ユーロはついに公正価格にまで、あるいはそれ以上の

情報提供資料
GSAM 会長
2012年5月
ジム・オニールの視点
ユーロはついに公正価格にまで、あるいはそれ以上の下落をするか?
書いた後に気づいたのですが、今回のViewpointでユーロのテーマを取り上げるのは間違いかもしれません。金曜
日に発表される4月の米国非農業部門雇用者数が判明する前に、そして週末のギリシャとフランスの選挙結果が
出る前に書いているのですから。それに加えて、私がユーロ/米ドルの為替レートについて書く時によく冗談め
かして申し上げている通り、週末にはいつも、なぜこんなことに思いを巡らすという無駄な時間の使い方をずっ
としていたのだと自問自答するほどなのですから。更にもうひとつ付け加えるならば、私の経験上、ユーロ/米
ドルの為替市場は、おそらく世界で最も規模が大きく透明性の高い市場です。私は、この市場を、世界で一番大
きな果物と野菜の露天市場と同じようなものだとよく思っているのですが、それは、この市場が、驚くべき速さ
ですべての情報を織り込む力を持っているからです。2012年に入ってからの動きを見ても、そういう傾向からは
ずれた動きはほとんどありませんので、投資家にとっては、こうした事実を起点としてさまざまなことを考える
ことが、賢明であると思います。ともかくも、こうした市場の性格を前提として、なぜ今回このユーロをテーマ
に書こうとしたのかを説明させて頂きたいと思います。
ユーロ/米ドルの均衡価格
ごく単純に言えば、ユーロ/米ドルの為替レートという主題についてふと考えてしまうのは、欧州でさまざまな
問題が起こっているにも拘らず、ユーロが過大評価されているように思えるからです。為替相場均衡点の推定と
いう、普通の人はあまり気にもしないことに興味のある少し変わった人ならば、ほとんどの人が、ユーロ/米ド
ルの「公正価格」は1.20付近だろうと結論づけるでしょう。もしこの結論が正しいとすれば、「ではなぜ、ユー
ロはプレミアム付き(公正価格より高い水準)で取引されているのか」という疑問が浮かんできます。今年に入っ
てからプレミアムの水準は、10%近くとなっています。難解な為替レート理論によれば、ユーロは、均衡点より
も低い水準で取引されていてしかるべきなのです。では、なぜそうなっていないのでしょうか。
考えられる答えの中には、「均衡点の推定値が正確でない」というものもあります。この問題をもう少し掘り下
げる前に、ひとつ指摘しておくべきことは、この均衡価値が、欧州地域の平均を指しているという点です。他に
も多くの欧州通貨同盟(EMU)の問題と同様、ドイツにとってのユーロの均衡価値と、域内の他の国にとっての
均衡価値は、等しいものではないようです。地中海地域の国にとっての均衡価値ももちろん違います。各国毎の
公正価格については、経済協力開発機構(OECD)がいくつかの調査を行っていますし、おそらく、ゴールドマ
ン・サックスの私が以前所属していた部署でも、その調査を今も行っていると思います。こうした調査によれば、
1
ドイツは、他の国に比べて、よりユーロ高の水準でも競争力を維持できるとされています。このように見ると、
1.00から1.35程度の「上乗せ幅」は、決して理屈に合わないレンジとは言えないと思われます。
ユーロ/米ドルの水準を決める「通常の」要因
私が、主に為替を調査していた頃、米ドル/マルク(ドイツ・マルク)の為替レートを決める主な要因に2つの
ものがあったようです。1つは、相対的生産性で、おおまかに言えば、これについて米国とドイツに大差はあり
ませんでした。 2つめは、実質為替レートが名目為替レートに対してどの水準にあるかという比率(相対価格)
でした。この比率が、均衡点から離れ、実際にその水準で取引される要因は、金利差でした。ほとんどの統計を
見れば、10年国債の利回り、特にインフレ調整後の実質利回りが、注目すべきデータであったことが分かります。
米国債の実質利回りがドイツ国債の実質利回りより高い、または上昇すればドル高に、反対であればドル安に
なったのです。
ユーロが導入された際には、驚いたことに、実質利回りの差が、以前よりも大きなインパクトを持っていました。
1999年から2007年にかけては、間違いなく、ユーロ/米ドルの動きと国債の実質利回りの変化との間には、か
なり高い相関関係がありました。経済循環の相対的変化が大きければ、ユーロ/米ドルの大きな動きがもたらさ
れたのです。これを現在の状況に置き換えると、ユーロ/米ドルは、公正価格より低い水準とは言わないまでも、
公正価格付近で取引されてしかるべきであるというのが、大方の見方だと思われます。特に、先週の月次統計で
ある購買担当者景況指数(PMI)や米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数の発表を見ると、状
況は、かなりドル高を示す方向に動いていると考えられます。
では、ユーロ/米ドルは、過去の循環パターンから外れているのか、沿っているのか?
