第 1 回 ぼけと認知症の違い

第
ぼけ
1
回
ぼけと認知症の違い
色が薄くなること、淡くなること
文学的な言葉です。
加齢による老年期の精神変化とも考えられる
ものわすれ
症状の一つ脳の機能の加齢による変化、興味対象外のこと
認知症
「Dementia」を和訳したもの:病名以前は「痴呆」としていた
が、差別感があるため、変更されている
第
2
回
認知症の概念
1)いったん獲得された知能の障害であり、このために日常生活に支障を来した状態。
2)脳の器質的病変を原因とする
知能:周囲に起こる状況に対して、自発的・能動的に、認知し、過去の経験や知識と照らし合わせ
ながら、正しい解決や対応をする能力のこと。
:環境への適応能力とも言える。
器質的病変:脳疾患(腫瘍、変性、血管障害など)、脳外傷、アルコール・薬物など、基礎に大脳機
能不全を来す明らかな原因を持つ病変のこと。
:1次性::脳を直接侵している
:2次性::多数の臓器や器官系統のただ一部として脳が侵されている
第
3
回
記憶とは
保持の時間:短期記憶(反復をしないと20~30秒で忘却されてしまうような)
長期記憶(それ以上長く保持される)
近時記憶(時間、日の単位)
遠隔記憶(より長く持続)
記憶の大切さ:言語、認知、行為などの高次機能が記憶に基づいている
記憶の回路:Papez(パペッツ)回路
Yakovlev(ヤコブレフ)回路
第
4
回
記憶障害とは
1、
長期記憶の中では近時記憶が低下しやすい。(遠隔記憶より)
2、
再生障害が目立つことが多い
3、
陳述記憶の低下はあるが軽度であり一部である
4、
手続き記憶は失われない。
生理的記憶障害
病的記憶障害
陳述記憶の一部の想起障害で軽度
記憶全体が著明に低下する
時・場所・人物の見当識が保たれる
見当識が障害される
学習能力は保たれる
学習能力が著しく障害される
記憶の低下を自覚している
記憶の低下を自覚しない
きわめて徐々にしか進行しない
進行が速い
第
5
回
認知症の診断基準
米国精神医学会の診断マニュアル(DSM-Ⅳ)
・意識障害を伴わず生じる認知障害の様々な障害によって特徴づけられる症候群
・障害される認知機能は、一般的知能、学習と記憶、言語、問題解決能力、見当識、知
覚、注意と集中、判断、社会的能力が含まれる。
・人格も障害される。
WHOの診断ガイドライン(ICD-10)
・痴呆は脳疾患による症候群であり、通常は慢性あるいは進行性で、記憶、思考、見当
識、理解、計算、学習能力、言語、判断を含む多数の高次皮質機能障害を示す。
・意識の混濁はない。
・認知障害は、通常、情動の統制、社会行動あるいは動悸付けの低下を伴うが、場合に
よってはそれらが先行することもある。
・この症候群はアルツハイマー病、脳血管性疾患、そして、一次性あるいは二次性に脳を
障害する他の病態で出現する。
・痴呆では知的機能の明らかな低下が見られるが、通常、たとえば洗面、着衣、接触、個
人衛生、排泄、トイレ使用といった日常生活の個人的活動にも何らかの問題が起こる。
・その低下の表現形態は、患者が生活している社会と文化的状況に強く関連している
第
6
回
認知症の気づき
認知症の初期症状として、もの忘れがありますが、本人が自覚する前に、
家族などの周囲の人が気づく症状があります。
(当院のメモリー外来で、家族アンケートとして使用している項目)
1)同じことを何度も言ったり、聞いたりする。
2)物の名前が出てこなくなった。
3)置き忘れやしまい忘れが目立つようになった。
4)計算の間違いが多くなった。
5)複雑なテレビドラマが理解できなくなった。
6)目を離すと家を出て行く。(外を徘徊する)
7)車などの危険を避けられない。最近、事故が多くなった。
8)人物や場所などの見当はずれ。(自宅にいるのに「家に帰る」と言う。)
9)慣れているところで道に迷うようになった。
10)「ものを盗まれた」「毒を盛られた」など事実でない考えを訴える。
11)ぶつぶつ独り言を言う。
12)水道蛇口の閉め忘れ、火の不始末が多い。
