ポピュラー音楽に用いられるコード進行の時代変遷についての

ポピュラー音楽に用いられるコード進行の時代変遷についての一考察
A study for evolution of chord progression on popular music
櫻井 美緒 1,桑原 浩志 1,三浦 雅展 2
Mio Sakurai1 Hiroshi Kuwabara1 and Masanobu Miura2
1 龍谷大学大学院理工学研究科,2 龍谷大学理工学部
1
Graduate school of Science and Technology,Ryukoku University
2
概要
Faculty of Science and Technology,Ryukoku University
ポピュラー音楽の時代変遷を調査するために,コード進行データベースを構築し,その応用とし
て音楽音響信号に対するコードを推定している.
MIDI 楽曲からコード名を取得し,
孤立和音の出現頻度,
2 および 3 和音から成るコード進行の出現頻度をデータベース化し,時代変遷を調査している.調査の結
果,各年代のコードの種類数や出現数に特徴が認められている.また,構築されたコード進行データベー
スを用いた音響信号からのコードの推定では,PCP のパワーを算出し,コード進行データベースを用い
た机上シミュレーションを行なった結果,コード進行データベースを用いたコード進行の推定の有効性が
確認されている.
Keyword : コード進行,時代変遷,MIDI 楽曲,データベース,PCP
1 はじめに
であることが理由である.この問題点に対して,
近年,MIR(Music Information Retrieval)の分野で
「コード進行データベース」を用いてコードの自
は,ハミング検索,ビートトラッキング,自動採
動推定を試みた研究[4]があるが,用いられたコー
譜[1],楽譜追跡[2]といった研究が盛んに行なわれ
ド進行は音楽理論書に書かれた多様なコード進行
ている.これらの研究の応用として,楽曲構造の
の寄せ集めであり,それぞれのコードまたはコー
一つと言える和音(コード)進行に関する時代変
ド進行の使用頻度が用いられておらず,認識精度
遷の調査が先行研究として行なわれているが[3],
に課題が残っていた.
膨大な楽曲数の波形情報から作成されたタグ情報
そこで本研究では,MIDI 楽曲から計算機を用い
のデータセットを使用しているため,データセッ
てコード進行の自動抽出を行ない,それらのデー
トに含まれるタグ情報のみしか使用できず,年代
タベース化したコード進行の情報から時代変遷の
とともにコード進行が変化していないという結果
調査を行なう.また,音響信号を用いて PCP を算
が得られてはいるものの,更なる調査が望まれる.
出し,コード進行データベースを用いて算出した
また,データベース構築に使用された波形信号が
パワーからコード進行データベースを用いたコー
提供されていないため,このデータに対する追試
ド進行の推定を行なう.コード進行データベース
を行なうことができないという問題もある.
の作成により,楽曲の時代変遷の調査やデータベ
一方,MIR 分野の研究として,単一楽器や楽曲
の音響信号からコードの自動推定は既に先行研究
ースを使用したコード名の推定への応用すること
が期待できる.
が行なわれており[4-5],Web 上で楽曲構造の自動
解析結果を表示するサービスにも運用されている
[6].しかしそのサービスでは,楽曲構造における
2 コード進行の時代変遷に関する調査
2.1 調査の方針
自動推定誤りが発生しているためサービス上での
本研究では,楽曲で用いられるコード進行の時
ユーザによる解析誤りの訂正が行なわれており,
代変遷を調査する.そのためには,専門家によっ
そもそも正確な自動推定が行なえているとは言い
てハンドラベリングされた大量のコード名を含む
難い.これは,入力信号が音響波形であるためノ
楽曲データを使用し,コード名の抽出を行なうこ
イズが含まれやすく,PCP(Pitch Class Profiles)[7]
とで,コード進行の種類数や出現数がどの程度変
やクロマベクトルなどの手法を用いても,クロマ
化したかを確認する必要がある.これらの変化を
群の組み合わせから適切なコード名の決定が困難
時代ごとや全年代に対して比較することで,ポピ
ュラー楽曲のコード進行の時代変遷について調査
る.一方,2 コード進行の場合,全パタン数は 420
できる.
