道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 研究の背景及び目的について(案) 資料(未定稿) 1. 研究の背景 (1) 社会基盤としての道路の重要性 日本の道路は、累次の5カ年計画等に基づき計画的かつ着実に整備され、国民生活の向 上や経済の成長に貢献してきました。今では、日本の道路の総実延長は 121 万 km であり、 高速道路は 7,800km となっています。 近年の社会状況の変化に応じて道路の役割にも変化が生じ、交通機能と空間機能という 基礎的役割に加え、交通体系の中枢として国土を支える役割や、地域・都市づくりの基盤 としての役割、さらには、情報化や環境保全といった新しいライフスタイルへ対応する役 割など、その役割を増大させてきました。 少子・高齢化社会への加速、環境保全及びエネルギー問題への関心の高まり、高度情報 化社会のさらなる進展など、社会環境は変化しつつあるものの、道路が重要な社会基盤の 1 つであることに変わりはなく、その機能と役割のさらなる拡大が求められています。 また、2011(平成 23)年の東日本大震災では、高速道路や国道、他の一般道を通じて、 被災地への人的・物的支援活動が行われ、その後の復興・復旧活動においても、道路の重 要性があらためて認識されています。加えて、 「道の駅」の防災拠点化や、高台避難場所と しての高速道路の整備など、道路を活用した防災・減災対策にも関心が高まっています。 このように、道路は社会・経済活動の基盤であり、重要な役割を担っています。道路が 引き続き計画的に整備され、維持継続されることへの社会的ニーズは高く、それに着実に 応えていくことが望まれます。 図表 道路の役割と機能 (資料)国土交通省 1 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 (2) 道路の現状 図表 道路の種類 ① 道路の種類 道路のうち、道路法の道路は①高速自動車国 道、②一般国道、③都道府県道、④市町村道の 4つです。その他にも、道路運送法の道路、港 湾法の道路、農道、林道、公園道、私道と、道 路にはさまざまな種類があります。 道路法の道路のうち、国の管理下にあるのは、 高速自動車国道と一般国道1であり、当部会での 検討対象は、主にこの2つの道路となります。 道路法上の道路の総延長 1,203,858km のうち、 高速自動車国道の占める割合は 0.6%(7,641km) 、一 (資料)国土交通省 般国道は 4.5%(54,736km)となっています。ちなみ に、総延長の8割以上(84.1%)を市町村道(1,012,088km)が占めています。 図表 道路法で定める道路 (注)高速道路機構及び高速道路株式会社が事業主体と成る高速自動車国道については、料金収入に より建設・管理等がなされる 高速自動車国道の( )書きについては新直轄方式により整備する区間 補助国道、都道府県道、主要地方道及び市町村道について、国は必要がある場合に道路管理者 に補助することができる (資料)国土交通省 ② 道路管理者 「道路の管理」とは、一般交通の用に供する施設としての道路本来の機能を発揮させる ため、積極的に行う作用及び消極的に行う作用の一切をいいます。 具体的には、道路の新設、改築、維持、修繕、災害復旧、道路標識の設置等の事実行為 から、占用制限を行い、道路のための公用負担を課するなどの公法上の行為を行うこと等 1 「新設又は改築」については国、「維持、修繕、その他の管理」については、指定区間は国、その他は 都府県(政令市)が道路管理者 2 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 までが「道路の管理」に含まれます。 これらの作用は、道路の敷地の所有権とは離れた、全く別個に法律上みとめられた特殊 な包括的な管理権能であり、このような権能を有しているものが「道路管理者」です。 道路管理者は原則として、道路の種別に応じてそれぞれ次に掲げるものとされています。 図表 道路の種別と道路管理者 道路の種別 道路管理者 高速自動車国道 国土交通大臣 一般国道(指定区間内) 国土交通大臣 一般国道(指定区間外) 都道府県又は指定市 都道府県道 都道府県又は指定市 市町村道 市町村 (資料)国土交通省 道路の管理者は、道路の種類により、また管理の内容により異なるため、複雑な体系を なしています。国道の管理のうち、その新設または改築の主体については、新設、改築は 原則として国が行うこととされています。旧法以来の国道の管理の変遷により、国道の管 理主体に関する規定は、都道府県道や市町村道の規定のように一本化されていません。 旧法のもとでは国道は国の営造物とされたものの、その管理は国の機関としての都道府 県知事が行い、費用はその公共団体が負担することとされ、例外的に国自らが新設、改築 を行うことができることになっていました。 新法も当初は概ね この考え方を踏襲し、重要な国道の新設、改築を主として国の責任 としました。しかしその後、経済の発展につれて交通が広域化するとともに、国道の整備 の促進とその一体化が必要となり、昭和 33 年の改正により、国が新設、改築を行う場合が 拡大され、さらに昭和 39 年の改正で、新設、改築は原則として国が行うこととされました。 ③ 道路の維持管理と費用負担 道路法(昭和 27 年法律第 180 号)は、「道路の維持又は修繕に関する技術的基準」につい て、政令で定めるとしていますが、この政令は、現在までのところ未制定です。各道路管 理者は、道路の維持管理に関する各種の通達や個別の道路構造物に関する点検要領等を指 針として、道路の維持管理を行っています。 直轄国道の維持管理は「直轄維持修繕実施要領」等に従って、国土交通省の各地方整備 局に置かれた事務所(76 箇所)と出張所(228 か所)が実施しています。 維持管理業務には、1)巡回、2)維持、3)点検、4)修繕、5)除雪、6)管理事 務、7)相談窓口の各業務があります。 3 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 図表 道路管理の内容と主体 管理の内容 道路の 種類 その他管理 意義 新設 自動車の高速交通のよ うに供する道路で全国 的な自動車交通網の枢 要部分を構成し、か 高速 つ、政治、経済、文化 国土交通 自動車 上特に重要な地域を連 大臣 国道 絡するものの他国の利 害に特に重要な関係を 有するもので、一定の 要件に該当し、政令で 路線を指定したもの。 一般 国道 高速自動車国道と あわせて全国的な 幹線道路網を構成 し、かつ、国土を 縦断し、横断し、 又は循環して都道 府県庁所在地(北 海道の市町所在地 含む)その他政 治、経済、文化上 特に重要な都市を 連絡する等一定の 要件に該当する道 路で政令で路線を 指定したもの。こ れらの路線のう ち、国において直 接維持・修繕等の 管理を行い必要が あると認めて政令 で指定した区間を 指定区間という。 指 定 国土交通 区 大臣 間 内 指 国土交通 定 大臣△ 区 (又は 間 都道府 外 県) 改築 同左 同左 同左 災害復旧 同左 修繕 同左 同左 同左 国土交通 大臣 (又は 都道府 県) 維持 同左 同左 工事に 伴うもの 同左 同左 適用 その他 同左 高速自動車 国道法第7 条の2(供 用高速自動 車国道管理 施設の管 理)、第8 条(兼用工 作物の管 理)の特例 道路法第19 条の2(供 用管理施設 の管理)、 第20条(兼 ○国土 用工作物の 交通大臣 管理)、第 88条(北海 道内の道路 の特例)の 特例 同左 道路法第17 条(指定市 等の特 国土交通 例)、第19 大臣 条(境界地 都道府県 (又は 都道府県 の道路の管 都道府 理)、第19 県) 条の2、第 20条、第88 条の特例 地方的な完成道路網を 構成し、かつ、市又は 人口五千人以上の町 (主要地)と、これら と密接な関係にある主 都道府県 要地、主要港、主要停 都道府県 道 車場又は主要観光地と を連絡するもの等、一 定の要件に該当する道 路で都道府県知事がそ の経路を認定したも の。 同左 同左 同左 同左 同左 同左 道路法第17 条、第19 条、第19条 の2、第20 条、第88条 の特例 市町村の区域内に存す 市町村道 るもので、市町村長が 認定したもの。 同左 同左 同左 同左 同左 同左 第19条、第 19条の2、 第20条、第 88条の特例 市町村 (注1) ○印は 都道府県 が行う ことと するこ とができ る。 (注2) △印は 工事規模 が小で あある もの、 その他政 令で定 める特 別の事 情がある場合に限る。 ただし 、これに か関わ らず、 当分の 間は、指 定区間 外国道 の新設 ・改築は都道府県又は指定市が 行うこ ととす る。 (注3) 指定市 の区域内 の一般 国道に ついて は、都道 府県の あるの は指定 市。 指定市 の区域内 の都道 府県道 につい ては、都 道府県 とある のは指 定市。 (注4) 東京都 の特別区 の区域 内の道 路(高 速自動車 国道路 除く) で、一 般国道又はと同として認定され ていな いもの につい ては、 地方自 治法第2 81条第2項の規 定によ り特別区 が市と 同様の 立場で 処理する。 (資料) 国土交 通省道路 局路政 課「平 成18年 度専門課 程道路 管理研 修テキ スト」 4 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 地方公共団体のうち、財源不足などを理由に管理する橋梁の定期点検を実施していない ところは、都道府県の約2割、市町村の約9割に達するとも報じられています2。 道路の管理に関する費用負担については、原則として当該道路の道路管理者が費用負担 者とされています。道路管理者が国土交通大臣である場合は国、都道府県知事である場合 は都道府県が該当します。 国道は国の営造物であり、都道府県道及び市町村道はそれぞれの地方公共団体の営造物 です。原則として国の営造物の管理事務は国の事務であり、地方公共団体の営造物のそれ は地方公共団体の事務であるとされています。したがって、都道府県道及び市町村道の管 理に要する費用をそれぞれ都道府県及び市町村が負担すべきこととされています。 国道の管理のうち、指定区間外の国道の維持修繕その他の管理は、国の事務を都道府県 が法定受託事務として行い、費用についても負担します。 ある種の営造物を国の営造物とするか、地方公共団体の営造物とするかは、その利害関 係がいずれに大きく及ぶかということのほかに、その管理について国がどの程度関与すべ きかという国の行政判断が加わります。また、公物管理の費用をいずれが負担すべきかは、 それによって受ける利益や税収入の配分、国家財政と地方財政の状態等を勘案して合理的 に定められるべきものとされています。なお、管理主体と経済主体が異なるこのような事 例は、公物管理や公共事業等の行政作用に広くみられるところでもあります。 なお、有料道路については、有料道路に関する法律である道路整備特別措置法(後述) により、高速道路会社又は地方道路公社の管理する道路の管理に要する費用は、原則とし て、それぞれの会社等の負担とすると定められています。 (3) 道路無料公開の原則と有料道路制度 ① 道路無料公開の原則 道路は国家・社会における諸活動に不可欠な基盤を提供するものであり、公共財の最も 典型的なものとして、その建設管理は国または地方公共団体の責任に属し、一般財源(税 収)を充当して行われるべきものです。この思想から、道路は無料で一般交通の用に供さ れるのが原則とされています。これが「道路無料公開の原則」です。 「道路無料公開の原則」は、現在の諸外国においても共通する思想であるとともに、歴 史的にも、道路の建設は他の土木事業と同じく為政者の責任と負担において行われ、建設 された道路は無料で一般の利用に供されてきました。このように「道路無料公開の原則」 は普遍的な原則であり、道路法上も法令(第 25 条3)の反対解釈により実定法的にもこれを 根拠付けることができます4。 2 3 4 国立国会図書館「レファレンス」2007.4 道路法令研究会「道路法解説改訂4版」2007 年7月大成出版社。 道路法第 25 条(有料の橋又は渡船施設):都道府県又は市町村である道路管理者は、都道府県道又は市 町村道について国土交通大臣の許可を受けて、橋又は渡船施設の新設又は改築に要する費用の全部又は 一部を償還するために、一定の期間を限り、当該橋の通行者又は当該渡船施設の利用者から、その通行 5 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 ② 有料道路制度 日本の有料道路は、 合計 10,279km の有料道路が供用されており、 全道路の延長の約 0.9% を占めています。内訳は、全国路線網 8,265km、地域路線網 694km(首都高速道路 287km、 阪神高速道路 234km、本州四国連絡道路 173km) 、地方道路公社等路線 1,231km です。こ れらの有料道路を利用する交通量は、全道路における総走行台キロの約 12%となっていま す。 有料道路制度は、道路整備特別措置法に基づく制度です。財政上の制約のもと、遅れて いた道路整備の促進を目的にスタートし、道路特定財源制度とともに、日本の道路整備を 推進させる両輪として機能し、高規格幹線道路5網の着実な整備をはじめ、社会経済の発展 に大きく貢献してきました。 道路整備特別措置法に基づく有料道路制度とは、有料道路建設のための財源を政府の資 金運用部からの借入金に求め、これを、特定道路整備事業特別会計を通じて国が直轄で行 う有料道路事業に支出し、又は地方公共団体に有料道路の建設資金として貸し付け、これ らによって建設された道路の利用者から料金を徴収して資金の回収を図るものです。 この制度は、道路整備の緊急事態に応じるための臨時的な特別措置として、公道として の基本的性格を堅持しながら、必要最小限度の利益を受益の範囲内で利用者から徴収する ことにしたものです。 