ゲル法による結晶作成 津高等学校 SSC 化学部会 1 3年 大森千輝 目次 実験概要 ·································3 ページ 実験内容 1. 基本実験 ····································3 ページ 2. 溶液の pH が結晶に及ぼす影響 3. 不純物が結晶に及ぼす影響 4. 結晶の再成長法 ·················4~6 ページ ······························7 ページ 5. その他の結晶の作成 6. まとめ ·················4 ページ ··························7 ページ ······································8 ページ 7. 今後の展望 ··································8 ページ 2 実験概要 結晶作成の方法の一つにゲル法という方法がある。ゲル法とはゲルを媒体としてゲル中で結晶の生 成反応を起こし、結晶を作成する方法である。この実験では主に酒石酸カルシウム4水和物(CaC₄O ₆H₄・4H₂O)の結晶をゲル法で作成し、ゲル法による結晶作成の有効性について調べた。 ゲル法の利点 ・反応がゆるやかに進行するので、溶液中での反応では沈澱してしまう成分を結晶化できる。 ・実験時の条件を容易に変えられる。 ・ゆっくり結晶ができるので、結晶が非常にきれいな形状で生成する。 主な使用溶液 ・酒石酸溶液:1.0mol/L ・メタケイ酸ナトリウム溶液:メタケイ酸ナトリウム 244gを純水 1.0L に溶かした溶液。 ・塩化カルシウム溶液:1.0mol/L ・酢酸溶液:1.0mol/L 実験内容 1.基本実験 酒石酸溶液にメタケイ酸ナトリウム溶液を加えて静置する。温度が高いほどゲル化時間が短くなる が、35℃以上では気泡がゲル中に生じたので恒温機内で温度を 30℃に保持して静置した。ゲル化後、 ゲル上部に塩化カルシウム溶液を注ぐと塩化カルシウム溶液中のカルシウムイオンがゲル中に拡散 し、難水溶性の酒石酸カルシウム 4 水和物の結晶がゲル中に生成する。ゲル上部では細かい結晶が多 数でき、ゲルの下部ではきれいな形状の結晶が数個生成する。これはゲル上部には反応物が十分にあ るため結晶核が多数生成し、ゲルの下部では反応物が少ないため、結晶核があまり生成しないからと 考えられる。この実験でケイ酸ゲルを用いたのは、寒天ゲルなど他のゲルに比べ、ゲルの構造が緻密 なので反応がゆるやかに進行し、結晶が形状の整った状態で生成しやすいからである。 酒石酸カルシウム 4 水和物結晶 結晶成長の様子 3 2.溶液の pH が結晶に及ぼす影響 溶液の pH が結晶の生成に与える影響を調べた。ケイ酸ナトリウムと酒石酸の液量を一定にし、酢 酸溶液を加えることで溶液の pH を変化させた。実験の結果、ケイ酸のゲル化時間はグラフのように pH8 付近で最も短くなるが、溶液の pH が低いほどゲルの生成反応がゆるやかになり、ゲル構造が緻 密になるので、結晶数が少なくなり、きれいな形状の結晶ができやすいことがわかった。また、pH3 以下では酒石酸カルシウム 4 水和物の結晶が生成しなかった。以降の実験では溶液の pH は誤差を考 慮し溶液の pH を 3.5 にして実験した。 メタケイ酸ナトリウム溶液の pH 値とゲル化時間の関係 3.不純物が結晶に及ぼす影響 この実験ではゲル化前の溶液に不純物を加えてゲル化させ、結晶を作成した。不純物は 0.1mol/L、 0.05mol/L の溶液を 2.0mL 加えて実験した。不純物を入れて実験を行った結果、不純物を加えると 結晶核数が増え、きれいな形状の結晶が少なくなった。また、酒石酸カルシウム 4 水和物の結晶の場 合、鉄(Ⅲ)イオン、クロム(Ⅲ)イオン、ニッケル(Ⅱ)イオン、コバルト(Ⅱ)イオンを加えると結晶構造 内のカルシウムイオンの一部の代わりに各イオンが取り込まれ、結晶に各イオンの色がつく。銅(Ⅱ) イオンなど金属イオンや食紅などでも実験を行ったが、結晶構造内にこれらの物質が取り込まれない ため結晶には色がつかなかった。不純物として上記のイオンを加えると、酒石酸カルシウム 4 水和物 の結晶は形状が変化し、不純物の量が多いほど形状がより変化することがわかった。コバルト(Ⅱ)イ オン、鉄(Ⅲ)イオンの場合、結晶が塊状に生成しやすく、ニッケル(Ⅱ)イオンの場合は扁平状になり やすく、クロム(Ⅲ)イオンの場合は薄い羽根型になりやすかった。この実験結果から、不純物によっ て結晶構造が変化したのではないかと考え、不純物が結晶構造にどのような影響を与えたかを調べる ため、三重大学工学部で X 線回折法によって結晶構造の違いを調べた。 