×420=176400 であるが,調査結果からはそれよ
りはるかに下回るパタン数となった(1960 年代は
2.2 用いる MIDI データ
0.3%,2000 年代では 6%)
.3 コード進行でも同様
本研究で用いる MIDI(Musical Instrument Digital
であった.よって,コード進行は時代と共に増加
Interface)データは,標準的な MIDI データ(SMF:
していることが確認できた.とくに,全ての年代
Standard MIDI File)を拡張した,楽曲の発表年月日,
と 2000 年代で比較すると,2000 年代にて使用さ
コード名,ジャンルなどの情報が格納可能な XF
れなくなった孤立コードが 10 通りあることもわ
フォーマットとする[8].また,ミュージックノー
かる.
ト社が運営していた Web サイト「MIDIPal」で取
り扱われていた「ジャカジャン(XF フォーマット
準拠)」のポピュラー楽曲であり,楽曲の発表年,
C:
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
コード名,調号の情報が格納されている 1960 年代
図 1 各音度のコード(トライアド)の例
から 2000 年代の MIDI データ計 5490 曲を使用し
た.本研究で使用した各年代の楽曲数を表 1 に示
表 2 音度の一覧
す.
表 3 コードタイプの一覧
音度
1Ⅰ
2 Ⅰ#
3Ⅱ
4 Ⅱ#
5Ⅲ
6Ⅳ
7 Ⅳ#
8Ⅴ
9 Ⅴ#
10 Ⅵ
11 Ⅵ#
12 Ⅶ
表 1 各年代の楽曲数
年代 1960 1970 1980 1990 2000 合計
64 148 241 1299 3738 5490
楽曲数
2.3 コード進行の算出方法
本研究では,コード進行を抽出する際にコード
の根音を示す「コードルート」と特定の音を主音
とする音階を決める調を示す「調号」から音階の
各段階を表す 12 種類の「音度」を算出する.各音
度のコードの例を図 1 に示す.図 1 には,ハ長調
のⅠ度からⅦ度までのコード(トライアド)の例
コードタイプ
Maj
19 dim7
Maj6
20 7th
Maj7
21 7sus4
Maj7(#11) 22 7♭5
Maj(9)
23 7(9)
Maj7(9)
24 7(#11)
Maj6(9)
25 7(13)
aug
26 7(b9)
min
27 7(b13)
min6
28 7(#9)
min7
29 Maj7aug
min7♭5
30 7aug
min(9)
31 1+8
min7(9)
32 1+5
min7(11)
33 sus4
minMaj7
34 1+2+5
minMaj7(9) 35 cc
dim
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
を示している.このような算出した「音度」とコ
ードの種類を表す 35 種類の「コードタイプ」から
コード名を抽出し,コード名の出現順から,孤立
コード,2 つのコードからなるコード進行(以降,
2 コード進行)
,3 つのコードからなるコード進行
(以降,3 コード進行)についての計 3 パタンを
おけるコードタイプの一覧を表 3 にそれぞれ示す.
