不動産市場におけるインターネットの影響 ~新しいビジネスモデルの提言

不動産市場におけるインターネットの影響
~新しいビジネスモデルの提言~
03W1106003D
笹沼翔
1
要約
不動産市場におけるインターネットの影響を不動産取引の形態変化から見ていく.その
後,取引費用理論とマイケル・E・ポーターのFive Forces(5つの競争要因分析)を紹介す
る.その理論を元に不動産市場の変遷と市場の競争状態について検討した後,政策的提言
を行う.政策的提言では,高齢者不動産市場とインターネットを使った形での,新しい老
人ホームの形態をコーポラティブハウス型老人ホームと位置づけ,既成の大型老人ホーム
とは異なり,選考が強く且つインターネットに慣れ親しんだ世代がこれからの高齢者市場
を形成することを考慮し,居住者の自由度が高いコーポラティブ型老人ホームを提案する.
(287字)
キーワード
取引費用理論
Five Forces(5つの競合要因分析)
コーポラティブハウス型老人ホーム
目次
Ⅰ.はじめに
1.研究の背景
2.問題意識・研究目的
3.本論の構成
Ⅱ.理論的枠組みについて
1.取引費用
2.完備契約・不完備契約
3.Five Forces
Ⅲ.理論的枠組みを用いての業界分析
1. 不動産取引形態の変遷
2. 変遷に関して
3. Five Forcesを用いての分析
4. 市場選定
Ⅳ.政策的提言
1.政策的提言
2.課題
結論
参考文献
2
Ⅰ.はじめに
1.研究の背景
当初,インターネットの普及により,取引形態や業務形態に変化の起きたもしくは起
きている業界を選定していた.その際に,不動産市場においてのインターネット普及率
が他業界に比べ導入が早くかつ普及率が高かったことからこの業界を選定した.不動産
市場においてインターネットの普及が平成11年時点で47.1%を示している 1 .他産業よ
りも利用率が高い.その後も順調に比率を伸ばしている.ここから不動産業種でのイン
ターネットの必要性が示されている.
2.問題意識・研究目的
一般消費者にとって不動産の購入・売却は何度も機会のあるものではない.また,取
引における金額は総じて高い.そのため,情報を収集し,選別することが必要不可欠と
なる.消費者の視点からすれば,不動産情報がインターネット上に集まることで,比較
検討できる情報が増す.また,単に不動産の価格や立地等の情報だけではなく,付随し
て不動産鑑定の情報など自身の不動産を判断することや賃貸・購入検討予定の不動産に
関してある程度の情報を持って検討ができる.この点において不動産業界がインターネ
ット導入によってまだ見ぬ顧客・消費者への接点を持てる.多くの情報を公開すること
で,他の不動産業者との差別化を図かることができる.
また,インターネット利用者は年々増加しており,オフィスなどの仕事上でのインタ
ーネット利用状況から自宅などのプライベートな空間での利用率も高まってきた.具体
的には,インターネット利用者は7007万2000人とされ,自宅からは2447万9000人,自宅
と勤務先もしくは学校の両方からは2360万3000人とされる.(インターネット白書2005
参照)この点において不動産情報をインターネット上に公開することは双方にとってメ
リットがある.
このことから,不動産市場におけるインターネットの影響は非常に大きく,取引形態
に多大な影響を与え,変化を起こしたと考えられる.このことから,今後この市場にお
いて不動産とインターネットという2つの要素を踏まえた新しいビジネスモデルを成立
させることができるか検討する.
3.本論の構成
まず,本論で使用する理論的枠組みの内容を示した後,その理論を使っての市場分析
を行う.インターネット利用率が高まってきた不動産市場において,普及後どのような
変化が起きたかなどを検討する.最後に,今後どのようなビジネスモデルが可能かを検
討し政策提言を行う.留意頂きたいのは,本論文中の取引対象は広義の不動産であり,
賃貸契約・売買契約等すべてを考慮に入れており,詳細な区分は設けていないという点
である.
3
Ⅱ.理論的枠組みについて
1
取引費用
1-1取引費用
取引費用とは,取引の実行に付随して発生する費用のことである.生産コストとは
異なり,製品を製造するコスト等は含まれず,取引を行う上での費用である.不動産
取引における取引費用とは,物件の調査費用や仲介業者を選定する費用,契約を行う
費用,物件を購入するとすれば,それに対する課税なども含まれる.特に不動産のよ
うに多くの関係者や書類を必要とする取引においては非常に費用がかかるといえる.