13)ごそごそと動き回ったり、興奮して攻撃的になる。
14)大声で叫んだり、暴力をふるう。
15)衣服・シーツなどを破る
16)何度も食事を要求する。
17)食事量が極端に減った。
18)トイレに行く途中で失禁することがある。
19)トイレ以外の場所で排泄してしまう。
20)夜、眠れない。
21)昼間寝てばかりいる。
22)夕方からソワソワする。
23)思い悩んでゆううつそうにしている。
24)気分が変わりやすい。
25)以前はあった関心や興味が失われ、家の中にいることが多くなった。
26)日課をしなくなった。
27)自己中心的な訴えが多い。
28)だらしなくなった。
29)些細なことで怒りっぽくなった。
30)性格が変わった。
第
7
回
認知症の中核症状
認知症の中心となる症状です。脳機能そのものの障害によって認められる症状です。
1,記銘力障害(記憶障害、もの忘れ)
見当識障害(時間、場所、人物がわからない)
短期記銘力障害 (より最近のことがわからない)
2,高次機能障害
失語:言葉がよくわからない、うまく出ない
失読:文字が読めない
失書:字が書けない
失算:計算ができない
失行:動作ができなくなる(道具を使えない、服を着られない、料理ができない)
失認:見えるものを理解できない(指がわからない、左右がわからない、
顔がわからない、ものの形がわからない)
3,人格変化
元々の性格の先鋭化
個性や持ち味の消失
その人なりの気配りや心遣いの消失
記銘力障害
高次機能障害
人格変化
第
8
回
認知症の周辺症状
認知症の中核症状によって引き起こされる心理症状、精神症状、行動症状のこと
中核症状に対して、周辺症状、随伴症状、問題行動といわれている
内容
徘徊・迷子
幻覚・妄想
抑うつ気分・意欲低下
不安、焦り
不眠・昼夜逆転
夜間せん妄
興奮、不穏、攻撃
暴言・暴力
抵抗・拒否
性的逸脱行為
尿便失禁・不潔行為
食行動の異常(過食、異食など)
1996年に国際老年精神医学会にて、これらの症状を
認知症の行動心理学的症候(BPSD:Behavioral and Psycological Symptoms of Dementia)
という用語に命名した。
「行動障害と精神症状 」「行動障害と心理症状」「行動心理学的徴候」などと訳される。
第
脳血管障害
退行変性疾患
9
回
認知症の原因
脳出血 脳梗塞
アルツハイマー病 ピック病 パーキンソン病 汎発性レビー小体病
甲状腺機能低下症 下垂体機機能低下症
内分泌・代謝性・中毒性疾患
ビ タ ミ ン B1 2 欠 乏 症 ベ ラ グ ラ ミ ト コ ン ド リ ア 脳 筋 症
肝性脳症 透析脳症 低酸素症 低血糖 アルコール脳症 毒物中毒
感染症疾患
クロイツフェルト・ヤコブ病 進行性多巣性白質脳症
脳炎・髄膜炎 脳寄生虫 進行麻痺(神経性梅毒) HIV
腫瘍性疾患
脳腫瘍
外傷性疾患
慢性硬膜下血腫 頭部外傷 パンチドランク症候群
その他
正常圧水頭症 多発性硬化症
神経ベーチェット病 サルコイドーシス シエーグレン症候群
第
10
回
認知症の原因割合
その他の認知症
アルツハイマー型認知症
18.75%
18.75%
脳血管性認知症
18.75%
アルツハイマー型認知症+脳血管障害
43.75%
第
11
回
認知症の予防可能な原因
感 染 症 ( 梅 毒 、 H I V、 脳 炎 な ど )
脳 腫瘍
外傷(慢性硬膜下血腫)
中毒性(薬物、アルコール、有害物質など)
代謝性(糖代謝、内分泌、電解 質など)
高齢者特有の心理規制:喪失感、絶望感、死への恐怖
うつ病
せん妄
第
12
回
認知症とせん妄状態の鑑別
認知症
発症様式
ゆっくり
せん妄
急激に(日の単位)
夜間や夕方を中心に
日内変動
変化に乏しい
夜間や夕方に悪化
良かったり悪かったり
初発症状
もの忘れ
特徴的な症状なし
幻覚、妄想、興奮など多彩
持続
永続的
数 時 間 ?数 週 間 続 く
自然に良くなることもある
気分
大きく徐々に変化
急激に変化、不安定に動揺する
知的能力
持続的に低下
一時的な低下
会話