2.4 コード進行の種類数の結果
各年代におけるコード進行の種類数の変化を調
査するために,コードの種類数を算出した.その
コードまたはコード進行の種類数
求めた.音度の一覧を表 2 に,XF フォーマットに
100000
孤立コード
10000
1082 1329
1812
535
189
12446
4656 5545
3209
1000
59294
47912
2つのコードから成るコード進行 19559
10631
3つのコードから成るコード進行
324
210
375
385
108
100
10
結果,各年代におけるコード進行の種類数を図 2
に示す.孤立コードに関しては,1960 年代から
2000 年代までに出現した種類数は 108 種類から
375 種類まで増加している様子がわかる.全パタ
ン数は 12×35=420 であり,全 MIDI ファイルで
はそのうちの約 89%が使用されていることがわか
1
1960
1970
1980
1990
2000
全て
年代
図 2 各年代における孤立またはコード進行の種
類数
2.5 コード進行の出現数の結果と
100%
90%
2コード進行の出現頻度
各年代におけるコード進行の出現数の変化を調
査するために,コードの種類数(異なり数)を算
出した.1960 年代,および 2000 年代における孤
立コードの種類数の例を図 3 と図 4 に,1960 年代
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
および 2000 年代における 2 コード進行の出現数の
1つ目
Ⅴ Ⅳ Ⅰ Ⅰ Ⅳ Ⅴ Ⅴ Ⅵ Ⅰ Ⅰ Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅴ Ⅵ# Ⅵ# Ⅰ Ⅳ Ⅰ Ⅱ
Maj Maj Maj Maj Maj 7th min min 7th Maj Maj Maj Maj 7th Maj Maj Maj Maj min 7th
例を図 5 と図 6 に,1960 年代および 2000 年代に
2つ目
Ⅰ Ⅰ Ⅳ Ⅴ Ⅴ Ⅰ Ⅵ Ⅴ Ⅳ Ⅵ# Ⅰ Ⅴ Ⅳ Ⅰ Ⅰ Ⅳ Ⅰ Ⅰ Ⅴ Ⅴ
Maj Maj Maj Maj Maj Maj min min Maj Maj min 7th Maj min Maj Maj 7th 7th Maj 7th
おける 3 コード進行の出現数の例を図 7 と図 8 に
それぞれ示す.孤立コードに関しては,基本的に
は「ⅠMaj」,「ⅣMaj」,「ⅤMaj」が使用されてい
コード名
図5
るが,時代が進むにつれて 7th コードの使用が増
行に関しては,1960 年度と比較して 2000 年度で
は「Ⅴ# Maj → Ⅵ# Maj」のような和声的なシン
プルな進行ではないコード進行のパタンが増加し
100%
90%
2コード進行の出現頻度
加していることが確認できた.また,2 コード進
1960 年代における 2 コード進行の出現数
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
ていることが確認できた.さらに,3 コード進行
1つ目
Ⅴ Ⅳ Ⅰ Ⅳ Ⅰ Ⅴ# Ⅴ Ⅵ# Ⅴ Ⅴ Ⅵ Ⅰ Ⅴ Ⅲ Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅰ Ⅰ Ⅴ
Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj 7th min min Maj min7 7th Maj sus4 Maj min Maj
に関しては,
「Ⅴ# Maj→Ⅵ# Maj→Ⅰmin」のコー
2つ目
Ⅰ Ⅴ Ⅴ Ⅰ Ⅳ Ⅵ# Ⅵ Ⅰ Ⅳ Ⅰ Ⅳ Ⅴ# Ⅵ Ⅵ Ⅰ Ⅵ Ⅴ Ⅱ Ⅵ# Ⅰ
Maj Maj Maj Maj Maj Maj min min Maj min Maj Maj min7min7 Maj min Maj min7 Maj min
ド進行のように,時代が進むにつれてクリシュと
みられる進行が見られるコードタイプが取り入れ
コード名
図6
立コードおよびコード進行の延べ数を示す.
