最後のチャンス 世界が約束を守ることができるかどうか この機会にかかっています! 1 目次 序文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 ミレニアム開発目標4―乳幼児死亡率削減 6 ミレニアム開発目標 5―妊産婦の健康改善 10 ミレニアム開発目標 6―HIV/エイズ、マラリア、その他の感染症との闘い 13 HIV/エイズ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 マラリア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 2010 年までにミレニアム開発目標(MDGs)達成の軌道修正をするために、 何が求められているのでしょうか 16 負担の大きい国々 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 支援国政府 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 国際機関 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 企業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 市民社会組織・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 ミレニアム開発目標(MDGs)保健分野に対するワールド・ビジョンの貢献 19 栄養 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 乳幼児死亡率の削減 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 妊産婦死亡率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 HIV/エイズ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 2 はじめに 貧困に苦しむ何百万もの子どもたちと大人の飢餓、健康状態、死亡率、非識字率を改善すべく合意され たミレニアム開発目標[Millennium Development Goals: MDGs]。目標年である 2015 年まで残すところ 7 年となりましたが、その達成は悲観視されています。政治、経済、宗教また市民社会の指導者がニュー ヨークに集い、国連ハイレベル会合が開催されます。MDGs に掲げられた 8 つの目標達成への道筋をつ けられるかどうかを左右する責任が、彼らには委ねられています。 出席者たちが目標達成に向けた進捗が遅れている責任を受け止め、より迅速に成果を上げていくことに 合意するならば、2000 年に世界でもっとも貧しい人々に対してなされた約束を果たす可能性はまだ十分 に残されています。 もしこの行動への呼びかけが無視されるならば目標は達成されず、その結果何百万という人々が貧困 を克服するチャンスを失ってしまうかもしれません。つまり、ニューヨークでこの 9 月に開催される会合か らはじまる 12 カ月間が、国際社会が世界の貧困、飢餓、感染症を解決できるかどうかを試されるときと なるのです。 中でも最も緊急な課題となっているのは、保健分野です。アフリカでは、8 つすべての目標について課題 が残されていますが、特に保健の分野においては達成を楽観視できる要素がほとんどありません。現在 のままでは、アフリカ、中東、南アジアのすべての地域において、5 歳未満の子どもの死亡率を 3 分の1 に削減するという目標を達成できないとされています。5 歳未満児の死亡率はここ数年にわたりわずか ながら改善されているものの、1 年間で 920 万人の子どもが死んでいくという受け入れがたい状況が現 実として残っています。 1 加えて、最貧困層コミュニティでは、妊娠・出産または関連する原因により、いま だに多くの女性が命を落としています。2015 年までに妊産婦死亡率を 4 分の 1 に削減するという目標に ついては、10 分の 1 も達成されていない状況です。 MDGs が達成できないことによる弊害は、国際社会の信用が大きく失われることだけに留まりません。清 潔で安全な水、十分な食糧、基本的な保健サービスが提供されず、人々の基本的権利が侵害され、900 万人以上の子どもと約 50 万人の女性が防げるはずの原因によって亡くなっているという現実を一刻も早 く改善しなければなりません。1 人1人の死は、人間が本来持つ可能性が失われていることを意味する のです。この受け入れがたい状況に対処することは道徳的義務であります。しかし、道義的責任だけで は動かされないという人たちも、なぜ MDGs の達成が重要かを理解することによって、行動への要請を 拒むことはできないはずです。MDGs で設定された 8 つの目標は、互いに関連しています。世界の最貧 困層にある人々の健康状態が改善されなければ、彼らの社会や経済が発展していくことは望めません。 1 ユニセフ(2008 年)2008 年 9 月 12 日プレスリリース”Releasing declining numbers for child mortality, UNICEF calls for increased efforts to save children’s lives” 3 国境を超えた交流がますます進展する現代にあっては、貧困や保健の問題は国境線によって区切られ て済む問題ではなくなっているのです。 世界最大級の国際協力 NGO として、ワールド・ビジョンは貧困の中にある人々を支えるため、支援事業 とアドボカシーを通じて MDGs の達成に貢献する責任を負っています。ワールド・ビジョンは、最も弱い立 場にある子どもたちが健やかに成長できるよう、何千もの最も貧しい地域で支援事業を行ってきました。 それらの活動をとおして見えてきたのは、5 歳未満の子どもの死亡率を改善できているかどうかが、人口 全体の幸福度を示す指標であるということなのです。 2008 年 9 月 25 日、ニューヨークに集う世界の指導者たちは、保健関連の MDGs の進展が著しく遅れて いるという現実を再認識し、軌道修正のために具体的な方策をとることに合意しなければなりません。そ うでなければ、世界の貧困解決に向けたこれまでの成果も失われかねないのです。 今こそが、2015 年を、国際社会が貧しい人々、弱い立場にある人々との約束を確かに守ったという記念 の年とするチャンスなのです。この報告書は、特に子どもの健康を取り巻く課題を 3 つの保健に関する MDGs に照らして検討し、MDGs達成に向けて軌道修正を行うため、どのような具体的な方策が必要な のかを提言するとともに、ワールド・ビジョンが目標達成に貢献すべくどのようなことを行っているかをま とめたものです。 Box1 保健とミレニアム開発目標 2000 年に世界の指導者たちは 8 項目からなるミレニアム開発目標の達成を約束しました。 その中で3つの目標が保健に焦点を当てています。 