「道路無料公開の原則」を否定したものではなく、その特例を定めた にすぎず、所定の要件を充足した場合には、無料で一般に公開されることになります。こ の点で同じ有料の道路でも、道路運送法に基づく一般自動車道が道路を営利事業として把 握しているのとは根本的に異なります。 なお、具体的に、道路法の対象となる有料道路の種類と事業主体は、図表のようになり ます。 図表 道路法の対象となる有料道路の種類と事業主体 注)高速道路株式会社が事業を営む道路は独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構との協定及 び協定に基づく国土交通大臣の許可を受けた道路のみ (資料)国土交通省 5 者又は利用者が受ける利益を超えない範囲内において、条例で定めるところにより、料金を徴収するこ とができる。 自動車の高速交通の確保を図るため必要な道路で、全国的な自動車交通網を構成する自動車専用道路 6 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 図表 道路整備事業に係る国の負担・補助 (資料)国土交通省 なお、道路整備が推進されるにつれ、建設に要した費用等もかさみ、料金によって償還 すべき額も増加しました。建設時期に起因する料金水準の格差を回避するために、1972(昭 和 47)年には料金プール制が採用されました。また、物価水準の上昇等を考慮した料金値 上げや、社会情勢の変化やリスクなどを踏まえた償還期間の延長等の措置が取られ、ネッ トワーク全体の効用を高めるために新規路線の整備等が進められてきました。 ③ 高速自動車国道 日本に初めて高速道路ができたのは、1963(昭和 38)年7月です。神戸と名古屋をつな ぐ名神高速道路 190km のうち、まず尼崎市と滋賀県栗東町の間の第一工事区間 71km が開 通し、日本のモータリゼーションの幕開けとなりました。その後、約 50 年のあいだに、供 用された総延長距離は 7,800km を超え、南北の幹線である東北縦貫道路、東名高速道路、 名神高速道路、中国縦貫道、九州縦貫道がノンストップでつながっています。 日本の高速自動車国道は基本的に有料(新直轄を除く)であり、道路開通時から有料道路 制が導入され、国民に定着している点に特徴があります。 高速自動車国道の延長は全道路の約 0.6%、幹線道路6約 39 万 km の約2%ですが、貨物 輸送分担率という面では、全道路の約 44%、飛行機や鉄道・船を含めた全交通機関の約 24% (トンキロベース)を占めています。また、旅客輸送においては全道路の約9%、全交通 機関に対して約6%(人キロベース)となっています。 6 高速自動車国道、国道、都道府県道および幹線市町村道 7 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 道路関係 4 公団民営化に際して実施された通行料金割引制度(ETC 利用車対象) (資料)古川浩太郎「高速道路の通行料金制度」レファレンス 2009 年 10 月 また、都市高速道路7は、一日あたり約 260 万台の交通量があります。たとえば首都高速 道路の東京都区内の延長は幹線道路の約 14%ですが、貨物輸送分担率では国内全道路の約 35%(トンベース)を占め、物流の大動脈としての役割を担っています。 料金の面では、日本の高速道路は料金水準が高いと一般的に認識されており、これまで にも、一部区間や時間帯によって料金を引き下げるといった内容の料金施策が行われて います。 (4) 道路特定財源制度 ① 道路特定財源制度の概要 道路特定財源制度は、有料道路制度と並んで、戦後日本の立ち遅れた道路整備を、自動 車利用者の負担により、緊急かつ計画的に道路を整備するための財源としての使命を担っ てきました。 道路特定財源制度は、1954(昭和 29)年にガソリンにかかる揮発油税が道路整備の特定 財源とされたことに始まりました。その後、自動車が急速に普及し、道路が社会を支える 重要なインフラとして組み込まれるにつれ、道路整備の重要性はさらに高まりました。 このような背景のもと、道路整備のための財源として、道路特定財源諸税目が新設され、 拡充されてきました。また、税率についても累次の道路整備5ヶ年計画等のための財源を 賄うため、5ヶ年計画策定のたびに見直されてきました。 7 首都高速道路、阪神高速道路、指定都市高速道路(名古屋、福岡・北九州、広島)の総称であり、東京、 大阪、名古屋等の大都市およびその周辺部における有料の自動車専用道路をいい、交通の円滑化を図るこ とによって大都市の機能の維持及び増進に資することを目的とする道路 8 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 ② 道路特定財源制度の理念 道路特定財源制度は、日本の自動車関連税制の歳出(税収の使途)面における特徴であ り、その理念は「受益者負担」及び「損傷者負担」にありました。特定財源の各税目は、 道路を自動車で走行することから得る各種便益又は道路に与える損傷の代価と位置づけら れていました。具体的には、燃料税(揮発油税、地方道路税、石油ガス税及び軽油引取税) は従量税であり、消費(=受益)に応じた税負担です。また、自動車重量税は、損傷者負 担の考え方に基づき、重量(=損傷を与える度合い)に応じた課税であるとされていまし た。 けれども、道路特定財源とされた諸税のうち、その根拠法規において使途が定められて いるもの(術語の厳密な用法における「目的税」 )は、地方道路税(根拠法規は地方道路税 法第1条) 、自動車取得税(地方税法第 699 条)及び軽油引取税 (地方税法第 700 条)の みとなります。それ以外の税目(自動車重量税を除く)は、 「道路整備費の財源等の特例に 関する法律」 (平成 15 年法律第 21 号により道路整備緊急措置法を改称。以下「特例法」と する)によって特定財源とされており、事実上目的税となっていますが、税法上は、使途 を定めない普通税とされています また、自動車重量税は、第6次道路整備5ヶ年計画(1970~1974/昭和 45~49 年度)に おける財源不足に対応するために創設され、その際の国会答弁に基づき、運用上、自動車 重量譲与税分を除いた国の歳入分の約8割(77.5%)が国の道路特定財源とされました。 ③ 道路特定財源の構成 なお、2007(平成 19)年度予算における特定財源の税収総額(決算調整額を除く)は、 5兆 6,102 億円(うち国3兆 4,076 億円、地方2兆 2,026 億円) 、内訳は国費分が、揮発油 税 2 兆 8,395 億円、石油ガス税 132 億円、自動車重量税 5,549 億円、地方費分が、地方道 路譲与税 3,072 億円、石油ガス譲与税 140 億円、自動車重量譲与税 3,599 億円、軽油引取 税1兆 360 億円、自動車取得税 4,855 億円です。 平成 20 年度予算における特定財源税収(国費分)の使途は図表のとおりです。国費(総 額2兆 8,930 億円。道路整備特別会計)については、ほぼ全額が道路特定財源によってま かなわれています。一方、地方費(総額3兆 9,490 億円)において特定財源(2兆 2,026 億円)の占める比率は 55.8%であり、残余分(1兆 7,464 億円)は一般財源が投入されて いることがわかります。 ④ 道路特定財源制度の特性 道路特定財源制度の特性として、1)公平性、2)安定性、3)合理性の3点があげら れます。公平性は、利用者が便益に応じて費用を負担する制度であり、費用を負担せずに 自動車を利用する行為が排除されるという意味において公平であることを指します。安定 性は、景気政策や財政事情の影響を受けないため、長期的視点から計画的に行うことが必 9 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 要な道路整備のための財源を安定して確保できることを意味します。合理性は、利用者の 負担がすべて道路整備に充当されるという明解な制度であるため、納税者の理解を得られ やすいという考え方です。 図表 道路特定財源一覧 (注)①揮発油及び石油ガス税収の括弧書きは、決算調整額(税収の平成 18 年度決算額と平成 18 年 度予算額の差:揮発油税及び石油ガス税について、2年後の道路整備費で調整することとされ ている)を除いた額。 ②暫定税率適用期間は平成 30 年3月 31 日(自動車重量税は平成 30 年4月 30 日)まで ③自動車の保有に際しては、別途、一般財源である自動車税又は軽自動車税が、取得及び燃料消費に あたっては、消費税(及び地方消費税)が課税される。 (資料)古川浩太郎「道路特定財源の一般財源化」 国立国会図書館 調査と情報 -ISSUE BRIEF- No.619 2008 年 11 月 ⑤ 道路特定財源制度の特性 道路特定財源制度の特性として、1)公平性、2)安定性、3)合理性の3点があげら れます。公平性は、利用者が便益に応じて費用を負担する制度であり、費用を負担せずに 自動車を利用する行為が排除されるという意味において公平であることを指します。安定 性は、景気政策や財政事情の影響を受けないため、長期的視点から計画的に行うことが必 要な道路整備のための財源を安定して確保できることを意味します。合理性は、利用者の 負担がすべて道路整備に充当されるという明解な制度であるため、納税者の理解を得られ やすいという考え方です。 以上のような道路特定財源制度の下に、計画的な道路整備が図られ、一定の成果が挙げ られてきました。また道路特定財源制度が、道路の「無料公開の原則」を支える役割の一 端を担っていたということができるでしょう。 (道路特定財源制度の廃止については、後述) 10 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 図表 税収の使途(平成 20 年度予算・国費分) 単位(億円) (注1)揮発油税収の4分の1。社会資本整備事業特別会計道路整備勘定に直接繰り入れられ、地方 道路整備臨時交付金に充当される (注2)地方道路整備臨時貸付金充当分 (補足)上図のほか、地方譲与税 6,739 億円(地方道路譲与税 2,998、石油ガス譲与税 140、自動車重 量譲与税 3,601、が交付税及び譲与税配布金特別会計を経て地方公共団体に移転され、地方税1 兆 3,938 億円(軽油引取税 9,914、自動車取得税 4,024)と合わせて2兆 677 億円が地方の道路特 定財源となる。 (資料)古川浩太郎「道路特定財源の一般財源化」 国立国会図書館 調査と情報 -ISSUE BRIEF- No.619 2008 年 11 月 図表 道路投資の財源構成及び事業別構成(平成 20 年度道路整備予算) 単位:億円、( )内は構成比 単位:% 注)①平成 20 年度の特定財源税収は、前年度と同額としている ②総道路投資には、道路特定財源を活用した関連施策に係る経費を含まない ③1の国費の特定財源には、貸付金償還金等を含む ④2の事業別公正において、外円は事業別、内円は事業主体別 ⑤四捨五入の関係で、各係数の和が合計と一致しないところがある (資料)国土交通省 11 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 図表 道路特定財源制度の沿革 (資料)国土交通省 図表 道路特定財源諸税一覧 (資料)国土交通省 平成 20 年度道路整備予算 12 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 2. 道路をめぐる制度的変化 戦後数 10 年間、日本の道路は、国民の生活と密接に関連し、経済活動を支えるうえで不 可欠な施設として、計画的に整備が続けられてきました。今では、道路は、生活の基本的 要件として存在しています。 しかしながら、ここのところ、道路整備事業の安定的な供給を支えていたシステムに、 大きな変化が起こりつつあります。 (1) 道路特定財源の一般財源化 1953(昭和 28)年に、ガソリンにかかる揮発油税が道路整備の特定財源とされたことに 始まる道路特定財源制度は、自動車が急速に普及し、道路が社会インフラとしての重要性 を増すにつれ、日本の道路整備を支える制度として、大きな役割を果たしてきました。 しかしながら、その後、道路の整備水準が向上したことや、公共投資全体の抑制傾向か ら道路歳出も抑制されたことにより、2007(平成 19)年度には、特定財源税収が歳出を大 幅に上回ることが見込まれるに至りました。 道路特定財源制度は、公平性、安定性、合理性等の長所を備えていました。けれども、 資源配分の非効率や財政の硬直化を招く原因ともなりえたことから、構造改革の一環とし て、制度の見直しの検討が進められました。2005(平成 17)年 12 月に政府・与党による「道 路特定財源の見直しに関する基本方針」が取りまとめられ、最終的に 2009(平成 21)年度 からすべて一般財源化されています。 廃止された道路特定財源制度は、ガソリンなどに係る税金の使途を、道路整備に特定し た財源であり、その規模は 2007(平成 19)年時点で国税 3.4 兆円、地方税 2.2 兆円でした。 道路特定財源制度が廃止され、自動車関係諸税は道路整備とは直接的な関係がなくなり ました。しかしながら、道路特定財源の制度廃止後(一般財源化後)も、道路特定財源制 度の財源であった自動車関係諸税は、ほぼそのまま残されています。また、道路整備の拡 充にあてるために、本来の税率に上乗せされた税率である暫定税率も、廃止されずに残さ れています。たとえば揮発油税は、本則税率では1リットル当たり 24.3 円のところ、暫定 税率では 48.6 円と、本則税率に比べて2倍の税率が設定されています。ちなみに、暫定税 率による増収分は国税で約 1.8 兆円、地方税では約 0.8 兆円になります。 