ボーダフォン:金融サービス利用の拡大

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ACTION
ボーダフォン:金融サービス利用の拡大
イニシアティブの概要
ボーダフォンは 2008 年に Business Call to Action に加わり、主要な新興
市場において金融サービス利用の拡大、小規模ビジネスの促進、経済成長の推
進に貢献することを目的に、同社の送金プラットフォームを駆使した取り組みを開
始しました。このプラットフォームは、ケニア、タンザニア、フィジー、アフガニス
タン、南アフリカで M-PESA と呼ばれています。
ボーダフォンは、以下の目標を掲げています。
• ケニア、タンザニア、南アフリカ、フィジー、及びアフガニスタンにおいて
M-PESA の利用を拡大し、人々が安全に送金できるようにする。
ビジネスモデル
開発途上国では、基本的な金融サービスを利用できないことが経済の成長や発
展の妨げとなっています。現金ベースの経済には多くのリスクが伴い、貯金や送
金の安全を確保することは難しい状況です。専門家は世界の約 30 億人は銀行口
座を持っていないとしています。1 こうした人々の大半にとって、料金の支払いや
貯金、別の村に暮らす家族への送金は、時間と費用のかかる危険な作業となって
います。その一方で、開発途上国には既に約 20 億人の携帯電話利用者がいる
ため、携帯電話を利用した送金や決済のサービスは、公式の金融サービスを利用
していない人々にソリューションをもたらす可能性があります。
2005 年にボーダフォンは、英国国際開発省からアフリカの非銀行利用者層向
けの新たなアプリケーションの資金供与を受けました。そこでボーダフォンはこの
アプリケーションのパイロットプロジェクトを、世帯の 70%以上は非銀行利用層で
ありながらも多数の人が携帯電話は利用しているケニア 2 で実施することを決めま
した。このプロジェクトの目的は、金融サービスは利用していないものの携帯電
話サービスは利用している低所得者層向けに、携帯電話を使った価値あるサービ
スを提供することにありました。
アプリケーション開発から 2 年後に、ボーダフォンはケニアの携帯電話事業者
であるサファリコムとの提携により、SMS 技術により基本的な携帯電話で利用す
ることのできる送金サービスを開始しました。M-PESA は、本来はマイクロファ
イナンス利用者によるローン返済の支援サービス用に開発されたものですが、す
ぐに一般的な送金サービス向けに適応化されました。
送金を簡単かつ安全に行うためのシステムである M-PESA(
“Pesa”はスワヒ
リ語でお金の意味)のコンセプトに基づき、サファリコム認定の M-PESA 代理店
1“Mobile Banking: From Concept to Reality,”Consultative Group for
Advancing the Poor, (June 25, 2009)
検索先サイト:http://www.cgap.org/p/site/c/template.rc/1.26.10806/
2Mwangi S. Kimenyi and Njunguna S. Ndung’
u. “Expanding the
Financial Services Frontier: Lessons from Mobile Banking in Kenya,”
Brookings Institution (October 16, 2009)
検索先サイト:http://www.brookings.edu/articles/2009/1016_mobile_
phone_kimenyi.aspx
の全国ネットワークを構築することによってプロジェクトはスタートしま
話会社との提携を模索しています。例えばケニアではサファリコムと、
した。M-PESA サービスを利用した人は、まずサファリコム認定の
タンザニアと南アフリカではボーダコムと、アフガニスタンではロシャ
M-PSEA 代理店を訪れて口座を開設し、
加入者認証モジュール
(SIM)
ンとの協力を進めているところです。
カードを作ります。口座を開設したら電子マネーを購入し、携帯電話
の M-PESA システムを介して自身の電子口座に預金しておきます。
新たな市場においてボーダフォンは、システムの体系的な構築方法
テキストメッセージの預金通知が携帯電話の利用者には送られ、この
を記したベストプラクティスガイドを携帯電話会社側に提供し、携帯
お金は必要になるまで口座に入れておくこともできるし、誰かに送金
電話会社との緊密な協力によって送金サービスアプリケーションの携
することもできます。また随時 M-PESA の登録代理店や ATM で電
帯電話会社サービスへの組み入れを図っています。ボーダフォンは技
子マネーを現金化することも可能です。
術支援だけでなく規制問題に関する支援も行い、他の市場でのベス
トプラクティスのソリューションを伝えています。更にサービスの代理
ケニアではこのサービスが急速に普及しました。M-PESA の開始
店の経営者の募集や研修も支援しています。ただし代理店になろうと
からわずか 14 カ月で利用者数は 270 万人に達し、約 3,000 店の