100%
孤立コードの出現頻度
90%
80%
70%
60%
50%
40%
3コード進行の出現頻度
られるようになっていることを確認した.表4孤
2000 年代における 2 コード進行の出現数
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1つ目
Ⅵ Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅰ Ⅳ Ⅳ Ⅰ Ⅳ Ⅰ Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅳ Ⅰ Ⅵ# Ⅰ Ⅳ Ⅰ Ⅰ
min min Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj min Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj min
2つ目
Ⅴ Ⅵ Ⅳ Ⅰ Ⅴ Ⅴ Ⅰ Ⅳ Ⅴ Ⅴ Ⅳ Ⅴ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅳ Ⅵ# Ⅰ Ⅵ# Ⅴ
min min Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj 7th Maj Maj Maj Maj 7th Maj Maj 7th Maj 7th
30%
3つ目
20%
Ⅵ Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅰ Ⅰ Ⅳ Ⅴ Ⅳ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅳ Ⅵ# Ⅳ Ⅰ Ⅳ Ⅳ Ⅰ Ⅰ
min min Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj min Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj min
10%
コード名
コード名
図3
1960 年代における孤立コードの出現数
100%
孤立コードの出現頻度
90%
80%
70%
図7
3コード進行の出現頻度
Ⅰ Maj
Ⅳ Maj
Ⅴ Maj
Ⅴ 7th
Ⅵ min
Ⅰ min
Ⅴ min
Ⅵ# Maj
Ⅰ 7th
Ⅱ min7
Ⅱ# Maj
Ⅲ min
Ⅱ 7th
Ⅳ min
Ⅳ 7th
Ⅱ Maj
Ⅵ min7
Ⅱ min
Ⅴ# Maj
Ⅰ Maj7
0%
1つ目
Ⅳ Ⅴ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅴ Ⅳ Ⅳ Ⅰ Ⅴ# Ⅴ Ⅵ Ⅰ Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅴ Ⅰ Ⅵ# Ⅱ
Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj min min Maj Maj Maj Maj Maj Maj min7
2つ目
Ⅴ Ⅰ Ⅴ Ⅳ Ⅳ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅴ Ⅵ# Ⅳ Ⅳ Ⅴ# Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅰ Ⅴ Ⅰ Ⅴ
Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj Maj min Maj Maj min Maj
3つ目
Ⅰ Ⅴ Ⅵ Ⅴ Ⅰ Ⅳ Ⅴ Ⅳ Ⅵ Ⅰ Ⅴ Ⅴ Ⅵ# Ⅰ Ⅳ Ⅳ Ⅵ Ⅰ Ⅴ# Ⅰ
Maj Maj min Maj Maj Maj Maj Maj min7 min Maj Maj Maj Maj Maj Maj min Maj Maj Maj
60%
50%
40%
1960 年代における 3 コード進行の出現数
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
30%
コード名
20%
10%
図8
Ⅰ Maj
Ⅴ Maj
Ⅳ Maj
Ⅰ min
Ⅵ# Maj
Ⅵ min
Ⅱ min7
Ⅵ min7
Ⅴ 7th
Ⅴ# Maj
Ⅲ min7
Ⅳ Maj7
Ⅱ# Maj
Ⅰ min7
Ⅴ# Maj7
Ⅴ min7
Ⅳ min
Ⅳ min7
Ⅲ min
Ⅱ min
0%
コード名
図4
2000 年代における孤立コードの出現数
2000 年代における 3 コード進行の出現数
表 4 孤立コードまたはコード進行ののべ数
コードの進行数
孤立コード
2コード進行
3コード進行
1960
5610
5538
5476
1970
17505
17302
17158
1980
30957
30649
30424
年代
1990
175192
173893
172368
2000
556884
551866
548565
全て
786148
778873
749600
2.6 考察
2.3,2.4 より,各年代の楽曲の孤立コードや 2
コード進行,3 コード進行への時代変遷が認めら
小節の楽譜[8]を図 9 に示す.図 9 に示した楽曲の
れた.考えられる原因としては,年代が近代に近
一部を使用した理由は.非常にシンプルな進行か
づくにつれて,生演奏からコンピュータを用いた
つ 2 拍ごとにコードが変化するためである.
演奏へと変化するにつれて,複雑かつ演奏が難し
い楽曲が作曲されていることが挙げられる.また,
演奏技術の進化により,奏者による複雑な演奏が
可能となった影響がこの結果に表れている可能性
もある.
1
2
3
4
フレームID
5
6
図 9 「Let It Be」の前奏 3 小節の楽譜
3 音響信号を用いたコード進行データベー
スによるコードの推定
3.1 コードの推定方法
3.2 PCP への変換
PCP は音響信号において異なるオクターヴにお
2 で得られたコード進行リストの応用として,
ける同じクロマのパワーの総和を表現したもので
音響信号に対するコード認識に用いることが期待
ある.従ってまず音響信号に対して高速フーリエ
できる.そこでここでは,楽曲の音響信号に対し
変換を行ない,各周波数領域におけるパワーをそ
て音響解析を行なうことで PCP(平均率における
れぞれ求める.ここでは音響信号のサンプリング
12 個の各クロマのパワーを表したもの)を抽出す
周波数を 22kHz へダウンサンプリングし,量子化
る.得られた PCP のパワーから実際に楽曲中で演
ビット数 16bit で A/D 変換を行ない,窓幅 8192 点
奏されたクロマ群(以後,被演奏クロマ群)を求
のハニング窓を用いた FFT 変換を行なっている.