目標 4:乳幼児死亡率の削減 -2015 年までに 5 歳未満児死亡率を 3 分の 2 減少させる 目標 5:妊産婦の健康改善 -2015 年までに妊産婦の死亡率を 4 分の 3 減少させる 目標 6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止 -HIV/エイズの蔓延とマラリア及 びその他の主要な疾病の発生を 2015 年までに阻止し、その後減少させる。 また、これらの保健関連ミレニアム開発目標の達成と、極度の貧困と飢餓の撲滅や、普遍的 初等教育の達成といったその他のミレニアム開発目標は相互に密接に関連しています。 (Box2 を参照) 4 保健関連のミレニアム開発目標は、さらに、1978 年に国際社会がアルマ・アタにおいて採択し た「プライマリ・ヘルス・ケアに関する宣言」にのっとって解釈する必要があります。宣言では以 下のように謳っています: PHCとは、実践的で、科学的に有効で、社会に受容されうる手段と技術に基づいた、欠くこと のできない保健活動のことである。これは、自助と自決の精神に則り、地域社会または国家が 開発の程度に応じて負担可能な費用の範囲で、地域社会の全ての個人や家族の全面的な参 加があって、はじめて彼(女)らが広く享受できうるものとなる。1 アルマ・アタ宣言が採択された当時と今日では、世界の状況は異なっています。しかし、子ども たちと妊産婦の死亡を減らす取り組みの一つとして、包括的で科学的に実証されたアプローチ によりヘルスケアを拡充することは、30年来の喫緊の課題です。 5 ミレニアム開発目標4 乳幼児死亡率削減 目標:5 歳未満の乳幼児死亡率を、2015 年までに、1990 年の水準の 3 分の 2 減少させる 長い目で見ると、乳幼児死亡率は劇的に減少してきています。30 年前には、5 歳になる前に 4 人に 1 人 の子どもが死んでいました。今日、その数は 10 人に 1 人の割合に改善しているのです。この事実は私た ちに希望を与えるとともに、子どもの生存率を大幅に改善することはできるということを実証し、MDGs の 第 4 目標 (MDG 4)の達成が遅れている国々に重要な政策的教訓を示しています。 同時に、そこには大きな懸念が起きる理由があります。乳幼児死亡削減の改善状況は近年、動きが遅く なっており、62 カ国は目標水準より遅れています。最も課題が集中しているのは、アフリカです。アフリカ 大陸全体として 1990 年以後、毎年、アフリカの乳幼児死亡率は年間平均ちょうど 1%ずつ削減されてい ますが、一方で、アフリカの半分の国においては、全く改善されていません。 2 問題はアフリカだけではあ りません。最近の傾向では、南アジアと中東地域もMDG4 の達成が危ぶまれています。 図1 5 歳未満児死亡数の総数(百万人) 3 乳幼児死亡の主な原因(新生児の合併症、下痢、マラリア、呼吸器の病気)は非常に良く理解されており、 対策は十分に確立されています。簡易で安価な取り組みによって、MDG4 達成を軌道に戻すことができ るのです。23 の十分に効果が実証された対策をとることで、毎年 920 万人死亡している乳幼児の 60%以 上を助けることができると推計されているのです。その対策には、完全母乳、HIVの母子感染防止、予防 接種、微量栄養素の摂取、下痢時の経口補水治療、肺炎時の効果的で時機に適った治療、マラリアの 予防と治療(蚊帳とマラリア予防薬)などが含まれます。 4 2 UNICEF, State of the world children 2008 UNICEF Strategic Information Section; UNICEF Child Info database 4 John G et al. (2003) “How many child deaths can we prevent this year?” Lancet(362) pp 65-71; Darmstadt G et al. (2005) “Evidence-based, cost effective interventions: How many newborn babies can we save?”, Lancet 3 (365) 6 とりわけ、乳幼児死亡を減らすため、国レベルと地方レベルでの保健システムの改善への投資が喫緊 の課題です。現在、途上国で肺炎の疑いのある 5 歳未満の子どもで、適切な医療従事者の診察を受け られるのはわずか半数です。この割合は、2000 年以後ほとんど変わっておらず、幼い子どもたちの死亡 の第一要因への対策において、改善がなされてないことを示唆しています。予算不足と政治的意志の不 足によって、世界で約 2 億人の子どもたちが、基礎的な保健医療を受けられない状態が続くことになるの です。莫大ではない資金で劇的な結果を生み出せるという事実があるもかかわらず、こういったことが起 きています。MDG4 達成のための包括的介入には、年間 56 億USドルの追加予算が必要と見積もられて おり、この額はアメリカ合衆国で使われている1日の医療費と同額なのです。 5 資金が投じられず、現在 の傾向を改善できずにいると、2015 年単年だけで亡くなってしまうであろう 430 万人の子どもたちの運命 は決定的なものとなってしまいます。世界の指導者たちが今、確かにMDG4 達成につながる行動をとる なら、彼らの多くを救うことができるのです。MDG4 達成を軌道に戻すには、特定のグループへ良質な保 健サービスを提供することを妨げている要因を理解し、その状況を解決するための個別戦略が必要です。 サービスが届けられにくいグループの1つとして、障がい児のグループが挙がります。イギリス政府の国 際開発局[Department of International Development]は、低開発国において、乳幼児全体の死亡率が 20%以下であるのに対して、障がい児は 80%にものぼると推計しています。この事実は、食糧を得られ ず予防接種や治療が受けられないといった、障がい児に対する様々な差別が広がっていることを表して いるのです。世界の貧困国において子どもたちの約 10%が障がいをかかえている事実を考えると、障が い児に対する保健医療の必要性が優先事項として扱われない限り、乳幼児死亡率削減の努力には大 幅な遅れが生じるでしょう。 適切な対策はすでに世界中の乳幼児死亡率を減少させています。モルジブ、東ティモール、トルコ、ペル ー、ベトナムなどの国において、1990 年以後、幼児死亡率が 3 分の 2 以上減少し、2015 年を 9 年前倒し して MDG4 を達成したという結果を生み出しています。マラウイ、エリトリア、モザンビーク、エチオピアを 含むサハラ以南アフリカのいくつかの最貧国においてさえ、1990 年以後、5 歳以下死亡率は 40%かそれ 以上削減されています。つまり、MDG4 が達成可能であることは明瞭なのです。必要なことは、それを達 成しようとする政治的意志なのです。 