言語理解は困難
会話はまとまりがない
身体疾患の合併
時にあり
あることが多い
薬物の関与
まれにあり
しばしばあり
第
13
回
認知症とうつの鑑別
認知症
うつ
発症
緩徐
緩徐な事が多い
日内変動
変化に乏しい
変化に乏しい
初発症状
記銘力低下
抑うつ症状、心気的症状
持続
永続的
数週間?数ヶ月
気分
変化あり
一貫して抑うつ
知的能力
持続的に低下
訴えるほどの低下はない
言語理解や会話は困難
言語理解や会話は困難で
身体疾患
時にあり
時にあり
薬物の関与
まれにあり
時にあり
環境の関与
基本的に関与しない
時にあり
脳波
徐波化
著しい異常を認めない
第
特徴
14
回
アルツハイマー型認知症①
{疫学と原因}
晩発性(66歳以上)と早発性(65歳以下)の2つの発症タイプがある
進行性の退行変性疾患(脳の細胞が死滅していく)
認知症の最も一般的な原因
疫学
認知症全体の50〜60%を占める
65歳以上の5% 85歳以上の15〜20%が罹患
女性の方が多い
原因はまだ完全には解明されず
遺伝子異常
染色体異常(家族性アルツハイマー病)
原因
外傷(頭部外傷)
加齢
性格(まじめな人 など)
環境(閉塞的、孤独 など)
性格
性格
要素
要素
痴呆
脳病変
病因
身体因子
環境因子
身体因子
心理因子
精神因子
環境因子
社会因子
第
15
遺伝子異常の研究が進んでいる
回
アルツハイマー型認知症②
{遺伝子研究}
・βアミロイド前駆蛋白遺伝子(21番染色体)
・プレセニリン1遺伝子(14番染色体)
・プレセニリン2遺伝子(1番染色体)
・アポリポ蛋白E遺伝子(19番染色体)
老人斑:大脳皮質、海馬に認める米粒大の斑点
アミロイドβ蛋白が沈着したもの
分解されずに、神経細胞を刺激する
神経原線維変化:神経細胞の骨格を支えたり、細胞内の物質移動に関連している
神経線維が変化してしまう
神経細胞そのものが崩れてしまう
第16回
アルツハイマー病の症状の特徴
女性に多い
ゆっくりと
なだらかに進行する
全体的に機能の低下が起こる
初期の症状:記憶障害、視空間失認、失語
もの忘れの自覚は少ない
精神症状:うつ、不安が多い
落ち着きがない
感情表出は乏しい
社会的な意識は保持される
人格が変化することがある
第17回
アルツハイマー病の経過
アルツハイマー病の症状は、目立たないかたちではじまり、徐々に様々な症状が現れ、はっきりとし
た知的能力の低下、生活能力の低下として現れ、さらに進行していきます。
一般的に
臨床経過は、3期に分けられます。
第 1 期
記銘力低下・学習障害
失見当識
感情の動揺
同じことを何度も聞く、新しいことが覚えられない
日付がわからない
気分が沈む、怒りっぽい
愛想はよい
第 2 期
記憶、記銘力の著明な障害
視空間失認や地誌的見当識障害
失行
名前が出てこない、会話が成立しない
迷子、徘徊
できていたことができない、服が着られない
失語
夜間せん妄
精神的不安定
不眠、興奮、混乱
幻視(見えないものが見える)、妄想
周囲に無頓着
第 3 期
運動障害
無欲、無動
寝たきり
歩行障害、四肢固縮、屈曲姿勢
第18回
診断の流れ
意識障害がない
意識レベルが清明である
せん妄がない
記憶障害がある
時間・場所・人の見当識
短期の記銘力
認知症機能障害がある
失語、失行、失認
検査:HDS-R 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(20点以下、合計30点)
MMSE Mini-Mental State Examination(20点以下、合計30点)
中枢神経疾患でない
脳血管障害、悪性腫瘍、水頭症、脳炎ではない
検査:CT
MRI
髄液検査
脳波検査
全身性の疾患がない
代謝性疾患、内分泌疾患、脱水ではない
検査:血液検査(肝腎機能、血糖、貧血、甲状腺ホルモン)
胸部レントゲン検査
心電図
薬物によらない
アルコールが原因ではない
その他の精神疾患がない
うつ病、統合失調症ではない
アルツハイマー型認知症
第19回