める.そして,ここではトライアド(3 音から成
また,考慮する音域は約 82~5000Hz(E2~D#8)
るコード)の実を認識対象とする.よって,コー
で各クロマに対して 6 オクターヴ分とした.従っ
ドタイプを「Maj」
,
「min」の 2 種類となる.次に,
て,音名𝑐の第𝑜 オクターヴのパワーを𝑃𝑐,𝑜 すると
被演奏クロマ群に含まれるクロマに注目し,それ
クロマベクトル PCP𝑣𝑐 を式 1 と式 2 に示す.
ぞれのクロマをメンバ音としてもつコードを列挙
𝑐 = E, F, F#, G, G#, A, A#, B, C, C#, D, D#
し,被演奏クロマ群のパワーをそのコードが演奏
E E2~E7 ≤ 𝑐 ≤ B B2~B7
された可能性の算出に用いる.この作業を被演奏
クロマ群すべてに対し行ない,対象とする時間領
7
𝑣𝑐 =
域でのコード演奏確率を算出する.その後,コー
ド演奏確率の最大値を 1 として当該時間領域内で
正規化する.ここで当該時間領域において上位 10
位までのコード名を出力する.次に出力したコー
𝑃𝑐,𝑜
1
𝑜=2
C C2~C7 ≤ 𝑐 ≤ D# D#2~D#8
8
𝑣𝑐 =
𝑃𝑐,𝑜
2
𝑜=3
ド名と正規化したクロマ群のパワーを用いて,コ
また各オクターヴにおけるクロマのパワー推定に
ード推定を行なう.特に組み合わせ最適化などの
おいて,音高に対する周波数のズレを考慮するた
問 題 を 解 く 方 法 の ひ と つ で あ る One-pass
めに櫛型フィルタを用いる.この櫛形フィルタは
DP(Dynamic Programming)法を用いて,コード間の
正規分布に従ったもので,各クロマの各オクター
遷移確率を用いることによってコードを推定する.
ヴにおける周波数𝑓の平均値とした場合,標準偏差
比較条件として,1)各時間領域に対して上位 5 位
𝜎は1/24 𝑓と設定している.
までのコードを選出しコード進行確率を用いる条
件,2)各時間領域に対して上位 10 位までのコード
3.3 One-pass DP 法による和音推定
を選出しコード進行確率を用いる条件,3)各時間
3.1 で述べたように,3.2 の PCP への変換後にク
領域に対して単一のコードのみを用い,コード進
ロマ群を用いて楽曲中で演奏された可能性のある
行確率を用いない条件の 3 通りを検証する.
コード名のメンバに含まれるクロマ群ごとにパワ
本研究で使用した楽曲は,The Beatles の演奏に
ーを加算し,加算したクロマ群のパワーの総和を
よる「Let It Be」の前奏 3 小節の部分を用いた.こ
最大値 1 に正規化した.各コードに含まれるメン
の楽曲の音響信号はサンプリング周波数 44.1kHz,
バ音のクロマを表 5 に示す.次に,図9に示す各
量子化ビット数 16bit である.
「Let It Be」の前奏 3
時間領域(1~6)に対して上位 10 通りのコード名
を出力した.その結果を表 6 に示す.その後,コ
表 6 クロマ群のパワーの総和の上位 10 位までの
ード進行データベースの内,全年代における 2 コ
コード名
ード進行の出現頻度を確立として使用して
top
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
One-pass DP 法より最適なコードの推定を行なう.
なお,コード進行データベースの 2 コード進行そ
れぞれの出現数の最大値を 1 に正規化している.
