Summary of the Philippine Economy and Possibility of Business

フィリピンの経済概況及び
ビジネスの可能性について
塚
尾
大
輔
JETRO マニラ事務所
再び成長の道を歩み出しつつある今のフィリピンについて紹介したい。
1.はじめに
日本でも大きく取り上げられたと思う 2013 年 10
フィリピンだが、近年、再び日系企業の注目を集め
月にビザヤ地方を直撃した大型台風は、レイテ島を
つつある。1960 年代までアジアの優等生とまで言わ
中心に甚大な被害がでた。被害の多くは強風と高潮
れたフィリピンが半世紀を経てそもそもなぜ再び注
によるもので、被害を拡大させた要因の一つとして
目を集めているのか。日本同様約 7,100 からなる島
は、災害に対する事前の情報伝達及び備えがなされ
国であり近隣諸国とは陸ではつながっておらず、ま
ていなかったことである。一方で、レイテ島の一部
た、原材料は海外からの調達に頼っている状況で
では事前に台風の規模等を把握し地域住民に周知さ
ある。現地に駐在している身としては、大きく次
れていたこともあり最小限の被害ですんだ地域も
の 3 つを主な要因ではないかと考えている。1 つ目
あったようだ。台風直撃後、マニラ首都圏はクリス
は、顕著な経済成長を続けるアジアの外需を如何に
マスシーズンを迎えたが、多くの企業がクリスマス
取り組み会社を成長させていくか。2 つ目は、中国・
のイベント等を取りやめ、その資金を被災地復興支
ASEAN 域内の投資環境の変化及び生産・供給体制
援に寄附する動きがあった。また、高所得者が居住
の分散化。3 つ目は豊富な人材である。
するコンドミニアム等では、身の回り品を被災地に
多くの日系企業が活発なビジネスをここフィリピ
寄附するための活動も行われた。現在、日本及び各
ンで行っている状況ではあるが、経営者にとって経
国の支援を受け復興に向け進んでいるところであ
済成長著しいアジアの中のどの国に投資をすべき
り、電気も回復するなどインフラの復旧も進みつつ
か、どの国とのビジネスを展開していくかは非常に
ある状況であるが、被災地域が広範囲に及んでいる
慎重な選択と決断が求められてくる。そのため、海
ため一日も早く元の日々に戻ることを願いたい。
アジアの国々と比較するとまだまだ注目度の低い
外展開をお考えの皆様が本稿を通じて今のフィリピ
ンを知るその一助となれば幸いである。
2.フィリピンの経済概況
2
近年のフィリピンの経済成長は、2012 年の GDP 成
外就労者(OFW : Oversea Filipino Worker)の送金と
長率が 6.8 %、2013 年が 7.2 % と高い経済成長を推移
それによる堅調な家計最終消費支出などである。今
中である。主な要因は、GDP の約 6 割を占めるサー
後、アキノ大統領の主要政策の柱の 1 つである PPP
ビス産業の好調、2009 年頃の欧州債務危機の影響で
プロジェクト(Public‑Private‑Partnership Project)
落ち込んでいた輸出の回復、底堅いフィリピン人海
に基づくインフラ整備が着実に実施されれば、引き続
SOKEIZAI
Vol.55(2014)No.3
特集 グローバル市場は今
き経済成長を促進していく要因の一つとなるだろう。
フィリピンの場合、国全体の一人当たり GDP は
日系飲食店の進出が加速している。日系コンビニで
は、ミニストップが既に約 340 店舗を展開しており、
消費の物差しである 3,000 ドルにはまだ達していな
2013 年 4 月にはファミリーマートも進出し、日本流
い状況ではあるが、この経済成長が継続すれば数年
の弁当やデザートを販売している状況である。
内には 3,000 ドルに達すると言われている。なお、
貿易についてであるが、日本は 2009 年から往復
人口約 1,150 万人からなるマニラ首都圏は既に 5,600
貿易額が 4 年連続 1 位の重要な貿易相手国である。
ドル、人口約 400 万人のセブ地域は 4,100 ドルを越え
