アメリカにおける 青少年教育施設等の調査報告

アメリカにおける
青少年教育施設等の調査報告
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アメリカ合衆国における青少年教育施設等の調査報告
1.青少年教育施設の全体像
アメリカ合衆国(以下「米国」とする。)の青少年教育は多種多様な場や形式によって行
われており、いくつもの異なる流れの中で形成され発展してきた。そのため国公立施設に
ついて把握しようとする際、1)該当施設の関連情報が一括されていない可能性が高いこと、
2)施設においてパートナーシップによる複合体組織としての運営が散見されること、3)
青少年教育の展開方法が多様であり、該当施設かどうか判別しにくいこと、などの問題が
ある。このような事情により、本調査では連邦政府の全省に対し、個別に調査を行った。
そして直轄事業と思われるものを選定した結果、教育省、農務省、内務省、国防総省、労
働省が管轄する施設が本調査に該当するものであると判断した。しかし、なお判別につい
ては議論の余地がある。次に州レベルについて、50 の州政府すべてを対象に調査を行った。
州立は国立よりもさらに実態が複雑であることが分かり、その中から全州に存在し、国民
の生涯教育の場として定着している州立のレクリエーションエリア・レクリエーションセ
ンター(recreation area、recreation center)に絞り、概要調査を行った。また、各州
調査においてユースセンター(youth center)の名称を使っている施設には青少年矯正施
設が多いことが明らかになった。
なお、青少年教育に相当する用語として positive youth development あるいは youth
development という言葉が多用されるが、これは青少年が成人期に向かい各々の興味、ス
キル、能力を高めることに対し、他の若者や大人、地域社会、政府機関、学校などによる
意図的な努力を指して使われる。同時に positive youth development には、若者の潜在的
な能力を引き出すことは、この時期に青少年が危険な行為に従事することを防止するため
の最善の方法という考え方が含まれており、米国の特徴だと言える。
(1)連邦政府の直轄事業
以下に上記 5 省における該当青少年教育施設を紹介する(巻末資料 1 を参照)。政府の直
轄事業として認識できたものを選定してはいるが、これらにも連携団体が存在する。また、
省庁間でパートナーシップが組まれ運営している施設もある。
各省はその担当事業の性格を反映した目的を掲げ、施設運営を行っている。また 2008
年に 17 連邦政府機関および部門からなる「青少年事業にかかる省庁間ワーキンググループ
(Federal Inter-Agency Working Group on Youth Programs
IWGYP)」1)が設置され、情
報共有と一貫性ある取組を行っている。各省は管轄する施設の有無に関わらず、青少年の
1
加盟組織は: 農務省、商務省、国防総省、教育省、保健社会福祉省(長官)
、住宅都市開発省、司法省
(副長官)
、労働省、内務省、運輸省、国務省、アメリカ国立科学財団、環境保護庁、国土安全保障省、
中小企業局、ナショナル&コミュニティサービス·コーポレーション、全米麻薬撲滅対策室である。
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ための関連組織やプログラムの運営を行っており、ほとんどの資料は公開されている。
①教育省
Helen Keller National Center For Deaf-Blind Youth and Adults。
盲聾者(盲目と難聴を併せ持つ)の青少年および大人を対象に、治療技術支援や職業訓
練および自立した生活技能訓練など総合的なリハビリテーションプログラムを提供してい
る。宿泊施設を有する。1967 年の連邦議会の法令によって許可された。本部センター(研
修棟および宿泊棟)はニューヨーク州にあり、その他、全米各地域にわたり、オフィスが
10 ヶ所配置されている。ここでは参加者が多くの方法で個別化されたサービスを受けるこ
とができる。具体的には 1)センターで開催される日帰りの職業訓練プログラムへの参加、
2)自宅のコミュニティで開催される短期研修への参加、3)盲聾者の高校生を対象とした
2 週間のサマーセミナーへの参加、4)3)に加え、高等学校卒業前に 8 週間の夏季評価、5)
盲聾者の高齢者を対象としたセンター主催の「自信を持った暮らしのためのプログラム」
への参加、などである。3)の高校生対象のサマーセミナーでは、同僚と 2 週間の生活を共
有する、職業の選択肢を模索する、盲聾者であるメンターやコミュニティのリーダーと会
う、大学と地域社会の支持やサービスにアクセスする、最適で好ましい通信方法を特定す
る、聴覚の評価に参加するなどの活動が提供されている。
② 農務省
a.National 4-H Youth Conference Center、b.Northern Great Lakes Visitor Center、
c.Big Bear Discovery Center などがある。
a は 4-H の施設である。ワシントン D.C.内にあり、都市型青少年教育施設として機能し
ている。会議センター、レクリエーションルーム、屋外球技コートなどと宿泊施設を有す
る。b はビジターセンターとして内務省の国立公園局、魚類野生生物保護局、ウィスコン
州立歴史協会、ウィスコンシン大学エクステンションなどと連携しながら運営している。
議会からこどもの森(教育や体験の機会を通じて、子どもが土地の世話役になる方法を学
ぶ場所)の指定を受け、五大湖地域の歴史、文化、資源などの関連情報を発信し青少年教
育にも力を入れている。c は青少年に地域社会構築に関連する体験を提供。b と同様にこど
もの森を運営し、ビジター·インフォメーション·センター、環境教育プログラム、青少年
指導者ボランティアプログラム、およびアクティブな植林プログラムなどを開催する。
なお、bとcは宿泊施設を持っていない。
③ 内務省
a.Woodcock Nature Center、b.BLM-Alaska Campbell Creek Science Center、
c.Stephen T. Mather Training Center、d.Horace M. Albright Training Center、e.Fort
90
Vancouver National Historic Site 、 f.National Conservation Training Center 、
g.Children's Treehouse Child Development Center、h.Sewee Visitor & Environmental
Education Center、などがある。
a は自然保護区に位置し、現地野生動物保護センターと協力しながら運営しており、青
少年教育の基地ともいえる。b は科学教育を中心とし青少年教育プログラムを幅広く行っ
ている。幼稚園、小·中·高等学校の理科教育や自然保護意識向上プログラムや、若者と大
人のためのチームビルディングプログラム、オリエンテーリングなどのアウトドアスキル
プログラムも実施している。c と d は主に国立公園局の職員を対象とした職業トレーニン
グのための施設である。d には宿泊施設がある。e は青少年に 19 世紀の生活を体験させる
ためのイベントや活動を行っている国定歴史遺産としての施設である。f は魚類野生動物
保護局職員のトレーニングおよび環境保全に関連する指導者養成のためのトレーニング施
設で宿泊施設がある。f のセンター内に g の幼児・児童対象の教育センターがあり、自然
体験を提供している。h は環境教育センターである。自然体験型学習を利用して国内の動
植物に関する情報を提供している。
④ 国防総省
U.S. Space & Rocket Center。
世界で最も包括的な米国の有人宇宙飛行ハードウェア博物館の 1 つとして認識されてお
り、米国スペース&ロケットセンターとその歴史について学ぶことができる。この施設に
は宿泊施設はないが、Spacedome シアター、ロケット公園、NASA の教育リソースセンター
を収容する教育訓練センターなどが含まれる。青少年を対象としたプログラムは多く、例
えば高校生を対象としたスペースキャンプは数学、科学、テクノロジーの教育を促進する
ために 1982 年に設置されている。このキャンプでは授業とともに体験活動やチームワーク、
意思決定、リーダーシップの醸成などを行っており、学生に多大な影響を与えている。
⑤ 労働省