する起業家(エアタイム(通話料金のチャージ)の販売業者や小売
M-PSEA 代理店が開設されたのです。このシステムは、携帯電話、
店の経営者など)は、マネーロンダリングやテロリスト対策に関する
電話網、SIM を使って、従来の銀行商品には適さないと考えられて
試験に受からない限り、代理店の許可を受けることはできません。
いる低所得者層に金融サービスインフラを提供するためのものです。
口座開設費は無料であり、口座の最低残高に関する要件もなく、月
代理店が潜在顧客にサービスを販売し、既存顧客のサポートを行う
間手数料や最低取引件数も設定されていません。このサービスでは、
仕組みになっています。代理店はその対価として販売や顧客サポート
手数料なしで預金をしておいて必要に応じて決済ができ、送金や引き
の手数料を受け取り、また取引(代理店での預金、預金の引き出し)
出しの手数料も少額に抑えられています。
の登録や処理に関する料金も受け取るのです。こうした取引は、携帯
電話会社によって密接にモニターされます。
イニシアティブの推進方法
ケニアでのパイロットプロジェクトの成功から 4 年後に、ボーダフォ
送金や決済サービスなどの基本サービスに加えて、料金や学費の
ンはこのサービスをタンザニア、南アフリカ、フィジー、及びアフガ
支払い、ローンの支払いサービスなどの追加サービスも提供されて
ニスタンでも展開しました。現時点で 1,850 万人がこのサービスに
います。 更に企業はボーダフォンの送金システムを使って給料を支
加入し、送金サービスを利用しています。ボーダフォンはこのサービ
払ったり、融資の返済を行ったりもできます。
スを更に別の市場でも行うことを計画しており、関心を示した携帯電
ボーダフォンの送金ビジネスの事業運営モデル
M-PESA
電子マネー
2. 顧客 C(送金者)は
店舗から現金で
電子マネーを購入
3. 顧客 C は電子マネーを
顧客 D に送金
2a. M-PESA により
4a. M-PESA により
顧客の口座に
代理店の口座に
送金される
送金される
顧客 C の
口座
代理店 A の
口座
代理店 B の
口座
4. 顧客 D(受け取り人)は
代理店で電子マネーを
現金と交換
顧客 D の
口座
1. & 5. M-PESA の電子マネー口座の
金額と現金の金額の照合
現金
M-PESA 銀行口座
1. 代理店 A が M-PESA の銀行口座に
現金を預託し、電子マネーを購入
6. 代理店 B が M-PESA の銀行口座から
現金を引き出し、電子マネーを減額
資料:Nick Hughes 及び Susie Lonie,“M-PESA: Mobile Money for the“Unbanked”Turning Cellphones into 24-Hour Tellers in
Kenya (MIT Policy Innovations, Winter & Spring 2007)
Innovations in Action: ボーダフォン
成果
ボーダフォンの送金プラットフォームは、既にかなり普及しています。合計で 1,850 万人以上がこのプラットフォームの登録ユーザー
として、毎月総額で 3 億 5,000 万ドル以上を送金しているのです。
ビジネスへのインパクト
ボーダフォンの送金サービスは、顧客を維持し、既に飽和状態の市場
においてボーダフォンの提携事業者を差別化するのに役立っています。
このサービスは莫大な収益を上げています。 例えばケニアでは、
2009 年の営業利益の増加に M-PESA による増益が貢献し、サファリ
コムの 2010 年の財務諸表によると、M-PESA は 9,190 万ドルの収
益(75 億ケニアシリング、前年の倍以上の収益)をもたらしています。
タンザニアでも堅調な成長の可能性を示し、2009 年から 2010 年に
かけて平均取引件数が月間 19%も増加し、既に加入者数は 500 万人
近くに達しています。
収益性だけでなく顧客の生活水準の改善につながるイノベーションも
もたらされるため、顧客のボーダフォンのネットワークや商品に対する忠
ボーダフォンは、欧州、中東、アフリカ、ア
誠度も高まっています。同社の送金サービスはボーダフォンの関連会社
ジア太平洋、米国で大きなシェアを誇る世
のネットワークを使い続けようという気持ちを利用者に起こさせている
のです。
界の大手携帯通信会社です。
このボーダフォンの送金サービスの成功によって、他の携帯電話事業
者も同様の送金サービスを世界中で始めています。
開発へのインパクト
ボーダフォンの送金サービスは、ミレニアム開発目標の 1(貧困と飢
餓の撲滅)の達成に向けて行われています。
ボーダフォンは、低費用の金融サービスの利用を促進し、雇用機会
の創出を促進することによってミレニアム開発目標の 1 の達成に貢献し
ています。2009 年〜 2010 年には、1,400 万人以上の人々がボー
ダフォンの送金サービスを利用しました。平均取引額は約 20ドルで、
昨年は総額で 36 億ドルがこのサービスを介して送金されています。調
査によると、1 取引当たり 3 時間以上の時間の節約と 2ドル 59 セン
ト(200 ケニアシリング)の費用削減が達成されているとのことです。
