沖縄地名エッセイ(大嶺) 大嶺︵おおみね︶ ︱私の青空ANK︱ 沖縄に来て、ほんとよく飛 行 機に乗るようになった。当 たり前なのだが、県外に 出るに は飛行機か船に乗 る以外には 選択の余地がない。粋な 船旅でも自分 としては構わないのだ が、働く身には許 されないようである。このためしょっちゅう那 覇 空 港に行き来している。 この間、ボーと し て空港行き の高速バスに 乗っている 時、意外な事 実に気が つ い た。なん と空港ターミナル ではなく、 滑走路に地名 が付いているのである。 まさか飛行機 が着陸す るときに、い ち い ち住所を呼 ぶこともないであろうから、昔の地名 がそのまま残 ってしま っているのであろう。その地 名が、大嶺である。真っ 平の滑走路の 地名が、山々 を彷彿さ せる大嶺である。 今回は、こ の意外な地名 に着陸する 航空機にまつわるエッセイ である。 沖縄県は、行政区分上は 九州地区に 属することになっている 。しかし 沖縄県民の 誰もが、 九州地域の人間なんて誰もが 思っていないと言う不 思 議な区分となっている。沖縄県と九 州のかすかな繋がりと言えば 、なぜか天気予報が九州 の左端に出る ことと、福岡高裁の那 覇支部があって、 二審までは 沖縄県内で裁 判を受けることができることぐらいであろう。 しかし行政区分は 、中央省庁 や大企業にとっては重要 な管轄・営業区分でもある 。このた め那覇空港発の国内線は、東京羽田行きについで九州 福岡行きが最 も多くなっている。し かし東京羽田行き はきゃぴきゃぴした観 光 客で満載であるが、九州 福岡行きはタバコかビ ールくさいビジネスマンを満 載していると 言う大きな 違いが存在す るがっかり路 線でもあ る。 九州福岡行きは、 日本航空とその子会社の 日本トランス オーシャン 航空、全日空 とその 子会社のエアーニッポンの4 社が就航させ ている。そもそも幹線扱い の航空路であるので、 子会社の航空会社 が運航するのも不思議であるが、お そらく機材の フェリー︵調 達︶関係 か、会社救済的意味合いで就 航させているのであろう 。この九州福岡便はビ ジ ネ ス用途で 運航ダイヤが設定 されているので、沖縄に 帰る場合に は福岡を経由 した方が便利 なときが 多く、よく利用している。那覇行きの最 終 便は、福岡 20時05分 のANK2 0 1便であ る。つまり全日空 の子会社であるエアーニッポンの運航便となっている。 エアーニッポンは 、そもそも 日本近距離航空と言う北海道内を中心 とするコミューター 航空会社であった 。その名のとおり近距離 しか飛ばないので、小さ い飛行機しか 持ってい ない会社である。 しかし僕に は馴染のある 会社で あ っ た。僕の父は 、北海道に関 係する会 社に勤めており、よく北海道の 各地に出張 していた。こ の出張帰りによく持ってきたのが、 孝一朗 2003/01/07 澤野 沖縄地名エッセイ(大嶺) 日本近距離航空の 搭乗券であった。昔の搭乗券には座席番号がシ ー ルで貼っ て あ り、映画 券のようなもぎり 切取り線が 付いていた。 しかし僕の 父は、その搭乗券をくれるときに、 とにかく飛行機が 小さくて恐 かったと、よくつぶやいていた。 このエアーニッポン は、沖 縄ではほとんど馴 染みのない 会社で も あ っ た。と 言うのも、 沖縄県内を専門とするコミューター航 空 会 社があり、 県内の運航を 独占的に担っていたか らである。それが 南西航空、 現在の日本トランスオーシャン航空である。その後 、航空行 政の転換によって 、エアーニッポンも沖縄県内の航空輸送に参入するようになった。沖縄 には最近登場した 会社ではあるが、いまやかなり浸透 したようである。エアーニッポンの アルファベット略 称はANK であるが、街 で沖縄の人 がそれを﹁アンク﹂と呼んでいるの を聞いたことがある。可愛い 略称である。 みんなが読 んでいるわけではないと思 うが、そ れ以来の自分の中 ではエアーニッポンは﹁ アンク﹂と 呼ぶことにしてしまった︵ ちなみに 航空関係者は絶対 そのように 読んでいないと思う。と 言うのも、﹁アンク︵A N C︶﹂はア ンカレッジ空港の 略称であるからである︶。 ANK201便は 、福岡空港 の第2ターミナルから出発 する。第2 ターミナルと 言えば 聞こえがいいが 、実は離島便発着ターミナルである 。空港待合室の中には 小さなスナック・ コーナーがあるが 、もはやサラリーマン帰宅時の駅の 香りそのものである。売っているも の、長崎あごだしのうどんと 鰯ちくわ、缶 ビール、鹿児島のさつま 揚げ、焼酎、 博多めん たい、呼子のいかしゅうまい 、対馬の干物 ・・・た だ の飲み屋で あ る。その待 合 室から見 えるANK201 便の小さいこと。愛嬌で 航空エ ン ジ ンの横にイ ル カ・マークが 描かれて いるが、それに関 心を寄せ ず に大いに乾杯 !である。 機内は狭い、 そしてなーん かサカナ とビールの香りがほのかにする。この飛 行 機で﹁那覇 まで2時間の 快適なフ ラ イ トをお楽 しみください﹂の アナウンス 、そして機 内 誌の名称が ﹁私の青空﹂。 なんど乗 っ て もA N K2 0 1便は 、満 席に近 い ぐ ら い混 雑している。 明ら か に乗 客は、 出張帰りのサラリーマンか沖 縄の単身赴任 者、買い物 帰りの沖縄の 人ばかりである。東京 羽田便のような観光案内もなければ、きゃぴきゃぴ感 もない。さっきの乾杯サラリーマン は、もうすっかり 寝入っ て い る。まるで地 元バスのような気安さが 漂っている。 それでも 大好きな路線であった。い つ もANK2 0 1便に乗る と、あ∼島に 帰るなあ∼と 言う気分 が実感できたからである。しかし昨年9月 からANK 201便はなくなってしまった。全 日空が乗客サ ー ビ スのためか 、ANA便に 切り替えて ターミナルも 変更されてしまったか らである。 孝一朗 2003/01/07 澤野 沖縄地名エッセイ(大嶺) このイルカ・マ ー クのANK 201便、沖縄本島が近づくと一時的 に大揺れする 。恐ら く島と海風の関係 で、夜 間 強 風が吹くポイントがあるのであろう。 まるで大洋の 中で、小 さな飛行機が着陸 に備えて身 震いするかのようである。この飛行機に はスクリーンがなく、 滑走路の誘導灯を 見ることはできない。窓 から那覇の灯 が輝いている 。着陸準備のためか、 両翼を左右に一 度 振ったと思 うと、かすかに滑 走 路の進入灯が 見えた 。ランウエイ・イ ン・ サイト!すると静 かにランデングしたと思 うと、大洋 を泳ぐイルカ のようにジャンボ機の 合間をすいすいと 抜けて、搭乗口に向かってゆく。あ あ沖縄だと思 う間もなく、 マーシャ ラー︵航空機誘導員︶がゆっくりとパドル を頭上に掲 げるのが見えると、小さな エンジン は静かに息をとめていった。 孝一朗 2003/01/07 澤野
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