負担という面からみれば、自動車利用者は道路特定財源制度存続時とほぼ同等の負担を 続けるかたちになっています。また、自動車関係諸税の複雑な税体系や、道路整備を目的 とした上乗せ分であったはずの暫定税率も、依然として維持されています。 高速道路や自動車専用道路には料金が課金されており、その料金収入から維持管理費が 捻出されます。一方、通常の一般道路は、道路特定財源制度が廃止されたため、一般財源 で整備されることになります。一般財源の主要な歳入である税収は、景気動向に左右され がちです。一般財源では、安定的な道路整備財源の確保につながらないという不安が残る ところです。 13 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 (2) 有料道路制度についての変化 2005(平成 17)年 10 月に道路関係4公団は、6つの高速道路会社と1つの独立行政法人 に組織形態が変更されました。いわゆる道路関係4公団の民営化です。 民営化による目的は、1)約 40 兆円に上る有利子債務の確実な返済、2)会社の自主性 を尊重しつつ、早期にできるだけ少ない国民負担による、真に必要な道路の建設、3)民 間ノウハウの発揮による多様で弾力的な料金設定やサービスの提供、の3項目にまとめら れます。 4公団が保有していた道路資産と債務は、一括して独立行政法人日本高速道路保有・債 務返済機構(以下「機構」 )に継承されました。日本道路公団は、東日本、中日本及び西日 本の3つの区域で分割・民営化され、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連 絡橋公団は、それぞれ民営化されました。これら6つの高速道路会社は高速道路サービス 事業を担当し、引き続き利用者から高速道路料金を徴収し、この中から、道路資産の貸付 料を機構に納付しており、そして、機構はこの原資を債務の償還に充てるという仕組みが 採られています。 民営化スタート後は、新たな枠組みのもと、より公平性の観点に立った料金体系への移 行、ETC の普及促進、高速道路の利便性向上、適切な管理水準の確保などの課題解決に向け て高速道路サービス事業が提供されています。 なお、有利子債務の償還期間は 45 年以内とされており、機構は、民営化から 45 年後に は債務を確実に完済し、その時点で高速道路等を道路管理者に移管し、無料開放すること が、 「道路関係4公団民営化関係4法8」の中に反映されています。 8 「道路関係4公団民営化関係4法」は、旧4公団民営化のために制定された4つの法律(「高速道路株 式会社法」、「独立行政法人日本高速道路保有・債務返済」機構法)、「日本道路公団等の民営化に伴 う道路関係法律の整備等に関する法律」、「日本道路公団等民営化関係法施行法」)をいう 14 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 3. 道路をめぐる社会的・経済的状況の変化 社会経済に目を向ければ、人口構成や経済状況など、戦後日本の高度成長を支えていた 基幹条件が変化してきています。地球全体を守るための温暖化対策や、クルマ社会の根本 をくつがえしかねない、ガソリン車から電気自動車への流れなど、様々な状況が変化しつ つあります。 (1) 日本社会の高齢化 少子高齢化が進行する日本は、今後、本格的な人口減少時代を迎えます。2050 年には、 日本の総人口は約 25%減少し、65 歳以上人口が総人口の約 40%を占める、超高齢化社会と なることが予想されています。一方で、大都市への人口集積が継続され、過疎地域におけ る、さらなる人口減少、地域社会の縮退が懸念されます。 長期的にみれば、人口の減少および人口構成の変化は、税収の落ち込みと社会保障費を はじめとする歳出の拡大につながり、国全体としての長期的な投資余力の低下は避けられ ないと考えられます。 (2) 日本経済の状況 ここのところの日本経済は、海外経済が欧州債務問題による悪影響を主因として、減速 基調から脱していないなかでは、比較的堅調に推移しています。しかしながら、輸出の本 格回復は期待できず、アジア諸国の著しい経済成長を受けて国際競争が激化するなか、世 界的地位の低下は否めません。 日本の財政は、歳出が歳入を上回る状況(財政収支赤字)が続いています。2000 年代を 通じて、景気の回復や財政健全化努力により、構造的財政収支赤字の縮小が図られ、歳出 と歳入の差額は縮小傾向にありました。しかしながら、2008(平成 20)年のリーマンショ ック以降、景気の悪化により税収が減少するなど、2009(平成 21)年度以降は4年連続で 公債金収入が税収を上回る状況が続いています。加えて、2011(平成 23)年の東日本大震 災で、財政出動の必要性が増したことから、財政収支はさらに悪化しています。 特例公債の発行から脱却することができた 1990(平成2)年度以降の公債残高の累増に ついてみると、歳出面では、90 年代は公共事業関係費の増加が主要因でしたが、近年では 高齢化の進行等に伴う社会保障関係費の増加が主要因となっています。また、歳入面では、 景気の悪化や減税による税収の落ち込みが主要因となっています。 2012(平成 24)年度一般会計予算案における歳入のうち、税収で約 42.3 兆円を見込んで います。歳入のうち、税収でまかなわれているのは5割程度に過ぎず、5割弱は将来世代 の負担となる借金(公債金収入)に依存しています。 税収 42.3 兆円は 1986(昭和 61)年頃の水準です。公債金収入は 44.2 兆円と 2011(平成 23)年度をかろうじて下回るものの、過去最大規模の水準が続いています。 一般会計の主要経費は、その他事項経費(一括交付金等)および経済危機対応・地域活 15 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 性化予備費を除き、対前年度比で減少しており、近年は公共事業予算の削減が続いていま す。 近い将来、社会資本ストックの維持管理・更新に要する費用が増大すれば、社会資本の 新設投資を大きく制約することになり、財政がこのまま推移すれば新設投資が不可能にな るとの推計もなされています。かつてのような経済の大幅成長を臨むことは難しく、借金 も限界値に近くなっていることからは、社会資本ストックに関しても、大型投資の可能性 は低く、経済の実体の範囲で粛々とした対応が求められるところです。 (3) 社会インフラの高齢化 日本には、膨大な社会資本ストックが蓄積されており、道路、空港、港湾、下水道とい った社会資本は、私たちの日常生活や生産活動の基盤であり、極めて大きな役割を果たし ています。 内閣府の推計によれば、社会資本ストックは、1998(平成 10)年時点で総額約 603 兆円 に上っています。こうした社会資本ストックは高度経済成長期に集中的に整備されており、 今後一斉に更新の時期を迎えることになります。 道路ストックの現状のうち、橋梁とトンネルについて設置年代別にみると、橋長 15m 以 上の橋梁の場合、高度経済成長期(1955~1973 年)に架設された橋梁は、全橋梁ストック の 34%を占めています。これらの橋梁は、今後 10 年から 30 年のうちに耐用年数を経過し、 しかもその数は年を追うごとに増え続けることになります。建設後 50 年以上の橋梁の割合 は、2016 年度には 20%、2026 年度には 47%に達するものと予測されています9。 トンネルについても、同様の傾向がみられます。国土交通省および旧道路関係4公団が 管理していたトンネルのうち、高度経済成長期に建設されたトンネルは、全体の約 25%を 占めています。今後 20 年間における、建設後 50 年以上のトンネル数は、特に一般国道に おいて増加が顕著にあらわれると予想されています。 道路や橋梁、トンネル等の道路ストックに対し、適切な維持管理を欠いた場合には、老 朽化した社会資本が本来の機能を保つことができなくなることや、その崩壊等による事故 の発生などが懸念されます10。 日本の道路においても、建設から相当の年数が経過するものが多く、厳しい交通環境の ために損傷が多発していることからは、今後、安全性が低下することも考えられます。ス トックの高齢化が進み、抜本的な補修を必要とすることも予想され、日常の維持管理に加 え、早い段階で損傷が発生しにくくなる対策が求められるところです。 9 10 小沢隆「道路維持管理の現状と課題」レファレンス 2007 年4月 米国では、2007 年8月に、ミネソタ州ミネアポリスでインターステートハイウェイの橋梁が突然崩壊し、 多くの死傷者が出るという事件がありました。 16 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 (4) 道路予算の落ち込み 人口構造が高齢化するだけではありません。道路等の社会インフラ施設も高齢化し、大 量更新時代を迎えつつあります。また、ライフスタイルや道路を取り巻く環境の変化に応 じて、住民や利用者からのニーズも多様化しています。しかしながら、要求されるサービ ス水準を維持するための道路予算は、減少の一途をたどっているのです。 道路事業費総額と道路維持修繕費は、道路の種別に関係なく、2000(平成 12)年度以降 減少傾向にあります。道路ストックの質を一定レベルに保つために必要な維持修繕費は、 ストック量全体や老朽化したストックの比率の増加により、一般的にはある年代までは 年々増大するものと考えられます。しかし現実には、これが減少しているわけです。コス ト削減努力の成果とも考えられますが、特に地方公共団体において、厳しい予算制約のも とでの予算の不足が顕著です。 なお、一般国道の維持管理費は年間約 2,000 億円です。高速道路の維持管理費は 5,000 ~6,000 億円であり、高速道路の通行料金によって賄われています。その意味では、日本に おいても、高速道路に関しては、直接的受益者による負担が実行されているということが できるでしょう。 (5) 環境問題への対応 地球温暖化防止を目的に、CO2 等の温室効果ガス排出量の削減が求められています。 世界全体でみると、日本は、二酸化炭素排出量の約 4.2%を排出しており、国別では、中 国、米国、ロシア、インドに次いで世界で 5 番目に多く二酸化炭素を排出しています。 1997(平成9)年 12 月に京都で開催された地球温暖化防止京都会議(COP3)では、温 室効果ガスについて、先進国の排出削減について法的拘束力のある数値目標などを定めた 「京都議定書」が採択されました。日本は、京都議定書の中で、二酸化炭素(CO2)等の温 室効果ガス排出量を、2008(平成 20)年度から 2012(平成 24)年度の第1次約束期間に基 準年(1990 年度11)から 6%削減することを約束しています。 なお、2009(平成 21)年度の温室効果ガス排出量は 12 億 920 万トンであり、1990(平成 2)年と比較すると 4.1%減となっています。2009 年度排出量が 2007(平成 19)年度排出 量(13 億 6,900 万トン)と比較して減少している原因としては、2008 年度後半に始まる金 融危機の影響により、2009 年度後半、急激に景気が後退し、産業部門をはじめとする各部 門のエネルギー需要が減少したことが挙げられています。 部門別の二酸化炭素排出量の推移を見ると、最も多く排出しているのは産業部門であり、 1990 年以降の増減率では業務部門、家庭部門の増加率が高くなっており、近年増加傾向に あることがわかります。 11二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、オゾン層破壊物質でもあるフロン類(CFCs、HCFCs)、ハロン以外 の、その他の物質(HFCs、PFCs、SF6 など)については 1995 年度 17 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 図表 2001 年度の温室効果ガス排出量について (資料)環境省 用途別にみてみると、発電によるものが 37.9%でトップ、運輸部門は 21.4%で2番目に多 くなっています。 運輸部門の詳細では、自動車全体が運輸部門の 88.1%(日本全体の 17.1%)を占めてお り、貨物自動車に限ると運輸部門の 34.2%(日本全体の 6.7%)を排出しています。 1990 年度から 1996 年度までの間に、運輸部門における二酸化炭素の排出量は 21.0%増 加しましたが、その後、1997 年度から 2001 年度にかけてほぼ横ばいに転じ、2001 年度以 降は減少傾向を示しています。 1990 年度から 2009 年度においては、輸送量の増加等に伴い自家用乗用車、航空等からの 排出量が増加しています。また、営業用貨物車からの排出量は 1990 年度と比較し増加して いますが、逆に自家用貨物車については減少しています。これは、自家用貨物車から営業 用貨物車へ輸送がシフト(自営転換)したためと考えられます。 一般に、輸送量が増加すれば二酸化炭素の排出量も増加します。輸送量は景気の動向等 に左右されるため、運輸部門における二酸化炭素の排出量の削減を、輸送量の増減に関わ らず確実なものとするには、効率のよい輸送を促進することが重要となります。 CO2 の排出 量を削減する努力を続けるとともに、交通の効率化に向けた道路や交通システムの整備も 求められるところです。 (6) ITS(高度道路交通システム)の進展 ITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)は、最先端の情報通信技 術等を用いて「人」 「道路」「車両」を一体のシステムとして構築することにより、カーナ ビ、VICS、ETC などのサービスを提供し、交通事故・渋滞及び環境負荷など道路交通環境の 18 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 改善に寄与するものです。 