イメージを刺激する。受け手に共感や思
考を促すことから、ラーニングの効果が高い。③情報リテラシーの向上:動画は情報の受
け手による自由な解釈や選択が可能であり、情報リテラシー(情報活用能力)が向上する。
受け手は自分の知識に合わせた理解が可能である。
8
このように、動画はコンテンツを作成するプロセスとコンテンツ自体にコミュニケーシ
ョンを誘発する可能性をもつ。こうした特長をもつ動画は、農村地域での地域づくりの様々
な局面において有効と考えられる。都市農村交流、地域内交流、地場産品の販売促進、地
域環境・資源の管理など、都市住民あるいは消費者、地域住民間でのコミュニケーション
を要する局面が農村には多い。活用が期待される分野は多岐にわたる。以下に、農業農村
における動画配信の事例と活用の可能性について述べる。
3.
農業農村情報における動画配信
(1)地域環境・資源の管理における活用
農村地域では、集落機能の低下や農業従事者の高齢化による担い手の減少、農産物価格
の低迷による農家所得の減少などにより、土地改良施設の管理体制は脆弱化しつつある。
また、都市化・混住化の進展に伴い、環境への配慮や安全管理の強化など、より複雑かつ
高度な管理が必要となっている。
地域の広範囲に遍在する地域環境・資源を管理するには、担い手不足をIT技術の活用
で補う必要がある。国のプロジェクトとして研究開発が進んでいるユビキタスネットワー
クは、その核となる技術といえる。ユビキタスは、遍在する情報に対し、迅速かつ自由に
アクセスできるというコンセプトをもつ。ユビキタスネットワークによって、地域内で情
報を「わかちあう」ことができる。つまり、地域内の人同士のコミュニケーションと、管
理者と施設・資源間のコミュニケーションの2つを同時に実現することになる。
例えば、据え付けのカメラサーバを活用すれば、水利施設の現状をリアルタイムで動画
配信することでき、遠隔地にいながら施設の監視が可能となる。フィールドサーバ3)を用
いれば内蔵センサーによる環境モニタリングまで実現できる。また、通学路や危険箇所で
の防犯カメラとしても活用でき、幅広い用途での活用が可能である。
こうした農業農村情報の活用では、既に新たな試みが始まっている。(社)農業農村整
備情報総合センター、富士通(株)及び(株)NTTドコモらは、2006 年度に農林水産省の官
民連携新技術研究開発事業により、
「第三世代携帯通信網等を利用した土地改良施設管理シ
ステムの開発」に取り組んでいる。この研究開発の特徴のひとつに、携帯電話、GPS など
のモバイル端末と通信網の活用がある。これらを活用すれば、日常的な施設管理業務の効
率化、災害時・緊急時の迅速な初動態勢や防災態勢の立ち上げを可能とするとともに、低
廉な通信網、既製の端末を利用することで、管理費用のコスト縮減削減が実現できる。今
後の研究開発が期待される。
一方、動画配信はこうした土地改良施設のみならず、広く農村空間に対象を広げた地域
環境・資源の管理・監視に活用の余地がある。集落機能の低下によって消滅の危機にさら
されている伝承芸能や民俗行事は、動画としてアーカイブ化することによって、継承と再
生を支援できる。
(2)学校での農業教育(遠隔授業の試み)
動画によるコミュニケーションは、教育現場でも有効と考えられる。課外授業として現
地に赴くことが困難な農業現場や、専門機関からの授業を実現できる。近年、総合学習の
カリキュラムとして取り組まれている農業教育での活用が期待できる。複数の遠隔地との
リアルタイム、双方向の通信環境を確立すれば、生徒は同時に2地点、3地点で視覚的な
9
体験を行える。単に知識の伝達にとどまらず、遠隔地の人々との交流や、これまで教室で
は体験し得なかった多様な教材を授業で提供できる。
著者らは茨城県石岡市立府中小学校、富山県富山市立八尾小学校と協力し、携帯電話の
テレビ電話機能を用いた3者間での遠隔授業実験を行った。まず、小学校の教室と学外の
遠隔地にいる講師とテレビ電話機能を持つFOMA(NTTドコモ携帯電話)で結ぶ。画
面をスクリーンに投影することで、教室内と講師がリアルタイムで意思疎通できる(図1)。
2003 年、2回にわたり遠隔授業の実験を行った。まず、中央農業総合研究センターと結
び、研究者が講師となり、稲の品種や稲の成長についての授業を行った。続いて、農業工
学研究所(現・農村工学研究所)の研究者が講師となり、ツルレイシ(ニガウリ)の成長
について授業を行った。
必要な機材は、FOMA2台、プロジェクター、マイク等である。これにFOMAテレ
ビ電話の通話料が従量制で課金される。簡易な機器構成であるとともに、通信基盤にはF
OMA通信網があれば、このシステムを稼働できる。
小学校
研究所
専門機関や現場
からの遠隔授業
講師
先生
生徒
FOMA
図-1
携帯電話を活用した遠隔授業
デジタルビデオ
システム構成図
○生産者からの
メッセージ
○生産現場の映像
テレビ電話
インターネット
NTT ドコモ
ホスティングサーバ
数分間の番組に編集
アーカイブ
MP4 形式で保存
番組表の作成
FOMA
(ビデオアーカイブ公開の手順)
①デジタルビデオで現場の撮影
②パソコンソフトで MP4、3GP 形式で保存。
③NTT ドコモ V ライブセンターにファイル転送
④番組構成づくり
(NTT ドコモ・V ライブサービスの契約が必要)
図-2
Vライブ方式のシステム構成
10
(3)生産履歴情報開示での活用
BSEや産地偽装問題を契機として、農産物流通の現場では生産履歴情報の開示が求め
られるようになった。また、「顔が見える野菜」(イトーヨーカドー)といったブランドに
代表されるように、生産者情報を店頭POPや農産物のパッケージに付加して配信するこ
とは、一般化しつつある。既に、携帯電話での読み取りが可能なQRコードを農産物のパ
ッケージに貼付し、生産者情報をインターネットで閲覧するシステムは、多くの生産地で
導入されている。なかでも、生産履歴情報開示システムのプラットフォームである「SE
ICA」4)は、生産者が無料で使用できることもあり、多くの生産地で活用されている。
これまで、こうしたコンテンツには、テキストや静止画像が多く用いられてきた。しか
し多くの場合、生産履歴を主とした定型の無機的な情報を扱うことが多く、生産者が伝え
たい情報やメッセージをコンテンツ化するには限界があった。つまり、生産者側から発信
される情報の多くは、生産者と消費者間で理解に大きな差があり、消費者が情報の意味を
理解しうる有機的な情報に編集するには、より多くのコンテンツを要することになる。
著者がインターネットや携帯電話を用いた生産履歴開示システムを管理する複数の担
当者に聞き取りしたところ、いずれも最初のアクセス数は伸びるものの、その後のアクセ
スは伸びず、システム運用コストに対して、導入効果を疑問視する声が聞かれた。現状で
は、テキストベースの生産履歴情報(農薬・肥料の銘柄、散布回数、散布日等)は、
「安全」
を担保するものであるにせよ、消費者の「安心」や「関心」を生み出すには至っていない。
これまで扱われた生産履歴情報では、生産者の人柄や努力の軌跡といった、人そのものに
関わる情報を伝えるすべを持ち得ない。
「わかちあう」コミュニケーションを実現するには、
こうした農産物が生産されるまでに関わる人や地域に関する情報を、受け手が共感できる
形態に編集し、提供することが必要である。
この点で、動画は生産履歴情報を消費者に理解しやすく咀嚼するだけでなく、編集によ
って生産者のメッセージやエンタテイメント性を付加できる。生産者と消費者、農村と都
市間のコミュニケーションを生み出すには、適したコンテンツといえる。
以下に、著者らが生産者団体と協力し、消費者に向けて行った動画配信の試みを示す。
①携帯電話のテレビ電話機能によるビデオライブ方式
(株)NTTドコモのFOMAテレビ電話配信サービスである「Vライブ」を用いた動
画配信を農産物直売所で試験的に実施した(図-2)。後述する i モーション方式(NTT
ドコモ)とは異なり、再生時間に制限がないことに特長がある。また、複数の番組プログ
ラムを編成できだけでなく、リアルタイム配信が可能である。
2004 年 11 月、茨城県つくばみらい市の地域物産センター(農産物直売所)
「ほっとやわ
ら」にて、配信実験を行った。トマトを出荷する生産者の協力を得て、生産履歴や生産者
のメッセージを含む動画コンテンツを、ビデオアーカイブとして作成した。最長2分に及
ぶ4つの動画を公開した。来店客は、売り場のPOPや商品パッケージに貼付されたQR
コードをFOMAで読み取ることで、ビデオアーカイブにアクセスできる(図-3)。
11
図-3
携帯電話の動画再生画面と商品ラベル
PC・ホームページ
現場撮影
直売会会員
によるビデ
オ撮影
JA、普及セ
ンターの支
援
動画編集
○DV テープ取
り込み、パソ
コンソフトで
の編集
○パソコン用
に rm 形式、
携帯用に mp4、
3gp 形 式 のフ
ァイルを作成
レンタル
サーバ
農村工学
研究所
インターネット・ホーム
ページでの閲覧
携帯電話
農村工学研究所
各キャリアのインター
ネット動画再生機能
編集内容の調整
図-4 神代農産物直売会での動画配信体制
また 2005 年4月には、12 名の生産者の協力を得て、同直売所の模擬店にて、iモーシ
ョン方式による配信実験を行った。前述のVライブは、NTTドコモ独自のサービスであ
り、FOMA契約料とは別に、月々の使用料が課金される。これに対し、i モーション方
式は、同じNTTドコモのサービスであるが、一般のインターネット領域に動画ファイル
をアップロードすれば、携帯電話での動画再生可能なサービスである。動画の再生時間は
最大で約 60 秒以内と短いが、Vライブと比べて簡易かつ安価な動画配信が可能である。
②インターネットによる動画ファイル配信
東京都調布市にあるクイーンズ伊勢丹仙川店にて、JAマインズの指導のもと、直売コ
ーナーを運営している神代農産物直売会(以下、神代直売会)では、消費者に向けた情報
発信として、動画配信サービスを行っている。著者らは、神代直売会、東京都中央農業改
良普及センターとの協働により、現在動画配信システムを運用している。
神代直売会では、JAマインズ、東京都中央農業改良普及センターの支援のもと、直売
会が主体となって生産現場で撮影を行った。デジタルビデオで撮影された動画を農村工学
12
研究所で編集したうえ、レンタルサーバで公開している(図-4)。
i モーション方式を採用し、サーバにアップロードされた動画ファイルは、インターネ
ットを介して参照できる。携帯電話のインターネット接続による閲覧と、パソコンホーム
ページでの閲覧との2つの方式に対応している。神代直売会コーナーで販売する野菜の商
品ラベルには、神代直売会のURLを記述したQRコードを印刷し、携帯電話のリーダー
で読み取ることで動画にアクセスできる。
4.
動画配信の効果
(1)JAマインズ神代農産物直売会の取り組みから
神代直売会の出荷者の多くは、東京都調布市内の農業生産者である。典型的な都市農業
地域であり、消費地が近接する特性を生かして直売型農業へと移行している。1999 年にイ
ンショップ方式の直売コーナーを設置して以来、順調に売り上げを伸ばしている。
神代直売会では、「新鮮・安全・おいしい・高品質」をモットーに、地場農産物の生産
販売に取り組むとともに、消費者へのPR活動に力を入れている。2004 年 12 月には直売
コーナーの利用者約 30 名と生産者の参加を得て、第1回消費者交流会(現地見学、ワー
クショップ)を実施した。それを契機に、日頃生産者との交流の機会が少ない大多数の消
費者に向け、生産者のメッセージをビデオで伝える動画配信に取り組んだ。2005 年からビ
デオ撮影を開始し、JA職員、農村工学研究所等のスタッフだけでなく、生産者自身によ
るデジタルビデオでの現場撮影が行われた。編集を経て、2005 年 12 月からはインターネ
ットを介して、携帯電話とパソコンブラウザによる動画配信を行っている。2006 年 12 月
には、第2回消費者交流会を実施し、現地見学、ワークショップとともに、QRコードと
携帯電話を使ったビデオメッセージ視聴の実演・体験を行った。
第2回消費者交流会で実施したアンケートによると、参加 29 名のうち、携帯電話で動
画を閲覧した経験がある消費者は皆無であった。しかし、動画を「見たいとは思わない」
とする回答は 1 名にとどまり、
「携帯では見ない。店頭にモニターがあれば見る」
(11 名)、
「携帯電話でみようとしたが、QRコードの使い方がわからない」
(4名)といった回答に
みられるように、動画自体には興味があるものの携帯電話による動画視聴が定着していな
いことがわかる。これには回答者の大半が 50 代以上であったことにもよると考えられる。
また、携帯電話からのアクセス数を分析すると、1日あたり平均約3件と推定された。単
に来店者数からすれば多いとはいえないが、一定の割合で視聴者が存在することがわかっ
た。今後、携帯電話の普及率が高い青壮年層に訴える工夫や、携帯電話だけでなく、店頭
で簡易に動画を閲覧できる端末を設置するなどの改善により、認知の向上が期待できる。
神代直売会における動画配信の効果として、消費者へのPR効果だけでなく、コンテン
ツ作成のプロセスに価値を見いだせる。動画作成にあたっては、予め直売会の打ち合
わせで編集方針を定め、スタッフの支援と生産者の協力により動画が撮影された。動
画作成のプロセスでは、生産者同士、支援スタッフ間のコミュニケーションが生まれた。
動画配信技術が今後向上したとしても、生産者、撮影者、編集者間のコミュニケーシ
ョンが不可欠であることは変わらない。こうした動画作成のプロセスにコミュニケー
ションを誘発する特長が含まれている。
なお、こうした神代直売会の活動は、平成18年度東京都農林水産業技術交換大会にて、
13
最優秀賞を受賞するなど高い評価を得ている。
(2)動画に対する消費者の評価
動画配信に対する消費者の意識を明らかにするために、これまでに行った配信実験に合
わせて視聴者への意識調査を行った。農産物直売所「ほっとやわら」にて、来客を対象に
携帯電話の動画配信に対する意識調査を行い、聞き取りによって 50 名からの回答を得た。
動画配信システムの課題を整理すると、動画コンテンツ、携帯電話による配信、情報配信
方法の3つの視点に分類できる(表1)。
動画コンテンツに求められている内容として、生産者からのメッセージや地域情報だけ
でなく、出荷予定や予定価格といった買い物に役立つ実用的な情報が求められているほか、
多様な情報が挙げられた。携帯電話による配信に対する評価では、携帯電話の操作性・機
能や情報取得にかかる費用面について、携帯電話の限界性が指摘されている。また、情報
配信方法では、店頭端末やPOP、パソコンといった媒体の優位性が指摘されたほか、携
帯電話の特長である情報の双方向性が求められている。
一方、生産者や生産現場のイメージを効果的に伝えるには、動画の長さ、画面構成、扱
う情報といった編集方法の工夫が必要である。そこで、動画の内容や構成に対する視聴者
の評価や志向を明らかにした。神代直売会の動画コンテンツを素材として、主婦 20 名、都
内大学生 20 名を対象に、モニター映像による評価試験を行った。
まず、動画コンテンツを、
「生産者紹介」
「農薬・肥料情報」
「作業風景」
「生産状況」
「実
用的な知識(野菜の選び方)」
「栄養価情報」
「調理方法」の7つに分類した。7分類のうち、
「興味がある」として高い評価が得られた類型として、「農薬・肥料情報」「実用的な知識」
「栄養価情報」が挙げられた。逆に、最も評価が低い類型は「生産状況」であり、これは
他の評価項目では「親近感」が無い、
「情報量」が不十分とされていることに起因すると考
えられた。
次に、「興味がある」とする評価を動画コンテンツの構成との関連から分析すると、「生
産者紹介」では生産者の表情、「農薬・肥料情報」では生産者の姿勢、「作業風景」では動
画が単調であることが、負の評価をもたらす要因として把握された。また、興味があると
評価された動画のいくつかは、農薬情報は害虫を精細な画像で紹介し、栄養価は他の野菜
との栄養の比較をデータ出力するなど、客観的データによる裏付けやシーン分割といった
構成上の工夫を行っていた。なお、評価試験の詳細は別稿5)6)を参照されたい。
これまでの評価試験から、編集方法によって評価特性が異なるものの、おおむね従来に
比べて生産者に対する親近感、興味が増したとする評価が得られた。現在公開している動
画の多くは、20 秒から1分以内の長さであるが、まとまったストーリー性をもった1分を
超える長い動画を望む意見も多く、視聴者からは一定の共感が得られていることを示して
いるといえる。
14
表-1 携帯電話による動画配信システムに対する利用者の評価
1.コンテンツの内容について
動
画
コ
ン
テ
ン
ツ
実
用
情
報
○季節の旬を知りたい
○生産者や栽培方法に関する基本的な情報
○味に関する情報
○野菜づくりの苦労や独自の工夫が知りたい
○家庭菜園をやっている人に向けた情報
○テロップなど、聾唖者にやさしい情報提供
○コンテンツはもっと長くてもよい
○コンテンツのメニューがもっと沢山あっていい
○出荷予定情報、予定価格を事前に知りたい
○在庫情報がほしい
○店舗の混み具合をライブ映像で流してほしい
○値引きなど変化する情報を流してほしい
2.コンテンツの信頼性確保
○店や生産者側からの情報は消費者からは信用できない。むしろ第三者の評価が知りたい
○情報の信頼性を確保するために認証マーク
携
帯
電
話
に
よ
る
配
信
3.携帯電話による配信サービス
○アクセス前に通話料がいくらかかるかを表示
○音声・画質が悪い
○お店で人と話す方がよい。携帯は補佐する機能
4.情報取得にかかる費用
○この長さで20円ならば良い
○無料なら使うかもしれない
○一回10円以下でなければ使わない
5.情報媒体
情
報
配
信
方
法
○店頭に情報端末があればよい
○店のPOPで十分
○買い物中にはビデオ映像は見ない。このようなサービスはパソコンでやる
6.情報配信方法
○情報を得るのは携帯である必要はない
○最初の一回を見てしまえばもう見ない
○双方向性がほしい
○個別生産者との交流の必要性を感じない
※2004/11/20 農産物直売所「ほっとやわら」で50名から聞き取り。
5.
