Medical Device Daily Kawanishi Hotline……

9
Sep. 2011
Vol.12
Biomedical Business & Technology
PwC 社の医療イノベーション・リーダーが読み解く
新規参⼊企業と IT がもたらすインパクト!……1
PwC 社マネージング・ディレクター Chris Wasden ⽒インタビュー
Healthcare Benchmarks and Quality Improvement
スタッフ主導で搬送から診察までの時間を短縮……5
トリアージプロセスの合理化で患者満⾜度を劇的に改善
Healthcare Risk Management
ジョプリンを襲った⻯巻、電⼦カルテの存在価値を証明……7
IT インフラ壊滅時でも患者記録へアクセス可能に
メリー・コーベット/本誌 アドバイザリー・スタッフ
最新通信技術を取り込んだ新しい医療情報モデル……8
ソーシャルメディアの活⽤で広がる可能性
The Academia Highlight[12]
ヒトの育成こそが組織体を⽀え、発展させる……9
by うのめ・たかのめ
Medical Device Daily
Diagnostics……10
Oncology……13
Administration……17
Kawanishi Hotline……18
Sep.2011
Vol.12
PwC社の医療イノベーション・リーダーが読み解く
新規参⼊企業と IT がもたらすインパクト!
PwC社マネージング・ディレクター Chris Wasden ⽒インタビュー
――JIM STOMMEN/BB&T 寄稿者
Chris Wasden 氏は、
Wasden
問題なのは、医療業界が IT の利用に
世界的なコンサルティン
おいて、他業界に約 10~15 年後れを取っている
グ会社プライスウォータ
点です。IT はコストを削減し、結果を改善し、重
ーハウスクーパース
点的で個別化された顧客中心のソリューションを
(PwC)社のマネージン
提供するための中核的な技術です。他業界では同
グ・ディレクターおよび
様の問題を解決するために、すでに利用されてい
医療イノベーション・リ
ます。
ーダーを務めている。ま
「他業界では取り入れられてきたイノベーショ
た、政府や投資ファンド
ンを、なぜ医療業界はほとんど無視できたのか。
に対して、成長戦略とイノベーションにともなう
このようなことになった医療業界特有の原因があ
戦略や事業リスク、機会について助言を与えてい
るのか」という問いかけが必要です。私は、いく
る。PwC 社に入る前は医療技術起業家として約
つかの点で特有な原因があると思います。
10 年間を過ごし、また数年間、ウォール街で JP
まず、ピーター・ドラッカーが言うように、医
モルガン社やスイス・ユニオン銀行の投資銀行業
療業界はマネジメントを適用しようとした産業分
務を行った経歴を持つ。
野で最も複雑な事業です。たとえば、サービスを
Wasden 氏は、PwC 社から最近発行された報告
提供する人とサービスを受ける人、つまり医師と
書「新たなゴールドラッシュ」にも携わった。
患者が直接の支払い関係にないという、非常に複
米国の医療支出は 2019 年末までに国内総生産
雑なバリューチェーンが存在しています。医師は
の 19.6%まで増えると考えられており、企業や起
ある種の請求形式にもとづいて支払いを受けてい
業家は、医療業界に大きなチャンスを見出してい
るので、「報酬が支払われない限り新しい技術は
る。この報告書では、19 世紀半ばのゴールドラッ
使わない」などということが起こり、結果的に多
シュの状況になぞらえ、
「現代の医療試掘者のなか
くの機能障害が生じています。
には、デジタル医療システムが生み出す大量のデ
また、最近まで医師は IT の採用に非常に抵抗
ータの山をすでに分析、解釈、現金化している者
しており、大きな障害となっていました。いまの
もいる」と指摘。同時に、医療業界は複雑で混乱
ままで医療サービスを十分提供できると考える医
しており、極めて時代遅れであるため、
「気の弱い
師にとって、IT の利用は仕事を遅らせ、ワークフ
者には向いていない」と警告している。
ローを乱すものでしかなかったからです。
報告書では、このチャンスで利を得る者をフィ
ところが、昨今の管理部門による電子カルテの
クサー、コネクター、インプリメンター、リテー
重視、地域医療連携の到来を受け、医師は IT の
ラーと 4 つのカテゴリーに分けている。
採用に前向きになっています。支払いが受けられ
るという経済的インセンティブもありますし、な
によりモバイル医療はワークフローを改善します。
――――報告書にあるように、医療システムは
うまく機能しておらず、持続不可能だと医療に携
情報をデジタル形式で持てば、
「より早く、より簡
わる人々自らが認めています。ではまず「フィク
単に質問に答え、患者をより効果的にモニターし、
サー」についてお話しいただけますか?
患者により良い結果をもたらし、価値を提供する
1
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Vol.12
ことができる」と医師は気づいたのです。
――――では「コネクター」に目を転じます。
さまざまな技術や能力の融合が始まっています。 報告書では、問題解決にはコネクターが極めて大
これらを先導しているのは、他業界ですでに経験
きな役割を担う、とありました。
済みの人々です。ですから、彼らは現在の問題の
Wasden
フィクサーとして、医療分野に参入できるのです。
モバイル医療技術を採用する医師は
急増しており、そのスピードは IT 部門が追いつ
――――医療分野には異種のシステムが極めて
けないほどです。このようなことは初めてですよ。
多く、それが参入障壁の 1 つにもなっているよう
これまでは、医師は新しい画像処理システムや整
です。システムの連動がカギになるでしょうか。
形外科技術を採用しても、基盤となる IT の採用
には大変に抵抗してきたのですから。
Wasden
かつての医師の世界では、相互運用
いま医師がこぞって採用するのは、それが「ク
性は必要とされていませんでした。医療システム
ール」だからです。そしてもちろん、モバイルベ
への患者のアクセスを医師がコントロールしてい
ースで、手のひらで、最もパーソナルな装置で情
ましたし、医師は患者のカルテをペーパーで持っ
報すべてを持つことで、より良い医療が行えるか
ていれば事足りたからです。別の医師にかかると
らです。実際に、過去のやり方とは違う医療を行
きに困るのは患者だけで、当の医師は再度の情報
うことができています。
収集に対して支払いを受けられるので問題はあり
現在の技術なら、外に出して 2~3 日検査結果
ませんでした。つまりは重複を奨励するシステム
を待つまでもなく、リアルタイムに診察室で検査
――情報が収集されるたびに、新たな画像が撮影
を行うことができます。多くのポイントオブケア
されるたびに、時間とお金の浪費に対して支払う
検査が開発中であり、技術をさらに進めて、マイ
システム――になっていたのです。
クロ流体技術を使った非常に高度な分子診断を行
また、ほかの医師と情報を共有すれば、患者を
うことさえできるようになるでしょう。これによ
失うかもしれないと医師は心配していました。で
っ て 破 壊 的 な 影 響 を 受 け る の は 、 Quest や
すから、情報をコントロールすることで、患者と
LabCorp などの臨床検査機関です。
独占的な関係を保とうとしていたのです。こうい
このようにコネクションを提供する新技術は、
う例は、我々は小売業界でいつも目にしています
医療の変化に最大の影響を及ぼしています。これ
よね。
は大変興味深い点です。
現在は、独立している医師よりも、大きな医療
組織の従業員となっている医師のほうが多くなっ
――――医師による採用を後押ししているのは、
ています。大きな医療組織による医師の採用とい
IT 技術の持つ即時性のようですね。では「インプ
う物理的統合、または、診療医グループの組織化
リメンター」とはどういうものでしょうか。
という実質的統合によって、情報共有の必要性は
Wasden
高まっています。いまや情報共有は経済的なイン
インプリメンターは、技術の恩恵を
センティブであると同時に、医療ビジネスの優先
受けるために必要とされる関係者を、独自のやり
事項なのです。共有はデジタル形式でのみ可能で、
方で結びつけることができます。
モバイル医療で見てみましょう。我々は 2,000
ペーパーのカルテを共有することは不可能です。
人の患者と 1,000 人の医師の調査を行いました。
医療業界が IT の利用に失敗すれば、他業界の
企業がチャンスと見て参入します。そして、自ら
その結果、医師がこれらの技術を何に使いたいの