このサービスを利用すれば学費や料金などの送金のために相手を訪問
する手間が省けるからです。3
このサービスは M-PESA サービスを利用できる市場において多数
の人々が経済機会や職を得るのにも役立っています。例えばケニアで
は、現金化のサービスを行う代理店が 18,000 店以上も設立された結
果、約 3 万人の雇用が新たに創出されました。店舗には通常の商品や
サービス以外に M-PESA のステーションも設置され、そこで利用者は
送金されたお金を引き出すことができます。聞き取り調査された店舗の
60%が、M-PESA が主な収入源になったと回答しており、また最低所
得の事業者の 13%以上が、収入が増えたと答えています。貧困層支
援協議グループ(CGAP)が行った調査では、M-PESA サービス利用
者の最高 30%が所得の増加を経験しているとされています。4
3 “FinAccess National Survey 2009,”FSD Kenya, June 2009
検索先サイト:http://www.fsdkenya.org/finaccess/documents/09-06-10_FinAccess_FA09_
Report.pdf
4 Olga Morawczhynski and Mark Pickens,“Poor People using Mobile Financial Services,”
Consultative Group for Advancing the Poor, August 2009
検索先サイト:http://www.cgap.org/p/site/c/template.rc/1.9.36723/
Innovations in Action: ボーダフォン
主な成功要因
次のステップと波及効果
適切な規制の枠組み
ボーダフォンは、Business Call to Action
ボーダフォンとその携帯電話事業者は、送金サービスの成功に向けて規制当局(中
イニシアティブを通じて送金プラットフォームの
央銀行その他の政府機関)と協力して適切な規制の枠組みの構築を進めています。
利用を更に拡大することにしており、次の数年
各国の規制当局がボーダフォンの送金サービスの機能方法やマネーロンダリング・テロ
間で以下を達成することを目指しています。
リスト対策について十分な説明を受けることが重視されているのです。例えば各国の
携帯電話会社は、マネーロンダリング対策担当者を配備し、犯罪の発見方法、取引の
利用の拡大
監視方法、疑わしい行為の報告方法について店舗を指導しています。
2010 年にボーダフォンは送金サービスの利
用を更に拡大し、本年後半に更なるサービスの
組織化の成功
開始について発表する予定です。
ボーダフォンの成功要因の 1 つは、実際に送金サービスを行う店舗に研修を受けさ
せ、代理店として認定したことにあります。サファリコムはエアタイム販売業者のネット
国際送金の簡易化
ワークを既に確立していました。そのため同社の多数の販売業者の店舗が研修を受け、
2009 年〜 2010 年に、ボーダフォンは英
代理店として認定されました。大半のエアタイム販売業者は取扱商品の拡大を望んで
国とケニア間の国際送金システムの実験を行
いたため、ボーダフォンの送金サービス顧客への接客に大きな関心を示したのです。
い、現在の国内送金に加えて国際送金サービス
を実施できるかどうかを評価しました。同社は
プロセスの透明性
国際送金の可能性の調査を更に継続するとして
規制当局や顧客などの主なステークホルダーと緊密に協力し、定期的に連絡を取り
合うことによって、
ボーダフォンはサービス運営の透明性を確保しています。ボーダフォ
います。
ンと提携する携帯電話事業者は、送金サービスの窓口となる店舗に対して厳格なセキュ
人道支援の提供
リティプロセスを実施することを求めています。またボーダフォンも、提携する携帯電
コンサーン・ワールドワイドとの試験的プロ
話事業者に送金サービス専任の顧客サービス部門を設けるよう求めています。こうし
ジェクトを通じてボーダフォンは、ケニアの選
た措置は顧客の信用を得るために必要不可欠です。
挙後に暴力の被害を最も受けた女性に対し、
M-PESA を使って人道支援金を送るという取り
組みを行いました。同社はこの取り組みから得
価格設定の透明性
送金手数料は、地元の携帯電話事業者の全店舗のネットワークで均一価格とされて
おり、その価格が顧客に明確に伝えられています。さらに登録料や月間手数料は不要
なため、店舗はサービスへの加入を潜在顧客に勧めやすくなっています。
られた教訓を今後のサービスに活かしたいと考
えています。
銀行との提携
ケニアではサファリコムがエクイティバンクと
提携し、M-KESHO と呼ばれる新サービスの
提供を開始しました。M-KESHO は、サファリ
コムの顧客がその M-PESA 口座を使って利用
できるエクイティバンクの有利子貯蓄口座サー
ビスです。
Business Call to Action に関する
問い合わせ先
Email: [email protected] ■ Tel: +1 212 906 5695 ■ Web: www.BusinessCalltoAction.org