第 1章男が言葉を話す理由女が言葉を話す理由翻訳上手になろう火星の言葉と金星の言葉は︑ 使う単語は同じでも意味はまるで違う職場で男女の違いがいちばんくっきりあらわれるのは︑コミュニケーションの領域だ︒男と女つの言葉が異なるニュアは︑別々の惑星からやってきて別々の言葉をしゃべっているだけでなく︑そのことに気づかずに︑ 自分たちが同じ言葉をしゃべっていると思い込んでいる︒ 実際には︑男女が使う言葉は同じでも︑その意味はまったく違う︒ 職場で不平等や軋轢が生まれるのは︑男と女が根っからの性差別主義者だからではなく︑相手一方︑男は女の言葉を聞いて︑女は実務能力がなく︑対等に見る必要がないと思い込んでしまう︒ 女は男の言葉を聞いて︑男が自己中心的で思いやりがなく︑信用できないと思い込んでしまう︒ 男も女も︑異性に対してありとあらゆる誤解や間違った思い込みをしている︒ ● 男女がお互いの言葉を正確に翻訳できないと︑ 職場の不満は高まるそのせいで︑男女はお互いを十分に理解することができなくなっている︒ ンスをもったり︑異なる感情が込められていたりする︒男と女の間には︑誤解があふれている︒ 1 16 Mars and Venus in the Workplace の言葉を理解できないことが原因だ︒ それでも︑昔は︑男と女がまったく別々の世界に暮らしていた︒男の仕事と女の仕事の間には︑ はっきりした線引があった︒でも︑いまは男と女が一緒に働く時代だ︒これは素晴らしい進歩だけれど︑男女双方に新しい重荷がのしかかることになった︒男女がお互いの言葉を正確に翻訳し︑ 惑星間のコミュニケーション・ギャップを埋めないと︑職場に対する不満は高まり︑仕事の能率も落ち込む︒ 男性と女性のコミュニケーションの仕方の違いを理解すれば︑ この問題を解決する道が開ける︒ 課題指向﹂の男・﹁関係指向﹂の女お互いの違いに反発したり︑しぶしぶ我慢したりするのではなく︑男女の異なる資質や発想法を﹁生かし合い︑一緒にチームを組んで行動できるようになる︒ ● 男女のコミュニケーションの仕方のいちばん大きな違いは︑﹁課題指向﹂と﹁関係指向﹂の違いだ︒ 男性にとって︑他人とのコミュニケーションはもっぱら問題解決の手段だ︒それに対し︑女性はもっといろいろな目的でコミュニケーションをする︒ストレスを和らげたり︑気分をよくしたり︑情緒的な絆を強めたり︑創造力を刺激して新しいアイデアを生み出したりすることも︑コミュニケーションの役割だ︒ 男が言葉を話す理由女が言葉を話す理由第1章 17 性は必要最小限の言葉で情報を伝えたいこの違いのせいで︑男女の間にさまざまな誤解が生まれている︒男女ともに︑自分が異性にど男う見られているかを理解する必要がある︒ ● 普通︑男がしゃべるのは︑問題解決のために意見を述べたり︑問題解決に必要な情報を得るのが目的だ︒じっと黙って考えて︑考えがまとまると口を開くというタイプが多い︒男同士の間でデキルと思われるのは︑たいてい︑必要最小限の言葉で言いたいことを伝えられる人間だ︒ 男の世界では︑論理的な結論を導くうえで必要ないことは言ってはならない︒余計な言葉や主題に関係ない話をすると︑無能とみなされる︒くどくど不安を口にしたり︑自信なさげなことを言うのは︑断じて避けるべきとされる︒自信満々に結論を述べれば︑職場の同僚男性に尊敬の目で見てもらえる︒ 感情を伝えたいしかし︑男たちが知らないのは︑そういう話し方をしていると︑女性の顧客や同僚︑部下︑上情報だけでなく︑ 司の信頼と支持を失ってしまう場合が多いということだ︒ ● 女性は言葉で︑ 18 Mars and Venus in the Workplace 