46.凍結吸引と融解通水によるVOC汚染源の浄化方法 ○伊藤譲( 摂南大 学)・ 嘉門雅史( 京都大 学)・ 日置和昭( 不動建 設 ) 野村忠明(錦城護謨)・伊豆田久雄(精研) 1.背景 工場等から 漏出した VOC 原液は地下 深くま で浸 透して地下 水と土 壌を汚 染する.VOC は密度が 水より大き いため ,粗粒 土地盤では 容易に 地下水 面下に至り ,水と 分離し て土壌間隙 に滞留 する. また,細粒土 地盤にお い ても,VOC は侵入抵抗 の小さいと ころを 探して 地下深くま で浸透 する.こ のようにし て,土 壌間隙 に入り込んだ VOC は,いわゆる DNAPL と呼ば れる地下水 ・土壌 の汚染 源であり, 徐々に 溶け出 して長期間 に渡り 地下水 を汚染し続 ける. 汚染源 が存在する ならば ,汚染 された地下水をどれだけ汲み上げても,汚染源自体が取除かれない限り根本的解決とはならない. この解決手 段とし て,凍 結吸引と融 解通水 による 浄化技術が 提案さ れた. この方法 は VOC と水 との凝固点 の違い ,およ び地盤が凍 結融解 後に透 水係数の増 大する 効果に 着目したも のであ り,そ の手順は図 1 に示すとおりである. まず,準備 工事と して汚 染地盤に, 所定間 隔で凍 結管および 吸引回 収管を 打設する. 工事前 半で は,凍結 管に冷却 液を循 環するなど して汚 染地盤 を凍結する .汚染 地盤全 体の凍結が 確認さ れたら , ポンプ吸引 等により DNAPL のみを選択 的に除 去回収する .工事後 半で は,凍結管 に温水を 循環 さ せて凍結地 盤を融 解させ る.凍結融 解後に は地盤 の透水係数 が増大 してい るので,ポ ンプア ップ等 による通水 により 汚染源 周辺の高濃 度汚染 域を洗 浄すること ができ る.本 報告は,こ の一連 の方法 による土壌洗浄技術の妥当性を検討するために実施した実験例を紹介するものである. 2.凍結吸引によるDNAPL溜まりの回収実験 この実験では, 提案技 術の前半部 である 「凍結 吸引」の効 果を確 認する ため,DNAPL と水とを 冷却液循環 冷却液循環 ヒータ加熱 温水循環 温水循環 給水 ポンプアップ 給水 吸引管 地下水位 地下水位 凍結土 凍結融解土 吸引 高濃度汚染域 高濃度汚染域 VOC原液 難透水層 難透水層 (2) 融解・通水 (1)凍結・吸引 図1 VOC汚染源浄化技術の概要 含む模擬汚 染土を 凍結し て,同時に 吸引す ること で DNAPL のみを選択 的 に取除くこ とを試 みた. 2.1 実験方法 DNAPL 溜まりを 構成す る土壌とし て,粗 粒土, 細粒土の2 種類を 想定し て,表1に 示す硅 砂と 藤森粘土を 用いた.DNAPL としては,VOC に類似した特性 を有する PF5080(3M 社製,以下「P 剤」)を用い た.試料土 は湿潤状態 でP剤 と混合 した.つ まり ,硅砂 では 水浸させた 試料の 水分を 紙 タオルで拭った状態とした.藤森粘土では PL 以下の w=19%の含水比に調整した. 実験容器は ,図 2 に 示 すとおり,t=10mm,ID=100mmの 表1 アクリル円 筒の底 部に t=2mm のアル ミ板を取 り つけたもの で 試料土の物性値 ある.吸引 パイプ は,ID=5mm,t=1mm のテフ ロンチュー ブ ρs(g/cm3) 粗砂 砂分(%) 中砂 細砂 シルト分(%) 粘土分(%) LL(%) PL(%) にφ1mm の孔 を 5mm 間隔で 80mm まで開 け て,その周 囲を 不織布で覆 ったも のであ る.また,パイプ 内には 線ヒーター を 凍結防止の ために 設けた .試料土は,実験 容器の底 から 100mm の高さまで を5層 に分け て,φ30mm,質量 500g のロッドを 試料土表面 より自 由落下 させて締固 めた .次に ,P剤約 100ml 珪砂 2.65 0.0 98.4 1.6 0 0 ― ― 藤森粘土 2.69 ― ― 2.8 70.2 27.0 46.4 24.8 を試料土の表面より流し込んだ.