Job Corps Center。
全米総数 125 ヶ所に設置されている。青少年および青年を対象とした就職支援機関であ
り、宿泊施設を有する。以下に 4 施設を紹介する。a.Muhlenberg Job Corps Center、b.Carl
D. Perkins Job Corps Center、c.Charleston Job Corps Center、d.Cleveland Job Corps
Center。Job Corps はキャンパスの全国ネットワークを通じて、16 才~24 才を対象とした
キャリア開発のためのプログラムを提供する。課題のある青少年も受け入れている。長期
安定、高給を得られる青少年を育成するために、実習および基礎的学習の体験を通じて、
学問的、職業的、エンプロイアビリティ・スキル(雇用されるためのスキル)、社会性にか
かる教育を統合した包括的な研修を採用している。
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(2)州立施設
① レクリエーションエリア/レクリエーションセンター(巻末資料 2 を参照)
レクリエーションエリアはキャンプ場を有し、豊かな自然環境を利用して宿泊もできる。
たとえば Chena Lake Recreation Area(アラスカ州)は、2,100 エーカーほどの敷地を
有する。チェナ川の 4 マイルをカバーする 260 エーカーのレイクパークと、リバーパーク
がある。レイクパークにはバレーボールコート、馬蹄ピット、遊び場、ピクニックサイト、
プールエリア、レンタルボート施設、釣り場などがある。リバーパークはチェナ川の南岸
の 4 マイルに沿って設置されており、バレーボールコート、馬蹄ピット、4.5 キロセルフ
ガイド自然歩道、川の船着場、ピクニック場などがある。チェナ湖レクリエーションエリ
アには、2 つのキャンプ場があり、各キャンプ場は地元の人々と訪問者の双方に特別な機
会を提供している。
Stone Valley Recreation Area(ペンシルバニア州)は、ペンシルバニア州立大学が所
有しており運営を行っているが、年中一般開放されている。多用な生態系から成る大学実
験林であり 700 エーカーの規模を持つ。また、ボートができる淡水湖、釣りやアイススケ
ート、29 マイルのハイキングやクロスカントリースキーコース、ロッジ、キャビン、公園
事務所、パビリオンやピクニックテーブルなどがある。この中で青少年を対象としたセー
リングキャンプやアドベンチャーキャンプなどが行われている。
一方、レクリエーションセンターは全米各地に設置されており、幅広い年齢層に対応し
ている。本調査では宿泊施設を有するセンターは見あたらなかった。プール、ダンス場、
ソフトボール場、バスケットボール場、ゲートボール場、サッカー場など気軽に参加でき
るスポーツ設備を初め、ピクニックエリアなど身近な自然環境を生かした野外活動のエリ
アなどを含む施設となっている。レクリエーションセンターの設備は統一的ではなく、各
地域、施設ごとに展開されている。コミュニティ・サービス(社会参加型の青少年教育活
動)の場としても活用されており、高校生などはプログラムに参加するだけでなく、組織・
運営に関与することもある。
② 青少年更正施設
宿泊可能な施設であり、薬物、犯罪、家庭内暴力、ホームレス、孤児、精神病などの青
少年問題に対応し、更正や社会に適応させるための更正事業を行っている。全米各州に設
置されているが、例えば Frank Lee Youth Center(アラバマ州)、Fred Finch Youth Center
(カリフォルニア州)などがそれに該当する。Youth Center の名称が多く使われている。
以上の事前調査を経て、positive youth development あるいはコミュニティ・サービ
スの場として歴史があり、かつ全米最多会員数を誇る 4-H(農務省)を選定し、以下、詳
細の調査を行った。
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2.選定した組織の概要
(1)国レベルの統括
米国の 4-H とは、同国の農業普及推進の政策に位置づけられた大規模な positive youth
development(以下「青少年育成」とする。)の非営利組織の複合体であり、全米レベルの
支援や協力を得ながら展開する青少年育成の運動とも位置づけられる。その統括は、農務
省(U.S. Department of Agriculture)の国立食品農業研究所(National Institute of Food
and Agriculture:NIFA)が担っている。NIFA における 4-H 担当部署は、Division of Youth
& 4-H であるが、4-H の他、Agriculture in the Classroom (AITC), Children, Youth and
Families At-Risk (CYFAR), and the Rural Youth Development (RYD) Grant Program な
どの農村部の青少年育成にかかるプログラムの管轄を担う部署である。
(2)4-H の規模とガバナンス
4-H の米国全体の規模については、5 歳から 19 歳まで 600 万名前後の青少年の会員と 9
万程度のクラブを有する。2010 年には、約 633 万人の青少年が 4–H プログラムに参加して
おり、それを 3,500 名の 4−H の専門家と 54 万人のボランティアが支えている。また、各地
域で展開する 4-H について、クラブとプログラムの二つの単位があり、まずクラブについ
ては大まかに次の 4 種類に分けられ、2010 年のクラブごとの会員数は以下の通りである。
Military 4-H Clubs
23,338
Organized 4-H After School Clubs
125,609
Organized 4-H Community Clubs
875,082
4-H In-School Clubs
529,230
合 計
1,553,259
こうした規模を踏まえ、上述の「複合体」という表現について説明すると、このような
全米規模の事業展開について、NIFA のみが全ての資金や人材、施設の提供と管理運営を担
っておらず、4-H の実質上のプログラム運営は、連邦法上認定された各州の Land-grant
Universities(土地付与大学)2の Cooperative Extension Program(エクステンション・
プログラム)が、各州の群政府の支援・協力を得ながら実施している(図 1)。現在、全米
で 109 の土地付与大学のエクステンションが 3,000 強の群政府の協力を得ながら、4−H を
はじめ、様々な事業を展開している。
2 1862 年制定(1890 年改訂)のモリル・ランドグラント法(Morring
Land-Grand Colleges Act)
を機に、連邦政府管轄土地の付与という、公的支援の受けた大学。各土地付与大学は、これらの土地の売
却や開発を通して、軍事や工学、農学、自然科学の研究および教育分野、地域貢献の拡充を進めている。
93
3 つの民間寄付による学部
(3)州レベルの実施体制
各州のエクステンション・プログラムは、それぞれの大学の特色を踏まえながら、研究
や実験、専門的知識や技術の普及、人材育成、さらには環境保全など多様な農村振興に資
94
するプログラムを展開しており、4-H はそれらの一つに位置づけられている。よって、全
米各州の 4-H プログラムならびに 4-H クラブは、エクステンションの管轄のもと、群政府
( County Office ) の協力 お よび 支援 を うけ なが ら 、 4-H フ ァ ウン デー シ ョン (4-H
Foundation)と呼ばれる資金調達の支援機関、民間企業、地域コミュニティ、ボランティ
アの協働体系のもと運営されており、本調査の焦点となる宿泊施設やプログラム展開につ
いても、各州および地域の支援体制により異なる。また、プログラムの主旨や対象層によ
って、他の連邦政府機関(教育省や国防総省、司法省)などの協力や補助金を通して、地
域で実施される 4-H プログラムもある(詳細は後述)。以上のような組織機構のもと進めら
れている 4-H は、米国で最も大きく、複雑なパートナーシップ体制を有する青少年団体と
言えよう。とりわけ、本調査が特に着目する「宿泊施設を有し、青少年を対象とした体験
活動プログラムの運営」の観点でいうと、宿泊施設を活用したキャンプなどの体験プログ
ラムとは、各群で行われている様々な 4-H プログラムの一つに位置づけられる。
