AOV (Acoustically Optimized Vent) 音響的に最適化されたベント 音響的に最適化されたベント(以下、AOV)はフォナックで開発され、2007 年から使用されています。AOV は、顧客のオ ージオグラム、シェルサイズ、選択した補聴器のテクノロジーなどを基に、個別に設計およびデザインされる補聴器のベ ントです。フォナック独自のアルゴリズムは、個別に最適なベントを計算するために次のことを考慮します: 閉塞感の減少 必要利得に対するハウリングリスク 直接音のメリット 必要な低音域の利得 耳あな型補聴器をソフトウェア Phonak Target に接続すると音響質量が自動的に読み込まれ、AOV が初期設定のベントに 設定されます。正しい RECD のカーブ、ベント損失(残存音量から漏れる音)そして予測ハウリング閾値が使用できるよ う、仮計算の基礎として AOV が使用されます。 AOV の詳細 物理学の視点から言えば、残存音量 / ベントシステムはヘルムホルツ共鳴器1であり、その音響特性はばね質量系特性の ように物理的に描写することができます。このようなシステムには自然共鳴が存在します。この自然共鳴のはるか下で、 外部と内部から入ってくる音波と同時にこの共鳴器内の空気が振動します。これは、このシステムが外部内部に音響的透 過性があるということを意味します。この場合、外部から内部へと同様に、ベントを通ることで内部で妨害されることな く音が通過します。これは周波数が高くなると変化します。外部から内部へ音が通過すると音量は下がり、逆も同じです。 共鳴周波数の上では、このシステムが原因で音が両方向に行き渡らないのです。これはベントの内径によって変わります。 結果、ベントが大きくなればなるほど、ベントを通じて低音域の音が漏れて補聴器の音は“か細く”なります。そのため、 フィッティングの際、場合によっては、良い音を保つため低音域の利得を上げなければなりません。その一方で、直接音 はこのシステムの低音域に入ってきます。そして、軽度難聴にとって自然で良い音を提供できることが多いのです。しか し、低音域に必要となる利得に関係するベントが大きすぎると、バランスの取れた音とならず、歪みを引き起こしてしま うため、この閾値内の利得が意味を成さなくなります。オープンフィッティングもしくはベント付き補聴器を完璧に設定 するには、考慮しなければならない様々な個別要因が存在します。 残存音量の共鳴とベントの音響システムはオープンベントの断面積に反比例し、ベントの長さに比例します。 これはベントの内径が大きくなるほど共鳴周波数が高くなることを意味します。ベントが長くなるほど周波数は低くなり ます。言い換えると、ベントの内径と長さを変えることで、同じ共鳴周波数を実現させることが可能になります。 1 共鳴を利用して,振動または波から特定の振動数の成分を取出す装置。 ベントA 同じ音響質量 ベントB 内径がより大きい = 音響質量がより小さい 長さがより短い = 音響質量がより小さい ベント効果大 音響ベント質量 ( AVM ) が同じベントのサイズ 内径を変えたベントが異なる区分として扱われるのも興味深い点です。これは全体的なシステムの自然共鳴を計算する際 に一緒に加えられます。これは“音響質量”を参照にしており、[kg/m4](4乗したメートルでキログラムを割る)寸法 になっているので “通常質量”と比較することはできません。 音響ベント質量 “音響質量”という専門用語を使って自然共鳴を説明すると、 音響質量 もしくは 音響質量 言い換えると、音響質量が大きくなればなるほど共鳴周波数は低くなります。音響質量は一般的に下記の公式が適用され ることから、合成の追加ホールを説明するのに使用されます。 音響質量 これは、長さや別のベントの内径を変えることで音響質量が変更することができるということを意味します。 2 ベント (面積:A1) IROS 開口部 (面積:A2) I =2 を説明したもの 複合ベント デジタル製造ソフトウェアを使って完全に新しい形である AOV 付きベントを作ることができます(下記図)。 CIC でオープンフィッティングを達成するため、内径 4mm の大きい円形ベントが作られました。