その後,蒸留水 を試料土表面より流し込み,表面に余剰水が浮き 試料土 吸引パイプ ID=5mm 上がるまで補充を行い,模擬汚染土壌とした. 実 験 で は, 模 擬 汚染 土 壌を 容 器 ごと , −15℃の ID=100mm 冷却液中に浸して,全体を凍結した.その後,ア スピレーターにて吸引を行った.吸引開始直後に 不織布 アクリル容器 は,吸引パイプ内の氷を融解するため,ヒーター を加熱した.25∼30 分間の吸引の 後,トラッ プ に 断面図 t=10mm 吸引 ID=5mm φ=1mm ヒーター線 溜まった液体を特定して,その重量を測定した. 吸引パイプ断面 凍結 試料土 ID= また,実験前後の容器全体の重量より,気化して 取除かれた液体の重量を求めた.さらに,実験後 h=100mm DNAPL DNAPL の試料土の含水比,体積と重量より残留する t=2mm アルミプレート DNAPL 量を推定した. 実 験 条 件 を 表 2 に 示 す .C1,C3 は 凍 結 後 に 吸 図2 平面図 凍結吸引実験容器 引 を 行 い , 比 較 実 験 と し て ,C2,C4 で は 凍 結 な しで吸引のみを行った. 2.2 表2 実験結果 (1)砂質土の場合 実験結果を図3に示す.ま ず,硅砂試料については,凍 結を行った 場合(C1)には, P 剤が液体状態 で 43%回 収さ 凍結吸引実験条件 初期条件 凍結の 加えた 3 有無 ρd(g/cm ) w(%) DNAPL量(g) C1 有り 1.27 4.9 179.7 珪砂 C2 無し 1.21 5.1 181.9 C3 有り 0.92 20.2 176.3 藤の森 C4 無し 0.92 20.3 177.7 試料土 加えた 水量(g) 210.8 210.8 121.9 120.8 より 蒸 発 した 量が 25% と推 定 さ れ, 合計 で 68% が 除去 さ れて い る. 次 に ,凍 結を 行わない場 合(C2)は,P 剤が液体状態で 62%回収されて ,蒸発に より 20%と合計 82%除去された .しかし ,C2 では液体の P 剤と同時に 加えた 水量 の 82%相当が ト ラップ内に 確認さ れた.実験はセル 内の閉 鎖条件で行 ったた め,吸 引水量には 限界が あるが,実地盤で は豊富 な地下水が 供給さ P剤除去率(%) により供試体から直接またはトラップ内 100 0 80 20 60 40 40 60 20 80 0 100 C1 C2 C3 液体としての確認 吸引蒸発量 P剤残留率(%) れた.また,実験前 後の 重量差より ,吸 引 C4 残留量 C2:P 剤の他に水が 172.59g(加えた量の 82%相当)回収 図3 DNAPLの除去率・残留率 れるので限 界がな い.こ れより,凍結 地盤 を吸引すると,単に吸引を行うよりも DNAPL が選択的に回収されることが示された. (2)粘性土の場合 次 に, 粘性 土 試料 につ いて 凍結 を行 っ た場 合( C3)は,P 剤は トラ ッ プ内 に液 体状 態 では 認め られなかっ た.し かし, 重量差より 蒸発に より 32%除去されたと 推定さ れた.これ に対し て,凍 結を行わな い場合(C4)には,蒸発に より僅 か 2%除去 されたに すぎ ない.これは,C4 では吸引 によってパ イプ周 囲の粘 土が圧密さ れるた め,水 とP剤の蒸 発量は 時間経 過により急 減する が,凍 結を伴う場 合は, 間隙が 圧密により 潰れる ことな く,間隙に 連続的 に存在 する液体状 態の P 剤の みが吸引されたためと考えられる. 3. 融解通水による高濃度汚染域の浄化実験 ここでは,提案 技術の 後半部であ る「融 解通水 」の効果を 確認す るため ,モデル土 槽を用 いた実 験を行った. 3.1 実験方法 給水タンク 表 1 に示した藤森 粘土 に所定濃度 の NaCl 水溶液を加 えて, 含水比 約 60%に調整する. 