(4)宿泊施設を有し、青少年の体験プログラムを提供する 4-H の施設
上述の通り、4-H の宿泊施設の所有や運営体制、プログラム実施については、各州のエ
クステンション・プログラムや群政府などの支援体制、事業方針などにより異なる。また、
施設名称についても、キャンプ・グラウンド、学習センター、環境教育センター、地方生
活センター、4−H センター(ジョージア州)など、それぞれの郡、運営体制、施設の設置
目的により異なる。例えば、今回の調査で現地訪問したニューヨーク州では、州立大学の
エクステンション・プログラムと群政府が共同所有・運営の形をとっている3が、バージニ
ア州では、各施設が非営利組織の認証(501c3)の取得のもと、エクステンション・プログ
ラムやコミュニティ、地元企業の代表者らからなる理事会を構成し、土地付与大学である
Virginia Technology University と同意書をかわし、管理運営にあたっている。アイダホ
州のエクステンション・プログラムも似た形態で、非営利組織が所有運営している4。その
一方、ニュージャージー州の場合、ラトガース大学が単独で所有運営している5。アイオワ
州の場合は、資金調達の支援機関である 4-H ファウンデーションが所有し、アイオワ州立
大学のエクステンション・プログラムに貸与している6。アラバマ州の場合、宿泊プログラ
ムは Alabama 4-H Center 以外で行われていない7。広大な面積を有するカリフォルニア州
の場合は、16 ものカリフォルニア州立大学のキャンパスが土地付与大学として指定を受け
ているものの、4-H 独自が所有・管理する施設はそれほど多くなく、郡政府所有や民間の
3
http://nys4h.cce.cornell.edu/get%20involved/pages/camps.aspx
http://cascadelake4hcamp.com/
5
www.nj4hcamp.rutgers.edu/ ネブラスカ州の場合もネブラスカ州立大学所有のキャンプ場である。
http://4h.unl.edu/web/4hcamps/about4hcamp
6
www.extension.iastate.edu/4h/page/about-iowa-4-h-center
7
www.aces.edu/4hcenter/
4
95
キャンプ施設を利用した 4-H キャンプが多数行われている8。これと同様、ニューメキシコ
州やオクラホマ州のエクステンション・プログラムも民間施設を利用してキャンプを実施
している9。ワイオミング州の場合も、独自の施設を持たず、郡所有のキャンプ場などを利
用し、4-H の各プログラムを実施している。
以上のように各州で 4-H 施設の運営形態が異なるが、概ね 150 近くの 4-H の宿泊施設が
全米 50 州の中に存在すると見込まれる10。現在でこそ、4-H は多様なプログラムを展開し
ているものの(詳細は後述)、宿泊キャンプは当初と同様、重要な位置づけにあるといえる。
例えば、4−H が国家レベルで普及し始めた 1924 年には、すでに 1,774 のキャンプが各地で
実施され、52,000 名の少年と 61,000 名の少女が参加したという記録がある。その翌年の
1925 年にはワシントン D.C.でキャンプイベントが実施され、1927 年には最初の National
4-H キャンプが農務省本部の敷地内で実施された。2)
宿泊を伴うキャンプへの参加者数の推移(人)
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003(年)
中部
45,652
54,319
55,969
56,877
79,328
88,393
65,290
49,492
東部
40,217
31,653
29,525
34,736
67,698
72,919
80,162
102,756
南部
155,713
126,018
91,692
159,839
140,308
223,590
79,841
129,677
西部
24,357
15,720
13,184
14,335
16,136
14,108
14,076
17,372
265,939 227,710 190,370 265,787 303,470 399,010 239,369
299,297
地域
全体
2010 年には、日帰りキャンプへの参加は約 179,000 人で、宿泊を伴うキャンプへは
239,000 人の参加があった。
(5)4-H のプログラムについて
4-H のプログラムは、以下の 7 種類に大まかに分けられ、2010 年に全米各地で実施され
たプログラムごとの参加者数は以下の通りである。
各宿泊施設のプログラムについては、キャンプといった野外活動のみならず、地域の農
業、酪農業(沿岸部では海洋学関連)の人材育成に資するプログラムなどに細分化される。
例えば、今回訪問したニューヨーク州のワイモコ・キャンプ場で実施しているプログラム
8
他州では1校か2校程度の認定数であるが、カリフォルニア州の場合、16 校が土地付与大学として認定
を受けている。
9
http://aces.nmsu.edu/4h/state--national-events.html#anchor_33768
10
今回の調査を通して、各州の土地付与大学のウェブサイトから4-H Camp と 4-H Center をキーワード
に検索した結果。ただし、カリフォルニア州については、土地付与大学や郡、クラブの数が多く、一括し
た情報管理が行われていないため、具体数は不明である。
96
については、乗馬、キャンプ指導者育成、カヌー、水泳、クラフト、演劇、写真、野外生
活、動物飼育、ロケット工学、木工、釣り、酪農にかかる職業教育などのプログラムに加
えて、サイエンス・キャンプ、自閉症や不登校など問題を抱える青少年を対象とした特別
プログラム、軍隊に従事する子供や家族を対象としたプログラムなどスペシャリティ・キ
ャンプが行われている(詳細は後述)。
4H プログラムと各受益者数
1.
テーマごとの体験学習など
2,332,860
2.
異なるテーマの日帰りキャンプ
179,167
3.
宿泊型キャンプ
239,063
4.
学校における教育プログラム支援
4,043,856
5.
親子対象の啓発・学習プログラム
39,667
6.
学童保育型(After-school)
7.
テレビなどを活用した遠隔プログラム
181,907
合 計
5,621
7,022,141
3.選定した組織の現地調査
コーネル大学エクステンション・ワイオミング郡事務所
キャンプ・ワイモコ(場所:ニューヨーク州ワイオミング郡)
Camp Wyomoco(1964 年設立)は、コーネル大学エクステンション・ワイオミング郡事務
所(Cornell Cooperative Extension of Wyoming County)によって所有・運営されており、
ニューヨーク州西部ワルシャワ市11郊外に位置する。敷地面積は約 280 エーカーで、15−16
名用の木造宿泊キャビンが 12 棟、約 100 名収容のダイニングホールが 1 棟、3 エーカーの
池、周辺の自然環境を学ぶネイチャーセンターが 1 棟、浴室棟が 2 棟、ヘルスロッジ 1 棟、
売店 1 棟、スタッフ棟 1 棟、工作室 2 棟(写真現像用暗室を含む)、キャンプ・ファイヤ場、
乗馬やアクティビティ用芝生、動物および家畜飼育施設、馬小屋、運動場(バスケットコ
ートを含む)
、全体の利用規模は約 190 名である。営業機関は 4 月 1 日から 11 月 1 日まで
で、フル稼働は夏季の 8 週間のみで、残りの期間は外部の施設利用などのレンタルのみで
ある。同キャンプ場のディレクター、Shawn Tiede 氏は、ニューヨーク州全体の 4-H キャ
ンプ・プログラムのスペシャリストで、同州全体のキャンプ事業を管理する立場にある。
営業期間中は、5 泊 6 日のキャンプが 6 セッションあり、その中で参加者は、乗馬、キャ
ンプ指導者育成、カヌー、水泳、クラフト、演劇、写真、野外生活、動物飼育、ロケット
工学、木工、釣り、酪農にかかる職業教育などのプログラムを選ぶ方式をとっている。ア
11
同市は人口約 5,400 で、地理的には NY 州西部のバッファロー市とロチェスター市の中間に位置してお
り、主要産業は酪農業、牧畜、農業である。
97
メリカキャンプ協会の認定を受けている。また、同キャンプ場では、農業系キャリア育成
キャンプと乗馬と馬の管理に特化したキャンプの実施を通して、酪農と農業という、同地
域の主要経済にあわせた人材育成を行っている。これらの他、サイエンス・キャンプ、自
閉症や不登校など問題を抱える青少年を対象とした特別プログラム、軍隊に従事する子供