5 Stenberg k et al. (2007), “A financial road map to scaling up essential health interventions in 75 countries”, Bulletin of the World Health Organization, 85(4) 7 表1 ミレニアム開発目標第 4 目標達成に向けた地域別進捗状況 6 地域 1990 年当時の乳 2006 年当時の乳 1990 年-2006 年 第 4 目標達成の 目標 4 達成に向 幼児死亡率(出 幼児死亡率(出 の年間改善率 ため 2007 年以降 けた進捗状況 生 1000 人あたり 生 1000 人あたり (平均の%) 必要な年間削減 の死亡件数) の死亡件数) 率 サハラ以南アフリカ 187 160 1.0 10.5 遅れている 中東&北アフリカ 79 46 3.4 6.2 遅れている 南アジア 123 83 2.5 7.8 遅れている 東アジア&太平洋諸国 55 29 4.0 5.1 計画どおり 南米&カリブ海諸国 55 27 4.4 4.3 計画どおり CEE/CIS 53 27 4.2 4.7 計画どおり 途上国計 103 79 1.6 9.4 遅れている 先進工業国計 10 6 Box2 飢餓と保健分野の MDGs ミレニアム開発目標の第一目標(MDG1)では、飢餓と極度の貧困に苦しむ人々の割合を 2015 年までに半減させる方策を行うよう、政府に責任を課しています。MDG1の改善は、目標達成 それ自体においても重要ですが、母子死亡率の減少や HIV/エイズ対策に密接に関連してい ます。食糧価格の上昇時には、その潜在的影響は深刻なものとなります。バン・キムン国連事 務総長が警告する通り、「食糧価格の高騰は、飢餓と栄養不良を無くすためのこれまでの闘い で達成された成果を、白紙に戻してしまう危険性がある」のです。1 食糧価格高騰に最も影響を受けたいくつかの国では、近年栄養不良が増加傾向にあり、子ど もの健康と生存の長期的な影響が懸念されています。幼い子どもたちの認知的また身体的発 展は、栄養不良によって取り返しのつかないほど損傷を受け、このことが全ての子ども死亡の 半数を引き起こす潜在的要因となり続けているのです。1乳児死亡の 3 分の 1 以上が生後 28 日の間に起こっています。母親と幼児の良好な栄養摂取が MDG 4 と 5 を達成する決定的な要 因となるのです。現在でもユニセフは、年間約 2 千万人の子どもたちが標準体重(2,500 グラ ム)以下で生まれていると推計しています。1 6 8 UNICEF, State of the world children 2008, p7 栄養不良の子どもにとって、マラリア、肺炎、下痢といった病によって命を落とすリスクは、良 好な栄養状態の子どもの約2倍になります。このことを念頭におくと、途上国にとって最適な対 策の1つに、子どもの摂取する栄養素の改善が挙げられます。ビタミン A と亜鉛は免疫システ ムを防御し、致死率を低くします。ビタミン A は失明も防ぎ、亜鉛は成長を促し、下痢の予防と 治療に寄与します。一方、ヨード処理された塩は、亜鉛不足解消に役立ちます。亜鉛不足は新 生児死亡、死産、流産の主要因であると同時に、予防可能な脳損傷の最も大きな要因です。 実際、ある最近の経済調査によると、子どものための微量栄養素改善プログラムに対する投 資の利益回収率は、貿易の自由化、マラリア予防、水と衛生改善による利益を上回るという評 価がされています。1 9 ミレニアム開発目標 5 妊産婦の健康改善 目標:妊産婦死亡率を 2015 年までに、1990 年の水準のから 4 分の 3 減少させる 毎年、50 万人の女性が妊娠中または出産時に死亡しています。途上国においては、母親となることが、 主要な死因と結びついているのです。 7 犠牲となっている人はこの数値が示しているよりも多く、約 2 千 万人以上の女性が衰弱、妊娠に関わる合併症により長期にわたって苦しんでいます。しかし、妊産婦の 死亡と障がいの大多数は妊娠前中後の適切な基礎的な医療サービスによって防ぐことができるのです。 8 ミレニアム開発目標第 5 目標(MDG5)に取り組むにあたり、課題となるのは国際的に比較できる時系列 の詳細なデータがないことです。より質の高いデータを収集するための投資が緊急に求められています。 比較可能なデータのうち最も質の高いデータは、2005 年の数値であり、表 2 に要約してあります。 「カウントダウン 2015」の妊産婦、新生児および子ども生存率モニタリング・グループは、10 万人あたりの 妊産婦死亡率が 300 かそれ以上を、「高い」レベルの妊産婦死亡率と分類しています。 9 この基準による と、全途上国の半数が高レベルの妊産婦死亡率を有することとなります。サハラ以南アフリカ 48 カ国中 43 カ国が高い妊産婦死亡率を有し、南アジア 9 カ国中 6 カ国も同様です。しかし、スリランカでの妊産婦 死亡率がたった 58 という低い値であることからも実証されているように、比較的資源の少ない国々にお いても、妊産婦死亡を改善することが可能なのは明らかです。 10 世界銀行では、比較的コストの低い対 策によって約 74%の妊産婦死亡を防ぐことができると算出しています。このことは毎年 37 万人の女性の 命を救うことができることを意味します。 11 7 United Nations, Millennium Development Goals report 2007 UNICEF, http://www.unicef.org/mdg/maternal.html 9 Countdown to 2015 (2008), Tracking progress in maternal, newborn, and child survival: The 2008 report 10 United Nations, Millennium Indicators database (accessed 20 August 2008) 11 Wagstaff A & Claeson M (2004), The Millennium Development Goals for health: Rising the chance 8 10 表2 ミレニアム開発目標第 5 目標に向けた地域別進捗 12 地域 2005 年の妊産婦死亡率 (出生 10 万件あた 生涯を通じて妊娠・出産が原因で亡くなるリスク りの妊産婦の死亡率) (表の「数値」あたりに 1 人の女性) サハラ以南アフリカ 920 22 中東&北アフリカ 210 140 南アジア 500 59 東アジア&太平洋諸国 150 350 南米&カリブ海諸国 130 280 CEE/CIS 46 1,300 途上国計 450 76 8 8,000 先進工業国計 出産前後には基礎的な保健サービスが比較的提供しやすい事を考慮するならば、現在の改善の遅れ はさらに受け入れがたいものです。1990 年から 2005 年の間における妊産婦死亡率の概算減少率は、 MGD5 達成に必要な数値の 10 分の 1 に及ばないのです。 13 こうした改善不足が原因で、サハラ以南アフリカの女性は 22 人に 1 人の割合で妊娠および出産時に死 亡するリスクに直面しています。一方で、先進国の女性のリスクは 8,000 人に 1 人の割合です。これはあ らゆる保健指標の中で最大の格差となっています。 14 ジンバブエやマラウイのようなアフリカのいくつか の国では、HIVの高い蔓延率や保健サービスの悪化とあいまって、妊産婦死亡率が上昇しています。 妊産婦死亡率は、サハラ以南アフリカと南アジアにおいて最も高い値となっています。この2つの地域に おける、熟練した助産師の介助による出産率が世界で最低であることは、決して、偶然の一致ではあり ません。 