また,David A. Besanko, Mark T. Shanley, David Dranoveの『戦略の経済学』 2
によると,当事者は自分にとって取引の結果が好ましいものになるように活動する.
その結果,どのケースにおいても多大なコストが発生するようになった.この場合の
コストは,余計な交渉力,生産の遅延と混乱,そして契約の当事者が自己の利益を守
るために行わざるえない努力などが含まれる.相手の機会主義的行動を取る可能性を
考慮に入れなければならないということである.
1-2完備契約・不完備契約
まず,契約とは取引の条件を取り決めたものである.契約は納入時期・履行・量・
質・価格などをあらかじめ定め,自己の権利が不当に侵されることのないよう,また
当事者が機会主義的行動をとることがないように定めるものである.
完備契約は機会主義的な行動を一掃する.この契約では,起こりうる事象を全て予
測して,それぞれの場合の当事者の権利と義務をすべて取り決めることである.また,
独立した第3者が監査し,契約の内容の妥当性を証明できなければならない.
一方の不完備契約は,起こりうる事象について,全ての権利,義務,行動を規定し
ていない契約である.全ての事柄を想定し,明文化することは不可能であり,全ての
実在する契約は不完備契約であるということができる.
この原因として,合理性の限界,行為を想定して測定することの困難さ,情報の非
対称性が挙げられる.
① 合理性の限界
個人が情報を処理し,複雑さを克服しながら,合理的な目標を追求する能力の限
界を意味する.合理性に限界のある当事者は,取引の過程で起こりうる事象の全
てを予測し,定量化することはできないということである.
② 行為を想定して測定することの困難さ
言語には限界があり,曖昧且つ広範囲な解釈が可能な言葉を選んで使用した場合,
当事者同士での解釈が異なった場合,契約上どちらが正当かを判断することが難
しい.特に言語の異なる契約であった場合にはなおさらであり,翻訳の時点で意
味やニュアンスを取り違えてしまう可能性も含んでいる.
③ 情報の非対称性
全当事者が契約に関連する全ての情報に均一にアクセスできないということを指
4
す.一方の当事者が,もう一方の当事者の持っている情報を持っていない場合,
持っている側の当事者が情報を隠すことも歪曲して伝えることもできる.情報の
信頼性は双方が同じ情報をもっていることで成立すると考えられるが,全て同じ
情報且つ精緻な情報が当事者に均一に持っているという状況は考え難い.
2
Five Forces
5つの競争要因は,市場内競争・参入・代替品と補完品・売り手の力・買い手の力の5
つで構成されている.市場内競争は他の4つの要因から影響を受けるため中心に位置する.
それぞれの競争要因が,業界の利益を左右するほどの要因か否かを検討する.
① 市場内競争
同業界における競合者がシェアをめぐって競争することを示している.そのためま
ずは市場を定義する必要がある.定義する際には商品市場と地理的市場の両方に留
意して定義する必要がある.
② 参入
新規参入は2通りの方法で既存の市場参加者の利益を侵食する.まず第1に,供給が
増えることにより,市場の需要が新規参入者によって奪われてしまうこと.第2に新
規参入により市場の集中度が下がり,それによって売り手の競争が激化し,マージ
ンが減少する.一般的に参入障壁となるのは構造的な要因であるが,戦略的な要因
が参入障壁となる場合もある.
③ 代替品と補完品
5つの競争要因分析は直接的には需要を考慮に入れないが,需要に影響を与える2つ
の重要な要素である,代替品と補完品については考慮に入れている.代替品は新規
参入者と同様のやり方で他社から利益を奪い,市場内競争を熾烈なものにする.補
完品は,当該商品への需要を増やし,業界の利益を増やす役割を果たす.
④ 売り手の力
売り手の力の評価は,下流の業界の観点から,上流の原料の売り手が業界の利益を
抜き取る価格交渉力を評価するものである.
⑤ 買い手の力
買い手の力は売り手の力と似ている.それは,個別の顧客が売り手と購入価格を交
渉し利益を抜き取る能力を言う.買い手の力は,明らかに市場内競争と関係してい
るが,2つの競争的な力は概念的に別である.