4 コバルト(Ⅱ)イオン(0.1mol/L) ニッケル(Ⅱ)イオン(0.1mol/L) 鉄(Ⅲ)イオン(0.1mol/l) クロム(Ⅲ)イオン(0.1mol/L) 鉄(Ⅲ)イオン(0.05mol/L) クロム(Ⅲ)イオン(0.05mol/L) 5 青:Ca 原子 赤:O 原子 茶:C 原子 ピンク:H 原子 点線:水素結合 酒石酸カルシウム4水和物結晶構造(使用ソフト:VESTA) 回折 強度 (cps) 0.1mol/L 0.05mol/L X 線入射角 上のグラフが計測の結果である。計測結果から、グラフの一部にそれぞれ異なるピークが出ており、 結晶構造が変わっていることがわかった。また、結晶構造の変化が大きかったクロム(Ⅲ)イオンを 0.1mol/L と 0.05mol/L に変化させて作成した結晶についても調べたが、同じクロム(Ⅲ)イオンでも加 えたイオンの量によって結晶構造に変化があることがわかった。結晶構造が変化したのは、カルシウ ムイオンの代わりにこれらのイオンが入り込んだことで、結晶を構成する原子間の電気的な引力が変 化したからであると思われる。 6 4.結晶の再成長法 ゲル法では一度作成した結晶をさらに大きく成長させることが簡単にできる。酒石酸カルシウム 4 水和物の場合、まずケイ酸ゲルを試験管の半分ほど作成し、その上に事前に作成した種結晶をのせ、 その上から酒石酸溶液とメタケイ酸ナトリウム溶液を加えてゲル化させる。ゲル化後、通常の結晶の 作成と同じように塩化カルシウム溶液を加えると種結晶とその周りにできる微小な結晶がくっつき、 より大きな結晶ができる。これを繰り返すことで結晶をより大きくすることができる。酒石酸カルシ ウム 4 水和物の場合、最大で種結晶の約 4 倍の大きさになり、試験管の壁で結晶の成長が阻害されて しまった。この方法は酒石酸カルシウム 4 水和物以外の結晶でも同様に可能である。 5.その他の結晶の作成 ・方解石(炭酸カルシウム):メタケイ酸ナトリウム水溶液に 0.1mol/L の炭酸アンモニウム水溶液を 10mL 加え、酢酸溶液で pH を調節してゲル化させ、ゲル化後に塩化カルシウム水溶液を拡散させる と微結晶が生成する。 ・ヨウ化鉛(Ⅱ):メタケイ酸ナトリウム水溶液にと 1.0mol/L の酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を 5mL 加え、酢酸溶 液で pH を調節してゲル化させ、ゲル化後 1.0mol/L のヨウ化カリウム水溶液を 5mL 加えて 45℃に 保ったまま保持すると黄色の六角板状結晶が生成する。 ・鉛:メタケイ酸ナトリウム水溶液に 1.0mol/L の酢酸鉛(Ⅱ)溶液 5mL を加え、酢酸溶液で pH を調整 してゲル化させ、ゲル化後ゲル上部にスズ片を置くとイオン化傾向の差によってゲル中で鉛樹が生成 する。 ・金:メタケイ酸ナトリウム水溶液に塩化金酸を加え、酢酸溶液で pH を調整してゲル化させ、ゲル 化後 1.0mol/L シュウ酸水溶液 5mL を加えると、シュウ酸が金イオンを還元し、金の微結晶が作成 する。 ヨウ化鉛(Ⅱ) 方解石 7 金 6.まとめ ゲル法はきれいな形状の結晶が容易に作成でき、イオン化傾向の差や還元反応を利用することで結 晶を作成することができるため、非常に発展性がある。また、結晶は溶液の pH や温度、不純物の影 響を受けやすいため、こうした条件によってはより容易に大きく、きれいな形状の結晶ができる可能 性があり、ゲル法はこうした条件を容易に変化させることができる。こうした実験の結果から、ゲル 法は水への水溶性の小さい成分を結晶化させるのに有効であることがわかった。 7.今後の展望 実験の結果からゲル法ではゲルを媒体として様々な方法で結晶を作成できることがわかったので、 今回の実験以外の方法でも結晶を作成したい。今回の実験では主に酒石酸カルシウム 4 水和物の結晶 を作成したが、今後は他の成分についてもゲル法で結晶化してみたいと思う。また、こうした結晶を 作成する際の条件を変えて実験をし、より容易に大きく形状の整った結晶ができる条件を探したい。 今回の実験では溶液の pH や温度、不純物が結晶に影響を与えることがわかったが、今後はそれ以外 にも結晶に影響を与える要因がないか調べたいと思う。今後さらに研究をすれば、これまで結晶化す るのが難しかった成分を、ゲル法を用いることで結晶化できると思われる。 参考文献: 「結晶成長とゲル法」(コロナ社) 訳者 中田一郎 8 中田公子
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