正規化したクロマ群のパワーの総和と 2 コード進
行の出現数をフレーム ID 間ごとに乗算し,正規化
したクロマ群のパワーの総和とフレーム ID 間ご
とに乗算した値からコード進行の推定を行なう.
今回は,フレーム ID が 1 において最もコード演
1
C Maj
C min
A min
F min
F Maj
G# Maj
E min
G min
G Maj
D# Maj
2
B min
G Maj
D Maj
G min
D min
A# Maj
B Maj
E min
G# min
E Maj
フレームID
3
4
A min D min
C Maj A# Maj
F Maj G Maj
C min B min
G# Maj D Maj
F min G min
A Maj F Maj
E min F min
F# min A# min
C# min C# Maj
5
C Maj
A min
C min
E min
C# min
A Maj
G# Maj
G min
F min
F Maj
6
G Maj
B min
G min
E min
D Maj
B Maj
G# min
D min
E Maj
A# Maj
奏確率の高い「C Maj」から探索を開始し,前述の
3条件によって和音を推定する.例えば.条件 2
3.4 コード進行に基づくコードの推定の結果
(上位 5 通り)の場合,
「C Maj」の正規化したク
PCP においてコードが変化した 2 拍ごとの時刻
ロマ群のパワーの総和の値とフレーム ID の 1 から
間の相関係数と,コードが変化の有無が存在する
2 に進行する正規化した 2 コード進行の出現数の
1 拍ごとの時刻間の相関係数を算出した.2 拍ごと
値を乗算し,乗算した値が最大のフレーム ID の 2
の隣接した時間領域における PCP の相関を図 10
のコード「G Maj」からフレーム ID の 3 の上位 5
に,
1 拍ごとの相関を図 11 にそれぞれ示す.
図 10,
位のコードにおいて同様に乗算を繰り返す.フレ
11 より,コードが変化する時間領域間の PCP の相
ーム ID が 6 まで到達したら探索終了となる.ここ
関係数は低い値を示しており,コードが変化しな
で,コード進行データベース内に存在しない進行
い時刻間の PCP の相関係数が高い値を示すことが
や同一のコードの連結の場合のルートは探索しな
確認された.
また,コード推定の結果を表 7 に示す.表 7 よ
いものとした.
り,条件 1(上位 5 通り)の推定の結果,0.67 の
表 5 コード名のメンバに含まれるクロマ
コード名 C
C Maj ✓
C# Maj
D Maj
D# Maj
E Maj
F
Maj ✓
F# Maj
G Maj
G# Maj ✓
A Maj
A# Maj
B Maj
C min ✓
C# min
D min
D# min
E min
F
min ✓
F# min
G min
G# min
A min ✓
A# min
B min
コード名のメンバに含まれるクロマ
C# D D# E F F# G G# A A#
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
✓
の結果では,上位 6 位から 10 位までの各コード進
B
行の出現数の最大値が条件 1 の場合よりも上回っ
たため,正解率が 0.83 が得られている.なお,条
件 3(クロマのパワーの総和が最大)の結果は,
✓
✓
必ずしも正解のコードとはならないため,0.67 の
正解率が得られた.
1.2
✓
クロマベクトルの相関係数
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
正解率が得られた.しかし,条件 2(上位 10 通り)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
-1E-15
✓
-0.2
-0.4
-0.6
✓
✓
図 10 2 拍ごとの時刻間の相関係数
乗算し,正規化したクロマ群のパワーの総和とフ
クロマベクトルの相関係数
1.2
レーム ID 間ごとに乗算した値を使用し,One-pass
1
0.8
DP 法によるコード進行の推定を行なった,その結
0.6
果,上位 10 位のコード進行を推定した場合では
0.4
0.2
0.83 の正解率を得たため,コード進行データベー
0
スの有効性が示唆された.