や家族を対象としたプログラムなどスペシャリティ・キャンプを実施している。
ワイモコ・キャンプ場を所有運営するコーネル大学エクステンション・ワイオミング郡
事務所は、他の事務所同様、食や農、科学、コミュニケーション・対人技術、社会貢献な
ど、キャンプ以外の様々な 4-H プログラムやアクティビティを実施しており、9 名のスタ
ッフに対し、918 名の青少年のメンバーが登録されている。
ニューヨーク州の場合、Camp Wyomoco の他 8 つのキャンプ場があり、すべてコーネル大
学エクステンションの郡事務所によって所有運営されている。2011 年には有給スタッフ
500 名とボランティア 14 名が運営にたずさわった。8,245 名の青少年がこれらキャンプ施
設を利用しており、うち約 6,900 名が宿泊プログラムへの参加者である(巻末資料 3 -①)。
同州の 4-H の運営母体であるコーネル大学エクステンションが、土地付与大学として認
定を受けたのは 1862 年である。それ以降、同州全体の農業推進・地域活性化にかかる様々
な教育事業を展開してきてい
る。現在、同エクステンショ
ンの事業分野は「農業と食料
供給システム」
「自然環境と天
然資源、気候変動、持続可能
なエネルギー」
「4-H 青少年と
家族の育成」
「栄養と安全、供
給、幼少時の肥満」
「コミュニ
ティと地域経済の活性化」の
5 分野で、2011 年には 180 万
人のプログラム参加者があり、
5 万人以上のボランティアが
参画する規模である12。4-H プ
ログラムについては、同エク
ステンション・プログラム下
のブロンフェンブレナー・ト
ランスレーショナル研究セン
キャンプ・ワイモコの情報誌
ター(Bronfenbrenner Center for
プログラムの情報や参加者個人登録用紙が含まれる
12
http://cce.cornell.edu/learnAbout/Pages/DirectorMsg.aspx
98
Translational Research (BCTR))を通して、約 170 名のコーネル大学の教職員が、57 の
郡事務所の 500 名を超える教育関係者とともに、毎月 100 以上の教育プログラムを行って
いる。この中で、4-H プログラムへの参加者は 167,000 名であった。
(1)施設の状況について
ワイモコ・キャンプ場の規模は 280 エーカー、1,133,119 平方メートルである。利用者
数(約 190 名)、稼働は 4 月 1 日~11 月 1 日まで行っており、冬期は休業する。利用料金
は 300 ドル前後(下記参照)、研修室の数 3
(小動物飼育小屋、 ネイチャーセンター、実
習・実験センター)、宿泊室の数 12 棟、収容数 190 名、職員数(常勤 64 名・非常勤ボラン
ティア 1 名)
*のべ年間宿泊者数(1,604 名)のべ年間日帰り施設利用者数(1,425 名)
*宿泊室の稼働率
算出されていない。
*施設利用の種類及び使用料単価、宿泊料/日
■キャンプ場全体の使用料は(1,250 ドル/日)■キャビン(50 ドル/日)
■ダイニングホール(200 ドル/日)■ネイチャーセンター(75 ドル/日)
■グランドやトイレのみ(150 ドル/日)■馬小屋と馬場(100 ドル/日)
■水際プログラム用池(50 ドル/日)■アーチェリー場 (50 ドル/日)
■クリニック(75 ドル/日)■ディレクターキャビン(75 ドル/日)
■実習・実験センター(50 ドル/日)
週単位のキャンプ・プログラムが、6 月 30 日から(2013 年度)6 種類提供されており、
参加基本料金は同郡在住の 4-H メンバー270 ドル、4-H メンバー295 ドル、非メンバー320
ドルである。
その他、乗馬や農業体験などの特別プログラムはそれぞれ 50 ドル高く設定されている。
(2)雇用の状況
新規採用については、各郡のエクステンション事務所で行われている。2013 年度にワイ
モコ・キャンプ場で募集する職種は以下の通りである。ただし、営業期間が 8 週間のため、
毎年雇用するケースも多い。
■キャンプ・ディレクター ■アシスタント・ディレクター
■アクティビティ・リーダー(複数)■シニア・カウンセラー
■ジュニア・カウンセラー ■水辺のプログラム責任者(要資格)
■乗馬プログラム責任者(要資格)■常駐看護婦(要資格)
また 4-H のボランティアには、様々あるが、基本的には次の 5 種類にわけられる。
■リーダー
*アシスタント・リーダー ■アクティビティ・リーダー
■プロジェクト・リーダー ■アドバイス委員会メンバー
99
(3) 青少年教育を目的とした事業の内容及びその具体的効果
事例:Dairy STEM (Science, Technology, Engineering, and Math) Camp
ⅰねらい
酪農分野の青少年のキャリア人材育成
同分野における科学の役割に関する体験的修得
ⅱ期日
2012 年 7 月 1 日から 6 日(5 泊 6 日)
ⅲ場所
ワイモコ・キャンプ場
ⅳ参加者数・属性
男性 7 名
ⅴ指導体制
コーネル大学農学部教職員、ワイオミング郡エクステンションス
女性 2 名
タッフ、ワイモコ・キャンプスタッフ、地元酪農業者
ⅵプログラム内容
酪農ツアー、乳牛などの家畜の状態鑑定、測定技術、子牛の世話、
施設デザインと管理、アイスクリーム製造、検死技術、蹄の手入
れ、酪農の協同組合と政策など
ⅶ効果および成果
意思決定能力、対人コミュニケーション能力、チームワーク、
批判的思考、職業分野の選択
ⅷ参加者と現場指導者の声
・指導者は、参加者全体として、チームワークと批判的思考の成長を観察した
・酪農施設の改善に関するアイデアについて修得出来た
・品質管理について、詳しく知りたい
・酪農関連の生産者や製造業者、機器の販売業者への訪問視察は毎回含まれるべき
・参加者全員が他の友人や知り合いを次回のキャンプへ誘いたい
・より多くの青少年の参加を望む声が多い
(4) いじめ、大災害など緊急の課題に対応したモデル事業の内容とその成果
①4-H における科学教育への重点化
4-H は、2006 年、科学技術の振興に資するプログラムの強化・向上を目的とした「4−H・
サイエンス・イニシェティブ」を示し、多様なプログラム展開のもと、より多くのサイエ
ン ス の 学 習 機 会 の 提 供 す る 方 針 を 宣 言 し た 。 現 在 、 STEM (Science, Technology,
Engineering, and Math)の名称のもと、各地域の農業の特色や土地付与大学の研究分野、
地域の課題にあわせながら、多様な STEM プログラムを展開している。 4-H の科学イニシ
ェティブを通して学校教育とは別の形で、より多くの科学教育の機会に青少年を触れさせ
ることで、青少年の育成のみならず、地方の農業の発展、高等教育の向上、さらには国全
体の発展につなげることを目標としたプログラムである13。
こうした科学教育は、キャンプのプログラムにも導入されており、例えば、今回訪問し
13
詳細は www.4-h.org/about/youth-development-research/science-program-research/ を参照。
100
たニューヨーク州の大半の 4-H キャンプ施設が、何らかの科学体験プログラムを実施して
いる(2011 年の受益者数は 7463 名、2010 年は 4871 名)。コーネル大学のエクステンショ
ンでは、キャンプや放課後プログラムにおいても導入可能な、Science Toolbox というカ
リキュラムや、同大学の科学者、博物館などの専門家らによる 4-H プログラムの支援体制
を構築している。こうした動きを受けて、ワイモコ・キャンプにおいては、15-18 歳の 25
名を対象とした、5 泊 6 日の乳製品 STEM キャンプを実施している。このキャンプでは、乳
製品の製造や酪農に関する科学的側面を体験的に学ぶ機会を提供し、地域の酪農関係の人
材育成に資することを目的としている。同キャンプ場では、この他、省エネルギーやリサ
イクルに関する体験プログラムを行っており、2011 年には 869 名の青少年が参加した。ま
た、キャンプの通常プログラムにも、写真や実験など科学的知識と探究心の育成を目的と
したアクティビティが導入されており、2011 年にこれらの科学プログラムに参加者数はの
べ 1,486 名であった(巻末資料 3-③)。
現在登録されている4H の STEM プログラム (総数 168)
環境科学系 23 畜産学(大型動物)19 畜産学(小型動物)17 環境保全と土地利用 14 工学系 12
物理科学 10 食品科学 9 航空宇宙とロケット工学 9 ロボット工学 9 ガーデニング 9 植物科学 7