フィリピンに進出している日系企業が関与する貿易
ている状況(図 1)であり、これは近隣諸国の一人当
は、日本・フィリピン間以外にも ASEAN 諸国やア
たり GDP と比較しても同水準となっている。また、
メリカ、中国、EU 等の第三国の貿易にも関係して
OFW の存在も欠かせない。約 1 億人の人口のうち、
いる場合があることから、これら貿易取引額を合計
約 1,000 万人が海外で就労しているからである。フィ
するとフィリピンの往復貿易額に占める日本の関与
リピン政府が公式に公表している送金額は 2013 年現
は 30 % 以上を占めると考えられるため、日本国内で
在で 228 億米ドルと GNI の約 1 割に達している(図
認識されている以上にフィリピンにおける日本の存
2)。送金元としては、英語が公用語である国の特徴
在は非常に重要であることを認識頂きたい。
をいかしアメリカ、カナダ、イギリス等の英語圏及
なお、2013 年の投資額は、2013 年 9 月末時点で、
びサウジアラビアや UAE 等の中東からの送金が上
米国が 474 億ペソで 1 位、オランダ領のバージン諸
位を占めている。なお、日本からの送金額は 7 位と
島が 309 億ペソで 2 位、日本が 154 億ペソで 3 位で
なっている。
あり、引き続き重要なパートナーとなっている。米
このように顕著な経済成長及び所得の増加に伴い、
国は IT‑BPO 分野への投資額が多く、オランダは租
マニラ首都圏を中心に、ラーメン、トンカツ、焼肉
税回避の観点で複数の国の企業が当該地を経由して
店等フィリピン企業とのフランチャイズ契約による
投資しており、日本からは製造業分野への投資が多
くを占めている。
(単位:ドル)
12,000
(単位:100万米ドル)
10,344
10,000
25,000
22,760
21,391
8,000
6,000
4,000
20,000
6,071
5,624
15,000
4,166
3,594
2,611
1,552
2,000
0
20,117
18,763
16,427
5,390
14,450
12,761
10,000
5,000
中国 イ ン
6,050
マ
フ
比
比
タ
ベト
ナム
ドネ レーシ ィリピ ・マニ ・セブ イ
*
ン*
(20
ラ首
シア
ア
*
都圏 11)
( 20
11)
出所:World Economic Outlook(IMF)/2013 年10 月発表
(* 印は予測値)
図1
10,689
8,550
7,578
6,886
6,031
0
20
0 1 0 0 2 0 0 3 0 0 4 0 0 5 0 0 6 0 0 7 0 08 0 09 0 1 0 0 11 0 1 2 0 1 3
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
出所:中央銀行(BSP)
図2
2012 年一人当たり GDP
OFW の送金推移
3.フィリピンの主要産業と日系企業の進出状況
フィリピンの国家統計局(NSO)によると、2012
人以下の零細企業である(表 1)。
年末までに設立された企業(外国企業含む)は約 94
第 二 次 産 業 の う ち、 製 造 に 該 当 す る 企 業 は 約
万社であり、うち約 9 割にあたる 84 万社が従業員 9
118,766 社で全企業の約 12.6 % を占め、従業員 100 人
Vol.55(2014)No.3
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3
表1
総企業数
第一次産業
第二次産業
(うち製造業)
第三次産業
合計
8,814
126,248
(118,766)
809,942
945,004
フィリピンの企業数
零細企業
(1‑ 9 人)
5,977
106,697
(103,037)
732,086
844,760
小規模企業
(10 ‑ 99 人)
2,450
16,621
(13,473)
72,954
92,025
中規模企業
大企業
(100 ‑199 人) (200 人以上)
194