Ⅲ.理論的枠組みを用いての業界分析
1. 不動産取引形態の変遷
不動産取引は従来,個人対個人で行われていた(図1).その取引において,消費者は
5
いくつもの不動産業者を回ることが必要とされた.この意味で消費者の取引コストは非
常に高い.一方で不動産業者は,もちろん売り上げを上げるために広報活動も必要であ
るが,消費者の持ちえる情報が明らかに不動産業者よりも少ないため,機会主義的行動
を取ることができる.消費者は正しい選択か否かを限られた情報の中で判断しなくては
ならない.
不動産仲介業者
顧客
不動産仲介業者
大家
不動産仲介業者
図1
インターネットの普及により,この取引形態から各不動産業者のインターネットサイ
トを見ることで情報収集が可能になった.初期の段階では,各不動産サイトを閲覧し,
情報を収集し,選択した上で不動産業者へ問い合わせするもしくは物件であれば内覧す
ることが可能となった.消費者の取引コストは情報収集の面で非常に削減されたと言え
る.
顧客
HP
不動産仲介業者
大家
HP
不動産仲介業者
大家
HP
不動産仲介業者
大家
図2
その後,各不動産業者のインターネットサイトの情報を集約した総合不動産サイトが
開始された.このサイトでは様々な不動産業者がそのサイトに登録することで不動産物
件を消費者の検索対象にできる.このサイトができたことで,消費者にとって情報収集
をするコストがさらに削減することができた.唯一のサイトではないので,重複や漏れ
のある可能性は否めないが,一件一件不動産業者を回ることや,サイトを一つ一つ見て
いくことよりもはるかに安価で手早く情報を収集することができる.
6
顧客
集約HP
HP
不動産仲介業者
大家
HP
不動産仲介業者
大家
HP
不動産仲介業者
大家
図3
現在では,そういった総合サイトだけではなく,C to Cの形での不動産取引がインタ
ーネット上で行われるようになった.広く知られているのはYahoo!オークションやマザ
ーズオークションなどのオンラインオークションサイトの影響からだと推測できるが,
不動産取引を従来の不動産仲介業者なしで行うことができる.ここから,まだ定着・普
及している様子はないが,不動産契約業務のみに特化した業態が市場に生まれ始めてい
る.司法書士や弁護士は登記業務を取り扱えるため,従来とは異なった業種が参入する
可能性がある.
HP
不動産仲介業者
大家
HP
不動産仲介業者
大家
顧客
集約HP
賃貸希望
土地売買
不動産売却
契約専門・立会い専門業態
オ ー ク シ ョ ン ・ C toC 形 態
図4
上記では,取引費用のみに重点を置いて説明を行ったが,インターネットサイトの増
加によって不動産関連の情報や知識が消費者へ伝わり,不動産を取り扱う専門業者との
情報の非対称性が緩和されたと言える.同一環境における不動産の平均価格や不動産を
見る際の注意項目など,様々な情報が消費者の接触可能な範囲に存在することで非対称
性は無くなってはいないが緩和したと言える.
消費者側の視点だけではなく,不動産業者側の視点も考察する.不動産業者は消費者
へより多く質の高い情報を提供することが求められる.虚偽の情報や情報の隠蔽は,イ
ンターネットを介して消費者同士の情報共有がなされすぐに伝播する.このことから,
不動産業者はより良い情報を適切な形で消費者へ提供することが求められる.反対に,
より質が高く情報が適切であれば,消費者が選択する可能性が高まり,小さな業者でも
市場で競争することができるということになる.
7
2.この変遷に関して
この変遷には,取引費用に変化が起きている.既述の内容から,消費者の視点から考
えると,消費者の物件調査費用が明らかに下がっている.物件にある程度,目星をつけ
たうえで,実際に内覧にいくことができる.また事前に,地図やインターネット上での
情報により,物件のある地域の情報を取得することができる.公共施設や生活する上で
必要な商店や病院などである.また最近では治安等の生活環境をしることもできるので,
実際に物件に行く前に,情報を持って物件を見ることができる.最近では,物件を地図
上にマッピングしたもの(㈱エイブルHP) 3 や3Dで物件の内部の映像を見ることのでき
る技術などを各不動産会社が使用し,消費者への情報提供を勧めている.この背景には
ASP(Application Service Provider)と呼ばれるソフト製作専門の会社が増えており,
自社内での開発費用をアウトソーシングすることで軽減している.