の手でとっくに解決すべきであった問題を、彼ら
かと、患者が何に使って欲しいのかとの間にはギ
が解決することになるでしょう。他業界の人間を
ャップがあることが分かりました。医師は管理業
招いて、医療業界が自ら取り組むべき問題をやっ
務の削減を重視し、患者はいつでも医療を受けら
てもらう必要はなかったという論争ができたのも、 れることを重視しています。つまり患者は、自分
たちがどこにいても、医師が診察場所以外のとこ
フィクサーのおかげだと言えます。
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Vol.12
Wasden
ろにいても、医師による診察を受けたいのです。
その言葉は、私の経験から出たもの
です。私は働き始めて最初の 15 年間は、金融サ
また、以前とは違い、インターネットの情報を
効果的に利用して、医師にかかる前に準備をする
ービスや公益、エネルギー業界で働いていました。
患者も増えています。
私は事業経営、業績改善などのビジネスの基本を
十分理解していると考えていました。その後、コ
――――たしかに最近の患者は事前に病状を
ンサルティングの仕事に就き、ある医師が私に、
調べ、これは人工膝関節置換術だとなっても、単
ある新技術を開発して市場に出すのを手助けして
にプライマリ・ケア医から紹介状をもらうのでは
もらえないかと言ってきました。私は快諾しまし
なく、インターネットで最も上手な医師を調べて
た。でもあとで分かったのですが、医療でいかに
います。
してお金をもうけるかを、私はまったく理解して
いなかったのです。
Wasden
私の父もそうです。父は前立腺癌の
幸いにも、私の兄が大手医療サービスグループ
初期の警告症状が出ているのに気づき、検査して
のシニア・エグゼクティブだったので、この技術
もらいたいと自ら医師にかかりました。父は自分
のことを話し、この種のものはどのようにして支
の父親も前立腺癌だったので、一緒にひと通りの
払ってもらうのかと尋ねました。
プロセスを経験していたのです。そして、
「選択肢
兄「ICB-9 コードと CPT コードが必要だ」
は分かっています。インターネットで調べました
私「どうやって手に入れるの?」
が、ダヴィンチで前立腺を摘出したいと思います。
兄「5 年かかるね」
先生はこの手術を行っていないと思いますので、
私「支払いはどうなるの?」
この手術を行っている医師に紹介してください」
兄「交渉による医療費支払予定にもとづいて、
と言いました。これは、従来とは全く異なる斬新
さまざまな支払者からもらうんだ」
な考え方です。
私「定価料金ではないの?」
白紙の状態で医師にかかり、医師が何をすべき
兄「違うよ。支払者と各提供者以外は誰も知ら
か話してくれるのを聞く、非常に父権的な医療か
ないんだ」
ら、まさに消費者志向で消費者中心の医療へと変
我々は何度もこのようなやり取りを繰り返しま
化しているのです。
「先生、ブログも研究も全部読
した。変えるのが非常に厄介な多くの規則が存在
んで、自分で診断し、自分の治療ソリューション
しています。我々のシステムでは、同じ都市での
を考えました。私が正しいことを証明し、私が望
同じ処置に対して同じ支払者が、病院によって異
むソリューションを受けられるよう手助けしてく
なる料金を支払うのです。不思議でしょう?
それでも、新技術を市場に導入して成功を収め
ださい」と患者が言うのですからね。
ほんの 7、8 年前まで、医師は患者がインター
るには、償還のための CPT コードが必要ですし、
ネットで仕入れた情報を持ってくると腹を立てて
地域の支払者から支払ってもらわなくてはなりま
いました。ところがいまでは、
「賢い者は、来たと
せん。癌の治療だとしても、この 2 つがないと大
きにはすでに準備ができている」とさえ言います。
きな成果は上がらないのです。ですから、この非
本当に、革命的な変化です。我々は定期的な調査
常に複雑なシステムにどのように対応していくか
で、医療に関して最も信頼している情報源は何か
を考えなければなりませんでした。
と患者に尋ねています。以前は医師でしたが、現
――――外部の人の多くは、唯一の関門は FDA
在は医師はインターネットに次いで第 2 位になっ
だと思っています。償還がいかに難しいかを分か
ています。
っていません。
――――報告書で目を引いたのは、医療業界で
Wasden
働くことは、「気の弱い者には向いていない」と
実は、FDA に認可されているものの
償還の点でうまくいっていない技術の数は、FDA
いう言葉です。
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の認可を得られていない技術の数よりもかなり多
業員に対して職場でプライマリ・ケアを提供して
いのです。FDA の関門をこえるのも困難ですが、
います。従業員が職場を離れることなく医療サー
保険材料として支払ってもらえるようにする方が
ビスを受けられるのが利点で、処方薬も受け取れ
もっと難しいのです。
ます。雇用主にとっては費用を抑制でき、生産性
ほかにも難しい問題があります。医療業界はそ
を向上させ、欠勤を減らせるという利点もありま
の構造、性質、仕組み、支払い方法、インセンテ
す。
ィブ、インセンティブの調整方法などが、他業界
そもそも、米国のプライマリ・ケアは、市場か
とはかなり異なっています。医師は何に対して報
ら逸脱するような価格設定をしてきたというのが
酬が支払われるかを見ています。病院が違えば、
私の見解です。プライマリ・ケア医のところに行
従業員の扱い方や動機づけの仕方も違います。同
くとどのくらいお金がかかるか見当がつかず、し
じ雇うにしても、生産ベース、つまりサービスに
かも普通数日前に予定を立てなければなりません。
対する報酬にするのか、生産にかかわらず同じ額
非常に高くつくようになったので、より便利で安
の給与というやり方にするのかは問題でしょう。
いサービスが増えてきたのです。
シンプルかつ柔軟な、うまい方法が必要です。
医療業界が初めてで、すべてを理解していない
――――新しい医療市場の原動力は、医療費に
人は、簡単な市場だと考えて入ります。医療従事
高い割合を占める高齢者層ではなく、若い世代だ
者はまぬけで、我々がやり方を見せてやろうと思
と報告書にはありました。それは若い世代が非従
うわけです。その後、この業界がいかに複雑かを
来型の医療を望んでいるからでしょうか。
知り、この人たちは思ったほどまぬけではないか
Wasden
もしれないと分かるのです。
たしかに若者は高齢者のようにはプ
ライマリ・ケア医とつながっておらず、行く必要
――――報告書ではウォルマートやウォルグリ
が生じたら、便利で簡単な場所、つまりウォルグ
ーン 、CVS といった「リテーラー」に注目され
リーンやウォルマートを選ぶでしょう。このよう
ています。私もインフルエンザの予防接種を CVS
な新しいモデルに向かう傾向があります。しかし、
で受けましたが、これは医療の変化の興味深い一
高齢者に比べれば消費はかなり少なくなります。
面ですね。
それでも、彼らが変化の原動力であると我々は
考えています。彼らが結婚して子供ができたとき
Wasden
プライマリ・ケアが米国で消費され
には、さらに重要な変化の原動力となるでしょう。
る方法に変化が見られるのです。
最も医療を消費するのは子どもと高齢者だからで
ウォルマートのようなリテーラーはあらゆるも
す。あなたが母親で子どもの耳が感染し、選択肢
のを売っていますが、成長するにつれ、その中核
が、プライマリ・ケア医に電話をかけ順番を待ち
分野の成長余力を失い、ほかの分野へ拡大してい
面倒な手続きを行うか、または、応急処置をする
きます。プライマリ・ケアに目を向けた彼らは、
地元のドラッグストアやその他の施設まで半マイ
その基本的な小売技術を利用すること、つまり定
ル車を走らせるかの場合、より便利な後者を選ぶ
価でサービス一式を提供することで力をつけてき
でしょう。
ました。ウォルマートやウォルグリーンの医療セ
ンターに医師や看護師はおらず、メディカル・ア
――――このような新サービスとコストしか話
シスタントやパラメディックが簡単な医療サービ
題にならない医療業界ですが、報告書では雇用創
スを提供します。そこで提供されるサービスは、
出者としての役割を担っていることが指摘され
すべて定価で表示されており、待ち時間も長くは
ています。
ありません。
Wasden
また、それほど目立ってはいませんが、CVS や
医療業界は毎年約 6%成長していま
す。医療に関する議論は医療コストの削減につい
ウォルグリーンといったドラッグストアでは、従
4
Sep.2011
Vol.12
てばかりですが、この業界に参入する人が増えて
にはなりません。高齢化人口の問題に対処するた
いるのが現実です。
めの唯一の解決策は、これまでとは異なったやり
