参加型社会オランダの働き方

型社会オランダにおける働き方
第 9回 :参 カロ
亜細亜大学経済学部教授
権 丈 英 子
長 い一 方 、女 性 の 労 働 力 参 加 が 低 く、い わ ば 男 女
図表 1 分 業型 社 会 と参加 型社 会
数 多くの 理 由 によるものであろうが、少 なくとも平 均
労働 時 間 の短 いことが、生 産 性 の低 さに結 び 付 いて
一人当たり労働時 間 一人当
労働 力活用の 2つ のアプローチ
社会 が一 定 量 の 労働 力を活 用 しようとす るとき、
図表 1の ように、限られ た人 に長 時 間働 いてもらう
「分業型」と、多くの人 にさほど長くない時間働 いても
「参加型」という、大きく2つ のアプローチがある。
らう
参 加型 社会 では、分業型 社会 に比 べ て、仕 事 と仕
事 以外 の活動を同時 にこなす人が多く、ワーク・ライ
バランスの実現度も高くなる。
フ。
役 割分業 に根 ざした分 業型 社会 であるといえる。
先 進 国 のなかで 長 時 間 労 働 という特 徴 をもつ 日
本 では、労働 時 間 が短 いと、生産 性 が落ちてしまうの
ではないかという疑 間をよく耳 にする。ここで、生 産 性
のおおまかな指標 として、人 口 1人 当たりGDP、 労 働
1時 間 当たりGDPを みると、いずれ も、日本 よりもオラ
ンダが高 い。特 に、オランダの 労働 1時 間 当たりGDP
は、日本 の1.5倍 である。オランダの 生 産 性 の 高 さは
い るわけではないといえる。また、オランダは、標 準 化
失 業 率 や合 計特殊 出生 率 といった他 の経 済社会 パ
フォーマンスが悪 いわけではない。
図表 2
2010年 の 日本 とオランダ
日本
就業者 1人 当たり年実労働時間
図 表 2よ り、就 業 者 1人 当 たりの 年 実 労 働 時 間 を
み ると、オランダが1,377時 間 であるの に 対 して 日本
時 間 しか 働 いてい ない。また、15∼ 64歳 の 就 業 率
(そ の 年 齢 人 口 に 占 める就 業 者 の 割 合 )に つ いて
合計特殊出生率
は、オランダでは、男 性 が80.0%、 女 性 が69.4%で あ
るのに対 して、日本 では、男 性 はオランダと同 水 準 で
就業者に占めるパー ト
男女計
70.1
74.7
33,737
42,478
39.4
59.6
4.5
女性
男女計
10.4
20.3
17.2
60.6
″‘
00
(%)
男性
ハυ
00
1.39
0フ
ある一 方 、女性 が60。 1%と 低 いため、全体 の就業 率 が
低 くなっている。この ように、両 国 を比 べ ると、オランダ
69.4
●0
00
タイム労働者割合
80.0
60.1
労働 1時 間当たりGDP IUSドル)'
標準化失業率 (%)
1,377
女性
人口1人 当たりGDP(USド ルl■
が 1,733時 間 であり、オランダ人 は日本 人 の8割 弱 の
ハυ
15∼ 64歳 就業率 (%)
出所 :筆 者作成
ハυ
00
男性
1,733
オランダ
★:購 買力平価換算
は、労働 時 間 が短 く、男 女 ともに就 業 率 が高 い 参 加
型 社 会 であるといえ、対 照 的 に日本 は、労 働 時 間 が
厚生労働省「人口動態統計」、オランダ
出所:合 計特殊出生率は、
他は、OECD.Statよ り引用。
統計局Stat!ineよ り、
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パ ー トタイム労働 と労働 時 間の柔軟 性一― 労働
ない 柔 軟 な働 き方 ―― へ の 積 極 的取 り組 みが強 く
時間選択の 自由
オランダにおける働き方を理解するうえで重 要なの
「パート
タイム労働」である。パート
が、
タイム労働 は、少
印 象 に残 った。
オランダ統 計局 が先 頃発表 したところによると、2009
から参加型社会 には有効 である。
なくとも2つ のルート
ひとつ は、短 時間労働者 の割合 が高まると必然的に
年 にテレワークを導 入していた企 業 は56%で あり、従業
員 500人 以上 の大企 業 では93%に 及 ぶ 。テレワーク導
入 率 は、2003年 には28%で あったから、この 数年 間 で
1人 当たりの平均労働 時間 が減少することである。も
うひとつ は、短 時間 の雇 用機会が増えることによって
倍増 したことになる。また、テレワーク利 用者 (日 本 でよく
見 られ る家 のパ ソコンで 持 ち帰 り残 業 をす る者 では
そうでなければ就労 しなかった人々が労 働市場 に参
加することである。
1970年 代後半 に「オランダ病」という言葉を生んだ
なく、
会 社 のICTシ ステムにアクセスして職場以外 の場
所 で、規則 的 に働 く労働者 )の 割合 は19%で あった。