すでにカーナビは、 2009 年 12 月末時点で累積出荷台数が約 3,800 万台を突破しています。 そのうちリアルタイムの道路交通情報を提供する VICS(1996 年サービス開始)対応のカー ナビは、2009 年 12 月末時点で累計約 2,500 万台が出荷されています。VICS により旅行時 間や渋滞状況、規制情報などの道路交通情報がカーナビにリアルタイムに提供され、ドラ イバーの利便性が向上するとともに、適切な経路誘導による交通流の円滑化、走行燃費の 改善による CO2 排出削減・環境負荷の軽減にも寄与しています。 また、2001 年3月から本格運用を開始した ETC は着実に普及し、多様で弾力的な料金施 策の実施が可能となりました。車載器セットアップ台数は 2009 年 12 月末時点で約 2,900 万台を超えています。 全国の高速道路では1日あたり約 640 万台の自動車が ETC を利用し、 その利用率は 87%を超えるなど、世界に類のない普及度合いです。 ETC は、車両が料金所を通過する際に支払いのための一旦停止をする必要がないことから、 料金収受員による方式に比べ、時間当たり2~4倍の車両の処理が可能です。この結果、 高速道路における渋滞のもっとも大きな要因である、料金所を先頭とした渋滞が大幅に解 消するに至り、CO2 の排出削減等の効果が表れています。 また、ETC は、利用者を時間別・経路別・頻度別等に把握し、瞬時に料金を計算し徴収す ることが可能なことから、ETC を活用した時間帯割引やマイレージ割引等も実施されていま す。 さらに ETC の普及に伴い、ETC 専用インターチェンジである、スマートインターチェンジ の設置が進んでいます。スマートインターチェンジは、ETC 専用とすることで、従来のイン ターチェンジ整備に比べて安価に追加整備することができ、高速道路へのアクセス距離や 時間が短縮されることから、地域活性化にも直接的に寄与すると考えられています。 このように、日本では ITS が社会に浸透しつつあり、道路交通が抱える問題を解決する 有効な施策として効果を発現しています。 また、次世代の ITS の展開として、ITS スポットサービスの普及が目指されています。 交通安全、渋滞対策、環境対策などを目的とし、人と車と道路とを情報で結ぶITS技術 を活用した次世代の道路のことをスマートウェイといいます。この実現に向け、産学官が 一体となり、スマートウェイによる次世代路車協調システムの研究開発・実証実験を推進 してきました。 その方向性は、カーナビ・ETCを進化させて一体化し、オールインワンで多様なサー ビスを実現することにあります12。 このオールインワンのサービスに対応する通信手段として、道路に設置された「ITS スポット」とクルマ側の「ITSスポット対応カーナビ13」との間で高速・大容量通信を行 うことにより、広域な道路交通情報や画像も提供されるなど、様々なサービスを実現しま 12 13 欧米では、オールインワンのシステムは2010年8月現在、実証実験段階です。 製品により、ITS 車載器、DSRC ユニット、DSRC 車載器等と呼ばれていることがあります。 19 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 す。 この通信機能の中心となるのは、ISO(国際標準化機構)やITU(国際電気通信連 合)国際標準化された高速で大容量の双方向通信を可能とする 5.8GHz 帯 DSRC(Dedicated Short Range Communication:スポット通信)です。これまでETCに用いられてきた通信 を効率的に活用しています。 特に、ETC の普及や DSRC 技術の発達を基盤に ITS スポットサービスが普及すると、走行 する車両の位置を把握することが可能となります。この技術を利用し新たな展開も考えら れ、広範囲に渡る交通マネジメントも可能な時代を迎えています。 (7) EV 車の台頭 電気自動車(以下、EV車)は、エコカーのうち、電気モーターを動力源とする電動輸 送機器(electric vehicle; EV)を指します。外部からの電力供給によって二次電池(蓄 電池)に充電し、電池から電動機に供給を行う二次電池車が一般的です。電気をエネルギ ーとして走るため、走行時に CO2 や排気ガスを排出しません。また、ガソリン車に較べる とはるかにランニングコストが低いことが代表的な導入メリットです。 「有害排出物が無く (ゼロエミッション) 、環境にやさしい」と考えられており、ここ数年、地球温暖化対策へ と国民の関心が向いていることもあって、環境にやさしいEV車が今後順調に台数を増や していくことが予想されています。 図表 次世代自動車の普及の現状と動向 (資料)㈱三菱総合研究所 これまでEV車への電気供給は、原発の稼動が前提とされていました。しかしながら、 2011 年の東日本大震災の原発事故を受けて、今後の原発稼動状況は、現時点では不透明に なっています。また、 「エコな自動車」としての EV 車の魅力は、化石燃料を燃やして供給 される火力発電による電気とは、相容れないものがあります。原発の替わりに火力発電が 利用されるようになった場合には、EV車の魅力が損なわれることも予想されます。 以上のように、国の原発政策が見直されることがあれば、EV車の普及についても少な 20 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 からずその影響があると考えられます。 その他、充電面では、家庭においてEV車へ充電を行う場合は、夜間電力を利用するの が経済的であると考えられてきました。原発はその特性上出力の調整が難しく、夜間でも 昼間と同じように発電を行います。そのため需要の落ちる夜間でも電気が利用されるよう、 夜間の電気料金を抑えて供給することが可能であるわけです。原発事故により、主要発電 手段が火力と定まった場合には、現状低価格に設定されている夜間電力の価格に、見直し が行われる可能性もあるでしょう。 一方で、発電所発電からの全体を考慮した電気自動車のエネルギー効率について考える と、同量の原油を用いた場合は、ガソリン車を走らせるよりも、火力発電で電気を起こし て EV 車を走らせる方が効率的であるという計算もあります。最新の火力発電所は発電効率 が高く、廃熱利用を含め 60%程度の熱効率を実現する発電所も増えています。したがって、 送電効率・充放電効率・動力変換効率などを含めても、内燃機関自動車に比べて数倍程度 高い効率が実現できるとされています14。さらに大気汚染に対する影響や静粛性、将来的な 石油価格の上昇など全体観をもって考えると、EV車にメリットが多いと考える専門家も 多いようです。 EV車がその航続距離や車両価格などの課題をクリアして本格的普及期を迎える前に、 電力供給側が自然エネルギーの割合を高め、クリーンかつ低コストに電源を整える可能性 も消えたわけではありません。EV車は、国内では数年の間、成長の勢いが鈍るものの、 中期的には、その普及の流れは止まることはないという分析もされています。 東日本大震災以降には、電力供給が不安定な時期もありました。そのような場合に、E V車を家庭用畜電池として代用することが可能になれば、EV車を所有するインセンティ ブにもつながります。こうした技術が開発されれば、EV車普及の追い風になるとも思わ れます。 以上、EV車の普及動向は、現時点では、予測が難しくなっていますが、税収における 揮発油税の割合15をふまえると、揮発油を燃料源としないEV車が普及すれば、直接的な税 収の減少に結びつくことが考えられます。 (8) 自動車関連税の動向 ① 自動車関連税目 自動車には、取得段階、保有段階、使用段階のそれぞれで税金がかけられています。現 在では、都道府県及び市町村の一般財源である自動車税及び軽自動車税を合わせて、9種 類に及びます。ガソリンを燃料とする自動車の場合、揮発油税、地方道路税、自動車重量 税、自動車取得税及び自動車税(又は軽自動車税)の5税が課されるほか、車両や燃料の 購入に際して、別途、消費税(及び地方消費税)が課税されます。 14電中研ニュース 15 No.433, 2006 年 9 月 平成 24 年度予算案で 6.2%。税収約 42 兆円に対し、揮発油税2兆6,000 億円。 21 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 これらの税目は、課税対象(燃料、車両)、税の種類(国税、道府県税、市町村税) 、課税 の時点(自動車取得時、保有時、走行時)等によって細かく類別されています。さらに、 国税のうち地方道路税は税収の全額が、石油ガス税及び自動車重量税は税収の一部が地方 譲与税として地方自治体に移転されること、道府県税である自動車取得税も税収の一部が 市町村に配分されることなど、使途の面を含め、複雑な仕組みとなっています。一般に、 課税に当たって留意すべき原則として、「公平」「中立」等とともに「簡素」の原則があり ますが、自動車関連税制の現状は、 「簡素」からは程遠く、その点では納税者本位の制度で あるとは言いがたい面があります。 主要国の自動車関連税目 ② 暫定税率 自動車関連各税(石油ガス税を除く)に対しては、本則を上回る暫定税率が適用され、 現在も継続されています。 暫定税率は、1973-1977 年度の道路整備5ヵ年計画において、財源不足に対応するため、 揮発油税、地方道路税、自動車取得税、自動車重量税に対する税率引き上げ(軽油引取税 は 1976 年から)として実施されました。 当初は 1974 年度から2年間の時限的な措置であり、文字通り暫定的な税率でした。しか しながら、以降、道路整備5ヵ年計画が延長されるたびに、若干の見直しを重ねつつ、租 税特別措置法の改正による期間延長が繰り返され、30 年以上を経ています。 この間、暫定のまま税率の引上げも行われており、現在、揮発油税では暫定税率が本則 税率の2倍、自動車重量税(自家用自動車の場合)では、2.52 倍(現時点確認)に達して います。 暫定税率は 2008 年4月1日に一旦期限切れとなりましたが、1 ヶ月後の 2008 年 5 月1日 22 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 には復活しました。2009 年 9 月に政権が自民党から民主党に移り、そのマニフェストによ り暫定税率の廃止が検討されかけましたが、現在も継続しています。なお、暫定税率の次 の期限は 2018 年度となっています。 近年では、自動車関係諸税の税収は国の租税総収入の約1割にあたる、約8兆円にも上 っており、自動車ユーザーの負担感は小さくありません。また、今後、見込まれていると おりに消費税の増税が行われれば、ユーザーの負担感がさらに増すことが予想されます。 自動車取得税や重量税について、廃止を含め見直すことは課題のひとつであると思われま す。 同時に、税収の減収を補うための代替財源を検討することも必要です。重量税の、国か ら地方への税源移譲や、逆に燃料への課税強化といった案が浮上する可能性も含んでいま す。 ③ 燃料間の税率格差 自動車燃料にかかる税目の現行税率は、1リットル当たり、ガソリン(揮発油税+地方 道路税)53.8 円、軽油(軽油引取税)32.1 円、石油ガス 9.8 円です。軽油の税率はガソリ ンの約 60%、石油ガスは約 18%にすぎません。 課税に際して、各燃料の特性、燃費、環境に与える影響等を税率の差異に反映させるこ とは当然ですが、ガソリンの税率が石油ガスの約 5.5 倍にも達すること等については、税 収の使途を道路に特定していた時代ならともかく、一般財源となった現在では、公平を失 しているという指摘もできるでしょう。 ④ 自家用・営業用自動車の税率格差 自家用自動車と営業用自動車とのあいだにも税率格差(自動車税、軽自動車税、自動車 重量税、自動車取得税)が存在します。 自動車重量税を例にとれば、営業用自動車が自家用自動車に比して優遇されていること がわかります。営業用自動車に対しては、道路輸送が果たす社会的役割、課税に伴う物流 コストや消費者物価への影響等が考慮されてきました。業界団体の働きかけもあり、営業 用自動車には自家用自動車に比して低い水準の課税が行われてきました。しかし、自動車 重量税が自動車の重量(道路に与える損傷度)に応じた課税として説明されていることを 考えると、道路に与える損傷度や環境への影響が大きい16営業用大型車に対する優遇措置は 整合性を欠いています。 (図表:自動車関係税の負担額(車種別)の現状) なお、海外主要国における重量基準の課税としては、米国の重量自動車税、フランスの 車軸税17等がありますが、いずれもトラック等の重量車両を課税対象としており、一般の乗 用車等は含まれていません。 16 17 大型トラックの維持管理責任は乗用車の7~12 倍といわれている 車両総重量 12 トン以上のトラックを対象としている 23 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 4. 道路課金制度について 近年、諸外国で道路課金制度の導入が検討されています。たとえば EU 諸国では、重量貨 物車を対象とした「対距離課金」の導入がトレンドです。自動車を利用することによる「外 部不経済」 (混雑・環境負荷・事故など)が、強く認識されるようになったことが、その背 景にあるといわれています。 (9) 道路課金とは何か 道路課金(ロードプライシング)とは、道路の利用に応じて、料金を徴収する仕組みで あり、道路利用者に課される、あらゆる直接的な課金をいいます。道路課金には、価格機 能を用いて、建設費償還や混雑緩和、環境改善などの政策目的を実現しようとするねらい があります。固定料金のケースもあれば、変動するケースもあり、時間や特定の利用路線、 車両のサイズ、重量によって区分されています。いわゆる伝統的な有料道路制度も道路課 金のひとつです。 