15 機能的な保健システムによって支えられる熟練の助産婦、緊急の産科治療、家族計画サービ スは、さらに女性の識字率向上と十分な出産間隔の確保も伴うならば、ほぼ全ての妊産婦死亡を防ぐこ とができると、実証されています。しかし地方では特に、女性はしばしばこうしたサービスを受けることが できません。1996 年から 2005 年の間に調査が行われた 57 の途上国では、都会に住む女性の平均 81% が助産師の介助によって出産したにもかかわらず、地方に住む女性の場合はわずか 49%でした。 16 妊産婦保健の問題は、女性だけのものではなく、子どもに関わる問題でもあります。5 歳未満の子どもた ちに多い病気の少なくとも 20%は、妊産婦の劣悪な健康と栄養状態との関連が指摘されており、一方で、 12 13 14 UNICEF Childinfo database World Bank, Global monitoring report 2008 United Nations (2008), General Assembly thematic debate on the Millennium development Goals, Background paper: Health 15 United Nations, Millennium Development Goals report 2007 16 United Nations, Millennium Development Goals report 2007 11 母親のいない子どもは母親の死後 2 年以内に死亡する確率が、そうでない子どもの約 10 倍となってい ます。 17 この事実が示しているように、全ての人々が健康で良好な人生が送れるよう改善する一連の取 り組みとして、全てのMDGs達成を統合的に目指すことが重要です。 Box3 MDG4と5の対応策であるインドの統合的子ども開発サービス ミレニアム開発目標に関する近年のユニセフ報告によると、インドと中国が MDG 達成のための 記録を大幅に改善しない限り、世界がこの目標を達成することは明らかに不可能であることが 「否定しようのない真実」となっています。 インドでは、村落地域における水へのアクセスは MDG 目標値を達成している1一方で、MDG4 と 5 に関連する数値のうちいくつかが依然として達成されていません。妊産婦死亡率は未だに MDG 目標値の 3 倍も高く、乳幼児死亡率は目標値の 2 倍以上となっています。 インドは乳幼児と妊産婦死亡率に取り組む世界最大のプログラム、「統合的な子ども開発計画」 (Integrated Child Development Scheme: ICDS)を実行しているにも関わらず、こうした数値は依 然として高いままなのです。 ICDS は、補完的栄養摂取、保健治療、就学前教育といったサービスを統合的に組み合わせるこ とによって、6 歳未満の子どもたちの必要に応えており、サービスの対象は思春期の少女、妊産 婦、授乳している母親にまで拡大されています。 ICDS は、タミル・ナドゥ州などのように適切に実施されている地域では、順調な成果を挙げてお り、ビハールやウター・プラデッシュ州の一部の地区を除くほとんど何のサービスも存在していな い地域と明白に異なる成果をあげています。 ビハールやウター・プラデッシュ州におけるワールド・ビジョンの子ども生存率向上プロジェクト は、ICDS を強化することによって、子どもの生存と栄養の課題に効果的に取り組めるということ を、示してきました。 今求められているのは、ICDS の「質を伴う普遍化」であり、これを達成する唯一の方法は ICDS に割り当てる予算配分を劇的に増加させることです。 17 UNICEF, http://www.unicef.org/odg/maternal.html 12 ミレニアム開発目標 6 HIV/エイズ、マラリア、その他の感染症との闘い 目標:2015 年までに、HIV/エイズとマラリアその他の疾病の発生を抑止し、減少させる HIV/エイズ HIV/エイズの蔓延は経済や社会に大きな影響を及ぼします。HIV/エイズは健康に関する問題であると ともに、開発の課題でもあるのです。 したがって、8つのミレニアム開発目標の全てを達成するために は、HIV/エイズ感染の予防、感染した場合には適切な治療やケアに、すべての人がアクセスできるよう にすることが早急に求められています。 HIV/エイズへの効果的な対応はMDGs全体の達成を大きく後押しします。この事実を考慮するならば、 感染率は全体として下がっているものの、2007 年 1 年間で 250 万人の人々が HIV に感染し、200 万人 がエイズと関連する原因で死亡しているという現状は憂慮されなければなりません。 18 実に、新たに 1 人 が治療プログラムを受けられるようになる毎に、新たに 2 人の人がHIV に感染するという割合で、HIV/エ イズは広がっています。 19 感染の中心地はサハラ以南アフリカです。母子感染についてはこの地域だけで世界の 90%を占め、HIV /エイズが子ども・妊産婦死亡率を大きく増加させています。この地域の各国政府は、新たな感染を防ぐ ためにサービス提供を拡充し、HIV に感染またはエイズを発症している何百万人という子どもたちに適切 なケアを提供していく方法を見出さなければなりません。 近年では、特に抗レトロウィルス治療の提供において、HIV/エイズに対する地球規模の取り組みは進展 しています、しかし、いまだに世界中で 200 万人の子どもたちがその取り組みから取り残されています。 生まれながらにHIV に感染している子どもの半分が 2 歳未満で死んでしまうという現実に対し、抗レトロ ウィルス治療を受けられる子どもたちは、大人に比べて 3 分の 1 の割合に留まります。 20 HIV に感染した 乳幼児の死亡率がこんなにも高いということを考えると、感染予防(その 90%は母子感染です)が最重 要課題と言えます。 過去数年にわたって、母子感染(妊娠期間と出産、授乳を通じて起こる)を防ぐための大幅なサービス拡 充がなされてきました。わずか 4 年前には、「母子感染予防サービス」を受けられる HIV 陽性の妊婦は 10 人に 1 人を下回りましたが、2007 年にはその割合は 34%にまで改善しました。 しかしこれは同時に、HIV 陽性の妊婦の 3 分の 2 はいまだに抗レトロウィルス治療を含む母子感染予防 のサービスを受けることが出来ず、その結果毎日 1,000 人以上の子どもたちが新たに HIV に感染してい るのです。 特に「母子感染予防サービス」の提供が行き届いていない場所においては、HIV 陽性の女性 18 19 20 UNAIDS(2007), AIDS epidemic update, p 1 UNAIDS(2008), Report on the global AIDS epidemic, p 15 UNAIDS(2008), Report on the global AIDS epidemic, p 139 13 から生まれた子どもたちに対してさらなる注意がむけられる必要があります。このような子どもたちにとっ ては、感染の早期発見が生と死を分けることになるからです。 HIV/エイズが子どもに及ぼす影響は、感染者だけにとどまるものではありません。