-0.2
-0.4
今後の課題として,本研究で作成したコード進
-0.6
行データベースはコード進行の種類数や出現数を
含む非常に単純なデータベースの作成や時代変遷
の調査であるため,出現頻度や調号などのような
図 11 1 拍ごとの時刻間の相関係数
他の情報を含むデータベースの拡張やそれらを用
いた楽曲の時代変遷の調査を予定している.また,
表 7 コード推定の結果
コード進行
楽譜のコード進行(正解データ)
C Maj
G Maj
A min
F Maj
C Maj
得られたコード進行(top5)
C Maj
G Maj
C Maj
G Maj
C Maj
得られたコード進行(top10)
C Maj
G Maj
C Maj
F Maj
C Maj
クロマのパワーの総和が最大であるコード進行
C Maj
B min
A min
D min
C Maj
音響信号を用いたコード進行データベースによる
正解率
コード進行の推定も単純な条件での机上シミュレ
ーションであったため,拡張したコード進行デー
G Maj
G Maj
G Maj
G Maj
0.67
タベースを用い,楽曲の音響信号の為のコード進
行の推定手法の確立や有効性の調査などが挙げら
0.83
0.67
れる.さらに,本コード進行データベースのイン
ターネット上での公開も視野に入れて検討を進め
る予定である.
3.3 考察
3.2 より,コード進行がクロマ群のパワーの総和
の上位 10 通りまでを使用した推定率が最も高か
った.しかし,コード進行データベースを用いな
い場合のクロマのパワーの総和が最大であるコー
ドの進行でも,コード進行データベースを用いな
い場合で推定できなかったコードが存在したため,
コード推定手法に合わせたデータベースの最良の
活用方法の発見が求められる.
4 おわりに
本研究では,MIDI 楽曲を対象とした時代変遷
の調査と,コード進行データベースを用いたコー
ド進行の推定の有効性について考察を行なった.
具体的には,MIDI 楽曲を対象とした時代変遷の
調査では,1960 年代から 2000 年代の MIDI データ
計 5490 曲の MIDI データからコード名の抽出を行
ない,孤立コード,2 コード進行,3 コード進行の
データベースを作成した.その結果,各コード進
行の各年代と全ての年代における種類数と出現数
の変化より,コード進行への時代変遷が示唆され
た.また,コード進行データベースを用いたコー
ド進行の推定では,楽曲の音響信号から PCP のパ
ワーを算出し,正規化したクロマ群のパワーの総
和と 2 コード進行の出現数をフレーム ID 間ごとに
謝辞 本研究の一部は,科研費(25580050)の援助
を受けた.
参考文献
[1] 後藤真孝ら,“音楽情報処理の最近の研究”,日本音
響学会誌,Vol.60,No.11,pp.675-681(2004).
[2] 鈴木孝輔ら,
“HMM を用いた音響演奏の楽譜追跡に
よる弾き直しの追従可能な自動伴奏”,情報処理学会研
究報告,No.29,pp.1-6(2011).
[3] Joan Serrà, et al., “Measuring the Evolution of
Contemporary Western Popular Music”, Scientific reports,
Vol.2, pp.1-6(2012),
[4] 此木康至ら,
“クロマ情報とコード進行データベース
を用いたコード名推定システムの構築”,情報処理学会
研究報告, No.89,pp.53-58(2008).
[5] 後藤真孝ら,
“Songle:ユーかが誤り訂正により貢献
可能な能動的音楽鑑賞サービス”
,情報処理学会 インタ
ラクション 2012,pp.1-8(2012).
[6] AIST Songle Project,
“Songle”,http://songle.jp/,2011,
2014 年 1 月 12 日確認.
[7] Takuya Fujushima, “Realtime chord recognition of
musical sound: A system using Common Lisp Music,”
Proceeding of the International Computer Music Conference,
pp.464-467 (1999).
[8] ヤ マ ハ 社 ,“ XF フ ォ ー マ ッ ト 仕 様 書 V2.03 ”,
http://download.yamaha.com/api/asset/file/?language=ja&site
=jp.yamaha.com&asset_id=45941,2000,2013 年 11 月 25
日確認.
[9] 草野一昌,“The World Hits of THE BEATLES”,シン
コー・ミュージック,p.94.(1987).