諸外国における道路課金制度の目的はさまざまです。有料道路の料金設定の場合でも、 必ずしも償還主義だけでなく、さまざまな考え方が導入されつつあるようです。 欧米諸国においても、当初、道路への課金は、投下した資金を回収するためのものでし た。その後、自動車文明の発達や都市部への人口集中により、都市部の道路における深刻 な渋滞問題が発生してきました。この問題の解決に向けて、道路に課金することで道路の 利用を制限しようとする手法が新たに設定されました。この手法は、料金を支払ってでも、 それ以上の価値を見出す利用者には利用料金を負担してもらい、さらにその料金収入を公 共交通等の整備に当てようとする考え方です。これにより、混雑した道路の交通量が減少 し、道路自体の走行速度も向上すると考えられたのです。 現在では、このように、道路の利用に対する価格付けによって各々の目的を達成しよう とする考え方全体が、道路課金(ロードプライシング)と呼ばれています。 さらに、大気汚染や CO2の増加が社会的な問題となってきたことから、環境に負荷をかけ る利用者に対し、環境保護のための社会的な費用18を負担させようとする考え方が生まれて きました。こうした環境課金も道路利用者に対して実施されており、道路課金のひとつと して認識されています。 最近では、別の政策目的、すなわちEUにおける重量貨物車課金のように国家間の受益 と負担の不公平を是正する目的をもった課金が導入されています。この課金は環境負荷の 大きい自動車から鉄道などへのモーダルシフトを促進するという目的も併せ持っています。 道路課金が、社会的に効果を発揮するためには、時間、路線、環境への負荷等、地域の 状況によって、料金をフレキシブルに変化させることが不可欠です。従来は、個別の利用 者ごとに料金を変動させようとしても、それを実現する方法がありませんでした。しかし 18こうした社会的な費用は市場の内部で負担されない費用であることから、経済学では外部費用と呼ぶ 24 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 ながら、ETCをはじめとする課金技術の発達により、時間や路線、環境への負荷等に応 じて、道路利用者ごとに課金額を変動させることが可能になりました。 こうした変遷を経て、現在では、混雑減少・環境改善などの政策目的を、価格機能を用 いて実現していこうとする道路課金の理論が定着し、実際に導入され、成功や失敗の経験 が積み重ねられてきています。 今日では、日本においても、欧米と同様に社会的な問題が発生しています。高速道路料 金を考える場合も、今後は、投下資金の回収という償還主義だけでなく、環境への影響や 混雑の解消、スピードと経済性を備えた国際競争力といった観点を導入していく必要があ るでしょう。この点から、欧米における道路課金の考え方や種類、実施状況、そこから得 られる教訓等を整理しておくことは、有益であると思われます。 図表 道路課金の類型 (資料)独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構 25 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 (10) 道路課金の類型 道路課金には、以下のようにいくつものパターンがあります。また、その対象も、都市 や都市圏を限るもの、地域を限るもの、車種を限るもの、道路を限るものと様々です。 ① 有料道路制度 有料道路制度は、建設・管理のために投入した資金を回収するための制度です。有料道 路制度には、日本の有料高速道路や、米国の、主に東海岸で発達したターンパイク等の有 料道路、フランス、イタリア、スペインなどの、都市間のコンセッション方式による有料 高速道路等が含まれます。 ② 混雑課金 混雑が発生する道路の交通需要を管理しようとするのが混雑課金です。ラッシュ時間帯 の道路を利用する利用者のうち、限定性の低い利用者や自由裁量的要素の強い利用者が、 他の交通モード又はオフピークの時間帯にシフトするように促し、交通量を減少させ、交 通が効率的に流れることを可能にします。 混雑課金には、道路の混雑を削減するために時間やレーンによって課金額を変動させる 可変料金制と、混雑地域内、もしくは混雑した都市区域に進入する道路利用者に課される エリア課金(コードン課金とも呼ばれる)があります。また、地域や道路によっては、対 距離による混雑課金も可能です。 ③ 可変料金制 可変料金制には、ピーク時間に高い料金を課する可変料金制や、特定の車線に高い料金 を課する HOT レーン(乗車人員が一定人数以下の車両に対して課金するレーン)等があり ます。米国においては「バリュープライシング」と呼ばれています。 フランス、パリ北部のA1における可変料金制や、日本の高速道路における通勤割引・ 深夜割引等も可変料金の一種であるとみなされています。 ④ コードン課金(エリア料金制) コードン課金は、特定の地域に侵入する道路利用者に課金する方法です。平日の通勤時 間帯に限定するなど、ピーク期間のみに課金する場合もあります。 コードン課金の代表例は、ロンドン、シンガポール、オスロ、ストックホルムなどにみ られ、これらの都心に侵入する車両は一定額を課金されています。 ⑤ ビニエット課金 国内の高速道路の利用に対して期間ごとに料金の異なるビニエット(ステッカー:定額 利用証)の購入を強制する制度です。EU諸国のうち、ベネルクス3国(オランダ、ベル 26 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 ギー、ルクセンブルグ)等で、導入されています。大型貨物車を対象としており、利用車 は、各々の国を通過する場合、それぞれに対応するビニエットを掲示しておく必要があり ます。 ⑥ 対距離課金 EU諸国のうちドイツやスイスでは、重量貨物車を対象に GPS を利用した対距離課金が 実施されています。これは、環境への配慮という面から、トラックから公共交通へのモー ダルシフトを促すことや、国際的通過交通について、燃料税だけでは解決されていない、 負担と受益の国家間の不公平を改善することを目的として導入されたものです。 オランダも、対距離課金の導入目前まで制度整備が進められていましたが、政権交代等 の理由により中止されています。また、フランスでは、重量貨物車への環境課税(HGV Eco-Tax)のかたちでの対距離課金が検討されており、2013 年からの導入に向けて準備が進 められています。その他、米国では、これまで伝統的に燃料税により財源が調達されてい ましたが、GPS 等を利用した対距離課金への移行を検討しています。 なお、日本の高速道路料金も広義には道路課金のひとつです。日本の高速道路料金は、 原則として、いわゆる償還主義と公正妥当主義に基づいて決められてきました。高速自動 車国道の料金は、高速自動車国道の建設費と維持管理費を一定期間内に償還しうるもので あり、しかも他の公共料金などと比較しても社会・経済的に公正妥当と認められるもので あるとされています。 (11) 道路課金の目的 典型的な道路課金である有料道路制度は、建設・管理のために投入した資金を回収する ことを目的としていました。その他、以下のような目的を挙げることができます。 ① 渋滞緩和 交通混雑や交通渋滞は、世界中の都市地域において経済が発展し、乗用車及びトラック の利用が増加するにつれ、重要な問題となってきています。多くの都市において、ピーク 時における混雑を緩和し、所要時間を減少させ、アクセシビリティを向上させるという交 通需要管理のために、多様な戦略が採用されています。ピーク時間帯に都市部の混雑地域 に進入したり、走行したりすることに対して、道路課金を採用することも、そのひとつで す。 混雑管理のための道路課金は、自動車利用者が自らの自動車乗車回数を減少させたり、 乗車時間帯をオフピーク時間にずらしたり、行き先を他の場所に転換させたり、代替的な 交通手段を探し出したりすることを促します。都市における道路課金の多くは、渋滞緩和 が主たる目的です。 27 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 ② 収入の創出 収入の創出もまた、多くの都市における道路課金計画のひとつの目標であり、結果です。 道路課金計画の目的そのものが、交通インフラを整備するための必要資金の調達や収入の 創出とされている都市もあります。収入の創出が付加的な便益として位置づけられている 場合でも、道路課金制度から得られる収入を、道路や公共交通、あるいは非交通関連プロ ジェクトを含むインフラ投資の財源として使用している都市もあります。実際に、道路課 金制度から得られた収入をどのように使うかという点は、たとえ主たる目的が混雑管理で あるとしても、当該計画に対する世論の受容を得るための鍵となるケースが多くみられま す。 ③ 環境への影響の削減 排気ガスによる大気汚染や騒音を削減するという環境負荷の低減も、道路課金制度の主 たる目的のひとつです。この場合、課金料金は車両のサイズと重量、あるいは車両の排気 ガスのレベルによって変動します。 環境の改善を主たる目的とせずに道路課金を採用した場合でも、結果として環境改善に 結びつくことが確認されています。これは、自動車の運行を制限し効率化したことにより、 排気ガスが減少することの副次的便益であるといえます。 ④ 公平負担 EU諸国のように、隣国と地続きの場合には、他国の車両が自国の道路を通行するとい うケースが、ごく日常的に起こります。また、ドイツやスイスのように、EUの東西を結 ぶ交通の要という位置取りの場合には、ヨーロッパ中の車両が自国の道路を通行する、国 際的通過交通という事象が発生します。自国の車両に燃料税を課税していても、他国の車 両は応分の負担なくして通行する可能性があるわけです。このような燃料税だけでは達成 されない負担と受益の国家間の不公平について改善することも、道路課金の目的のひとつ です。受益者である利用者が、道路に与える負荷に応じて負担するという点で、公平性が 高いといえます。 ⑤ 公共交通の利用の促進 道路課金制度には、現行の自動車利用者が他の公共交通サービスを利用するように転換 すること(モーダルシフト)を促す力があります。この場合、道路課金制度により徴収さ れた収入は、道路以外の公共交通サービスに対しても投下されているようです。 公共交通の利用を促進することが都市道路課金の目的の一つであるときには、一般的に、 都市の公共交通サービスの改良と拡張が、導入計画の一部に含まれています。道路課金の 料金を、公共交通サービスの改良と組み合わせることにより、より多くの自動車利用者が 公共交通に転換することを希望する可能性が生まれます。また、他の公共交通サービスの 28 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 充実が期待できることから、住民の支持を得やすいという特徴があります。 なお、このケースでは、自動車交通に代替しうる公共交通サービスが提供されているこ とが大前提です。 ⑥ 交通の平準化・効率化 たとえば、日本の場合には、基本的に高速道路は有料であり、一般道路は無料です。し たがって、貨物車や大型車といった物流関係車両は、夜間に一般道路を通行しています。 高速道路を利用する場合でも、利用距離制限や時間帯など割引制度の適用条件との関係で、 一般道路に一旦降りる車両や深夜の料金所付近で待つ車両が大量に存在しています。その ため、沿道環境や料金所周辺での安全性の面での課題の発生が懸念されるところです。 一般道路へ課金制度を導入した場合には、こうした、高速道路に並行する一般道路が抱 える問題点を解決する手段のひとつになりうると思われます。 一般道路から高速道路への誘導、高速道路から一般道路への転換抑制策として道路課金 を取り入れれば、原因者の行動を変化させ、交通渋滞や沿道環境の悪化等の外部不経済を 低減し、その発生を抑止することにつながります。そして、その受益は、道路利用者のみ ならず、沿道住民や地域にも及ぶことになります。 また、交通量の変化により物流の効率化が図られる場合には、その恩恵は物流関係者の みならず、全国の消費者にもたらされ、受益は広く社会全体に及ぶことになります。 このように、道路課金を導入することにより、料金差に起因する、道路交通上非効率な 経路選択が回避されます。また、料金体系を工夫することで、大都市圏等における都心通 過交通の抑制を目途とした、料金による誘導政策等の実現も可能でしょう。 29 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 5. EU諸国における動向 (1) EU指令 EUにおいては、1995 年に、大気汚染、混雑緩和等の外部費用も含めた道路課金の方向 性が示されました。このうち、特に重量貨物車に対する課金に関するものをユーロビニエ ット指令19(EU指令)と呼んでいます。ユーロビニエット指令には、ビニエット(ステッ カー)方式による課金だけでなく、対距離課金方式や、有料道路の通行料金も含まれます。 1999 年、EU指令の発令により、EU諸国において重量貨物車にインフラ費用を課金す ることが可能となりました。このEU指令の目的は、加盟国間の運輸上の競争の歪みを是 正することにありました。その後、2006 年、2011 年とEU指令は改訂され、重量貨物車に 対し、インフラ費用に加えて環境費用を課金することが可能となりました。正確には、 「通 行料金」に関する定義を改正し「インフラ課金」と「外部費用課金20」の二つの要素を含む ものとし、EU加盟国は、これらのうち一方のみ、あるいは両方を含めて通行料金とする ことができることになったのです。また、2008 年の改正では、外部費用課金の定義や基準 に関する規定が新たに設けられ、外部費用の内部化のための課金という考え方が、より強 く打ち出されました。 その他、欧州では、危険物(劇薬や可燃性物質など)の輸送に対する課金が検討されは じめているという話も聞かれます。 ① 現行ユーロビニエット指令の概要 ユーロビニエット指令は、国境をまたがって長距離の移動をすることが多い大型貨物車 両に関して、欧州域内における共通の課金の枠組みを定めています。 1)対象車両:1999 年指令の対象車両は車両総重量が 12 トン以上の貨物運送を目的と した車両とされていましたが、2006 年改正指令で 3.5 トン超の貨物車両にまで引 き下げられました。ただし、2012 年までは、12 トン以上の車両のみを対象とした 課金を継続することも認められています。この指令は、対象車量への課金を義務 付けるものではありません。対象車両に課金するか否かは加盟国の判断ですが、 課金する場合には指令が定める枠組みにしたがって行うことが必要になります。 2)対象道路:1999 年指令では、高速道路又はそれに類する道路が対象とされていま したが、2006 年改正指令では「欧州横断ネットワーク」全体に拡大されました。 また、各国が「欧州横断ネットワーク」に含まれない道路において課金を行う権 利を損なうものではないと定めており、特に「欧州横断ネットワーク」における 課金の結果として、交通転換が発生する可能性がある 2 次的ネットワークにおい て課金を行うことも可能とされています。 3)課金の定義:インフラを走行する車両に関して、走行距離及び車両のタイプに基 19 政策を実行するために、加盟国が一定期間をかけて、国内法の制定・改正を行い、実施していく義務を 負わせるものを「指令」という 20 交通による大気汚染、騒音、混雑に関しての費用の回収 30 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 づいて課される金額の支払いが「通行料金(toll) 」であり、インフラを一定の期 間(時間)利用することに関して課される金額の支払いを「利用者課金」といい ます。2008 年の改正により、 「通行料金」には「インフラ課金」と「外部費用課金」 の2つの要素を含むものとされました。 「インフラ課金」とは、インフラに関して 加盟国が負担した費用を回収することを目的とするものです。また、 「外部費用課 金」とは、交通による大気汚染、騒音及び混雑に関して加盟国が負担した費用を 回収することを目的とするものです。加盟国は、 「インフラ課金」又は「外部費用 課金」の一方のみ又は双方を含めて「通行料金」を設定することができます。な お、 「外部費用課金」に含まれる項目として、交通による大気汚染、騒音及び混雑 が挙げられています。 4)課金の水準:EU指令は、大気汚染防止や混雑緩和などの観点から、通行料金を 変化させることを認めています。車両の排出ガスに関する基準(EURO 等級)や、 1日の時間帯等に応じた料金の変化を認めています。民間企業がコンセッション によって有料道路事業を行う場合を考慮して、通行料金には市場条件に基づいた 利益を含めることができる旨も定められています。なお、アルプス等の山岳地域 に関しては、環境保護の観点から鉄道等への転換を促進するため例外的にインフ ラ費用を超えた課金が認められる場合もあります。 ② EU指令に関する各国の状況 対距離課金方式を導入しているのは、スイス、オーストリア、チェコ及びドイツの4カ 国、ビニエット方式を導入しているのは、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、デンマ ーク、スウェーデン、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなど 11 カ国です。 また、フランス、スペイン、イタリア等の6カ国は有料高速道路の通行料金として課金を 行っています。残りの英国等7カ国では、一部の有料道路を除いて、対距離課金は導入さ れていません21。なお、フランスは 2013 年より、対距離課金の導入を予定しています。 (2) 対距離課金方式 かつて、EU諸国では、特定財源制度や有料道路制度による課金が主流でした。現在で は、重量貨物車を対象とした「対距離課金」の導入が実施、もしくは検討されています。 重量貨物車を対象とした対距離課金は、道路損傷の原因者に負担を求めるという原則を 徹底し、道路利用費用を、道路利用者に直接課金する方式です。さらに、その他の混雑・ 環境汚染といった外部不経済を課金額に反映させ、外部不経済のより少ない路線へ交通を 誘導させるという交通需要管理の効果も期待されています。さらには、近年の大きな話題 21英国においては、EU指令にもとづく対距離課金は導入されていないが、別途混雑課金が導入されてい る(後述)。 31 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 である地球温暖化への対策としての一面も担っています。 ドイツの高速道路(アウトバーン)は、長年無料で提供されてきましたが、2005 年から 12 トン以上の重量貨物車両を対象に、対距離課金制度が導入されています。また、スイス22、 オーストリア、チェコも導入済みです。フランスは、有料の高速道路を展開していました が、2013 年より、高速道路以外の一般道に対し対距離課金制度を導入する予定です。オラ ンダは 2012 年の導入を目指して、システムを整備していましたが、政権交代により導入見 送りとなっています。導入された場合は、一般道も含めた全ての道路を対象としていたこ とから、注目を集めていました。このように対距離課金導入の動きが広まったのは、東西 が融合し、東欧諸国がEUへと加盟して、通過交通が増大したことが要因だといわれてい ます。 ドイツの課金の大きな特徴のひとつに、その技術方式があります。ドイツのシステムは、 GPS 装置と連動した車載器によって走行距離を算定し、携帯電話ネットワーク(GSM)を通 じてデータを送信するシステムになっています。アウトバーンは従来無料であったため料 金所がありませんが、この方式を採用することで、料金収受のための施設を新設する必要 がなくなりました。 なお、ドイツでは、車載器は無料で配布されています23。このほかにも通信費や徴収のた めの費用、違反取締りのための費用など、システムを運用するために莫大な費用がかかる ことがわかります。 スイスはEU非加盟国でありEU指令は適用されないが、EUとの交通協定により施策が調整されてい る。 23 車への取付にかかる費用については利用者負担 22 32 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 (3) ビニエット方式 ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、デンマーク及びスウェーデンは、1995 年から各 国共通のビニエット方式による課金(ユーロビニエット)を実施しています。かつてはド イツもこの方式を採用していました。 対象車両は 12 トン以上の重量貨物車両で、対象道路は高速道路及びそれに準ずる幹線道 路です。ビニエットは時間単位(日、週、月、年)で購入し、車両の排出ガス等級による 課金区分も設定されています。 (4) 有料道路 EU諸国の中でも、フランス、イタリア、スペインは、有料道路制度を採用してきまし た。 フランスでは、高速道路整備の遅れから、建設開始当初(1955 年頃)から、有料制によ る高速道路の整備が行われてきました。ルイ王朝時代に世界最高の国道網が整備されてい たため、ほとんどの地域ですでにモビリティが確保されていたことが背景にあり、付加的 なサービス提供である高速道路は有料でもよいと判断されたものと思われます。 当初は公社(混合経済会社)により建設・管理が行われてきましたが、途中からはコン セッション方式24により、民間会社による建設・管理も行われるようになりました。2000 年 以降、政府の財源とするため混合経済会社の株式が市場で販売されるようになり、2005 年 には有力企業に売却されました。現在では、有料道路事業は完全民営化されています。 イタリアの有料道路は、アウトストラーデ社を代表とする民間会社へのコンセッション 方式により、建設と管理が行われています。高速道路についても経済的に発達した北部と 発展の遅れた南部および島嶼部との格差是正が大きな課題であり、南部および島嶼部の高 速道路は無料となっています。 スペインでは、1980 年までは保守党政権下で有料のアウトビスタスが整備され、1980 年 代は社会党政権下で無料のアウトビアが整備されるなど、道路整備の基本方針が、政権を 有する政党によって変化してきました。1990 年代になると、EUのマーストリヒト条約が 発効し、ユーロ導入国の財政赤字に上限が設定されたため、高速道路整備に民間資金を活 用する方式(コンセッション)の必要性が生じてきました。しかしながら、無料高速道路 を体験したため有料化に抵抗感の強い世論に配慮し、シャドウトール方式25が採用されてい ます。 24 25 影の料金。利用者には道路を無料で通行させながら、コンセッション会社が交通量に応じた通行料金を 政府等から受け取ることができる方式。 33 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 (5) 混雑課金 ① 英国:ロンドン EU諸国のうち、英国のロンドン、スウェーデンのストックホルム、ノルウェーのオス ロでは、混雑課金が取り入れられています。 英国では高速道路は原則無料で整備されてきました。しかしながら、公共財源の不足に より、 サッチャー政権の下 1989 年、 有料道路制の導入による民間資金導入の方向に転換し、 2003 年に英国初の有料高速道路(M6トール)が開通しています。その後、有料制に伴う 負担増に対する世論の反対により、シャドウトール制が導入されました。また、環境への 影響を懸念した、高速道路建設抑制政策のため、有料道路は増加していません。労働党政 権下で、公共財源の不足とEU指令により、重量貨物車への課金、さらには、混雑削減を 目的とした全車への対距離課金を模索しましたが、これも世論の反対により 2009 年に断念 されています。 国全体の動きとは別に、ロンドンでは、2003 年から都心部を対象として混雑課金である コードン課金が導入されています。月曜から金曜日の午前7時から午後6時半のあいだに 市の中心部を通行した場合、一日あたり8ポンド26の支払いを求められます。2007 年には、 さらに西側の混雑区域である、ケンジントン、チェルシー、ウェストミンスターを含む区 域に拡大されましたが、2011 年に廃止されました。これはロンドン市における「政権交代」 が主な理由であるとされています。 さらに、2008 年からは、概ねグレーター・ロンドン27の地域を対象とした低排出ガス区域 (LEZ)課金が導入されています。これは大気汚染の緩和を目的とするもので、重量貨物車 両のうち、排出ガスに関する EUROⅢ等級の基準を満たしていないものに課金されるもので す。 英国交通省は、2010 年の業務計画書において、2014 年までに重量貨物車課金を導入する ことを宣言しました。方式はユーロビニエット方式になる見込みです。他のEU諸国の多 くにおいては、すでに重量貨物車の走行に課金が導入されており、英国の車両が他国で税 金を支払うのに対し、他国の車両は英国内を無料で走行していることになり、この不公平 感をなくすというのが、主要な理由とされています。英国内の車両に対しては、道路税ま たは燃料税の減税により、課金額がかなりの程度相殺される方向で検討が進められていま す。 EU諸国における道路課金は、政権に左右されることも多く、英国もまた例外ではあり ません。労働党政権も連立政権も、将来的な乗用車への課金については、可能性として残 しており、必要なときが来れば実施できるよう準備が進められていると考えられています。 26 2003 年の導入時には5ポンドであったが、2005 年に引上げられた。 27 34 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 ② スウェーデン:ストックホルム スウェーデンは、70 年代からディーゼル・トラックへの対距離課金を実施していました。 1995 年のEUへの加盟に際して、独自方式による課金を廃止し、ユーロビニエット方式に 参加したという経緯があります。スウェーデンもビニエット方式から対距離課金方式への 移行を検討しているといわれています。 首都であるストックホルムには、混雑課金が導入されています。2006 年1月より7月ま で試行ベースで導入され、試行前に 30%以下であった国民の支持は、終了時には 52%を超 え、好意的なモードで受容れられました。自動車交通は即座に 22%減少し、移動時間が短 縮されました。また、公共交通への大幅なシフトが発生し、交通事故の減少、排気ガス量 の抑制などの効果が計測されました。住民投票は制度継続に賛成し、混雑課金制度は、2007 年8月より、恒久ベースで再実施されています。 ③ ノルウェー:オスロ ノルウェーは、都市部における混雑課金の先駆者であり、ベルゲン、オスロ、トロンハ イムにおいて、コードン課金が導入されています。 ノルウェーにおける最大のコードン課金であるオスロのコードン課金は、1990 年に導入 されました。料金は、週7日間、24 時間に対して課され、対象区域内の居住人口はオスロ の人口の 50%を占めています。 混雑課金導入に対しては、当初、世論調査の 70%の反対がありました。しかしながら、 オスロの混雑を緩和するだけの道路容量の追加と公共交通プロジェクトの建設のために必 要な収入を生み出すことを目的に導入が決定されました。結果的に、コードン課金による 交通量の削減はわずかであり、交通量の3~4%に留まりました。しかしながら、想定よ りも交通量が減らなかったことにより収入が確保され、道路及び公共交通整備のために使 用されています。 35 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 6. 