地球科学 6 家族と消費者科学 5 テクノロジー4 獣医学 4 天気・気候 3 園芸 3 コンピューター工学 3
地理空間工学 (GPS/GIS) 2
②問題を抱える青少年を対象としたプログラム
近年 4-H は、連邦司法省の少年司法と非行防止局(OJJDP)の協力をもとに、非行や薬物
乱用、不登校などの問題を抱える青少年および家族を対象とした「ナショナル·メンタリン
グ·プログラム(National Mentoring Program)」を各州で実施している。これは、少年非行、
自閉症、薬物乱用、不登校などの問題を減少させることを目標に、指導サービスを提供す
る各州の土地付与大学のコミュニティ·プログラムを支援するものである。プログラムの目
的は、放課後の時間や休みを活用した直接マンツーマンの指導、グループ指導、またはピ
ア·メンタリングサービスを提供するものである。米国では放課後、約 15,000,000 人の児
童が、保護者のいない環境でおのおの時間を過ごしており、こうした時間における教育機
会の提供を通して、青少年育成だけでなく、非行や犯罪、薬物利用の未然防止や治安の維
持、家族やコミュニティの連帯感向上につながるとしている。この放課後プログラムでは、
家族関係の向上を目標に効果的なメンタリングの方法を構築し、社会的能力を増加させる
こと、就学の機会を増加させること、少年非行や若者の失業、不登校を低減するための認
識の区別、の 3 つのプログラムを提供している。2011 年には、全米で約 6,500 人のこうし
た青少年育成に取り組み、90%近くの行動変化の改善が見られた。
例えば、今回訪問したニューヨーク州コーネル大学のエクステンションでは、放課後プ
101
ログラム(4-H Afterschool)のもと、Teen Ambassador program、STARR(State Teen Action
Representative Retreat)などの取組が行われている。
③他団体との連携状況
4-H の運営については、冒頭で複合体という表現を用いた通り、
「官–民–学—企業」と「国
—州—郡—個人」といったパートナーシップが機能している。また、連邦政府は、17 連邦機
関(4-H/USDA 含む)からなる「青少年事業にかかる省庁間ワーキンググループ(Federal
Inter-Agency Working Group on Youth Programs
IWGYP)」を立ち上げ、情報共有と一貫
性ある取組をすすめている14。このワーキンググループにおいて、青少年を取り巻く喫緊
の課題に対する未然防止策(Positive Youth Development)が最重点課題と位置づけられ、
上述のサイエンス系のプログラムや問題を抱える青少年を対象としたプログラム、軍隊に
所属する家族および青少年を対象としたプログラム15などを様々な政府機関と協働で実施
している。このワーキンググループは、FindYouthInfo.gov というウェブサイトを通して、
連邦政府機関が実施する全ての青少年育成のプログラムなどを紹介しており、4-H の取組
もその中で閲覧することが出来る。
4.制度的背景
(1)青少年教育に関する法律、政策の整備状況
米国における青少年教育にかかる法律、政策の流れはいくつもあるが、ここでは「アウ
トドア・レクリエーション(outdoor recreation、以下「OR」とする。)法」と「国家およ
び・コミュニティ・サービス法」の経過について取り上げる。
OR 法の整備は 1946 年の「レクリエーションに関する省庁連携の委員会」設立に始まり、
1962 年、内務省内に OR 局が設置され、1963 年に OR 法が整備された。全ての国民には幸福
な人生を送るために自然との触れあいやレクリエーション活動を主体的に楽しむ権利があ
る、ということを定着させるねらいがあった。1963 年以降は国家予算が確保されるように
なり、1)需要と供給に関する調査の実施 2)施設・用地の整理分類 3)国家レベルの総
合計画
4)州・民間組織への各種支援
5)地域間連携の奨励
6)関連研究と教育体制の
奨励支援 7)連携の奨励といった事業が次々と実施された 1)。こうした国家による長期的
な投資により、民間が進出する機会が生まれ、現在アメリカでは主として民間機関が活発
な事業展開を行っている。
これとは異なる流れとして、米国のサービス文化がある。このサービスに関連する各種
14
農務省、国防総省、国務省、教育省、商務省、 住宅都市開発省、労働省、内務省、保健福祉省(議長)
、
司法省(副議長)、運輸省、国土安全保障省、環境保護局、米国国立科学財団、Corporation for National
and Community Service(ボランティア活動振興機関、サービスラーニングの普及促進を進める国家機関)、
連邦小企業庁、国家薬物取締政策局
15
NIFA Grant DoD-USDA Partnership_ Child Youth Deployment Support Project
102
活動は、
「ナショナル・サービス(国家レベルの活動)」
「コミュニティ・サービス(州・地
域レベルの活動)」
「サービス・ラーニング(学校教育レベルの活動)
」と呼ばれ、民主主義
の維持・発展を支える社会参加型活動かつ教育活動として理解されている。
ニューディール政策時の青年部隊(Youth Corp)の活動に端を発したナショナル・サー
ビス、コミュニティ・サービスは今日も青少年の社会教育活動の主流となっている。1990
年、国家および・コミュニティ・サービス法成立により、学校教育にサービス・ラーニン
グが導入され、これにより、数多くの組織・団体がサービス・ラーニングへの助成金を提
供するようになった。これは学校教育段階の児童・生徒・学生を中心とした学校教育にか
かる法律ではあるが、その延長線上には、米国における市民的責任の倫理を復活させるこ
とが意図されている 3)。
最近では、2011 年にオバマ大統領が America’s Great Outdoors Report4)を発表し、米
国の経済、文化、伝統を支える自然遺産の継承について指針を示している。これに基づき、
各省では Youth in the Great Outdoors などの事業により、自然遺産や歴史遺産にかかる
若者の雇用、教育、従事に力を入れている 4)。
一方、4-H にかかる法制度の整備は、米国における土地開拓(農業の普及支援)を通し
た発展の歴史と密接につながっている。その核にあるのが 1914 年のスミス・リーバー法の
制定である。各州の土地付与大学とエクステンション・プログラムを制度化したものであ
るが、その意味として、農業の普及支援が青少年育成や家政学、地域の発展に有機的につ
ながっており、そのつなぎ役として地方の高等教育機関と研究者が不可欠である点を国家
の法律として明示している。農務省の予算が 100 年近く、各州の高等教育機関、ひいては
青少年育成・教育に配分され続けている。これは、米国が国を挙げて、その重要性と価値
を認めていることを明確に示している。
この予算配分を受ける米国農務省下の NIFA は、4-H の他に、ガールスカウトとアメリカ
未来のファーマー(Future Farmers of America)が地方の青少年育成プログラム(Rural
Youth Development Program) という名称のもと、青少年育成を実施しており、5 歳から 19
歳まで約 1,300 万人の青少年が参加している。2010 年度には、このプログラムに 1,700 万
ドル(約 1 億 5 千 7 百万円)の歳出金が出ている16。これらは同法に定められた換算方法
のもと、各州の農家の人口、地方部の人口を換算して、各州のエクステンション・プログ
ラムを持つ土地付与大学に配分される。また、予算配分については、特別プログラムや対
象者(軍隊の家族や青少年を対象としたプログラム、不登校や自閉症を持つ青少年、科学
プログラム)によって、他の連邦政府機関の関与も行われている17。
これに加えて州や郡による負担金、事業収入、寄附、他の助成金、各土地付与大学の支
16
この予算の正式名称は Smith-Lever Act Formula Grant で、予算配分の方法や条件、ガイドライン、
会計報告については、 http://www.csrees.usda.gov/business/awards/formula/smithlever.html を参照。
17
Smith-Lever 法以外においても、土地付与大学や群政府のみならず、町村や NPO、個人などを対象とし
た補助金があり、それらについては www.csrees.usda.gov/fo/funding.cfm を参照。