この市場に新規企業が参入する機会を与えたの
方で医療を提供することです。市場に新たに参入
は、医療サービス提供者や保険支払者にイノベー
している企業によって、いままでよりも少人数、
ションが欠けていたからです。医師、病院が技術
低コストで、より多くの医療を提供できるように
をもっと効果的に使う方法を見つけようとしてい
なっています。これが、うまくいく唯一の解決策
れば、そして、医療コストを削減し、低コストで
なのです。
より良い結果を提供する能力を自ら備えていれば、
新たな医療提供ルートまたは遠隔医療による医
わざわざ新規参入者にやってもらう必要はなかっ
療サービスの提供を、米国医師会がどの程度認め
たでしょう。
るかが問題です。医師たちはこのような変更には
医療のパラドックスの 1 つは、新規参入者のほ
おそらく抵抗するでしょう。自分たちの監督なし
うがコスト削減能力が高いことです。マイクロソ
に提供される医療を増やしたくないからです。し
フト、シスコシステムズ、インテル、すでに参入
かし、医師以外の医療従事者が提供する医療は増
しているものの異なったやり方で行おうとしてい
える方向にあります。これが進めば、15 万人とも
る GE 、 ま た 、 ウ ォ ル マ ー ト や ウ ォ ル グ リ ー
いわれている医師不足は緩和されるでしょう。新
ン・・・・・・。彼らは以前他業界で行った効率化、標
規参入者によって、すでにこの業界にいる人たち
準化、コスト削減、高価値などを医療に応用でき
がその仕事を失うことはないと思います。
ると考えており、チャンスがあると見ています。
ほかの業界や企業と異なり、医療業界では極め
ベビーブーマー世代を抱えることで、我々はこ
てデジタル化が遅れていました。現在、医師たち
れまでと同じかたちでの医療を高齢者すべてに提
は、これまでまったく重視してこなかった IT を
供することが物理的に不可能になっています。祖
医療に利用しているところです。興味深いのは、
父母に提供していたような医療を両親に提供する
これらの変化によって、彼ら自身がイノベーター
のに十分な医師や看護師がいないのです。かつて
になろうとしている点です。
は不足を補うために、中国やインドから医師や看
護師を連れてきましたが、いまでは彼らの母国の
「Biomedical Business & Technology」
ほうがチャンスが多いので、これはもはや解決策
(2011 年 8 月号)
スタッフ主導で
搬送から診察までの時間を短縮
トリアージプロセスの合理化で患者満⾜度を劇的に改善
患者アンケートで下位から 5%の評価だったサ
を覚え、サムナーの救急部に搬送された。その日
ムナー地域医療センター(テネシー州)の救急部
の彼女の服装は、出勤時のような CEO 然とした
は、たった 4 カ月間で上位 2%の高評価へと変化
ものではなかったので、スタッフは誰も彼女が自
を遂げた。2010 年よりサムナーの CEO を務める
分たちの CEO であることに気づかなかった。
Mary Jo Lewis 氏によれば、この大きな変化は、
「『軽度の胸部痛です!』と患者が入ってくるた
昨年に彼女が救急搬送されたのを機に、スタッフ
びに、救急部のスタッフはそれ以上の質問なしに
主導で改善活動を行った結果だという。
引き取り、患者に何かを接続し出すのよ。私は搬
送された最初の 20 分間は、完全に名前のない患
昨年のある土曜日の朝、Lewis 氏は胸部に痛み
5
Sep.2011
Vol.12
者だったわ」
も対応できるようになった。実際、インフルエン
彼女は何人もの人に繰り返し名前を尋ねられ、
ザの流行時期だったにもかかわらず、数多くの患
不可解な遅れが生じていることに気づいた。彼女
者に効率的に対処することができたという。地域
は回復すると、自分の経験から救急部の作業手順
の人口は増加していないが、救急搬送件数は
を端々までチェックして、無駄な手順を見つけ効
2,649 件(2010 年 10 月)から 2,946 件(2011 年
率化した。
3 月)と 10.5%の増加となっている。
あらゆる作業を細かく検討
Lewis 氏によれば、病院グループの専門スタッ
病院の IT スタッフも参加
患者の流れを改善するためには、「システムの
フの助けは借りたが、改善作業自体は救急部のス
IT 化が重要」と Mason 氏は強調する。今回の改
タッフが主導したという。
「救急部の看護師、救命
善作業には、IT スタッフもチームに加えられ、そ
救急医、その他の重要なスタッフに 2 日間かけて
の場で調整が行われた。スムーズな患者登録から
現状の作業手順をチェックさせ、搬入から診察ま
トリアージをどのようにするかまで、プロセスの
でのあらゆる過程を文書化しました」と、救急部
効率化に重点が置かれ、書類作成のシステムが全
部長の Donna Mason 氏は説明する。
体的に見直された。
驚いたことに、搬入から診察までに合計 44 も
また、もっと基本的な調整も多数行われた。た
の手順があることが判明。これには、家庭内暴力
とえば、受付の担当者が昼食に出てしまうと、患
や自殺のスクリーニング、患者が服用する薬品情
者搬入の電話が救急部の登録係に直接かかり、本
報、予防接種を受けているかどうかの確認等の問
来は搬入患者の治療に専念するはずの登録係が、
診なども含まれる。すべて患者にとって必要なも
不要な仕事で手一杯になってしまっていた。そこ
のだが、それが最適な場所で行われているかどう
で、患者が搬入されたときはいつでも、登録係が
かを検討した。その結果現在では、ほとんどのス
患者に集中できるように変更された。
クリーニングと問診、書類作成は救急部ではなく、
「こういう改善はさほど難しいことではなく、ほ
ベッドサイドで患者を治療する担当看護師によっ
んの些細なことに気づいただけで、登録係の仕事
て行われている。
がはかどるようになりました」と Lewis 氏は語る。
このようにトリアージプロセスを見直し、大幅
患者の満足度は向上しているが、まだ改善の余
に削減した結果、救急部のスタッフは診察までわ
地があり、Mason 氏は次に人員配置に着目してい
ずか 4 ステップで行えるようになった。
る。彼女はスタッフの増減ではなく、患者数の変
化に合わせたシフトの調整を検討している。
一般的に救急部は午前 9 時、11 時、午後 1 時に
ピークを迎えるが、実は午前 8 時にもピークがあ
1. 患者が救急部へ搬送されると、速やかに
るので、現在の午前 9 時~午後 9 時の看護師シフ
トリアージ場所に通す
2. トリアージの看護師は、名前、生年月日、
トを午前 8 時~午後 8 時へと変更する予定。さら
社会保障番号、服薬遵守等の簡単な質問
に、以前は患者が少なくなるのは午後 11 時だっ
のみを行う
たが、現在は午前 1 時になっているので、午後 1
3. 患者に ID 情報を記載した腕輪を付ける
時~午前 1 時のシフトを午後 2 時~午前 2 時へ変
4. トリアージの看護師が患者をベッドへと
更する予定という。
「私たちは人員配置も、患者のニーズに合わせて
搬送する
本当に見直します」と Mason 氏は胸を張った。
これらの改善で、平均 67 分かかっていた搬入
から診察までの時間をわずか 18 分に短縮するこ
「Healthcare Benchmarks and Quality
とに成功し、救急部のスタッフは患者数が増えて
Improvement」(2011 年 7 月号)
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ジョプリンを襲った⻯巻、
電⼦カルテの存在価値を証明
I T インフラ壊滅時でも患者記録へアクセス可能に
2011 年 5 月 22 日、最高レベルの規模となる
Johnson は St.John's が竜巻に襲われたとき、肺
EF-5 の竜巻が、St.John's 地域医療センターのあ
炎で 2 日間入院していた。家族は暗い階段を携帯
るミズーリ州ジョプリンを直撃した。竜巻発生当
電話の光を頼りに降り、Johnson 氏を仮設の救急
時、183 人の患者と 175 人のスタッフが St.John's
部へと連れ出した。そこからさらに別の医療機関
の建物内にいた。スタッフに死者は出なかったが、
に移動するとき、Johnson 氏はスプリングフィー
停電に加え発電機が破壊されたことにより、人工
ルドの St.John's を希望した。彼はそこに行けば、
呼吸器が停止して 5 人の患者が命を落とした。竜
Mercy グループ内の連携により、自分の記録に簡
巻が去った後、患者たちは救助され、地区外のほ
単にアクセスできることを知っていたのだ。
「病院は、私の薬や投薬量、検査の前歴を知りた
かの病院へと全員転送された。
米国史に残る恐ろしい竜巻に襲われたにもかか