後述しますが、今後ますます、ユーロ/米ドルレートは一種の「ドイツ・マルク・プラス」レート(ドイツと米
国の相対的な関係をベースに、他の加盟国との関係を加味したレート)であると考える必要があるのでしょうか。
ドイツ以外のEMUの加盟国は、現状を維持しようとすれば、どのような犠牲を払っても、ドイツの基準に従わな
ければならないということなのでしょうか。
あるいは、為替レートは、結局のところは二国間の相対的な価格であって、市場で聞かれるコメントは、ユーロ
が米国という米連邦準備理事会(FRB)が依然としてさらなる量的緩和に対するコミットメントを示している国
の通貨と取引されているということを無視しているのでしょうか。
あるいは、これから述べますが、現状の為替レートは、何か「基本的な」ものによって決まっており、それは、
私がかつて「広義の国際収支」と呼んだものなのでしょうか。
ユーロの広義の国際収支
私のかつての同僚であるトーマス・ストルパーはゴールドマン・サックスのチーフ・カレンシー・エコノミスト
で、こうしたトピックスに極めて精通しています。彼によれば、欧州地域の国際収支は以前から(わずかな)プ
ラスだそうです。私が彼と同じチームにいた頃、そのチームで基礎的国際収支の概念を拡大して、それにクロス
ボーダー(国家相互間)での債券や株式および直接投資による資金の流れ、さらには経常収支を含めることにし
2
ました。チームではこれを「広義の国際収支」と定義し、欧州地域全体のGDPに占めるこの「広義の国際収支」
の傾向を見れば、貿易量加重ベースでのユーロのパフォーマンスを把握しやすいということを、よく説明してい
ました。その理由は、この指標が、通貨に対する主な商業ベースの需給を網羅し、投機的な資金移動をほとんど
無視していたことです。こうした投機的な資金移動は、今日では、おそらく、かつてよりは厳格なリスク管理策
によって抑制されていると思われます。ユーロに対して弱気になることはみなさんのご自由ですが、根拠となる
商業ベースの資金の流れがないのに空売りを行い、かつその流れがあなたにとって不利な方向に変化したとした
ら、誰かが安堵の息をついているかもしれません。
したがって、最も基本的なレベルでは、現在のEMUをめぐるさまざまな懸念によって、直接投資やポートフォリ
オ投資が欧州地域から逃げていくような事態にならない限り、ユーロに対して弱気になっても、それにはあまり
意味がないということです。
ユーロ/米ドルの示しているのは、明るい未来、それともより「コアメンバー」だけが残
る EMU の姿?