103
援などの予算によって、各エクステンション・プログラムと地域のプログラムやアクティ
ビティが運営されている。
(2)各施設に対する評価制度の有無、またはその方法
各州および地域の 4-H 宿泊施設そのものの評価については、所有ならびに運営形態がそ
れぞれ異なるため、今回訪問したニューヨーク州以外のものは入手していない。ただし、
4-H の諸事業(各プログラムへの参加者、会員数、満足度、態度の変化など)にかかる評
価については、多様な形で行われている18。
まず、NIFA においては、ロジック・モデル(Logic Model、各エクステンション・プロ
グラムによる 4-H 諸事業の目的への達成度を計測するための基本的枠組み)を通して、評
価を行っている(巻末資料 5)。これを受けて、各州のエクステンション・プログラムはそ
れぞれの郡などで行われたプログラムやアクティビティの評価について、各現場で必要と
なるデータの収集および入力作業を通して、州レベルのレポートを NIFA に提出といった形
式である。コーネル大学エクステンション・プログラムでは州レベルで実施した STEM プロ
グラムのレポートがあるが、このレポートにかかる各郡のエクステンションによる STEM
プログラムのデータが、各事務所によって報告される。これは単なる一例であるが、州レ
ベルにおける一連のデータ収集や情報共有の方式も各州によって異なる。例えば、ニュー
ヨーク州の場合は、関係者のみがアクセス出来るポータルサイトで評価が行われるが、ウ
ィスコンシン州の場合、第三者も閲覧可能なサイトで、評価にかかる方法の閲覧が可能で
ある19。
サイエンスなどの特別プログラムについては、例えば、全国組織である 4-H 評議会がサ
イエンス・プログラム評価デザイン・チーム(The National 4H Science Evaluation Design
Team)を通して、The Youth Engagement, Attitudes and Knowledge (YEAK) survey を実
施している。
全米の 4-H の参加状況に関する統計は、農務省の The Research, Education, and
Economics Information System (REEIS) がとりまとめており、1996 年から 2010 年までの
データがオンライン上で確認できる20。例えば、こうしたデータの中で、4-H に参加した青
少年は、参加したことのない青少年と比較して、2 倍の確率で大学へ進学し、何らかの地
域貢献活動に従事する可能性については 3 倍という調査結果が出ている。
各州の土地付与大学のエクステンションにおいても、評価報告書を出しており、州単位
18
米国政府における事業評価制度は 1993 年、
クリントン政権下で制定された Government Performance and
Results Act (GPRA) (P.L. 103-62)において、全ての政府機関における事業について、5カ年の戦略計画
と達成度を見定めるためのアウトカム、それを判断するための指標などを盛り込んだ事業計画と評価シス
テムの導入を義務づけており、米国の公共事業にかかる評価制度は大きく変化した。
19
http://www.uwex.edu/ces/4h/evaluation/index.cfm
20
データの種類によっては、一部のみ閲覧可能。
104
としての 4-H の動向と影響について評価と報告を行っている。また、今回訪問したワイオ
ミング郡エクステンション事務所においても、年次報告書(巻末資料 4)を出しており、同
事務所を開始実施した様々なプログラムの報告を評価とともに行っている(巻末資料 3)。
統計による評価以外に、コーネル大学エクステンションでは「NYS 4H Success Stories」
というブログサイトを持っており、州内の様々な成功例について、短いストーリーで共有
し、質的な評価を行っている 21 。また、4-H の職員らからなる協議会 The National
Association of Extension 4H Agents (NAE4HA)は毎年、インパクトレポートを発行してお
り、この中で会員数の動向や指導者育成などにかかる取組が紹介されている。
4-H は、前述の通り、巨大な組織機構と研究者のネットワークを有するため、青少年の
行動変化にかかる様々な研究が出されている22。とくに、学術誌 Journal of Extension で
は、その中で 4-H やエクステンション事業に関わる研究者による様々な研究及びレポート
が出されている。4-H のキャンプ事業の評価については、例えば、Garst and Bruce(2003)
はバージニア州の 4-H 施設(4 カ所)のキャンプ・プログラムを取り上げ、それらによる
青少年育成の効果について論文にまとめている。著者らは、キャンプの参加者への質問表
による参加前後の知識や自信に関する児童らの反応を調査し、4-H のキャンプへの参加が
生活技術の向上や思慮深い意思決定、資源を大切に利用すること、多様性への理解、リー
ダーシップの育成に貢献すると結論づけている23。
(3)政府による管轄の方法
4-H にかかるガバナンスについては、上述の通り、農務省が統括しているものの、州レ
ベル、郡レベル、民間レベルなど様々な主体がそれぞれの負担と企業等からの寄附を通し
て参画しているため、統治より、むしろ分権が進んでいると言える。ただし、4-H でユニ
ークな点は、ロジック・モデル(巻末資料 5)を通した事業評価が国家的に浸透しており、
各事業のねらいや目的に応じた綿密なプログラム管理が行われている点が挙げられる。も
う一点、政府による管轄方法で触れておくべき点は、4-H のキャンプや体験活動、組織運
営を取り巻く制度など(例、アメリカキャンプ協会の認定制度や健康や安全にかかる各州
の法律や条例24、企業による寄附文化など)が充実している点が挙げられる。こうした側
面が、長い歴史と伝統を有する 4-H 活動を支える要因になっていると考えられる。
21
http://nys4hsuccess.wordpress.com/
例えば、www.csrees.usda.gov/nea/family/sri/youthdev_sri_4h.html を参照。
23
Garst BA, Bruce FA (2003) Identifying 4-H camping outcomes using a standardized evaluation
process across multiple 4-H educational centers. Journal of Extension, 41.
http://www.joe.org/joe/2003june/rb2.shtml
24
例えば、今回訪問した NY 州では、州政府健康局が子供のキャンプにおける健康と安全に関するルール
を定めており、キャンプ施設や実施者はその内容を遵守しなければならない。
22
105
5.文化的背景
(1)青少年教育についての各国の歴史的変遷
米国における青少年教育の歴史的変遷は、国民と自然の関係の歴史的変遷に着目するこ
とが重要であると考えられるが、このことについては思想、哲学に伴って後述するため、
ここではコミュニティ・サービスとサービス・ラーニングを中心に述べ、その具体的事例
である 4-H クラブの流れを概観する。
①サービス活動 3)
米国には参加型民主主義の伝統がある。植民地時代のタウンミーティング、西部開拓時
代、公民権運動、環境保護運動などがそれである。比較的近年に成立した国家であるため、
相対的に国家システムが弱いところに特徴がある。それが結果として、参加型民主主義の
成立を促し、一般市民の自主的な活動や組織の発展を可能としている。社会的な活動や組
織を自主的に企画・運営できる人間の育成を目指した教育を、米国では「公民教育(Civic
Education)」と呼ぶ。この公民教育が充実しているか否かは、前述の理由により国家の存
亡と関わる重大事項と考えられている。
このような背景をもとに、コミュニティにおけるボランティア活動やコミュニティ・サ
ービスが盛んであり、青少年育成にとっても重要な役割を果たしている。キリスト教国家
である米国における「サービス」には特別な意味があり、「神に仕える」という意味で「礼
拝」と理解し、神聖なものとして取り扱っている。このサービス活動には、ナショナル・
サービス(国家主導によるサービス活動)、コミュニティ・サービス(地域社会の機関・
団体が実施するサービス活動、サービス・ラーニング(学校カリキュラムに統合されたサ
ービス活動)と呼ばれるものがある。このように米国ではサービス文化が浸透している。