がるだろうが、自分ではあまり思い出せないと分
わらず、St.John's は数週間前に新しく導入した電
かっていた。スプリングフィールドの医師たちは
子カルテと迅速な通信の復旧のおかげで、被災後
私の記録を取り寄せることができた。非常にうま
1 週間も経たずに治療を再開することができた。
くいったよ」と Johnson 氏は振り返る。
アクセスできたのは Johnson 氏のような最新
新システムが稼動
St.John's が属する Sisters of Mercy Health
の医療情報ばかりではない。紙ベースの昔の医療
記録も被災前にスキャンされ、別の施設の電子カ
System は、グループの 28 の急性期医療施設用に、
ルテサーバーに安全に保存されていた。
業務上必須なシステムと臨床データを備えた最先
端のデータセンターを 4 月に開設していた。その
データセンターはジョプリンからおよそ 400 キロ
ほどなく連絡⼿段が復活
地元の電力会社は、災害に遭った病院を優先的
離れており、竜巻の影響を受けなかったうえ、さ
に復旧させる。Mercy グループは、電話、ネット
らに別の場所でバックアップが取られていた。
ワーク、コンピュータ、プリンターなどの通信サ
St.John's は竜巻が直撃する 3 週間前に、Epic
ービスを地域のなかで最初に復旧させた組織だっ
Systems 社(ウィスコンシン州)の新しい電子カ
た。迅速な復旧は、患者の記録への迅速なアクセ
ルテを稼動。Mercy グループで電子カルテを導入
スを可能にするとともに、Mercy の指令センター、
した、最も新しい病院だった。
新設された移動型病院、院内の医師のオフィス、
別の地域にある Mercy グループなどをつなぐの
St.John's の IT インフラは竜巻で建物とともに
に役立った。
破壊されてしまったが、患者のデータを遠隔地に
もしも竜巻が1カ月早くジョプリンを直撃して
置いてあったため、避難患者を受け入れた病院は、
患者の識別用腕輪もしくは患者とともに送られて
いたら、St.John's は電子カルテを導入できておら
きた記録をもとに、その患者の医療記録データに
ず、わずか 1 週間で移動型病院を準備することな
迅速にアクセスすることができた。
どできなかっただろう。今回の竜巻ははからずも、
電子カルテが災害時に役立つことを証明した。
アクセス可能だった患者データ
St.John's は、電子カルテが役立ったある患者の
「Healthcare Risk Management」
例を挙げている。ジョプリンに住む 78 歳の Paul
(2011 年 8 月号)
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最新通信技術を取り込んだ
新しい医療情報モデル
ソーシャルメディアの活⽤で広がる可能性
――メリー・コーベット/本誌 アドバイザリー・スタッフ
電気通信技術の進歩に加えて、フェイスブック
また、米国では最近、院内のコンピュータシス
に代表されるソーシャルネットワーキングツール
テムや患者のファイルといった従来型のインフラ
が登場し、アメリカの医療産業界では刺激的なパ
が、ハリケーンや竜巻で破壊された事態を受け、
ラダイムシフトが起きつつある。
電子カルテの認知と利用が急速に拡大している。
いまや米国の医師は日常的に、YouTube でトレ
前出の記事でも取り上げているように、ある病院
ーニングビデオをダウンロードしたり、ブログ上
では患者の医療情報を電子カルテ化し、病院から
に展開される医療情報を得たり、ツイッターで緊
数百キロ離れた安全なデータバンクに保管してお
急援助を要請したりしている。これらすべてが、
いたおかげで、竜巻後に急いでほかの病院に避難
携帯電話1台あれば可能である。広く使用される
しなければならなくなったときでも、患者のデー
にいたったブログやツイッターといったソーシャ
タに容易かつ速やかにアクセスでき、スムーズな
ルネットワーキングツールと医療技術が結びつき、 治療の継続が可能となった。こういったシステム
医療コミュニケーション&マネジメントの新しい
が日本でも普及していれば、3 月の東日本大震災
かたちが生まれているのだ。
の直後にも役立ったことだろう。
通信デバイスやアプリの多くは、ゲームソフト
すでに一般化されている技術を医療分野で活用
や医療とは無縁の分野から提供されているが、す
することによる潜在的な相乗効果は、とてつもな
でに患者のケアに用いられている。たとえば、ス
い可能性を秘めている。ソーシャルネットワーキ
マートフォンのアプリを使えば、医師は遠方にい
ングを利用する人と、そうでない人との間にはギ
る患者の正確な医療データを手に入れることがで
ャップがあり、その利用に抵抗を感じる人も多い。
きる。その効果や価値は実証されており、さらな
1度も利用したことのない病院経営者やオピニオ
る医療現場への導入や統合が期待されている。
ンリーダーは、まだ必要性すら感じていないかも
デバイスでいえば、電子センサーを持つコミュ
しれない。しかし高齢化によって病院や医師を訪
ニケーション機器などはどんどん小型化されてい
問できない人や医療施設不足に悩む地域の増加、
る。8 月 12 日発行の『Science』によると、イリ
さらに地震などのリスクを抱える日本にとっては、
ノイ大学の技術チームが開発したあるセンサーデ
大いに注目すべき分野である。
バイスは、脳波図や筋電図などのデータを収集す
るために、神経や筋肉の活動をモニターする部品
を皮膚に似せたパッチに搭載したもの。タトゥー
シールほどの小さなこの「スマート・スキン」は、
患者に貼るだけで、数百キロも離れた場所にある
診断・分析機器と患者データをやり取りできると
いう。開発はすでに次のステップに移っており、
どこからでもデータを送れるように Wi-Fi 機能を
加え、最終的には太陽発電で必要な電力をまかな
えるよう研究が進められている。
8
Sep.2011
Vol.12
The Academia Highlight アカデミア・ハイライト [12]
ヒトの育成こそが組織体を⽀え、発展させる
うのめ・たかのめ
by
このところグローバル人材の育成に端を発して、一般企業だけでなく、医師や病院も含め
あらゆる処で人材育成やスキルアップの必要性が叫ばれるようになった。グローバル展開に
必要な英語力、ゆとり教育の負の遺産を補う基礎学力・論理思考力の強化、コンプライアン
ス対応力などが求められている。技術革新をはじめとして、変化の激しい相互依存の社会に
なり、業務に必要なスキルと個人の能力にギャップが生じているとの経営者の焦燥感が、
「人
材育成を!」との声を後押ししているようにも見える。
リーダーシップを備えた中核になる人材をどのように育てるかは、組織体の永遠の課題と
もいえる。企業経営の先輩に当たる米国では、GE、IBM、ボーイングがその代表格であり、
企業内研修はコストではなく、投資であるとの明確な考えにもとづいている。わが国では、
日立製作所が創立時から人材育成に取り組んできたし、お隣の韓国では、サムスングループ
が社を挙げて力を注いでいる。サムスンといえば創業以来、「人材第一」を企業哲学として
掲げ、経営の根幹に位置づけている。幹部社員をめざす者は少なくとも 3 分野のスペシャリ
ストになれとの不文律と共に、地域専門家の育成等の人材施策が、その驚異的な企業発展を
支えた原動力になっていることは想像に難くない。
リーマンショックを経て、わが国の経営者も立ち上がった。日本経団連は 2009 年 4 月に
「競争力人材の育成と確保に向けて」との政策提言を教育機関、政府、自らの産業界に向け
て発信した。企業 OB・OG の活用、留学生 30 万人計画などが盛り込まれた。経済危機から
の脱却には、中長期的視点からの人材の育成が不可欠であり、既成概念にとらわれないアイ
デアやビジネスモデルの構築・推進ができる人材を、国籍にとらわれることなく育成・確保
することを強調した。この提言は、大震災復興のいまも色褪せてはいない。
医療業界に目を転じてみると、医学の進歩が急速であるうえに、専門分化はとりわけ深化
していて、医療現場にその成果を適切に反映させるために、一段と広い臨床研究協力体制を
つくる必要性が叫ばれるようになった。閉鎖された講座制の環境下では、もはや独善だけが
目立ってきたとの指摘すらされている。ドラッグラグ、デバイスラグに続く、第 3 の手技ラ
グが懸念されている。いまや疾患の超早期診断や予防・根治のためには、遺伝情報をベース
にした個別化医療をめざすことが有力な方法だと分かった以上、癌治療などは一刻も早くそ
の体制へ向けて舵を切る必要があるが、事態は必ずしもすんなりとは動いていないようだ。
ガラパゴス化の芽はいたるところにはびこっている。
東大医学部の永井良三教授はヒポクラテスの慧眼に思いを馳せ、「医学は哲学や科学など