193
1,443
1,487
(1,115)
(1,141)
2,499
2,403
4,136
4,083
出所:NSO(National Statistics Office:国家統計局)
以上の中・大規模企業は 2,256 社となっている。なお、
上中古車の輸入は禁止されているが、年間 7、8 万
フィリピンの場合、大企業の定義は総資産 1 億ペソ
台といわれる中古車が自動車登録されているため規
以上(約 2.3 億円 /1 ペソ=約 2.3 円)とされている。
制の徹底等があげられる。
これら製造業を牽引するのが電子関連産業、自動
車産業である。
まず、フィリピンの電子関連産業は、輸出総額の約
鋼の消費量は月次約 100 トン。一般的に金型を必要
50 % を占めるフィリピン最大の産業であり、フィリピ
とする企業は、自社で金型部門を備え、自社製造・
ン政府は 2016 年の目標輸出額を 500 億ドルとしてい
メンテナンス等を行っており、企業によっては、他
る。マルコス政権時の 1970 年代には、欧米の半導体
社の金型のメンテナンスを行っている状況から、金
メーカーが進出を開始し、その後、1980 年代半ばに
型の受注を受け現地生産している企業は一握りとい
生じた円高の時期に、日本電産コパル、矢崎総業、共立、
われている。一方で、フィリピン国内に営業部門だ
旭ガラス、ローム、クラリオン等の日系企業の海外進
けを設け、注文を取得してから日本国内で製造しそ
出・移転も進みだし、現在のフィリピン電子産業を形
れを輸入販売するという形態をとっている企業もあ
成する動きは、この日系企業を中心とした投資による
る。当該市場の課題は、主要産業を含む他産業の成
ことが極めて大きい。1990 年代半ばには、当時のラ
長に伴い、将来精密加工の需要が高かった場合の対
モス政権により熱心な日本企業誘致活動が行われ、日
応、自動車産業が活性化した場合、金型の長寿命対
立、東芝、富士通、NEC が進出し、ハードディスク
策等をクリアする必要がある。
ドライブ(HDD)製造事業をほぼ同時期に開始した。
4
これらの産業と緊密な関係にあるフィリピンの金
型産業は、日本の約 150 分の 1 の規模であり、工具
ではこのフィリピンに日系企業が何社進出してい
2010 年代は、プリンター関連のブラザー工業、Canon
るかであるが、2013 年 10 月に発表された日本国外
の進出、EPSON の増産体制等へとつながっている。
務省の「海外の在留邦人統計調査」によると、2012
また、IMI(Integrated Microelectronics, Inc.)といっ
年 10 月時点で 1,214 社あり、うち、マニラ首都圏の
たプリント基板製造から始めた地場企業が、組み立て
あるルソン島には 1,032 社、セブのあるビザヤ地方
工程を中心にした委託生産事業も展開するなど、日系
には 163 社、ダバオのあるミンダナオ島には 19 社
企業とも密接な関係を保持しながら成長しつつある。
の状況である。ルソン島では、多くの日系企業がマ
当該産業の課題としては、フィリピン国内で難しい光
ニ ラ 首 都 圏 や カ ラ バ ル ゾ ン 地 方(Cavite‑Laguna‑
学部品の調達、精密金型ができない、プラスチック部
Batangas‑Rizal‑Quezon)に進出している(図 3)。ま
品調達は可能だがモジュール化には対応できない等が
た、ルソン島中部のクラーク及びスービックにも複
あげられる。
数の日系企業が進出している。フィリピンは他の
次に自動車産業だが、2013 年の自動車登録台数は
ASEAN 諸国に比べてインフラが整備されていない
約 20 万台で実際の現地生産規模は登録台数の約 40 %
のではないかと懸念される方もいるが、マニラ首都
程度といわれているため、他の ASEAN と比較して
圏やカラバルゾン地方はフィリピンの中で最も交通
もまだまだ小さい市場と言える。主要生産品目は、
面のインフラ整備が進んだ地域であり、多くの企業
ワイヤーハーネス、アンチ・ブレーキ・ロックシス
が進出している工業団地からマニラ国際空港及びマ