政府も,不動産価格情報が消費者にとって不透明なものであると考え,北海道,宮城,
埼玉,千葉,東京,神奈川,愛知の七都道県の限定ではあるがレインズ(REINS) 4 に蓄
積された不動産取引の実勢価格を公開する.物権の特定ができないよう情報が加工され
ているが,様々な条件(例えば,地域や環境,物件の駅からの距離など)を加えて検索
することである程度の価格帯がわかる.2007年度には全国で本格始動する予定と国土交
通省が公表している.
こういった情報公開により,消費者は不動産取引における取引費用を軽減することが
できる.
次に情報公開により情報の非対称性が軽減され,従来,不動産業を生業とする専門業
者との間に情報の格差があったが,それを軽減することが,この変遷の中で起きている.
インターネットそのものの普及とユーザー数の増加により,不動産物件情報だけではな
く,不動産に関連した情報もインターネット上に流入している.このことにより,不動
産物件を見る場合のポイントや,物件を実際に見る場合どういった部分を見るべきか等,
消費者が不動産を選定する上で必要な情報をもてるようになった.多くの不動産会社が
自社HP上に不動産取引の知識や住宅購入の場合の税制や住宅ローンなどの情報を提供し
ている.また,2006年12月に日本へ参入してくる㈱コールドウェルバンカー 5 (世界最
大の不動産フランチャイザー)でもHP上で映像を用いながら住宅購入等のアドバイスを
行っている.もちろん情報の取捨選択は必要ではあるが,情報を取得するツールができ
たことにより,取引における情報の非対称性は軽減されたといえる.この情報の非対称
性は既述のとおり,無くなることは考え難く,あくまで軽減されたと考えられる.
3.Five Forcesを用いての分析
8
新規参入
売り手の力
市場内競争
代替品/補完品
買い手の力
図5
① 市場内競争
まず市場の定義を行う.インターンネット上に情報を公開している不動産業界と
する.不動産仲介業者がメインとなる.この定義の下,市場内競争について考え
る.不動産業として316,471社存在するとされている.不動産業ということで取
り扱っている業務の範囲が明記されていないが,市場ない競争は苛烈なものと考
えられる.
② 新規参入
Yahoo! 等のポータルサイトが挙げられる.各ポータルサイトはデータベースを
ほかの専門業者と提携して,そのままの情報を装丁のみ加工して各ポータルサイ
トにてオリジナルコンテンツとして消費者へ情報配信を行っている.
③ 代替品・補完品
弁護士や司法書士などが代替品として考えられる.登記の業務ができることで,
近年,増加しているインターネットを仲介してC to Cでの取引を行う場合には仲
介業者を挟むことなくこういった知識を持っている人間が業務を遂行できる.業
界の利益への影響力としてはまだまだ弱いが,C to Cの形態が増加していくこと
があれば影響力を持つ可能性もある.
④ 売り手の力
売り手は大家・地主,不動産を保有しているという範囲で見ることができる.自
力で消費者との接点を持っている場合は影響が強いが,仲介業者へ登録をして購
入もしくは賃貸希望者を募る形が一般的であると思われるが,その場合は売り手
の力は仲介業者を選定できるという点で強いが,物件において空きにしておくこ
とが意味を持たないので複数の仲介業者と契約を結ぶ場合が多いようである.そ
のため,売り手の力は業界の利益への影響は大きくないと判断できる.
⑤ 買い手の力
上記の通り,インターネット上での情報収集,不動産業者の数を見ても買い手の
選択肢は非常に多い.そのため,情報収集をしていくうえで,情報の精度が低い,
情報自体が少ないなど買い手が選定を行ったうえで実際の購買行動に移るため,
買い手の力は強いと思われる.しかしながら,選定の段階であって,その後の契
約段階等になれば,やはり専門としている側は情報・知識で優位に立っているこ
とは留意すべきである.機会主義的行動を売り手側が行うことは買い手同士の情
報共有が可能な現代では賢明な行為ではないが,行う可能性は含んでいる.