と並んで、諸々の基礎となる学問であるが、人の営みがその根っ子にあり、矛盾や危険性を
抱えている」ことをしっかりと捉え、成果やイノベーションの観点だけで語ることを諌めて
おられる。偏差値一辺倒の評価尺度から脱却して、欧米並みの人格、倫理観、奉仕の精神を
も備えた全人格としての人が、医師やひいてはヒトとしての育成目標になることが要請され
ている。
9
Sep.2011
Vol.12
Medical
Device
Daily
―
2011/8/1 2011/8/31
(
80
)
Cardiology
Diagnostics
VeraLight 社の
⾮侵襲式糖尿病検査装置が
CE マークを取得
World Heart 社、
Levacor を⾒切り、
次世代 LVAD に専念
株式非公開の医療機器メーカーである
心臓機器メーカーWorld Heart 社は、左心室補
VeraLight 社は、非侵襲式の糖尿病スクリーニン
助人工心臓(LVAD)「Levacor」の臨床試験が順
グ検査装置「Scout DS」の CE マークを取得。
調に進まないため、臨床試験と当製品の販売を中
2011 年8 ⽉2 ⽇
2011 年8 ⽉2 ⽇
この装置は血液検査や絶食の必要がないうえ、
止する。さらに、自社の小型化した次世代の LVAD
すぐに結果を得られる優れもの。患者は前腕を装
「PediaFlow」と「MiFlow」の開発と商品化に集
置の上に置くだけで、約 3 分で結果を得られる。
中すると発表した。Levacor を使用している患者
累 積 的 な 血 糖 へ の 暴 露 ( cumulative glycemic
と医療施設には製品サポートを継続する予定。
exposure)や酸化ストレス、毛細血管の変化に関
PediaFlow は 2005 年から開発中の新生児に植
連する皮膚内のバイオマーカーを検出する独自技
込み可能な LVAD で、動物実験で有用性を確認済
術を用いて、皮膚蛍光を測定する。
み。米国衛生研究所より 2 度の助成金を受けてい
CE マーク申請のための臨床試験では、ほかの
る。MiFlow は単 3 電池よりも少し大きいサイズ
空腹時血糖検査法やヘモグロビン A1c 試験よりも
でありながら、拍出流量毎分 6 リットルを実現。
多くの耐糖能異常を検出した。
植込み時の侵襲が小さいため、患者の早期回復が
また VeraLight 社は、4 回目の資金調達で 500
見込めるのが魅力。動物実験を 2012 年前半に行
万ドルを獲得しており、獲得した資金で今年末に
い、2013 年には CE マーク取得のための臨床試験
カナダ、インド、中東および欧州の一部で Scout
を行うことを目標としている。
DS を発売すると見られる。
調査会社 Canaccord Genuity 社(カナダ)は、
2015 年には 8 億ドルになると見込まれる LVAD
の市場は、Thoratec 社(PMA 取得済みの「Heart
Mate Ⅱ 」) と HeartWare 社 ( 承 認 待 ち の
「HVAD」)で二分されると分析している。World
Heart 社は、極小かつ低侵襲の LVAD の開発でシ
ェア拡大を狙っている。
(http://www.veralight.com/)
(http://www.worldheart.com/)
10
Sep.2011
Vol.12
の原因となる心臓リモデリング(損傷の拡大や形
光刺激を利⽤する
ペースメーカの研究が進む
態変化)の進行を防ぐことだ。IK-5001 は次のよ
うな巧妙な方法で、心臓リモデリングを防ぐ。
2011 年8 ⽉15 ⽇
心臓発作により損傷を受けた心臓は、カルシウ
ムを放出する。注入された IK-5001 が心筋中のカ
米国心臓協会の『Circulation: Arrhythmia and
ルシウムと結合すると、液状からゲル状へと変化
Electrophysiology』に掲載された最新の研究によ
し、心筋の構造を支持する「網」のような役割を
れば、低出力の青色光パルスで心臓刺激を行う新
果たす。この網は健全な心臓と同じ伸縮性質を持
技術が、将来、光エネルギーで心臓の調律を整え
つ。カルシウムレベルが下がると、この網は液状
るペースメーカにつながる可能性があるという。
に戻り、肝臓を介して排出される。
これは、光遺伝学という新しい分野の研究。細
この製品は細胞レベルでの生理学的な影響がな
胞内の特殊な活動を光でコントロールするために、 いため、薬剤ではなく装置に分類され、治験症例
刺激に反応して電気的状態を変化させる興奮細胞
数は薬剤に比べて 5~7 分の 1 で済む。FDA 承認
内に、光に敏感なタンパク質(ChR2)を導く。
はまだ受けていないが、年内に始まる臨床試験の
実験では、ChR2 タンパク質を発現する細胞と、
結果を見て評価されることになっている。
動物から採取した心筋細胞とを組み合わせ、光に
よって刺激を受ける心臓組織を作製。光刺激で発
nContact 社が⼼外膜
生させた心筋収縮や電気信号は、従来の電気刺激
アブレーションデバイスの
CE マークを取得
によるものと差がないことを確認した。
従来のペースメーカや除細動器などは金属製リ
2011 年8 ⽉22 ⽇
ードを使用するが、新技術では生体適合性が高く
柔軟な合成樹脂製の光学ファイバーを用いる。現
在 5 年程度にとどまるバッテリー寿命も、新技術
nContact 社は、心房細動などの治療に用いるア
では消費電力を抑制できるため 50 年近くになる
ブ レ ー シ ョ ン デ バ イ ス 「 EPi-Sense Guided
ほか、リードの不具合、強い磁力に適応できない、
Coagulation Device with VisiTrax」の CE マーク
高価格といった問題がクリアできる可能性もある。 を取得。心外膜のマッピングとナビゲーション、
リニアアブレーションの位置特定に用いられるデ
しかし現状では、人体への安全な適応や、最適
な部位への光の伝達方法などの課題が残っており、 バイスで、同社のアブレーションデバイスとして
は第 4 世代にあたる。
製品化に向けさらなる研究が必要である。
同製品には電極が埋め込まれており、心臓組織
に到達すると接触したことを表示する機能を搭載。
Ikaria 社の新薬は
この機能により、デバイスが心臓に向いているこ
実は医療機器?
とが分かるため、周囲の組織にダメージを与える
2011 年8 ⽉18 ⽇
ことのない安全なアブレーションが可能となる。
また Epi-Sense は、開胸しない内視鏡的手技
見た目や体内での動態はまるで薬なのに、装置
Convergent Procedure の利便性を高めるように
に 分 類 さ れ て い る 製 品 が あ る 。 Ikaria 社 の
設計されている。Convergent 手技の利点は、胸
「 IK-5001 」 が ま さ に そ う だ 。 こ の 製 品 は
部切開なしに腹部の切開孔から経横隔膜的に心膜
BioLineRx 社(イスラエル)からライセンス提供
開窓術を行い、直視下での心房後部へのアクセス
を受けたもので、体内に注入されると心筋を支持
を可能にし、拍動する心臓上の線形病変を確認で
する。心臓発作を起こし、うっ血性心不全(CHG)
きることにある。
同製品は今年の 10 月から年末にかけて、欧州
を発症し得る患者が適応対象となる。
心筋梗塞の治療で大きな課題となるのが、CHG
で発売される。
11
Sep.2011
Vol.12
挿入し、右心房、中隔を経由し、僧帽弁前尖と後
メドトロニックの
TAVI デバイス CoreValve、
⻑期有⽤性を確認
尖をクリップで留め、僧帽弁逆流の改善を図るデ
バイス。左心室機能不全と低駆出率が進行した患
者への外科的手術に代わる有用なオプションとし
2011 年8 ⽉30 ⽇
て期待される。
外科的形成術が施せない 51 人の患者に対する
欧州心臓病学会 ESC2011 において、メドトロ
臨床試験の結果、術前には 92%の患者が NYHA
ニックの経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)
分類でクラスⅢ&Ⅳだったが、術後 12 カ月経過
デバイス「CoreValve」の良好な治療成績が発表
時点で 22%に減少。約 70%の患者で心臓リモデリ
された。
ング(損傷の拡大や形態変化)の進行を防ぐこと
2005~06 年にかけてカナダと欧州で実施され
ができた。
た、平均年齢 81 歳の患者 50 人に対する 21Fr の
MitraClip は 2008 年に CE マークを取得済みで、
CoreValve の植込み症例を追跡調査したもので、
米国では市販前承認(PMA)を申請している。
4 年経過時点での成績が明らかになった。カナダ
における生存率は 2 年で 77.9%、4 年で 68%とな