おわりに
本報告では生産者から消費者へ向けて配信する動画を中心に特長を述べた。動画配信の
意義は、動画がコミュニケーションの基本である「わかちあい」、「共感する」ことに適し
たコンテンツであることに加え、作成するプロセスでコミュニケーションを誘発すること
にも価値を見いだせる。動画には、多様な情報を含む農業農村情報のコンテンツとして多
くの可能性がある。おわりに、今後の動画配信の課題と可能性について触れたい。
(1)動画コンテンツ作成に関わる人材育成
デジタルビデオと動画編集パソコンソフトの普及や高機能化によって、動画コンテンツ
の作成は飛躍的に簡便化されている。しかし、魅力あるコンテンツを作成するためには、
動画編集のノウハウが不可欠である。
一般に動画再生時間に対して数十~百倍に及ぶ動画情報素材の編集が必要といわれて
いる。著者らが行った動画配信試験でも、一つの動画コンテンツの編集に要した時間は、
再生時間に対して約 100 倍を要した。
15
今後、動画編集を行うボランティア人材の育成、地域の NPO 法人や定年後の人材を活
用したコミュニティビジネス、専門技術者への外部委託を想定したコンテンツビジネスの
成立が期待される。
(2)地域ニーズに即した複合的な利用
2007 年度から本格的に開始される農地・水・環境保全向上対策では、土地改良施設や地
域資源のきめ細かい管理が求められる。しかし、担い手が減少している現状からすれば、
監視の簡素化が不可欠である。これにはライブカメラを組み込んだ、動画配信システムの
活用が有効と考えられる。こうした動画配信システムは、土地改良施設の管理だけでなく、
防犯や防災といった生活に密着した用途にも活用できる。目的別にシステムを構築するの
ではなく、複合的な用途に活用することで、システムの効果的な運用が可能となる。
(3)双方向性を生かしたプログラムづくり
2011 年、地上波テレビ放送は地上デジタル放送に移行する。地上デジタル放送では、テ
レビ機器にインターネット、電話回線を接続すれば、視聴者と放送局との双方向の通信が
可能となる。リアルタイムのアンケートや意識調査が可能となり、動画によるコミュニケ
ーションが本格的に開始される。また、ブログやソーシャルネットワークサイトに代表さ
れる Web2.0 と呼ばれる次世代 Web サービスは、コミュニティを駆動力にしながら、ユー
ザ参加型のコミュニケーションを行っている。双方向コミュニケーションの技術は新たな
局面を迎えつつある。
こうした技術革新に合わせ、農業農村分野では、生産者と消費者、農村と都市間の交流
を促進するためのコミュニケーション・システムが期待される。既にインターネット、携
帯電話の活用によって、双方向通信の環境は整いつつある。双方向性を生かしたプログラ
ムづくりが求められる。
参考文献
1)長谷川文雄、水鳥川和夫編著:コンテンツ・ビジネスが地域を変える、NTT出版、
2005.4
2)太田智朗:映像とコミュニケーション、れんが書房新社、1998.4
3)深津時広、平藤雅之:インターネットを活用したユビキタス・モニタリングシステム
“フィールドサーバ”、ARIC 情報 第 79 号、2005.11
4)食品総合研究所:青果ネットカタログ「SEICA」、 http://seica.info/(2007.3 確認)
5)山田真裕:消費者が求める野菜情報-映像に組み込むコンテンツについて-、東京農
業大学卒業論文(生産環境工学科環境情報学研究室)、2006.3
6)唐崎卓也・山本徳司:動画配信による都市と農村のコミュニケーション、ARIC 情報 第
83 号、2006.11
16
2-4 住民参加で使える景観画像シミュレーションシステムの開発
農業工学研究所集落計画研究室 山本徳司
1.はじめに
平成 13 年6月の土地改良法の改正に伴い、
土地改良
事業は景観や自然環境への調和と住民参加が重要な視
点となった。また、平成 16 年には、良好な景観を「国
の資産」として位置づけた初の基本法である「景観法」
が制定され、現在、各地で様々な景観施策が展開して
いる。これに対応し、農林水産省においても、同年8月
に「美の里づくりガイドライン」を公表し、美しい農
山漁村景観の形成に向けた施策を展開しており、施設
整備に当たって地域の個性を活かした、適正な景観配
慮が求められている。
景観配慮の手法論に関しては、技術者が有すべき基
礎的な景観の技術的指針の整備もさることながら、地
域住民との協働作業プロセスの確立も重要な課題であ
り、今後、住民参加活動におけるGISや景観予測技
術等の利用手法と技術の簡易化、汎用化が望まれてい
る。そのうち、ここでは、住民参加で景観配慮を進め
る場合の現場普及型の支援技術として、農村景観予測
のための農村景観シミュレータの開発とこれに連動す
る簡易GIS型景観画像データベースの開発について
報告する。
ル画像処理が有効な技術となる。デジタル画像処理の
ソフトウェアはすでに多くの市販品があるが、汎用性
がある反面、初心者には操作が困難で、習得に時間が
かかり、事業現場への普及レベルには達していない。
また、普及に当たっての最大のネックは、合成画像を
作成する場合の景観構成要素となる部品画像データの
整備がされておらず、現場での効率的な業務に支障と
なっている。そこで、今回の開発においては、
「図と地」
の関係が読みやすい簡単なレイヤ構造を導入し、容易
な操作で習得が速く、景観構造を技術者が学習しなが
ら処理が可能な機能を持ったアプリケーションを開発
すると共に、全国の技術者がネット上で、地図データ
上の位置データを含め、画像データを様々なカテゴリ
ーに分類・登録することによって、相互共有が可能と
なる簡易GIS型景観画像データベースシステムを作
成した。
3.システムの特徴
(1)景観シミュレータ部(図1)
①一般に市販されている画像処理アプリケーション製
品の利点、欠点を分析し、農業農村整備事業上、直
接必要でない機能を搭載せず、ツールボタンやメニ
ューの数を減らし、自然物を扱う景観シミュレーシ
ョンに特化して操作性の向上を追求した。
②予測景観作成において、重要な概念となるレイヤに
よる部品画像管理機構をクリップウィンドウとレイ
ヤウィンドウの2段構造として実現し、他のソフト
2.これまでの開発経緯と問題点
景観予測のための画像処理技術は、デジタル画像合
成、CG、模型制作等様々な方法が取られ、現場の目
的に応じて活用されつつあるが、低価格・短期間で景
観イメージを形成できるものとしては、やはりデジタ
背景画像を読み込む
画像 DB
部品画像を読み込む
画像 DB
設定モードにより部品画像から
必要な部分の領域を選択し、クリ
ップウインドウに保存
クリップ DB
クリップイメージを選択し、貼り
付ける
クリップの移動・拡大
消しゴム
描画モードで細かい修正
色調整
ぼかしブラシ
レイヤの合成
アイコンは左から右へ(切取り→
編集→描画)順に使っていくだけ
クリップウィンドウに部品画像を貯
めレイヤウィンドウで合成していく
・ 茶畑の中に道路を通し、コミュニティ施設を建てた場合
の景観予測を行った。この画像がわずか10 ステップ程の
操作で作成できる。
図1 景観シミュレータの作業の流れとインターフェイス
17
合成画像 DB
よりも理解しやすいインターフェイス設計とした。
③ドラッグ&ドロップするだけの簡単な操作で合成操
作ができ、直感的な操作感で実行できる。
マップ毎に景観データが整理される
④美の里づくりガイドラインの「空間的な調和」にお
いて示唆されている景観の「図」と「地」のデザイ
ン構造を十分理解しながら、景観イメージを構成し
色分けで部品のカテゴリーを分類
ていくことになり、単に貼り絵を作るという観点か
ら、住民とともに景観について学習しながら、より
よい景観イメージを策定・検討できることも大きな
特徴である。
(2)景観画像データベース(図2)
①景観画像毎に、空間工種、空間目的、空間視点、時
図2 景観画像データベースシステムのメイン画面
間・季節、天候の画像属性を付与することができる。
ユーザーが属性を組み合わせて検索すると、該当す
る景観画像をサムネイ
景観画像情報センター
写 真 の 著作 権 やセキ ュリ テ ィを
ルで表示でき、目的と
チ ェ ッ クし て から公 開だ 。
実際に整備された例
する部品画像を景観シ
部品画像
ミュレータに送ること
リンク
地図
地図と
ができる。
サーバ群管理システム
②画像データベースは地
専門家によるデータ更新組織
区毎に地図と連動して
代替案1
代替案2
地図にセットして送る
Internet
おり、ユーザーは地図
アッ
ド
ー
プロ
と画像属性をもとに目
ンロ
ード
ダウ
的とする画像を容易に
景 観 シ ミュ レ ーショ ン
登録・検索することが
こうしたら
現況
も っ と 良く な
データベースに登録
る と 思 うな 。
できる。
しておきましょう。
③画像の共有は、インタ
ーネット回線のトラフ
ィック帯域やサーバの
住 民 組 織 ・事 業 所
住民
景 観 保 全 N PO
処理能力などを考慮
図3 住民参加ネットワークのイメージ
し、ユーザーとサーバ
管理者間でキャッシュ
(蓄積)して差分だけを転送する方式にし、遅い回線
や処理能力の低いサーバでも運用できるようにして
いる。
④ユーザーとサーバ管理者の運用イメージは図3のよ
うな構造である。このシステムによりネットワーク
参加者は画像をインターネット上で共有できる。全
国の景観形成・配慮の取り組み事例を地域住民間で
学習しながら景観シミュレーションができる。
4.おわりに(図4)
景観は、文化的・生態的意味を持って、永い年月を
経て形成された地域の生活と土地の姿であるから、決
して、視覚的要素だけの検討で終わってはならない。
今回紹介したシステムは、誰でも簡単に使えるため、
ややもすると、景観シミュレーションによる視覚的な
検討だけが先行する場合も想定される。
地域の生活があって、農業が営まれてはじめて成り
立つのが景観であるから、景観シミュレータも画像デ
ータベースも、地域住民と話し合うためのコミュニケ
ーションツールだと考えて、地域づくりの一環で、ワ
ークショップ等に組み込み、技術者と住民が話し合い
ながら、学習利用すべきである。
現況
左上は現況
ね。これはこ
れで良い景
観じゃない。
地域住民みん
なで話し合
い、自分達の
地域にふさわ
しい景観を保
全し、創造し
ていく場合に
景観シミュレーション 景 観 シ ミ ュ レ
ーションが役
による修景
立つ。
せせらぎの散歩
道を整備したら
どうだろうか。並
木もあった方が
良いかな。
図4 住民参加による景観づくりワークショップで活用
18
2-5 フィールドサーバを用いたミカン園の遠隔モニタリング
Remote Monitoring of Mandarine Orange Farm with FieldServers
○伊藤 良栄
○ Ryoei ITO
1
廣住 豊一
Toyokazu HIROZUMI
はじめに
4
システム構成
BSE 問題や鳥インフルエンザの発生を契機として,
各種項目を測定するため,ミカン園内に FS1 および
消費者の食品の品質に対する関心が高まっている.ま
FS2 と 2 基のフィールドサーバを設置した.FS1 は
た,海外からの安い農産物に対抗するために,高品位
ADSL 回線が敷設されている選果場間との通信およ
かつ高付加価値の作物生産が必要となってきた.我々
び予備計測用であり,FS2 で主な計測を行った.FS1
は,生産者が栽培方法を多角的に判断することができ
および FS2 には, 気温,湿度および日射量を測定する
る農業生産支援システムの構築をはかるため,農作物
ための各センサが内蔵されており, さらに FS2 には,
を取り巻く各種環境情報の測定および栽培作物の生育
土壌水分測定用に Decagon Devices 社製の土壌水分
状態を把握するための樹体撮像を行うモニタリングシ
センサ ECH2O を接続した.また, FS2 に装備された
ステムの設置を行っている.今回は,フィールドサー
ウェブカメラを使用し樹体撮像も行った.
バを用いてインターネット経由で遠隔にあるミカン園
選果場に YAMAHA 社製 NetVolante RT57i を設
のモニタリングを行った実証実験について報告する.
置し,三重大学および中央農研センターの 2 拠点と
2
ミカン園の間で PPTP 接続による VPN を構築した.
フィールドサーバ
これにより,試験地と上記 2 拠点間でのセキュアな
フィールドサーバは,中央農研センターで開発され
データ送受信が可能となった.
たフィールド用モニタリングロボットである.一般
フィールドサーバ自身は記憶装置を持っていない
的な屋外用観測機器と比べ,利用者のニーズにあわせ
てセンサやカメラなどの組合せをカスタマイズ可能,
ため,圃場とデータ収集拠点間のどこかで通信障害が
Web 経由でデータ通信を行うためデータ収集のコス
発生した場合,たとえ FS2 で正常に計測できていて
トが安い,内蔵の無線 LAN 機能を活用して簡単に屋
も,その間の測定データが欠損するという問題が生じ
外にホットスポットを構築できる等の利点がある.
る.そのような事態に対処するため,圃場内にローカ
3
ルデータストレージサーバを設置した.これにより,
試験地
現場の停電時以外は常に計測データの記録が可能とな
本実証実験は, 和歌山県有田市宮原町の早和果樹園
のミカン畑で実施された.試験地は山裾の急勾配の斜
る.今回設置したシステムの概要を Fig. 1 に示す.
面に位置し, マルチドリップ栽培による温州ミカンの
5
運用結果
無線 LAN による測定データの送受信については,
露地栽培が行われている.マルチドリップ栽培は,近
畿中国四国農業研究センターで開発された栽培方法
試験圃場と選果場間が直線距離で約 280m ほどあるた
で, 一年間を通して圃場表面をマルチシートで被覆し
め,当初は無線アクセスポイントに家庭用の指向性ア
て雨水の土中への浸透を制限する周年マルチ, ドリッ
ンテナを接続することにより無線通信の確立を試みた
プチューブを使用して樹体に水分および液肥を与え
が,電波強度に問題があり,しばしば通信の途絶が発
る点滴灌漑を組み合わせた栽培方法である.試験地で
生した.そこで,より電波強度の強い屋外用広指向性
は, マルチドリップ栽培によるきめ細かな樹体水分量
タイプのアンテナに換装することにより,通信品質が
の制御を行い, 最適な糖と酸のバランスを持った高品
改善され安定したデータの送受信が可能となった.な
位なミカンの栽培に取り組んでいる.
お,通信途絶が発生していた期間も計測データはロー
カルデータストレージサーバに記録されていたことか
三重大学生物資源学部 Faculty of Bioresources, Mie Univ. Key words : インターネット 計測 フィールドサーバ VPN
19
情報とカメラで撮影した樹体画像情報とを組み合わ
ら,このシステムのデータ冗長性が実証された.
ローカルデータストレージサーバには,BUFFALO
せ,最適な栽培管理を行うシステムの構築を模索して
社製 LAN 接続型ハードディスク LinkStation を改造
いきたい.例えば,土壌水分センサで得られた土壌水
したものを使用していた.しかし,電源が復旧して
分量のデータを利用し,フィールドサーバを用いて灌
も自動的に再起動する仕組みを持たないため,雷等
水装置の制御を行うシステムを開発する等の応用が考
による瞬間的な停電が発生した場合.現場で電源を
えられる.
投入する必要があった.そこで,HightechSystem 社
参考文献
製 MicroPC ESS シリーズへ変更した.MicroPC の
R. Ito, T. Mishima, et al.,Automated multi-term
電源はスイッチに連携しているだけなので,手動によ
Monitoring System for high quality Mandarin Or-
る電源の再投入は不要である.しかし,長期間の稼動
ange Productions, FRUTIC 05, Information and
試験により LinkStation では見られなかったハード
technology for sustainable fruit and vegetable pro-
ディスクの障害が発生した.これは,MicroPC に搭
duction, 2005, p. 625-632
載されているハードディスクが 2.5 インチタイプのも
廣住豊一, 伊藤良栄ら, 野外みかん園におけるマルチ
のであり,屋外の過酷な動作環境には耐えられなった
センサモニタリングシステムの設置, 農業土木学会大
ためであると考えられる.対策として小型の UPS を
会講演要旨集,2005,p.638-639
設置してサージ対策も行い,内蔵ソフトも中央農研セ
伊藤良栄, 溝口勝, 平藤雅之, 深津時宏, 木浦卓治, 亀岡
ンターで開発中の FieldServer Agent プログラムに入
孝治,VPN を利用した遠隔地土壌環境モニタリング,
れ換え,データ収集の利便性を向上している.
農業土木学会大会講演要旨集,2003,p.940-941
上記の改善により,フィールドサーバで計測した
データをインターネット経由で遠隔地からモニタリ
ングすることが可能となった.土壌水分センサによ
る計測結果を Fig. 2 に示す.これにより灌水による
土壌水分の時間的変化を捉えることができた.さら
に,FS2 に内蔵されたウェブカメラによる定期的な
樹体画像の撮像を行い,無線通信を介して遠隔地から
この画像を閲覧することができた.現場に投入した
FSAB(FieldServer Agent Box) により,ローカル側
でのデータ収集および閲覧が可能となった.これら
の数値および画像データは,外部からは他のフィール
ドサーバ同様,以下の URL より取得可能である.
図 1 システムの概要
http://model.job.affrc.go.jp/FieldServer/Data-
Fig.1 Overview of the system
Viewer.html
6
まとめ
本研究では,屋外果樹園を試験地として,フィール
ドサーバを用いたインターネット経由による遠隔リ
モートセンシングが可能なことを示した.また,山間
地における無線 LAN 通信の有用性を確認することが
できた.さらに,ローカルデータストレージサーバの
設置により,計測データの冗長性を向上できた.様々
な障害を経験することにより,実フィールドでのモニ
タリングシステムの運用に関するノウハウを蓄積する
図 2 土壌水分の時間変化
ことができた.
Fig.2 Soil moisture changes
今後は現場の生産者と連携し,樹体を取り巻く環境
20
2-6 新型土壌水分センサーの現状と課題
メイワフォーシス株式会社
井上 裕太
Decagon Device, Inc. Dr.Colin Campbell
『新型土壌水分センサーの現状と課題』
プレゼンの流れ
1.メイワフォーシス株式会社について
2.Decagon Device, Inc. について
3.現行の土壌水分センサー
4.新型土壌水分センサー
EC-5 ECHOプローブ 5cm
ECHO-TE ECHOデジタルプローブ
≪EC/土壌水分/土壌温度測定≫
21
『1.メイワフォーシス株式会社について』
設立
:1968年
事業内容 :理化学機器の輸入・輸出・販売
:理化学機器の製造開発・販売
:輸入理化学機器のメンテナンス
事業部
:エコサイエンス事業部
:フロンティアバイオ事業部
:ナノテクノロジー事業部
エコサイエンス事業部取り扱いメーカー
☆LI-COR社
☆Decagon社
☆Dynamax社
その他
『2.Decagon Device, Inc. について』
アメリカ合衆国 ワシントン州
創立:1983年
創始者:Dr. Gaylon Campbell
(開発責任者:Colin Campbell, Ph.D.)
製造開発品目:
• 農学研究機器開発 -Agricultural Researchー
• 食品品質検査機器 ーFood Quality Testingー
• 農学研究機器販売 -Commercial Agriculture
22
『3.現行の土壌水分センサー』
EC-20 ECHOプローブ (20 cm)
– 基本タイプ,広域測定用プローブ。
EC-10 ECHOプローブ (10 cm)
“
小型プローブ,狭い箇所での測定
ニーズに合わせて開発。
温室測定、その他限られた範囲
での測定用
ECHOプローブについて①
誘電率の変化を測定するセンサー
あらゆる物質は固有の誘電率持つ
空気
土壌鉱物
氷
水
1
4
5
80
水の持つ高い誘電率によって
土壌中の含水量が変化すると
土壌中の誘電率も大きく変化する
≪測定の範囲(予測図)≫
4 cm
電
界
-
+
23
-
ECHOプローブについて②
≪ECHOプローブの設置例≫
測定位置
測定位置
プローブ長の平均水分量を測定する。
測定目的により、水平か垂直で設置を行なう。(地面に対して直角に埋設します。)
また、深さ別のプロファイルを測定する場合は、縦穴を堀り側部からプローブを設置
する。
ECHOプローブについて②
問題点
• 温度依存性
– 砂質(細かい粒子)土壌において
– 通常土壌から高塩濃度土壌において
• 塩濃度依存性
– 校正曲線が、電気伝導度< electrical conductivity (EC) >により、
シフトしてしまう。
– 高水分土壌での感度の減衰が生じる。
• その他
– 土壌へのインストール
原因は何か?