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まとめると以下の表6となる.
要因
利益への脅威度
市場内競争
高
参入
中
代替品/補完品
低
売り手
低
買い手
高
表1
以上から,市場内競争は非常に激しく,買い手の力が強いことから差別化戦略もしくは
集中戦略をとることで,この市場へのアプローチを考える.次節に高齢者市場への集中戦
略を考え,提言を行う.
4.市場選定
不動産市場において,上記のように市場内競争は非常に激しく,買い手の力が強いこと
から集中戦略をとることで,市場へ参入もしくは市場自体のパイを奪って異なる市場を創
ることができると考える.差別化戦略を用いて,市場の競争が激しいこの市場では得策と
は考えられず,また差別化が明確にすることができないため,集中戦略を用いて特定の市
場,対象へ向けた戦略が優位と考える.
ここで高齢者市場に目を向けたいと思う.日本は兼ねてから少子高齢化社会へ突入する
もしくはすでに高齢化社会時代に入っている.
【老年人口推移/対総人口割合推移】
4000
35%
3500
30%
3000
25%
2500
20%
2000
15%
1500
10%
1000
表2
20
20
20
05
20
03
20
00
19
90
19
80
0%
19
70
0
19
60
5%
19
50
500
65歳以上
65-74
75歳以上
65歳以上
65-74
75歳以上
データ参照: http://www.mhlw.go.jp
10
厚生労働省HPから参照したデータの表2にあるように1990年以降高齢者世帯は増加の一
方を辿り,人口は2015年を境に減少傾向が現れるとの予測が見られる.少子高齢化時代が
この表にも現れている.
また違う観点から見ていくと,下図にあるように,インターネット利用世代が今後,高
齢者世代となる.
表3
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060519_1_bt1.pdf
平成17年の調査の結果であり,60歳代以前のインターネット利用率は一貫して高く,今
後のこの世代が高齢者世代となったとき,インターネットを利用することは何ら障害があ
るものではなくなる.むしろ情報収集手段として慣れ親しんでいる世代とも言える.
最後に,国土交通省住宅局の調査 6 によると,高齢期の居住形態等の意向を調査したと
ころ,7割近くは具体的な住み替えなどを考えている訳ではないが,「単身(35 歳~64 歳)」,
「単身(65 歳~74 歳)」では,「住宅を購入する・借りる,施設に入る等して住み替える」
が多くなっている.住み替え後の居住形態としては,「単身(35 歳~64 歳)」,「単身(65 歳
~74 歳)」,「夫婦のみ(家計を主に支えるものが65 歳以上)」,「複合世帯」では「サービス
付の高齢者住宅」が最も多く,「単身(75 歳以上)」では「有料老人ホーム」が最も多い.
以上のような調査結果が出た.
これは少なからず老人ホームもしくはそれに類する住宅へ関心・興味があることを示し
ている.また75歳以上は現状での老人ホーム等介護付施設の対象者であるが,もう一方の
世代35歳~64歳に関しては,今後,高齢者世代を形成する世代であり,老人ホーム等介護
付施設のターゲットセグメントに入る世代と考えられる.この世代が,老人ホーム等介護
付施設が,若い時点で検討の範疇に入っていることがわかる.
ここから高齢者不動産市場とインターネットを使ったビジネスモデル・戦略を政策的提言
として纏める.
Ⅴ.政策的提言
1.政策的提言
高齢者不動産市場とインターネットを使い,個々人が自分に合った住居を手に入れるこ
とが求められる.
近年では,有料老人ホームはまったく珍しいものではなくなった.一般的に商品サイク
ルが通ると考えられる価格競争や付加価値戦略などを経ていく中で,様々な企業が参入し
11
ている.また通常の住居においても高齢者が生活することに対して配慮された設計(バリ
アフリー)を行っているものがほとんどになってきている.
しかしながら,今後高齢者と呼ばれる65歳以上になる世代は,世間一般に言われるよう
に所得があり,子供が少なく,余暇資産が多くある.DINKS(Double Income No Kids=共
働き且つ子供がいない世帯)が増加しており,それが顕著に現れている.また,総じて選
好が強く,追求するものに対してはお金を支払う傾向にあると近年の消費行動の傾向から
推測できる.これを住居にむけることを考える.