第 32 第大統領フランクリン・ルーズベルトは 1933 年に就任すると、青年部隊(Youth
Corps)を初めて実施した。ニューディール政策における中心的なプログラムとして、1933
年から 1942 年の間に青年部隊の事業が遂行され、約 300 万人が参加している。この中で多
くの若者が森林事業に参加した。この事例は典型的なナショナル・サービスの事例として
位置づけられている。青年部隊が米国に「サービス文化」を築く起源となっているが、3
つの次元の各サービス活動と青年部隊がそれぞれの性質の違いを超えて相互に刺激しあっ
たことにより、今日のサービス文化が成立した。
シティズンシップを育成するためにサービス活動を活用する試みは、幼稚園から始まっ
ており、学校教育ではサービス・ラーニングが担うが、社会教育活動としては、例えばキ
ャンプファイア(NPO 団体)、スカウト、地域教育、レクレーションセンター、赤十字、
4-H 、キャンプ、Campus Outreach Opportunity League(COOL)、Campus Compact、イン
ターンシップ、American Friends Service Committee などがその代表事例として挙げられ
る。これらは主に幼児から大学生を対象としたものであるが、一般市民を対象としたもの
106
も多い。このようにサービス活動は米国国民の生涯教育を根底から支えている。
②4-H
次に上記サービス活動の事例としても位置づけられる 4-H の歴史的変遷について述べる。
4-H 発展の背景には、100 年以上の歴史がある。そのきっかけとして、1902 年、当時公
立学校の教員であったアルバート・ベルモント・グラハム氏(1868-1960)がオハイオ州ク
ラーク郡スプリングフィールドで、土曜日の朝、彼の生徒達を対象に農業の実践や技術等
について教えるミーティングを定期的に開いていた。その翌年、ミーティングが予想以上
の反響を得たため、オハイオ州立大学の農業試験場に協力を相談したところ、同大学の農
学部長が快諾し、同学部の教育事業の一環として組織化に着手した。そして、1904 年まで
に同州の 13 の町村でクラブが結成され 3,000 人の少年少女がメンバーとして参加した25。
この実績を受けて、1905 年、グラハム氏は同州立大学の最初のエクステンション・プログ
ラムの長として迎えられた。また、この頃、ミネソタ州においても、同様の動きがあった。
この動きを受けて、"The Tomato Club" や "Corn Growing Club"という名称で、少年少女
を対象とした農業支援や生活技術、また学童保育的なプログラムが行われてきた。4-H の
名称と四葉のロゴについては、1911 年、一連の動きに感銘を受けたアイオワ州の教育者ジ
ェシー・フィールド・シャンバウ女史が、頭脳(Head)、心(Heart)
、手(Hands 手助けや
手腕)、健康(Health)の頭文字と、四葉のクローバーのシンボルを考案した。
4-H の制度化のきっかけは、上述の通り、1914 年のスミス・リーバー法の制定に伴い、
土地付与大学によるエクステンション・プログラムを通した地域貢献・教育普及事業一環
として位置づけられた。
当初は、農作物の育成や収穫、販売にかかる技術指導だけでなく、それらにかかる新し
い試みも教授していたが、最近では野外キャンプや農村部における衣食住の手作業のみな
らず、射撃やアーチェリー、飼育牛や馬の検品、演劇、スピーチ、ロボットを含む科学教
育など様々なアクティビティを扱う。また、今日では、これらのアクティビティの中で育
成する個々の能力や資質の向上についても体系化が進んでおり、重点育成分野を掲げて諸
プログラムを実施している。
(2)青少年教育を支える各国の思想、哲学など
米国における国民と自然(wilderness と表現されるものであり、原生的自然を意味する)
の関係は独特である。ヨーロッパから開拓者として移り住んだ白人は、ヨーロッパにはな
い価値基準を生み出した。連綿と続く大自然が人々を鍛え、ヨーロッパにはない文化、思
想を形作ってきた。
25
www.aghalloffame.com/hall/graham.aspx
107
19 世紀の終わりまで西へ西へと開拓を続けてきたアメリカ人はついに、西海岸に至るま
で開拓し尽くし、米国政府は 1890 年、「フロンティアの消滅」を宣言する。これを受けて
1893 年、歴史家のフレデリック・ターナー(1861-1932)は「アメリカ史におけるフロン
ティア(辺境)の意義」を発表し、
「大自然の中で働いてきたアメリカ人は自主独立の気風
「アメリ
を育み、ヨーロッパから持ち込まれた民主主義を改善していった」と主張した 5)。
カ人=(ヨーロッパ精神+アメリカの大自然)÷2」である、と説明し、アメリカ人にとっ
て自然がいかに大事であるかを説いた。
アメリカ人はこうした事態を受けて改めて自らと自然との関係を見直し始め、
「今の子ど
もたちには自然が足りない」と認識した。1880 年にボストンで実施された就学期児童の
意識調査では、都市に暮らす子どもについて「就学期児童の 90%がニレの木のことも、
麦畑のこともわかっていない。綿や皮革がどうやってできるのかも知らない。(中略)60
パーセントが、日常みかける動植物のことをまったく理解できていない。(中略)70 パー
セントの児童は四季の変化をきちんと理解しておらず、65 パーセントは水泳の経験がない」
ことが明らかになり、この結果に対して大人が不安を抱いていたことが伝えられている 6)。
20 世紀初頭には、子どもを自然の中に連れ出す機運が高まり、ボーイスカウトやガールス
カウト運動、YMCA などによる青少年教育、登山、ハイキングなどが急速に盛んになった。
こうした流れの中で、ジョン・デューイ(1859-1952)はプラグマティズムを基盤とした
教育哲学を説いた。プラグマティズムとは物事の真理を実際の経験の結果により判断し、
効果のあるものは真理であるとする考え方である。デューイは学校における体験による学
びの重要性を説いたが、これは 20 世紀初期頃から盛んになりつつあったキャンプなどの教
育的価値に対しても理論的根拠を与えることになった。また野外教育の父といわれるロイ
ド・シャープ(1895-1963)は「教室の中で最もよく学習できるものは教室で、また、学校
外の生の教材や生活場面の直接体験を通してより効果的に学習できるものはそこで行われ
るべきである」という有名な言葉を残しており、キャンプを手段とした青少年教育を支え
た。野外教育とは米国で誕生した用語であり、当時の「キャンプ教育」にとって代わられ
た言葉である 7)。
米国ではこのように、国家の成立当初から自然体験が重要視され、アウトドア・レクリ
エーションを楽しむことは国民の権利であるとの考え方が定着している。しかし、近年で
は再び子どもの自然離れが問題となり、リチャード・ルーブが『あなたの子どもには自然
が足りない(原典 Last Child in the Woods )』を書き、その中で「自然欠乏症候群
(Nature-Deficit Disorder)」という言葉を使って子どもたちの自然離れを訴えている 8)。
一方、4-H 活動における青少年育成の背景には、国を挙げて農業ならびに農村地域を支え
るという前提条件のもと、コミュニティとしてのプライドや責務、住民個々のリーダー
108
シップとボランティア精神の育成が、その思想として存在する26。こうした複合的ともい
える思想は、欧州の移民の土地開拓を通した建国精神を支えるものといえる。こうしたこ
とは、前述のグラハム氏による働きかけが、短期間で高等教育機関や政府、企業の支持を
得ながら運動体として広まったことに裏付けされている。それは、農村部において、その
生業に直結した青少年育成を推進することが、当時の国家の形成に直接資するという点に
対する社会的理解があったことに他ならない。
こうした見方は、以下の 1918 年にカンザス州の教育者、オーティス・ホール氏(Otis E.
Hall)が創案した4H の誓言にも示されている。
邦訳(筆者による概訳)
原文(英語)
わたくしは、より明晰な思考と
I pledge my head to clearer thinking,
より偉大な忠誠心、
My heart to greater loyalty,
より崇高な奉仕の実践、
My hands to larger service,
そして、より健全な生活のための健康の四つを
and my health to better living,
私のクラブ、コミュニティ、国、そして世界の
for my club, my community, my country,
ために育み、捧げることを誓言します。
and my world.