アルツハイマー病の治療
治療の標的となる症状は、多種多様で、お互いに関連、影響しあっている。
そのため、認知症で起こりえるすべての症状が、標的症状とも言える。
しかし、精神科的治療は、中核症状と周辺症状に区別し、
それぞれに対し、薬物療法と非薬物療法を行うことが一般的である。
1)薬物療法
1:主に、中核症状に対して
ドネペジル(商品名:アリセプト):アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
アルツハイマー病は、神経伝達物質であるアセチルコリンが減少する結果、
記憶が障害されるという「アセチルコリン仮説」に基づき、アセチルコリンを
分解する酵素を阻害する働きを示す薬剤
2:周辺症状に対して
神経遮断薬:定型:チアプリド、スルピリド
非定型:リスペリドン、クエチアピン
抗けいれん薬:バルプロ酸、カルバマゼピン
抗うつ剤:トラゾドン
SSRI:パロキセチン、フルボキサミン
抗不安薬:ベンゾジアゼピン系
2)非薬物療法
中核症状、周辺症状に対して
認知機能面:リアリティ・オリエンテーション、学習療法
行動面:環境調節、行動療法
感情面:回想法、レクレーション療法、芸術療法、音楽療法
刺激を与える:ペット療法
第20回
血管性認知症とは
脳の血管が、詰まったり(梗塞)、破れたり(出血)することによって、血流量、代謝量が低下し、
その血管で養われていた範囲の脳細胞の障害が起こります。
その部位によって、様々な障害が認められます。
タイプとして分けられるのが
①
広範虚血型(大脳皮質の慢性虚血(ビンスワンガー病))
②
多発梗塞型
③
限局性脳梗塞型(視床、前脳基底部などの重要な機能を持つ部分の限局性障害)
うっ血や浮腫
壊死した脳組織
第21回
血管性認知症の症状の特徴
症状の特徴
急激に発症
階段状に悪化
動揺しやすい症状
症状の内容
うつ状態
感情不安定:感情失禁
自発性の減退
近時記憶は比較的保たれる
まだら(記憶障害が高度になっても、判断力や・理解力が保たれ
ていたり、技能などが保たれていることがある)
疎通性や対人関係がスムーズ
病識が保たれる(もの忘れの自覚がある)
第22回
血管性認知症の診断
危険因子
ハチンスキー虚血スコア
項
目
当て はまれば 得点
急激な発症
2
段階的な悪化
1
動揺性の経過
2
夜間せん妄
1
人格の比較的保持
1
抑うつ
1
身体的訴え
1
感情失禁
1
高血圧の既往
1
脳血管障害の既往
2
動脈硬化症合併の証拠
1
局所神経症状
2
局所神経学的徴候
2
7点以上:血管性認知症
4点以下:変性性認知症(アルツハイマー病)
診断
1)多彩な認知障害の出現(記憶障害、失行、失認、失語など)
2)生活に支障を来している
3)局在性神経所見(腱反射の亢進、病的反射、仮性球麻痺、
歩行障害、筋力低下など)
画像診断
CT・MRI:血管病変の確認(脳出血、脳梗塞)
SPECT:血流障害の確認(主に前頭葉)
アルツハイマー病の場合は、頭頂葉の血流低下
第23回
血管性認知症の治療
中心の症状に対して
1)薬物療法:塩酸ドネペジル(アリセプト)の効果は不明だが、奏功する可能性はある
2)リハビリテーション:脳血管障害後の ADL 低下、寝たきりにより、認知症の症状を進行さ
せてしまうため、早期からのリハビリテーションが必要
周辺症状に対して
1)うつ状態に対して:抗うつ剤(SSRI)の使用。
2)妄想状態、せん妄に対して:向精神薬(リスペリドン、ハロペリドール、チアプリドなど)
尿失禁や歩行障害、えん下障害、パーキンソン症状など様々な後遺症に対する治療も同時に
行っていく必要がある
第24回
アルツハイマー病と血管性認知症の臨床的比較
アルツハイマー病
血管性認知症
もの忘れの自覚 ないことが多い
初期にはある
発
急に
症 時期がはっきりしない
症 状 の 進 行 ゆっくり
単調に
動揺する
良くなったり悪くなったり
症 状 の 特 徴 全体的に低下
特徴的な症状
落ち着きがない
部分的に低下
泣いたり怒ったり