• ECHOプローブの電気回路は5MHzにて作動している。
• 低周波数での測定では、上述の問題が生じる。
24
キャリブレーション方法例
ECHOロガー
体積既知の土壌
ZERO点の測定
ある一定の容器に絶乾した土をいれる。
ECHOプローブで測定(mV)を行う。
飽和点までの測定
容積の10%の水をいれ、土をよくかきまぜて
ECHOプローブ で測定(mV)を行う。
測定が終わったら、続けて水を10%ずつ いれ
飽和点まで測定(mV)を行う。
『4.新型土壌水分センサー』
<開発バックグラウンド①>
• 一般的な知識として
– 周波数を増加させることにより、減少する事があります:
• 塩濃度依存性
• 温度依存性
• 土壌組成によるキャリブレーションの違い
• 文献にて報告されている周波数について
– 50MHz (Campbell et al., 1988)
– 300 MHz? (Or, 2003)
• Based on network analyzer analysis
• 温度や塩濃度による誘電性の減少について
– >500MHz (Kelleners et al., 2004)
• Based on network analyzer
• 火山灰土における誘電性の減少について
• 温度影響を含まない
25
<開発バックグラウンド②>
• 開発における制約
– 周波数を増大する場合、課題がある
• 科学上 : 500MHz以上で誘電性のばらつきが増大する
• 製造上 : 測定周波数をあげることは、コストも増大する
<開発目標>
• 目標として
– ECH2O テクノロジーの革新:
• 温度と電気伝導度(EC)の依存性の減少
• 精度の“維持”または“向上”
• リーズナブル
• 堅牢なつくり
26
<目標達成へ – ハードウェアー>
≪ECHOの回路≫
回路周波数を5から150MHzへ
変化させ測定をする。
≪プローブの設計≫
– 小型プローブの設計
• 2タイプのNewプローブ
– ECHO-TE
» 体積含水率
» 電気伝導度(EC)
» 温度
– EC-5
長さ5cmのECHOプローブ
• センサーの構造は両者とも同様
• 同じ回路にて、体積含水率測定
<EC-5/ECHO-TEにおけるロックウールでの評価>
• 高周波数は高塩濃度の影響を減少させる
• 65MHz以上へ周波数を増加させることにより、依存性の最大
限の減少が確認できるか
27
ロックウールでの測定グラフ (EC-5)
<従来の測定周波数>
Water Content vs. Probe Output for 6 MHz (Standard Frequency)
Probe
0.9
Water Content (m3/m3)
0.8
0.7
5.02 dS/m
0.6
2.52 dS/m
0.5
1.07 dS/m
0.4
0.497 dS/m
0.025 dS/m
0.3
0.002 dS/m
0.2
0.1
0
300
400
500
600
700
800
900
1000
1100
Probe Output (mV)
ロックウールでの測定グラフ (EC-5)
<72MHzの測定周波数>
Water Content vs. Probe Output for 72 MHz Probe
0.9
0.8
Water Content (m3/m3)
0.7
0.6
0.5
0.4
5.02 dS/m
0.3
2.52 dS/m
1.07 dS/m
0.2
0.497 dS/m
0.1
0.025 dS/m
0
500
550
600
650
700
750
800
Probe Output (mV)
28
850
900
950
1000
ロックウールでの測定グラフ (EC-5)
<93MHzの測定周波数>
Water Content vs. Probe Output for 93 MHz Probe
0.9
0.8
5.02 dS/m
0.6
2.52 dS/m
0.5
1.07 dS/m
0.4
0.497 dS/m
0.025 dS/m
0.3
0.002 dS/m
0.2
0.1
0
300
400
500
600
700
800
900
1000
Probe Output (mV)
ロックウールでの測定グラフ (ECHO-TE)
<33MHzの測定周波数>
(新開発回路は、3種の周波数の同時測定が可能)
33 MHz Frequency Curve
0.9
0.8
Vol. Water Content (m3/m3)
Water Content (m3/m3)
0.7
0.7
1.0 dS/m
0.6
1.37 dS/m
0.5
2.74 dS/m
0.4
4.09 dS/m
5.9 dS/m
0.3
8.0 dS/m
0.2
0.1
0
200
250
300
350
400
450
500
Probe Output (mV)
29
550
600
650
700
ロックウールでの測定グラフ (ECHO-TE)
<66.5MHzの測定周波数>
66.5 MHz Frequency Curve
0.9
Vol. Water Content (m3/m3)
0.8
0.7
1.0 dS/m
0.6
1.37 dS/m
0.5
2.74 dS/m
0.4
4.09 dS/m
5.9 dS/m
0.3
8.0 dS/m
0.2
0.1
0
200
250
300
350
400
450
500
550
600
Probe Output (mV)
ロックウールでの測定グラフ (ECHO-TE)
<133MHzの測定周波数>
133 MHz Frequency Curve
0.9
Vol. Water Content (m3/m3)
0.8
0.7
1.0 dS/m
0.6
1.37 dS/m
0.5
2.74 dS/m
4.09 dS/m
0.4
5.9 dS/m
0.3
8.0 dS/m
0.2
0.1
0
150
200
250
300
350
Probe Output (mV)
30
400
450
500
<有機土壌における影響>
• 有機土壌においても、ロックウールと同様な結果が得
られた。
– 粗い粒状の砂において高周波数は高塩濃度の影響を大き
く減少させた
– 細かい粒子土壌においても違いは見られなかった
– 土壌組成の違いによるキャリブレーションの必要性も減少
した
EC-10 10cmプローブ 6MHzでの測定
<砂質土壌-Dune sand->
Water Content (m3/m3)
0.25
0.2
0.15
Sand 0.16 dS/m
Sand 0.65 dS/m
Sand 0.47 dS/m
Sand 2.2 dS/m
Sand 3.57 dS_m
Sand 7.6 dS/m
0.1
0.05
0
300
400
500
600
700
Probe Output (mV)
31
800
900
1000
EC-10 10cmプローブ 65MHzでの測定
<砂質土壌-Dune sand->
Water Content (m3/m3)
0.25
Sand 0.16 dS/m
Sand 0.65 dS/m
Sand 0.47 dS/m
Sand 2.2 dS/m
Sand 3.57 dS_m
Sand 7.6 dS/m
0.2
0.15
0.1
0.05
0
450
500
550
600
650
700
Probe Output (mV)
EC-10 10cmプローブ 周波数の違いによる比較
<粘土質土壌-Silt Loam->
6MHz
0.4
0.35
65MHz
0.4
Palouse Silt Loam 0.2 dS/m
Palouse Silt Loam 0.35 dS/m
0.35
Palouse Silt Loam 1.5 dS/m
W ater Content (m3/m3)
W ater Content (m 3/m 3)
Palouse Silt Loam 0.7 dS/m
0.3
Palouse Silt Loam 5.13 dS/m
0.25
0.2
0.15
0.1
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0.05
0
300
0.3
Palouse Silt Loam 0.2 dS/m
Palouse Silt Loam 0.7 dS/m
Palouse Silt Loam 1.5 dS/m
Palouse Silt Loam 5.13 dS/m
400
500
600
700
800
Probe Output (mV)
900
1000
32
0
450
500
550
600
Probe Output (mV)
650
700
EC-5土質別キャリブレーションからの解放
<すべての土質においいて>
Calibration for EC-5 at 2.5 V
Actual Vol. Water Content (m3/m3)
0.35
y = 1.19E-03x - 4.00E-01
R2 = 9.50E-01
0.3
0.25
0.2
Ave VW C
Linear (Ave VWC)
0.15
0.1
0.05
0
300
350
400
450
500
550
600
Probe Output (mV)
ECHO-TEによる EC 測定解析
Electrical Conductivity Evaluation of ECHO TE
Actual EC (dS/m)
10
8
6
4
2
0
0
2
4
6
ECHO TE Output
33
8
10
12
<結論>
• 高周波数測定は、多くの条件において、測定精度の向上また
は維持が見られた
• 70MHzでの測定が最適であった
– EC溶液での感度変動の減少
– ロックウールと土壌における塩濃度依存性の減少
– 温度依存性は変化はあったが、向上にはいたらなかった
(実験が必要である)
• 高周波は多くの場面に有効だが、テストにおいて顕著な改善
ではなかった
• ECの測定においては、良い結果がみられた
≪ EC-5 ECHOプローブ 5cm ≫
・New Type ECHOプローブ
・コンパクト設計
・さまざまな土壌タイプに対応
精度
仕様電源
出力
測定時間
動作環境
測定範囲
サイズ
:±3%
(すべての土壌タイプ対応,8dS/mまでの環境において),
±2%(キャリブレーション時)
:2.5-5VDC @ 10mA
:~200mV(空気中),~750mV (純水中)
:10ms
:-40~60℃,0~100%RH
:0~100%VWC
:長さ8.9cm × 幅1.8cm × 厚0.7cm ケーブル5m
34
≪
ECHO-TE ECHOデジタルプローブ
≫
(EC/土壌水分/温度測定センサー)
・新設計マルチセンサー
・瞬時3成分同時測定
・Em50 ECHOデジタルロガー専用
<土壌水分>
精度
:<有機土壌> :±4% ( 8dS/mまでの環境に
おいて),±2%(キャリブレーション時)
:<ロックウール>:±3%( 0.5~ 8dS/m)
:<培養土>: ±3%(3 to 14 dS/m)
仕様電源 : 3VDC@0.3 mA, 9ms測定時@10 mA
動作環境 :-40~60℃,0~100%RH
測定時間 :10ms
測定範囲 :0~100%VWC
サイズ
:長さ10cm × 幅3.2 cm × 厚0.7cm ケーブル5m
<温度>
<EC(電気伝導度)>
測定範囲 :-40~50℃
測定範囲 :0~15 dS/m(溶液)
分解能
:0.1℃
分解能
: 0.01 dS/m
精度
:±1℃(0~50℃において)
精度
:±10%
『今後の課題』
1.温度依存性の問題点の改善
2.野外にての長期測定の耐用性
3.従来品の改良
4.品質検査の方法
5.その他
35
3.農業農村情報システム・構想に関する事項
36
3-1
国営造成土地改良施設防災情報ネットワークシステム
農林水産省農村振興局整備部
防災課 課長補佐 鎌田 知也
1.取り組みの経緯
平成 16 年の未曾有の集中豪雨、10 度にわたる台風の来襲、大規模地震による災害等を
契機として、防災・減災に対する国民の関心は著しく高まっており、迅速かつ総合的な防
災対策が求められている。とりわけ防災情報については、あらゆる防災対策の基礎である
ことから早急な整備が求められている。このような中「食料・農業・農村基本計画」(平
成 17 年3月閣議決定)において「集中豪雨や、台風、地震等の自然災害に対して安全で安
心できる生活環境の確保を図るため、防災対策等を推進する。また、農地防災対策、農地
保全対策等を推進する。」と記載され、また、「経済財政運営と構造改革に関する基本方
針 2006」(平成 18 年7月閣議決定)においても「防災情報の迅速な伝達体制の整備等の
災害対策の強化を進める。」旨が明記されている。
これらの方針に従い、平成 18 年度にため池等農地災害危機管理対策事業を創設し、地方
公共団体等の防災情報管理システムの整備促進を図っているところである。
一方、国営造成土地改良施設については、基幹施設等地域防災上も重要な施設であり、
管理者がより的確な操作運用ができるよう必要な防災情報を広域的に収集し、管理者等に
提供することが、施設所有者である国に求められている。
ついては、国において国営造成土地改良施設の観測データ等を収集、整理し、降雨・水
位等の危険情報と併せて、提供するためのシステムを構築・運用し、地域の防災力の向上
の一翼を担うものとする。
また、現在、内閣府において各府省庁が防災情報の共有を図るため防災情報共有プラッ
トフォームを開発しているところであるが、本事業におけるシステムの開発にあたっては、
防災情報共有プラットフォームとの連携を視野に入れて構築し、防災情報について他府省
庁との連携を図ることとする。
2.具体的なシステム構築のイメージ
具体的なシステム構築のイメージとしては図のとおりである。
現在、多くの国営事業完了地区では基幹施設の観測データを中央管理所で収集しており、
これら既存の観測・管理システムを有効活用し、システムに若干の改良・追加を行うこと
により、Ethernet 対応化を図り、インターネットを介して、施設管理者、関係行政機関が
リアルタイムで施設の状況を共有化するものである。また、中央のシステムは内閣府が現
在開発を進めている防災情報共有プラットフォームと連携し、気象データや河川情報が取
得可能となり、これらのデータについても施設管理者等へ配信可能となる。
3.システム構築により期待される効果
正確な情報を迅速に得ることにより、例えば排水機場では大雨が予測される場合、流域
内の排水を事前排水し、内水位を事前に下げておくことにより、ポケット容量が確保出来
37
る等、施設管理者の管理テクニックで同じ施設規模であってもさらに防災力を向上させる
ことが可能と考えられる。このような事例は既にいろいろな地域で取り組まれていると思
われるが、実際の操作は施設管理者がこれまで勘や経験によって行っているのが実態であ
り、今後もこのような優秀な技術を持った管理者が各地域で確保できるとは限らず、また
優秀な管理者であってもより客観的なデータに基づいた操作を行うことにより、防災上も
より効果的・効率的な施設管理が可能になると考えられる。
また、関係行政機関においても情報を共有することにより、異常時における避難指示や
万一災害が発生した場合の初動体制へのスムーズな移行などその効果が期待される。
さらに、データを蓄積することにより、管理者、行政機関のみならず、研究機関等にお
いても蓄積データの分析や災害予測のシミュレーション等も可能となり、中長期的な各地
域の防災施策への反映も期待される。
4.防災情報のあり方
防災の抜本対策はハード整備により対応することが原則であり、またハード整備を行う
ことにより直ちにその防災効果が発揮される。
一方、防災情報システムは造っただけでは防災上何の直接的効果も発揮されない。防災
情報システムの役割は正しい情報を迅速にしかるべき者に正確に伝えることであり、情報
を受け取った者がその責任や権限に基づいてどのように行動を起こすかにより初めて効果
が発揮されるのである。
したがって、地域における施設の位置づけ、それに関わる関係機関・関係者の責任や権
限、異常時や災害発生時においてどのような行動をとらなければならないかということを
明確にしておくことが重要である。
5.今後のスケジュール
本システムの構築については、平成 19 年度新規事業として概算決定されたところであり、
今後各国営完了地区における既存システムの詳細調査、基本設計、開発を経て順次各地区
への導入、また内閣府の防災情報共有プラットフォームとの連携等システムの高度化を図
っていく予定である。
38
ゲート
排水機場
ダム
(観測機器)
TM/TC 回線
水位・流量・震度等の観測
メインフレーム方式/
汎用機
中央管理所
ルータ
TCP/IP
道府県
市町村
土地改良調査管理事務所
土地改良技術事務所
土地改良区
提供・共有
アメダスデータ
・蓄積
・分析
・標準化
(XML 等)
AP/DB/Web/FTP サーバ
追加システム
中央データセンター
正確かつ迅速な防災情報の
情報の提供
(Web/FTP)
データの収集
本省・農政局
・詳細分析
・連絡調整
・助
言
・初動体制整備
既存システム 追加システム
インターネット
国営造成施設土地改良施設防災情報ネットワークシステムイメージ
国営造成土地改良施設
39
U庁
・消防庁 システム
・農林水産省
通信サーバ
観測情報
今後整備・更新
するシステム
・内閣府 DIS
・気象庁 アデス
・国土地理院
電子国土
・国土交通省
統一河川情報
・厚生労働省
EMIS
・
・
・A 省 システム
・B 省 基礎情報
・
既存のシステム
将来
内閣府
防災情報アプリ
ケーション
T省
報、FAX 画
像 等)
ー情報 等)
DB(統計情
(アクセス権
設定、ユーザ
非地図情報
管理情報 DB
地図情報 DB
防災情報共通データベース
中央防災無線網
X省
防災情報アプリ
ケーション
S省
Y庁
防災情報アプリ
ケーション
標準インターフェース(Web サービス)
(Web サービス)
標準インターフェース
個別インターフェース
個別インターフェース
個別インターフェース
個別インターフェース
個別インターフェース
個別インターフェース
個別インターフェース
個別インターフェース
・基本的な防災情報の形式を標準化
・共通なシステムに情報を集約
・共通なシステムにアクセス
防災情報共有プラットフォーム
内 閣 府
3-2 水土里ネットにおけるIT利用戦略
Application of Information Technology to the Midori-Net
〇臼杵宣春* 溝口勝**
USUKI Noriharu MIZOGUCHI Masaru
土地改良区は、国、地方公共団体などが行う
1.水土里ネット(土地改良区)の現状
現在、全国に約 6,100 の土地改良区が存在す
土地改良事業によって造成された土地改良施設
る。組合員数は延べ 400 万人を数え、管理する
を管理する。
土地改良施設は、
用排水路が多く、
用排水路の総延長は 28 万 km にも及ぶ。これ
次いで用排水機場、農道、樋門、頭首工、ため
らの膨大な施設を円滑に管理するためには、施
池となっている(表-2)
。
設情報の的確な把握が必要である。土地改良区
土地改良施設は、土地改良区が基幹施設を直
の運営費用は組合員の賦課金によって賄われて
接管理し、集落などの末端組織が末端施設を管
いる。そのため、賦課金の基礎となる農地や耕
理する重畳構造で管理される例が多い。
作者の情報を管理する必要がある。
2.農地流動化支援水利調整システム- GIS 利用
しかし、近年の厳しい財政事情や職員の高齢
土地改良区では、組合員とその土地、土地改
化等による職員数の減少により、土地改良区運
良施設などを台帳として手作業で整備してきた
営の合理化や効率化が求められている。特に、
が、PC の普及とともにデータベースや表計算
事務の合理化に伴い、施設管理のシステム化や
ソフトを利用してその情報を扱うようになって
受益者情報の効率的管理など、情報化の必要性
きた。また、土地改良事業の際に、水路の流量
が高まっている。
や制御施設の管理にテレコン、テレメータリン
土地改良区は、昭和 35 年に 100ha 未満のも
グシステムを導入し、水利用管理の情報化が進
のが 60%を超えていたが、平成 17 年には約
んできている。
40%と大幅に減少している。現状の土地改良区
農地の流動化を促進するには、農地の貸借に
の規模を見ると、地区数の 75%が 500ha 未満
関して、どの農家が規模拡大を希望し、どの農
で 1,000ha 以上の土地改良区が全面積の 70%
家が農地の貸し手の意向を持っているかなどの
を占めている(表-1)
。
情報を把握する必要がある。そのため、平成 6
面積規模
100ha未満
∼500ha未満
∼1000ha未満
∼3000ha未満
∼5000ha未満
5000ha以上
計
表-1 面積規模別、地区数・構成比
地区数
同左比率 面積(ha) 同左比率
1,801
39.2
82,633
3.1
1,665
36.3
404,129
15.4
510
11.1
359,343
13.7
433
9.4
729,082
27.8
112
2.4
427,267
16.3
69
1.5
624,811
23.8
4,590
100.0 2,627,267
100.0
平成17年度全国土地改良事業団体連合会調査
年度から GIS を利用した「農地流動化支援水利
調整システム」が導入され始めた。その基本的
な構成を図-1 に示す。このシステムでは、農家、
農地、用水の情報を集積・分析・加工するとと
もに、地図上に展開・表示することで、農地流
動化の最適計画作成の支援と効率的な水利用に
表-2 土地改良区が管理している土地改良施設
区分
ダム(ヶ所) 頭首工(ヶ所) 機場(ヶ所) 樋門(ヶ所) ため池(ヶ所) 水路(km)
施設数
462
7,952
26,329
19,977
13,376 280,532
管理主体数
302
1,480
2,591
1,689
1,463
3,787
平成13年度全国土地改良事業団体連合会調査
*全国土地改良事業団体連合会(全国水土里ネット)Ntional
関する情報を提供すること
を目指している。
Federation of Land Improvement Associations
東京大学大学院農学生命科学研究科 Graduates School of Agricultural and Life Sciences, The Univ. of Tokyo
キーワード: GIS・土地利用計画・水利システムの管理
**
40
用の例として、石川県水土里ネット七ヶ用水で
は、
地図情報システムのほか、
水管理システム、
気象情報システム、用排水シミュレーションシ
ステムを導入し、水管理の予測制御を行ってい
る。宮崎県水土里ネット一ツ瀬では、土地改良
施設管理システムを構築し、パイプラインの漏
図-1 農地流動化支援水利用調整システムの構成
水事故の迅速な対応などパイプラインの管理に
役立てている。
○○情報
用排水路系統図
水利情報
耕 地 図
地 形 図
(航空写真)
耕作者情報
地 番 図
3.水土里情報利活用促進事業への期待
農地情報
農地や水利施設等に関する情報は、その保全
デジタイザー
データ入力
デジタル化
データベース
ベクトルデータ
(座標値)
スキャナー
や更新、有効活用に欠かせない。また、これら
イメージデータ
の情報は、農村環境といった地域資源の管理や
ラスターデータ
作物の生産、営農の分野など情報の多様な利活
農地流動化支援
水利用調整システム
用が期待されている。こうした理由から、農地
・画面表示
・背景図表示
・各種検索
・帳票出力
や水利施設に関する GIS を都道府県の単位で
・ファイル入出力
・データ変換
整備し、農業者や関係団体へ提供することによ
り、多様な情報への取り組みを促進する「水土
図-2 システムの利用イメージ
里情報利活用促進事業」が平成 18 年度から開
始される。
このシステムを用いると、一筆毎の農地筆情
報などの農地情報、所有者・耕作者などの農家
この事業では、都道府県水土里ネット(土地
情報及び水利施設などの用水情報のデータを加
改良事業団体連合会)
を水土里情報センター
(仮
工して、農地の貸し手、借り手の調整を行い、
称)として、背景図、水利施設、筆・区画情報
具体的な農地の分布状況など空間的な広がりを
など地図情報データベースを整備する。基礎的
検討できる。また、農地の集積により営農規模
な農地情報、
水利施設情報及び背景図を整備し、
が拡大して末端の水需要の集中化や代掻き期間
情報を利活用した多様な取り組みに必要な各種
の短縮によって水需要が増加することを想定し、
属性情報などを関係機関と連携して各地域で整
水利施設容量と整合させた営農の方法を検討で
備する。
水利施設の管理をはじめ地域資源保全、
きる。
(図-2)
生産対策、災害対策などに活用されることが期
現在、全国 172 地区の土地改良区に本システ
待されている。
(図-3)
ムが導入され、
その地区面積は 51 万 ha に及ぶ。
GIS の利用により、農地流動化のみならず、土
地改良区の組合員の情報や水利施設の管理の情
報など土地改良区の運営に関する種々の利活用
が可能となる。また、作物や施肥など営農につ
いても活用されることが期待されている。例え
ば、北海道水土里ネット旭鷹では、リモートセ
ンシングデータを使い、低タンパク米の生産に
向けた施肥などの営農指導に役立てているほか、
関係市、農協、共済組合とネットワークを構築
図-3 水土里情報利活用促進事業の概要
して多様な利用を進めている。この他の GIS 活
41
3-3 土地・施設・担い手管理システム
水 土 里 ネ ッ ト 千 葉
千葉県土地改良事業団体連合会
どうしていますか?・・・
[土地・施設・担い手管理]
各土地改良区において、換地登記終了後の土地及
び施設の維持・管理業務は必要不可欠です。
マイラーあるいは紙ベースの図面では、汚損もしく
は劣化が進み管理に支障をきたしています。
これをデータ化することにより、保管場所の確保、図
面の汚損、検索労力の問題も解決できます。
また、本システムは経営体育成促進事業における
担い手への集積業務も強力にサポートします。
42
本システムの特徴
‹
図面と台帳がリンク(連動)しているので、土地や施設、農振除外
地等の検索・着色・分析を迅速に行え、視覚的に判断することがで
きます。
‹
紙・マイラー図面・台帳をデジタル化するので、資料の紛失、劣化
の恐れがありません。
‹
図面・台帳等資料を、容易に検索・修正できます。
‹
‹
図面上で、距離・面積の計算等も容易に行えます。
各種印刷(図面・台帳・検索結果等)、各種データフォーマットの出
力を行えます。
担い手の集積状況を視覚的に把握し、達成状況報告書に必要な
集積率等を出力します。
‹
シ ス テ ム 概 要
43
全体図の作成
• 1/25000の地形図に受益地を色分けして表示します。全体図より各
工区の換地図を呼び出せます。
図面の数値化
数値化
• 図面をスキャナ読みし、デジタル化します。
※確定測量等データが当会にある場合、スキャナ読み込み、デジタル
化の作業は行わずに済みます。
44
データベース作成・連動
• データベースは換地計画書又は賦課台帳等より作成します。
• 図面とデータベースを連結します。
属性取り込み
• デジタル化した土地、施設に台帳から必要な情報を取り込みます。
各情報はボタン1つで表示/非表示が可能です。
45
土地管理例
選択
土地
•
登録した土地を画面上で選択することにより、土地の情報を見ることができ
ます。またデータの変更やマスタの登録、変更も行うことができます。
土地管理例
選択
土地
•
登録した土地を画面上で選択することにより、土地の情報を見ることができ
ます。またデータの変更やマスタの登録、変更も行うことができます。
46
施設管理例(1)
施
•
設
択
選
登録した施設を画面上で選択することにより、施設の情報を見ることができ
ます。また関係する施設の写真、出来高設計図も見ることができます。
施設管理例(1)
施
•
設
択
選
登録した施設を画面上で選択することにより、施設の情報を見ることができ
ます。また関係する施設の写真、出来高設計図も見ることができます。
47
施設管理例(2)
•
パイプラインの工事を行う場合など、閉めなければいけない弁(制水弁)と、
閉めたことで影響の出る土地の関係をシミュレーションすることができます。
担い手管理例
•
担い手データベースを作成し、図面と連動させます。担い手別の集計や図
面の着色、集計表の印刷等を行うことができます。
48
各種帳票の作成
•
•
•
•
•
土地台帳
組合員名簿
施設台帳
担い手関係調書(集積実績表等)
その他
システム納品実績(H16.10現在)
• 安房中央土地改良区(800ha)
• 北総東部土地改良区(1600ha)
• 野田市南部土地改良区(210ha)
• 北清水地区(139ha) 浮戸川上流Ⅱ期地区
(140ha) 湊地区(166ha)
• 瑞穂地区(担い手システム)
49
システム構築を本会で行う利点
• 換地計画作成に係る既存データを有効活用
できる。→経費削減
• 土地改良事業に精通した者がシステム構築
を行う。→データの円滑な整備→経費削減
• 守秘義務の問題(民間コンサルへの個人情
報の流出を防ぐ)
• システム構築後のサポートの問題
今後の展開
• 土地改良区における賦課金業務と本システ
ムとの連動
• 換地業務と本システムの一元化
• Web対応型システムの構築
50
3-4
水管理制御システム
能島雅良(富士通(株)
)
1.