っている。また、心不全の重症度をみる NYHA
分 類 で ク ラ ス Ⅲ & Ⅳ の 患 者が 87%もいたが、
CoreValve の植込みにより 4 年後には、クラスⅠの
患者が 61%、クラスⅡが 22%へと劇的な心機能の
改善を遂げた。さらに大動脈弁逆流の重症度を
軽減させ、大動脈弁逆流のあった患者の 57%で、
「逆流なし」を実現している。
(http://www.abbottvascular.com/)
4 年間の追跡調査で、CoreValve の性能低下、
Urology
フレームの破損、人工弁の移動、老朽化はいずれ
も確認されず、耐久性のある TAVI デバイスとし
て活躍が期待されている。
アボットが
腎臓ステントシステムの
市販前承認を取得
アボットの MR 治療⽤
経カテーテル的
僧帽弁クリップデバイス
2011 年8 ⽉11 ⽇
2011 年8 ⽉30 ⽇
アボット・ラボラトリーズは、難治性高血圧患
者の腎動脈狭窄の治療に使われる「RX Herculink
パリで開催中の欧州心臓病学会 ESC2011 では、
Elite」腎臓ステントシステムについて、市販前承
心臓疾患の最適な治療法をめぐって、薬剤溶出ス
認(PMA)を取得。RX Herculink の安全性と有
テント(DES)、経皮的冠動脈インターベンショ
効性を評価する臨床試験の結果を受けて、今回の
ン(PCI)、植込み型除細動器(ICD)の議論が白
承認となった。
熱するなかで、新たな治療オプションが登場して
この臨床試験には、難治性高血圧をともなうア
テローム硬化性腎動脈狭窄の患者 202 人が参加し
いる。
ESC2011 でアボット・ラボラトリーズは、僧
た。術後 9 カ月の再狭窄率は 10.5%にまで著減。
帽弁閉鎖不全(MR)治療用のカテーテルベース
腎動脈狭窄はやがて腎不全を引き起こし、心臓病、
の僧帽弁形成術デバイス「MitraClip」の良好な
脳卒中、末梢動脈疾患のリスクを増大させる。
試験成績を発表した。MitraClip は大腿静脈から
RX Herculink は、コバルト・クロム合金製のス
12
Sep.2011
Vol.12
テントとして腎臓への使用が米国で初めて認めら
には薬物治療しか信用できない」という考えはも
れた。薄くて腎臓に適応しやすく、手術の際に不
はや時代遅れになったといえる。
可欠な可視性と血管を支える強度は維持しつつ、
同 社 の 経 頭 蓋 磁 気 刺 激 装 置 「 NeuroStar
柔軟性は増している。サイズバリエーションは直
Transcranial Magnetic Stimulation(TMS)」は、
径 4.0~7.0mm、長さは 12、15、18mm。
磁気コイルで左前頭前皮質(訳注:感情制御や実
行機能に関与しているとされ、うつ病患者ではこ
Neurology
の部位に障害が認められる)に局所的に MRI レベ
ルのパルス磁気を与え、微弱電流を誘導する装置。
薬剤抵抗性大うつ病患者への実際の治療は、専
コイル術の⾼い治療成績、
脳動脈瘤の再発予防に
⼤きな効果
門家のもとで、1 回 40 分ほどの磁気刺激が 4~6
週間、毎日行われる。これにより前頭前皮質の機
能回復が促進され、うつ病の症状が改善される。
2011 年8 ⽉1 ⽇
薬物療法で見られるような副作用がなく、電気痙
攣療法(ETC)と異なり麻酔や鎮静も不要。タッ
ストライカーのニューロバスキュラー部門は、
チスクリーンパネルで簡単に処置できる。同装置
同社のランドマーク試験(MAPS)で脳動脈瘤治
は 2008 年に市販前承認(PMA)を取得し、累積
療の成功を示す基準となる、脳動脈瘤の再発率を
で約 5,000 人が治療を受けてきた。
計測する方法を開発。同時に、破裂、未破裂動脈
医師、患者だけでなく投資家も同装置に注目し
瘤いずれの治療においても、コイル治療の卓越性
ており、同社は 5 回目の資金調達で約 1.28 億ド
が証明されたと発表した。
ルを集めたと発表。今後同社は、TMS 機器の適応
2007 年から開始された MAPS 試験は、同社の
を妊娠時うつ病や慢性疼痛へと拡大していく方針
2 種類のデタッチャブル コイル「マトリックス 2」
を示している。
と「GDC」を使用し、11 か国 43 施設の 626 人を
対象に行われた無作為の前向き試験で、未破裂脳
動脈瘤と破裂脳動脈瘤の両方を対象としているの
が特徴。対象となった未破裂動脈瘤患者の 96%と
破裂動脈瘤患者の 90%は、治療後 15 カ月時点で
身体障害は何ら発生していない。
プラチナワイヤーに生体吸収性ポリマーを被覆
したマトリックス 2 の再発率は 13.3%で、世界中
で 25 万人以上に使用されている定番の GDC
(14.6%)と同等の成果。特に手術直後に良好な
(http://www.neurostartms.com/)
閉塞ができれば、長期的に再発を抑えることがで
Oncology
きる(GDC:9.6%、マトリックス 2:2.7%)。
精神障害治療市場で
存在感を発揮する
Neuronetics 社!
メラノーマ治療薬 Zelboraf、
早期承認のカギは
コンパニオン診断
ここ数年で飛躍的な成長を遂げた新興医療機器
第一三共の子会社 Plexxikon 社の、メラノーマ
メーカー、Neuronetics 社のおかげで、
「精神障害
の標的治療薬「Zelboraf(vemurafenib)」が予定
2011 年8 ⽉18 ⽇
2011 年8 ⽉4 ⽇
13
Sep.2011
Vol.12
よりも早く FDA の新薬承認を得た。この薬の有
行い、乳癌治療への Cs-131 の適用に向けた研究
効性を判定する検査(コンパニオン診断)も同時
開発を行っている。
に承認された。
Zelboraf は、切除不能または転移性の BRAF 遺
内視鏡で使⽤可能な
光⼲渉断層法を⽤いた
カテーテルを開発
伝子変異があるメラノーマの治療薬で、提携先の
ロシュグループと開発を進めていた。2009 年の第
Ⅰ相臨床試験で 81%もの奏効率を示し、第Ⅲ相臨
2011 年8 ⽉25 ⽇
床試験では全生存期間等が明らかに良好であった
ため早期終了。公開データによると、死亡率は
56%減少した。
食道や大腸における顕微鏡レベルの前癌の変化
乳癌の分子標的治療薬ハーセプチンの選択的治
を、これまでよりも詳細に3次元観察できるシス
療の判定に HER2 検査を行うように、特定の患者
テムを、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研
を治療できる新薬があっても、その患者を特定で
究者等が開発した。
きなければ意味がない。コンパニオン診断と新薬
開発された光学カテーテルは小さな圧電トラン
の開発とを同時に進めるのは困難だが、ロシュの
スデューサーを備え、カテーテルからレーザー光
診断部門との共同開発により、Plexxikon 社は当
を出して反射光をスキャンし画像化する、いわゆ
初から、コンパニオン診断を用いることが可能だ
る光干渉断層法(OCT)のカテーテル。
った。このことが今回の迅速な承認につながった。
特筆すべきはそのスピードで、従来の約 10 倍
にあたる毎秒 980 フレームの画像を実現。OCT
では、直接光により顕微鏡レベルの組織構造と病
IsoRay 社の
理学的な組織形態が、後方散乱光により表面下 1
メッシュ密封⼩線源療法、
ダヴィンチでの使⽤が普及
~2mm の組織や層構造が観察できる。標準的な
消化器内視鏡と組み合わせて使用でき、バイオプ
2011 年8 ⽉23 ⽇
シーのような「結果待ち」もなくなる。
食道癌または大腸癌と診断される患者は、世界
Intuitive Surgical 社の「ダヴィンチ」ロボット
中で年間約 150 万人にものぼる。このシステムは、
の適用は、デバイスの植込みにも広がりつつある。
動物モデルや摘出済みのヒト標本での使用に止ま
セシウム 131(Cs-131)製品を開発する IsoRay
っており、患者に使用するにはさらなる改善とテ
社によれば、初期肺癌患者に対する密封小線源メ
ストが必要なため、ハーバード大学医学部等と研
ッシュの植込みにあたって、ダヴィンチの使用が
究を進めている。
詳細は、『Biomedical Optics Express』8 月号
広く普及し始めているという。
IsoRay 社のメッシュは、Cs-131 を植込んだ密
に掲載されている。
封小線源療法に用いるもので、FDA の市販前届
Other Products
510(k)を完了している。Cs-131 はエネルギーが高
く、かつ半減期が 9.7 日と非常に短く、眼・脳・
大腸・頭頸部など肺以外の癌治療にも広く使われ
コヴィディエン、
PAD 治療デバイスの
臨床試験を精⼒的に展開
ている。メッシュ密封小線源療法は、早期肺癌の
再発率を劇的に減少させることができ、従来の放