オランダでは、テレワークにつ いての 法 律 は定 めら
ように、その 頃 オランダは、天 然 ガスの発見 によるタナ
ボタ収入 が、結果 的 に経済 に歪みを与 え、深刻 な不
況 に陥っていた。そうしたなか、1982年 11月 になされ
「ワッセナー合 意 」が、経済 立
た政労使 の代表 による
つ の 勧 告 ― -2003年「テレワーク勧 告」、2009年
「移動可能性 とテレワーク勧告」―
― ―がインパ クトを与
て直 しの転換点 となったとみなされている。また、当時
オランダは、既 婚女性 が働 くことに極 めて保守 的で、
男 性 稼 ぎ主 モデル が 支 配 的 であった。オランダの
女性 就業 率 は、他 の ヨーロッパ 諸 国や 日本 と比 べて
せ やす くなるため、仕 事 の 満 足 度 が高 まること、②
ワーク・ライフ・バ ランスが取 りやすくなること、③通勤
れていないが、労使 代表 の合 意 による労働 財 団 の2
長 い 問低 迷 し、1985年 でも35.5%に 過 ぎなかった。
同年 の日本 の女性就業率は53.0%で あった。
1980年 代前半 から始まったパートタイム労働者 の
待 遇改善 は、当初 は労 使協約 で定められ ていたが、
1990年 代 には法 制化 が進 み、1996年 には労働 時
間 による労 働 者 の差別 が禁 止 された。そして、2000
年 には、労働 時間調整法 により、労働者 は時間当た
り賃金 を維 持 したままで、労働 時間を延 長・短縮 す
る権利 を持 つ ようになった。
図表 2の ように、現在、オランダでは、就業者 の4割
タイムで働
弱、女性 では6割 が、週30時 間未満 のパート
き、この割合 は先進国のなかでも突 出 して高 い。そし
パート
て、
タイム労働は、未熟練労働 だけでなく、
様 々な
職種・業種 に広 がっている。人 々は、子育 て期 に労働
えた。これ らの勧 告 では、テレワークは労働 者 にとっ
て、① 就業場 所 と働 く時間帯 が個 人 の事情 に合 わ
のための時間や労力を節約できること等 が、そのメリッ
トとして挙げられ ている。使 用者 にとっては、① 職場
の効 率性 や柔軟 性 が高 まること、② オフィス賃料 や
交通費等を削減 できること、③病気欠勤を減 らすこと
ができること等 が挙げられ ている。また、社会全体 とし
て、交通混雑 の緩和 に役立 つこと、環境 問題 に配慮
できること、病気 の労働者や障害者を社会 に (再 )統
合 するために役立 つこと等 が強調されている。
オランダでテレワークが進 んだ理 由 は、この 国 で
パート
タイム労働 (日 本 でいう短 時間正社員をイメージ
するとよい)が 普及 していることと、少 なくとも次 の2つ
の 関連 が指摘 できる。
第 1に 、人 々のパートタイム労働 志 向が強 いため、
労働 供給 を増 やす ことは容 易 ではない。そうしたな
か、テレワークを組み合わせることで、テレワークという
子どもの成長 に合わせて労働時間
時間を短縮 したり、
こ
し
た
を延長
りする とができる。さらに、労働時間の変更
には、その理 由を問われず、
利 用目的の制限もないた
め、単身者や子育てを終えた男女も活用 している。
このように、オランダでは、労働時間を選択する自由
選択肢 がなければごく短 い時間 しか働くことができな
い者 も、より長 い 時間働 くことが可 能 になる。第 2に 、
パート
タイム労働者 が増加する過程 において、すでに
労働 時間 の柔軟 化 。
個 別 化 が進 んだ。これにより、
企業 はそこで人 事労務管 理に関するノウハ ウを蓄積
一 時点でみて、
度 が極 めて高く、
長時間労働者 が少な
の
ライフ・
と
が可
と
く、
仕事 育児 両立
能だ いうことに加え、
ステージに応 じて働き方を調整 することで、生涯にわ
たって労働市場 に参加 しやすい社会を形成 している。
し、人 々の意識 の変 化一一 職場 にいて長 い 時間働
くことだけを評価 するのではなく、個 人 に合 った働 き
方 をすることを認 め、仕事 の成 果 で評 価 するような
意 識 の変 化も起 こった。こうしたことが、テレワークの
普 及にもプラスに働 いている。
労働時間選択 の 自由から就業場所選択の 自由ヘ
昨年 、2010年 秋 にオランダの民 間企業 において、
ヒアリング調査を行った。そこでは、テレワークーーICT
場所や時間 にとらわれ
(情 報通信技術 )を 活用した、
今世紀 に入 って、労働 時間選択 の 自由を労働者
に法 的 にも保 障 したオランダは、次 なる段 階 として、
就業場所 選択 の 自由 の確保 に向けて、今すでに大
きく踏 み 出している。
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