水管理制御システムとは
水管理制御システムは、ダム、頭首工等の水源から受益地に至る広範囲に散在する用
排水機場、用排水路、分水工、放流工等の基幹水利施設の内、主要な施設を集中監視し、
必要な制御を行うものである。水管理制御システムの主な導入目的としては、次の様なも
のをあげることができる。
①
水の有効利用
必要水量の確実な取水、必要な貯水量の確保、水源利用順位の規制
②
水の合理的配分
使用割合の維持、時期的需要量の変動への対応、地域的需要量変動への対応
③
施設の保全と災害防止
施設、機器等の異常の早期発見と保護
④
管理費の節減
動力費の節減、管理労務費の節減
⑤
その他
連絡・通報の即応性、各種記録の整理・作成等
2.
水管理制御システムの特徴
水管理制御システムの主な特徴を次に記載する。
①
水管理施設が広域に分散
広い範囲に散在する水源施設、用排水施設を集中管理するため、多数の施設の中
から運用管理上特に主要な施設を集中管理の対象施設として選定する。
②
ダム、頭首工、用排水機場、分水工などの役割に応じた集中管理
地区全体の営農計画や、水利用計画及び用排水施設と関連設備の特徴を把握して、
施設の機能、重要度などを考慮し管理レベルを選定する。
管理レベルは水管理制御方式技術指針に定義されており、主な管理レベルの例と
しては次のものがある。
中央管理所の場合
;Y-2A
ダム管理所、頭首工管理所の場合;B-2A
③
地区毎の水利的な実情、水管理制御システムの導入目的を考慮した監視制御
水位、流量、雨量などの計測項目やポンプ、ゲート、バルブの状態監視、操作項
目などの管理項目を、それぞれの地域の特徴やシステムの導入目的から選定する。
④
ランニングコスト(維持管理費)の低減
維持管理費は土地改良区が負担するため、極力ランニングコストの安価なシステ
ムの構成が求められており、特に中央管理所と子局を結ぶネットワーク網として、
機能を満足するネットワーク網の中から経済的に優れたものの選定が望まれている。
⑤
機器に求められる耐用年数が長い
一般に産業用の分野で使用されている電機・電子機器の耐用年数は10年と言わ
51
れているが、水管理制御システムを構成する機器には概ね15年(但し、パソコン
などの汎用品を除く)が求められている。この様な長期間の安定稼働を実現するた
めには、日頃の定期点検(精度の維持)や予備品の確保が重要な要素となっている。
3.
水管理制御システムの構成
水管理制御システムの構成は、ダム、頭首工等の大規模な水源施設を管理する場合と
地区全体の用排水施設を管理する場合では、管理対象施設、管理の目的が異なるためシ
ステム構成も異なっている。ここでは後者のケースを例に採り、システム構成を図1に
示す。
図1に示すシステムは、大別すると中央管理所と現場の子局及び中央管理所と子局を
結ぶネットワーク網から構成される。
図1
3.1
水管理制御システム構成図
中央管理所の構成と概略機能
中央管理所は、主に土地改良区の事務所に設置されることが多く、最近の中央管
理所の機器構成に関する特徴は次のとおりである。図2に構成例を示す。
(1)データ処理装置
データ処理装置は、1990年代半ば以降それまでのミニコンからFAパソ
コンに切り替わった。従来は1台のミニコンでデータ処理、表示処理、ファイ
ル処理、記録処理等のすべてを処理していたが、FAパソコンを使用する様に
なって機能分散・危険分散が進み、データ処理装置、表示端末装置、記録処理
装置など複数のFAパソコンを使用した構成になってきている。この様な分散
処理システムのメリットとしては、
・信頼性;一部の処理装置が停止してもシステム全体が停止しない。
(危険分散、信頼性向上)
・拡張性;機能が分散されているため、機能追加・変更が必要な装置のみ
52
システムから切り離してソフトウェアを修正することができ、
機能の追加・変更に対して柔軟に対応できる。
・経済性;機能を分散することにより、更新のとき必要な装置のみ更新で
きる。
をあげることができる。
また、FAパソコンの使用に伴い、操作卓、プリンタ等周辺装置とデータ処
理装置間のインタフェースも、従来の専用インタフェースからLAN、RS-
232C等の汎用的なインタフェースに切り替わっている。
さらに、大規模システムやデータ処理が重要なシステムでは、信頼性を重視
してデータ処理装置のみ二重化するなど、本当に重要な装置・部分のみの二重
か図られている。
図2
中央管理所の構成と概略機能
(2)遠方手動操作卓の汎用化
現場のポンプ、ゲート、バルブ等を中央管理所から操作するための装置とし
て表示器、表示灯、スイッチ等からなる操作卓が用いられてきたが、操作性の
向上、省スペース化、機能追加の容易性等からタッチパネルやFAパソコンを
使用した構成が用いられる様になってきている。但し、ダム、頭首工の河川ゲ
ート操作など信頼性が特に重要視される場合、制御の即時性が求められる場合、
更新時に操作方法の変更が望ましくない場合などのときは従来の操作卓が採用
53
されている。
図3
図4
遠方手動操作卓の汎用化
パソコンによる操作画面例
(3)大型表示装置の汎用化
地区全体の状況を把握する装置として水利系統を模式化したグラフィックパ
ネルや大型のデータ表示盤が使用されてきたが、これらの機器が機能の割には
高価なこと、表示項目の変更が容易にできないこと、各施設の監視手段がデー
タのみからCCTVカメラを使用した画像による監視が身近に行えるようにな
ってきたこと等から、プラズマディスプレイや液晶ディスプレイの汎用大型表
示装置が使用されるように変わってきている。
汎用の大型表示装置は、水利情報、設備状態、画像等を切り替えて表示する
ことが可能で、表示項目・内容の変更が容易に行える特徴を持っている。
54
図5
汎用大型表示装置の例
(4)ネットワーク網
水管理制御システムで従来から使用されてきたネットワーク網としては、次
のものがある。
①
NTT専用回線 帯域品目 3.4kHz 帯
遠方監視制御(TM/TC)用の回線として広く採用されている。
②
NTT専用回線
帯域品目 50BPS
ランニングコストが安価なため、子局から収集するデータ量が少なく、
制御の速い応答性が不要で年間を通して使用するときに採用されている。
③
NTT加入回線
灌漑期等の期間を限定して使用する等、データ収集頻度・使用回数が少
ないときに採用されている。
④
ISDN回線
画像データや処理データ等のデータ量が多いときに使用されている。
⑤
単一無線回線
主にダムの雨量・水位テレメータ、放流警報用の回線として使用されて
いる。他の回線と比べイニシャルコストが高い反面、ランニングコストが
安価なことから、分水工等の監視用にも採用されていることがある。大き
な特徴としては、倒木、崖崩れ、強風などによる断線のおそれが無いこと
から、防災面を重視する場合に安定な回線として多く採用されている。
最近使用され始めたネットワーク網としては、次のものがある。
①
光
誘導サージの影響を受けないため隣接する子局孫局間の様な部分的なデ
ータ伝送や、広域に散在する施設間でデータ伝送の他に画像伝送、音声伝
55
送など多目的かつ頻繁に回線を使用する場合に採用され始めている。
②
無線LAN
短距離間(約 0.3~1km)の画像伝送用。採用する場合には、回線設計、
現地調査(伝搬試験、混信調査)が不可欠である。
③
小電力無線回線
水位等の短距離伝送用(約 0.3~1km)。
④
ディジタルアクセス回線(DA回線)
遠距離間の画像データや処理データの伝送用に使用。
⑤
ADSL回線、携帯電話回線
適用エリアが更に拡大した場合や関連機関との情報交換等部分的なデー
タ伝送、画像伝送用として使用される可能性がある。
(5)その他
①
誘導雷等の対策
従来の耐雷トランス、アレスタに代わって、誘導サージに強い高速避雷
器が、電源用、計測信号用、回線用として採用されている。
②
センサ系
現場に設置するセンサー系では、電波式水位計が精度面、経済性面、施
工面から用水路水位の計測用として採用されている。
3.2
ダム管理所の構成と概略機能
ダム管理所の構成と概略機能を図6に示す。
ダム管理システムの特徴は、
①
データ処理装置
洪水時のデータ処理時や通常時の利水ゲートの操作時など、データ処理装置
の停止が運用管理に大きな影響を及ぼすことから、高い信頼性が求められるた
め、二重化されている。
②
機側伝送装置
取水ゲート設備、放流ゲート設備とダム管理所間は、数百m離れており、従
来は多芯のメタルケーブルを使用してゲート開度、ゲート状態、ゲート制御等
の信号を伝送していた。最近は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)や光ケーブ
ルが安価になったこと、PLCは機能の追加・変更が容易なこと、光ケーブル
は誘導サージの影響を受けず雷等の被害を受けないこと等から、ダム管理所側
にPLCの処理部、ゲート機側盤側にPLCのI/O部を設置し、処理部とI
/O部を光ケーブルで接続する構成が採用されている。この場合、PLCの処
理部を収容する装置を入出力処理装置、PLCのI/O部を収容する装置を機
側伝送装置と称している。
③
中央管理所での監視
ダム管理所と中央管理所間をネットワーク網で接続し、中央管理所に表示記
録端末装置や監視・警報盤を設置することにより、中央管理所でダム諸量デー
タ、水理状態、設備状態の監視、日報、月報、年報の記録を行い、ダム管理所
56
の運用管理一部を中央管理所で代行可能なシステム構成となっている。
図6
ダム管理所の構成と概略機能
国土交通省殿では、平成16年に図6の構成から図7に示す構成に替わる標準設
計書仕様(案)が発行された。主な変更点は、次のとおりである。
①
機側盤への機側伝送装置機能の組み込み
機側盤に機側伝送装置の機能を組み込むことにより、信頼性の向上、省スペ
ース化、コスト縮減を図る。
②
機側盤と入出力伝送装置、遠方(水管理制御システムでは遠隔)手動操作装
置間の通信方式としてFL-NETを採用(FL-NETとは、主にPLCの
処理部間を接続する標準的な通信方式である)
従来のPLCは、異なる製造メーカ間では高速のデータ通信ができなかった
が、各メーカがFL-NETを採用することにより可能となった。このため、
ゲート機側盤とダム管理所間の詳細な通信手順を標準仕様として定めることに
より、ゲート設備側とダム管理所側のメーカが異なっても支障無く接続可能と
なり採用されてた。
③
機側盤と遠方手動操作装置をFL-NETで直接接続
④
従来の演算処理装置(水管理制御システムではデータ処理装置)、操作端末、
表示端末、記録端末を放流操作装置に統合
放流操作装置が故障した場合は、必要最低限の機能を放流判断支援・流出予
測装置がカバーする。
⑤
表示盤や遠方手動操作装置の汎用品化
57
遠方手動装置には、メカニカルな非常停止スイッチを設ける。
なお、上記の変更を水管理制御システムに取り込むことについては、国土交通省
殿のダムと水管理制御システムが対象とするダムとは運用管理の面での相違がある
ことから今後十分な検討が必要と思われる。
図7
国土交通省殿のダム管理システムの構成例
4.水管理制御システムを取り巻く他のシステム事例
水管理制御システムを補完するシステムとして、第 3 世代携帯通信網等を利用した土
地改良施設管理システムを官民連携事業で開発しており、主な概要を記載する。
本施設管理システムは、
(社)農業農村整備情報総合センター殿、(株)NTTドコモ
殿と共同開発しているシステムで、土地改良区の管理負担の軽減に寄与するシステムの開
発を目的とし、日常の管理業務の効率化と、災害時における被災状況把握の迅速化を目指
したシステムである。
①
ユーザの想定と配慮点
本施設管理システムは、土地改良区が導入する場合を想定し、より容易で安価なもの
とするため、大容量・高速通信を可能とする既存の第三世代携帯通信網(FOMA)を利用し
ている。これにより、専用の通信インフラ設備や特別な端末機器の導入を伴わずに、手
軽な市販の携帯電話を利用したシステムである。携帯電話は、文字情報、位置情報(GPS)、
画像・動画(カメラ)、バーコードリーダーといった各種情報の入力端末として十分な高
機能を備えているとともに、現状で最も運搬が手軽な情報端末器である。
58
土地改良施設
GPS 衛
FW
DB サーバ
/Web サーバ
インターネット
管
DoCoMo-N
カメラ
公開
Web サーバ
他イントラネット
(閲覧)
携帯電話
関係者
携帯電話
②
理
水管理シス
活用イメージ
従来、現場で施設状況などの情報収集を行い、事務所に戻ってから情報を整理すると
いった段階的な作業を行っていたが、第三世代携帯通信網(FOMA)を利用して、事務所の
パソコンに現場から直接、点検情報や画像情報などを送信・保存することにより、作業
の効率化・迅速化を可能とする。また、リアルタイム映像による遠隔監視を容易にかつ
安価に導入することを可能とし、職員が現地に赴くことなく、事務所で現場の状況を自
由に把握することができる。
【日
常】;現地で、施設の点検記録を携帯電話に簡単な操作で入力し、直後にその場
で情報送信ができ、効率よく管理業務が行える。このため、地区全体の多くの施設の状
況を効率的に管理・把握できるようになることから、施設の適切な更新計画を立案する
ための情報の収集・整理が可能となる。
【緊急時】;災害時には携帯電話の GPS 機能、カメラ機能を活用することにより土地改
良施設の被災状況をいち早く正確に把握することを可能とし、早期の的確な対応・対処
方針を決定することが可能となる。
③
システムの特徴
a.会話型点検表作成機能
全国の各土地改良施設の種類が多様であり、管理団体による点検業務も多様であ
ることから、携帯電話向けの点検情報の入力フォームを、管理団体毎にカスタマイ
ズ可能とするための機能を有している。
会話形式にて携帯電話向けの点検フォームを作成
作成した点検フォームで点検作業を行う
作成した点検フォーム
日頃利用のExcelシート形式に出力
施設管理システム
点検結果をアップロー
59
b.簡易な GIS 機能
ベクトル型の数値地図を採用した高価な GIS の利用を回避し、ラスタ型の地図を
採用した簡易 GIS エンジンを採用し、点検業務・災害情報管理運用向けに特化した
比較的廉価版としている。また、デフォルトの地図を国土地理院刊行の地図とする
ことで初期費用を軽減するとともに、管理団体毎に利用したい地図が異なることも
考慮し、システム仕様に合わせた地図の用意により、カスタマイズ可能としている。
■地図上クリック機能
□情報表示
・点検/巡回表
・施設情報
・災害情報
□携帯TVカメラ接続
□地図操作
・拡縮/移動
□情報登録
■コマンド機能
□検索 (施設・点検情報などの検索)
□端末管理 (携帯電話・利用者管理)
□保存 (データ保存)
・施設
・入力フォーム
c.遠隔映像監視機能
地図上に表示されている施設アイコンをクリックする操作から、現地に設置され
ている FOMA 対応カメラに接続し、現地のリアルタイム映像を表示する機能を有し、
管理所より現地状況の映像による確認を可能とした。また、管理所からカメラのズ
ーム、旋回などの遠隔操作機能も可能とした。
社内LAN
FOMA対応カメラ
LANに接続。映像を
見ながら関連データ
の閲覧も可能。
+
DoCoMo
映像受信PC
NW
FOMA
GISシステム
映像伝送装置
簡単な操作で、映像による
遠隔監視が可能である。
GISシステムから映像閲
覧ソフトの起動、および
遠隔カメラへの接続、映
像の保存を自動で行う。
カメラアイコンをクリック
映像遠隔監視ソフト
映像の閲覧・自動録画開始
【参考・引用文献】
①
全国土地改良事業団体連合会:わかりやすい土地改良施設管理入門
②
農業土木機械化協会:水管理制御方式技術指針(計画・設計編)
③
国土交通省河川局河川環境課:ダム管理用制御処理設備標準設計仕様(案)
60
水管理制御設備
4.情報技術の適用事例に関する事項
61
4-1 住民参加による農村景観づくりと景観シミュレータの活用
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
農村工学研究所農村環境部景域整備研究室
山本徳司
キーワード:景観法、農村景観、景観シミュレータ、住民参加、景観画像データベース
Ⅰ.はじめに
平成 13 年 6 月の土地改良法の改正に伴い、土地改良
事業は景観や自然環境への調和が重要な視点となった。
また、平成 16 年には、良好な景観を「国の資産」として
位置づけた初の基本法である「景観法」が制定され、農
林水産省においても、これに対応し、同年 8 月に「美の
里づくりガイドライン」1)を公表し、平成 18 年には「農
業農村整備事業における景観配慮の手引き」が作られ、
美しい農山漁村景観の形成に向けた施策を展開している。
景観保全・形成の方法論に関しては、景観の計画・整
備技術者が持つべき技術的指針の整備もさることながら、
地域住民との協働作業プロセスの確立も重要な課題であ
り、住民参加活動におけるコミュニケーション促進のた
めのGIS(地理情報システム)や景観予測技術等の利
用手法と技術の簡易化、汎用化が望まれている。
本論では、住民参加による農村景観づくりの意義や方
法について触れるとともに、住民参加を進める場合の現
場普及型の支援技術としての農村景観シミュレータの開
発とこれに連動する簡易型GIS景観画像データベース
の開発について述べる。
Ⅱ.景観施策進展の背景
農村においては、これまでも生産・生活環境の一体的
な整備を行われてきたが、どちらかというと、生産環境
の機能向上のための整備が中心となっており、生活環境
については、利便性、安全性、衛生性などに特化された
整備であり、アメニティにかかる整備は遅れてきた。し
かし、近年、安全・安心な農産物の供給のほか、豊かな
自然環境の保全や美しい景観の形成など農業・農村が有
する多面的機能への国民の期待が高まり、景観、文化の
伝承、
教育等の機能が重視されるようになってきている。
その一方、過疎化・高齢化の進展等により、地域の活力
は低下している状況にあり、農業の衰退による耕作放棄
等が増える中、ミニ開発等の無秩序な土地利用も進み、
従来行われていた環境管理作業も十分に行われず、日本
の原風景とも言える景観の魅力は失われつつある。この
62
ような流れの中、農村を農業生産の場だけではなく、地
域文化空間として捉え、里山の自然や集落、伝統文化、
景観、そしてそこに住む人々を農村の社会資本として位
置づけ、地域全体で守り、持続的な管理がなされる空間
として保全、
整備していくことが重要であり、
「農の振興」
から「地域の振興」へとパラダイムをシフトさせる必要
が生じている。
平成 11 年には、食料・農業・農村基本法が制定され、
基本理念の一つとして、
「食料の安定供給の確保」と並び
「多面的機能の発揮」が位置付けられ、その中に良好な
景観の保全も入ることとなった。このような情勢の変化
を受け、土地改良法は平成 14 年に改正され、農業水利施
設、農道、圃場の整備等においては、生産性の向上、農
業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の
改善を図るとともに、可能な限り農村の二次的自然や景
観等への負荷を回避し、低減するための措置を講ずるこ
とが必要となってきた。これまでのように、生産機能重
視の真っ直ぐな 3 面張りコンクリート水路一辺倒ではま
かり通らなくなり、更に、これまでに失われた良好な環
境を回復し、更には良好な環境を創造するという視点も
必要となっている。
農村環境整備における景観施策については、農林水産
省は、有識者による「農山漁村の美しさに関する検討委
員会」報告を、平成 15 年 7 月に「美しい農山漁村づくり
に向けて」として題して公表した。その中では、景観の
美しさに関する基本的な考え方を整理するとともに、美
しい農山漁村づくりに関する視点を、
「健全な農林水産業
の営み」
、
「豊かな自然環境の保全」
、
「伝統文化の息づく
地域社会」
、
「都市との活発な交流」
、
「空間的な調和」の