テム、トランスミッション等であり、特にワイヤー
ニラ港付近まで高速道路も整備されており、比較的
ハーネス、トランスミッション(特にマニュアルタ
物流も円滑に流れている。
イプ)はアジア市場への供給ハブの一つとなってい
フィリピンでのビジネスを検討する場合、フィリ
る。当該市場の課題は、やはり生産台数が他のアジ
ピンの内需を目的としたビジネス、または、フィリ
ア各国と比較しても極めて小さい規模である。今後
ピンに投資後、完成品・加工品又はサービスを第三
の需要拡大を期待するとともに、フィリピンの法律
国に輸出するビジネスの 2 種類に分類される。輸
SOKEIZAI
Vol.55(2014)No.3
特集 グローバル市場は今
<Laguna州>
Laguna International
Industrial Park
・大和精工㈱、
他
<Cavite州>
People's Technology Complex
・松田産業㈱
・オリエンタルモーター㈱、
他
<Cavite州>
Cavite Economic Zone
・㈱ミツワ化学
・㈱島津製作所
・グローリー㈱
・ハヤカワ電線工業㈱
・日本ガーター㈱、
他
Laguna Technopark
・㈱エフテック
・富士通㈱
・本田技研工業㈱
・古河電気工業㈱
・HOYA㈱
・いすゞ自動車㈱
・日本電産㈱
・TDK㈱
・テルモ㈱
・東芝情報機器㈱
・トヨタ紡織㈱
・信越化学工業㈱、
他
<Cavite州>
Gateway Business Park
・日本航空電子工業㈱
・㈱山王、
他
<Laguna州>
Greenfield Auto Park
・日東電工㈱、
他
<Laguna州>
Light Industry & Science Park
・千代田インテグレ㈱
・NECトーキン㈱
他
・日本電産コパル㈱、
<Cavite州>
First Cavite Industrial Estate
・㈱日立製作所
・ウシオ電機㈱
・不二サッシ㈱
・㈱ミツバ
・日本アンテナ㈱、
他
<Batangas州>
First Philippines Industrial Park
・㈱アートネイチャー
・本田技研工業㈱
・イビデン㈱
・日鉄マイクロメタル㈱
・ブラザー工業㈱
・ニッコーシ㈱
・住友重機械工業㈱
他
・シチズンホールディングス㈱、
<Laguna州>
Carmelray Industrial Park
・富士電機㈱
・積水樹脂㈱
・新電元工業㈱
・パナソニック㈱、
他
<Batangas州>
Lima Technology Center
・セイコーエプソン㈱
・日立電線㈱
・ヤマハ発動機㈱
・東ソー㈱
・㈱千代田製作所
・㈱創美工芸、
他
Calamba Premiere
International Park
・富士機械製造㈱、
他
出所:JETRO マニラ事務所作成
図3
日系企業進出状況
出目的のビジネスの場合、フィリピン政府の定める
が、他国と比較してもこのような投資インセンティブ
一定条件を満たせば各種投資インセンティブを受け
を与えている機関はないだろう。さらに各インセン
ることが可能である。現在、フィリピンには 12 の
ティブの詳細を把握したい場合は PEZA ホームペー
投資機関があるが、そのうち、外国投資認可額の約
ジをご参照頂きたい(http://www.peza.gov.ph/)
。
8 割 を 占 め る PEZA(Philippines Economic Zone
・100% 独資による進出が可能(通常は外国資本 40 %
Authority)について紹介したい。
以下 : フィリピン資 本 60 % 以上の出資規制あり)
・新規設立企業の場合、4 年間法人所得税免税。
2013 年 末時点で PEZA の投資インセンティブを
受けている企業は 2,730 社であり、うち日系企業は
一部形態は 6 ‑ 8 年まで税制優遇免税期間後は国
855 社の約 31 %、アメリカ及び韓国企業がそれぞれ
税及び地方税に代わり、(総所得に対する)5 %
約 300 社と続く。2013 年は 101 社の日系企業が認定