一方︑女性は︑男性と同じように問題解決能力があるのに︑女性特有のコミュニケーションの仕方のおかげで︑男の目には自信なさげに見えてしまう︒ 解決策を見つけて︑それを提案するとき︑女は男以上に人間関係を大切にする︒女の言葉は︑ 情報だけでなく感情も伝える︒このようなコミュニケーションの仕方は︑確信に欠け︑まわりの意見を受け入れる態度に見える︒答えをすべて知っているような顔をしないので︑おのずとまわりの人たちのサポートが集まる︒これは︑金星では当たり前のこと︒しかし火星では︑周囲の意見を受け入れる態度は自信のなさと受け取られる︒ 女が確信に欠けたり︑他人の意見を聞く用意があるように見えると︑男はその女性が目の前の問題を解決する自信がないのだと誤解してしまう︒しかし︑ 女が周囲の同意を得ようとするのは︑ 自信がないからではなく︑コンセンサスをつくりたいからだ︒ ところが︑男のように一気に解決策を示すのではなく︑少しずつ結論に近づいていく女の習性を︑男はいらだたしく感じ︑女の提案を軽んじてしまう︒ 金星では︑言葉は情報だけでなく感情を伝える道具でもある︒女性は感情を伝えて︑まわりの人間と経験を共有しようとする︒女は結論に到達するまでに︑じっくり聞き手との関係を深めようとする場合がある︒金星では︑このスタイルにより︑人と人の結びつきが強まり︑信頼が生まれる︒女たちが知らないのは︑必要最低限以上の言葉を言うと︑男たちから無能と見られてしまうということだ︒ 男が言葉を話す理由女が言葉を話す理由第1章 19 ● 女が単刀直入に話すときは︑ 相手と距離を置きたいときもっとも︑女性だって︑いつも時間と言葉を費やして聞き手との親しい空気をつくろうとするわけではない︒パーソナルな結びつきを求めていない場合は︑もっと単刀直入に話す︒敬意を感じない相手とは︑親密な関係をつくろうとせず︑いきなり本題に入るのだ︒ そのため︑男が単刀直入な話し方をすると︑女は敬意をもたれていないと感じたり︑個人的な関係を築きたいと思われていないと感じてしまう︒男がいきなり結論を言うと︑女性との信頼を高めるどころか︑信頼を損なってしまう︒ 女性は︑自分の気持ちを理解してくれる男性と仕事をしたいと思う︒男性の上司は︑女性の部下が自分の指示にどう反応するかを理解しないと︑たちまち反乱を引き起こしてしまう危険がある︒男はいきなり本題に入る上司の下でうまくやっていけるかもしれないが︑女はそういう言い方をされると気を悪くする︒ 男がちょっとした雑談もしないでさっさと本題に入ると︑女は嫌われているのではないかと思ったり︑相手がなにか怒っているのではないかと思ったりする︒信頼されていない︑評価されていない︑と感じてしまう︒しかし実際には︑男性はそういうときも相手の女性を高く評価し︑ とても気に入っている場合もあるのだ︒ 20 Mars and Venus in the Workplace つだが︑女がしゃべる理由はつある︒この違いを理解すれば︑ 男がしゃべる理由は１つだが︑ 女がしゃべる理由は４つある職場で男がしゃべる理由は 4 情報を伝える女性がしゃべるつの理由について見てみよう︒ を聞いてくれないように見えるのかがわかるだろう︒ 職場における男女間のコミュニケーションを改善できるかもしれない︒女性は︑どうして男が話 1 にはそれ以外の目的もあるということだ︒ 男と女の大きな違いは︑男がもっぱら情報を伝えるためにしゃべるのに対し︑女がしゃべるの論理に限られており︑すべての言葉は主なテーマを伝えるためのものだ︒ よ︑情報を集めるにせよ︑最小限の言葉しか使わない︒男のコミュニケーションは︑事実や数字︑ 主張を伝えるために話をするという点では︑男も女も同じだ︒ただし男は︑情報を伝えるにせ 