もう1つ考慮しなければならないポイントは、現在のEMU加盟17ヵ国のうち、いくつかの国は同盟に留まらない
という可能性を、果たして市場が織り込んでいるかという点です。将来を展望すれば、同盟に留まるのは厳しい
条件を満たし得る国のみという可能性があります。条件を満たしうるのは、明らかにドイツをはじめとする大き
な影響力を持った国だけであるという前提に立って、小国が抱えている問題は無視して、そうした国々が同盟に
留まろうと去ろうと意に介さないという判断を市場が行ったとしても、あながち間違っているとは言えないと思
います。同じように考えれば、ギリシャとポルトガルの欧州地域全体に占める比重は5%にも満たないので、彼
らが同盟を去ろうとも、さしたる影響はありませんし、もしそうなれば、残った加盟国の平均的な財政状況は、
むしろ改善することとなるでしょう。このように考えると、加盟国の「コアメンバー」が残りさえすれば(間違
いなくドイツ、ベネルクス3国、オーストリア、もちろんフランス、そしておそらくイタリアはこの「コア」に
含まれますし、イタリアが残るからといって、スペインが脱退するとは言っていません)、為替レートについて
市場でしばしば言われていること(ユーロは高すぎるという説)は、やや行き過ぎと考えられるかもしれません。
ここまで書いてきた理屈も理解できるのですが、一方で同じくらい、この理屈に納得できない気持ちもあります。
もし、同盟から1国でも脱退するとなると、どこの国が抜けるにしても、残留する各加盟国にとっては、将来の
不安定要因であると判断され、間違いなくリスクプレミアムがつく(ユーロ安になる)と考えられるのです。
ユーロ/米ドルは双方向の為替レート
ユーロ弱気派がしばしば過小評価するポイントのひとつが、ユーロが、米ドル以外の通貨との間でも取引されて
いるという事実です。どの通貨に対してユーロがそんなに安いと考えられるのでしょうか。多くの見方であり、
私も、少なくとも過去2年言い続けてきたのが、通貨取引がもっとも「醜い」(ファンダメンタルズの弱い)通
貨を選ぶゲームになってしまったということです。米ドル、日本円、英ポンド、スイスフランといった通貨のマ
クロ経済環境を見て、ファンダメンタルズの循環が悪いと判断することは容易です。ユーロについても、同じこ
とが言えます。もちろんこのことが原因で、金の価格が高い水準にあるわけです。
少なくとも、ユーロ/米ドル双方向のレートに関して言えば、米国経済が明らかに欧州地域に比べれば強い景気
3
回復を見せているので、米ドル高の材料となっても良いはずですが、そうなっていません。この主な理由として
考えられるのが、米国の金融政策の実際のスタンス、あるいはそれに対する市場の見方です。2012年に入ってか
らここまでの米国経済の緩やかな回復や、4月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が54.8
まで改善したことにも拘らず、市場は、2014年まで金利をできるだけ低い水準に抑えるというFRBのコミットメ
ントがすぐに変化するとは考えていません。FRBがこの計画に固執するならば、米国で今後発表されるデータが
米ドルに対しプラスの材料となる可能性は、間違いなく非常に小さいでしょう。これとは対照的に、4月の欧州
地域の購買担当者景況指数(PMI)は、それまでに比べてかなり低い45.9にまで落ち込んだのですが、毎週行わ
れる金融政策会議において、ドラギ総裁は、金融政策の大きな転換についてまったく触れませんでした。FRBも、
同じ立場を採るのでしょうか。ユーロ/米ドルの為替レートについてFRBに求められている政策課題は、欧州中
央銀行(ECB)に求められているものとは違っており、このことがユーロがずっと均衡点より高い水準で取引さ
れている理由のひとつと考えることもできます。
ギリシャとフランスの選挙
今週末には、大いに話題を呼んだフランスの選挙の結果が判明します。また、あまり話題にならなかったギリシャ
の選挙についても同様です。どちらも、ユーロ/米ドルの為替レートに影響を及ぼす可能性があります。ここま
でご紹介したポイントに照らせば、ユーロに対するリスクプレミアムは、この2つの選挙の結果の影響を受ける
可能性があります。もしギリシャの選挙の結果、現政権が行った改革へのコミットメントを政策課題としない非
常に脆弱な連立政権が成立すると、市場は、ギリシャがユーロを放棄することと、その後に起こりうることを織
り込むこととなるでしょう。ここまでの議論では、ギリシャのEMU脱退は、本来ユーロにとってプラス材料なの
ですが、少なくとも短期的には、間違いなくマイナス材料となるでしょう。
ギリシャの選挙結果が、弱体化している欧州諸国に金融危機伝播のリスクと恐怖を再び持ち込むようであれば、