神経症状の有無 初期には少ない
麻痺、しびれなどの症状あり
基
患 あまり関係ない
高血圧、糖尿病が多い
格 変わることが多い
ある程度保たれる
人
礎
疾
第25回
レビー小体型認知症
原因不明で、レビー小体という異常構造物が蓄積する病気中脳に蓄
病
態
積したもの:パーキンソン病
大脳皮質にも蓄積したもの:レビー小体型認知症
特
徴
男性に多い(女性の2倍)
短期記銘力障害
幻視(虫が這っている、子供が遊んでいる)
症
状
気分や態度の変動が大きい
パーキンソン病様歩行障害:転びやすい
自律神経障害:便秘、尿失禁、起立性低血圧
治
療
根本治療はない
向精神薬に敏感:パーキンソン病様症状の悪化
経
過
運動障害により、寝たきりになる。
第26回
前頭側頭型認知症
大脳の前頭葉と側頭葉が萎縮する認知症
代表的なものが、ピック病
原因は不明
65歳以下の発症(40~60歳)
性差はない
病
理
ピック細胞(細胞質色素融解により肥大した神経細胞)
初期では、記憶障害が目立たない
身だしなみの乱れ、抑制がない、ふざける、落ち着きがない
我慢できない
症
状
計画通り物事を進められない
反社会的行為(万引き、窃盗、浪費など)
周回(同じ道を歩き続ける、迷わない)
常同行為(同じ動作をする、同じことを言う)
感情鈍麻
治
療
有効な治療方法なし
経
過
2~15年(平均6年)の生命予後(寝たきりとなる)
第27回
1)治
認知症の治療とケア(総論)
療
・薬物療法:中核症状に対する薬物:塩酸ドネペジル(アリセプト)
:周辺症状に対する薬物:向精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤、
抗てんかん薬、脳代謝改善薬、漢方薬
・非薬物療法:認知機能リハビリテーション、精神科作業療法、心理療法、回想法、
現実見当識強化訓練、レクレーション療法、芸術療法
2)看
護
・身体機能維持活動:身体合併症治療
・行動的介入:行動障害の状況確認と早期の介入
3)介
護
・セルフケア能力の維持
共
通
・日常生活機能維持:食事、排泄、入浴など
・メンタルケア
①残された機能を生かす
②なるべく一緒に過ごす
③その人らしく
④その人の「今」を大切に
第28回
メンタルケア①
「認知症高齢者の体験を理解(推測)する」ことが、大切。
作話、徘徊、閉じこもり、怒り
1)
自分の世界と周りの世界が、ずれていく
「自分の思う
2)
などの症状を起こす原因となっている。
時間や場所や事柄が違う」
周りの世界を、把握できない
「ぶつぶつ切れる、世界がぐらぐらする」
3)
自分自身が崩れる
「自分がつかめず、消えていく」
4)
周りの世界が、自分を脅かす
「声、音、光、陰、広さ、速さ
5)
などが、怖い」
自分の体が、自分を脅かす
「かゆみ、痛み、尿・便がたまった感覚、空腹、口渇などの感覚が、不快」
6)
過去の出来事や人が、今ここに存在する
「つなぎ合わせて、自分の世界を保つ」
第29回
認知症患者の体験
記憶の障害や理解・判断の障害、反応の障害によって様々な体験をしている。
その体験によって、症状が出現し、さらに、混乱や怒りを体験している。
・周りの世界と自分の世界がずれていく
(時間や場所や事柄が違う)
・周りの世界が把握できない
(すり抜けていく、ぶつぶつ切れる世界)
・自分自身が崩れる
(自信を失う、プライドがずたずた、喪失感を感じる)
・周りの世界が自分を脅かす
(音・光・広さ・影・スピードが襲いかかる、驚異と感じる)
・自分の体が自分を脅かす
(かゆみ、のどの渇き、便のたまった感じなどが襲いかかる、不快に対して判断・対
応ができない)
第30回
メンタルケア②
言葉のかけ方
認知症が進行すると、言語能力の低下によるコミュニケーション障害が生じてくる。
十分なコミュニケーションをはかることが、心の安心感につながる。
ポ
イ
ン
ト
1) 話を聞く態度を示す
テレビやラジオのスイッチを切り、目を見て、握手をする距離で。
2) 話し始めは相手の名前を呼ぶ
3) 心休まる口調で、静かに話す。
4) 短く