以上の思想的な伝統を受け継ぎながら、今日の 4-H は「体験的学習プログラム」と、個々
の長所を引き延ばす「ポジティブ青少年教育アプローチ」を通し、青少年の市民精神とリ
ーダーシップ、責任感、そして生活する技術を育むことを目的としている。そして、現在
の 4-H は、従来の「4-H=農村部における青少年プログラム」の枠組みを超えて、市民精神
の醸成、十全な生活、サイエンス、工学、そしてテクノロジーに焦点をあてたプログラム
を実施している。
6.指導者養成システム及び資格制度の概要
米国における自然体験活動のプロ指導者育成・認定制度は、高等教育機関(大学)と各
専門機関・民間団体による連携によって実施されている。この分野における国家資格はな
く、連邦および州政府の関与は一般市民にセミナーを提供する程度である。高等教育機関
によるアウトドア・レクリエーション関連指導者の認定方法として、その関連学部の修了
者が指導者資格をもらえるというシステムが成り立っている。インディアナ大学ではイン
タープリテーションの技能についての認定の際、大学生でなくとも一般市民も受け入れて
いる。希望者はインタープリテーションを行っている現場をビデオ撮影しそれを大学へ送
ることにより技能レベルが判定され、同時にフィードバックが行われるといったシステム
も持っている。
民間組織における指導者認定については、インタープリテーション、ウィルダネス教育、
26
4H の思想については、様々な文献が存在するが、ここでは「4-H 歴史保存プログラム」というウェブサ
イトの情報を基に作成した。http://4-HHistoryPreservation.com/Index_Data.asp
109
キャンプ、山岳、カヌーなど各自然体験活動の専門組織・団体が独自に開発・実施してお
り、大学などと連携をはかりながら資格認定プログラムを実施している。例えば、The
National Association for Interpretation 、 National Outdoor Leadership School 、
Wilderness Education Association、American Camp Association、The Association of
Nature Center Administrators 、 Association for Experiential Education 、 Outdoor
Leadership Training Seminars、American Mountain Guide Association、American Canoe
Association、The Student Conservation Association、International Hunter Education
Association などがある。このように、指導者養成や資格制度については民間団体が主導
している傾向にある。9)
一方、4-H では、一定の分野において一定時間の研修を受けたことを示す修了証明書
(Certificate of Completion)がある。まず、宿泊施設を有するキャンプの場合は、十代
の青少年を対象としたもので、およそ 14-16 歳を対象としたカウンセラー研修プログラム
(Counselor in Training、CIT)があり、各州や郡、キャンプ施設により異なる27。例え
ば、本調査で訪問したニューヨーク州のワイモコ・キャンプの場合、14-16 歳まで各年齢
を対象としたプログラムが 3 つ設けられている。4-H のキャンプ・カウンセラーになるこ
とを希望する者は、これらの研修キャンプを修了することで、4-H のキャンプ・カウンセ
ラーに応募する際、認められやすくなる。ただし、カウンセラーの受講は必須ではない。
CIT において、14 歳を対象としたレベル 1 の場合は、集団生活におけるカウンセラーの基
本的な位置づけと役割について学ぶアクティビティが、他の体験アクティビティなど、通
常のキャンプ・プログラムの中に位置づけられており、それにそれぞれの意志で参加する。
15 歳対象のレベル 2 の場合は、アクティビティや食事の準備などに参加しながら実践的な
研修を行う。レベル 3 は、16 歳以上が対象で、2 週間のキャンプ研修のうちカウンセラー
の助手として1週間のキャンプに参加し、キャビンで他の参加者達の世話をする。
参考までに、カウンセラーの資格については、基本的に 18 歳以上の高校卒業者で、キャ
ンプにおいて子どもを日常生活や安全の管理に資する経験を有していることが条件となっ
ている。
次に、成人の青少年育成の各種プログラムの管理を担う教育者を対象とした「4-H プログ
ラムにおける基本的要素カリキュラム(Essential Elements Curriculum)」研修があり、
約 180 ページの共通の教材をもとにした合計 10−12 時間の研修を通して、修了者に証明書
を発行する28。
指導者の養成については、近年の 4-H のもとで扱うプログラムやテーマ、対象層の多様
27
ミネソタ州の場合は、http://www1.extension.umn.edu/youth/mn4-H/events/camp-counselor.html を
参照。
28
www.4-h.org/resource-library/professional-development-learning/4-h-youth-development/youthdevelopment/essential-elements/ を参照。なお、同教材は 10 章の構成になっており、それぞれ単独で
実施することも可能。
110
化に伴い、各テーマやプログラムに応じたトレーニングガイド、ツールキット、ガイドブ
ック、マニュアルなどの研修資料がオンライン上で数多く公開されている29。また、本報
告書前半で触れた通り、4-H は総数約 54 万人という数多くのボランティアによって支えら
れている。こうしたボランティアの質の維持と向上にかかる取組については、まずボラン
ティアのみを対象とした、コミュニケーション、組織運営、プログラム管理、企画と運営、
対人関係などに関する教材などが多数開発されており、オンライン上で見ることが出来る。
また、4-H プログラムは土地付与大学という高等教育機関による地域貢献・人材育成プロ
グラムによって管理運営されていることから、その指導者養成にかかる数多くの教材や
資料がある30。
一方で、やや趣旨が異なるが、連邦政府としてトレーニングセンターを運営し、職員研
修を充実させている事例がある。内務省における国立公園局や魚類野生動物保護局などで
ある。国立公園局は、Horace M. Albright Training Center、Stephen T. Mather Training
Center を有し、新入職員から所長などの管理職に至るまで継続的に職業について学習でき
るシステムを管理している。前者は新任職員研修に利用されており、グランドキャニオン
ナショナルパーク内に位置し、宿泊施設を有する。また後者はウェストヴァージニア州に
あり、専門的な講義や実習が実施されていたが、近年は効率性や予算の状況に応じ、オン
ライン研修による講義を取り入れ専門性の研鑽に取り組んでいる。また魚類野生動物保護
局の National Conservation Training Center は、大学キャンパスのような講義室、研究
室、フィールド、さらには宿泊棟を兼ね備えており、年間を通じて職員や関連する職務に
従事する人々との間で高度な情報交換を行っている。こうした優れた職員研修システムは、
職員各々が自らの仕事に誇りを持ち続けることや、職業を通じた自己実現に導く役割を担
っている。
ニューヨーク州の 4-H キャンプ http://nys4h.cce.cornell.edu/get%20involved/pages/camps.aspx より
29
30
http://www.4-h.org/resource-library/
www.extension.org/ を参照。
111
引用文献
1) http://www.findyouthinfo.gov/about-us(2013 年 3 月 15 日アクセス)
2) Meadows, R.R.,1995,History of Virginia’s 4-H camping program: A case study on
events leading to the development of the 4-H educational centers, Doctoral
Dissertation,Virginia Polytechnic Institute and State University,
http://scholar.lib.vt.edu/theses/public/etd-5437192339731121/etd.pdf.
(2013 年 3 月 1 日アクセス)
3) 唐木清志、2010、『アメリカ公民教育におけるサービス・ラーニング』東信堂、東京、
360pp.
4) America’s Grate Outdoor Initiative, WHITE HOUSE PRESIDENT BARACK OBAMA,
http://www.whitehouse.gov/administration/eop/ceq/initiatives/ago(2013 年 3
月 1 日アクセス)
5) 岡島成行、1990、『アメリカの環境保護運動』、岩波書店、東京、233pp.
6) 野田研一、2011、
「都市とウィルダネス -ボーダーランドとしての郊外-」
『<都市>
のアメリカ文学』、ミネルヴァ出版、京都、215-240.
7) 飯田稔、1992、『森林を生かした野外教育』林業改良普及双書、東京、174pp.
8) リチャード・ルーブ、2006、
『あなたの子どもには自然が足りない』
、早川書房、東京、
361pp.
9)環境省自然環境局、2003、「アメリカにおける自然体験活動の指導者育成・認定制度」、
『環境教育・環境学習のための自然体験活動指導者育成システムの構築
調査報告書』、
106-119.
(上記の他、参考文献および資料については注釈をご参照ください。
)
112
(藤
公晴)
(関
智子)