射線療法に比べて被曝量も大幅に少ない。
2011 年8 ⽉8 ⽇
さらにダヴィンチを使用することで、侵襲面を
最小化できるので患者の早期回復が見込め、遠隔
コヴィディエンは腸骨動脈閉塞の患者を対象
操作なので術者の被曝も軽減できる。
にした 2 つの臨床試験を、欧州と米国の 20 施設
IsoRay 社は今年初めに 50 万ドルの資金調達を
14
Sep.2011
Vol.12
で開始した。
リスクも軽減できる。外来での処置も可能。
同社の末梢動脈疾患(PAD)治療用ステント 3
また、クック社は移植や血行再建術に使用する
血流モニタ「Doppler DP-M350」を発売した。
製品の効果と安全性をテストするための試験で、
DURABILITY
Iliac
試 験 で は 「 Protégé
この製品は、移植や血行再建後の血流の変化を
EverFlex」自己拡張型ステントと「Protégé GPS」
迅速に検出できるため、術者による遊離皮弁ミス
自己拡張型ニチノールステントを、VISIBILITY
を防ぐことが可能となる。血流提示ランプや音声
Iliac 試験では「Visi-Pro」バルーン拡張型ステン
確認機能により、血管の開存具合や血栓を継続的
トを評価する。
に監視することもできる。クック社は有名病院で
これら 3 種のステントは、胆管の悪性新生物へ
の実地使用を心待ちにしている。
の緩和療法として米国ではすでに利用可能だが、
コヴィディエンはこの試験によって、腸骨動脈の
PAD 治療にも有効であるとのエビデンスの積み
上げを図る。また、患者の複雑な病状に合わせて
どのステントを使用するべきかの判断材料を得た
Word カテーテル
いとしている。
さらにコヴィディエンは、PAD 治療後の血管再
(http://www.cookmedical.com/)
狭窄を研究する DEFINITIVE AR 臨床試験をド
イツで開始した。この試験は、薬剤溶出バルーン
Misonix 社、
(DEB)を使用する前にプラークとカルシウムの
除去を行った場合と、DEB のみを使った場合の治
療成果を比較するもの。コヴィディエンが買収し
た ev3 社のプラーク除去システム「SilverHawk」
創傷デブリードマン分野に
新たに参⼊
2011 年8 ⽉11 ⽇
と「TurboHawk」、メドラッド社のパクリタキセ
Misonix 社は創傷デブリードマン、脊椎手術、
ルを使用した DEB「Cotavance」が使用されてい
整形手術、神経手術、腹腔鏡手術などの治療用の
る。
血管内のプラークの種類と量は抗再狭窄薬の吸
超音波製品を開発している。同社は超音波骨切除
収に影響しており、事前にプラークを除去するこ
システム「BoneScalpel」に超音波創傷デブリー
とで、DEB の治療効果を上げられるものと期待さ
ドマンシステム「SonicOne」の技術を組み合わせ
れている。
ることで、外科の創傷デブリードマン分野に参入。
同分野は米国では償還対象となっており、
Misonix 社は外科治療の関連製品の市場展開をめ
クックメディカル、
新製品の発売ラッシュ
ざしている。
「BoneScalpel」は連続的な 22.5kHz の縦振動
2011 年8 ⽉9 ⽇
で骨を切断する。さらに骨壊死を防ぐためにジェ
ットノズルから洗浄液がブレードに向かって出さ
クックメディカルは、女性の膣口付近のバルト
れている。一方、軟部組織では弾性組織が振動刺
リン腺のう胞治療に使用するシリコン製バルーン
激を吸収するため影響を受けにくい。ブレードの
カテーテル「Word カテーテル」を発売した。バ
厚さはわずか 0.5mm で丸みを帯びており、正確
ルトリン腺のう胞の治療には抗生物質の投与やド
な骨切開が可能で周囲の組織の損傷も避けられる。
レナージ、バルトリン腺の摘出手術などがある。
「SonicOne」は細胞組織を保持したままで、組
このバルーンカテーテルは、一度のう胞を排出し
織特異的デブリードマン、壊死組織や沈着したフ
たあと、のう胞を開けたまま保持するため、二次
ィブリンの洗浄を行う超音波創傷治療システム。
感染のおそれを軽減できるほか、のう胞再生成の
22.5kHz の振動で創傷部に働きかけて、創傷部で
15
Sep.2011
Vol.12
の細胞破壊を促進する。また洗浄液の持続注入に
Intersect ENT 社の
より沈着したフィブリンを洗い出すことや、細菌
副⿐腔炎⽤の
薬剤放出インプラント
の成長を防ぐことが可能で、深部やポケット状の
創傷に有効。
2011 年8 ⽉22 ⽇
副鼻腔炎治療を専門とする Intersect ENT 社は、
SonicOne
慢性的な副鼻腔炎患者向けの薬物放出インプラン
ト「Propel」の市販前承認(PMA)を取得。
Propel は副鼻腔炎治療で初となる薬物放出イ
ンプラント。バネのような形状をしており、副鼻
BoneScalpel
腔の内視鏡手術後に炎症部に植込まれ、自己拡張
(http://www.misonix.com/)
して副鼻腔の開存を維持し、安全かつ効果的に抗
炎症ステロイド剤(フロ酸モメタゾン)を放出す
る。術後の再発率も非常に低く、長期的な治療結
MannKind 社の
果も良好。その安全性は米国で 205 人を対象とし
超速効型インスリン吸⼊器を
使った臨床試験が始まる
た臨床試験で証明されており、副作用や効果の面
でも、従来のステロイド剤の経口投与や局所スプ
2011 年8 ⽉15 ⽇
レーを凌駕している。
同社によると、副鼻腔手術は効果的ではあるが、
MannKind 社は、同社の 1 型、2 型糖尿病患者
この手術を受けた約 25%の患者が 1 年以内に炎症
向けの次世代型インスリン吸入器を使用した、超
が再発し再手術を受けていることから、Propel は
速効型のインスリン療法「Afrezza」について、
術後の結果も含め有効な治療だという。
2 つの臨床試験を進める。
全米発売に先駆け、この秋から試験的に地域を
Afrezza は 個 装 さ れ た 吸 入 剤 「 Afrezza
限定して販売される。
Inhalation Powder」と、吸入器「Afrezza Inhaler」
を組み合わせたもので、食事開始時に吸引すると
マシモ社、
SEDLine 脳波モニターの
CE マークを取得
急速に血流に乗り、健常者並みに 12~14 分でイ
ンスリンレベルはピークを迎える。
1 型糖尿病を対象とした 171 試験では、インス
2011 年8 ⽉25 ⽇
リンの持続投与を行っている患者に〈速効型のイ
ンスリン療法〉、
〈従来型の吸入器「MedTone」を
使用した Afrezza 療法〉、〈Afrezza Inhaler を使
マシモ社は脳機能モニター「SEDLine」の CE
用した Afrezza 療法〉のいずれかを行い、指標と
マークを取得し、同製品の優れた脳モニター技術
なる HbA1c レベルを 12 週間検査する。代表的な
を欧州の医療機関に広く提供する。
糖尿病治療薬「メトホルミン」で十分にコントロ
SEDLine は、4 つの脳波計から得られたデータ
ールできない 2 型糖尿病を対象とした 174 試験で
を 1 つのアルゴリズムに統合し、麻酔中の脳の活
は、プラセボと Afrezza の効果を 12 週間比較す
動をビジュアル化し、さらに鎮静度を表す同社独
る。これらの試験で、吸引にともなう肺の安全性
自の PSI 指標を提供する。リアルタイムに得られ
に関するデータを収集する。
るデータの範囲は広く、患者個々に適した滴定(麻
酔制御)を可能としている。また、4 つの脳波計


を使っていることから脳の両側の情報が得られ、

不均整な活動を即座に探知できる。
16
Sep.2011
Vol.12
欧州では TCI 法(Target Controlled Infusion:
変更に加え、制度への十分な予算措置がなされれ
血中の薬物濃度をリアルタイムで監視し、シリン
ば、より良い制度づくりに貢献するだろう」とし
ジポンプなどを用いて投与量を調節する方法)が
ている。
広く採用されている。また、鎮静度が急速に変化
Market Prospect
するプロポフォールなどの即効性鎮静剤の使用が
拡大していることから、SEDLine に対する期待度
は高い。
⽅向転換のための
M&A が増加、
新興国シフトが進む
2011 年8 ⽉8 ⽇
Walden Group がまとめた 2011 年 4~6 月期の
(http://www.masimo.com/)
最新の M&A に関するレポートによると、経済の
Administration
回復が緩やかであることや米国の財政が混乱して
いることから、医用技術の大手企業は最新鋭の技
術開発へ目を向けているという。エドワーズライ
510(k)デバイスは
フサイエンスは TAVI 用人工弁「Sapien」を展開
安全ではない!?