40~50歳程度のライフステージとしても安定し始めた世代に対して,終の棲家を考慮に
入れて住居を購入させる.終の棲家として購入するため,介護等の福祉サービスを含めて
自分の住居を購入してもらう.そのようなモデルを検討したい.
1970年代ころから,一部流行をしているコーポラティブハウスというものがある.
「コー
ポラティブハウス」とは,住宅の取得を希望する者同士が建設組合を結成して,共同で土
地の取得・建物の設計・工事の発注などを行い,建設を進めていく集合住宅のことをいい
ます.(coopnavi.jpより抜粋.http://www.coopnavi.jp/coop/index.html)これを老人ホ
ームの機能を持った形で成立させることができれば,自由度をもった老人ホームをつくる
ことができる.既成の老人ホームの問題点としてよく挙げられるのが,生活時間帯を決め
られるため自由度が低い,既存のコミュニティが存在し気を遣って生活しなければならな
い,外出等は許可を取らなければならない場合もある,など制約が多いことが見受けられ
る.最近の高齢者には心身ともに元気な方が多くいらっしゃる.アクティブシニアなどの
造語も誕生するほどである.そういった元気であるが1人で暮らすことが寂しい,2人のう
ち一方が介護を必要とするなど,様々な状況が考えられる.既存の老人ホームもメリット
はたくさんあると思うが,自由度を求め且つ少量の介護もしくは家事手伝い程度のニーズ
があるとすれば,既成の老人ホームでは制約が多く,外出に許可が必要である場合や,食
事の時間が設定されていてそれ以外の時間食事をとることができない場合,入浴する時間
が決められている場合など自由度が低いと考えられる.
このことからコーポラティブ型老人ホームという新しいモデルを検討したい.
コーポラティブハウスのメリット・デメリットを検討する.
1 メリット
設計の段階から建設に参加することができるため,住居スペースも自分の思うよう
に設計が可能である.居住する人間同士で建設組合を作るため,全員の顔がわかっ
ている状態で入居を決定できる.住む人間が決まっているため広告費等をかける必
要がない.そのためその分の費用をほかに回すことができる.
2 デメリット
居住する人間同士が合わなかった場合,ほかのプロジェクトを探すことになる.ま
た,プロジェクトスタートから完成まで1年半程度かかってしまう.一度,プロジェ
クト参加を決めてしまうと離脱することが難しい.
以上のような点が挙げられる.
終の棲家として選択し,作り上げるとすれば時間と費用をかけることは,障害として小
12
さいものである.実際,既成の物件を探す際でも多くの物件の情報収集を行って実際に足
を運び比較検討をするだろうから.
また今日では,中古不動産市場が非常に伸びてきており,政府もそれを推進している.
新築することよりもリノベーションやコンバージョンの手法を使って中古不動産を再生す
ることのほうが環境への負荷が少ないことと,物件数字自体が供給過多になっており,新
築への移動後,物件としての残存期間内にも関わらず,移動前の物件があいてしまうとい
う事態があるからだと推測できる.このことから今後,不動産市場は中古不動産の流通も
増加することになる.住宅用だけではなく,オフィスや老人ホーム等の集合住宅など.さ
まざまな形態の不動産が市場に流通することになると考えられえる.こういった情報と福
祉サービスを含むコーポラティブハウス型の住居を希望する人たち,またそれを施工・デ
ザイン・管理する会社などが一堂に会する環境・インターネット空間があれば,そこへ集
まる可能性があり,かつそのインターネットサイトの存在意味がある.図6はイメージ図で
ある.