電池収納部とマイクロ ホンを収める小さいスペースだけを残すので、フェースプレート上の残りの面積は非常に小さくなります。例えば、CIC のサイズがとても大きい、または大きいベントが作成できないような場合です。このような場合、丸ベントと同じ場所に 半円状の D の形になったベントを作ることで外耳道の断面積をより活用することができます。しかしながら、これは内 径や断面積だけではなく、ベントの長さと面積をより小さく取れる形であるか次第でもあります。シェルのデジタル作製 中に、D ベントの形とサイズが外耳道のコースや大きさに適合されます。例えば、外耳道の第一カーブが通常より狭いな どです。その場合、ベントの入力または出力よりも“D”は小さくなければなりません。作製計画または計算中、ベント は複数の小さい区分に分けられると、それぞれの音響質量が計算されます。音響質量の合計(ベント効果の合計)は音響 質量の個別部分の合計と等しくなります。これによって、モデリング担当者はイメージする形や外見をベントに採用する ことができます。例えば、モデリング中にシェル内の利用可能な面積を全てベントに最適に活用することができます。こ れが“デジタル製造”の強みです。他のシェル構成で許可されていたのと同様に、複数の異なる内径をベントの長さに使 用することができます。 CIC をオープンフィッティングで使用するための、その他のベントと言えば逆 IROS ベントでしょう。これは見た目の形状 から“シャークバイト”と呼ばれています。この特別なベントの形は外耳道組織の軟骨からシェルへの振動を減少させま す。さらには、閉塞感が起こる高い可能性と共に聴力低下に対する閉塞感を減少させます。音響質量はシャークバイトベ ントとして再度正確に計算されます。このような場合、外耳道壁はベントの外側として使用されます。 補聴器の部分が 占有する部分 (空白箇所) ベント断面積 A = 13 mm2 D ベント 3 シャークバイト ユニット(装置一式)としての補聴器 最適にフィットさせるには、可能な限り自然な音を提供しながらも聴力低下を補償するよう補聴器が設定されなければな りません。先述したように、イヤモールドは前ページのような音響効果を基に音に大きく影響します。フォナックのエン ジニアやオージオロジストによって開発された AOV の基本的な考えの背景に、イヤモールドの音響特性を具体的に知る ことで、イヤモールドによって引き起こされる補聴器の音響特性の変化を補償することが可能であるという事実がありま す。聴力低下と外耳道の面積によっては、個別に最適なベントが作製されたイヤモールドを同時に作製することも可能に なるのです。 当然ながら、このようなことは一般的な方法として使用されていません。フォナックでは、補聴器のシェルやイヤモール ドの業界における最先端の結合型デジタル製造プロセス(e シェル)を使用しています。AOV 付き補聴器を作製するには 採取した耳型とオージオグラムが必要です。届いた耳型はスキャンされ、オージオグラムは耳型データベースに保存され ます。耳型データベースには個人の聴力低下に合わせた最適な音響ベント質量を決定するアルゴリズムが組み込まれてい ます。このアルゴリズムの計算は数千もの音響測定と大勢の有名な聴覚専門家やオージオロジストの集合的経験を基にし ています。最適な値は異なる長さや面積の複数ベントと数えきれない組み合わせによって決定されます。イヤモールドの モデリング担当者は、この値のおかげで目標値を達成する手段を得ることができます。モデリングソフトウェア画面の調 整バーの中に緑色のエリアがあり、音響質量はこのバーの中でポイント□として表示されます。モデリング担当者はベン ト面積を拡大 / 縮小したり、またはベントを長く / 短くしてこのポイント□を緑色のエリアに近づけていきます(下記 図)。シェルのモデリングが終わると、音響質量の最終的な値がデータベースに保存されます。 シェルは耳型採取したものをベースに 3 次元で作製されます。ITE システムにおいて、電子機器がシェル内部に組み立て られます。その後、補聴器は ITE テストとして測定され、使用すべき補聴器のソフトウェアが補聴器に書き込まれます。 