サハラ以南アフリカだ けですでに 1200 万人もの子どもたちが片方の親、または両親を HIV / エイズによって失っており、さら に何百万人もの子どもたちが弱い立場に立たされています。 遺児となってしまった子どもたちや弱い立 場に置かれた子どもたちは、ほとんど学校に通えず、まだ幼いうちから労働を強制されるなど、多くの問 題を抱えることになります。また、彼らは病気にもかかりやすく、搾取や虐待の対象にされてしまうリスク も高くなります。 HIV/エイズの蔓延を防止し、感染を減少していくための政策には、障がいをもつ人などの弱い立場にあ る人々に加え、こういった子どもたちが必ず対象として盛り込まれるようにしていかなければなりません。 マラリア マラリアは、地球上でもっとも深刻な健康問題のひとつです。毎年約 100 万人の死者を出し、子どもがそ のおよそ 85%を占めています。 21 世界保健機関(WHO)は、マラリアは世界で 5 歳未満の子どもが死亡 する 4 番目に大きな原因であり、サハラ以南アフリカでは最大の死因だとしています。 22 MDG4が達成で きるかどうかは、毎日 2,000 人以上の子どもの命を奪うこのマラリアという病気と、どう闘うかにかかって います。 近年では、ジェフリー・サックス(Jeffrey Sachs) やビル・ゲイツ、メリンダ・ゲイツ夫妻、またアメリカ合衆 国ジョージ・ブッシュ前大統領による啓発活動の効果もあって、マラリアが国際会議で再び議題としてとり あげられるようになり、それに応じて資金も集まるようになってきました。しかし、地球規模で見ると、今な おマラリアの減少や、罹患率・致死率低下の報告はなされていません。さらに援助資金も、地球全体で 包括的なマラリア対策を実行するためにはまだ十分ではありません。毎年 250 万人の新規マラリア感染 が報告されており 23 、MDG6 の達成は難しくなっていっていると言わざるをえません。 この問題の深刻さを受けて、2000 年にアフリカの指導者たちがアブジャで会合を開き、2010 年までにマ ラリアによる子どもの死亡率を半減させることに合意しました。しかし、予防と感染後の措置については 改善が見られるものの、現在サハラ以南アフリカで殺虫剤処理をした蚊帳の下で眠ることができている のは 5 歳未満の子どもたち全体の 5%に留まっています。 24 蚊帳の普及によりサハラ以南アフリカの子ど 21 World Health Organization, World malaria report 2008, http://www.who.int/malaria/wmr2008/ World Health Organization, World health report 2004 and 2005; UNICEF & Roll Back Malaria Partnership (2007), Malaria and children 23 World Health Organization, World malaria report 2008 24 United Nations, Millennium Development Goals report 2007 22 14 もの死亡率を 20%は減らせることが予測されており、さらなる投資が求められています。 25 蚊帳の普及 以外に効果のある支援とされているのが、迅速なマラリア検査と治療、マラリア感染の可能性がある妊 婦と幼児に対する低強度の抗マラリア剤投与(非連続予見治療“intermittent presumptive treatment”)、 屋内の殺虫剤散布などです。これらの対策は蔓延率がそれほど高くない地域や、マラリア蚊の発生が季 節的であるという地域からマラリアを根絶するための取り組み、また、感染率の高い地域から他地域へ の拡大を防ぐ取り組みと一体となってなされなければなりません。こういったイニシアティブは、各国のマ ラリア対策計画と連携して、個別の家庭に焦点を当てて、進められなければなりません。 事態の進展を妨げている最大の要因はこの分野に投入される公的資金の少なさです。マラリア予防に は、毎年 350 万から 450 万ドルが必要であるとされています。 26 しかし、マラリア対策のために集まるお金 は、2002 年から 2007 年までのあいだ毎年全世界の総計でおよそ 10 万ドル及であり、MDG6 を達成する ことは困難になっています。 27 公的・民間セクター、そして国家予算の 15%を保健分野に支出することを 公約したアフリカ諸国政府が、提供する資金を大幅に増額することが、今すぐにも求められています。 25 Phillips-Howard P et al. (Centers for Diseases Control and Prevention et al.) (2003), “Efficacy of permethrin-treated bed nets in the prevention of mortality in young children in an area of high perennial malaria transmission in western Kenya”, American Journal of Tropical Medicine and Hygiene, 68 (suppl.4) 26 Kiszewski A et al. (2007), “Estimated global resources needed to attain international malaria control goals”, Bulletin of the World Health Organization, 85 (8) 27 Public Library of Science Medicines, 5 (7), 2008 pp1-11 15 2010 年までにミレニアム開発目標(MDGs)達成の軌道修正をする ために、何が求められているのでしょうか 1978 年 9 月、世界の指導者たちが当時のソビエト連邦、アルマ・アタに集い、すべての人の健康を追求 する権利を認める歴史的宣言に調印し、さらに 2000 年までには、世界共通水準の保健サービスをすべ ての人に提供することとしました。しかし、この約束は果たされないまま、期限を過ぎました。そして、 2008 年。MDGs の進捗状況を確認するために世界の指導者たちが集まろうとするこの時にも、基本的保 健サービスを受ける権利は多くの人々にとっていまだに尊重されていません。 MDGs の達成目標年である 2015 年まであと 7 年を残すのみとなり、世界は自らが設定した目標を達成で きないという悲しい歴史を今また繰り返そうとしています。先進諸国には、技術面でも資金面でも子ども の健康にかかわる MDGs を達成するだけの十分な能力があり、ここで失敗することは許されません。 負担の大きい国々 現時点で MDG4 と MDG5 の達成が遅れている 62 カ国が、2015 年までに目標達成にこぎつけるために は、今すぐにもなんらかの対応がなされなければなりません。ほかの国々のこれまでの経験をふまえる と、遅くとも 2009 年までには各家庭レベルと地域レベルの両方において妊娠・出産前中後の期間を通し て、母親と生まれてきた子どもに対する健康サービスを拡充していくことを、国家の健康政策全体の優 先事項と位置づけなければなりません。