し、J&J、シンセス、ストライカー、ボストン・
2011 年8 ⽉1 ⽇
サイエンティフィックは新しい方向へ構造改革
中である。
米国医学研究所(IOM)は、現在の 510(k)制度
J&J はシンセスを 213 億ドルで買収し、高成長
の欠点を指摘し、新たな制度の構築を推奨するレ
&高マージンの領域をめざす一方で、コーディス
ポートを発表。
部門は DES ビジネスから撤退する。
510(k)は、リスク分類で中間のクラスⅡの医療
ボストンは組織の構造改革中で、世界中で
機器で、既存製品と「実質的同等性(substantial
1,200~1,400 人の従業員を削減する一方、中国で
equivalaence)」があると判断されるものを市販
は今後 5 年かけ 1,000 人を追加する予定。メドト
前に届け出て登録する制度だが、
「市販前に安全性
ロニックも自然成長と M&A による成長を見込ん
と有効性を調査する法的基盤に欠けている」と
でおり、中国での営業社員を増員する予定。
IMO は指摘。限られた資金は、クラスⅡの安全性
特にリードタイムに時間を要する循環器関連や
と有効性を保証する新たな「市販前承認と市販後
クラスⅢ以上の製品は、新興市場の中産階層をタ
調査」の枠組みづくりに活用すべきとしている。
ーゲットに、米国以外での発売をめざしている。
さらに、現在市場に出回っている 510(k)製品に
FDA の薬事承認の曖昧さもあって、米国での製品
関しては、安全性と有効性の調査を行っていない
発売は後回しになりつつある。
ことを理由に、それらの安全性と有効性は保証さ
診断分野の企業は、コンパニオン診断、分子診
れていないとし、とはいえ、
「510(k)デバイスは安
断、オーダーメイド医療などを指向しており、
全でないということでもない」と言葉を濁す。
Quest Diagnostics 社は遺伝子診断能力を高める
FDA は 7 月 29 日の声明で、IOM のレポートを
ために、ヒトゲノムを解読したバイオベンチャー
歓迎していると発表。
「510(k)は撤廃されるべきで
のセレラ社を 6.7 億ドルで買収している。
はなく、デバイスの調査制度を改善する試みや、
――――――――――――――――――――――
追加提案を受け入れる準備はある。FDA は IOM
編集室注:本文中、特に国名記載のない会社は、本社所在
地がすべて米国です。
からの指摘を数多く実践しており、これらの制度
17
Sep.2011
Vol.12
Kawanishi Hotline
前号の Medical Device Daily から、カワニシの社員が選んだ注目の記事をご紹介します。
1位
磁⼒で調整する脊柱側弯症⽤
インプラントデバイス〈7/18〉
通常は矯正器具の植込み後も器具の⻑さを調整す
る複数回の⼿術が必要だが、このデバイスは体外
から磁⼒で調整できるので外来診療でも可能。
 術後の調整は負担が大きい。患者は数カ月に 1 回
手術が必要で、侵襲は大きく感染リスクもともな
う。医療スタッフは手術室での加療、術後のフォ
ローと手間がかかる。供給側は、初回と同内容の
手術器械・材料をその都度準備する必要があり、
拘束時間やデリバリーの負担を考えると、商売と
して成り立たない。このデバイスは、三者三様の
負担を一気にクリアできる可能性がある。
(二神)
 疾患が成長期の女性に多く、手術跡による美容的
問題から日本でもニーズが高いと思う。ただ、自
社製品はロッドだけで、スクリュー等は他社製品
を使用している? ようにも見えるので、不具合
時の訴訟等の懸念はあるかもしれない。(岡本)
2位
SpineVision 社の可動性を維持した
脊椎治療デバイス〈7/7〉
4位
Early Sense 社の患者遠隔監視
システム、カナダでも販売承認〈7/14〉
 非接触なうえ、バイタルだけでなく、褥瘡防止の
ための体位変換の必要性や、転落の危険を警報で
察知できるという非常に有用な患者監視システ
ムであると思う。ただ、この情報だけでは信用度
に欠ける。転落警報に気づいて駆けつける間に転
落したら意味がない。どれだけ事前に察知できる
のかが問題。(真壁)
番外
硬・軟 2 種のロッドを組み合わせ、固定が必要な
脊椎部分の安定化と可動性維持の両⽅を実現。
注⽬のデバイスをピックアップ!
〈未掲載記事より〉
 気腹を維持する新型トロッカー「AirSeal」
SurgiQuest 社の「AirSeal Access System」は腹
腔鏡手術やダヴィンチで使用するトロッカー。電
気メス、レーザー等の使用時に出る煙を継続的に
排出する。また、気腹装置と連動して内部の圧力
を維持するので、挿入口に弁がなく、切除した組
織を取り出す際にも邪魔にならない。
(岡、藤岡)
 緑内障を治療するステント「CyPass」
Transcend Medical 社の「CyPass Micro-Stent」
は緑内障治療用で、線維柱帯に植込み、房水排出
を促進して眼圧を下げるデバイス。現在米国での
中枢試験と販売基盤の整備、海外での臨床試験に
取り組んでいる。(竹内、岡)
 脊椎を固定すると、固定していない上下の椎体が
金属と比べて弱いため、痛んでくることがしばし
ば見受けられる。強度に少し疑問はあるが、この
システムを用いれば、不安定箇所はしっかり固定
を行いながら可動性も実現でき、低侵襲術による
手術ができそうでおもしろい。(原田)
3位
近考えられたということに驚いた。日本の DPC
病院に導入すれば、単純に 2 日×施設数×症例数
×点数で計算しても莫大な金額になる。本当の医
療費の抑制策は、こういった 1 つひとつの改善策
から生まれるのではないかと感じた。(間中)
 患者の QOL 向上につながると思うが、患者によ
っては、術後すぐに退院させられることに不満が
出るかも。股関節全置換術で 2 日以内の退院とな
ると、術後感染の問題や在宅での術後管理の面か
ら、なかなか厳しいのではないか。(千羽)
股関節全置換術の新プロトコル
Fast Track で早期退院が可能に!〈7/7〉
従来は退院まで 4 ⽇以上かかっていたが、合併症
や副作⽤等もなく 2 ⽇以内の退院が可能になった。
 これまで何万例と行われてきていたのに、在院日
数を半分近く削減できるようなプロトコルが最
※
18
〈 〉は MDD の配信日、( )内は回答社員の名字
Sep.2011
Vol.12
[出典紹介]
BB&T (Biomedical Business &Technology)
医療・検査器材を中心に、海外医療の最新情報や将来動向をたんねんに収録。
医療制度、市場動向、保険者や病院団体の動向、学会、新技術、治験、FDA、
新製品、M&A、技術提携、大型契約、VIP インタビュー等。
HBQI (Healthcare Benchmarks and Quality Improvement)
品質や患者満足度向上のための診療や経営管理に関する最新情報、様々な事例紹介。
HRM(Healthcare Risk Management)
医療訴訟や医療機関におけるリスクマネジメントの最新情報。
CMA(Case Management Advisor)
入院から退院、在宅医療までのケース・マネジメントにまつわる様々な問題やその解決方法を収録。
倫理・法的問題、終末期問題、疾病管理、予防、労働衛生、専門能力開発等。
HCM(Hospital Case Management )
病院が抱える多くの問題を病院間で共有・解決するためのアドバイスやテクニック、
成功/失敗事例の紹介。効果的な退院計画、患者ケアの改善、経営戦略等。
MDD(Medical Device Daily)
医療・診断機器等に関する新技術・治験・開発、新製品に関する情報や
医療系学会の情報を掲載したデイリーニュース。
アドバイザリー・スタッフ――メリー・コーベット/宇野恵裕/福⼭健
エディトリアル・スタッフ――前島達也/佐藤崇/岩⽥斐/海野裕美/岡⼭⼤学 MESS/三宅優美/渡辺若菜
デザイン・フォーマット制作――川畑博昭
Sep. 2011 Vol.12
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[発⾏⼈]―――野瀬洋輔
[編集⼈]―――前島達也
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