資金援助情報
介護保険等の情報
地価情報の開示
行政
オンライン入札
不動産関連サービス
不動産集約サイト
物件・土地
老人ホーム
デザイン
内装
施工
企画
エージェン
仲介
福利厚生施
寮 /ア パ ー ト
デ ザ イ ン・施 工・管 理
補修など
個人
高齢者・高齢者予備軍
投資家
FP
金融
不動産関連業
介護サービス
医薬品
医療機器
介護用品メーカー
大学
NPO
病院
その他
図6
次に,こういった小さなコミュニティを形成した上で,コーポラティブ形式の老人ホー
ムと地域の小学校・中学校・高等学校または大学などと提携をし,小学校では校庭の手入
れや小学生との触れ合いを,中学校では教育に参画してもらうことや高校では就業体験と
して老人ホームで就業をさせてもらうなど,高齢者と地域,主として学校との連携をとり,
コミュニティの形成を目指す.また大学では,知的好奇心の高いと考えられる高齢者に通
常よりも低い価格で講義を受けてもらう.現時点でさえ,大学の講義室は満席ということ
が少ない.その空席を低い価格で提供し受講してもらう.これはアメリカなどではリンク
カレッジ型と呼ばれ,多くの大学で実践されている.これから日本の大学市場は全入時代
13
とも言われており,学生の確保が難しくなる.特にネームバリューのない大学や地方にあ
る大学などはなおさらである.生涯学習という言葉が頻繁に見られるようになった近年で
は,学生を10代20代に限定せず,対象を広げ市場のパイを拡大させることが求められると
考えられる.その上で,小さなコミュニティ=老人ホームと提携し学生の確保を進める.
双方(小中高と大学)の提携において地域のNPOや地域組織などが仲介しすることでスムー
スに導入されるのであれば,そういった方法をとるべきである.コミュニティの形成を行
った上で,学校や地域のコミュニティに入ったほうが,個人で行うよりも労力が少なく,
かつ円滑に行うことができると考える.
近年,他世代とのコミュニケーションをとることが少ない子供・青年たちにとって非常
に大きな学習機会を設けることができ,また高齢者にとっても仕事を終え,その後の生き
がいといっては言いすぎかもしれないが,機会を提供することで高齢者にとっても良い影
響を与えることができると考えられる.この提携についてはコーポラティブ型の老人ホー
ムが根付いた次のステージとして考えている.
2.課題
課題は,このビジネスを開始する際に中心にいることのできる人間・組織・企業体がリ
スクをとってこのビジネスを行うかである.
現在では,分譲マンションに限定した形で,大手不動産7社が同一のサイトを運営してい
る.情報を共有し,消費者を集めた上で競争を行うということである.発想としては全体
のパイを大きくした上で奪い合うということである.コーペティション(coopetition)=
協働ということになる.
この事例から複数の建築事務所がスタートすることで,個人経営で且つあまり有名でな
い事務所でも複数集まることでパイを大きくし,競争することができる.
また別の視点としては,ポータルサイトの企画としてロンチし市場の様子を伺うことも
有効ではないだろうか.市場に受け入れられれば,ポータルサイトから独立し,1つのサイ
トとして運営することも可能となる.プレイヤーがいなければ意味がない.この点で最大
の課題である.
結論
不動産市場におけるインターネットの影響は非常に大きなもので,取引形態がまったく
といっていいほど変わった.最終的な契約段階においては金額が大きいだけに人対人での
交渉となる.この部分はインターンネットがいくら普及しようと変わらないのではないか
と思う.高齢者不動産市場での検討については,現段階では現実可能性は低いかもしれな
いが,昔は老人ホームと聞いた印象は非常によくないものであったと思う.しかしながら,
今日では高齢者が進んで入居する場所となっている.社会背景・企業努力など様々な要因
があるだろうか,市場に導入したばかりでは拒否反応が起きる商材・市場があることは確
かである.消費者にとって知覚便益が大きく,企業・社会にとって有益なものであれば市
場へ浸透する可能性が大きいと思われる.またコーポラティブハウス型の老人ホームはア
14
メリカやヨーロッパの諸国ではすでに浸透しており,さらに大学との提携をしているリン
クカレッジ型など新しい形を見せている.日本の高齢者市場は間違いなく変化が起きると
思う.その際にこの提案が受け入れられれば幸いである.
謝辞
この論文作成に当たり,丹沢安治教授をはじめ多くの方のご協力を得たことに感謝しま
す.ゼミ生またゼミOBの方にもご協力頂きまして,この論文を作成することができました.
心より感謝申し上げます.
)総務省情報通信統計:
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/statistics/data/020521_1.pdf
2 )David Besanko,David Dranove,Mark Shanley著,奥村昭博,大林厚臣監訳(2002)
3 ) ㈱エイブル:http://www.able.co.jp/index.cfm
4 )財団法人東日本不動産流通機構: http://www.reins.or.jp/
5 )コールドウェルバンカー㈱: http://coldwellbanker.jp/
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不動産投資
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