今までに成果を挙げている対策に基づいて、これらの政策が実 施されていかなければなりません。さらに、これらの 62 カ国には以下のことが必要であるとされていま す。 2010 年までに政府総予算の 15%を保健分野に支出する。 2009 年から毎年、保健システムの進捗をはかる基本的な指標として、母子の保健指標を盛り 込んだ健康改善に関する報告書を議会に提出する。 2011 年までに、すべての女性と子どもが基本的な保健サービスを受けられるよう、予算措置を 含んだ戦略を立案し、費用負担が原因でサービスにアクセスできないことがないようにする。 出生届・死亡届を含む国民健康サービスのモニタリングシステムを立ち上げ、十分に機能する よう出資する。 16 支援国政府 支援国政府はこれまでに何度も、妊産婦と新生児の死亡率・罹患率が受け入れ難いほどに高い現実に ついて公の場で訴えてきています。この問題に対処するために、多くの公約がなされました。たとえば、 G8 諸国は医療従事者を人口 1000 人に対して 2.3 人という割合にまで引き上げるよう努力することを約 束し、EU 諸国は 2010 年までに、これまでの資金供与に加えて 80 億ユーロを拠出することで 3,500 万人 が新たに助産師の立会いのもと出産できるようにすることを約束しています。支援側のコミュニティも、保 健分野の援助協調が必要であることを認識しはじめ、国際保健パートナーシップ[International Health Partnership: IHP]という枠組みを通じた対応が主流になってきています。 しかしながら、2015 年までに目標を達成するためには、少なくとも今の 2 倍の資金が必要であるとされて います。MDG4及び5が達成されるためには、HIV/エイズ対策を除いても、保健システムへの合計出資 額は 2010 年までに少なくとも毎年 150 億ドルに到達しなければなりません。 支援国政府は OECD 加盟国全体での GNI 規模に応じてこの援助額を分担し、拠出していく必要がありま す。さらに、支援国政府に対し、以下のことが求められています。 2010 年末までに国際保健パートナーシップを通じて各国への保健分野の支援の援助協調を 促進する。 2011 年までに費用負担が原因で女性や子どもが基本的保健サービスを受けられないという状 態をなくすための戦略を策定する。 2010 年までにすべての途上国政府が効果的かつ包括的な子どもと妊産婦の保健モニタリング システムを立ち上げ、機能させられるよう支援する。 国際機関 国際機関に対し、以下のことが求められています。 高い死亡率を抱えるすべての国について、妊産婦・新生児と子どもの保健状況の進捗につい て、2009 年から毎年ハイレベル会合を開催し、詳細な年次報告書を作成する。 2011 年までにすべての女性と子どもが基本的保健サービスを受けられるよう支援し、費用負 担が原因でサービスにアクセスできないことがないようにする。 2010 年までにすべての途上国政府が効果的かつ包括的な子どもと妊産婦の保健モニタリング システムを立ち上げ、機能させられるよう支援する。 妊産婦・新生児と子どもの死亡率統計を、保健システムが機能しているかどうかの重要な指標 のひとつとして用いるように呼び掛ける。 17 企業 特に公的セクターの力が弱い国々においては、保健関係 MDGs を達成するために、企業は重要な役割 を担っています。経済成長を促進し、社会の中に収入源を作り出し、各家庭の収入を向上させると同時 に、企業などの民間セクターは、その技術、専門性、資源を生かして、社会の問題に直接取り組み、解 決するという大きな能力を持っています。ワールド・ビジョンは民間企業に対して、以下のことをよびかけ ています。 2009 年までに、会社の資源と技術的専門性を死亡率が高い国における妊産婦・新生児と子ど もの死亡数減少にどのように役立てていくかの戦略を練る。 2010 年までに少なくともひとつのイニシアティブを立ち上げ、妊産婦・新生児と子どもの健康改 善に取り組む。 企業活動を行っており、高死亡率を抱える国々で、従業員とその家族に対し、妊産婦・新生児 と子どもの健康に関する重要な情報を積極的に知らせていく。 保健セクターと協働して、医療従事者のトレーニングのための奨学金制度支援を立ち上げる。 市民社会組織 各国政府の MDGs 達成に向けた努力を支え促進するために、何百万ドルという資金が市民社会組織に 注がれています。市民社会はこの役割をしっかりと果たし、各国政府が保健関係 MDGs の達成という目 標に向けて真摯に取り組むようにはたらきかけていかなければなりません。このために、市民社会組織 は、保健分野に資金を投入し、活動を行うコミュニティと連携し、かつ、その代表として発言していく必要 があります。妊産婦・新生児と子どもの健康を守るというこの歴史的な機会を前にして、市民社会組織に は具体的に以下のことが求められています。 2010 年までに、全資金のうち 10%を妊産婦、新生児と子どもの健康を守るための施策にあて る。 活動するコミュニティにおいて保健サービスへのアクセス向上を積極的に支援するとともに、公 的保健サービスの質が適切に保たれるよう政府に働きかける 28 。 28 詳細は、以下を参照。World Vision International (2008) A matter of life or death: How 18 million children are relying on the G8 to keep its promises; (日本語版)「子どもたちを救う G8 サミットをーG8 に委ねられた 1800 万人の子どもたちの命。今こそ公約の遵守をー」 18 ミレニアム開発目標(MDGs)保健分野に対するワールド・ビジョンの貢献 ワールド・ビジョンは、「健やかさは貧困と危機の悪循環を打破する中心的な要素であり、子どもの豊か な人生を構成する基本要素である」と確信します。この認識にもとづき、ワールド・ビジョンはコミュニティ に基づいた母子保健を世界における保健戦略の中心に据え、ミレニアム開発目標の第 4,5,6 目標を達 成すべく重点的に資金を投入しています。2008 年、ワールド・ビジョンは MDGs の達成、特に MDG4 と 5 の達成に貢献すべく、ワールド・ビジョンのプログラムにおいて、約 1 億 5 千万ドルの資金と、3 億ドル相 当の医薬品及び保健関連物資を保健分野の取り組みにあてています。 ワールド・ビジョンの活動は途上国 97 カ国の 1 億人に及んでいます。ワールド・ビジョンが活動するコミュ ニティの多くにおいて、健康不良は主要な問題であり、人々を貧困と社会の底辺に追いやる原因でもあ り、また、それらの結果でもあります。実は、多くの国々において保健関連の MDGs 達成を阻む障壁が何 であるのかは明らかになっています。すなわち、簡易でコスト効率の良い介入により乳幼児死亡率を 60%以上劇的に減らすことができるにも関わらず、これらのサービスが広範に提供されていないのです。 安全な水と衛生設備、適切な栄養摂取と持続可能な生計手段は全て、子どもの生存率を改善する主要 な要素となっています。また、効果的で誰もが利用できる基本的な保健医療サービスも、同様に重要な 要素となっています。 しかし、ワールド・ビジョンが活動する多くの国々においては、脆弱な行政能力、誤った支出優先順位や 予算不足によって、国家が保健サービスを十分に供給できていません。