の特別法人所得税が適用
を受けており、過去最高だった 2012 年の 80 社より
・関税の免税、埠頭税・輸出税の免税、労務費の
も 21 社増加。また、前述より、電子関連産業を中
追加控除等の追加優遇措置あり
心とした進出となっていることから、認定業種内訳
・総売り上げ 30 % までの国内販売の許可
としては、金属組立が 120 社、それに関連した倉庫
・PEZA ビザの発給
が 115 社、ラジオ・テレビ、通信機器等が 82 社となっ
それでは、なぜフィリピン政府がこれだけの投資
ている(表 2 及び図 4)。
インセンティブを与えるかであるが、フィリピンは
毎年約 2 % の人口増加(約 200 万人)が続いているた
PEZA の主なインセンティブは次のとおりである
表2
年
社数
2001
26
1989
17
2002
20
1990
8
2003
28
1991
6
2004
40
1992
7
2005
38
PEZA 認定日系企業数
1993
17
2006
39
1994
27
2007
36
1995
54
2008
35
1996
47
2009
32
1997
23
2010
35
1998
23
2011
63
1999
25
2012
80
2000
28
2013
101
出所:PEZA ホームページ情報より筆者作成/ 2013 年 末時点
Vol.55(2014)No.3
SOKEIZAI
5
その他のカテゴリー
製造業
会計・コンピュータ用機械
アパレル
ITサービス
機械設備
医療、精密・光学機器、時計
工学、
建築及びデザイン
自動車・トレーラー
電気機械器具
不動産
ソフトウェア開発
ゴム・プラスティック製品
ラジオ、
テレビ、
通信機器
保管目的の倉庫
金属組立製品
(機械設備以外)
13
14
15
17
19
0
132
28
31
40
45
49
57
78
82
50
115
120
100
150
出所:PEZA ホームページ情報より筆者作成、2013 年末時点
図4
PEZA 認定日系企業の分野別進出状況
め新たな雇用吸収先を確保しなければならないから
費に織り込み済みであるため現時点で特段経営を圧
である。このフィリピン政府の政策と労働者を必要
迫する事態とはなっていないとのことである。
とする製造業関連企業の考えが一致した結果、多く
フィリピンを投資先として検討する場合のメリッ
トとデメリットであるが、まずメリットは、やはり
の投資を呼び込んでいる状況につながっている。
次に、給与について見ていきたいが、フィリピン
豊富な人材があげられる。失業率は 7% を超えてお
政府・労働雇用統計局が発表した 2013 年 4 月時点の
り、人口増加率は 2% で毎年 200 万人ずつ増加して
一般労働者の業種別基本月給調査では、製造業は基
いるとともに、フィリピンの平均年齢は約 23 歳と
本月給(諸手当込み)が約 1 万ペソ(約 23,000 円 /1
他国と比較しても極めて若く、また、高い英語力、
ペソ= 2.3 円)の状況(図 5 参照)。また、2013 年 8
手先の器用さ、視力も良いとされている。フィリピ
月にフィリピン日本人商工会議所が発表した製造業
ン人の約 9 割がカトリック教徒であり人工中絶は宗
分野の会員企業による一般労働者の基本月給(諸手
教上認められていないことから、安定した人口増加
当込み)は約 1.5 万ペソ、初任給は大学・専門学校卒
及び若い平均年齢は今後 30 年も続くだろうと言う
が約 1.2 万ペソだった。なお、近年の年平均賃金上
方もいる。また、人件費は最低賃金を他国と比較し
昇率は、物価上昇率等を反映し 6.9 % であるが、既
た場合決して安価ではないが、最終的な支給に含ま
に進出している日系企業からは、上昇分は事前に経
れる諸手当を合算すると、競争力のある人件費とな
り魅力のある投資環境といえるだろう。そして、上
述したとおり特にフィリピンで製品を加工・製造し
(単位:ペソ)
25,000
第三国に輸出をする輸出志向型企業には充実した投
20,000
資インセンティブがあることである。一方で、デメ
15,000