はっきり
簡単な言葉で。
流行語、幼児語は避ける
5) 答えを待つ
簡単に繰り返す。
言いたそうな言葉を言ってあげる
6) 自尊心を傷つけない
7) 言葉以外の方法も利用する
表情、身振り手振りなど。
第31回
行動障害の対応
繰り返しの質問
認知症のもの忘れは、つい先ほどの出来事を忘れてしまうのが特徴(短期記銘力障害)
出来事が記憶から脱落するのを不安に思い、何度も質問して確認する行動が出る。
例えば、
「実家に返してください」
「夫が迎えに来ています」
「お金をおろしにいかなくては」
などの繰り返す訴え。
対策としては
1)どんな不安、恐怖を持っているのかを探る
「説得するように論ずる」
「真っ向から否定し対決する」
「完全に無視をする」は、かえって症状を悪化させる可能性がある
2)情緒的側面に働きかけるような声をかける
「それは心配ですね」
「そうだとしたら大変ね」
3)気を紛らわせたり、そらせるような話題を振る
「そういえば、今日の晩ご飯なんでしょう」
「この花はとてもきれいですね」
4)より適切な行動に対しては、十分評価してあげる
「心配だけど、今日一晩待ってみるのはいいことですね」
第32回
行動障害の対応
物盗られ妄想
物盗られ妄想:認知症による記銘力障害によって起こる妄想
:「置いておいた物が無くなった」「仕舞っておいた物が無くなった」
ということから妄想に発展する
1)否定、訂正はしない
「私は盗んでない」「違うところにおいてあるのではないか」という反応をしない
2)肯定もしない
「私が盗みました」と妄想を強化しないようにする
3)物が無くなった思いに添ってあげる対応をする
「一緒に探しましょう」「無くなると大変」などの声をかける
4)一人の介護者に向かないようにする
複数の人が、関わるようにする(金銭などの大切な物は、2~3人で対応する)
5)置き場所や仕舞い場所のパターンを知る
財布を隠す場所、広告に包む方法などの本人のやり方を知っておく
6)場所を決めて、目立つようにする(色やかたちの工夫、文字で示す)
「財布」「保険証」などの記憶のヒントとなるものを作る
第33回
行動障害の対応
興奮
理由のない興奮は、基本的にはありません。
しかし、まずはじめに
1)危険なものを遠ざける:はさみ、コップ、鉛筆など
2)落ち着いて対応するように心がける:一つ深呼吸して、穏やかな声で、ゆっくり
3)本人の訴えを聞く態度で接する:同じ目線で、握手をする距離で
つぎに、原因を取り除く
1)身体的不調か?:空腹、口渇、尿意・便意など
2)不安からか?:安心させる声かけ「大丈夫」「安心して」「それは不安だね」など
3)環境からか?:まぶしい、うるさい、暗い、速い
などの変化
原因がよくわからない場合
1)気分転換を図る:話題を変える、場面を変える、対応者を変える
2)良い刺激に変える:いい匂い、いい音、いい手触りなど
3)危険のない限り見守る:刺激を最小限にする
第34回
行動障害の時の対応
徘徊
徘徊とは、周りから見ると無目的にただ歩き回っていると見られます。
1)徘徊の仕方を知る
いつ頃
どのあたりを
どんなふうに
2)なにがきっかけかを探る
場所が変わったとき
お腹がすいたとき
夜だけ
3)一緒にいる
昔話や世間話をしながら一緒に歩く
「もう疲れましたね」とはなし、帰るように促す
4)気をそらす
「食事の用意を手伝ってくれませんか」
5)目印を付ける
トイレの位置、部屋の位置など
6)無理にやめさせる、怒るのは逆効果
7)危険な場所を知る
道路、線路、川など
8)近所の人に知らせてもらうようにする
子供たちと合った後
第35回
異食症(ピカ)とは
通常は食べ物と見なさない物質(粘土、ごみなど)を摂取する欲動のこと。
元々は、妊婦が示す食欲の異常を示していた。
【対策】
1)原因の検索
異食者の病態(認知症)
異食者の心理(ストレスは?視覚優位?理解・判断力は?)
異食者の身体状況(貧血、栄養障害、原因疾患の有無)
異食対象物は何か?(よく似たもの)
食欲の対象物となっているのか?(食べたいと思ったのか?)