水頭差 h=80cm そして,図4に 示す直径 60cm×高さ 80cm の 荷重 P 荷重 P 中心パイプ 土槽に投入 して, 中央お よび側面 の 4 箇所よ 凍結板(4箇所) り排水可能 な条件 で,荷 重 30kPa で予圧密を 水分移動 行った.予 圧密終 了後,載荷重を 20kPa とし 凍結板 て,土槽中央の給排水パイプを給水タンクに 接続して土槽内に通水可能な状態とした. 実験条件の詳細は表3に示すとおりであ 排水・真空吸引 排水トラップ 排水ビン (真空吸引時) (融解時) 平面図 る.凍結は土槽壁面の凍結板に冷却液を循環 させて,側 面部よ り中心 方向へ凍結 させた(表 3・C12).凍結の進 行は 土槽底 面と中 心の熱 図4 ドレーン材(排水材4箇所) 断面図 融解通水実験土槽 電対により 確認し た.測 定温度より ,凍結 面が土 槽中心 表3 部に達したと確認された時点で冷却を中止した. № 凍結状態 初期高さ(cm) 初期含水比(%) 初期NaCl濃度(%) 凍結温度(℃) 凍結時間(h) 融解温度(℃) 融解通水(h) 吸引圧力(kPa) 吸引通水(h) 融解時は中 心パイ プに 40℃の温水を流し て,27 時間 の融解を行 った. その後 ,3 時間の 真空吸引 を行 った. なお,融 解および 真空吸 引時は,凍結時と 同様に 給水タ ンクから通水可能とした.また排水は側面に設置した PBD(t=4mm×b=5cm×h=45cm)よ り 行 っ た . な お , 比 較 実 験 と し て , 凍 結 を 伴 わ な い 真 空 吸 引 の み の 実 験 (表 3・C0)を行った. 実験結果 融解・真空 吸引時 におけ る排水の NaCl 濃度 は,初期濃 度(2%)の 3∼6 割であった .融解・ 吸引時の通水によって,ある程度は薄められて いるが,予 想以上 の高濃 度の NaCl 溶液が回 収 された.ま た,融 解時の 排水 41.0L と真空吸 引 による排水 10.0L とを合計すると 51.0L であ 80 60 40 底面から25cm 20 初期 0 あり,供試体では全体的に含水比は低下した. 0 10 20 土槽中心からの距離(cm) 図5,6に 実験後 の供試 体の NaCl 残留率を 図5 示す.凍結 融解を行 わな い C0(図5)では洗 浄 付近まで洗浄された.これは,凍結融解後に細 粒土の透水性が改善されて,通水時に間隙中の NaCl が洗い流され易 く なったと考 えられ る.真 空吸引時の 排水量 を C0 と C12 とで比較す ると , 1.5L(6 時間)と 10.0L(3 時間)であり, 透水係 数 は約 13 倍増加していた. 4.まとめ 凍結吸引と融解通水によるVOC汚染源の浄 30 NaCl 残留率(C0) 120 100 NaCl残留率(%) C12( 図 6 ) で は 土 槽 中 心 部 よ り 約 10∼ 15cm C12 あり 55 58.2 2 -3→-12→-9 288 40 27 -50 3 100 る.この間 の給水 タンク よりの補給 は 45.8L で 領域が認められなかった.凍結融解を行った C0 なし 55 59.7 3.6 ― ― ― ― -80 6 120 NaCl残留率(%) 3.2 融解通水実験条件 80 60 40 底面から25cm 初期 20 0 0 10 20 土槽中心からの距離(cm) 図6 NaCl 残留率(C12) 30 化技術に関して実験が行なわれた.これまでの 主な結果は次のとおりである. (1)地 盤の凍 結後に吸 引を行うと ,凍結 を行わ ない場合と 比較し て,VOC が選択的 に回収で き る ことが示さ れた .(2 )凍結融解を 行うと ,凍結 を行わない 場合と 比較し て通水が容 易にな ること が 示された. つまり ,従来 の原位置洗 浄にお いて, ポンプアッ プ等を 単独で 実施するよ りも前 処理と して凍結融解を行うと洗浄効率が大幅に改善されると考えられる.
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