リットは、電力料金が高いことだ。電力量はミンダ
10,000
ナオを除き需要に対して十分供給可能な状況ではあ
5,000
るが、マニラ首都圏があるルソン島では 8 〜 8.5 ペ
0
ソ /KWH(約 18 円 /1 ペソ= 2.3 円)と日本の業務
産
等
険
信
ス
動
保
通
・
・
ガ
不
融
報
・
気
金
情
電
育
教
業
ン
庫
ラ
造
倉
建
・
製 スト
輸
運
レ
ル・
テ
ホ
設
出所:労働雇用統計局のホームページ情報より筆者作成
図5
6
SOKEIZAI
業種別フルタイム労働者基本月給
Vol.55(2014)No.3
農
業
用料金と比較すると倍近い料金となる。また、業種
によっては必要に応じて環境対策も求められてくる
ため、事前に法律に基づく環境対策をどう実施する
かも慎重に検討する必要がある。
特集 グローバル市場は今
4.フィリピンで成功するためには
これまでに触れた内容と一部重複する点もある
③ EMS(Electronics Manufacturing Service)
が、今後、フィリピンでのビジネスを検討するに当
企業の活用
たり、次の要素を活用したビジネスモデルを構築さ
フィリピンの電子産業は、HDD や半導体など海
外からの投資によって発展してきたが、この発展に
れてはどうだろうか。
伴い地場資本による部品組立て産業も着実に育って
① 内需をいかに取り組めるか
きている状況。これら企業は、現在は EMS 事業を
フィリピン全体の一人当たり GDP は 2012 年時点
その主体として活発な活動を行っている。フィリピ
で約 2,600 US ドルであるが、マニラ首都圏は 5,600
ン最大の EMS 企業は Integrated Micro Electronics
ドル、セブ地方は 4,400 ドルを越えている状況であ
Inc.(IMI)で あ り、 売 上 規 模 は 4 億 米 ド ル と 世 界
るため、どのエリアでどのような商品を展開してい
で 27 番目に位置する EMS 企業であるとともに、日
くのか、また、対象商品により消費者層をどの層に
系企業との取引が売上規模の約 4 割を占めている。
合わせるかの戦略が必要になる。2009 年時点の耐
こ の 会 社 以 外 に は、EMS Components Assembly
久消費財の普及率は以下のとおりであるが(表 3 参
Inc.、PSI Technologies Inc.、Ionics Inc.、Fastech
照)、富裕層の買い替え需要及び低所得者の新規購
Synergy Philippines Inc.、Team Pacific Corp 等が
入需要等を想定すると、今後相当なマーケットを期
ある。
待することが出来る。ポイントは、信頼のおけるパー
EMS 企業を活用する最大のメリットは、自己資本
トナーを発掘し日本若しくは第三国から製品を輸出
により自社工場を保有しなくても、EMS 社内に製造
するか、直接フィリピンに投資・工場設立を行い内
ラインを作ればビジネスをスタートできるため、財
需を取り組んでいくかを検討することである。
務負担が軽くコスト低減を実現する可能性が高くな
ることである。また、EMS 企業によっては、従業員
② 第三国への製品・部品輸出を視野に入れたビジネ
の採用や管理等も行うため、最小投資及び最小リス
スモデルの構築
クでの進出が可能となり、ビジネスが拡大した場合
現在、日本・フィリピン間には、2008 年に発効し
は自社工場を設立する等融通が利く点もある。
た「日本・フィリピン経済連携協定(日比 EPA)」
なお、昨年 10 月に長野県諏訪市で開催された「諏
がある。原則 2018 年には全ての関税が撤廃されるた
訪圏工業メッセ」に EMS 事 業 社を招聘したが、現
め、この関税のメリットを最大限活かした日本・フィ
在複数の日系会社と同社による今後のビジネスに向
リピンの貿易促進を期待したい。
けた検討が行われている状況。
また、2015 年には、ASEAN 域内の関税が撤廃さ
れる ASEAN 経済共同体(関税自由化)が発効され
④ 製造業関連団体を活用
