北欧のイノベーション政策およびイノベーションシステムに関する研究課題・対象をし ぼるため,フィンランドにおける次の2つの政策分野に関する予備調査を行った.第 1 に demand- and user-driven innovation policy であり,第 2 に workplace development program である. 具体的な訪問先は,政府関連機関(Tekes, Sitra),研究機関(TTL),経済雇用省(TEM),複 数の NPO,および大学(University of Turku)である.ここで,イノベーション政策の実務 担当者および研究者に対する聞き取り調査を行った.いくつかの機関には複数回訪問した. 得られた知見のうち重要だと思われる点は以下の通りである. (1) フィンランドは少なくとも,EU が重視するイノベーション政策の分野で,EU を先導 することを戦略としている.EU へのロビイングを通じて所望の政策を実現させると同時に, 自国内で「EU 初」の実験的政策を実施し,いわば EU の実験室としての役割を意図的に演 じている.こうした姿勢は他のスカンジナビア諸国でははなはだ弱いとされる. (2) こうした政策を実施する上で,政労使と非政府・非営利組織の協議が重要だと認識され ている. とりわけ重要な役割を演じるのが, 政府系のイノベーション・ファンドである Tekes と Sitra である.後者はよりビジネス寄りで,独立度も高い.省庁本体は人材の流動性は低 いが,雇用経済省の傘下機関であるこれらファンドは,魅力ある職場として,民間企業経 験者を多数引きつけている. (3) demand- and user-driven innovation policy は,EU や OECD で今後重視される政策で あるが,その一例は公共調達である.公共調達がイノベーションを促した例は従来からあ ったが,それをあえて政策として体系的に行う点に新しさがある.フィンランドはこの分 野でも EU を先導しているが, 政策実施時にキーパーソンとして重要な役割を演じるのが, 利害関係者のディスカッションをリードする Tekes の職員である.彼らは技術知識,ビジ ネス知識とマーケットの知識を併せ持ったインテグレーター人材と位置づけうる.公共調 達で先導的イノベーションの成果が出始めている. (4) workplace development program は,他のスカンジナビア諸国に比して伝統は浅いもの の,現在の取り組みはもっとも盛んである.組織イノベーションを行いたい企業と Tekes が資金を折半し,研究者・コンサルタントの参画を得ながら,チームワークと生産性・創 造性・職務満足を両立させる職場組織を目指すというものである.コンサルテーションを 与えながら自己学習を促すというのが実態で,10 年間の間で成果が出ている.労働組合は 協力的である. 以上
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