米国およびその他の国における動向 (1) 米国 米国の高速道路であるインターステートは、無料であり、ガソリン税を主たる財源とす る道路信託基金によって賄われています。東海岸に多くみられる高速道路規格の有料道路 は、インターステートの法定化以前に、主に州内交通のために、混雑回避および高速走行 という付加的なサービスを提供するものとして整備されたものです。 州によるレーン規制としては、HOV(High Occupancy Vehicle)レーン、HOT(High Occupancy Toll)レーン、高速有料(Toll)レーン等があります。HOV レーンは、1台の車両に一定人 数以上が乗車した車両しか通行できないレーンをいいます。さらに、料金を支払えば、一 定人数を満たしていなくても通行できるようにしたのが HOT レーンです。高速有料レーン は、全ての車両が通行料金を支払う必要があります。 カリフォルニア州オレンジ郡の例では、高速有料レーンの料金は、四半期ごとの実績交 通量に基づいて調整されており、ピーク時における高速有料レーンは、無料レーンに比べ、 1車線あたり約2倍の車両の通行を可能としています。料金の徴収は、民間会社に委託さ れていますが、最近では「FasTrak」と呼ばれる ETC 制度の導入が始まっています。 公共財源の不足により、連邦政府は 80 年代以降、有料道路制度活用に転換し、新規の道 路の建設に連邦補助を認めるとともに、原則無料のインターステートにも有料制を認める ように規制緩和を進めてきています。これは連邦資金に民間資金を加えることにより、財 源不足を補おうとするものです。また、連邦資金を効率的に使用できるように各種の資金 調達助成制度を創設しています。現状、公共財源不足は深刻であり、新たな財源手法とし て 2009 年に法定の国家陸上交通インフラ資金調達委員会が、道路特定財源の課税方法を、 現在の燃料消費量に基づく方法から、2020 年までに走行距離に基づくものに転換すること を勧告する報告書28を提出しました。 これにより、既存のインターステートの有料化がさらに進展していくとともに、ETC 制度 の普及が図られるなど、課金に向けての制度整備が始められています。 (2) シンガポール シンガポールでは、1975 年に最初の道路課金制度が導入されました。目的は市内交通量 の制限であり、区域免許の購入というかたちで、朝のピーク時における制限区域の交通量 の抑制が図られました。幾度かの改正ののち、現在では、指定された道路または高速道路 上での望ましい走行速度、交通量を基準として料金設定が行われ、混雑を管理しています。 28 「Paying Our Way」 36 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 シンガポールの場合、市の政府は国の政府でも 図表 ERP ガントリーを通過する交通 あります。シンガポール政府は、高度に中央集権的 な権限を有しており、個人および商業的な車の利用 に対し、強い制限を課しています。政治的環境は安 定しており、高額の車両登録税と車両割当システム (月に購入しうる新車数の制限)のもとで、政府に より自動車の所有と使用が管理されてきたという 長い歴史があります。したがって、エリア課金に対 する世論の反対も限定されたものでした。 道路課金から得られた収入は市の公共交通を整 備する資金として使用されています。これには大量 高速交通重量鉄道システム29(1988 年開業)および 軽量鉄道ネットワーク30(1999 年開業)も含まれて います。 1998 年には ERP(ETC)システムが導入されまし た。自動車から公共交通サービスへと利用を転換 (資料)独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構 した利用者が多かったこともあり、収入は以前に 較べ若干減少するかたちとなっています。なお、ERP システムの運営費用は年間約 10 億円 であり、これは年間収入の 20%にあたります。 29 30 37 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 7. 日本における道路課金制度 (1) 道路課金制度を検討するうえでの視点 現状、日本の財政状況は厳しく、今後も劇的な好転は望めないと思われます。道路特定 財源制度は廃止され、償還後の無料開放を前提とする有料道路制度の見直しが行われまし た。 しかしながら、そうした状況の下でも、道路ネットワークの維持管理は継続して行われ る必要があり、その負担を受益者である利用者に求めるべきである31という意見もあり、日 本でも、利用者負担の原則にもとづいた制度のひとつとして、新たな道路課金制度の構築 が検討課題として挙げられるようになっています。 仮に、日本において重量貨物車の一般道路走行に対して高速道路並みの課金が導入され た場合には、重量貨物車の高速道路へのシフトが進み、一般道路の混雑・環境改善を図る ことができるほか、道路ネットワーク全体の総走行時間の縮減、さらには道路の維持管理・ 更新費用の縮減にも寄与することが期待されます。 導入にあたっては、多大な費用が必要となることが予想され、課金技術の選択は検討課 題のひとつです。車両や車両の位置を自動的に認識するための技術、走行距離や課金額を 計算し請求する技術、公平性を保つために不正車両を見逃さない技術、また、既存の重量 貨物車規制のための各種情報システム(タコグラフ等)との相互利用技術などを備えたシ ステムの開発が求められます。 費用対効果の側面も重要です。多大な費用をかけて、得られる課金収入がどの程度なの か、それは、今後見込まれる維持管理費用をカバーしうるのか、さらには、それだけの収 入を得るために道路課金以外の他の手段は考えられないのかといった、視点を変えた考察 も必要でしょう。 また、日本における道路課金制度の導入を検討する場合には、2章で述べたような、日 本の自動車税制の特徴を同時に考察すべきでしょう。自動車関連税収8兆円に対して、道 路関連の歳出はどの程度なのか、自動車関連税収の見通しをどう考えるのか、自動車利用 者はどこまで負担すべきなのか、さらなる課金はアカウンタブルなことなのか・・・等々 の視点が考えられます。受益者負担の原則を踏まえれば、新たな道路限定の特別会計制度 も検討の対象外ではないと思われます。 (2) 諸外国と日本との背景の違い 先行的に道路課金制度を導入したといわれるドイツですが、ドイツでは、課金対象道路 が、ほぼアウトバーンに限定されています(2012 年8月1日より、区間を限定し一部一般 道に適用開始) 。これまで無料通行であった道路に、初めて有料制度が導入されたわけです。 31 この場合の「受益者」の定義については、現時点でも、相当程度の道路ネットワークが整備されている ため、道路ネットワークを享受しているのは、広く国民全体であるという考え方もできる。しかしながら、 道路の維持管理のレベルにも相違があり、直接的な受益者である各々の道路の受益者が、それぞれの負担 を担うほうが、より公平であると考えられる。 38 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 一方日本では、すでに高速道路は一部の新直轄国道を除き全て有料です。これは、前述 の道路整備等特別措置法による制度です。これまで無料で提供されてきた一般国道を有料 化しようとすれば、法律上の解釈も、これまでの有料道路制度の拠り所であったものとは、 別の解釈が必要です。税金によって建設された一般国道と、借入金で建設し、その償還の ために有料制度を採用する高速道路とは、根本的に異なります。 ドイツやフランスでは、道路への負担や環境への影響を考慮して、有料制度は、まず重 量貨物車から導入されました。道路への負担が大きく、環境への負荷が大きいという点は、 日本の重量貨物車についても、なんら異なるものではありません。しかしながら、これま でも、重量貨物車への負担増は、かたちをかえて検討されてきたにも関わらず導入は見送 られてきました。前述のように、主要な燃料である軽油の課税水準は他の燃料に較べて低 く、また、高速道路料金の設定そのものも、大型車にかなり優遇した設定となっています。 トラック協会などの業界団体の存在もあります。高速道路料金の値上げ等が議論される際 には、常に先頭に立って反対意見を表明する役割を果たしてきました。 EU諸国について考えてみると、EU諸国は、ほとんどの国が複数の隣国と陸続きです。 つまり、他国の車が自国の道路を通行しうるわけです。 通常、各国は、道路の維持管理費や環境保全費用を、税金や道路課金というかたちで徴 収しています。したがって、自国の国民は、自国の道路や環境にかける負担について、な んらかのかたちで応分の負担をしています。しかしながら、自国の道路を通行する他国の 車には、適正に税金をかける方法がありません。燃料税のような形で、ガソリンや軽油に 課税していても、他国で給油してしまえば、自国の道路に対して応分の負担をせずに通行 することができてしまいます。受益者であるのに、道路の維持管理費や環境保全費用に対 する貢献はゼロであるわけです。 ドイツやフランスも、隣国と接しているため、応分の負担をしていない他国の車が自国 の道路を通行するという状況があります。したがって、課金制度を導入すれば、他国の車 にも負担を求めることになり、自国車に対して公平性が高まるという見方も可能です。そ の点では、業界団体等の反発も少ないと考えられます。 日本との決定的な違いは、ここであるということができるでしょう。島国である日本で は、自国の道路を他国の車が通行する可能性は非常に低いといえます。自国の国民や車の 利用者は、日本国に対して税金というかたちで、道路の維持管理費や、環境保全費用を納 めています。したがって、受益者という限定にはなっていないにしても、利用者はみな、 それなりの負担を応分しているということができます。韓国や中国、他のアジア諸国など、 大陸からの他国の車がフェリー等を利用して入国する可能性はゼロではないですが、それ にしても日本国内を通行する車は、日本の車検制度をパスしている必要があります。した がって、日本においては、他国の車が国内を通行する可能性というのは非常に低いという ことができます。 39 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 また、日本においてさらなる課金が導入されると、大型車による輸送コストが膨らみ、 それは最終的には価格等に吸収されることになります。製造業をはじめ、市場を世界に広 げている日本の企業にとって、大型車輸送コストの上昇は、グローバル市場における競争 力の劣化にもつながりかねないという懸念が生じます。 その他、課題を乗り越えて課金制度を導入した場合にも、たとえば、対象道路をどうす るのか、収入金をどう分配するのか、などなど、様々な課題が混在しています。 この大前提をふまえると、日本国内において、道路の維持管理費や環境保全費の財源を 確保する方法は、道路課金以外にもあるのではないかという視点も生まれてきます。 たとえば、日本の場合、重量貨物車のほとんどはディーゼル車です。つまり、軽油に課 税することは、重量貨物車へ課金することと同様の意味合いになるわけです。課税額の変 更であれば、数値の変更のみで対応可能です。課金システムのように大規模に費用をかけ て、仕組みを構築する必要もありません。 現状、普通車に較べ優遇されている大型車の高速料金等を、適正な水準に再設定すると いう方法も考えられます。この方法であれば、既存のシステムのもとに、実行が可能です。 ただし、大型車への優遇措置は、流通コストの抑制につながっており、大局的にみれば、 一般国民にも受益があるという考え方もできます。いずれにしても、経済の高成長を望む ことのできない昨今においては、費用対効果の視点は特に重要です。 諸外国では、「鞭ではなくアメ」として「ゲーム方式」や「リワード(Reward)方式」 による渋滞対策の事例もあります。 シンガポールでは、オフピーク時に通勤・通学することでポイントを獲得するプログラ ムが展開されています。列車で通勤・通学するだけで1キロごとに1ポイント、朝のラッ シュ時を避けて列車で移動すれば3ポイント、といった具合にポイントを加算し、そのポ イントを、報奨金がかけられたゲームに使用するという仕組みです。参加者はまだ2万人 弱ですが、そのうちの 11~12%がオフピーク時間帯にシフトしつつあります。交通渋滞を 生むには多くの車が必要ですが、渋滞解消は、小さな変化で可能です。すでに、シンガポ ールにおいては、車の流れに変化がもたらされているとのことです。 米国シリコンバレーでも実験が行われています。運輸省から 300 万ドルの助成金を得て いるスタンフォード大学のプロジェクトは、大学外に住む人が朝晩のラッシュ時間帯から 最大1時間ずらして通勤・通学すれば、1回ごとに 10 セント獲得できるというものです。 このプロジェクトの参加者は、オンライン上のシンプルなソーシャルゲームに参加する資 格を与えられ、無作為に授与される賞金を目指すこともできます。このプロジェクトでは、 車のフロントガラスに小さな RFID(無線自動識別)タグを付け、参加者を識別しています。 40 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 道路課金以外の環境対策制度もあります。 スイスの観光地ツェルマットでは、内燃機関自動車の乗り入れが禁止され、村内の自動 車は原則としてすべて電気自動車とされています。 日本では、並行する2本の路線のうち、一方の路線の通行料金を下げることにより交通 を誘導し、環境への負荷の低減に結びつける方法が首都高において実験導入されました。 また、上高地や屋久島等で行われているような、車の乗り入れを禁止することで自然を守 る環境対策など、特別な形態での導入例もあります。 