5 つに整理し、それらを地域住民参加で進めることが重
要であることを定義した。また、この検討会報告に基づ
く具体的な施策の方向を示すものとして、
「水と緑の”美
の里”プラン 21」を同年 9 月に公表し、景観配慮の原則
化、住民参加の促進、法的規制の明確化、情報の収集・
発信と技術の開発を提示している。平成 16 年には、
「景
観法」が制定され、これに対応し、農林水産省において
い景観)に対する反応は、見た目の美しさはさることな
がら、近傍の小川のせせらぎ、あるいは小鳥の声を耳で
感じ、そよ風を頬で感じ、新緑や花の香しい匂いを鼻で
感じる等、そうした種々の感覚での、総合的な判断の結
果といえる。そうした意味からすれば、我々が地域に生
きていく上で、優しくかつ望ましい環境を創出していく
には、そうしたものを感じとれる、認識できる感覚での
対応が必要となる。まさに『五感に訴える環境(景観)
整備』を考えなくてはならない。しかし、この分野の研
究は緒についたばかりで、いろいろな検討が加えられて
いる段階であり、環境や景観をトータルに扱う段階には
到っていない。
2.景観保全・形成における活動的側面の重要性
景観の保全・形成に当たっては、先ずは視覚的な把握
方法が課題となるが、これには、現象として景観をとら
える場合と計画としてとらえる場合の両側から接近する
必要がある。現象としてとらえる場合は、時間(いつ)
と空間(どこにどんなものが)において、主体(ひと)
の視点と対象(もの)との関係が構造を決定づけている
こととなり、どのような見方をするのかが問題となる。
一方、計画としてとらえる場合は、主体と対象の操作性
が問題となり、主体、対象のそれぞれがどう操作される
かによって景観の構造が決定される。現象論的な把握と
計画論的な把握の関係は図 1 のように整理できる 2)(篠
原修 1982)
。また、図にあるように、計画においては、
操作的な側面が強く表れる場合と、活動的側面が強く表
れる場合に分かれる。
は、
「農山漁村の美しさに関する検討委員会」報告を踏ま
え、同年 8 月に「美の里づくりガイドライン」を公表し
た。その後も、美しい農山漁村景観の形成に向けた様々
な施策を展開しており、土地改良施設整備に当たっての
地域の個性を活かした適正な景観配慮についても、
「農業
農村整備事業における景観配慮の手引き」を整備し、手
法、基準等の検討が進みつつある。農林水産省では、景
観施策の推進においてとかく陥りやすい視覚的な美しさ
に捕らわれず、基本的な概念として「生きる空間(生き
生きとした生産・生活によって維持される快適空間)
」と
しての景観配慮を目指している点で評価される。
Ⅲ.農村景観の特徴と定義
「景観」は、元来地理学の用語であり「自然と人間界
のことが入り交じっている現実のさま」と定義づけられ
ている。言い換えれば、
「景観」とは、自然との関わりに
おいて人間の諸活動が歴史的に堆積されて形成されたも
のと見ることができる。
一般的に人間の諸活動は、結果として農村における水
田や畑、樹園地、牧草地そして集落・樹林など土地利用
と密接に結びついている。さらにその土地利用は、地形・
水・気候・植生などの自然的・生態的条件、農業や林業、
畜産業などの経済的・産業的条件、土地の所有関係、家
あるいは生産組織をはじめとする社会集団のあり方など
の社会的・制度的条件、そして開発の歴史、生活ならび
に生産様式など、歴史的・文化的条件と切り離して考え
ることはできない。集落の立地条件によって景観要素間
には特定の位置関係が見いだされ、この特性によって景
観の見え方は規定される。
よって、農村景観の定義は、人間が定住社会を形成し
て以来、その地域の自然、気候・風土に絶えず改良を加
え、その時代時代の自然環境、社会環境、社会生活が形
成されたもので、この改良により形成された土地利用に
基づく自然的環境、社会的環境、社会生活などの総体で
あると言えよう。
図 1 景観を現象論的に・計画論的側面からみた場合の
操作的側面と活動的側面の位置付け
Ⅳ.景観保全・形成の方向性
1.景観保全・形成の視点
農村景観が人間と自然との営みの総体である以上、そ
の形成に当たっては、総合的な判断に基づく対応が望ま
れる。一般に、環境や景観の評価に当たって、対応する
器官は五感であり、それを通じて外界との間に刺激の受
容が行われる。
つまり、日常生活における外界の刺激(例えば、美し
活動的側面は、主体に関わるものが中心となり、主体そ
のものの操作というのは、人の心の操作であるので、こ
れは操作するというよりは、人および集団が生産・生活
活動の中で、対象をどのように再構築していくのかと言
った活動的側面によって操作されるものである。
景観は、
集団が、自分たちの周辺の豊かな自然環境を保全し、文
化・歴史的環境を活用し、農林水産業等の地域生産活動
63
も含んだ、人と自然の美しい共生の精神によって構築さ
れたものであり、地域住民さらにはこれらの魅力を享受
する国民全体によって支えられている。
そして、これらの農山漁村の景観は、人間の長い年月
をかけた厳しい自然への働きかけによって生まれ、地域
の記憶とともに現存するものであり、農林水産業の持続
的な展開、地域環境の保全とあわせて地域住民が快適な
農山漁村空間の形成に関する意識をしっかりと共有して
はじめて成り立つものである。
地方自治体の規模拡大や地方分権が進む中、地域間の
格差はこれまで以上に拡大し、地域の個性が消失するこ
とも懸念されている。そんな現状に対して、地域住民が
自らの人生の舞台となる地域において、互いに親密なコ
ミュニティを形成することによって、住民自身が自らの
生産・生活空間の価値を再認識し、自らの負担と行動に
おいて、場の価値を向上させるような地域づくりの視点
はますます重要となると考える。
また、農山漁村で発生している今日的な課題である地
域活性化、自然環境の保全、文化の継承や高齢化、教育、
福祉、防災等の問題は、より多様化、複雑化しており、
行政だけでは対応しきれない要素がたくさんある。これ
らの問題を端的に表出している景観そのものを、地域住
民自らが、多様な側面から見つめ直し、これらの問題解
決に取り組み、将来の子供たちへ誇りを持って生産・生
活の場としての地域環境を渡していけるよう、努力しな
ければならない時代となっている。
の活性化を通じ、自らの生産・生活空間を美しく、豊か
な空間にしようとする活動と、この活動を通して醸成さ
れる地域コミュニティにより生み出された共通の価値に
よって築きあげられるものであることから、活動的側面
は計画において最も重要な柱となる。活動的側面におい
て特に具備すべき要件は公共性であり、この要件の具体
的な内容は、プロセスの妥当性、客観性、明示性の 3 つ
である。
それに対して、操作的側面は、対象が操作されるもの
であり、空間と時間の操作によって異なる心理的なデザ
インが導き出される。空間の操作においては、対象その
ものの操作と、対象と対象の関係操作によって景観構造
は変化し、時間の操作においては、変遷の間接的な操作
によって景観構造が変化することになる。また、主体に
ついても、視点については、見せる位置を変えるなどの
操作が可能となる。
操作的側面において具備すべき要件は実行性であり、
実行性を高めるためには、心理学、社会学、美学、哲学、
地理学、民俗学等などの人文・社会科学や建築学、土木
学、造園学、生態学等の自然科学等を総合した科学的根
拠に基づいた操作の基準の整備が必要となる。
景観工学としての計画論では、操作的な側面が中心と
なるが、本来は、操作的側面以上に活動的側面が重要で
あり、いかなる活動プロセスと合意によって操作が成さ
れたのかについてをデザイン計画で明確とするべきであ
る。簡単に言うと、どんなに論理的にデザインを操作し
たとしても、最後は、人の心の問題となると言うことで
ある。
また、以上のような視覚的側面としての景観構造の把
握だけでなく、意味空間としての歴史的・文化的把握も
重要である。特に、活動的側面の推進においては、景観
の中に表出する伝承文化事象を歴史的変遷を追いながら
整理し、その景観構造に至った過程を捉えることによっ
て、今後の景観整備の方向が求められる。この方法は、
景観工学的なアプローチでなく、民俗学、地理学に寄る
ところが多く、ややもすると見失われがちであるが、こ
の側面からも十分な把握がなされるべきである。これら
のアプローチは、景観機能がもつ、多様な機能を表面化
し、子供たちの農村・農業の体験学習における教育的機
能や保健休養機能にも繋がるものである。
3.住民参加で景観づくりを推進する意義
農山漁村の景観の美しさは、活力ある農林漁業が形成
する健全な産業のみならず、適切に保全された自然環境
や伝統文化等によって醸し出された魅力、風やせせらぎ
や潮騒の音、緑や土や水の匂い等の五感で感じる要素等
Ⅴ.住民参加活動における技術ツールとしての景観シミ
ュレータ
1.住民参加活動による景観保全・形成の技術的ネックの
打破
住民参加活動によって、景観保全・形成を計画、実践
していくに当たり、これまでのネックとなっていた大き
な技術的要因がある。それは、なんと言っても、景観が
視覚的(実際には五感すべて)な問題であるが故に、住
民の景観に対する想いの表現や技術者サイドの景観計画
の説明に当たって、視覚についての共通理解が得難い点
である。これまでは、景観を表現する場合、住民は、
「桜
並木を整備したい」とか、
「公園を作りたい」とか、
「花
を植えたい」と言った言語で、景観保全・形成活動の内
容を示すのが精一杯であった。しかし、この方法では、
どんな桜並木を整備すれば周辺の景観と調和するのか、
また、借景となる山々と調和するのかといったことが表
現できない上、住民どうしでの相互理解も進まない。桜
並木の整備と言った場合、ある人はかなり密な桜並木を
64
想定し、
またある人はかなり粗な桜並木を想定しており、
整備されてみれば、互いが思い描いたイメージとはかな
り違っているということがある。また、技術者サイドと
しても、平面図で位置を示し、現地説明するのが精一杯
で、整備後の 3 次元的な像までは示せないことから、説
明に歯痒い想いでいた。大規模な建築、土木構造物の場
合は、比較的古くからCGや模型等を使った景観予測が
されていたものの、農村景観の予測をCG等で行うこと
は予算的な観点、効率性の観点からも先ず行われなかっ
た。しかし、不特定多数の景観享受者を持つ都市景観と
異なり、特定少数の地域住民が代表的な景観享受者とな
る農村部こそ、計画策定において、相互理解を進めるた
めの住民参加ツールが必要不可欠であり、住民間、住民
-技術者間で施設整備後等の景観の将来像を予測し、相
互理解を図っていくべきである。
よって、景観保全・形成において住民参加活動を円滑
に推進する上にも、景観予測のための簡易な技術ツール
が求められることとなる。
2.景観シミュレータ活用の意義
景観シミュレーションとは、PCを利用して、デジタ
ル画像処理やコンピュータ・グラフィックス等により、
現場写真に様々な景観構成要素の加筆・修正を行い、景
観の予測画像を作成する技術である。
この景観シミュレーションは、一般的なPCとシミュ
レータと呼ばれるソフトを利用することによって可能と
なるが、PCがモバイル化、ネットワーク化した現代に
おいては、どこでも作業ができる点で、地域づくりのプ
ロセスにおける合意形成を目的としたコミュニケーショ
ン促進に大きな役割を果たす。景観シミュレーションを
活用する意義をまとめると次の 4 点ある。
①事業の計画・実施段階での事業後の予想画像、経年変
化による予測画像、過去の景観の再現画像の作成や住民
の景観づくりのアイデアの視覚化等を行うことにより、
変化後の具体的な景観を仮想体験することが可能となる。
従来の平面図やイメージパースよりも高いリアリティを
持って景観について検討することができ、多くの人が客
観的かつ共有的に空間を認識することが可能となる。
(図
2)
②地域住民が求める景観の将来像を、正確に住民や技術
者に伝達できるとともに、技術者が住民の意見や意向を
的確に聞き取ることが可能であり、景観づくりに当たっ
ての住民と技術者との相互理解を深めることができる。
③景観構成要素の色彩、形状、配置等を様々に変えるこ
とにより、複数の景観イメージをシミュレートできるこ
とから、具体的な景観の保全・形成が行われる前に、景
観の比較検討により、地域住民が求める景観としての評
価や景観づくりの効果の判定が可能となる。
④農山漁村づくりでは、現在の景観の成り立ちや他地域
との景観の違い等について、生態系や歴史・文化の観点
から見直すことが重要であり、
景観シミュレーションは、
これらの環境学習のツールとしての役割を果たす。
景観シミュレーションを適正に活用するためには、技
術者のシミュレーション技術の修得と景観デザインに対
する感性を磨くとともに、楽しさ・おもしろさの要素を
入れた創意と工夫によるプレゼンテーションにより、住
民間の円滑なコミュニケーションを図ることが大切であ
る。
図 2 多様な景観シミュレーション事例が住民の検討資料となる
のソフトウェアはすでに多くの市販品があるが、汎用性
がある反面、初心者には操作が困難で、習得に時間がか
Ⅵ.技術普及の問題点と開発経緯
かり、
事業現場への普及レベルには達していない。
また、
景観予測のための景観シミュレーション技術は、デジ
普及に当たっての最大のネックは、合成画像を作成する
タル画像合成、CG、模型制作等様々な方法が取られ、
場合の景観構成要素となる部品画像データの整備がされ
現場の目的に応じて活用されつつあるが、低価格・短期
ておらず、現場での効率的な業務に支障となっている。
間で景観イメージを形成できるものとしては、やはりデ
そこで、農村工学研究所では、簡単なレイヤ構造を導
ジタル画像処理が有効な技術となる。デジタル画像処理
65
入し、容易な操作で習得が速く、景観構造を技術者が学
習しながら処理が可能な機能を持ったアプリケーション
を開発すると共に、全国の技術者がネット上で、地図デ
ータ上の位置データを含め、画像データを様々なカテゴ
リーに分類・登録することによって、相互共有が可能と
なる簡易GIS型景観画像データベースシステムを作成
した。
背景画像を読み込む
画像DB
部品画像を読み込む
画像DB
設定モードにより部品画像か
ら必要な部分の領域を選択
し、クリップウインドウに保存
クリップDB
クリップイメージを選択し、貼り
付ける
クリップの移動・拡大
消しゴム
描画モードで細かい修正
色調整
ぼかしブラシ
レイヤの合成
Ⅶ.開発システムの特徴
1.景観シミュレータ部(図 3)
(1)一般に市販されている画像処理アプリケーション製
品の利点、欠点を分析し、農業農村整備事業上、直接必
要でない機能を搭載せず、ツールボタンやメニューの数
を減らし、自然物を扱う景観シミュレーションに特化し
て操作性の向上を追求した。
(2)予測景観作成において、重要な概念となるレイヤに
よる部品画像管理機構をクリップウィンドウとレイヤウ
ィンドウの 2 段構造として実現し、他のソフトよりも理
解しやすいインターフェイス設計とした。
(3)ドラッグ&ドロップするだけの簡単な操作で合成操
作ができ、直感的な操作感で実行できる。
クリップウィンドウに部品画
アイコ ンは左から右へ(切
取り→編集→描画)順に使っ 像を貯めレイヤウィンドウで
合成していく
ていくだけ
合成画像DB
・茶畑の中に道路を通し、コミュニティ施
設を建てた場合の景観予測を行った。この
画像がわずか10ステップ程の操作で作成で
きる。
図 3 景観シミュレータの作業の流れと
インターフェイス
(4)美の里づくりガイドラインの「空間的な調和」におい
て示唆されている景観の「図」と「地」のデザイン構造
を十分理解しながら、景観イメージを構成していくこと
になり、単に貼り絵を作るという観点から、住民ととも
に景観について学習しながら、より良い景観イメージを
策定・検討できることも大きな特徴である。
2.景観画像データベース(図 4)
マップ毎に景観データが整理される
色分けで部品のカテゴリーを分類
図 4 景観画像データベースシステムのメイン画面
66
域やサーバの処理能力などを考慮し、ユーザーとサーバ
管理者間でキャッシュ(蓄積)して差分だけを転送する
方式にし、遅い回線や処理能力の低いサーバでも運用で
きるようにしている。
(4)ユーザーとサーバ管理者の運用イメージは図 5 のよ
うな構造である。このシステムによりネットワーク参加
者は画像をインターネット上で共有できる。全国の景観
形成・配慮の取り組み事例を地域住民間で学習しながら
景観シミュレーションができる。
(1)景観画像毎に、空間工種、空間目的、空間視点、時間・
季節、天候の画像属性を付与することができる。ユーザ
ーが属性を組み合わせて検索すると、該当する景観画像
をサムネイルで表示でき、目的とする部品画像を景観シ
ミュレータに送ることができる。
(2)画像データベースは地区毎に地図と連動しており、
ユーザーは地図と画像属性をもとに目的とする画像を容
易に登録・検索することができる。
(3)画像の共有は、
インターネット回線のトラフィック帯
景観画像情報センター
写真の著作権やセキュリティを
チェックしてから公開だ。
実際に整備された例
部品画像
地図
地図と
リンク
サーバ群管理システム
専門家によるデータ更新組織
代替案1
代替案2
Internet
ダウ
ンロ
地図にセットして送る
アッ
ード
プロ
ード
景観シミュレーション
こうしたら
もっと良くな
ると思うな。
現況
住民組織・事業所
データベースに登録
しておきましょう。
住民
景観保全NPO
図 5 住民参加画像共有ネットワークの運用イメージ
2.プロセスの展開方法と実践
(1)関心・参加の段階
地域住民の地域環境や景観に対する意識を啓発し、環
境や景観を感じ取る感性を向上させるためには、住民ひ
とり一人が身近なところから地域について関心を持つこ
とが大切である。そのために、先ずは、家の周りの木々
に目を向け、家の横の側溝を流れる水のにおいを気にす
るのである。そして、住民ひとり一人の身近な環境に対
する関心が高まってくると、活動を通して、地域環境・
景観づくりについて、自分と同じような意見や違った意
見を持つ仲間がたくさんいることがわかってくる。そう
なると、次は、住民どうしでいろいろな立場の人の意見
をまとめてお互いの認識を確認していく。そこで、住民
全員参加の下に、同一目標を達成するため、意見をまと
Ⅷ.農村景観づくりプロセスでの景観シミュレータの活
用例
1.農村景観づくりプロセス
住民参加による農村景観づくりでは、地域住民が地域
についての問題を共有し、行政や専門家の支援を得なが
ら、身近なことから一歩一歩、楽しみながら、具体的な
取り組みを進めることが大切である。筆者らは、住民参
加活動に当たって、これまでの多くの地区での実践事例
を踏まえ、図 6 にある関心-参加-発見-理解-創出の
活動プロセスに沿った活動が効果的であり、その中で、
景観シミュレータが多様に活かせると提唱している。
ここでは、このプロセスに沿った方法で地域づくりを
展開したM市Y集落の事例を紹介し、その中でのシミュ
レータの活用例を紹介する。
67
めるための「場」としての組織づくりが必要になってく
る。この段階では、子供、女性、高齢者等を含む幅広い
地域住民層がそれぞれの立場から、得意分野を担う様々
なグループを通して、関心事項について広く意見を出し
合うことが求められる。環境に関心のある地域住民にも
そうでない住民にも、地域環境や景観に関心を持っても
らうために、環境家計簿や環境認知マップづくり、景観
コンクール、シンポジウム、イベント等を通して、幅広
く住民参加を呼びかける。
今までの活動をとりまとめ、地域の将
来構想を策定し、創出したものを味
わうとともに新たな関心を生む。
構想策定
第5段階
創出
共同学習
地域を適正な方向へと
導 く ために 、住民と行
政と専門家が一体となっ
て学習し、地域の自然
や社会のしくみについ
ての理解を深める。
自分たちを取り巻く環境とそ
の問題に気づき、関心を持
ちはじめる啓発の段階。