最も貧困で遠隔地にある地域で は、ワールド・ビジョンの活動により初めて、現行政府が介入できない人々へ手が行き届くようになるの です。ワールド・ビジョンは MDGs 間の相乗効果を生み出すために、保健栄養分野の活動と、教育、水、 衛生、食糧確保、子どもの保護といった分野とを統合させることを目指しており、家庭とコミュニティを中 心とした取り組みを広く行うことによって、乳幼児死亡の主要因である栄養不良や、下痢、マラリア、HIV /エイズを含む疾病の問題に取り組むべく、全力を尽くしています。ワールド・ビジョンでは既存の施策と 重複するような別個のプログラムを立ち上げることが有効であるとは考えていません。コミュニティレベル の活動が国家計画と国家目標の達成に寄与するよう、政府や民間のパートナーと協働しながら活動して います。 保健医療の状況は、長期的にはワールド・ビジョンの介入によってだけではなく、良質な保健医療を受け る権利を要求し、生活を左右する決定に自ら参加していこうとするコミュニティの人々の努力によって、改 善されていきます。したがって、ワールド・ビジョンは住民が自分たちの必要と権利を理解し、提唱すべく、 地域社会のエンパワーメントに努めています。人々の健康改善は、継続的で包括的な手法によって図ら れるべきであり、予防を講じ健康を維持しようとする態度を促進することから、治療の提供、保健システ ムの機能支援にまで及ぶプロセスによって可能となるのです。 19 BOX4 母子保健に対する統合的アプローチの一部を担う栄養摂取:MICAHプログラム 微量栄養素摂取と保健(the Micro-nutrient and Health: MICAH)プログラムは 1996 年から 2006 年の間に 5 カ国(エチオピア、ガーナ、マラウイ、タンザニア、セネガル)で実施されまし た。このプログラムは、世界人口の約 3 分の 1 に影響する微量栄養素の栄養不良改善に向け た大規模な取り組みでした。 女性と子どもは微量栄養素の欠乏に最も抵抗力がなく、このことが 5 歳未満乳幼児死亡の主 要因となっています。このプログラムでは、食生活の改善、子どもに栄養価の高い食事を提供 するための両親への支援、主食の強化、微量栄養素の錠剤の提供を促進し、微量栄養素の 状態に影響を及ぼす病気に焦点を合わせて政策提言とコミュニティに根付く取り組みを行い、 子どもと女性のビタミン A、鉄分、ヨウ素不足を改善しました。 このプロジェクトは 5 カ国全てにおける栄養不良の著しい改善に貢献し、慢性的な栄養不良は 平均 45%から 31%に減少しました。 栄養 ワールド・ビジョンには、様々な状況において子どもの栄養不良と闘ってきた長い歴史があります。深刻 な栄養不良が広がるような危機的状況から、長期的介入が求められる慢性的な貧困下まで、幅広い状 況に迅速に対応してきました。 ワールド・ビジョンは約 80 カ国で、一般的な食料供給、労働の対価としての食料供給(food-for-work)、 深刻な栄養不良児の治療のための特別食料供給といったプログラムを通じて、緊急の人道危機状況下 において人々の栄養状態を守るための活動を行っています。栄養不良の予防が子どもの生存率を高め 良好な生活に寄与する主要因であるという認識に基づき、緊急食料栄養援助の視点を、より強力な予 防プログラムへと広げています。 長期的な取り組みの一つとして、栄養摂取を母子保健、水と衛生、食糧確保と統合することで、隠れた 飢餓(微量栄養素の欠乏症)を削減しようと注力しているMICAHプロジェクトが挙げられます。子どもの 成長と発達のために、そして、病気への抵抗力をつけるためには、栄養価の高い食品を摂取することが 特に重要です。このような認識により、微量栄養素が注目されています。 ワールド・ビジョンは栄養改善への取組みとして、革新的で行動原理に基づくアプローチをとっています。 そのアプローチは子どもの健康状態を改善しただけでなく、地域社会での女性の地位向上をもたらして きました。例えば、ペルーで行っている正の逸脱プログラム(Positive Deviance Program)は、家庭におけ る良好な栄養摂取の地元成功例からの教訓を広めています。このプログラムは貧困社会に内在する解 20 決策を促進する‘正の逸脱’ 29 アプローチを用いています。 乳幼児死亡率の削減 妊娠前から乳児、幼児初期に通ずる“継続ケア”は子どもの生存率を上げるのに必要不可欠です。ワー ルド・ビジョンは地域の保健システムや開発ワーカーと密接に協働しながら、コミュニティレベルの子ども の生存率向上プロジェクトを実施しています。インドのバリア・ルーラル・インテグレイティッド・チャイルド・ サバイバル(バリア地区、村落における統合的子ども生存率向上;BRICS)プロジェクトはこの適切な例 であり、ワールド・ビジョンは予防接種の接種率を向上させ、食糧確保に取り組み、家族計画サービスを 提供しています。 ワールド・ビジョンは、安全な水と衛生的な環境が乳幼児の死亡を減少させるのに非常に重要な役割を 果たすと認識しています。毎年 150 万人もの死を引き起こしている下痢の症例の 88%は、劣悪な衛生設 備と公衆衛生環境、安全でない水に因るものです。ワールド・ビジョンは西アフリカの水に関するイニシ アティブ(Box 5 参照)のようなプロジェクトを通じ、コミュニティとともに、安全な水の確保に取り組んでい ます。 Box5 子どもたちに健康な環境を築く:西アフリカの水と衛生 西アフリカ水イニシアティブ(the West Africa Water Initiative)は 2002 年に始まり、広範囲に及 ぶ水不足と安全な水へのアクセス不良に直面する国、ガーナ、マリ、ニジェールにおいて、持 続可能な地域水源からの飲用水の供給、衛生設備と公衆衛生の改善、水資源管理の改善を 行う官民連携事業です。 これらの国において乳幼児死亡の多くは、水に関連する病気に多く起因しています。このプロ ジェクトでは、井戸の掘削、ポンプ修理ボランティアの育成、トイレ建設のための必要な人員の 動員などのコミュニティの取り組みを支援しています。2008 年末までに、西アフリカの水に関す るイニシアティブを通して、ワールド・ビジョンはガーナの 9 万 2 千人の人々、マリの 10 万 4 千 人の人々、ナイジェリアの 7 万人の人々に安全な水を供給できる予定です。 29 http://www.positivedeviance.org/pdf/fieldguide.pdf 「経済的に豊かな家庭の子どもは、栄養状態が良く、貧しい家の子どもは栄養不良であるのが一般的な傾向 ですが、貧しい家庭であっても、子どもの健康状態が良好な場合もある。そのようなケースを「正の逸脱」と呼 んでいます。」 外務省ホームページより抜 粋:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/vietnam/ngo00_01_0003.html 21 Box6 妊産婦死亡率の削減:アフガニスタンで強化されている村落保健システム 2001 年以後、ワールド・ビジョンはアフガニスタン西部の地域で、食糧の確保、教育、保健の 状況を改善すべく活動をしてきました。 