15. 祝福 畠山 拓 俺は鹿 だ。もっと 正確 に言う ならば 、鹿の肉だ 。後 ろ足 、上部 の肉の 一切れだ。俺は焼かれた。焼かれた後、鍋でゆっくりと煮られている。 俺を料理 して いるの は美し い女だ 。レ ベ ッカとい うイ サクの 妻だ。 イサク には 息子が 二人居 る。イサク は 四十過ぎ に結 婚した ので 、息子 達が青年 にな る頃に は老人 だった 。 人 間 は 奇 妙 な 生 き 物 だ 。「 祝 福 」 と い う 行 為 を 行 う 。 強 者 が 弱 者 に 行 う一種の 儀式 だ。幸 せを与 え、願 う行為 である。祝福を 与え られる 事は 名誉な事 だ。 祝福と は言葉 だ。人 間に と って価値 ある ものら しい。 とにか く父 のイサ クは長 男のエ サウ に 祝福を明 ける 事にし た。その 前 にエサウ から 、肉 料理を ご馳 走にな る 。エ サウは鹿 の肉 をしと めるた め、 狩にでる 。 父親と 言う ものは 長男を 大切に する 。母親は末 っ子 を可愛 がる 。家長 制度が強 い時 代なの で仕方 ない。母 親の レベッカ は弟 のヤコ ブに知 恵を つける。 「貴方も お父 さんに 祝福し てもら いな さ い」 「だって 、ご 馳走が 無いよ 」 「心配は ご無 用。マ マが美 味しい 鹿料 理 を作って あげ るから 」 「だって 、パ パはお 兄ちゃ んに、 祝福 を 与えたい のだ よ」 ヤコブ はエ サウに 化ける 事を母 親は 教 える。 「どうや って お兄ち ゃんに なるの 」 「お兄ち ゃん は毛深 いわ 。お前 はつる つ るしてい る 。山羊 の毛皮 を手首 と首につ けれ ばいい わ。お 兄ちゃ んの 洋 服を着て ね」 「大丈夫 かな 」 「心配な いわ よ。パ パは歳 で目が 悪く な ったから 」 イサク は俺 を食べ た。イサク の歯は 大 分弱って いた が、俺は焼 かれ煮 られて柔 らか くなっ ていた。オリー ブの 油と俺自 身の 脂肪分 ですっ かり 柔軟にな って いた。 事の次 第は 、イ サクは まんま と計略 に はまり 、長 男では なく次 男に祝 福を与え る。後 で気 が付い たが、取り返 しが付か ない。一度 喉を通 った 料理を、 吐き 出した として も、食 べた 事 実には変 わり ない。 もうひ とつ 解った ことは 、人 は感覚 に 騙されや すい と言う 事だ 。長男 は毛深い 。毛 深いの が、長 男とは 限ら な いのだ。
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