るため、日本・フィリピン間の貿易のみならず、フィ
フィリピンの製造産業分野を牽引する主要な産業
リピンから第三国へ製品を輸出する輸出拠点として
である自動車、電子・電気機器、金型及びゴム加工
の投資・進出を期待したい。その際、フィリピン政
関連団体を紹介したい。フィリピン側のパートナー
府の投資インセンティブも活用しつつ、輸出及び内
情報等を入手したい場合、以下の団体を活用するこ
需の拡大に対応しえる体勢を構築することをお勧め
とも一つの手段である。
したい。なお、自社製品の現時点での関税率を調べ
たい場合は、以下のサイトをご参照いただきたい。
URL : http://www.jetro.go.jp/theme/trade/tariff/
・自動車関連団体
Association of Consolidated Automotive Parts
Producers, Inc(ACAPP)
表3
中間・富裕層
低所得層
電話
97.6
61.2
テレビ
98.5
67.3
耐久消費財の階層別普及率
冷蔵庫
88.5
28.2
洗濯機
76.6
20.0
クーラー
33.6
2.6
自動車
28.9
2.6
二輪車
30.9
13.4
パソコン
43.6
2.9
出所:NSO(National Statistics Office:国家統計局)
Vol.55(2014)No.3
SOKEIZAI
7
Website : なし
特徴 : 会員数 29 社、機械系部品メーカーが多い
団体
・金型関連団体及びゴム加工関連団体
Metalworking Industries Association of the
Philippines(Manila Chapter)
Website : miapnational.com
Motor Vehicle Parts Manufacturers Association
of the Philippines(MVPMAP)
特徴 : 会員数 74 社、比国内に 17 の支部を持つ
金属加工団体
Website : www.mvpmap.com
特徴 : 会員数 140 社、総合部品メーカーの団体
Philippine Metalcasting Association, Inc(PMA)
Website : philmetalcasting.com
・電子、電気関連団体
Semiconductor and Electronics Industries in the
特徴 : 会員数 110 社、鋳造関連企業から構成さ
れた団体
Philippines, Inc(SEIPI)
Website : www.seipi.org.ph
特徴 : 会員数 227 社、
電子、
半導体産業関連のフィ
リピン最大の団体
Philippine Rubber Industries Association, Inc
(PRIA)
Website : www.philippinerubber.com.ph
特徴 : 会員数 56 社、ゴム加工関連会社から構成
された団体
5.おわりに
8
日本への国民感情やフィリピンの治安を心配され
いるからではないだろうか。私自身もフィリピンに
る方もいるが、日本への国民感情は極めて良好だ。
赴任して約 1 年半が過ぎたが、統計上の数字では把
治安は被害にあう可能性の高いエリアへ近づかな
握できない実体経済及びフィリピン人の優しさがひ
い、一般的な節度ある態度・行動をとれば、トラブ
しひしと伝わってくる。言うまでもなく、海外進
ルに巻き込まれる心配をする必要はない。また、フィ
出または取引を行う際にどの国を選択するかはとて
リピンの場合、駐在が決まると 2 度は泣くといわれ
も重要であり、特に中堅・中小企業にとっては会社
る。1 回は赴任が決まったとき、もう 1 回は駐在期
の命運を分けかねない大切な決断であるため、フィ
間が終了し帰国するときだ。これは日本国内で認識
リピンにご関心のある方はまずはご自身の目で今の
されているフィリピンの印象に大きな誤解が生じて
フィリピンを体感されることをお勧めしたい。
SOKEIZAI
Vol.55(2014)No.3