貧困、教育不足、30 年に及ぶ戦争と政情不安、女性と女子の低い地位、栄養不良、行き渡ら ない保健サービスといった複雑な要因が絡みあっているために、アフガニスタンの母子死亡率 は世界で最も高いランクに位置付けられています。ワールド・ビジョンは母親たちに栄養不良 を防ぐ方法を教え、ハラートにある保健サービス機関の 2 年間のプログラムで専門的な助産師 を育成しています。彼女たちはその後、専門の助産師がいない出身のコミュニティに戻りま す。 2004 年から 2006 年の間に、熟練された助産師の介助による出産数は 23%と倍増しました。 ワールド・ビジョンのプログラムの結果として、150 万人以上の女性と新生児が、専門的な助産 師のサービスを享受する恩恵を受けています。 妊産婦死亡率 ワールド・ビジョンはいくつかの国で、助産師が救命措置を実行できるように訓練しています。アフガニス タンにおけるワールド・ビジョンの訓練プログラム(Box6 参照)は村落地域社会に熟練した助産師を提供 してきた一例です。社会経済的な地位と妊産婦死亡率は直結しており、前者は後者を予測する有効な 指標です。一方、栄養不良は妊娠期と出産時の危険性を増大し、妊産婦死亡率の 5 分の 1 を占める要 因となっています。 最貧困層の女性は家族計画の欠如、あるいは質の良くない計画に深刻な影響を受けています。適切な サービスが存在するところでは、妊産婦死亡率の 4 分の 1 までを防ぐことができるのです。女性が避妊法 を理解し、適切な出産間隔を設ける決断をできるよう手助けをすることは、家庭レベルで適用できる重要 な母体の健康改善方法です。地域社会のリーダーと地域で活動する保健婦を巻き込んだワールド・ビジ ョンの出産間隔適正化プログラムは、幼児死亡率が非常に高いインドの最貧地区のいくつかにおいて、 幅広く母体保健教育を提供することで成功を収めています。 他の保健分野への介入と同様、家族計画の成功のためには、サービスが届きにくいグループに対しても、 適切な取り組みをすることが重要です。障がいのある女性への対応が、その例です。公衆衛生に関する 情報へのアクセスが限られていることから、彼らの一般的な健康状態は危険にさらされ、同時に望まな い妊娠やHIVなどの感染症へのリスクを増し、また、保健医療提供者たちが彼らの特別な要求に応える ことを難しくしています。 30 30 See, for example: Sweeney J (2004), Double exposure: Disability and HIV/AIDS in sub-Saharan Africa, Advantage Africa 22 HIV/エイズ ワールド・ビジョンは約 20 年に渡って、特に地域レベルで蔓延する HIV/エイズに密接に取り組んできま した。今日、ワールド・ビジョンは 60 カ国以上において、遠隔地にあるコミュニティにおける HIV エイズ問 題に対応しており、2008 年には予防と治療、啓発活動に対して 1 億 730 万ドルを投入しています。 ワールド・ビジョンの HIV/エイズ ホープ・イニシアティブを通して、ワールド・ビジョンは地域社会に根付く ケアモデルを開発してきました。このモデルは、政府や他の援助機関との協働によってスケール・アップ することが可能です。これらのモデルはコミュニティに根ざしたケア連合を巻き込み、エイズ遺児や HIV と 共に生きる人々、また、HIV に感染した子どもたち、その他の弱い立場にある子どもたちと、そのような子 どもたちをケアする世帯のためにコミュニティに根付くサポートを強化しています。その中には、HIV/エ イズ感染者のニーズに応えるべく、教会やその他の宗教団体の能力強化を目的とする“信仰に基づく団 体動員”や、5 歳から 24 歳の子どもと若者を対象に HIV を防ぐために必要な知識、態度、技術の習得を 目指すライフ・スキル・トレーニング(生活技術訓練)等があります。 2007 年単年でワールド・ビジョンはホープ・イニシアティブを通して、約 5 万 9 千人のボランティアのケア 提供者たちが 84 万 3 千人の遺児や弱い立場の子どもたち、6 万 9 千人の慢性的な病に苦しむ成人へ のケアを提供してきました。これらのイニシアティブの規模を拡大して実施することがワールド・ビジョン にとっての次なる挑戦です。そのような試みの一例として、ワールド・ビジョンの主導により複数のパート ナー団体を連携して実施しているザンビアの RAPIDS プロジェクトが挙げられます(Box7参照)。 Box7 地域社会に根付く HIV/エイズプログラムの規模拡大:ザンビア RAPIDS プログラム 開発と支援の統合を用いた HIV/エイズ感染者への支援プログラム(Reaching HIV/AIDSAffected People with Integrated Development and Support:RAPIDS)は、ワールド・ビジョンが リーダー的役割を担う 6 つのパートナーNGO の共同事業です。家庭に根付くケア、遺児と弱い 立場にある子どもたちへのサポート、若者の生計手段と生活技術向上プログラムの成功モデ ルを統合し、規模を拡大して実施することを目指しています。 RAPIDS は、HIV/エイズ遺児や弱い立場にある子どもたち(Orphans and Vulnerable Children: OVC)に関する政策を改善するために、そして HIV に取り組む官民の連携を確立するために、 政府と市民社会の連合体と協働しています。 RAPIDS はエイズが家庭レベルに強いている多大な負荷を取り除くための既存の取り組みと 連携しながら行われ、23 万人の遺児や弱い立場にある子どもたち、4 万 4 千人の HIV 感染者、 そして 6 万 3 千人の若者をケアする、1 万 6 千人のケア提供者たちを、訓練し、能力をつけ、 組織しています。RAPIDS はザンビアの 72 郡のうち 52 郡で活動しています。 23 おわりに 30年前、世界の指導者たちはソ連のアルマ・アタに集い、2000年までに世界のあらゆる人々に基本的な 保健サービスを提供すると宣言しました。 それから30年、基本的な保健サービスへのアクセス拡充は 進展したものの、各国政府はいまだに普遍的アクセスという約束を果たせずにいます。 ミレニアム開発目標の達成目標期限である2015年まであと7年となり、8つの目標のうち幾つかの目標、 特に第4,5,6目標という子どもの健康に関わる目標については、深刻な遅れが発生しています。アルマ・ アタから学んだことを生かせずに、約束を守れないという歴史を繰り返してしまうのでしょうか。2008年の 国連ハイレベル会合を機に、MDGs達成に向けた軌道修正をするための具体的な対策が早急になされ なければ、世界の指導者は世界の貧困に終止符を打つという宣言を果たすことができずに、この世代の 運命を変えるこの歴史的なチャンスを逃してしまうことになりかねません。 私たちは、なんとしてもミレニアム開発目標を達成しなければなりません。政治的意志とリーダーシップ によって、何百万もの子どもたちや母親たちの命が失われていく悲劇を、私たちの時代で完全に終わら せなければなりません。過去の指導者たちと同じことを繰り返すのではなく、過去に学び、母親と新生児 たち、そして子どもたちの命を守るという決断を実現するのです。 24
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