第1段階
関心
啓発
プロセス
の展開
第4段階
理解
第3段階
発見
第2段階
参加
組織化
一 人一 人の関心を、
地域全体、集落全体
に発展させるための
組織づくり。
再点検
住民全員で、地域資源を認識、評価し、
資源の利活用について意見を出し合う
点検の段階。
図 6 地域づくり・農村景観づくりのプロセス
M市Y集落では、先ず始めに生活環境アンケートを実
施し、居住環境の問題点を整理した。これは、身近な環
境問題を明らかにすることにより、地域環境に対して関
心を持ってもらおうとしたものである。この段階では、
問題点抽出型の点検をした。
このような活動を進める中、
子供から高齢者までが意見を出し合うための「話し合い
運動推進委員会」を発足し、これを、後に、地域環境づ
くりのための新しい組織「楽しい村づくり推進委員会」
の発足に繋げた。はじめは、住民の関心は薄かったが、
より多くの人に「気づき」をしてもらうため、景観シミ
ュレータで虫食い状態となった農地、耕作放棄の進んだ
農地といった最悪シナリオの将来予測景観を作成してみ
たり、日常的に住民誰もが接している集落内のランドマ
ークとなる景観の一部を景観シミュレータで消してみた
り、
別のものに置き換えたものをプロジェクターで示し、
「まちがい探し」をすることで、日頃十分に地域の環境
や景観を見ていないことに気づいたりしてもらった。こ
の「まちがい探し」は、ゲーム感覚で楽しめる上に「気
づき」の効果も高く、関心・参加の段階で有効な方法で
ある。
(2)発見の段階
発見の段階では、関心を地域全体の環境に広げてみる
とともに、多様な価値観を通して、プラス面を探し出す
活動が重要である。地域に現有しながらも忘れ去られて
68
おり、地域の個性を表わしている地域独自の魅力ある資
源を探し出し、それを地域の宝として住民の暮らしの中
で守り育てていくことである。この段階の活動では、住
民同士で地域環境に対しての共通認識を持つことが目標
となる。
この段階での効果的な取り組みは、地域景観の評価会
を実施したり、住民全員で地域環境の現状を点検し、魅
力ある資源を発見する集落環境点検や意見整理と評価の
ためのTN法などの様々なワークショップツールを実践
していくことである。
また、地域住民は、地域の環境に日常的に接している
ことから、地域にある問題点や魅力になかなか気づかな
い場合がある。そこで、内発的な気づきだけではなく、
都市住民やNPO等の地域外部の意見や評価などの外発
的な刺激により、地域住民の活動を促進し、発展させて
いくことも重要となる。非日常的なワークショップとい
う体験を通して得ることは問題点も多々あるが、環境の
共有認知を生むことに十分に繋がる活動となる。
この地区では、地域景観に対するアンケート調査を実
施するとともに、その結果の広報と座談会形式による環
境学習会を実施し、景観づくり推進の重要性の認識向上
に努めた。また、土水路とコンクリート水路、真っ直ぐ
な道路と曲がった道路等の現地の景観写真を使った景観
シミュレーション画像を比較した景観評価会を行い、自
分たちの住む環境や景観について、今まで気づかなかっ
た良さ、悪さを再認識した。さらに、自然、文化・歴史
等の資源の現状を把握するために、集落環境点検のワー
クショップを実施し、住民全員の環境意識の高揚を図っ
た。
(3)理解・創出の段階
地域の再発見が十分にできれば、次は、自分たちの地
域づくりを適正な方向へと導くために、住民が行政や専
門家等の支援を受け、知識や意見を取捨選択しながら、
地域社会の現況や社会的情勢から予想される将来像、自
然環境の構造や文化的・教育的な地域資源について十分
な知識を得るとともに、その保全や復元、新たな利用の
方法について検討する。よって、行政や専門家は、住民
が学習しやすい場と学習のためのわかりやすい情報を提
供していくことが大切な役割となる。行政や専門家は、
住民の活動を支援しながら、共に地域の環境について学
習する姿勢が重要となる。学習においては、地域有識者
や高齢者から地域の歴史や文化について聞き取ることも
大切であり、世代間のコミュニケーションを通して認識
共有の幅は広がるだろう。
言語のみによって住民間の意思疎通を図ることが難し
い場合は、住民の理解を助け、効果的・効率的に作業を進
めるために、地理情報システムや景観シミュレーション
等を活用するのも良いだろう。
そして、地域の自然や社会の仕組みについて十分に理
解を深め、
地域の将来像を適正に描ける準備が終われば、
最終的な段階として、これまでの活動をとりまとめると
ともに、住民の合意を得ながら、基本構想、地域ビジョ
ンを策定する。これらの策定は、各種事業の計画的な推
進や法律的な規制・誘導に効果的に働く。あくまでも事
業ありきの計画ではなく、逆にこれらの計画がその規制
にも働くことが必要となる。
また、地域を持続的に保全するためには、運営や管理
の仕組みを整備することも必要となる。そのためにも、
楽しく、住民が自らオーナーシップを実感できるような
取り組みが大切である。地域住民が、無理なく、楽しく
参加することで、地域づくりに携わる手応えや喜びを感
じられるような活動であれば、その取り組みは持続的な
ものとなるだろう。
この地区では、最終的に「集落環境ビジョン」を策定
した。また、参加、発見へ至る途中段階で創出に当たる
取り組みとして、
「四季の景観カレンダーづくり」
、
「郷土
史づくり」 (全戸配布)を行い、楽しい村づくり推進委員
会の活動を住民にアピールした。
将来ビジョンの中には、
手づくり公園で桜の木の植樹や、グランドカバープラン
ツへの挑戦等、計画達成後のイメージを景観シミュレー
ションによって作り(図 7)
、掲載するとともに、その計
画に対する評価もアンケートを通して行い、合意のでき
たものから実現化に向けて動いた。
3.農村景観シミュレーションの役割
本活動においては、地域づくりにおける環境学習を目
的とした景観シミュレーションの利用を考えた。
先ずは、
地域景観を様々に変化させて、現況の問題点や今後の方
向性を探るための環境学習に利用したことにより、住民
の景観に対する意識が啓発されるとともに、他地域との
違いを見つけ、地域の魅力を創出する力となった。集落
ビジョンに提案されている具体的な景観づくりについて
は、その多くを、住民の意見を直接受けながら、技術者
が一つ一つ景観シミュレーションによってイメージ画を
作成した。
図 7 M市Y集落での景観シミュレーションの現場活用事例
Ⅸ.おわりに
景観は、文化的・生態的意味を持って、永い年月を経
て形成された地域の生活と土地の姿であるから、
決して、
視覚的要素だけの検討で終わってはならない。今回紹介
69
したシステムは、誰でも簡単に使えるため、ややもする
と、景観シミュレーションによる視覚的な検討だけが先
行する場合も想定される。
地域住民みんなで話し合い、
自分たちの地域にふさわしい
景観を保全し、創造していく
場合に、景観シミュレーション
が役立つ。
現況
景観シミュレーシ ョンによる修景
左上は現 況ね。
これは これで良い
景観じゃな い。
せせらぎの散歩道
を整備したらどうだ
ろうか。並木も有っ
た方が良 いじゃな
いかな。
図 8 住民参加による景観づくりワークショップで活用
参考文献
1)農林水産省農村振興局,美の里づくりガイドライン
pp.1~207(2004)
2)篠原修,新体系土木工学 59 土木景観計画,pp.17~
65(1982)
3)山本徳司,住民参加型の地域環境づくりとその実践評
価,研究ジャーナル Vol.25,No.12,pp.23~28(2002)
地域の生活があって、農業が営まれてはじめて成り立
つのが景観であるから、景観シミュレータも画像データ
ベースも、地域住民と話し合うためのコミュニケーショ
ンツールだと考えて、地域づくりの一環で、ワークショ
ップ等に組み込み、技術者と住民が話し合いながら、学
習利用すべきである。
(図 8)
70
4-2 農村地域の保全・機能評価における地理情報の活用
栗田英治(農村工学研究所)
近年の農村地域の整備・保全・管理に関わる大きな課題として,多面的機能の評価と地
域資源の保全がある。多面的な機能の評価においては,どのような特徴を有する地域の,
どんな要素が,どのような機能をどれだけ発揮しているのか。地域資源の保全にあたって
は,どのような資源が,どこに,どれだけ分布しているのか。それらの保全・管理は誰が
担っているのか,などの点を明らかにしていくことが必要である。これらの課題に答えて
いく上で必要となる,地域の特徴,機能を発現する要素の分布,自然立地条件等に基づく
機能の評価,資源の分布,資源ごとの保全・管理状況といった点の把握・解明には,地形
や土地利用,施設の分布などの農村地域の整備・保全に関わる地理情報の活用が不可欠で
ある。
地理情報(Geographic Information)とは,デジタル化された位置情報(地図等)と位
置の持つ属性情報(統計データ等)を関連づけられたものであり,それらをコンピュータ
上で,作成・管理・利用することが出来る統合的な情報システムのことを地理情報システ
ム(Geographic Information System)という。地理情報は,地図や衛星写真,航空写真な
どの図形情報,地物に関連する属性等の属性情報,使用している座標系や縮尺,精度など
のメタ情報からなる。図形情報は,航空写真や衛星画像,スキャニングした地図画像など,
格子状(グリッド)に並んだセルによって示されるラスターデータと,測量や地図のトレ
ース,CAD データを変換したものなど,座標とそれらから構成される点(ポイント),線(ラ
イン),面(ポリゴン)などによって示されるベクターデータに分けられる。これらのデー
タの活用にあたっては,スキャニングや測量,トレースなどの方法で自らデータを作成す
る方法と,国土数値情報(土地利用,標高,地形)や農林業センサス(農業集落界,統計
情報)など,既存に整備されている地理情報を活用する方法がある。本稿では,既存の地
理情報を活用した多面的機能の評価の事例として,「国土数値情報,農林業センサス,自然
環境基礎調査データを用いた水田冬期湛水の実施ポテンシャルの評価」について,地域資
源の保全への活用事例として,「時系列航空写真を用いた農村地域の景観・土地被覆の変化
と人為的管理の変遷の解明」について紹介する。
4-2-1 生物・生態系保全を目的とした水田冬期湛水の実施ポテンシャルの評価への活用
近年,環境保全,生態系保全等の目的から注目を集めている水田冬期湛水の実施にあた
ってのポテンシャルを,水田冬期湛水実施地区へのアンケート,アンケート結果をもとに
整理した考慮すべき立地条件から検討した。アンケートにおいては,冬期湛水の実施目的
と栽培方法を中心に把握を行い,表1の実施形態の整理を得た。
表1 目的・栽培方法からみた水田冬期湛水の実施形態
実施目的・意図
冬鳥型
冬鳥の保護
水田生態系型 水田生態系の保全・再生
営農両立型
冬鳥の保護
水田生態系の保全・再生
+
営農・栽培上の目的
栽培方法
慣行栽培
不作付け
有機・無農薬・
不耕起栽培
71
「冬鳥型」は,ガン・カモ類などの冬鳥の保護を目的に,冬期湛水を実施し,夏期の栽培
方法(施肥・防除・耕起)については,慣行通りに実施している事例である。冬期湛水の
実施主体は,市町村などの自治体や野鳥保護を目的とした団体等が中心で,農家から冬期
間のみ水田を借り受けて湛水を実施している。そのため,冬期湛水期間の農家の関与は少
なく,夏期の栽培方法は冬期湛水と連動していない。これは,冬鳥の水田利用が冬期間に
限られているためである。「水田生態系型」は,水田生態系の保全・再生を目的に湛水し,
夏期の水稲の作付けは実施していない型である。実施場所は,休耕田・耕作放棄田などが
中心である。冬鳥のみならず水田生態系の保全を目的とした場合,夏期における農薬や化
学肥料の使用などについても一定の環境配慮が求められる。「水田生態系型」では,営農と
は直接関係のない休耕田・耕作放棄田等を利用することにより,生物・生態系の保全を図
っている。「営農両立型」は,有機栽培,無農薬栽培,不耕起栽培等の慣行以外の栽培方法
を用いることにより,生物・生態系保全に,営農・栽培上の目的を付加し,営農面との両
立を図った総合型である。
アンケート結果から整理した水田冬期湛水の実施形態をもとに,考慮すべき立地条件の
検討を行い,国土数値情報などの既存の用いたマクロレベルにおける水田冬期湛水の実施
ポテンシャルの評価を行った。実施ポテンシャルの評価にあたり,多くの水田冬期湛水の
実施事例が報告されている宮城県を対象とした。
生物・生態系保全を目的とした水田冬期湛水の実施ポテンシャルを,実施形態の整理に
より得られた3つの型(表1)において,最も考慮すべき立地条件から検討を加えること
により評価を試みた。
①冬鳥の採餌・休息空間として利用される可能性
「冬鳥型」においては,冬鳥の採餌・休息空間として冬期湛水田が利用される可能性を
検討した。具体的には,冬鳥の塒となっている湖沼・河川等からの距離を評価の項目と
した。塒となっている湖沼・河川については,環境省が 2000 年に実施したガン・カモ科
鳥類生息調査のデータを用いた。ガン類,ハクチョウ類,カモ類,それぞれ 100 羽以上
の生息地となっている地域(3 次メッシュ:約1km 四方)を抽出し,ガン類,ハクチョウ
類,カモ類それぞれについて,既往の知見・研究2)において報告されている移動距離
等を参考に,ガン類,ハクチョウ類については,半径 10km 内,カモ類については,半径
3km 内の範囲を抽出した。
②湿原・湿田などの湿地環境の復元の可能性
「水田生態系型」は,湿原・湿田などの湿地環境の復元の可能性から検討した。具体的
には,かつて湿地・湿田だった場所など,低湿地(低湿な土壌)を評価の項目とした。
低湿地の抽出には,国土数値情報の土壌分類データを用いた。既往研究を参考に,グラ
イ反応(土壌中の二価鉄反応)を呈する土層を有する湿性土壌(グライ土壌,泥炭土壌,
黒泥土壌)が分布する地域(3 次メッシュ)を抽出した。
72
③有機無農薬栽培などの環境保全型農業展開の可能性
「営農両立型」では,両立には不可欠な有機栽培・無農薬栽培などの環境保全型農業が
推進されやすい地域を検討した。具体的には,現在,環境保全型農業に取り組んでいる
農家割合について評価を行った。2000 年実施の世界農林業センサス・農家調査一覧表の
データを用い,農業集落ごとの環境保全型農業(稲作)(化学肥料または農薬の使用を地
域の慣行的に行われている栽培より 50%以上節減)取り組み農家の割合について検討し
た。
図2 ガン・カモ類の生息地からの距離
図1 水田の分布(宮城県)
73
図4 環境保全型農業(稲作) 取り組み農家割合
図3 地形分類・土壌統計からみた低湿地区分
図1は,国土数値情報の土地利用データを用い,宮城県内における水田率 25%以上の地
域(3 次メッシュ)の分布を示したものである。図2から図4は,3つの型において検討し
た考慮すべき立地条件を用いて,作成した評価図である。図-6は,それらの結果を,図2で抽出した水田率 25%以上の地域(3 次メッシュ)において重ね合わせた(環境保全型
農業の取り組み農家割合については,取り組み農家割合 20%以上の農業集落が卓越する 3
次メッシュを抽出),生物・生態系保全を主目的とする水田冬期湛水の実施ポテンシャルの
検討結果である。冬鳥の採餌・休息空間として利用される可能性,湿原・湿田などの湿地
環境の復元の可能性,環境保全型農業展開の可能性,全てにおいて,ポテンシャルを有す
る地域には,実際に多くの冬期湛水実施事
例が報告されている伊豆沼・蕪栗沼周辺の
ほか, 鳴瀬川中流域,阿武隈川中流域角田
市周辺などが存在する。一方で,今回検討
した3つのポテンシャルを,部分的にしか
満たさないセルは,対象セルの 76%にのぼ
った。
生物・生態系保全を目的とした水田冬期
湛水の実施ポテンシャルの検討の結果,現
在,冬期湛水が実施されている地区以外に
も高い実施ポテンシャルを有する地域が存
在することが明らかになった。一方で,部
分的にしかポテンシャルを満たさない地域
も広く存在していること,特に,有機・無
農薬栽培などの環境保全型農法と組み合わ
せた冬期湛水の展開には,多くの地域で技
術面・作業面などに課題が生じる可能性が
示唆された。
図5 水田冬期湛水の実施ポテンシャル
4-2-2 農村地域の景観・土地被覆の変化と人為的管理の変遷の解明への活用
農村地域における今後の農林地,地域資源の管理を模索して行く上で重要と考えられる,
地域の土地利用,人為的な管理状況の変遷を,航空写真を用いた経年的な土地被覆の変化
と作目毎の作業内容、作業時間等を把握することにより明らかにした。調査対象地域とし
て,茨城県かすみがうら市の北東部を流れる菱木川の中流域に位置する農業集落を選定し
た。当地域は台地と台地を開析する中小の谷地形(谷津)からなる。谷底部には水田,台
地上には,畑地,栗を中心とした樹園地,スギ・ヒノキなどの林地など,多くの土地利用
が近接して存在する地域である。
74
土地利用・土地被覆の経年的な変化の解析にあたり,複数年次(1947 年,1974 年,2000
年)の空中写真を収集,標高データ,1/2500 都市計画図等を用い,オルソ補正を実施し,3
年次のデジタルオルソ画像を作成した。作成されたデジタルオルソ画像,新旧の 1/25000
地形図の判読,空中写真の実体視判読を行うことにより,地域内を利用・管理状況の違い
を反映した12の土地利用,32の土地被覆に区分し,経年変化を解析した。管理の状況
については,農家を中心とした管理者の土地利用・土地被覆ごとの作業時間・内容・方法
を,経年的な変化も含め,把握を行った。具体的には,対象地域内で居住・耕作を行って
いる農家を対象に,農用地の管理に関する聞き取り調査を実施し,年次ごと,区分された
土地被覆ごとの作業歴,各作業に要した時間,作業に用いた機械などについて把握した。
1947年
1974年
水田(未整備)
14.3%
水田(未整備)
14.1%
畑地(普通畑)
21.3%
畑地(普通畑)
20.7%
伐採跡地
17.3%
柴地
28.3%
落葉樹(若齢)
2000年
水田(整備)
9.3%
畑地(普通畑)
20.1%
畑地(苗木)
7.8%
樹園地(若齢)
樹園地(壮齢)
15.7%
落葉樹(若齢)
9.2%
針葉樹(マツ)
17.4%
樹園地(粗放)
9.2%
落葉樹(若齢)
: 10%~
落葉樹(壮齢)
8.1%
: 2.5~5%
: 5~10%
針葉樹(スギ・ヒノキ)
14.3%
図6 対象地域内の各年次間の土地被覆変化
図6は,対象地区における3年次(1947 年,1974 年,2000 年)の土地被覆構成比変化の
解析結果を示したものである。1947 年は「水田(未整備)」
,
「畑地」,
「柴地(樹冠が確認出
来ない低層の林分)」
,「伐採跡地」の4つの土地被覆が,地区全体の8割を占めていたこと
が分かる。1974 年には,1947 年次に「柴地」,
「伐採跡地」であった場所を中心に「樹園地」,
「畑地」等の農地への転換,林木の成長にともなう「落葉広葉樹林(若齢)」
,
「針葉樹林(ア
カマツ)」等への変化が確認される。2000 年には,水田において,地区内での圃場整備の実
施による「水田(未整備)」から「水田(整備)」への変化,栗園の放棄・転換,管理の粗
放化による「樹園地(壮齢)」から「畑地(普通畑)」
,「樹園地(粗放)
」への変化がみられ
る。「水田」と「畑地(普通畑)」については,水田において 1974 年から 2000 年の間に圃
場整備にともなう変化はみられるものの,その構成割合については,1947 年から大きく変
化していない。構成比を農地と林地の区分からみた場合,1974 年以降の「樹園地」,「畑地
(苗木)」の増加に伴い,林地を除いた管理を必要とする農地の割合は増加していることが
分かる。林地については,「伐採跡地」「柴地」など周期的に伐採が続けられていた薪炭林
から,アカマツを中心とした針葉樹林,スギ・ヒノキ林へと変化してきたことが分かる。