41 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 8. 道路に関する課題の整理 (1) 中期的展望 大都市圏や地方の中心都市における交通混雑や交通渋滞は、依然として日本の道路政策 における重要な課題です。 特に、高速道路に並行する一般道路において、平日の朝夕の時間帯などに利用が集中し 混雑する一方で、高速道路には交通容量に余裕がある区間が多い(全体の約 65%)32ことや、 高速道路に並行する一般道路において、総じて大型車が昼夜問わず一定交通量走行する路 線が多いこと、同じ高速道路の路線でも、曜日や時間帯により交通量に大きな差が生じる こと、具体的には、休日や通勤割引時間帯に交通が集中し、渋滞が発生する区間があり、 利用状況がばらついていることなど、道路ネットワーク全体から見た場合の交通渋滞につ いては、様々な課題が残されています。 また、大都市圏では、大都市中心部に通過交通を含め交通が集中し、都市内交通が効率 的に利用できず、渋滞の解消が深刻な課題となっています。こうした状況は、高速道路お よび一般道路における走行速度の低下を招き、時間損失の発生のみならず、排気ガスによ る沿道環境の悪化、CO2 等の排出量の増大による地球環境への負荷の上昇、交通事故の増加 等の一因にもなっていると考えられます。こうしたことから、大都市圏では、通過交通を 含めた都心部への交通の集中を分散し、慢性的な渋滞を解消する等、都市機能の強化に寄 与するために、環状道路が重点的に整備されつつあります。 このほか、これまでにも、一部の路線において環境道路課金33が施行されてきているほか、 地域における交通混雑や沿道環境悪化といった課題解決のための料金社会実験が各地で実 施されており、本格的に政策的な誘導を促す料金施策を検討・導入することが求められて います。 (2) 長期的展望 ① 継続的道路維持管理の必要性 道路は住民に最も身近な公共施設であり、生活に密着しています。道路管理者は住民が 道路を快適に利用しうるため、常時、維持管理を行っていますが、一方で、住民ニーズも 高度化・多様化してきています。 道路施設の維持管理の面では、構造物の老朽化や植樹帯の管理、不法占用・不法投棄に 対する対策などの問題を抱えています。また、危機管理に対しても十分な対策が取られて いるとは言い難いところがあり、対策の強化が望まれます。 道路の整備はすでに必要水準に達しているとする見解もありますがが、他方、首都圏の 高速道路等幹線道路のネットワーク整備、歩道整備、渋滞解消のための鉄道との立体交差 32 社会資本整備審議会中間答申による 有料道路の料金に格差を設けることにより、湾岸部等への大型車の交通を誘導し、住宅地等への交通の 集中を緩和する取り組み。首都高(大黒 JCT~川崎浮島 JCT および殿町~川崎浮島 JCT)や阪神高速(阪 神西線5号湾岸線)で試行されている。 33 42 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 化等、いまだ十分ではないという見方もあります。 日本の経済は着実に回復を続けているものの、その回復度合いは地域によってばらつき が見られます。各地域で、人口や産業構造の変化に対応した自立的で多様な取り組みが求 められるところです。一方、海外との交流は年々増大しており、競争し、連携しながら、 日本の成長力を維持・強化していくことも必要なことです。 また、大気汚染、騒音等の沿道環境問題のみならず、温暖化等地球環境問題に対する社 会的な関心が高まっています。さらに、国内外で災害、テロ等の事例が多発していること や、交通事故による死傷者数が依然として高い水準にあることなどからも、安全・安心に 関する国民の意識は非常に高いものとなっています。 高速道路は、これまで日本の経済発展や地域の活力強化に貢献し、また、環境に優しく 安全な道路としてその役割を果たしてきました。今後は、ネットワークのさらなる機能強 化に努めるとともに、これまで蓄積されてきたストックを徹底的に活用し、その利用価値 を高めることにより、一層重点的に政策課題へと対応することが求められているといえる でしょう。 東アジアとの相互依存関係が急速に進展する中で、グローバルな市場の活力を取り込み ながら、日本の国際競争力を高めることもまた重要です。日本の道路の整備水準は、量(道 路延長)の面からも、質(車線数・速度)の面からも、先進諸外国に比べて、極めて低い 水準にあるという意見34もあり、生産性向上に向けた環境整備が必要と思われます。とりわ け、物流の効率化・機能強化による国際競争力の強化は、日本の課題の一つであり、輸送 コストという点からも重要です。 また、東日本大震災の教訓からは、道路ネットワークのミッシングリンクや弱点が明ら かにされました。この点からも、ネットワークのさらなる充実が望まれるところです。 道路ネットワークを整備し、その有効活用を図ることは、道路利用者にとって、安全性 が確保された走行が可能となることです。社会全体の効用として、環境を改善し、安全性 を向上させるとともに、ヒト・モノの移動を円滑化・活発化させることによって、地域の 活性化、物流の効率化などにも資するといえるでしょう。また、道路ネットワーク全体の 資源の効率的利用・配分にもつながります。 経済の低成長下において、成長力を維持・強化し、地域の活性化、安全・安心の確保、 良好な環境の創出といった、日本が抱える重要な課題に対応しつつ、国民にとって利用し やすい道路とするためには、道路ネットワークの有効活用と合わせて、道路ストックの機 能を強化することが重要であり、効果的です。 なお、道路の維持管理に関しては、2012 年度から、 「国道(国管理)の維持管理等に関す る検討会」が立ち上げられ、8月の第1回検討会をはじめに、国道の維持管理基準や、道 路構造物の修繕及び更新等について、議論が進められています。 34 京都大学藤井聡「道路」についての国際比較 43 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 ② 高速道路無料化 高速道路料金を顧みると、値上げを伴う料金改定は、2005 年に実施されたものを最後と しています。近年では、高速道路料金上限 1,000 円、高速道路無料化社会実験の実施、東 日本大震災に伴う東北地方の高速道路無料化措置と、高速道路料金に関し、受益と負担の ありかたについて社会的に関心が集まっています。 民営化と同時に、高速道路は 45 年で償還し、その後は無料開放されることが決められて います。その場合には、高速道路の維持管理費 5,000 億円の財源はどうなるのかという、 新たな課題が生まれます。高速道路の利用者は負担なくして受益を受けることになります が、その場合でも、高速道路の維持管理の必要性は変わりません。 また、現政権である民主党は、そのマニフェストで「高速道路の無料化」を謳っており、 政権掌握期間には、いくつかの無料化実験も行われました。民主党政権が継続した場合に は、償還期限である 45 年後を待たずしての高速道路の無料化も、視野の範囲内となってき ます。その場合には、45 年償還の際と同様に、無料化後も引き続き必要となる高速道路の 維持管理費の財源を、どこに求めるかという問題が生じます。 これまで、日本においては、高速道路の維持管理費は、高速道路を通行する利用者が支 払う通行料金によって賄われてきました。高速道路については、直接的な受益者による負 担が実現されていたということができます。 無料化される場合には、無料化にいたる手順など、プロセスを透明化したうえで、将来 の高速道路の整備財源の確保策について、わかりやすいかたちで国民に示されることが必 要です。その場合、高速道路を一度無料化したうえで、将来の財源確保のために、再度、 高速道路も含めた合理的な道路課金制度の導入を検討課題とすることも、受益者負担の原 則に即した対応のひとつであると考えられるでしょう。 さらに言えば、高速道路が無料化されれば、一般道路からの交通の転換が行われ、高速 道路の交通量が増加します。一般道路が課金されれば、なおさらであり、高速道路には、 これまで以上の維持管理費が必要となることが予想されます。維持管理費の財源確保は必 須であり、一般道路への課金は、高速道路無料化に際しての、ひとつの手段として考えら れるでしょう。しかしながら、高速道路を無料化し、その維持管理財源を一般道の有料化 により確保するというのは、 「道路無料公開の原則」に立って考えると、ある種の矛盾を含 んでいるようにも思われます。 ③ EV車の普及 2章でも述べたように、EV車の普及動向は、現時点では、予測が難しくなっています。 税収における揮発油税の割合35を考えれば、将来的にEV車が普及し、揮発油を燃料源とし ないEV車の世の中が成立した場合には、燃料税収はほぼなくなり、直接的な税収の減少 に結びつくことが考えられます。その場合には、燃料税収にかわる新たな財源を確保する 35 平成 24 年度予算案で 6.2%。税収約 42 兆円に対し、揮発油税2兆6,000 億円。 44 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 必要があるでしょう。 その他、都市部でみられるように、自動車を所有せず、レンタカーやカーシェアリング などを利用するといった動きが広がる可能性もあります。そうした場合には、車を所有す る場合に比べ、トータルの走行距離が削減されることが予想され、結果として、ガソリン 税収の減収につながることも考えられます。 また、ハイブリッド車をはじめとした低燃費型車両も普及度合いが高まっており、目覚 しい技術開発のもと、ガソリン税収への大きな脅威となることが考えられるでしょう。 以上のように、長期的にみれば、燃料税による税収に替わる新たな財源の確保は必須で あると考えられます。燃料税をはじめとする自動車関連諸税が道路特定財源であったとき であれば、税収の落ち込みは、道路関連財源の不足に結びつき、課金制度等新たな収入確 保手段が必要だという流れでの説明も可能であったことでしょう。しかしながら、道路特 定財源が一般財源化されたことにより、ガソリン税や軽油税の税収が見込めなくなったと しても、その事実イコール道路関連財源の不足とはなりません。あくまでも税収全体にお ける落ち込みという議論になるわけです。もちろん、道路関連の財源が一般財源から賄わ れていることを考えれば、税収全体の落ち込みから派生する道路関連財源の縮小は、重要 な検討課題となりうるわけですが、その場合でも、どれだけ道路をクローズアップして語 ることができるのか、困難も予想されます。 45 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 9. 研究の目的 以上のような背景をふまえて、当部会では、 (1)道路課金制度についての調査分析、 (2) 日本への導入可能性の考察、という2つの目的について調査検討を行うことを考えていま す。 (1) 道路課金制度についての調査分析 道路課金制度については、その目的や方法ごとの特徴を整理します。また、諸外国にお ける道路課金導入の動向や、実際に導入されている制度について、それぞれの背景や目的、 仕組みや設備・技術等の調査を行います。加えて、費用対効果の側面や、課金制度による 収入の使途についても注目する予定です。 さらに、車や道路をめぐる状況、自動車に関わる税金等の仕組みについても確認し、諸 外国と日本との環境や条件の違いを洗い出します。 (2) 日本への導入可能性についての検討 諸外国における道路課金制度の内容や動向をふまえたうえで、日本の道路事情をめぐる 固有の環境や条件とも照らし合わせ、道路課金制度の日本への導入可能性について検討し ます。 また、今後、日本において予想される道路の建設・更新・維持管理費の増大に対し、どの ような形で対応していくことができるのかという視点でも検討していく予定です。軽油へ の課税による対応、課金以外の渋滞対策、環境対策といった視点も加えます。 道路有料化に向けた世界的な潮流の方向性を踏まえ、各々の手法の長所/短所、導入容 易性/持続性等の視点から、日本の道路課金制度を整合的に考えていきます。 その際、日本における道路課金制度の形式、つまり、フランスのように「税金」のかた ちでの導入となるのか、それ以外の導入方法が可能なのかという点は、検討における重要 な留意点となることでしょう。 以上のように、日本の道路をめぐる環境は、大きく変化し、大事な転換点を迎えている ということができます。多くの課題を抱えながら、道路整備をどのように進めていくこと が望ましいのか、当部会では、中長期的なスタンスから、全体の流れをふまえつつ、検討 を試みる予定です。 以上 46 道路課金制度に関する調査研究部会 2012/10/09 参考資料 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構 「欧州の有料道路制度等に関する調査報告書」2008 年4月 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構「ドイツにおける道路事業の PPP(その1) 」 2012 年5月 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構 「欧米のロードプライシングに関する調査研究報告書」2012 年5月 財団法人高速道路調査会「高速道路の料金制度に関する研究委員会」 2011 年8月 有料道路研究センター「ETC システムの現状と展望」 有料道路研究センター「世界の有料道路 主要国の現状」 西尾崇/梶原啓「米国をはじめとする諸外国の課金政策に関する最新の動向(その1) 」 西川了一/末岡真純「ドイツの高速道路政策」 昆信明「ユーロビニエット指令の動向」 昆信明「EU 加盟国及びスイスにおける道路貨物交通に関する課金システム」 47
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