ECBは一層の金融緩和を余儀なくさせられるという認識が広がるため、ユーロ安材料となるでしょう。人によっ
ては、半ば冗談で、これとは反対に、欧州で金融危機拡大の恐れが大きくなれば、ECBに対してよりもFRBに対
する影響の方が大きいと考えるかもしれません。しかし、これが冗談で終わらない可能性があります。先週書き
ましたように、米国の著名人が当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを指します)
のグロース・マーケッツ・サミットで、イタリア国債の利回りが、オバマ大統領再選にとって最大のリスクであ
ると指摘されたからです。可能性は低いとは思いますが、仮に欧州地域の金融危機が、さらに大きく伝播し、そ
れがECBよりもFRBにより大きな影響を与えるとしたら、皮肉なことです。
欧州が直面する課題を克服するという大プロジェクトにとって、フランス−ドイツ間の連携が極めて重要である
ことを考慮すると、フランスの選挙は、ある意味、欧州における将来の政策地図にとって「根本的」な影響を及
ぼします。オランド次期大統領候補が選挙に先立って明らかにしたのは、欧州の経済政策およびECBの政策は、
経済成長を大いに優先すべきであるということでした。もちろん、連携の相手方のドイツの考え方は、これとは
異なるものですが、他の多くの国はオランド候補に同調するでしょう。ECBは確かに独立組織ですし、当選の暁
には、オランド大統領が性急なアクションを採らない可能性もあるとは思いますが、オランド大統領の登場は、
目先、ユーロ/米ドルにとっては、おそらくプラス材料とはならないでしょう。
ここまで、今後暫くの間、間違いなくポイントとなりそうなユーロ/米ドルを取り巻く論点を取り上げました。
当分の間、ユーロ/米ドルが引き続き1.29-1.35のレンジで取引される可能性はあります。しかし、私は、考えれ
4
ば考える程、最終的には1.40よりも1.20に向かう可能性が強いと思うようになっています。この水準がいずれ来
ると期待してよいのでしょうか。この他にも、興味深いことは、たくさんあります。
どうぞ、良い週末をお過ごし下さい。そして、望むらくは、先週月曜日の残念な結果(マンチェスター・ユナイ
テッドがマンチェスター・シティに敗退し首位から陥落したこと)の後に、プレミアリーグの優勝の行方が再び
変わること(マンチェスター・ユナイテッドの優勝の可能性が再び出て来ること)を期待したいものです。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:5 月 5 日)
本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、ゴールドマン・サッ
クス経済調査部(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・
部門の視点を反映するものではありません。本資料はゴールドマン・サックス経済調査部が発行したものではあ
りません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ
ネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が翻訳したものです。訳文と原文に相違がある場合には、
英語の原文が優先します。 本資料は、特定の金融商品の推奨(有価証券の取得の勧誘)を目的とするもの
ではありません。本資料は執筆者が入手した信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、弊
社がその正確性・完全性を保証するものではありません。本資料に記載された市場の見通し等は、本資料作
成時点での執筆者の見解であり、将来の動向や結果を保証するものではありません。また、将来予告なしに
変更する場合もあります。経済、市場等に関する予測は、高い不確実性を伴うものであり、大きく変動する
可能性があります。予測値等の達成を保証するものではありません。
本資料の一部または全部を、弊社の書面による事前承諾なく(Ⅰ)複写、写真複写、あるいはその他いかな
る手段において複製すること、あるいは(Ⅱ)受領者に所属する役職員あるいは受領者の委任を受けた代理
人以外の第三者に再配布することを禁じます。
© 2012 Goldman Sachs. All rights reserved.
<審査番号:72981.OTHER.MED.OTU>
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社
金融商品取引業者
関東財務局長(金商)第325号
日本証券業協会会員
(社)投資信託協会会員
(社)日本証券投資顧問業協会会員
5