表2は,土地被覆ごとの作業内容,平均作業時間,作付けを年次ごとに整理したもので
75
ある。1947 年次には,「水田(未整備)」
,「畑地(普通畑)」ともに,年間 60 時間超える作
業時間を要していた。現在では,機械化が進んでいる耕起や代かき,田植,収穫等の作業
が,すべて人力(耕起について牛耕)であったためと考えられる。「畑地(普通畑)」にお
いては,麦類とサツマイモ,落花生の二毛作が行われ,年間通して作業が行われ,人の関
わる土地利用であったことが分かった。
「柴地」
,
「伐採跡地」においても,冬期間の草刈り,
落葉かきといった作業が行われており, 人為のおよぶ空間であった。1974 年次では,当地
区において,耕耘機,稲刈り機などが普及し,
表2 土地被覆ごとの作業内容・平均作業時間
10aあたりの年間平均作業時間
年次
土地被覆
水田(未整備)
畑地(普通畑)
1947
伐採跡地
柴地
水田(未整備)
畑地(普通畑)
1974 栗園(疎),栗園(密)
針葉樹林(アカマツ)
落葉広葉樹林(低層)
水田(整備)
水田(未整備)
水田(保全管理)
水田(耕作放棄)
畑地(普通畑)
畑地(苗木)
畑地(保全管理)
2000
畑地(耕作放棄)
栗園(疎),栗園(密)
栗園(半放棄)
栗園(放棄)
針葉樹林(スギ・ヒノキ)
落葉広葉樹林(低層)
落葉広葉樹林(コナラ・クヌギ)
作付(目的)
作業内容
稲
麦類+サツマイモ・落花生
アカマツ(薪・落葉)
コナラ・クヌギ(薪・落葉)
稲
麦類+サツマイモ・落花生
クリ
アカマツ
-
稲
稲
(保全管理)
-
サツマイモ
果樹苗(ウメ,リンゴ,モモ等)
(保全管理)
-
クリ
クリ
クリ
スギ・ヒノキ(用材)
-
-
施肥,耕起,代かき,田植,除草,収穫
耕起,施肥,播種・植付×2,中耕,踏圧,収穫×2
草刈り,落葉かき(伐採:15~20年ごと)
草刈り,落葉かき,(伐採:7年ごと)
施肥,耕起,代かき,田植,防除,収穫
耕起,施肥,播種・植付×2,中耕,踏圧,収穫×2
草刈り,消毒,収穫,整枝剪定,施肥
-
-
施肥,耕起,代かき,田植,防除,収穫
施肥,耕起,代かき,田植,防除,収穫
耕起
-
耕起,施肥,植付,防除,収穫
耕起,施肥,定植・野接,防除,中耕,追肥,整姿,収穫
耕起
-
草刈り,消毒,収穫,整枝剪定,施肥
草刈り,収穫
-
-
-
-
作業全体
耕起・除草など
の管理作業
72
68
16
16
46
46
48
0
0
17
30
2
0
21
126
1
0
48
9
0
0
0
0
※ゴシック:土地・植生の管理に関わる作業
「水田(未整備)」
,「畑地(普通畑)
」において,年間作業時間の短縮がみられた。1960 年
頃から当地区で普及した栗の栽培は,剪定整枝,消毒といった手間のかかる作業を必要と
した。一方で,
「落葉広葉樹林(低層)」
,
「針葉樹林(アカマツ)」などの林地は,燃料革命,
化学肥料の普及にともない,定期的な管理は行われなくなった。2000 年次には,水田にお
いて,1980 年から 1983 年にかけて当地区で実施された圃場整備と合わせる形で,田植機,
トラクターといった農業機械が普及,さらに機械化にともなう作業時間の低減が進んだ。
「畑地(普通畑)」においては,麦類の価格低迷,機械化等への対応にともない,麦類と間
作で二毛作の形で実施されてきたサツマイモ栽培が,単作で行われるようになった。整枝
剪定や消毒といった作業とあわせて,集約的に実施されてきた栗の栽培は,栗の価格低迷
などを理由に,年1回の草刈りと収穫のみを行う。粗放的な作業形態が増加した。一方で,
「畑地(苗木)」は,多くの作業を要する極めて集約的な土地利用あり,100 時間を越える
年間作業時間が投じられている。
76
38
32
16
16
22
14
3
0
0
3
8
2
0
4
12
1
0
3
1
0
0
0
0
地区面積:168.3ha
1974 年
1947 年
■ 100 時間以上
■ 30~100 時間
■ 10~30 時間
■ 1~10 時間
■ 1 時間未満
屋敷地
2000 年
図7 対象地域内の 10a あたり年間作業時間の変化
図7は,表2において把握された土地被覆ごとの 10a あたりの年間作業時間を,5段階
に区分して示したものである。各年次における管理主体である農家の土地への関わりの分
布を示している。1947 年次には,谷底部の水田,集落周りの畑地を中心に林地も含め,10
時間以上の作業が実施されており,地区全体に利用や管理が及んでいることが分かる。1974
年次には,台地上部において,より多くの作業時間を要する場所と,ほとんど利用・管理
のなされていない場所と二極化が進む。2000 年次には,苗木作などの非常に集約的な利用・
管理がなされている場所が散在する一方で,未整備の谷津田や林地,傾斜地に立地する栗
園など,人がほとんど関わることのない場所も存在する。一方で,耕起(代掻き),除草,
伐採などの土地及び植生に対して,一定の攪乱をもたらす作業に要する時間については,
地区全体で年次を追うごとに減少してきている。
図8は,台地域の景観の変容と人為的管理の変遷について,模式図で示したものである。
台地域の景観は,谷底低地に水田,谷壁斜面に薪炭・落葉等の利用を目的とした林地(柴
地・伐採跡地),台地上位面に畑地という地形条件に則した土地利用によって形成されてき
た。戦後,利用や管理の形態などの変化にともない,台地域の景観は変容を遂げてきた。
谷底低地の水田,台地上位面の畑地(普通畑)においては,基盤整備や機械化にともなう
利用・作業の省力化が進んだ。一方で,「柴地」「伐採跡地」から「樹園地(栗園)
」,「樹園
地(栗園)」「畑地(普通畑)」から「畑地(苗木作)」のように,作目・作付けを変化させ
ることによる集約的な利用への転換もみられた。谷壁斜面を中心に立地していた「樹園地
77
(栗園)」においては,1970 年以降に,これまので剪定・消毒など作業を実施しない管理形
態が広がり,粗放化が進んだ。また,薪炭・落葉等の利用を目的とした林地,基盤整備の
1950 年代頃
台地上位面
畑地
機械化
1970 年代頃
現 在
畑地
畑地
機械化
(普通畑)
(普通畑)
(普通畑)
畑地
樹園地
(栗園)
谷壁斜面
柴地
集約的利用へ
(苗木作)
樹園地
剪定・消毒
集約的利用へ
(栗園)
等の停止
伐採跡地
針葉樹林
落葉・薪炭
針葉樹林
(アカマツ林)
管理放棄
(スギ・ヒノキ林)
利用の停止
水田
谷底低地
耕作放棄
水田
(未整備)
機械化
(耕作放棄)
水田
集約化:
省力化:
(未整備)
水田
基盤整備
粗放化:
(整備)
機械化
放棄・停止:
図8 台地域の景観の変容と人為的管理の変遷
実施されなかった細い谷津に立地する水田等では,利用の停止,維持管理の放棄が生じた。
結果,地形条件に則し利用・管理がなされてきた台地域の景観は,空間的に作業内容的に
偏在する利用・管理によって,同一の土地利用内で利用・管理が異なる土地被覆が存在す
るなど,耕作・管理放棄地を含む景観に変化してきた。
78
4-3 水資源機構における技術情報の活用方法
―GIS等の整備・運用―
独立行政法人水資源機構
井爪
独立行政法人水資源機構
79
宏
80
81
1.水資源機構の情報化の推進
1-1 情報化推進の背景
・社会の要請
→ 業務の効率化
・ユーザーの要望 → 安価な水供給
=業務スピードのアップ
=トータルコストの縮減
・計画的に推進(平成8年に情報化推進体制構築)
1-2 内容
・LANの整備
・CALS/ECの推進
・業務支援ソフトの開発
etc
2.技術情報の電子化に関するニーズ
(職員アンケート調査の結果)
・管理部門での一層の業務の効率化が要求された
・水路管理の特徴は、「長もの」「権利関係の複
雑化」「人間の関与が大きい」「施設の老朽
化」
・「情報化の推進」に活路を求めた
・情報化に関する職員の意識調査を実施
・平成14年度アンケート調査
・水資源機構職員376名
(本社、支社/局、事業所の技術系職員)
82
(1) 技術情報の情報化(電子化)要望
(複数回答比率)
項 目
○
○
○
○
○
○
内 容
設計図書、完成図書、報告書、工事写真
図面、CADデータ
成果品
地形測量データ、地形図
地質調査データ
特記仕様書、積算資料
契約関係、
契約情報、工事成績
協議関係資料
協議書、協定書、境界確認書
仕 様 、 基 準 類 、 共通仕様書、設計基準、積算基準、
様式等
各種書類の書式
新技術情報、採用実績
施工関係情報
工事進捗情報、工事状況写真、施工管理資料
機 器 の点 検 ・整 備 ・ 更 新 履歴 、 施設 管 理 台 帳 、
維持管理情報
図面、写真
雨 量 、 水位 ( 流量 )、 水質 、 気象 観 測デ ータ 、
観測情報
ダム/堰諸量観測データ等
各 種 台 帳 情 報 、 用地管理図、公図、境界杭管理図、用地台帳
各種調査資料
環境調査データ、動植物分布情報
広報資料
各種パンフレット、記者発表資料、官報等
比 率
45%
25%
17%
14%
23%
3%
3%
2%
14%
12%
25%
44%
7%
4%
5%
※赤字はGISで取り扱うことが適していると思われる情報
○は技術研究研修センターへ提出(一部対象外)することになっている情報
(2)GISを利用したい業務
(複数回答比率)
内 容
施設管理、施設台帳、施設図面、施設点検、整備
用地管理、土地境界管理
施工管理、工事発注、工種等の検討
調査業務、設計業務
協議書管理、渉外管理、占用協議、交差協議、近接協議
環境影響評価、環境調査、環境情報管理、環境保全対策
防災業務、災害時対応、災害復旧
ハザードマップ作成、氾濫解析、被害想定
情報公開、広報、施設紹介
比 率
64%
13%
9%
8%
8%
8%
7%
6%
8%
・「施設管理」におけるGISの利用ニーズが最も高く、そのために
「施設の諸元、補修履歴」「用地図」「構造図」「巡視結果」
など、様々なデータが必要とされている。
・その他、上記業務でGISの利用が想定される。
83
(3)GIS導入の是非
0%
25%
50%
78%
全体
75%
100%
22%
1.GISを導入すべきである
2.GISを導入する必要はない
・GISに対するニーズ、期待は大きい。
・GISの導入効果の大半は「業務の効率化、高度化」であり、特に
維持管理系の業務における利用価値が高い。
・ただしコスト面での不安はあり、費用対効果を十分に考慮する必
要がある。
3.GISとは
3-1 GISとは何か...
GISとは、地理情報システム(Geographic Information
System)の略称で、地理的な位置を手がかりに、位置に関
する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・
加工し、視覚的に表示して、高度な分析や迅速な判断を可
能とするための技術。
空間データ
種別
都道府県道
路線番号
999号線
鉄道
幅員
3.25m
施設
通行区分
両方向
道路
(図面/写真データ)
種別
都道府県道
行政界
路線番号
999号線
河川
幅員
3.25m
通行区分
両方向
土地利用
(文字データ)
84
3-2 GISでできること
(1)空間データを重ね合わせる
「位置」を利用し
て、様々な空間
データを統合して
利用することがで
きる。
これにより、今
まで別々に所有し
ていた地図や航空
写真等を画面上で
重ね合わせること
ができる。
(例)航空写真と都市計画図の統合
(2)様々な情報を関連づけて利用する
地図上に属性データ
を関連づけて、登録/
参照することができる。
これにより、今まで
台帳と台帳附図といっ
た別様式でとりまとめ
ていた情報をGIS上で
まとめて取り扱うこと
ができる。
台帳附図
台帳
属性表示
○○-××線(市道30号)
延長
12345
○○町△△地先 ~
終点
××町□□地先
管理事務所
85
m
起点
○○管理事務所
(3)目標物で情報を検索する
地先名や役所/事務
所の場所などの目標物
により、表示する地図
や、そこに含まれる属
性データを検索するこ
とができる。
これにより、紙地図
や台帳を検索する手間
が省ける。
地図表示
地先名称検索
埼玉県
さいたま市
東町
1丁目
2丁目
属性表示
居住者
○○○○
65歳~
消防団
人
○○○○
人
天沼町
上竹町
・・・・・・・
地図表示
○○消防団
連絡先
消防倉庫
×××-××××
○○消防倉庫
(4)情報の関連性を分析する
様々な情報を空間的に関連づけることにより、
それらの関連性を分析することができる。
これにより、災害時の被害想定や、環境影響評
価などが行えるようになる。
86
(5)仮想現実をシミュレーションする
シミュレーション
を行うことにより、
政策や事業の意志決
定を支援することが
できる。
また、氾濫シミュ
レーションなどによ
り、防災に役立てる
こともできる。
(6)情報を効率的に伝える
情報をビジュアル
化することにより、
大量の情報を視覚的
に瞬時に伝えること
ができる。
これにより、地域
住民などに対して情
報を効果的に伝える
ことができる。
87
4.水資源機構におけるGIS導入事例
-事業所における利活用事例(1)施設管理システム
•
•
•
•
•
•
•
利根導水総合事業所
霞ヶ浦用水管理所
千葉用水総合事業所
愛知用水総合事業部
豊川用水総合事業部
香川用水総合事業所
筑後川下流総合管理所
(1-1)施設管理システム
・1/25000の地形図上に幹線水路や各施設の位
置を表示。
・各施設ごとに施設調書、協議・占用等調書、
使用承認等調書、工事契約情報、用地台帳の
ファイリングデータ及び施設管理図、用地管
理図の図面データを管理する。
88
(1-2)愛知用水資料管理システム
1.地図検索:管理図、用地管理図などの図面の表示
と図面上の調書表示が主な目的。
図面を表示するには、大索引、中索引を使用して
地図上の位置を確認しながら図面を検索する方法と
STA検索、目標物検索などにより直接表示する方法が
ある。
2.文字検索:キーワードによる調書の抽出が主な目
的。
各調書のそれぞれに関連したキーワードにより、
調書を抽出。
抽出した調書は一覧形式で表示され、また個別の
内容も同時に表示される。
抽出した調書に関連している管理図、用地管理図
などを表示することができる。
○地図検索
89
○大索引図(1/125,000)
○検索ウィンドウ
目標物検索
STA番号検索
90
水路名検索
○中索引図(1/25,000)
○管理図(1/500)
91
○調書表示
5.水資源機構GISの利用イメージ
(案)
5-1 全体イメージ
必要に応じて
縮尺を変更
索引図を表示
GISを利用
GISを利用
92
5-2 利活用イメージ
水資源機構GISの段階的整備(案)
第3段階:GIS
上での情報公開と
段階:GIS上での情報公開と
災害対策の実施
インターネットで一般公開するとともに、
災害対策業務にも活用する。
第2段階:日常業務でのGIS
の活用
段階:日常業務でのGISの活用
観測データや、環境情報、施設情報、事業情報、管理
境界などをデジタル地図上から検索、参照可能とする。
第1段階:電子納品データの有効活用
電子納品された設計図書や完成図書、測量成果、地質調査成
果などを機構の職員が効率的に検索、利用できるようにする。
(1)電子納品データ(成果品)の検索、参照
第3段階
第2段階
第1段階
設計図書
構造図
構造図
地図を索引として、電子納品データの検索、参照を行うことができる
地図を索引として、電子納品データの検索、参照を行うことができる
93
(2)施設情報(台帳)の管理、参照
第3段階
第2段階
第1段階
管理施設の諸元や補修履歴などを一元的に管理、参照することができる
管理施設の諸元や補修履歴などを一元的に管理、参照することができる
(3)事業情報の検索、参照
第3段階
第2段階
第1段階
工事概要
工事の概要
工事件名:○○道路改良工事
出来高管理
工事場所
○○○○○○○○
工期
****/**/**~****/**/**
工事概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ○
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ○
月 数
1
作業名
2
3
4
6
7
9
○
工
80
○
工
70
請負業者
(株)××××
○
○
工
60
請負金額
¥ **,***,***
○
○
工
50
監督権者
▲▲▲▲
○
○
工
40
技術次長
△△△△
○
○
工
30
■■■■
○
○
工
○
○
工
○
○
工
発注 総括監督員
現場写真
受注
主任監督員
□□□□
一般監督員
★★★★
現場代理人
☆☆☆☆
20
10
予定
実施
予定(青色)
実施(赤色)(バーチャート式)
調査・測量
設計
施工
完成
事業の進捗状況などを地図画面上で一元的に把握することができる
事業の進捗状況などを地図画面上で一元的に把握することができる
94
8
90 %
○ ○ 作 業
(4)環境関連情報の検索、参照
第3段階
第2段階
第1段階
法令等による規制区域や環境測定結果、動植物の分布状況などを
法令等による規制区域や環境測定結果、動植物の分布状況などを
地図画面上で一元的に把握することができる
地図画面上で一元的に把握することができる
(5)災害状況の把握、対策業務支援
第3段階
第2段階
第1段階
現場の被災状況を地図上で一元的に把握し、応急復旧作業等を支援する
現場の被災状況を地図上で一元的に把握し、応急復旧作業等を支援する
95
6.水資源機構GISの整備・運用の考え方
6-1 WebGISの利用
WebGISとは、インターネット技術を利用したGISで、
クライアントには、Webブラウザ(インターネットエク
スプローラ)があれば利用できる。
GIS関連でのクライアントパソコンのメンテナンスは不要
処理性能の低いパソコンでも利用ができる
ネットワーク(インターネット)に繋がっているパソコン
であれば利用することができる
運用管理が容易、安価である
利用しやすい環境である
サーバ
エンジン
GIS
ション
アプリケー
サーバ
WWW
ブラウザ
WWW
クライアント
データ
ベース
7.水機構のASP利用状況
7-1 ASPの概要
ASPとは、(Application Service Provider)の頭文字を
とったもので、インターネット経由で業務ソフトなどのアプ
リケーションソフトを各機関ごとに期間単位で貸し出す
サービスのことです。
一般的なASP導入のメリットは以下のとおり。
・業務の効率化・標準化が実現できる。
・コスト縮減(システム開発費の削減)が図れる。
・内部サーバが不要(ランニングコストの縮減)
・インターネット接続環境があればどこから
でもサービスが利用可能
96
7-2 ASPを利用した実証試験
【ASPサーバ】
書類の保管
書類の登録、通知
回覧、承認
インターネット
インターネット
発注者
受注者
水機構では、豊川用水、香川用水、群馬用水、大山ダム、
水機構では、豊川用水、香川用水、群馬用水、大山ダム、
千葉用水などで実証実験
千葉用水などで実証実験
7-3 実証実験から得られた課題
・地域性によりインターネットの接続回線速度の問題
・図面、承諾図書、施工図等の大容量の資料は、送
受信に時間を要する。
・操作不慣れにより作業性が非効率
・汎用性のソフトであるため、提供業者により操作方
法、内容が異なる。
97
8.参考
・水管理業務での携帯電話
iモード活用
・防災業務でのノーツ活用
(参考1)水管理業務(携帯電話iモード活用)
(愛知用水)
98
(参考1)水管理業務(携帯電話iモード活用)
愛知用水(牧尾ダム)
(参考2)防災業務(ノーツ活用)
巡視点検の結果「異常なし」の連絡を受けたら
巡視状況に確認済みのチェックをする。
99
(参考2)防災業務(ノーツ活用)
をインターネットを通じて提供している。
巡視点検終了区間が表示される
100
4-4
水産業における IT 化の事例
増田篤稔*・大政謙次**
*ヤンマー株式会社環境事業開発部マリンファーム
**東京大学大学院農学生命科学研究科
Ⅰ章
はじめに
1節
e-Japan 戦略と水産業