2)対象物の除去
見えないようにする
見えても手の届かないようにする
3)対象物の工夫(食べることを前提とした工夫)
食べてもよいものに変える
食べたのがわかる工夫
4)食べさせる(通常食物を食べさせる)
満腹感の持続
ストレスの軽減(口寂しい)
口唇期の満足→指しゃぶりなど
第36回
行動障害の対応
排泄障害
1)記銘力障害によるもの
トイレの位置がわからない
など
2)失認によるもの
尿意がわからない(膀胱にたまった感覚を理解できない)
など
3)失行によるもの
排泄行為がうまくできない(ズボンをおろせない)
など
【ポイント】
①
原因を探る
②
不快な思いをさせない声かけ(叱らない)
③
できないところだけを手伝い、失敗を感じさせない介助
【具体的対応】
1)トイレの工夫
トイレの位置がわかりやすいように表示する
手すりを付けて、安心感を出す
見えやすい、わかりやすい色や形の工夫
廊下や玄関には、トイレではないことを表示する(放尿対策)
2)誘い方の工夫
トイレのパターンを知る
言葉の工夫「トイレ」→「お便所」「かわや」
「行きませんか?」→「一緒に付いてきてくれませんか?」
何かのついでに誘う
3)間違った行動を修正してあげる工夫
便器の水で手を洗う→こちらの水の方が、気持ちいいですよ
おむつを流してしまう→かごやバケツを用意して、表記する
十分な積極的な介助が必要な場合
①尿・便意が全くわからない場合(尿・便失禁状態)
→時間的な排泄誘導、おむつの使用
②排泄物が、何なのか理解できない(弄便、異食、不潔行為)
→排泄後の処理の介助
第37回
行動障害の対応
幻覚
「幻覚」の中でも、幻視が最も多い。
実際には対象が存在しないのに、本物と区別することができない体験をすることである。
その為、本人の体験としては、幻覚か本物かわからない状態。
対応の姿勢:その幻覚の訴えに対して、肯定もせず、否定もせず。
「そうだね、見えるね」「見えるわけ無いでしょ」などの対応をしない。
:その奥にある感情に焦点を当てる答え方をする。
「見えると怖いね」「寂しいから、その人が見えたのかしら」など。
対応の工夫:視覚機能の低下に対して
→照明の最適化:明暗のコントラストを少なくする
→誤認を防ぐ:ポスター、壁の模様などを変更する
:聴覚機能の低下に対して
→音響の最適化:不必要な音の軽減(エアコン、換気扇など)
第38回
行動障害の対応
抑うつ状態
認知症の周辺症状としての抑うつ状態は、高頻度
40~50%で認められる
心理的要因が大きく関与している
・物忘れを自覚
・物忘れが自覚できずに、周囲から否定・訂正される
・状況判断ができずに、不安に思う
【対応】
1)不安な気持ちを察する
「私が側にいますから」「相談してくださいね」
2)感情面に響く内容の言葉をかける
「それは不安ですね」「困りましたね」
3)無責任な励ましは、厳禁
「そんな事言わずにがんばりなさい」
4)楽しい、安心できる話題を提供する
昔話や本人の得意な話
5)行動を促す(気分転換)
お茶を飲みに行く、散歩するなど。
旅行などの複雑な行動は避ける
本人の決めさせるのは、厳禁
第39回
行動障害の対応
性的逸脱行為
高齢者の性意識をある程度理解する
過度な反応をしない
【対応】
1)聞こえないふり、見ていないふり
をする
反応が大きいと、よりエスカレートする
2)批判、注意をしない
「だめ」「やめなさい」「そんなことをして」ではなく、
「そうすると私が困ります」程度の訂正や修正をする
感情を出さず、冷静に対応する
3)見える、聞こえる刺激を避ける環境づくり
テレビ、雑誌などによる刺激をしない
4)気を紛らわせる
本人の落ち着く場所へ誘導する
他の事を提供し、集中できるようにする
他に楽しい事、なじみがあって得意な事に導く
第40回
行動障害の対応
睡眠障害
高齢者の睡眠変化
深い眠りが減り、全体的に浅い眠りが増える。
→睡眠の質の変化
中途覚醒、早朝覚醒が増える。
認知症の場合も、脳機能の障害により睡眠障害が現れやすい
【対応】
1)時間がわかりやすいようにする
2)日中の活動を考える(日光に当たる)
3)睡眠前のパターンを作る(ゆっくりとくつろいだ雰囲気を作る)
4)刺激物(カフェインなど)、テレビ・ラジオの刺激を避ける
5)睡眠を邪魔するものを探る(かゆみ、痛みなど)