同時に、音響ベント質量が補聴器のメモリに保存されます。こうして AOV 付き補聴器が出来上がるのです。出来上がっ た補聴器を該当するフィッティングソフトウェアで接続すると、音響ベント質量が自動的に読み込まれ、使用するベント として AOV が設定されます。AOV の値が調整中の仮計算の基礎に使用されるので、正しいカーブの RECD、ベント損失 (残存音量から漏れる音)、ハウリング予測閾値が確実に使用されるようになります。その結果、基本的な音響調整がよ り一層正確なものとなります。さらには、聴覚的に重要な利得が初期設定でより正確に設定されます。 上限 ベントを大きく もしくは 長さを短く 目標値 下限 4 聴力低下、ベントサイズ、ベント形状における相関関係 イヤモールド、シェルタイプ、耳あな型サイズを基に、ベントサイズに依存した様々なベントの形状があります。オープ ンフィッティングの CIC を例に見ると、シャークバイト(逆 IROS)無しの D ベントでも十分オープンではありますが、 シャークバイトが作成された D ベントは閉塞感の可能性を最も減少させることが可能な特殊な形です。内径が 2mm 以内 の場合は面積を確保することができないので、D ベントを作製してもあまり効果がありません。それどころかむしろ、そ こまで小さい D ベントを作製すること自体が非常に困難です。 CIC とはシェルのサイズが異なることから、外耳道内の適切でない場所に設置されることがあるので、シャークバイトは 特別なケースでのみ作成されます。最もよく使用されるタイプの空洞型耳せんであるスリムチップには、2 種類のベント 形状があります:小~中サイズのベントにはスリムチップの内側の壁から外側にチューブが作製されます(標準ベント)。 空洞型ベントはオープンもしくはよりオープンなフィッティングに良い解決方法です。空洞ベントはスリムチップのシェ ル全体の空洞をベントとして使用します。スリムチップ内部の壁を通る穴のサイズを使用し、ベント効果を正確に調節す ることができます。 様々なベントの形状がモデリング担当者に自動的に推奨されますが、担当者は個人の耳により適切な他の形状に変更する ことも出来ます。1 つの頭で補聴器を 2 台装用する以上、両耳の聴力レベルが大きく変わらない顧客は、左右の補聴器が 音響的に同じ働きをするように、同じ補聴器を必要とすることがよくあります。音響的に、技術的に合理的な構成である 両耳イヤモールドのバランスが取れた両耳作製をすることによって、この要望に対応することが可能です。しかしながら、 左右の聴力レベルが大きく異なる場合には明確な制限があります。 参考文献 [1] Dillon, Harvey (2001). Hearing Aids. Thieme, p.131 [2] "Ampclusion" Management 101: Understanding the Variables [3] "Ampclusion" Management 102: A Five-Point Protocol 5 内径 2mm と奥行き 10mm または 20mm の AOV の値 テスト セットアップ:聞き手に対し、赤からは雑音を、緑からはスピーチを提示 SNR 改善 ( dB ): ベント:内径 2mm / 長さ 10mm(標準ベント) N3 N1 無指向性 -6.6 -6.6 固定型指向性 3.8 2.8 環境適応型指向性 9.9 7.1 ベント:内径 2mm / 長さ 20mm N3 N1 無指向性 -6.6 -6.6 固定型指向性 4.1 3.4 環境適応型指向性 11.2 9.0 テスト セットアップ:聞き手に対し、赤・紫・青からは雑音を、緑からはスピーチを提示 SNR 改善 ( dB ): ベント:内径 2mm / 長さ 10mm(標準ベント) N3 N1 無指向性 -4.8 -6.8 固定型指向性 5.8 4.5 環境適応型指向性 6.7 5.2 ベント:内径 2mm / 長さ 20mm N3 N1 無指向性 -4.8 -4.8 固定型指向性 6.2 5.3 環境適応型指向性 7.3 6.2 6
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