2000 年に開催された沖縄サミットは、IT 憲章を宣言し、今後、G8 各国が連携しつつ、IT が有する
無限の可能性を最大限引き出していく上での課題と対応の方向性を示した 1)。これにより、日本政府は、
2005 年までに世界最先端の IT 国家になることを目標として、e-Japan 戦略(2001 年 1 月)を掲げ、
IT 基盤のインフラ整備を加速した 2)。しかし、一次産業拠点である農山漁村での施設や従事者などの利
用実態は、都心に比べ基盤整備や利用の遅れが生じ始め
3)、これら産業間や地域間格差是正も踏まえ
e-Japan 戦略Ⅱ(2003 年 7 月)、e-Japan 戦略Ⅱ加速化パッケージ(2004 年 2 月)へと展開し進めら
れ、世界最先端の IT 国家を目指した 2)。さらに、IT 新革新戦略(2006 年 1 月)により、「いつでも、
どこでも、誰でも IT の恩恵を実感できる社会の実現」を目指すための施策が示された 4)。
水産では、漁業資源を取り巻く国際状況の変化を受け、昭和 63 年(1988)度版漁業白書に、資源管
理型漁業の推進に資するため、漁船に関する情報処理システムを整備強化することが示され 5)、その後
の白書にも同様の記載がある。IT 憲章を受け、平成 13 年度(2001)図説水産白書より、情報通信技術
に、IT の用語が使用され、重要施策として取り扱われ展開している 6)。
2節
農水産業における食料の安全性
1986 年にイギリスで初めて報告された牛海綿状脳症(BSE)問題は、わが国でも 2001 年 9 月に発生
が確認された 7)。これにより、国内での食の安全・安心に関心が集まり、食品のトレサービリティーが
重要視されるようになった。
最近の水産関連の食に対する安全・安心の問題では、1999 年夏の魚介類の腸炎ビブリオ菌による食
中毒多発・2002 年のカキ産地偽装問題・2003 年 4 月のトラフグ養殖業者によるホルマリン使用問題・
同年 10 月の国内初のコイヘルペスウイルス発病などが挙げられ 8,9)、この業界においても食の安全・安
心に関する問題が、多く見受けられた。
これらの対策のため、平成 14 年 6 月に、食品安全行政に関する関係閣僚会議において、食品安全委
員会(仮称)の設置や食品安全基本法(仮称)の制定等により、見直しが決定され、平成 15 年 5 月に
「食品安全基本法」が交付されるに至った 9)。
Ⅱ章
他産業における IT 化事例と水産関連
1節
コージェネ・ガスヒートポンプの遠隔監視
環境配慮型のエネルギー源として利用されているコージェネ発電やガスヒートポンプ室内空調機器
では、メーカによる集中監視システムが構築され、機器稼動状況のモニタリングが行われている。
コージェネ遠隔監視は、各機器に設置されている端末機で得られたデータを NTT 公衆回線に乗せ、
101
メーカ内の遠隔監視センターで、中央監視システムによる 24 時間体制の監視を行っている。これらの
サービスは、機器類稼動状況や来歴のデータ化が行われ、異常時における迅速な対応を可能にしている。
図 1 コージェネ遠隔監視システム
図 2 遠隔監視モニターショートデータ
また、ガスヒートポンプ・マイクロコージェネ遠隔監視は、各機器に設置されている端末機で得られ
たデータを DoPa 網に乗せ、携帯電話による対応を可能としたサービスを提供している。
図 3 ガスヒートポンプ遠隔監視システム
102
図 4 携帯電話によるサービス
2節
海洋におけるエンジン監視システム
大型船のエンジン監視システムは、船上でのメンテナンス来歴や部品管理などを、陸上にて確認でき、
入港にあわせたメンテナンス管理が行えるため、効率の良い運行を可能にしている。
図 5 大型船エンジン監視システム
図 6 メンテナンス来歴
103
3節
流通コンテナ監視システム
生鮮食品輸送での温度管理は、重要な項目であり、温度来歴や装置の機器管理が重要である。これら
の輸送手段にも、IT 化による監視がなされ、迅速なメンテナンス対応やトレーサブルな温度管理などを
可能にし、安全・安心の提供に役立っている。また、輸送装置の稼動状況の把握が瞬時に行え、輸送装
置の効率化にも役立っている。
図7
定温輸送装置における遠隔監視システム
図 8 遠隔監視画面
図 9 温度来歴
104
4節
水産業における IT 化
近年の水産白書を見ると、水産業での IT 化実例は多くなく、試みや今後の方向性に関し提言として
まとめられている。
魚市場における水産物の取引価格は、水揚げの多少等によって変動する。漁業者は取引価格の動向や
航行経費等を考慮して、水揚げ港を選択するが、特定の漁港に水揚げが集中すると価格の安定や消費者
への安定供給に支障が生ずる懸念がある。こうした状況を避けるため、九州北部地域のまき網の主要水
揚げ港である福岡、福岡中央、唐津、佐世保、松浦、長崎の6市場と海上のまき網漁船、生産者事務所
をインターネットで結び、これまでのセリ動向等を解析して得られる各市場の市況予測の結果を基に、
海上の漁業者が漁獲量や漁場、帰港に関する所要時間などの情報を入力すると、複数の水揚げ港におけ
る予測利益が比較表示されるシステムを開発し、試験活用されている10)。
食料である水産物の安全・安心な提供を行うために、HACCP(危害分析重要管理点)やトレーサビ
リティーシステム(生産流通履歴情報把握システム)などの推進を行っており、これらを効率的に行う
ためには、IT 化が必要不可欠な技術となってくると考えられ、高級魚であるマグロの品質・衛生管理面
での IC タグを用いた技術開発などを行っている 11)。
養殖水産物についても、医薬品等の適正使用の徹底、医薬品や養魚用飼料の適正使用等の情報発信と
公正な情報の監視体制を整備するため、養殖業者による使用医薬品や養魚用飼料等の使用記録の徹底を
図るなど養殖衛生管理指導等が行われている 11)。
消費者の魚介類購入が、スーパーマーケットに集中した結果、大量に取り扱われる商品に流通が集中
し、多種多様である水産物が扱われ無くなる傾向にある。これらを打開する手段として、IT を活用した
流通ルートを開発し、鮮度の良い魚介類の提供などが求められる 12)。
Ⅲ章
既設資源増産型施設における IT 化事例
水産分野では、資源管理型漁業の推進に資するための漁船に関する情報処理システムの強化や食の安
全・安心の効率化としての IT 化以外にも、種苗生産施設や養殖でのデータ管理や施設管理に、IT 化が
早くから導入されている。
資源増殖を行うための種苗生産は、各地の水産試験場や栽培センターなどで行われ、これらの施設で
は、1989 年ころより IT 化による施設モニタリングなどが使用されてきた。ユーザーからモニタリング
への要望は、遠隔監視では無く、オンサイトによる水質や施設の機器動作来歴などのデータ管理が主流
であった。また、水産高校などでも同様なシステムが使用され、これらの施設では、教育用に特殊解析
ソフトとして、飼育水温より飼育魚の成長や産卵期の予測計算などを自動化する要望などもあったが、
生物的基礎データの不足により実用かつ利便的なところまでは至らなかった。今後、この分野でのモニ
タリングの充実を行う上では、生物的データの充実が不可欠になると考えられる。
105
図 10 水産施設モニタリング仕様例
図 11 モニタリング例1
パソコンの高速化やハードディスクの大容量化に伴い、モニタリングに求められることは、複雑にな
ったが、施設モニターのビジュアル化や異常時の携帯電話への通報などが重要視され、遠隔監視や水質
データ管理などが、重要視されることは少なかった。
図 12 モニタリング例2
106
図 13 モニタリング例3
しかし、これからの食の安全・安心は、生産方法に関わる給餌や投薬等の開示も求められる方向であ
る事より、モニタリングに関する役割も変わり、飼育でのデータベース化が重要視されるようになると
思われる。
Ⅳ章
今後の水産業での IT の展開に向けて
水産の養殖は、海洋で行われることが一般的であり、海洋域におけるモニターを通しての生産管理が
必要になると考えられる。海域などの広範囲のモニターには、リモートセンシング技術が挙げられ、水
産での一例として、沖縄地区における沿岸域の藻場分布の把握技術開発 13)を挙げることができる。この
事例では、沖縄沿岸域の藻類の分布やもずく生産量と漁場の関係について解析を行っている。沖縄での
もずく生産は、国内生産の 95%以上の生産を行っており重要産業であるが 14,15)、生産不安定や品質の定
量化という問題を抱えている。この報告のもずく生産量解析は、沿岸域環境と生産量の検討に有用な解
析であり、この方法を発展させる必要があると考えられる。
図 14 リモートセンシング概念図 13)
107
図 15 リモートセンシングの解析例 13)
図 16 もずく生産量と漁場の関係 13)
航空機・衛星リモートセンシング技術 16)を用いた生産状況のリアルタイム監視や新しい農業スタイル
である新アグリシステムの構想 3)や最新の画像解析技術 17)を融合させる新アグリ・マリンファームシス
テム構築を行い、総合的な一次生産物の生産安定と安全・安心に基づく品質管理などの開発が必要にな
ってくると考えられる。
図 17 産学官連携による新アグリ・マリンファームシステムの構築
108
表1
航空機・衛星リモートセンシングの代表的なセンサー(プラットホーム)と取得可能な情報 16)
代表的なセンサー(プラットホーム)
広域リモートセンシング
(人工衛星)
解像度:250m 以上
・AVHRR (TIROS-T, NOAA) 0.58~12.5μm
(5 バンド)
・MODIS (EOS AM-1, PM-1) 0.4~14.5μm(36
バンド)
解像度:10~120m
・MSS, TM, ETM+ (Landsat) 0.45~12.5μm(7
バンド)
・HRV, HRVIR (SPOT) 0.5~1.75μm(4 バンド
+PAN)
・Hyperion (EO-1) 0.4~2.5μm(220 バンド)
・ASTER (EOS AM-1) 0.52~11.65μm(14 バ
ンド)
・AVNIR-2 (ALOS) 0.42~0.89μm(4 バンド
+PRISM)
・SAR (JERS-1, ERS-1/2, RADASAT, ALOS)
X, C, L(3バンド)
解像度:0.6~3.3m
・IKONOS 0.45~0.90μm(4 バンド+PAN)
・QuickBird 0.45~0.90μm(4バンド+PAN)
取得可能な情報
(陸域)
景観,地形,水資源,土地被覆,土地
利用,生態系機能,被害,収量,種構
成,生物季節,群落構造,バイオマス,
水・物質循環,土壌種,水分状態,土
壌成分,地温,水・エネルギー交換,
積雪等
(水域)
浅海底地形,水質汚濁,プランクトン,
水温等
(気象・大気)
気温,放射,降雨,降雪,大気成分等
(航空機)
・AVRIS (JPL) 0.4~2.5μm(224 バンド)解像
度:20m
・CASI (ITRES Research) 0.4~1.0μm(288 バ
ンド)0.5~10m
・AISA (Spectral Imaging) 0.43~1.0μm(512
バンド) 2m
・ADS40 (LH Systems) 0.43~0.885μm(4 バ
ンド)0.2m
・ ALTM (Optech) 距 離計測 (Lidar) 精度:
0.15m 解像度 0.2m
参考資料
1) 文部省: 第 10 章情報化への新局面を迎えて, 平成 12 年我が国の文教政策, pp.312-322 (2000)
2) 文部科学省: 第 11 章高度情報ネットワーク社会における新たなる展開,文部科学白書(平成 17 年),
pp. 411-427 (2005)
3) (社)農業土木学会: 2.農業農村情報に関する研究の現状と問題,平成 17 年度農業農村情報の利活用に
関する調査検討委託事業報告書, pp. 2-30 (2006)
4) IT 戦略本部ホームページ: http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/060119honbun.pdf
5) 農林水産省水産庁: 図説:漁業白書(昭和 63 年度版), (1989)
6) 農林水産省水産庁: 平成 14 年度において講じようとする水産施策 Ⅴ その他重要施策, 平成 13 年度
図説水産白書, pp. 55-56 (2002)
7) 熊谷進・局博一・大政謙次(編): 科学は食のリスクをどこまで減らせるか, (財)遺伝学普及会編, 生物
の科学 遺伝 別冊 No. 19, 株式会社 NTS, (2006)
8) 農林水産省: 第 1 章 食の安全・安心と安定供給システムの確立, 平成 16 年度 食料・農業・農村白
書, (社)農林統計協会, pp.24-103 (2005)
9) 農林水産省水産庁: 平成 14 年度 水産の動向に関する年次報告 Ⅰ 特集 水産物の安全・安心を求め
109
て, 平成 14 年度 図説 水産白書, (社)農林統計協会, pp.9-30 (2003)
10) 農林水産省水産庁: 第 1 部 水産の動向. Ⅱ 平成 14 年度以降のわが国水産動向. 1 我が国の水産物
需給, 平成 15 年度 図説 水産白書, (社)農林統計協会, pp.27-40 (2004)
11) 水産庁ホームページ: 水産白書 平成 16 年度 全文 , II 水産物の安定供給の確保に関する施策,
http://www.maff.go.jp/hakusyo/sui/h16/html/index.htm
12) 農林水産省水産庁: 第 1 部 水産の動向. Ⅰ特集 消費者ニーズに応える産地の挑戦. 3 産地による販
売力強化のキーポイント, 平成 18 年度 図説 水産白書, (社)農林統計協会, pp.46-53 (2006)
13) (財)亜熱帯総合研究所:第 2 章 潜在的漁場面積把握についての調査研究, 平成 13 年度航空写真解
析によるモズク漁場調査報告書, pp.5-49 (2002)
14) 農林水産省ホームページ: データベーストップページ >
統計名検索(分野別・モノ別) >
漁
業・養殖業生産統計年報 ,
http://www.tdb.maff.go.jp/toukei/a02stoukeiexl?Fname=C001-16-204.xls&PAGE=2&TokID=C001&To
kKbn=B&TokID1=C001B2004-012&TokID2=C001B2004-012-001
15) 沖縄県もずく養殖業振興協議会資料
16) 大政謙次: リモートセンシングの最新技術と農業・環境分野への利用, 農林水産技術情報協会,
pp.1-17 (2003)
17) 大政謙次(編著): 農業環境分野における先端的画像情報利用, 農業電化協会, (2007)
110
5.おわりに
111
5.おわりに
本報告書は、平成 18 年度に農業土木学会・農業農村情報研究部会の勉強会で議論してき
たことを(1)農業農村情報イノベーションに関する事項、(2)農業農村情報システム・
構想に関する事項、(3)情報技術の適用事例に関する事項、に分類整理し、取りまとめた
ものである。取りまとめてみてわかったことは、農業農村の現場に利用できそうな技術や
局面が多く存在していること、行政によって積極的に農業農村情報システム作りが進めら
れていること、そして民間によって情報技術の利用実験が重ねられ、積極的に新しい機器
や技術の開発が進められていることである。こうした実態は、着実に情報技術が農業農村
に浸透しつつあることを示すとともに、情報利活用に関する技術のニーズとシーズの情報
交換の場の重要性を示唆している。
特に、農業農村地域の安全を確保するための防災情報システム技術の進歩は目覚ましく、
今後より使いやすい運用方法の普及が期待される。また、土地台帳等の電子化は GIS の利
用を促進させ、新たな農業農村情報の価値を産み出すことになると思われる。
平成 19 年度から農林水産省の農地・水・環境保全向上を図るための新たな施策「資源保
全施策」が本格的に開始され、「農業者だけでなく、地域住民、自治会、関係団体などが幅
広く参加する活動組織を新たにつくってもらい、これまでの保全活動に加えて、施設を長
持ちさせるようなきめ細かな手入れや農村の自然や景観などを守る地域活動を促進する」
ことが重視されるようになってきている。多様な住民で構成される活動組織をどのように
つくり運営するのか、その鍵となるのは住民にとって有用な情報の収集・共有・発信とな
るようにすることと考えられる。
農業土木学会としても、こうした新しい施策に柔軟に対応できるよう、農業農村情報に
関する議論を深めていくことが望まれる。その際に注意すべきことは、農業農村地域に係
る情報とその管理支援システムのあり方に関し、中央集権的なセンター発信型ではなく現
場対応型あるいは現場担当者協調型の情報交換の場(知恵袋)の観点を示すことであろう。
農業農村整備情報総合センターでは、これまで高度情報システムを媒体とした農業農村
整備の効率的実施を目指し、平成6年度からは農業農村整備に関する情報システムの調査
研究等を実施してきた。その対象は、主に新技術の導入や新たな応用展開に関するもので、
日進月歩のITをシーズとし、そのシーズに端を発する知識の共有や利活用の普及等が主
であった。今後は、このようなセンター発信型の仕組みに加えて、農業農村整備の現場に
おける効率的実施を阻害する問題やその現場的対応策を共有し、問題解決の効率化を図る
仕組みを支援するような「現場ニーズへの対応」を重視することが重要である。こうした
「現場ニーズへの対応」に関しては、以下のような事例がヒントになり得るかも知れない。
(事例1)中山間地域等直接支払制度の開始後、山口県はホームページに集落協定に関す
る知恵袋や情報交換の場を設けている。また、徳島県のホームページに掲載されていてい
る「集落協定の取り組み辞典」は、同制度適用の他県等の担当者や関係者にも有効に活用
されている。
(事例2)㈱NTT データでは社内版ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を導入し
ている。参加社員の個人プロフィールや個人 Blog を SNS 内に公開、組織や役割の壁を
越えた社内コミュニケーション促進を目的とするが、仕事上の疑問などを社員間で質疑応
答する Q&A コミュニティなどがある。社内 SNS は、コミュニケーションの活性化によ
り、信頼関係に基づいた情報・知識の共有や活用を促進させる。社内での人探し・情報探
しを加速し、これまでなら見つけられなかった人や知恵も探し出せる。
(http://japan.internet.com/busnews/20060620/4.html)
(事例3)ウィキペディア(Wikipedia)という名前はウィキペディアが使用しているソフ
トウェアである「Wiki(ウィキ)」と、百科事典を意味する英語「encyclopedia(エンサイ
クロペディア)」から合成されたものである。執筆・編集は、主に参加者の共同作業によっ
ておこなわれており、自由参加型である点に特徴がある。(http://ja.wikipedia.org/wiki/)
事例1は自治体の意欲的な取り組みとして大いに評価できる。また、事例2は、匿名で
はなく共通の使命を持つ参加者が潜在的な多数の知恵を協調的に出せる場を形成する事例
として、知恵袋や情報交換の場を設計するためのヒントになる。事例3は、参加型の辞書
編纂の例だが、「知恵」の洗練や汎用性を自律的に高める仕組みと見ることができよう。
人知を尽くし問題解決を支援する情報利活用システムの必要性については明白である。
農業農村の抱える問題の中には、技術でも人知でも解決が難しく、制度面での緩和等によ
ってのみ解決されるような対象もあろうが、そのような場合でも農業農村の現場の人知を
尽くすことが問題解決への礎となる。
農業農村整備情報総合センターには、農業農村の人知を有効に活用するためのシステム
エンジニアリングとしての活躍を期待したい。