4 ❷情緒的に支え合う男が言葉を話す理由女が言葉を話す理由第1章 21 ❶ 女はしゃべることによって︑感情を伝える︒情報を伝えていなくても︑感情の状態を伝えようとしている場合もある︒ これは︑いわば﹁ご参考までに﹂と題したメモのようなものだ︒それについてなにかしてもらいたいと思っているわけではないし︑裏のメッセージもない︒相手に変化を求めているわけでも︑ 相手を非難しているわけでもない︒単に自分の感情を伝えようとしているだけだ︒不満や怒りの感情を伝え︑それをわかちあうのは︑女性が支え合うための強力な手段なのだ︒ たとえば︑女性が﹁さんざんな一日だったわ﹂と言ったとする︒ それに対して︑別の女性が﹁そうね︒ほんとに長い一日だったわね﹂と答えたとする︒ この返答には︑実にいろいろな意味が込められている︒ １﹁あなたのことが心配︒あなたのことはとても大切だと思っているから︑力になりたい︒誰かが共感してくれると気持ちが楽になるものね︒だから︑あなたの気持ちを理解するようにしてみるわ﹂２﹁わかるわ︒あなたと同じ経験をしたことはないかもしれないけれど︑同じような思いをしたことはある︒どんな気持ちかよくわかるわ﹂ 22 Mars and Venus in the Workplace ３﹁偉い︒今日︑あなたはとても一生懸命仕事をした︒やれるだけのことはやったわ︒ストレスを感じるのも無理ないわ﹂このやり取りで伝えられているのは︑感情だけ︒それ以外のものは伝達されていない︒二人の女性はこの会話を通じて︑気遣いと理解︑相手を評価する気持ちを確認しあう︒親しいムードと信頼感が高まり︑ストレスはぐっと和らぐ︒こうして言葉を交わすことにより︑ この一日がちょっとは﹁さんざん﹂でなく思えてくる︒ 女性の信頼を得るための秘訣は︑相手を気づかい︑理解し︑評価していると︑あらゆる機会をとらえて表現することだ︒このメッセージを受け取ると︑女性はあなたを信頼し︑リラックスする︒職場が男より女にとってつらい場所になりがちなのは︑気づかわれたり︑尊敬されたり︑理解されたりしていないと感じてしまうからだ︒ では︑女が﹁さんざんな一日だったわ﹂と言ったとき︑男はどういう反応を示すだろう︒ たとえば︑こんなふうに答えるかもしれない︒ ﹁それほど︑さんざんでもなかっただろ？﹂﹁俺のほうがもっとひどかったよ﹂﹁それほど忙しくなかったよ﹂﹁なんとかできるはずだよ﹂⁝⁝︒ 男が言葉を話す理由女が言葉を話す理由第1章 23 女性に共感を示すのではなく︑前向きなコメントをしてポジティブな気持ちになってもらおうとしてしまう︒ しかし︑これは女性が求めていることではない︒これでは︑女性はポジティブな気持ちになれない︒ 感情をわかちあおうとするとき︑女は安心を求めている︒かならずしも同意してもらわなくてもいいし︑言葉を額面どおり受け取ってもらわなくてもいい︒けれど︑情緒的に支えてほしいと思っている︒男はこういうとき︑相手の気持ちに共感していると伝えられればいい︒ ﹁さんざんな一日だったわ﹂と言う場合︑女性はこんな答えを望んでいるのかもしれない︒ １﹁そうだよね︒問題が次から次へと出てきたもんね﹂２﹁もうちょっとの我慢だよ︒明日は土曜日だよ﹂３﹁仕事が多すぎるんだよね﹂４﹁これじゃあ︑深呼吸する時間もないよね﹂このように情緒的に支えることは︑男の行動パターンとは正反対だ︒男は問題を極力小さくすることによってストレスを和らげようとするのに対し︑女は問題をため込み︑そのうえで問題を他人とわかちあうことによりストレスを和らげようとする︒ 24 Mars and Venus in the Workplace